100年後の吉野家     

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ここは高度500kmに浮かぶ国際軌道宇宙港。

成田発のシャトル便を降りた俺は、入国管理を抜けると即座に吉野屋国際軌道宇宙港店に向かった。
つゆだく大盛りに生卵。どれも新鮮な地球産だ。美味い。実に美味い。値段は地上の3倍以上はするが、
その価値は充分にある。
ここから先、月面のオリエンタレ・ベイスン地下坑道都市にもあるらしいが、あそこではフリーズドライの
ものしかないと言う話だし、そもそも、俺が向かうオリンポス・火星探査基地には日本人しか喜ばない
であろうペイロードを積めるほど、今の船には余裕が無い。

腹を満たした俺は、今度は何時使えるか分からない味噌汁のタダ券を貰い、乗り継ぎゲートに向かった。
今ごろ、タンデム型核融合エンジンのチェックに余念の無い探査船が俺を待っているはずだ。
この船のエンジンは、俺が面倒を見てやらなければすぐにダダをこねる、赤ん坊みたいなエンジンだ。
今度のミッションは2年と聞いているが、そんな約束が守られるほど、国際宇宙開発機構が甘い組織で
ないことを何度も苦い経験を積んで、俺は思い知らされている。

ふと、味噌汁のタダ券に書いてある有効期間を見た。「2103年4月1日まで有効です(発行店のみ)」
今日は2103年3月7日。どう考えても無効になること気付いた俺は、ゴミ箱にタダ券を捨ててゲートへと
急いだ。