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拝啓
突然のお手紙失礼致します。
如何お過ごしでしょうか。
突然ではありますがこの度事務所では懐かしい仲間を集めての同窓会を企画しており
ます。
充実した毎日の中,ご迷惑とは思われますが良い返事をお待ちして居ります。

突然舞い込んだ一枚の封書。
そこには『同窓会』の通知と参加希望の官製葉書があった。
「…何だ,これ…。」
小原裕樹は何通かのダイレクトメール(これは開けずにゴミ箱行きだったが)に紛れ
ていたその封書を呆然と見つめた。
おかしい。
事務所を辞めてから大学に通い易いよう,今のマンションに引っ越した。
住所を教えた覚えは無かった。
いや,事務所は引越しをした事すら知らないはずだ。
しばし頭を回転させてごく単純な答えに思い当たった。
――あの事務所は住所を調べる位何でもないだろう。
それにしたって『同窓会』なんて聞いた事が無い。
…一体何だって言うんだ。
22:2001/04/27(金) 10:27
バスは長閑な山道を走っていた。
窓の外に広がる林では見たことの無い鳥が黒目がちの目でこちらをじぃっと見据えて
いた。
「あの鳥何てんだろなぁ。」
隣で寝ていたとばかり思っていた原友宏が小原に尋ねた。
「さぁ。オーストラリアなんか何年振りかわかんないし。」
そう,『同窓会』の会場はオーストラリアだった。
あの封筒を受け取ってから悩んだが原や何人かの仲間と連絡を取り合って参加に踏み
切った。
すぐに参加に丸を付けて送ると今度は詳細の書かれた封書が届いた。
持ち物の欄にあった『パスポ−ト』と目的地の『オーストラリア』には驚かされたが
元ジャニーズの集団が箱根の温泉なんかに現れたって大変だろう。と,納得する事に
した。
オーストラリアに着いて,今度は国内線で近くの島に移動した。
「超可愛い鳥ー。」
「え?普通じゃない?」
「バカ,鳥と超をかけてたんだよ。」
「うわ!つまんない!」
原の懐かしいオヤジギャグに苦笑する。
「原くんつまんない〜。」
小原達の前に座っていた大坂駿介がスナック菓子片手に振り返る。
「食べる?」
「サンキュ。相方は?」
友宏の分もそれを受取るって尋ねると大坂は大袈裟に肩を竦めた。
「寝てる。信じらんねぇ。」
呆れたように隣の大野聡を見る。
バスの中は気の合う者同士,勝手に好き放題騒いでいて,あまりのうるさささに窓が
割れそうな程だった。
「さすが大野だよ〜。」
あはは,と小原が笑う。
手にしたとんがりコーンを丁度三角帽子を被ったように大野の頭にちょこん,と乗せる。
「小人!」
「うわ!帽子小っさー!」
こんなくだらないやりとりもすごく懐かしい気がする。
やっぱり来て良かった。
そう思って小原は目を細めた。
33:2001/04/27(金) 10:27
小原達の位置から丁度斜め前の辺りで歓声が起こった。
「フォッフォッフォフォフォッ!」
「リンゴ!」
「ゴリラ!」
「ラッコ!」
「コンブ!」
「…ブッ…!?」
「ハイ一男脱落〜。一抜け千円お支払〜い!」
ぎゃははは,と大爆笑が起こる。
尾身一樹,国分広,高木清一郎,浜田一雄,鎌田準,三浦力,それに矢代典久の
グループだ。
さっきから『賭けしりとり侍』に興じている。
最も,負け続きなのは浜田一雄と三浦力で,黒字保持者は高木だけなのだが。
バスに乗り込んでから飽きる事無くずっと続けていた。
その前ではここからは確認し難いが鈴木康則と町田伸吾がその横に並ぶように座った
屋良朋幸と植村良典を交えてのんびりと話し込んでいる。
みんな一緒にいる仲間まで昔と変わらない。
変わったのは周りの環境だけで,結局みんな昔のままだ。
「うあ!何しとんねん!」
バラバラと騒々しい音を立てて色とりどりにコーティングされたチョコレートが
転がった。
「本体持ってフタ開けたらな,フタ持ってたわ。」
へら,と笑って田中純哉を見上げながら言ったのは北山准一。
「あー勿体無い!」
「うわ出た!ヒナのケチ病が!」
「ちゅーか3秒ルール3秒ルール!まだ食えるて!」
渋谷昴に村上信悟,横山優も割って入る。
周りの者もそのやりとりに笑顔を見せた。
44:2001/04/27(金) 10:28
はい。」
小原が足元に転がったオレンジのチョコを拾って北山のかわりに拾い集める田中に
渡す。
「あ,どーもすんません。」
「ヨコ,3秒ルールだろ?ちゃんと食えよー。」
「冗談よして下さいよー。」
あはは,と笑うと横山も大人しく席に着いた。

誰もが楽しんでいるように見えたこの旅行だが,何人かはお世辞にも楽しいようには
見えなかった。
一人は,高橋直樹。
事務所に在籍していた頃から一緒に仕事する事の多かった高橋謙と座っているが,
必要な事以外は殆ど口を開こうとしなかった。
正直,直樹がここに姿を現した事には小原自身も驚いていた。
ちょっとしたトラブル――今は触れないでおく,が――で人気絶頂のまま姿を消して
からずっと音信普通だった。
少し前に再びCMに起用されたものの,いくつかのスキャンダルと事務所からの圧力
であっと言う間に姿を消した。
集合時間ギリギリに現れると暫く一人でぽつねんと立っていたがすぐに謙が隣についた。
それから気を利かせてか純粋に話したいのかわからないがずっと一方通行で話し掛け
ている。
そして,もう一人は山下知久。
今でも現役で活動しており,トップレベルの人気を誇っている。
生田斗麻の隣で窓にもたれ掛かったまま憂鬱そうに目を伏せている。
原因は,恐らく矢代だろう。
少し前に,山下が矢代の自宅で煙草を持った写真が週刊誌に流れた事があった。
その時既に矢代は事務所を去っており,写真を売り飛ばしたのは奴に違いない,
と囁かれていた。
山下,つまり事務所側は『ふざけて持った』等と弁解し難を逃れたのだが,山下は
掲載当時は酷く気にしているようだった。
穴沢や大坂,浜田のようになるのは怖かったのだろう。
しかし,山下の様子は余りにもおかしかった。
矢代の事が嫌いだとか恨んでいる,と言った風ではない。
怯えている…そんな表現がぴったりだった。
55:2001/04/27(金) 10:28
呆っと窓越しに映る山下の長い睫を見ているとそのもう少し前に座った桜井渉と目が
合った。
桜井がその目をふっと細めて会釈する。
小原もそれにならうと,桜井は口を小さく動かした。
『ヤ・マ・シ・タ?』
バレてたかと苦笑してこくりと頷くと桜井は体をこちらに反転させた。
「こーの気配り大王がっ!」
「え?何?何?」
隣にはぴょこんと飛び出した穴沢真弘の頭が見えた。
その穴沢を「うっせー!コドモには関係ねぇのっ。」と叩く。
『大きいコドモ』と『小さいオトナ』の関係は今でも健在のようだ。

後でみんなの携帯番号聞いておこうかな,と一人思って
ここからは良く見えない二宮和成の座っている辺りに目を向ける。
隣の相葉雅樹と何やら話し込んでいるらしく時折くすくすと肩で笑う。
今回の参加を決めた一番の決め手は二宮との電話だったのだ。

手紙を受取ってから一晩経って,不意に携帯が鳴った。
忘れていた着信メロディはジュニアの仲間専用のものだった。
ディスプレイには「ニノ」の文字。
驚きながら通話ボタンに手をかけるといつもと変わらない明るい声が聞こえてきた。
開口一番,言った言葉が
「裕樹くん,来るよね?」
悩んでいると答えると二宮らしくない調子でこうまくしたてた。
「だってみんなで会うチャンスなんて滅多に無いよー?チャンスは生かさなきゃ。」
チャンスは生かさなきゃ。
昔,まだ二宮が話ベタだった頃,番組内で話題を振られてもうまく話せない,と
相談された事があった。
その時に言ったのがこの言葉だ。
ありきたりな返事だったのかもしれないが二宮はそれで随分変わったような気がする。
先輩と言う実感がしみじみと起こって,小原としても嬉しかったものだ。
「そっか。そうかもな。」
懐かしい,ただそれだけだっていいか。
電話を切ると裕樹はすぐに参加に丸を付けて近所のポストヘ向かっていた。
自分でも単純だな,と苦笑しながら。
66:2001/04/27(金) 10:29
「小原くん,あのぉー。」
不意に名前を呼ばれて顔を向けるとそこには魚谷照明と呉村哲宏の姿があった。
確か魚谷は事務所を辞めてからは雑誌の読者モデルをしていた。
一度本屋で立ち読みして見たのだが,今風の女子高生雑誌の為,周りを気にして(もう
気にする必要も無いだが)魚谷の姿を確認だけして棚に戻した。
「…っとー,あのですねぇー…。」
呉村が魚谷の脇腹を早くせえよ,と突付く。
「こいつ,携帯番号聞きたいって。」
なかなか言い出さない魚谷に呉村が助け舟を出してやる。
「え?あぁ,いいよ。えーっと何か…」
書くもの,と言いかけた小原の手に魚谷から小さい手帳が渡される。
「はい。」
さらさらとペンを走らせて渡すと大袈裟すぎるくらいぺこり,と頭を下げる。
「帰ったら連絡しますんで!俺,今東京出てるんすよ。」
「うん。帰ったら遊ぼうな。」
「マジっすか!?ぜひ!」
小原の申し出に魚谷が半分声を裏返しかけて叫びに近い声をあげた。
「あ,原くんは番号変わってへんですか?」
「うん,俺はそのまま。」
原が答えると頷いて,今度は浜田達の方へも番号を聞きに行く。
順調に番号交換を進めて行く二人は,今度は滝沢秀昭,松本恂,今井つばさの席へ
向かう。
浜田達のノリで尋ねると滝沢はちらりと前方に目をやってごく短く答えた。
「番号教えられない事になってるから。」

77:2001/04/27(金) 10:29
「…あ…そうっすか。ごめんなさーいね。」
最後の辺りはおどけたように,けれど少し嫌味っぽく言うと魚谷は小原達より後ろの
辺り(同じく関西の渋谷達の近く)の自分たちの座席へ戻った。

それから暫くして,大坂から今度はさきいかの『差し入れ』がやってきた。
「お前,食い物持って来すぎ。」
「違うー。俺じゃないよー。滝沢隊長達から。」
いかを咥えたまま前方の滝沢達が座っている辺りを顎で示した。
「サンキュ。」
とりあえず原と一本づつ取り出すとある物に気付いた。
この旅行の持ち物やらの印刷された紙の切れ端だ。
そこには今井,滝沢,松本三人の携帯番号とアドレス,さらにこんな一言が添えられ
ていた。
『うおっちandクレムリンへ
さっきはごめん!!!
マネージャーがうるさくて!
連絡ください!
滝沢・松本・今井』
その横には今井が書いたのであろう,マネージャーの下手くそな似顔絵があった。
その絵に原と目を合わせて軽く笑ってから,後ろに回した。

来て良かった。
帰ったらレポートが溜まってるし,後期のテストもあるけれど。
とりあえず今はこいつらと5日間楽しむとしますか。

88:2001/04/27(金) 10:30
滝沢達から『さきいかレター』が回ってきてから30分程立ったが、みんなのテン
ションは一向に下がる気配は無かった。
初めこそいくつかのグループで別れてしまっていたが、今や老若男(あ、残念ながら
女はいないや)入り乱れてのトークバトル状態だ。
そんな時、座席に立ってはしゃいでいた浜田が突然しゃがみ込んだ。
「一雄?どうした?」
周りの国分達が尋ねるが浜田は倒れこんだままだ。
「おい!一雄!?」
鎌田が声を張り上げて浜田を揺するが何の反応も無い。
その声にみんなが反応し振り返る。
「あ、れ…?俺もなんか…頭…。」
痛い、と言い終える前に高木もがくりと倒れる。
続いて国分、鎌田、尾身。
その辺りを中心にしてみんな次々に変調を訴え、ばたばたと倒れて行く。
「おい、大丈夫か?」
原が立ち上がって一雄達の所へ向かったので小原もそれにならう。
少し、頭が痛い気がする。
ほんの数歩の距離なのに一雄達がひどく遠く感じた。
視界に霞がかかったようになり頭がガンガンと打ち付けられるようだ。
突然、ぐん、と床が近くなった。
――あれ、俺も倒れた…?
少しだけ残った意識でうっすらと目を開くとガスマスクを付けた男の顔が目の前に
あった。
この服…マネージャー…?
マネージャーは手にしたスプレーのようなものを小原の顔に吹きかけた。
そのつんとした刺激臭の後のバスの記憶は一切残っていない。

静まり返ったバスの中、ガスマスクを付けたマネージャーが同じくマスクを装着した
運転手で目で合図を送る。
運転手はこくりと頷くと規定スピードをはるかに上回ったスピードで『目的地』へ向かった。
99:2001/04/27(金) 10:31
ズキン。
頭が痛む。
あれ、俺、は。
そうだ、オーストラリア。
旅行だ。
断片的な記憶が徐々に形を成して行くと、小原は大きく目を開けた。
そこに広がる光景に小原は息を飲んだ。
ここは…学校だ。
そんなに背の高くない小原でも窮屈な椅子と机。
壁のには子供の字で書かれた掲示物や絵(もちろんすべて英語だ)が貼られていて、
天井には輪飾りまで付けられている。
どうやら、小学校低学年位の子の使用する教室のようだった。
少しココナッツのような匂いのするこの教室でには、さっきまでの全員がいた。
ぐったりと机に突っ伏している者が殆どだったが。
「何…だよ…。」
一人で呟いた掠れ声が空しく響く。
何なんだここは。
答えの出ない疑問が頭を支配する。
落ち着いて考えようと思うが鼓動が早くなるばかりで何も出てこない。
その時、後ろの方で服の擦れる音がした。
ばっと振り向くと、すぐ後ろには桜井がいた。
「何…?ここ。」
同じく頭が痛むようでこめかみを押さえながら問うた。
「わからない」
小原が言うと周りのみんなも徐々に目を覚まし出した。
「何だここ?」
「学校?」
「外国の匂いがするー」
「頭いってー!」
みんなそれぞれ疑問やら思った事を口にし、教室は一気に騒々しくなった。
その時、突然前方のドアが開いた。
「はーいみんなーおっはー!」

1010:2001/04/27(金) 10:31
全員がその呑気な声の持ち主に注目する。
小原達の大大大先輩である少年隊の植草、東山、錦織の3人だ。
「みんな元気かー?」
元気なわけが無い。
しかし、みんな驚いて声も出せずにいた。
特別ゲスト?何かのドッキリ?
いろいろな考えがめぐったが何も思い出せなかった。
「はーい、聞いてくださーい」
ぱんぱんとまるで小学校の教師のように錦織が手を叩く。
「えーっと、今日はみんなに殺し合いをしてもらいたいと思います。」
張り付いた笑顔を崩さず、まるで天気の話でもするように軽い口調で言った。
「みんなで、殺し合いをしてもらってー、生き残った人達が、デビューしまーす。」
まだニコニコと笑顔の錦織に今度は植草が続く。
「しかもなー、ジャニーさんはやる気まんまんだぞー。日本だけじゃなく世界のトップスターになれちゃうぞー。いやー、うらやましいなー。」
わざとらしいオーバーアクションで笑い続ける。
「それでは、ガイダンスビデオを見ます」
東山が口元だけで笑うと、ラベルも何も貼られていないビデオをデッキに押し込んだ。


1111:2001/04/27(金) 10:32
いい加減みんなもざわめき出した。
何なんだ。意味がわからない。
テレビ画面にはハンディカムで撮られた状態の悪い映像が映し出された。
KinKiの2人だ。
「正しい戦い方ー!」
わー、と堂本剛史と堂本幸一が声を合わせて拍手する。
「はい、まずはみなさん気になっているでしょう、首輪の説明でーす。」
そう言って幸一が自分の首を指差す。
そこにはシルバーで、真中に赤い透明の石ようなものの埋め込まれた首輪があった。
…え…?
自分の首を触ると――あった。
周りを見ると全員が慌ててそれを確認していた。
「これには、センサーが埋め込まれていますっ。」
「これから配る地図――」
剛史が言いかけた所で突然東山が手をふ、と動かした。
続いて、小原の位置から斜め後ろ辺りからの叫び声。
振り返るとそこには――信じられない光景があった。
三浦力の咽喉に、アイスピックが深々と刺さっている。
そして三浦はそれを何が起こったのかわからないと言った表情で見ていた。
「う…あ…」
声にならない声を出して、助けを乞う目で前の席の松本を見る。
「…三浦ぁ…?」
振り返ったまま硬直していた松本の声は震えていた。
がたん。三浦が倒れた。
その反動でアイスピックがころり、と転がった。
まるでどこかのB級映画のようにどくどくと血の海が広がった。
「うるさいですよ」
東山が静かに言って笑った。
目だけは、氷のような冷たさを放っていたが。

[ 三浦力死亡 残り 32人 ]
1212:2001/04/27(金) 10:33
「おいおいヒガシー。お前がやっちゃ反則だろー。」
苦笑しながら植草が咎めると東山は軽く肩を竦めて見せた。
「すまない」
そしてまた口元だけでふ、と笑った。
教室の中は鉄臭い血の匂いが充満していた。
突然の出来事に静まり返った室内は誰かの叫び声で一気にパニックになった。
「何なんだよ!帰らせてくれよ!」
「こんなの犯罪じゃねぇか!」
「助けてくれ!」
何人も席を立ち、口々に喚きながら我先にと出口に向かう。
しかしやはり当然と言うべきか出口は完璧にロックされていて誰一人外に出る事は
出来なかった。
小原は三浦を――いや、少し前までは三浦だった物――を呆然と見ていた。
もうぴくりとも動かない体からは未だとくとくと血が溢れつづけていた。
視線を少年隊の3人に動かす。
ドアを叩いたり喚いたりし続けるメンバーを植草は苦笑まじりに、錦織は気味の悪い
笑顔で、そして東山はごく無表情で眺めていた。
ふいに錦織がスーツのポケットから何か黒い物を取り出した。
銃だった。
何度か撮影の小道具として見た事のある、刑事や犯人やらの持っている銃。
しかしそれは小道具等とは比べ物にならない、重圧感のような物を纏っていた。
それを錦織が何気ない仕草で懐から取り出したのだ。
東山に何か尋ねながら安全装置を外し、スッとドアに群がる集団に向けた。
「おらー、席に着きなさーい」
「危ない!」
錦織の声と小原の叫びと銃声は殆ど同時だった。


1313:2001/04/27(金) 10:33
バンと耳を劈く大きな音がした。
大きな音を立てて思わず立ち上がった小原の椅子が倒れた。
それと同時に後ろに群がった集団の中の一人も倒れた。
高木、だ。
太腿の辺りがじんわりと赤く染まって行く。
周りは倒れた高木を中心に小さな円を作っていた。
「席に着きなさーい。じゃないとほんとに撃っちゃうぞー。」
錦織がニコニコと笑いながら倒れこんだ高木に銃口を向ける。
全員転がるように席に戻り、高木に尾身と国分が手を貸して何とか座席に座らせる。
再び教室を静寂が支配した。
本気なんだ。
こいつらは、本気なんだ。
「小原くん、座りなさい」
東山が立ったままの小原に指示を出す。
しかし小原は俯いて立ち上がったままだった。
「小原く――」
言いかけた東山を遮って、小原が座っていた椅子を思いっきり蹴り上げた。
すぐさま錦織が下ろしたばかりの銃を小原に向けた。
撃たれる――そう思った時、突然後ろから明るい声がかかった。
「はいはいシットダウーン。」
明るい調子で小原の隣に並び、倒れた椅子を拾い上げる。
そしてそのまま細っこい手で小原の背中をぽんぽん、とふざけた調子で叩いた。
桜井渉だ。
「小原くんがいなくちゃ、つまんなくなっちゃうでしょ?」
にぃっと笑ってそう言って見せると錦織は大人しく銃を下ろした。
「いやぁ、桜井くんは頭がいいねぇ。」
ぱちぱちとおどけた調子で植草が手を叩いた。
桜井はまたにこりと笑って見せた。
しかし、小原の肩にかかったままになっていた手は頼りなく震えていた。
席に戻ろうとした時に、静かにこう囁いた。
「落ち着いて考えよう。」
低い押し殺した声でそう言うとすとんと軽い調子で席に着いた。
「さ、気を取り直してビデオの続きだー」
錦織がビデオを巻き戻し、さっきの続きから再生させた。
そうだ、落ち着こう。
落ち着いて――このゲームのぶっ壊し方を考えよう。
1414:2001/04/27(金) 10:34
「これには、センサーが埋め込まれていますっ。」
「これから配る地図には縦に10列、横に10列の計100マスに区切られていまーす。」
さっきとまったく同じ調子で(ビデオだから当たり前なのだが)剛史と幸一が喋り
出す。
前の教卓の辺りでは東山が機械的に地図らしき物を配っていた。
小原の所に回ってきたそれはノート位の大きさで防水加工の施されたなかなか立派な
物だった。
100個のマスで区切られた正方形の中にひょうたん型の島がある。
これが今小原達のいる島のようだ。
周りは海に囲まれていて、中心にこの学校であろうと思われる『school』の文字と
イラストがあった。
体を反転させて後ろの桜井に回す。
ふと目が合ったので笑っておいた。
昔のアイドル雑誌の撮影並みに上手くは笑えなかっただろうが。
「6時間毎に禁止エリアが決まっていきまーす」
よいしょ、と剛史が足元からボードを取り出す。
「例えばー、最初の禁止エリアはここ、E-5になります」
キュッキュ、と赤いマジックでE-5エリアを囲む。
「禁止エリアに指定されてからそこの区域に行くとぉ、」
「この首輪のセンサーが働いてー、ボーン!と爆発しちゃいまーす」
両手で大袈裟に爆発するようなジェスチャーをしてみせる。
これで俺らはここを襲撃出来ないって訳か。
心の中で舌打ちし、けれど画面には真剣に向かい合ったまま次の説明を待った。
「尚、禁止エリアは1時間毎に増えて行きまーす」
「放送で一気に6ヶ所づつ言うから、聞き落とさないようにね」
と、言う事は1日で24ものエリアに踏み込めなくなる。
4日経ったら4個所しか入り込めなくなる。
たった4日でこのゲームは終わると言うのだろうか。
「続いて、武器の説明でーす」
幸一の明るい声に小原の思考が停止した。
武器――。
そんな物まで与えるって言うのか?
ひやり、と背中に冷たい物が走った。
1515:2001/04/27(金) 10:35
からからと軽い音を立てて剛史がテーブルに並んだ武器を運んでくる。
先程高木を撃った小型の銃やマシンガン、ダーツ、軍用ナイフなど当たり外れが入り
混じって無国籍に揃えられていた。
「これは出発する順に平等にくじで決めてもらいまーす。こーんなハズレ武器でも
諦めずに誰か殺して奪ってくださいね」
幸一が形のよい手でダーツを掴むと口元に寄せ、さらりと恐ろしい事を言った。
「ちなみに、出発する順はそちらにいるヒガシさんに決めてもらいますからねー」
剛史に突然話を振られて、東山は軽く会釈をした。
「さて、これが最後のルールですっ」
ぽん、と剛史がにっこりと微笑んで手を打つ。
「24時間以内に誰も死ななかった場合もその首輪は爆発しまーす」
「そしたら、全員死んじゃいまーす。デビューナシの意味ナシでーす」
眉をしかめて幸一が手を横に振る。
「くだらない友情ゴッコなんかは要りませーん」
「じゃ、みなさん一生懸命殺し合って下さいねっ」
にっこりと笑って手を振るキンキの2人を最後にビデオは呆気なくブツリと切れた。
…最悪だ。
小原は呆然とノイズが支配する画面を見入っていた。
ザーザーザー。
全てがめちゃくちゃだった。
入り乱れるノイズは、小原の――いや、ここにいる全員の頭の中そのものだと思った。


1616:2001/04/27(金) 10:36
「さーみんなわかったかー?」
ぱんぱんぱん、大きな音で手を叩く錦織の横で東山は静かに小さな箱を取り出した。
「ここに武器のくじが入っています。出席番号1番の相葉くんから引いて出て行って
下さい。」
さらりと言って相葉に向けて箱を差し出した。
相葉が戸惑いながらもその無駄に飾り付けられた箱に手を伸ばす。
「あー…あのー。」
がたん。すぐ後ろから椅子の引く音が聞こえた。
「なんだぁ?また桜井かー?」
植草が眉をしかめる。
「あの、高木くん、怪我してるじゃないですか。」
すっと指先で高木を指し示す。
小原もつられて其方に目を向けると、机に突っ伏した高木が不安そうに桜井を見上げ
ていた。
太腿からの出血はまだまったくと言っていい程止まっておらず、額には大粒の汗が
浮かんでいる。
「ん?あぁ、そうだなぁ。」
興味なさそうに植草が相槌を打った。
「だから――出発、遅らせません?ほら、ちょっとでも具合良くなるまで。病院へ、
なんて駄目でしょ?」
にこり、と笑って提案して見せた。
小原はそんな桜井の勇気に素直に感服した。
こんな、いつ殺されるかもわからない状況で何とかみんなを守ろうと、助けようと
している。
何も出来ずに、桜井と少年隊のやりとりをただ見守っているだけの自分に腹が立った。
「俺からもお願いします」
抑揚の無い、ごく落ち着いた声で一人立ち上がった者がいた。
大野聡だ。
不安も困惑も感じさせない、少しだるそう(眠そう?)な表情で植草を真っ直ぐに
見つめた。
その前の席では大坂がぽかん、と大野の突然の行動を見上げていた。
突然錦織が心底面白そうにに笑い声を上げた。
「おいおい、キンキの二人の話聞いてたのか?」
錦織の態度に大野が少し機嫌悪そうにぴくりと眉を動かした。
「くだらない友情ゴッコは要らないって言っただろ?みんなやる気になってるのに
何だよお前らはー。」
けらけらと最高の漫才を見たかのように笑い続ける。
「そんなに高木が気になるんならここで今殺しちゃえばいいじゃないか」
狂気に満ちた笑い声をあげたまま高木に銃口を向ける。
「やめろ!」
思わず小原はそう叫んで立ち上がった。
「出発――高木からにして下さい。」
怒気を押さえきれない声で低く言った。
自分でもこんな迫力のある声が出せるなんて驚きだ。
けれど、小原は本当に怒っていた。
誰に?誰にだろう。
少年隊に?社長に?マネージャーに?キンキに?
見てるだけだった自分に?
今も傍観している他の奴らに?
わからない。
わからない――けど、とにかくめちゃくちゃに腹が立っていた。
こんな馬鹿な事で三浦は死んだ。
高木は怪我をした。
すぅっと落ち着け、と言い聞かせて息を吸い込んだ。
「高木から出発に出来ないんなら、俺は降ります。此処で殺してくれて構いません。」
賭けるのは俺の命だ。
赤か?黒か?
面白いじゃないか。
大学生活じゃ経験できないスリルだぜ?

1717:2001/04/27(金) 10:38
重苦しい沈黙。
錦織が躊躇う事無く小原に銃口を向けた。
背中に冷たい物が走る。
大ハズレ。残念でした、ゲームオーバー。コンティニューは出来ません。
反射的にきつく目を閉じた。
また、沈黙。
沈黙。
…何だ?
ゆっくりと目を開けると錦織が目の前に立っていた。
「裕樹くんの勇気にカーンパーイ」
つまらない冗談と共に下品な笑みを浮かべると銃を持ったままの手で小原の肩をバン、と叩いた。
「オーケイオーケイ。わかったよ。高木くんからにしよう。せいぜい遠くに逃げなさい。」
その場にへたれ込みたい気持ちをギリギリの所で押さえて肺の中の空気を一気に吐き出した。
――良かった。
「まぁ、高木なんか怪我してるし狙われ放題だもんなぁ。すぐ死んじゃつまんないもんな。」
その言葉に高木がびくり、と肩を震わす。
「お前ら――小原に桜井に大野。甘すぎるんだよ」
ふざけた口調だった声が一転、突然厳しい物に変わる。
「言っただろ?やる気になってるんだよ、みんな。これから殺し合いをするんだ」
にぃ、と下品に笑う。
「やらなきゃやられる。ドゥユーアンダースタン?」
小原の耳元で煙草の匂いの残る口で低く囁く。
ふい、と目を逸らして他の仲間に視線を送る。
しかし、誰も小原と目を合わせようとしなかった。
全員、どこかお互いを探るような視線でちらちらと周囲を見やる。
怯えや恐怖や疑いのこもった黒い視線が部屋中を交錯していた。
嘘だ――そんな事、する訳ないだろ?
嘘だ嘘だ嘘だ。

1818:2001/04/27(金) 10:38
「よっしゃーサクサク行こー!ハイ高木!」
腹が立つほど明るく植草が言うと、東山が顎で前に出るよう高木に示した。
シャツの裾で額の汗を軽く拭うって立ち上がる。
撃たれた左足は殆どまともに機能していないようだった。
ひょこひょこと足を引き摺って不安げに東山の前に立つ。
東山は口元だけでにこりと笑うとくじ入りの箱を差し出す。
恐る恐る手を入れ、一枚の紙を選んだ。
「はい、じゃあそれ持って出口に向かって。出たとこでバイトのお兄さんが武器と
引き換えてくれるから」
事務的に植草が仕切る。
「あと、これ持ってってなー。食糧と水と筆記用具なんかが入ってるから。あ、個人で
持ってきた荷物も自由に持って行っていいからなー」
そう言って大きな麻のリュックを渡した。
大した重さでは無さそうだが、元から持っていた荷物と合わせると高木にとっては
大変な重さになるようで、ゆっくりと出口に向かった。
出口(と言っても小さな引き戸なのだが)の前でゆっくりと振り返った。
「ありがとう」
言って、小原と桜井と大野を順に見て軽く頭を下げた。
「信じてる、から。」
これは全員に向けた言葉だろう。
けれどその消え入るような弱弱しい声にもみんな戸惑うばかりだった。
気まずそうに視線を彷徨わす。
何でだよ。本気で殺されると思ってるのか?
過去形になったとは言え、仲間を信じられないのか?
そう思うと悔しかった。
けれど、それも無理も無いのかもしれない。
目の前で人が撃たれて。死んで。
そんな物を見せ付けられた時、自分の死を考えるに違いない。
こんなふざけたゲームだって現実の事に成り得るんだ。
いや、現実に殺し合いが始まるのかもしれない。
高木から次の高橋直樹までの時間は3分程だった。
全員がここを出るまで1時間半、と言った所か。
それまでに何とかしして、全員の考えを聞きたい。
誰だってこんな事やりたくない筈だ。
しかし、そんな小原の考えはすぐさま粉々に砕けた。
「俺と会わないといいな」
悪意の込められた低音が教室に響いた。
ハッと顔を上げると直樹がくじを片手に滝沢を見つめていた。
「何だよ…それ…」
滝沢が掠れた声で呆然と呟く。
「後でな」
見下すように言い放つとくしゃり、とくじを握り締め、直樹はぴしゃりとドアを閉めた。
教室の空気がどんどん冷え込んで行くような気がした。
殺し合いが始まる『かもしれない』んじゃない。
殺し合いが『始まる』んだ――。

1919:2001/04/27(金) 10:39
――俺と会わないといいな。
直樹の言葉が何度も頭の中で繰り返された。
どういう意味かなんて考えるまでも無い。
会ったらお前を殺すからな、それ以外のどんな意味があるって言うんだ。
「次ー、高橋謙くーん」
呼ばれた謙は返事もせずにがたんと椅子を引き勢い良く立つと蒼白な顔で乱暴にくじを
引っ張り出した。
そしてドアまで一気に走る。
廊下を出てからも猛スピードで走る音が聞こえた。
少しでも遠くに逃げなきゃ、って訳か。
でもそれも仕方ないのかもしれない。
もう止められないのかもしれない。
それから、滝沢も呼ばれた。
真っ青な顔で唇をきつく結んでドアの外へ出た。
二宮は退出間際、ちらりと相葉に視線を送っていた。
浜田はすごく不安そうだった。
そして、原はドアの前で小原を振り返った。
振り返って――ふ、と軽く笑った。
――何とかなるよ。
そんな笑顔。
それだけで何だか安心した。
ひょっとしたら『もう会えなくなるかもな』なんて意味だったのかもしれなかったけれど。
その時の小原にはそんな事思いもよらなかった。


2020:2001/04/27(金) 10:40
それから順調に(順調って言うのか?くそ、何だか腹が立つ)教室を出て行き、
残ったのは半分近くになってしまった。
逃げるように振り返りもせず走り去った者、少年隊を睨みつけて怒気を発散しながら
出て行った者、泣き出しそうに肩を震わせていた者、様々だ。
もう2度と会えなくなるかもしれない。
そう思って小原は一人一人を神妙に見送った。
後で――こんな所から逃げ出した後で――『もう会えなくなるかと思ったぜー!』なんて
みんなでバンバン肩を叩きたい、等と思いながら。
穴沢の名前が呼ばれた時大野が妙な動きを見せた。
何か小さい紙のようなもの(来る時まで噛んでいたガムの包み紙のようだ)に必死に
指を走らせている。
そして少年隊の3人がくじを引く穴沢に集中した一瞬の隙にそれを前の大坂に素早く渡した。
大坂は戸惑ったように視線を彷徨わせたが、すぐにそれを懐に押し込んだ。
手紙、だ。
そうだ、その手があるじゃないか。
全員にどこか待ち合わせ場所を書いた紙を回す。
そしてそこで作戦を練ってここを奇襲する。
幸い、出口で武器は支給されるわけだし充分な戦力になるのではないだろうか。
しかし残念ながらそれは出来ない。
小原の座席はかなり前の方で、紙を取り出した時点で確実にバレるだろう。
ちくしょう。
汗ばんだ手を握り締めて、とりあえずは大野と大坂が会えるのを願った。
2121:2001/04/27(金) 10:41
大野の番になり、かたんと静かに席を後にした。
しかしくじのある教卓の前には行かず、窓側に向かった。
「おいおい大野、寝ぼけてるのか?そっちじゃないだろう」
錦織が咎めたが大野はごく無表情に歩を進める。
「大野、こっちだろう?」
少し苛立ったように錦織が銃を向けた。
それでも大野は気に求めない様子で倒れたままの三浦の所までやって来た。
「目くらい、閉じさせて下さいよ」
怒りを押さえた静かな声(正直、大野でもこんな声が出せるのかと驚いた位だ)で三浦の脇に
そっとしゃがんだ。
そんな大野の行為に錦織は溜息をつく。
「仕方ないなぁ。早くしてくれよー」
その言葉も無視して三浦の顔に手を伸ばす。
いつもみんなを笑わせてくれた――小原は「お前は笑わせてんじゃなくて笑われてんだよ」
なんて言っていたが――顔はもう話さない。
そっと三浦に触れた手がすでに冷たくなった肌に驚いたのかぴくん、と離れる。
静かに目を閉じさせてきちんと仰向けに寝かせてやった。
それから少し三浦を見つめて目を伏せた。
「大野」
苛立った錦織の声に立ち上がる。
小原の側を通った時も顔を伏せていて長い前髪で表情は読み取れなかった。
静かにくじを選ぶと、ごくあっさりと教室を後にした。
2222:2001/04/27(金) 10:42
少年隊の方を見ているのも腹が立つだけなので小原は机に肘をついて窓の方を見ていた。
今が何時なのかはわからないが外は真っ暗だ。
窓に映るみんなの表情はそんな外の様子以上に暗く、沈んだものだった。
鎌田がくじを引きに行くのが目に入った。
しかし鎌田は正面から東山を強く睨みつけるとまっすぐ出口へと向う。
「おい鎌田!」
錦織が声を掛けたがその前に扉はバタン!と怒りを込めて閉じられた。
自分の荷物以外何も手にせず、鎌田は出て行った。
「鎌田はバカだなぁ。すーぐ死んじゃうぞー。次、北山くーん。」
などと溜息混じりに言うと錦織が北山を呼ぶ。
前に進み出た北山は――笑っていた。
全員が緊張した面持ちの中、静かに笑っている。
ニコニコと気味の悪い笑顔を絶やさずにくじを手に、荷物を受取り、ドアの前に
ぴょこんとふざけた調子で立つ。
半歩外に足を踏み出すとくるり、と方向転換して教室側に体を半分覗かせた。
「いってきまーっす」
そう軽い調子で――まるで、遠足にでも行くみたいに――言うと、暗い廊下に消えていった。
キュッキュッ、と木造の廊下の上でスニーカーが擦れる音がスキップでもするような
馬鹿明るい音で響いていた。

2323:2001/04/27(金) 10:42
そんな北山の妙な様子に気を掛ける暇も無く、小原の名が呼ばれた。
東山の前に立つと真っ直ぐに視線が合った。
強く睨むように見据えると東山はふっ、と軽く口元を上げた。
その様子に一瞬カッと血が上ったがすぐに目を伏せ、くじの箱に手を伸ばした。
小さく折られた紙屑が指先に当たる。
隅にあった一つを適当に選び抜いた。
そしてドアの脇に立った錦織からバッグを受取る。
かなりの重さだ。
ドアの前に立ち、教室を見渡そうと振り返った。
しかし――目を合わせようとする者はいなかった。
違う。
俺は――俺は違う。
誰も殺したりしない。そんな事、出来る訳無いだろう?
心の中でそう叫んだが、静かに唇を噛んで、ドアを開いた。
生暖かい空気が足元を這う。
ふう、と一つ息をついて教室を出た。
そして、戦場へ向かった。
2424:2001/04/27(金) 10:43
窓から射す不気味な月明かりだけを頼りに暗い廊下を進んだ。
壁にはクレヨンで書かれた明るく無邪気な子供の絵が並べられており、ぼんやりと
浮かぶそれは薄気味悪いと思った。
こつこつ、と響く自分の足音を少しづつ早めながら出口らしき所に立った男の元へ向かう。
防弾チョッキのような物を着込み、腰には銃、さらには顔が見えないようにガスマスク
のような物まで付けていた。
「紙を出せ」
短く言われ、手にした番号の書かれた紙を渡す。
「行け」
無愛想にそう言うと小原の手に薄っぺらな紙に変わってずしり、と重い物を置いた。
それは、銀色の体をきらりと光らせた。
先程、高木を撃った物と同じ物だった。
「早く行け」
銃を見つめたまま固まっている小原を男が急かす。
何だよ、これは――。
汗ばんだ小原の手の中でその銃は笑っているような気がした。
――俺がいるから、大丈夫だ。殺せ。殺せ殺せ。
そんな声が頭の中で響いてくるような気がした。
やめてくれ。
冗談じゃない。
これで俺に何をしろって言うんだ。
これで俺は何をするって言うんだ。
2525:2001/04/27(金) 10:43
心臓がバクバクと鳴っている。
冷たい汗が止まらない。
具合が悪い。
――誰か助けてくれ…!
ふらふらと出口に向かい、何とか頭を巡らせようとする。
そうだ、誰かが外で待っているかもしれない。
ふっと浮かんだ考えに手を叩き、外へ足を踏み出した。
ドアの脇で待っていれば、次の桜井とも合流出来る。
俺の前は国分だったから待っていてくれるかもしれない。
鎌田だってキレてたし、きっと待っているだろう。
そして、一緒にここを襲撃するとか、何か対策を
考えるんだ。
落ち着いて歩みを進める。
生温い風が小原を包んだ。
向こう側に大きな茂みが広がっていて、学校の前にはグラウンド(ただの野原のような
物ではあったが)があった。
ゆっくりと呼吸をして異変に気付いた。
鉄の匂いがする――。
一度は収まりかけた動悸が激しくなる。
日常では経験し得ない緊迫感と恐怖感が体を包み込む。
血だ。
血の匂いだ。
出口の5cm程の段差の上から、一歩も動けなくなった。
どこかにあるんだ。
血が。
高木から、三浦から零れたのと同じ物が。


2626:2001/04/27(金) 10:44
右手に握った銃は冷たかった。
その右手側からねっとりとした生温い空気と血の匂いがした。
そちら側にいる――いや、『ある』のだろう、と思った。
立ち竦んだまま目だけをゆっくりと動かす。
そこには、うつ伏せに倒れた良く知った後ろ姿が見えた。
地面に広がる既にどす黒く染まった血痕と、背中の無数の刺し傷がすでに絶命して
いる事を告げていた。
「に、のみ…や…?」
手から銃が滑り落ちた。
震える声での呼び掛けにも無論反応はない。
空港で小原を見て、ぱっと上げた左腕はだらりと力無く寝かせられている。
昔、小原が叩いて振り返らせておいて知らん振り、と言う子供じみたイタズラをした
背中には沢山の刺し傷があった。
そして、小原は見た。
ちらりと覗いた首筋が、おかしな風にぱっくりと開いていた。
見える筈の無い空間を見た。
その真っ暗な空間の下には影のような血溜まりが出来ていた。
――誰が。
めちゃくちゃになった頭がその考えに辿り着いた時、銃が地面に落ちる音がした。
そして思った。
ただ一つだけ強く思った。
――ここにいたら殺される。
頭より、理性より、体が先に動いた。
素早く銃を拾うと、前方に広がる茂みに向かって思い切りダッシュをかけた。

[ 二宮和成死亡 残り 31人 ]
2727:2001/04/27(金) 10:45
小原が教室を出る少し前――二宮和成は武器を受取っていた。
それはカッターよりは少しマシと言ったちっぽけな細身のナイフだった。
あぁ、こんなんじゃ俺、長生き出来ないだろうなぁ。
ふぅ、と溜息をついて外を見渡す。
広々とした草原には誰の気配も見えない。
やっぱ、そっか。
空港に着くまで被っていた帽子を取り出して被る。
デビュー組と言うのは直接的に態度に表され難いものの、事務所内では疎まれがちなものなのだ。
きゅっと深く帽子を被って一歩踏み出した。
そして、ほんの少し前に自分の考えていた事を思い直す。
――俺、誰かに殺されると思ってる?
――そうだ、みんなを疑ってる。
三浦くんが殺された時、高木くんが撃たれた時、俺は何も出来なかった。
なのに翔くんや裕樹くん、それに大野くんも庇った。
俺は思ったんだ。
『ほっとけばいいのに。危ないのに。』
って。
最悪、だ。
ハッ、と自嘲するように息をつくと帽子を外そうと左手を上げた。
その時。
その時だ。
背後から咽喉の辺りに何か冷たい感触を覚えた。
2828:2001/04/27(金) 10:45
高橋直樹は、教室を出るとすぐに校舎の裏に身を隠した。
滝沢にはあんな事を言ったが、先手必勝。
すぐにカタを付けたかった。
あいつだけは、絶対に――。
手にした武器は大きな軍用ナイフだった。
支給される武器には銃が多いと思っていたので、ハズレだと思った。
とりあえずケースから出して側に植え込まれていた小さな木に一振りしてみる。
サク、と軽い音を立てて直径2、3センチ程の枝がすっぱりと斜めに切れた。
驚きに目を細めた時、出入り口に気配が生じた。
「直樹ー?」
間延びした声がする。
謙だ。
あのバカ――俺みたいに狙ってるやつがいるかもしれないのに。
チ、と舌打ちしかけたのを慌てて抑える。
早く行け――俺みたいじゃなくて誰でもいいから人数減らそうとする奴がいるかもしれないだろ?
「…やっぱ、誰も待っててくれなかったかぁ」
いいから早く行け。
どこまでおめでたい奴なんだよ?
「どうしようかなぁ」
ちくしょう、銃でも持ってたら威嚇射撃でもしたのに。
しばらくの沈黙。
けれどここから去る気配はまったくない。
「ここにいてもしょうがないのかなぁ、滝沢くんだし、次。」
そうだよ。滝沢だよ。
あいつなんかと組んだら一発で殺されるぞ?
わかってるんなら早く――早く行ってくれ。
ぎゅ、とナイフを握る手に力を込めた時。
走り出す足音がした。
そうだ。逃げろ。
遠くにな。
誰にも会うな。
誰も信じるな。
祈るように目を閉じると、再び昇降口に気配が生じた。
はぁ、と溜息が聞こえた。
少し身を乗り出して姿を確認する。
――滝沢、だ。
帽子まで被って、そんなに命が惜しいのか?
ナイフを握り直すと、気配を消して、呼吸を殺して一歩踏み出した。


2929:2001/04/27(金) 10:46
二宮は自分の身に何が起こったのか解らなかった。
ただ、突然何か冷たい物が当たって。
ぐらりと体が傾いた。
それから、背中に何度も痛みを感じた。
恐怖とか、そんなの何も感じなかった。
ただ思った。
――みんなごめん。
――俺、みんなを信じてるから。

倒れた二宮を確認して、直樹は頭の中が真っ白になった。
違う。
滝沢じゃない。
どうして――…どうしてだ。
謙の次には滝沢のはずだ。
それがどうして――。
血に塗れたナイフを手に直樹は呆然と立ち竦んだ。
「…ヤッベ…」
呟いて、正常な思考回路に戻そうと大きく息をついた。
逃げられた?
いつの間にだ。
順番を変えたのか?
そうだ、例えば滝沢は初めから勝者とされていた、だから教室を出てすぐにこの建物
のどこかに隔離されている。
つまり、仕組まれたゲームだったんじゃないか?
俺が滝沢に声をかけた時のあの狼狽しきった表情は、自分の安全が保障されている等
解っていないはずだ。
本当に全員が仕組み無しで殺し合うんだろうか。
そうなのか?そうなのかもしれない。わからない。
とにかくここにいるのは得策じゃない。
「…ごめん」
低い声で二宮の亡骸を見下ろすと、直樹は森の方へ駆け出した。
どんな手を使ったのか知らないが、滝沢、お前だけは絶対に――。
絶対に、殺してやる。
3030:2001/04/27(金) 10:47
島の西側の森の中に、小さな小屋があった。
どうやら、木こりか何かが使うもののようで、中にはノコギリやら何やらから、
日用品、それに食べ物まで揃っていた。
「――で、大坂はいなかったんだ?」
原の問いには返事をせず、大野はズーッと音を立ててコーヒーをすすった。
「これ苦い。」
「うっせーな、日本のと濃度が違うんだよっ」
苦笑しながらクッキーを一口齧って、甘すぎる、と口を尖らす。
「ま、死体見ちゃったら仕方無いのかもしんないけど。怖がり駿ちゃんだし。」
ぽつりと呟いた大野の言葉に、原は静かに案外長い睫毛を伏せた。
しばしの沈黙。
「死んじゃうなんてなぁ。」
誰に言うでもなく、自分自身に言い聞かせるように再び大野が呟いた。
「二宮に少年隊のビデオ貸すって約束してたんだけどなぁ。」
原が言って、少し乱雑にコーヒーをかき混ぜる。
「俺も。三浦にあそぼーあそぼー言われてたのに疲れてるからって断りまくって
一回も会ってない」
大野が呟き、クッキーを一口。
また、沈黙。
「会っとけば良かったなあ。そしたらさ、原っちも誘ってあげたのにさ。」
大野が3枚目のクッキーに手を伸ばす。
原は返事をせずに、少し嬉しそうに目を細めた。
「そうだなぁ、俺と、三浦と、原っちとー、あと裕樹くんでしょ。それに、浜田達も
いたら盛り上がるかな」
珍しく饒舌な大野に原が呟く。
「大坂は?」
「そっか。あいつ誘わなかったらまた拗ねるか。んじゃ、大坂も。そんでどっか行って
――あ、どこ行こうか。」
「なぁ、大野。」
言いかけた原から目を逸らし、大野は続ける。
「温泉かな、オヤジだしさ、俺ら。そんで、卓球とかしちゃってさ。浜田達はまた賭けすんの。
夜はちゃんと懐石料理。温泉入って、夜花火して。あ、そーいや昔したよなぁ。
コンサートん時、夜ホテル抜け出して――」
「大野。聞いてくれ」
さっきより強い口調で原が言った。
大野が俯いたまま口を開かないのを見ると、静かに息をついた。
「俺は、降りる。」
3131:2001/04/27(金) 10:47
――ああ、やっぱりな。
大野は思った。

校舎を出たら、いるはずの大坂がいなかった。
その代わり、二宮の死体があった。
大坂がこんな状況で待てる訳が無い。
仕方ないので一人で適当に歩いた。
道を考えるのが面倒だったし、まだ禁止エリアとやらは施行されていないはずだった
ので、西へひたすら、まっすぐ歩いた。
海沿いの切り立った崖に、原がいた。
武器であろう日本刀を左手に携えて、静かに海を見下ろしていた。
慌てて(慌てる事なんか滅多に無いのに)、側の小屋へ誘った。
「原っち!疲れたねーそこの小屋行かない!?」
今時こんな言葉、ド田舎のナンパ師も使わないっつーの。

「ここから逃げる、の?」
そんな訳無い事位わかっている。
馬鹿げた問いに原はふざけたように大袈裟に頷く。
「そーそー実は原家の自家用ヘリがお迎えに!」
「そりゃすごい!」
大野も大袈裟に目を開く。
「だろ?じいやがさぁ――」
「んな訳ねーだろ」
「ノリツッコミ!素晴らしい!」
原が馬鹿みたいに明るく手を叩く。
泣きそうだった。
「ま、そーゆうわけで行きますわ」
コツ、と軽い音を立てて日本刀をテーブルに置いた。
「意味が全然わかんない。」
「わかんなくていい。」
俯いたまま呟いた大野の言葉を強い調子で遮ると、ふ、と柔らかく笑った。
「じゃ、隠れて寝てて首輪がバーン!なんて事のないよーにっ!」
極めて明るい調子で言うと背を向けた。
そのまま呆気なくドアの向こうに姿を消した。
「…くっそじじぃ…。」
下唇を強く噛んで、木で作られたテーブルに突っ伏した。
「バーカ、老人、老け顔、あほー、くそじじー、エロ、ボケ、おまえのかーちゃんでーべーそっ」
まだ湯気の上がる原の使っていたカップを呆っと見つめて、思いつく限りの悪口を並べ立ててやった。
悔しかったら、戻って来いよ――…!

3232:2001/04/27(金) 10:48
生田斗麻は泣きそうだった。
――怖いよ。怖い怖い怖い。
早くどこかにいかないと、ニノみたいに殺されちゃう。
何より、手にした銃の重さが恐ろしかった。
けれど、走ろうにも体が言う事を聞かないし、膝もがくがくと落ち着かない。
当然移動のペースも遅いわけで、振り返るとまだ大きく校舎が確認できた。
――とにかく、ここから離れなきゃ。
何度も、石やら枝やらにつまづきながら必死に山道を上る。
その時、突然後ろから大きな足音が近付いてきた。
「とーま!」
心臓がどきり、と跳ねた。
慌てて振り返ると、そこには今井の姿があった。
もたもたしている内に追いつかれてしまったようだ。
「良かったー。一緒に行かない?」
ホッ、と安心したように笑う。
そして、すたすたと生田の方に歩み寄った。
「あ、生田の武器って、コレ?」
手にした銃に気付くと、自分の鞄をごそごそと探る。
そして、『武器』を取り出し、今井に向けた。
「俺コレ――…え…?」
ぱんぱんぱん。
乾いた音が響く。
何が起こったのかわからない、と言う様子で今井は大きな目で生田を見つめた。
生田は、こちらに真っ黒な銃口を向けていた。
そこからは煙が一筋、ゆっくりと夜空に広がっていた。
生田も驚いたように自分を見ていた。
そんな生田に、ぴしゃ、と水が跳ねる。
今井の『武器』、水鉄砲から発射された水が。
「…え――…?」
生田が戸惑ったように塗れたTシャツに触れた。
今井もゆっくりと自分の体を見下ろす。
そこには3つ、ぽっかりと穴が開いていた。
右の脇腹、ヘソの少し上、そして左胸の真上。
そのまま体が前に倒れる。
「つ…ばさく…ん?」
無論、今井はもう事切れていた。
――だって、鉄砲みたいな形してたから――。
暗くてわかんなかったんだよ。
怖かったんだよ。
俺、本当に怖くて――。
ごちゃごちゃになった頭の中、誰に言うでもない言い訳を考えた。
発砲音でツンとしていた耳が突然クリアになった時、生田は走り出した。
――おれ、人を殺しちゃったよ…!

[ 今井つばさ死亡 残り 30人 ]
3333:2001/04/27(金) 10:49
どの位の時間が経ったのだろうか。
気付いたら、山の中にいた。
目立たない洞穴を見つけたので、とりあえずそこに入った。
喉の渇きに気付いたので支給されたペットボトルの水を一口飲んだ。
後は――何をしていただろう?
二宮が、死んだ。
小原はただひたすらその事だけを思っていた。
そうだ、あれは死体だった。
紛れもない、命の無い死体。
空になった物体。
そこに『在る』だけで何の意味も持たない物体。
時が経るにつれてそれは小原の中で着実に恐怖の形状を成していった。
殺されたんだ。
薄暗がりの中、ぎゅっと目を閉じる。
まぶたの裏には血塗れの二宮の姿がはっきりと浮かんだ。
ただ何となく、携帯に手を伸ばす。
表示された履歴には、一番新しい位置に二宮の名を見つけた。
何度も何度も、『来る?ほんとに?』と、自分に会うのを楽しみにしてくれていた。
なのに、殺されたんだ。
もう一口水を飲もうと、傍らのペットボトルに手を伸ばしたその時。
銃の音が、聞こえた。

3434:2001/04/27(金) 10:49
パンパンパン。
3発連続で鳴ったそれ(遠くの山中で生田が今井に向けて発砲した物だったのだが、
小原はそれを知らない)は、少しの風の音でも消えてしまうような、ごく小さい物だった。
今までの生活だったら、聞き逃してしったかもしれない。
けれど、三浦や、高木を傷つけた銃声を聞き逃すはずが無い。
目を大きく見開き、続く音を待った。
銃声か?悲鳴か?
しばしの静寂。
しかし、何も無かった。
ただ静かに風が吹き込んできた。
冷たい風に晒されながら、冷や汗がどっと吹き出る。
誰か、死んだ?
また死んだのか?
殺されたのか?
答えの無い疑問がぐるぐると頭の中を巡る。
何が起こったのかなんか、わからない。
けれどこの状況では、誰かが死んだか、良くて怪我をしたかだろう。
それ以外の何かであってくれよ――。
そう願ってまた腰を下ろそうとした時。
自分の手にしていた物を見た。
銃だ。
ご丁寧に、安全装置まで外しているじゃないか。
咄嗟とは言え――何をしてるんだろう?
これで、何をする気だって言うんだ?
出て行って、助ける?
いや違う。
怖かったんだ。
ただ、怖かっただけだ。
「…ッハ…ッ…!」
嘲笑するように小さく息を吐いた。
なぁ、二宮。
俺、これからどうすんだろうなぁ。
多分俺は誰も守れないよ。
誰も助けられない。
このゲームも、止められない。
怖くてしょうがないんだ。
こんな俺に出来る事なんか、何もない。
3535:2001/04/27(金) 10:50
山下は、校舎から少し離れた湖の側に来ていた。
湖面には月がうっすらと映っていた。
何となく側にあった石を拾い上げ、月目掛けて投げる。
ぴちゃん。
小さい音を立てて湖面がぐにゃりと歪んだ。
その音よりさらに小さく溜息をつくと、側にあった木の根元に座り込んだ。
――どうしよう。
最初は何かのドッキリだろう、とタカを括っていた。
けれど、三浦くんも、二宮くんも本当に死んでた。
そして、山下の手には銃が手渡された。
子供の頃遊んだおもちゃとは違い、ずしりと重いそれは、鈍く光っていた。
こんなの来るんじゃなかった。
再び溜息をつき、もたれた木にこつんと頭をぶつける。
その時、突然後ろの茂みががさがさと音を立てた。
「やまぴー?」
慌てて振り返ると、そこには真っ赤なTシャツ姿の矢代がいた。
3636:2001/04/27(金) 10:50
あ…」
驚いて立ち上がる山下に、矢代はずかずかと近付いた。
「良かったー、一緒にいねー?こんなん誰もやんねっつーのな?」
調子良く笑うと、山下の肩に手を回す。
香水の香りがつんと鼻についた。
「俺どーしよーと思ってさぁ。マジで三浦くん死んじゃうんだもん。ちょーこえーよなー。」
山下の隣に座り込むとぺらぺらと喋り出した。
Gパンの後ろから煙草を取り出し、1本咥える。
「あ、後藤と付き合ってるってマジ?いーなー。誰か紹介してよ。あ、俺ねぇー
石川か吉澤がいーなー。」
ぷかぷか煙をふかし、喋り続ける矢代。
「…よ…。」
「え?」
山下が小さく呟くと、矢代はそちらを振り返り硬直した。
額に、銃口がぴたりとついていた。
長い前髪に隠れて山下の表情は読み取れない。
「や…ました…?冗談だろ?なぁ?」
引き攣った笑みを浮かべて、矢代が両手を上げる。
山下は答えない。
その代わり、ただひんやりと冷たい銃をつきつけた。
「なぁ、俺が悪かったよ!今までごめん!助けてくれよ!なぁ!」
「うぜぇんだよバァーカ。」
懇願する矢代を見下ろして、山下は小さく呟いた。
パン。
静かな破裂音と共に、矢代の頭に赤い花が咲いた。

[ 矢代典久死亡 残り 29人 ]
37ななしじゃにー:2001/04/27(金) 10:51
いいかげんやめなよ!
3837:2001/04/27(金) 10:51
前のめりに倒れて、ぴくりとも動かない矢代を、山下は静かに見下ろした。
嫌い、だった。
大嫌いだった。
昔から調子に乗ってたこいつが。
先輩ヅラして、命令して来るこいつが。
銃に跳ねた血を冷たい目で眺めた。
死んだ。
俺が、少し指先を動かしただけで死んだ。
簡単に、呆気なく。
思わず口元が緩んでしまう。
しゃがみ込んで、倒れた矢代のポケットからタバコを取り出す。
こいつに教えられて良かった物なんか、これ位だ。
「どーもありがとーございましたぁ。」
緩慢な動作で火をつけると皮肉に囁き、煙をくゆらす。
消えゆく煙を見上げたその目は冷たく、何も写してはいなかった。
3938:2001/04/27(金) 10:52
原は、真西の崖に一人ぽつん、と立っていた。
眼下には黒い海がただ真っ直ぐ広がっている。
静かにそれを見下ろし、煙草を咥える。
あ、コレ大野にやっちゃえば良かったかも。
そんな事を思った自分に苦笑して、鞄から財布を取り出す。
一枚の赤い紙を掴む。
それは、京都で舞台をやっていた時に初めて手にした大入袋だった。
何度も何度も事務所を辞めようと思った。
けれど。
これがあったから。
これがあったから、俺はここまで来た。
これが俺の存在証明だ。
暫く呆っと煙草をふかすと、既にくしゃくしゃになったそれをきつく握りしめた。
そのまま右手を真っ直ぐ前に突き出す。
手の甲を空に向け、静かに指を一本づつ解いた。
真っ赤な原のプライドは、静かに海に融け込んだ。
ここまで来たけど。
見たく無いんだ。
死ぬのも殺すのも裏切るのも裏切られるのも。
「さて、と。」
小さく呟き、一歩踏み出す。
がくん、と体が重力に引き込まれた。
――なぁ、俺は弱虫かなぁ。

[ 原友宏死亡 残り 28人 ]
4039:2001/04/27(金) 10:52
『外で待て』
大坂が焦燥感のあらわな文字でそう書かれた紙を握り締めて、何時間が経っただろう。
最初は濃い赤だったその文字も、今では黒く変色していた。
ガムの包み紙に書かれた大野らしくなく汚いそれはおそらく血で書かれた物だった。
あの状況で鉛筆なんか持ち出す訳にも行かなかったし、咄嗟の判断と言うやつだろう。
だから、外で待とうと思った。
なのに、二宮が死んでた。
気付いたら、めちゃくちゃに走ってた。
大ちゃんに会ったら思いっきりバカにされるだろうなぁ。
ふぅ、と溜息をついて配られた地図に目を落とす。
大坂は、東の方の集落の比較的小奇麗な家にいた。
家族構成は恐らく夫婦に子供が2人、男の子と女の子だ。
いくつか部屋を見て回って、おもちゃやら服やらでそう判断した。
子供部屋の人形やらが不気味で怖かったので夫婦の寝室らしき所に座り込んで、
地図と手紙を交互に見ていた。
何でもいいから何かで気を紛らわせていないと怖くて仕方ない。
それに、膝の上の銃の感触からも気を逸らせたかった。
「あー…もー…こわー…。」
小さく呟き、ベッドにぼすん、と寝転がった。
その時、階段を静かに上がってくる足音がした。

4140:2001/04/27(金) 10:53
慌てて体を起こし、クローゼットを開ける。
どこでもいいから隠れなきゃ。
しかしこの部屋で唯一隠れる事の出来そうなそこには、良くわからない沢山の健康器具が
押し込まれていた。
――使わねぇモンは捨てろよ!
心の中でまだ見ぬ(一生見ないままだろうが)夫婦を罵倒して、必死に部屋を見回す。
窓の向こうには何も無い。
ベッドの下に隙間も無い。
足音は着実にこの部屋に近付いて来る。
隣の子供部屋のドアが開く音がした。
次は、ここだ。
立ち竦んだまま必死に目だけを動かす。
バタン。
隣のドアが閉まった。
すぐに、こちらのドアノブが動いた。
――俺、終わったかも。
呆然と次に起こるであろう事を考えた。
銃乱射とか?爆弾とか?
何が起こるかはわからない。
とにかく、最悪な事であろう事だけは確かだ。
ギィ、とドアがゆっくりと開いた。
4241:2001/04/27(金) 10:54
「大坂、くん?」
低めの、けれど人懐っこい声。
ドアの向こうからこちらを驚いたように見ているのは関西の村上信悟だった。
後ろ手に何かを持っていた。
銃か何かの武器かもしれない。
心臓がどくどくと鼓動を早めた。
「俺を、殺すの?」
混乱しきった大坂の質問にしばしの沈黙。
「…これで…殺せますかね…?」
呆れたように『武器』を示した。
それは、確かにウクレレだった。
なお続く沈黙に、村上が適当に弦を弾く。
ぽろん、とこの場にそぐわない間の抜けた音が響く。
「…………何それ」
脱力した大坂が座り込みながら呟く。
「………さぁ…?」
2人で呆然と見つめ合いながら小さく首を傾げた。
ぽろん、と再びウクレレが鳴った。
4342:2001/04/27(金) 10:54
朝6時。
突然島全体に明るい音が響いた。
「みんなーおっはー!」
光源氏のパラダイス銀河に乗せて錦織のエコーのかかった声が響いた。
「じゃ、まず死んだ人を発表しまーす。」
笑いを含んだ声に、小原はぴたりと動きを止めた。
「まず、三浦くーん、二宮くーん。」
その2人で終わると思った。
それだけでも悪夢だ。
もう充分過ぎるくらい最悪だ。
「矢代くーん、原くーん。」
――え。
どきり、と心臓が鳴った。
体温が一気に下がって、今度はかぁっと熱くなった。
「うーん、初めてにしてはまぁまぁかな。でももっと頑張れよー」
――原が死んだ?ウソだろ?
錦織が激励(ふざけるな、クソ)の言葉を贈っている間中呆然と足元を見ていた。
どうしてだよ。
あの時――教室を出るとき、笑っただろ?
大丈夫だ、って意味じゃねぇのかよ?
「…ッ…!」
くしゃ、と髪を握った。
鼻の奥がツンとして、目が熱かった。
「禁止エリアを言うからなー、ちゃんとメモれよー」
尚続くやかましい声にゆっくりと地図に手を伸ばす。
「今から10分後、Cの10。7時、Dの2…」
地図の上に数字を走らせる。
途中、何度もポタポタと水が零れた。
「――以上、頑張れよー。また12時に放送するからなー。」
ブツ、とマイクが途切れ、静寂が戻った。
蒸す洞穴の中、脱いでいたシャツを手にし、くしゃくしゃと顔を拭う。
誰だよ。
誰がやったんだ。
誰がみんなを殺したんだ。
俺はそいつを、絶対に許さない。
思い切り岩壁を手の甲で叩いた。
痛かったし、切れたのかもしれなかったけど、気にはならなかった。
矢代は、三浦は、二宮は、原は――きっともっと痛かった。

二宮が笑っていた。
三浦がまたバカ騒ぎしてた。
矢代が賭けして遊んでた。
原がつまらない冗談を飛ばした。
仕方ないから、笑ってやった。

戻りたいよ。
4443:2001/04/27(金) 10:55
放送を聞いた。
原くんの名前が出た。
こうなるってわかってた。
俺は止められなかった。
だって、止める理由がなかった。
ここから逃げられる方法なんて無い。
どんな言葉も一時の慰めでしか無い。
こつん、と木で作られた脆そうな椅子の背もたれに後ろ頭をぶつけた。
あぁ、矢代も死んだんだ。
無表情に天井を見上げた。
雨漏りの痕があった。
俺、あんたの事、ほんとは尊敬してた。
優しさもダンスも生き方も寒いギャグだって全部。
なのに死なれちゃ一生勝てないわ。
「…お疲さん、でした。」
ぽつん、と呟いて、少しだけ、ほんの少しだけ泣いた。
目の前の原の使っていたカップからはもう湯気は上がっていなかった。

4544:2001/04/27(金) 10:55
魚谷は、北側の海にいた。
丁度うまい事陸地から死角になっている岩場を見つけたので、そこに小さく座っていた。
誰も信じられへんわ。
昨夜遅く、魚谷は生田を見た。
今井に向けて発砲した生田を。
今井を殺した生田を。
あんなガキかてやる気になってるんや。
もう誰も信じたらあかん。
落ち着き無く辺りを見回す。
生田を見てからもう誰にも会っていなかった。
誰とも喋ってもいない。
けれど、この状況で誰かに会うと言うのは危険な事でしかない。
『武器』とやらは掌にすっぽり収まってしまう程の小さなおもちゃのような銃。
威嚇程度には使えても、殺傷能力にはあまり期待できそうになかった。
がっくりと肩を落として、再び海に目を向ける。
陸も何も見えなかった。
帰りたい、と切実に思う。
その時、突然頭上からぱらぱらと何か粉のような物が降ってきた。
驚いて身を伏せ、その落ちて来るものに目を凝らした。
小さな白い鳥がこちらにちょんちょん、と寄って来る。
黒っぽいくちばしでそれを器用に突付いていた。
どうやら、パンのようだ。
そう言えば支給された食べ物に、カンパンのようなものがあった、と思う。
そう思って――硬直した。
誰かおる。
息を殺して、様子を見ようと思ったその時、真上の岩から呑気な歌声が聞こえた。
小さい頃、何度も聞いたフレーズ。
「とーりゃんせーとーりゃんせー」
そしてそれは、つい3年ほど前は毎日のように話していた声のものだった。
のんびりとした歌声が突然止まる。
「あっれぇ?うおっち?」
ぴょこん、としゃがみこんでこちらを見下ろす。
細い目をさらにくしゃっと細くして笑顔を作った。
「キタくん…?」
4645:2001/04/27(金) 10:56
大丈夫や。北山は昔っからよう知っとるし。
自分に言い聞かせるように、魚谷は笑顔を作った。
北山もにこにことそれを見下ろす。
「こんなとこで何しとんの?」
相変わらずのんびりとした口調で小首を傾げる北山に、苦笑した。
「何ゆーてんの?危ないやんか。キタくんもこっち来ぉよ」
人と会話する事で、こんなに落ち着けるなんて思わなかった。
出会えたのが北山で良かった、と心底胸を撫で下ろす。
北山やったら(まぁちょっとばかし天然やけど)安心や。
「海きれーやから海で遊ぼうよ」
「そんなん日本帰ってから湘南でも行ったらええわ。連れてったるから」
北山の妙な発言に少し苛立ちながら北山の手を引く。
体を反転させて、北山とまっすぐに向かい合った。
「ほんまに?いつ?」
「イヤ、いつとかわかれへんけど――まぁそのうちに」
俺な、関東も詳しなったんよ。
そう得意げに言おうとしたが、言葉が出なかった。
ぱしゅ、と空を切る間の抜けた音が聞こえたような気がした。
息ができない。
苦しい。
「――キッ…」
キタくん、と言おうとしたがやはり言葉は出なかった。
自分の体の左胸に、小さな黒い点があった。
目の前の北山は尚笑顔を絶やさずにサイレンサー付きの銃を向けていた。
至近距離で放たれたそれは、魚谷の心臓に命中していた。
――ウソやろ?
俺、日本帰んねん。
天下の滝沢くんと番号交換したもん。
夏にな、東京の友達とボード旅行も行くもん。
小原くんと遊ぶ約束だってしたもん。
ウソや。
北山連れて、海行くもん。
関西のみんなも連れてったるから。
絶対喜ばしたるから。
死にたくない。
こんなオチ、全然おもろないわ。

[ 魚谷照明 死亡 残り27人 ]
4746:2001/04/27(金) 10:56
ひとがしんだら、どーなるんかなぁ。
ってずっとおもってました。
だから、じっけんしてみました。

「うおっち?」
ぴくりとも動かなくなった魚谷に静かに呼びかけてみる。
無論、返事は無い。
「うおっち」
ぴょん、と小さな崖から魚谷の亡骸のある所へ降り立つ。
「うおっち」
意外としっかりした魚谷の肩を掴み、仰向けに寝かせた。
その体はまだ温かく、ただ眠っているだけのようにさえ見えた。
静かに目を伏せさせ、両腕を上半身に乗せた。
ひとつひとつ、静かに指を組ませていく。
ばーちゃん時、こんなんやったっけ。
ばーちゃんが死んだ時、おかんがこうしたら天国行ける、ってゆーてた。
俺、うおっち好きやから天国行って欲しいもん。
ぱんぱん、と手を合わす。
――これで、天国行けたかなぁ。
うおっち、一人にさすけどごめんな。
寂しないように、ぎょーさん仲間作ったるから待ってて。
静かに海を振り返り、北山はゆっくりと浜辺を歩いた。
4847:2001/04/27(金) 10:57
小さな電子音を発しながら、掌に乗せた液晶画面を見つめる。
そこには、大雑把な島の地図に、小さな点がいくつもあった。
殆どが白で、ぽつぽつと赤、それに一つだけの黄色の点がぱちぱちと点滅を繰り返していた。
高橋謙の支給された武器は、このレーダーだった。
黄色の点は自分、白い点は生存者、それに赤の点は敗者だと思われる。
難しい仕組みはまったくわからないが、どうやらこの首輪のセンサーとやらで生死の判別が
ついているらしかった。
今、黄色の点と重なるように白い点が表示されている。
「もう、朝だねぇ」
何と切り出して良いのかわからず、謙はそう小さく呟いた。
隣で殆ど口を開こうとしなかった滝沢がゆっくりと顔を上げる。
「っと…飲む?」
戸惑って、ミネラルウォーターのボトルを渡した。
しかし、滝沢は片手でそれをやんわりと断った。
困ったようにそれを一口あおる謙に、滝沢は目を合わせようとしなかった。

昨日の夜――直樹の言葉を聞いた。
恐怖に煽られる自分と、当然だと妙に冷めた自分がいた。
けれどやはり怖かった。
呆然と教室を出たら、謙がいた。
今までにない、真剣な表情で唇に指を当てた。
「どうしようかなぁ」
その体勢のまま呟く。
眉を寄せる滝沢に、謙はドアの外を目だけで示した。
誰かいるのか?
その答えはすぐにわかった。
考えるまでも無いじゃないか、直樹だ。
待ち伏せ、か。
その方が、確実に俺を殺せる。
再び恐怖に身を固まらせる滝沢の目の前で、譲はゆったりと独り言を続けた。
「ここにいてもしょうがないのかなぁ。滝沢くんだし、次。」
なお言葉を紡ぎながら、滝沢の手首を強く掴む。
「――え…」
言いかけた滝沢の口を塞ぐと、半ば強引に少し離れた茂みに向かって走った。
4948:2001/04/27(金) 10:58
――滝沢くーん、バイバイッ。
明るすぎ。
――滝沢くんといられない。
重すぎ。
昨日の晩からグルグルと別れの言葉を考え続けていた。
謙は、絶対に直樹を止めるつもりだった。
それにはまず会わなくちゃ。
このレーダーがあるので、闇雲に歩き回るよりその可能性は高いと思う。
けれど、滝沢を連れていたら確実にそれは不可能だ。
危険すぎる。
もう既に日は随分と昇っていた。
幸運な事に(謙にとってはアンラッキーだが)、今いる所は午前の禁止エリアには
含まれていなかった。
もし、禁止エリアにさえなれば、移動ついでに別れる理由も出来るのだが――。
昨晩から殆ど口を開こうとしない滝沢をちらりと見上げ、静かにペットボトルに口付けた。

わかっていた。
こいつは、直樹を説得するつもりだ。
それには俺がいては意味がない。
だから、別行動になるだろう。
頭では完璧に理解できる。
けれど――どうしても嫌だった。
謙のこのレーダーさえあれば、誰にも遭わずにいられる。
上手く利用しさえすれば、最後まで残る事だって可能だろう。
それが汚い考えである事位、わかっていた。
助けられて、それでもなお謙に頼ってすがろうとしている自分が最低だと思った。
けえれど、気が付いたら言葉が口から勝手に零れた。
「謙、助けてくれ――…!」
頼むから、俺と一緒にいてくれ。
一人にしないでくれ。
怖いんだ。
5049:2001/04/27(金) 10:58
謙は、困ったように滝沢を見据えた。
気付いてたんだなぁ、さすが勘もいいなぁ。
と、ぼんやり思った。
何と言葉を掛ければ良いのかわからなかった。
どんな言葉であったって、滝沢と別れるという結果に変わりは無い。
国語だけでもちゃんと勉強しておけば良かったなぁ。
滝沢の深い目を見ながら、そんな事を考えた。
突然滝沢がにこり、と笑って見せた。
「ウッソだよー。そんな困るなよ?」
黒目がちな笑顔で汗ばんだ前髪をかきあげる。
「…え?」
きょとんと滝沢を見る謙にまた笑みを向けた。
「やっぱ社長、からかうとおもしろいねぇ」
あはは、と声を上げて笑った。
ぽかんと口を開けたままの謙の前で静かに立ち上がる。
「…俺、行くわ。」
黒い短銃を片手に、もう一方ではリュックを手にしていた。
まだ意味わからないと言った様子で滝沢を見上げる譲に再び笑顔を向ける。
――あぁ、言い忘れてた。
「学校ん時、ありがとう。」
短く言うと、くるりと背を向けた。
「――たっ滝沢くんっ!」
背後からの慌てた謙の声。
振り向かずに、止まった。
「えっと――俺、がんばるから滝沢くんもがんばって!」
言ってる自分でも意味がわからなかった。
がんばる、なんてこの場に最もそぐわない言葉かもしれない。
その言葉に、滝沢は肩で少しだけ笑った。
「謙もなー」
そして、振り向かないでそう言った。
振り向いたら、また戻りたくなる。
謙の側に。
誰かの側に。
5150:2001/04/27(金) 10:59
あぁ、俺って演技力抜群だなぁ。
そりゃドラマで主演も演じるわ。
笑顔もなかなか良かったねーあれは。
足早に森の中を歩きながらさっきの自分の『演技』について考える。
本当は、あのまま謙といたかった。
けれど、それは謙にとってマイナスであり迷惑でしかない。
振り返ったら、まだ見えるのだろうけど。
きっと謙は心配そうにこっちを見ているんだろうけど。
それはしなかった。
いつまであるのかわからない未来を思い、少し泣きそうになった。
悲しくて怖くてどうしようもないけれど、妙なプライドがそれを止めた。

みんなが言った。
『さすが滝沢くんだね』
『滝沢くんは何でもできるね』
そんな訳ない。
俺は、こんなに情けない。
涙堪えて鼻をすすりながら森ん中歩いてるんだぜ?
笑い話だ。
けれど――一人は嫌だ。
5251:2001/04/27(金) 11:01
撃たれた足が痛い。
まるで、そこに心臓が来たかのようだった。
校舎を一番に出れてから、必死に移動したつもりだったが、高木は一番に指定された
校舎周辺のすぐ隣のエリアの小さな洞穴にいた。
もし――もしも、次にここが指定されたらきっと逃げられない。
負傷した足は血こそもう止まったよだが殆ど自由が利かないのだった。
それなのに、皮肉な事に支給された武器は大型のマシンガン。
もしもの時のために持っては来たが扱える自信は無い。
薄暗い洞窟の中、突然一筋の光が走った。
真っ直ぐな白い光はうろうろと岩壁や地面を彷徨い、高木を照らした。
眩しさに目をつぶると、聞きなれた声がした。
「せーくんっ!?」
「屋、良…?」
驚いて出入り口に目を向けると、そこには明るく髪を染めた屋良の姿があった。
「ね、せーくんいたよーっ!」
ぱっ、と振り返り嬉しそうに誰かを呼ぶ。
「せーくん?マジで?」
転がるようにこちらに走ってくる植村が見えた。
高木の姿を確認すると、心底嬉しそうに笑って見せた。
「良かったー…大丈夫?」
屋良がこちらに歩みを進める。
高木は答えなかった。
その代わり――静かに、隣に立てかけてあったマシンガンを向けた。
5352:2001/04/27(金) 11:01
「俺は誰も信じない。こっち来たら、撃つ。」
声のトーンを落として、冷たく言い放った。
「――せ、い…くん?」
足を止めた屋良が呆然と呟いた。
信じられない。
どうしてせーくんが俺らに銃なんか向けてるんだ?
ずっとずっと仲良かったじゃんかよ。
――こんなの嘘だ。
ふらり、と汚れたスニーカーを一歩踏み出した。
高木が足に極力負担をかけないようにマシンガンを構える。
――ホラ、撃たないじゃん。
すたすた、と一番奥の壁にもたれた高木まで足を進めようとした。
ばばばばば、と耳を劈く鳥の羽ばたきのような音が狭い洞窟の中に響いた。
ほぼ同時に、背後から思い切り植村が屋良のパーカのフードを引っ張る。
勢い余ってどん、と屋良が後ろ向きに倒れた。
その足元には幾つもの穴が空き、そこからはゆっくりと細い煙が上がっていた。
「――行こう」
半ば強制的に屋良を立たせると、植村は静かに高木に背を向けた。
途中、屋良は何度も何度も高木を振り返った。
けれど、高木は俯いたまま2人を見ようとしなかった。
5453:2001/04/27(金) 11:02
せーくんが事務所を辞める前にCDを貸した。
せーくんもCDも戻って来ないだろうな、と思ってた。
なのに、CDは帰ってきた。
律儀なせーくんは、返しに来た。
俺は嬉しくなって買ったばかりの新しいCDをその場でまた貸した。
CD貸したら、またせーくんと会える。
ついでにみんなでカラオケ行っちゃったりさ。
楽しかったなぁ。
なのに、なんでだろう?
なんで――?

「せーくん、大丈夫かな」
ぽつり、と屋良が呟いた。
高木の元を離れてまだ30分程しか経っていない。
もう一度戻って説得したい、と思った。
「どうだろう。具合は悪そうだったけど」
かさかさと草叢を掻き分けながら植村が呟いた。
暫し考えるように黙ってから、さらにこう続ける。
「でも、誠くんの決めた事だから、さ。」
あまり良い言葉が思い浮かばなかったので、とりあえずそう言った。
植村だって悲しかったし、正直少し腹が立った。
もし植村が屋良を止めなかったら、怪我をしていたかもしれないのだ。
けれど、一番腹が立っているのは高木ではなく、この状況にだった。
予定通りここで旅行を楽しめたらどんなにいいだろう。
たとえ帰国してからバラバラになってしまったって、この旅はずっと忘れないものになっただろう。
――それなのに。
さっき見たばかりの高木の冷たい瞳が頭をよぎる。
ただでさえ沈んでいた気持ちが一層沈んだ。
その時、パンと言う音とともに左の肘に衝撃が走った。

5554:2001/04/27(金) 11:02
振り返ると――そこには、山下の姿があった。
柔らかく舞った風にふわりと長い前髪が揺れた。
いつもと変わらず落ち着いた表情だが、今日は感情が一つも見えない。
形の良い手で、こちらに真っ直ぐに銃を向けていた。
――マジかよ…!
状況を理解するより何より、隣の屋良の背中を叩いた。
「走れ!」
走る震動で左の肘が酷く痛んだ。
弾は貫通したようで、羽織っていたシャツを真っ赤な血がじんわりと染めていた。
――まずい。
「バラけるぞ、お前そっち!」
隣で心配そうにこちらを見ている屋良を右側に思い切り押す。
「ウソだろ!?」
バッとこちらを振り向き叫ぶ。
「いいから!俺の言う事で失敗した事あったか?」
「え、いっぱいあった!」
「…今回は大丈夫だから行け!」
もう一度背中を押す。
山下はこちらに向かっていた。
狙うのは――屋良だ。
俺は遠くに行けないと踏んだらしいが、それはまずい。
「あーもうっ!行け!」
背中を思い切り突き飛ばす。
屋良は右側の小さな崖に落ちた。
大した高さではないので、怪我をするような事は無いだろう。
俺のその行動に山下はぴくりと眉を動かしただけで、狙いは植村に変更したようだ。
さてさて、まだまだ若いモンには負けませんよ?
痛む腕を押さえて、植村は真っ直ぐに走った。
5655:2001/04/27(金) 11:03
屋良、すごい悲しそうだった。
植村、すごい怒ってた。
さっき煙を上げたばかりのマシンガンを抱きながらただ顔を伏せていた。
こうでもしなくちゃお前らは俺のとこに来ちゃうじゃんか。
俺が一緒にいたって邪魔なだけじゃん。
全然歩けないし、迷惑かけるだけだ。
冷たい銃にこつん、と額をぶつける。
人を傷つけるべきそれは、少し熱っぽい高木の額にひんやりと心地よかった。
あー、友達無くすのって悲しいな、結構。
もうこんな事思ってるの、俺だけだろうけど。
「ごめん、な」
ぽつんと呟いた言葉も、空しく響くだけだった。
ふいに、少し離れた所でかすかに銃声が聞こえた。
高木はぴくん、と顔を上げた。
――屋良達?
まさかな、ウソだろ、と心の中で一人ごちる。
大丈夫だ。
あいつらに限って――とにかく、絶対大丈夫だ。
根拠なんか無かったがそう信じたかった。
でも、でももしも――自分の撃ったマシンガンンの音で、誰かが人のいる事に気付いて
近付いて来ていたら?
そいつがこのゲームに『乗る』気になっていたら?
それで、屋良達が遭遇していたら?
どくどくと心臓がうるさく跳ねた。
感覚の無くなった足で立とうとしたが、力も入らずがくんと硬い壁に肩を打った。
そのままへなへなと力なく座り込む。
お前らが無事じゃなきゃ、意味ねぇよ…!
今なら、神様でも仏様でも悪魔だって何だって信じてやるから。
頼むから、どっかでいつもみたく笑っててくれ。
祈るように、きつく目を閉じた。
5756:2001/04/27(金) 11:04
背後から銃声が聞こえたが振り返っている余裕は無い。
とりあえず今走れているのだから当たってはいない。
さて、この最悪な鬼ゴッコをどうするか。
いや、どこまで時間を稼げるか、か?
繁茂する草を掻き分け掻き分け進むものの、先頭を切る植村よりも後続の山下の方がはるかに速い。
距離を稼ぐには――武器だ。
ジグザグに走りながら背後に向けてダーツを投げる。
ガッ、と何かにぶつかる音がして、足音が止まった。
さっきまで歩きながら屋良とちょこちょこ遊んでいた『武器』だったが少しは役に
立ってくれたようだ。
安心する間も無く走り続けた。
すぐに後ろからもがさがさと足音が聞こえた。
また銃声。
大丈夫、当たってない。
まだ山下も銃の扱いに慣れていないはずだ(何人殺したかは知らないが)。
それにしても、山下は足が速い。
かわいい顔してやるじゃんか、と舌を巻きつつもひたすら走った。
少し広がったはずの距離はまた近付いていた。
もう一度ダーツを投げるが、今度は殆ど効果が無かったようだ。
もう無駄って事か。
右へ左へ、めちゃくちゃに――とにかく、屋良と高木のいる方向へ行かないように走りつづけた。
屋良はともかく高木まで、なんてお人よしな自分に苦笑する。
銃声がして、体ががくん、と傾いた。
左の膝あたりに激痛が走った。
――ミスッた。
思うと同時に、前のめりに倒れる。
ぱんぱん、と2発の銃声。
背中がひどく痛かった。
体からすぅっと力が抜ける。
死ぬ時って、今までの思い出が走馬灯のように、って言うけど、あれ嘘だわ。
だって、屋良やら高木やら尾身やらしか出て来ないもん。
おいおい、最後くらい絶世の美女を思い浮かばせてくんない?
お前らみたいな男くさいやつらなんか、ごめんだってば。

[ 植村良典死亡 残り 26人 ]
5857:2001/04/27(金) 11:05
「…痛〜…」
切り株に思い切り頭を打った上に、変な風に着地したから背中が痛い。
しかも、片耳のピアスが1個無い。
数メートル上の丘で、がさがさと藪を走る音と共に山下の明るい色の髪が見て取れた。
すぐにパン、と銃の音がした。
植村の足音も、山下の足音もすでに聞こえなくなっていた。
「植…!」
咄嗟にさっき転がって来たばかりの崖に手をかけるが到底上れそうに無い。
元いた場所に戻るには、かなり迂回をしなければならないようだ。
助けに行かなきゃ。
ちっくしょー、頭痛い背中痛い。
2連発を最後に、銃声はぴたりと止んだ。
植村の事だから、ちょこまかちょこまか上手い事逃げてるはず。
大丈夫な、はず。
治療費は弾ませて貰うからな。
屋良は、なだらかに上に伸びる坂道を必死に駆け上った。
5958:2001/04/27(金) 11:05
「んで、そん時俺がさー…」
目立たない木の陰に小さく座り込み、町田と向かい合う。
この状況に肉体的には勿論、精神的にもかなりまいってしまっている町田をなんとか
しようと、鈴木は必死に他愛も無い話(嘘や誇張もこの際見逃してくれ)を続けていた。
町田は、元気こそ無いものの時々にこりと笑ってくれるようになった。
「なぁ、これからどうする?」
話し続ける鈴木を遮って、町田が呟く。
京都で見つけたうまいスパゲティの店の地図を空に書いていた手がぴたり、と止まる。
「どうしよっか。ま、何とかなるべ?」
極力何でもない事のように、あっさりと言った。
町田もふっと表情を緩める。
「バッカだなぁ。」
「なんだよソレ。ムッカツク。んで、そこで一番美味いのはなー…」
鈴木はなおとりとめの無い話を続けようとする。
町田はまた木に寄りかかってそんな話に耳を傾ける。
突然ぴたり、と鈴木の動きが止まった。
「え?どしたの?」
「屋良――が。」
呆然と眼前に広がる茂みを見ていた。
慌ててそちらに目を向けたが町田はその姿を見る事が出来なかった。
あるのは鬱葱と生い茂る草木。
それらが、風とはまた違う様子で不自然に揺れていた。
「屋良?」
「今、そこ走ってった。」
神経質そうな長い指でその揺れる木々を示す。
「行こう!」
ばっ、と立ち上がった鈴木を、町田が制す。
「やめよう。ここにいればいいじゃん。」
「だって屋良だぞ?大丈夫だって、行こう。」
心配そうに町田を見下ろす。
早くしないと、屋良がどこかに行ってしまう。
「何でだよ!ここにいればいいじゃんか!」
突然、ヒステリックにそう叫ぶ。
町田のこんな表情は見た事が無かった。

6059:2001/04/27(金) 11:06
「何だよそれ、屋良が信じらんねーのかよ?」
苛立った鈴木に、町田はだまって俯く。
「何でだよ!今だって一緒に仕事してんだろ?」
まくしたてる鈴木にも、まだ黙ったまま応じない。
長い前髪で表情は読み取れないが、唇を強く噛んでいた。
「何とか言えよ!」
どうしてだよ?
俺ら、ずっとうまくやって来ただろ?
屋良だって、大野だって、原くんだって――とにかく、みんな。
バカみたいに笑ってやって来ただろ?
「…じゃあ…」
ぽつり、と消え入りそうな声で呟いた。
「一人で行けばいいだろ?俺なんか置いてさ。好きにすればいいだろ?」
ぽつりぽつりと呟く言葉に鈴木が形の良い眉をしかめる。
「バッカじゃねぇの?んな事出来る訳ねぇだろ!おら立てってば。」
ぐい、と町田の左手を引っ張る。
しかし腰に根が生えたように立とうとしない。
突然、その手が振り解かれた。
驚くほど強い力で町田が鈴木の腕を払ったのだ。
「殺されるかもしれないだろ!」
神経質に細くとがった声で鈴木を見据える。
何も言えなかった。
もしかしたら屋良は誰かから逃げているのかもしれない。
一人で心細いのかもしれない。
けれど――誰かを殺したのかも、しれない。
「俺は――俺は信じない。俺と、鈴木しか。」
町田は、支給された大型のナイフを自分の首筋に当てた。
――おいおい、何してんだよ。
冗談だろ?
昔の映画のヒロインかっつーの。
笑えねぇよ。
やめてくれ。
6160:2001/04/27(金) 11:07
「何だよそれ…意味わっかんねぇよ…」
変な調子に声が裏返ったけれど、そんな事どうでもいい。
「何?俺がどっか行くつったらお前死ぬ訳?」
鈴木の質問にも答えずに静かに対峙している。
緊迫した空気が肌に痛い位だ。
バッカだなぁ、普通脅す時は俺に向けるだろ。
「なぁ、それだけで死ぬ訳?そんな下らねー事で?」
あぁ、どうしてこんなに火に油を注ぐような言い方しか出来ないんだろう。
自分に苛立ちながら、少しでもまともな言葉を探そうと頭を働かす。
大体、生き残りたいから屋良に近付くなって言ってるのに何してるんだこいつは?
本当、人間ギリギリになると何をするのかわからない。
しかもギリギリだからこそ本気であるのでタチが悪い。
極限状態での人間の行動ほど予想のつかないものは無い。
焦る一方で、そんな事をぼうっと考えていた。
「はーやく、ソレ離せってば。な?」
おどけた調子で言葉を紡ぎ、素早く町田の腕を掴んだ。
話が通じなさそうな場合、実力行使しかないでしょう。
町田がそのナイフを守ろうと体を反転させる。
鈴木もそれに合わせて動き、町田の腕を離さない。
――もうちょっと、だ。
もうちょっとで取れる。
これ取り上げたらぜってー蹴りの一発や二発は入れさせてもらうからな。
不意に何かに蹴つまづき、寄りかかっていた木の裏側に滑る。
2人はもみ合ったままの状態できつめの傾斜を滑った。
62601:2001/04/27(金) 11:08
ぐるぐると視界が回る。
木の緑や地面の枯葉の茶色や見た事の無い甘ったるい花の赤がめちゃくちゃなマーブル模様を作った。
突然背中をしたたかに打つ。
急傾斜の途中に根を下ろしている大きな木の幹にぶつかったようだ。
ざく。
自分の腕からの妙な感触に町田ははっと顔を上げる。
指が、掌が、腕が、真っ赤に染まっていた。
「――え…?」
手にしていたはずのナイフは、鈴木の右下腹部に柄の少し手前までが深く深く刺さっていた。
鈴木の紺色のシャツがそこからじんわりと黒く染まっていく。
町田は、それを信じられない思いで見下ろしていた。
――何で。何で何で何で。
「バッ…カ。」
呆然と自分を見下ろす町田を苦笑まじりに見上げる。
あぁ、コイツ、本当にバカ。
まだパスタ屋の位置、教えてねぇじゃん。
お前は一人でメシ屋とか入れないタイプだろ?だから、一緒に行ってやろうと思ってたのに。
「ごめん――ごめん俺…!」
謝って済む問題かタコ。
すっげー痛ぇ。多分もう駄目だわ、俺。
途切れかける意識の中、ぼんやりとそんな事を思う。
不思議と恐怖は無かった。
むしろ、さっさとラクになりたい位だった。
ぽたぽた、と鈴木のシャツに雫が落ちる。
あー何泣いてんだよバカ。服が汚れるだろ。
――って、もう血塗れか。
どうせ泣かすんなら綺麗なオネエ様がいいな。
「…バァカ。…全っ然…痛…く、ねぇ」
殆ど感覚をなくした腕で町田の肩をこつん、と叩く。
言っても仕方無いけど、これだけは一応言っとく。
ちょっとだけ、あと一言だけ言わせてくれ。
「…まー…気にすんな?俺、一人じゃなくて良かったから。」
軽い調子で、けれど最後の言葉だけは真剣にそう言うと、にぃ、と唇の端を上げた。
ホント、一人じゃなくて良かったよ。
誰かに会えて――しかも、一番仲の良かったお前に会えて――良かった。
肩に触れた腕からかくん、と力が抜ける。
そして――鈴木は、もう動かなくなった。

[ 鈴木康則死亡 残り 25人 ]
6362:2001/04/27(金) 11:08
桜井頌は、山の麓の小さな小屋にいた。
そこは、禁止エリアぎりぎりの位置にあった。
禁止エリアを恐れているならば、こんな所には近付かないはずだと踏んだのだ。
朝からずっと、地図と名簿を広げ、頭をフルに稼動させ続けていた。
さっきまでは散々首輪を調べていたが、外れる様子は微塵も無い。
首輪の間にタオルを入れて脈拍の震動が伝わらないようにもしたが、無駄なようだった。
恐らく、こうしている間にも確実に死亡者は出ているだろう。
次の放送を聞くまではわからないが、すでに銃声らしき音を何発も聞いてきた。
ちらり、と端に置いた名簿の名前を見る。
マーカーで小さくチェックをつけたその名前の持ち主は、もうこの世に存在しない。
重く溜息をついて眼鏡(コンタクトはもう外して捨ててしまった)を上げる。
その時、背後の窓に人影が生まれた。
――誰だ?
息を殺して、そっと振り返る。
短髪の男の姿。
白のトレーナーを着ているようだが、誰だかまでは特定できない。
幸い、この小屋には地下室が付いている。
しかも、それは床に殆ど同化して見えないのだ。
手早く音を立てないように地図や名簿をまとめると、ゆっくりと移動をしてその扉を開ける。
中は勿論暗く、少しカビ臭い匂いがした。
外の足音は前方の扉に近付いてきた。
華奢な体小さくを折り畳み、狭い地下倉庫に身を隠す。
扉が開くと、足音は迷う事無く、倉庫のところまで進んでくる。
しかも、まっすぐに、だ。
――どうして。どうして、こんな所がわかるんだ?
びくり、と体を硬直させると、ドアはあっさりと開けられた
6463:2001/04/27(金) 11:09
「あ、頌くんっ」
降って来たのはヤリでも銃声でも爆弾でも無い、間の抜けた明るい声だった。
「お前――なんで…」
見上げる桜井の瞳には、高橋謙の姿が映っていた。

「へぇ。それでか。」
テーブルを挟んで向かい合い、なるほど、殺しの道具以外のものも支給されるのか、
と感心しながら謙のレーダーをいじる。
今映し出されている地域には、2つの点が点滅していた。
「直樹の事だから絶対こういう人気の無いトコに一人でいると思ってさ――ねぇ。」
不意に、真剣な眼差しを向ける。
「何とかならないかな、この状態」
真剣そのもの、と言った表情で桜井の目を覗き込む。
「何とかも何も状況把握すら出来てねぇよ」
吐き捨てるように言い放つと、ぽつりと呟く。
「最初は、スナッフムービーかと思ったんだけどな」
「スナッフ…?」
「殺人ビデオってヤツ。ま、大概が作り物だけどな」
きょとん、と首を傾げる謙にごく短い説明をする。
「まず本物の殺人だって点。なおかつ出演者が日本のアイドル?なわけだから相当な
値段でさばけると思うんだ。」
レーダーをいじっていた指をふ、と止める。
「な、コレ何?」
ピコンピコン、と画面が点滅を繰り返す。
表示されていた画面からニ回りほど広がった地図に変わった。
そして、ここからすこし離れた位置に、2つの点があった。
謙がはっと顔を上げる。
「誰か、近付いてきてる。2人。」
その言葉が終える前に、銃声が轟いた。
――近い。
「え――ってオイ!待てよ!危ないだろ!?」
「直樹と滝沢くんかもしれない!」
譲は、桜井の手の中から半ば強引にレーダーを奪うと短く叫び、ドアの外へ身を翻した。
「…あんのバッカ…!」
きゅ、と唇を噛むと、桜井もそれに続いた。
65ななしじゃにー:2001/04/27(金) 11:18
凄い量ですのね・・・
後でゆっくり読ませて頂きますわ。
66ななしじゃにー:2001/04/27(金) 11:45
続き気になる…(はまった)
67ななしじゃにー:2001/04/27(金) 11:54
これ、Jr板からの転載だそうですよ。>>65-66
68ユーは名無しネ:2001/04/27(金) 12:15
天災しないで…(泣)
69ユーは名無しネ:2001/04/27(金) 13:39
すっげーひま人。
70ななしじゃにー:2001/04/27(金) 14:12
sage
71ユーは名無しネ:2001/04/27(金) 16:34
読んでくダサい。
72ななしじゃにー:2001/04/27(金) 16:37
ユーは帰れ
73ななしじゃにー:2001/04/28(土) 06:03
読メ
74ななしじゃにー:2001/04/28(土) 06:17
面白いヨ
75ななしじゃにー:2001/04/28(土) 06:23
ユー氏ね。
76ななしじゃにー:2001/04/28(土) 13:38
読んデ
77ななしじゃにー:2001/04/29(日) 04:18
よめ
78ななしじゃにー:2001/04/29(日) 04:54
YOME!
79ななしじゃにー:2001/04/29(日) 04:54
盗撮写真へおいでやす(;´Д`)
更に追加しました。消されないうちにお早めに!
TOKIOの国分太一とaikoのプライベート盗撮写真を公開します。
約50枚あります。
下の手順に従って飛んでください。

1.書き込みの名前の欄に http://mokorikomo.2ch.net/ と入れる。(裏ドメイン名)

2.E-mail欄に「taichitoaiko」(鍵かっこなし)を入れます。

3.本文に、パスコードである「ご自分の生年月日(半角で・鍵カッコはなし)」
  例:1980年1月1日生まれの場合=19800101と入れて、書込みボタンを押します。

4.タイトルが「ようこそ 裏2ちゃんねるへ」に変わればばOK!

5.サーバーが重いと2chに戻ってくるけど、くじけずに何度も挑戦。
  うまく行くと、目的のページにつながります。

6.家庭の電話回線よりも、企業や学校の専用回線からの方がサーバートラフィックの
  都合上つながる確率が高いです。

(注意!)全て半角で入れること!!
       23:00〜06:00の間はつながり難いです!何度もトライ!
       http://mokorikomo.2ch.net/←は、裏ドメインの為「直リン」で飛んでも
       「サーバが見つかりません」になります。入り口は「表2ch」のCGIだけです

必ず「mokorikomo.2ch.net」スレッドから実行してください。
80ななしじゃにー:2001/04/29(日) 04:57
よめ!
81ななしじゃにー:2001/04/29(日) 05:26
おもしろいゾ
82ななしじゃにー:2001/04/29(日) 05:30
ホントだ・・・すごい画像だ・・・
太一君ったら・・・
83ななしじゃにー:2001/04/29(日) 05:51
よめ
84ななしじゃにー:2001/04/29(日) 06:03
面白い
85ななしじゃにー:2001/05/02(水) 10:57
86ななしじゃにー:2001/05/02(水) 11:13
コハラファンってほんとウザイね。
87ななしじゃにー:2001/05/08(火) 11:18
続きが気になるんですけど・・・。
88ななしじゃにー:2001/05/08(火) 13:55
私も気になるのですが。
89ななしじゃにー:2001/05/09(水) 01:31
90ななしじゃにー:2001/05/09(水) 09:49
私も続きが気になります。
91ななしじゃにー:2001/05/09(水) 09:53
オモロイです。
続ききぼーん!
92ななしじゃにー:2001/05/10(木) 14:02
早く続きを・・・。
93ななしじゃにー:2001/05/11(金) 11:38
戻ってきてー!!
94ななしじゃにー:2001/05/14(月) 15:49
>1さん
カムーバーックー!!
95ななしじゃにー:2001/05/15(火) 11:39
もう、戻ってきてはくれないの?
続き、キボーン。
96ななしじゃにー:2001/05/15(火) 12:02
これもホモ小説なの?
97ななしじゃにー:2001/05/15(火) 12:18
違うこれはホモ小説じゃないの。
辞めジュを偲ぶ小説なの。
98ななしじゃにー:2001/05/19(土) 00:56
続きを。
99ななしじゃにー:2001/05/19(土) 01:07
もともとJr板からの甜菜なので↓に移動してください
http://saki.2ch.net/test/read.cgi?bbs=jr&key=986468728&ls=50
100ななしじゃにー:2001/05/24(木) 09:04
おもしろい
101ななしじゃにー:2001/05/29(火) 09:02
BR
102ななしじゃにー
面白いのに。