解散風あおってあおられ 永田町神経戦
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050721-00000000-san-pol 挨拶は「ポスター作った?」/事務所用地確保
郵政民営化法案をめぐる攻防が続く中、多くの衆院議員は解散・総選挙に向け
半信半疑ながら走り出した。小泉純一郎首相は不成立なら解散に踏み切る構えを
示すが、参院では反対派揺さぶりの「解散カード」が効きにくく、成立のメドがなお
たたないからだ。こうした中、青木幹雄参院議員会長は反対派の急先鋒(せんぽう)
・綿貫民輔前衆院議長と二十日夜、会談し、互いの腹を探り合った。「吹き始めたら
止まらない」解散風は強まるのか。
「選挙用ポスターの写真、撮った?」
これが、最近の永田町のあいさつになった。自民党のある若手議員は「今月中に
新聞にチラシを入れる」、閣僚経験者も「選挙事務所用地をおさえた」と語る。
渋っていた与謝野馨政調会長も党本部でポスター用の写真を撮り、党幹部の一人
は後援会向けパンフレットを大量発注した。
「(解散の)声が大きくなると不安で準備をしかける。そうすると『もういいかげんに
やってくれ』という気持ちになりかねない」
野中広務元自民党幹事長は十七日の民放テレビで、「解散風」をこう解説した。
一人が準備を始めると、他の議員も浮足立って動きは加速する。ポスターもチラシも
選挙事務所もかなりの出費となるから、「カネがもたないから、早く解散してくれ」と
なりやすい。
「解散風」は、郵政法案が五日の衆院本会議で五票差で可決されてから吹き始めた。
ストッパー役の公明党も「首相が決断したら止められない」とあおった。
自民党の武部勤幹事長は、次期総選挙のマニフェスト(政権公約)づくりを指示。
三百選挙区のうち、二百六十四で公認予定者が決まり、さらに約二十の選挙区で
擁立を目指す。
問題は、造反議員の選挙区に新たな候補者を擁立できるかどうか。八月十三日
の会期末直前の衆院解散では、九月十一日投票が有力で、間に合わない。そこで、
いったん国会を閉幕し、改めて秋に臨時国会を開いて冒頭で解散、十月以降に
投票日を設定するという奇策もとりざたされる。
解散風をあおった形になった公明党も都議選に全力をあげたばかりで、本音は
反対だ。神崎武法代表は二十日、「自民党内の解散回避の動きを見守りたい」
としつつ、各党の動きに「気にならないことはない」と本音を漏らした。「公明党が
選挙準備を始めたら解散ムードが止まらなくなる」と警戒、本格準備に入れずに
いるからだ。ただ、東京21区の高木陽介氏ら新たに擁立を内定した選挙区候補
についてはゴーサインを出した。
一方、民主党にとっては政権交代のチャンス。だが、民主党は「廃案になれば
内閣総辞職が筋」(岡田克也代表)と、声高な解散要求は控えている。解散風を
あおると、自民党の反対派を萎縮(いしゅく)させかねないとの懸念があるためで、
総合選対本部の設置に二の足を踏んでいる。
しかし、実態は違う。執行部は、七−九月を選挙準備の集中行動期間と位置付け、
国会議員や公認予定者らにポスター張りや、企業・団体訪問を精力的に行うよう
文書で指示。既に二百五十八選挙区で公認予定者を内定、八月末までに残りの
選挙区を埋める方針。八月一日には公認予定者を対象に研修会を開く。
共産党は、七十選挙区で公認予定者を決定。全選挙区で候補を擁立した方針を
見直し、事実上の「野党共闘」も視野に置く。社民党も「衆院選闘争本部」を設置した。
解散風が吹く中、注目されたのが二十日夜の青木、綿貫両氏の会談だ。
綿貫氏は「過ぎたことは言わない。これからはあんたの番だ。頑張りなさい」と
エールを送ったが、青木氏が「参院は衆院に手を突っ込むことはしなかった」と
牽制(けんせい)すると、「私はいろいろ聞かれても『参院のことは分からない』と
言っている」と応じた。
「解散」をめぐる神経戦は採決ギリギリまで続きそうだ。
◇
《衆院の解散》憲法七条の「内閣の助言と承認」に基づき「天皇の国事行為」と
して行われるものと、内閣不信任決議案可決の際、「十日以内に衆議院が解散
されない限り、総辞職をしなければならない」との憲法六九条の規定に基づくものの
2種類ある。政府は19日、衆院解散について「新たに民意を問うことの要否を考慮
して、内閣がその政治的責任において決すべきもの」との見解を示した。民主党議員
の質問主意書に答えたものだが、「七条解散」は、内閣の政治的判断で断行できる
ことを正当化したものだ。
「七条解散」は現行憲法下で15回実施されているが、「天皇の政治利用に当たる」
との違憲論もあるほか、参院での法案否決を理由にした衆院解散には、「解散権の
乱用」との批判が与党内からも出たため、政府見解で正当性を強調、「伝家の宝刀」
を抜きやすくしたものとみられる。
(産経新聞) - 7月21日2時54分更新
901 :
国連な成しさん:05/07/22 07:24 ID:LkgVbetc
>>898-
>>900 いい記事ではないか。それだけに、産経を読む醍醐味は味わえないな。
参議院での郵政民営化は可決が確定的
政府に好意的なマスコミにはリーク済み
反政府の産経だけが蚊帳の外ってことですな。
基地外民主党は「幻の解散」になけなしの金使って自滅するわけだ
あと50年は自民党安定政権が続く。
皆様、おめでとうございます。
>>896 国民の命よりお家騒動収拾の方が大事だったと言ってるようにしか見えん。
904 :
国連な成しさん:05/07/22 11:03 ID:VY3wrMzs
荒らしのカキコミのぞいたら30スレもいってないような気がするけどどうだろう?
>>903 日本国や日本政府の悪口さえ言えれば
アスベストだろうが狂牛病だろうがなんでもありなのが
この新聞の特徴だな。
憲法を改正して、公共の利益のために発行禁止が
出来るようになった方がよい。
戻ってくる足音も、嬉しい報せには為り得ない。隠していた、いちばん弱い部分に触れられた。
自尊心の強い蓉子にとってこれほど大きな屈辱は外にないだろう。
私は張り詰めた糸を洋琴みたいに強く叩いてしまったのだから、それなりの結果は覚悟しなければならない。
硬い音を伴ってドアが開く。蓉子はさっきより少しだけ冷静に見えた。
微かに息を切らしている。どこかで泣いていたのだろうと思うのは、楽観的に過ぎる。
「…ごめん」
傍に寄るなり私の頬を張った。もう痛くない。それがあまりに悲しい。
お互い眼を逸らして初対面のように向き合って、時間が戻ることを願ってはみたけれど。詮無いこと。
「聖は被害者ではなかったの?」
平静を装っている。付き合いの長いせいで裏の表情も少しは読めた。
読んだくせに間違った答えを択ぶから私は馬鹿なのだろう。だから私は――
「蓉子を傷つけている」 「笑わせるわね」
「お願い、これを解いて。抵抗しないって約束する」
いまなら認められる。親友を救うためなら、一所に堕ちてもいい。
勘違いで非道いことをしたのだから、このくらいの償いは。
「関係ないわ。私は、あなたの傷つけ方を知っている」
「蓉子のことは嫌いじゃない」
「今更ね。けれど、それもどうでもいいことだわ」
眼の奥が冷たい。少なくとも親友を見る温度ではない。
「どうせ、すべて徒労に終わったもの」
生きている人間の温度でさえ、なかった。日が沈んで室内は色を落とした。
真っ暗な中で不安も感じないほどに。
「だから、残りを片付けて私の恋愛は終わりにするのよ」
蓉子は諦めていた。私は棄てられていた。恋愛……ああ、やっぱり。なのに、「もう遅い」と、それだけ。
「誰かが薔薇の館に入ってきたみたいね」
「蓉子! はやく、解いて…」
慌てた様子に噴き出す。何が可笑しいのか。
「あら、その格好も素敵よ?」
こんなところを見られたら私たちは戻れなくなってしまう。
それを疑繰る気もない。いまの状態は普通じゃないのだから。
「もう、止められないのよ」
階段を上る足音は確実に近づいてくる。足場なんてないのにちゃんと音は聞こえた。
「何を言って――」 息も続かない。
「入ってきたの、誰だと思う?」
…志摩子。
気づいているのに問った。自分がすべきこと。せずには居られないこと。
他人に傷つけられる前に自虐する蓉子は私よりも狡猾で、臆病だ。
だから最終的に傷つくのも棄てられるのも私のほうになる。
過去に戻れるかもしれないなんて幽かな希みは枷にしかならない。
「どういうこと…?」
「私はあなたを徹底的に傷つけたいだけ」
それが愛だと勘違いでもしたかのような言い分じゃないか。
「は…。この…っ」
言葉の代わりに視線を遣って私たちは疎通する。手に負えないのは自分も同じだった。
止められない。ようやく知るころには何もかも過去形になっている。蓉子が言ったことだ。
「失礼します」 「志摩子、入ってこないで」
「…お姉さま?」
声を追って扉のこちら側に来てしまった。
たとえ性的な匂いを知らなくても、察知くらいはできる。そこに間違いなく蓉子が付け入るだろう。
私にできるのは演じること。それと、騙すことくらい。
「あら、ここに志摩子を呼んだのは白薔薇さまではなくて?」
そういうことか、卑怯者。少なくとも私は罪悪感を持っていたのに。
「じゃあ私に会いに来たんだよね。見なかったことにして帰りなさい」
「その格好でお姉さまの振る舞いもないものだわ」
志摩子は私と蓉子を交互に見て理解を急いでいる。こんな矛盾をどう理解するのか興味深い。
自分の姉が縛られている状況で、信頼できるはずの二人から聴こえるのは朦朧とした齟齬。
「何の、冗談でしょう…?」
「冗談に見える? だとしたら大したのんびり屋さんね」
寧ろ私と蓉子に余裕が足りないんじゃないかと思う。
「出ていって。あなたは関わらないで」 「聖は面白いわね」
本当、正気なのはどちらなのか判らないほど。笑えない冗句だ。
「ごめんなさい、お姉さま。それは…できません」
「志摩子!」
怒鳴っても聞きはしなかった。私より融通が利かない。
「紅薔薇さま、これはどういうことでしょうか。白薔薇さまをすぐに解放なさってください」
そんなこと、頼んでいない。嬉しくなんかない。
「そうね。じゃあ、あなたと遊びましょうか」
逃げてって言ったのに。
「蓉子、やめて。志摩子は何もしていない」
「何もしていない、ということはないのよ。忘れられない限りはね」
それに忘れられなくしたのはあなたでしょう? と、蔑む。
蓉子が近づいても志摩子は退かない。この後に続くことくらい予想できるはずなのに。
解決できる鍵は今ここにはないから、犠牲者にもなれず被害者になるだけ。
「…言ったわよ? すべて徒労だって」
「無駄なことなんて、ない」
実際、私は悪しきものであれ蓉子に関わる感情を持つことができた。
無関心でなくなったのだから無駄じゃなかったということだ。
「だからといって、そのために無理を通そうとしなくてもいいものだわ」
「私より非日本人的だね」
効率ばかり求めて何になるのか。いっそ非人間的でさえある。
「疲れるのよ。誰だって苦しいのは厭なのではなくて?」
「生きることは苦しいことだって佛教が言ってたよ」
基督教も大して変わらない。
「あなたらしくない物言いね」
「蓉子が振ったんでしょ。…ああ、それとも逆だった?」
「……」
「叩いてくれればいいのに」
「悦ばせる気はないもの」
「…愛がない」 「愛しているわ」
「それが真実なら、私も愛を捧げるよ」
志摩子を前に、よく言えたものだ。
自分たちの言葉遊びに呆れている私を見て蓉子も笑みを消す。
「嘘は要らないの。あなたが愛しているのは志摩子でしょう?」
だから、ここに呼んだのか…。
「聖、どうしてほしい?」
そんなこと、訊かなくても解るだろう。
「…志摩子には何もしないで。ぜんぶ私が引き受ける」
「親切で訊いてあげているのよ」
正解のない問いだった。どう答えても大同小異。そのまま私の傷になって増幅する。
いちばん痛みが少ないのは、私が志摩子を傷つけるという選択、だろうか。
いまの蓉子は私以外を傷つける気はないはず。
はず…?
私は嘲った。酷い猿芝居だ。ただ諦めるという、それだけのための。
「…見られたからには、黙らせる」 「どうやって?」
だから暫定の正解はこうなる。
「私が、祥子にしたように」
「紅薔薇さまっ…!? 何を――」
小柄な志摩子が腕力で敵うはずもなく、いとも容易く羽交い絞めにされた。
「どうして、こんな…」
「お姉さまは黙殺するそうよ。可哀想にね」
私に発言権はない。たとえ何を言ったところで蓉子の享楽を手伝うことにしかならない。
いちばん大切な人を、私の分身を巻き込んでしまった。それを後悔するだけ。
「お姉さま!」
眼を背向けた。現実は怖い。
「いやっ!! お姉さま!」
助けを求める志摩子の視線から逃げる。
「お姉さま……」
感覚を殺して人形になって、その悲痛な出来事を窓枠に嵌め込む。
「そうね。『抵抗したらあなたのお姉さまが傷つくことになるわよ?』とでも言っておくわ」
「……」 馬鹿馬鹿しい。
「それとも『あなたのお姉さまが、あなたの辱められる姿を見たいそうよ』にする?」
志摩子は蓉子の腕に絡め取られて動かない。
「二人とも、いい顔をしているわね」
絶望の表情と、離人神経症の似せ物と。見比べて童女のように無邪気に笑った。
「どちらが似合っているかしら」
わざとらしく、こちらを見て合図する。
志摩子の身に降りかかる苦痛を考えると、蓉子の興を削ぐ言動はできない。
ならばせめて、私への希望を絶って憎悪に任せるほうが良い。
そうすることで志摩子を護れるのなら、裏切ることの罪くらい引き受けてやる。
「…志摩子、服を脱いで」
私からの命令に、祈るように眼を閉じた。神様なんてこの世界にはいない。
顔を覗き込む蓉子。佐藤聖という器はそれをどんな表情で見ているのだろうか。
「私は、お姉さまを信じます」
タイを解いて胸元を開けた。すぐ前の、闇の中で燦然と白い肌。
「そうだわ」
何に気づいたのか蓉子はぽんと手を叩く。
「ロザリオは?」
襟を引いてそこに無いことに気づいて尋ねた。
安直で、核心を衝いている。優等生はこういうところが器用で嫌らしい。
「答えないつもり?」
無論、志摩子は答えない。だからそれを見越して問いは私へと向かう。
「……」
接触した。いくら悔しがっても、ごまかしの延長上。
「…手首に」
それは、私と志摩子だけが共有していた過去だった。
「っ…!?」
悲鳴のように。応えても声なきものの声は届かない。
蓉子は茶番を眺めて冷笑を続ける。袖を捲っても、二人の絆を知ることもなく。
ロザリオを奪って…こともあろうに、姉妹の契りを交わす仕方で私の首にかけた。
「蓉子っ――!!」
「言っておあげなさいな」
そう囁いて私の肩に手をかける。救いを求める志摩子と視線が交わった。
どうすればいい? 枷を嵌められた私に何ができる?
すべての気分が萎えていく。立ち向かうことなんて出来はしないのだ。
これは夢から覚めるための儀式なのだから。
「お姉さま! お姉さまは私を捨てるんですか…!?」
志摩子!
私は、どう考えていいのかさえ、わからない。
「はっきりと、『あなたのことなんか好きじゃなかった』と、教えてあげるのよ」
咎のある私と出逢ってしまったから。分不相応なものを求めてしまったから。
そうしてただ蓉子の癒しだけが、他の誰も傷つけずに済む救いだったんじゃないか。
そんな嘘を信じて夢との境界が曖昧になる。厭だな…。
「妹になんて、しなければよかった」
自分でそう言ったのか言わなかったのかも記憶できなかった。
志摩子は表情を失くして自分から袖に手をかける。
制服を典雅に脱ぎ去る様相は、本来なら別の誰かの、たとえば祥子のものだった。
どこか霊的な舞のように魂を抜いてしまっている。
着ていたものを床に落として言いなりになっているのに気づいていないとも見えた。
「聖、あなたは志摩子とこういうことをしていたの?」
絶対に答えない。
「…そう。構わないけど」
下着姿に見惚れていることを隠そうとしても眼を離せなかった。
綺麗だ。蓉子に穢せるはずのない領域。
ただ私の言葉以外を受け容れないという信頼があるから。
背負うには重過ぎる。距離を誤ったら台無しになるのはわかっていた。
「子供っぽいわね」
志摩子への嘲笑にむしろ私のほうがカッとなる。
誰かに見せるためのものではない。私だけのものなのに。と、
蓉子の感覚と同期してしまって気が滅入る。罰って、そういうものだ。
「貧相だわ」
「っっ!!」
「あら、どうしてあなたが怒るの」
馬鹿な、逆上してどうするのか。私が怒っても喜ばせるだけだ。
「…べつに」
蓉子は志摩子と、唇を重ねることだけはしなかった。私はなるべく考えないようにしたかった。
「知っていて? あなたのお姉さまと祥子のこと」
乱れた呼吸は誰のものか、ふたつ。
胸をまさぐる蓉子の手に不快感を露わにする。それは、志摩子を苛んでいるということに直接する。
「……」
膝が震えていた。気持ちいいのだろうか。
繊細な指が下着の上から掠るように蠢いている。
二人の感覚が忌忌しい。蓉子の胸は背中に当たっているのだと思う。
「顔が赤いわ。お姉さまに見られるのはそんなに恥ずかしい?」
腰を引いて逃れようとしている志摩子の様子が、下腹部にお尻を押し付けて誘っているようにも見えた。
私を仲間外れにして眼の前で秘密を作っていることに焦燥を感じる。
躰が反応してしまうのは仕方ないと割り切ってもいい。それでも声を出さないのは意地なのだろう。
私なんかよりずっと強い子だから。辛辣な蓉子の指遣いにも頑なに耐えている。
それがどうしようもなく居た堪れない。
「こんなに濡らすなんて、思ったほど無垢ではないのね」
私を乱す嘘だということは解っていても目一杯突き刺さる。
「ほら、聖…よく見なさい。あなたの幻想なんて在りはしないのよ」
志摩子は眼を潤ませて私に縋った。どうにかしてあげたいけど、そんな力はない。
せいぜい気を紛らすくらいしか。
「…蓉子に対して、そう思うよ」
「……。手折ってしまおうかしら」
ぎゅっと強く摘んだ。反応してしまうことへの恥じらいに眼を逸らして返した。
蓉子は余裕綽綽で私を促す。志摩子を腕の中に抱いて、止まることなく指を進めていく。
「んっ…」
どうしようもない。
「……志摩子、我慢しなくていいよ。わかっているから」
だから私はもう一方の頬も差し出したのだ。
せめて右の頬を打たれても、何もせずにいられる程度には強くありたかったのに。
それでも妹だけは助けたかったからと、言い訳して。
「お姉さまっ……」
もう志摩子は耐えられそうになかった。執拗な愛撫から逃れられず、勝手に上り詰めてしまっていた。
私も顔を歪めた。
「志摩子!」
黙っているなんてできない。だって私と志摩子は人形じゃない、矛盾しているのが普通なんだから。
強く叫ぶ。たとえ失敗に終わったとしても。
「聖、あなたの声は届かないわ。距離が遠いもの」
どこまでも自嘲的に笑う。下着の中の指にぐっと力を入れたように見えた。
「あっ!?」
小さく短い悲鳴。躰の震えが止まらなくて、それでも蓉子は手を離してくれなくて、
私は置いていかれた。
「んんっっ!」
髪を振り乱して、爪先まで緊張させている。そのまま永く刻を止めたように動かない。
伝う涙を見た転瞬、私は合わせて虚脱感に漂った。
粗相したみたいに濡れていく内腿と白濁した蓉子の指先がひどく現実的で、
それは志摩子の生みたいなものを強く感じさせた。そんな幻想は懐いていなかったはずなのに、
すごく、厭だった。興醒めだと思った私の記憶を消したくなるくらい。
「ぅ…」
だから、志摩子を穢したのは私でしかなかった。
こんな感情を懐くなんて、どうかしている。妹に対してでもなければ、それ以上でもない。
「…はぁ……はぁ……」
振ら振らと喘がせながら、罪を受け容れた眼で私を見る。なのに悲鳴を上げることもできない。
見蕩れてしまって逃げられなかった。眼を見られたくなかったし、感情移入してほしくもなかった。
けれど志摩子はきっと私の心を読んでしまっただろう。
「お姉、さま………」
「…っ!」
顔を伏せた。何もかもが遅い。すべてが済んでいる。
悟られた。私が屈したことも棄てられたことも、それに纏わる情動も。
お姉さまなどと、呼ばせなければよかったのに。
「志摩子、いまでも聖のことが好き?」
「……」
「馬鹿ね」
蓉子は口の端を上げて志摩子の胸の先を捻った。
「ん…!!」
「物分かりの悪い子だわ。揃いも揃って、白というのは蛍光灯の白かしら?」
「蓉子、もういい……」
終わりにしてほしい。
「答えなさい」
「好きです…。大好きです! 私は…それでも私は、佐藤聖さまの妹ですから!」
涙でぐちゃぐちゃになって、声を絞り出すようにして言った。
「お姉さまと私だけが――」
駄駄をこねる子供の仕種は鏡像のように、普段は見えない自分を映す。
やめてほしい。こんな茶番は見たくない。
「っ…」
もういいから…志摩子……
それでも蓉子は感情を隠すことなく微笑んでいる。
嗚咽が已むまで、その微笑を眺めていた。ひとつの言葉もなかった。
「服を着て、帰っていいわ」
「……」
志摩子は床に落ちた服を拾い集めて、制服のポケットに手を入れた。
髪に隠れて表情が見えない。時折ぐすっと洟をすする音と
事後の乾いて湿った音。自分が生きていることを思い知らされて
私と同じように惨めさを感じている。そんなの解りたくなかった。
「ポケットティッシュが足りなければ貸してあげるけれど?」
追い討ちは届かない。それほど志摩子は遠くにいた。
後ろを向いて下着をつける。決して私を見たりしない。責めてもくれない。
リリアンの制服を纏って、せめて表面だけは無風に、覚束ない足どりが離れていった。
それきり何も残らない。
「…これで、満足した……?」
「ふふ、そうね。あなたの泣き顔を久しぶりに見られたもの」
「どうせ…嘘泣きだ」
誰にも伝わらないのだから、本当のことには幾許の意味もない。
「聖。殺したいくらい私が憎い?」
どうでもいい。色色のことが億劫で考えるのも倦んでいる。
意識にさえ、上らなかったのだから。――この枷を、簡単に解くことができるなんて。
「気が乗らない」
そうしてでも止めてくれると思っていたのに。と呟いて蓉子は泣いたように見えた。
私は聞かずにそこを離れた。
剣道部に入部はしたものの、すっかり孤立してしまっている。
ちさとさんとはお互いみっともないところを晒し合った間柄。だからそれなりには良い関係ではあるけれど、彼女が時々のため息を吐いているのは仕方ないだろう。
それでもそのため息はわたしにではなく、この状況に対してのようなので不安とか負い目は感じずに済んでいる。
はしたないとわかっているから誰も口にしないが、「支倉令」を剣道部への入部理由を挙げる部員は多いはずだ。剣道部以外の全てをわたしに向けている令ちゃんがわたし以外の生徒と親しくする唯一の場といえる剣道部。
そこにまでわたしが乗り込んできたのだから、硬く言えば既得権益の侵害、ぶっちゃけ言えば嫉妬。きついことで有名な剣道部に入部までする令ちゃんファンにそう思われるのは理不尽ではあるが仕方がない。
と、わたしは考えていた。
わたしが入部後、はじめて令ちゃんが部活に来た日までは。
部室兼更衣室でみんなは道着、わたしはジャージに着替えようとしていた。
剣道部は実績があり部員も多いので部室も広い。ベンチに真新しいスポーツバッグを置き、中からジャージを取り出そうとすると、令ちゃんがやってきた。
声をかけようかと思ったが今朝あんなことがあったし他の部員に対して示しがつかないだろうからと会釈だけすると、令ちゃんも目を閉じるだけの会釈を返してきた。
ちょっとだけ安心する。
令ちゃんはいまわたしがいるところからはちょっと離れた場所が定位置のよう。まあ今は近くに寄らないほうが良いだろう。
タイをゆるめてごそごそと制服を脱ぐ。ワンピースはこういうときちょっと大変だから頭が抜けると「ふぅっ」て声が出た。
でもその声は静寂に満ちた部室に違和感を響かせ、わたしを驚かせた。
そう、静寂。
制服というトンネルを抜けると、そこは異次元だった。
さっきまでの雑然とした空気は消えなにか張りつめたものがある。
その中心にいたのは同じように制服を脱ぎ下着姿になった令ちゃんだった。
勿論わたしは令ちゃんの下着姿なんてよく知ってる。お出かけの前とかコーディネイトを合わせるために一緒に着替えたりするし、家族旅行で温泉にいけばオールヌードだって見てる。
でも周りのみんなの反応。ほぼ全員何事もなく着替える振りをしながらチラチラ令ちゃんを見ている。
ちょっと待って。みんな間違ってる。
令ちゃんファンが多いのはわかる。でもここは女子高だ。いまさら同性の着替えを見てどうしようというのだ。
と思った次の瞬間。
令ちゃんはブラを取った。
長身のスレンダーな身体に不釣り合いな乳房。
張りがあってでも柔らかそうなそれはブラをたたみ制服の上に置く所為に合わせてふるふると揺れる。
誰か、でも一人ではないため息が上がる。
ぱんつ一枚でバッグにしゃがみ込む姿。そのなだらかな背中の線や膝でひしゃぐ胸の形。まるで少女が沐浴する印象派の絵画を思わせる。
ハッと気付くとみんな令ちゃんに釘付けになっている。
ちょっと待ってよ令ちゃん、そりゃ練習後にシャワーも使うし下着も替えるのは当たり前でしょうけど、ちょっとは隠すでしょ!それじゃ幼稚舎の子供と変わらないじゃない!
飛んでいって「見るなーっ!」とかしそうになったが、距離もあったし既にそのタイミングは逸していた。
何も隠そうとしないまま、令ちゃんは(今どき!)サラシを取り出し部長さんに声をかけた。部長さんはちらっと申し訳なさそうにわたしを見たが、令ちゃんにサラシを巻く手伝いをはじめた。
乳房の形を整えようと持ち上げると薄いピンク色の乳首がちょっとつんとする。その途端今度はゴクリッと息を飲む音が聞こえる。
部長さんが巻きはじめるとやはりきつめにするものなのか令ちゃんの苦しそうな吐息が漏れ、それに合わせ空気がざわつく。
でも令ちゃんはというと、そんな雰囲気に全く気づいていなかった。
サラシが胸を変形させながら覆い隠したところで部室を見回すと、頬を赤らめるもの、呼吸の荒いもの、肩を震わすもの、はては内股気味に両膝を付けて座り込むものまでいた。
その中心で令ちゃんは少女とも少年ともつかない美しい存在として立っていた。
そういえば道着に着替える令ちゃんを見たのは久しぶりだった。
剣道部では応援するだけだし、令ちゃんちでは自室で着替えているし。
そうかぁ。そういうことかぁ。
納得した。
憧れの黄薔薇様の裸体が見られサラシを巻くなんてショーを毎日観せられたら。
きついことで知られる剣道部員が多い理由はここにあったのだ。
妹の知らないところで天真爛漫な姉を視姦?で輪姦?していたことのうしろめたさ。そのことを妹に知られることでもう観られなくなるかも知れない無念さ。
わたしに対する感情、それは嫉妬とはまた違う感情だったのだ。
それにしても今までずっとみんなからそんな目で見られているのに!全然気づかないなんてもう、令ちゃんのバカ!
それなのに令ちゃんは道着と袴を身に付け、微笑みながら「みんな!遅いよ!」と激を飛ばしている。
まさに天然。わたしは少し目眩がした。
練習が終わるとやっぱりサラシ脱ぎショーとしゃわーショーがとり行われ、わたしはその日以来「そんなの姉妹の間では当たり前」とふるまうしかなくなってしまった。
といってもその後、わたしもついつい令ちゃんに目を奪われてしまい、最近では困ったことに部員達となま暖かい連帯感すら生まれつつある気がする。
しかし意地でも剣道部は辞められない。辞められない理由ができた。
少なくても、いつかわたしがサラシを巻く手伝いをする、その日まで。
それは三学期も半ばを過ぎ、三人の一年生達との新しい関係・・姉妹としての関係が充分深まった頃。
しばらくぶりに令様とお姉さまが薔薇の館にいらっしゃった。
窓からの日差しは久しぶりに暖かく、まるでお姉さま達が春を連れてきてくれた様な気がした。
そんな光の中での久しぶりのお茶会の時間。
仲睦まじくいるわたし達・・つぼみと妹達を見回して、お姉さまたちはにっこりと微笑まれ、後で私に倉庫からとある箱を持ってくるようにと言われた。
ガチャンっとカップとソーサーがぶつかる音がして、振りかえる。
志摩子さんが少し青ざめて、お姉さまを見つめていた。
その様子はこの場にはあまりに不釣り合いで、どうしたの、とかたずねることができなかった。
一年生達がカップを片付けている間に二階に持ってきた段ボール箱。
箱にかかれた日付は、、三年前。まだお姉さまが高等部に進まれる前のこと。
お姉さまはその日付を指でなぞられ、
「お姉さまがまだ一年生の頃の字なのね」
と微笑まれた。
そうして一年生達を一列に並ばせ、問われた。
「お姉さまが好き?」
「お姉さまの言われることに従える?」
「お姉さまの命なら何でも耐えられる?」
始めは不安げに、でも質問が重ねられる度頷きは力強くなる。目にも光が宿る。
そんな一年生達にお姉さまは満足そうに頷きを返し令様に視線を投げる。
令様は優しく微笑まれ、宣言される。
「江利子様達以来になるけれど、アンブゥトンプティスールの儀式を執り行います」
あの段ボール箱から取り出されたのはホーローびきの小判形の器が三つ。よく見るとそれぞれに紅黄白の薔薇が描かれている。
令様がそれをテーブルの上に間隔を置いて並べると、お姉さまはわたし達に間接的な命令をされた。
この儀式は二年生と一年生が三人づつ揃ったときに行われるもの。
縦割りになりがちな三色の薔薇を一つの花瓶に生けるためのもの。
プティスールは靴を脱ぎ、テーブルに上がり、それぞれの薔薇の器に用を足しなさい。
志摩子。祐巳。由乃。あなた達から妹達に命じるのです。
そんなこと命令できる筈がない。そんなことはありっこない。
でも、、志摩子さんが一歩前に歩んだ。そして乃梨子ちゃんにそのまま、命令した。
乃梨子ちゃんはそんな志摩子さんを見つめ返して、しばしその瞳に色んな光を浮かべたけれど。
微動だにしない志摩子さんから視線をはずし。
靴を脱いで椅子を踏み台にし。
テーブルの上に上がって白薔薇の器の上で。
スカートをたくし上げ膝まで下着をおろし。
両手で顔を覆って、しゃがんだ。
もうわたしと由乃さんには命令する必要はなかった。
残る二人は乃梨子さんのそんな姿を見て、お互いを見て、意を決した。
二人も同じようにテーブルに上がり、それぞれの薔薇の器の上にしゃがんだ。
気丈な二人は顔は隠さなかったが視線は誰とも合わせなかった。
「三人ともが出終わるまで終わらない。一人が出しても、残りの二人が出し終わるまでそのままよ。」
「そう、だからできるだけ恥ずかしくないように済ませたかったら三人同時にするといいよ。」
お姉さま達は妹達の正面に椅子を並べ、その特等席に座りながらそんな話をし出した。
わたし達も取り囲むように椅子を並べる。
ふと志摩子さんをみると、明らかに後悔の念を浮かべていたけれど、視線をそらそうとはしなかった。
そのうちわたしの妹が身体を震わせ始め、そのときが近づいていることがわかる。黄薔薇方も近い。
乃梨子ちゃんはもっと前から近づいていたみたいだったが、必死でこらえている。
「祐巳、回り込んで見てちょうだい」
「はい、、、三人とも、、ひくひくさせています。もうそろそろだと、、思います」
それを聞いて乃梨子ちゃんは手を顔から離し、となりの同級生の手を握った。
それを受けてまたとなりへと手は繋がれていって、三人も気持ちは一つとなった。
そして、ちょっと細かく刻まれた呼吸が続いて、誰かのあぁっという声がした後。
三人は同時に、異音と異臭と共に器を汚し始めた。
それはとても長い時間。
終わったかと思うとまだ続きをひり出し、その度にため息ともつかぬ声が漏れる。
いつも間にか、わたしもその一員でいるかのようにぎゅっと手を握りしめていた。
一年生を取り囲み、でお互いどんなものを晒したかわかるように、二年生が色やかたちを事細かに評価した。
令様がちり紙を手渡すとみんなでその拭き方まで評価し、テーブルから降りた一年生にも器の中身を確認させた。
そうして儀式は終わった。
「後始末はわたし達がしておくから、つぼみは妹達を。みんなよく頑張ってくれたわ」
そういってお姉さまと令様は器を持って階下へ降りてゆかれた。
窓は開け放たれ、まだ冷たい風が吹き込む。
そんな風から守るかのように、わたし達はそれぞれの妹を抱きしめる。
妹達は何も言わず、わたし達にただすがりついていた。
吹奏楽コンクールが近づいてる。
リリアンはお嬢さま学校なので楽器をたしなむ生徒もたくさん。
ということは吹奏楽についても生徒層が厚いということで、毎年上位入賞を果たしてる。
それに今年の部長はなかなかやり手ということで。
いつもの様にWHO's who。いつものデジカメを持って音楽堂に向かう。
既に合奏が始まっていてインタビューはできなかったけれど、練習の様子を蔦子さんが撮影していた。
この前のこともあって話しかけるのは恥ずかしいけれど、写真の提供をお願いしてみよう、なんて思っていると。
蔦子さんからこっちにやってきた。
「ごきげんよう。取材?」
「ごきげんよう。コンクールのことを部長さんにインタビューしたくて」
ちょっと蔦子さんの瞳が曇る。
「どうしたの」
「部長さんのとなりの子、見える?」
「あの同じフルートの子?部長さんのスール?」
「違うわ、一年生。ちなみに部長さんには妹はいらっしゃらない」
「部長さんって指導力ありそうなタイプなのに」
「きびし過ぎて妹のなり手がいなかったらしいわ。あの子もかなりしごかれてる」
楽器のことだからよくわからないけれどね、そういって蔦子さんは撮影を再開した。
一年生の真剣な表情。わたしも自分のデジカメで一枚撮ってみると、小さな電子音が響いて慌てて隠したりなんかして。
翌日の放課後。
新聞部に向かうと入り口には見覚えのある生徒、、あの一年生だ。
そしてわたしを見つけると、まっすぐ向かってきて、そして。
「昨日練習に来ておられましたが、すっ吹奏楽にご興味あるんですか!?」
「えっわたし?あ、昨日は取材でお邪魔したんだけど。うん、素敵だったよ」
「うっうれしいです!すすみませんがご一緒いただけませんか!?」
そういってわたしの腕を取ってどこかに連れて行こうとする。
ちょっと待って、何かご用?と聞いてみる、と。
「せっ先輩に対し大変失礼な事とわかっていますが、、私を『妹候補』にしてくれませんか?」
学年が異なる生徒が交わる機会といえばやっぱり部活動。だから同じ部に所属したことがきっかけになる姉妹が一番多いだだろう。
しかしそうでない姉妹も勿論いる。
しかし、新聞部と吹奏楽部。
片や一日中校内を歩き回るか部室にこもりっきり。
片や曜日を問わず長時間の練習か、演奏のため校外へ。
わたしのことが好きだけれど、新聞もすごく愛読しているけれど、でもそのことでずっと迷ってきたのだという。
でも昨日の練習中にわたしをみて決心したのだという。
部活動と妹、両立できるかどうか。
だから『妹候補』なんだって。
「おしかけちゃん、今日もやっぱりいないのね〜」
「お姉さま、おしかけちゃんなんてニックネームやめて下さい」
「じゃあ妹にするのね、するのね、するのね、」
「そんなのまだわかりませんよ。でもいい子です」
「私も練習を見てきたけれど真面目でいいじゃない〜もう一人のフルーティスト、部長さんでしょう?
「音楽に対して真剣な方だそうで、、、」
「うん、練習してた曲、二人だけのパートがあったけど、あのシゴきに耐えてるなんて偉いわぁ〜」
「あの子、部長さんの演奏が好きで尊敬しているんですって。指導はすごく厳しいけれど、緊張するけれど、あんな風に吹けたらって」
「そして『それに練習が厳しくてもその後お姉さまに会えれば平気です!』とか口説かれてるんでしょ〜」
「えっ、やっ、そっ、そんなことは!」
「じっくりと考えなさい、どちらにとっても大事なことだから」
突然ぼそっと。お姉さまは下目使いにわたしを見ながら言った。
そろそろ部長さんにインタビューをさせていただこうと今日は私も吹奏楽部へ向かう。
練習が終わる頃がアポイントの時間。そのちょっと前に部室をノックすると、待っていたのはあの一年生だけだった。
部長さんはちょっとご用があるとかで、しばらく二人で待つことにした。
でも「ちょっと探してきます」って一年生は出て行ってしばらくして戻ってくるとメモを一枚。
「申し訳ありませんが急用で帰ります」って。ご自分と一年生と私の机にそんなメモを残されていたそう。
あぁ、残念、って席を立ったそのとき。
すぐ後ろでガシャン、ガタガタって大きな音がして。
大小の楽器ケースが、崩れて落ちた。
わたしが、、大事な楽器を落としてしまった?
ちょっと呆然としたけれど、すぐにその場にいる部員(一年生)に謝って、壊れたものがないか確認する。
殆どの楽器はケースの中で大丈夫だったけれど、落ちた弾みで一つだけ開いてしまったものがあって。
それは、部長さんの大切なフルート。
そして、それはいくつかキーが壊れていた。
一年生の顔色が青ざめている。
すぐ部長さんに事情を説明して謝りたいといったけれど、一年生はフルートをケースにしまいながら時間が時間なので私から電話してみますと言い。
明日改めて謝罪することにした。
翌朝、部長さんの教室に向かい謝罪しようとしたけれど。
部長さんは私に取り合おうとせず、冷ややかに私を見て言った。
「昨日は失礼したわ。今日の練習後、〜時に音楽堂に来てちょうだい。」
もう殆どの生徒が帰宅した頃。
ひっそりとした音楽堂に入る。
既にステージ前に部長さんが来ておられる。
そちらの方に向かうと、最前列の席の向こう。扉の位置からは見えないところに。
あの一年生がいた。
壊れたフルートを前にして。
一糸まとわぬ姿で。
額を床にこすりつけるようにして。
土下座させられていた。
「何をさせているんです!」
「この子が大切な楽器達を粗末に扱ったので指導しているだけよ」
「それは私が席を立ったはずみで、、」
「この子は自分でやったって言ってるわ」
高価で大切な楽器のある部室を部外者だけにし、その部外者によって引き起こされたこの不始末。
しかもコンクールを直前に控えたこの時期、フルートの修理はどうせもう間に合わない。
この子の軽率さはもうどうしようもない。
そういって一年生の側にたたまれた制服などを蹴飛ばした。
「だからもう合奏のパートは止めましょう」
「っ、それだけは!一緒に演奏させてください!」
「あなたはわたし達の信頼を傷つけたのよ!それでもそんなことが言えるの!」
部長さんは一年生の頭を靴で踏みつけ始めたが、一年生の口からは謝罪の言葉が続くだけ。
そして駆け寄ろうとしたわたしを部長さんは目で制した。
「この子あなたの妹候補ですってね。あなたはこの子のために何かできるの?同じ様に土下座できるの?出なければこの子を見捨ててすぐここから出て行きなさい!」
そう言って部長さんは今度は革のベルトを手にした。
「どうするの?」
「ムチャクチャです!」
その瞬間、鞭の音と悲鳴、そして一年生の背中から腰に赤い線が走った。
「止めてください!」
「だってこの子は私とのパートを演奏したいって言ってるのよ。そのためには贖罪が必要でしょう」
「だからといってこんなこと!」
「これに耐えられないような子とは組めないわ」
そして、悲鳴。今度はお尻に赤い線ができる。
「まだいるつもり?あなたはこの子の姉なの?姉ならどうやって償うつもり?どうするの、どうするの?」
三度目の悲鳴。
「止めてください!」
「そう、もう止めた方が良いわね」
部長さんでも一年生でもわたしでもない声が響く。それはステージ横の入り口に立つお姉さまの声。
「お姉さま!」
「余り痛そうなのは苦手なのよね。おしかけちゃんはどうか知らないけど、私の妹にはそんなことはして欲しくないし」
「えっ、、わたし?おしかけちゃん、って?」
「部長さんの目標はあなた、そしてその先にいる私。部長さん、あなたが欲しかったのはこれでしょう?」
そう言ってお姉さまは伝票のコピーの束を取り出した。学園の出入業者の社名が読み取れる。
最初からわかっていました。ぜんぶわかっていて部長の言いなりになっていたんです。
フルートへの想いなら誰にも負けないということ。
そして・・・こんな風にしか人を愛せないということ。
私はそれでも、部長にならどんなことも許します、なんでもできます。部長のことが好きなんです。
三奈子様、お許し下さい。部長を許して下さい。
「部長、あなたの思いはちゃんと届いていたのよ。せめて卒業までの間、ちゃんと『お姉さま』て呼ばせてあげなさい」
それと償いはちゃんとできるわよね、ってお姉さまは一年生を部長の元へぽんと送り出されて、またステージ横から出てゆかれた。
わたしも、部長が一年生を抱きしめる横をすり抜けて、後に続く。
「でも、修理費の架空請求とか、あのままで良かったんでしょうか」
「ずいぶん前に園長に報告済み。でも、実は私も部長のフルートに惚れ込んでいたから。」
一年生の頃、木立のなかでお一人で練習されているのを聴いて以来だという。
だから処分を待っていただいてたのよ、とおっしゃった。
「それに調達したお金は新しい楽器を買うためだったしね」
吹奏楽ってね、人数が必要な上に楽器のメンテナンスにとってもお金がかかる。だから活動が優秀でも部員が増えた分の楽器を調達するのは難しい。
「自前で買う生徒もいるんじゃ、、」
「お嬢様のお稽古事には向かない楽器もあるしね。でもそういうパートもいるからこそ我が校の吹奏楽部はすばらしいのよ」
その言葉はまるでリリアンのなかのお姉さまのことのように思えた。
「ところで部長さんって、いじめたり、とかそういう、、人だったんですね」
「フルートとか会計操作とか上手いのに愛し方はね。でも好きになったのが一年生だなんて不器用にもなっちゃうかも。」
誰だって好きな人には不器用なところがあるものよ
ほらわたしも〜わたしも〜ぶきようなの〜
そういって抱きついてくるお姉さま。そして耳元で。
ごめんね。また、私の過去のことに巻き込んでしまって、ごめんね。
コンクールでの二人のパートは素晴らしかった。
その演奏中のツーショットが一面を飾ったことはいうまでもない。
祐巳とみきが向かうのは小さな社。
普通に授業が行われているはずの平日。
二人は学園を遠く離れた山梨の山中を歩いている。
振り返ればまだ木々の間から二人で乗ってきた車が見える。
国道の何もないところで路肩に停めてここまで上がってきたのだ。
毎年のことだが、祐巳にとって今年は特に憂鬱だ。
「お母さん、今年は取りやめるってことはできないよね」
「体調、悪いの?」
「そんなことはないけれど」
「巳年じゃないからそんなに畏まらなくていいから。生理とか大丈夫なんでしょ」
ちょっと前に終わったところって何度も言ってるのに。
でも始まってまだ周期が不順な頃。
初等部にいながら敢て産婦人科でピルを処方してもらったことすらある。
みきはごめんねと何度も謝って、それでも服用を続けさせた。
無言でもう少し山道を登ると今年も同じ光景が二人を迎えた。
小さな社。しかし外観も中も綺麗に掃除されている。
それはこの日のためだけでなく普段からきちんと管理されている証。
岩壁からわき出す清水が手水の代り。
手を洗い口を濯ぎ少しばかり頭と身体にも飛ばすように濡らす。
髪とコートでころころと光を浴びた水滴が転がる。
そうして身を清めてから社に入る。
社に入り二人は全ての着衣を脱ぐ。
「あ、ロザリオをかけたままだった」
大丈夫かなと母の方へふりむくと、すぐ側にもう母の白い肌があって驚く。
「大丈夫。それより今年もリボンをはずすの忘れているわよ」
薄暗い社、幼い裸体に寄り添うやわらかな大人の裸体。
祐巳の髪はおろされてゆく。
既に儀式を施した装束に着替える。
真っ白な衣に緋色の袴。
糊は利かせていないがよく火のしされている。
街中の神社で正月にみるようなものよりもっと質素な印象を受ける。
そうして二人は祭壇に向かい正座する。
それは小さな社にしても余りに簡素な祭壇。
なにせ白木の台の上に神鏡と神楽鈴があるだけ。
みきはその鈴を手にし後ろに下がる。
強く、弱く。強く、弱く。小気味よく鳴らし始める。
そのうちに鈴の音に日本語であるようでないようなつぶやきが混ざり始める。
祝部の家だけに伝わる祝詞。
口伝ではあるが毎年聞かされているうち祐巳も途中までは覚えてしまっている。
いつの間にか祐巳の体温が上がり肌が総毛立っている。
身体が火照りだし、祭事の始まりを知る。
膝を開き、袴の脇から手を股間へと差し込む。
膣口に指が届く前に粘液が溢れている感触が伝わる。
その粘液を人差し指、中指、薬指で掬って陰核に塗り込めながら身体を後ろに倒してゆく。
視界にはないが頭上斜め上からみきの祝詞が聞こえる。
母の見ている前でと思いながらもう我慢はできず包皮と陰核をこすり始める。
神を乙女に降ろしその身体を奉納する。自涜ではない。
毎年この時期に繰り返される神事はこうして始まる。
母から語られたことはないがおそらく赤ん坊の時からなんだろう。
少なくとも物心ついた頃にはもう行っていた。
幼い頃は母に背中から抱きしめられながら、母の指で。
その頃は繰り返される祝詞がなんだか恐ろしくて、でもものすごく気持ちよくて。
そのうち自意識が成立し出す頃に祝部の役目を教わり。
一人で、自分の指でするようになった。
いつの間にか仰向けだった姿勢はうつぶせになっていた。
頬は床に着け、涎で汚れている。
尻を持ち上げ、両手は袴の中に。
右手の指で陰核を擦りながら左手の指で膣口を弄ぶ。
膣口の指を激しく動かすたび、袴越しなのにびちゃびちゃと音をたてる。
その音は、毎年のことなんだ、と開き直るには恥ずかしすぎる。
粘液の量と濃さを増しているようだ。
みきの声も震えがちになる。
祝詞はみきの身体にも耐え難い影響を与えている。
みきももう袴の上まで愛液が浸みてくるほど濡れている。
祐巳が生まれるまではみきが巫であったし今では男との愉悦も知っている。
しかし詠唱を止めるわけにもいかないし、処女以外が身体を奉納するわけにはいかない。
我が子の狂乱を前に自らの中の淫蛇を必死で押さえ込む。
これは、マズイ。
意識を失いそうなほどの快楽の中で祐巳は動揺を覚える。
いつも神に身を任せ、母の前であることすら忘れて、ひたすら悦楽に浸る。
それはぽっかりと白く何もない無限大の空間のような快楽。
白い光が毛穴に至るまで穴という穴全てに入り込みみたされてゆくような感覚。
しかし今年は・・・どうしても祥子という具体的な対象が現れてしまうのだ。
白い光のようなものがいつのまにか祥子の姿にすり変わってしまう。
このままでは神事はどうなってしまうのか、祐巳には予想も付かない。
焦りの中で指使いが激しさを増してしまう。嬌声が大きくなる。
指をもっと沈めてしまいそうにそうになる。
そんなにしてもなお、祥子の存在がふくれあがってゆく。
マズイ、マズイ、マズイ!
今までになかった快感と未体験の恐怖が同時に押し寄せてくる。
ダメだ、ちゃんと神様が降りてこられないよぉっ!
!
みきの裂帛。
同時に祐巳は甲高い声と共に絶頂を迎え、意識は白い世界に飛んだ。
祐巳が意識を取り戻すと涙と鼻水が止まらなくてぐずぐずになっていた。
失禁もしてしおり袴が愛液と小水でぐしゃぐしゃだった。
まだ股間に火照りがあるのを感じながら半身を起こす。
みきは神鏡を手に祐巳を守るように寄り添っていた。
「そうだ!お母さん!」
「大丈夫。強い力がかかる巳年だったらダメだったかもしれないけれど」
「・・・よかった、、どうなるかと思った、、」
「御神鏡が常世の国との間のフィルターになってくれたから。ほら見て」
神鏡の曇りを示す。
何かをかたどっているように見える。
「この影、祐巳の部屋に飾ってあるお姉様の影に見えない?」
「そそそそそんなことない、ない!」
必死で否定する祐巳から視線をはずし、みきはもう一度神鏡の曇りを見て思う。
来年のためになにかしなきゃいけないかしら。
それにしても。
親子だと、、好みも似てくるのかしら。
「はやく襲ってくれないかなぁ」
お茶を飲むタイミングでそんなことをいうからむせてしまった。
薔薇の館二階。今日はまだわたしと由乃さんの二人きり。
咳が止まらない私の背中をさすりながら、でも話は終わらなかった。
「当選おめでとうってえっちするのは変だし、でもバレンタインには絶対だと思ったのにな」
「よ、由乃さん、わたしたちまだ高こ…」
「だって手術していつでも受け止められる身体になったのに。このままだと卒業式の準備が始まって春休みになっちゃうわ」
由乃さんの話はどんどんエスカレートしていって。
要は令さまと由乃さんの間ではなんとなく同意ができているけれど、やはり令さまが身体を気遣ってお手を付けられない、ということらしい。
でもこれは由乃さんの希望的観測、それは令さまが由乃さんのことをプラトニックに愛されているのだからこそ。
でもまだ由乃さんの話はまだ終わらない。
それどころか次第に内容が犯罪めいてきた…しかもわたしを共犯者にしようとしている…これはヤバい。
と同時にひとつアイデアが浮かぶ。
「由乃さん、ストップストップ」
「なによ、今更おじけついたのっ」
今更…あわわ
「わたしそんなことは出来ないよ、でも縁結びならできるかも」
「もうその段階は終わったんだ!」
「それ違う違う。とにかく今度のお休み、由乃さんのお部屋とかに令さまをお誘いできるかな」
『もちろん、ご家族のいない時、だよ』
今年の儀式は不安が的中してしまい、ついお姉さまを思い浮かべて失敗するところだった。
その反省もあってあの祝詞について祐巳なりに調べていたところだった。
内容や音韻を分析し実際に自分だけでも試しても見た。
あの祭事は神鏡を通して常世の国から神の一部だけ巫の身体に降ろし、慰めるもの。
そのために富士から流れる力が強く澱む場所に社を建て神鏡を置き一年間その力を蓄積する。
全てが揃わなければ、祝詞だけでは神は呼べない。
逆に言えば、祝詞だけ唱えても問題はない可能性が高い。
ただえっちな気持ちになるのを除けば。
次のお休み、令さまの部屋。
しばし三人でこたつにあたりお話ししながらぬくぬくする。
やっぱり令さまのお菓子とお茶はおいしい。
と思ってもうひとつクッキーを取ろうとすると、つり目になった由乃さんと目が合う。
(祐巳さん、なにやってるのよ〜)
(う〜ん、ではそろそろ)
ごそごそしていると令さまが「おや」って。
「懐かしいね、幼稚舎の時のものだよね?」
それは鈴。納屋から探してきた、プラスチックの輪っかに鈴が八つついたもの。
マジックで『ふくざわゆみ』って書いてある。
私の時と同じ型だね、合奏とかお遊戯とかしたよね、って令さまは懐かしそうにされて。
(なんなのよいったい〜)って由乃さんはつり目+ふくれ顔になって。
わたしはこたつを出て、目を閉じ、二人に鈴を鳴らし始める。
強く、弱く。強く、弱く。
二人は何が始まったかわからずとまどっていたけれど。
口の中だけで含むように詠唱を始めると、途端に動きが止まってしまった。
二人は愛し合っている。
それならちょっとお互いの背を押してあげればいい。
その気持ちを解放すればよい。
由乃さんが令さまを襲っちゃうかもしれないけれど。
まぁそれはそれでいいや。
薄目を開けると、二人は耳まで真っ赤にしながら腰をもじもじしている。
感じ始めているんだ…よしもう一押し。
鈴にいっそう気を配ながら詠唱を続ける。
ぱたっばさっておこたのふとんの音。続いてがさがさって衣擦れの音がステレオで聞こえてくる。
は、始まるのかな、遂に。
いつの間にかわたしも身体が熱くなって来ている。
そろそろおいとましなきゃ、でもなんだか見てみたい気もする…どうしよう…。
突然急に両手首に感触があって、同時にカーペットに押し倒される。
びっくりして見回すと逆光のなかに二人の優しい微笑みがあった。
右手首を押さえているのは下着姿の由乃さん。
左手首を押さえているのはショーツだけになられた令さま。
「令ちゃん、好きよ」
「私も由乃のことが好き」
「でも、祐巳さんってかわいい」
「かわいいね」
「一緒だったら浮気じゃないよね」
そんなことない!ない!だめだめ!
「そうだね、由乃。ふたりでなら浮気じゃないよね」
きゃ〜〜!だめ〜〜!
力が入らなくなっているわたしは易々と令さまに組み伏せられて。
お互いのファーストキスだからって唇へのキスだけは必死に拒んだけれど、耳や胸や首や脇、感じてしまうところは全て愛されてしまう。
上半身は令さまになら下半身は由乃さん。
内ももにたっぷりと舌を這わされ焦らされた挙げ句、舌がちろちろと動かされる。
そのうちに舌の動きを止めないまま鼻でクリトリスまで刺激され始める。
祝詞によって発現した二人の思いはお互いにでなく巫体質のわたしに向かってしまったのだった。
それどころかふたりの深い絆は共同戦線となりわたしを責め苛む方向へと。
そんな、そんな、そんなぁ〜
何度目かの絶頂の後気がつくと、わたしにからみついているのは由乃さんだけになっていた。
わたしの耳を甘かみしながら指で乳首を転がしている。
何か令さまと話しているけれど、令さまの声は由乃さんの耳元でささやくような声にかき消されて。
「…祐巳ちゃんに…」
「うん、賛成」
「…由乃にするときの練習……」
「えへへ、そのときはわたしも、令ちゃんに、、」
「…そのときは、よろし…」
そして場違いなモーター音がし始めて、クリトリスに衝撃が起こる。
「あぁっあーーーっ!」
「えへへーー祐巳さん、びっくりした?」
「いつか由乃に使おうって思って色々おもちゃを買ってあるんだ」
「わたしこわいから先に祐巳さんで試させてね」
「もちろん絶対傷つけるようなことはしないからね」
令さまのコレクションはたくさんあって。
由乃さんのことをどれだけ愛しているかわかるぐらい、本当にたくさんあって。
そのことを二人は延々わたしの身体で確認しあったのだった。
『由乃さんのことをプラトニックに愛されているのだから』なんて。
そう思ってたのに、そう信じてたのに…。
令さまっ、とっ、由乃さっんっ、の、バカーーーーー!
そうして薔薇の館。
わたしの正面にはお姉さま。
左右には…ベンチシートの様に椅子をくっ付けて、令さまと由乃さんが座っている。
令さまはほおづえをつきながら書類を書くわたしの手と頬とうなじをかわるがわる眺めている。
そして由乃さんはわたしの肩にほおを乗せるようにして寄り添っている。
この異様な雰囲気に志摩子さんは離れたところに座って。
こちらを見ないようにして書類を広げている。
人間相手では強すぎたらしい…力が地脈に還るまで、もう少しかかりそうだなぁ…。
ピシッと音がして、恐る恐る正面Wを見てみると。
お姉さまの手の中のボールペンが握りつぶされていた。
「『少女くノ一忍法帖』」
「へっ」
「それじゃ『淫乱女忍者祐巳』」
「ひっひどいよ由乃さん、それじゃゲドマガだよ。まだ山田風太郎の方が。」
「とにかくまた、しゃんしゃんしゃんってすればいいじゃないの、祐巳さん」
どうも由乃さんはあの祝詞を忍法+密教とか+立川流とか考えているらしいけど。
でも儀式のことを話すのは恥ずかしいから否定しないでおく。
ロサギガンティアと志摩子さん。
卒業の日はどんどん近づいて来るのに、あの二人を見ていると歯がゆくて、切なくて。
特殊な姉妹だってわかっているけれど、このままでいいなんて思えない。
例えば、最後に志摩子さんから妹らしく甘えられて来たら、きっとロサギガンティアも安心なさるに違いない。
二人にはたくさん優しくしていただいて、助けていただいたから。
だから由乃さんに相談したのにこんな話に。
「『ロサギガンティアにはもっとお姉さまらしいことをしていただいて』って祥子様もおっしゃっていたでしょ」
「ああいうことは普通の姉妹がすることじゃないよ」
「言ってくれたわね。でもロサギガンティアも普通じゃないでしょ」
「なおさらだよ。あのセクハラが何倍にもなってこの身に返ってくるかと思うと…」
思わず涙目になる
「大丈夫よ、私達がついてる」
「今涙目なのはあの時由乃さん達にされたことを思い出したからだよ!」
「まぁまぁ」
そういって由乃さんは鍵を一つ差し出した。
由乃さんの作戦。
薔薇の館二階に二人を呼び出して、扉に鍵をかけて閉じ込めてしまう。
そして廊下から忍法(違う)をかけて仲良く(違う)させて、疲れて静かになったら鍵を開けて逃げる。
ロサギガンティアと志摩子さんの本意ではないかもしれないけれど。
でも由乃さんの言うと折り、私に出来ることといえばこれぐらいしかない。
マリア様、お許しください。
「令ちゃんと一緒に手伝おうか?」
「わたしが逃げられなくなるからいい」
チッと舌打ち、おいおい。
実行前に白薔薇姉妹の他がちゃんと帰宅したことを確認しとかなきゃ。
そして実行予定の日。
由乃さんはヒジョ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜に残念そうだったけれど、人払いを手伝ってくれた。
薔薇の館は三人きり。
そして二階会議室に残るは白薔薇姉妹のみ。
わたしはその扉の外。
抱きつきを必死に剥がして、何とか理由をつけてひとりで出てきた。
鍵と鈴を取り出し、一度深呼吸してから、鍵をかける。
古い鍵だからガチャリという音は結構大きく響いて。
扉の内側から、祐巳ちゃん?って問いかけがあったけれど。
答えず、鈴を鳴らし始める。
強く、弱く。強く、弱く。
わたしが何かやってるみたいって二人の会話が小さく聞こえて、そしてこちらへ向かう足音が続く。
詠唱を開始する。
会話と足音が同時に止まる。
黄薔薇姉妹での失敗は繰り返さない。
扉の向こうは見えないからその分どんな気配も逃さぬよう感覚を研ぎ澄ます。
わたしを求めて、複数の引きずるような音が扉に近づいてくる。
でもわたしは鍵のかかった扉の向こう。
その扉の前でわたしを得られない二人はお互いを求め合うだろう。
もう下着が濡れてむずがゆい。
この状態で、麗しいロサギガンティアと美しいブゥトンの囁きと睦言を聞かされて。
敬愛している先輩と親友のこれからの行為を扉一枚隔てて、最後まで見守ることなんてわたしに出来るの?
ドン!と扉に体を預ける音、そして……鍵穴に何か入る音。
慌ててわたしは階段を駆け降りる。
予想していなかった訳じゃない。
薔薇様なら合い鍵を持っていてもおかしくないから、そんなときはすぐ逃げる。
だけど、丁度踊り場まで来たところで。
それは始まった。
うろるろろろろぉぉぉ、、、、
人でも獣でもない声。
断じて音ではなくて有機的な存在が放つ声。
その声の含むもの悲しさと優しさ。同時に含む暴力と恐怖。
足が動かない。怖い。
鍵を開けようとする音に混ざって、待ちきれずにドン!ドン!ドン!と何度も扉をたたく音がする。
何とか階段を降りようと手摺りにつかまった瞬間、扉が開け放たれた音がして。
もの凄い早さで、黒い固まりが二階から館の出口まで飛び降りた。
ごふ、ごふ、ごふ、ごふ、、、
うぉ、うぉぉろろろろぉぉぉ、、、、
最初にみせた跳躍にふさわしくない、いびつな歩みをでもってわたしの方へ近づいてくる。
そうか、四足歩行に適さない身体で四つ足で歩こうとするから…。
背中から抱きしめられる。
ロサギガンティアだ。
「志摩子はね、とても欲張りなんだ。」
得られないなら、失ってしまうなら最初から欲しがらない、我慢して押さえ込んでしまうんだ。
何か才能もあったのかそうしているうちに、いつの間にか身体の中にこんな獣を飼っていた。
私しか知らない志摩子の獣を、どうやったのか祐巳ちゃんが引きずり出した。
祐巳ちゃん……祥子のためにも、ファーストキスと処女だけは守ってあげる。
しばらく我慢してね。
ロサギガンティアは背中から伸ばした手でわたしのタイをほどいた。
志摩子さんはもうわたしの足下にいる。
前足は手に戻って制服をたくし上げ始める。
ふと顔を挙げ私と目が合うと、やさしい目、やさしい微笑みを浮かべたのでちょっと安堵する。
でも唇が開いて、そこから細くて長くて濡れて光る舌がだらんと下がって。
バッとわたしのスカートに頭を突っ込み、下着の中、そして身体の中に何かが潜り込み始める。
それが膣だと気付いたときにわたしは絶叫を押さえられなかった。
しかしそれは躊躇などせず、入っては戻りを繰り返しながらもっと深いところを目指す。
指も入れたことがなかったところにみっしりと入りこみ、まるで外とおなかの中がつながったように感じる。
そのおなかの中をかき回されて声が止まらなくなる。
そのうちそれはずるずると引き出され、その間中声が裏返ってしまう。
でもその声は今度は尿道に入ってくる感触に失われ、ただ息をパクパクとするしかなくなる。
そうして食道も、鼻も、内耳も。
いっそ気を失ってしまえばと思っても、ロサギガンティアのぬくもりと愛撫がそれを許さない。
そのうち舌はお尻の窄まりをこじ開けて侵入し、奥から入り口までの全てを同時に蹂躙されて。
その感触に意識は混濁してゆく。
目を覚ますと、何も着ていなくて、体中べとべとしたものにおおわれていたけれど。
ぬくもりに包まれていて、あんまり寒くなかった。
わたしは…まだロサギガンティアの腕の中にいた。
「なんとかどっちも守ったからね」
「ありがとう、ございます」
「いや、私もつい祐巳ちゃんに色々しちゃったし」
「え、あ、あ…」
「それに、あんな志摩子も見れたしね」
ありがとう、祐巳ちゃん。
正に天使の様に。志摩子さんは安らかに眠っていた。
「ねぇれいたん」
令は動じる様子もなく、会計報告のチェックを続ける。
だが呼びかけは止まず、仕方なく視線を親友に向ける。
「う〜んれいたん、れいたんってばぁ」
「なにかあったの、ちーたん」
「さすがね、れいたん。」
祥子は本当に感心した表情をしていた。
「さーたんとかさっちーとか色々予想していたけれど、『さ』を取って『ちーたん』とはね」
さすがれいたんね、メモメモ、とか言いながら手帳に書き込む姿に令は呆れ返る。
「どうしたのさ祥k、、ちーたん?」
「れいたんは由乃ちゃんに『お姉さま』よりも『令ちゃん』って呼ばれることが多いみたいね」
「その事情はちーたんも良く知ってるじゃない」
「私も『祥子さま』『お姉さま』と呼ばれて来たけれど、れいたんみたいに呼ばれてみたいな…なんて」
「そういうことはわたしじゃなく祐巳ちゃんに言ってよ」
「もし由乃ちゃんが『令ちゃん』じゃなくて『れいたんっ』て甘えてきたらどうかしら」
「あのね、ちーた…」
「『れいたん』」(伊藤美紀のロリ声で)
ぐっ……。
「れいたん、よちのね、れいたんのことが、いっちばんすきだぉ?」(なおも伊藤美紀のウィスパーロリ声で)
これは…これはイイ!ちーたんイイ!
令は思わず右手を握りしめ親指を立てる。GJ!
「じゃ、、れいたん今度は私に………」
「えーっと、『ちーたん』?」
「……よちのとかゆーみんになった感じでお願いしたいわ」
「『ちーたん』?」
「少しずつ、心を込めていってね…」
「『ちーたん』」
「ちーたん」
ちーたん、、
令が繰り返す度二人は接近していき、いつの間にかもう手が届くところに。
二人は目を閉じる。
祥「れいたん、うれしいよ、よちの、うれしいよ」
令「ちーたんがうれしいとゆみゅもうれしい」
『ゆみゅ』とは。言いにくいがかわいい感じがする。
さすがれいたんね、と感心しながら祥子は続ける。
祥「きょうはね、よちの、れいたんにいっぱいあまえたい。そんなきもちなの」
令「ちーたんうれしい、ゆみゅも、ゆみゅもいっぱいあまえたいな」
祥「うふふしってるよ、れいたんあまえんぼうさんなんだってよーくしってるんだから」
令「えー、ちーたんしってたんだぁ、ゆみゅはずかしいよう」
祥「いつもいつもよちのはれいたんといっしょだったんだもの。それに」
手を握りしめてくる祥子の温かさに、令は気持ちが蕩けてしまう。
祥「これからもれいたんといっしょだもの」
令「ちーたんだってゆみゅにいーっぱいいーっぱいあまえてね」
祥「れいたんやさしいにゃあ、よちのうれしい」
令「ゆみゅだってちーたんすきすきだぉ」
祥「よちの、れいたん、ちゅき」
令「ゆみゅもちーたん、ちゅき」
祥「よちの、ちゅき」
令「ゆみゅ、ちゅき………」
不意の物音に二人は同時に目を開き、視線はビスケット扉へ。
いつも間にか開け放たれた扉。
無表情でその向こうに立つ、祐巳と由乃。
何か言おうとして、口をぱくぱくさせる祥子と令。
見つめ合う顔と顔。
しばらくの沈黙の後。
「かえろ、ユミユミ」
「そうだね、よっしー」
そうして姉を放ったまま、妹達は手を繋いで薔薇の館をあとにする。
へたれ崩れる令を見下ろしながら祥子は思う。
ユミユミ&よっしーだなんて、あの二人………ぜ〜んぜんダメね。
卒業を控えて、祥子と薔薇の館で二人きりのお茶会。
何気ない会話の中にも以前とは違う祥子を感じる。
祐巳ちゃんから良い影響を受けている祥子。
私も安心してこのリリアンを去ることが出来そう。
と、窓の外から話し声が聞こえて来た。
五六人、いやもっと多くの生徒がやって来たみたい。
一団は薔薇の館のなかに入ったようで、今度は一階が騒がしくなる。
「せっ整列してくださ〜い」ってちょっと慌てた祐巳ちゃんの声もする。
「何の騒ぎかしら」
「祐巳が来たようですね」
「…何が始まるのかしら?祥子」
「きっとびっくりなさいますよ」
トントントンと階段を上る音は祐巳ちゃんのだけれど。
すぐにたくさんの足音でかき消されてしまう。
ノックの後、開かれた扉からは祐巳ちゃんとたくさんの見知った顔、顔。
「ごきげんようお姉さま、皆さん勢揃いされました」
それは十名を優に超える、中等部高等部を通じて親しかった生徒達。
同級生だったり、後輩だったり。
バレンタインにチョコをくれた子や親衛隊を自称していた子達。
「ありがとう、祐巳」
「いえ、それはロサキネンシスをお慕いしている皆さんにおっしゃって下さい」
祥子の言葉に慌てて手を振る祐巳ちゃん。
そしてその中から一人歩み出て。
「祥子さん、祐巳さんありがとうございます」
「そしてロサキネンシス、申し訳ありませんが今日はよろしくお願いいたします」
何かわたしのことで始まるようだけれど、なにがあるのかわからない。
妹達に何が始まるのか目線で問いただしても、二人はにっこりするだけ。
そして祥子がみんなに話しかける。
「では、始めることにいたしましょう」
その瞬間、みんなが私にわっと群がってきた。
「やめなさい!やめなさい!…やめて!!」
たくさんの中で私だけがパニックを起こす。
しかしじっくり計画されたに違いない、みんなの動きは計算されすぎていた。
手と肘、足と膝、腰をそれぞれに一人ずつ。
頭を振って抵抗しても誰にも当たらないのに、絡みつく手、手、手。
そんな私に祥子が諭すように言う。
「卒業式を控えられておられるのに、そんな身体に痕を残されるような振る舞いはいけませんわ」
『おとなしくなさってください、もう逃れられないのですから』
その言葉は私に抵抗する力を弱らせる。
ろくにあらがうこともできないまま一枚ずつ、一枚ずつ全て剥がされてしまう。
いつの間にかテーブルの上のティーセットが片付けられており、代りに私が持ち上げられ、横たわらせられる。
歓声が沸き、次に溜息が広がる。
四肢を開くように押さえつけられて何も隠すことが出来ない私。
密かにコンプレックスだった控えめの胸と薄い恥毛を晒されて目を閉じそうになる。
周りをぐるりと囲むたくさんの顔は照明から逆光となって表情が読み取れない。
ただギラギラと光る眼だけはわかる。
「やめて……いや、やめて…」
私の嗚咽混じりの声だけが繰り返される。
すぅっと輪の一部が開いて、祥子と祐巳ちゃんが現れる。
「では最初は紅薔薇姉妹からお願いします」
祥子の今まで見たことのない笑顔。
「私にたくさんの愛情を注いでくださったお姉様に感謝を込めて。」
祥子の唇が私の唇へと近付き、思わずそれを避けようと右を向こうとした。
しかし新たな手が私の顔を押さえつけ、別の手があごを押さえ唇を開かせる。
祥子の唇の感触は柔らかくあたたかくて、こんな時なのに少しだけ安堵してしまう。
しかしだんだん祥子の舌が私の口を犯し始める。
舌を絡ませ、歯の裏側をなぞり、上あごをこそぐ。
唾液を飲み干されては送り返してくる。
そうされるうちに身体を這い回る感触に気付く。
「ロサキネンシス……」
声の方に黒目だけを向けると祐巳ちゃんが私に身体を合わせてきていた。
控えめな胸、薄い体毛、祐巳ちゃんも何も身につけていない。
でもそれは大人の身体になってしまった私と違い、少女らしいみずみずしさに満ちている。
こんななかでも祐巳ちゃんの肌の感触に感情の一部が抗えなくなる。
「ロサキネンシスたらあなたを見つめていてよ」
「恥ずかしい、ですけど、、うれしいです」
この狂った宴にあってこんな会話をする二人に気が遠くなる。
しかし膝を曲げながら押し広げられ、完全に陰部を晒されようとすれば再び心が抗い始める。
「やめなさい!やめて!ダメ!ダメー!」
「こんなに潤っておられるなんて。ロサキネンシスもこうなるんですね」
「祐巳にとっては好都合ね。頑張るのよ」
祐巳ちゃんは、はい!と張り切った返事を返して、私に片足を絡める様にしながら陰部同士を合わせ始める。
「ダメよ祐巳ちゃん、ダメ、ダメ、や、いやぁー!!」
「今日のために剃毛してきたんです。『貝合わせ』、させていただきますね」
ぴちゃり、ぐち、ぬち、ぐち、ぬち、ぐち………
湿った淫猥な音が周期的に、そしてどんどん早くなってゆく。
見知った生徒達の前でこんなことを、そう思ってこらえようとしても、いつの間にか声が止まらなくなっている。
狂信者達取り囲む祭壇で行われる、魔女と生け贄による饗宴。そうだこれはサバトなのだ。
「ロサキネンシス、みんなロサキネンシスが大好きなんです」
荒い呼吸の中で祐巳ちゃんが恐ろしい呪文を口にする。
美しく凛々しくお優しいロサキネンシス
わたしもお姉様もみんなみんなロサキネンシスをお慕い申しておりました
でも、ロサキネンシスは卒業なさるだけでなく
外部の大学を選ばれてリリアンからいなくなっておしまいになる
わたし達を置いてリリアンを去ってしまわれる
それならば、ロサキネンシス
せめて私たちに良き思い出を
そしてロサキネンシスにも
一生涯消し去ることの出来ぬ、思い出を。