【うなる!】産経の賛戦報道をチェキすれ10【大向こう】
この年の瀬、東京・霞が関の文部科学省が引っ越しに追われている。勤評や教科書
問題など日本の教育の歴史を刻んできた今の庁舎が「築七十年」と老朽化してきた
ため建て替えることになった。その間、丸の内のビルに仮住まいするのだそうだ。
▼取材で何度か足を運んだことがあるが、庁舎の年輪を感じさせるのがエレベー
ターだった。壁に時計のような表示盤が取りつけてあり、針がぐるりと回って、今
何階にいるのかを示す。アナログの時代を象徴するかのようなもので、取り壊され
るのが惜しい気もする。
▼余談だが、桂米朝さんによれば、上方落語の仲間が昔、ウソつき大会をやった
とき一等になったのがこの昇降機をネタにしたものだった。「あの針を力いっぱい
回したら、エレベーターが昇ってきよった」。一瞬「ホンマに?」と思わせる、よ
くできたウソである。
▼その文科省が旧庁舎最後の大仕事とばかり「ゆとり教育」を事実上放棄する決
定をした。まるで降りつつあるエレベーターを逆に引き上げる、あのウソのような
話に思えた。政治にしても行政にしても、一度流れの決まった歴史をもとに戻すの
は至難のわざだからだ。
▼ゆとり教育がその理想はともかく、学力低下や怠け心しか生まないことは最初か
らわかっていた。愚かにも「ゆとりブーム」に流されてしまったのだ。だが間違い
に気づくや、わずか二年で方向転換したことは大いにほめられていい。これこそ立ち
止まる勇気である。
▼教育界にはもうひとつ教育基本法の改正も待っている。「国を愛する心」の育
成など戦後教育が捨ててきたものを取り戻す。これも歴史をもとに戻す勇気が必要だ。
建物はともあれ、教育は新しければ良いというものではない。