【うなる!】産経の賛戦報道をチェキすれ10【大向こう】
冬至−。この字を見て色あせた冬空の落日に、暗い日の果てを感じるか。
それともこの日を極限にして一陽来復、春かえる日の再生を感じるか。人
さまざまだが、折からシベリアおろしの大寒気団の襲来で、北国は白一色
になった。
▼きのう日曜日の産経歌壇では、今年の秀作五首が選ばれていた。「富
士山の絵が最後に壊されて路地の銭湯は姿を消しぬ」。東京・北の小池恵
美子さんの歌には、下町の人びとに親しまれた銭湯への哀歓があった。銭
湯は消えても、冬至の日の風習であるユズ湯は残ってもらいたい。
▼選ばれたもう一首、「夕光(かげ)のすべてを海に溶かしたる陽は燠
(おき)のごと山の端(は)にあり」、岡山・牛窓町の向井太枝子さんの
歌は、前にも小欄でとりあげたからうれしかった。太陽の神秘感をたたえた
この雄大な叙景にも、実は冬至を連想した。
▼冬至の日の太陽はこの歌ほど力強くはないが、落日を反映した夕べの
雲は彩りを変えて燃える。茜(あかね)色から青紫色に、やがてしだいに
暗灰色に移って夕闇に消える。日は沈むが、しかし太陽再生と春かえる
明日を約束してくれているのである。
▼万葉集に柿本人麻呂の「東(ひむかし)の野にかぎろひの立つ見えて
かへり見すれば月かたぶきぬ」の一首がある。ところが最近の白川静博士
の考証によると、歌のよまれた日時を東京天文台に計算してもらったとこ
ろ、西暦六九二(持統六)年の十二月三十一日の明け方だった。
▼当時は陽暦ではないから冬至に近い日の夜明けに意味があるそうだ
(真木悠介著『時間の比較社会学』岩波現代文庫)。これは皇位継承にか
らむ歌で、かたぶく月と昇りくる日という悠久の自然の回帰に象徴させた。
つまりよみがえりの歴史的時間をうたった冬至の歌だというのである。