【うなる!】産経の賛戦報道をチェキすれ10【大向こう】
本が売れない、読まれない。子供はとくに手にとらず、ゲームに夢中という時代で
ある。それなのにあえて子供たち向けの偉人伝を出すという、その名も「この人を
見よ」シリーズと銘打って。思わず出版社の社長の顔を見てしまった。
▼東京・杉並の童話屋・田中和雄氏(六八)の顔を、である。「子供が本を読ま
ないのは、読む環境を作ってやらないからです。いまは手本になる大人がいない、
偉人もいない。子供が本を読まなくなったのは、大人が偉人を大切に思わなくなっ
たから。そうだから偉人伝も姿を消したのです」。
▼田中さんはベストセラー『葉っぱのフレディ』の仕掛け人である。五年前、世
に出たこの本は間もなく百万部に達しようとしている。初めて同書を手にした時、
感動して小欄でご紹介したことがあった。そんなことから童話屋とご縁ができたの
だった。
▼新しく「この人を見よ」シリーズの先頭を切ったのは、リンカーン伝(吉野源
三郎著)と二宮金次郎伝(和田伝著)の復刊である。つづいてキュリー夫人、スト
ー夫人、アンリ・デュナンの計五人。華やかではないが“本当の偉人”だという。
▼準備のため田中さんは一昔前の偉人伝を片っ端から読みあさった。そのなかか
ら武将と宗教家と天才過ぎる天才は除外した。またN博士のようによく調べると借
金を踏み倒していたような“偉人”は、もう一つ納得がいかずはずしたそうだ。
▼ちょっと待って下さいよ、と小欄は口をはさんでみた。もし当人がそれを深く
自覚し、反省していたとすれば、そういう苦悩をもつ偉人も人間的でほほえましい。
完全無欠の聖人君子でなくてもいいじゃないですか。「なるほど。もう一度検討し
てみますかな」と田中さんはいうのだった。