あの固定に『逝紙(イキガミ)』が届いたら…二通目

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23higher
「嘘でしょ…どうして私に??」
某月某日20時、岐阜に住む彼女の元にもついにそれは届いた。
もちろんイキガミの事は知っていた。でもまさかそれが自分に届くなんて…

それを持って来た妙に顎の長い配達人の不謹慎なスマイルが恨めしかった。
いや、それ以上に彼の事を『またストーカーがラブレターを届けに来た』と
一瞬でも思った自分に腹が立った。

『私に残された時間はあと23時間50分…』

彼女は落ち着いて考えてみる。『家族に言ったら悲しむよね?誰にも言いたく
ない…でもあの人にだけは伝えたい。最期はあの人の元で死にたい!』
自分にイキガミが届いた事、明日岡山に住むあなたの所へ行きたいとメールを
送った。当然、返信はすぐに来るだろうと思ったがなかなか返ってこない…
携帯に電話してみるも、虚しく留守電になるだけだった。

最後の夜となるその晩、彼女は家族や友達への手紙を書いた。
眠れない夜というものを若い彼女はこの時初めて経験した…
24higher:2008/09/12(金) 05:12:09 ID:Tg9l8x6n0
「お母さん、ごめんね…」
まだ家族が起き出す前、母親の財布から交通費となる数万円を抜き取る。
普段は乗りもしないタクシーに飛び乗った。もういてもたってもいられない。
とにかく会いに行こうと…
彼女は新幹線の最寄り駅となる岐阜羽島へと向かった。

『あと13時間15分…』

時間が経つのがこんなにも早いなんて…自分だけが時を進められてるかのような
錯覚を覚えた。「この新幹線、何で各駅に停まるのよ?」苛立つばかりだった。

岡山に着いた。そしてまた彼の携帯に電話して今度はやっと繋がった。
「私、私…」いろいろ話したかったのに言葉はほとんど出なかった。
ただ涙が出るばかりで…とにかく今は抱きしめて欲しかった。

ここからまたタクシーに乗る。

『やっとあの人に会える』

彼女が一瞬だけ自分がもうすぐ死ぬ事を忘れる事ができた瞬間である。