1 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :
2 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/26(日) 05:26:07 ID:pzq4nJQ/0
[これ以上 何を失えば 心は許されるの?
どれほどの痛みならば もう一度君に逢える
one more time 季節よ 移らないで
one more time ふざけあった時間よ]
ラジオからは今話題のヒット曲、
「One more time, One more chance」 が流れている。
3 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/26(日) 05:29:17 ID:pzq4nJQ/0
僕も、ラジオから流れる曲に合わせて口ずさむ。
「いつでも探しているよ どこかに君の姿を・・・明け方の・・・」
急に、僕の目から涙が込み上げて来た。
この歌を、『僕』が『君』の為に作ったこの歌が、
今、多くの人に感動を与えて勇気を与えているよ・・・
『君』も、何処かでこの歌、聴いててくれるのかな・・・
(^・ω・^)
689 はじめまして名無しさん sage 2007/08/26(日) 18:15:12 ID:???0
ぇりはいつになったら綺麗さっぱりなくなってくれるんだろうか・・・
690 はじめまして名無しさん sage 2007/08/26(日) 18:17:32 ID:???0
全員が去る最後から二人目
691 はじめまして名無しさん sage New! 2007/08/26(日) 18:39:06 ID:???O
その最後の一人はまきひとか?
6 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 14:44:02 ID:EX53EVdl0
「この歌を聴く度に蘇る・・・君との、確かに存在した、君との時間が
何処かに探してしまう 君の姿を 存在するはずも無いのに・・・」
8 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 14:46:54 ID:EX53EVdl0
もう、嫌だ・・・
生きているのが・・・
楽しくない。
嬉しくない。
悲しみしか生まないこの世界にいる意味なんて無い。
9 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 14:50:08 ID:EX53EVdl0
思えば僕は何曲作っただろうか・・・
オーディションに行っては落とされ、
路上で歌っては嘲笑れ、
『ミュージシャン』を目指してた夢も、情熱も、いつからか消え失せた。
僕は、この世界にさよならをする。
10 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 14:52:51 ID:EX53EVdl0
それは真夏の暑い夜だった・・・
今居るここは、星の見えない東京の一番美しい景色が見える場所。
空の光が全て地上に降りてきたんじゃないかと思うほど東京の街は美しい。
愚かな人間たちが築き上げてきたものが、今、ひとつの光となって見える。
11 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 14:57:38 ID:EX53EVdl0
世界が消えればいいと思った、全身死ねばいいと思った。
けど…それを思っている自分が死ねば簡単に解決すると思った。
だから、僕はこの世界にさよならをする。
靴を脱いで、遺書なんて無い…
いや、振り返って見れば、僕には残せる物なんて何にもない…。
12 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 15:00:43 ID:EX53EVdl0
覚悟を決めた時、ふと脳裏を過ぎる。
走馬灯のように人々の顔が浮かぶほど、僕は人を愛せていたのだろうか?
答えを教えてくれる人は居ない。
答えを知っていなきゃいけない僕自身がわからないんだ。
そんなこと…わかるはずもない。
人生で最後のジャンプは僕に躊躇を与えた。
と、同時にそれを上回る勇気をもくれた。
13 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 15:04:39 ID:EX53EVdl0
一瞬の無重力の後、重力の手の平はすぐさま僕の足を掴み、
凄まじい勢いで僕を地上へと誘った。
夜の闇が僕の体を包み、目の前を眩しい光の群れが乱れ、飛び交う。
不思議と気持ちは穏やかだった。
僕の体を撫でては消えていく風は、僕の悲しみ、苦しみ、憤りを全て洗い流してくれるように感じ、心地良かった。
「ああ、気持ち・・・いい・・・」
これが僕の、この世界に残した最後の言葉だった。
次第に視界は白くぼやけてきて、そして、真っ白に染まった・・・
14 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 15:08:30 ID:EX53EVdl0
―僕は 死んだのか?
意識が、僕の体から離れない。
なぜ?
指が動く。痛みはない。冷たい地面の感触。
「(…生きてる…?)」
恐る恐る、目を開けてみる。
白くぼやけた視界の向こうに見えるものが僕の記憶の断片にあるものを思い出させる。
「これは…雪…?」
15 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 15:10:53 ID:EX53EVdl0
雪…それは、確かに雪だった。
僕の記憶が確かならば、
さっきまで僕が飛び降りた町、僕が生まれ育った町、
『桜木町(さくらぎちょう)』に雪は降っていなかったはず。
それ以前に、終わりかけとはいえ季節は夏だ。
おかしい。
…夢…なのか?
16 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 15:16:44 ID:EX53EVdl0
いや、違う…夢にしてはリアル過ぎる質感…
雪が、思い出すよりも先に、その冷たさを僕の肌に感じさせてくれる。
そう、これは間違いなくリアルだ。
髪の毛に積もった雪を振り払いながら、薄い雪のじゅうたんの上に僕は立ち上がる。
辺りを見渡すとそこには、見知らぬ街、見知らぬ人々。
みんな、僕が倒れていた事なんかには関心が無いようだ。
人々はみな、何処か、魂を抜かれたような…そんな印象を受ける。
機械の様に、淡々と歩いている。
う ど ん
18 :
◆vN.GA73K1g :2007/08/27(月) 16:26:02 ID:ZucOPjyE0
まきひと頑張れ!w
戻ってきたよ!w
19 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 16:28:20 ID:EX53EVdl0
>>18 それは別にいいんだけど、
なんで態々俺に報告するの?
『漏れ、まきひとと繋がってませんから><』って体裁でも整えたいのか。
二度手間じゃん。お前に二回返す分のカロリー使えってか。
とまぁ、これは、他の奴等と繋がってた場合の話で、
愛するイテの場合手間が手間にならないよ。
20 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 16:46:10 ID:EX53EVdl0
「蝶様、リズリサ姫の行方が気にかかるのは分かりますけど、暫く休息されては?」
ひとでが心配そうに声を掛ける。
「私なら大丈夫だ・・・ひとで、お前の方こそ、しばし休暇をとれ、これは命令だ。」
蝶はそう返した。
「そんな・・・!!自分ばかり休む分けには行けません・・・
蝶様、婚約者のリズ姫が心配なのは分かりますけど、御自分の御身体を大事にして下さい!!」
ひとでは蝶にそう言い諭した。
「(いや、寧ろ私が心配しているのは、姫の魔力の暴発だ・・・)」
21 :
◆vN.GA73K1g :2007/08/27(月) 17:08:00 ID:ZucOPjyE0
>>19 >なんで態々俺に報告するの?
別に深い意味ないよ^^;
>愛するイテの場合手間が手間にならないよ
えへっ(〃∀〃)♪
>>20 >「(いや、寧ろ私が心配しているのは、姫の魔力の暴発だ・・・)」
ワラタ!w><
もう暴発してるしw
22 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 17:11:57 ID:EX53EVdl0
>>21 俺には素っ気無いんだね。
向こうで一杯話してるから良いやってノリなんだろうけど、
そんな事務的なレスなら辞めちまえ。
向こうと誤爆したんだよ。
てか俺の性欲が暴発しそうなんだけど、どうしたら良い?
23 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 17:21:16 ID:EX53EVdl0
つか一々戻って来たって挨拶回りすんなよ、八方美人の雌豚が。
山崎まさよしのワンモア〜好きな子って誰だっけ?
最後は夢に行った子
25 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 17:28:49 ID:EX53EVdl0
180 : ◆vN.GA73K1g :2007/08/27(月) 17:24:13 ID:ZucOPjyE0
まきひとの小説楽しみにしてるよ。
まきひと、頑張って!
__________________
つかお前、俺これあんま言いたくないんだけど(僕ちゃん馬鹿でーす!!って公言と等しいから)・・・
空気読めよ!!
なんでここで統一しなかった?
向こうでは返せないって分かるだろ?
ここではまだ俺宛のレスが無かったから、返しちゃっただけで逢って。
ああ、まあ良いや・・・どうせ馬鹿だし、何言っても無駄だもんね。
でもありがとね・・・
てか、イテから頑張ってって言われると、心拍数が上がって内容にも変化が生じる恐れが在るんだよ?
分かるだろ。
>>24 イテ殺以外知らんわ、そんな子いるの?
俺の持論では、ワンモアチャンス好きとガンダム好きに悪人はいない。
26 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/27(月) 17:41:41 ID:EX53EVdl0
まあ、俺別に非やイテと違って平等主義じゃ無いし、普通に返したい奴にだけレスすれば良いだけの話なんだけど、
向こうでは流石に名無しさんが必死に支援して下さってるのに、それらの誠意無視して労いの言葉一つ掛けずにイテ殺とイチャ付くのは、
人として間違ってるからね・・・
>>22 > 俺には素っ気無いんだね。
もう、まきひとったら、ヤキモチ妬きなんだから^^;
ご機嫌直して?ね?
>てか俺の性欲が暴発しそうなんだけど、どうしたら良い?
どうしたらいいって言われてもw><
>>23 ><
>>25 >なんでここで統一しなかった?
なんで統一しなかった?っても・・・^^;
余り考えてなかった。
ごめんなさい。
>向こうでは返せないって分かるだろ?
わからなかった。
それに、漏れ別にレス貰おうとか考えてなくて、ただ、励ましたかっただけだよ。ガンバレって言いたかったから・・・。
>ああ、まあ良いや・・・どうせ馬鹿だし、何言っても無駄だもんね。
何それ><
>てか、イテから頑張ってって言われると、心拍数が上がって内容にも変化が生じる恐れが在るんだよ?
そうだったのか^^;ごめんなさい
今度から、小説連投してるときは書き込まないようにするよ
ごめんなさい・・・。
>>26 >まあ、俺別に非やイテと違って平等主義じゃ無いし
そう言ってる、まきひとも、平等主義に感じるんだけど^^;
>それらの誠意無視して労いの言葉一つ掛けずにイテ殺とイチャ付くのは、
人として間違ってるからね・・・
これは漏れにも当て嵌まるよ
自分にレスくれてるのに無視して、まきひととイチャ付くのと同じだよね・・・
だから、まきひとがイテを八方美人って言うけど、まきひとの考えと同じなんだよ・・わかるでしょ?
30 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/30(木) 02:14:07 ID:rivTFIYj0
>>27 イテ殺が頭ナデナデしてくれたら機嫌直す・・・
撫でてくれる?
>>どうしたらいいって言われてもw><
またそうやって誤魔化すんだね・・・
俺の本気の気持ちを・・・
>>28 や、俺の方こそごめん・・・後になって考えてみたら、それ程目くじら立てる事でも無かったよね。
凄く嬉しかったよ、イテが激励してくれて・・・
てか、なんかね・・・まあ、2ch外では毎日話してた分けだけど、
『自己板でのイテ殺のレス』ってのは久しぶりだったじゃん???
だから何て言うか、説明が難しいんだけど・・・
『機械だらけの街で、俺も順応して来た頃』に久しぶりに『自己板で』人間の声を聞いたって感じだったの・・・
だからなんか、複雑で・・・この気持ち、分かるかな?
いや、連投してる時も書き込んで良いよw。寧ろ書き込んで・・・w。
投下する度に『もう辞めようかな・・・』って思ってるんだから、イテが応援してくれるなら、頑張れるから・・・
まぁ、イテが書き込みたい時に書き込んでね?束縛しちゃってごめんなさい。
31 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/30(木) 02:20:51 ID:rivTFIYj0
>>29 凄いね、そうやってなんでも前向きに捉える所・・・
>>自分にレスくれてるのに無視して、まきひととイチャ付くのと同じだよね・・・
いや、それはちょっと違うんじゃないのかな。
俺、自己板内外合わせて合計で自スレ30所有してたみたいなんだけど、
3万レスの中で(まきひと、イテ殺のレスは除くけども、便宜で3万って事ね)
『俺にくれたレス』なんて一個も無かったぞ。
安価とか、明らかにまきひと宛とか、関係無くね。って、分かんないよね、この意味・・・?
まあ、良いや・・・イテ殺の気持ちは分かったから、ごめんね。
>>30 余りの長文でびっくりしちゃったw
>俺の本気の気持ちを・・・
ごめんね・・・なんて言っていいかわからないよ・・・
> 凄く嬉しかったよ、イテが激励してくれて・・・
そっかw 良かった〜w
こんなに、まきひとに喜んでもらえて凄く感激したよ^^
漏れも嬉しいー\(^0^)/
>だからなんか、複雑で・・・この気持ち、分かるかな?
うーん、余り良くわからないけどw でも嬉しい^^
>いや、連投してる時も書き込んで良いよw。寧ろ書き込んで・・・w。
そっかw うん、わかったw
今度から、そうするw
>イテが書き込みたい時に書き込んでね?束縛しちゃってごめんなさい
いいよーもう^^気にしないで^^vどんまい。
>>31 そう?^^;
>『俺にくれたレス』なんて一個も無かったぞ。
え?マジ?^^;マジだよね・・・
そうか・・・なんとなくわかったけど・・・漏れの勘違いかも知れないw
いいよ、まきひと、そんなに謝らなくても^^;恥ずかしいじゃんかw
35 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/08/31(金) 03:33:48 ID:0+99TsdS0
>>32 そんな事務的義務的にレスするなよ・・・
>>34 多分通じてるよ・・・
ほら、僕達言葉交わさなくても心で通じ合えるじゃん?
これで総意が生じてたら悲しいけどね・・・。
でも今は、イテ殺がちゃんと俺の方向いてレスしてくれるから(時々事務的だけど)・・・
恥ずかしがってるイテも可愛いよ。
>>35 >ほら、僕達言葉交わさなくても心で通じ合えるじゃん?
うん。。。だよね・・・。
>でも今は、イテ殺がちゃんと俺の方向いてレスしてくれるから(時々事務的だけど)・・・
時々事務的^^;
>恥ずかしがってるイテも可愛いよ。
ありがd(〃∀〃)♪
37 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/01(土) 08:29:17 ID:aQf2x0ob0
38 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/01(土) 08:30:50 ID:aQf2x0ob0
立ち止まっていると、肌寒さが僕を包む。
当然のように着ている半袖を恨めしく思いながら、とりあえず僕は歩き出す。
― どこに向かえばいい?
39 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/02(日) 09:11:25 ID:voU5tTei0
あてのない見知らぬ世界に放り出されて強く感じる。
さっきまで死に向かっていた僕の、肉体的に精神的に、 なんという希薄なことか。
まるでなにをしていいのやら、まったくわからない。
死人に近い僕の思考は、ゾンビのように群集に交じりただ歩くことだけを遂行していた。
この世界からどうやって出ようかなんて、不思議なことにどうでもよかった。
いくつものビルを越え、前にいる人々を雪よけに使いながら、
三つ目に差し掛かった交差点で、気まぐれに僕は角を曲がった。
待ってましたといわんばかりに、雪が僕の体に戯れる。
その状況を少しうとましく思いながら、
人通りの少ない道を目的も無く、また歩き出す。
率直な感想、何もない。
何もないから、何も感じない。何も感じなくていい。
奇妙なこの感覚に、心地良さすら感じる。
何も考えなくていいというのは、なんと楽なことだろう・・・。
40 :
◆vN.GA73K1g :2007/09/03(月) 20:02:31 ID:zvShm14o0
ヾ(*'▽'*)ノ☆。
44 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/10(月) 00:40:47 ID:pN1hk24E0
45 :
はじめまして名無しさん:2007/09/10(月) 14:42:25 ID:otYtF+6G0
46 :
工藤:2007/09/11(火) 00:07:10 ID:???O
保守
47 :
はじめまして名無しさん:2007/09/12(水) 06:51:36 ID:cAPOoZHt0
48 :
◆vN.GA73K1g :2007/09/13(木) 19:49:19 ID:lEbbdEFS0
あっ!
49 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/15(土) 00:35:12 ID:m3ABkU+i0
殺風景から殺風景へと、裏切りなく移りゆく景色の中にデジャヴにも似た、
懐かしい記憶をくすぐる映像が僕の眼に飛び込んできた。
「公園・・・?」
決して広くはないが、子供が駆け回るには十分な広さ。
公園にはジャングルジムに、シーソー、ブランコ、鉄棒があった…
ブランコに目を戻す。
50 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/15(土) 00:35:52 ID:m3ABkU+i0
かすかに揺れるブランコに、白いワンピースを着た少女が一人、
存在感なさげに、しかし無人の公園にしっかりとした違和感を与えつつ座っていた。
51 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/15(土) 00:36:45 ID:m3ABkU+i0
…半袖。
この寒空の下、半袖という選択ミスをしていたその少女に僕は妙な親近感を覚えていた。
真っ白い空の下、一人佇むその少女の表情は、
どこか切なく寂しげで、『美しさ』とは違った形容し難い魅力を感じるには十分すぎる程だった。
僕は、気がつけばその少女に見とれていた。
52 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/15(土) 00:37:50 ID:m3ABkU+i0
肩に掛かるか、掛から無いかの黒い髪。
ブランコの鎖を握る、細く白い手。
ほのかに桃色が彩られた白のスニーカー。素足なのだろうか?
揺れるブランコに合わせてわずかに上下している足首…。
しんしんと降る雪の中で幻想を思わせる少女に僕は―。
不意に、もっと近くで少女を見たいという衝動が僕を襲った。
ゆっくりと少女のほうへと歩みを進める。
53 :
まきひと ◆IuTqvUGzL. :2007/09/15(土) 00:38:47 ID:m3ABkU+i0
ざっ、ざっ、と公園の砂を踏みしめる音がやけに鮮明に僕の頭の中に入り込んでくる。
気付けば、僕と少女の距離、約三メートル。
54 :
はじめまして名無しさん:2007/09/17(月) 18:55:28 ID:awu7FaXS0
55 :
はじめまして名無しさん:2007/09/18(火) 11:02:20 ID:12QLHy7E0
56 :
はじめまして名無しさん:2007/09/19(水) 06:56:11 ID:1fVmwgx30
57 :
はじめまして名無しさん:2007/09/20(木) 18:37:04 ID:dZekIkvH0
59 :
はじめまして名無しさん:2007/09/23(日) 11:56:30 ID:44eGd5Of0 BE:451257179-2BP(180)
サクラモッチ(・∀・ )
61 :
はじめまして名無しさん:2007/09/26(水) 23:41:04 ID:V79H9wob0
62 :
はじめまして名無しさん:2007/09/27(木) 18:29:22 ID:iRy1Mu4W0
「・・・・・・」
じっ。
少女が僕を見ていた。
「あ・・・」
わずかな動揺が僕の意識を取り戻す。
少女は僕を見ている。
僕と少女は目が合ったまま。
耐え切れない沈黙に僕は思わず口を開く。
「あっ、あのっ…き、君、かっ可愛いね!」
言った瞬間に後悔した。
「(あぁ、もっと他に言葉はあっただろうに…)」
・・・・・・。
季節が通り過ぎたかと思うほどの長い一瞬。
少女は―。
「あはっ」
笑った・・・。
少女がこぼした白い歯は、不思議と僕の心を穏やかにした。
「それって、ナンパのつもり?」
大きな瞳で見つめながら少女は僕に問いかける。
少女の言葉に僕は眉を細めた。
「な、なんぱ・・・?ナンパ・・・になっちゃうんだろうね・・・」
ナンパというものを知らずにナンパをしてしまったような僕の態度に、
少女はまた笑った。
「変な人。」
「そうだね・・・」
短い会話。
僕の独りよがりな勝手な思い込みかもしれないが、
その小さなやり取りで僕は少女とほんの少しだけ…通じ合えた気がした。
「となり、いい?・・・ブランコ。」
僕は少女に希望にも似た問いを投げかけた。
少女は隣のブランコをちらりと見てから、視線を僕に戻して微笑んだ。
「どうぞ。公共のブランコですから。」
公共という言葉に少しだけ違和感を覚えながら、僕はブランコに腰掛ける。
少女の横顔を覗いてみた。
僕の視線に気付いて少女はこちらを見た。
その一瞬が、素直にうれしかった。
「ねぇ、名前はなんていうの?」
夢見心地に浸っている最中、少女が僕に尋ねてきた。
「あ・・・僕は・・・君はなんて言うの?」
『僕』は自分の名前を教えた後に、少女の名前を聞きだそうとした。
「・・・くん」
少女は僕の名前に『君』を付けて噛み締めるようにつぶやいた。
「よ、呼び捨てで良いよ・・・」
「うん。分かった。」
「き、君は・・・?」
再度、僕は少女に尋ねる。
「私は・・・。」
少女は自分の名前と、その由来まで教えてくれた。
「・・・良い名前だね。」
「ありがとう。」
ぎこちない自己紹介は静かに終わりを迎えた。
僕は空を見上げる。
不思議だ。
さっきまで死のうとしていたのがまるで嘘だったかのように、今は心が躍っている。
こんな気持ちは、長らく忘れていたものだ。
「ねぇ、・・・」
「ん?」
「死にたいって思ったことある?」
ドクン。
心臓が跳ねた。
僕の心を読まれたような錯覚に陥った。
「どうして?」
「ん、なんとなく。」
衝撃的な質問。
だけど、僕はその質問に答えたいと思った。
「死にたいと思ったこと・・・あるよ。
さっきまで死のうとしてた、いや、死に向かってた。
死んだと思ったけど、気付いたらこの世界にいたんだ」
「この、世界・・・?」
疑惑の視線を僕に向ける。
「信じられないかもしれないけど、僕はこの世界の人間じゃないんだ・・・」
「ふーん・・・」
正直、おかしいと思われるかもしれないと思った。
けど、彼女の反応は意外にも落ち着いたものだった。
「驚かないんだね、変な奴だと思っちゃったかな?」
「ううん?別に。」
「そう・・・ははっ、実際は凄い事になってるんだろうね。
何かの物語みたいだ。」
それから、僕は自身に起こった出来事を話し続けた。
ミュージシャンを目指していたが上手く行かない現実。
気がつけば20代後半になっていたのに不安定な生活。
そして、全てに絶望し、夢を諦め自殺を決意した事・・・
彼女は黙って僕の話を聞いてくれた。
「君は、死にたいと思ったこと・・・あるの?」
話のキリが付いたところで僕は彼女に話を振ってみた。
「私は・・・うん・・・ある・・・よ。」
「そっか・・・」
少しの間をおいてみたが、彼女は詳細を話そうとはせず、
僕もそれ以上聞くことはしなかった。
その後はとりとめもなく、僕と彼女はお互いのことを話し始めた。
時間が流れ、僕と彼女はベンチで寄り添うように座っていた。
この寒空に似合わない半袖を笑いながら、
僕達はお互いの距離を徐々に縮めていった。
「さ、寒いね・・・」
「うん。」
質問されたことに答えるだけ。
ただそれだけでも僕の心は満ち足りていた。
「寒い、ね・・・。」
きゅっ。
「あ・・・!?」
不意に、彼女が僕の手を握って来た。
それは突然のことだった。
僕はその手を握り返した。
心臓のドキドキが、止まらない・・・。
80 :
◆vN.GA73K1g :2007/10/03(水) 03:36:40 ID:SeZkJrzx0
(ノ_<。)
81 :
◆vN.GA73K1g :2007/10/04(木) 03:59:33 ID:eNMi2+2j0
(ノД`)
82 :
◆vN.GA73K1g :2007/10/04(木) 16:41:57 ID:eNMi2+2j0
保守
84 :
dgdfg:2007/10/09(火) 20:33:56 ID:YsXbfVLZ0
werwer
僕の手が汗ばんでしまわないかと、気が気でなかった。
改めて見る彼女の手は透き通るように白く、存在しないように思えた。
なんともいえない甘酸っぱさが、僕を包み込むのが分かる。
彼女がはにかんで笑っている。
この一瞬は、きっと僕の中で永遠に輝くだろう。
そう直感が感じさせてくれた。
だが、そこで僕は発見してしまったんだ。
彼女の手首に、リストカットの跡があることを・・・。
今日、初めて出会った僕と彼女。
心の傷に触れるより、楽しく話をしていたい。
偽らざる素直な僕の気持ち。
そっと、見てしまった事実を吹っ切るように僕は彼女の手を引いて立ち上がった。
街へと歩き始めた二人の白い息は空に舞い上がっては消えていく。
彼女の手を握る僕の手の力は自然と強くなっていった。
そして、『決意』は、突然僕の胸にやってくる。
「僕、決めたよ!」
僕は叫んだ。
「どうしたの、急に・・・?」
僕の右肩の少し下から、彼女が上目遣いで尋ねてくる。
「僕は・・・作詞をして、思いっきり歌を歌う!!」
僕はそう豪語した。
「なんで・・・?」
彼女はキョトンとした表情でそう尋ねる。
「だって、今日死んでたかもしれないのにこんな世界に迷い込んで、
君と出会って、それだけでもすごいと思うんだ、歌になるよ!
僕は絶対曲を作るよ!よーし、やるぞぉ!」
忘れていた『歌』への熱き思いが蘇った・・・。
僕が突然発した熱量を、彼女はそっと微笑んで見守ってくれた。
「おめでとう、頑張ってね。」
嬉しい激励の言葉。
ただ、彼女の笑顔がわずかながら寂しさをはらんでいたと感じたのは、
僕の気のせいだろうか・・・。
それから僕達は時間を忘れて語り合った。
何故だろう、今日出会ったばかりなのに彼女には何でも話せる。
親にも話せなかった事、いや、話そうとした所で聞いて貰えなかった事も彼女は聞いてくれる。
彼女は以外と強気で『我侭』な部分を持っている事も分かり、
それがなおさら愛しくさせた・・・。
基本的に大人しい性格だが、食い違う時には絶対に譲らない芯の強さも持っていた。
僕は気が付けば彼女に魅了されていた。
今日出会った彼女の事が、本気で好きになってしまった・・・。
雪は次第に強くなり、僕と彼女は更に身を寄せ合っていた。
だけど、不意に彼女の手が僕の手を離れていった。
彼女は一瞬うつむいて、すぐさま顔を上げて優しく微笑んだ。
「もう、帰らなきゃ・・・」
気付けば辺りは暗くなり始めていた。
「そっか・・・」
名残惜しく僕は下を向き、
自分の手を見つめながらこぶしを開いたり閉じたりしていた。
タッ
突然、何かが駆ける音がした、と同時に僕の視界が黒に染まった。
ガツン。
「んん・・・!」
遅れた認識が徐々に戻り、視界が標準の世界を取り戻した時、
俺の世界には、ただ彼女の顔があるだけだった。
そして、理解した。
・・・唇が重なり合っている。
女の子の香りが僕の鼻腔をくすぐる。
その甘美な感覚を堪能したいと思った。
しかしその手前で、唇と唇はわずかにお互いを引っ張りながら離れていく。
「ん・・・」
立ち尽くす二人。キスというよりは衝突だった。
少し距離を離した彼女の頬には桃色がじんわりと浮かび上がっていた。
情けないことに僕は放心状態で、その場から動けずにいた。
「じゃあねっ!」
「あ・・・!」
僕の言葉を待たずに、彼女は人通りの少なくなった大通りの向こうへと走っていった。
彼女の後ろ姿が消える前に、僕はどうしても、確認しておきたいことがあった。
「・・・待ってくれ・・・!!!」
僕は彼女の名前を叫んだ。
彼女は離れた位置で止まり、くるりとこちらに振り返った。
「また・・・また、会えるよね!?」
それだけが聞きたかった。
早く答えが聞きたかった。
彼女の唇が動いた。
―もう、会えない・・・
予想に反して、確かに聞こえた、拒絶の声。
「どうし・・・」
言葉を返そうとした瞬間、僕の周りの空間がぐにゃり、と歪んだ。
「なにっ・・・!?」
僕の体がふわふわと風船のように軽くなり、意識が泥を投げつけられたかのように不鮮明になる。
「落ち着いて聞いて・・・」
マーブリングのような世界の向こう側から、彼女が僕に話しかけてくる。
「私も、あなたと・・・同じ・・・」
「(どういう…こと?」
「私も嫌なことがあって自殺しようとしていたの。
でも、でも・・・気付いたらこの世界にいた・・・」
「僕と、同じ・・・?」
「そうよ。私はこの世界に暮らし始めて気付いたの。
この世界は、絶望の行き着く先だって・・・」
「(・・・・・・)」
「絶望のこの世界で、あなたは希望を持ってしまった。
そんなあなたの存在は、この世界では不自然な現象なの。
この世界は矛盾を許さない・・・
ほら、もうこの世界はあなたを否定し始めてる・・・」
「ちょっと待ってよ!せっかく会えたのに・・・そんなのってないよ!」
「もっと、自然な形で出会えたらよかったのにっ・・・」
「自然だとか不自然だとか、じゃあ僕と君が出会ったこの事実は何だ!?
僕と君が存在してるのに、触れ合ったのにっ!」
「ありがとう・・・楽しかった・・・」
彼女の頬を一筋の涙が伝っていった。
「なんで過去形なんだっ!君も、君も僕と一緒に行こうよおっ!!!!」
・・・ブツン。
彼女の答えを聞く前に、僕に繋がる音声が遮断された。
歪んでぐにゃぐにゃになった空間の向こう側で、
最後に彼女の唇が示したもの・・・
それは『う』の母音と『い』の母音だった。
『好き』にも見えたし、『無理』にも見えた。
「(突然・・・すぎるよ・・・!!)」
僕にはもう、答えはわからない。
体の感覚がなくなっていく・・・。
僕は、君の事が・・・君の事が・・・
そして僕の意識は・・・オフになった。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
―声が聞こえる。
「大丈夫か・・・?」
「おいっ・・・」
わずかな視界の隙間から、大勢の人が見える。
ぼやけた意識が加速度的に鮮明になるに従い、僕は理解する。
ここは、僕の元いた世界なのだと。
唇をなめると鉄の味がした。
「生きてるぞぉっ!」
ワアアアア。
雄たけびにも似た歓声が辺りを包む。
僕は体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
幸い、怪我はないようだ。
「あの高さから落ちて、よく・・・」
誰かがポツリと言った。
そうだった。
僕は死のうとしていたんだった・・・。
僕の今のこの状態を、陳腐な言葉で表現するならば『奇跡』なのだろう。
『奇跡』・・・今の僕にとっては虚しい現象でしかない・・・。
当然、彼女はいない。
僕は自分の手を見た。
そこにはまだ、あの温もりが残っていた。
それが、切ないくらい僕の胸を締め上げる。
「うっ…うぁっ…ぐっ…!ひぐぁっ・・・」
だから僕は、嗚咽をもらして泣き始めた。
―数ヵ月後。
冬の訪れ。
僕は曲を作っている。
窓の外には雪が降っている。
僕は外へ飛び出した。
あの時を想わせる雪は、この醜い世界にも降る。
雪に君を重ねて、君が舞い降りてくれる気がして僕は天に両手を伸ばした。
手の平に、君を想わせる白い雪が舞い落ちた。
しかし、それはすぐに溶けてなくなった。
僕に、胸の痛みだけを残して―。
あの時、僕は物質的な君を求めていた。
けれど、君はいない。
今、君は僕の中で精神的な希望となっている。
僕は何時でも、何処かに君の姿を探してしまう。
君の欠片を、君の姿を、君の笑顔を・・・。
何処かに君がいる筈も無い事は分かってるのに、分かってるのに・・・。
絶望に身を任せていれば、ずっと君と一緒にいれたのかもしれない。
けれど、君と出会って感じたことが、僕の希望になってしまった。
今になって、ふと思うんだ・・・。
『君』という存在は本当は存在していなかった、嘘ではないのかと。
いや、嘘であってはいけない。嘘なんかではない。
なぜなら創作に必要な想像力のまるで乏しかった僕が、
ここまでこんなにスラスラと、
君という存在、君と過ごした事実を歌にして書き綴っているのだから、
嘘なんかではないんだ…。
漠然とした闇に恐怖し、理由なく絶望に身を投げた僕。
それに対して彼女。
まだ僕の脳裏に焼きついている、リストカットの跡・・・。
君の心の傷は計り知れない。
どれ程の痛みだったのか・・・
僕も君と同じ痛みならば、味わえば、もう一度君に会えるのだろうか・・・
けど、今でも僕は信じている。
希望…いや、『願い』と言うべきか。
君が寂しくなって、僕を好きになって、
いつの日か君が、僕を追ってこの世界に来てくれるのではないかと…。
僕は最近思うんだ、『奇跡』って物がもしも起こるなら、願いがもしも叶うなら、
今すぐ君に見せたいと・・・
希望に満ちた新しい朝が来る事を、
これからの僕は君だけを守り続ける為に頑張る所を、
そして・・・そして・・・
あの時言えなかった『好き』という言葉を君に伝えたい・・・。
虚しい幻想に身を任せて、死ぬまで君を待とうと心に決めた僕は、
哀れな男なのかもしれない・・・。
けれど今、僕は君以上に大切なものを見つけ出せないでいる・・・。
もしも命が繰り返すならば 何度も君のもとへ行きたい・・・
欲しいものなど もう何もない。
君のほかに大切なものなど、何も・・・
こうして僕は、ひとつの曲を完成させた。
この歌が、君の元へと、届きますように…。
ーーー One more time,One more chance −−−
_____終わり_____
昔流行ったキャラクターのグッズが散乱した部屋。私の部屋。
窓の外は、黒から白にグラデーションがかかっている。もうすぐ夜明けだ。
電気のついていない部屋は、微かな日光で不気味に浮き上がっていた。
私の前にあるのは、紙と100円の安いライター、洗面器に張った水、黒光りするカッター。
教科書やらプリントやらが散らばったこの部屋で、私はその4つだけを見つめていた。
それらを見つめる私の眼は、外の空気に劣らない冷たさを秘めていた。
そしてどこか寂しげで、ぼんやりとした視線。
その眼は紙切れを捉え、そこに綴られた文字をなぞった。
“死因:虐めを苦に自殺”
クラスの女子曰く、『キモイ』らしい私の字が躍っている。
甲高い笑い声が頭の中で鳴り響いた気がした。
彼女たちは私がいなくなって喜ぶのだろうか。
『玩具』が無くなったと悔やむのだろうか。
どちらにしろ、悲しんではくれないだろう。
いや、私には悲しんでくれる人なんていないのだろう。
そんなことを考えて、ふと嘲笑した。自分に対するものだった。
『誰からも好かれるように』と授かった私の名前も、
今では私を苦しめるものの1つにすぎない。
帰りが遅い母親。
外出の多い父親。
友達のいない学校。
楽しくない毎日。
退屈な人生。
もう、たくさん・・・。
ゆっくりと、私の右手はライターへ伸びる。小さな音と共に小さな火が灯る。
その炎は赤々ゆらめき、私を天国へ連れて行ってくれるようだった。
左手で紙をつまみ、目の前に持ってくる。
ライターの火が紙と重なる。紙は煙を上げた。
その煙はゆっくりと赤に変わる。
火はやがて炎となって、部屋全体を少し明るくした。
あっというまに炎は私の指に届いて、手は名残惜しそうに紙を放した。
黒い煤になった紙だったものは、洗面器の水の中に沈んでいく。
私はしばらくそれを見つめていた。
そしてライターを離した右手は、ゆっくりとカッターへと伸びる。
硬い感触。震える手。
いつもならなんともないことなのに・・・。
カチ、カチ、カチ、という音と共に刃を出す。そのまま左の袖をめくった。
手の甲、手の平を始め、その無数の切り傷は肘まで続いていた。
傷跡と細長い瘡蓋は、縦横無尽に、楽しそうに私の腕で遊んでいた。
徐々に強さを増す日光に光を反射した刃が、深い傷跡の密集した手首に近づく。
冷たい刃の感触。
青い血管が浮き上がる。血液の流れる速さが増した。
力を強めると、皮膚がくい込んだ。
いつのまにか、私は涙を溢していた。
ぎゅっと眼を瞑り、歯を食いしばった。
そして一気に右手を引く。
手首が燃えるように熱くなった。
一瞬のことだった。生きていることを実感した。
顔や腕に、生暖かい液体が飛び散った。
シャー、とシャワーのような音が部屋に広がる。
左手を、ゆっくりと天に掲げた。手首から肘、肩に、熱いモノが流れた。
そして、がくんっと腕が堕ちる。
指先から熱が奪われて行くのを感じられた。
恐怖からか、寒さからか、体が少し震えた。
もう指が動かない。
足の力がぬける。
意識が遠のき、闇に吸い込まれて―――
数分前の出来事を知る者は
消えた
_____終わり_____
148 :
はじめまして名無しさん:2007/11/17(土) 13:02:19 ID:3s8DQUno0
ナマでもいい?
第一章
冬のはじまり
昼休み。
Sは教室を離れ、朝ミニストップで買っておいたサンドイッチとマンゴープリンを持って、屋上に来た。
空には丸い雲が水玉模様のように、ぽつんぽつんと浮かんでいる。
Sはスカートのポケットから携帯を取り出すと、真昼の太陽の眩しさに顔をしかめながら、その空を撮りはじめる。
ボタンを押すたびに、誰もいない屋上にミッキーのワルツのシャッター音が響いた。
「また、ハブられることしちゃったなあー」
サンドイッチの包みを開けながら、Sは朝からの授業を思い出す。
美術の時間。
Sは課題の静物(台所に無造作に置いてあったバナナを選んだ‥)のデッサンに行き詰まっていた。
先生が
「Sさん、あなたのバナナは食べられそうに見えないわよ。浮かび上がってこないのよ。」
と指摘する。
Sは心の中で毒づく。
(あんたがバナナ嫌いなだけじゃん!)
バナナを選んだことを後悔しながらSはそれでも、デッサンの手は止めなかった。
その時、Sの中で何かが弾けた。
「先生、バナナだってあたしには描かれてほしくなかった、それは分かってます。でも、あたしはバナナを選んだんです。
食べられる食べられないの前に、あたしにはバナナしかないんです!!」
静寂に包まれていた教室が、さらに静まり耳が痛い。
先生はバナナを見てSの顔を見て、そしてもう一度、バナナを見た。
クラスメイトたちは皆、無表情でSを見ている。
休み時間になったら、一斉にネタにして笑うのだろう。
今日のネタの仕入れに手こずらずに済むと、得した気分ですらあるだろう。