モラトの唄

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202モラト ◆To5AEHU3OY
【憧憬】
 アスファルトの溶ける甘ったるい匂い、湿った腐葉土の匂い。
 ザリガニ釣りができる上水道の秘密基地。クワガタを探しまわったクヌギ林。
 やっぱミヤマはかっこいいぞ。めったに居ないんだよ。

 お祭りの待ち合わせ、雷に打たれて立ち枯れた桜のある神社の境内。提灯の灯り。
 本町通りの出店の焼そば、チョコバナナ、りんご飴。
 俺、何気に器用だからカタヌキは得意中の得意。
 おい、あいつ浴衣だとちょっとかわいいな・・・

 陽炎にゆれる立ち入り禁止の廃工場。壁はツタだらけだ。
 中はひんやりとした暗闇。入るにはまずオマジナイが必要。オバケ出るからね。
 ここは宝物の宝庫。すっげえ強力な磁石見つけたよ!

 プール帰りの夕日に染まる田んぼの中のカブトエビ。すぐ死んじゃう。
 はだしの指の間に泥の感触。きったねえな、おまえ顔真っ黒〜。
 給食のコッペパン残ってたっけ。まだ子犬だな。どこの犬?

 明日は何をする?
 俺達は何でもできるよ。できない事なんて何もないよ。

 本当に、できない事なんて、何もなかったです。
 昭和59年、夏の話。