ジャイアン球場3:00AM。
「地上最高の狙撃者」ゴルゴ13が瞑想している。いつものゴルゴらしくは無い。
今までの敵とは格が違う。「宇宙最強実力者」である。
(今日、俺は負けるのかもしれない・・) 今日のゴルゴの対戦者。
表向きは子供達のヒーローである。しかし、その実力は、この世を破壊し尽くしかねない力を持つ。
正に「宇宙最強実力者」。あのゴルゴとはいえ絶対勝てないだろう。なにせ相手は人間ですら無い。
「ロボ」である。
ふいにその実力者が姿を現す。毒々しく青く光るボディ。ライオンの様なひげ。敵に死を告げる死神の鈴。
口元には優しい笑みが浮かぶ。だが、だまされてはいけない。快楽殺人者はこんな笑みを見せるのだ。
(勝てるのか、こんな悪魔に・・)考えられないほど気弱なゴルゴ。そしてその青い悪魔が口を開く。
「うふふ、こんにちは、僕ドラえもんです(by大山のぶ代)」
ゴルゴ13対ドラえもん、スタート。
ゴルゴはアーマライトを構える。先手必勝。この青い悪魔のペースにはまっては・・。しかし。
「ひ〜ら〜りマント〜(by大山のぶ代)」ピシャシャシャン(擬音)。道具を取り出し構えるドラえもん。
必殺の弾丸を眉間に放つゴルゴ。だが。「・・・・・・!」
確かにドラえもんへ叩き込んだ弾丸。それが全く方向違いの場所へ飛ばされている。屈辱。
そして、それ以上の恐怖。ひらりマント。そのマントに触れた者はどんなモノも身をかわされてしまう。
(接近戦しかない・・!)何度もゴルゴキックを放っては違う場所で転げ回るゴルゴ。
「石〜ころぼうし〜(by大山のぶ代)」 フッ。突然目の前から姿を消すドラえもん。
・・・石ころぼうし。このぼうしをかぶった者は、路上の石ころの様に気に留められなくなってしまう。
うろたえるゴルゴ。こんなゴルゴは見たことが無い。更にドラえもんの追撃。「空〜気ピストル〜(by大山のぶ代)」
パン。そのドラえもんの言葉が聞こえるとゴルゴの体が弾け飛ぶ。ぱんぱんぱん。連撃。人形の様に踊るゴルゴ。
石ころぼうしと空気ピストルを投げ捨てるドラえもん。ゴルゴの闘志はまだ衰えない。・・何度でも突進するゴルゴ。
だが更にドラえもんは。「ソノウソ〜ホント〜(by大山のぶ代)」 この道具はあらゆる嘘を本当にしてしまう道具。
ゴルゴに向かって叫ぶ。「ゴルゴ君は、自分で自分を殴らないッ(by大山のぶ代)」 急に突進を止めるゴルゴ。
そして。「バカなっ!」叫ぶゴルゴ。自分のコブシで自分を攻撃しダウンしてしまったのだ。
まだまだ強力な道具がいくらでもある。だが、ドラえもんは地域住民の安全の為、危険な道具を使っていない。
(俺が・・手加減されている・・) ゴルゴにとって初めての経験。いっておくが童貞喪失の事では無い。敗北感。
ソノウソホントを投げ捨て、ノシノシと近づく青い悪魔。止めを刺すつもりか。・・・しかし。ゴルゴにある予感。
突破口。このデッドの状態においてゴルゴは一条の光を見出していた。
完璧に思える青い悪魔。しかし、ただ一点・・。ドラえもんが近づく。そして地獄のポケットに手を入れる。その時。
「スモ〜ルライ〜・・(by大山のぶ代)」だが、ゴルゴは最後まであきらめない。「!!」アーマライトが火を噴く。
・・ポトリ。ドラえもんの手首が落ちる。そして、ついに。ゴルゴの弾丸が標的の眉間をとらえた。
・・たった一つのドラえもんの弱点。それは「道具の名前を発表してみんなに見せる」事である。子供達のヒーロー。
それゆえ、チビッコ達へサービスせねばいけない矛盾。実力は圧倒的に宇宙一でも、真剣勝負したこと無い哀しさ。
ドカンの上につっぷしたドラえもんは微動だにしない。この勝負、ゴルゴが辛くも勝利をおさめた。
ゴルゴ対ドラえもんから3日後の夜。再びジャイアン球場に、ゴルゴがあらわれた。
土管では小池さんがラーメンをススッている。つまり、この歴史的な一戦の証人は彼だけである。
そして。ある一人の男が姿を現す。ゴルゴに言う。「待たせてしまったかな、ゴルゴ13・・」
ゴルゴはその男を一瞥する。
「お前だったのか・・。俺を呼びつけ、しかも遅れてくるなど・・。のび太のくせに生意気だな」
その男。なんと野比のび太である。ゴルゴの目をまっすぐ見据える。そしてゆっくり口を開く。
「ドラえもんは重傷だ・・未来へ帰らなくてはならない・・君をそのままには出来ない・・」
ゴルゴは銃を捨て、ゴルゴキックを放つ。のび太は倒れる。ゴルゴは帰ろうとする。
その足をのび太がつかむ。ゴルゴチョップがのび太に決まる。だがのび太は倒れない。
地上最高、いや、いまや宇宙最高のテロリストに ボロボロになりながら立ち向かう。
ゴルゴはゾンビの様なのび太に驚愕する。のび太が絶叫する。
「ゴルゴ13・・。ぼくだけの力できみに勝たないと・・ドラえもんが安心して・・帰れないんだっ」
ゴルゴは殴り続ける。 それでものび太は何度でもゴルゴに立ち向かう。
ゴルゴは背を向け立ち去った。どこかかすかな敗北感を感じながら。のび太は倒れたまま。
そこへ、ゴルゴとの対決でボロボロになったドラえもんが迎えにくる。さすがにロボだけあって不死身だ。
「の、のび太くんッッ」
「かったよ、ぼく」自分の力で立ち上がる。「みたろ、ドラえもん。かったんだよ、あのゴルゴに」
抱き合うドラえもんとのび太。「ぼくひとりでかったんだよ。もう安心して帰れるだろ、ドラえもん」
その様子を遠くから眺めるゴルゴ。ポツリと言う。 「この勝負・・俺の負けかもしれん・・」
翌朝。のび太の部屋からドラえもんは消えていた。ガランとした部屋。のび太は思う。
「ドラえもん・・君がいないと部屋が広いよ・・でもすぐ慣れると思うから・・心配するなよ、ドラえもん・・」