ProMED−mail
記録番号:20090928,3394
発行日:2009年9月28日
テーマ:インフルエンザパンデミック(H1N1)2009(58)、オランダ、PB2突然変異
発信:Marion Koopmans
http://www.promedmail.org/pls/otn/f?p=2400:1001:325706459018917::NO::F2400_P1001_BACK_PAGE,F2400_P1001_PUB_MAIL_ID:1000,79432 私たちは、ベーシックポリメラーゼ2(PB2)タンパク質に(E627K)突然変異を起こした
インフルエンザパンデミックA(H1N1)2009ウイルスに感染したと診断された、オランダの
2人の患者について報告したい。この突然変異は以前から(インフルエンザウイルス遺伝子の)
複写の効率を増大させることと、ほかのインフルエンザAウイルスで毒性の変化を起こすことに
関連してきた。
調査はオランダ北部の特定の地理的な領域が、同じ遺伝的背景を持つウイルスが2009年の
7月中旬から8月中旬にかけて循環してきた場所であることを見出した。PB2の突然変異が伝播
した例は他に確認されていない。
2009年9月15日、A(H1N1)ウイルスに感染した糖尿病患者からの臨床サンプルが routine
sequence analysis(遺伝子自動解析)され、PB2のポジション626(E626K)がグルタミン酸から
リジンに突然変異を起こした最初のインフルエンザA(H1N1)ウイルスであることが確認された。
病気の第1日目は2009年8月9日だった。その日患者はオランダ(Waddenzee)北部の湿地帯に
ある西フリジア諸島の一つで休暇を過ごしていた。彼の病気は比較的穏やかな経過を辿った。
国のデータベースで地理的に関連したA(H1N1)ウイルスの症例を次々に時系列を追って調査
したところ、オランダ国内でA(H1N1)ウイルスの症例がさらに24例確認されたが、彼らは7月から
8月にかけて人気のある同じホリデー・アイランド(文字通り休暇を過ごすための島)に滞在していた。
協会で手に入れることが出来た24例中12例の臨床試料を遺伝子解析したところ、NA遺伝子とPB2
遺伝子が特異な突然変異を起こしていた。指標となる糖尿病患者(9月15日の患者)から得られた
ウイルスと10例のA(H1N1)ウイルスが遺伝子クラスターを形成している(元の遺伝子から転写された)
ことがわかった。そのうちの一つのウイルスだけがPB2のE627K突然変異を保持していた。
このウイルスは高熱と咳を発症して2009年7月20日(月曜日)に1週間滞在していた同じ島から
帰宅した青年期の少女に接触した家族から分離された。この少女は2つのテントを共同で使っていた
16人の少年と8人の少女のグループとキャンプをしていた。伝えられるところに拠れば、このグループの
ほとんど全員が病気になり、同じキャンプの別の2人がA(H1N1)ウイルスに感染していたことが確認された。
少女は1週間病気で、2週間後に完全に回復した。PB2の突然変異を持ち、ウイルスの排出を伴った2番目の
ケースは彼女の妹の症例で、2009年7月23日(木曜日)に発症した。彼女はオセルタミビルによる治療を
受け1週間後に完全に回復した。両親はどちらも発症していない。
【つづく】
>>184 ProMED−mail
インフルエンザパンデミック(H1N1)2009(58)、オランダ、PB2突然変異
【続き】
最初の発見から1月以上経過して2つの突然変異が確認されたが、接触調査はもうそれ以上
行われていない。市の保健サービスは地方の疾病対策について通知を受けている。2009年
8月15日以降、オランダ国内の軽症のインフルエンザは届出義務が無くなった。そのため調査
チームはそこから先にウイルスが伝播した可能性があったが情報を得られなかった。感染集団
(たとえば学校のような)は(その島を含む)管轄地域の保健所からの報告はなく、国立内科早期
発見ネットワークからの監視データもインフルエンザ様症例の活動が活発でないことを示している。
7月と8月にA(H1N1)インフルエンザで入院した22名の患者からのサンプルもPB2の突然変異を
示していない。
PB2 627Kは一貫してヒトインフルエンザAウイルスから見つかっているが、鳥由来のインフルエンザ
ウイルスからは滅多に見つかっていない。E627K突然変異は人の体内でウイルスの増殖効率を
高める結果を起こすと考えられており、恐らくそれは宿主の体温への適合や細胞補因子に依拠し、
以前から人に感染した高病原性H5N1やH7N7ウイルスによる死亡例と関連していることが示されてきた。
今日まで、インフルエンザパンデミック(H1N1)2009(57)のA(H1N1)ウイルスでPB2に関する報告はなく、
我々の発見が臨床的、疫学的に関連しているかははっきりしないままである。
逆遺伝学(リバースジェネティックス)を使ったケナガイタチの予備実験から導かれた、PB2のE267Kに
突然変異を起こした新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスは、ウイルスの排出や毒性、伝達性の増加を
示さなかった。状況を監視するために増加した分子の監視といった、更なる実験が進行中である。
署名:M Jonges 1, A Meijer 1, J van Steenbergen 2, T Oomen 2, H Vennema
1, J Spaargaren 3, Kampman 4, P van der Tas 5, R Ter Schegget 6, Wim van
der Hoek 7, J Tjie 8, R Benne 9, Sander Herfst 10, Salin Chutinimitkul 10,
Ab Osterhaus 10, Ron Fouchier 10, Marion Koopmans 1, 10.
所属:
1 National Institute for Public Health and the Environment, Centre for
Infectious Disease Control, PO Box 1, 3720 BA, Bilthoven, The Netherlands
2 Preparedness and response unit, Center for infectious disease control,
Bilthoven
3 Laboratory for Microbiology, Enschede
4 Municipal Health Service, Twente
5 Municipal Health Service, Friesland
6 Municipal health service, Brabant
7 Epidemiology and surveillance unit, Center for infectious disease
control, Bilthoven
8 Microbiological laboratory Veldhoven
9 Laboratory for infectious diseases, Groningen
10 Laboratory for Virology, ErasmusMC, Rotterdam
communicated by:
Marion Koopmans
Chief of Virology
Laboratory for Infectious Diseases and Screening, Center for Infectious
Disease Control
National Institute of Public Health
The Netherlands
<
[email protected]>
http://www.promedmail.org/pls/otn/f?p=2400:1001:325706459018917::NO::F2400_P1001_BACK_PAGE,F2400_P1001_PUB_MAIL_ID:1000,79432
>>184,185 関連
【参考】過去のPB2変異に関するニュースです。
■新型インフル、ヒト型に変異発見 増殖しやすく? 上海 2009年6月20日5時33分
中国・上海で分離された新型の豚インフルエンザウイルスの中に、ウイルスの増殖に関係する
遺伝子がヒト型に変異しているものが見つかった。この変異があると、人間の体内で増殖しやすく
なるとみられる。変異したウイルスが広がり、感染力や病原性をより高めていく恐れがある。
5月31日に上海で22歳の女性から採取したウイルスで変異は見つかった。上海公衆衛生臨床
研究所が、分析結果をネット上で発表した。
ウイルスに詳しい河岡義裕・東大医科学研究所教授によると、インフルエンザウイルスのPB2と
いう遺伝子が作るたんぱく質は、感染した相手の体内での増殖能力を左右する。たんぱく質は
アミノ酸がつながってできている。新型インフルのPB2では、627番目のアミノ酸がグルタミン酸だが、
上海のウイルスはヒト型のウイルスと同じリジンになっていた。
グルタミン酸のウイルスは37度前後でしか効率よく増えないが、リジンは33〜37度で効率よく増える。
人の鼻の中やのどなど「上気道」は約33度、気管支や肺など「下気道」は約37度という条件に合うという。
(大岩ゆり)
http://www.asahi.com/national/update/0620/TKY200906190468.html