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名無しさん名無しさん:
特許庁の無効審判審決書入手!!
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審決◆無効2000−35366
請求人 五十嵐 優美子
代理人弁理士 本橋 光一郎
代理人弁護士 下田 俊夫
被請求人 東映アニメーション 株式会社
代理人弁理士 村下 憲司
上記当事者間の登録第2488926号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理 由
1 本件商標
本件登録第2488926号商標(以下「本件商標」という。)は、平成2年
3月29日に登録出願され、「キャンディ キャンディ」の文字を横書きしてなり、
第32類「加工食料品、その他本類に属する商品」を指定商品として、同4年
12月25日に設定登録されたものである。
なお、本件商標の商標権者の表示は、名称変更に伴い、東映動画株式会社
から、東映アニメーション株式会社に変更されており、その表示変更の登録は、同12年10月16日になされている。
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名無しさん名無しさん:01/12/04 02:15
2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」
との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、
証拠方法として、甲第1号証ないし同第9号証を提出した。
(1)請求の理由
請求人は、筆名を「いがらしゆみこ」とする少女漫画家である。
漫画「キャンディ キャンディ」(以下「本件漫画」という)は、請求人の制作・著作に
かかる長編連続少女漫画である。本件漫画は、昭和50年4月(同年3月3日発売)から
同54年3月まで株式会社講談社の出版発行する月刊少女漫画雑誌「なかよし」に連載された
(甲第3号証)。同社から単行本(全9巻)が出版・発行されたほか、文庫本(中央公論社刊・
全6巻)も出版・発行されている(甲第4号証)。
本件漫画は、請求人の代表作品の一つであるとともに、少女漫画の名作ともいわれ、
現在もなお広く親しまれている漫画作品であり、日本のみならず、世界各国でも愛されている
(甲第5号証)。
なお、被請求人により、本件漫画のアニメーションが製作され、昭和51年10月より
同54年2月までテレビ放映もされた。
請求人は、本件漫画の連載当時から、出版社である株式会社講談社に対し、本件漫画の
二次的使用及び商品化の管理を委託していた(直近のものとして甲第6号証)。講談社は、
さらに上記二次的使用及び商品化の管理を被請求人に再委託し、実際には、被請求人が
漫画「キャンディ キャンディ」のいわゆるキャラクターグッズの版権窓口となっていた。
被請求人は、請求人から管理委託を受けた講談社との管理委託契約に基づき、本件商標を
含め複数の「キャンディ キャンディ」商標を登録している。
請求人は、講談社との間の上記管理委託契約を更新しないこととし、平成7年2月26日を
もって同契約は終了した(甲第7号証)。また、この管理委託契約と連動していた講談社と
被請求人との間の再管理委託契約も請求人と講談社との契約終了に伴い自動的に終了した。
したがって、同日以降、被請求人は、請求人の個別の許諾なしに、本件漫画及び
その名称、絵などを使用することはできなくなったのであるから、被請求人が商標として
採択使用することは公正な取引秩序、慣行に反するというべきであり、商標法第4条
第1項第7号に該当し、同法第46条第1項第5号により、その登録は、無効とされる
べきものである。
なお、請求人と本件漫画の原作原稿を記した名木田恵子(筆名・水木杏子)との間で、
本件漫画の登場人物を描いた絵の権利関係を巡って裁判が係属しているが(最高裁判所
平成12年(受)第798号。その第二審:東京高等裁判所平成12年(ネ)第1602号
平成12年3月30日判決。その第一審:東京地方裁判所平成9年(ワ)第19444号
平成11年2月25日判決)、かかる裁判の結果は、上記無効理由を左右するものではない。
538 :
名無しさん名無しさん:01/12/04 02:18
(2)答弁に対する弁駁
(a)被請求人が本件アニメ映画の著作権者であるが故に、その権限において、本件漫画の
題号である「キャンディ キャンディ」の名称を商標登録し、保持することが許容される
ことにはならない。
被請求人は、答弁書において、本件漫画と本件アニメ映画との法律的な関係について特に
明言していないが、被請求人が引用する「キャンディ キャンディ」事件の判決(乙第6号証)でも
摘示されているとおり、本件アニメ映画は、本件漫画を 「原著作物」とする「二次的著作物」である。
本件アニメ映画が本件漫画の二次的著作物であるということは、被請求人が本件アニメ映画の
フィルムにつき、著作権法第21条ないし第28条の規定による複製・上映・頒布・放送等の
利用を行う権利を有していると謂っても、本件漫画の著作権者の許諾なしにこれらの権利を
行使することはできない。
請求人は、本件漫画の連載当時から、株式会社講談社に対し、本件漫画の二次的使用等の
管理を委託しており、契約書として取り交わしたのは、昭和51年4月1日付のものが
最初である(甲第8号証)。甲第8号証の契約は、順次自動更新され、甲第6号証の契約に
引き継がれたものであり、被請求人による昭和51年7月23日からの商標出願も、請求人と
株式会社講談社との本件漫画の二次使用に関する契約が締結された後になされたものである。
したがって、被請求人が、自発的に商標取得を行い、権利処理を行い、侵害排除を行ってきたと
いっても、これらの行動は、そもそも本件漫画の著作権者から許諾を受け、管理委託を受けた
いわゆる「版権窓口」になっていることに拠るものであって、あくまでも原著作者に代わって
行う権限が付与されているに過ぎず、その窓口が独自に権利を取得することが認められる
わけではない。
商標権と著作権の関係については、商標法第29条が規定しており、また、審決例や裁判例も
いくつか存する(最高裁平成2年7月20日判決・民集44・5・876[ポパイ・マフラー事件]、
平成7年1月24日審決・審決公報4276・31[ポパイ事件]ほか)。
これらの規定・
裁判例等が示すとおり、著作権に抵触するおそれのある商標権の行使は、商標法第29条に
よって制限されるし、民法第1条第3項の権利濫用の禁止規定に基づいて権利行使を阻止でき、
また商標法第46条第1項第1号(第4条第1項第7号該当)の規定によって登録無効にできる。
本件は、著作権者より許諾・同意を得て自己の名をもって商標登録した商標権者が、その後許諾を
失ったときにもなお商標権を保持できるかという問題であり、これまで判断されている先例のとおり、
被請求人の有する商標権は登録無効になるというべきである。
(b)本件漫画が名木田恵子の作による原作原稿を原著作物とする二次的著作物であるか
どうかは、未だ最高裁判所での判断がなされておらず、確定したものでは
ない。
539 :
名無しさん名無しさん:01/12/04 02:21
確かに、名木田恵子が本件漫画に関し「原作と称する原稿」を著し、請求人はそれを受け取った
上で本件漫画を制作している。しかしながら、「原作と称する原稿」と一口に謂っても、千差万別で
あり(甲第9号証)、本件漫画は、小説等の言語著作物として完成されているものを漫画化したと
いうものではない。
仮に、本件漫画が名木田恵子の著作を原著作物とする二次的著作物と評価されるものであると
しても、名木田恵子のみが、二次的著作物である本件漫画そのものや、題号、登場人物の名称・
絵柄等について自由に使用し、また第三者に許諾し得るものではない。請求人も同じ権利を
有する。
したがって、被請求人が名木田恵子のみから同意を得ていることをもって、「キャンディ キャンディ」の
名称を商標登録する正当な権限を有することになるわけではない。
3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、
乙第1号証ないし同第8号証を提出した。
請求人は、本件漫画は請求人の制作・著作にかかる長編連続少女漫画であると主張しているが、
本件漫画は、名木田恵子(筆名:水木杏子)の作になる原作原稿に依拠して創作された二次的
著作物であり、請求人だけの制作・著作に係るものではない。このことは、請求人が請求の
理由で述べている第1審判決及びその控訴審である第2審判決において確認されている
(乙第1号証及び同第2号証)。
請求人は、本件漫画の連載当時から、出版社である株式会社講談社に対し、本件漫画の二次的
使用及び商品化の管理を委託していたとして、甲第6号証の契約書を提出している。しかしながら、
甲第6号証の契約書は、平成4年2月27日に締結されたものであって、本件漫画の連載が開始された
当時、既に、請求人と株式会社講談社との間で二次使用や商品化に関する取極がなされていた事実を
証明するものではない。
被請求人は、その製作に係るアニメーションのテレビ放送が開始される約3ヶ月前の昭和51年
7月23日から、「キャンディ キャンディ」商標について種々の商品アイテムに対応する商標出願を
開始したが(乙第3号証)、それは必ずしも、請求人から管理委託を受けた講談社との管理委託契約に
基づいて行った訳ではない。被請求人は、長年の版権実務から、アニメーション映画のテレビ放送
開始により、その登場キャラクターやタイトル等を無断で使用した侵害品が出回るであろうことが、
経験則として予測し得たため、「キャンディ キャンディ」に関する財産権及びその価値を防衛する
ため、自ら、本件漫画に基づいて製作したアニメーション映画の著作権者として、その権限において、
自発的に、商標取得を行ってきたものである。
540 :
名無しさん名無しさん:01/12/04 02:22
また、被請求人は、請求人や原作者若しくは株式会社講談社に代わって、商標や著作物に
ついて積極的に権利処理を行い(乙第4号証、第5号証)、通称「キャンディ キャンディ事件」と
いわれる著作権法違反被告事件においても、自らが原告となって侵害の排除に当たってきた(乙第6号証)。
被請求人は、本件漫画に基づいて製作したアニメーション映画の著作権者であることから、当該
アニメーション映画のフィルムにつき、著作権法第21条第28条の規定による複製・上映・頒布・放送等の
利用を行う権利を有しており、「キャンディ キャンディ」作品の利用に関して、「キャンディ キャンディ」の
題号を各種の商品又は役務について商標登録することにつき、原作者である名木田恵子から同意も
得ている(乙第7号証)。
したがって、請求人が甲第7号証として提出した覚書に拘わらず、被請求人が、「キャンディ キャンディ」の
題号を使用し、且つ、商標登録することについて正当な権限を有していることは明白である。
4 当審の判断
本件商標は、前記に示すとおり、「キャンディ キャンディ」の文字を書してなるものであるところ、
請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものである旨主張している。
しかして、ある商標が商標法第4条第1項第7号に該当するというためには、その商標が矯激、
卑猥な文字、図形からなるものである場合、商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品について
使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反するような場合、あるいは、
他の法律によって、その使用が禁止されている商標、国際信義に反するような商標である場合等を
挙げることができる。
そこで、請求人の主張する事由により、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するもので
あるか否かについて判断する。
(1)他人の著作権との抵触について
請求人は、著作権に抵触するおそれのある商標は、商標法第4条第1項第7号の規定によって、
登録無効にできる旨主張している。
当事者間において争いのない事実によれば、「キャンディ キャンディ」は、昭和50年4月から
同54年3月まで株式会社講談社から出版発行された月刊少女漫画雑誌「なかよし」に連載された
少女漫画であり、同社から単行本(全9巻)が出版・発行されたほか、中央公論社から文庫本(全6巻)も
出版・発行されており、又、被請求人により本件漫画のアニメーション映画が製作され、昭和51年
10月より同54年2月までテレビ放映されたものであることを認めることができる。
541 :
名無しさん名無しさん:01/12/04 02:24
ところで、著作物の題名や登場人物の名前は、たとえ、それが直ちにキャラクターの姿態を思い
浮かべるようなものであっても、著作物から独立した著作物性を持ち得ず、原著作物の複製とは
いえないと解されている(例えば、請求人が挙げている最高裁判決「ポパイ・マフラー事件」の原審で
ある大阪高等裁判所における昭和59年(ネ)第1803号判決)。
そうとすれば、「キャンディ キャンディ」の語(文字)は、上記少女漫画及びアニメーション映画の
題名と認められるものであるから、本件漫画が請求人独自の制作・著作にかかるものであるか、あるいは
名木田恵子の作になる原作原稿に依拠して創作された二次的著作物であるか否かに関わらず、「キャンディ
キャンディ」の語(文字)自体は、本件漫画の複製とはいえないものであり、「キャンディ キャンディ」の
文字のみからなる本件商標は、商標法第29条に規定されているところの他人の著作権と抵触する
ものとはいえない。
そして、そもそも、商標法第29条は、商標権と著作権等との調整規定であり、その使用が他人の
著作権と抵触する商標であっても、商標法第4条第1項第7号に規定する商標には当たらないと解されて
いるところである(東京高裁 平成12年(行ケ)第386号審決取消請求事件判決)。
してみれば、本件商標は、他人の著作権との関係から、商標法第4条第1項第7号に該当するという
ことはないものといわなければならない。
(2)管理委託契約との関係について
次に、請求人は、「キャンディ キャンディ」に関する商品化の管理委託契約終了以後、請求人の
個別の許諾なしに、被請求人が本件商標を採択使用することは、公正な取引秩序に反するものであるから、
本件商標の登録は無効にされるべきである旨主張している。
確かに、請求人の提出に係る甲第6号証(請求人が代表取締役を務めている有限会社アイ
プロダクションと株式会社講談社との間の平成4年2月27日付契約書)によれば、その第2条
及び第6条において、「キャンディ キャンディ」の商品化に関連して商標登録をする必要がある
場合等についての取極がなされていることを認めることができる(順次更新されてきたとする最初の
契約書である甲第8号証には、商標登録に関する具体的な文言はなく、「キャンディ キャンディ」の
名称およびキャラクターを含む一切の著作権の第二次使用として表現されている)。そして、甲第7号証の
覚書によれば、平成4年2月27日付の契約は、平成7年2月26日を以て終了したことを認める
ことができる。
しかしながら、「キャンディ キャンディ」を巡る名木田恵子と請求人との間の東京地裁 平成9年(ワ)
第19444号「出版差止等請求事件」判決及び東京高裁 平成11年(ネ)第1602号「出版差止等請求
控訴事件」判決によれば、それらの判決が確定したものではないとはいえ、本件漫画は、名木田恵子の作に
なる原作原稿に依拠して創作された二次的著作物であることが認定されており、また、被請求人は、本件漫画の
アニメーション映画を製作した者であること等に照らしてみれば、「キャンディ キャンディ」の商標登録を
はじめとするその商品化事業に関する権限が一人、請求人にのみ帰属していたものとみることはできない。
542 :
名無しさん名無しさん:01/12/04 02:27
また、被請求人は、アニメーション映画のテレビ放映に伴い発生するタイトルの無断使用や無断商標
登録を防衛するため、侵害の排除等の権利処理に関わるとともに(乙第6号証「キャンディ キャンディ
著作権法違反被告事件」)、昭和51年頃から、化粧品、日用品、おもちゃ、文房具類、新聞、雑誌、食品等、
多くの商品分野にわたって「キャンディ キャンディ」の商標登録出願を行い、商標管理を行ってきた経緯を
認めることができる(乙第3号証ないし同第5号証)。
加えて、本件商標の登録以後の日付に係るものではあるが、乙第7号証(平成11年8月23日付同意書)に
よれば、名木田恵子と被請求人との間において「東映アニメーション株式会社を甲、水木杏子こと
名木田恵子を乙として、乙は、その原作に係る漫画『キャンディ・キャンディ』の利用に関して、
甲がその商品化又は商品化許諾の業務を行うこと、及び、該商品化業務に際して、甲が業として
『キャンディ・キャンディ』の標章を使用し又は第三者に使用させること、更に、必要に応じて、該標章を
甲の名義にて各種の商品及び役務について商標登録することにつき、異議なくこれに同意します」との
同意書が交わされていたことを認めることができる。
以上の事実及び事情を総合してみれば、被請求人が、請求人と株式会社講談社との管理委託契約
(ひいては、株式会社講談社と被請求人との再管理委託契約)の終了以後、請求人の同意を得ることなく、
自己の名義で「キャンディ キャンディ」の文字からなる本件商標を出願し、登録を受け、使用していたと
しても、被請求人は、「キャンディ キャンディ」のアニメーション映画の製作者であり、かつ、
名木田恵子の同意をも得て、永年にわたり「キャンディ キャンディ」の商品化事業及び
「キャンディ キャンディ」商標の管理を行ってきたものであり、しかも、請求人とても、
「キャンディ キャンディ」に関わる当事者の一人という立場であってみれば、請求人の同意を
得ていなかったことの一事をもって、本件商標の採択・使用が公正な取引秩序に反し、反社会的なもので
あるとまでいうことは到底、困難なことといわなければならない。
したがって、請求人の同意を得ていなかったことを理由に、本件商標が商標法第4条第1項第7号に
該当するものとする請求人の主張は採用できない。
その他、本件商標は、矯激、卑猥な文字、図形からなるものでないことはいうまでもなく、請求人に損害を
加える目的等、不正の目的をもってなされたものと認めるに足る証拠もなく、他に公の秩序又は善良の
風俗を害するおそれがある商標に当たるとする格別の事由も見当たらない。
なお、請求人は、「ポパイ・マフラー事件」の最高裁判所判決(昭和60年(オ)第1576号)及び
「ポパイ」に関する昭和58年審判第19123号審決を挙げて主張するところあるが、上記裁判で
争われた事例は、「POPEYE」と「ポパイ」の文字の間にポパイの漫画の図形を表した商標に
ついて商標権を有する者がポパイの著作権者から複製の承諾を得て使用していた者に対して、差止と
損害賠償を求めた事案であり、また、昭和58年第19123号審判において争われた商標は、原著作物の
複製に当たる「ポパイ」の人物像を表した図形を含む上記の商標であって、本件とは、当事者間の事情、
争点を著しく異にする事案であるから、これらの判決例、審決例があることをもって、本件についての
上記認定を左右することにはならない。
5 むすび
したがって、本件商標は、登録時はもとより、その後においても商標法4条第1項第7号に該当する
ものではないから、同法第46条第1項第5号により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成13年8月7日
審判長 特許庁審判官 滝沢 智夫
特許庁審判官 中嶋 容伸
特許庁審判官 吉田 静子