読売新聞 2009年5月20日(水)朝刊 文化面 エンタ
メビウス氏 フランスコミックの巨匠 世界の作家刺激 マンガにも理解
フランスコミック(バンド・デシネ=BD)の世界的巨匠、メビウス氏(71)が来日し、京都と東京でシンポジウムが開かれた。
日本マンガに多大な影響を与えたことでも知られる氏に、自らの作品と、マンガとBDとの「未来」について聞いた。 (石田汗太)
「日本マンガがまだフランスでほとんど知られていなかった1982年、手塚治虫さんの招きで日本を初めて訪れ、ショックを受けた。
それ以来、マンガの重要性を、ヨーロッパでことあるごとに訴えてきました」
9日、東京・千代田区の明治大学で聞かれたシンポジウムでメビウス氏はこう語り、約1000人の聴衆から盛大な拍手を受けた。
フランスBD界では「人間国宝クラス」とまで言われる氏だが、日本の読者の知名度は高くない。翻訳は86年の『謎の生命体アンカル』(講談社)1冊のみ。
だが、氏の作品が、70年代末から80年代にかけ、アート志向の高い日本のマンガ家やアニメ作家に絶大な影響を与えたことは有名だ。
その筆頭が『AKIRA』の大友党洋さんだ。「僕がデビューした70年代、マンガは身近で現実的なテーマが主流で、僕はマンガに飽きかけていた。
そんな時、メビウスとの出会いが、イマジネーションを使ってマンガを描くことを教えてくれた。
7日に京都市の京都精華大で開かれたシンポジウムで、大友さんは熱っぽく語った。
大友さんが画風を一変させるほど衝撃を受けたのは、メビウス氏が76年に仏コミック誌「メタル・ユルラン」に発表した『アルザック』だった。
翼手竜に乗った男の奇妙な旅を描くこの作品の後も、映画監督A・ホドロフスキー原作のSF長編『アンカル』、
映画「ブレードランナー」の世界観に先んじたと言われる『ロング・トゥモロー』など、幻想的なイメージと華麗な描線が生み出す作品は、
世界中のコミック作家や映像作家を刺激し続けてきた。
明治大のシンポに参加したマンガ家・浦沢直樹さんの言葉が、当時の「メビウス・ショック」をよく表している。「僕が行き着きたいのは、ここだと思った」