サイゾー2006年11月号
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『ゲド戦記』バッシングにジブリ鈴木Pがブチギレ!
中川大地:文 高橋宗正:写真
「ベネチア国際映画祭で大絶賛だった!」とジブリ鈴木敏夫プロデューサーもご満悦(?)
の『ゲド戦記』。が、国内での評判は大波乱。混迷の日本アニメ界でジブリは何を目指す!?
―いま、オタク向け作品を中心に、日本ではアニメがたくさんつくられてますよね。
鈴木
むしろ減ったんじゃないの?日本産のアニメーションブームは、完全に終わったんじゃないですか?
ああいうのは全部、アジアとか、海外でつくってるから、そういうのは日本のアニメーションとは言えない。
それが悪いと言ってるんじゃないけど、実態として日本でつくられているものはもう1割に満たないことは
ハッキリさせたほうがいい。ただ、ぼくはオタク向けだとか、観客を限定してつくられているものには興味ないけどね。
―ジブリが一般向けアニメの唯一に近い牙城になってきている中で、ベネチア国際映画祭での
『ゲド戦記』の反応は、いかがでしたか?
鈴木
びっくりするくらいの絶賛でしたね。終わらないんですよね、スタンディングオベーションが。
―ただ国内では、ジブリの作品がここまでネット等でバッシングを受けたのは、初めてじゃないですか?
鈴木
そんなのはなかった。
そのバッシングって、何人がやってるの?そんなのは、ほんの数人だよね。
―いえ、5300人以上が書き込んでいる、Yahoo!映画掲示板でのユーザーレビューを見る限りでも
(5点満点中2.36点/10月5日現在)数人ってことはないと思いますが・・・
鈴木
だったらその真相を調べるのが、マスコミの仕事じゃない。ネットなんかでは、ひとりの人間が複数の名前を騙ることで
ごく少数者の意見が全体の傾向であるかのように見せかけられる。それが現代なんです。でもそれは
一般にはなんの影響力も無い。それに乗っかってくるのは、マスコミの人くらいです。
―おすぎも、大っぴらに『ゲド戦記』バッシングをしてましたね。
鈴木
あの人は、毎回毎回言ってるの。ぼくは無視してます。
―ただ今回、原作者ル=グウィン氏からの批判がネットで公開されました。
原作者から、そういう不満の声が出るというのは想定内だったんですか?
鈴木
そんなの、あったりまえじゃない!
もしぼくが原作者でも、よく言うわけないもの(笑)。
自分が書いた本に持っているイメージとまったく同じ映像をつくれる人が
この世の中にいるわけないんだから。
―その不満の中に、主人公アレンが父王を殺すシーンについての疑問もありました。
そこは鈴木さんのアイディアだったはずですが、なぜそうされたのですか?
鈴木
それは、現代日本の状況がそうなりつつあるな、という予感があったから。
ぼくらがそれを考えたのは2年も前だけど、そしたら本当にそういう事件が現実に
起きてしまった。それに、「父親殺し」は何か特別なものではなく
ギリシャ悲劇「オイディプス王」の時代から延々と続く普遍的なテーマです。
―映画をつくる際に、作品に「宮崎駿VS宮崎吾朗」という父子対決を重ね合わせる意図は
なかったんですか?
鈴木
あなた自分で判断できない?
―私はそういう意図もあったと思いました。
鈴木
それじゃ、下世話な週刊誌の発想だよね。だったら帰りなさい。
はい、取材は終わり。
そういうことで来るんだったら俺、答えたくない。
最低のインタビュアーだと思う。
あの映画を見て、そういう感想しかなかったの?
―それだけではないですが、正直、その部分も感じたんです。
鈴木
俺はね、人の作品を見るときには、そういうくだらない目では絶対見ないよ。
だって、大事なもの見失うから。でも、あなたはそういう目で見たんでしょ?
そんなつもりで何億円もかけて映画を作るバカが、いるわけないじゃない!
俺は今のあなたの発言に怒ってる。どうしますか?
このままでいいんだったら、もう編集部に帰ればいい。
―いえ、よくないです。
鈴木
なんで?
―鈴木さんをそこまで怒らせてしまう質問をしたとは、思えないからです。
鈴木
だったら俺が怒った結果、どう思ったかって訊いてるの!!(机を叩く)
人のつくった作品を、いい加減に扱うなと言ってるんだよ!
人が怒ってるんだったら、どうするの、普通は。
―・・・すみませんでした。
質問を変えさせてください。ただ、「父さえいなければ、生きられると思った」
という宣伝コピーが、誤解を生む部分もあったかと思うのですが、いかがですか?
鈴木
それはただ、あくまであのストーリーを分かりやすく伝えるために、ああなっただけ。
そのときは、宮さん(宮崎駿)と吾朗のことなんて全然考えてないんだよ。
後になって「そうか、2人のことだと疑われたら困るな」っていうんで、やめた。
だから、新聞広告には一切使ってません。
―そうでしたか。
鈴木
最初に、オタク向けだとか観客を限定したものをつくりたくないと言ったけど
ぼくたちがアニメーションで映画をつくるのは、その作品で、現代という時代と切り結びたいから。
描きたいのは、宮崎駿と宮崎吾朗の父子対決なんてチンケな事じゃない。
願わくば、全世代に、その時代のテーマを問いかけたい。
そして、そこにしかスタジオジブリという集団の存在意義はないと思ってる。
―では、最後に、ジブリの次回作について聞かせてください。
鈴木
公開は早くて再来年かな。内緒だけど、ここまでは言える。
次の作品はね、実はこの、なよ【註:同席していた、ジブリのK氏。実は元「サイゾー」編集部員】
がきっかけ。宮さんは、スタッフのある女の子をすごく気に入ってたんだけど、こいつが入社早々
結婚したあげく子どもまでつくっちゃった(笑)。
そこで、宮さんは「現代のお父さんはどうあるべきか」と考えて
映画の企画になっていったんです(笑)。
これ、特ダネだよ!