朝日新聞 2007年7月14日(土)朝刊be3面 be report
(見出し)なぜ増えた深夜アニメ
(小見出し)放映後のDVD販売などで制作費回収
(リード) 深夜にテレビで放映されるアニメ番組がすっかり定着した。チャンネルをかえればどこかでやって
いる。こんな時間帯にいったいだれが見ているのか、と疑問に思っている人も多いのではないだろうか。「深夜
アニメ」が増えた理由を取材した。(横山道生)
現在、在京地上波民放キー局で放映されている新作アニメシリーズ52本のうち、18本が深夜帯に放映されてい
る(イラストのグラフ)。
月刊アニメ雑誌「ニュータイプ」編集部(角川書店)によると、新作アニメが深夜に放映されるようになった
のは90年代の後半。97年(7月時点、以下同)には4本だった民放キー局の放映本数は01年以降急増し、02年に10
本に達した。04年(16本)以降は15本前後で安定している。UHF局や衛星放送での放映本数も増えており、06年
に民放テレビ局全体では38本まで増えた(同誌編集部調べ)。
その内容はSF・ファンタジーからスポーツ、学園ラブコメまで幅広い。近年はいわゆる「萌えアニメ」や、女
性ファンを意識した作品も増えている。番組の合間には、DVDや主題歌などのCMが挿入されることが多い。
DVDメーカー大手、バンダイビジュアルの森本浩二取締役は「大半の深夜アニメは、放映後のDVDの販売利益で
制作費や番組枠の購入費用を回収している。テレビ放映は、DVDなどの二次商品のプロモーション手段という意
味合いが強い」と言う。
深夜アニメの制作は「製作委員会方式」をとることが多い。DVDを制作販売するメーカー、主題歌を制作する
音楽出版社、原作権をもつ出版社、関連商品を販売するゲーム会社などが共同出資した製作委員会が広告費を払
い、テレビ局から番組枠を買いとる仕組みだ。
作品の著作権は出資した企業で分け合い、DVDや音楽CDの販売、海外への番組の販売などで得た利益は、出資
比率に応じて分配される。
出資企業は作品の著作権を保持しつつ、30分番組1本で1千数百万〜2千万円もする制作費を1社で丸抱えするリ
スクを減らせる。アニメと漫画や小説、ゲームなどを同時に展開し、相乗効果を狙う「メディアミックス」と呼
ばれる手法が取られることも多く、それぞれの得意分野で商品を展開することで販売の相乗効果を期待できる。
劇場用アニメの制作でも定評のあるマッドハウス(東京)はここ数年、深夜アニメ制作の仕事量が増えた。
現在、年間約10本の深夜アニメを制作する一方、出資もしている。丸田順悟社長は「出資しなければ著作権が
残らず、作品を作ったことにならないからだ」と言う。
一方、テレビ局側も深夜帯は視聴率が低いため、スポンサーを見つけるのが難しく、制作費のかかる番組は作
れない。そのため、従来は再放送や通販番組などを放映することが多かった。製作委員会方式で制作されたアニ
メを放映すれば、自ら制作費を負担せずに収入を得られる。出資企業との思惑が一致した形だ。
キー局で最多の毎週9本を放映するテレビ東京編成局アニメ放送部の朝賀定夫部長は「深夜帯は、視聴率だけ
でなく、二次利用でのビジネスでどれだけ利益を見込めるかが重要だ」と話している。テレビ局が、製作委員会
に出資するケースも少なくない。
(小見出し)受け皿、U局にシフト
深夜アニメをDVDにした作品の価格は、2〜3話収録で5千〜6千円程度だ。放映終了前や放映直後に販売を始め
る場合が多い。
DVD限定の特典映像などを目当てに買う人もいるが、好きな作品を画質のよい公式DVDで保存しておきたいとい
うコレクター心理や、作品をサポートするために「お布施」感覚で購入する熱狂的なファンもいる。
今年3月までMBS・TBS系で放映されたSFアニメ「コードギアス 反逆のルルーシュ」のDVD(バンダイビジュア
ル)は、6月までに6巻で計40万本以上売れた。
しかし、DVD市場は05年から2年連続で縮小傾向にある。アニメDVDも伸び悩んでいる(右下のグラフ)。
「作品数が増えすぎたせいではないか。制作現場の数や制作スキルをもつ人の数は限られており、コレクター
心理をくすぐる作品が生まれにくい状況になっている」
前出の森本取締役は言う。
大ヒットする作品とまったく売れない作品の二極分化が鮮明になってきた。
「一発当たれば、関連商品との相乗効果もあり、非常に大きな利益が出る。それを期待して企業は出資するが、
深夜アニメの平均的な採算ラインであるDVD1巻2万本に届く作品は、全体の3割にも満たない」(森本取締役)
今年に入って深夜アニメ枠を減らす局が出るなど、ブームはピークを過ぎたとみる人も多い。ここ数年、キー
局よりも番組枠を安く買える大都市圏のUHF局が、アニメファン向けの作品の受け皿として浮上している。
東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)は昨年10月から一気に30枠を増やし、アニメを編成の柱にした。
現在、再放送を含め33本の国内アニメを放映。新作13本のうち12本が深夜帯だ(イラストのグラフ)。
UHF局で放映され、大ヒットした作品もある。昨年、放映された人気ライトノベルが原作の学園アニメ「涼宮
ハルヒの憂鬱」は、DVDが1巻あたり10万本近く売れたと言われ、主題歌はオリコンでトップ10に入った。原作本
もシリーズ計430万部を超え、メディアミックスの典型的な成功例となった。
一方、一部のキー局は、アニメファン向けとは別に、一般の成人を対象にした深夜アニメの放映に積極的だ。
フジテレビは05年春から、毎週木曜日深夜に、主に20〜34歳の男女を対象としたアニメを放映している。
二次利用には依存せず、スポンサーからの広告費収入で成り立つアニメを目指し、人気漫画が原作の「働きマ
ン」や「のだめカンタービレ」など、アニメファンでなくても楽しめる。最高視聴率は4〜5%と、深夜帯として
は高い数字をとっている。
昨年、ゴールデンタイムの子ども向けアニメから撤退した同社編成部の金田耕司氏は「ジャンルとしてはドラ
マ。表現手法としてアニメを使っている。将来、ゴールデンタイムのドラマ枠で大人向けのアニメを放映するこ
ともありうる。その足がかりとして、視聴率の取れるアニメを作っていきたい」と話している。