12 :
エノキ ◆aATpbJGovQ :
ある日の昼下がり。
松本図書助は、春の日差しを浴びかすかに汗を浮かべながら、街はずれ
を歩いていた。左手には買い物袋。
あたりには住宅が密集しているが、しかし「住宅街」と表現するのはふ
さわしくない気がする。木造のぼろい住宅、コケの生えたアパート。む
しろダウンタウンというべきか。
図書助は、その見渡す範囲に何軒か見える古アパートのうち、一軒に入
ると、階段を上がりおもむろにドアの一つを開けた。表札には「松本」
の文字。
「昼飯、買ってきたぞ」
そう言いながら、靴を脱ぎ、あがる。部屋の中からは、ピコンピコンと
コンピュータゲームの音が聴こえてくる。春だというのにストーブを全
開でつけているため、ムアッと嫌な蒸し暑い空気。
図書助は、座卓の上に買ってきたコンビニ弁当を並べながら、なんとな
く、テレビの前で布団の上に寝転びながらゲームをやっている中年男の
方を見やった。
「!!」
途端に、図書助の眉間に深い皺が刻まれる。
「おい! なんだよそりゃ!」
13 :
エノキ ◆aATpbJGovQ :03/03/09 03:45
「ん? なんだそりゃて、どうかしたのか?」
布団の上に寝転んでいた男が、スタートボタンを押してゲームをポーズ
させてから、おもむろに顔を上げて図書助の方に向けた。
「ふざけんなよ曹豹! だからなんだよそりゃよ!」
図書助はというと、顔を真っ赤にしてわめきちらしている。
「だからどうかしたのか?」
それとは正反対の平然とした顔で、曹豹と呼ばれた男がしげしげと図書助
の顔をながめた。
「だから、それだよ、それ!!」
図書助が、布団の端の方を指差す。
そこには、茶色い粘土状の物体が、こんもりと鎮座していた。
「あ、これか。これは俺の糞だが、それがどうかしたのか?」
「どうかしたもなにも!! ぐわあ!! だから!! なんで!!」
怒りに震える図書助は、もはやまともな日本語を発することすらできない。
「だから、この糞がどうかしたのかって」
「だ!! なん!! べ!!!」
図書助の口は、文章どころか単語すらまともに発音できない。
「ん? 色が悪いからって、俺の健康を心配してくれてんのか?」
「うわああああ!!!!!」
すべてを異次元に追いやるかのような、猛り狂った叫び声をあげると、
図書助は買ってきたコンビニ弁当を思いっきり床に叩きつけた。
べしゃっと音がして、箱が少しひしゃげるが、しかしラップで包装さ
れているので中身は別にこぼれない。
ぐしゃっ
図書助は、今度はその弁当を足で思いっきり踏みつけた。
そして、下を向きながら肩でぜいぜいと息をする。
思いっきり叫び、暴れたことでようやく落ち着いてきたようだ。
14 :
エノキ ◆aATpbJGovQ :03/03/09 03:56
「だから……なんでそんなとこに糞してんだよ! なんで便所行かない
んだよ!!」
ようやく、憤りにあまり今まで発話できなかったことを口にする。
「ああ、それは便所行くの面倒だったから」
あくまで平然とした曹豹。
「面倒だからじゃねえだろ!! よりによって布団の!! だいたい!!
っああ!!」
また、図書助の言語能力が空回りし始める。
「いやあ、あまりにゲームが面白かったから、一時も離れたくなくてね、
それでちょっと尻を出して用を足したわけだ。でも、尻はちゃんと拭いた
よ。用を足した後、トイレ行ってね」
「だったら、最初から!! っさ!!!」
「だから面倒だったからって言ってんだろ。言葉理解できる?」
「結局尻拭きにトイレ行くんなら、同じことだろうが!!」
「同じじゃないよ。ふんばる時間は節約できた」
「ええい! もうラチがあかん!!」
そう叫ぶと、図書助は電源がついたままのゲーム機を思いっきり踏みつけた。
バリッ ベキッといい音がする。そして図書助の靴下に、赤い血がにじむ。
「とにかく!! その糞拾って便所に流して来い!」
「断る」
「なんだと!?」
16 :
冬厨ひお++ ◆BSF/iBOFUY :03/03/09 15:40
・ー・)つきあってくれ(・ー・)つきあってくれ(・ー・)つきあってくれ
(・ー・)つきあってくれ(・ー・)つきあってくれ(・ー・)つきあってくれ
(・ー・)つきあってくれ(・ー・)つきあってくれ(・ー・)つきあってくれ
(・ー・)お前らも実は女だろ?俺と付き合え。
17 :
冬厨ひお++ ◆BSF/iBOFUY :03/03/09 20:21
(・ー・)日本の高等数学はデモニストの為にのみ存在している。
19 :
名無しさん名無しさん:03/03/09 22:25
20 :
出会い系ビジネス他所とは違います:03/03/09 22:35
21 :
名無しさん名無しさん:03/03/10 12:35
23 :
エノキ ◆aATpbJGovQ :03/03/10 22:09
「糞は、下水に流したといってなくなるわけじゃない。わかるか? 手元に、川
崎市環境局製作の『生活排水対策 とりもどそう清流』というパンフレットがあ
る。それによるとだな、食べ残しなどを下水に流した場合、それを魚が住める水
質(BOD5mg/g)にするために必要な水の量は風呂おけ(300リットル)で何杯分か?」
「うるせえっ!! んなこたいいから、早く糞片付けろ!」
「黙って聞け」
「『何杯分か?』とか尋ねといて今度は『黙って聞け』かよ!」
「で、パンフによると、牛乳180mlは風呂おけ1.8杯、てんぷら油200mlは風
呂おけ0.8杯、そしてマヨネーズはなんと、たった2gで風呂おけ0.8杯分の水が
必要となるんだ」
「そ、それは凄い……。じゃ、マヨネーズ一本丸々下水に流したら凄いことにな
るな」
「お、図書助もわかってきたな。で、糞の場合は……糞のデータはないが、糞に
成分の近いカレーのデータは載っている。それによると、カレーライスの残り15g
を魚が住める水質まで薄めるのに必要な水の量は、風呂おけ0.8杯分だ」
「いや、糞とカレーをいっしょにしていいのか?」
「何をいうか。糞といえば、カレーだろ。カレーといえば、糞だろ」
「う、うん……」
「で、だ。私の言いたいのは、嫌な物は、下水道に流したからといってこの世か
ら消え去るわけじゃない、ということだ。どこかでそれを、コストと労力をかけ
て処理する人がいるわけだ」
「じゃ、糞は生ゴミで出せばいいのか?」
24 :
エノキ ◆aATpbJGovQ :03/03/10 22:18
「馬鹿者が!!!」
曹豹の一喝が、6畳の狭いアパートに響き渡る。
「な、なんだよ」
「ゴミ焼却場だって同じことだ! そこでも、コストと労力をかけて処理するこ
とはかわりないんだ! そしてそれも、限界に近づいているんだ! ほら、パン
フレットをもう一度見てみろ。『◆台所では 調理くずを出さないようにし、食
べ残しなどを流さないようにしましょう。食用油は使いきるようにし、流さない
ようにしましょう』。この、『調理くずを出さないようにし』『食用油は使いき
るようにし』という文章から滲み出る苦渋が、お前にはわからないのか!?」
いつの間にか、曹豹の両の目からは涙が流れている。それを前にして、図書助も
神妙な面持ちにならざるを得ない。
「と、というと……」
「下水道に流すのがいけないなら、生ゴミで。それじゃ駄目だ。そうすると、今
度はゴミ焼却場に負担がかかってしまう。だからこそ、なるべく食べ残しだのゴ
ミだの糞だのを出さず、使い切る努力が必要になる」
「わ、わかったよ。じゃ、この糞流すのはやめるよ。でもお前が出した糞だから、
ちゃんと持って帰れよ」
「断る」
「またかよ! なんでだよ」
「お前、昨日実家から送ってきたとかいう野菜を俺にくれただろ」
「ああ、あげたよ」
25 :
エノキ ◆aATpbJGovQ :03/03/10 22:38
「で、俺はそれを今朝食べた。それで今日、ここに来て糞した。つまりこの糞の
原料は、昨日お前がくれた野菜だ。こんな話知ってるか? ある日、イエス=キ
リストが、ローマに税金を納めるべきかとユダヤ人から問われた。そこでイエス
は、その金貨に誰の像があるかと問い返し、カエサルの像であるとユダヤ人が答
えると、『ではカエサルのものはカエサルへ、神のものは神へ』と述べたという。
この意味が、お前にわかるか?」
「い、いや……」
「つまり、お前がくれた野菜によってできた糞は、お前の物だということだ。だ
から俺は持って帰らないぞ」
「そ、そうか……」
「わかってくれたようだな。俺も『糞を食え』などとベタなことは言わん。食っ
たところでまた糞になって出てくるだけだからな。やり方はお前が考えろ。あ、
そうだ。お前、この糞の乗った布団シーツ、洗濯したりするなよ」
「なんでだよ」
「だからこの、川崎市環境局製作のパンフレットを見ろ。『◆洗濯では "着た
から洗う"から"汚れたから洗う"の発想転換で、洗濯回数を減らしましょう。ま
た、洗剤は石けんなど分解性のよい洗剤を使用し、汚れをおとすのに問題のない
限り使う量を減らしましょう』と書いてある。汚れてもいないのにシーツ洗濯す
るなんて、もっての他だ」
「いや、糞が乗ったんだから、立派に汚れてんだろ」
「そんなこと、うんこの国の人が聞いたら首をかしげるぞ。なんでそんなことく
らいでわざわざ洗濯するんですか? ってな」
「うんこの国ってどこだよ」
26 :
名無しさん名無しさん:03/03/10 23:32
27 :
出会い系ビジネス他所とは違います:03/03/10 23:46
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28 :
エノキ ◆aATpbJGovQ :03/03/11 01:44
「それくらい自分で調べろ。地歴の初歩だろ。そんなことも知らないから、お前
は二浪した上に大学7年生なんだ」
「そ、それは言わない約束だろ!」
図書助が、色をなして怒るが、しかし曹豹は顔色を変えない。
「ま、俺はそろそろ帰るよ。ゲームやりに来たのに、お前がゲーム機壊しやがっ
たからな」
そう言って、曹豹はゆっくりと玄関に向かい、靴を履いて部屋を出た。
カツン、カツン、という足音が、遠ざかっていく。
図書助は、悪臭を放つ糞とともに、都会の雑踏にある片隅のアパートの一室に取
り残された。
MidNight Blueの都会。
窓の外、春の日差しがアスファルトに反射する。
曹豹の背中が遠ざかり、そして路地の向こうに消える。
もう景色には、知らないひとたちの群れ。みんな同じ顔して歩いていく。
ふと部屋の中に視線を戻した。
Silent 孤独な一室。ポスターの椎名へきるが、冷たい笑いをなげかける。
図書助は、布団の上のブツを箸でつまむと、窓の外に投げ捨てた。
ー完ー