続き
ところで、済南地域で高速鉄道を作るのは決して簡単なことではない。東南西三面に山に囲まれ、北に黄河が流れる済南は、高架化する高速道路建設に不向きといわれた。京滬高速鉄道の「五大重点工事」の一つである黄河特大橋(次回連載に取り上げる予定)
のほか、山間部を抜けるためのトンネル工事だけでも、大小計11箇所が予定されるという。また、「泉城(泉の都)」でも知られる済南の地下水位が高く、トンネル掘削や他の土木工事には高水準の防水対策が求められるだろう。
筆者の要望を聞き入れた案内スタッフは、市の西南部にある西渇馬トンネル工事現場へ向かうよう運転手に命じた。中学校時代の「学農労働
(学生が農作業を学ぶために農村へ出向くこと)」時に泊まり込みで行ったあの農山村のことを思い浮かべると、心拍数がいきなり上がったような気がした。
行き着いた西渇馬の山はすっかり変わった。山の斜面が大きく削られ、円形のトンネル出入り口付近にダンプカーやブルドーザが
轟音を立てて行き交っている。「中国水電集団京滬高鉄三工区第二施工処」の看板の前に来ると、現場総技師である荊さんが握手で迎えてくれた。
「ここは、京滬高鉄で最長のトンネルで、全長2800メートルを超えています」
最先鋭の掘削機械を持つ施工隊の技術指導者は鼻息が高い。ドイツのリープヘル社、日本のコマツ、米国のビサイラス社、世界トップクラスの建設重機メーカーの製品が勢揃いしたこの工事現場に、「これぞ、世界トップレベル」といったよう雰囲気が漂っている。
「国産重機車両の比率がかなり上がっていますよ。一昔と違いますから」
荊さんは工事現場の重機車両類の製造メーカーの見分け方を教えてくれた。なるほど、「徐工」「龍工」「山推」「合力」など国内メーカーのマークが
記された掘削、運搬、荷役、舗装機械が意外に多く、「中国重汽」の本拠地でもある済南地元製のダンプトラックも圧倒的な数になっている。
西渇馬トンネル工事は2008年7月着工し、わずか11カ月で貫通し、年内にも全工事が竣工する予定になっている。この驚異的な施工速度を聞かされた筆者の脳裏に、ふと東京の圏央道八王子ジャンクション近くのトンネル工事のことがよぎった。筆者が勤務する大学の
すぐ近くを通る道路脇のトンネル工事現場は、数年も前から延々と続いたまま、一向に完成の気配が見られない。その間、日本製の建設機械を使った中国のプロジェクト建設は、北京五輪施設に続き、上海万博施設も、京滬高速鉄道も完成間近にまで突進しているのである。
高速鉄道を「高速」で建設する中国。高速道路を「鈍速」で作る日本。
大型プロジェクトの建設速度は、まさに国の「元気さ」を象徴しているのである。
(執筆者:王曙光 拓殖大学教授)
サーチナ 2009/07/14 08:52
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0714&f=column_0714_001.shtml