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名無しの車窓から:
中国・「製造大国」の表と裏(6)―国産新型高速列車がこうして生まれる
日本のE2−1000を原型としたCRH2型高速列車を川崎重工などの日本企業と共同生産する青島四方機車。ここに全国各地の大学、研究機関からの高速列車研究開発者が
招集されている。むろん、海外メーカーから既存技術の教習を受けるだけが目的ではない。彼らは中国の高速鉄道時代を背負う使命感に心が燃えているのである。
筆者の青島滞在最終日に、鉄道部所管スタッフと現地の研究開発チームのメンバーと私的な懇談を持つ機会を得た。別れを告げるつもりで設けた一席で、訪れた彼らは担当者ならではの逸話をいろいろと聞かせてくれた。これまでの高速鉄道技術導入
プロセス決定の裏話や、海外メーカーとの交渉での体験談など、次から次へと飛び舞う酒場の話題から、筆者が青島滞在中にずっと考え続けたことと一致したものがあり、そこに中国政府の高速鉄道発展戦略の「断面図」が透けて見えるようになった。
中国の企業が海外メーカーとの高速鉄道技術提携交渉で、第一段階としての技術導入商談の手法は、核心技術の提供を最大限に引き出すための「市場を技術と交換する」戦術だった。これには、
開発ノウハウの開示と運用技術、製造技能に関するセミナー、研修などによる人材育成なども含まれ、中国政府は複数メーカー落札という結果を生かし、競争心を煽られた海外メーカーを最大限に奮い立てた。
そして第二段階のパッケージ設定では、中国企業がコスト管理の主導権を握ることができるよう、落札した海外メーカーに譲歩を引き出していた。具体的には、海外提携メーカーに対して部品資材および関連設備の
国内調達率に下限数値を設けたり、国内での部品メーカー、付帯設備メーカーの育成を義務づけたりするなど、中国国内のコスト優位性を生かして製造コストの削減を図ろうとする計算が随所に見られていた。
さらに重要な仕掛けは、初期の技術導入交渉から中国側は、新型高速列車の開発主導権を海外メーカーに握られてはならない、との判断の下で、海外提携メーカーの設計者、技術開発者と中国側技術者との協働で、
新型車両の国内開発製造体制の構築に最後までこだわっていた。その結果、日仏加諸国のメーカーから、高速列車の設計から製造までの主要プロセスにおいて、中国側による改良、改造を認める譲歩をさせた。
これまでにすでに提供または開示された技術ノウハウが加わると、今後中国独自の高速鉄道の建設・開発と製造・運営が実質上可能になったのである。
続く