中国の新幹線総合スレッド

このエントリーをはてなブックマークに追加
156名無しの車窓から
中国・「製造大国」の表と裏(5)―先進技術吸い取る“技術”

中国政府は日仏加などから、最先端の高速鉄道技術を導入する決定をしていた。世界的規模の金融危機を克服するための景気刺激策としての意味合い以外に、海外技術の
大量吸収により、高速鉄道設備の製造大国への近代化路線を加速させる思惑もある。果たして、中国企業は如何にして、海外メーカーから先進技術を吸い取ったのだろうか。

青島四方機車での滞在中、座談会から現場視察時の会話、そして中国特有の宴会の席に至るまで、筆者は幾度なく現地の技術担当責任者から「独自の開発」「知識財産権の確立」といった誇らしげな表現を聞かされていた。その度に、北京で鉄道関係者との
懇談で話題に上った高速鉄道設備の「技術改造」の記憶がよみがえる。実際にも製造現場で、部材や補助設備のみならず、高速列車技術の核心部分についても、供給側の海外メーカーのスタッフと導入側の中国企業技術者が協働して改良、改造を行っている光景が見られた。

どうやら、中国政府が海外から高速鉄道技術の導入を決めた際、既存技術を基に中国側技術陣による設計の修正と設備の改造を認めさせる条項が、導入契約の内容に
盛り込まれているらしい。ここで、筆者は十数年前に聞いた「三峡ダムモデル」の話を思い出す。「以市場換技術」(市場を技術と交換する」という一風変わったビジネス・モデルなのである。

1996年、国家級プロジェクトだった三峡ダムの水力発電機(第一期計14機)の国際公開入札が行われた。そのとき、中国政府は入札した諸外国メーカーに三つの条件を付けていた。一つは、中国企業と共同で設計・製造すること。
二つ目は、中国企業に核心技術を提供し、かつ中国側技術者に対する教育研修を行うこと。三つ目は、中国国内での部材調達を全体の25%以上、しかも全14機中の最後2機を中国企業が製造を行うこと。

あまりにも厳しかった条件にも関わらず、欧州重電大手のアルストムとABBグループが三峡ダム向けの水力発電機設計・製造を落札した。市場の魅力に屈した海外メーカーが中国政府の軍門に降った一幕だった。それから8年後の2004年、
三峡ダム第二期公開入札が行われた際、独自の設計・製造能力を有した中国メーカーが大型水力発電機12機中の8機を落札した。さらに、2008年に行われた中国国内他の水力発電施設の公開入札で、水力発電機計26機のうち、
中国重電メーカーが19機という圧倒的な落札率で海外メーカーを圧倒した。中国企業がそれまでに支払った技術利用料と比べたら、強力な設計・製造能力を身につけた中国が手中にした経済的メリットの方は、はるかに大きかった。

常識的に言えば、設計の修正に最先端の技術ノウハウの開示が不可欠で、設備の改造にもその技術を消化して身についた高度な技能と理論が欠かせない。これらすべてを安い「授業料」で入手した中国企業は、
中国が強みを持つ無尽蔵の技術者大軍と持ち前の模造技巧を生かせれば、たちまち高度な製造能力を有する強力なライバルに変身する。現に、中国のハルビン電機と東方電機の二大重電メーカーは、
いまやすでに世界最大級の80万kw水力発電機を設計・製造できる業界屈指の水力発電機製造企業に成長している。

この「三峡ダムモデル」に象徴された中国政府の海外技術導入方法は、実は発注契約書に「経済約束条項」を付け、導入時の技術移転料と契約実行段階の履行状況に基づいて
技術使用料を支払うものだった。「金は払うが、真似する権限を認めろ」という強圧的な姿勢で、目先の利益に目が眩んだ海外メーカーの技術を力任せで吸い取ってしまうのだった。

十数年前、「世紀の大プロジェクト」三峡ダム流のビジネス手法が、21世紀の国家級プロジェクトである全国高速鉄道網の建設にそのまま流用されようとしている。しかも今度は、
あれだけかたくなに既存製品の販売に固執してきた日本メーカーさえも、巨大市場の旨味に惹きつけられたせいか、中国政府の策略に自ら身を挺して追随するようになったのである。

前回の連載に、中国政府の景気刺激策として高速鉄道建設が急ピッチで進められたと述べた部分があったが、筆者はここであらためて強調しておきたい。当面の景気対策だけが中国政府の高速鉄道技術導入の唯一の目的ではない。高速鉄道建設と
車両設備設計製造の近代化を図る上で、世界最大規模であろう中国の高速鉄道網に必要な建設・設計・製造の総合能力を自前で持たなければならない、と中国政府は判断し、その近道として海外から最先端の技術を強行にかき集めているのである。
(執筆者:王曙光 拓殖大学教授)

サーチナ 2009/06/10 15:03
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0610&f=column_0610_002.shtml