中国の新幹線総合スレッド

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108名無しの車窓から
中国・「製造大国」の表と裏(3)―高速鉄道開発は“幻”か

高速列車製造の「完全たる自主的財産権」確立は本当なのか。鉄道部官僚に代表される政府側の発表と主要マスコミの
大絶賛報道。一方では、勇気ある鉄道専門家の分析と解説を根拠に、「官説」への激しい反論を展開する
ネットユーザらの「民間世論」。気がつけば、中国各地で真っ向からぶつかる真剣な論争が繰り広げられている。

  天津から再び「動車組」に乗車した。

今度は北京−青島間高速列車の旅である。京滬鉄道(北京・上海間)と膠済鉄道(青島・済南間)
をまたがる約500キロメートルの距離を、「和諧号」は平均時速150キロメートルで疾走する。

青島行き高速客車のドアをくぐった瞬間、これは旧型の車両だと分かる。アルミ板剥き出しの連結部といい、
床に敷かれた粗末なクッションといい、車内設備は明らかに北京天津間のCRH2−300型よりグレードが
落ちている。同席の友人、名門・天津大学機械工程学院の現役教授は、今度の青島視察に同行してくれる。
天津駅から出発してまもなく、中国国民世論を二分した昨年来の大議論が話題に上った。

   鉄道部の主張する「完全たる自主的財産権」の根拠はどこにあるのか。
−−「高速列車の部品資材国内調達率が85%以上」というのが主な根拠だ。

   なぜあれだけの反論が沸き上がったのか。
−−導入コストが高い割に、ライセンス製造にすぎないのではないか、との反対意見が噴出した。

   専門家のあなたから見れば、どちらの主張に分があるのか。
−−本質的な部分を見れば、我が国の「高速鉄道技術導入」は、完成車のライセンス製造の
   色彩が濃い。高速鉄道の核心技術を手に入れたわけではない。

どうやら、「完全たる自主的財産権」の確立説は、鉄道部官僚の勇み足的な
解釈で、「愛国主義」に燃えるマスコミの過大宣伝で盛り上がった。

   やはり、「幻」なのだろうか。
−−しかし、「自主的財産権」が確立されなかったからと言って、
   中国政府の高速鉄道発展計画そのものを否定するべきではないよ。

こうして、前後左右の乗客に気を配りながら、友人と筆者の一問一答はしばらく続いたが、高速列車は早くも山東省内に入った。

山東省と言えば、昨年初に死者18人を出した高速列車事故を思い出す。高速線路の
取り替え作業中に、信号の誤作動により、高速「和諧号」が作業員の群れに突っ込んだのだった。

中央政府のお墨付きで、近代的高速鉄道プロジェクトの実験地となった山東省での大惨事、中国の鉄道関係者は
あらためて高速鉄道信号システムの重要性を思い知らされたのではないか。それを考えれば、執拗に「完全たる自主的財産権」
云々の大宣伝にこだわるよりも、高速鉄道の安全性確保の方がより大切なことではなかろうか。

思えば、2004年に国務院が「先進技術の導入、共同設計と製造、独自ブランドの確立」といった
高速鉄道装備近代化の方針を定めた。そのときから、高速鉄道後進国・中国のキャッチアップが
始まった。それから5年が過ぎ、高速列車が中国の大地を疾走する新時代が到来した。

同時に、海外技術の導入により中国の鉄道技術が躍進し、中国高速鉄道設備の設計・製造能力が大幅に向上した。
これらはすべて事実なのである。しかし、後進国の宿命的課題でもある先端技術の消化と独自開発力の有無を
問われた中国の鉄道部官僚らは、自ら掲げた「自主的財産権」の看板と「民間世論」の壁に挟まれて四苦八苦している。

こんな思いにふけたせいか、高速列車が膠東半島の東端に来たことに気づかなかった。青島近郊の
形式が視線に入ってきたとき、幼き頃から馴染んだ黄海の風は、湿った海草のにおいを
巻き乗せながら、流線型の「和諧号」を迎え入れようとしている。(執筆者:王曙光 拓殖大学教授)

サーチナ 2009/05/08 14:54
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0508&f=column_0508_004.shtml