マスコミウォッチ ー病院・医者編ー Part 3

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64今日の朝日社説
■医療事故隠し――罪ははるかに深い
 患者思いのお医者さん、慎重な看護婦さんでも、思いがけない条件が
重なれば事故は起こる。それが医療の宿命だ。
 大切なことは、それを、包み隠さず当事者に告げて率直にわびること、
元へ元へとたどって原因をつきとめ、悲劇を二度と起こさない対策を
広めることだ。それは、愛する者の死が無駄になったわけではない、
と遺族の心をいやすことにもつながるだろう。
 だが、日本では医療事故隠しが横行している。最近も、日本医大の
形成外科であごの骨を修復する手術を受けた若い女性が急死したことに
ついてのいきさつを、手術の助手役をつとめた医師が家族に告白し、
謝罪したことが明るみに出た。
 告白した医師は、3年前の手術直後から悔やんでいたが、かわいい盛り
になったわが子を見るにつれ、娘を失った両親に真実を告げなければという
気持ちが募ったという。
 この件でふに落ちないのは、先のとがったワイヤが過って脳に突き刺さった
可能性があるのに、脳外科と協力した形跡がないことだ。同様の事故が起き
ても、脳外科医との連携でことなきを得た例もある。
 病院側はミスを否定している。しかし、手術後2日で亡くなるという形成
外科としては異例の事態にも、原因解明の努力が見られないのはどうしたこと
だろう。
 このようなことは、日本の大学病院に相当する先進国の「教育病院」では、
まず考えられない。5年前に地元新聞をにぎわした米国のベン・コルブ少年の
場合はこうだ。
 7歳の少年は、ごく簡単な手術のため手術室に入り、医師が注射したとたん
血圧が急上昇して、亡くなった。病院は調査チームを直ちに編成し「全力を
あげて死の原因をつきとめる」と家族に約束した。3週間後、原因がわかった。
手順に弱点があり、取り違えられた注射薬が医師に手渡されたためだった。
 事実を知らされた家族がまず尋ねたのは、少年が苦しんで死んだのかどうか
だった。全身麻酔をかけてあったので苦しむことはなかった、という説明を
受けた家族はほっとした表情をし、「同じ間違いが二度と起こらないように、
ベンが亡くなったいきさつを世間に広く知らせてほしい」と頼んだ。病院は
事故の詳細を公表し、両親とともに同様の事故が起きないための活動をしている。
 日本でも、患者に十分な選択肢や情報を示し、一緒に考えながら治療に取り
組む「インフォームド・コンセント」が、医学部で教えられるようになった。
 しかし、講義でいくら教えても、先輩たちがそれを実践しなかったり、
正反対の態度を取ったりしたらどうなるか。「医療訴訟を起こされると面倒
だから、患者には何も言わなくてよい」という実例を見せつけられたら、
「自分のミスで患者が死んでも黙っていれば分からない」と、責任逃れして
恥じない医師を再生産してしまうだろう。
 医療事故を隠せば、事故から学ぶチャンスは永遠に失われる。事故隠しは、
事故そのものよりもはるかに罪が深い。医療にかかわる人たちは、そのことを
自覚してほしい。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
(日が変わると内容が変わります)