〈幸せへの一票:2〉33歳主婦 都会でも「出産難民」/愛知
http://www2.asahi.com/senkyo2007/localnews/aichi/NGY200707150028.html 「えっ、私のお産はどうなるの?」
愛知県豊明市の主婦(33)は昨年8月、通い慣れた名古屋市緑区の阪井病院で絶句した。
「諸般の事情により、12月以降はお産ができません」
院内の張り紙にそう書かれていた。第2子の出産予定日も12月……。
流産の後、切迫流産を乗り越えて第1子を出産したのがこの病院だ。
「過去の出産は順調じゃなかった。経過を知っている病院で安心して産みたかったのに」
名古屋のような大都市で「出産難民」になるとは思いもしなかった。
■ ■
阪井病院はベッド数20床。地域の産婦人科として30年以上、親しまれてきた。5年ほど前に建てた新しい病棟には
陣痛から分娩、回復まで同じ部屋で過ごせる特別室を持つ。家族が立ち会い出産できるのも人気だった。
だが、そのかたわらで医師や助産師の確保に苦労してきた。決定的だったのは、高度な設備を備えた病院の協力が得にくくなったことだ。
分娩休止を決めた直後の昨年9月。切迫早産で入院していた妊婦が急に産気づいた。未熟児のため、阪井病院では対応が難しい。
新生児集中治療室(NICU)のある受け入れ先を探したが、「休日で態勢が整わない」と大学病院や総合病院に次々と断られた。
見つかったのは1時間後。さらにその病院への搬送に車で1時間近くかかった。
阪井邦枝医師(71)は言う。「大きな病院も医師、看護師が足りない。そこで受け入れ態勢が整わないと、
開業医も医療に責任が持てなくなる」
>>688続き
■ ■
豊明市の主婦は、新しい産科探しを始めた。豊明市内唯一の産婦人科開業医は直前に分娩を休止していた。
名古屋市や近郊の東海市でも分娩休止や縮小が相次ぐ。
同じように妊娠中で、阪井病院から緑区の別の医院に移った友人はぼやいた。「みんなが詰めかけるので診察は3時間待ち。
つわりがひどくて、途中で帰る人もいる」
結局、里帰り出産を決意した。9月、切迫早産のため実家に近い同県美浜町の知多厚生病院に入院。だが、266床を持つ
地域の中核病院でも医師不足は否めなかった。
入院して間もなく産婦人科常勤医の1人が別の病院に移った。退院まで後任が見つからず、1人残った常勤医が休みなく診察に当たった。
「もし先生が倒れでもしたら……」。不安が募った。
幸い無事出産できた。ところが実家で産後を過ごす間、はやりの風邪で3歳の長女が何度も高熱を出した。
近くに小児科の診療所はない。知多厚生病院に連れていったが、小児科の常勤医は1人だけ。風邪の子どもが詰めかけ、
午前10時に行って診察が終わったのは午後3時だった。
「3人目もほしい。でも、産める場も子どもを診てもらえる場もなくなっていく。現場の医師らは懸命だが、努力にも限度がある。
少子化対策が叫ばれているのに、なぜこんなことになるの」
◇
〈医師不足〉 勤務が厳しく訴訟を起こされることも多い産科と小児科で特に深刻だ。厚生労働省の調査では、病院・診療所の
産科・産婦人科は96年の7302施設から05年は5997施設に減少。小児科も96年の3万939施設から05年は2万8472施設に減った。
04年の新臨床研修制度導入の影響も大きい。研修医が都市部の一般病院に集中し、他の病院の医師不足が加速した。
同省は医師の偏在とみて制度見直しを検討しているが、絶対数の不足は認めていない。