サンスクリット(=梵語)とは、インドの古語です。 ヒンドゥーや仏
教の聖典はサンスクリットで口伝され、書き記されてきました。現代で
は日常的に使われることはありませんが、高い教育を受けた人々の中に
はサンスクリットを話せる人も多く、学会の発表などで使われることも
あります。インドには多くの言語がありますが、サンスクリットは、そ
のうちの15種の主要言語の一つとして、国によって指定されています。
文法はとても論理的で、多くの規則があるため難解な言語と言われま
す。同じインド・ヨーロッパ語族である英語と似ている点も多くありま
す。また、仏教の影響で、サンスクリットに起源を持つ日本語も意外に
多いです。
文字は、おもにデーヴァナーガリー文字が使われます。現代ヒンディ
ー語と同じ文字ですが、読み方の規則が多少異なります。
aham brahmaasmi. (アハム ブラフマースミ)
(訳) 私はブラフマンである。
aham・・・「私」
brahma・・・「ブラフマン」 BRAHMANという原形が主格になるとBRAHMA
となります。(格の説明は次回。)
asmi・・・英語のisにあたる動詞。語根はASですが、AHAMに対応して
ASMIとなります。
ドイツ語などと同じく、名詞には性があります(男性・女性・中性)。
例 (主格)
男性名詞 デーヴァハ(神) アシュヴァハ(馬)
女性名詞 デーヴィー(女神) ナディー(川)
中性名詞 パラム(果物) ナーマ(名前)
そして8つの格があります。性、数(単数・両数・複数)によって、また語幹によって、活用形が異なります。
動詞の種類には、大まかに分けて次のような種類があります。
現在 過去 未来 アオリスト
願望 命令 祈願 完了 条件
さらに、
受動 使役 意欲 強意 といった形になることもあります。
分詞 動形容詞 不定詞 もあります。
------------------------------------------------------------------------
いちばんベーシックな現在形を見てみましょう(直説法現在)。
nama−ti (ナマティ) 敬礼する・敬う
aham namaami 私は敬礼する
tvam namasi あなたは敬礼する
sah namati 彼は敬礼する
vayam namaamah 私たちは敬礼する
yuuyam namatha あなた方は敬礼する
te namanti 彼らは敬礼する
サンディについて
サンスクリットにはサンディという発音規則があります。ふたつの単語(あるいは語幹と語尾)のお尻とアタマがくっついて、ひとつづりとなり、発音も変わってしまうものです。
例を挙げると・・・
a + a = aa ヴェーダ + アンタ = ヴェーダーンタ
a + i = e ナラ + インドラ = ナレーンドラ
a + u = o カタ + ウパニシャッド = カトーパニシャッド
サンディは明確な規則にもとづいており、規則を変化表にして載せて
いる文法書も多いです。なぜこのような規則があるのかといえば、それ
はサンスクリットが、書き言葉ではなく口述される言葉だったからです
。ヴェーダをはじめとする真理の教えは、もとは秘教であり、師から弟
子へとひそやかに口伝されるものでした。またそれは、祭祀において朗
唱されました。サンスクリットはサンディによって、朗唱するにふさわ
しい、なめらかな言葉となっているのです。
●サンスクリット(Sanskrit)とは
インド亜大陸で、古代から中世にかけて、宗教・学術・文学等の分野で公用語的役割を果たして
いた言語であり、広義には、ヴェーダの言語(ヴェーダ語/Vedic)や、仏教混交サンスクリット
(Buddhist hybrid sanskrit)等をも含むが、狭義にはパーニニ(P@a#nini)が西暦紀元前5〜前4世紀に
その文法を規定し、その学統によって整備された古典サンスクリット(古典梵語)のことを指す。
歴史面に疎い方の中には、サンスクリットについて、釈尊の時代には既に滅びかかっていて、
その後すぐ各種プラークリットに取って代わられたと何となく想像している方もおられるようだ。古い宗教
語だというイメージや、釈尊が弟子たちにその代わりにそれぞれの地方の口語で布教するように諭
したという逸話から、そう誤解する向きもあるようだが、そうではない。
釈尊の時代には、既に各地に相当の文法的差異のある地方語が話されていたのは事実である。例えば
プラークリットの古層であるパーリ語は、その源泉は古典梵語よりもかえって古い面もある一方、発音や
文法の面では既にかなりの簡略化が見られる。しかし、それでサンスクリットが滅びたわけではない。
むしろ、サンスクリットが公用語として最も幅広い地位を獲得するのは、各地の口語が
互いに通じないほど異なってしまって共通語の必要性が増した紀元後からである。サンスクリットを公
用語として、文学・文化の花を咲かせたグプタ朝は、紀元後4〜5世紀の王朝である。大乗仏典がサンス
クリットで編まれるようになったのも、どれか一つの地方語で記すより、かえってサンスクリットの方が
広く通じやすかったという事情があると考えられる。法顕や玄奘三蔵などの漢土の僧も、
サンスクリットを駆使することによって、亜大陸を無事に旅することができたのである。つまり、
インド=アーリア語における古代・中期・近代の各層が、単純に時代を追って入れ替わったと考えるのは
誤りであり、地域や階級の別に拠りながら、長期にわたって併存しながら発展していったのである。
だが、その後13世紀になってイスラム勢力が中央に進出し、アラビ
ア語の影響を受けたヒンドゥスターニー語(後のウルドゥー語とヒンデ
ィー語で、ウルドゥー語はさらにアラビア語の語彙を多く吸収し、ヒン
ディー語はサンスクリットからの再借用を進めた)が台頭してくると、
サンスクリットの地位も少しずつ低下していった。さらに大英帝国支配
下では、英語が有識階級の新しい共通語として浸透していった。しかし
今日でも、母語とする人こそごく僅少であるものの、サンスクリットを
習得する知識人はかなりおり、インドの数多い公用語の一つとして用い
られ、大学や宗教的な場で使われたりもする。サンスクリットは、語彙
の増加や語義の転化、若干の語順の傾向の変化などを経ながら、現代ま
で生きている言語なのである。例えば、"vim@anapatanam(飛行場)"、
"d@urabh@a#sa#nayantram(電話機)"などは近代の語彙である。また、
サンスクリット起源の語彙は、ヒンディー語などインド各地の現代語に
多数残っており、特に宗教面・芸術面の用語を理解するのに重要である。
多数残っており、特に宗教面・芸術面の用語を理解するのに重要である。
サンスクリットは、系統的にはインドヨーロッパ(印欧)語族・イン
ドアーリア語派に属し、紀元前1,500年頃(即ちリグ=ヴェーダ/$Rg-vedaの時代)
という昔に溯る、古典時代からの多くの文献を残しているため、ヨーロ
ッパで古典学術用語として栄えたラテン語・ギリシャ語とともに、三大
古典印欧語と称されることもある。上座部仏教の聖典に使われるパーリ
語などとは、近しい関係であり、語彙の五分の一が全く共通すると言わ
れる。
現代語のうちで言うならば、ヒンディー語、マラーティー語、ベンガ
ル語、オリヤー語、ネパール語、パンジャブ語、グジャラート語、シン
ハラ語などの、インド各州及び周辺諸国語の多くが、その系統下に派生
した言語であって、国や州の公用語として用いられている。系統の違う
南インドのドラヴィダ系言語圏においても、ヒンドゥー文化の影響を受
けたため、借用語は数多く見られるようである。また、東南アジアのオ
ーストロネシア語族やタイ=カダイ語族などの諸言語にも、サンスクリ
ットやパーリからの借用語彙が見られる。
日本においても、大乗仏教の経典・論書の多くがサンスクリットの原典から
訳されてきている経緯があり、仏教学を学ぶ者には漢語・チベット語等と並ん
で必須の言語の一つとされ、現代にも仏教受容当初からの、あるいは後代の借
用語が、特定の分野にではあるが残っている。また、印欧語の比較言語学研究
の上からも重要である。さらに、ヒンドゥー教の思想・文化、インドの芸術・
芸能や、新しい宗教的指導者への関心からも、学習されることが多い。
●特徴の概説
基本的に、古典印欧語に特徴的に見られる、典型的な屈折語の性質を持つ。古典印欧語のうちでも、形態が複雑なほうの代表格であり、もとの印欧祖語からは、より屈折を複雑化する方向に変化した言語であろうと考えられている。
・音韻
13種類(実際の単語に使われない文字を含めると14種類)の母音、35種類の
子音から成る。
母音には、音節を作る[r]=/$r/と[l]=/$l/が数え入れられている。/a/,/i/,/u/,/$r/について、
長母音と短母音の対立がある。/e/と/o/は常に長母音であって、起源から二重母音
として扱われる。本物の二重母音として/ai/,/au/が存在する。文法機能上から
は、半母音字との結合で示されるところの、/ar/,/@ar/,/al/も、二重母音的側
面を持つ。
母音の出現頻度は、短く軽い/a/が大差をつけて最も多く、続いて/i/,/u/,の
順である。二重母音は頻度が低い。
子音は、破裂音の種類が多く、主な各調音点において、無声無気音・無声有気音・
有声無気音・有声有気音の四種類が対立する。有声音の無気/有気の対立は、
比較的珍しい現象である。一方で、有声の摩擦音[z]などは存在せず(但し有
声の気音/h/や、半母音としての[v/w]=/v/は存在する)、また、破擦音のうち
[ts],[dz]も存在しない。
舌先を使う音には、前歯の裏に舌先をつける歯音(dental)と、舌の中央を
窪ませて舌先を反り上げる反舌音(retroflex;lingual)とが対立する。四種
の破裂音、鼻音、無声摩擦音、半母音、母音の全てにわたって、この両調音点
が対立する(この場合の半母音とは、/l/と/r/のことである。それらと対応す
る「母音」があることと関連する)。
語頭や文中に、子音・半母音の連続はかなりあり、語頭では/str-/など三つ
程度、語中では/-+nktv-/,/-#n#dry-/など四つ程度の連続まで出てくるが、そ
の場合は母音的な側面を持つ半母音や鼻音を、最初や最後に含んでいる。頻度
は連続していない場合の方が多く、語頭では二つ、語中では三つの連続までが
普通である。但し、プラークリットには見られない、長い母音の前後にさらに
複数の子音が続く、四音長・五音長の非常に長い音節が許される。文末では子
音連続を嫌って、複数が並びそうなときには、略されて、最初の一つだけが残
るのが原則である(特別な場合のみ、二重母音の一部とも言える半母音/r/の次
に、もう一つ子音が残りうる)。母音の連続は常に嫌う傾向があり、両者が融
合するか、後者が消滅することが多い。
アクセントは、日本語と類似の高低アクセントで、示すときには文字の上下
に水平・垂直の短い線で符号を加える。また、音の長さの感じ方の単位を持ち
、母音の長さには短・長・三倍長(重長)の三段階(即ち長母音には更に二種
類)がある。
・文字表記
サンスクリットは、歴史上様々な文字を使って書き表されてきたが(日本の
いわゆる梵字もその一つ)、ここ500年以上主流となってきたのが、デーヴァ
ナーガリー文字(またはデーウナーグリー文字)である。この文字は、古代イ
ンドのブラーフミー文字の末裔の一つで、現代語では、ヒンディー語、マラテ
ィー語、ネパール語などに用いられ、インド系の文字では最も使用人口の多い
文字と思われる。
一方で、ヨーロッパでは、サンスクリットを、ラテンアルファベットに適切
な符号を加えた文字に書き換える(ローマナイズする)ことが多く、日本でも
、文法書や辞書や研究書において、このローマナイズが広く行われている(但
し、その方式には幾つかのバリエーションがあり、このホームページでもその
変種に依っている)。もともと発音と文字表記とが殆ど一対一対応をしている
言語なので、書き換えによる不便は少ない。
猶、漢訳の経典では、サンスクリットの発音を漢字の音で写し、子音連続
(漢字各々には(仏教伝来以前の上古の議論は除き)子音連続はない)や母音
の長短を、「合」「引」などの小さな文字を振って示す方法もあった。写す時
には、どの音にはどの漢字を使うかの標準がほぼそれぞれの時代の訳経者にあ
って、それに従っている。
デーヴァナーガリー文字は、他のインド系文字の多くと同じく、子音を表す
部分と母音を表す部分を融合して一つの音節を表す「音素音節文字」であり、
その点ではハングルなどと比較的近いシステムである。但し、融合時の変形の
仕方の例外を幾つか覚えなくてはならない。左から右への横書きで、文字の上
寄りにシュローレーカーと呼ばれるベースラインの横棒が通っているのが特徴
(これはベンガル文字などと共通)である。
各一文字は基本的には、
<一つor複数個の子音符号>+<母音符号>+<ゼロor/\m/or/\h/>或は
<母音単独字>+<ゼロor/\m/or/\h/>
という構造をしていて、/\m/,/\h/以外の子音が文末に来る時には、
<一つの子音符号>+<母音なし符号>
という形の文字を用いる。
この言語では、前の単語と後の単語の音が融合させたり続け書きしたりでき
ない場合を除き、単語の区切りで綴りを区切らないので、読む者は、自分で切
れ目を見つけて辞書を引かなくてはならない。学習上厄介なことであるが、そ
れ自体は、ラテン語やギリシャ語の古文書はもちろん、我が日本語とも同じこ
とである。文字の辞書等での順番は、これが、漢字の音を整理する順番や日本
語の五十音図のもとになったとも言われるだけあって、日本語の発想からも分
かりやすい(英語的に引こうとすると混乱する)。