「ちょ、ちょっとぉ……、んん、どぅした……のぉ」
明日美は、いつも以上の快感を戸惑いながらも受け入れている。
「なんか……、すごいよぉぉ、あ、んんっ」
僕はもう、割り切っていた。
ただれた関係だなんて、思っちゃいない。
明日美は僕を感じているんじゃない。僕は単なる道具でしかない。
彼女が求めているのは――塔矢名人。
だけど、塔矢名人は妻子ある身。それに、立場だってある。
どう考えたって、明日美の想いが届くはずなんかない。
明日美だって、認めるつもりはないのだろうけど、わかってるはず。
「せん……、せぇ、ああっ、うっ、あああぁぁぁ……」
頂点に達した明日美が、急に大人しくなる。
僕も、同時に果てていた。
明日美は、動かない。わずかに体が痙攣しているだけだ。
よっぽど満足できたのだろう。
僕の心を、たった今得られた快感と同じ大きさの虚しさがよぎる。
明日美を抱いているのは、僕だけど、僕じゃない。
そんなことを考える理性なんか、捨ててしまいたい。
そうすれば、快感だけを、感じていられるのに。
明日美の様子が、いつもと違う。ようやく気がついた。
快感の余韻に浸るにしては、ちょっと長すぎる。
それに、両腕を組んで、顔を隠していた。
わずかに、押し殺した声が聞こえる――泣いている?
「うぅ、うっ……」
こんなこと、初めてだ。明日美の頬を、涙の滴が伝う。
「……ゴメンね」
どうして? どうして謝るんだよ? 僕なんかに?
「ゴメンね、ゴメンね、ゴメンね」
やめてくれ、謝ったりなんか、しないでくれ。
僕は、ただの道具になりたいんだ。
心なんか持ったら、辛くなるじゃないか……。
――つづく