毒男の小説と雑談のスレ 〜第二号〜

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1TKY ◆tMIvS8ak8E
『毒男の毒づくスレ 〜第27章〜』のスピンオフ的なスレッドです。
創刊号で私が書いた小説の続編を書いていくところですが、前スレ同様に雑談もOKです。
初心者なのでまだまだ不手際があるかと思いますが、どうか最後までよろしくお願いします。
みなさんのご来場、お待ちしています!

注意:
1.荒らし行為はお止め下さい。
2.sage推奨。メール欄に、半角英数でsageと入力して下さい。(但し例外を除く)
3.トリップをお持ちの方は、入力願います。

関連:
毒男の毒づくスレ 〜第27章〜
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/honobono/1258874810/
毒男の小説と雑談のスレ 〜創刊号〜(小説第三弾まで)
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/honobono/1253336376/

前作までのお話は、過去ログ倉庫をご覧下さい。
2TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/03(水) 00:09:40 0
この小説では、以下の物を元ネタとして扱っています。

1.『ウルトラシリーズ』
2.『NIGHTMARE CITYシリーズ』(有名フラッシュ)

さらに今回は、前作に加えてもう一つ作品を混ぜ込めようと思います。
どんな作品になるかは、お楽しみに。
3ほんわか名無し三鳥:2010/03/03(水) 00:13:30 0
3取りー!!!
4TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/03(水) 00:43:15 0
>>3
おw
誰か来たw
コテハンよろすく!


小説執筆開始まで少々お待ち下さい。過去ログには入れないで下さい。
5TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/03(水) 14:14:01 0
小説第四弾(NIGHTMARE CITYシリーズ)

プロローグ 新たな命

ーー宇宙の大いなる二つの光が出会いし時、その光は一つとなりて、真の姿を現さん。その燃えゆる力、正に神の如しーー

あの旅立ちから、約10ヶ月後・・・
夜の月明かりに照らされ穏やかに輝いている、蒼い惑星ーー『地球』。その星に向かって突然、一つの小さな白い光が飛び込んで行った・・・。
地球の夜空へと飛び込んだ白い光は、そのまま日本の関東地方上空を飛び、やがて東京のとある病院の前へと降り立つ。その直後に、白い光は人の形を取りながら小さくなり、中から出てきたのは『赤髪に透き通った黄色い瞳を持つ青年』だ。
青年はどこか心配な表情を浮かべると、そのまま病院の中へと入っていった。
(エー、待ってろ・・・もうすぐだ・・・。)
彼は頭の中でそう言い聞かせながら、階段を五階まで駆け上がっていく。『エー』とは、彼の愛する妻のことだ。今日はある一大事のために、病院に入院している。そのため彼は地球に帰ってきたのだ・・・

大切な『我が子の誕生』を、見届けるためにーー。
6TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/04(木) 06:11:54 0
彼が五階まで階段を駆け上がると、部屋の前には既に二人の若い女性が座席に座って待っていた。見た目からして、二人とも同じぐらいの年齢だろう。
一人は薄紫色の長髪をポニーテールで纏め上げ、落ち着いた水色の瞳を持っており、もう一人は桃色の長い髪をそのままに、透き通った青色の瞳を持ち合わせている。その顔に映る表情は二人とも、『不安』と『心配』だ・・・。
彼の参上に気が付き、薄紫色の髪を持つ女性が声を掛けた。
「アヒャはん・・・。」「のー、しぃさん・・・遅れてしまって、本当にすみません・・・。エーの様子は・・・?」
息が切れながらも発した彼の質問に、その水色の瞳を持つ女性『崎島 野里華』(のー)が答える。
「・・・エーちゃんの陣痛が始まって二時間が経つんやけど・・あともう少しの所なんや・・・。」「そうか・・・。」
「エーちゃんも体力ギリギリなんよ。でも、アヒャはんが応援してくれたら、エーちゃんもきっと頑張れる筈や。」「ああ・・・。分かってるさ・・・。」
そう言いながら、のーに『アヒャ』と呼ばれた青年はゆっくりと部屋の前の座席に腰掛けた・・・。
7TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/04(木) 23:24:54 0
座席に座った途端、彼の口から『ハァ』と大きなため息が吐き出された。額から汗が流れ落ちている・・・。相当慌てていたのだろう。
息を切らしているアヒャに、『エー』の母親ーー『擬古河 椎奈』(しぃ)が心配して声を掛けた。
「相当慌ててきたんだね・・・。大丈夫? 無理させちゃったね。」
彼女の声に、アヒャは笑顔で答える。
「大丈夫ですよ。エーが必死に耐えている痛みに比べたら、このくらい・・どうってことも・・・。それに自分の子供が生まれる時なんかに、仕事なんてしていられないですから・・・。」
彼の家族思いな性格が伝わる一言に、義母でもあるしぃは心配な表情を浮かべつつ、口元には笑みを浮かべた。
体に鞭を打ってでも家族に愛情を注ぐところが、まるで自分の夫である『擬古河 醍醐』(ギコ)によく似ており、自分の娘を大切にしてくれてることがとても嬉しかった。
しかしこの頃の彼は仕事盛りで、休む暇さえない。従って彼の体は消耗しきっている筈だ。彼女は、アヒャがいつか過労で倒れてしまうのではないかと心配していたのだ。
「本当に大丈夫なの・・・? ・・・栄香の事をよく考えてくれているのは嬉しいけど・・・自分の体も心配しなきゃダメよ?」
8TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/05(金) 19:25:32 0
「はい・・・。」
彼女の心配する声に、アヒャは苦笑いで返答する。
そんな彼の顔が、やはりどこかやつれているようにも見える・・・。体を酷使し過ぎているのではないだろうか・・・彼女はそんな気がしてならなかった。

扉の奥で、若い女性が力一杯に叫んでいる声が聞こえる・・・。この声はつまり、新たな命が間もなく産まれること意味しているのだ。
苦しそうな彼女の声に、アヒャは握り拳を作りながら複雑な表情を浮かべている。
本当は今すぐにでも、分娩室の扉を開け放して彼女の手を握りたい・・・自分が側にいることを、伝えたいのだ。しかし、彼は数日前に彼女からあることを頼まれたのだ。

『お願いって、どうした?』『赤ちゃんが産まれるまで、分娩室に入らないでほしいの・・・。』『? それは、どうして・・・』
『貴方が私の側にいてくれるのは、とても嬉しいよ。でも赤ちゃんを産むとき、何だか貴方に甘えそうな気がして・・・。だからお願い・・・一人にさせて。』『・・・本当に平気か?』
『うん。私の中には、いつも貴方がいるから・・・。心配しないで。』

今入ったら、この約束を破ってしまうことになる。一体、自分はどうすれば・・・。
と、その時・・・ 
9TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/05(金) 22:00:01 0
「おぎゃぁぁ〜〜!」「!!」
分娩室の奥から、自分とエーの間に新しい命が誕生したことを示す、『生命の産声』が耳に響いたーー。
産声が聞こえた直後に分娩室の扉が開き、中から白衣姿の医師が彼らの前に立つ。三人とも反射的に立ち上がり、医師に視線を合わせた。
「『相沢 珀作(ひゃくさ)』さん・・ですね?」「先生! エーは・・・赤ちゃんは!?」

「お二人とも無事です。出産おめでとう。元気で可愛い、『女の子』ですよ!」

「やったぁ!!」
医師の口から出た言葉に、全員顔を見合わせ喜び合う。アヒャは特に、瞳から涙を溢れ立たせながらも笑っていた。余程心配だったのだろう・・喜ぶあまりに、声のボリュームが無意識の内に上がっている。
「アヒャはん、良かったなぁ!! ついに『お父さん』やで!」「みんな、本当にありがとう・・・。マジで嬉しいよ・・・!」「さぁ中に入って、顔を合わせてあげて下さい。」
医師に言われるがまま、彼らは分娩室の奥へと入っていく。すると・・・

しぃと同じ桃色の長い髪を持ち、透き通った深みのある緑色の瞳を持つ女性ーー『相沢 栄香』(エー)と、その隣に『生まれたての小さな命』がベッドの上に横たわっていた・・・。
10TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/06(土) 10:08:35 0
「エー!」「! アヒャ・・・!」
ベッドに近づき、彼らの無事を確認するアヒャ。その目には安堵した表情と、嬉涙が薄く浮かび上がっている・・・。嬉しいだけでなく、言葉に言い表せないほどの高まる感情が、彼の心を満たしていた。
アヒャは彼女の手を握り、涙を頬に流しながら話しかける。
「お前・・よく頑張ったなぁ・・・。二人とも無事で、本当に良かった・・・。」「アヒャ・・ありがとう・・・。貴方が私の側にいてくれたから・・・私は頑張れたんだよ?」「! べ、別に俺は・・・。」
「ふふっ・・・。赤ちゃんを見てあげて・・・。」
彼はエーの側で眠っている小さな赤子に視線を合わせる。
赤と桃色が綺麗に混ざり合った、朱色の薄い髪の毛・・・そして人形のように可愛い顔には、黄緑色の眠たそうな円らな瞳がウルウルと輝いている。この二つの特徴が、彼らの子供であることを強く象徴していた。
「可愛いなぁ・・・。この子が、俺達の・・・」「うん。・・・名前を付けてあげて。」「うーん・・・そうだなぁ・・・。」
アヒャは暫く悩んだ後、一番しっくり来るものを紙に書き、答えを出した・・・。
11TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/06(土) 10:39:29 0
「これでどうだ・・・?」「?」

彼の書いた紙には、『珠璃』の二文字があったーー。

「名前は、『ジュリ』。『珠』のように美しく、『瑠璃色』のような穏やかな心を持つ子に育ってほしい・・・という意味さ。・・・どうだ?」「綺麗な言葉・・・。私もそれが良いと思う・・・。」「じゃあ、決まりだな・・・?」
エーが頷いた後、二人は再び赤子に視線を向ける。すっかり眠くなってしまったのか、瞳を閉じてスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている・・・。エーは彼女の頭を優しく撫でながら、静かに声を掛けた・・・。

「私がお母さんだよ・・・。これから宜しくね・・『珠璃ちゃん』・・・。」

この時、まだ二人は気づいてなかったのだ・・・
その子供『相沢 珠璃』(ジュリ)が、この世界を救う鍵になることをーー。
12TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/06(土) 20:12:02 0
ウルトラマンコスモスvsウルトラマンジャスティス×エヴァンゲリオン〜Rebirth of Legend〜

主な登場人物(前作から)
擬古河 宝(ウルトラマンコスモス):
本作の主人公。コスモプラックを用いてウルトラマンコスモスへと変身し、優しさの『ルナ』・強さの『コロナ』・コロナがパワーアップした『スペースコロナ』、そして勇気の『エクリプス』の四つのタイプを使い分けている。
前作のラストで、自分の夢である『宇宙警備隊員』になるためにM78星雲へ旅立っていったが、訓練を終え晴れて正式な隊員として約七年ぶりに地球へ帰還する。
得意技は『フルムーンレクト』(ルナ)・『ブレージングウェーブ』(コロナ)・『コズミューム光線』(エクリプス)、そして教官であるウルトラマンタロウに教わった、『コスモストリウム光線』(コロナ・スペースコロナ、小説オリジナル)。

房波しぃ(フサしぃ):
17歳。本作のヒロインで、タカラの初恋人。両親が前作でナックル星人によって殺されたため、現在は擬古河家に居候中。
前作で小学一年だった彼女も、今や立派な高校二年生。しかし彼女の心優しい性格や、タカラへの特別な感情は今も変わっていない。
13ゴラ ◆UQvQJ57BFY :2010/03/06(土) 20:44:09 0
乙!

偶然だろが、友達から「今日、次男が誕生した」とメルが北♪
14TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/06(土) 21:59:25 0
相沢 栄香(ウルトラマンティガ):
通称『エー』。タカラの姉にして、前作の主人公。26歳。本作品では一児の母親である。
父親から光の遺伝子を受け継いだため、スパークレンスを用いてウルトラマンティガへと変身し、素早さの『スカイ』・怪力の『パワー』、そしてバランス型の『マルチ』の三つの能力を使い分けて戦う。
母親同様、とても心優しい性格の持ち主だが、怒るときは非常に厳しいという一面も持ち合わせている。光の力の意味をまだ完全に理解できていない娘『ジュリ』が非常に気がかりで、一番の悩みの種である。
得意技は、『ゼペリオン光線』(マルチ・パワー)、『ランバルト光弾』(スカイ)、『デラシウム光流』(パワー)。

相沢 珀作(ウルトラマンゼロ):
前作のもう一人の主人公で、ウルトラセブンの実の息子。エーと同い年で、同時に彼女の夫でもある。通称は『アヒャ』。
性格は少々荒っぽいが、家族に対する献身や他人を思いやる優しさは、エーに負けていない。彼女同様、光の力に目覚め始めた娘『ジュリ』が一番の悩みの種で、光の力の意味を教えるのに苦労している。
得意技は『ゼロスラッガー』や『ワイドゼロショット』等、父親のセブンによく似ている。
15TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/06(土) 22:14:07 0
>>13
そうですか! 本当に驚きましたwww
おめでとうございますとお伝え下さい!
16TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/07(日) 00:00:56 0
擬古河 醍醐(初代ウルトラマン):
栄香の父親で、通称『ギコ』。元々が『WALL.E』というロボットだったためか見た目はとても若いが、実は50歳の中年。
βカプセルを用いて初代ウルトラマンに変身するが、エーと遺伝子が同じなため、彼女の道具でティガに変身することも出来る。
ウルトラ兄弟の一員で、現在も地球を拠点に活躍中。正義感が強い性格だが、少々面倒くさがりな所も・・・。
必殺技は『スペシウム光線』。また人間体では、仮想空間『NIGHTMARE CITY』(以下NC)で使っていた剣『アクア・ジャスティス』を使用することも出来る。

擬古河 椎奈(しぃ):
栄香の母親。ギコ同様、元々『EVE』というロボットだったためか見た目が若いが、実年齢は48歳。かつて、NCで管理AIというCPプログラムだったという過去を持つが、今は生身の人間である。
彼女の持ち味でもある心優しい性格は、娘であるエーにそのまま受け継がれた。自分に孫が出来たことを喜んでいる反面、見た目が若いまま孫を持つことに複雑な思いがあるようだ。
管理AI時代の武器『ルナ・アロー』以外に、エーやギコ同様に光の力を持っているため、ティガへの変身も可能である。
17TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/07(日) 01:11:27 0
相沢 珠璃(ジュリ→ウルトラマンジャスティス):
本作におけるもう一人の主人公で、本作プロローグにてエーとアヒャとの間に生まれた女の子。七月七日生まれの6歳で、小学一年生。
両者の光の遺伝子が混ざり合い、ティガとゼロの要素を組み合わせた新しいウルトラマンーー『ウルトラマンジャスティス』へ変身する能力を持っているが、その力は未知数である。
人見知りが激しく、あまり他人に対して心を開かない性格だが、本当は心優しい。
自分の力に目覚めたばかりで、力の持つ本当の意味について、まだ何も分かっていない。また『怪獣=倒すべき相手』という考えが強く、暴れる怪獣や超獣を倒さずに浄化する『ウルトラマンコスモス=タカラ』に疑問を持ち、後に対立することになる。
主人公にしてキーパーソンであり、何やら重要な役割を担っているようだが・・・。
得意技は、『ビクトリューム光線』(スタンダード)と『ダグリューム光線』(クラッシャー)。

その他の登場人物1(名前のみ):
藤沢 克明(フサ→ウルトラマンガイア)
藤沢 つー
藤沢 楓香(フー)
金崎 モララー(ウルトラマンアグル)
金崎 唯(ぎゃしゃ)
白山 モナー(ウルトラマンダイナ)
18TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/07(日) 01:36:38 0
その他の登場人物2(名前のみ)
崎島 野里華(のー)
野上 いょぅ
碇 シンジ
惣流・アスカ・ラングレー
綾波 レイ
ヒビノ ミライ(ウルトラマンメビウス)
モロボシ・ダン(ウルトラセブン)
ウルトラマンタロウ


ウルトラマンレジェンド(???+???):
ギャシー星の伝説に残されている、宇宙最強のウルトラマン。過去に数度地球を守るために現れているが、正体不明で何処から来たのか分からないので、『幻の超人』とされている。
伝説によると、『大いなる二つの光』が出会うとき、その光は一つになり『真の姿』を現すとされているが・・・。
19TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/07(日) 11:25:57 0
第一話 光の再会

ジュリの誕生から、約七年後・・・
地球から300万光年離れた、M78星雲ーー『光の国』。その中枢部に位置する『宇宙警備隊・訓練センター』では、ある人物が教官と出発前のトレーニングをしていた。
生徒であるウルトラマンは、銀色に赤と青の体表。教官であるウルトラマンは全体的に赤色の体表をしており、頭には特徴的な二本の角ーー『ウルトラホーン』を持っている。
教官と生徒はアクロバティックに攻撃を繰り返しながら、互いの体力を少しずつ削っていた。
「ヘッ! デャァッ!」「タァッ! ンンッ!」
彼らは互いに回し蹴りをヒットさせると、後ろへ間合いを広げる。

「よし・・・次は光線技だ。用意はいいか、『コスモス』!」「はい、『タロウ教官』!!」

互いに名前を呼んだ二人の巨人ーー『コスモス』と『タロウ』は、同時に両腕を上にあげた後、両手を腰に添えてエネルギーを貯めて・・・

「「『ストリウム光線』!!」」

両腕を横L字にして、『ストリウム光線』を同時に放った。
互いの光線がぶつかり合い、激しく火花が弾け飛んでいる・・・。威力はほぼ互角のようだ。
20TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/10(水) 18:47:34 0
タロウは教え子であるコスモスに、一喝をする。
「どうした、コスモス。その程度では私は倒れないぞ! お前の本気を見せてみろ!」「くっ・・・うぉぉぉおおおおおッ!!」
教官の一喝に、更に光線の威力を上げていくコスモス。彼の言葉に目が覚めたようだ。そして・・・
「セイヤァァッ!!」「! ぐっ・・デッ・・・!」
タロウのストリウム光線を見事に押し返し、彼の腹部にそのままヒットした・・・。
「! タロウ教官!」
猛々たる埃が舞い上がる中、コスモスは攻撃体のコロナモードから優しさのルナモードへと戻り、タロウの元へと駆け寄る。
教官相手に本気で光線を出してしまった・・・。遠慮するなと言われ、任務の出発前に最後のお浚いを申し出たのは自分自身だが、本当に大丈夫なのだろうか・・・。

駆け寄ってみると案の定、タロウの腹部には光線を受けた酷い火傷があり、カラータイマーが命の危険を表すかのように赤く点滅していた。
衝撃は自身の光線である程度押さえられていた筈だが、その腹部の傷はとても痛々しい・・・。
本気で光線技を打ったことに対して罪悪感に見回れたコスモスは、両手から倒れているタロウに向けて回復光線『ルナフォース』を照射した・・。
21TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/10(水) 23:24:56 0
コスモスの発する暖かい光に、タロウが受けた傷や火傷・・・そして、カラータイマーの輝きが戻っていく・・・。
これが彼の『優しさの力』であり、コスモスが持つ特別な能力の一つなのだ。
「大丈夫ですか・・・?」「ああ・・・。すまないな。」「・・・すみませんでした。貴方を傷つけてしまうなんて・・・。」「いや、あれでいい。私は『本気でやれ』と言ったんだ。それにお前は答えただけだろ。謝る必要が、何処にあるんだ?」
タロウは体の傷が癒えると、その場でゆっくりと立ち上がる。
「怪獣との戦いは、常に最悪の事態を想定して戦わなければならないのは、覚えているな?」「はい・・・。」「今の私がもし侵略者だったら、お前はどうしていた?」「・・・必ず、倒していました。」
彼はコスモスの肩に手を置くと、更に話を続ける。
「良いか、コスモス・・・。お前のように相手をいたわり、分かり合おうとする気持ちも大切だ。しかし相手が誰であれ、その星を守るには必ず止めを刺さなければいけない時もある。それが例え、『味方』と対立したとしてもだ。・・・分かったな?」
「・・・はい。」
コスモスの静かな返答にタロウもゆっくりと、しかし確実に首を縦に振り、頷いた。
22TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/11(木) 11:20:29 0
「よし・・・私が教えられるのは此処までだ。あとは、実戦から学んでいけ。」「タロウ教官・・・。」「お前は力も、その使い方もよく分かっている。心配はない・・・気を付けて行くんだぞ。」「・・・はいっ! 今まで、ありがとうございました!」
教官に背中を押され、宇宙へ飛び立とうとするコスモス。しかし、次のタロウの声に再び立ち止まった。
「コスモス!」「? 何ですか?」

「『メビウス』に、よろしくな!」

「分かってますよ。 ・・・シュアッ!!」
タロウの言葉に押されたコスモスは、約七年の間お世話になった『光の国』を遂に離れ、『宇宙警備隊員』としての初任務地へと飛び立っていった・・・。
これから彼は太陽系にある、蒼く輝く『生命の星』ーー地球を拠点として活躍することになる。それは同時に、彼が約七年ぶりに『故郷』に帰ることも意味している・・・。
(みんな、元気かなぁ・・・。)
コスモスは地球にいる友達や家族を思い浮かべ、期待に心を踊らせながら宇宙空間をひたすら飛び続けていった・・・。
23TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/11(木) 20:30:15 0
一方・・・
地球では、一人の若い男性がある家に向かって歩いていた。
どこからか暖かさが伝わる彼の髪は茶色で、白いシャツに青い上着を着ている。一見普通の若者のようだが・・・。
彼は住宅街にある、二階立てのクリーム色をした一軒家の前に立ち、インターホンを押す。
「は〜い! どなた様ですか?」
そう言いながら扉を開けて出てきたのは、桃色の髪を持ち、透き通った深みのある青色の瞳が美しい若い女性だった。彼女の方から漂う香りは、落ち着きのあるラベンダー・・・。
男性は扉を開けてきた彼女に、笑顔で話しかける。
「『椎奈さん』、お久しぶりです!」「『ミライ君』! 今日はどうしたの?」「皆さんに、お話があって・・・。」「本当? じゃあ、中に入って。ここで話しても、おかしいでしょ?」「ありがとうございます!」
『しぃ』にそう呼ばれた男性ーー『ヒビノ ミライ』(ウルトラマンメビウス)は、彼女の誘いに喜んで中に入ることにした。

リビングにあるソファーに座り、一息をつくミライ。そこに暖かいアップルティーを用意したしぃが、扉を開けてソファーの前のテーブルに三つカップを並べ、お茶を注ぎ込んだ。カップからはふんわりと甘い香りがする・・・
24TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/11(木) 23:17:02 0
「これしかないけど・・・良かったら飲んでみてね。」「ありがとうございます。いただきます。」
ミライは暖かなアップルティーが注がれたカップを手にとると、そのまま口へと運ぶ。
一口飲んだだけだが、そのリンゴの香りは瞬く間に口の中に広がり、飲み込んだ後でもほんのりと香りが残る・・・。ここまで味に深みのあるアップルティーは、ミライにとって初体験だ。
「・・・気に入ってもらえたかしら?」「とても・・美味しいです。」「そう? 良かったぁ・・・。」
彼の感想に、しぃは思わず笑みがこぼれる。自分の入れたお茶を気に入ってもらえて、本当に嬉しかったのだろう。
ふと、ミライは直感的に気付いたことを口にした。
「・・・椎奈さんは今、おいくつでしたっけ?」「? 私にその質問を・・・?」「! ごめんなさい・・不味いですね・・・。」
微妙な反応を示した彼女に恐縮したのか、ミライは素直に謝る。彼はこのように純な性格だが、時に良いことも有れば悪い面にも出たりするのだ。
しぃは彼の反応を見て小さく舌を出し、小悪魔のような笑みを浮かべながら話す。
「ふふっ、冗談よ! 今私は48歳なんだけど・・・何故か体は年を取らないのよ。」「えっ・・・?」
25TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/11(木) 23:52:03 0
「どういう事なんですか?」「つまり・・・『不老現象』って言うことなのかなぁ・・・。私やギコ君だけじゃなくて、フサ君とかモナー君もみんな老けないの。今、モナー君が一生懸命研究してるんだけど・・・原因もわかってなくて・・・。」
しぃは自分のカップに手を置きながら、若干落ち込んだような表情で話を続ける。
「この若い体は、今の生活にもの凄く大切だし、とても役立ってるよ。それに、いつまでも若いままで居られるから嬉しい。でも・・・」「でも・・・?」
「・・・私の『孫』に、『おばあちゃん』って呼ばれるのは辛いかなぁ・・・。確かに私はあの子の『祖母』だけど、若いままで『おばあちゃん』は、ちょっと・・・。」「・・・。」
しぃの複雑な表情に、ミライは申し分けなさそうな表情を顔に映し出す。聞いてはいけなかっただろうか・・・。いや、絶対に聞いてはいけなかったに違いない。
「何か・・・ごめんね。折角来てもらってるのに、暗い話しちゃって・・・。」「椎奈さん・・・。」
その時廊下の奥から、玄関の扉が開く音が響いた。
「ただいまぁ〜!」「! 丁度、帰ってきたみたいね。」「・・・?」
26TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/13(土) 08:45:34 0
ミライとしぃが声が聞こえた方へ視線を向けると、丁度その人物が扉を開けてリビングへ入ってきた。手に握られている手提げには、何処かで買い物をしたのか食材が詰め込まれている・・・。
「! こんにちは、ミライさん!」「『栄香さん』!」
ミライにそう呼ばれた女性ーー『エー』は、母親のしぃに今夜の材料の買い足しを頼まれていたようだ。
透き通った美しい緑色の瞳以外、しぃと同じ桃色の長い髪を持つ華奢な姿は、七年前となんら変わっていない。むしろ、更に美しさが磨かれている気がする。そして・・・
「ほら、『珠璃』。貴方もちゃんと挨拶しなさい。」「うん・・・。」
彼女の後ろに隠れていた小さな女の子が、ひょっこりとこちらに顔を覗かせ、エーの脚を掴みながらゆっくりと体をこちらに向かせた。
まだ幼いその顔には眠たそうなエメラルド色の瞳が輝いており、長く延びた髪は桃色と赤が混ざり合い、朱色にも見える。

「こ、こんにちは・・・。『相沢 珠璃』・・です・・・。」

「ジュリちゃん、初めまして。僕はヒビノ ミライです。」
恥ずかしそうに自己紹介したこの女の子。彼女こそが、七年前に生まれたエーの娘『相沢 珠璃』である。
27TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/13(土) 11:15:04 0
ジュリは自己紹介をした後、顔を赤くしながら再び母親の後ろに隠れてしまう。突然の可愛らしい行動に、ミライは思わず笑みがこぼれる。
「ごめんなさい。ジュリはどうしてか、他の人と顔を合わせるのが苦手で、よく人見知りもしちゃうの・・・。」「大丈夫ですよ。気にしてないです。」「ところで・・・何でミライさんがここに?」
彼女の質問に、しぃが答える。
「何か大切な話があるみたいで、これから聞くところだったの。栄香も聞いておいた方がいいわ。」「大切な話・・・? 分かったよ。」
エーはそう言うと自分の娘に振り返り、しゃがみ込んで言い聞かせた。その表情は七年前とは違い、すっかり母親の表情だ。
「ジュリ。ママはこれから、大事なお話をしなきゃいけないの。だから、お話が終わるまで静かに待ってて。いいかな?」「うん。」
エーの説得に素直に頷いた珠璃は、自分の部屋へとすぐに戻っていった。
珠璃は素直な性格で、エーの指示にもすぐに答えてくれる。しかし何故、彼女は此処まで他人と接触するのが苦手なのだろうか・・・。
娘が行ったのを確認し、エーは母親の隣に腰掛ける。こうして並んでみると、本当に瓜二つということがよく分かる。
28TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/13(土) 14:22:15 0
「それでお話って、どうしたの?」「はい・・・。本当はもっと早くに伝えるべきだったんですが、実は今日・・・」「知ってるよ。」「?」
ミライの話の途中で、エーが言葉を遮る。
「今日、『弟』が帰ってくるんでしょ?」「! 知っていたんですか?」「うん。アヒャからもう聞いてるよ。」「それなら、話が早い。」「え? 話って、それの事じゃないの?」「はい。二つあります。」
しぃとエーは頭に疑問符を浮かべながら、同時に首を傾げる。
「まず一つ目に、僕も一緒に地球に来ることになりました。怪獣や異星人の活動が活発になったので、これからは僕とコスモスで地球の任務に当たります。僕は一時的に滞在しますが、『タカラ君』はこのまま地球で活動する予定です。」
ミライの口から出た『タカラ』とは、コスモスの地球人としての姿だ。
「そしてもう一つ、重要な話があるんです。」「・・・?」
ミライは一呼吸置くと、顔色を真剣な表情に変えて話し始めた。
「僕とコスモスが地球に来た理由は、護りに来ただけではないんです。ある『超人』を探して、この星に来ました。」「超人って・・・?」「はい。遙か昔に、地球の危機を救ったと言われている『伝説のウルトラマン』です。」
29TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/14(日) 00:23:46 0
「その話・・・もっと詳しく聞かせてくれる?」「はい・・・。」
しぃの願いを聞いたミライは、今自分が分かっていることを淡々と話し始めた。
「その昔に、地球が宇宙正義『デラシオン』から危険と見なされ、地上の生物全てを消し去り元の何もない状態にリセットされる危機があったんです。人類とその当時にいたウルトラマンは決死の覚悟で敵に挑みましたが、全く歯が立たちませんでした。」
ミライの話に真剣に耳を傾けるエーとしぃ。彼らの頭の中では、地球が紅蓮の炎に包まれ崩壊していくビジョンが浮かんでいる・・・。地球のリセットは、考えただけでも悪寒が走るものだ。
「最大限の力を出し切った守備を退けて、地球に向かって惑星破壊兵器『ギガエンドラ』によるリセットがいよいよ仕掛けられようとしたその時、何処からかその巨人が現れて、ギガエンドラを破壊したんです。」「・・・。」
彼の話に沈黙をする二人。彼らの気はすっかりミライに向けられており、動く気配もない。
「その巨人は敵を一撃で倒した直後に光と共に消え去り、以来は姿を見せることがありませんでしたが、地球ではその伝説的な力から、後に巨人を『ウルトラマンレジェンド』と呼ぶようになったようです。」 
30TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/16(火) 17:47:04 0
「ウルトラマン・・レジェンド・・・?」
しぃはその伝説の巨人の名前を聞いたとき、何故か違和感を感じた。以前にその名前の巨人に、何処かで会った気がしたのだ。
自分の錯覚だろうか・・・。でも、彼女自身にはその記憶に確信があった。
(確か・・・仮想空間であの時見たウルトラマンって・・・。)
仮想空間『NIGHTMARE CITY』でのラストバトルで、グリッターティガと共に戦ったウルトラマンを回想するしぃ。
光を失い掛けていたコスモスに、その当時仮想空間の実体データだったモララー・モナー・つー・フサの四人と、セブン・ジャック・エース・メビウスのウルトラ兄弟達のエネルギーが注入され、融合して登場した謎のウルトラ戦士・・・。
(あのウルトラマンの名前は・・・。)
「・・・お母さん?」「! ん?」
しぃがそんな事を考えていると、娘から突然話しかけられた。
「どうしたの? 真剣な顔しちゃって・・・何か考え事?」「え? あっ、ううん。何でもない。続けていいよ。」「ふぅん・・・。」
娘の不満そうなため息を余所に、しぃはミライと更に話を続ける。
31TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/16(火) 20:12:28 0
「どうして、そのウルトラマンを探しているのかしら?」「僕もその指令の後にゾフィー兄さんに理由を聞いてみたのですが・・・」
彼は出発前の出来事を頭の中で回想し、その内容をしぃ達二人に向けて話した。

『隊長!』『! メビウス、君はもう出発したのではなかったのか?』『出発前に一つ、あの指令の理由についてお聞きしたいのですが。』『! そうか・・・君は、大隊長からまだ何も聞かされていないのだな・・・。なら、私から話しておこう。』
『どうしたのですか?』『大隊長から、地球が何者かに狙われているとの知らせがあったのだ。』『なら、僕達に任せて・・・』『君達にそう言いたいのだが・・そうもいかないんだ。』
『えっ・・・?』『つまり・・君達や私達にも対処が出来ない途徹もなく大きな勢力が、地球を狙っていると言うことだ・・・。しかしそれが、一体何者なのかは分かっていない・・・。』
『そんな・・・。』『・・・ある星の伝説によれば、二つの光が出会う時に、光は一つとなって真の姿を現すとある。このヒントを元にして、調査を続けて欲しい。』『・・・。』
『・・・着いたら、ギコ達に伝えてくれ。地球に今、再び最大の危機が迫っていることを・・・。』
32TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/16(火) 21:17:19 0
ーー地球最大の危機ーー
この言葉を聞いた彼女達は、一瞬にして顔色を変えた・・・。自分達が住んでいる青い惑星が、知らぬ間に再び外敵に狙われているとは・・・。
すっかり青ざめたエーが、ミライに聞く。
「何者か分からない・・・? それって怪獣でも、異星人でも無いって事なの?」
「いいえ・・・。これは僕の予測ですが、地球を狙っているのは『エンペラー星人』の可能性が高いです。」
エンペラーという名前に、眉を若干顰めるしぃ。
「彼は暗黒宇宙の大皇帝で、全宇宙の怪獣や異星人を束ねることが出来ますから、僕達ウルトラ兄弟でも対処しきれない程の大軍団を形成することも出来ます。でも・・一つ気になることがあるんです。」「それは・・・何?」
「僕がまだルーキーの頃に、エンペラー星人は怪獣達を操るだけでなく、パラレルワールドの世界に足を踏み入れる事も可能だという話を聞いたことがあるんです。その話が本当だとすれば、異世界の敵をこちらの世界に解き放つ可能性も恐らくは・・・。」
ミライの話に、不安の色を濃くする二人・・・。不安な表情を浮かべたまま、しぃはミライに聞く。
「万が一、そのウルトラマンを見つけられなかったとしたら・・・?」
33TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/16(火) 23:31:44 0
しぃの質問に、ミライは一瞬躊躇した後に答えた。
「・・・僕達戦士が戦って、守り続けるしかありません・・・。地球が戦場になることは、間違いないでしょう・・・。」
そう言うとミライは突然立ち上がり、目の前で座っているしぃ達に向かって深くお辞儀をした。剰りに突然な行動に、しぃとエーは戸惑いを隠せない。
「ちょっ、ミライ君いきなり・・・」「こんな事になってしまったのは、僕達戦士の責任です! ・・・本当に、ごめんなさいっ!」「ミライ君・・・。」
頭を深々と下げているミライに、しぃが優しく声を掛ける。
「謝らなくても大丈夫だよ・・・。ミライ君達が、全部悪い訳じゃないのよ? それに、もし見つけられなくても私達が手伝うから。」「椎奈さん・・栄香さん・・・。」
「忘れないで。私達だって、ウルトラ戦士の一人なんだから! だから頑張って、一緒に探しましょ?」「・・・G.I.G.! 有り難うございます!」
彼女達の頼もしい一言に、笑顔で頷くミライ。その時・・・

アップルティーの入ったカップが音を立てて小刻みに揺れだし、外の方で突然轟音が響き始めた・・・。

「! この揺れは何・・・? 地震?」「いや・・空から、何かが来る!」
34TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/18(木) 05:57:37 0
三人は外へ出ようと、衝撃で揺らめく廊下を玄関まで進む。
その時、二階へ続く階段から誰かの声が掛かった。
「ママっ!」「ジュリ! 気をつけて!!」「わ・・・っ。」
揺れる階段を、おぼつかない足運びで降りてくる『珠璃』。彼女の足取りでは、途中で必ず転落してしまう・・・。故に足元が板張りなので、大怪我をする可能性もある。大丈夫なのだろうか・・・。
そうエーが考えていた矢先・・・突然ジュリが足を滑らせて、母親に飛び込んできた。
「きゃあああっ!」「ジュリ!」
板の間に頭をつく前に、エーの胸に無事に飛び込んできたジュリ・・・。正に間一髪の所だ。しかし、受け止めたエー本人はそのまま廊下の壁に激突し、頭を強打してしまった。
「あぁっ! 痛・・っ・・・。」「ママ! 大丈夫・・・?」「う・・ん・・。ジュリは平気? どこも怪我してないの?」 「私は、大丈夫・・・。」「もう、無茶したらだめよ。分かった?」「うん・・・。」
エーは彼女を抱きかかえたまま、ミライ達がいる外へと駆けていった。
35TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/18(木) 22:59:44 0
扉の開いた玄関へと駆け込み、エー達は外でようやくしぃとミライに合流できた。
先程までの揺れが嘘のように、辺りは静けさを取り戻しつつある。ジュリはあの体験が余程怖かったのか、自分の体を彼女の体に引き寄せ、顔を胸に押しつけたまま動こうとしない・・・。
一方でしぃ達は視線を一つに向けたまま、険しい表情でそれを見つめていた。彼らの視線の先には、一体何があるのか・・・。
エーも構わず、彼らの視線に合わせてみる。すると・・・

住宅街の空に、まるで蝉のように黒くスラリとした体を持った『不気味な影』が、そこに立っていたーー。

両手はハサミに変化しており、頭部の近くで輝く目は怒りを表すかのように赤くなっている・・・。
特徴的なその姿に、エーはミライに聞く。
「あの宇宙人って、もしかして・・・。」「・・・宇宙忍者『ネオ・バルタン星人』です・・・。」
バルタン星人は地球へ強制的に移住するために、過去に幾度も人類を襲い、ウルトラマンに倒されてきた宿敵である。
今回もまたその目的で、地球を襲いに来たのだろうか・・・。
そうエーが考えた時、しぃがある異変に気がついた。
「あのバルタン星人・・・何処か様子が変よ・・・。」「えっ?」
36TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/18(木) 23:39:27 0
彼女に言われるがまま、エーはバルタン星人の姿をよく見てみる。すると・・・

彼の周りに、無数の虹色の光が飛び交っているのが分かったーー。

「・・・『カオスヘッダー』!? でも、何で・・・」「きっと、何者かが細工したに間違いありません。バルタン星人はこのカオスヘッダーにコントロールされて・・・」
「ブォッフォッフォッフォッフォッ・・・!」
ミライが言い掛けた瞬間、バルタン星人は特徴ある笑い声を発し、ついに町を襲い始めた・・・。それもただ襲うだけではない。まるで、ミライ達三人を襲うように攻撃をし始めたのだ。
ハサミから放たれた光弾が家の近くに被弾し、土砂と爆風が彼らを襲う。
「きゃあっ!」「! ハッ!」
自分達の危険を察知したミライは、次々に追撃してくる光弾から彼女達を守るため、左腕にメビウスブレスを発生させた後、光のバリアー『メビウスディフェンサークル』を発現させる。
更に隙を見て、ブレスに右手を添えて『メビュームスラッシュ』を発射し、敵の左腕にヒットさせた。
「ここは危険です! 今は早く避難しましょう!!」「はい!」
ミライの真剣な言葉に押され、彼らは逃げまどう人々の中に紛れ込み、逃走を始めた・・・。  
37TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/20(土) 07:31:39 0
バルタン星人はまるで狂ったかのように暴れ回り、住宅街を次々に破壊していく。
彼らの自宅から少し離れたとある高校も、生徒達が慌てながらも外へと避難を開始していた。
そんな中、外へと逃げ出したのにも関わらず、ある一人の少女がバルタン星人の様子をじっと見つめていた。
すらりとバランスがとれた美しい体型で、髪は赤いピンで留めた長い亜麻色。そしてその優しい輪郭を持つ顔には、蒼い円らな瞳がウルウルと輝いている・・・。
バルタン星人の攻撃を見て、少女は小さく呟く。
「あの光は、あの時の・・・。」
彼女は、約七年前にこの虹色の光を見た時のことを思い出していた。あの時は『ある巨人』の姿をコピーし、互角以上の戦闘を見せていたが・・・。
そう思い出していたその時、バルタン星人が突然攻撃を止め、体勢を別の方向へと変えた。視線の先にあるのは・・・路上に倒れた小さな女の子だ。
バルタン星人は今にもその女の子を打とうと手を上げ始めている・・・。
「! 危ないっ!!」
少女はその脅えている小さな女の子を見つけるととっさに体を動かし、抱き上げたまま逆方向へと走り始めた。
宇宙人の手から放たれた連続光弾が、少女のすぐ後ろに被弾していく・・・。
38TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/20(土) 08:27:07 0
うまく逃げきった彼女達はビルの後ろに隠れ、一呼吸をおく。バルタン星人も気付いていないようだ。
「ハァ・・ハァ・・・。」
少女の口から吐き出されている息は、とっさに起こした行動ですっかり息が上がっていた。普段は人を抱えたことも無かったためか、その疲れは半端なものではない。
彼女は助けた女の子を見るため、顔を女の子の方へ向けてみる。すると・・・

「! ・・・『フーちゃん』?」「・・・! 『フサしぃお姉ヒャン』!」

知り合い同士の顔が、目の前にあった・・・。
彼女に抱き抱えられていた女の子は『藤沢 楓香』(フー)といい、9際の小学四年生である。実は、少女の通う高校の担任の娘なのだ。
フーに『フサしぃ』と呼ばれた少女は、どうして彼処にいたのか理由を聞いた。
「逃げないで、どうして彼処に居たの? 危なかったでしょ?」「お父ヒャンが心配で、お母ヒャンとはぐれちゃったの・・・。お父ヒャンは何処?」
因みに、フーは生まれつき『さん』を『ヒャン』と呼ぶ癖がある。
「大丈夫・・・。お父さんは、きっともう避難している筈だよ。一緒に逃難しましょ?」「うん・・・!」
事情が分かったフサしぃは、フーと一緒に逃げようと立ち上がった。
39TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/20(土) 22:52:08 0
バルタン星人の登場に自衛隊の戦闘機達も遂に動きだし、F-15Jイーグルの軍団が立ち向かい、次々にミサイルをヒットさせていく・・・。
「大丈夫? 行くよ・・・!」
戦闘機の連携攻撃で、徐々に追いつめられていくバルタン星人・・・。建物の陰からその活躍を見たフサしぃとフーは、隙を見て避難を開始しようとした。ところが・・・
「っ!」「! 嘘・・・。」

バルタン星人は腕を振り上げると、両手のハサミから赤い光線を発射し、一撃で戦闘機全てを破壊してしまったーー。

道の真ん中で、呆然と立ち尽くすフサしぃ達・・・。バルタンは手を振り上げたまま、道路上でポツリと取り残された彼女達に再び視線を合わせた・・・。
このままこの場所にいたら、絶対にやられる・・・。そう思ったフサしぃはフーの手を引いて、バルタンとは逆の方向へ走ろうとする。しかし・・・
向いた逆の方向にも、全く同じ構えをしたバルタン星人がーー!
まさかと思い、フサしぃは落ち着いてゆっくりと辺りを見回す。すると・・・

自分達の気付かない内に、周りが全て無数のバルタンに囲まれていた・・・。
40TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/20(土) 23:38:33 0
フサしぃ達の周りを囲むバルタンはまるで巨壁のようで、その外へは絶対に出ることが出来ない。まさに八方塞がりで、『袋の鼠』の状態だ。
周りを囲むバルタン星人達はゆっくりと腕を上げて、ハサミの先をフサしぃへと向ける・・・。
フサしぃはその威圧的な行動に押されてしゃがみ込み、肩を震わせて腰が抜けてしまったフーを自分の胸に抱きしめる。今の自分にはこれしか出来ないが、まだ幼いフーを救えるのならせめてもの救いだ。
突然の事で、フーは震えながら声を出す。
「フサしぃ・・お姉ヒャン・・・?」「心配しないで。私が貴方を守ってあげる・・・。フーちゃんは殺させない・・・。」
フーの前では冷静に声を出していたフサしぃだったが、内心はいつ光弾が発射されるのか分からず、自分が死んでしまうことに対する恐怖と、自分の大切な人と交わした『約束』が、守れなくなってしまう後悔で一杯だった・・・。
約七年前のあの日に交わした、『再会の約束』ーー。その約束が、いつか果たされることを彼女は夢見ていた。
しかし、そんな夢もこの宇宙人達の一撃で粉々にされてしまうのだ・・・。
エネルギーが集まる音が大きくなる度に、その『逢いたい』気持ちも大きくなっていく・・
41TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/21(日) 00:09:00 0
自分が幼い頃からいつも一緒で、ピンチになった時に幾度も救ってくれた『幼なじみ』は今、遠い空の彼方で『夢』を追っている。
その夢がかなった時、必ず再会できると信じていた。なのに・・・
そんな彼女の想いが最高潮に達した時、その気持ちは初めて『声』となって吐き出された・・・。

「『タカラ君』っ!! 助けてぇぇーーーっ!!」

刹那、バルタンのハサミから強烈な威力を持った光弾が発射された・・・。

数秒後・・・
猛々たる煙に包まれた着弾点・・・。その煙は遙か上空にまで上り、まるでベールのようにその中心を隠していた。
煙の中で、フサしぃは瞑っていた瞼をゆっくり開いてみる。体に痛みはない・・・。それだけボロボロにやられたということなのか・・・。
しかし目を開いてみると、自分の体は全く粉々にされておらず、胸には抱きしめた状態でフーが気絶している。一体、何で自分の体が無事なのか・・・。
そう思ったその時、煙の奥で誰かの声が聞こえた。
「その無茶な性格も、変わっていないんだな・・・。」「えっ・・・? 誰なの?」
彼女が何処からか聞こえるその声に質問すると、煙がまるでそれに答えるかのようにゆっくりと晴れ始めた・・・。
42TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/21(日) 10:02:51 0
下からベールが無くなっていく内に、声の主の体が徐々に明らかになっていく・・・。
声の主は、バルタンに静かに語りかけた。
「バルタン・・・君は前に、僕に話してくれたよね。君の星の秩序を乱してしまったのは、自分達のせいだって・・・。だから君は地球の人達に、決して夢を捨てないでくれって言ってくれたよね?」「・・・。」
「僕も地球の人間として、君の言葉のように夢を捨てないで生きてきた・・・。だから、今の僕が居るんだ。」「ナニヲ・・イッテイルンダ・・・?」
「僕はその恩返しがしたいんだ・・・。苦しかったよね・・・望まぬ力を持って、こんな風に暴れたくなかったよね・・・。」「ダマレ!!!」
次の瞬間、ベールの奥から再び光弾が飛び出す。しかしフサしぃ目の前に突然金色の壁が反り立ち、彼女達には爆風だけが行き届いた。
「きゃっ!」
強烈な爆風に再び目を瞑るフサしぃ。その瞬間、巻き上がっていたベールが全て吹き飛ばされた。
爆風が止み、フサしぃは堅く瞑っていた目を見開く。すると・・・

自分の目の前に、青い2本の柱のような物・・・更に視線を上げてみると、太股から胸にかけて銀色と赤い帯が走っている巨人が姿を現したーー。
43TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/21(日) 10:46:42 0
胸の部位には若干金色の帯があり、遙か遠くに見える顔は優しさを現すかのように円らな瞳が輝いている。
フサしぃは彼のこの顔に、とても見覚えがあった・・・。十年前に自分を守ってくれた、あの『青い巨人』にそっくりだったからだ。
「! ・・まさか・・・!」
怒り狂ったバルタン星人は、その巨人に言葉を返す。

「オマエハ、ワタシニナニヲノゾンデイルンダ、『ウルトラマンコスモス』!」「僕は大切な人を護りたい・・・! 君の心を、救いたいだけなんだ!!」

バルタンにその名前を呼ばれた『勇気の巨人』ーー地球での新モード『エクリプスモード』となった『ウルトラマンコスモス』は、足元にいる自分の大切な人とバルタン星人の両方を救うため、地球の大地を駆けだしていった・・・。
44TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/22(月) 00:54:49 0
「!!」
コスモスという名前に、突然胸の鼓動が高鳴ったフサしぃ。長い間待ち続けていた相手が、遂に地球へ帰ってきたのだーー。
フサしぃは瞳に薄く涙を浮かべると、小さくエールを送る。
「頑張って・・『タカラ君』・・・!」

「トゥアッ!!」「!」
バルタン星人の手前まで来たコスモスは、大きく跳躍をする。それに合わせるように、バルタンもハサミを構えて彼に向かって光弾を打ち込んだ。
ところがコスモスは空中で体を曲芸的に捻りながら、三発の光弾をかわし・・・
「『スワローキィィィック』!!!」「フォッ!?」
バルタンの脳天へ向かって急降下し、タロウから教わった『スワローキック』を食らわせた。
約七年の訓練を終え、成長したコスモスの戦い方は想像を大きく越えており、旅立つ前に見せていた攻撃に対する気の迷いも、敵の戦法や不意打ちに対する動揺も全く見られていない。
連続で叩き込まれる技の中にはタロウ直伝の技も組み込まれており、メビウス同様に教官から学んだ技を多く取り入れているようだ。
其れだけではなく、彼の体から繰り出される独自のパンチやキックなどの格闘技も鍛え直され、刺すように出される連撃はまるで蜂のように鋭くなっていた。
45TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/25(木) 20:00:31 0
挿入歌:
Spirit(ウルトラマンコスモスOP)

COSMOS! 強くなれるIt's all right!

愛って何なんだ 正義って何なんだ
力で勝つだけじゃ 何かが足りない
時に『拳』を 時には『花』を
戦いの場所は『心の中』だ!

COSMOS! 強くなれるIt's all right!
優しさから始まるPower それが『勇者』
COSMOS! どんな時もOne me right!
自分にだけは決して負けない 『ウルトラの誓い』・・・
46TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/25(木) 20:20:18 0
傷ついた誰かが 何処かにいれば
見ているだけじゃなく 助けに行きたい
広がる『宇宙』 一つの『世界』
僕達はきっと つながっている・・・

COSMOS! 頑張るからIt's all right!
君に見える『光のPower』 それが『未来』
COSMOS! どんな時もOne me right!
本当は敵なんかいない 『ウルトラの願い』・・・
47TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/25(木) 23:26:39 0
影分身をも見破り、隙のない攻撃で攻め立てたコスモスに対し、バルタン星人はどうにか対抗するために赤い冷凍光線を彼に向けて放つ。しかし、コスモスはその攻撃を読んだのか右腕から金色の矢尻光弾『エクリプススパーク』を発射し、相殺させた。
光弾を発射させた後、再び構えを正す両者・・・。しかし、コスモスはすぐに握っていた拳を開いて、構えを解いた状態でバルタンに話しかける。
「バルタン・・・もう戦うのは止めよう。僕は君と地球を救いに来た・・・。戦うつもりは、もう無いんだ。」「!? ナニヲイッテイル! キヨワニナッテ、マトモニタタカエナクナッタノカ?」
「違う・・そうじゃないんだ。このまま破壊活動を続けると、君の故郷の二の舞になってしまう。それは、本当の君だって望んでいない筈だ。」「・・・。」
「この星には、僕の掛け替えのない大切な人がいる・・・。そんな故郷を、僕は命に変えてでも護りたい。その故郷を護りたい気持ちは、君も同じだろ?」「ナニヲ・・ホザイテ・・・。」
「君はその護るための力を、破壊に使おうとしている・・・。そんな事は、僕が絶対にさせない・・・!」「ウルサイ!! オマエニワタシノ、ナニガワカルトイウンダッ!!!」
48TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/25(木) 23:49:54 0
バルタンは内から溢れる感情と共に、両腕のハサミから白色光弾を炸裂させた。
しかしコスモスはそれにも動じることなく、目の前に金色の壁『ゴールデンライトバリア』を展開させて光弾を弾き返す。弾き返された光弾はそのまま、打った張本人であるバルタンの胸に着弾しダメージを与えた。
不覚を取ったバルタンは、更に憤りを持った低い声でコスモスに問いかける。
「タカガウルトラマンゴトキニ・・ワタシハ・・・!」
ゆっくりと起きあがりながら、バリアで弾き返してきた彼を睨むバルタン星人。そこには・・・

両腕を胸の前で交差した後、その腕を下から大きく外方に回して金色のエネルギーを右腕に貯めているコスモスの姿があったーー。

エネルギーの貯まった右腕を構え、コスモスは静かに告げる・・・
「バルタン星人・・・君を今、自由にしよう・・・。」「ヤメロ・・ナニヲ・・・」
コスモスは光線のエネルギーが貯まった右腕を水平に伸ばすと・・・

「デェイヤァァァァーーーーッ!!」「ヤメロォォォォォォォ・・・!」

エクリプスモードの浄化必殺技『コズミューム光線』をバルタン星人の胸へ放った・・・。
49TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/26(金) 00:14:43 0
コズミューム光線がバルタン星人の体に放たれている間、その背中からは大量のカオスヘッダーが浄化されて吹き出ている。次々に出ていくカオスヘッダー・・・。そして・・・
「ウッ・・グッア・・・。」
全てを浄化されたバルタン星人が、ゆっくりと膝から崩れ落ちていった・・・。彼はカオスヘッダーに侵されながらも、自分の命を削って戦っていたのだ。しかしその顔は、浄化されてとても満足しているようにも見える・・・。
コスモスの想うとおり、彼は望まぬ力に苦しめられて暴れていた。この浄化はむしろ、望んでいたことなのかもしれない・・・。
白い光になって消えていくバルタンに、コスモスは優しく声をかけながら見送っていた。
「バルタン・・・。君の地球へ想いは、僕が受け継ぐ・・・。今まで、本当に有り難う・・・。」
コスモスに見送られ、バルタン星人は白い光になって散っていったのだった・・・。

数十分後・・・
騒動が収まった後の石碑の丘には、金髪を持った一人の青年が丘の頂上の木に触れながら、まるで懐かしむように町を眺めていた・・・。
空には既に夕日が落ちかけていて、麓にある満開のソメイヨシノが白から燃えるような紅に染まり始めている・・・。
50TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/26(金) 00:49:13 0
「七年も帰ってないのに・・・あんまり変わっていないんだなぁ・・・。」
彼が自分の青い瞳で、暮れ泥む町を眺めながら呟いた時、春の暖かい風が吹き付ける・・・。
それと同時に、彼の持っている少し長めの金髪が柔らかそうに靡いた、次の瞬間だった・・・
「そう言う君も、ちっとも変わってないね・・・。」「えっ?」
背後から、誰かが話しかけてきた・・・。声からして、自分と同じぐらいの少女だろうか?
彼は声がした背後へと体を向けてみる。すると・・・

さっきの戦いの時に見た『亜麻色の髪を持つ少女』が、目の前に微笑みを浮かべながら立っていたーー。

まさかの登場に、彼は七年ぶりに見た彼女の姿に胸を高鳴らせながら、その名前を恥ずかしそうに小さく呟く。

「フサしぃ・・ちゃん・・・?」

彼に名前を呼ばれた少女は、瞳に溜めていた涙を流しながら嬉しそうな笑顔を浮かべ、約七年ぶりに彼の名前を呼ぶ。

「お帰りなさい、『タカラ君』・・・! ずっと・・・ずっと、待ってたよ・・・っ!!」

彼女は約七年ぶりに帰ってきた青年『擬古河 宝』(タカラ)の胸に抱きつき、嗚咽をしながら泣き出してしまった・・・。

遂に果たされた、『約束の再会』ーー。
51TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/26(金) 22:51:08 0
フサしぃが自分の胸に倒れ込むのに合わせてタカラも優しく抱きとめ、約七年間離れていた温もりを確かめる・・・。
今の二人には、それだけで十分だった。
約十年前に告白しあい、約七年前に離れ離れになった『恋人』が今、同じ場所で『再会』する・・・その喜びは、一言では絶対に表すことが出来ない。
その言葉で表せない心の底からの幸せを、彼らはこうして静かに感じとっていた・・・。

暫くの間抱き合った後、二人は大きく成長した丘の大木の根本に座り込み、自分の中に秘めていた想いを語り合っていた。
約七年の間に溜めていた色んな想いを言葉にして、互いにぶつけ合う二人・・・。話が進む中、体育座りをしていたフサしぃが弱気な声で発言した。
「君がいない間・・・私、ずっと会いたくて苦しかった・・・。苦しくて、タカラ君に今すぐに打ち明けたいこと・・沢山あるんだよ・・・。」
数十分前に見せた勇敢な姿とは違い、彼の隣で弱気で甘いところを見せるフサしぃ。タカラは顔を少し赤くしながらその呟きに答える。
「ずっと長い間、待たせて悪かったね・・・。僕も君と離れている間、本当に辛かったんだ・・・。苦しくて、逃げ出したいと思うことも何度もあったし・・・。」
52TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/27(土) 18:25:01 0
タカラの言葉に、フサしぃは申し訳なさそうに顔を半分膝の中にうずくめる。
横目で見た彼の表情から、この青年が約七年の間に体験した辛く苦しい訓練の日々を感じ取り、静かに口を開いた。
「ごめんね・・・。」「? いきなりどうしたの?」「私、自分のことで精一杯で・・・。何もタカラ君にしてあげられなかったね。見送り方もあんなに酷かったし・・・私、本当に自己中だから・・・。」
ハァとため息をつきながら肩を落とす彼女に、タカラが慌てて取り繕う。
「そ、そんな事は無いよ! 気にしないでって! それに、君との約束が僕の支えになってくれてたし。」「本当に・・・?」
夕焼けで赤く染まる町を見ながら、タカラは言葉を繋げる。
「さっきも言った通り、僕は訓練の辛さから逃げ出したくて、何度も地球に帰りたいって思ったことがある・・・。でもその度に、僕は君との約束を思い出していたんだ。早く一人前の戦士になって、地球に戻るんだって・・・!」
彼はフサしぃの方に視線を戻し、穏やかな笑顔を浮かべながら言う。
「しぃちゃんとの約束がなかったら、きっと途中で折れてたよ。心の支えになってくれて、本当にありがとう・・・。」
53TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/27(土) 23:39:23 0
あの時の覚悟があるから、今の自分がいる・・・。タカラの曇りの無い笑顔が、そう彼女に訴えかけていた。
彼の言葉と表情に、頬を赤く染めるフサしぃ。同時に、恥ずかしいという気持ちが胸の底から湧き水のようにこみ上げてしまう・・・。
「べっ、別に私は何も・・やってないよ・・・っ!」
タカラの顔をみるのが恥ずかしくて、顔を横に背けた。そんな彼女の行動に、タカラは思わずプッと吹き出してしまった。なんか・・・かわいい・・・。と言うよりも、昔のフサしぃより少しツンデレになった気がする・・・。
「なっ、何がおかしいの!?」「! ごめん・・何でもないよ。」「ハァ・・・タカラ君に笑われるし、宇宙人に狙われるし・・・今日は本当に厄日なんだなぁ・・・。」
フサしぃは更に顔が赤くなって、膝の中に顔を隠してしまう。タカラはそんな彼女をフォローするかのように話しかける。
「ふふっ・・でも、本当に君も変わってないんだね。その優しいところとか、他人を助ける思いやりも・・・。ちょっと、嬉しかったよ。君がもっと変わってて、僕のことを忘れちゃってるのかなって思ってたけどね。」
タカラの言葉に、フサしぃは少し赤みが引いた顔を上げて言葉を返す。
54TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/28(日) 00:10:01 0
「本当? 結構私の中では変わったなって思ってたけど・・・。」
「確かに変わった所はあると思う。けど僕が言いたいのは、しぃちゃんの基本的な性格が変わっていないって事だよ。優しいし、素直なところも、ね。見た目は・・・とても綺麗になったけど・・・。」
顔を赤くしながら自分の外見について言うタカラに、フサしぃも少し顔を赤くしながら微笑む。
「うふふっ・・・そういうタカラ君も、優しい性格は全然変わっていないね。本当に、そのままウルトラマンになっちゃったみたい。でもそんな優しいタカラ君で、怪獣を倒せるのかな?」
半分冗談を含め、笑いながら話すフサしぃ。この無邪気な微笑みも少しは大人っぽくなったが、昔と殆ど変わっていない。
しかしその言葉に突然、タカラは彼女と180度逆の真剣な表情になって答えた。
「僕は怪獣や異星人をむやみに殺したくはないんだ・・・。確かに地球を侵略したり、怖そうとする動きは僕だって許せない。でも人が他人の事を互いに知るように、怪獣や異星人と分かり合おうとする気持ちも必要だと思うんだ。」
「タカラ君・・・。」「僕は地球を救いたい・・・でも、地球を狙う宇宙人とも、分かり合いたいと思う。」
55TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/28(日) 01:16:32 0
タカラが町を見ながら言ったその瞬間、フサしぃの目には昔よりも遙かに成長した彼の顔が映り込んでいた・・・。
確かに自分は、優しい性格は全然変わっていないと言った。しかし今の彼は優しいだけでなく、ウルトラマンとしての重い覚悟を肩に背負った『優しさの勇者』に大きく変わっている・・・。
その青く輝く眼差しをじっと見ていると、何だか彼の中に吸い込まれそうで、その証拠として自分の鼓動が高鳴っていくのが分かる・・・。
彼女がこの自分の鼓動について考えていたとき、タカラが不安そうな顔で彼女に言う。
「僕の覚悟・・ダメかなぁ・・・?」
彼の不安気な表情に、フサしぃの心は救われた。そして、彼の覚悟は間違っていないと言うように顔を横に振った。
「ううん。君の覚悟は、間違ってなんかないよ。その優しい気持ちが、なんかタカラ君らしくて・・・。とてもカッコいいと思うよ。」「ありがとう・・・。」
そう言うと、二人は視線をゆっくりと沈む夕日に向けてみる。風の音も、車の音も全く聞こえない無音の時間が、彼らの間を過ぎて行く・・・。
無言の時間が過ぎていく中、フサしぃは思ったーーータカラは今でも、自分の事を『恋人』だと思っているのか、と・・・。
56TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/28(日) 01:57:22 0
時間が経つに連れ、タカラにその話を切り出したい気持ちがウズウズしてくる・・・。
(今、彼は私のことをどう思ってるんだろう・・・友達ぐらいにしか思ってないのかな・・・。それとも・・・。)
たまらなくなって、タカラにその話を切り出そうとした瞬間、彼がフサしぃに突然声を掛けた。
「そろそろ・・・帰ろっか?」「・・・え?」「だって、もう夕日が落ち掛けているし。このまま此処に居ても、不味いと思うけど?」「あ・・・そうだよね。そろそろ、帰らなきゃ・・・。」
あ〜あ・・・せっかく聞こうと思ってたのに・・・と心の中で思いつつ、タカラが立つのに合わせて彼女も立ち上がろうとする。
不満そうな溜息を吐いたフサしぃに、タカラが心配して声を掛ける。
「どうした? 何か不満でもあった・・・?」「? ううん、何もないよ。(タカラ君、私の気持ちに気付いてよぅ・・・。)」
彼女がそう心の中で呟いた次の瞬間・・・
「! わっ!?」「!?」
今までずっと座っていたせいか、足がもつれて目の前のタカラに激突してしまった。しかも、其れだけでなく・・・
「んっ・・・!!!」「ーーーーッ!!!!??」

タカラの唇に、自分の唇が重なってしまったーー。
57TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/28(日) 11:29:02 0
「きゃっ!」「うっ!?」
二人はそのまま抵抗することなく、丘の斜面に体を打ち付ける。と言っても、実際はタカラが下敷きになったおかげで、彼女には一切ダメージが掛からなかったのだが・・・。
タカラが二倍のダメージを受けた証拠に、ゴツッといういかにも痛そうな音が響きわたった。地面が芝生だからまだ良いが、これが石がゴロゴロの大地だったら、どうなっていたことか。
突然のトラブルキスに、倒れたまま互いを凝視する二人・・・。顔が真っ赤に染まり上がり、サウナにでも入ったかのように熱い。一体なんて声を掛ければいいだろう・・・。
取り合えず、この状況をどうにかしなくては・・・我に帰ったフサしぃは、自分の下敷きになっているタカラに声をかける。
「! タカラ君・・・大丈夫?」
タカラは痛そうに顔を引きつりながら返答する。
「一応大丈夫だけど・・先ずは降りてくれないかな・・・。ちょ・・ちょっと重い・・・。」「あっ・・・!」
彼の指示に従い、フサしぃはサッと彼の上から離れる。
タカラは痛そうに後頭部を捻りながら、顔を赤くしたまま小さく呟いた。
「今のは、反則だよ・・・。」「えっ・・・?」「な、何でもないよ! 行こう!」「うん・・・。」
58TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/29(月) 10:21:10 0
更に数分後・・・
日が暮れて、茜色だった空がすっかり暗くなった頃、彼らはようやくに家の前に到着した。
あのトラブルキスの後から、二人は殆ど会話していない・・・。正直本当に気不味くて、何を言えばいいのか分からなかったからだ。
久しぶりに自分の家の前に立ち、タカラは全体を見上げてみる。約七年も経ってるのに、どこも変わってない・・・。結構ボロがきてるかと思っていたが、案外そうでもないようだ。
感慨深く見上げていると、後ろから鍵を持ったフサしぃが彼の横を無言ですり抜ける。
一瞬顔が見えただけだが、未だに赤く染まっているのが分かった・・・。キスをされた彼よりも、してしまった彼女の方が遙かに恥ずかしそうだ・・・。
彼が声を掛けようか迷っている時、彼女が弱々しい声でタカラに言う。
「さっきは、ごめんね・・・。いきなりのことだったから・・・。」
顔を赤らめながら、フサしぃはタカラに一言謝罪する。あの事を謝っているのだと理解した彼も、若干顔を赤くしながらも微笑み、言った。
「大丈夫。気にしてないよ!」「! うふふっ・・・ありがとう。」
タカラの表情にホッとしたのか、彼女も嬉しそうに微笑んだ・・・。
59TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/29(月) 11:32:55 0
「ただいまぁ〜!」
鍵を開け、いよいよ自分の家へ入った二人。しかし・・・
「・・・あれ?」「誰も居ない・・・?」
玄関に入ったは良いが、家の中は真っ暗で誰も居ない。避難してしまったのだろうか・・・。
「しぃお母さーん、エーお姉ちゃーん、帰ったよ〜! タカラ君も一緒だよ〜!」
声を張り上げながら廊下を進む二人。しかし、やはり返答がない・・・。何処に行ってしまったのだろうか。
「変だなぁ・・・。今日はずっと家に居るって言ってたのに・・・。」「・・もしかして・・・。」
何かに感づいたタカラは、ゆっくりとリビングの扉を開けてみる。と、次の瞬間・・・

パァーーーン!!
『タカラ君、お帰りなさい! 宇宙警備隊入隊おめでとう!!』

「!!?」
真っ暗だったリビングに突然電気が点り、クラッカーの音と共にタカラの帰還を祝う声が響いた。
「な、・・・何だ!?」
突然のことで驚きながら周りを見渡すと・・・そこには、約七年ぶりに顔を合わせる懐かしい面々が立っていたーー。
「みんな・・・!」
60TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/29(月) 21:35:12 0
リビングに並ぶ、タカラにとって久しい顔ぶれ達ーーフサ、つー、モララー、ぎゃしゃ、モナー、のー、フー・・・そして実の姉であるエーと、母親のしぃ・・・。
彼らは全員、タカラの為に予めパーティーを予定していたのだ。
「タカラ、お帰り!」「みんな、ずっと貴方の帰りを待ってたのよ♪」「でも、みんなどうして僕が帰る日を・・・?」
タカラの疑問に、クラッカーを持ったつーが答える。
「エーちゃんの『夫』が、あたし達に教えてくれたんだよ!」「あっ! ちょっと、つーさんっ!」「へ? 『ゼロ兄さん』が・・・? あ、そう言えば・・・。」
慌てるエーの反応を見ながら、タカラは前にゼロに地球へ帰る予定日を聞かれた事を思い出した。
「そうか・・・。それで『兄さん』は・・・って、姉ちゃんがバラしたんだね?」「てへっ・・・ごめんね。」
小さく舌を出しながら苦笑いで返答するエー。
「でもパーティーを開こうって言ったのは、私達なの。」「! ぎゃしゃさん・・・。」
エーの言葉をフォローするように、フサ達がタカラに言った。
「ター坊・・とはもう呼べないな・・・。タカラ。これは元々君の帰りを祝って俺達で企画したのさ。」「僕達からのプレゼントだモナ!」
61TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/29(月) 22:14:04 0
「折角の機会だし・・・まぁ、今までの苦労もこのパーティーで吹き飛ばせってことだな。・・・本当によく頑張ったな、タカラ!」「モララーさん・・・。」
目頭が少し熱くなり、瞳に涙が浮かんできているタカラにモララーはサムズアップをしながらウインクをした。
そこには、管理AI時代の暗くて冷たい笑みを浮かべた彼は確認されず、人間として暖かな感情を持った大人の笑みのモララーが顔に映し出されていた。
NCメンバー達の暖かい心に、タカラの青い瞳に溜めていた涙がポロリと一筋、頬を伝った。
「みんな・・・本当にありがとうございます・・・。向こうの生活は辛かったけど・・・僕は本当に、夢を諦めないで・・良かったです・・・。」「タカラ・・・。」
涙を流しながら言葉を繋げるタカラに、しぃの青い瞳も潤んでいる・・・。あの幼かった息子が、立派な青年に成長して戻ってくるとは・・・。母親として、あの子の夢に託して本当に良かったと心の中で感じていた・・・。
彼が泣くのを見て、のーが軽いツッコミを入れる。
「あらら・・・パーティーの前から泣かれても、困るなぁ(汗)。」「フサしぃちゃん。協力してくれてありがとうモナ!」
「・・・えっ? 今、なんて?」
62TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/30(火) 08:58:28 0
モナーの口から出たある言葉に、タカラはもう一度聞き返す。
何で・・フサしぃが関係しているんだ・・・?ーーそう言いたげな顔に、モナーはニヤケながら言った。
「パーティーをやる事はフサしぃちゃんも知っていたモナ。だから、わざとタカラ君に言わないように頼んでおいたモナよ。」「え・・・?」
タカラは目が点の表情でフサしぃの方を向く。彼女は舌を小さく出しながら、まるで小悪魔のような意地悪な笑みを浮かべたまま言った。
「家に入ってからは、全部演技だったの。隠しててごめんね、タ・カ・ラ・君♪(はぁと)」
「え・・・えぇぇぇぇぇーーーーーっ!?」
フサしぃの見事な演技に騙されたタカラの声に、一同は爆笑の渦に巻き込まれた。
爆笑の後、モララーが真ん中に立つと、いよいよパーティー開始の合図がとられた。
「それでは皆様、タカラの帰還と宇宙警備隊入隊を祝って・・・」

「乾杯ぃ!!!」『かんぱぁぁいぃぃぃっ!!!』
63TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/30(火) 23:50:03 0
乾杯の合図と共に始まったパーティーはすぐに盛り上がり、タカラを中心に楽しく時間を過ごした。約七年ぶりに彼らの前に姿を表した彼も、その空白を感じさせない程に忽ち仲にとけ込んでいく・・・。
パーティーが始まって数十分後、タカラは自分の姉である『エー』に話しかける。
「姉ちゃん・・・?」「ん? どうかしたの?」「いや、特に用事はないんだけど・・・何だか久しぶりで、話したくなっちゃった。」「ふぅん・・・。お母さんとは話したの?」
「うん。『夢が叶って、良かったわね』って何度も言って、とても喜んでたよ。自分の事のようにね。」
エーは彼の横顔を見ながら、穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「ふふっ、それはそうよ。お母さんは、タカラの事をもの凄く心配していたのよ? 毎日アヒャとお父さんが帰ってくる度に、『タカラはどうしてたの?』って聞いてたぐらいだもの。」「本当!? 毎日聞かれてお父さん達、嫌がってなかった?」
タカラの驚きの反応に、彼女は首を横に振りながら答える。
「ううん。寧ろ、貴方の成長をニコニコしながらお母さんに報告してたよ。みんな其れだけ、タカラの事を心配していたということなの。」「・・そうだったんだ・・・。」
64TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/31(水) 11:23:36 0
エーは自分の手にある、カップの中のメロンソーダを眺めながら言う。
「自分の子供を心配する気持ちは、私も母親になってから初めて分かるようになったの・・・。だから今は分からなくても、タカラに子供ができれば、自然と分かるようになるよ。」「子供、か・・・。」
タカラが、フサと話している笑顔のフサしぃの姿を見ながら呟いた、次の瞬間だった。
「ママ、そこで何してるの?」「? ママ・・・?」
振り返ると、自分の腰ぐらいの身長しかない小さな女の子が、二人をまじまじと見つめていた。
彼女は見たことがない青年の姿に、頭上にハテナを浮かべながら言う。
「お兄ちゃん、誰?」「! ぼ、僕は・・・って、姉ちゃんもしかして・・・。」
タカラは半分驚きながらエーに聞く。
「あ、タカラはまだ知らなかったんだよね。紹介するよ。この子が、私の娘の『珠璃』。ちょっと人見知りだけど、優しい子なのよ。」「へぇ・・この子がジュリちゃんか・・・。」
エーに似ているなと納得しながら笑みを浮かべているタカラに、ジュリは未だに視線を彼に合わせたままじっと見つめている。
「ジュリ。このお兄さんは、ママの弟のタカラよ。おじいちゃんに似ているでしょ?」「宜しくな!」
65TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/31(水) 22:34:36 0
優しく手を差し伸べるタカラに、ジュリもゆっくりと手を差し出し握手をする。と、次の瞬間・・・
「・・・!」
握手をした瞬間、ジュリの手から何かのエネルギーを感じ取った・・・。光の力のようだが、今までに感じたことがない新しい感覚が手の中を伝わっていく・・・。
それに、その力も限り有るものではなく、無限に広がっていく宇宙のように限界が見えない・・・。
「? タカラ? どうしたの?」「ん? いや、何でもないよ。」
握手を止めてからわざと何もないように取り繕うタカラに、少し複雑な表情を浮かべるエー・・・。
そこに、シャンパンの入ったグラスを手に持ったモララーとぎゃしゃがタカラに話しかけてきた。
「見当たらないと思ったら、こんな所にいたんだな・・・。」「モララーさんに、ぎゃしゃさん・・・。」「パーティーの主役が何でこんな所にいるんだ?」「丁度姉さんと話したかったんです。」
「タカラ君も、エーちゃんに会うのが七年ぶりだものね。」
ぎゃしゃが優しい微笑みを浮かべている隣で、モララーはタカラと握手をしてからフーの所へ行ったジュリを見ながら言った。
「俺もあんな子供が欲しいなぁ・・・。明るくて優しい子がさ。」「・・・え?」  
66TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/03/31(水) 23:32:00 0
モララーの『子供が欲しい』と言う言葉に、再び目が点になるタカラ・・・。二人はそれに構わず、口論を始めてしまった。
「無理言わないでよ〜! 貴方が元から暗い性格じゃなかったら・・・」「ちょっ、今は立派に明るい性格だからなっ! そう言う『唯』だって暗い方だろ?」「私だって明るい性格になったもん! それ以上言うと虐殺するよ!」
口論を始めている二人を見ながら、タカラは静かにエーに聞いた。
「姉ちゃん・・・。」「?」「モララーさんとぎゃしゃさんって、結婚したの?」「うん。二年前に結婚したのよ。」「へぇ・・・。」
タカラが納得しながら口論を見ていると、彼らの後ろから『ある人物』の声がかかった。

「おいおい二人とも、喧嘩はそこまでにしておけやゴルァ! 主役が喋り難いだろ?」「!」

後ろから聞こえた怒鳴り声にも似たそれに、一同は驚きながら視線を合わせる。すると・・・
タカラと同じ金髪にエーと似た緑色の瞳を持つ男性と、燃えるような赤い髪に穏やかな黄色い瞳を持った青年の二人が廊下の入口に立っていたーー。

「よっ、お帰り!」「久しぶりだな、コスモス。・・・いや、『タカラ』と呼ぶべきかな?」

「お父さんに、アヒャさん!」
67TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/01(木) 23:28:33 0
「お前・・いつの間に・・・?」
周りはギコの登場に一瞬シラケる・・・。いきなり登場したのだから、仕方ないだろうが・・・。
「ちょ、シラケることは無いだろう・・・。」「おい、KYギコ! タイミング考えろって! パーティーはとっくに始まってんだぞ?」「ウルセー! ベムラーを倒しに火星に立ち寄ってたんだから、仕方ないだろっ・・痛っ・・・。」
フサの突然のツッコミに、キレ返すギコ。血がつながってもないのにまるで兄弟のような性格は、彼らの特徴だ。
場の空気が戻りかけた時、今度はしぃが声をかけた。
「! ギコ君、その肩の傷はどうしたの!?」
よく見ると、右肩に大きな引っかき傷がある。三本の爪で胸の近くまで大きく抉られて、未だにその口から赤い血液が流れている・・非常に痛そうだ・・・。気づかなかったが、ギコの顔色もあまり良くなく、表情も少し引きつっている。
「ベムラーの奴・・右肩を思いっきり引っかきやがって・・・・うっ・・・。」「! ギコ君!?」
突然倒れかけたギコに、しぃは急いで駆け寄って彼の左肩を支える。出血が多く、若干貧血状態になっているようだ。
楽しかった場の空気が、再び張りつめる・・・。
68TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/02(金) 00:08:28 0
「大丈夫!? 何でこんな無茶したのっ!」「無茶って・・彼奴が襲ってきたもんだから・・・。」「もう・・・。」
しぃはギコの右肩に手を翳すと、管理AIだった時からの能力を使い、蒼い光を当てて彼の傷を修復していった。
彼女の能力はこのように、心の清らかさを表すかのように蒼く優しい光の力をモデルにして作られた。それ故、その能力が息子のタカラに遺伝し、今のコスモスの力へと発展したのだ。
傷を治療している間、エーは不満そうに眉を曲げてアヒャを睨む。彼女の目が、『何でお父さんをかばわなかったの?』と憤りを訴えていた・・・。
それに気づいたのか、ギコがエーに言った。
「栄香。ゼロは何も悪くない・・・。俺が単独で戦ってピンチだった時に、助けてくれたんだ。罪もない奴に濡れ衣を着せないでくれ・・・。」「お父さん・・・。」
ギコがそう言っている内に、傷の治癒が終わったようだ。しぃは翳していた手を離し、息を切らせながらギコに言う。
「ハァ・・ハァ・・もう無茶なこと・・しないでね・・・っ。結構疲れるんだから・・・。」「しぃ・・・いつも、ありがとう。」
ギコの言葉に、しぃも嬉しそうな笑顔で頷いた・・・。
69TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/02(金) 04:10:07 0
ホッとしたところで、パーティーは再び盛り上がり始める。
タカラがフサ達と話している間、キッチンの前にあるカウンター椅子に座っているエーの隣には、彼女の夫であるアヒャが寄り添っていた・・・。
楽しそうに会話しているところを、ただ無言で眺めている二人。あのギコの件以来、ずっと気まずいまま話していないのだ・・・。そんな重い空気の中、最初に沈黙を破ったのはエーからだった。
「ねぇ、アヒャ・・・?」「ん?」「さっきお父さんが言った事って・・・本当なの?」
彼女の質問に、アヒャは分かってくれとでも言うような表情で小さく頷く。そんな彼の反応を見たエーは、少し瞳を潤わせたまま落ち込んだ表情でため息を吐いた。
彼女は心の中で、少しでも彼を疑った自分が許せず、恥ずかしくなっていたのだ・・・。
「・・疑って、ごめん・・・。貴方を疑った私が、凄く恥ずかしいよ・・・。信用しないなんて・・妻失格だね・・・。」
「おいおい・・・。そこまで気を落とすなよ・・・。自分から言わなかった俺も悪いし、お互い様さ。」
「本当に・・・?」
「・・・でも、やっぱりもうちょっと信用して欲しかったかなぁ・・・?」
「! もう・・・意地悪いんだから・・・。」
70TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/07(水) 18:25:44 0
只今、全サーバー規制の為更新できなくなってしまいました。
ご愛読の方は大変申し訳ございません。
規制解除までお待ちください。

過去ログには入れないでください。
71TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/10(土) 00:34:40 0
「ハハハハ・・・。」
エーの膨れっ面に思わず苦笑いをするアヒャ。
その時、彼らの間から薄紫色の髪をポニーテールにまとめた若い女性が話しかけてきた。
「あれぇ? 二人で何しとるん? また喧嘩?」「! のーちゃん・・吃驚したなぁ・・・。」「ちょっ、エーちゃん・・・驚く事は無いんとちゃうか・・・?」「仕方ねぇだろ? お前がいきなり背後から話しかけて来るもんだからさぁ・・・。」
のーはタカラ達を見ながらエーの右隣により掛かって、コップに入ったサイダーに口をつける。
「そう言えば、タカラ君とは話したの?」「うん、ちょっとだけね。此からは一緒に暮らすから。」「まぁ、そうやからなぁ・・・。アヒャはんは?」「俺は光の国で毎日会ってるから、話すことは特にないな。」「ふぅん・・・。」
そう言うと、三人はタカラ達の様子を見ながら暫く沈黙をする。
タカラやフサしぃの楽しそうな表情を見ていると、十年前の自分達の姿がそのまま重なって見えてくる・・・。
自分達が高校一年・二年生の時も昼休みに、教室前や廊下、屋上でこんな風にどうでも良い会話をして、無邪気に笑っていたっけ・・・。
そんな時から早十年、今度は大人としての自分達が、ここにいる。
72TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/10(土) 14:38:34 0
自分達はもう二度と、あの頃のような高校生には戻れないのだ・・・。
そう言えば、こうして三人で顔を会わせるのも久しぶりの事だ。エーとのーは買い物等で会うことがあるが、アヒャは宇宙へ行っているため顔を見せる機会がない。
そんな事を察してか、のーが眉を少し曲げてエーに聞いた。
「なぁ、エーちゃん・・・。」「ん?」「アヒャはんには、ちゃんと休みがあるの? うちには何だか、前よりも痩せて疲れてるように見えるんや・・・。」「う・・・。」「! 有るに決まってんだろ?」
返答に困っているエーに、アヒャがあわてて取り繕うとする。のーは改めて彼に視線を向けた。
「俺は向こうへの滞在勤務が週に二回有るから、交代しながら仕事してるんだ。怪獣出現の通報が無いときは、光の国の補修や整備に当たることもある。休みの日は家族といつも一緒だし、休養もとれてるから心配ないさ。な、エー?」
「! う、うん! そうだよ。」「・・・本当に?」
彼らに向けて疑いの視線を向けるのーに、エーは補足するように説得する。
「のーちゃん、本当だよ。アヒャは仕事で宇宙にいることは多いけど・・・地球で待機する日とか、休みの日はいつも一緒にいてくれてるんだから。」
73TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/10(土) 23:54:07 0
「なら、いいんやけどなぁ・・・。」「何だよ・・信用ねぇなぁ・・・。」
彼女の言葉に肩を落として不満そうなため息をするアヒャに、のーは首を傾げながら彼に聞く。
「? 何であんたが落ち込むんや?」「お前、俺の言葉を信じてないだろ・・・。」「! べ、別にそう言う訳やないねん! ただ、最近過労で死ぬ人が多いからウチなりに心配してただけや!」
「無理に訂正しなくてもいいよ・・・どうせ、俺は・・・」「ちょっと、アヒャはんって!」
更に肩を落として『orz状態』になった彼を、必死に説得するのー・・・。そんな彼らの様子を、エーはクスクスと笑いながら見ているのだった。
この後、彼は立ち直るまでかなりの時間を要した・・・かは、定かではない。

フサ達が企画したパーティは、タカラやフサしぃだけではなく、むしろ企画した彼ら自身にとっても楽しい時間となっていた。
中でもエー・アヒャ・のーの三人にとっては、まるで高校時代のようにふざけ合い、無邪気な頃に戻る事が出来た、貴重で大切な時間だったに違いないだろう・・・。
74TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/12(月) 00:30:50 0
第二話 COSMOS〜フサしぃの秘密〜

あれから約四時間後・・・
パーティーがお開きになり、その後の片付けも全て終わった後・・・。タカラは風呂に入ってから、テレビを見ながら緑茶で一息を入れていた。時刻は既に、22時を過ぎている・・・。
あの後、つー以外のメンバーは無事に家へ帰っていったようだが、フサは酔いつぶれて眠りだしてしまったつーを背中に背負い、フーと共に帰った。
フサやモナーの証言によると、彼女は元々お酒が好きなのだが、酔い始めると必ず発狂しだして眠ってしまうのだそうだ。
・・・考え方によってはかなり危ない性格だ・・・。
彼らが無事に帰ったのか気にしながら、タカラはチャンネルを回してニュースをつける。
ニュースの内容はどの局も似たような物が流れているが、そのどれを見ても、約七年前と比べて暗いニュースがばかりが目立っている気がする・・・。
自分が地球から離れている間に、世界では恐慌や犯罪などの混沌が溢れるようになってしまったのだ・・・。
(・・こんなに地球が酷くなってたなんて・・・。)
彼がそう感じながらリビングの周りを見渡していると、突然誰かがいない事に気付いた。

(あれ・・・? しぃちゃんは?)
75TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/12(月) 08:12:16 0
そう。今更気付いたが、風呂から上がった後からフサしぃの姿がいつの間にかなくなっていたのだ。
彼女も風呂に入った後なので、普通に考えれば自分達の部屋にいる筈だが、さっき自分が部屋に荷物を置きに行ってもいなかった。唯一、風呂に入る前にエーと皿洗いをしている、長髪が湿った状態のフサしぃを見かけたが、それ以来見ていないのだ。
こんな夜遅くに、出掛けてる事はまず無い筈だが・・・。
気になったタカラは、居間から出てきたジャージ姿の姉に聞いてみた。彼女は丁度、珠璃を寝かしつけた後のようだ。
「うぅーん・・疲れたぁ・・・。」「姉ちゃん。」「ん?」「しいちゃんが、何処に行ったか知らない?」「! うふふっ・・・知りたい?」「知りたいけど・・・何か、随分意味深だね・・・。」
エーはその長い髪を指で軽く流した後、意味あり気な笑顔を浮かべながら言う。
「あの子なら今、きっと石碑の丘にいる筈だよ。何をしてるかは、自分の目で確かめるといいよ。」「石碑の丘? 何でそんな所に・・・?」「さぁね。だから人に聞くよりも、自分で確認してきなさいって言ってるの。」
タカラは少し悩んだ後、答えを出した。
「・・・分かった。ちょっと、行ってきます。」
76TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/12(月) 23:07:12 0
「もう遅いから、お母さんに怒られる前に早く帰るのよ!」「分かってるって!」
エーが玄関から見送る中、タカラは袖が青いポーカーをパジャマの上から着込み、白いスニーカーを履いて外へと出掛けることにした。この服装で、一応外に出るには問題はない。
ここから石碑の丘まではそんなに距離が離れている訳ではない為、彼は夜の大通りをのんびり歩くことにした。
昼間には車の往来が多い大通りは都会とは違って、この時間帯にもなれば静寂の中に眠る太い一本の道だ。その道の近くに軒並み建っている建物も、星の下を寝床に眠っている・・・。今の歩行者は、タカラ一人のみだ。
彼は歩いている間に何故彼女が石碑の丘に居るのか、そこで何をしているのかを頭の中で想像させてみる・・・。
彼の思想は、フサしぃについてますます気になるばかりである。

一方、石碑の丘では・・・
薄桃色のポーカーを羽織った亜麻色の長い髪を持つ少女が、頂上の木の下で静かに星空を見上げていた。彼女の見る先には相模湾があり、その上で大きな満月が輝いている・・・。
太陽からの光を浴びて優しく輝く月を見ながら、その少女は何処か悲しそうに眉を曲げ、瑠璃色の瞳から一滴の涙を頬に伝わせた・・・。
77TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/13(火) 00:06:07 0
数分後・・・
静寂に眠りつく町中をひたすらに歩いていたタカラは、ふと足を止めた・・・。石碑の丘はもう目の前だ。
あれから歩きながら彼女の事を考えていたが、やはり検討が付かない・・・。一体何の目的があってここにいるのか・・・それさえ分かれば苦労はしないが・・・。
彼はため息を吐きながら夜空を見上げてみる。
澄み切った漆黒の空に浮かび上がる、満点の星達・・・その星の一つ一つが、まるで蛍のように命を燃やしている・・・。自分はつい数時間前、この星空の彼方から故郷である地球に降り着いたのだ。
飛んでいる時は気にも掛けなかったが、音もなく過ぎていく星々の輝きが、それぞれ歌っているようにも見える・・・。
そんな風に感じながら夜空を見上げていると、背後から暖かい春の微風が自分を通り越して、石碑の丘の方向へと空気を運んでいった・・・。それもただの微風ではなく、その中から何処かシンセサイザーのような楽器の音が聞こえてきたのだ。
風に舞った砂埃が、月光に照らされてキラキラと輝きを放っている・・・。
(この綺麗な音は・・何だろう・・・。)
タカラがそう思った次の瞬間・・・

彼の周りにある自然全てに、ある『奇跡』が起き始めたーー。
78TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/13(火) 14:52:23 0
突然、自分の目と鼻の先にある石碑の丘の頂上が青白く輝き始め、それに応えるように桜の並木やその他の植物が音を奏で始めたのだ。それもただの音ではない・・・美しい音色を持った、素晴らしい音楽になっているのだ。
更にそれだけには留まらず、今度は自分の頭上にある星達が音楽に合わせてキラキラと瞬き始めた・・・。

(光の声が 天高く聞こえる・・・
君も星だよ みんな、みんな・・・)

「この歌は・・・? とても綺麗だ・・・。」
まるで夢のような神秘的な世界が、彼を包み込んでいる・・・。
タカラは青白い光が一体何なのかを知るために、石碑の丘に一歩ずつ近づいてみる。すると・・・

青白い光に包まれている頂上に、『亜麻色の長い髪』を持つ『一人の少女』の姿が見えたーー。

錯覚ではない。タカラが今まで捜していた少女が、そこにいる。
「・・・! しぃ・・ちゃん・・・?」
タカラが驚いている内に、その少女は周りの自然が奏でる伴奏に合わせて歌いだした・・・。
79TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/13(火) 17:23:43 0
挿入歌:
COSMOS(アクアマリン原曲版)

1.                    2.
夏の草原に 銀河は高く歌う        時の流れに 生まれたものなら
胸に手を当てて 風を感じる        一人残らず 幸せになれるはず
君の温もりは 宇宙が燃えていた
遠い時代の名残 君は宇宙         みんな命を燃やすんだ 星のように、蛍のように・・・

百億年の歴史が 今も身体に流れてる・・・     光の声が 天高く聞こえる
                         僕らは一つ みんな、みんな・・・
光の声が 天高く聞こえる             光の声が 天高く聞こえる
君も星だよ みんな、みんな・・・         君も星だよ みんな、みんな・・・

                         (転調)
                         光の声が 天高く聞こえる
                         君も星だよ みんな、みんな・・・

                         君も星だよ・・・
80TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/13(火) 18:47:23 0
それは、ほんの五分間の出来事に過ぎなかったーー。
星や周囲の植物が奏でるメロディーに併せて、清水のように透き通った彼女の美しい声が、星の瞬く漆黒の空へと響き渡る・・・。
それはまるで社会の中に広がった混沌(カオス)の中で、小さな秩序(コスモス)がその場所で一輪の花を咲かせているよう・・・。とても不思議で幻想的で、また儚く過ぎてしまった時間でもあった・・・。
歌が終わると同時にフサしぃを纏っていた青白い光は消え去り、辺りは再び静寂の中に沈む・・・。
彼女の天使のようなその歌声に心を奪われていたタカラは我に帰り、丘の頂上で夜空を仰ぎながら小さくため息をついている彼女に駆け寄った。
「・・ここにいたんだね・・・。」「! 誰っ!?」
彼は木の陰から出て、月明かりに自分の顔を照らす。
「僕だよ。」「! タ、タカラ君・・・。」「隣、良いかい?」「うん・・・。」
そう言うと、彼は取り合えずフサしぃの右隣に寄り添うことにした。
月明かりに照らされて、両者の瞳が青から瑠璃色に輝きを変える。そんな二人の顔は、熟れた林檎のような色に染まっている・・・。
81TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/14(水) 05:51:07 0
彼らだけで居ることが多いのに、二人とも何故か気まずくなっていた・・・。
重い雰囲気の中、タカラは彼女の身体に起きた現象である事が分かった・・・。しかしそれは彼にとって、信じたくない現実と向き合わなければならないことを意味している。
(まさか・・しぃちゃんは・・・。でも、そんな筈は無い・・・よね?)
どのように話し掛けたらいいか分からず、もどかしそうにするタカラ・・・。その時、今まで静かだった亜麻色の天使が重たい口を開けた。
82TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/14(水) 22:03:31 0
「ねぇ・・タカラ君・・・。」「?」「もしかして・・・私が歌ってたの、見てたの?」「・・・うん。とても綺麗だったよ! なんか幻想的で、聞いてたら気分がホッとして・・・」「じゃあ・・私が青白く光ってたのも知ってる・・・?」
「! ・・それは・・・。」
いきなり聞かれた質問に、タカラは眉を曲げて困惑な表情を浮かべる。その質問にはとても答えたくない・・・そう言いた気に戸惑う彼に、フサしぃは不満そうな表情で更に言う。
「お願い・・・。君が言いたくないのは分かってるよ・・・。でも、ちゃんと答えて欲しいの。どうだったの?」
彼女の説得に、タカラは戸惑いながらも小さく頷いた。その反応を見たフサしぃは、何故か顔に悲しそうな笑みを浮かべた。この表情が意味するものは、一体何なのか・・・。
「そっか・・・。私の秘密、見られちゃったんだ・・・。」「しぃちゃん、本当にごめん・・・。でも、君も僕に何か隠していないか・・・?」「・・・。」
二人の間に再び暖かい風が通っていく・・・。フサしぃは少し顔を俯かせながら呟く。
「ねぇ・・・。」「ん?」

「私が・・・私がもし、地球の人間じゃなかったら・・・?」

「えっ・・・?」
83TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/14(水) 22:41:20 0
突然彼女から出た言葉に一瞬疑問符が浮かんだが、タカラはすぐにその言葉の意味を理解した・・・。
「しぃちゃん・・君は・・・。」「私・・・本当は地球人じゃないんだ・・・。私はね・・・」

「私は月で生まれた、『月星人』なんだ・・・。」

「! 月の・・人間・・・?」
フサしぃは暗い表情を浮かべて、静かに頷いた・・・。更に、頷いた直後に彼女の瞳から一筋の涙が流れ落ちる・・・。
「酷いよね・・・。地球の人間だなんて大きな嘘・・・ついてたんだもんね・・・。」「・・でも、どうして地球に・・・? 月の文明は、復活したんじゃ・・・。」
彼女は次々に涙を流しながら、涙声で答える。
「私が小さな頃に、ナックル星人が月を強奪しようとして・・・みんなを次々に殺したの・・・。」「! そんな、まさか・・・。」
フサしぃの脳裏には、月の住人達が沢山の呻き声と共に倒れていく映像が鮮明に浮かんでいる・・・。
「月の文明が倒れる中、エースさんとジャックさんが助けに来てくれて、生き残った私の家族は地球に逃げ出せたの・・・。でも私は友達を大勢失って、独りぼっちになってたんだ・・・。」
「そうか・・・それであの時のナックル星人は、君達を・・・。」
84TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/14(水) 23:14:38 0
フサしぃの足元には涙が一滴、また一滴と地面へ落ちていく。タカラはそれを、ただ複雑な表情で見ているしか出来ない・・・。
彼女は幼い時から、自分よりも辛い気持ちで今日までを過ごしてきたのだ。それに比べたら、自分の努力は全く比べ物にならない・・・。
光の国のことを大っぴらに話していた夕方の自分が、恥ずかしくなっていた。
「夕方に言ったように・・・私、タカラ君がいない間はずっと、友達とあまり話せなくて苦しかった・・・。いつか私が、みんなと違う事に気付かれて・・・敬遠されるのが怖かったの・・・。あの時みたいに・・・。」「しぃちゃん・・・。」
「それでも私は、ずっと君に会いたかった・・・! 君と沢山、いろんな事を話したかったの・・・! なのに、君はっ・・・!!」
歯ぎしりをたてながら握り拳を握り、タカラに対して怒りをぶつけるような形相になるフサしぃ・・・。それはまるで、今までの苦しみを伝えるかの如く厳しく、また哀しい表情だった・・・。
暫くして歯ぎしりと握り拳を止め、溢れていた涙を右腕で拭うと、彼女は再び悲しい微笑みを口元に浮かべてタカラに顔をむかせる。
自分に向かって強がっているのだなと、タカラは理解した・・・。
85TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/15(木) 23:44:03 0
「・・・ごめんね。最近・・たまにこういう時があるんだ・・・。でも、一番辛かったのはタカラ君だし・・・君に弱音なんて、吐いてられないや。やっぱり私って・・・自己中なんだね・・・。」「しぃちゃん・・・。」
「・・・もう遅いし、帰ろ? 眠たくなっちゃった・・・。」
彼女はそう言うと、背中を寂しそうに揺らしながら丘の下に降りようとする・・・。タカラは彼女の行動を見て、今まで殆ど閉じていたその重い口を開けた。
「やっぱり君は・・狡いよ・・・。」「え?」「君が謝る所じゃないのに・・・何で君から謝るんだ・・・?」「タカラ君・・・何を言ってるの・・・?」
「君は今までそのようにして、痛みをずっと自分の中にしまい込んでいたんだね・・・? 他の人に、自分の弱いところを見せたくないから・・・。」「・・・うるさいなぁ・・・。」
「そうやって強がって、君はまた自分の痛みを心の中に閉じこめるつもりか?」「うるさいよぉっ!!!」
フサしぃが眉間に皺を寄せてタカラに振り向いた、次の瞬間・・・

彼女の顔はタカラの一回り大きな胸に抱きしめられ、背中を彼の暖かい腕が優しく包み込んだーー。
86TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/16(金) 00:29:46 0
突然抱きしめられ、顔を真っ赤にするフサしぃ。
「きゃっ!?」「本当にごめんね、しぃちゃん・・・。君じゃなくて、僕が自己中だったよ・・・。光の国に行かなければ、君は寂しい思いなんてしなかっただろうに・・・。僕の責任だ・・・。」
「タカラ・・君・・・。放してよ・・・っ。」「約束する・・・。僕は二度と、君を独りぼっちにはしない。だからもう、痛みを自分の中に閉じこめないで・・・。」
「・・・ねぇ・・放してよぉ・・・ぐすっ・・・。」「無理に強がらなくていい・・・そのままの君で、居て欲しいんだ・・・。」
「ぐすっ・・・うっ・・・ううぅ・・・。」「辛かった事を一杯、吐き出して良いんだよ・・・。僕が全部受け止める。僕は何時でも、君の味方だから・・・。」
「うぅぅぅっ・・・タカラくぅん・・ぐすっ・・・うぁぁぁぁん・・・ひぐっ・・すん・・・。」
彼の優しい言葉と温もりに包まれ、彼女は大粒の涙で顔を濡らしながら、タカラの暖かい胸の中で声を挙げて泣き出してしまった・・・。
タカラの前では、もう泣かないと決めていたのに・・・。それでも彼女にとって、彼という存在は自分の弱味も全て受け止めてくれる、『この世で一番大切な人』なのだ・・・。
87TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/17(土) 10:02:52 0
数分後・・・
フサしぃは暫く彼の胸の中で泣いた後、二人で木に寄り掛かりながら、星で一杯になっている夜空を仰ぎながら話していた。
「綺麗だね・・・。」「うん・・そうだね・・・。」「タカラ君は、さっきあの星から来たんだよね?」
彼女が指で示した先には、一際強く輝く星がある。あそこがウルトラマン達の故郷ーー『M78星雲・光の国』だ。タカラは七年のも間、そこで戦士としての厳しい訓練を受けていたのだ。
タカラは微笑みながら彼女に言う。
「そう・・・。一際輝いてるけど、あれが300万光年離れている『ウルトラの星』だよ。」「そんなに離れてるの?」「ああ・・・。僕はそこからワープで飛んできたんだ。」「ワープって・・・何?」
タカラのワープという言葉に、キョトンとした表情を浮かべるフサしぃ。
「うーん・・・分かりやすく言うと、遠い場所に行くために、その近くまでショートカットする事を言うんだ。僕らは光エネルギーを使って、行きたい星の近くにその空間を作る事が出来るんだ。テレポートみたいに寿命は縮まないし、手軽な手段だよ。」
タカラの説明に、彼女は少し眉を曲げてみせる。やはり少し分かり難いようだ。
88TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/17(土) 22:51:07 0
それに構わずタカラは話を続ける。
「テレポートは瞬時に体を別の場所に飛ばすから大量の体力を無くすけど、ワープは空間を作って飛び込むだけなんだ。でも直接その星に行ける訳じゃないから・・・あ・・・。」
フサしぃの困惑した表情に、タカラは話すのを止めて申し訳なさそうに聞く。
「ちょっと・・難しい話だったかな・・・。」「ちょっとじゃないよぉ・・・。私にはタカラ君が何を言ってるか、ぜーんぜん分かんないや。」「ごめん・・・。」
苦笑いを浮かべながら聞くタカラに対して、フサしぃは彼の表情を見ながら顔を膨らませる。しかし、その後に突然クスクスと笑い出した。一体何がそんなにおかしいのか。
「うふふふふっ・・・。」「? 何がおかしいんだ?」
「やっぱり、タカラ君と話すのは楽しいなぁって。色んな事を教えてくれるし、私が言いたい事も受け止めてくれるし・・・時々、全然意味が分からないことも言うけどね♪」「おいおい・・・それは勘弁してくれよぉ〜。」
頭を掻きながら顔を赤くし恥ずかしそうにする彼に、フサしぃは微笑みから表情を変えて、無邪気な笑みを浮かべていた。
89TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/17(土) 23:20:49 0
二人は再び星を見上げて、口を閉じてみる・・・。
頭上をゆっくりと流れていく星はキラキラと静かに瞬き、時の流れをまるで感じさせない。じっと見ていると浮いているような錯覚に陥り、自分も宇宙の星の一つになっている感覚になる・・・。
ふと、フサしぃが沈黙を止めてタカラに話す。
「さっきの歌はね・・・つーお姉ちゃんから教えてもらったんだよ。」「えっ、あの人が? 意外だなぁ・・・。」
「うん。実際に歌ってくれて、とても綺麗だったから私も気に入っちゃったんだ。それ以来、私はこの場所で晴れた夜に歌ってるの。毎日じゃないけどね。」
「へぇ〜・・・。でもどうして『夜』なんだ? 昼に歌わないの?」
理由を聞くタカラに、フサしぃは恥ずかしそうに小さく言う。
「だって、夜に歌った方が気持ちが良いし・・・君が一番近くに居るような気がしたんだもん・・・。」「え?」「! やっぱり、何でもないっ!」「ふぅん・・・。」
タカラが『ま、いいか』的な反応を示した後、フサしぃは少し不満そうな表情を浮かべる。何だか軽く受け流された気がしたからだ。
不満そうな表情を暫くした後、彼女は再び眉を曲げた表情になって、タカラに話しかけた・・・。
90TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/18(日) 23:55:54 0
「タカラ君・・・。」「ん?」「空を飛ぶって、どんな気分なの・・・?」「う〜ん・・・今でこそ普通だけど、ウルトラマンとして初めて空を飛んだ時は、本当に新鮮な気分だったよ。重力から解放されて、自由の身になったみたいにね・・・。」
タカラの気持ち良さそうな表情を、彼女は羨ましそうに瞳を輝かせる。
「いいなぁ・・・。私も、空を飛べる力が有ったらいいのに・・・。」「いきなりそんな事を聞くなんて、どうしたんだい?」
「私・・・前からちょっとした夢があるんだ。」「?」

「・・・もし私に自由に飛べる力があったら、いつか君と一緒に、この空を飛んでみたいなぁって・・・。」

彼女の意外な夢に、タカラは一瞬驚いたような表情をするが、何かを思いついたのかすぐに口元に微笑みを浮かべた。
そんなことを知らずに、フサしぃは残念そうな笑みを浮かべながら、更に話を続ける。
「でも・・・無理だよね。非現実的だし、私は宇宙人といっても飛ぶ力なんて無いし・・・」

「いや・・・。その願い、無理なんかじゃないよ。」

「・・・えっ?」
彼の自信あり気な答えに驚くフサしぃ。どちらかと言うと、驚くと言うよりも動揺に近い。
91TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/19(月) 00:43:30 0
「何言ってるの・・・? 私は宇宙人だけど、殆ど地球の人と変わり無いって・・」「大丈夫。頭がおかしいと思ってるだろうけど、本当に出来るよ。ただ、君が考えてる事とはちょっと違うかもしれないけどね。」「え・・・?」
彼はそう言うと、言っている事が理解できていないフサしぃをそのままに、自分のポーカーのポケットからコスモプラックを取り出すと・・・

「ちょっと待ってて・・・。『コスモォォス!!』」

「きゃっ!」
夜空に向かって掲げ、巨人としての姿である『ウルトラマンコスモス・ルナモード』へと変身した。
コスモスは変身した直後に、カラータイマーの前に両手を翳しエネルギーを溜める。そして・・・
「ハァァァ・・・!」「!」
溜まった光エネルギーを空中へと放射し、自分とフサしぃの周りを巨大なシールドのような物で囲んだ。
突然放射された光線技に驚きながら、フサしぃはコスモスに聞く。
「えっ、今何したの!?」「他の人に僕達の姿が見えないようにしたんだ。僕の家族には姿が見えるけどね。さてと・・・」
彼はゆっくりとしゃがみ込むと、そのまま彼女の前に左手を静かに差し出した・・・。

「僕の左手に乗って。一緒に、夜空を飛ぼう・・・。」
92TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/20(火) 00:09:29 0
コスモスの差し出した左手に、フサしぃはようやく彼の全ての行動を理解した。
彼は飛ぶ力が無い彼女を、左手に乗せたまま一緒に空を飛ぼうと考えていたのだ・・・。
タカラの行為に対して胸が熱くなったフサしぃは、瞳を潤わせながら遠慮するように聞く。
「私が本当に・・乗っていいの・・・?」
彼女の弱々しくも震えた声に、コスモスはゆっくりと頷く。
「早く乗って。時間が無くなっちゃうよ?」「・・・うん!」
フサしぃは溢れそうになった涙を右手で拭うと、嬉しそうな笑顔で彼の大きな左手によじ登った。
彼の手は戦っている時の、あの強くて厳しい戦士のコスモスとは思えない程にとても柔らかくて、包み込むような優しい温もりがある・・・。まるで人間の時のタカラと同じような感覚だ。
「これがタカラ君の温かさ・・なんだ・・・。」
コスモスは彼女が乗った事を確認すると、自分の胸元にゆっくりとその手を寄せた。
「用意は良いかな? 落ちないように、しっかり掴まっているんだよ。」「大丈夫!」

「分かった。行くよ・・・! シュアッ!!」

彼女の準備が出来た事が分かると、コスモスは空いた右手を空に挙げ、ゆっくりと星空に向かって舞い上がっていった・・・。
93TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/20(火) 23:51:05 0
挿入歌
『Power of Love〜ウルトラマンコスモスより』(タカラのテーマ)

1.
落ち込む友達を 見過ごせない時は 
空の彼方で 風を送る
世界が悲しみに 包まれた時でも
人と人を結んでる・・・

限り無い愛の力 信じたならそれが
君だけの 『ウルトラの誓い』
迷わない勇気がきっと 誰かの心へと
透き通る 『光』を伝える筈さ・・・

2.
果てしない明日へ 夢追いかける時
いつも風を 感じていたい・・・
友達の嘘も 信じてあげるなら
心と心 結んでる・・・

限り無い愛の力 信じたならそれが
君だけの 『ウルトラの誓い』
何時の日か 宇宙に誇る地球にする為に
迷わずに 描いた未来へ走れ・・・
94TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/21(水) 23:35:44 0
「わぁ・・・! ヤッホー!! あははっ・・・!」
空を飛ぶフサしぃの叫び声はそのまま町中に木霊し、ギコの家にもその声がよく響いていた・・・。

そのギコの家のベランダでは、エーがコーヒーカップを片手に夜空を見上げている。
コーヒーカップの中身は眠れるようにと用意したホットミルクで、温めたばかりなのか飲み口からは湯気がボンヤリと上っている。
上空ではコスモスがフサしぃと空中デートをしており、エーはその楽しそうな様子を見ながら静かに微笑んでいた・・・。
「ふふっ・・・。あんなに楽しんじゃって・・・。」
彼女がそう呟いた時、後ろのガラス戸が突然ガラリと音を起てて開いた。大きな音に驚いたエーは、後ろへとっさに視線を合わせてみる。すると・・・

「お前が外を眺めてるなんて、珍しいな。」「アヒャ・・・。」

そこにはガラス戸を開けた張本人ーー缶ビールを片手に持った夫『アヒャ』が、まるで珍しい物でも見るような表情でこちらを見ていた・・・。
「またお酒? さっき十分に飲んでたじゃないっ!」「休みの日ぐらい、許してくれよぉ・・・。と言うか、俺はそんなに飲んでないぞ?」
アヒャはそう言いながら、エーの左に肩を並べた・・・。
95TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/22(木) 00:12:04 0
隣に並ぶ彼女と同じように、アヒャも空へと視線を上げてみる。
「・・・タカラの奴、随分大胆なデートをしてるんだなぁ・・・。」「うん・・・。」
見上げた先では、左手に少女を乗せた青い巨人が町の方から海へ向かって飛び去っていくのがよく見えた。
ちなみに、コスモスが透明なバリアを張っているため、今の二人の姿を確認できるのはこの家族だけしかいない。
飛び去って行く巨人を見ながら、エーはどこか悲しそうな表情を浮かべて彼に話しかける。
「アヒャ・・・。」「ん? どした?」「さっきは、ありがと・・・。」「あぁ、気にするな。確かに休暇が取れねぇのは、ビミョーな気分だけどな。」
そう言いながら、彼は缶ビールを一口飲む。実は休暇が取れている話は嘘で、本当は最近殆ど休暇が取れていないのだ。
彼女の落ち込んだ反応を見て、アヒャも少し悲しそうな表情を浮かべ、ため息をつく。
「・・何か・・・ごめんな。休暇返上で、最近殆ど家族サービスが出来ねぇからさ・・・。珠璃も寂しがってるだろうし、いい加減お前も疲れてきてるんじゃないか?」
「・・・ううん、私はそんな事は無いよ。貴方の仕事に対しての覚悟は、もう出来てるもの。でも・・・」「でも・・・?」
96TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/23(金) 05:36:03 0
「分かってるけど、私はやっぱりアヒャの事が心配だよ・・・。辛いのに仕事を頑張りすぎて、倒れちゃうんじゃないかって・・・。そうなったら、私は・・・」
パーティーの時、のーの口から出た『過労死』という言葉に、エーは胸を締め付けられるような思いになっていた。
もし彼が倒れたときは安静にすればいいだろうが、最悪の状態になったらどうにも出来ない・・・。
月の光に照らされた瞳を潤わせながら肩を落とすエーに、アヒャは落ち着かせるように彼女の肩に手を乗せた。顔に出る表情は彼女を安心させる為に創った、何処か悲しげな微笑みだ。
「そ、そんなに心配するなよ・・・! 死ぬ勢いで働いてたら、もう倒れてるって。」「だって、貴方は・・・」
「大丈夫だ。もう少しで、休暇が来る筈なんだ・・・。何時までも苦しむ事はない。だから、焦らなくていい。ただ、もう少し時間をくれ・・・。」「・・うん・・・。」
アヒャの心からの説得に、エーは小さく頷いた・・・。
97TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/24(土) 08:58:43 0
しかし頷いた後に再び俯き、悲しそうな表情を浮かべてしまう。
彼女の複雑な表情が気になったアヒャは、顔を覗き込みながら更に聞き返す。
「・・・どうした?」「本当に約束・・守ってくれるの・・・?」「? もちろん・・・。」

「・・やっぱり私・・・約束できないよ・・・。」

「えっ・・・?」
彼女の意外な返答に、驚きの表情を浮かべるアヒャ。
「何でそんな事を・・・」「本当はその約束・・・守れそうにないんじゃないの・・・?」「! それは・・・。」
言葉を濁すアヒャに不満そうにため息をするエー・・・。更に、顔に苦笑いを浮かべてアヒャに言う。
「別に貴方のことを信じられなくなったわけじゃないよ・・・。でもその約束で、逆に無理をさせちゃってるような気がするの。」「無理なんて、そんな事は・・・。」「だから・・・」

「約束しなくて良いの・・・。余計な約束はしないで、貴方がやるべき仕事に集中して頑張ってくれればいい・・・。私にはそれで、十分なんだよ・・・。」

「エー・・・。」
健気な態度で説得するエーに対して、彼は反論する言葉が見つからなかった・・・。
彼女は既に彼の心情を読みとり、敢えて今のような発言をしたのだーー。
98TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/24(土) 12:15:16 0
それは同時に彼女からアヒャに対するエールでもあり、エーの心配事に蓋をするのにも等しかった。
「・・・もう、この話は止めよ・・・? 先にリビングに戻ってるよ。」「・・・。」
そう言うとエーは暖かいミルクに口をつけた後、静かに部屋へ戻ろうとした。
そんな彼女の後ろ姿が、何かのストレスを感じているように見える・・・。アヒャに対しては健気な素振りを見せていたが、心の中では心配に心配を重ねて疲れているのだ・・・。
彼女の背中を見つめながら、アヒャは再び声をかける。
「エー。」「? なぁに?」「その・・・いつも心配ばかり掛けて、ごめんな。俺が考えてる事まで全部分かっちまうなんて、やっぱりお前は凄いよ・・・。」
「ふふっ・・私だって、アヒャが光の戦士だって事を誇りに思うよ。だから自分に自信を持って、無理をしないようにね。・・・おやすみ。」
「おう・・・。」
彼女はアヒャに穏やかな笑顔を見せて、静かに扉を閉めて行った。
(約束・・か・・・。次こそ本当に守って、家族と一緒に過ごしたいな・・・。)
そう思いながら、アヒャは缶ビールに口を付け、静かに星空を見上げる・・・。
(タカラ達は今ごろ、どうしているだろう・・・。)
99TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/25(日) 07:48:49 0
その頃・・・
コスモスはフサしぃを片手に乗せたまま、相模湾の上空をゆっくり飛行していた。
星空では黄色に染まった満月が地上に向かって美しい輝きを放ち、海面を穏やかな光に包み込む・・・。
更に星のようにキラキラと瞬く海からは春の暖かい風が吹き付け、フサしぃの亜麻色の長髪を柔らかく撫でていった。
海と町と、満点の星空・・・。静寂に眠る世界の中、彼女は飛び始めた直後までのはしゃいでいた気分がまるで嘘のように、沈黙したまま景色を楽しんでいた・・・。
「綺麗・・・。」「空を飛んでいる気分は、どうだい?」「気持ち良くて、何だか・・・心が晴れていくみたい・・・。それに・・・」

「君の手が暖かくて、とても落ち着くんだ・・・。」

「! そ、そうか・・・。」
フサしぃの甘えも混じったかのような声に、コスモスは一瞬動揺する。彼女の甘える声を聞くと、何故か恥ずかしくなってくるのだ。
「! おっと・・・。そろそろ家に戻ろうか・・・。」「えっ?」「だってもう夜遅いし、何時までも空を飛んでいるわけには行かないだろ? そろそろ戻らないと、怒られちゃうよ。」「・・・うん。」
100TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/25(日) 11:00:28 0
落ち込み気味でフサしぃが答えると、コスモスは方向転換をして石碑の丘へと戻ろうとした。
海から町の方向へと静かに移動していく・・・。移動する中、フサしぃは思ったーーーあの事を聞くなら、今の内しかない。このチャンスは逃したくない、と・・・。
海岸付近になったところで、フサしぃは遂にあの事をコスモスに切り出すことにした。
「タカラ君・・・。」「ん?」「ちょっと・・止まってくれる・・・?」「・・・?」
彼はフサしぃの言葉に従い、空中で静止する。
「どうした?」「私・・・君に一つ、聞きたいことがあるんだ・・・。」「聞きたい事って・・・?」
フサしぃは彼の手の上で立ち上がると、恥ずかしそうに視線を上げて顔を赤くしながら聞いた。
「さっき私は『月の人間』だって言ったけど・・・こんな私でも・・・」

「タカラ君は・・・私のことを『恋人』だって・・思ってくれるのかな・・・?」

「しぃちゃん・・・。」「お願い・・タカラ君はどう思ってるのか答えて・・・。」
101TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/26(月) 01:00:15 0
突然フサしぃから聞き出された質問に、コスモスは一瞬動揺する・・・。しかしすぐに彼はその優しそうな円らな瞳を彼女に向けると・・・

しっかりと首を縦に振って、頷いて見せたーー。

その瞬間、彼の円らな瞳の中に、揺るぎない情熱と想いが垣間見えた気がした・・・。
「僕は昔、君が家に来た日の晩に交わした約束を一時も忘れていないよ・・・。ずっと君の側にいてあげるという約束も、君の事を護り続けるという事もね・・・。あの日に告白した『気持ち』も、ずっとそのままだ・・・。」
彼の発言に、フサしぃのその蒼い瞳がだんだんと潤んでいく・・・。
「僕の中では君はずっと『恋人』で、『大切な一生の宝物』なんだ。君が月星人であれ、僕の気持ちは絶対に変わったりしない・・・。だから・・僕は・・・」

「僕は君の事が・・・ずっと、大好きだ・・・!」

「タカラ君・・・。」
今度はフサしぃの顔が赤くなり、瞳に溜めていた涙がこぼれ落ちる・・・。
彼女はこの瞬間を、約七年間待ち続けた・・・。
別れの前日、彼に言ってしまった『大嫌い』という酷い一言ーー。
フサしぃはタカラが宇宙へ行ってしまった後から、その事がずっと心残りで、後悔していたのだ・・・。 
102TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/26(月) 21:24:05 0
しかし今、その心の傷がコスモスの言葉によって癒されて、彼女の心はまた、あの幼い時のように『タカラ』に救われたのだ。
(私の中の後悔は、これで無くなったんだ・・・! もう泣いてなんかいられない・・・!)
そう思ったフサしぃは、瞳からこぼれ落ちそうになった涙を拭い取り、コスモスの優しい瞳に嬉しそうな笑顔を向けた・・・。
「・・大丈夫かい・・・? 何か傷つくこと言ったかな・・・。」「ううん、何でもない! ただ、その・・・」

「有り難う・・・! 君の気持ちが聞けて、とても・・とても嬉しかったんだ・・・。こんな私だけど・・・これからもずっと・・一緒にいてね・・・!」

「ああ・・・!」
彼女の心からの言葉に、コスモスは再びしっかり頷いた・・・。
満月の輝く星空に浮かぶ、大きさの違う二つの影・・・。そんな『亜麻色』と『青色』の『二つ星』を、満月は優しい光のスポットライトを当てて、仲人のように暖かく見守っている・・・。
彼らの間に結ばれた『深い絆』は、この宇宙に散らばる光の如く、永遠に輝き続ける筈だ・・・。

この時、二人はまだ知らなかったのだ・・・。

この地球の運命を賭けた『大決戦』が、始まろうとしている事をーー。
103TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/26(月) 23:11:45 0
通常イメージテーマ
『君にできる何か』(ウルトラマンコスモス・小説第二弾より)
歌:Project DMM

夢を追いかけて 全てが変わる・・・

1.
Why? 何故だろう?
誰かを救える筈の力で 誰もがまた争う・・・。
Yes... 本当は
一つの地球(せかい)に生まれてきたと 分かり合えているのに・・・。

(※)
Can you do it? 何度でも
Can you carry out? 始めよう
新しい More tenderly...
明日を・・・ More kindly...

(※)
夢を追いかけて 全てが変わる
何時だって君を 心は見ている
愛は何処にある? その答えから
君だけの勇気 必ず
探し出せるさ・・・
104TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/26(月) 23:21:58 0
2.
Why? 限りない朝日と
美しい月の夜が 記憶の果て消えてく・・・。
Yes... 失った光が
教えてくれた気持ちを 思い出してみないか?

Can you do it? 今すぐに
Can you carry out? 始めよう
信じ合う More tenderly...
未来を・・・ More kindly...

(※2)
夢を追いかけて 全てが変わる
強くなる意味を 心は知ってる
愛は何処にある? 気付いた時に
君だけに出来る 何かが
探し出せるさ・・・


(※ 繰り返し)
(※2 転調で繰り返し)
105TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/27(火) 23:26:30 0
第三話 優しさの力〜友好巨鳥を救え〜

翌朝・・・
タカラはカーテンの隙間から漏れる光で目が覚めた。
丁度朝日が差し込んできたばかりなので、時刻は5時半と言ったところか。
(う〜ん・・・もう朝なのか・・・?)
目が覚めたと言っても、この布団の心地よさからは暫くは抜け出せそうにない・・・。彼は眠そうに欠伸をすると、目だけを動かして自分の部屋を見渡す。
両親達が高校へすぐに行けるようにと用意してくれた教科書やノート・机以外は、昔とは特に変わっていない。
向かい側に有るもう一つの机と椅子は、きっとフサしぃのものだ。さすがに高校に入ってからも一緒の部屋だと、気不味い感じがするが・・・。
取りあえず日曜でこの時間に起きるのにはまだ早いので、彼は体を横に向けてもう一眠りをすることにした。
目を瞑って再び睡眠に入ろうとするタカラ。しかし・・・

寝ようとして枕に視線を向けた瞬間、彼の目に亜麻色のフサフサした何かが目の前に飛び込んできたーー。

「! クシュッ・・・!」
自分の鼻にそのフサフサした物が当たり、彼は思わず小さな嚔をしてしまう。一体何時からこんな物があったのだろうか・・・。
106TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/28(水) 22:36:43 0
タカラは自分の身に覚えがないかを、記憶を辿って確認する。
あの後、タカラはコスモスの状態のまま家の一階のベランダまで飛び、フサしぃを降ろして自分も変身を解除した。その後は起きていたアヒャに出かけていたことを伝えて、それぞれシャワーを浴びてからパジャマに着替えてベッドで就寝した・・・。
やはりこんな物を置いた覚えがない。タカラは一先ず、この長くてフサフサした物をどかそうとした。と、その時・・・

手をかけようとした瞬間、亜麻色のフサフサした物が突然ゾゾッとその場で動いた・・・。

「!?」
奇妙な物体が突然動いたので、タカラはパジャマの下で鳥肌を立たせた。こんな事があって、そもそも驚かない筈がない。
彼は落ち着いて、布団の中にあるもう片方の手を動かしてみる・・・。
すると、自分の体とは違ったもう一つの何かが、隣に横たわっていることに気が付いた・・・。布の下には、ホッとするような柔らかさを持つ何かがある・・・。
(待てよ・・・。これって・・・。)
その柔らかい感触でタカラは何かに気が付く。この柔らかさは間違いなく、物ではない・・・。

『何か』ではなく、『誰か』だーー。
107TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/29(木) 02:48:27 0
彼は眠たい目をそのままに、ゆっくりと毛布を持ち上げてみる・・・。そこには・・・
(そぉぉぉぉいっ!?!!?)

亜麻色の長い髪をそのままに、タカラの胸に顔を寄せて気持ちよさそうに眠っている少女の姿があったーー。

その少女は口元に優しい微笑みを浮かべ、スヤスヤと小さな寝息をたてている。丁度背中にタカラの手がくるような格好で、一回り小さいためその顔は彼の胸の位置にぴったりだ。
(な・・・何でこんな所に・・・!?)
一晩の間に、何か変な事をしでかしてないと良いが・・・。タカラが焦って、どのように対処すればいいか考えていたその時、彼の横で眠っていたお姫様の瞼が、突然ピクッと動き出した。
徐々に重たい瞼が開けて、中から眠たそうな蒼い瞳がこちらに向いてくる・・・。
「ん・・んんっ・・・?」「しぃちゃん・・・!」
蒼い瞳が完全に開いた寝ぼけ眼のお姫様は、呂律が回らない状態で真っ赤な顔をした彼に話しかけた・・・。
「ん・・・タカラ君・・おはよ・・・。早いんだねぇ・・・。」「お、おはよ・・・って、何で君が此処にいるんだっ??」
「だって・・・一緒に・・寝たかったんだもん・・・。温かいし・・・守ってくれる気がしたの・・・。」
108TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/29(木) 11:09:03 0
「あのさぁ・・・。」「あれぇ・・・? そんなに・・一緒に寝るのが・・・嫌だったの・・・?」「・・・。」
真っ赤な顔で返答に困るタカラ・・・。確かに、彼女が隣にいる時はホッとした状態で寝られてはいたが・・・これはいくら何でもやりすぎだろう・・・。
彼が返答に迷っているうちに、フサしぃはいかにも眠そうな声で再び話しかける。
「もう少し・・君の側で寝かせて・・・?」「エェッ!? ちょっ、しぃちゃん!」「・・もう少し・・・だけだから・・・。」
そう言うとフサしぃは彼の答えを聞かぬまま、再び隣でスヤスヤと眠り始めてしまった・・・。
彼女は一体、何時からこんな性格になったのか・・・。
(まぁ・・・仕方ないか・・・。)
成す術がなくなってしまったタカラは、仕方なくもう少しだけ彼女の側にいることにした。
隣に寝るという大胆な行動に困惑な表情を浮かべるタカラ。しかしそれでも、この彼女の優しい温かさにはどうしても負けてしまう。
フサしぃの優しい温かさと体の柔らかさに包まれ、彼もいつの間にか睡魔の中に落ちていくのだった・・・。
109TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/04/30(金) 06:00:07 0
二時間後・・・
「・・・? うぅんん・・・。」
フサしぃは、タカラのベッドでの上で再び目が覚めた。
少しだけと言いながら、かなりの時間を寝てしまったようだ・・・。何か申し訳の無いようなことをしてしまったような罪悪感が、彼女の頭の中をかけ巡る。
彼女は隣にいる筈のタカラに、もう一度挨拶しようと体を向けてみた。しかしそこには既に彼の姿はなく、そこに彼が居たという抜け殻と温もりが残っているだけだった・・・。
(あれ・・・? タカラ君がいない・・・もう起きちゃったのかな・・・。)
眠たそうな目を擦りながら、フサしぃはゆっくりと体を起こしてみる。熟睡していて余程疲れていたのだろうか・・・頭がボーッとして、未だに体が重く感じられる。
「う〜ん・・・フアァァ・・・。」
体を起こした後で、上に腕を伸ばしながら大きな欠伸をするフサしぃ・・・。今頃タカラは、一階のリビングでテレビでも見ているのではないだろうか。
そう思った、その時・・・
110TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/01(土) 07:00:08 0
「一つ、腹ペコのまま学校へ行かぬこと! 一つ、天気の良い日に布団を干すこと!」「ん・・・?」
外の方から、何かの決まり事のようなものを連呼するタカラの声が聞こえたのだ。時刻はまだ朝の7時半・・・。日曜の朝だというのに、彼は一体この時間に何をしているのだろう・・・。
フサしぃは急いで私服に着替えると、彼の声が聞こえる方角を探すために一階へと降りていった・・・。

降りた先では、しぃとエーが既に起きていて、朝食の準備に勤しんでいる。フサしぃは台所の入口から顔を出して彼女らに挨拶した。
「しぃお母さん、お早う!」「! フサしぃちゃん・・・そんなに慌てて、どうしたの?」「外で、タカラ君の声がするの。お母さん達は知らない?」「声? もしかして・・・。」
ベランダの窓をガラリと開けて、耳を澄ませるフサしぃ。すると・・・
「一つ、道を歩く時は車に気を付けること! 一つ、他人の力を頼りにしないこと! 一つ、土の上を裸足で駆け回って遊ぶこと!」
石碑の丘の方から家の玄関に向かって走っているジャージ姿のタカラともう一人、茶髪の若い男性ーー『ヒビノ ミライ』の姿が確認できた・・・。
111TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/01(土) 10:35:44 0
朝の走り込みを終えた二人は、額に気持ちの良い汗を滲ませながら家へと戻ってきた。彼らはどうやら体が怠けないようにと、ウルトラの星で毎朝日課になっていたランニングを地球でやっていたようだ。
しかし、走っている間に復唱していたあの『条文』のような物は、一体何だったのだろうか・・・。
フサしぃはその事を気にしながら、玄関で額から汗を滴らせながら立っているタカラ達の為に、急いでタオルを持って出迎えた。
「タカラ君、お疲れさま・・・! これ、使って?」「しぃちゃん、起きてたんだ・・・ありがとう・・・。」
呼吸を弾ませる彼にタオルを差し出し、タカラはそれを快く受け取る。更に、フサしぃは彼の隣にいる人物にもタオルを差し出した。
「ミライさん、おはようございます。」「! ありがとう。使わせてもらうよ!」
フサしぃからタオルを受け取り、リビングからしぃが顔を出す。丁度朝食の準備が出来たらしく、エーは未だに眠っているジュリを起こしに行っているようだ。
「お帰りなさい。すっきりした?」「お母さん・・・。」「今、朝ご飯が出来たところなの。良かったら、ミライ君も一緒にどう?」「良いんですか? 有り難うございます!」
112TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/02(日) 00:38:17 0
ミライはしぃの優しい誘いに嬉しそうな反応で返し、リビングの中へと入っていくことにした。
彼はタカラとは違って一時的に待機するため、元々GUYSの待機宿舎だった場所に寝泊まりしている。しかし今は誰も住んではいないため、そこでの暮らしは孤独極まり無い。
特に食事の時の孤独感は、賑やかだった頃を知っている彼にとっては毎日耐えがたいものだ・・・。
それ故に、人懐っこいミライにとってはこの誘いは貴重で、とてもありがたいものなのだ。

彼らはリビングに入ると、それぞれテーブルの周りを取り囲むようにして席に着いた。
今日のメニューはグリーンサラダに目玉焼き、そして食パンやコンソメスープ等、彩りの綺麗な洋食メニューで揃えられている。
美味しそうなその朝食にタカラが無意識にお腹を鳴らした、その時・・・
「ううん〜・・・。眠いよぉ〜・・・。」「ダメよ、ちゃんと起きなきゃ・・・。ご飯が冷めちゃうよ?」
二階から洋服に着替えたジュリと、薄緑色のエプロンを付けたエーがこちらに歩いてきた。
ジュリはついさっき起こされたばかりなのか、エメラルドグリーンの目が虚ろな状態で、首までの長さがある髪の毛が寝癖でクシャクシャな状態になったままだ。
113TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/02(日) 20:30:12 0
「用意はいい? じゃ、いただきます!」
「いただきまぁ〜す!」
寝ぼけ眼のジュリが席に着いた所で全員が揃い、いよいよ食事が始まった。
タカラは早速好物である目玉焼きから食べ始め、上手に黄身を取り分けて口の中へと運ぶ。半熟に焼けた黄身の味と香りが、ふんわりと鼻の奥へと広がっていく・・・。
彼にとって、この目玉焼きこそが『お袋の味』であり、今朝の目玉焼きは約七年ぶりに口にしたのだ。
半熟焼きを作るのが難しい上に、ここまで香りの良い目玉焼きを作れるのは、やはり自分の母親しかいない。
今度、この半熟焼きの作り方を母親に教わって、自分で作ってみたいものだ。
目玉焼きとパンを頬張っている中、隣にいるフサしぃが突然話しかけてきた。
「ねぇ、タカラ君?」「ん? どうした?」「さっきのランニングの時に、走りながら言ってた事って何?」
「ランニングの時・・・? ・・・あぁ、あれの事?」
どうやら彼女が聞いてきたのは、今朝にミライとタカラが走りながら連呼していた『条文のようなもの』の事らしい。タカラは食パンを皿に置いて、彼女にそれについて説明し始める。

「僕らが言っていたあれは、『ウルトラ五つの誓い』っていう約束事なんだよ。」
114TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/03(月) 00:23:44 0
「ウルトラ五つの誓い・・・? 何それ?」
首を傾げるフサしぃの反応を見て、ミライがタカラに続いて質問に答えた。
「一人前の戦士になれるようにと、ジャック兄さんが考えた五つの誓いのことなんだ。僕が最初に地球に来たとき、GUYSと言う防衛チームにいた仲間の人も知っていたけど・・今の地球のみんなには、忘れられているみたいです・・・。」
ミライの何処か寂しそうな言葉に、タカラは少し苦笑いを浮かべる。ウルトラマンと人間の時間の流れの違いが生んだ悲しさは、彼の心に少し深めの傷を作っていたようだ。
GUYSは既に解散しており、宿泊施設は新しく立て直されてアパートに姿を変えている。しかし今でも昔の面影が残っており、ミライはそれを見る度に悲しくなるそうだ。
彼が昔のことを尊んでいると、ウルトラ五つの誓いに興味を持ったフサしぃがタカラにあるお願いをした。
「その五つの誓い、私に聞かせてよ。」「えぇっ? どうしようかな・・・。」
彼女の言葉に、しぃとエー・ジュリの三人も彼らに視線を合わせる。
タカラは少し考えた後、視線を合わせている彼らに向かって答えを出した。頬が微妙に赤くなっている・・・。
「・・・分かった。よく聞いててね。」
115TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/03(月) 11:16:00 0
タカラは一呼吸置いてから、目を瞑って復唱し始めた・・・。

『一つ、腹ぺこのまま学校へ行かぬこと
 一つ、天気のよい日に布団を干すこと
 一つ、道を歩くときは車に気を付けること
 一つ、他人の力を頼りにしないこと
 一つ、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと』

「・・・これで全部だよ。簡単かもしれないけど、宇宙警備隊に入るには此を完全に覚えておかなきゃいけないんだ。」
タカラの言葉に、ミライもその通りだというように静かに頷く。
「へぇ・・・。改めて聞くと、結構単純なんだね。」「元々ジャック兄さんを慕っていた小学生に教えていた物なんだ。でも、それぞれ強い戦士になるためには欠かせない基礎的なことだよ。」
タカラの説明に、フサしぃは納得したように口元に微笑みを浮かべた・・・。
116TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/03(月) 23:46:23 0
彼女が納得したのを見て、タカラは再び食パンを頬張り始める。
そんな食事の最中、ニュースを見ようと付けていたテレビにある報道が入った・・・。

『昨日、午後三時半頃に起きた神奈川県藤沢市でのバルタン星人の急襲に、未確認の巨人が駆けつけ、町中で熾烈な戦いを繰り広げていきました。』

「! ママ、あれってタカラお兄ちゃん?」「えっ?」
ジュリの声に合わせるように、サラダを食べていたタカラ達もテレビの画面へ視線を向ける。
ニュース番組では、昨日繰り広げられていたコスモスとバルタン星人の戦いの一部が流されていた。コスモスが圧倒的な攻撃でバルタンへ果敢に挑んでいる映像を、タカラだけは複雑な表情でそれを見ている・・・。
内心タカラはこの戦いを望んではおらず、バルタン星人を倒すつもりは全く無かった。ただ彼の苦しみを、解き放ちたかっただけなのだ・・・。

『専門家の判断によりますと、体色や顔の形からこの巨人は、約七年前に地球を去った『ウルトラマンコスモス』の新形態と言われ、彼が今地球に起こりつつある危機を救うために、再び帰って来たと考えられています。』
117TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/04(火) 01:12:05 0
フサしぃはタカラの活躍をニュースで見たことに少し嬉しくなったのか、彼に向き直して微笑みを向けようとする。しかし・・・

隣にいたタカラの表情は笑顔ではなく、まるで後悔でもしているかのように暗い表情に染まっていたーー。

表情に合わせて、彼のサラダを食べる手もストップしている・・・。それ程にタカラにとって、バルタンを倒した事が大きなショックだったのだ。
「タカラ君・・どうしたの・・・? そんなに落ち込んで・・・。」「! えっ? ・・・いや、何でもないさ・・・。」
彼女の声で正気に戻り、タカラは再びサラダを食べ始める。そんないつもと違う彼の様子を、フサしぃは横から心配な表情で見つめていた・・・。
(いつものタカラ君じゃない・・・。どうしたのかな・・・。)
先程の彼の表情で、フサしぃはタカラの心の中で揺らいでいるものが何となく分かった気がするーーバルタン星人を倒した後悔が、心の中で大きな渦を巻いていることを・・・。
(やっぱり、タカラ君はこんな事を・・望んでなかったんだね・・・?)
そう考えている内にタカラはサラダを完食し、「ごちそうさま」と一言言った。
いつもは二杯食べる彼が、今日は一杯しか食べていない・・・。
118TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/04(火) 19:22:11 0
「あら? ・・・もう良いの?」「うん・・・。何だか、もうお腹一杯になっちゃってさ。」
食べ終わったタカラはしぃに苦笑いを浮かべると、再びテレビ画面へと体を向き直した。やはり、また後悔しているような暗い表情に戻っている・・・。
彼のこの一連の行動を見て何かを理解したしぃは、フサしぃと同じように心配するような表情を浮かべた。
今日の彼は、何かが違う・・・。彼女の心に引っかかる何かが、その異変を訴えかけていた。
このモヤモヤとした感覚は、一体何なのだろうか・・・。
(タカラ・・・。何か気に沿わない事でも有ったのかしら・・・。)
テレビでは、今朝に入ってきた速報が流され始めていた。

『つい先程入ったニュースです。小笠原諸島にある怪獣保護センターから、保護されていた怪獣の内の一頭が何者かに襲われ、施設から姿を消したという事件が発生しました。詳しくは、今後に入る情報にご注意下さい。』

「怪獣が・・しかも、逃げ出したって・・・!?」
七年間地球のことに皆無だったタカラは、その情報で目を丸くした・・・。
怪獣が島で保護され、それが逃げ出す・・・? 一体、どんな状況なのだろうか。何が何なのか、さっぱり分からない・・・。
119TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/05(水) 20:10:57 0
困惑した表情を浮かべるタカラを見て、フサしぃが補足するように彼に話しかけた。
「君がいない間、この星では地球に元々住んでいた無害な怪獣を守るために保護施設が作られたの。今まで、怪獣達はそこで平和に暮らせていたんだけど・・・。」
「なるほど・・・。確かに、この星の怪獣達は友好的な種類が多いから・・・。」
フサしぃの説明に理解の色を示すタカラ。更に今度は、エーが疑問に思ったことを口にする。
「でも・・何であそこが狙われたの・・・? 宇宙にはここより、沢山の怪獣が居る筈なのに・・・。」
「きっと何者かが、友好的な怪獣達を暴れさせて混乱を起こそうとしてるんだと思います。」
ミライはエーの質問に次のように答えると、それに補足するように更に言葉を繋げる。
「仮にもし、この星の怪獣達に寄生して強制的に暴れさせる要因を作れるとしたら・・・」

「『カオスヘッダー』・・・ね?」

ミライが言い掛けたとき、しぃが少し暗い表情で先に結論を出した。
彼女が真っ先にその事を言ったのは、むしろ当たり前なのかもしれない。何故なら彼女は・・・

実際に『カオスヘッダー』を注入された経験者なのだからーー。
120TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/06(木) 00:27:08 0
「フサしぃちゃんと、ジュリちゃんには初めて明かす事だけど・・・私は昔、カオスヘッダーに取り憑かれたことがあるの・・・。」「えっ・・・?」
彼女の言葉に、疑うように目を丸くするフサしぃ・・・。しぃは自分がそれに侵されたことを回想しながら、少し俯いた状態で説明を始めた。
「私はある異次元人に捕らえられて、強制的にカオスヘッダーを入れられたの・・・。最初は負けないように耐えていたんだけど、後から体中が苦しくなって・・・体の内から迸る力と気持ちに耐えられなくなって暴走しちゃったんだ・・・。」
説明している内にしぃの体には悪寒が走り、両腕で自分の肩を抱いて細かく身震いをさせる・・・。理性を失って無差別に人を攻撃してしまったことが再び脳裏に蘇り、トラウマとなって彼女を襲い始めていた・・・。
「理性を失って、ただ憎しみと怒りの固まりになった私は、気付いたら子供のエーやタカラの事も襲ってて・・・。うっ・・・うぇぇっ・・・!」
「! お母さん・・・っ! 大丈夫!?」
「はぁっ・・・はぁっ・・・。」
突然吐き気が襲ったしぃを、エーが慌てて背中を支える。
あの明るくて優しい彼女がここまで追い込まれている姿は、初めてだ・・・。
121TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/06(木) 20:26:09 0
過去のトラウマに苦しむしぃを見て、フサしぃは身を抓むような思いになる・・・。同時に、カオスヘッダーがどれだけ恐ろしく凶暴な物なのか、痛いほどによく理解ができた・・・。
食卓が暗い雰囲気になる中、無言だったタカラが静かにその口を開く・・・。
「母さん・・もう無理に話さなくていいんだ・・・。ここからは、僕が・・・。」「タカラ・・・ごめんね・・・。」
吐き気に苦しむ母に優しくそう言うと、彼はフサしぃ達に向き直して改めて話し始めた。
「僕達からすれば、カオスヘッダーは凶悪な宇宙ウィルスにしか見えないかもしれない・・・。だけど本当は、カオスヘッダーは僕と同じような役目を持っていたんだ・・・。」「役目って、どんな・・・?」

「僕と同じように『秩序』を守り、世界のバランスを保とうとすることだよ・・・。」

「えぇっ・・・!?」
122TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/07(金) 00:18:54 0
タカラの口から出た『秩序』という言葉に、フサしぃは耳を疑う。
『混沌』という名の生物が、『秩序を守る』という矛盾した役目を持っているのだ。驚かない筈がない。
「『カオス』が『秩序』を・・・? それって、矛盾じゃないの?」「確かに君の言う通り、矛盾しているかもしれない・・・。でもカオスヘッダーは元々、混乱していた星に秩序を生む為に作られた人工生命体なんだ。」
驚いた様子をそのままにして話を聞いているフサしぃ・・・。彼女にとってこの話は、驚くことばかりの内容らしい・・・。
タカラは今までの自分の説明に、補足をするように話を続けた。
「でもカオスヘッダーは、僕とは違う考え方で秩序という物を捉えていたらしい・・・。」「? どういう事・・・?」
「僕は怪獣達の暴走を止めて、生態系を保ったままこの世界に共存する事が目標だ。だけどカオスヘッダーは逆で、生態系を崩した上で新しい秩序を築こうとしていたんだ・・・。」
余りに恐ろしい事実に、フサしぃはどう言葉を返したらよいのかが分からない。軽々しく『ウルトラマンコスモス』と呼んでいたが、まさか『秩序を守る優しさの戦士』という深い意味があったとは、全く知らなかったからだ・・・。
123TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/08(土) 08:28:00 0
不安顔を浮かべているフサしぃを余所に、タカラは自分のポケットに入れていたコスモプラックを手に取り、軽く握りしめながら更に話を続ける。
「僕が生まれるずっと昔、コスモスはムサシという人と一緒になって、間違った秩序を追いかけていたカオスヘッダーを浄化した。彼奴とは、分かり合えた筈だったんだ・・・。なのに・・・。」
「タカラ君・・・。」
歯ぎしりを起てながら、コスモプラックを握る右手に力を加えてもどかしそうにするタカラ・・・。しかしその表情からは悔しさだけではなく、カオスヘッダーが再び変異したことに対しての悲しさも一緒に伝わってきていた・・・。

そして、バルタン星人の命を殺めてしまったことに対する責任感もーー。

全てが彼の肩にのし掛かり、背中がいつもより一回り小さく見える・・・。
そんな彼を励ますような言葉も見つからず、ただタカラの顔を心配な表情で見つめるフサしぃもまた、違った意味でもどかしくしていた・・・。

・・・暫く沈黙が続く中、再びタカラが重たい口を開けた。
「・・・僕はまだ未熟で、みんなに初めて見せた『エクリプスモード』のコズミューム光線でさえ間に合わず、バルタン星人を殺してしまった・・・。」
124TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/09(日) 00:48:46 0
「あの一戦の後、僕は気付いたのさ・・・。自分はまだまだ半人前のウルトラ戦士で、力の使い方もまだ中途半端な所があるんだって・・・。」
タカラの内気な所を示すようなその言葉に、フサしぃは彼を案じるような表情をする。昨日自分が落ち込んでいた中で、タカラはこんなにも深い後悔を心の中に背負い込んでいたのだ・・・。
「そんな・・あれはタカラ君のせいじゃないんだよ・・・?」「有り難う・・でも、もう良いんだ・・・。」
タカラは落ち込んだような表情から口元に笑みを浮かべると、フサしぃ達に向かって自分の気持ちを伝える。
無理矢理作った笑顔なのだろうか・・・その表情は、何処か悲しげだ・・・。
「・・・この前の戦いで、僕は本当の優しさの力を出していない事が分かったんだよ・・・。きっと長い訓練の間に、力の強さだけを追い求めていた結果なのかもしれない・・・。」「タカラ・・・。」
「昔のコスモスのようにカオスヘッダーと理解し合えるかは分からないけど・・出来る限りの事は、やるつもりさ・・・。ごちそうさま。部屋に行ってるよ・・・。」
そう言うとタカラは自分の食器を台所に置き、二階にある自分の部屋へと上がって行ってしまった・・・。
125TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/09(日) 08:31:06 0
タカラが居なくなり、重い雰囲気のまま沈黙する食卓・・・。彼の重い覚悟を聴いてしまったら引き留めようにも引き留められず、何も言葉が返せなくなってしまったのだ。
沈黙が続く中、しぃが一人で小さく呟く。
「あの子・・・自分の中に、あんなに重い気持ちを・・・。私達に心配させないようにしてたのね・・・。」
ため息を吐いて肩をがっくりと落とす椎奈に、ミライもその重い口を開いてタカラについて話し始めた。
「・・・タカラ君は貴方もご存知の通り、優しくて繊細な心を持っていて、争いを好まない性格でした。それでも、彼には護りたい人がいた・・・だから戦う力を付けようとしていたんです。」
『護りたい人』という言葉を聞き、少しショックな表情を見せるフサしぃ・・・。彼は自身の夢を叶えるだけではなく、十年前の幼い時に交わした約束ーーこのか弱い自分を一生護っていく事ーーを護る為に敢えて宇宙警備隊に入ったのだ・・・。
(タカラ君は・・・こんな私の為に・・・。)
突然知ったもう一つの事実に、胸が締め付けられるような気分になるフサしぃ・・・。ミライはそんな彼女を余所に、更に話を進める。
126TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/09(日) 21:39:58 0
「其の優しい性格故に、タカラ君は力について深い考えを持っていたんだと思います・・・。僕と話す度に、『力で勝つだけじゃ、何かが足りない・・・。本当の力は優しさに有ると思うんです。』と言っていたぐらいですから・・・。」
光の国でのタカラの健気な意見を思い起こしながら、真剣な表情で話すミライ・・・。
その言葉の一つ一つこそが、タカラが光の国でどのような思いで訓練を受けていたのかを示しており、椎奈や栄香はタカラの口から語られなかった真実に向き合うことになった・・・。
訓練中に繰り広げられた激しい戦いや、大怪我をしてまでも強引に訓練をした事も・・・。

そして何より、自分の身に何が起きても健気に貫き通した、一途な思いも・・・。

全てを話した所で、彼は結論を一言に纏める。
「今回はきっとその自分の起こした行動に、プライドが許さなかったんだと思います・・・。」
ミライから光の国の事を全て聞き、心配な表情で俯く家族達・・・。
昨日タカラ自身が話していた事に加えて、ここまで彼が苦労して掴みとったプライドが、今早くも折られようとしているのだ・・・。
「今は立ち直るまで、少しだけ待ってみましょう。」「うん・・・。」
127TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/10(月) 22:10:17 0
一方・・・
タカラは自分の部屋のベッドに転がり、天井を仰いで考え事をしていた。
「ハァ・・・。」
彼の口から吐き出された不満そうなため息が、部屋全体に一つの音として響く・・・。
カーテンは開いたものの窓は閉まっており、全体が何処か暗い雰囲気を醸し出している。そしてその空間には、タカラが独りだけポツリと寝転んでいるだけ・・・。
そう言えば、この光景は光の国の学生寮とよく似ている。向こうの星でも、偶にこの様にして瞑想に浸っていたっけ・・・。
(本当に夢は・・叶えられるのか・・・?)
切り離された時と空間の中で、タカラは自分の夢について疑っていた・・・。
今まで彼は、『怪獣達と共存できる平和な世界』を夢見ていた。そしてその理想を追い求めて、強くなって故郷に帰って来たのだ。
所が、昨日地球で自分を待っていたのは、夢とは大きくかけ離れた『現実』・・・。自らの手で光の力を使い、バルタン星人を退治してしまったのだ。
(僕は一体・・何の為に此処へ戻ってきたんだ・・・? こんな自分で・・・大切な人を護れるのか・・・?)
理想と現実の間で、大きく悩むタカラ・・・。
やはり理想は、届かぬ物のままで終わってしまうのだろうか・・・。
128TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/11(火) 05:09:34 0
と、その時・・・
突然扉のノブがノックも無しにガチャリと音を起て、扉が少し開く・・・。
(? 何だよ・・こんな時に・・・。)
ノックも無しに扉を開けるとは、一体誰の仕業なのだろうか・・・。気になったタカラは、体を起こしながら不満そうに口を開いた。恐らく、心配して入ってきたフサしぃか誰かだろう。
「誰だ? ノックも無しに扉を開けるなんて・・・。・・・あれ?」
しかし、そのタカラの読みは大きく外れることになる。
その木製の扉を開けてこちらを覗いていたのは・・・

赤と桃色が混ざり合ったような色のおさげ髪に、幼いその顔の中でエメラルド色の円らな瞳が輝いている『小女』だったーー。

不思議そうな表情でこちらをじっと見ている幼い女の子に、タカラも少し驚いた表情で彼女に声をかける。
「珠璃ちゃん・・・。どうしたんだい?」「珠璃、お兄ちゃんとお喋りしたかったの・・・。その・・・入っても・・良い?」
「・・ああ、良いけど・・・?」
タカラが彼女に許可を入れると、珠璃は嬉しそうな表情を顔に浮かべながら中へと入り、彼のベッドの右隣に座り込んだ・・・。
129TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/12(水) 00:51:27 0
許可したは良いものの、それっきり空気は淀んだままで、タカラ自身もとてもではないが会話する気分になれない。
一体この状況下で、どのような事を話せばよいのだろうか・・・。
少し眉を曲げて困惑した表情をするタカラは、自分のベッドに寄り掛かって座っているジュリに一つの質問を投げかけた。
「ジュリ。」「? なぁに、タカラお兄ちゃん。」「その・・・どうして僕と話そうとしたのかな? 僕は今とても落ち込んでいて、君と上手く話せるか分からないのに・・・。」
文字通りに彼の落ち込む声を聞き、ジュリは自分なりの言葉で質問に答える。
「・・お兄ちゃんが落ち込んでたから、珠璃が励ましてあげようかなぁって・・・。」「えっ・・・?」
「お兄ちゃんがどうして落ち込んでるのか・・私、分かるもん!」
ジュリの意外な言葉に、驚く表情を見せるタカラ・・・。そんな事を知ってか知らずか、彼女は更に言葉を繋げる。
「昨日、とっても悲しい事があったんだよね・・・? だから、タカラお兄ちゃんは落ち込んでるんでしょう?」
珠璃の言葉の全てが図星で、タカラは大きく動揺する。何故彼女はここまで自分の心を読めるのだろう・・・。何か特別な力でもあるのだろうか・・・?
130TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/12(水) 23:58:37 0
いや・・・落ち着いて考えてみれば、彼女がこの事を知っていて当然だろう。
さっき自分は、家族を目の前にしてカオスヘッダーとバルタン星人の事について喋っていたのだ。故に勿論、ジュリも目の前で話を聞いている筈だ。
何て変なことを考えていたのだろう・・・。タカラは少し顔を赤くして、恥ずかしそうに眉を曲げた。
ジュリはそんな彼の側に立つと、顔を覗き込むようにしながら話し掛ける。
「タカラお兄ちゃん。」「ん?」「お兄ちゃんは、何にも悪くないよ・・・。お兄ちゃんはママ達を守ってくれた、珠璃のヒーローなんだよ? だから落ち込まないで、元気を出して!」「ジュリ・・・。」
何処かで聞いた事のあるその台詞に、彼の暗い気持ちは温かい何かに包まれようとしていた・・・。
この優しくて温かい感覚は、まるでフサしぃや母親の椎奈と一緒に居るように、自分の心をホッとさせてくれる・・・。このとても温かな包容力はきっと、親であるエーから貰ったものなのだろう・・・。
彼の事を覗いている円らで幼い彼女の瞳は、両親の特徴を受け継いで、エーのように吸い込まれそうな程に透き通った美しい輝きに加えて、その奥深くでアヒャによく似た未知の力が眠っていた・・・。
131ほんわか名無しさん:2010/05/17(月) 10:30:05 0
弔文すぎて疲れた
132TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/17(月) 21:54:07 0
タカラは口元に微笑みを浮かべると、心配な表情でこちらを見ているジュリの頭を優しく撫でながら返答する。
「ありがとう・・・。兄ちゃん、ちょっと元気が出たよ・・・。」「本当・・・?」
「ああ・・・。君はお母さんに似て、本当に優しいんだね・・・。」「! えへへっ・・・。」
ジュリは彼の表情にホッとしたのか、顔を少し赤くしながら照れ笑いをした。その天真爛漫な笑顔はまるで、十年前のフサしぃを見ているよう・・・。
彼は彼女の幼くあどけない表情を見たことで、改めて自分が本当に護るべきモノについて向き合う。そして、気付かされたのだーー自分はこの『笑顔』を、ずっと護らなければならないのだ、と・・・。
(僕はみんなの・・・掛け替えのない大切な人の『笑顔』を、護らなきゃいけない・・・。こんな事で、落ち込んでなんかいられないんだ・・・!)
タカラが自分の中で新しい誓いを立てた、その時・・・
「タカラ君・・・入るよ?」「!」
彼の部屋の扉からノックする音が響き、その奥から『少女』の優しい声が聞こえた・・・。
タカラはその声に返答しようとするが、返す言葉も見付からず、そのまま『亜麻色の髪の少女』が部屋の扉を開けてしまった・・・。
133TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/17(月) 22:47:28 0
「大丈夫・・・あれ? 何でジュリちゃんが此処にいるの?」「しぃちゃん・・・!」
扉の前でジュリの存在に首を傾げている少女ーー『フサしぃ』に、タカラは自分の言葉でその事情を説明する。
「僕が落ち込んでるからって、わざわざ慰めに来てくれたんだよ。」「! そうだったんだぁ・・・。気付いたらジュリちゃんがいなくなってて、吃驚しちゃった。」
「・・ごめんなさい・・・。」
フサしぃの納得したような声とは裏腹に、珠璃は突然居なくなったことで心配を掛けたのだと思い、少し暗い表情で早々と謝った・・・。しかし、珠璃が行った行為は結果的にタカラの心を救ったのだ。謝る必要は、何処にもないような気がする・・・。
その事を気に止めたのか、フサしぃはしゃがみ込んで珠璃に視線を合わせると、優しい言葉で彼女に言った。
「大丈夫だよ! 珠璃ちゃんはタカラお兄ちゃんを元気にしてあげたかったんだもの・・・。何にも悪くないよ?」「でも・・私は・・・。」
「安心して。エーお母さんも、全然怒ってないもん。これからお買い物に行くからって、下で待ってくれてるよ。」「本当・・・?」
「うん! だから心配しないで、支度しておいで!」「・・・うん!」
134TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/18(火) 05:52:27 0
フサしぃの説得に素直に頷き、出かける支度をするために下のリビングへと降りていく珠璃・・・。
二人になったところで、フサしぃは再びタカラに話しかける。ところが・・・
「タカラ君・・あの・・・」「分かってるよ・・・心配してくれて、本当に有り難う。もう大丈夫だよ・・・。僕も支度して、一緒に行く。」
「・・うん・・・。下で待ってるよ。」「ああ、分かった。」
まるで言いたいことは分かっているよ、というような反応で返されてしまった・・・。
彼女は顔に何処か複雑な表情を浮かべると、タカラの言う通りに下へと降りていった。その複雑な表情の中で、フサしぃは一体何を考えているのだろう・・・。
その答えはまだ、誰にも分からない・・・。
とにかく、今は自分の部屋で悩んでいる時間はない。タカラは急いで私服に着替えると、お気に入りのバックルを片手に下へと降りていくのだった・・・。
135TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/19(水) 05:52:33 0
数分後・・・
春の清々しい陽気の中、私服姿のタカラ達は市内のデパートへと歩を進めていた。
先程まで家にいた『ウルトラマンメビウス』ーーヒビノミライは、宇宙で蠢いている強大な敵が何なのかを正確に分かるように調査するため、彼らとは別行動をとっている。
調査の結果次第ではタカラもそちらへ移動するため、連絡は徹底しなければならない・・・。
タカラが少し真剣な面もちで携帯を眺めていたせいか、フサしぃは再び彼を複雑な表情で見つめる。
本当にタカラは悩みを取り払えたのだろうか・・・。フサしぃの心は、タカラが抱えている悩みに対する心配でいつの間にか満たされていた。
自分が心配してもしょうがないが、それでも少しでも彼を助けたかったのだ。
136TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/19(水) 23:27:16 0
彼女がそんな表情で彼を見ていると、今まで携帯を睨んでいたタカラがいきなりそれをポケットにしまい込み、こちらを向いて話しかけてきた。
「さっきは、ゴメン・・・。」「えっ?」
「僕が食事中にあんな事を言うから・・・。君にまで心配かけて、本当にゴメン。」「ううん、大丈夫。タカラ君が立ち直ってくれて、私もホッとしたよ・・・。明るい君じゃないと、私だって調子が出ないもん。」
フサしぃは少し落ち込んだ表情を見せるタカラに、優しい微笑みを浮かべてみせる。彼女の微笑みを見ながら、タカラは暗い表情から少し苦笑いを浮かびあげた。
彼女の笑顔は何処か落ち着き、そして心を晴らしてくれる・・・。そんなフサしぃに感謝を伝えるように、タカラは青い瞳に視線を向けて恥ずかしそうに返答する。
「そっか・・・。何ていうかその・・ありがとう・・・。」「うん・・・。でも、悩みを自分の中に閉じ込めるのは良くないよ。この前の私と一緒だよ?」
「! それは・・その・・・」
答えにまごつくタカラに、フサしぃはクスクス笑いながら話を続ける。
「ふふふっ・・・やっぱり、私とタカラ君って似てるんだなぁ・・・。そうやって、悩みを他人に打ち明けない所とか・・・ね?」
137TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/20(木) 05:21:46 0
「・・そうかなぁ・・・。」
「あら? 私も性格が似てるなって思うけど?」「! 姉ちゃん・・・。」
「ふふっ・・・カップルなのに、まるで双子ね。」「母さんまで・・・。みんなして、何なんだよ・・・。散々僕をいじっちゃってさぁ・・・。」
「うふふふっ・・・。」
デパートへ進みながら彼らで楽しそうに会話が弾んでいた、その時・・・

平和だった町中に、突然耳をつんざくようなサイレンが鳴り響き、緊急放送が入ったーー。

『緊急放送! 先程、相模湾上空に怪獣が出現しました!! 市内の皆さんは落ち着いて避難を開始して下さい!! 繰り返します・・・』

「! 今の放送はっ・・・!?」
タカラ達全員がいきなりの放送に驚き、それぞれ反応を示す。町の人間は『怪獣』という単語を聞いた瞬間からパニックになり、あちこちに逃げまどい始めた・・・。
落ち着いて避難しろと言われても、この状況だととても落ち着いては行動は出来ない筈だ。一体、自分達は何処へ逃げれば良いのだろう・・・
と、次の瞬間・・・
「何だあれは・・・!」「! きゃあっ!!」

突然上空から巨大な『飛行生物』が凄まじい風を起こしながら町中へと飛来し、人々を四方へ蹴り散らした・・
138TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/21(金) 00:47:37 0
「!! 早く隠れてっ!!」
頭上を飛行生物が通過した直後、町にはその影響で発生した暴風が町中を襲い始めた。
風は生き物の如く暴れ周り、まるで意志でもあるかのように、その場にいたタカラ達にも襲い掛かってきた・・・。
「! うわぁぁぁぁぁーーーっ!!?」「きゃあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
その威力は台風並で、立っているのでもやっとな程に強い。エー達はとっさの行動でどうにか近くの建物の柱に隠れるが、逃げ遅れたタカラとフサしぃは歩道に立ちすくんだまま耐え抜いていた・・・。
立っているだけでも辛いのに、分厚い風圧で呼吸も困難な状況だ。
タカラはしっかりとフサしぃを抱いて耐え続ける。それも無意識に、彼女の事を『呼び捨て』で呼んでいることも気付かずに・・・。
「はうっ・・うぅっ・・・!」「! 『しぃ』っ、しっかり!」
このままでは、変身しようとしても吹き飛ばされてしまうだろう・・・。しかし何れにせよ、このまま耐えている訳にもいかない。自分の体力も、フサしぃの体力も着実に失われていく・・・。
一体、変身できないと何も出来ないこんな非力な自分に、何が出来るのだろうか・・・。
耐えながらタカラが心でそう思った、その時・・・。
139TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/21(金) 20:53:44 0
『メビウース!!!!』

「! 今の・・声は・・・っ。」
風の遙か奥の方で誰かの声がしたかと思うと、金色の暖かな光がその場所で輝き始めた・・・。
猛烈な風が彼らの体を取り込む中、タカラはどうにか見えるようになった視界を開き、光が輝いている場所をよく見てみる。すると・・・

オレンジにも似た黄金色の輝きの奥から、ぼんやりと『メビウスの輪』のような物が確認できたーー。

更にその光は大きくなり、一人の巨人の姿を徐々に形作っていく・・・。
光が巨大化する内に、町を襲っていた風がまるで魔法のように収まり、二人はようやく解放される。しかしタカラは其れでも尚、黄金色の光を凝視し続けていた・・・。
やがて光は手や足などの細かい形をハッキリさせた後、その両手を独特なポーズに構えて、ついに本来の姿を表した・・・。
銀色の体表の所々に描かれた赤いライン・・・そしてその左手首に光る、彼の象徴とも言うべきブレスレット・・・。

50mはあるであろうその巨人は、かつて地球で『ルーキー』と呼ばれたウルトラ戦士だーー。

「皆さん、無事ですか!?」
「! 『ウルトラマンメビウス』!!」「『メビウス兄さん』・・・!」
140TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/21(金) 23:04:03 0
タカラに『兄さん』と呼ばれたその巨人ーーミライの本来の姿である光の戦士『ウルトラマンメビウス』は、自分の足元にいるタカラ達の無事を確認し、ホッとしたように頷いた。
「遅くなってしまって、本当にすみません。」「ミライ君、あの怪獣はなに!?」
メビウスはしぃの質問に、未だに空を飛び続けている怪獣の方向を向きながら説明する。その挙動が、しぃには何処か慌てているようにも見えた。
「あの怪獣こそ、怪獣保護区から連れ去られた友好巨鳥『リドリアス』です。しかし、連れ去られた何者かによってカオスヘッダーを入れられて、『カオスリドリアス』になってしまったようです・・・。」
「! そんな、まさか・・・。」
その話を聞いて、彼女が驚いた反応を示さない筈がなかった。むしろ、当たり前の事かもしれない。
このリドリアスは先祖の教訓から、体内には既にカオス抗体ができていて、カオスヘッダーには完全に耐性が出来ている筈なのだ。
其れをかいくぐって感染すると言うことは強化されたのか、或いはカオスヘッダーに似た新しいウィルスの可能性もある・・・。
しかし、今はそんな事を考えている暇はない。このままでは、攻撃によって町全体が壊滅してしまう・・・。
141TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/21(金) 23:48:41 0
メビウスは何かを決心したように前を向くと、タカラ達にはっきりと指示を出した。
「此処は僕が止めに行きます。皆さんは、早く避難して下さい。」「兄さん!」「?」
「僕も一緒に行きますっ! 一緒に戦わせて下さい!」「・・・。」
一生懸命に声を張り上げてコスモプラックを握るタカラに、メビウスは首を横に振りながら答える。
「否・・・君も一緒に逃げるんだ。」「! それは・・・どうしてですか?」
「今、君に出来ることはあの怪獣を止める事じゃない・・・。落ち着いて考えるんだ、タカラ。君に出来ることは、すぐ側にある・・・。」「えっ・・・?」
メビウスが微妙に視線を変えるのに合わせて、タカラは自分の隣に視線を合わせてみる。
今自分の隣には抱きしめた状態で、先程に受けた猛烈な風圧で体力を失いかけている幼馴染みが、苦しそうに呼吸をしながら自分に寄り掛かっている。
彼女の綺麗な両脚の脹ら脛には、風から耐えていた時に物が当たって出来た深めの切り傷があり、ぱっくりと開いた傷口からは赤い鮮血が流出している・・・。いかにも痛そうな傷だ。
「はぁっ・・・はぁっ・・・行かないで・・タカラ・・君・・・。一緒にいて・・・っ。」「しぃちゃん・・・。」
142TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/22(土) 09:57:12 0
「君にはその手で護らなければならない、大切な人がいる・・・。放って危険に晒してまで戦う君ではない筈だ。」「兄さん・・・。」
「ここは僕が時間を稼ぐ。その間に、君は彼女の避難を優先するんだ。もし戦うなら後から来て欲しい。」「・・・はいっ!」
メビウスは彼のしっかりとした眼差しを見ると、カオスヘッダーに侵されたリドリアスを足止めするために飛び去っていった・・・。彼が飛翔するのを見届けたタカラは、母親達と一緒に避難を開始しようとする。
「タカラ、行くわよ!」「待って!」
我先にと避難にひた走る人間をかき分け、ビルの下の家族達に一度合流するタカラ。自分の隣には脚を怪我したフサしぃがいる・・・。今は彼女の怪我をどうにかすることが先決だった・・・。
彼は彼女をビルの柱に凭れさせると、呼吸を整えさせた上で状態を聞く。
「どう? 動けるかい?」「歩きたいけど・・・ちょっと駄目かも・・・。」
彼女が駄目というのも、無理はない。脹ら脛の傷口からは其れなりに出血があり、痛みも半端なものではない。しぃ達がティッシュやタオルなどで止血作業をしているが、其れでも時間が掛かりそうだ・・・。
143TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/22(土) 16:39:10 0
「そうか・・困ったな・・・。母さん、何か止血できる物はある?」「私はティッシュとタオルしかないから、これで精一杯よ・・・。」
エーも同じように首を振って答える。本当はしぃの能力を使えば何とかなるだろうが、人前にその能力を晒すのはあまり良いことではない。困った時の最終手段として使うことは勿論あるのだが・・・。
かと言って、このままの状態で彼女を歩かせるのは酷なことだ。
「どうしよう・・・。」「! そうだ・・こうなったら・・・。」
そう言うとタカラは何かを考えついたのか、おもむろに自分の長袖シャツの腕をいきなりビリビリと破き始めた・・・。
思ってもみない行動にフサしぃは慌てた形相でこちらを見ている。
「! タカラ君、何やってるの!? 君のシャツが・・・」「仕方がないだろ? 周りに包帯なんて無いんだから。」
半袖ぐらいまで破り取ったシャツの生地を更に二等分し、白い包帯のような物にすると、彼はフサしぃの脹ら脛に直接巻き付けようとする。彼女が履いている物がデニム生地のスカートである為、視線が無意識に上に行きそうになるが、そこは我慢だ。
フサしぃは恥ずかしそうに顔を赤くし、タカラが傷を治療するのを黙って見ていた・・・。
144TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/23(日) 00:36:32 0
きつく縛り上げられ、痛みの形相を浮かべるフサしぃ・・・。しかしこうでもしなければ、止血は出来ない。
「くっ・・うぅぅっ・・・。」「よし・・・。これで暫くは保つよ。」
「・・ありがとう・・・。」「でも完全に止血できるまでは歩いちゃいけない。じっとしなきゃ、また傷口から出血する。」
「! じゃあ、このままだと逃げられないんじゃ・・・」「大丈夫。落ち着いて・・・。」
慌てる様子を見せるフサしぃに、タカラはしゃがみ込んだ状態で彼女に背中を向けた。
突然の彼の行動に、亜麻色の髪の少女はキョトンとした表情を顔に浮かべる。彼は今から一体、何をするつもりでいるのだろうか・・・。
この時既に、エーは彼が起こした行動の意味が分かり、顔を赤くしていた。
更にフサしぃも次に彼の口から出た言葉を聞いた瞬間、驚きのあまりに顔と耳まで赤く染まりあがった・・・。

「乗って。僕が君を運んでいく。」「!! えぇっ!?」

彼女の驚く声を聞いた本人も顔を赤く染めあげる・・・。
「そんな・・・悪いよ! タカラ君の背中に一度も乗ったこと無いし、それに・・恥ずかしいし・・・」「そんな戯言なんて、言ってる場合じゃない! 今は逃げるのが優先なんだ!」
145TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/23(日) 23:54:57 0
「・・でも・・・。」「君が恥ずかしい気持ちは分かるさ・・・。でも君が無理に歩いて怪我が悪化するのは、誰だって見たくないんだ。僕がしっかり君を乗せていくから、心配しないで。」
「う・・うん・・・。」
タカラの必死の説得に、フサしぃは顔を少し赤くして躊躇うようにしながらも、彼の背中にゆっくり身を預けた・・・。
「しっかり掴まってるんだよ。」「うん・・・。」「用意は良い? 行くよ!」
エーのかけ声に合わせ、彼らはメビウスが戦っている区域から逃げ出している群衆に紛れ込み、走り出した。
タカラも前かがみになりながら必死に足を前へと動かしていく・・・。その彼の背中の上で、フサしぃは恥ずかしそうに顔を伏せているのだった・・・。

一方・・・
メビウスは飛んでいるカオスリドリアスを流星キックで地上に引きずり降ろした後に戦い始め、次第に相手を追いつめていた。
「テェヤァッ!」「ギャァゥ・・・!」「ハァ・・ハァ・・・。」
しかし幾ら攻撃を仕掛けたところで、止めを絶対にさしてはならない。彼は望まぬ力によって暴走させられているだけであって、決して悪意はないのだ。
戦いを長引かせた為か、メビウスの体力も大分少なくなっていた・・・。
146TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/25(火) 00:14:39 0
自分に向かって突進してくるリドリアスに、メビウスはそのままの状態で相手の体重を利用し、『体落とし』でダメージを与えていく。更に起き上がってきた彼に対して、『メビュームスラッシュ』という牽制光弾で首元にダメージを与えた。
しかしこれ以上下手に攻撃すれば、相手を倒し兼ねない・・・。かと言って彼にはその性格上、生憎怪獣を浄化する技は持ち合わせていない。唯一彼の中で出来る技があるものの、それは一か八かの荒業に過ぎないのだ。
八方塞がりな状況に少し悩むメビウス。と、その時・・・
『ピコン・・ピコン・・・』「! くそっ・・・。戦いを長引かせすぎたか・・・!」
彼の胸に付いている菱型のカラータイマーが、ついに警鐘を鳴らし始めてしまった。残り時間は、もう僅かしかない。短時間で決着をつけなければ・・・。
(やはり・・あの技を・・・!)
意を決したメビウスは、こちらを睨んでいるリドリアスに向けて『ウルトラ眼光』を放ち、カオスヘッダーの溜まっている場所を透視した・・・。
やはり首の辺りに集まっているらしく、虹色の光がウヨウヨと蠢いている。
その光のウィルスを見つけたメビウスは遂に、例の技で一か八かの賭に出る事にした・・・。
147TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/26(水) 18:31:32 0
リドリアスの口から赤い光弾が放たれると、メビウスはそれを横へとかわして片膝立ちの姿勢で相手と睨みあいを始める。
互いに瞳を見つめながら一歩も動かず、辺りには不気味な程に静けさが地を走っている・・・。
時が止まったかのような状態の彼らに有るのは、皮膚をビリビリと刺すように感じる戦慄と殺気・・・そして、二人の静かな息づかいだ。
互いに動きを止めたまま様子を伺っていた、次の瞬間・・・
「キィィィヤァァァァ!!」「ハッ!!」
リドリアスが再び光弾を口から放ち始めたその瞬間、メビウスはその左手首にある『メビウスブレス』を展開し、両手の手刀に光の刃を発現させる。更に、相手から放たれた光弾を手刀で弾き飛ばしながらリドリアスに詰めより・・・

「ゼァッ!!」「!!」

擦れ違い様にその光る手刀ーー『ライトニングスラッシャー』で彼の首に切り込みを入れた・・・。
痛みと怒りに狂ったリドリアスは、更に連続光弾をメビウスへと放っていく。
刹那にメビウスは振り返り、傷を入れた彼の首に狙いを定めると・・・

「ハァァァ・・・! ヘヤァァァッ!!」

両腕を十字に組んで、彼の必殺技『メビュームシュート』をピンポイントで発射した・・・。
148TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/26(水) 20:53:55 0
メビウスの放った光線は、怒りで威力が増したカオスリドリアス光弾を全て打ち消し、更にリドリアスの首の傷に見事にヒットした。
しかしこのメビウスの放った『メビュームシュート』は威力が比較的低めなため、怪獣に有る程度のダメージはあるが、死傷する程ではない。逆に言うと、中のカオスヘッダーだけを破壊する事が可能なのだ。
カオスリドリアスの首に直撃した光線は中のカオスヘッダーに当たった衝撃で、遂に猛猛たる煙と共に爆発し、衝撃音が町中に響いていった・・・。

その戦いの成り行きを、タカラ達は戦闘区域から少し離れた高いビルから見守っていた・・・。
崩れた町の中心で、銀色の巨人と猛猛たる煙の二つが大きな影を揺らしながら立っている。光のウィルスを受けて変異してしまったリドリアスは、光線の威力に耐えきれずに爆死してしまったのだろうか・・・。
心配な表情を浮かべながら、フサしぃはタカラに問いかける。ビルには大勢の人間が避難している為、しぃには治療してもらっておらず、彼女の脹ら脛はまだタカラお手製の『包帯兼ガーゼ』が巻き付いたままだ。
「タカラ君・・リドリアスはもう・・・」「いや・・・彼奴はまだ生きてる・・・。」
「えっ・・・?」
149TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/26(水) 22:21:44 0
想定外な彼の言葉を聞いた瞬間、彼女は驚いた表情でタカラの横顔を見る。
普通、あの爆発の中で生きていられる事など到底無理な筈だ。倒されたことがショックで、正気ではなくなったのだろうか?
そう思いながら彼の横顔を見たが、タカラはしっかりと目を見開いて真剣な眼差しで煙の方向を向いていた・・・。
ズキズキと痛む脹ら脛に少し顔を引き吊らせながら、フサしぃは彼の答えに対して質問を投げかける。
「何でそんな事が言えるの?」「さっきメビウス兄さんが放ったメビュームシュートは、本気で打ってない。あれは中のカオスヘッダーだけを退治する為に、威力を少し弱くしてるんだ。」
どうやらメビウスのやっている事は、既にタカラにはお見通しだったらしい。でも素人にそんな事はまず分からないだろう。いくら弱くしていようと、発射の構えは全く同じだ。
ちょっと分からなさそうに眉を曲げたフサしぃに、タカラは何かを感じ取ったかのように言葉を繋げる。
「君が思ってる通り、見た目じゃ確かに分からない事だよ。でも、僕には何となく分かるんだ・・・。」「? 何が・・・?」

「怪獣の為を思って、救おうとしてる事だよ。兄さんの持つ、『優しさの力』でね・・・。」
150TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/26(水) 22:51:29 0
「優しさの力・・・? それって、タカラ君みたいな事?」
優しさの力という言葉に、フサしぃはすぐにタカラの事を連想する。そんな彼女の反応を見たタカラは、頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「あぁ・・まぁその・・・確かにそれもそうだけど、それは僕だけじゃない。みんな持ってるモノなんだよ。」「? それって、どういうことなの?」
「・・・誰だって、一つは大事なモノを持ってる。それを護りたいとか、救いたいという気持ちが、『優しさの力』の源になる。その心とか力は形が違っていえど、みんな必ず持っている物なんだよ。」
「そうなのかなぁ・・・。」「ああ。君だって、何かを護りたい気持ちがあるんじゃないか?」
「う〜ん・・・。私はいつも護られてばかりだから・・・」「・・無理に考えなくて良い。そのうちに、きっと見つかるよ・・・。」
タカラは煙が立ち上る町を見ながら、かつて超獣から地球を守り抜いた戦士の言葉を思いだし、いつの間にか口に出していた・・・。

「『優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも、友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが、何百回裏切られようと。』、か・・・。」
151TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/26(水) 23:52:03 0
「・・・?」
突然タカラの口から発した言葉に彼女が首を傾げた、その時・・・
「しぃちゃん、見て!」「・・・! あっ!」
リドリアスを包んでいた煙が消え去り、中から一体の怪獣が出てきた。しかし・・・

そこには浄化されたリドリアスではなく、カオスヘッダーに染められたままのカオスリドリアスが立っていたーー。

「そんなバカな・・・!」「何で・・・!?」
まさかの光景に唖然とするタカラとフサしぃ・・・。
体内にあるカオスヘッダーにしっかり光線が届き、メビュームシュートによる浄化は成功したかに思えた。
ところが、その最後の詰めが甘かった。メビウスはカオスヘッダーを浄化するのに十分なエネルギーを、短時間で溜められなかったのだ。
もはや彼に残された選択は、宿主であるリドリアスごと吹き飛ばす事だけだ・・・。
だがそんな事は決して出来ない。タカラの気持ちと同じように、メビウスの心自体もそれを拒んでいるのだ。
彼は地球の平和を守る指令と怪獣を救う心の間で、大きな葛藤を生み出していた・・・。
(僕は・・どっちを選んだらいいんだ・・・。)
彼が自分の中で選択に迷っていた、その時・・・

「ATフィールド、全開!」

「っ!?」
152TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/27(木) 00:45:19 0
その声と共にメビウスの目の前にオレンジ色のシールドが出たと思うと、そのシールドはカオスリドリアスの口から放たれた光弾を集約し、球状に丸められた状態でリドリアスに向かって発射。そのまま相手に被弾して大ダメージを与えた。
突然起きた出来事に驚いたメビウスは、立ち上がった後で落ち着いてあたりを見渡してみる。すると・・・

カオスリドリアスに向かって走り込んでいく『赤い何か』が、メビウスの銀色の目に映った・・・。

ウルトラマンと身長はほぼ同じだが、その重そうな音や装備からして金属系の何かで出来ているようだ。そして、そんな巨人の頭部には昆虫を思い出させるような緑色の眼が複数個付いている・・・。
ビルの窓からその姿がよく見えたタカラは、この正体不明の巨人が何なのかをフサしぃに聞く。あの巨人を見た時から、彼女の表情が悲しげになっているのが気になるが・・・。
「・・・! あの巨人は、何?」「・・・あれは国の防衛チームが、地球を怪獣とかから守るためにウルトラマンに似せて造られた・・・」

「『人造人間エヴァンゲリオン 弐号機』だよ・・・。」

「え・・エヴァンゲリオン!?」
153TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/27(木) 17:56:32 0
第四話 タカラの叫び〜正義じゃない!

聞いたこともないその名前に、タカラは頭上に一瞬疑問符を浮かべる。しかし、すぐに彼は何かに気付いたように目を見開いた・・・。
この戦いの状況とフサしぃの悲しげな表情を見れば、何となく想像がつく。
真剣な表情となったタカラは、彼女にその事について質問を投げかけた。
「なぁ、しぃちゃん・・まさかあれって・・・。」「・・・君には、とても言いにくいことなんだけど・・・」

「『エヴァンゲリオン』は、怪獣達を倒す為に造られたの・・・。」

暗い表情のまま唇を噛みしめるフサしぃ・・・。しかし事実をしっかり知ってもらうために、彼女は彼の真剣の眼差しに目を向けながら話を続けた。
「あの機械はウルトラマンに頼らずに、自分達でこの星を守る為に計画して造られた物なんだって。パイロットが操縦してあの機械を動かしてるの。でも・・・。」「でも・・・?」
「操縦する人達は家族の誰かを怪獣に殺されていて、ウルトラマンのように怪獣をいたわるような気持ちも無いから、『怪獣』と聞いただけでみんな無差別に倒していったの・・・。」
「えっ・・・?」
彼女の言葉を聞いた瞬間、タカラの表情が一気に固まった・・・。
154TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/28(金) 23:45:07 0
エヴァンゲリオン主要三機体の中から出動した赤い塗色の弐号機は、側に立っていたメビウスに見向きもせず、目の前に立っているカオスリドリアスに容赦無く攻撃を当て続けている。
その一連の行動は、まるでその怪獣に恨みをそのまま力に変えてぶつけているかのようだ・・・。
この弐号機を操縦しているのは、茶髪で活発的な性格を持つ16歳の少女ーー『惣流・アスカ・ラングレー』だ。

彼女は十年前、地球に怪獣軍団が押し寄せてウルトラマン達と熾烈な戦いを繰り広げていた中で、当時自分の大好きだった母親を怪獣に目の前で惨殺され、心に深くて大きな傷を残していた・・・。
それ以来、アスカは母親を失った恨みから、怪獣達は全て敵と見なして倒してきたのだ。

弐号機はなぎ倒された怪獣に一歩ずつ近づき、その操縦席の中でアスカは憤りを交えた声で怪獣に言う。
「あんたみたいなクソで汚い連中は・・私が許すと思わないでよ・・・!!」
カオスリドリアスは、弐号機から受けたパンチやキック・投げ技の応酬ですっかり弱ってしまっている・・・。光球も攻撃は全て、弐号機から発せられた『ATフィールド』というバリアによって弾かれ、成す術が全く無くなってしまったからだ。
155TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/29(土) 08:35:34 0
「覚悟しなさい・・・。あんたのその首、へし折ってやるっ!!」
弐号機は怪獣の目の前に来ると、脚を上げてカオスリドリアスの喉に狙いを合わせる。どうやら、このまま彼の首を潰すつもりらしい・・・。
狙いが定まった弐号機は、そのまま何も抵抗が無く無感情に脚を下ろそうとした。
ところが・・・
「ヘアッ!」「きゃ!?」
弐号機の背後から足元に向かって何者かがスライディングし、彼女の攻撃を妨害した・・・。
片足で立っていた為バランスを悪くして後ろに倒れるが、その驚異的な身体能力ですぐに立ち上がり、攻撃してきた背後を確認する。
「! ウルトラマンメビウス!? 何で邪魔するのよ!」「ハァ・・ハァ・・・その怪獣を・・倒してはならない・・・!」
「ハァ・・・? 何言ってるの?」
納得できない表情を浮かべている弐号機に、攻撃した張本人ーーウルトラマンメビウスはしっかり目を見開いて彼女に話す。カラータイマーの点滅が先程より早くなって、少し苦しそうだ。
「何故? だって怪獣は凶悪で、倒すものでしょ?」「その怪獣は、望まぬ力によって暴走しているだけだ・・・。殺すのではなく、救わなくてはならない命なんだ・・・。」
156TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/30(日) 00:38:55 0
彼の『怪獣を救う』という発言を聞いて、耳を疑うアスカ。
この機械が造られてから今まで、目の敵として怪獣を次々に惨殺してきた彼女の経験上、その言葉はおよそ信じられないことに等しく、また怒りさえも覚えることなのだ。
エヴァの操縦ハンドルを握る手を強めながら、アスカはメビウスを眉間に皺を寄せた表情で睨みつけた。
「怪獣を救う・・・? ふざけないでよ! 人間を平気で殺すような奴なんか、救いようが無いじゃない!!」
「全ての怪獣が悪い訳じゃない・・・! 怪獣の中にも、平和を願う者が沢山いる!」「うるさいっ! あんたなんかに、止められる筋合いはない!!」
そう言いながら弐号機は後ろへ振り向くと、腰の脇に装備していた小型の刃ーー『プログナイフ』を手に持ち、再びカオスリドリアスを攻撃を加えようとする。
その行動を必死に制止するためにメビウスは羽交い締めを仕掛けるが、背後にATフィールドを展開され、すぐに後ろへと弾き飛ばされてしまった。
バリアではあるが光線技でもあるため、彼の体に走ったダメージは半端なものではない。
胸の光球の点滅が更に早くなり、メビウスは光線技はおろか、立ち上がる事さえも無理な状態になってしまった・・・。
157TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/30(日) 23:34:40 0
弐号機はダウンして動けない怪獣の目の前に立つと、止めを刺すために彼の頭を鷲掴みにする。カオスリドリアスはその痛みから逃れようと必死にもがくが、状況は変わることがない・・・。
「やめろ・・・。リドリアスを・・放すんだっ・・・!」「これで・・最後だぁぁっ!!」
メビウスの叫び声も無視して、弐号機が怪獣の首をめがけてナイフを振り上げた、その時・・・

『コスモォォースッ!!』「!?」

何処からか誰かの叫び声が聞こえたと思うと上空に青い光が現れ、更に垂直落下で弐号機を遠くに弾き飛ばした・・・。
弐号機は不意打ちによる攻撃で全身を地面に強く打ちつけ、大きなダメージを体に受ける。その衝撃はパイロットであるアスカにも十分な程に伝わり、激しい痛みが彼女の体を襲った。
「くっ・・・! 今のはなに・・・? メビウス?」
痛みを堪え、半分憤りを抱えながらゆっくり立ち上がる弐号機。すると・・・

丁度光が消えて、中から彼女が見覚えのない『蒼い巨人』が姿を現したーー。

巨人の青と銀色の体表は見るからに新鮮だが、こちらを見ているその穏やかな顔は初代ウルトラマンによく似ている・・・。
「! まさか・・この巨人って・・・。」
158TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/31(月) 00:30:53 0
変身が完了したその巨人はアスカが何かに感づいたことにも構わず、うつ伏せになって倒れ込んでいるメビウスに駆け寄った・・・。
カラータイマーの点滅速度が最高潮になって、今にも消えそうな状態な彼はゆっくり顔を上げると、驚いた表情で巨人を見上げる。そんなメビウスに向かって、巨人はしゃがみ込んで彼の身を案じるように話しかけた。
「兄さん、大丈夫ですか!?」「うっ・・・。・・何故君が・・・。君の大切な人はどうしたんだ・・・?」
「まだ怪我は治っていません・・・。でも、頼まれたんです・・・。『私はいいから、あの怪獣を苦しみから救ってあげて』って・・・。」「そうか・・・。」
「・・・ここは僕に任せて、兄さんは戻って休んでいて下さい。あの機械も、僕が説得します!」「すまない・・・。気を付けて戦うんだぞ・・・。」「はいっ!」
蒼い巨人に見送られ、メビウスは人間体に戻ると、わき腹を抱えてしぃ達のいるビルへと歩いていった・・・。

彼が消えた事を確認した巨人は立ち上がると、話している間に体勢を直していた弐号機の方向へとゆっくり向き直す。
アスカは気付いたことを確認するために、巨人に一つの質問を投げかけた・・・。
159TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/31(月) 01:09:03 0
「あんたはもしかして・・・ウルトラマンコスモス・・・?」
彼女の質問に対し、その巨人ーー『ウルトラマンコスモス・ルナモード』はその通りだと言うように頷いてみせる。
アスカは今朝流れたニュースをよく知っており、コスモスの事もTVで既に認知している。しかし写真は『エクリプスモード』の物しか無く、基本形態の『ルナモード』の姿を見るのはこれが初めてのことだったのだ。
彼の正体が分かった所で、彼女は憤りを隠したまま彼に言う。
「あんたがどういう目的で現れて、何で私を襲ったのか分からないけど、この怪獣を殺すのを邪魔するのは、許さないから・・・。」
アスカがコスモスにそう言うと、弐号機はそのままカオスリドリアスの方向を向いて殴り掛かろうとする。しかし・・・
「待て。」「!」
突然コスモスから発せられた言葉に、弐号機は歩みを止めて顔を再びこちらに向かせた。
コスモスはそのまま彼女に、心から知りたいある一つの疑問を投げかける。

「アスカ・・・だったね。君は何故怪獣に恨みを持ち、怪獣達を無差別に倒そうとするんだ?」

彼の疑問を聞いたアスカは一瞬分からないような表情を浮かべるがすぐに理解し、徐々に眉間に皺を寄せ始めた・・・。
160TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/05/31(月) 23:34:46 0
「そ、そんなの・・・当たり前じゃない! あの忌まわしき怪獣から、この町を守る為に戦ってるの!」
アスカの答えに、コスモスは更に付け加えるように彼女に言葉を返した。
「確かにこの町には、掛け替えのない大切な人が沢山いる。守ることはとても大切だ。でも君は、その罪無き怪獣までも殺そうとしている。それは君の心に、何か別の目的があるからではないのか?」「う・・・。」
コスモスの図星な指摘に反論できないアスカ・・・。しかし同時に、コスモスに対しての怒りが遂に頂点へと達してしまった・・・。
思い出したくもない、約十年前の出来事・・・。その出来事がきっかけで、この弐号機のパイロットになった。それを本来、怪獣を倒す側にあるウルトラマンに否定されるとは、言語道断なことだ。
弐号機は怒りの余りに拳を強めると、漲る力を奮わせて、コスモスに向かって叫びながら走り込んできた。
今のアスカの表情は、正に鬼に等しいと言う程に、恐ろしい・・・。
「あんたなんかに・・・母親を亡くした私達の気持ちなんて分かるの!? いい加減にしなさいよぉっ!!!」
しかし激怒した彼女の態度にも、コスモスは全く恐れていない。何故そこまで彼は落ち着けるのか・・・。
161TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/01(火) 22:37:59 0
弐号機はコスモスの間合いに入ると、その勢いを保ったまま彼に渾身の一撃を食らわせようとする。が・・・
「フェッ!」「っ!?」
コスモスは軽快かつ慣れた体捌きでその拳を横に避けると、何もない場所へ突き出た弐号機の腕を掴み、動きを制止させる。
一番握力の弱い形態がこのルナモードだが、6万トンという桁外れの力は、さすがにエヴァの機体にも堪えるようだ・・・。
コスモスは弐号機の腕を掴みながら、半分憤りを持った声で話を続ける。
「平和を守るという名目で、無害な怪獣達まで殺してはならない! 彼らもこの地球における、大切な仲間なんだ!」「何を寝ぼけた事を言ってるの!? 怪獣は平和を乱す、有害な生物じゃない! 平和を守る為なら、彼らの犠牲だって必要よっ!」
「『必要な犠牲』など、あってはならない! テヤァッ!」
彼はそう言うとエヴァの顎を掴み直して、投げ技の一種ーー『ルナ・ホイッパー』で地面に投げ飛ばした。
大きな衝撃にスタミナを奪われながら、弐号機はすぐに起き上がって再び怒りのままにパンチやキックを繰り出していく。しかし彼も負けてはおらず、彼女の怒りの打撃を受け流しながら、正掌突きや蹴りで徐々にダメージを与えていった・・・
162TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/02(水) 22:32:27 0
「シュア!」「タァッ!」
互いに攻撃を受けながら激しい戦いを繰り広げていく両者。
しかしルナモードは、元から肉弾戦に長けている訳ではないため、このような状況に慣れている弐号機の方が圧倒的に有利だった・・・。
コスモスは弐号機の腹部に強めの正掌突きを放って間合いを広げると・・・

「セヤァッ!」「!」

両腕を十字に組んで、初代ウルトラマンと同じ『スペシウム光線』を放つ。
意外かもしれないが、ルナモードの状態の彼でもスペシウム光線を打つことは出来る。しかし攻撃よりも防御力に長けているので、威力が高いわけではないのだ。
彼の放った光線はそのまま、目の前の弐号機にまっしぐらに飛んでいく。しかし・・・

「ATフィールド、展開!」「! ぐぁっ・・・」

弐号機の前にはまたしてもオレンジ色のバリアーが張られ、今度は光線技を跳ね返してコスモスに直撃させた・・・。

「あっ・・・!」
フサしぃはそんな彼らの戦いを、心配な表情を浮かべたままじっと見守っている・・・。彼らの戦いを見守るのに夢中で、今の彼女には怪我の痛みすら微塵も感じていなかった。
(このままだと・・タカラ君が・・・)
163TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/02(水) 23:48:21 0
ビルから見守る中で、彼女の内心は大きな『悔しさ』の一色で染まっていた・・・。
この状況下で、自分がこうして見ている事しか出来ないという『もどかしさ』が、タカラのピンチに助けられないという『苛立ち』と繋がり、一つの気持ちを生み出していたのだ。
タカラが巻いてくれた両脚の『包帯』がきつく縛っていたのにも関わらず、出血がなかなか収まらないのか赤色化している。しかし、そんな事はどうだって良い。今はタカラの事を応援しなければ・・・。
そんな彼女の姿を、暫く経っても戻ってこない彼らを探していた栄香が発見して、優しく声を掛ける。
「しぃちゃん、こんな所にいたんだ?」「! エーお姉ちゃん・・・」
「そんな状態で、ずっと立っていたら駄目だよ。・・・どうしたの?」「タカラ君が・・・」
怪我したまま立っている彼女を見かねて、栄香は集合場所に戻ろうと説得しようとする。しかし少女のその表情を見た瞬間に、栄香は彼女が何を言いたいのかをしっかりと理解した・・・。
それは彼女がまだ高校一年生だった約十年前。突然の心臓発作で入院した病院の窓から、アヒャの戦いを心配な表情で見守っていた昔の自分が、今のフサしぃの姿に重なって見えたからだ・・・。
164TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/04(金) 06:32:50 0
血が繋がってもいないのに、彼女の表情は本当にかつての自分にそっくりだ・・・。
栄香はフサしぃに歩み寄ると、その昔に母親のしぃがやったように、彼女の肩に自分の温かな手を優しく乗せた。
「・・・大丈夫。タカラはそう簡単に約束を破らない人だよ。負けそうになってもちゃんと筋を通して、戻ってきてくれる。」「お姉ちゃん・・・。」
「だから今はタカラを信じて、応援するの。貴方の応援がいくら遠くても、タカラの心には大きな力になるんだから・・・。自分では何も出来ないと思っても、立派な支えになるんだよ。」
栄香と似たような境遇を体験しているフサしぃにとって、その彼女の温かなアドバイスは、とても励みになるモノだった・・・。
フサしぃは少し嬉しそうな表情を浮かべると小さく頷き、二人は再びコスモスの戦いに目を向けるのだった。

「くっ・・・。」「ウルトラマンって、案外弱いわね。こんな簡単に攻められるなんて思わなかったわ。」
コスモスは跳ね返ったスペシウム光線が自分の腹に諸に直撃し、地面にしゃがみ込んでいた・・・。
今の一撃を受けて理解したが、どうやらATフィールドには技を跳ね返すだけではなく、威力を数倍にして返すことが出来るらしい。
165TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/04(金) 13:36:30 0
弐号機はコスモスを見下すように視線を向けると、冷酷な言動で彼に言い放った。
「あんたが考えてる正義は所詮、単なる理想なの。叶えられる筈もない、理想を追い求めていただけ。」「・・・。」
「平和に怪獣は必要ない。だから私は、怪獣を倒す・・・。あんたも分かってるでしょ? ・・・そこをどいて。」
弐号機がコスモスの脇を通り抜けようとした、その時・・・
「・・違う・・・。」「?」
今までしゃがみ込んでいたコスモスが突然、ゆっくりと立ち上がりながら静かに呟き始めた・・・。
「君はまだ・・・怪獣の一部分しか見ていない・・・。」「・・・?」
「一部分だけで判断して怪獣を殺すなんて・・僕は許せない・・・。」「・・何を言って・・・」
「テァァッ!」
コスモスは完全に立ち上がると、瞬間的に弐号機の腹部に先崩掌打を放ち、間合いを大きく離した。
何故だろうか・・・先程までのコスモスの攻撃よりも衝撃が大きく、機体へのダメージも格段に上がっている・・・。
「! 何するのよっ!!」「こんなやり方、正義じゃない! 自己満足するだけの、復讐行為だ!」
彼は憤りを持った声ではっきりそう言うと、右手に赤い光のエネルギーを発生させ、空に掲げた・・・
166TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/05(土) 00:30:48 0
「ハァァァ・・・!」「!」
突然放たれたエネルギーに、弐号機は彼に視線を向けてプログナイフを構え、常に攻撃できる状態で警戒する。
そしてその中にいるアスカ自身も、思わず若干身構えた姿勢をとった。
「・・・? 何をするつもりかしら・・・。」
こんな事をする彼の姿は初めて見る。一体、何をしようとしているのだろうか・・・。
空へ掲げられた赤い光から光のベールが現れ、コスモスの青い体の一面を赤い光で包んでいく・・・。そして・・・

彼の体の輝きが増したかと思うと体格が少し筋肉質になり、初代ウルトラマンに似た形状だった頭部が形を変え始めたーー。

彼の突然の体格の変異に、驚いたアスカは目を大きく見開いて彼の変化に目を見張る。
彼を包んでいた赤い光は、太陽のような輝きを一瞬見せるとすぐに消え去り、元のその場所には体型を大きく変えた『もう一つのコスモスの姿』があった・・・。
変化した彼の頭部は額の所で大きく湾曲して、その額の部分が赤く染まってスポットのようになっている。また、体の特徴だった青い体色は消えて、代わりに銀色の体に燃えるような赤いラインが左右非対象に走っていた・・・。
167TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/05(土) 01:26:23 0
その姿は先程までの『優しさ』に対して、太陽のような『強さ』を表しているかのようだ・・・。
変化したコスモスは怒りを顔に示すように、円らな瞳を少し鋭くさせながらアスカに向かって話す。
「もしそれでもリドリアスを攻撃するのなら・・・僕がお前を倒す!」「! あはははっ・・・。さっきみたいな貧弱な掌打攻撃であたしを倒せると思ってるの? エヴァンゲリオンをなめないでよ?」
「うぉぉぉおおおおおっ!!」
反省のないアスカの一言に火がついたのか、コスモスは土煙を巻き上げながら弐号機に向かって走り出す。アスカはコスモスの攻撃を予測し、掌打攻撃をする隙を見てナイフで応戦するという作戦を考えて体を構えた。
掌打攻撃ならある程度の動きが読めるので、カウンターを狙いやすい筈だ。しかし・・・

「ヘィヤァッ!!」「! きゃあぁっ!」

そのアスカの読みは完全に外れることになった・・・。
なんとあのコスモスが、拳を握って顎にアッパーを当ててきたのだーー。
その力と衝撃は青かった時のコスモスとは大違いで、体重の乗ったアッパーは弐号機の顎に無数のヒビを入れる程に強いものだった・・・。
168TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/05(土) 02:04:09 0
「あぁっ! くくっ・・・。」
アッパーの衝撃で体全体に激痛が走るものの、操縦ハンドルをどうにか動かして立ち上がる弐号機・・・。今の一撃で、スタミナや体力が一気に3分の1も削れてしまった。体中に迸る痛みも、暫くは収まりそうになさそうだ。
コスモスの視線は今も弐号機に向けられており、その鋭い視線がまるで覇気のように、彼女に更に恐怖感を与えていた。
(そんな・・・さっきまでは拳だって握っていない状態だったのに・・・。)
驚きと恐怖に駆られている彼女を余所に、コスモスは特有の戦闘ポーズで構え直している・・・。
対する弐号機も仕方なく、まだ残っている痛みを堪えながら拳を握り返した。
ここは両者とも、一歩も譲ることが出来ない・・・。
「さっきの復讐を・・・仕返ししてやる・・・!」「望む所よ・・・! かかってきなさい!」
彼らは互いに一言交わした後、痛みが走ったままの弐号機と、地球上で七年ぶりにモードチェンジをした『最強の戦士』ーー『ウルトラマンコスモス・コロナモード』は同時に走り込み、それぞれ得意とする肉弾戦で衝突していくのだった・・・。
169TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/05(土) 14:53:07 0
第四話挿入歌:
『Touch the Fire〜short ver.』(ウルトラマンコスモスより)
歌:Project DMM

1.
大地を切り裂き 目覚める闇の力
見据えた視線は 逃さず捉えている

約束された 正義の明日を
今日も 守り続けているのさ・・・!

熱く燃える君だけが 愛も希望も 無くさず『Touch the Fire!』
二度と新しい日々の 邪魔はさせない さぁ立ち向かえ!
僕らの ヒーロー!

2.
終わりの見えない 戦う時の中で
誇らしく強く 恐れず生きる訳は

約束された 使命が心の
扉 何時も叩いているから・・・!

熱く燃える君だけに 昇る太陽 今こそ『Get the Fire!』
君の果てない力に 強い気持ちで さぁ立ち向かえ!
僕らの ヒーロー!
170TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/05(土) 21:11:01 0
「デァッ!」「うぅっ・・・!」
両者はどちらも譲らず、土にまみれ、互いに傷付け合いながら攻撃を続けていく。
しかし、コスモスの攻撃が先程と違って遙かにパワーアップしており、体重の乗った蹴りや打撃技だけに留まらず、その行動スピードも格段に速くなっている為、弐号機は大きく苦戦を強いられていた・・・。
打撃を受ける度に機体の所々にヒビが入って、既に一部機能が使えない状態までに追い込まれている。
アスカの心は極限までの焦りに襲われ、一色に染まっていた・・・。
「ハァッ!」「!」
弐号機はコスモスの隙を見つけると、彼の頭上を飛び越えてプログナイフを構える。狙いは飽くまでリドリアスを倒すことなので、彼の隙を見てからでないと怪獣に止めを刺せない。
「これでやっと・・・!」
既に虫の息の怪獣は、まるで殺さないでくれとでも言うように涙を瞳に溜めている・・・。しかしそんなリドリアスを余所に、彼女は再び刃を上へと振り上げた。ところが・・・

『お願い・・僕を殺さないで・・・。苦しいよぅ・・・。』「えっ・・・?」

突然何処からか、小さな男の子のような声が彼女の耳にハッキリと聞こえた・・・。
「今のは・・なに・・・?」
171TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/06(日) 10:09:46 0
アスカが思わず操縦する手を止めたため、弐号機の腕は振り上げた状態で制止する。
テレパシーか何かだろうか・・・。その一声は、例えるなら水滴が水面に滴り落ちた時の波紋のように、彼女の頭に何かを訴えるように響き渡っていく・・・。
何度も頭の中で繰り返される言葉に、アスカは次第にいらいらし始めた。
「黙れ・・・黙りなさいよ・・・。」
そう言いながらも次々に広がる音に、アスカの堪忍袋は遂に破裂してしまった・・・。
「黙って!!! あんたが生きてたって、何の価値にもならないのよっ!! 覚悟しなさいっ!!」
動きを止めていた操縦ハンドルを動かし、弐号機は高く掲げたプログナイフを思いっきり振り下ろす。が・・・

突然脇から割り込んだ銀色の巨人が『ウルトラ白刃取』で彼女の刃を受け止め、そのまま外に放り投げたーー。

「なっ・・・!」「覚悟をするのは君の方だ・・・! 怪獣の訴えに、いい加減に気づくんだっ!」
間一髪の所で刃を止めたコスモスは、その場で立ち上がって弐号機の腹部に強烈な回し蹴りを放ち、遠くへ弾き飛ばしてしまった・・・。
172TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/06(日) 22:19:26 0
「うぁっ・・くくっ・・・。」「まだ分からないのか? 平和を愛する怪獣がいて、望まぬ力によって苦しめられていることを!」
「嘘だ・・・! 彼奴は・・私達を・・・!」「無差別に殺すことが正義なら・・・僕は犯罪者になってもいい・・・! それでも僕は、彼らを助けるんだ!!」
よろめきながらも反抗した態度をとる彼女に一言を言ったコスモスは、まるで中国の『鷹拳』のようなポーズをとって太陽のエネルギーを集め、球状に纏めていく・・・。
彼の動きを見たアスカはATフィールドを展開させようとするが、先程の肉弾戦で既に機能を破壊されて、バリアーが張れない状態になっていた・・・。
「嘘・・・! ATフィールドが壊れて・・・使い物にならないなんて・・・。」「オォォォォァァアアア・・・!!」
呆然としている彼女を余所に、コスモスはエネルギーを溜め終わる。そして・・・

「セィヤァァァァッ!!!」「! きゃあああああっ!!!」

球状のエネルギーから波動を生み出し、コロナモードの必殺技ーー『ブレージングウェーブ』としてエヴァンゲリオンに放つ。
弐号機は威力に耐えられる筈もなく、直撃したまま背後のビル群まで吹き飛ばされていった・・・。
173TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/06(日) 23:16:53 0
背後のビルを四棟破壊した弐号機はそのまま地上に仰向けに倒れ、白い煙を吐いたまま機能を停止した・・・。
稼働不能になったそのコクピットの部分から、アスカが肩を支えながらゆっくりと地面に降り立つ。
痛手を食らわされたその表情から伺えるのは、コスモスに負けた悔しさだろうか・・・。とても暗くて、かつ一つでは収まらなさそうな複雑な表情をしている。
「畜生・・・。」
一言だけそう言うと、彼女は再びコスモスの方向へ顔を向けた・・・。

弐号機から重ねて受けた傷が深く、衰弱しているカオスリドリアスに、コスモスはコロナモードからルナモードに戻りながら話しかける。
「リドリアス・・・。大丈夫かい?」「クゥゥ・・・。」「すぐに君を元に戻してやる。少しだけ辛抱しててくれ・・・。」
コスモスはそう言うと両手を上に挙げて霧状のエネルギーを集め、左掌からその光のエネルギーを浄化光線ーー『フルムーンレクト』としてカオスリドリアスに放射する。すると・・・

彼の体から虹色のウィルスが抜け出し、体の傷と共に荒々しい様子から、穏やかな巨鳥の姿へと変わっていったーー。

元に戻ったことで体力を回復したリドリアスは、コスモスに一言お礼を言う。
174TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/06(日) 23:55:47 0
『コスモス・・僕を苦しみから救ってくれて、どうもありがとう・・・。君は本当に、優しい心を持っているんだね。』
「いや、君は僕の本当の力を引き出してくれた・・・。お礼を言うのは僕の方さ。」『力を引き出したのは僕じゃない。きっと、君がしっかり自分の力に気付けたから出来たんだよ。』
リドリアスは彼にそう言うと、自分の帰るべき島がある海の方向へと体を向ける。
「もう飛べるのかい?」『うん。君の力で、僕の傷も治ったんだ。』「そうか・・・。気を付けて帰るんだよ。」『うん・・・。さようなら、ウルトラマンコスモス!』
コスモスに優しく頭を撫でられたリドリアスは、自分がいた怪獣保護センターに帰るため、その大きな翼を羽ばたかせて大海原へと飛翔していく・・・。
その彼の後ろ姿を、ウルトラマンコスモスは優しそうな円らな瞳で、暫く飛翔を見守っているのだった・・・。

彼はタカラの姿に戻ると、ビル内の避難所へと駆け足で戻っていく。彼女の脚の怪我が完治していないため、既に避難所に戻っていると推測したからだ。
屋上からの階段を急いで駆け降りて、彼は息を弾ませながら六階に降り立った。
このフロアの何処かに、自分の家族が帰りを待っている筈だ。
175TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/07(月) 00:25:31 0
タカラは弾ませていた呼吸を落ち着かせながら、そのフロアをゆっくり見渡してみる・・・。すると・・・

大勢が避難しているブルーシートの上で不安そうな顔をしている、自分の大切な家族の姿が見えたーー。

その家族の中心にはタオルを枕代わりにして、少し白い顔になりながら横たわっている『亜麻色の髪の少女』の姿もある・・・。
「しぃちゃん・・・!」
彼は彼女の姿を発見すると、一目散に駆け寄っていった。
きっと自分が戦いに行ったせいで、無理してずっと立っていたに違いない・・・。自分の責任だ・・・。
「ただいま・・・。」「! タカラ!! フサしぃちゃんを放ったらかしにして、何をやってるのよ!!」
「ごめんなさい・・・。」
彼の参上に気づいたしぃが、不満そうに眉間に皺を寄せてタカラに早速一喝をした・・・。きっと必ず、そうなってしまうと考えてはいたが・・・。
少々落ち込み気味になったタカラは次に、彼女が倒れた理由を聞く。その質問には、彼が居なくなってから付き添っていたエーが答えた。
「しぃちゃんは・・どうして・・・。」「貴方をずっと応援しているうちに傷からまた出血し始めて、戦いが終わった途端に気を失っちゃったのよ・・・。」
176TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/07(月) 23:01:06 0
タカラはまさかと思い、横たわっているフサしぃの脚に視線を向ける。
彼女の脚に巻き付いている、タカラの長袖シャツの腕を使った『青い包帯』が、血の色に染色されて紫色になったまま湿っている・・・。止まり掛けていた血液が立っていることによって再び傷が開き、余計に出血してしまったのだ・・・。
彼の視線を余所に、栄香は更に言葉を繋げる。
「志惟羽ちゃんはきっと、タカラにリドリアスのことを託したんだと思うの・・・。怪獣を浄化して戦いに決着がついて、緊張の糸が切れるようにして私に倒れ込んできた時も、ホッとしたような表情になってたから・・・。」
「そうか・・・。だから、しぃちゃんは・・僕に・・・。」
彼が姉の言葉から、戦う前に聞いたフサしぃの発言の意味が分かった、その時・・・
「ん・・・っ。タカラ・・君・・・?」「! しぃちゃん・・・!」
彼の目の前で横たわっていた少女ーー『房波 志惟羽(しいは)』が目を覚まし、弱々しく声を掛ける。
「これで一つ・・命を救えたんだね・・・。よかった・・・。」「バカ・・・! こんな風になるまで、何で僕の事を!」「だって・・・」

「君が悲しんでる姿・・・これ以上見たくなかったんだもん・・・。」
177TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/09(水) 03:12:09 0
「えっ・・・?」「君がずっと落ち込んでいたら・・・私達だって心配しちゃうよ・・・。昨日の事をずっと悔やんでる君に・・・また後悔して欲しくなかったの・・・。だからずっと・・応援してたんだよ・・・?」
「しぃ・・ちゃん・・・。」「ねぇ、笑って・・・? 君の元気な笑顔・・私に見せて欲しいな・・・。」
彼女の口から出された気持ちに、タカラは大きく痛感した・・・。
フサしぃはずっと元気を装っていたタカラの心を見抜いて、傷の痛みや貧血を我慢したまま、先程の戦いを最後まで見届けてくれたのだ。もう昨日と同じような後悔をして欲しくないという願いを、胸に秘めたまま・・・。
傷の重い痛みや、気分が悪さで辛い状態の彼女は、それでもタカラを元気付けたくて弱々しく笑顔を浮かべている・・・。それだけ彼女は、彼の事が大好きで、一番大切な人なのだ。
彼女の献身的な行動に胸が熱くなったタカラは、瞳に薄く涙を浮かべて口尻を上げると、静かに頷いて見せた。
「ははっ・・・。やっと笑って・・くれたね・・・。タカラ君・・・っ。」「へへへっ・・・。」
次の瞬間、彼女の瞼は眠気に誘われて静かに閉じていき、再び小さな寝息をたてて眠りについてしまった・・・。
178TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/09(水) 22:41:25 0
それから数時間後・・・
「志惟羽ちゃん・・・?」「うぅん・・・。ん・・・?」
今まで眠っていたフサしぃは誰かの声に導かれるように、再びその青い瞳を開く。
長い間暗闇に眠っていた瞳に明るい光が差し込んで、眩しい景色が一面に広がる・・・。ボンヤリとしか見えないが、どうやら此処は先程まで居たビルとは違う部屋らしい。
景色はどれもよく分からないが、唯一その特徴的な『桃色の長髪と青色の瞳』だけは、すぐに分かった・・・。
「・・しぃお母さん・・・? ここは・・どこ・・・?」「貴方が眠っている間に、家に帰って来たんだよ。」
彼女の視界が、ようやくハッキリしたものになっていく。
そして次の瞬間、彼女は自分の部屋のベッドの上に、仰向けに寝かされている事に気が付いたーー。
一体何時から此処にいるのだろう・・・。フサしぃのそんな不思議そうな表情を見ながら、椎奈は優しい微笑みを浮かべながら話しかける。
「体の具合はどう? よく眠れたかしら?」「まだちょっとだけ・・気持ちが悪いの・・・。」

「そうなの・・・。貴方の『夕飯』にお粥を作ったんだけど・・・食べられる?」

「え・・・?」
その『夕飯』という単語に、彼女は耳を疑ったーー。
179TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/09(水) 23:19:37 0
まさかと思い、部屋の壁にあるデジタル時計に目を向けてみる。すると・・・

時計の時刻は既に、『PM 7:45』の数値を示していた・・・。

彼女はビルの中にいた時間から、ずっと寝たまま過ごしてしまったのだ。外はとっくに日が沈み、星達が夜の暗闇を明るく彩っている時間だ。
「驚くのも意味はないわ。貴方はあの後貧血状態でずっと眠っていたから、タカラがおぶって此処まで帰って来たのよ。」「そんな・・・。タカラ君も疲れてる筈なのに・・・。」
因みに言うと、タカラの家からデパートまではかなりの距離があり、行きはバスに乗って途中から歩いてきたのだ。その距離を、戦いを終えて疲れているタカラが彼女をおぶって帰ったとすると、もはや疲労どころではない筈だ。
とんでもない事実を聞いた志惟羽は、迷惑を掛けてしまった事に対する罪悪感にかられて眉を曲げてしまう。
しかしそんな心配を吹き飛ばすように、椎奈がさらに言葉をかけた。
「大丈夫よ・・・。タカラはしっかり鍛えてきたから、此処まで歩いてこれたの。確かに、疲れはもの凄かったみたい・・・。でも、あの子自身が望んだことなんだよ。」「そうだったんだ・・・。」
180TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/10(木) 06:34:38 0
フサしぃはタカラに迷惑を掛けてしまったと思い、少し苦笑いの表情を浮かべる。
結局自分は、タカラにいつも救われてばかりだ・・・。一緒に戦う事は出来ず、いつも助けられてばかりいる・・・。
彼女が小さくため息を吐いたところを見て、しぃは少しでも空気を変えようとお粥の事を話し始める。
「・・・少しでもお腹に入れた方がいいわよ。明日からまた学校があるんだから。」「・・うん・・・。いただきます。」
彼女は椎奈に言われるがまま、土鍋から茶碗に入れられたお粥に手を伸ばす。
お粥は卵がメインに、薬味の刻み葱と梅肉が少し乗っている。彼女が風邪を引いたときに食べていた鮭粥とは違うらしい・・・。
それでも文句を言うことなく、彼女は熱々のお粥を口に運んだ。
卵の黄身の甘みと梅肉の香りが広がり、ホッとするような温かさと味が口の中を満たしていく・・・。
「おいしい・・・。」「ふふふっ・・・よかった。」
「でも、何で今日は卵粥なの・・・? 白粥でも良かったのに・・・。」「今日は、私が作った訳じゃないのよ。貴方なら何となく分かる筈だけどなぁ・・・。」
「えっ・・・?」
181TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/10(木) 20:22:15 0
「このお粥・・お母さんが作ったんじゃないの・・・?」「ううん、私じゃないの。貴方の為に、何かしてあげたいってうるさい人が居たから・・・。そうでしょ、『宇宙警備隊の新人君』?」
「新人君って・・・。」
驚いた表情でこちらを見る志惟羽に、椎奈は視線を扉に向けながら誰かを呼ぶ。すると、彼女のかけ声に合わせるようにして扉が開き・・・

奥からパジャマ姿になった、『青い瞳と少し長めの金髪』が特徴の青年が恥ずかしそうにこちらへ歩いてきたーー。

「! タカラ君・・・!」「『新人君』って呼び方、余所余所しいからやめてくれよ・・・。」
「恥ずかしがって部屋に行かない、貴方がいけないんでしょう? いい加減、自分に自信を持ちなさいよ。」「う、うるさいなぁ・・・。」
椎奈の図星とも言える言葉に、タカラは顔を真っ赤に染め上げてしまう。そしてその横で、フサしぃも違った意味で頬を真っ赤に染めていた・・・。
この美味しいお粥を作った本人が、まさかタカラだとは・・・。思いもしなかった事に、彼女は気恥ずかしさと嬉しさで胸が一杯になってしまったのだ・・・。
(タカラ君が・・このお粥を・・・?)
182TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/10(木) 23:48:56 0
二人が顔を赤くするのを余所に、椎奈は微笑みを浮かべながら彼らに言う。
「・・・じゃあ、私は洗い物があるから下に降りてるね。栄香一人に任せるのも酷いから・・・。また暫くしたら、様子を見に行くよ♪」「えっ? ちょっ・・・しぃお母さん!」
彼女はそう言うと、志惟羽の止めをまるで聞いていないように、部屋を後にしてしまった・・・。
部屋に取り残された二人は暫く、気不味い雰囲気のまま沈黙を続ける・・・。いきなり残されたこの空間の中で、自分達は一体何を話し出せばいいだろうか・・・。
タカラが何から話そうかと悩んでいたその時、突然志惟羽が彼に話しかけてきた。
「ねぇ、タカラ君・・・。」「? どうしたの、しぃちゃん。」
「このお粥・・・君が作ってくれたの・・・?」「あ・・あぁ・・・。口に合わなかったら、申し訳ないんだけど・・・。」
彼の不安そうな表情を余所に、志惟羽はお粥を更にもう一口食べる。しかし彼の不安とは裏腹に、彼女はとても幸せそうな笑みを浮かべながら更に頬張り、一杯目をペロリと完食してしまった。
一杯目を食べ終わったと同時に、彼女は嬉しそうに微笑むとタカラに感想を言った・・・。
183TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/11(金) 22:41:21 0
「わざわざ作ってくれて・・本当に有り難う・・・。とっても、美味しいよ・・・!」「そ、そう・・・? 喜んで貰えて良かったぁ・・・。・・・ドンドン食べてよ。」
「うん! えへへっ・・・。」
彼女の嬉しい発言に、タカラも思わず口尻を上げる。七年間一人で暮らしてきた技能や経験が、ここに来て大いに役立ったようだ。
其れこそまだ子供だった最初期はメビウス等から生活を教えられていたが、今の彼は料理も大抵出来る程に成長したのだ。
タカラの嬉しそうな表情を余所に、彼女は食欲が出始めたのか、土鍋の温かい卵粥を少しずつお椀に装って食べていった・・・。

15分後・・・
タカラ特製の卵粥を食べ終わり、空腹を満たした志惟羽は彼と二人っきりで団らんをする。家の中でこうして二人っきりになることさえ久しぶりなのか、話はすぐに盛り上がっていた。心配していた彼女の貧血も、もう大丈夫そうだ。
「タカラ君・・・。」「ん?」
「私が眠ってる間・・・何かあった?」「う〜ん・・・特にはなかったけど、強いて言うなら一つはあったな・・・。」
「えっ?」「家に着いた直後だったかな・・・。君をベッドに寝かした後、部屋を出ようとしたんだけど・・・」
184TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/12(土) 09:40:32 0
タカラは自分の部屋に志惟羽を寝かしたことを説明しながら、頭の中で回想を始めた。
『ふぅ・・・。これで大丈夫かな・・・。』
「僕が君をこの部屋のベッドに運んだ後で、お母さんが君の脚を治して、暫く僕が様子を見てたのさ。でも、寝ている君を邪魔しても不味いと思って、部屋から出ようとしたんだ。けど・・・」「? けどって・・・どうしたの?」
『・・ゆっくり寝ててね。おやすみ・・・。』『・・・待っ・・て・・・。』『? しぃちゃん・・・?』

『行かないで・・・。もっと・・・私の側に・・居て・・・。』

「えぇっ!? 私がそんな事を・・・?」「多分寝言かなって思ったんだけど、放っておけなくてさ・・・。・・そのまま一時間ぐらいはいたかな・・・。」
「やだ・・・。恥ずかしい・・・。」
タカラの話を聞いた志惟羽は、自分の思わぬ発言に顔を真っ赤にし、布団に無理矢理顔を潜り込ませた・・・。
無意識でも彼にその発言を聞かれるとは、かなり恥ずかしい・・・。
「ごめん・・・。私、またタカラ君に迷惑を・・・。」「! そ、そこまで恥ずかしがらなくてもさぁ・・・。」
恥ずかしくて顔が向けられない彼女に、彼は苦笑いを浮かべながら優しく声をかける。
185TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/13(日) 00:22:36 0
「しぃちゃん。」「・・なに・・・?」
「謝ることはないし、恥ずかしがることもないんじゃないかな? むしろ僕は、君が必要としてくれたのが嬉しかったんだ。」「え・・・? 何で・・・?」
「誰かに側にいて欲しいのは、誰だって同じだと思う。僕は、大切な人に居て欲しくてもずっと一人だったから、寂しさはよく分かってるつもりなんだ・・・。」
タカラの言葉を聞いてその通りだ、と志惟羽は思った。いつも家族が居てくれた自分とは違って、彼は今まで遠い宇宙でずっと独りだったのだ。家族に会う事さえ出来なかった彼にとって、それはきっと深い寂しさだったに違いない・・・。
「僕には、君が僕を必要としてるんじゃないかって思ったんだ。まぁその・・僕の勝手な勘違いかもしれないんだけど・・・。」「勘違いなんかじゃ・・全然ないよ・・・。」
「えっ・・?」「君が側にいてくれたから、私は安心して眠れたんだよ・・・。だからきっと、あの時の私は君に側にいて欲しかったんだと思うの・・・。」
そう言うと、彼女は赤い顔のままこちらへゆっくり顔を向けてみせる。
恥ずかしそうに眉を曲げて、青い瞳を輝かせる彼女の表情が彼の目に写り、頬が同じように赤くなっていく・・・。
186TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/13(日) 21:31:45 0
志惟羽は赤い頬のまま視線を少し右下に向けると、タカラに静かに言う。
「タカラ君・・・。ちょっとだけ、顔を近づけてくれる・・・?」「? それは、どうして・・・?」
「いいから・・早く・・・!」「あ、あぁ・・・。」
理由を聞こうとしてもぶっきらぼうに言葉を返した彼女に、タカラは仕方なく言われた通りにする。
「こんな感じかい?」「うん・・・。」
彼は志惟羽の指示に合わせて、自分の顔をゆっくり近づける。
正直、彼女が何をしたいのか今すぐにでも問い質したいところだ。しかし、今の彼女には下手に聞かない方がよいだろう・・・。先程聞き返そうとしたとき、何となく苛ついているように見えたからだ。
彼女の行動を疑問に思っていたその時、ベッドの上の志惟羽が体ごとこちらを向く。更に自分の顔に近付いたかと思うと、小さな声で彼に囁いた。
胸の高鳴りが、止まらない・・・。
「今からやる事・・・お母さん達には内緒だよ・・・?」「えっ?」
志惟羽はそう言うとタカラの顔に更に近づき・・・

彼の温かい唇に自分の唇を静かに合わせ、『キス』をしたーー。

その瞬間、タカラは自分の口に当たった温かくて柔らかい感触に気付き、顔を真っ赤に染めた・・・。
187TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/15(火) 19:02:04 0
只今、全サーバー規制の為更新できなくなってしまいました。
ご愛読の方は大変申し訳ございません。
規制解除までお待ちください。

過去ログには入れないでください。
188TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/18(金) 17:25:00 0
お待たせしました。更新再開です!
189TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/18(金) 18:08:36 0
彼女からほんのりと甘い香りが走り、包み込むように優しい温かさが体を伝う・・・。
志惟羽から貰う、トラブルではない『七年ぶりのキス』は、彼女の性格のように優しく、とても温かく感じられた・・・。

ほんの数秒間の出来事の後、彼女は顔を赤くしながら静かに彼から離れる。
「っ!? 今、僕に・・・」「うるさいなぁ・・・。私だって恥ずかしいんだから・・・。」
志惟羽は照れ臭そうに、ぶっきらぼうな言い方で彼に言葉をぶつける。しかし、すぐに口元に笑みを浮かべると、今度は優しい口調で彼に言った。
「でも、ありがとう・・・。私、タカラ君が傍にいてくれると何だかホッとして・・とても安心できるの・・・。やっぱり私は、君がいないとダメなんだね。」「! しぃちゃん・・・。」
彼が彼女を『しぃちゃん』と呼んだ途端、志惟羽は苦笑いを浮かべてそれに言葉を返す。
「その呼び方・・そろそろ止めて欲しいな・・・。」「えっ? 不味いの?」
「だって、他の男の子は『呼び捨て』なのに、君だけ『ちゃん付け』はちょっとなぁ・・・。」
「じゃあ、何て呼べば・・・」「だから・・・」

「これからは私の事・・『志惟羽』って呼んで欲しいの・・・。」
190TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 07:20:38 0
「『志惟羽』・・・? 君の本名は、『しぃ』じゃないのか・・・?」
驚くタカラに、志惟羽は少し落ち込んだような表情で彼に話す。
「・・・君には初めて明かす事なんだけど・・私が月に居たときの名前が『志惟羽』だったの・・・。でも地球で暮らす時に、月星人の生き残りだって事を隠す為にわざと『しぃ』っていう名前を使っていたんだ・・・。」
「! じゃあ、何で今それを僕に打ち明けたんだ? 狙われる可能性があるんだぞ?」「もう・・黙っていたくはなかったの・・・。ずっと黙ってるのが・・・タカラ君達に嘘を付いてるみたいで・・・。」
彼女の説明に驚いたような表情を浮かべながら、理解しようとするタカラ。志惟羽の素性は既に知っているので、すぐに彼女の言っている事を理解できた。
そうとも知らず、志惟羽は彼がどんな表情を浮かべているか分からず、俯いたまま顔をなかなか合わせようとしない。と言うよりも、今の彼女にとっては合わせる顔が無いのだろう・・・。
「今まで黙ってて・・本当にごめんなさい・・・。分かってくれるかな・・・。」
彼からどんな反応が帰ってくるか、ドキドキする・・・。怒られてしまうのだろうか・・・。
が、しかし・・・
191TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 08:16:01 0
「『志惟羽』、か・・・。いい名前だね・・・! 分かったよ。じゃあ、今度から呼び捨てにして良いんだね?」

「えっ・・・?」
彼女はタカラからの予想外の返答に、キョトンとした表情を浮かべながら彼を見る。タカラはそんな彼女の表情から察したのか、苦笑いを浮かべながら志惟羽に言った。
「ひょっとして、僕が君のことを怒ると思ってた?」「・・うん・・・。」
「ハハハ・・・大丈夫だよ。君の事情はよく知ってるし、起こり得ないことでもないから、別に怒ったりしないよ。」
「だって、君なら『どうしてもっと早くに言わなかったんだ!』って、怒りそうな気がしたんだもん・・・。」
顔を再び俯かせる志惟羽に、タカラは少ししゃがみ込んで彼女の肩に優しく手を乗せ、語りかけるような口調で言う。
「確かに君が思う通り、もっと早くに教えて欲しかったよ・・・。でも君の事情のように、やむを得ない時だって必ずあるんだ。無闇に怒ったって、仕方がないだろ?」
タカラの言葉に小さく頷く志惟羽・・・。
やはり、彼の心はとても温かい・・・。今の会話でその温かさが、しっかりと感じられる・・・。
192TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 09:18:10 0
「大事なのは、話したことが『嘘』じゃないかって事だよ。君は僕に言ったことに、『嘘』はついてないよね?」
タカラからの質問に、志惟羽は彼の蒼い瞳を見ながらしっかりと頷く。
「うん。全部、本当のことだよ・・・。」
彼女がそう言うと、タカラは嬉しそうな表情を浮かべて、志惟羽の肩に置いた手を背中に通し・・・

その温かな腕で一回り小さな彼女を手繰り寄せ、優しく抱き締めたーー。

「は・・・っ。」
「『志惟羽』・・・。それで良いんだ・・・。これで君の事を、ずっと護っていける・・・。」
「! タカラ君・・・。やっと私のことを・・・。」
「約束する・・・。何があっても、僕は君の傍にいる・・・。だから君も、嘘はつかないでくれ・・・。」
「うん・・・!」
タカラの一声に、初めて本名で呼ばれた志惟羽は、彼と同じように嬉しそうな表情でゆっくりと頷いた・・・。

明日からはいよいよ、タカラの新しい日常が始まる。
新しい学舎で学ぶ高校生活で、一体何が待ち受けているのだろうか・・・。
それは本人にも、志惟羽にも、はたまた家族にも分かる事はない・・・。

それこそ正に、『神のみぞ知る事』なのかもしれない・・・。

第五話へ続く
193TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 10:41:20 0
さて、ちょっと雑談タイムとでもいきましょうか(^_^;)
194TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 10:49:18 0
今更ですが、ひょっとするとこの小説を書き進める中で、容量の重さから途中で過去ログに入れられる可能性が高いことに気づきました・・・。
なんせ、一レスするのに一キロバイトも使ってますからねぇ・・・。
だから、もしかしたら途中で新スレッドに切り替わる恐れがありますので、よろしくお願いします。
195TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 16:15:39 0
更にキャラに対する変更点をお一つ。
読んでいてすぐに気付かれた方が多いと思いますが、主役のヒロイン・フサしぃの本名を第四話から『志惟羽』に変える事にしました。
これはこの物語に登場するもう一人の『しぃ』、『擬古河 椎奈』との区別を改めてつける為であります。
また、主要メンバー(つー・モララー・モナーを除く)の中で彼女だけしっかりした名前が付けられていないことから、改名させていただきました。
いきなりで驚かれたと思いますが、どうかご了承願います。
196TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 17:41:29 0
さて、そろそろ投下を再開いたします。
第五話、まもなくスタートです!
197TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/19(土) 20:21:22 0
第五話 新しい日常、新たな敵〜使徒の襲来

翌朝の午前8時・・・
志惟羽の姿は家ではなく、彼女が通う高校の教室に置かれていた。
表札には『2ーA』とあり、志惟羽はそのクラスの一番窓側の最も後ろの席だ。彼女は窓からの風に髪を靡かせながら、静かにSHR(ショートホームルーム)が始まるのを待っている。
この高校はかつて『栄香』が通っていた学校で、今は仕事で宇宙に行っている『珀作』が彼女と恋を実らせた所でもある。そしてこの席こそ、その栄香が座っていた席なのだ。
教室内は既に殆どのメンバーが出揃い、今日もそれぞれ席を立って話している。
普段は時々女子同士で話している時もあるが、今日は何故かそんな気分になれない。今日この学校に入ってくる『隣の席の生徒』の事が、気掛かりだったからだ。
そんな様子の彼女に、前の席にいる男子が話しかける。髪は少し茶色が入ったショートヘアで、瞳の色はブラウン系の色をしている。タカラとはまた違った印象だ。
「? 志惟羽、今日は誰とも話さないのかよぅ?」「! 野上君・・・。どうかした?」
「それはこっちの台詞だって。隣の席を見ながら、何を気にしてるのさ?」「いや、別に・・・?」
「ふぅん・・・。」
198TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/20(日) 07:37:09 0
彼女の答えを軽く受け流しながらも不思議そうな視線を向けている彼の名前は、『野上 いよぅ』。タカラと志惟羽の幼馴染みである。
彼は元々タカラの家の側に住んでいたが、中学生になる前に引っ越し、去年の春に高校で彼女に再会したのだ。
約七年の間にすっかり言動が変わってしまったが、元の性格は昔とあまり変わらないようだ。なお、タカラがいない間に剣道三段の資格を取得していて、この高校の剣道部副部長も任されている。
「正直、転入生が誰だかは知らないけど、何だか懐かしい気分になってくるんだよぅ・・・。志惟羽は誰が来るのか知らないのか?」「・・・ううん、私も知らないよ。」
志惟羽は転校生の内容について本当は知っているが、ここは敢えて彼には黙っておくつもりでいる。
と、その時・・・
「よ〜し、みんな席に着けぇ! 今日は少し早めに始めるぞ!」
本令チャイムと共に教室の扉をガラリと開けて、廊下から茶髪をした若い男性が入る。彼こそがこのクラスの担任で、名前は『藤沢 克明』。ニックネームは『フサ』だ。
既に結婚していて、土曜日に志惟羽が助けた『藤沢 楓香』は、彼の愛娘である。
本令が鳴ったばかりだというのに、一体何事だろうか・・・。
199TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/20(日) 21:12:45 0
「じゃあ・・・志惟羽。号令を頼む。」「はい。起立! 気を付け! 礼!」
志惟羽の合図によって周りの生徒達が立ち上がり、教壇のフサに挨拶をする。
まだ学級委員は決まってないので、今は暫定的にランダムで号令を行っているのだ。
生徒全員が着席したところで、今度はフサから話が始まる。
「おはよう。ちょっと早いが、全員居るみたいだな。えーっと・・・今日はこのクラスに転入生が来る日だって事は、土曜日の始業式で君達に教えておいた筈です。覚えているか?」
このクラスに新たに加わる生徒についてフサが話すと、再び周りが少しだけざわめき始める。間違いなく、男子は可愛い女子の転入生、一方の女子はイケメンな男子の転入生を思い浮かべているに違いない。
「俺が思うに、男子は残念だと思うが、女子にはきっとラッキーだな。」「! フサ先生、本当ですか!?」
「おう、俺のお墨付きだ。だが、カレシにするのは難しいだろうな。」「えええっ・・・。」
女子の残念そうな反応を余所に、フサは廊下で待たせている生徒を呼び出した。
「よし・・・今からその生徒を紹介するぞ。きっと覚えている人もいるだろうな・・・。入っていいぞぉ!」「はい!」
200TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/21(月) 06:01:00 0
フサの合図と共に扉が開き、廊下からその新しい生徒が入室する。
フサフサとした柔らかい毛並みの金髪、そして特徴的な輝きを放つ蒼い瞳を持つ青年が、この学校の制服である緑色のブレザーと白いワイシャツを着こなし、赤いネクタイを締めて教壇に立っている。
志惟羽にとって彼のこの制服姿はまた新鮮で、改めてかっこいいなと感じた。
教室に入った彼はフサから手渡された白いチョークを使い、手慣れた手付きと丁寧な字で黒板に自分の名前を書き、目の前の生徒達に向かって自己紹介をする。

「お早うございます。今日からこの学校でお世話になる、『擬古河 宝』です。この町には七年ぶりに帰ってきて、色々分からないこともありますが、これからはよろしくお願いします!」

彼の名前を聞いたいよぅは、驚いたかのように目を丸くした。七年前に宇宙へ飛び出していった親友が、今目の前にいるのだ。驚かない筈がない。
彼の自己紹介が終わり、今度はフサから一言紹介された。
「タカラはこの町の出身だが、七年前からある事情で別の所にいたそうだ。故に、お前達の中でも知ってる生徒がいるかもしれない。ただ、七年間何処にいたのか、とか詳しい理由は聞かないでやってくれ。いいな?」
201TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/22(火) 05:51:31 0
フサの言葉に、クラスのメンバーは分かったとでも言うようにしっかり頷く。
「よし・・・。じゃあ、タカラ。お前はこれから、志惟羽の隣の席で過ごして貰おう。」「分かりました。」
荷物を持ったタカラは、顔を赤くしてそっぽを向いている彼女の隣の席へと静かに移動し、席に着いた。今日からは、この座席で暫く過ごしていくのだ。
「みんな。新しい仲間と仲良くしてやれよな。・・・これで、ホームルームはおしまい。次の時間は国語だ。しっかり準備しておけ。」「はぁい!!」
フサのホームルーム終了の合図と共に、再びざわめき始める教室・・・。自己紹介が終わって緊張から解放されたタカラは、自分の席に着いてホッと一息を入れる。
周りの生徒達の声が自然と耳に入るが、だいたいが自分の噂話しかしていないようだ。
何を言おうと彼らの勝手だが、話しながら時々こちらを向いてくる視線が、少し痛い・・・。
202TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/22(火) 22:09:39 0
タカラがボーっと教室を眺めていた、その時・・・
「タカラ君、お疲れさま!」「? 志惟羽・・・。」
彼女が声をかけた後、その後ろから別の人物が彼に話しかけてきた・・・
「やっと帰ってきたんだな、タカラ・・・。」「えっ・・・? 君は・・・」
疑問符を浮かべるタカラに、その男子はがっくりきたような反応を示した。
「! ダチの声も忘れたのかよぅ・・・。まぁ、七年も会ってないからなぁ・・・。」
「! その口癖・・・まさか・・・!」
タカラは彼の口から出た『よぅ』の口癖に、ようやく友達の名前を思い出した・・・。自分をよく知っていて、十年前のカオスヘッダーとの戦いも見守ってくれた、掛け替えのない『仲間の名前』を・・・。

「『いよぅ』!」「思い出したか! 久しぶりだよぅ!!」

久しぶりの再会に、笑いながら喜びを噛みしめる二人・・・。
そんな光景を、隣の志惟羽も嬉しそうにクスッと笑みを浮かび上げる。

この瞬間、十年前にいつも一緒だった『仲良し三人組』が、七年の時を経て復活したーー。
タカラの姉である栄香が、アヒャとのーの三人でいつも一緒だった時のように、彼らの間に結ばれている『絆』は、何年を経てもとても深いモノなのだ。
203TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/23(水) 20:48:53 0
タカラ達三人が暫く喜びを分かち合った後にすぐに授業が始まり、彼らはそれぞれの席で勉強に専念した。
二年に入ってからさらにレベルアップした授業内容に、数学や物理が苦手な志惟羽や、英語が大苦手ないよぅは苦戦を強いられるようになっていた。
その一方でタカラは、最初こそは彼ら以上に苦戦をしていたが、およそ長い間地球にいなかったとは思えないスピードで物事を理解していき、すぐに問題を解くコツを掴んでいった・・・。
合間の10分間の休み時間で志惟羽が聞く所によると、光の国で体を鍛えている一方で、偶に寮を訪れていた『アヒャ』ーー『ウルトラマンゼロ』に基本的な勉強を教わっていたそうだ。
しかし基本的な事しか教わって無いにしろ、彼の応用力の高さには目を見張るモノがある・・・。きっと其れは、彼が『ウルトラマンタロウ』との長い特訓で培った事に違いない・・・。

前半の四時間授業の後に昼休みに入り、タカラ・志惟羽・いよぅの三人は席を囲んで弁当を食べることにした。
この20分間の休みは、タカラが光の国で何をやっていたのかを聞ける貴重な時間だ。
弁当のシウマイを食べながら、いよぅはタカラに気になっていた事を質問した・・・。
204TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/24(木) 18:23:52 0
「なぁ、タカラ。」「ん?」「光の国で、警備隊の一員になるために訓練を積んできたのは分かったんだけどよぅ・・・」
「! ちょっと待ったぁっ!」
いよぅが余りに大きな声で自分のことを話したので、二人は慌てて彼の言動を制止させる。
実はこの学校の生徒には彼の事実は明かされておらず、知っているのは教職員と彼らだけなのだ。故に、この場で大声で彼の事について発言するのは少なからず問題がある。
「バカ・・・! あんまり大きい声で言うなよ・・・!」「他のみんなに知られたら大変なんだから・・・!」
「ごめん・・・。」「・・・それで、聞きたい事ってなにさ?」
「向こうの星って、訓練の他に部活動ってあったのかよぅ?」
「う〜ん、そう言うのは無かったかな・・・。でも休みとかの暇な時に、メビウス兄さんとかヒカリ兄さん、それにエース兄さんに『剣術』を習っていたのは楽しかったよ。」
「『剣術』!?」「あ、あぁ・・・。それがどうかしたのか?」
『剣術』という言葉に、いよぅは目の色を変えた。剣道を習っていたものとして、早くも血が騒ぎ始めている・・・。
様子が一変したいよぅにタカラが驚いていると、彼の事情をよく知っている志惟羽が補足を入れた。
205TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/25(金) 23:10:48 0
「野上君は部活で剣道の副部長をやってて、三段の資格も持ってるんだよ。」
「三段!? 凄いなぁ・・・。僕が居ない間にそんな資格まで持ってたんだ・・・。」
タカラの反応を見て、いよぅは自慢するかのように口元をニンマリとさせて笑う。そんな彼の反応を余所に、志惟羽は更に彼に言う。
「きっと、タカラ君にも部活に入って欲しいんだよ。ね、野上君?」「ハハハハハ・・・。しぃちゃんにはバレてたか。」
「僕が・・剣道部に・・・? 本当に良いのか?」「当たりだよぅ! 初心者大歓迎も勿論大歓迎さ! 一緒にやらないか?」
「分かった。放課後、剣道部の練習に参加させてくれ!」「おぅ! 待ってるよぅ!」
タカラの二つ返事に、いよぅも嬉しそうに言葉を返す。
光の国でしか剣術を習った事がないタカラにとって、今回の彼の誘いは本場の剣道を習える良い機会だ。
(剣道部・・・。どんな事をやるんだろうなぁ・・・。)
タカラは放課後に行われる部活動に期待を寄せながら、昼休み後の五時間目の授業に打ち込んでいくのだった・・・。
206TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/26(土) 23:29:30 0
眠くて長い五・六時間目を過ごし、その放課後・・・
タカラは志惟羽に案内されて、剣道部が活動している剣道場にやってきていた。彼は既に体育着を身に纏っていて、初期準備は万端のようだ。
道場の扉の奥からは、稽古に励む生徒たちの意気揚々とした声が上がっている・・・。いよぅが興奮して『初心者大歓迎も勿論大歓迎』と言い間違えたぐらいだから、この部活はきっとそれ程にやりがいがあるに違いない。
「ここで活動してるのか・・・。」「この道場の中できつい練習が毎日行われてるの・・・。でも、監督の先生はこの学校の人じゃないんだよ。」
志惟羽の意外な言葉に、タカラは思わず彼女を驚いた表情で見る。
「えっ? どういう事?」
「本当は体育の先生が顧問だったんだけど、エーお姉ちゃんが卒業してからその先生が公認して、『ある人』に顧問が変わったんだって。私も会った事が無いから、よく分からないんだけど・・・。」
どんな先生がこの中に待ち受けているのか・・・。タカラが半ば不安気に考えているその横で、志惟羽は腕時計の時間を気にしている。
デジタル式の腕時計が示す今の時刻は、『PM 3:40』・・・。校内では何処の部活もとっくに始まっている時間だ。
207TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/27(日) 08:00:27 0
時計の時間を見ながら、志惟羽が残念そうに呟く。
「? 志惟羽、どうした?」「はぁ・・・。今日は歌唱部の最初の日なのになぁ・・・。」
「昨日の今日だし、仕方がないよ。」
昨日体調を崩した分、体調が戻りきっていない志惟羽は、今日の部活は大事をみて休む事にしたのだ。後輩が初めて部活に来る日だけに、確かに休むのはちょっと痛い・・・。しかし、部活の途中でいきなり倒れられても困る。
「そろそろ帰らなきゃ、お母さんに怪しまれちゃうよ・・・。部活に出てたんじゃないかって。」「そうだな・・・。」
「ごめん・・・。私、先に帰ってるよ。どんな事をやったか、後で教えてね!」「ああ。」
志惟羽はそう言うと、入口にいるタカラを置き去りにして先に帰ってしまった・・・。
ここから先は、タカラ一人で中に入って行かなければならない世界だ。
「よぅし・・・!」
残された体操着姿のタカラは、意を決して剣道場の重い扉を開けた・・・。
中の明るい照明が視界を一瞬奪う。しかし段々目が慣れてくると・・・
「面! 面! 胴!」「うわっ・・・。」


道場の中で胴着を身に纏った十数名の生徒達が、その一番前にいる顧問の指示通りに一斉に体を動かしていたーー。
208TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/27(日) 23:45:42 0
胴着からの湿気と熱気により、道場の中はサウナのように暑くなっている・・・。立っているだけでも汗が吹き出しそうだ。
部員の生徒達はそんな事を気にも留めず、竹刀をひたすら振り続けている。よくこの状況下で稽古が出来るものだ。
「凄い・・・。」「! タカラ、やっと来たか!」
タカラが彼らの必死な稽古を見ていると、突然一人の部員が顧問に合図をとり、こちらに向かって歩いてきた。
部員は片手の籠手を外し、頭についている面を取り外しながら歩み寄り、額の汗を籠手を取った右手で拭った。板の間を一歩ずつ静かに向かってくる姿が、一人の武士のようにも見える・・・。
彼の特徴であるオレンジ系の茶髪は汗でまみれていて、まるでシャワーを浴びた後のように濡れていた・・・。湯気が頭から上りそうな勢いだ。
「いよぅ・・・! 凄い汗だけど、大丈夫なのか!?」「なぁに、こんな汗は七年前から慣れっこだよぅ。顧問の人を紹介するから、こっちに来て。」
彼がそう言うと、タカラはいよぅに言われるがままに後を付けた。
一番前から稽古を監督している顧問は彼らと同じ格好だが、竹刀を杖のように持ち、厳しい声で彼らに渇を入れる姿は、他にはない絶大な風格を感じる・・・。
209TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/28(月) 00:20:22 0
「いいか、基本はしっかり体に叩き込むんだ。剣道の基本を覚えないと、剣術は教えられないからな! チャンバラではないんだぞ!! 剣術と剣道を甘く見るんじゃない!!」
威圧的で厳しい声が響く中、いよぅは慣れた口調で彼に声をかける。
「『師匠』。やる前に言っていた生徒が来ました。」「むっ? 誰だ?」
顧問はいよぅの声に気付くと、サッとこちらに面を向けた。
面の中が暗くて彼の顔がよく見えないが、向いただけでも感じるピリピリとした肌の感触は、とても恐ろしく感じられる。
緊張が高まって額に汗をかき始めているタカラは、恐る恐る自己紹介をした。
「は、初めまして・・・。僕は『擬古河 宝』って言います。今日は隣のいよぅ君に誘われて、初めてこの部活を見学させて頂きます・・・。よろしくお願いします。」
面で顔が分からない顧問に向かって、タカラは必死に目線を合わせようとする。このような紹介だと、怒られてしまうのではないだろうか・・・。
しかし、彼のオドオドとした自己紹介に顧問は怒ろうとしなかった。むしろクスクスと肩を震わして、笑っているようにも見える・・・。

「ハハハハ・・・。『初めまして』ではないぞ、タカラ。」「えっ・・・?」
210TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/29(火) 02:40:12 0
その彼の言葉に、タカラは何処かで聞き覚えのある声だと思い、首を傾げる・・・。一方で顧問は面の首元に手を入れると、上へとゆっくりとその重い面を頭から外そうとした。
声の正体は一体、何者だろうか・・・。期待半分と不安半分が織り混ざった複雑な心境と面もちで、タカラはそれを見守る。すると・・・

面の中から汗にまみれた紺色の髪を振り出し、その『男』は少しため息を吐き出しながらこちらを向いたーー。

この特徴的な髪の色と紺色に深く透き通る彼の瞳は、絶対に忘れられない。
「!! モララーさんっ!?」「待っていたぞ、タカラ。よくこの道場に来たな。」
余りに驚きすぎて、返す言葉も見つからない・・・。一体何をどうすればいいのか、見当も付かなかった。警察署で働いている筈の彼が、何故この学校にいるのだろうか・・・。
そんな彼の疑問に気付いたモララーは、微笑を浮かべながらタカラに言う。
「驚かして悪いな。本当は不味いけど、兼職を学校に頼まれたのさ。実際、あのフサフサ頭のバカ野郎にはかなり推されてね。」「フサ先生が・・・ですか?」
「そう。だから昼間は普通に職場で働いた後に、夕方に警備名義でこの学校に来て、部活を監督していたんだ。」
211TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/06/30(水) 19:31:13 0
因みに、この国では一つの就職先に入った後、もう一つの職業を兼職することは法律で禁止されている。
しかしモララーは警察官という立場を逆手にとって、あえてこのような活動をしていたのだ。
それに剣道部の監督という仕事を承諾した理由として、『剣術』が得意な彼にとって、絶好の職業だというのも有るそうだ。
その証拠として、彼が監督を始めた三年前から剣道部は数々の大会で勝っており、実力が日に日に上がっているのがよく分かる。フサが考えた人選は、完璧なまでにベストだったのだ。

部員が組手同士で稽古をしている中、タカラとの会話で宇宙で『剣術』を教わっていたことを聞いたモララーは、興味深そうに口元に笑みを浮かべて頷く。
「メビウス兄さんやヒカリ兄さんには基本的な剣術を教わりました。中でも特に、エース兄さんからは『居合術』も教えてもらいました。」
「『抜刀術』か・・・。短い間に、色んな武術を取り込んだようだな。」
「でも、そこまで深くやった事はないので・・・。」「そうか・・・。」
タカラが新たに学べる事が楽しみで、瞳を輝かせている・・・。
一方のモララーも、彼が七年間でどれだけの訓練を積んだのか、とても興味深くなっていた・・・。
212TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/07/01(木) 06:25:26 0
少しだけ沈黙が続いた後、モララーはある一つの提案を彼に投げかける。
「タカラ。胴着を貸してやるから、一回だけ俺とやってみないか?」「えっ? 良いんですか?」
「お前の実力を見てやっても良いぞ。どうだ?」
タカラは少し考えた後、彼に向かって笑顔で答えた。
「・・・はい。よろしくお願いします。」「よし。今胴着を用意するから、ここで待ってな。」
彼の言葉を聞いたモララーは、早速彼の体に合う胴着を用意するため、倉庫へと向かっていった。時刻は既にPM 4:10。モララーと話している間に、こんなに時間が経ってしまったのだ。
この部活に入るとすると、明日からはこの部員達に混じって本格的な練習に励むことになる。しかし、毎日のハードな練習に体が耐えられるだろうか・・・。
タカラが練習に励んでいるいよぅを見ながら考えていた、その時・・・
「これに着替えろ。面の大きさが合わなかったら言ってくれ。」
モララーがあっと言う間に用意をし終わり、彼の隣に胴着を置く。
彼の体を目分量で測った後に適当に寄せ集めたらしいが、それにしてはサイズがぴったりだ。
タカラは部員達の見まねでどうにか胴着を着ると、竹刀を持ったモララーに歩み寄った・・・。
213TKY ◆knYak5AE2g :2010/07/04(日) 00:49:07 0
只今、全サーバー規制の為更新できなくなってしまいました。
ご愛読の方は大変申し訳ございません。
規制解除までお待ちください。

過去ログには入れないでください。
214ほんわか名無しさん:2010/08/01(日) 16:20:16 0
test
215ほんわか名無しさん:2010/10/20(水) 22:15:01 0
test
216ほんわか名無しさん:2010/10/20(水) 22:42:03 0
☆雑談★ 何でもあり(^_^)/ をよろしく   
217TKY ◆tMIvS8ak8E :2010/10/22(金) 21:22:18 0
皆さん、こんばんは。

さて小説の方ですが、長い間更新を停止して申し訳ありません。
ただ今、時期的に多忙で、なかなか書ききる自信がないと言うか・・・(-_-;)

でも、暇が空いたらまた更新を再開させようかなと思っていますので、よろしくお願いします。

>>1記述の通り、雑談スレにもなりますので、皆さん遊びに来て下さいね!
218 ◆6AUdwfa8u2 :2010/12/13(月) 01:37:53 O
と言う事で
一旦ageとく
219ほんわか名無しさん:2011/02/27(日) 23:13:05.68 0
と言う事で
一旦ageとくww
220ほんわか名無しさん:2011/06/09(木) 19:11:40.59 P
と言う事で(ry
221ほんわか名無しさん:2011/06/28(火) 04:50:54.92 0
そしてだれもいなくなった
おはようございます
222ほんわか名無しさん:2011/07/23(土) 00:44:35.17 O
なので222age
223TKY ◆tMIvS8ak8E :2011/07/23(土) 21:35:20.87 0
>>212の続き

「モララーさん?」「ん? おぉ、着替え終わったか・・・。」
道場の中で一番入口に近い場所へ移動していたモララーは、不意に背後から聞こえたタカラの声に思わず振り向く。
他人に邪魔されずにタカラとの一戦に付き合える場所ーー彼のその判断が、この『道場の端』という場所を選ばせたのだった。
彼が振り返って見ると、その面の格子の先で、自分が用意した胴着をしっかりと身に纏ったタカラの姿があった。
胴着姿は何処かぎこちないが、それでもサイズは自分の目分量通り。問題が無かったことに一先ずホッと胸をなで下ろすと、タカラの姿に対して一言添える。
「なかなか似合ってるじゃないか。やっぱり俺の目分量は正しかったみたいだな。」「はい。でも、なかなか動きづらくて・・・。」
「最初のうちは仕方ないさ。動いていると段々慣れる。」
そう言いながら、彼は両手にあった二本の竹刀のうち、一本をタカラへと受け渡す。
光の国でエース達と練習していた時は念力で作っていた竹刀だった為、本物を触るのはタカラにとってこれが初だ。しかし持った感覚からして、念力で作り上げたものとは対して変わらないらしい。
後はこの胴着に慣れれば良いのだが・・・
224ほんわか名無しさん:2011/09/12(月) 03:37:20.95 0
誰もいないのかああああああああああ
誰かああああああああ
225ほんわか名無しさん:2011/09/16(金) 21:11:13.64 0
よんだ?
226ほんわか名無しさん:2011/10/26(水) 21:36:57.15 O
プジョ-
227ほんわか名無しさん
407