ここは、私が「毒男の毒づくスレ 〜第26章〜」 にて書いていた小説を移転、続きを書いていくところです。
小説だけでなく、雑談をしても構いません。
初心者な上、表現に乏しく台本書きが目立つところもあるかと思いますが、どうか最後までよろしくお願いします。
皆さんのご来場、お待ちしています。
注意:
1.荒らし行為はお止めください。
2.このスレッドはsage進行です。書き込む際、メール欄に半角英数でsageと入力して下さい。
3.トリップ推奨です。やり方は自分の名前の後ろに、半角で#を入力、#の後ろに自分の好きな文字を入れて下さい。
私の常駐スレ:毒男の毒づくスレ 〜第26章〜
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/honobono/1248901083/
さて小説の方ですが、私の好きな物を合体させたので設定が滅茶苦茶になっています。
お見苦しい点があるかと思いますが、どうかご了承下さい。
組み合わせネタ:
「WALL.E/ウォーリー」
「ウルトラマンシリーズ」
「NIGHTMARE CITYシリーズ」
なお、AA小説掲示板ではWALL.Eを抜いた二作品を組み合わせた小説を連載中です。
こちらと見比べるのも面白いかもしれません。
なお本作ではウォーリーがウルトラマンになりますが、どういう経緯でそうなったのかは登場人物の欄でご紹介いたします。
3 :
ほんわか名無しさん:2009/09/19(土) 14:42:03 O
完
勝手に終わらせないで下さいw
5 :
ほんわか名無しさん:2009/09/19(土) 16:16:53 O
次回
ソウルのイ兄弟
お楽しみに
第一弾:WALL.E×ウルトラマン〜『悪夢』の復讐〜
登場人物:
ウォーリー:ゴミ処理ロボット。700年もの間、地球に溜まったゴミを片づけ続けていたが、ある日地球に飛来した光の球と遭遇する。この時に出会ったのがウルトラマンで、地球で活動するために一体化して現在に至る。
今は宇宙警備隊の隊員としての任務に赴いており、宇宙に出かけていることが多い。
イヴ:元植物探査機で、白く輝く美しい流線型の体を持つ、最新型ロボット。ウォーリーの妻。心優しい性格の持ち主。
彼女は元々宇宙船で生まれたので地球に来た当初は右も左も分からなかったが、現在は家族を支える母親の一人として頑張っている。
エル:二人の間に生まれた、10歳の女の子で小学4年生。丸みを帯びた流線型の白い体や、心優しい性格はイヴから受け継いでいる。父親から光の遺伝子を受け継いだために、ウルトラマンティガの変身能力を持つようになった。
しかし、力の消耗が早いため変身を禁じられている。
今回、彼女の力がこの物語の鍵になる・・・。
>>6の続き
ライト:ウォーリー家の長男で、まだ生まれて一ヶ月の赤ちゃん。性格や体はウォーリーから受け継いでいる。
まだ生まれたばかりだが、言葉を話せるまでに頭が発達している。
光の遺伝子は持っているものの、まだどんな力を持っているか分からない。
モララー:NIGHTMARE CITYの管理AI。かつてのDream City実験で、データ要領削減のために消された仲間たちの復讐を果たすため、実験でやってきた人間たちを殺そうとした。
しかしその復讐もギコの手によって破られ、町もろごと破壊された・・・はずだった。
今回700年ぶりに復活し、ウォーリーを抹殺しようとする。
ギコエル:ウォーリーをNIGHTMARE CITYへ引き込んだ張本人。
彼はギコの心の闇から生まれた、「影」の存在である。
ギコを抹殺し、闇が本物の存在にしようと企てる。
小説本編
人間達が宇宙から帰還して10年。
地球に覆われたゴミは殆ど無くなり、太陽の暖かい光が大地を包んでいた。ゴミだらけで荒れ果てていた地上にも、緑が蘇り始めている。
そんな地球の、先が崩れた高速道路の黄色いトレーラートラックでは、今日も子供達の元気な声が聞こえる。
「お姉ちゃん、これなに?」
「あぁっ!ダメよライト、そんな事をしちゃっ!」
トレーラーの中で騒ぐのはエルと、弟のライト。二人ともウォーリーとイヴの間に生まれた子供だ。
「二人とも止めなさい。そんなに騒いで、どうしたの?」
「お母さん、ライトが・・・。」
二人を宥めたのは、母親であるイヴ。彼女は地球に来てからウォーリーと結婚し、二人の子供までできていたのだ。
エルの話によると、ライトはルービックキューブを見つけて遊ぼうとしたもののやり方が分からず、壁に投げていたのだそうだ。
「やり方が分からなかったのね・・・。でも分からなくても、絶対投げたりしたら駄目よ。壊れちゃうから。分かった?」
「うん・・・ごめんなさい。」
ライトは俯いた。怒られて少し落ち込んでしまったようだ。
「フフフ・・・分かればいいのよ!」
イヴは笑顔でライトの頭を優しく撫でた。
その頃、家の近くにある小高い丘に、太陽のように赤く強い光が一筋降りてきた。
その光はやがて消え去り、中から現れたのは、黄色くて錆び付いた一体のロボットだった。四角い胴体に、双眼鏡のような頭が付いている・・・。
彼がこの物語の主人公、ウォーリーである。彼はウルトラマンとしての任務で宇宙に行っていたが、一ヶ月ぶりに地球へ戻ってきたのだ。
(みんな、元気にしていたかな・・・。)
彼は家族のことが気がかりだった。自分がいない間、何かあったのか心配していたのだ。
ウォーリーはベーターカプセルを胸のパネルの中にしまい、家に向かって駆けだす。一刻も早く家族の元気な顔を見たい一心で、彼は最大スピードで走っていた。
並木通りを猛スピードで駆け抜けていく。その時、いきなり目の前に光の球が現れた。
「うわぁっ!?」
走るのに夢中になっていた彼は光と衝突しそうになったが、間一髪のところで止まった。
急停止してまえのめりに転けたウォーリーは、光の球があった先に一枚のディスクが落ちていることに気付く。
ディスクは綺麗にケースに入れられていたが、名前などが全く入っていない・・・。
この一枚のディスクが、後にある事件を引き起こす・・・。
10 :
SAT:2009/09/20(日) 07:57:20 0
とりあえず、今までのを全部コピペしたらどうだ?
それから続き書けば良いのでは?
11 :
ほんわか名無しさん:2009/09/20(日) 13:16:32 O
そして時は流れ昨日、起動戦艦ナデシコが佐世保港に入港した
>>9の続き
ウォーリーはこのディスクがなんなのかを調べるために家に持ち帰ることにした。
家に着くと早速子供達が駆け寄ってきた。
「お父さん!お帰りなさい!!」「パパ!」「ただいま!元気にしてたかい?」
ウォーリーは子供達を抱きしめ、優しく頭をなでた。久しぶりの父親の温もりに、
子供達も大喜びだ。子供達と戯れていると、奥からイヴが出てきた。
「ウォーリー、お帰りなさい!」「イヴ・・・!」
イヴとウォーリーは抱き合い、お互いの無事を確認する。
「無事だったのね・・・良かった・・・。」
こんなにイヴが心配するのも、ウォーリーが過去に火山怪鳥バードンの毒をくらい
瀕死になったことがあるからだ。ウォーリーは早速本題に入った。
「イヴ、このディスクを君にスキャンしてもらいたいんだけど・・・。」「これは・・・どうしたの?」
「地球に着いて、帰っている途中で見つけたんだ。」「分かったわ。任せて!」
ウォーリーは彼女にディスクを受け渡す。イヴは早速スキャンをしようとした・・・。ところが・・・スキャンをしようとした瞬間、彼女に異変が起きた。
「!!・・・何これ・・・。力が・・・抜けて・・・。」「イヴ!!!」
イヴはそのまま床に倒れこんでしまった・・・。慌ててウォーリーが駆け寄る。
「どうしたんだイヴ!!しっかり・・・うっ・・・。」
しかし、ウォーリーも彼女同様倒れこんでしまった・・・。
「何だ・・・?力が入らない・・・気が・・・遠くなって・・・。」
ウォーリーの視界は、暗闇に落ちていった・・・。
両親の異変に気づいたエルとライトは、急いで駆け寄り呼びかける。
「お母さん!?どうしちゃったの??起きて!!!」「パパ?・・・パパ!起きてよ!!!」
呼びかけても起きない二人・・・完全に意識不明に陥っているようだ・・・。エルは、イヴの手元のディスクに気が付く。
「なにこれ・・・。・・・!!」
ディスクケースを見て、彼女は驚いた・・・。今まで何も書いていなかったケースに・・・
「NIGHTMARE CITY」と書いてあったのだ・・・。
エルは感づいた・・・両親の意識は、何者かによってこのディスクに閉じ込められたのだと・・・。
「私の予想が当たっていれば・・・お母さん達が・・・危ない・・・!!」
どれだけ時間が経ったのだろうか・・・。ウォーリーは自分の家ではないとある場所で目が覚めた。ビルの谷間の道路上・・・見覚えがない景色だ。
さらに、ビルのガラスに写った自分の姿を見て驚いた。いつもの「四角い箱に双眼鏡」ではなく、「黄色い猫」 ーギコー の姿になっていたからだ。
「な・・・なんだこの体・・・。」
彼が驚いていると、隣に光が輝いた。強烈に照りつける光は、後にウォーリーと似た猫の姿になって道路上に降りた。ウォーリーよりも一回りほど小さい。
光の正体は桃色の猫 ーしぃー だった。彼女は道路に仰向けに倒れていて、意識がないようだ。ウォーリーは彼女を救助しようと体を起こす。
「大丈夫ですか?しっかりして下さい!」
彼は彼女に声をかける。すると・・・彼女は薄い声でこう言った・・・。
「ぅ・・・うぉ・・・ウォー・・・リー・・・」
「・・・!!!!」
彼はその声に聞き覚えがあった。というよりも、確信があった。忘れるはずもない、この甘くて優しい「彼女の声」を・・・。
「ィ・・・イヴ!!!!」
桃色の猫 ーしぃー の正体は・・・ウォーリーの掛け替えのない家族、「イヴ」だったのだ。
ウォーリーはとりあえず近くのビルに駆け込み、ソファーにイヴを寝かした。彼女は一回声を発したものの、まだ意識が回復していない状態だ。
一方こっちはウォーリー宅。
「お姉ちゃん・・・どうしたの?」
ライトがエルに声をかけた。
「・・・ライト・・・大変よ・・・パパとママが、これの中に入っちゃった・・・。」
「え?パパとママなら布団にいるけど?」
「違う・・・説明するのは難しいんだけど・・・。」
エルはライトに分かるように、二人の意識だけこのディスクに入ってしまったことを教えた。そして、戻ってこれるか分からないことも・・・。
「嫌だ!パパとママが戻れないなんて嫌だよ!!」
「私も同じよ・・・でも、きっと帰ってくるから・・・だから、お姉ちゃんともう少し待ってみよう・・・ね?」
エルは泣き叫ぶライトを一生懸命説得した。NIGHTMARE CITYに引き込まれた、二人が帰ってくるように祈りながら・・・。
(・・・お父さん、お母さん・・・絶対帰ってきて・・・お願い・・・神様・・・。)
この時、みんなは気付いていなかった。この物語の最期に、ウォーリーに待ち受ける運命を・・・。
一時間後・・・イヴ(しぃ)はゆっくりと目を開けた。
「イヴ・・・!」
ふと、聞き覚えのある声が隣から聞こえた。彼女がゆっくり振り向いてみると・・・黄色い猫が側にいた。
(イヴ)「あなたは・・・誰・・・ですか?」(黄色い猫)「声で・・・わからないかい・・・?」(イヴ)「声・・・!!・・・まさか・・・」
イヴはようやく思い出した。いくら見た目が違えど、中身は変わらない。
「ウォーリー!!」
イヴは彼に抱きついた。ずっと側にいてくれたウォーリーのことを他人よばわりしたなんて・・・彼女は恥ずかしくなった。
彼の体の温もりはロボットだった時と同じか、それ以上に暖かく、逞しい心臓の音が胸の中で響いていた。今や彼らは「ロボット」ではなく、「人間」と同じだ。
「ごめんなさい・・・私ったら、あなたのことを・・・。」
「だ、大丈夫だよ。気にしてないよ!」
ウォーリーは、顔を赤らめて話を続けた。
「イヴ・・・一つ大事なことがあるんだ。この世界のことなんだけど・・・ちょっとつらい話になるよ。」
「・・・うん。」
ウォーリーは、彼女が眠っている間にわかったことを言い始めた・・・。
彼は分かったことをすべて話した。NIGHTMARE CITYのこと。この仮想空間に自分達だけ迷い込んだこと。敵対する管理AIの存在。そして・・・自分達の「過去」を。
「僕らには、前世とも言える存在がいたんだ。」
「えっ?私達の・・・前世?」
彼は頷く。そして、過去の自分達のことを話した。
「僕の過去は、擬古河直人っていう一人の人間だったんだ。さっき説明したDream City計画のテスターの一人で、この世界で僕と同じギコの姿になっていたんだ。つまり、僕は彼の生まれ変わりだったんだ。」
「・・・私は?」
「彼は後にこの事件に巻き込まれて、管理AIから逃れるため裏路地に逃げ込んだ・・・そこで出会ったのが、君の前世・・・。」
ここでウォーリーは言葉を詰まらせてしまった。
「・・・どうしたの?私の前世は・・・誰なの?・・・はっきり言ってよ!!」
「言いたくないけど・・・分かった。ただ・・・すごく辛い話だから・・・覚悟して聞いてね。」
「うん・・・。」
「君の前世は・・・No.000 コード:C・・・つまり・・・君の前世は・・・管理AIなんだ・・・。」
「え・・・っ?」
管理AI・・・それは仮想空間Dream Cityの壊れたプログラムを修復したり、試験的にやってきた人間の住民達 ー テスター ーの案内をする存在だった・・・。
しかし・・・管理AIの中の一人「モララー」がDream Cityで反乱を起こし、町を真紅の液体と血の臭いで染めていったのだ。警察はその惨劇から、この事件を「悪夢の町 ーNIGHTMARE CITYー」殺人事件と呼ぶようになった。
仮想空間に送り込まれた人間120名のうち110名が犠牲になった。その管理AIの一人、No.000 コード.「C」がイヴの前世だったのだ。
「私が・・・管理AI・・・。」
イヴは顔が血が抜けたように青白くなっていた。この自分が人を殺していたなんて・・・考えたくもない話だ。
(ウォーリー)「・・・大丈夫かい?・・・顔色がすごく悪いけど・・・。」(イヴ)「だ・・・大丈夫・・・続けて。」
彼は少し躊躇った後、話を続ける。
「・・・裏路地で出会った僕らは現実世界に戻ろうと一緒に逃げていたんだ。モララーと戦いながら。君を守ることも約束していたんだ。でも・・・。」
この後、衝撃的な事実があかされる・・・。
(イヴ)「でもって・・・もしかして・・・。」
ウォーリーは黙って頷く。
(ウォーリー)「僕はモララーに勝ち、この世界を完全に破壊した。でも、一つだけ約束を守れなかったんだ・・・。君はモララーとの戦いのさなか、僕をかばって・・・死んでしまった・・・。君はデーターとして・・・消えてしまったんだ。」
(イヴ)「えっ!?」
ウォーリーは俯きながら話を続けた・・・。
(ウォーリー)「あの時、僕は・・・いや・・・『俺』は、君に守られたんだ。君の力のお陰でモララーに勝ち、この世界を破壊できた。なのに・・・俺は君を守ることができなかった・・・。」
ウォーリーの足元に滴が落ちた。今や、彼はウォーリーではなく、ギコになっていた。俯いているギコに、イヴが声をかけた。
(イヴ)「ウォーリー・・・いいえ、『ギコ君』・・・あなたは、十分私のことを守ってくれたじゃない。悪くないよ・・・。私の暗い心を救ってくれたのは、ギコ君なんだよ・・・?」
彼女もイヴではなく、あの時のしぃと同じになっていた。
(しぃ)「ギコ君は・・・私のヒーローなんだから・・・。自分を攻めるの、やめて・・・お願い!」
ウォーリ(ギコ)を説得するイヴ(しぃ)の目にも涙があった。これ以上、彼には後悔してほしくなかったからだ。
(ギコ)「『しぃ』・・・。」
(また前のように、後悔はしたくない・・・。今度は絶対、守り通すんだ・・・!!)
次の瞬間、ギコの手が透き通った水色に輝きだした。
(ギコ・・・久しぶりだな。)(ギコ)「・・・サザンクロス!?」
(思い出したな。よく聞いてくれ。今、この世界には君たち以外に管理AIが二人いる。一人はモララー。もう一人は、ギコエルと言う奴だ。)
(ギコ)「・・・ギコ・・・エル?」
(ああ・・・背中に羽が生えているが、見た目はお前とそっくりそのままだ。つまり・・・)
(しぃ)「もう一人のギコ君・・・ということ?」
(そうだ。この二人を倒さない限り、この世界から出れない。それにモララーはおろか、ギコエルはお前以上に強い。私の力でも分からないくらいだ。)
ギコは一瞬驚いた。しかし、彼は希望に満ちた目でこう言った。
(ギコ)「大丈夫。今度こそ守り抜いてみせる。たとえどんな運命になろうと、俺は抗い続ける。諦めない限り、運命は変えられるって信じてるから・・・そうだろ?サザンクロス!!」
ギコの目は、希望という光で満たされていた。それはまるで月のような、淡く透き通った色だった。
(覚悟はできてるようだな・・・。)
(ギコ)「俺は、しぃを守り抜くことができなかった・・・だから二度と後悔したくないんだ。『南十時星の戦士』・・・しぃの『ナイト』だから・・・。」
(しぃ)「ギ・・・ギコ君・・・。」
しぃは顔を赤らめた。
(分かった。力を使え。ただし後悔するなよ。運命は自分たちで創るものなんだからな。)
次の瞬間、光は剣の形をとってギコの手に収まった。まるで海の如く汚れのない蒼で、正義を象徴するかのように透き通っている。かつて、ギコと共に戦った剣ー アクア・ジャスティス ーが、ギコの手に戻ったのだ。
(ギコ)「しぃ・・・今度は君を殺させない。一緒に戻ろう。エルたちの待つ、現実世界へ。」
(しぃ)「うん・・・約束だよ。私も、ギコ君のこと悲しませたくないもん。」
二人はそう誓い合うと、ソファで休むことにした。時刻はもう午後11時だ。
(しぃ)(エル・・・ライト・・・待っていてちょうだい・・・もうすぐ帰るから。)
しぃは、現実世界にいる二人の子供のことを思いながら、眠りについた・・・。
その夜、ギコ(ウォーリー)は夢にうなされていた。
夢の中で彼は、NIGHTMARE CITYの一角にいた。空には人工で作られた完璧なまでの星空が輝いている。そこでみたのは・・・二人の人影だった。月の光に照らされて、その正体が分かった。
(ギコ)(!!俺と・・・しぃだ・・・。)
ギコの手にはアクア・ジャスティス・・・ではなく、光輝く別の物が握られていた。蒼く輝く光の刃・・・見覚えのない物だ。
(ギコ)(なんだあれは・・・。)
その時、蒼剣を持ったギコが走り始めた。目の前にいる敵に向かっていったのだろう。敵は誰なのかは影で分かりにくかったが、特徴的な羽で正体が分かった。
(ギコ)(ギコエル・・・!)
ギコエルとギコは空に舞い上がった。そして・・・お互いに光球を放った。ギコエルは黒、ギコは蒼の玉だ。
(ギコ)(まさかあの技は・・・フォトンスクリューか!?)
その技にギコは見覚えがあった。かつて地球を侵略者から守り抜いた、青い海の光の戦士『ウルトラマンアグル』の必殺技と同じだったからだ。光の玉同士が衝突し、大きな爆発が起きた。
(ギコ)(勝ったのか?)
しかし地面に落ちていたのは・・・ギコだった。
道路に倒れたギコはぴくりとも動かない・・・傷口から真紅の血が大量に流れていた。
(ギコ)(おい!起きろ!!二度と後悔しないって言っていただろ!!)
夢の中のギコは必死で声をかけるが、起きようとしない。夢の中にいるのだから、声をかけても無理なのは当たり前だ。しかし、それでもギコは声をかけ続けていた。
(しぃ)「ギコ・・・君・・・ぃゃ・・・いやぁぁーーーっ!!」
後ろでしぃが泣き叫んでいた・・・っとその時、しぃの動きがぴたりと止まり、道路に倒れ込んだ。しぃの後ろには・・・黒い刃を持ったギコエルがいた。ギコエルはギコに向かって話しかけ始めた。
(ギコエル)(これがお前の運命だ。君は所詮、運命には逆らえないんだよ。この運命に従って、死ね。)
(ギコ)(!・・・何だと!!・・・そんなことは絶対にさせるか!)
ふいに周りの景色が、ギコエルが消えていく・・・。
(ギコ)(待て!話はまだ終わってないぞ!!・・・ギコエルーーーッ!!)
目が覚めて、ギコはソファからとび起きた。体からは夥しいほどの寝汗が吹き出ていた。外にはもう朝日が出始めている。
(ギコ)(なんだ今の夢は・・・あれが・・・運命なのか・・・?)
朝、ギコ達はある場所に向かって歩いていた。
彼らの記憶が正しければ、NIGHTMARE CITYの南側には、ログアウトポイントが有るはずなのだ。以前のようにログアウトができるなら、この世界から脱出するのはそんなに難しいことではない。
しかしギコはなぜか疑問を感じていた。この世界から脱出するには、二人のAIを倒さなくてはいけないはず。だとすれば、こんなに簡単にログアウトできてしまうのは虫が良すぎるのではないかと・・・。
それに今日はギコの体調が優れていない。原因は他でもなく昨晩のあの夢だろう。
(しぃ)「ギコ君・・・大丈夫?顔色が悪いよ・・・。」
しぃは顔色の悪いギコを心配して声をかけた。しかしギコは上の空だった。
(しぃ)「ギコ君?・・・ギコ君ってば!!」
(ギコ)「!・・・ああ、ごめん。俺は大丈夫。」
(しぃ)「・・・昨日何かあったの?」
(ギコ)「いや・・・ちょっと変な夢をみただけさ。」
(しぃ)「それだけならいいんだけど・・・。」
ギコはしぃが心配しないように、何とかごまかした。昨日のことを話すのは、今の状況では無理だった。
二人は歩き続ける。家族のために、そして未来に生きるために。
数十分後、ギコはある大きな橋まで来ていた。ここはかつて、モララーとギコが初めて戦った場所であり、ギコが新しい力に目覚めたところでもある。橋の所に着いた瞬間、ギコは殺気を感じた・・・。
(ギコ)「・・・しぃ・・・下がって!」
(しぃ)「えっ・・・」
次の瞬間、ギコは上から落ちてきた『それ』にドロップキックを入れた。まるで、初代ウルトラマンのようなかけ声を発しながら。
(ギコ)「ダァッ!!○(%)。」
青い物体はそのまま吹き飛ばされ、コンクリートに着地した。砂煙の中、姿を表したのは・・・暗黒を強調するかのような淀んだ青い体をしたAAだった。
(ギコ)「あの時と同じか・・・同じ手には乗らないぞ・・・モララー!」
(モララー)「俺はこの瞬間をずっと待っていた・・・。復習の時を・・・お前等を殺す、この瞬間をな!」
モララーの手には赤く光る太刀があった。ギコの手にもいつの間にかアクア・ジャスティスが握られていた。赤と蒼の二つの波動が、橋の上を染めていく・・・。
(モララー)「・・・決着を付けるぞ。」
(ギコ)「望むところだ!!」
今、蒼と赤の死闘が始まる・・・。
赤と蒼の戦士は同時に駆けだした。橋の中央で、刀同士が当たり合う甲高い音が響きわたる。
(ギコ)「今度は絶対、しぃを殺させない・・・!」
(モララー)「それはどうかな。」
次の瞬間、二人は轟音と共に空へと舞い上がる。人間離れした早さで移動し切り合っているため、人の目には何処にいるのか分からない。
(しぃ)(ギコ君・・・何処?)
ギコは橋げたの上でモララーとにらみ合っていた。剣術はほぼ互角と言えるほど腕をあげたが、疲労度はギコが多かった。元々体調が悪かったせいか、スピードも大幅に落ちている。
一方のモララーは、全く疲れが見られない。
(モララー)「少しはやるようになったな。だが、ここまでだ!!」
(ギコ)「くっ・・・!まだまだ!!」
橋桁の上で同時に切りかかる二人。しかし、ここで信じられないことが起きた。横切りを行った瞬間、ギコの刀が全っ二つに折れたのだ。
(ギコ)「なに・・・!?」
(モララー)「地獄に・・・落ちろ。」
モララーは振り返ったギコの腹に向かって思いっきり後ろ蹴りを放った。
(ギコ)「うわぁぁーーーっ!!」
ギコは水しぶきをたてて海に落ちた
(しぃ)「いやぁっ!ギコ君ーー!!」
しぃはコンクリートに座り込み、泣き出した・・・。しかしその背後には・・・刀を構えたモララーがいた。
(モララー)「次はお前の番だ・・・死ねぇ!!」
刀を振りかざすモララー。ところが・・・しぃはそれを避けてモララーのわき腹に蹴りを入れた。
(モララー)「ぐおっ!?」
(しぃ)「私が女だからって・・・バカにしないでよね。」
しぃの手にはいつの間にかルナ・アローがあった。
(しぃ)「『アローレイ・シュトローム』」
しぃの放った矢は、モララーの刀を弾いた。
(しぃ)(ギコ君・・・頑張って・・・。私、あなたが生きてるって信じているから・・・。)
ギコは深くて暗い、闇に向かってゆっくり落ち続けていた。
(ギコ)(こんな所で・・・死んでたまるか!急がなくては・・・でも・・・力が・・・入らない・・・。)
その時だった。ギコの体を、緑色の柔らかい光が包み込んだのは・・・。
(ウォーリー)「こ・・・ここ・・・は?」
目に入ったのは、緑色に輝く空間だった。姿がいつの間にかウォーリーに戻っている。キョロキョロしていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
(謎の声)「ここは私が作った光の空間だよ。」
聞き慣れた声に振り向くと、そこには・・・。
(ウォーリー)「エル!?」
(エル)「お父さん!!」
ウォーリーは我が子を強く抱きしめた。エルは泣いていた。両親が倒れている間、一人でこの空間を作り上げていたのだ。スパークレンスの光を使って・・・。
(エル)「お父さんにやっと会えた・・・。ずっと・・・待ってたんだよ?」
(ウォーリー)「ごめんね・・・。二人だけで辛かったろう・・・?心配かけたね・・・。」
ウォーリーは改めて聞いた。
(ウォーリー)「でも・・・どうしてこの空間を?」
(エル)「お父さんにお願いがあるの・・・。」
そう言って彼女が差し出したのは、ベーターカプセルだった。エルは管理AIに対抗できるように、ウルトラマンの力をウォーリーに渡しに来たのだ。彼は快く受け取った。
(ウォーリー)「ありがとう。これでまた、戦うことができる・・・。」
ところが彼がそれを握った瞬間、ベーターカプセルは金色の輝きとともに形を変え始めた。・・・光が収まったその手には・・・スパークレンスがあった。
(エル)「お父さんお願い・・・私の力を使って!」
(ウォーリー)「・・・えっ!?」
(ウォーリー)「なんで・・・君の力だろう?お父さんには使えないはず・・・。」
(エル)「お父さんの力だけじゃ、通用しないと思ったの・・・。」
(ウォーリー)「一人でも大丈夫さ・・・。」
ウォーリーは何としてでも一人で戦おうとしていた。自分の愛するものを、危険に晒したくはなかったのだ。しかしそんなプライドも、次のエルの言葉で打ち砕かれた。
(エル)「じゃあ聞くけど、何でお父さんは海に落ちてきたの?」
(ウォーリー)「う・・・。」
(エル)「それは一人で戦って、お父さんが負けたからじゃないの・・・?」
(ウォーリー)「・・・。」
恐ろしく的確な言葉に返す言葉がなかった。暫くの沈黙の後、エルが言った。
(エル)「お父さん・・・一人で抱え込まないで。家族はみんなで一つなんだよ?それに、お父さんは私の力が使えるはずだよ。だって私はお父さんの子なんだから・・・。」
(ウォーリー)「エル・・・本当にありがとう。お父さん、大切なことを忘れるところだった。大事に使うからね。」
(エル)「必ず勝ってきてね・・・私達お家で、お父さんがお母さんと一緒に帰ってくるの、待ってるからね。」
彼は頷いた。顔に優しい笑顔を浮かべて。
(エル)「あと、それともう一つ。」
(ウォーリー)「ん?」
エルはウォーリーに近寄ると、彼の双眼鏡の顔側面に額を寄せた。ロボット流のキスだ。エルは赤い顔でクスッと笑った後、こう言った。
(エル)「私とお父さん以外の人の技も使えるからね!・・・頑張って!!」
(ウォーリー)「ああ・・・!」
ウォーリーはスパークレンスを高く掲げ、変身した。
(ウォーリー&ギコ)「ティガァァァァァァァッ!!!」
その頃地上では・・・
(モララー)「武器を弾き飛ばしただけで、勝てると思ったか・・・?考えが甘かったようだな。」
(しぃ)「うっ・・・ううっ・・・かはっ・・・。」
しぃがモララーに首を掴まれていた。モララーは冷たい笑みを浮かべながらしぃを見ている。彼はさらに握る手に力を込めた。
(しぃ)「く・・・苦し・・・い・・・あっ・・・!」
(モララー)「そうだろうなァ・・・今は苦しいが、もうすぐ楽にしてやるよ・・・。」
(しぃ)(ギコ・・・君・・・。た・・・助け・・・て。)
その時、モララーの後頭部に強烈な蹴りが入った。モララーは勢いよく吹き飛ばされ、しぃは解放された。
しぃの目の前に降り立ったのは・・・。
(しぃ)(・・・誰なの?)
路上に倒れかけてるしぃの目の前には、金色に輝く人間がいた。身長は2メートル程といったところだ。
(モララー)「クソ・・・俺の邪魔をするなァ!」
モララーは赤い剣を人間に向けて投げた。相当なスピードがでており、避けきることも難しいほどだ。が、しかし・・・
金色の人間は、シールド技でその剣を弾き返したのだ。
(モララー)「なに!?」
人間の光が徐々に収まり、光の中の正体が少しずつ明確になっていく・・・。人間はしぃの前でしゃがみこんだ。
(人間)「しぃ・・・ごめん。また君を危険な目に合わせちゃったね。」
(しぃ)「・・・ギコ・・・君・・・?」
しぃは閉じかけていた目をゆっくり開けた。すると、そこにいたのは・・・
(しぃ)「ギコ君・・・その体、もしかして・・・。」
しぃは驚いた・・・なぜなら、この世界にいるはずのない光の巨人『ウルトラマンティガ』が目の前にいるのだから。勿論、この世界の住民であるモララーはこの巨人の存在など知るわけがない。
(ティガ)「俺がいない間、よく耐えてくれたね・・・ありがとう。すぐ終わるから、ちょっと待っててくれ。」
(しぃ)「うん・・・!」
しぃは笑顔で泣いていた。ギコが生きてくれていたことがなにより嬉しかったからだ。
(ティガ)「決着・・・付けようか。」
(モララー)「何度やっても・・・同じ事だ。」
モララーは先ほどと同じように、ものすごいスピードでティガに迫っていく。しかしティガは一向に動こうとしない。
ティガの10メートル程手前で、モララーはジャンプした。彼の身体能力からして、もう十分射程距離に入っている。モララーはタイミングを合わせ、ティガの顔面に向けて剣を横に振りかぶる。が、しかし・・・
(ティガ)「『ハンドスラッシュ』」
ティガは一瞬の隙をみて、ハンドスラッシュと呼ばれる手裏剣状の光弾を彼の剣に命中させた。不足の事態に、剣は弾かれた。
(モララー)「なッ!?」
ティガは続けて、ウルトラマンアグルの必殺技である青い光球「リキデイター」をモララーの腹に当てた。
(モララー)「ぐはっ!!」
モララーは強い衝撃に負けて、遠くに吹き飛ばされる。さらにティガは、空中のモララーに向かってウルトラセブンの光線技「エメリウム光線A」を発射した。エメリウム光線は正確にモララーの右肩を貫いた・・・。
次回、ティガの本気モード、突入・・・!
モララーは50メートル程吹き飛ばされ、受け身を取ることなく地面に叩きつけられた。
(ティガ)「さっきまでの威勢はどうした、モララー?」
ティガをよく見ると体の周りに赤いオーラが・・・。このオーラは、ティガが激怒している何よりの証拠だった。愛する者を傷つけたられたことで、ティガの怒りは頂点に達していたのだ。
(モララー)「ぐっ・・・!地上がダメなら、空中戦だ!!」
モララーは刀を左手に持ち換え、太陽が高く上った正午の空へと跳躍した。その光景を見たティガは、先ほどまでのマルチタイプから、青い体のスカイタイプにチェンジし、モララーを追いかけた。
モララーはその光景を見て嘲笑した。
(モララー)「色が変わっただけだろ!そんなものは通用し・・・」(ティガ)「通用するさ。」
モララーは驚いた。つい数秒前に地上にいたはずのティガが、背後に来ていたのだ。ティガのスカイタイプは、パワーが落ちる代わりに移動速度が格段に速くなるため、主に空中戦に使用されるのだ。
(飛行速度がマルチタイプのマッハ5からマッハ7になる。)
ティガはモララーに向けて、スカイタイプの必殺技であるランバルト光弾を放つ。が、しかし・・・。
なんとモララーは振り返り、ランバルト光弾を剣で切り返したのだ。
(モララー)「同じ手段にのるほど、俺は馬鹿じゃない。」
(ティガ)「それはどうかな?」
実はこれもティガは計算済みだった。ティガは切り返しで隙ができたモララーに、ティガは凍結光線ティガフリーザーを浴びせた。
(ティガ)「隙あり。」(モララー)「!!」
モララーは見事に剣ごと氷付けにさせられた。次にティガは赤い体のパワータイプにチェンジした。パワータイプは移動能力より攻撃力を重視したもので、力量があるものや重量のある敵に使われる。
(握力がマルチタイプの50000トンに対して70000トン)
ティガは空中で制止しているモララーに向かって、ウルトラマンレオの必殺技「レオキック」を放つ。
(ティガ)「イ゛ェ゛ヤァッ!!!」
モララーはドガァッという轟音と共に思いっきり吹き飛ばされ、橋の脚柱の頂上に叩きつけられた。その衝撃で氷は粉々になり、モララーは大きなダメージを受けた。
(モララー)「がはっ!」
(ティガ)「俺の事を、見くびりすぎたな。」
(モララー)(・・・強すぎる・・・こいつ・・・本当にギコなのか・・・?)
モララーはゆっくりと刀を構え直す・・・。ティガも相手の行動を伺いながら制止していた。二人の間には、沈黙と海風だけ・・・。
暫くにらみ合いを続けた後、突然、モララーが剣を横に構えて走り込んできた。
ティガは動いておらず、体勢を低くした。
ギィンッ!!
甲高い音と共に切られたのは・・・モララーの刀だった。実は、ティガは切られる直前に、青い光の剣「アグルセイバー」を発動し、モララーの刀をまっ二つに切り裂いていたのだ。丁度、モララーがギコの刀にやった事と同じように。
モララーはついに手持ちの武器が無くなってしまった。
(モララー)「ッ!?」
次の瞬間、モララーはティガに持ち上げられていた。
(モララー)「な、何を・・・」(ティガ)「『ウルトラハリケーン』!!」
マルチタイプに戻ったティガはモララーを天高く投げあげ、空中のモララーに向かってゼペリオン光線を放った。
(ティガ)「チャッ!!」(モララー)「うわぁぁぁぁっ!!!」
成す術のないモララーは、技をまともに食らってしまった。
大きな爆発の後、空から人形のように落ちてきたモララーは、そのまま道路に轟音と共に叩きつけられた。
ティガが地上に降り立った時には、モララーはもうデータの崩壊が始まっていた。
(モララー)「お前・・・なかなかやるじゃねぇか・・・。」
(ティガ)「この力があったお陰で、お前に勝てたようなものだ。」
(モララー)「お前の・・・その力の原動力は一体・・・。」
(ティガ)「家族だ。俺には昔と違って家庭がある。妻のイヴ、子供のエルとライト。そして親友のモー。このみんなの暖かさが、俺を支えてくれているんだ。」
(モララー)「そうか・・・。家族か。」
ティガはカラータイマーが鳴り始めていたが、それでも話し続けていた。
(ティガ)「管理AIのお前にもいたのか?」
(モララー)「ああ・・・恋人がいた・・・。とても気さくで、可愛らしい彼女だった。しかし・・・人間の身勝手な判断で、俺の彼女は苦しみながらデリートされた・・・。」(ティガ)「・・・。」
(モララー)「それからなんだ・・・。俺が人間を恨んで、あの事件を起こしたのは・・・。」
(ティガ)「そうだったのか・・・。」
ティガはそれを聞いて、なぜか自分が恨めしくなった。NIGHTMARE CITY事件は、「一人の男の悲しみ」から生まれた物だったのだ・・・。
(モララー)「・・・でも、お前にやられた後、何故かすっきりした。むしろ望んでいたことかもしれない。」
(ティガ)「モララー・・・。」
(モララー)「これでやっと・・・彼女の所にいける・・・。」
次の瞬間、モララーはティガに対して驚くべき言葉をかける。
(モララー)「ギコ・・・俺を苦しみから救ってくれて、ありがとう・・・。本当に感謝している・・・。」
(ティガ)「え・・・?」
(モララー)「あいつを・・・しぃを、絶対守り通せよ・・・。お前は・・・あいつのナイトなんだろ?」
(ティガ)「何故そんなことを・・・。」
(モララー)「俺もお前と同じように・・・ナイトだったから・・・。」
ティガはいつの間にか涙を流していた。モララーもギコと同じ、血の通った男というのが分かったからだ。
(モララー)「最後に・・・一つ聞いていいか・・・?」
(ティガ)「なんだ?」
(モララー)「今のお前の姿・・・名前はなんて言うんだ・・・?」
(ティガ)「・・・『ウルトラマンティガ』だ・・・。」
モララーは納得した表情をしたあと、光となって消えていった・・・。
(ティガ)「モララー・・・安らかに眠れ・・・。」
ティガは変身を解除し、ギコに戻った。ギコは道路に倒れているしぃの元へ走った。
(ギコ)「しぃ、大丈夫か?・・・しぃ!」(しぃ)「んっ・・・。!!ギコ君っ!!」
しぃはギコに抱きついた。顔には満面の笑みと、嬉涙があった。
(しぃ)「・・・ギコ君・・・終わったんだね?」(ギコ)「ああ。何処も怪我はしていないのか?」
(しぃ)「うん、大丈夫。」(ギコ)「・・・よかった。」
ホッとしているのも束の間。時間はもう夕方で、日が落ち始めていたのだ。ギコは休憩を入れた後、ログアウトポイントへ向かおうと立ち上がる。
(ギコ)「遅くならないうちに、ログアウトポイントに向かおう。」(しぃ)「ギコ君・・・ちょっと待って。」
(ギコ)「どうした?」(しぃ)「私、ちょっと・・・やりたいことがあるの・・・。」
しぃは一歩ずつ、ギコにゆっくり近づく。そして・・・彼の唇と自分の唇を合わせた。ロボット流ではない、この世界でしかできない「本物のキス」だった。
キスの後の二人は、顔がまるで火のように熱く真っ赤になっていた。
(しぃ)「これが人間のキス・・・何だね・・・。」(ギコ)「あ、あぁ・・・そうだな・・・。」
(しぃ)「ありがとう・・・私のわがままを聞いてくれて・・・。」(ギコ)「ちょっと・・・嬉しかった。」
二人はしばらく見つめあったあと、再びログアウトポイントへ向けて歩き始めた。が、しかし・・・ギコの足元がどうもふらついていた。
(ギコ)(うっ・・・目眩が・・・景色が歪んで・・・。)
体調の悪さが、ここに来てついに響いてきたようである。ギコは苦しそうに呼吸をしていた。
(しぃ)「ギコ君、大丈夫?なんか無理してない?」(ギコ)「ハァ・・・ハァ・・・き・・気にするな・・・大丈・・・夫・・・。」
次の瞬間、ギコは力が抜けたように道路に倒れてしまった。
(しぃ)「ギコ君!?」(ギコ)(しまった・・・無理が祟った・・・か・・・。)
倒れた途端、ギコの意識は暗闇に落ちていった。ギコは風邪を引いていた。しかし、しぃに心配をかけまいとずっと隠していたのだ。
(ギコ)(ハハ・・・こんな所で倒れるなんて・・・かっこ悪いなァ・・・。)
ギコは体を起こそうとするが、体が動こうとしなかった。
(ギコ)(くそ・・・やっぱり駄目か・・・。)
ギコの意識もそのまま深い眠りに落ち、暫く目を覚ますことはなかった・・・。
しぃは原因不明な熱に侵されているギコを近くの広場へ運び込んだ。丸いベンチの真ん中に、大きくそびえ立つ巨木・・・そこはかつて、ギコとモララーが未来を賭けての決戦が行われた場所で、同時にしぃが殺された場所でもあった。
しぃはベンチにギコを寝かし、隣に自分も座ってギコの面倒を看ることにした。
(しぃ)「ギコ君・・・なんで?無理だと分かってたのに・・・何で私に言ってくれなかったの・・・?」
しぃの足元に涙が一滴落ちた。
(しぃ)「ギコ君は・・・一人じゃないんだよ?私達が付いてるんだから・・・もう、一人で戦おうとしないで・・・!」
しぃはギコの手を握った・・・。すると・・・
(ギコ)「うぅ・・・。しぃ・・・ちゃんと・・・聞こえてるよ。」(しぃ)「ギコ君!気がついたのね?良かった・・・。」
(ギコ)「あぁ・・・ありがとう。だいぶ楽になったよ。」
ギコはしぃの手を握りながら、さっきの質問に答えた。
(ギコ)「皆が、俺を助けようとし、一緒に戦ってくれるのは嬉しい。でも、俺はそれで皆に死んでほしくない。君にはまだ・・・。」
その時、目の前の道路にギコそっくりの人影があった。ただし、その背中にある羽以外は・・・。
(しぃ)「ギコエル・・・!」(ギコ)「俺の・・・影・・・。」
そう・・・ギコエルの正体は、ギコの影から作り出したもので、能力も殆ど同じ。つまりはギコの「最強の幻影」なのだ。
(ギコエル)「俺の正体を見破っていたか。だが、その体で何が出来る?」
(ギコ)「俺は・・・逃げない・・・。この体でも、戦ってみせる。」
(ギコエル)「忘れたか?お前の運命を。行き着く先は、お前たちの死だけだ!」
(ギコ)「そんな未来なんかに・・・俺達は惑わされない。俺は、必ずこの世界を守る。」
次の瞬間、ギコは震えながら立ち、こう言った。
(ギコ)「例えそれが、俺がお前と同時に・・・消滅するのだとしても・・・。」
(しぃ)「・・・え・・・っ?ギコ君・・・今、なんて・・・。」
ギコはしぃの方に振り向いた・・・。
(ギコ)「しぃ・・・ごめん・・・俺は君と帰れない。この世界の彼奴は、俺の影だ。だから、影を殺せば・・・俺も消えてしまう。」
(しぃ)「・・・そんな・・・。」
ギコがしぃに言ったこと・・・それは、ギコ(ウォーリー)がしぃ(イヴ)に対する、永遠の別れを意味する言葉だった・・・。
(しぃ)「そんな・・・一緒に帰ろうって・・・言ってくれたじゃない!」
(ギコ)「俺だって・・・君とは別れたくない・・・。でも、このままでは君も彼奴に殺されてしまう・・・。そんな悲しい未来は、二度と見たくないんだ!!」
しぃはショックな言葉で俯いてしまった。ギコは再びギコエルに目を合わせた。
(ギコ)「俺は・・・君の運命だけでも変えてみせる・・・。さようなら・・・しぃ。」(しぃ)「行かないで・・・ギコ君!!」
ギコは走り始めた、自分に打ち勝つため。そして、愛する者の運命を守るため。そして、スパークレンスを取り出し・・・
(ギコ)「うおぉぉぉぉぉっ!!!ティガァァァッ!!」
ティガはギコエルに突っ込んでいく。しかし突っ込む寸前にギコエルは飛翔し、かわされてしまう。
(ギコエル)「そっちが其れなら、こっちも同じだ!」
ギコエルはギコと同じスパークレンスを持ち、変身した。変身した姿は・・・ウルトラマンティガと対をなす「もう一人のティガ」。
(ティガ)「い・・・イーヴィルティガ!?」
(光)「シェアァァッ!!」(影)「ハァァァァッ!!」
ウルトラマンティガVSイーヴィルティガ・・・今、世界の未来をかけて光と影の衝突が始まった。
ティガとイーヴィルは近接格闘から始めた。ティガはイーヴィルに向かって、投げ技のウルトラヘッドクラッシャーを行い、頭頂部にダメージを与えた。
(影)「ウアッ!!」
さらに、ティガはしゃがんでいるイーヴィルに向かって、強烈なアッパーを顎にヒットさせた。空中に吹き飛ばされるイーヴィル。しかしイーヴィルティガはこれも計算の内に入れていた。
イーヴィルは空中で向きを変え、ティガに向かってムーンサルトキックを仕掛ける。ティガは空中でスライスハンドを行おうとしていた。
(光)「やはり、一筋縄というようにはいかないみたいだな!!」
ティガは向きを変え、空中に向かって放つ流星キックの体勢に入った。
(光・影)「ダァッ!」
次の瞬間、強烈な爆風が町の一角で吹き荒れた。しぃは近くにいたので、危うく吹き飛ばされそうになった。
(しぃ)「きゃあっ!」(私はこのまま何もできないの・・・?そんなこと無い・・・私にだって力があるんだから・・・!)
しぃはティガの元へ急いだ・・・ 。
爆風が起きた場所は砂埃が巻き上がっていた。そしてその真ん中には・・・カラータイマーを点滅させたティガがいた。
(光)「くっ・・・頭がふらつく・・・。」
ティガはまだ完全に体調を回復させたわけではなかった。それ故、パワーも不完全だったため早くもカラータイマーが鳴り出してしまったようだ。
(光)「彼奴は・・・どこだ?」(影)「こっちだァ!」
イーヴィルはスワローキックとレオキックを組み合わせた、ファイアー・スワローキックをティガに仕掛けた。ティガは当たる直前によけたが、強い衝撃と風圧によりビルの壁にたたきつけられた。
(光)「ぐあっ!」(影)「さっきまでの威勢の良い攻撃はどうした?」
イーヴィルはティガに向けてガルネイトボンバーを放った。疲労で身動きがとれないティガは絶体絶命のピンチに陥る。ところが・・・ガルネイトボンバーは、突如飛んできた水色の矢みたいな物に破壊された。
(影)「誰だ?」(光)「!!」
ティガの視線の先にいた者・・・それは、桃色で頬にアスタリスクが付いてるAAだった。
(しぃ)「ギコ君を・・・殺させない!」
しぃはルナ・アローを装備して、道路に立っていた。
(光)「しぃ・・・。」
(影)「なぜ俺達の戦いの邪魔をする?」(しぃ)「私だって少しは力を持ってるんだから。貴方は倒せなくても、ギコ君は守れる。」
しぃはティガに視線を合わせた。
(しぃ)「ギコ君、大丈夫?」(光)「しぃ・・・何故君が・・・?」
(しぃ)「ギコ君は命がけで私を守ってくれたんだもん。今度は私が貴方を守る番だよ?」(光)「・・・ありがとう。」
ティガは立ち上がり、しぃの横についた。イーヴィルは其れを見て嘲笑した。
(影)「どんなに抗おうと・・・お前等は決して俺には勝てない!!」(光)「一人で無理なら・・・二人で倒すのみ!」
ティガはハンドスラッシュ、しぃは矢を同時に放ち、合体技のウルトラノックスラッシュをイーヴィルに当てた。
(影)「ぐおっ!?」
続いてティガはゼペリオン光線を打とうとする。しかしその時、イーヴィルもティガとは逆の動作で「イーヴィルショット」を打とうとしていた。
(光・影)「ハッ!」
町の一角で起きる、黒と白の閃光・・・それはティガとイーヴィルそれぞれの光線が衝突した瞬間だった。
その中心部では、衝突の影響で出来た紫色の光球がどんどん大きくなっていく。
果たして勝つのは・・・ 。
紫色の光球は、十字路を包み込もうとしたところで膨張が止まった。ちょうどその時、ティガのカラータイマーの点滅速度が最高潮に・・・同時にイーヴィルのカラータイマーも点滅を始めた・・・。
変化を示したのは二人だけではない・・・紫色の光球も異変を示したのだ。目映い光が辺り一面を包み込んでいく。それはこの光球が間もなく爆発する事を意味していた。
(光)「しぃ!伏せろ!!」
次の瞬間、光球が轟音と共に強烈な爆発を起こした。爆発にはティガやイーヴィルも巻き込まれた。しぃは爆風に吹き飛ばされ、電柱に体を強く打ちつけた。
一分後・・・しぃは電柱につかまり、何とか立つことが出来た。しかし体中の痛みが激しく、立っているだけでやっとだった。
(しぃ)(うっ・・・。ギコ君は何処・・・?探さなきゃ・・・。でももう・・・歩けない・・・。)
その時、目の前の上空に居るはずのない人影が・・・。しぃよく目を凝らしてみた。
(しぃ)(誰・・・?ギコ君・・・なの?)
しかし、その人影から紫色の光弾が発射された。しぃは避けることも出来ず、そのまま弾き飛ばされた。
人影の正体はギコではなく、ギコエルだったのだ。
(しぃ)「きゃあっ!!うぅ・・・。」(ギコエル)「残念だったな!ギコはあの光球に吹き飛ばされて死んだ。」
しぃは衝撃的な言葉に耳を疑った。
(しぃ)「・・・え?・・・そん・・・な・・・。嘘よ・・・嘘だっ!!」(ギコエル)「お前も死ねぇっ!!!」
刹那、ギコエルはギコの剣と対をなす黒い剣を、しぃに向かって投げつけた。しぃは頭を抱え込み、そのまま力が抜けたようにしゃがみ込んでしまった。
(しぃ)(ギコ君が・・・死んだ・・・?そんなの嘘だ・・・信じたくない・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!・・・死にたい・・・死んでギコ君と・・・一緒に・・・)
ズシャッ!!
次の瞬間、生々しい音が町に響いた。が、しかし・・・。
(しぃ)(あれ?私・・・刺されたの?でも・・・痛くない・・・どうして?)
しぃは恐る恐る目を開けた。目の前には夥しいほどの真紅の血・・・しかし、自分には傷一つ付いていなかった。
(しぃ)「!!!!・・・そ・・・ん・・・な・・・。」
そして、しぃは気づく。自分の目の前に、月のように黄色いAAーギコーが、仁王立ちしていることを・・・。
ギコ自らの体に、黒い剣が刺さった状態で・・・。
(しぃ)「ギコ君っ!?」
黒い剣は暫くギコの腹部に深く刺さっていたが、光になって消えていった・・・。その時、ギコの口と腹部から赤い鮮血が・・・。
(ギコ)「か・・・はっ」(しぃ)「いやぁぁぁぁーーーーっ!!!!」
ギコはそのまま、道路に倒れ込んだ・・・。コンクリートと自分の体を、真紅に染めながら・・・。しぃは急いで倒れたギコに近づき、紅にそまった手を握った。彼の手には僅かだが、ほんのりと優しい暖かさが残っていた。
(しぃ)「ギコ君っ!!しっかりして!!!・・・ギコ君!!!」
しぃは顔を涙で濡らしながら、ギコの名前を呼び続けた。すると・・・彼はゆっくりと手を握り返した。しかしいつものギコの手より、かなり弱々しかった。
(ギコ)「し・・・ぃ?ぶ・・・無・・事・・・だったん・・・だね・・・?・・ょ・・良かっ・・・た・・・。」
(しぃ)「ギコ君・・・私のせいで・・・こんな目に・・・。」
(ギコ)「なぜ・・・?き・・君が・・あや・・・まる必要は・・・ない・・だろ?」
(しぃ)「今すぐ・・・何処かで治療を!」
(ギコ)「もう・・・遅い・・・。この・・・傷・・だと・・・ち・・治療し・・・ても・・・無・駄・・・だ・・・。」
(しぃ)「ギコ君・・・嘘つき・・・。」(ギコ)「・・・え・・・っ?」(しぃ)「嘘つき!!一緒に帰るって言っておいて・・・なのに・・・!」
しぃは大粒の涙を落とし、声を挙げて泣いた。ギコの目にも、涙が滴り落ちた。
(しぃ)「もう、二度と会えないなんて・・・そんなのいやぁっ!!」
ギコは左腕を彼女の頭に乗せ、こう答えた・・・。
(ギコ)「し・・・ぃ・・・。ご・・めん。でも・・・俺・・は・・・もう・・一つの・・・約束は・・守ったよ・・・。」
(しぃ)「もう一つの・・・約束って・・・?」(ギコ)「き・・君の・・・運・・命を・・・変えること・・・だよ・・・。」
そう・・・ギコは初日に見たあの夢のようにさせないよう、黒剣にしぃが刺される前に、ギコが自分の運命と引き替えに身代わりになったのだ。
(ギコ)「お・・・俺の・・運命は・・・変えられ・・なかっ・・・た。けど・・君の・・運・・・命を・・・変え・・られた。俺は・・・其れだけでも・・・幸せ・・・だよ・・・。」
ギコの手から、温もりが消えかかっていた・・・。
(ギコ)「し・・・ぃ・・・。き・・・君に・・頼みたい・・・こ・・とが・・・あるん・・だ。」
ギコが差し出したのは、スパークレンスだった。
(ギコ)「それを・・・俺の・・力を・・・使っ・・・て・・・。」(しぃ)「・・・でも、其れをやったら・・・。」
(ギコ)「俺の・・体・・は・・・光になって・・・消える・・・。」
光になって消えること・・・其れはすなわち、ギコ(ウォーリー)はこの世界で消滅し、永遠に別れることを意味する。
しぃはギコに抱きつき、大きな声を挙げて泣いた。ギコは彼女を抱いて呟いた。
(ギコ)「し・・・ぃ・・・。泣かないで・・・俺の・・体は・・・なくなっ・・ても、心は・・いつも一つに・・・つながっているから・・・。」
(しぃ)「いやぁっ!ギコ君と・・・話が出来なくなっちゃうよぉ!!!」(ギコ)「いつかまた・・・きっと・・・会えるから・・・。」
しぃは涙で濡れた顔で、ギコに口づけをした。その刹那、ギコの体が金色に輝いて・・・。
(しぃ)「ギコ君・・・体が・・・。」(ギコ)「お・・・俺・・・そろそろいかなきゃ・・・。」
(ギコ)「し・・・ぃ・・・。子供・・達を・・・頼む・・・。」(しぃ)「ギコ君・・・待って!行かないでっ!!!」
(ギコ)「さ・・よなら・・・し・・ぃ・・・。」
次の瞬間、ギコの手がしぃの手から離れた・・・。そして光の粒子となって、スパークレンスへ・・・。
(しぃ)「ギコ・・・君・・・ギコ君ーーーーーーっ!!!!!!」
しぃは大声で叫んだ・・・しかし、もう愛する者は戻ってこない・・・。叫びはただ悲しく、ビルとビルの間に響いていった。
ギコが消えた後・・・彼女はスパークレンスを取り出す。
(しぃ)(ギコ君・・・戦おう・・・一緒に!)
しぃは意を決し、スパークレンスを掲げる。すると・・・今までにない、金色の光が辺り一面を照らした。そして何と、町中の光がスパークレンスに集中したのだ!しぃは強き思いを込めて、叫んだ。
(しぃ)「光よぉぉぉぉーー!!!」
強烈に輝く金色の光が、辺り一面を焦がしていく・・・。
(ギコエル)「何だ・・・この強大なオーラは・・・?」
光が止んだその先にいたもの・・・それは、どんな闇にも負けない金色の光をまとった戦士。ウルトラマンティガの最終形態『グリッターティガ』だった。
キャラクターの追加紹介
グリッターティガ:多くの光を受け継ぎ力を解放した、金色に輝くティガの最終形態。体表の模様はマルチタイプと同じだが、力を解放したので全体が金色に輝いている。
TV編では子供達が、2000年の映画編では古代の光の巨人が光を与え、2008年の超ウルトラ8兄弟では横浜の人々の声援を受け、グリッター化している。
今作では、しぃをかばって亡くなったギコの魂、NIGHTMARE CITYに残された光を取り込み、この形態へ進化した。
スカイタイプの俊敏さ、パワータイプの怪力、マルチタイプの光線技・超能力を最大限まで高めているため、飛行速度がマッハ10。握力が10万トンと、全ウルトラマン史上最強とも言える力を持っている。
今作では、ティガの能力以外に初代からメビウスまでの全ウルトラマンの必殺技・超能力も使用している。
必殺技は全ウルトラマンの光線エネルギーを集約した、グリッタースペリオル。ゼペリオン光線と同じ発射ポーズだが、全ウルトラマンのエネルギーを集約しているため、町一つが簡単に吹き飛ぶ程の高い破壊力を持つ。
(今作だけのオリジナル必殺技)
グリッターティガはギコエルに向かって、バーチカルギロチンを放った。ウルトラマンエースと同じ技だが、スピードが格段に違う。ギコエルは避けきれず、片羽を切断された。
(ギコエル)「なにっ!?」(グリッター)「シュアッ!!」
次の瞬間、いつの間にかギコエルの真下にいたティガはアグルセイバーを腕に装備し、そのまま落ちてくるギコエルにウルトラマンジャックの必殺技「スライスハンド」をヒットさせる。この際、「スライスセイバー」と呼んだ方が妥当だろう。
(ギコエル)「ぐあっ!!」
スライスセイバーは見事ギコエルの腹にヒットし、斬り上げられた。
しかし、ティガの猛攻は止まらない。ティガはそのまま空中から、レオキックと流星キックを組み合わせた「メテオキック」を繰り出し、ギコエルを地面にたたきつけた。轟音とともに地面が割れ、ギコエルはコンクリートにめり込まれた。
再び地上に降りるティガ。そこには、手足の一部がデータとして消えかかったギコエルが立っていた。しかし・・・既に羽は全て消え去り、目の前にいたのは「ギコ」そのものだった。余りに衝撃的な姿に、ティガは攻撃を躊躇してしまった。
(グリッター)(ギコ・・君・・)
(ギコエル)「さぁ・・・俺を殺せ・・・。お前はその手で、自分の恋人を殺すことになるだろう・・・!」
(グリッター)(相手はギコ君じゃない!でも体が動かない・・・どうしたらいいの・・・?)
しぃは、今目の前にいる敵が、ギコではないことは重々分かっていた。しかし、今目の前にいる相手の姿を見た瞬間、自分の意思とは逆に体が拒否したのだ。自分の愛人をーギコを殺したくない、と・・・。
その時、ティガの体内で誰かの声が聞こえた。
(モララー)「しぃ、心配するな。俺達は今、お前と一緒に戦っているんだ。」(しぃ)「その声は・・・モララー君!?」
(フサ)「そうだよ。今俺達は光になって、君と一体化してるんだ。グリッターティガとして!」(しぃ)「!!フサ君!」
(モナー)「しぃちゃんには色々迷惑をかけたモナ。一緒に勝つモナ!!」(づー)「アヒャヒャヒャヒャ!タノシクナッテキタナ!!」
(流石兄弟)「しぃちゃん、忘れるな。今の俺達は、みんなしぃちゃんの仲間だから!」(妹者)「しぃちゃん、私もついてるからね!」
(八頭身)「後押しは任せた!思いっきりやるぞ!」
(しぃ)「・・・みんな!」
しぃに話しかけ、スパークレンスに入った光の正体・・・。それは、遙か昔にNIGHTMARE CITYで出会った人間と、敵の管理AIだった。しかし、敵対した管理AIはウイルスから解放され、しぃの見方についたのだ。
(ギコ)「しぃのお陰で、俺達は光になれたんだ。」(しぃ)「ギコ君・・・!」
(ギコ)「このグリッターティガには、俺達の思いが詰まってるんだ・・・。だから、俺達はしぃを絶対に負けさせたりしない!」
精神の中で、ギコはしぃを抱きしめた。
(ギコ)「しぃ・・・忘れないで。俺は何時でも、君の側にいるよ・・・。君の心の中に・・・ずっと・・・。」
次の瞬間ティガの体が更に金色に輝き、町全体を照らした。
(グリッター)(ギコ君・・・ありがとう。私は、ギコ君の言ってくれたこと、全部嘘だって構わないよ・・・。ギコ君が私を愛してくれる限り、永遠に・・・!)
ティガは思いっきり走り出し、グリットアッパーをギコエルの腹に思いっきり当てた。ギコエルは空高く吹き飛ばされる。
ティガは更に空中で、ウルトラマンメビウスの必殺技「ライトニングカウンター・ゼロ」をギコエルの顔に当てた。
(ギコエル)「ぐぁぁぁぁっ!!」
ギコエルはビルの屋上のガラスを突き破り、下へ落ちていった。ティガの体はさらに輝きが増していた。金色の輝きは太陽の如く眩しく光り、月のように優しい暖かさを町全体に振りまいていた。
(ギコ)「しぃ、いくよ・・・!」(しぃ)(うん・・・!)
グリッターティガは狙いをギコエルが落ちたビル一点に定めた・・・。そして・・・
(グリッター)「『グリッター・スペリオル』!!!」
ティガはゼペリオン光線を放つように、腕を前に交差する。すると、体全体にあった金色の光が腕に集中した。さらに腕を左右に広げると・・・カラータイマーから更にエネルギーが増幅されていく・・・。
(全員)「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!」
腕をエル字に構えた刹那、ティガの腕の範囲を越えた巨大な光線の刃が、ビルのギコエルもろごと直撃した。
その直後、NIGHTMARE CITYは金色の閃光に包まれ、全てが破壊された。
そう・・・ギコとしぃは、再び悪夢に打ち勝つことができたのだ!!
しかし、運命は忘れていなかった。
二人でいる時間はもう、残されていないことを・・・。
閃光の後、しぃは現実世界への暗闇へと落ち続けていた。しかし、体のぬくもりは消え去ることがなく、ギコがすぐ側にいることを感じることができていた。
ところが、不意に体から温もりが消えていった。原因は、しぃの体から出る光だった。金色に輝く光は、そのままある者の形に姿を変えた。猫耳に、頬に生えているネコヒゲ、尻尾・・・そして、月のように優しい光を放つ体・・・。
(しぃ)「ギコ君・・・!」(ギコ)「しぃ・・・ありがとう。俺との約束、守ってくれたんだね。」
しぃは手を伸ばす。そしてギコも腕を差し出す。あと数センチ・・・あと数ミリ・・・。
しかし彼らは、運命は残酷であることを知らされる。
もう少しだったその時、ギコの体が消え始めたのだ。以前のしぃの時と、全く同じように・・・。
(ギコ)「・・・お別れだ・・・しぃ。」(しぃ)「ギコ・・・君?・・・待って!ギコ君っ!!」
(ギコ)「駄目だよ、しぃ・・・。君は生きるんだ。家族を・・・エルとライトを・・・守ってくれ。」
突然訪れた、別れの刻・・・。
(しぃ)「いやっ!また会えたのに・・・二度と会えないなんて、いやぁっ!!」
(ギコ)「俺もだよ。君に二度と会えないのは辛いよ・・・。でもな、しぃ・・・俺はあの時、君に出会えてとても嬉しかったんだ。」
ギコの体はもう、胸まで消えかかっていた。ギコの目には涙が出ていたが、顔は笑っていた。
(ギコ)「君と一緒にいることができた時間は、宝石よりも輝いた、俺の大切な宝物だよ。」(しぃ)「私、もっと一緒にいたかった・・・。もっと、ギコ君と色んなことをしたかったの・・・。だから消えないで・・・お願い!!」
(ギコ)「しぃ・・・。忘れないで。君が俺のことを忘れない限り、俺はずっと君の心の中で生き続ける。体は消えても、俺は何時でも君の側にいるから・・・。」
ギコはもう首から上しかなかった・・・。ギコは顔に悲しそうな笑顔を浮かべてこう言った。
(ギコ)「しぃ、俺は君と居ることができて・・・楽しかったよ!」(しぃ)「ぃゃ・・・やめて・・・。」
(ギコ)「今まで・・・本当に・・・」
一瞬時が止まり・・・
(ギコ)「ありがとう!!」
ギコはついに・・・消滅した・・・。
(しぃ)「いやぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
あの日から五年・・・イヴは再び教師として働いていた。産休も無事に終わり、忙しいときはエルにライトの世話を任せていた。
エルとライトも相変わらず元気だ。でも・・・家にはもうウォーリーはいない・・・。
あの後イヴは現実世界に戻ったが、隣にいるはずのウォーリーが居なかったのだ。彼は向こうで死んだとき、こちらの世界の体も消滅してしまったのだ。
二人の子供は、悲鳴を挙げながら泣いた・・・。その時一番後悔していたのは、エルだった。エルは自分の力を使ったせいで、ウォーリーが死んだのだと責めていたのだ。しかし逆に考えれば、その力がなければこの世界に戻ってなかったかもしれないのだ。
それでもエルは後悔し続けており、中学3年になった今でも、時々授業が上の空になっているときがある。
(イヴ)「エル・・・また上の空だったでしょ。」(エル)「・・・ごめんなさい。」
(イヴ)「悲しいのは分かるけど、今は授業に集中してなきゃ駄目よ。受験生なんだから。」(エル)「は〜い・・・。」
今日は10月26日・・・彼の命日だった・・・。イヴ達は学校が終わった後、ある丘に向かった。
丘の上には大木が一本と、中くらいの大きさの石碑があった。石碑の上部には「NIGHTMARE CITY」と書かれており、下には名前が書いてあった。人物名はウォーリーともう一人・・・その名は
(エル)「ギコ・・・ハニャーン・・・?」(イヴ)「うん。お父さんは、向こうの世界ではそう呼ばれていたの。」
この石碑は、NIGHTMARE CITYでの出来事を知った仲間達が、ウォーリーを追悼する意味で作られたものだ。
イヴは色とりどりの花束の他に、遺品であるベーターカプセル、スパークレンスを石碑の前に置き、手を合わせた・・・。
(エル)「お父さんが死んで・・・もう、五年も経つんだね・・・。」(イヴ)「・・・。」
イヴは無言だった。かつて自分が死んだときも、彼は同じ心境だったのだろうか・・・。帰り道、エルはイヴに問いかけた。
(エル)「ねぇお母さん・・・。お父さんは・・・私を恨んでないのかなぁ・・・。」(イヴ)「?そんなことは無いわ・・・。むしろ、お父さんはあなたには感謝しているはずよ。」
突然、エルが泣き出しイヴに抱きついた。
(エル)「私・・・お父さんに会いたい・・・。」(イヴ)「エル・・・。」
エルの突然な行動に、イヴは驚いた。普段はこんな事をする子じゃないのに・・・。イヴは彼女を抱きしめながら、言い聞かせるように言った。
(イヴ)「エル・・・よく聞いて。確かにお父さんはこの世界にはもういないわ。でもきっとお父さんは、何時どんなときも私たちの『側にいてくれてる』わ・・・。」
『側にいる』・・・かつて、ギコがしぃに別れを告げる際に言った言葉だ。
(エル)「私たちの・・・側に・・・?」
イヴは頷いた。そして、エルの肩を持ちながら言った。
(イヴ)「そうよ・・・。お父さんは私たちが忘れない限り、ずっと心の中で生き続けてるわ。だから、もう泣かないで。心の中のお父さんが、悲しむでしょ?」
(エル)「・・・分かった。」
エルは泣くのをやめて、笑顔になった。イヴの説得が通じたようだ。
(イヴ)(あなたは、私たちの側にいる・・・そうよね?ギコ君。)
ふいに、暖かい風がイヴたちの間をすり抜けて行った。その暖かさは、かつて感じたギコの温もりと同じだった。
そう・・・ギコ(ウォーリー)はどんな形であれ、ずっと彼らの側で見守り続けているのだ。
自分達が彼の存在を、忘れない限り・・・。
〜fin〜
『鼓動〜for TIGA〜』
(ウルトラマンティガ外伝〜古代に蘇る巨人より)
1.
夢を見ていた 遙かな国の夢を
見知らぬ景色 どこか懐かしく・・・
何処まで 歩き続ける?
このまま 道の向こうに
僕たちが 行くべき場所へ
ずっと・・・
TIGA 心の
TIGA 高まり溢れる
TIGA 今こそ
TIGA 何かを探しに
溢れる 鼓動が 体を満たしてる・・・。
2.
言葉にならず 伝えられないでいた
『優しさ』という 大切な気持ち・・・
どんなに 辛いときも
このまま 振り返らずに
差し伸べる 手がある限り
行こう・・・
TIGA 誰かが
TIGA 呼ぶ声が聞こえる・・・
TIGA 生命(いのち)は
TIGA 全てを見捨てない
何時でも 輝き 暗闇抜けて行く・・・
(転調)
TIGA 心の
TIGA 高まり溢れる
TIGA 今こそ
TIGA 『永遠』を探しに
溢れる鼓動が 体を満たしてる・・・。
ネタ元:
ウルトラマン(1966年)
ウルトラセブン(1967年)
帰ってきたウルトラマン(1971年)
ウルトラマンA(1972年)
ウルトラマンタロウ(1973年)
ウルトラマンレオ(1974年)
ウルトラマン80(1980年)
ウルトラマンティガ(1996年)
ウルトラマンガイア(1998年)
NIGHTMARE CITY(2003年)
ウルトラマンネクサス(2004年)
NIGHTMARE CITY CATASTROPHE(2005年)
ウルトラマンメビウス(2006年)
WALL.E/ウォーリー(2008年)
大決戦!超ウルトラ8兄弟(2008年)
ネタ元制作:
松竹・円谷プロ(ウルトラシリーズ)
み〜や(NIGHTMARE CITYシリーズ)
ウォルトディズニービクチャー・ピクサー(WALL.E/ウォーリー)
小説制作:
TKY◆tMlvS8ak8E
小説第2弾
ここは、地球から300万光年離れた星・・・『M78星雲光の国』。ウルトラマン達が住むこの星には、全宇宙の平和を守るために設立された『宇宙警備隊』の本部が、光の国の中枢部に置かれていた。
この『宇宙警備隊』につとめる隊員達ー通称『ウルトラ兄弟』ーは、宇宙警備隊の大隊長であり、光の国の英雄である『ウルトラの父』からの指令で宇宙各地に送り出され、怪獣や侵略者達と戦い、多くの命を救っていた。
そんな光の国では今日、宇宙警備隊で緊急会議が行われていた。数日前から、光の国で新種のコンピューターウィルスが宇宙警備隊のコンピューターに入り込み、隊員達の現在地などの主要データーベースが使えなくなってしまっていたのだ。
しかも、そのウィルスの発信源がなんと、地球から出ていたのだ。そのため、事の重大さを知ったウルトラの父は、主要隊員全てを本部に召集したのだ。
まず、ウルトラの父は隊員に向かって地球から出てきたウィルスについて説明した。
(父)「皆に最初に言ったとおり、このウィルスは地球から送り込まれたものだ。そのウィルスデータを解析に回してみたのだが・・・有り得ない結果が出た。」
(レオ)「有り得ない・・・結果?」
(ゾフィー)「大隊長、その結果とは・・・?」(父)「うむ・・・皆、これを見てくれ。」
隊員達の監督である隊長「ゾフィー」が問う。ウルトラの父はその問いに答えるべく、あるデーターをプロジェクターに映し出した。どうやら折れ線グラフのようだが・・・。
(父)「これは六年前に地球で起きた、NIGHTMARE CITY事件の波長データーだ。」
NIGHTMARE CITY事件・・・700年近く前に起こった仮想空間事件で壊された空間が、何者かの手によって六年前に再び復活した事件だ。
(父)「あの空間には、2体のロボットが迷い込んだ。しかし、その内の1体が空間内で殺された・・・。」
そう・・・そのロボットの名は・・・「ウォーリー」・・・。仮想空間内でギコとして活躍し、イヴ(しぃ)をかばって亡くなった。
(セブン)「・・・まさか・・・その波長と同じ・・・?」
ウルトラセブンが何かに気付いたように口を開いた。すると・・・
(父)「その通りだ。今回送られてきた波長は、六年前のものと同じだ。」(全員)「!?」
隊員達は驚きを隠せなかった。あの町は完全に破壊された筈だ・・・。なのに・・・何故・・・?
隊員の一人で、全ウルトラマンの中で光線技が最も多いウルトラマンエースが真っ先に反論した。
(エース)「しかし、その空間は確か・・・完全に破壊されたのではなかったのですか?」
(ゾフィー)「確かに破壊された。しかし、その空間の残骸から再び町を作り出した者がいるというのも事実。」
驚きの事実に、暫く沈黙が続く・・・。その時、ウルトラマンレオの発言が沈黙を破った。
(レオ)「私はこの光の国に、どうやって地球からこのウィルスを送ったのか疑問に思いますが・・・。」
即座にウルトラの父の実の息子であるウルトラマンタロウが補足を入れた。
(タロウ)「星間ネットワークは確か、地球にはつながっていなかったはずです。」
星間ネットワークとは惑星同士で行う通信機能のことで、地球で言うインターネットのことである。
(父)「今回の一件はその事が鍵となろう。だとすればこれは地球は愚か、全宇宙が危険に晒されることになるだろう。」
ウルトラの父は淡々と、しかし力強く言い切った。
(ジャック)「何者かが地球に来ていたとしたら・・・一体誰がこんな事を?宇宙は鎮静化し、地球にも(エース)「いますよ、一人だけ・・・。」」
ウルトラマンジャックが疑問を投げかけている間、エースが口を挟んだ。
(エース)「これはあくまで私の推測ですが、この事件はヤプールも関与している可能性も考えられるのではないでしょうか。」
異次元超人ヤプール・・・かつて、怪獣を越える生物『超獣』をつくり、地球やウルトラ兄弟達を危機に陥れた侵略者だ。倒された今でも怨念として生きており、幾度もウルトラ兄弟達を襲っている。
(ヒカリ)「他の侵略者達を鎮静化しても、確かに地球に封印されたヤプールなら、私たちを襲うことが可能かもしれません。」
元科学者である青いウルトラマン『ウルトラマンヒカリ』は、その説は確実なものだと主張した。
(メビウス)「僕は今地球で何が起こっているのか、現状の確認を急いだ方がいいのではないかと思います。」
宇宙警備隊の一人、かつてルーキーと呼ばれていたウルトラマンメビウスが意見を言った。
(父)「うむ。皆の言う通り、この中から数名地球に向かって貰いたい。今地球にはウルトラマンが待機している。」
地球出発を宣告されるウルトラ兄弟達。果たしてこの中から誰が地球へ向かうのだろうか・・・。
隊員達で相談した結果、以前ヤプールと戦ったことのあるウルトラマンエース、メビウス、セブン、ジャックが選ばれた。しかしジャックは別件の用で火星に立ち寄ってから、地球に向かうそうだ。
(メビウス)「地球・・・700年ぶりですね。」
(セブン)「そうだな・・・今でも人間達は、平和に暮らしているのだろうか・・・。環境がどうなっているか、興味深いな。」
(エース)「今でもきっと、人間は希望を失わずに生きているのだと私は思いますよ。」
(ジャック)「人間が光を見失わずにいてくれるといいのだが・・・。」
四人は期待を募らせながら、地球に向かった。
WALL.E×ウルトラマン2〜家族の絆〜
エル(エー):本作の主人公で、16歳の少女。高校一年生で母親のイヴに性格・姿がよく似ているが、目は緑色。父親から光の遺伝子を受け継ぎ、ウルトラマンティガになる能力を持っている。
今回イヴを救うために、復活したNIGHTMARE CITYに向かう。町での姿は、母親と同じ桃色の肌を持ちながら耳に赤い線が入った、「エー」というAAになる。
ギコ(ウォーリー):もう一人の主人公。六年前にこの町に迷い込み、しぃと脱出をはかろうとするが、影の自分ーギコエルーとの戦いでしぃをかばい、死んでいた。
町が壊されたと同時にデータとして消え去ったが、今回「生身の人間」として復活。しぃを救うために立ち上がる。
イヴ(しぃ→でぃ):エルとライトの母親で、六年前の事件唯一の生還者。ウォーリーが死んで以来、女手一つで二人を育ててきた。丸みを帯びた白く輝く美しい流線型の体を持つ。
今回ヤプールの罠にはめられてしまい、NIGHTMARE CITY内でカオスヘッダーを投与され、「でぃ」となって仲間に襲いかかる。
本当は明るくて心優しい性格で、NIGHTMARE CITY内では鮮やかな桃色のAA「しぃ」の姿になる。
ライト(タカラギコ):「光」という意味で名づけられた、ウォーリーの第二子。小学一年生の6歳。生まれてすぐに言葉が話せるようになっていたほど、頭の成長が早い。そのため父親の事もよく覚えていた。
体はウォーリーと変わらないが、体色がクリーム色になっている。
エル同様光の遺伝子の持ち主だが、今まで光の力に目覚めていなかった。しかし今回の戦いで「ウルトラマンコスモス」の力に覚醒する。
NIGHTMARE CITYでは、子供の「タカラギコ」というAAになる。
ウルトラ兄弟(初代マン・セブン・ジャック・エース・メビウス):
光の国のコンピューターウィルスの原因調査のためにやってきた、『宇宙警備隊』の精鋭。初代マン以外の四人は約700年ぶりに地球に訪れた。
人間体はそれぞれ、ハヤタ・シン(黒部 進)、モロボシ・ダン(森次晃嗣)、郷 秀樹(団 時朗)、北斗星司(高峰圭二)、ヒビノ・ミライ(五十嵐 隼士)。しかし初代マンは現在、ギコと一体化している。
五人とも様々な趣味を持っており、中でもエースは詩作、セブンは水泳、初代マンは読書など地球人らしい一面もある。
特にセブンに関しては乗馬や料理など趣味が豊富で、オリジナルカレーを開発する程である。
モララー:ギコ同様、生身の人間として蘇った元管理AIで、NIGHTMARE CITY事件を引き起こした張本人。しかし六年前の戦いで敗れて以降、新たに自分が守るべき者に気づき、今作では見方に。ギコの良き理解者で、親友となる。
ギコが六年前、しぃと一緒に現実世界へ帰れなかったことを悔やんでいることを知っていて、今作でも家族から離れて戦いに行こうとしていたギコを止め、自分が代わりを努めることもしている。
エーからアグレイターを受け取り、蒼い海の光の戦士『ウルトラマンアグル』として戦う。
モナー:モララーと同じく生身の人間として蘇った、元管理AIの一人。性格はおっとりとしているが、頭はかなり良いらしい。怒ることがあまり無いほど、広い心の持ち主だ。
六年前の事件で多くの人間を殺してしまった罪を償うため、そして元仲間のしぃを救うために、モララーと共に立ち上がる。
モララー同様ギコの良き理解者で、様々な悩み事の相談に自分なりの色々なアドバイスを出してくれている。
エーから「リーフラッシャー」を受け取り、火星の光の巨人『ウルトラマンダイナ』として戦うことになった。
本編の続き
その頃地球では、いつも通りの朝が始まっていた。
(エル)「ほら、ライト・・・。学校に遅れちゃうよ!」(ライト)「ちょっと待っ・・・あわわわわわわ。」
とある場所にある、黄色い古いトレーラートラックでは、いつもの朝の光景が繰り広げられていた。トレーラーは彼らの家だ。
トレーラーの入り口で待っているエルは高校一年生の少女で、母親のイヴにそっくりなロボットだ。
家の中で慌てて支度しているのはライト。エルの弟で、今年小学校に入学したばかりだ。そして・・・
(イヴ)「ライト、これじゃないの?夏休みの宿題・・・。」(ライト)「あっ、本当だ!ママ、ありがとう!!」
家の中にいるのが、イヴである。彼女は六年前のNIGHTMARE CITY事件唯一の生き残りで、仮想空間から奇跡の生還を果たしたのだ。
しかし、その一方で自分の夫であるウォーリーを空間内で殺され、以降シングルマザーとして二人の子供を育ててきた。現在彼女は中学校の教師で、高校の教員免許も所持している。
(イヴ)「いってらっしゃい!頑張ってくるのよ!」(二人)「行ってきま〜す!」
今日は8月25日。エル達は登校日だったが、イヴは夏の休暇で仕事を休んでいるのだ。ただ、今日は何かがいつもと違うような気がした。誰かが来るような・・・とても大事な事を伝えに・・・。
イヴは家の庭に出ると、庭に咲く向日葵を摘み、ウォーリーの石碑が置かれている丘へ向かった。
数十分後・・・透き通った海のような空、そして力強い光を燦然と輝かせる太陽のもと、イヴは丘にたどり着いた。彼女は遺品であるベーターカプセルと向日葵を置くと、石碑に向かって話しかけた。
(イヴ)「ウォーリー、今日はね・・・エル達の登校日なんだ・・・。」
(イヴ)「今年も貴方の好きな向日葵を持ってきたよ・・・。」
イヴが石碑に語りかけても、勿論返事はない。でも彼女はこうして話しかけることによって、自分の心に出来た傷を癒していたのだ。愛するものを失った、心の傷を・・・。
(イヴ)「今日もいい天気よ。雲一つ無い、綺麗な青空・・・見えるかしら・・・。ウォーリー、聞こえてる?この今の空があるのも、貴方のおかげなのよ・・・。」
彼女はそう言うと、しばらく石碑に目を向けていた。
ウォーリーとの思いでが、イヴの頭にフラッシュバックする。この地球で初めてウォーリーと出会ったこと。初デートをしたこと。ファーストキスをして宇宙遊泳をしたこと。結婚式。初めて授かった命。そして・・・彼の嬉しそうな笑顔・・・。
全ての思い出をみた後、イヴは自分でも気付かないうちに石碑に手を置き、泣き崩れていた。
(イヴ)「どうして・・・貴方だけがどうしてあんな目に・・・。教えてよウォーリー・・・お願い・・・。もう一度・・・もう一度貴方に会って、話がしたいの・・・。『ギコ君』・・・。」
その時イヴは後ろに、ある人影がいることは全く気付かなかった。
(謎の男)「どうしたんですか?」(イヴ)「えっ・・・?」
イヴが声に振り向くと、見慣れない格好をした20代ぐらいの男性がそこに立っていた。イヴはちょっと疑いの目を向けた。
(謎の男)「ああ、僕は別に怪しい者じゃありません。ただ、あなたが泣いていたようでしたから。」
(イヴ)「すみません。でも、もう大丈夫です。」
しかし謎の男は、石碑にあるベーターカプセルを見て目の色を変えた。
(謎の男)「これは・・・!!」
謎の男はベーターカプセルを手に掴んだ。イヴは何をされるか分からなかったので、急いで止めに入った。
(イヴ)「返して下さい!!それは私の夫の遺品なんです!!!」(謎の男)「ハヤタ兄さん!!!」
ハヤタという言葉に、イヴは止めるのをやめた。
(イヴ)「え・・・っ?」(謎の男)「このベーターカプセルは、ウルトラ兄弟二番目の弟、初代マン兄さんの物なんです。」
初代マン・・・確か、ウォーリーが変身していたウルトラマンのはず・・・。イヴは気になって、彼の名前を聞いた。
(イヴ)「あなたの名前は・・・?」(ミライ)「申し遅れました。僕はウルトラマンメビウス。この星での名前は、ヒビノ・ミライです!」
イヴはトレーラーにミライを招き入れ、お茶を入れた。最近は人間の来客もあるため、お茶の用意もするようになったらしい。
彼女はウルトラマンが地球にいなかった700年間にあった出来事を全て話した。地球がごみで埋め尽くされていたことも、それを片づける目的で作られたロボットのことも。そして、NIGHTMARE CITYの事も・・・。
(イヴ)「私はウォーリーに助けてもらってばかりで、自分は何もしてあげられなかったの・・・。それが・・・すごく悔しくて・・・。」
イヴはギコが仁王立ちをして自分をかばったことを思いだし、握り拳をつくっていた。
(ミライ)「そうだったんですか・・・。」
(イヴ)「・・・ごめんなさい。私の話ばかりで・・・ところで、今日はどうして地球に?」
改めてイヴは話を切り返す。ミライは即座に答えた。
(ミライ)「実は僕たちの住む光の国に、地球から謎のコンピューターウィルスが送り込まれてきたんです。」
(イヴ)「コンピューターウィルス・・・?」
(ミライ)「はい。さらにその波長が、6年前にあなたが体験したNIGHTMARE CITYの物と、全く同じだったんです。」
(イヴ)「えぇっ!!?」
ちょうどその時、ライトとエルが学校から戻ってきた。
(ライト)「ママ、ただいま!」(エル)「ただいま。お客さんが来てるよ・・・ってあれ?この人ももしかして?」
(イヴ)「そうよ。エル、他のお客さんを通してあげて。ライトはちょっと自分のお部屋にいてちょうだい。」
そう言うと、ライトは自分の部屋に渋々入っていった。
エルは玄関にいるお客さんを通してきた。二人組の中年ぐらいの男性だ。片方は赤縁のメガネを胸ポケットに入れ、もう一人は両手の人差し指に、同じデザインの指輪をはめていた。ミライはそれを見ると・・・。
(ミライ)「セブン兄さん、エース兄さん!」(イヴ)「兄さん?・・・と言うことは・・・」
そう、この中年二人はそれぞれウルトラセブンとウルトラマンエースの変身体、モロボシ・ダンと北斗星司だ。
(ダン)「連絡がないと思ったら、ここにいたのか。」(ミライ)「すみません・・・話しをしていてすっかり忘れてました・・・。」
(北斗)「ミライ、お茶までいただいていたのか?ここには遊びに来たんじゃないんだぞ?(笑)」
(ミライ)「分かってます。今回このお宅に来たのも、任務のためです。」
ミライは今までに話したことをダン達に説明した。その間に、エルはイヴにある質問を投げかけた。
(エル)「お母さん・・・この人たちって・・・?」(イヴ)「お父さんの仕事仲間。ウルトラ兄弟の人たちよ。」
(エル)「何で家に来たんだろ・・・。」(イヴ)「凄く大事な話があるの。あなたも関係する話だから、ここにいて。」
エルは頷いた。その時丁度向こうの説明も終わったらしい。再び話に戻った。
(ダン)「イヴ。君は向こうの世界でウルトラマンになり、町を破壊したようだが・・・。」
ダンはイヴが変身したウルトラマンについて聞いてきた。
(イヴ)「はい・・・でも本当は私の力ではなくて(エル)「私の力なんです。」」(ウルトラ兄弟)「!?」
イヴが答えている途中で、エルが口を開いた。彼女はダン達に、自分がウルトラマンティガであることを告白した。
(エル)「私は、父が危険に晒されていることを予見して、父の道具であるベーターカプセルではなく、あえて私の力を届けたんです。」
ウルトラ兄弟達は驚きを隠せなかった。今目の前にいるロボットの少女が、光の後継者だとは・・・。予想もしていなかったことだ
暫くの沈黙の後、北斗がエルに尋ねた。
(北斗)「しかし・・・なぜ君の力をお父さんに渡したんだ?正当な後継者である君しか使えないはずだろう?」
(エル)「父も私と同じ、光の力を持っているから対応できるんじゃないかって思ったんです。それに・・・力になりたかったんです。あの世界に来た責任を、お父さんは一人で背負っていたから・・・。」
(北斗)「そうか・・・。」(エル)「・・・私が非力なせいで・・・お父さんは・・・うぅ・・・グスン・・・。」
(ダン)「泣くことはないさ。君の責任じゃないよ。」
彼女は6年前のことを思いだし、泣き出してしまった。ダンはエルの肩に手を置きながら話を続けた。
(ダン)「・・・実は破壊されたデータの破片から、またあの町が再構築されたらしいんだ。」(イヴ)「そんな・・・一体誰が・・・。」(ダン)「我々は今回、その正体を暴くために地球に来たんだ。」
再び走る沈黙・・・。すると、ミライが暫く閉じていた口を開けた。
(ミライ)「でも、それだけじゃないんです。」(イヴ・エル)「?」
(北斗)「町のデータと一緒に、その町にいた管理AIたちも復元されているんだ。つまり・・・。」
80 :
ほんわか名無しさん:2009/09/20(日) 23:01:38 O
ケンシロウは肩こりに悩まされていた
81 :
ほんわか名無しさん:2009/09/21(月) 08:30:37 O
ケンシロウ「ジャギ兄さんちょっと揉んでくれないか?」
>>79の続き
(イヴ)「つまり・・・?」
ダンは静かに頷き、こう言った・・・。
(ダン)「エル・・・。もしかしたら、君のお父さんーギコーも生きているかもしれない。」
(イヴ)「!!!」(エル)「・・・え・・・っ・・・?」
突如告げられた、ダンからの一言・・・それは、自分の愛する父親が『生存している』ことを示唆していた。
(エル)「・・・嘘・・・そんな・・・お父さんは・・・殺さ・・れ・・・」
エルは突然、へなへなと力が抜けていくように床に倒れ込んでしまった。余程、ショックの大きいことだったのだろう・・・。北斗は、気絶したエルを抱いているダンに変わって言った。
(北斗)「イヴ。私たちから頼みがある。もう一度、あの町に一緒に行ってもらえないだろうか・・・?」
北斗の言葉に、イヴは少し困惑顔になった。先ほどダンに告げられたことも整理がつかない間に言われたので、イヴの頭の中は少々パニック状態になっていた。
(イヴ)「・・・ちょっと・・・時間をください・・・。頭の中がまだ、混乱してるんです・・・。」
(北斗)「分かった・・・。いきなりの話で、申し訳ない・・・。」(イヴ)「いいえ・・・大丈夫です。」
(イヴ)「ちょっと・・・頭を冷やしてきます。」
イヴはそう言うと、一人でトレーラーから外に出ていった。
(ミライ)「イヴさんは・・・怒ってしまったんでしょうか。」
ミライがダン達に、落ち込んだ様子で聞く。
(北斗)「・・・エルがショックを受けたのと同じぐらい、イヴもきっと落ち込んでいるはずだ・・・。今の俺たちには、何も出来ることはない・・・。」(ミライ)「そんな・・・。」
落ち込むミライの横で、ダンが続けて口を挟む。
(ダン)「心配するなメビウス。今はただ、イヴの決断があるまで待つんだ。彼女の心の傷が癒えるまで「きゃあぁぁぁぁっ!!!」」
ダンが言いかけたその時、外から甲高い悲鳴が響いた。その声に、眠っていたエルも目が覚めた。
(ミライ)「今のは・・・!!?」(エル)「!お母さんの声だ!!」(北斗)「イヴは確か外にいるはず・・・まさか!」(ダン)「外に出るぞ!急げ!!」
ダンたち四人は、イヴの悲鳴が聞こえた方へと駆けだした。エルが先頭になり、石碑がある丘に向かっていく。すると・・・石碑の隣に、卵型の白い影が横たわっていた。
(エル)「お母さん!?」
白い卵型の影の正体は、イヴだった・・・。
イヴの姿を確認したエルは、急いで彼女に駆け寄る。
(エル)「お母さん、大丈夫!?何があったの?」
イヴに声をかけるエル。しかし彼女からの返答はない。グッタリと目を閉じたままだ。
(エル)「お母さん・・・?どうしちゃったの?!お母さん!?・・・お母さんってば!!」
エルはイヴの肩を強く揺するものの、全く反応がない・・・。
(エル)「嘘・・・そん・・な・・・。」
意識がない・・・イヴは何者かの手によって、植物状態になってしまったようだ。エルの目に、大粒の涙がたまっていく・・・エルはさらに声をかけ続けた。
(エル)「・・・お母さん!!!私よ!エルよ!!・・・お願い・・・目を開けて!!」
エルの横で、ウルトラ兄弟達は嘆いていた・・・。自分達が危険に気づいていれば、こんな事にはならずに済んだのに、と・・・。
(エル)「嘘だよね・・・?寝てるだけでしょ?・・・だったら起きて・・・目を覚ましてよ・・・。」
エルはもう一度声をかける。しかし、状況は変わらない。エルの顔に一筋の涙が流れ落ちた。次の瞬間・・
(エル)「お母さぁぁぁぁぁーーーーん!!!!!!」
エルの悲鳴が、町中を悲しみの色で染めていった・・・
数時間後・・・。エル達はロボットの修理を行う診断所に来ていた。人間で言う病院である。その中の一つの病室のベットの上に、イヴは寝かされていた。
彼女の胸には、側の台に置いてある電力供給兼制御機から電気が送られている。イヴは、自発的な電力制御が出来なくなるまで衰弱していたのだ。そして、イヴの側には・・・
(エル)「お母さん・・・グスッ・・・。」(ライト)「マ・・・マ・・・。」
エルとライトが側で見守っていた・・・エルはこの病院に来て以来ずっとイヴの手を握り続けている。しかし、そこにはいつもの優しい温もりはなく、ただ無機質で冷たい手の感触しかなかった。
一方外では、ウルトラ兄弟達三人がエルとライトを待っていた。
(ミライ)「イヴさん・・・。一体エルさんとライト君に、どんな言葉をかけてあげれば・・・。」
(ダン)「愛する者を傷つけられ、命の危険まで晒された以上、悲しむどころの感情ではないだろうな・・・。」
(北斗)「ジャック兄さんの受けた悲しみの二の舞にはなって欲しくないですね・・・。」
このまま、この場所に留まってはいられない・・・しかし、彼女達を放ってはいけない・・・。一体どうすれば・・・。
イヴはベットの上で、ずっと苦しい表情を浮かべている・・・。何かに魘されているのだろうか。
エルは相変わらず手を握り続けている。しかし、それでもイヴの手に温もりが帰ってくることはなかった・・・。
(エル)「ライト・・・そろそろ行こうか・・・。」
ライトは小さく頷き、病室を後にしようとする。と、その時・・・。
(イヴ)「う・・・うぅぅん・・・はっ・・・。」(エル)「!!」
イヴが突然、苦しそうな声をあげたのだ。あまりに突然なことに、エルは驚いた。
(エル)「お母さん・・・?私のこと、わかる!?」
エルは声をかける。しかし、イヴは苦しそうなうめき声を挙げているだけだった・・・しかしその刹那・・・
(イヴ)「うぅっ・・・く・・・苦・・しい・・・。だ・・・れか・・・助・・・け・・・て。ぎ・・・ギ・・・コ・・君。」
(エル)「え・・・っ?・・・まさか・・・。」
エルはイヴの言葉で気づいた。イヴは意識不明・・・ではなく、別の世界に飛ばされたのだと・・・。
仮想世界『NIGHTMARE CITY』に・・・。
数分後、静まり返った病院にドアの開く音が響く。エルとライトが病室から出てきたのだ。ウルトラ兄弟達が気付き、彼女らを迎えた。
(ダン)「エル・・・大丈夫か?少しは落ち着いたか?」
彼女は小さく頷くが、それ以上の返答はない。エルの手にはスパークレンスが握られていた。
(ミライ)「早いところ、家に戻りましょう。」(エル)「・・・待って下さい。」
病院を出て家に向かおうとしていたその時、エルが静かに声をかけた。
(北斗)「どうした、エル?」
エルは手に小さな握り拳を作りながらこう言った。
(エル)「お願いです・・・私も、あの町へ一緒に同行させて下さい。」(ミライ)「えっ・・・?」(ライト)「お姉ちゃん・・・?」
突然な言葉に、沈黙が走った。
(北斗)「それは、どうして・・・?」(エル)「私は、病室で母の苦しそうな声を聞いたんです。『助けて・・・ギコ君』って・・・。だから、もしかして母は向こうの世界で、何かに捕らわれているんじゃないかって思ったんです。」
驚くダン達をよそに、エルの言葉は続く。握り拳を震わせながら。
(エル)「私・・・母をあんな風にした奴等が許せないんです!復讐をしたいんです!!」
ダンが静かに口を開いた。
(ダン)「気持ちは分かるが・・・今の君では駄目だ。」(エル)「どうして!?」
エルは驚いた形相でダンにきり返す。しかしダンはそのままの口調で続けた。
(ダン)「今の君の心は、憎しみと復讐心に支配されている。そのままでは力の使い方を誤り、見えるものも見えなくなるぞ。」
(エル)「でも・・・。」(謎の男)「ダン兄さんの言うとおりだ。」
その時、エルの背後から一人の男性が歩いてきた。日本人離れした顔をした、長身な男だ。
(ダン)「ジャック・・・。」(郷)「セブン兄さん、、エース、メビウス、遅くなってすみません。」
背後にいた男性は、ウルトラマンジャックの人間体である『郷 秀樹』(団 時朗)だった。
(エル)「あなたは・・・。」(郷)「君がエルだね。話は聞かせてもらったよ。」(北斗)「・・・さあ、行きましょう。」
ダン達はイヴの家に歩を進める。その後を、エルは渋々ついていく。さっきのダンの言葉に納得していないようだ。
郷は彼女のその納得のいかない表情をただじっと見ていた。かつての自分を、重ね合わせて・・・。
(郷)「セブン兄さん、先に行っててもらえませんか?エルに話したいことがあるんです。」(ダン)「分かった。」
郷とエルはダン達から離れ、石碑の丘で話すことになった。
(郷)「君のことは、ハヤタ兄さんからよく聞いているよ。」(エル)「お父さんから・・・?」
(郷)「君が生まれたことも、ティガの力を持ったことも、全部。」(エル)「そうだったんですか・・・。」
エルはすっかり落ち込んでいた。さっきダンから言われたことが頭の中を駆け巡っている。
しばらくの沈黙の後、郷がきりだした。
(郷)「エル、さっきの話だが君は復讐をしたいと言っていたな。」
エルは無言のまま小さく頷く。
(郷)「君の気持ちは痛いほど分かる。かつての俺がそうだったからな・・・。」(エル)「えっ・・・?」
郷の脳裏には、MAT隊員当時の最愛の女性『坂田アキ』が、ナックル星人の手によって襲われ、病院で息を引き取ったこと。そして、怒りに任せて変身しナックル星人に敗北、磔にされた光景がよみがえった・・・。
(郷)「あの時の俺は、ウルトラマンとしての冷静さを失っていた・・・。怒りに任せ、自分の戦い方を忘れ、敗北した。」
(エル)「・・・。」
郷は、エルの肩に手を置いて話を続ける。
(郷)「君には、俺と同じ過ちを繰り返して欲しくないんだ。それに・・・君はまだ若い。君が怒りに任せ力を使い、自滅することになったら、イヴやライトを悲しませることになる。」
(エル)「・・・はい。」
(郷)「君の愛する者は俺の時とは違い、まだ生きている。復讐するのではなく、守るために戦うことを考えてごらん。」
(エル)「守る・・・ため?」
(郷)「そう。どんな時も、守るべき者を守り通す・・・その諦めない心の強さが、『力の本質』。たとえ自分の身に何が起ころうと、不利な場合でも、最善を尽くす。それが一番大切だ。」
(エル)「私の・・・守るべき者・・・。」
エルの頭の中には、家族の様々な笑顔が映し出されている・・・。
いつも見守ってくれているイヴの優しい笑顔。エルのことが大好きでいつもニコニコしている、ライトの無邪気な顔。そして・・・ティガに変身する前に見せたウォーリーの最期の笑顔・・・。
(エル)「私・・・家族を・・・みんなを守りたい・・・。お母さんを助けたいの・・・。」
(郷)「その気持ちを忘れてはいけないよ。・・・わかったかな?」
(エル)「はい!」
エルと郷は、ダン達が待つ家に帰ることにした。
家に帰ると、ライトと『ヒビノ・ミライ』(五十嵐隼士)がオセロで遊んでいた。『モロボシ・ダン』(森次晃嗣)と『北斗星司』(高峰圭二)はその様子を横で見守っている。
(エル)「ただいま。『セブン叔父さん』・・・。」(ダン)「ん?帰ったか。いきなり改まって、どうした?」
エルは一呼吸おいて、話を続けた。
(エル)「セブンおじさん・・・病院の前であんな事を言ってしまい、ごめんなさい。でも、私は本当にあの町に行きたいんです。復讐の為じゃなくて、お母さんを救いたいの!!」
(ダン)「・・・やっと、分かってくれたか・・・。ただし、自分の身を犠牲にして仲間を守らなければならないときもある。その覚悟はできてるかい?」(エル)「・・・はい!」
エルはしっかり頷いた。その目には迷いが無く、しっかり前を向いていた。
(ダン)「よし。今夜はもう遅い。明日出発することにしよう。」
北斗達は笑顔で頷いた。
同じ頃、満月の輝くNIGHTMARE CITY内の小高い丘に、月に負けない黄色い体をしたAAがいた。
(AA)「あの日からもう六年か・・・。元気か?・・・しぃ・・・」
翌朝、ついに出発することになったエル達は石碑の前にいた。見送りにライトが来ている。
(ライト)「イヤだ!・・・僕、独りぼっちになるのイヤだよぉ(TAT)」(エル)「泣かないで。大丈夫。必ず帰るから・・・。だから、待っていてちょうだい・・・。ね?」
ライトは、独りぼっちになるのが怖かった。もしエルやイヴが帰ってこなかったら、本当に独りだけになってしまう。自分の父親と同じように・・・。そんな事にはなりたくなかったのだ。
(ライト)「必ず帰ってきてね・・・約束だよ?」(エル)「うん、約束する!」
エルはニッコリ笑った。いつも、イヴがする笑顔と同じだ。
彼女は石碑の方へ向くと、スパークレンスで光の玉を作り、中に入っていった。セブン・エース・ジャック・メビウスは自身の体をデータ化し、NIGHTMARE CITYへ向かう。
(ライト)「頑張ってね・・・お姉ちゃん!」
一方、こっちはNIGHTMARE CITY。
(モナー)「モララー、起きるモナ!」(モララー)「・・・?こ・・・こは?俺は・・・」
(モナー)「大変だモナ!町が元通りになっているモナッ!!」(モララー)「モナー?・・・!!何故だ・・・」
町中で話しているのは、白と青のAA。モナーとモララーだ。
(モララー)「何でこの町があるんだ!?それに俺達も消去されたはず・・・。モナー、何か知らないか?」
(モナー)「知るわけ無いモナ!僕だって気づいたらここにいたモナよ!!」
(モララー)「・・・と言うことは、俺達以外の奴ももしかして・・・。」
(モナー)「きっと生き返っているはずモナ。ギコも生き返っているかもしれないモナ。」
(モララー)「おいおいモナー・・・ギコは人間だぞ?生き返ってる筈が(モナー)「あるモナ。」」
モナーはモララーの言葉を否定した。
(モナー)「ギコは殺された直後、光のデータになってあの装置の中に入ったモナ。だから、きっとデータとして生き返っているはずモナ。」
モナーの言う装置とは、スパークレンスのことだ。
(モララー)「そうか・・・だったら早速、ギコの奴を」
と言いかけた刹那、目の前に巨大な緑色の光球が現れた。
(モララー)「うわっ!?」(モナー)「なにが起こってるモナ!?」
モララー達が驚いている中、光球は次第に小さくなっていく・・・。やがて光は収まり、その先にいたものは・・・。
光は収まりながら、人の形になっていく・・・。何が起きたのかさっぱり分からないモララー達は、その光景に目を瞑るだけだった。
やがて完全に光が収まり、モララーは恐る恐る目を開けると・・・しぃと同じ鮮やかな桃色の体をしているが、両耳に赤い線が入っているAAがそこに立っていた。
モララーは思わず口を開く。
(モララー)「お前は・・・誰だ?」
AAが驚いたようにモララーの方を向く。途端にモララーはAAの手に握られているものに目が入った。
(モララー)(あの装置は確か・・・しぃが持っていたやつじゃ・・・。)
そう。AAの手に握られている装置は、間違いなくスパークレンスである。
(モララー)「何処から来たんだ?」(AA)「私は現実世界から、ある人を探しに来たんです。・・・ここ、何処ですか?」
(モナー)「ここは、データの中に作られた仮想空間の町モナよ。誰を探してるモナか?」(AA)「ギコって言う人なんですけど・・・。」
(モララー)「そうか・・・。って、ギコだって!?」
モララーは驚きを隠せなかった。もし自分の考えが外れていなかったら、彼女は・・・
ギコの「子供」だ。
(モナー)「モララー?・・・どうかしたモナか?」(モララー)「どうしたも何も・・・。」
モララーは一回呼吸を落ち着かせて、彼女に疑問を投げかけた。
(モララー)「君は・・・ギコの子供か?」(モナー)「ちょwwwモララー!?何聞いてるモナか!!?」
(モララー)「モナー、少し黙っててくれ。」(モナー)「・・・('・ω・`)」
(モララー)「・・・どうなんだ?」
AAは少しの沈黙の後、静かに口を開く。
(AA)「あなたはもしかして・・・モララーさんですか?」(モララー)「?・・・そうだが?」
AAはそれを聞くとホッとしたような笑顔になり、さらに話を続けた。
(エー)「よかった・・・!私、ギコの娘の「エル」って言います!この世界では・・・『エー』って呼んで下さい!」
彼女の言葉にモララーは納得の表情を浮かべ、モナーは口をあんぐりと開けて唖然としていた。
(モララー)「やはりそうだったか・・・。君が持っているそれが目に入ったから、まさかと思っていたんだ。」
(エー)「スパークレンスって言うんです。あの時は母に力を貸して下さり、ありがとうございました。」
(モララー)「対したことはしていないさ。」
モナー・モララー・エーの三人は、ギコを捜すため町内を歩く。モララーとモナーは落ち着いていたが、エーはどこか慌てているような気がした。
(モナー)「エーちゃんはやっぱりお母さんにそっくりモナ。性格もよく似てるモナよ!」(エー)「そうですか?・・・周りの人からもよく言われます。まるで生き写しだって。」
モララーはモナーたちの話を聞きながら、この町が何故復活したのかを考えていた。町は自分達の力を結集させて完全に破壊したはず・・・なのに何故ここまで完全にデータが復活しているんだ?
何者かの干渉が有ったとしても、データは消去され復元もできないはずなのに・・・。
それに、彼女が来た理由がまだ不明確だ。ギコを捜してここまで来たのなら、何か特別な事があるに違いない。
モララーはエーに一つの疑問を投げかける。
(モララー)「ところで、君のお母さんは元気にしているのか?」
しまった!ごく一般的な質問をするなんて・・・。俺が聞きたいのはそっちじゃないのに!!
ところがこの質問にエーの背中に悪寒が走り、歩を止めてしまった。表情もいきなり暗くなり、俯きながら肩を小刻みに揺らす。彼女の足元には涙が落ちていた・・・。
(モララー)「って・・・あれ?」(モナー)「・・・エーちゃん?」
エーはそのまましゃがみ込み、泣き出してしまった。モララーは慌ててエーの肩を抱いた。
(モララー)「どうした?もしかして・・・お母さんの身に何かあったんだな?」
エーは静かに頷く。
(モナー)「一人で抱え込まないで、モナ達に言ってみるモナ。」
モララー達はエーを近くのベンチに座らせ、話を聞くことになった。エーは今までにあったことを全て話した。母に起きた異変、ウルトラ兄弟達のこと、光の国のコンピューターウィルスの事も・・・。
(モララー)「そうか・・・だから君はお父さんを捜しに来ていたのか。」(モナー)「早く捜し当てるしかないモナね・・・。」
そう言うと、暫く沈黙が走った。
(モララー)「ここに長居しても意味がない。捜しに行こう。」(エー)「モララーさん、モナーさん・・・。お願いがあるんです・・・。」(モナー)「ん?どうしたモナ?」
彼女の手から、二つの小さな光が放たれた。
放たれた二つの光はそれぞれ、モララーの手首とモナーの手の中へ飛んでいく。それらはそのまま形を変え、二つの変身アイテムになった・・・。
モナーとモララーのそれぞれに渡された変身アイテム・・・それは、ウルトラマンダイナの『リーフラッシャー』とウルトラマンアグルの『アグレイター』だった。
(エー)「私と一緒に、『ウルトラマン』として戦って欲しいんです!!」(モナー・モララー)「えっーーー!!?」
二人が驚かないはずがない。いきなりウルトラマンになれと言われても・・・。
(モララー)「エーちゃん・・・いくら何でもこれは・・・。」(モナー)「ちょっと無理があるモナよ・・・。(^^;」
(エー)「無理なのは承知でお願いしています・・・でも・・・。」
エーは涙声で精一杯声を張り上げてこう言った。
(エー)「それでもお母さんを、助けたいんです!!どうか力を貸して下さい!お願いします!!!」
モナーとモララーは一瞬迷ったが、すぐに答えた。
(モララー)「分かった・・・ギコには前の戦いで借りがある。力を貸そう。」
(モナー)「僕は自信がないモナ・・・。でも、しぃちゃんが危ない目に逢っているのに、放っておけないモナ!」
彼らの答えはイエスだった。敵だった頃の彼らが犯した罪を、晴らしたいと思ったからだ。
(エー)「ありがとう・・・!!」
その時だった。エーの後ろに、同じぐらいの大きさの超古代怪獣『ゴルザ』が姿を表したのだ。
(モララー)「エー!危ないぞ!!!」(モナー)「うしろモナ!!!!」
エーは前のことばかりに気がとらわれ、後ろの気配に全く気づかなかった。エーが後ろをむくと、そこには攻撃をしようとしているゴルザが・・・!
(エー)「きゃあっ!」
ゴルザは、今にも腕を振り降ろそうとしている。エーは腕を頭に乗せ、しゃがみ込んだ。回避行動をとっても、もう遅い・・・。エーはやられる覚悟で目を瞑った。
振り降ろす腕の風音が聞こえる。ところが・・・その刹那、どこかで聞いた懐かしい音と共に、暖かい閃光がゴルザの前に立ちはだかった・・・。
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光が止み、エーの目の前にいたのは、彼女にとっては嬉しいものだった。モナー達は驚きを隠せなかった。
(モナー)「・・・嘘じゃないモナ・・・ね?」(モララー)「本当に居たのか・・・。」
彼女の目の前に現れた者・・・それはNIGHTMARE CITY事件以降姿を消していた伝説の光の巨人・・・
『初代ウルトラマン』!!
(エー)「お父さん!!」
エーの声に、ウルトラマンが振り返る・・・。
(マン)「・・・?(・・・?)」(エー)「私よ・・・。エルよ・・・!」
(マン)「シャッ・・・。(・・・エル・・・。)」
エルは笑顔で頷く。しかしその顔には涙があった。父親に会えたことが何より嬉しかったのだ。
(マン)「ヘッ・・・!!」
ウルトラマンは頷くと、ゴルザを蹴り飛ばした。エー達をゴルザから守るために、戦闘が始まった。
(マン)「ヘァァァッ!!」
ウルトラマンはゴルザを持ち上げ、上手投げをする。なにが起きたのか状況が把握できてないゴルザは受け身を取ることができず、ダメージを受けた。
彼女が立ち上がると、モララー達が駆けつけてきた。
(モナー)「大丈夫モナか?」(モララー)「おい、あれってもしかして・・・。」
(エー)「彼は初代ウルトラマン。ウルトラ兄弟の二番目で、私のお父さんです!」
モララー達は信じられなかった。まさか目の前にいる伝説の光の巨人が、ギコだなんて・・・。
エーが立ち上がろうとしたその時、ゴルザとウルトラマンは巨大化し、近接格闘が始まった。
ウルトラマンは得意技である投げ技を繰り出していく。
(マン)「ヘッツ!」
投げ技で弱らせたところで、スペシウム光線を放つ。
・・・しかし、ゴルザはスペシウム光線を腹から吸収してしまった。
(マン)「ハウッ!?」
ゴルザはそのまま自分の体力を回復させ、反撃を始めた。
ウルトラマンは次第に劣性になっていく・・・。
(モララー)「このままだと、ギコが・・・。」(モナー)「怪獣が強すぎるモナ・・・。光線まで吸収するなんて・・・。」
モララー達はウルトラマンの戦いを木の陰で見守っていた。勿論、エーも一緒だ。ところが・・・
(モナー)「あれ?エーちゃんは?」(モララー)「!!」
エーは木の陰から出て、ウルトラマンが戦っている方向に歩いていた。
(モナー)「エーちゃん!戻ってくるモナ!!」(モララー)「俺達では相手にならない!!死ぬことになるぞ!」
エーは声に気付き振り返る。しかしそこには先ほどまでの強ばった表情はなく、笑顔でモララー達にこう言った。
(エー)「大丈夫です。心配しないで下さい!」
エーは再び前を向く。右手にはスパークレンスが握られている。
(エー)「モナーさん、モララーさん、見ていて下さい。私の、もう一つの姿を・・・!」(モララー)「もう一つの・・・姿?」
エーはスパークレンスを振りかざす。すると・・・辺り一面が、強烈な光に包まれた。その光は、彼らがエーと出会う直前に見た光球と似ている。モララー達はその眩しさに思わず目を瞑った。
(モララー)「この光は・・・まさか・・・。」
光が止み、モララー達は目を開けた。すると・・・目の前にいたのは『もう一人の光の巨人』だった。モララーはその姿を見て、ただ驚くしかなかった。巨人は振り返り、モララー達を見おろす。
(モララー)「エー・・・なのか?」
モララーが尋ねると、巨人は静かに頷いた。そして再びゴルザの方を向くと、巨人はウルトラマンを救うべく走り出した。
(モナー)「今の巨人・・・エーちゃんモナか?ウルトラマンに似ているモナ・・・。」(モララー)「俺は6年前、あの巨人と戦った・・・。彼奴の名前は・・・『ウルトラマンティガ』だ。」
モララーは6年前に戦った巨人を思いだし、名前を呟いた。銀色に、赤と青紫の体色。そして、背面から胸にかけて付いているプロテクター。その姿は正しく、ウルトラマンティガのものだったからだ。
しかし、あれは確かギコが変身するウルトラマンの筈・・・。モララーは疑問に思った。
ティガはゴルザの頭に向かって跳び蹴りを放つ。ゴルザはそのスピードと威力に思わず遠くに吹き飛ばされた。ウルトラマンはその様子に驚きながら立ち上がり、ティガの隣に並ぶ。二人は互いに顔を合わせ、頷いた。
(初代・ティガ)「シェアッ!!」
ついに実現した、親子のウルトラマン。ティガは怪力のパワータイプにチェンジし、ゴルザに立ち向かう。ゴルザはその隙を狙って、ウルトラマンに超音波光線を当てようとした。しかし・・・
(初代)「ヘッ!」
ウルトラマンは両腕をカラータイマーの横に置き、光線を吸収してしまった。同時に点滅していたカラータイマーが青に変わった。この技は、ウルトラマンがゼットンの光線吸収を応用した、エネルギー回復のための秘技である。
ゴルザが光線を打った直後、ティガが目の前に現れアッパーを顎にヒットさせる。
(ティガ)「ハッ!」
ゴルザはそのまま軽々と空中へ上げられた。
その光景を見たウルトラマンは、ウルトラエアキャッチをゴルザに浴びせる。ゴルザはそのまま空中に制止した。
ティガはマルチタイプに戻ると、ウルトラマンと並ぶ。そして・・・
(ティガ)「チャァッ!!」(初代)「ダァッ!!」
ティガのゼペリオン光線・ウルトラマンのスペシウム光線を同時発射させる。身動きのできないゴルザはそのまま空中で爆砕した。
(モララー)「す・・・凄い・・・。」(モナー)「やったモナ!!」
モナー達は、親子の連携プレイに思わず感激してしまった。
戦いに勝利したティガは、そのまま元のエーの姿に戻った。
(モナー)「エーちゃん、凄いモナ!」(エー)「ありがとう。あれが私の、もう一つの姿なんです・・・。」
(モララー)「しかし・・・あの姿になれるのは、ギコじゃないのか?」
(エー)「実は・・・」(AA)「エルは、俺に自分の力を分けてくれたのさ。この世界から脱出するために。」
(エー)「・・・え・・・っ?」
エーが振り返るとそこには・・・猫耳に、少し長めのしっぽ、両頬に生える2本の髭・・・そして、月のように優しい、黄色い体をしたAAがそこに居た。
(エー)「お父さん・・・?」(ギコ)「エル・・・大きくなったな!」
エルはそのAAが自分の愛する父親ーギコーと気付き、彼の胸に飛び込んだ。ギコはそれをしっかりと抱き止める。
(エー)「お父さん!!!・・・ずっと・・・ずっと会いたかったよぅ・・・。お父さんがいない間、すごく寂しかったんだよ・・・?」
(ギコ)「エル、ごめんな・・・。6年間、辛い思いをさせて・・・。お父さん・・・君に会えて、とても嬉しいよ・・・。ずっと・・・会いたかった!」
エーは今までの寂しさを晴らすように、大声を挙げて泣いた。
エルはギコにこの世界に来た事情を全て伝えた。イヴが意識不明になったことも、全部。
(ギコ)「そうか・・・。実はお父さんも目が覚めてから、この世界が復活した事についてデータをハッキングして調べていたんだが・・・。」
ギコはそれだけ言うと黙り込んでしまった。何か思い出したくないことでもあったのだろうか。
(モララー)「・・・どうした?」(エー)「最後まで教えてよ・・・。」(ギコ)「・・・わかった。」
ギコは一息おくと、話を続けた。
(ギコ)「お母さんが・・・しぃが・・・町の中心部に捕らえられている事が判ったんだ・・・。」(三人)「えっ!?」
さらにギコの話は続く。
(ギコ)「この事件を裏で操っているのはエースの言うとおり、恐らくヤプールの仕業だ。ヤプールはデータと一体化し、真っ向から俺達を消すつもりなのだろう。しかも、どうやら其れだけではないらしい・・・。」
(モナー)「どういう事モナか?」
(ギコ)「ヤプールは、独自の回線を使って浄化されていた宇宙ウィルスまで復活させたらしい・・・その名前は・・・」(エー)「『カオス・ヘッダー』・・・でしょ?」
(モララー・モナー)「・・・カオスヘッダー?」
カオスヘッダーとは、怪獣や人間に寄生し凶暴化させるという光のウィルスである。
かつて地球に飛来し、多くの怪獣や機械に寄生し凶暴化させてきたが、カオスヘッダーを浄化するために現れた青い体の慈愛の戦士『ウルトラマンコスモス』によって無害の存在となり、地球を去っていった。
そのウィルスが再びヤプールによって有害化され、蘇ったのだ。
(ギコ)「この町を破壊するには、ティガとコスモスの力が必要なんだが・・・。」
(モナー)「コスモスは地球に飛来していないモナ・・・。」
(モララー)「俺達の力でどうにかしなければ不味いな・・・。」
三人が意見を言い合っていると、エーが意見を言った。
(エー)「ちょっと待って下さい!・・・この町が消えちゃったら・・・お父さん達も、消えちゃうの・・・?」
(モララー)「・・・。」
(エー)「私・・・そんなのイヤだ・・・。また会えたのに消えちゃうなんて・・・そんなのイヤ・・・!」
エーの口からでた言葉は、家族と離ればなれになりたくないという『魂の叫び』だった。しかし、ギコは落ち着いた声でこう言った。
(ギコ)「エー、心配するな。この町にいる見方は全員、『人間』だよ。」
(エー)「・・・え?」(モララー)「俺達が・・・人間?・・・どういう事なんだ?」
ギコ以外の全員は、頭に疑問符を浮かべた。
(ギコ)「・・・実は、ヤプールは俺達をデータではなく、人間として蘇らせたらしいんだ。それだけでなく、この世界に来るやつも人間になってしまう。そうすれば、簡単に俺達を倒せるからな・・・。」
(エー)「私も、お母さんも・・・人間・・・。」
周りの驚きの反応をよそに、さらにギコの話は続いた。
(ギコ)「例えヤプールを倒しても、俺達は元の体には戻れない・・・つまり、現実世界で人間として生きなければならない・・・。」(モララー)「現実世界で生活するのか・・・。」
(エー)「ちょっと待って・・・。私達が人間になったら、ライトはどうなっちゃうの?あのまま機械として、一人で生きなきゃいけないの?」(ギコ)「それは・・・。」
ギコは言葉を詰まらせる・・・エーは握り拳を作りながら言葉を続けた。
(エー)「・・・昔のお父さんと一緒じゃない・・・。あの子はまだ六歳なのに・・・。私、そんな可愛そうなこと出来ない・・・耐えられないよ・・・!!」
エーは公園の休憩所から出て行ってしまった。
(ギコ)「エル・・・。」
エーが出ていった直後、町にティガの宿敵である精神生命体「キリエロイド」が巨大化して現れた。しかし・・・今回のキリエロイドは様子がおかしい。足に鋭利な刃物が付いており、纏う炎が赤ではなく青になっている。
よく見ると、キリエロイドの周りには虹色の光が漂っている・・・カオスヘッダーだ。キリエロイドはカオスヘッダーの手によって、「カオスキリエロイド」になっていたのだ。
(エー)(私が守らなきゃ・・・やられる・・・!)
エーはティガに変身する。変身後、すぐにキリエロイドが襲ってきた。キリエロイドは連続で攻撃を繰り返していく。しかしティガはそれを一つ一つガードし、カウンター攻撃を浴びせていった・・・。
防御技を繰り返した後、彼の隙を見たティガはキリエロイドに馬乗りになり、顔面殴打を繰り返していく。しかし・・・やはり様子がおかしい。普通ならもっと攻撃してくるはずが、全く攻撃を仕掛けてこないのだ・・・。
ティガはさらに、ウルトラスイングで相手を投げ飛ばす。これでかなりのダメージを与えられたはずだ。
ところが・・・。
キリエロイドはそのまま、何事もなかったかのように立ち上がった・・・。全くダメージがないようだ。
(ティガ)「!?」(モナー)「エーちゃんの攻撃が・・・効いてないモナ・・・。」
ティガは止めをさすために、ゼペリオン光線を放つ。しかし・・・キリエロイドは当たる直前に光の粒子となって散った。
(ティガ)(!!・・・何処に行ったの?)(モララー)「エー、後ろだ!!!」
モララーの声に振り向くとそこには・・・足に青い炎を纏ったキリエロイドがいた。彼はそのまま、ティガに回し蹴りを食らわせる。
(ティガ)「っ!!!」
蹴りを腹に食らったティガは、そのまま弾きとばされた。足に高温の炎を纏っているため、ダメージも相当なものだ。
キリエロイドは先ほどとは比べ物にならないほど高速なスピードで、連続攻撃を仕掛ける。ティガは成す術もなく攻撃を全身に受けていった・・・。
ドリルキックを受けた直後、ティガのカラータイマーが鳴り始める。そればかりか、すぐに点滅スピードが上がっていった。
(ティガ)(私・・・もう力が入らない・・・。でも・・・みんなを守りたい・・・。)
ティガにはもう再び立つ力は残されていない・・・一体どうすれば・・・。
その時だった・・・突如現れた青い光球が、キリエロイドを弾きとばしたのだ。青い光球はそのまま消えることなく、ティガの前に降りてきた。
青い光球からはその場を包み込むような優しさや、太陽のような暖かさ、そして何者にも破られることのない勇気が感じられた。
青い光球は、ティガに話しかけた。
(光球)「お姉ちゃん・・・。ここは僕に任せて!!」(ティガ)「・・・ライ・・・ト・・・?」
光球はそのまま形を変えて、『青い巨人』の姿になった。顔立ちが初代ウルトラマンににている。
(モララー)「俺達は変身してないぞ・・・。」(ギコ)「まさか・・・。」
青い巨人の正体は、ライトの光の遺伝子が覚醒し変身した、青い慈愛の戦士・・・『ウルトラマンコスモス』だった。
コスモスはいなし技が主体の基本形態「ルナモード」から、攻撃が主体の「コロナモード」にモードチェンジし、キリエロイドに立ち向かう。
キリエロイドは再び蹴り技を炸裂させる。しかしコスモスはその全てをいなし技で避けながら、攻撃を繰り出していく。そのスピードはキリエロイド以上だ。
読めない攻撃にキリエロイドは次第に劣性になっていった・・・。
111 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:15:55 O
その時、MAKO3DQNKYは
112 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:17:09 O
やりたくてデリヘルに電話した
113 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:18:28 O
しかし嫁に見つかり、
114 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:19:49 O
離婚届に印を押された
115 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:21:39 O
しかし離婚したくないMAKO3DQNKYは必死に嫁に謝った
116 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:24:06 O
MAKO3DQNKY「次、デリヘル呼んだらチンコ切るから」
117 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:25:32 O
嫁は渋々、許した
118 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:26:25 O
そして2日後
119 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:28:35 O
未成年を部屋に連れ込んで淫らな行為をした。
120 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 12:29:59 O
MAKO3DQNKYの性癖は幼い子供に向けられていた
>>111 あのさぁ、人の邪魔するんなら消えてくれない?
うざいんだけど
122 :
ほんわか名無しさん:2009/09/22(火) 13:42:30 O
>>121の言葉に深く傷ついたMAKO3DQNKY…
自スレに戻る決意をする
自スレは「思春期の相談スレ」
さて・・・荒らしは置いといて、小説に戻りましょうか(^^;
>>110の続き
コスモスはキリエロイドの腹にアッパーカットを食らわせそのまま、ビルに叩きつけた。
隙が出来たところでコスモスは得意技である、興奮抑制光線「コロナ・エキストラクト」を放ち、カオスヘッダーを切り離した。
その直後ティガのカラータイマーの点滅が止まり、エーの姿に戻った。ギコ達は木の根本に倒れているエーに駆け寄る。
エーは体中が痣だらけで、口から血を吐いていた。苦しそうに呼吸をしている。
(ギコ)「エル、しっかりしろ!!」(エー)「・・・お父さん・・・?」
(ギコ)「バカ・・・心配するだろ!死んだらどうするんだ!!!」(エー)「ごめんなさい・・・。でも私、みんなを守りたかったの・・・。」
(ギコ)「一人で守ろうとするな・・・みんなが付いてるんだぞ。」
エーは、久しぶりに父親に怒鳴られた・・・。
(モナー)「・・・取りあえず、無事で良かったモナ!」
暫くの沈黙の後、モナーが空気を和ませた。ところが・・・
(モララー)「まだ喜べないぞ・・・。あれを見ろ。」
モララーの声に振り返ると・・・そこにはカオスヘッダーを浄化されたキリエロイドが、再びコスモスを襲っていた。
彼の心は、完全に浄化できなかったのだ。
キリエロイドは怒りに任せて攻撃を繰り返していく。スピードをフルに生かしているため、コスモスも避けるのでやっとだ。
(モララー)「このままだとコスモスまでやばいぞ・・・。」(エー)「コスモス?・・・!!お父さん、コスモスの正体はライトよ!!」
(ギコ)「何だって!!?」(モララー)「おいギコ、それってお前の息子じゃなかったか?」
(ギコ)「ああ・・・。でもまだ彼奴・・・六歳なのに・・・。」(エー)「ライトはまだ小学校に入学したばかりなの・・・。」(モナー)「まだ小さいのに・・・モナ達を守るために・・・。」
ギコはショックだった。まだ幼い息子が、自分達を守ろうとしているとは・・・それに比べて、自分は下から何も出来ずに眺める事しかできないなんて、情けなかった。
(ギコ)「俺、彼奴を助けてくる。」(エー)「お父さん・・・。」
ギコはβカプセルを持ちながら言った。
(ギコ)「このまま何も出来ずに終わりたくないんだ・・・。」
彼はコスモスの方を向き、βカプセルを掲げようとした。と、その時・・・背中に冷たい鉄の触感が走った。
(モララー)「待て。」
ギコが振り向くと、そこには『赤く光る刃』を持ったモララーがいた。
(ギコ)「モララー・・・何故俺を止める?」(モララー)「お前はさっき、エーに一人で守ろうとするなって言ったようだが・・・それはお前もそうなんじゃないのか?」
(ギコ)「・・・。」(モララー)「力を使うことだけが、守るという意味って捉えてないか?」
(ギコ)「うるさい!お前に俺の気持ちがわかるか!?過去に大切な者を失った、俺の気持ちを!!」
モララーはギコの顔にストレートを放った。
(モララー)「それはこっちの台詞だ!!お前のような悲しみは、俺も受けているんだ!お前は大切な者が生きている・・・でも俺の大切な奴は、二度と帰ってこないんだぞ!!」
モララーは赤い刃を消し、起きあがったギコの肩に手を置く。
(モララー)「ギコ、よく聞け・・・。お前は今、目の前の事にとらわれすぎだ。もっと周りをよく見てみろ。お前に出来ることは、すぐそこにあるだろ?」(ギコ)「モララー・・・。」
(モララー)「お前が家族に、6年前と同じ悲しみを二度と味あわせたくない気持ちは分かる。しかし、今はエーの側にいてやった方が良いんじゃないか?」
モララーはギコの気持ちを見抜いていた。だからこそ彼を止めに入ったのだ。
モララーはアグレイターをギコに見せながら、こう言った。
(モララー)「俺はお前やしぃ、エーと出会って、まだ自分には守るべき者がいるって気づけた。だから、ここは俺に任せろ。お前はそこにいる、愛する者の側にいてやれ。」
モララーはギコの隣をすり抜け、そして・・・
(モララー)「アグルゥゥゥーーーッ!!」
アグレイターを発動させ、蒼い海の光の戦士『ウルトラマンアグル』に変身をした。アグルはキリエロイドを蹴り跳ばし、コスモスの横に並んだ。
(コスモス)「あなたは・・・。」(アグル)「君のお父さんの友達だ。一緒に戦おう。」
その刹那、キリエロイドがアグルに向かって蹴りかかってきた。
しかしアグルは逆に其の力を利用し、左腕に発生させた光の剣「アグルセイバー」で、キリエロイドの左胸にある光球を斬り裂いた。いかにも剣術が得意な、モララーらしい戦法だ。弱点である光球を斬られ、動けなくなったキリエロイド・・・
(アグル)「今だ!」(コスモス)「はい!」
二人は必殺技である、「アグルストリーム」・「ネイバスター光線」を放つ。キリエロイドはそのまま成す術もなく、木っ端微塵になった。
(モナー)「やったモナ!ついに倒したモナ!!」
二人は地上に戻り、AAの姿に戻った。モララーは、ギコにそっくりな黄色い体に、胸にTの字が書いてあるAA ータカラギコー にこう言った。
(モララー)「ほら、あの黄色い体の人が君のパパだ。」(タカラ)「ありがとう!」
タカラは、そのまま父親 ーギコー の元に駆け寄っていく。
(タカラ)「パパ!!」(ギコ)「ライト!」
タカラはギコに抱きついた。ギコは抱きとめると、優しく彼の頭を撫でた。タカラにとっては、六年ぶりの父の温もりだ・・・。
(タカラ)「僕のこと、忘れてないよね?」(ギコ)「忘れるわけがないだろう!・・元気だったか?勉強は頑張っているか?」
(タカラ)「うん!!・・・会えるの・・・ずっと、待ってたよ。」(ギコ)「お父さんも・・ずっと会いたかったぞ・・・。」
その時、タカラは足元に痣だらけになった自分の姉がいることに気が付いた。
(タカラ)「お姉ちゃん・・・?」(エー)「ライト・・・よく頑張ったね・・・。お姉ちゃん、ちゃんと見てたよ・・・。」
(タカラ)「お姉ちゃんごめんね・・・もっと早く行けば・・・。」(エー)「ううん、気にしないで。来てくれただけで、十分よ・・・。」
エーは弟の顔に手を寄せた・・・。
ギコはエーを背負い、公園の休憩所へ戻る。休憩所に向かっている最中、ギコがモララーに話しかけた。
「モララー・・・さっきは悪かったな。俺は怒りに任せ、大切なものを見失っていたような気がする。」
「気づいてくれたならそれでいい。それに、俺はこれでお前達に恩が返せる。俺を正気に戻してくれた恩を、な。」
モララーは顔に笑みを浮かべながら答えた。
エーはギコの背中で少し顔を赤らめていた。16になってまで親に背負われるとは、なんか恥ずかしい。でもなぜか、この背中の暖かさが落ち着く・・・。もしかしたら、ずっと求めていた温もりかもしれない。
エーは少し嬉しくなって、ギコの背中で眠ってしまった。暖かくて大きい、父親の背中に揺られながら・・・。
同時刻、NIGHTMARE CITYの別の場所・・・。
かつてギコとモララーが争った橋の上・・・ここにも、二人のAAが眠っていた。一人は十円のように茶色いフサフサした体毛を持つAA。もう一人は、赤い体にしぃと同じように頬にアスタリスクが付いているAAだ。
二人はそれぞれ、「フサ」と「つー」という。
彼らは道路上で、仰向けに並べられていた・・・。
「オイ、オキロ!」「ん・・・?・・・!!」
フサはつーの声で気が付いた。
「なんでお前が此処にいるんだ??そもそも俺達死んだよな?」「ソレハコッチノセリフダ!!オレモシラネェアイダニ、マチガモトドオリニナッテタンダゾ!」
「町・・・?・・・!嘘だろ!?」「ウソジャネェ。ミテミロ。ナニモカモモトドオリニナッチマッテル。」
フサは信じられなかった。自分達の力を結集させて破壊した町が、また元通りになってるとは・・・。それに、既に死んでいる自分が何で生きているのか不思議だった。
「俺達が生きているということは・・・他の奴も・・・。」「ワカラネェ。モシカシタライキテルカモナ。トリアエズ、サガシテミルカ?」「ああ。そうだな。」
取りあえずフサ達は町に向かって歩きだした。誰かに会えるかもしれない・・・そんな期待を寄せながら。
そういえば、彼女の性格が昔と大きく違う。前はもっとはじけていたのに、少し控えめになっている・・・。其ればかりか、フサが顔を向けると、そっぽを向く・・・。
「?ドウシタ?・・・ナンカオレノカオニツイテイルノカ?」「いや、何にも。」
「ダッタラコッチミルナ・・・バカ・・・。」(何だこいつ・・・。)
フサは再び前を向いて歩く。つーはその様子をじっと見ていた・・・何か特別な事でもあるのだろうか。
(ナンダコノカンジョウ・・・ムネガドキドキスル・・・。オレ・・・モシカシテアイツノコト・・・。)
その時だった・・・上空から異形な何かが落ちてきた。殺気を感じたつーとフサは、一度後ろに下がる。
煙が消えたその先にいたのは・・・全身が目玉だらけで、中央に巨大な眼球が付いている。
この怪物はー奇獣 ガンQーと呼ばれ、かつて体内吸収などでウルトラマンガイアを苦しめたものだ。
「アヒャヒャヒャヒャ!キリゴタエアリソウダ!!」
つーは手に紫に輝くナイフを持ち、巨大な目玉に向かって投げつける。
しかし・・・その攻撃は効くことがなかった。ガンQはつーの投げたナイフを、目から吸収してしまったのだ。
「ナッ!?」
次の瞬間、ガンQの目からつーの投げたナイフが発射された。目標はつーではなく、フサだった・・・。
フサの左肩と右足に、ナイフがヒットする。
「ぐあっ・・・くっ・・・!」「フサ!!・・・クソヤロォ!」
つーはナイフを持ったままガンQに突撃していく。その刹那、ガンQの目から光線が発射され、つーをとらえた。
「つー、逃げろ!!」
ガンQの光線を受けたつーはその場に立ち止まる。しかし、体が思うように動かない・・・。体が引っ張られている・・・。
「ウッ・・・ツヨイ・・・。タエ・・・ラレナイ・・・。」
引力光線に必死に耐えるつー。ところが・・・。
「キャァァァァッ!」「つーッ!!」
つーはそのままガンQに飲み込まれた・・・。飲み込んだ後、ガンQは得意そうにあざ笑った。
「つーを・・・返せ・・・!!」
フサは左肩と右足のナイフを抜くと、右手に持ってガンQに突っ込んでいった・・・。しかし、フサが攻撃をしようとしたとき、ガンQの目の中の光景が見開かれた。その中には・・・。
「つー!?」
眼球の中で、つーは溺れていた・・・。目の中に、この橋の下にある海水を閉じこめてあったのだ。
「ゴボッ・・・ガボボッ・・・。」
苦しそうな顔で、必死にもがくつー。と、その時・・・目の中に電撃が放たれ・・・
「ゴボボッ!!!・・・ゴボッ・・・コポ・・・。」
つーの動きが止まった・・・。口から小さな空気がでている。
「やめろぉぉぉぉっ!!!」
ガンQは呆然としているフサを蹴り飛ばし、海へつき落とした・・・。
フサが落ちた瞬間、海上には大きな水しぶきがおきた・・・。
フサが落ちた直後、上空から四つの赤い光が降りてきた。ガンQは眩しさに目を瞑った。
暫くして・・・赤い光は徐々に退き、中から現れたのは・・・。
「デュアッ!!」「シャァッ!!」「ヘッツ!!」「シャッ!!」
エルと共に仮想空間に入ったウルトラ兄弟・・・セブン・ジャック・エース・メビウスだった。
(セブン)「いきなり相手のおでましか・・・行くぞ!!」(一同)「はいっ!!」
セブンは足の眼球に向かって、エメリウム光線を発射させる。ガンQは眼球が武器になる代わりに、眼球自体が弱点なのだ。
ジャックとエースはそれぞれ、流星キックで大きな眼球にダメージを与える。その直後に、メビウスがライトニングカウンター・ゼロを眼球のど真ん中に打ち込んだ。
ガンQは吹き飛ばされ、全身を強く打ちつけた。ウルトラ兄弟は一斉に必殺光線を出そうとする・・・。
しかしガンQはそれをさせないよう、眼球の中の人物「つー」を見せた。人質を見せられ、攻撃ができなくなったウルトラ兄弟たち・・・。
(メビウス)「このままだとあの中の人も、死んでしまいます!」(ジャック)「下手に攻撃したら、中の人質まで・・・。」
このままでは何も出来ない・・・どうすれば・・・
一方のフサは、海底へただひたすらに落ち続けていた・・・。泳ごうとしても、左肩や足をやられたためうまく泳げない・・・。
フサの頭の中は無念で一杯だった・・・。昔のNIGHTMARE CITYの時も、何も守れなかった。だからギコの気持ちと同じように、大切なものを二度と失わないと誓った。
でも今回、その誓いは果たせなかった・・・逆に自分が守られたのだ。あの時の、ギコと同じように・・・。自分が非力なせいで、再び大切な者を失ったのだ・・・。同じ罪をどう償えばいいんだ・・・。
そのように考えていたら、突然自分の背後が暖かくなっていた。海底は冷たいはず・・・一体何故だ?
フサが閉じていた目を開けると、そこには赤くて暖かい巨大な光球があった。赤い光の一部には、青も混ざっている。赤い光球はフサに話しかけた。
「それが、君の望んだ結末か?」(いや、違う。俺は大切な者を救いたかったんだ・・・。こんな結末、望んでなんかない。)
「ならば、彼女と自分の運命に抗ってみせろ。」(抗う?・・・どうやればいいんだ?俺は何も持っていない・・・。)
「人を守りたいという心が有れば、それでいい。」
突如、フサの右手が赤と青に輝きだした・・・。
右手に光が集まった瞬間、フサの体に今までに体験したことがない力が湧いてきた。
(これは一体?)「君に、地球の光を授けよう。」
(光?・・・どう使えば良いんだ。)「それは君次第だ。その力で、君の大切な者を守れ。まだ彼女は生きている。諦めてはいけない。」
巨大な光球はそのまま姿を消した・・・。
フサはさっきまで輝いていた右手を見た。するとそこには、ウルトラマンガイアの変身アイテム『エスプレンダー』が握られていた。
(さっきまでの光は、此だったのか・・・。)
フサは人を守りたいという気持ちを込めて、強く握りしめた。さっきまでの怪我はもう無い。
(つー、待ってろ・・・必ず助けるぞ!)
フサは海上に向かってエスプレンダーを突き上げ叫ぶ。
『ガイアァァァァ!!!!』
フサは、大地と海の光を完全に解放した地球の光の巨人『ウルトラマンガイア・スプリームバージョン』に変身した。
ガイアは地上に降り立つと、驚いているウルトラ兄弟達をよそに、ガンQの体にある巨大な眼球をもぎ取った。これでもう攻撃は出来まい。
ウルトラ兄弟達は改めてそれぞれの必殺光線を放ち、ガンQを爆砕させた・・・。
ガイアは眼球の中のつーを救うため、上部を「シャイニングブレード」で斬り裂く。
斬り裂いた後、中に閉じこめられているつーを引き上げた。閉じこめられてから、もう五分以上経っている・・・。いくらタフな彼女でも、こんなに長い時間水の中に呼吸なしでいられるのは不可能に近い。
つーはグッタリと目を閉じている・・・。フサはガイアの姿のまま、つーに話しかけた。
「おい、つー!起きろ!!しっかりしろ・・・!」
体を揺すっても、彼女は起きようとしない・・・。呼吸もかなり薄い。
「つー・・・。おい・・・助けたのに・・・そんなの有りかよ・・・。」
フサは彼女の体を抱き寄せた。体が冷たい・・・。
「お前は敵である俺を守ろうとしてくれた・・・なのに・・・俺は・・・また守れなかったのか?」
彼はいつの間にか、つーの事が好きになっていた。仲間ではなく、恋人として・・・。「敵対する者」だったのに、データとして漂っていた僅かな間に「愛する者」に変わっていたのだ。
また守れなかった・・・フサの心から、希望の光が消えようとしていた・・・。と、その時・・・。
今まで反応がなかったつーの手が、ゆっくりと動いた・・・。手はそのままガイアの顔に・・・。
つーの堅く閉じていた目が少しずつ開かれていく・・・。
「・・・フ・・サ・・・ナノ・・カ・・・?」「つー・・・?分かるか・・・?」「ナント・・・ナク・・・オマ・・エノ・・・ニオイガ・・スル。」
フサはガイアの姿から、元のAAに戻った。
「よく・・・分かったな・・・。」
フサの目は涙で一杯だった・・・。悲しいのではない。ようやく自分の愛する者を守ることができて、嬉しかったのだ。彼はつーの冷たい体を抱きしめた。
「お前が生きていて・・・本当に良かった・・・!!」「オ・・・オイ、フサ・・・ハズカシイジャネエカ・・・。」
体が赤いので判りにくいが、彼女は顔を真っ赤にしていた。
・・・その光景を人間体に戻って笑顔で見ているウルトラ兄弟達。フサは彼らの存在に気付くと、まだ立てないつーをお姫様抱きをしながら近寄った。
「助けていただき、有り難うございます。あなた方がいなければ、彼奴に勝てませんでした。」「礼は要らないさ。同じ光の巨人同士だ。」
セブンが笑顔で言葉を返す。ここに、新たに光の絆が生まれた・・・。
フサとつー、そしてウルトラ兄弟は、ギコを探して歩いていた。ウルトラ兄弟から大体の話は聞いた。しぃが危険に晒されていること、その娘のエーもこの町に来ていること・・・そして、ギコを含めた全員が人間になったことも。
最初は信じられなかったが、今は驚いている暇はない。一刻も早くエーに合流しなくては・・・。
つーを背負いながら歩くフサが、ミライに聞いた。
「そう言えば、何であなた達は人間の姿でいられるんですか?普通、この世界に来る人はみんなAAになっているはずなのに。」
「僕たちは変身したまま自分の体をデータ化したから、要領は関係なくなってるんです。それに、僕らは元々人間でしたから。」
ミライは笑顔で答えた。しかしフサは疑問に思った。ウルトラマンが元々人間?宇宙人というのと矛盾がある・・・。
それを察したのか、ダンが答えた。
「300万年前まで、俺達は人間と全く同じだった。しかしある科学実験の失敗によって、今の力を得たんだ。人間の姿を失う代わりにな。」
続けて北斗が答える。
「今の姿は、元の人間の体を借りて一心同体になっているからなんだ。だから、人間としての過去もある。」
「そうだったんですか・・・。」
「但し、例外もある。ダン兄さんやメビウスは、自らの変身能力を使って人間になっているんだ。」「え・・・っ?」
それを補足するように、郷が続けた。
「セブン兄さんとメビウスには、俺や北斗のような人間だった頃の過去がない。だから、人間以上に人間のことを知ろうとしたのさ。自らをより人間らしくさせるために。そして、人間以上に心が分かるようにな。」
「人間以上に・・・か・・・。」
フサ達は中央通りにある大きな公園に来た。この中に休憩所が在るはずだ。
「取りあえず、ここを探してみましょう。」
フサ達が公園の入り口に立ったその時・・・。
「うぉらっ!!」「!?」
突然茂みから、月のように黄色いAAが蒼く透き通った太刀で斬りかかってきた。とっさにミライはメビウスブレスからメビュームソードを出し、刀を受け止める。
黄色いAAは地面に着地する。フサはそのAAの顔を見た瞬間、思わず声を挙げてしまった・・・。
「!!・・・ギコ・・・?」「?・・・フサ!?」
(フサ)「お前・・・こんな所に居たのか!?」(ギコ)「まさかここで会うとは・・・とにかく、久しぶりだな・・・!」
二人はそのまま、暫く顔を見合わせていた・・・。
その時、沈黙を破るようにミライが口を開いた。
「ハヤタ兄さん・・・いいえギコ兄さん、お久しぶりです。」「ミライ、暫くだな。元気だったか?事情はエルから聞いているぞ。」
ギコは笑顔で答えた。そのギコの言動を聞き、ダンが問いかける。
「エルはもう来ているのか?」「ああ。この世界では『エー』というAAになっている。今は休憩所に他の仲間といるが・・・。詳しいことはそこで話そう。」
ギコは彼らを休憩所まで案内する事になった。向かう途中で、ギコはフサの背中で眠っている人物のことを聞いた。
「ところで、フサ。お前の背中にいる奴はもしかして・・・「つー」か?」「ご名答。俺が目覚めたときから一緒だ。さっき、『ガンQ』っていう怪物に襲われて死にかけた。詳しいことは・・・」「わかってるよ。」
言葉はそこで途切れた。その後無言のまま、彼らは休憩所に向かっていった。
その頃の休憩所・・・。エーはベンチに横になり、モナーは側でエーの面倒を見ていた。モララーは見張りをしている。
「彼奴、一人で大丈夫なのか?・・・言っておくが、別に心配している訳じゃないんだからな!」「ギコはタフだから、心配する必要はモナよ。」(・・・お父さん・・・。)
「なぁ、ギコ。」「ん?なんだ?」
無言だったフサとギコの間に再び会話が戻った。
「お前、ミライさんに兄さんて呼ばれてたな?・・・お前とウルトラ兄弟の関係って何だ?」「そうか・・・お前には話してなかったな。」
ギコは蒼い剣−アクア・ジャスティス−を消すと立ち止まり、もう片方の手の中に隠してあった物を見せた。
「これ、なんだと思う?」「・・・懐中電灯?」「これでも分からないとはな・・・。」
ギコはそれを握って、等身大変身をした。銀色の体をした『宇宙人』に・・・。
「え・・・あ・・・。」「これが俺のもう一つの姿、初代ウルトラマンだ。分かったかゴルァ!!」「・・・納得。」「よし。」
ウルトラマンはギコの姿に戻った。
数分後、ようやく休憩所に着くと、入り口でモララーが彼らを迎えた。
(モラ)「見回り、乙。お客か?」(ギ)「俺の仲間と兄弟だ。けが人もいる。」
その時、ギコの後ろにいるフサが声を挙げた。
(フ)「お前・・・モララー!!?」(ギ)「落ち着け。こいつはもう敵じゃない。仲間だ。恨みから俺が解放してやったのさ。」(フ)「・・そうか。」
フサはつー以外、敵だった頃の彼らしか知らない。だからモララーに反応したのだ。
ギコ達が休憩所の建物の中に入ると、中の食堂にある長いベンチでエーとモナーが待機していた。
「お疲れさまモナ。エーちゃんも目が覚めたモナよ。」「お帰りなさい、お父さん。・・・寝ちゃってごめんなさい。私ったらつい・・・。」「いや、気にするな。今は自分の体のことだけを考えて、ゆっくり休みなさい。」
エーは静かに頷いた。ギコは後ろで首を傾げているフサに紹介をする。
「今ここで寝ているのが俺の娘、エーだ。現実世界の名前はエル。六年前の戦いで、俺にティガの力を分けてくれたんだ。」
フサは納得したような笑みを浮かべながら言った。
「そうか。耳の赤い線以外は、しぃそっくりだな。母親譲りか・・・。」「勿論性格もな。現実世界でもそっくりさ。」
フサはベンチに横になっているエーに挨拶をする。
「俺はフサ。ギコの昔の親友だ。よろしくなエーちゃん。」「フサさん、よろしく・・・。」
二人は笑顔で握手した。フサはそのままモナーの方を向くと・・・。
「正気に戻っていなかったら一発殴っておこうと思ってたが・・・。改めてよろしくな!」「あの時は悪かったモナ・・・。よろしくモナ!」
敵同士だった二人が、今度は仲間として堅くしっかりと握手した。
その時ふと、モナーはフサの背中につーが眠っていることに気が付いた。スヤスヤと気持ち良さそうだ。
「フサ、つーはそこのベンチに寝かせておくといいモナよ。僕が面倒みるモナ。」「おう、悪いな。よろしく頼む。」
フサは背中に背負っていたつーをベンチに下ろし、エーに彼女を紹介した。
「こいつはつー。さっき怪物に遭ったときに、助けてもらったのさ。死にかけたけど・・・。」
その時エーは、つーを見るフサの顔がなんとなく違うような気がした。まるで、愛する者を心配するような・・・。複雑な表情だ。その複雑な表情から読み取ったことを、エーは口に出した。
「フサさん、もしかして・・・つーさんの事が『好き』なんですか?」「えっ!?」
その瞬間、フサの背筋がゾッとわきたったのを感じた。ギコはエーに一喝した。
「エル・・・言って良いことと、悪いことがあるぞ。」「・・・ごめんなさい。」
ギコの一喝で、周りの空気は再び凍り付いた。・・・暫くの沈黙の後、フサが口を開けた。
「別に・・・気にしなくていいよ。それに・・・。」「・・・それに?」「君の言うとおり・・・俺はこいつのことが・・・好きだから・・・。」「・・・え・・・っ?」
その晩のこと・・・完璧に再現された星空と満月のもと、フサは公園の丘に立ち、悩んでいた。
さっきのエーの質問に、あの様に答えて良かったのだろうか・・・。正直、自分は何故つーの事が好きなのか分からない。もちろん、彼女が自分に気がないのは分かっている。しかし・・・自分は彼女のことが好きなのは変わり無いのだ。
フサの気持ちは、既に自分のコントロールが効かなくなっていた。一体どうすれば・・・。
その時、隣に赤い誰かがやってきた。
「・・・オマエモイタノカ。」「つー・・・もう大丈夫なのか?」「オカゲサンデナ。」「どうしてここに来たんだ?まだ無理に動かない方が良いぞ。」「・・・ナンダカ・・・ネムレナクテ。」
それっきり、二人の会話は止まってしまった。彼らはただ、大きく輝く黄色い月を眺めていた・・・。
・・・暫くして、突然沈黙を破るように中性的な声が聞こえた。
「・・・フサ・・・。」「・・・何だ?」「オレサ・・・サイキン、オマエノソバニイタリ、オマエニハナシカケラレタリスルト・・・ムネガドキドキスルンダ・・・。」
「・・・?」「ナゼカオマエノコトヲミルト、カンジョウガ・・・タカマルトイウカ・・・。」「えっ・・・?」
フサは驚いて、つーを見返す。彼女は顔を赤くしながら俯いていた。
「おい・・・それって・・・。」「フサ・・・オレ・・・。」
つーは拳をつくり、震え立たせながら告白した・・・。
「オレ・・・オマエノコトガ、スキダ!!」「!!!」
次の瞬間、二人の間に大きな静寂が訪れる。今までに感じたことのない複雑な感情が、フサを襲った。
暫くして、つーがようやく声を発した。弱々しく、力の抜けた声だ。
「・・・ゴメン。オレ・・・ツカレテルミタイ。」
つーは一言言うと、休憩所に戻ろうとした・・・しかし・・・。
「待てよ・・・。俺の気持ちも聴かずに行くのか?」
つーは歩みを止めた。フサは一歩ずつ彼女に近づき、告白した。
「実は・・・俺もお前のことが・・・好きなんだ。」「エ・・・ッ?」「何時頃好きになったのかは分からない。でも・・・お前の強気で、どこか優しいところが好きなんだ・・・。」
フサの顔は真っ赤になっていた。彼はつーの手前で止まると、言葉を繋げた。
「こんなに弱々しくて、頼りない俺だけど・・・もし認めてくれるなら・・・。」「・・・?」
「俺と・・・付き合ってくれないか・・・?」
彼の顔は、耳まで真っ赤になっていた・・・
フサと同じく、つーの顔も色濃く真っ赤になっていた。気まずい空気が二人をすり抜ける・・・。
しかし、再び彼女の声がその空気を壊した。
「コンナ、オトコッポイオレデ・・・イイノカ・・・?」「ああ・・・。」
「オレ・・・イヤ『アタシ』ハ、カンジョウトカウマクヒョウゲンデキナイケド・・・フサノコトヲ、ササエテイタイ・・・。イッショニイタイノ・・・。」「つー・・・。」
つーは初めて女らしい一面を見せた。フサは彼女を優しく抱くと、こう呟いた。
「何があっても、俺はお前と一緒にいる。・・・約束するよ。」「フサ・・・。」
彼女はフサフサした彼の胸の中で、嗚咽をしながら泣いた。その感情の中にはただ嬉しいだけではなく、自分のことを管理AIでなくて一人の女として見てくれた事の感謝も混じっていた。
彼女は彼の暖かい胸の中で、小さく呟いた。
「フサ・・・アリガトウ。アタシ、スゴクウレシイヨ・・・。」
彼は優しい笑顔で頷いた。声は小さかったが、フサにもちゃんと届いていた。
彼女は彼の胸から顔を離すと、もう一度近づき、そして・・・
彼らは初めて、『口づけ』をした。長くて、とても甘いキスを・・・。
黄金色に輝く、満月の下で・・・。
翌日の早朝・・・未だに寝静まっている休憩所の建物から、一人の白いAAが出てきた。モナーだ。
モナーは入り口の側に立つと、エーから貰ったリーフラッシャーを見ながら悩んでいた。
彼は自分が本当に役に立っているのか不安だった。其れだけではない。自分は光の力を持っているのに何もできないなんて・・・恥ずかしい。
余りの自分の情けなさに、彼は小さくため息をついた。と、その時・・・。
「早いな。おはよう。」「あっ・・・おはようモナ・・・。」
モナーが振り返った先には、ギコがいた。
「随分落ち込んでるな・・・。どうかしたのか?」「僕の悩みを・・・聞いてくれるモナか・・・?」
モナー達は昨晩フサが居たところで話すことになった。
「僕は・・・何もみんなの役に立ってないモナ・・・。力が使えるか不安で、何もできていないモナ・・・。」「そんな事は無いぞ。昨日だって、エーの事を看てくれてたじゃないか。」
「そういう事じゃないモナ・・・。僕もみんなと一緒に戦いたいモナ・・・。」「そうか・・・。」
暫く沈黙が続く・・・この沈黙の中で、ギコはある一つの決断を下す。それは・・・
「・・・よし、モナー。リーフラッシャーを持って俺と一緒に来い!」
「!?何をするモナ??」「『特訓』だよ!早く来い!!」(何か・・・すごくイヤな予感がするモナ〜(泣))
数十分後の休憩所・・・。
エーはカーテンから漏れる朝日で目が覚めた。体を起こして周りを見渡す。若干痛みは残るが、昨日よりかなり楽になった。
しかし・・・周りに誰もいない・・・。隣にいたはずのつーもいない。何処に行ってしまったのだろうか・・・。
(みんな・・・何処?セブン叔父さんは?)
ドォォン!!!
その時、外で大きな爆発が起こり、振動が建物にも伝わった。
「きゃあっ!」(今の爆発は・・・何?)
エーは慌てて外に出た。すると・・・
「おっ、起きたか・・・。よく眠れたか?」「おはようございます、エース叔父さん・・・。何が起きたんですか?」
すると、北斗の隣で見ていたタカラが答えた。
「今、パパとモナー叔父さんが特訓してるんだよ!」「特訓?どんな??」(つー)「ウルトラマンノチカラヲ、ウマクツカウタメノトックンダトサ。」
目の前では初代ウルトラマンと、モナーが変身した『ウルトラマンダイナ』がにらみ合っていた。
「その調子だ。お前も大体の技は使えるようになったか・・・次は、俺の技も使ってみろ。」「分かった!」
ダイナは先ほどウルトラマンに教えてもらった「八つ裂き光輪」を、一本の木に向かって投げつける。彼の投げた八つ裂き光輪はそのまま、外輪にある鋸状の刃で木を縦に真っ二つにした。
ところが、八つ裂き光輪は動きを止めず、大きなカーブを描き・・・特訓を見ていたフサたちのもとに・・・!
「わっ!やばい!!」「ニゲロ!!」
と、その時・・・虹色の光のシールドが彼らを包み、八つ裂き光輪から守った。シールドを作った正体は・・・
(モラ)「ティガ!?」「ふぅ・・・何とか間に合った・・・。」
ティガはシールドを消すと、自分を見て驚いているフサとつーに説明した。
「フサさん、つーさん、私です!」「その声って・・・エーちゃん!?」「そうです。これが私のもう一つの姿なの。分かってくれますか?」「アヒャー・・・マァ、ワカッタケド・・・。」
ティガは頷くと、初代マンに駆け寄る。
「エー・・・。」「もう大丈夫モナか?」「もうすっかり良くなりました。有り難うございます!」
さらにティガは、ダイナにアドバイスした。
「モナーさんはきっと、肩の力が入りすぎなのよ。もう少し、肩の力を抜いてみたらいいと思いますよ!」「・・・ありがとうモナ・・・!」
「もう一度、私と父で見本を見せます。よく見ていて下さいね。」「分かったモナ。」
そう言うと、初代マンは木を八つ裂き光輪で縦に真っ二つにした。さらにティガはその木を横に、三等分をした。
「こんな感じです。私のは念力を使った応用技です。」「慣れると、今のティガのような使い方もできる。まずは通常型に慣れないとな。」「・・・やってみるモナ。」
そう言うとダイナは木の前に立ち、構えた。周りに走る緊張・・・。そして・・・
「デァッ!!」
ダイナの右腕から放たれる、青い閃光・・・。青い閃光は、ダイナの目の前にある木を縦半分に斬り裂く。さらに・・・ダイナはそのまま念力でコントロールし、縦に切れた物を今度は横に二等分した。
(AA達)「やったぁ!」(北斗)「短時間であそこまで・・・。」(ダン)「強くなりたいという彼の気持ちが、ダイナの光の力になって現れた結果だな。」
歓喜に包まる中、三人はAAの姿に戻った。ギコはモナーの肩をツツキながら、エーは拍手をしながらこう言った。
「モナーさん、お疲れさま!」「よくやったな!でも忘れるな。実戦では効かないこともあるからな。」
「みんな・・・ありがとうモナ!自信がついたモナ!」
その頃の町の中心部・・・しぃはカプセルの中に閉じこめられていた。
「ここは・・・どこ?」「ハハハッ!罠にかかったな、しぃよ!」「誰!?」「我らは異次元超人ヤプール!これから貴様を、わしの配下にしてくれるわ!!」「そんな事はさせない!」
しぃはカプセルをこじ開けようとするが・・・
「無駄だ!言ったはずだ!お前はわしの罠にはまったと!!」「何する気!?私をここから出して!!!」「お前に、ギコとやらを殺してもらうぞ!!!」「!!?ギコ君を・・・?」
「そうだ!我らはウルトラ兄弟を消し去るため、お前を利用させてもらうぞ!愛する者が怪物に変わったときの反応が・・・楽しみだ!!」「私には、ギコ君を殺せない・・・。」「今はな!!だがこれからお前は、怪物になるのだ!!」
その時、しぃの体がロックされ、上からマスクが降りてきた。マスクはしぃの口に装着され・・・。
「カオスヘッダー、投入だ!!」「ウッ!ゲホッゴホッ!!・・・やめてっ!離してっ!!・・・あぁっ!!・・・く・・・苦・・・し・・い・・・。」
「お前の記憶、感情全て消し去ってくれる!!」「はっ・・・あぁっ・・・あ・・・。」
(・・誰か・・・助ケテ・・ギコ・・ク・ン)
ギコ達はしぃが捕らわれている町の中心部に向かって、ギコを先頭にするウルトラ兄弟組と、モララーを先頭にするAA組の二組に分かれて走っていた。
AA組は暫く走ったところで、大きな十字路にさしかかる。ここの道を渡って真っ直ぐ行くと、中心部はすぐ近い。
ところが・・・そのAA組の行く手を阻むように、怪獣ゴモラが現れた。エーは戦陣を切って前にでる。
「みなさん、下がって下さい!!ここは私がやります!!」「待つモナ。」
スパークレンスを掲げて変身しようとしたとき、一番後ろにいたモナーがストップをかけた。
「モナーさん、どうして!?」「エーちゃん、慌てちゃいけないモナよ。ヤプールとの決戦に備えて、君が一番体力を残しておかなきゃいけないモナ。だから、ここは僕に任せるモナ!」「モナーさん・・・。」
「エーちゃん達は安全な場所に隠れているモナ!早く!!」「・・・分かりました。ありがとうございます!」
エー達は怪獣の被害が出ないように、遠くのビルに向かって走った。その隙を見て、モナーはリーフラッシャーを取り出す。
「訓練の成果・・・見せてやるモナ!!」
モナーはリーフラッシャーを空高く掲げた・・・。
「デァッ!」
変身後、ダイナはゴモラの尻尾を掴み、ウルトラスイングでビルに叩きつけた。ダイナは文字どおり、体全体を使ったダイナミックな攻撃が持ち味なのだ。
ゴモラは起きあがった後、ダイナに向かって突進を仕掛ける。しかし彼はその勢いを利用して、巴投げでゴモラを投げ飛ばす。ゴモラは自分の体重を利用された攻撃に、大ダメージを受けた。
フラフラと立ち上がるゴモラに、ダイナは必殺技であるチャージソルジェント光線を食らわせる。この技は初代ウルトラマンのスペシウム光線と全く同じ要領で、腕を十字に組んで放つものだ。
ゴモラはソルジェント光線を喰らうと、体が耐えきれずに大爆発を起こした。
(モラ)「何か、あっさり片づけちまったな・・・。」(フサ)「倒したのか?」(つー)「イヤ・・・マダ、ケハイガアル。」
やがて、砂埃が晴れてくると・・・そこには、体全体が強化されたゴモラの姿が・・・。周りには虹色の、カオスヘッダーウィルスが飛んでいる。
(カオスヘッダーウィルス・・・厄介なことになりそうモナ・・・。)
彼はフラッシュタイプから赤い体のストロングタイプにチェンジすると、ゴモラを止めるべく駆けだした。ところが・・・
なんと、ゴモラの尻尾が伸びてダイナに当たりそうになったのだ。彼は間一髪のところで避けて、尻尾はビルに刺さった。
(間一髪モナ・・・。この尻尾、どうにかしなくちゃ・・・。)
ダイナは両腕で尻尾を掴むと、引きちぎるために強引に引っ張った。ところが、全くビクともしない。ゴモラの尻尾はただ伸びるだけではなく、鉄のように堅く丈夫になっていたのだ。
さらにゴモラの尻尾はダイナの首に巻き付き、絞め殺そうとする。これではもう埒があかない。成す術が無く、カラータイマーがなり始めるダイナ・・・
(まずい・・・モナ・・・。苦しい・・・。)
エー達はその様子をビルの陰で見ていた。
「やっぱり・・・私が行きます。」「エーチャン・・・。」「このまま、見殺しになんか出来ません!!」(モラ)「エー、踏み留まるんだ。今、体力を残して置かなくては、ヤプールとの戦いの時にお母さんを救えなくなってしまうぞ!」
「でも・・・でも!!」「ねぇ、お姉ちゃん!」
その時、タカラがエーの背後から声をかけた。
「・・・どうしたの?」
「・・・ここは僕に行かせて!お姉ちゃんは此処にいて!」
「えっ・・・?」
タカラの一言で、周りの空気が凍り付いた・・・。
「ター坊、君はまだ六歳だろ?そんなに小さな体で何が出来る?」「ソンナコトヲシタラ、シンジマウゾ!?」「それが出来るんだよ・・・。タカラの場合はな。」
事情を知らないフサとつーは、まだ小さな彼を心配して止めに入った。しかし、モララーが彼らに説得をする。タカラが何故、今のようなことを言ったのかを。
「タカラ。本当に大丈夫なんだな?無茶するんじゃないぞ。」「はい!」
タカラはフサとつーに、手の中に隠してあった変身アイテム『コスモプラック』を出して見せた。
「それは?」「僕もウルトラマンになれるの。見てて!」
タカラはそう言うと、ビルの陰から飛び出し・・・
『コスモォォォス!!』
慈しみの青い体の巨人、『ウルトラマンコスモス・ルナモード』に変身した。しかしその直後、彼の体が金色に輝き頭部・体表が変化していく・・・。金色の目映い光に、下にいるエー達は思わず目を覆った。
「アヒャ!?ナンダコノヒカリハ??」「昨日はこんな事はなかったのにっ!」「この強烈な光・・・まさか!?」
コスモスは光が止まない内に、ゴモラの顔面に強烈なダッシュパンチを食らわせる。余りの強い衝撃に、ダイナの首を絞めていた尻尾も解放された・・・。
直後、コスモスを纏っていた金色の光は消えた。尻尾から解放されたダイナは、金色の光のあった正面を向く。堅く目を閉じていたエー達も目を開けた。するとそこには・・・。
「あれが・・・ター坊なのか?」「シンジラレナイ・・・。」「もう一つのモード・・・なのね。」「タカラの本当の力が覚醒したのか・・・。」
ダイナの目の前には、銀色に『優しさ』の青・『強さ』の赤・そして『勇気』の金色の体表を持つウルトラマンが立っていた。
これは、コスモスにタカラの「勇気」・そしてNIGHTMARE CITYで起きる皆既日食の光を受けて変化した、勇気の戦士『ウルトラマンコスモス・エクリプスモード』だ。
タカラは自分の体に眠っている光の力を、さらに覚醒させたのだ。
「モナーおじさん、立って!一緒に戦うよ!」「タカラくん・・・?・・・わかったモナ!」
モナーは再びフラッシュタイプに戻ると、初代マンから伝授した技『ウルトラスラッシュ』を放つ。放たれた青い光輪は、ダイナの念力によって尻尾を二ヶ所・頭の角を切断した。
次にコスモスが、鼻にある角を矢尻型の光弾『エクリプススパーク』で破壊する。ゴモラは自慢の武器を全て破壊され、成す術が無くなった。
ダイナは止めを刺すため、ソルジェント光線を放とうとする。しかし・・・
「モナーおじさん、待って!!」
コスモスがダイナの前に立ち、光線技を打たないよう説得する。
「どうしてモナか?」「この怪獣はカオスヘッダーに操られていただけなんだ。元に戻してやりたいの。」「・・・わかったモナ。」
コスモスはゴモラに振り向くと、エクリプスモードの得意技『コズミューム光線』を放ち、直撃させる。ゴモラの後ろには体の中に入っていたカオスヘッダーが浄化され、金色の粒子になって出てきていた。
光線技を食らったゴモラはそのまま元の姿に戻り、データとして青空へと散っていった・・・。
二人は再びAAの姿に戻ると、モララー達の元に駆け寄る。
「よくやったね、ライト!・・・ありがとう。」「お姉ちゃん・・・。」
エーは、タカラを力いっぱい抱き寄せる。自分を気遣って、代わりに倒してくれた事の嬉しさで一杯だった。さらに、モナーがタカラの頭を優しく撫でる。
「まだ小さいのによく正しい判断をしたモナ。偉いモナよ!」「ありがとう!」
(フ)「そう言うモナーもよく頑張ったな!努力が実を結んだ結果だ。」「フサ・・・照れるモナ。」
彼らの表情は笑顔で包まれた。
158 :
ほんわか名無しさん:2009/09/29(火) 23:44:24 O
( ^-^)_旦〜
>>157の続き
その頃・・・ウルトラ兄弟達は、一足早く町の中心部に到着していた。ここには、この町の中央管理塔であるドリーム・セントラルタワーがあり、主要コンピュータプログラムはここに保管されている。
(初)「ここにしぃが捕らわれているはずだ・・・。」
兄弟達は既に変身して、中に潜入しようと試みる。ちなみに、この仮想空間内は変身時間が無制限だ。
と、その時・・・どこからかドス黒い声が聞こえた。
「よく来たな!ウルトラ兄弟!!」(エ)「その声は・・・ヤプール!!」
声の主は、主制御コンピュータと一体化したヤプールだった。ギコはすぐにヤプールにしぃを解放するように言う。
(初)「しぃは何処だ!!彼女を解放しろ!!!」「その前に、まず『自分を倒してから』行くんだな!!」(セブン)「自分・・・だと?」
刹那、いきなりビルからカオスヘッダーが飛び出し、兄弟達の目の前に降りてきた。
カオスヘッダーは五つに分かれ、それぞれ人型になっていく・・・。
完全にその姿が露わになったとき、兄弟達はようやくヤプールの言っていることが分かった・・・。
自分達の目の前にいる黒いもう一つの存在・・・
(初)「『カオスロイド』・・・。」
カオスロイドとは、カオスヘッダーのコピー能力で作られた黒いウルトラマンで、かつてウルトラの国を破壊しようとした闇の戦士である。
それぞれのウルトラマンに酷似した黒い戦士『カオスロイドU(ウルトラマン)・S(セブン)・J(ジャック)・A(エース)・M(メビウス)』は光線技などもコピーされている。
さらにカオスヘッダーによって凶暴かつ強力になっているため、戦闘力はそれぞれの二倍以上。かつてのウルトラマン・セブン・タロウでも苦戦した相手だ。それが5人も揃われたら、とてもかなわない。
(マン)「ヤプール・・・こいつらまで復活させていたのか・・・。」(セブン)「俺達の戦闘力でも倒すのがやっとだったのだが・・・。」
もはや不可能だと言うような反応を示す二人。しかし、弟三人の反応は違った。
(エース)「しかし、今ここに居るのは俺達だけです。ここで諦めるわけにはいきません!」(メビウス)「エーさん達の為に、通り道を作っておかないと!」
(ジャック)「我々ウルトラ兄弟の、真の力を見せるときです!」(マン)「・・・分かった。必ず勝つぞ!」
彼らは頷き合うと、黒の戦士の前に立つ。
『光の兄弟』と『闇の兄弟』の決戦が今、始まる・・
(兄弟)「シェアッ!!」(カオス)「ジェア゛ッ!」
ウルトラ兄弟はカオスロイドに向かい、それぞれ近接攻撃を行う。カオスロイドも同様に攻撃を仕掛ける。攻撃方法は全く同じで、ほぼ互角。勝負がつきそうにない。
ところが・・・事態は急変した。ウルトラマンが一本背負いを行おうと掴みかかったところ、なんとカオスロイドが返し技「カオス燕返し」を仕掛けたのだ。
其れだけではない。セブンのアイ・スラッガーが奪われ、カオスロイドのカオ・スラッガーと二刀流で攻撃に使われてしまった。さらに、メビウスのメビュームソードも折られてしまった。
苦戦を強いられるウルトラ兄弟・・・。兄弟はやむなくそれぞれの必殺光線を放つ。
(兄弟)「ダァッ!!」
が、しかし・・・カオスロイドたちはいとも簡単にバリアーで防御し、逆にコピーした必殺光線を打ち返した。
(兄弟)「ぐあぁぁぁっ!!」
防御する隙もなく吹き飛ばされる兄弟達・・・カラータイマーも点滅を始めた。
(マン)「くそ・・・俺達はここまでなのか・・・。大切な者を守れずに・・・。」
カオスロイド達はウルトラ兄弟に蹴りを付けようとする・・・兄弟全員はもうやられる覚悟はできていた。
ところが・・・
カオスロイド達が光線を打とうとしたとき、目の前にブラックホールが現れたのだ。カオスロイドの光線技がみるみる吸い込まれていく・・・。
光線技が吸い込まれた直後、今度はカオスロイドの後ろにブラックホールが現れた。そして・・・
(カオス)「グオァッ!」(ヤプール)「何っ!?」
なんと先ほど放った光線が、カオスロイド達の背中に直撃したのだ。
(メ)「今の技はもしかして・・・!」
刹那、兄弟達の前に五つの光が降り注ぐ。その時、後ろから赤い人影がやってきた。つーだ。
「ギコ!」「つー・・・?何でここに!?」「マエヲミロ!」「前?・・・!」
ギコが前を見ると、そこにはいつの間にか『平成ウルトラ兄弟』の、ティガ・ダイナ・ガイア・アグル・コスモスが立っていた。
(テ)「お父さん大丈夫?遅くなってごめんなさい!」(コ)「今エネルギーを分けるから、じっとしてて!」
コスモスはカラータイマーが鳴っている兄弟達に、自らエネルギーを与える。
(ダ)「僕の攻撃、しっかり効いてたモナね!」(ガ)「ギコ、俺達も一緒に戦うぞ!」(初)「お前ら・・・。」
ウルトラ兄弟はエネルギーを回復すると、体勢を立て直す。初代ウルトラマンはティガとコスモスの肩に手を置くと、お礼を言った。
(初)「ありがとう。これでお父さん達も、いつも通りに戦える。」(テ)「私達も一緒に戦うよ!」
ティガは一緒に戦って、父が自分を助けてくれた恩を返そうと思っていた。しかし、ウルトラマンは首を横に振りながら答える。
(初)「いや・・・。エー達は先にあのビルに向かってくれ。ここは、父さん達がくい止める。」(テ)「えっ?・・・でも・・・。」
(初)「お父さんは今ので充分助けられた。だから先に行って、母さんを救ってくれ。今彼処に行けるのは、お前達しかいないんだ。頼む・・・。」(テ)「お父さん・・・。・・・分かった。行ってくる。」
ティガは一瞬躊躇したが、何かを察したのかビルに行く決意をした。
(テ)「ライト、行くよ!」(コ)「うん!」
ティガとライトはAAの姿に戻ると、しぃが捕らわれているビルに向かって駆けていく・・・。エーは走りながら、さっき父親に言われたことについて考えていた。
言われたことの意味は、勿論そのまま捉えて良いだろう。しかし、あの時の父はとても急いでいるように思えたのだ・・・。
「頼む」と言ったときの眼差しも、何かを訴えるような目付きだった・・・。一体何が有ったのだろうか・・・。
そう考えているうちに、エー達はビルの入り口の近くまで来ていた。上まで続く漆黒の塔・・・。ここがドリームセントラル・タワーだ。彼らはそこの正面玄関の前にいるが・・・正面の入り口の中は照明が消されていて、とても不気味な雰囲気が漂っていた。
(タ)「ここがあのビル・・・だね。」(エー)「お母さんはここに・・・。」
二人が呟いていると、ビルの正面玄関から一人の人影が見えた。姿形からしてAAだ。
「お母さん・・・?」
しかし中から出てきたのは、体が淡い色をしているAAだった・・・。淡い色をしたAAは、入り口前にある階段のところで立ち止まる。目が死んだように淀んだ青色をしている・・・しぃとは正反対だ。
「・・・貴方は?」「・・・ゲ・・・テ。」「・・・?」「コ・・コ・・カラ・・・ハヤク・・・ニ・・ゲ・・テ・・・。」
「え・・・っ・・・?」「イソイデ・・ニゲ・・ルノヨ・・。」
エーは途切れ途切れに聞こえる彼女の声に聴き覚えがあった・・・この声は・・・
「エル・・・ハヤク・・ニゲ・・テ・・!!」
イヴの声だ・・・。
エー達の目の前にいる淡い色のAA・・・その正体は、ヤプールにカオスヘッダーを投与され続けた、しぃの変わり果てた姿『でぃ』だった・・・。
エーは母の変わり果てた姿に、悲鳴を挙げた。
「ぃ・・・いやぁぁぁぁーーーーっ!!」(タ)「お母さんが・・・そんな・・・。」
刹那、でぃの両手が紫色に輝き始めた・・・。
「ハヤク・・・ニゲナサイ・・・。ワタシガ、アナタタチヲ・・・コロシテシマウ・・マエニ・・!」「・・・!!」
でぃの両腕にあった光が、弓矢の形に変わった・・・このままでは殺されてしまう。エーは泣きながらスパークレンスを取り出した。
が、しかし・・・スパークレンスは、でぃの放った矢によって遠くに弾かれてしまう。その直後、でぃの弓矢が形を変え、今度は大剣になった。
「キィィィィィィィィィッ!!」
でぃは完全に自我を失い、敵となってエー達に襲いかかる。
「やめてぇっ!お母さぁぁぁん!!」
その時、何者かが彼女の腕を掴み物陰に回避した・・・。エーは物陰で恐る恐る顔を上げる。するとそこにいたのは・・・。
「お姉ちゃんは、ここでじっとしていて・・・。僕が浄化してみる。」「・・・コスモス・・・。」
タカラはコスモス(エクリプスモード)の変身に成功し、母親の暴走を止めるべくいなし技を繰り出していく。いなし技は攻撃ができない代わりにスタミナを奪う唯一の方法だ。
「お母さん、目を覚まして!僕だよ!」「キィィィィィッ!!」
コスモスは避けながらでぃに話しかける。しかし、相手はただ奇声を発しながら襲いかかってくるだけだ。もうそこには、優しかった頃の母親の名残は一切残っていない・・・。
エルが物陰から立ち上がり、さらに声をかける。
「お母さん、思い出してっ!!私たちのこと、忘れないで!!!」
でぃは猛攻を止める気配がない。コスモスはいなし技で避けた後、両平手ででぃを弾き飛ばし、必殺技の「コズミューム光線」を放つ。これで元に戻ってくれるはずだ・・・。
ところが・・・コズミューム光線を放ったその先にいたのは・・・しぃではなく、でぃだった。コズミューム光線での浄化に失敗したのだ。
「何・・・だと・・・?」「ハハハッ!こいつにはお前の攻撃は、一切通じない!!やれ、でぃよ!!」
でぃの両手に紫の光が集まり・・・そして・・・
「キィィィッ!」
ウルトラマンティガ・パワータイプの必殺技である「デラシウム光流」を放った・・・。
コスモスは呆然としていたため、攻撃を食らってしまう。
「ぐあぁぁぁっ!!!」
攻撃を食らうと、彼はそのままセントラルタワーの道路を挟んで反対側にあるビルの壁に叩き付けられ、全身に激痛が走った。カラータイマーの色が青から赤になり、点滅が始まる・・・。
「うぅっ・・・動けない・・・。」
でぃは口元に冷たい笑みを浮かべると大剣に持ち換え、止めを刺すために走り込む。コスモスは激痛から解放されることがなく、光線技・バリア・いなし技のどれも使えない状態になった。
近づく駆け足・・・ふりかぶる紫色の刃の風音・・・コスモスは、もう自分は死ぬのだと確信した・・・。
ドシュッ!
次の瞬間、肉を斬り裂く生々しい音が響いた。しかし・・・刃はコスモスの目の前で止まっていた。
恐る恐る視線を上げるとそこには・・・
左胸に剣が貫通しながら、優しくでぃを抱く姉:エーの姿があった・・・。
「ダメ・・だよ・・・お母さん・・・自分の・・・子・・供を・・・殺しちゃ・・・。」
「・・・お姉ちゃん!!!」
「お母さん・・・六年前にも・・こんな事・・・あった・・よね・・?」
エーは、六年前にギコとしぃの間に起きた出来事を再現させていたのだ・・・。
その瞬間、でぃの脳裏にある一つの記憶がよみがえった。六年前・・・今の自分とは逆の立場で、殆ど同じ体験をしたことを・・・。
自分が身動きできなくて、もうダメだと諦めかけていたその時、敵の投げた太刀から命を捨てて自分を守ってくれた存在・・・。
月のように黄色くて、優しい暖かさがあった・・・。名前は確か・・・ギコ・・・。自分の愛する夫・・・。その人との間の子・・・エルとライト・・・。でぃの頭の中に次々に記憶が蘇る・・・。
「あの時・・・私は・・とても・・悲しかっ・・た・・・。」
エーが弱々しく言葉を繋げる。
「もう・・・二度と・・同じことは・・・繰り・・返したく・・・なかった・・・。だから・・・この町に・・来ちゃったの・・・。」
でぃの目が、すこしずつ輝きを戻していく・・・。剣を持っていない腕が、小刻みに揺れ始めた。
「もう・・一度・・・家族の・・みんなと・・・過ごしたかったの・・・。でも・・今・・・目の前にいる・・お母さんは・・違う・・・。いつもの・・・優しいお母さんは・・・何処に・・・行っちゃったの・・・?」
でぃを抱いているエーの手から温もりが消えてきた・・・力も殆ど無い。それでも彼女は母を抱き続けた。
でぃの目から一筋の涙が落ちる・・・。目も透き通ってきた。
「いつもの・・優しい人に・・・戻ってきて・・・お母さん・・・。」「・・・エル・・・。」
次の瞬間、でぃの体から大量のカオスヘッダーが放出される。虹色の光が出ていくさなか、体が元のピンク色に戻っていく・・・。
(ヤプール)「何っ!?」
体内から全てのカオスヘッダーが抜けた時、そこにはいつもと同じ優しい温もりがあった。エーは最後の力を振り絞り、元に戻った母『しぃ』に笑顔で話しかけた。
「や・・・やっ・・と・・・元に・・・戻って・・くれたん・・・だね・・・?お・・かえり・・・お・・母・・・さ・・・。」
次の瞬間、エーは力が抜けるように道路に倒れ、動かなくなった・・・。
「エル!?」「お姉ちゃん・・・。」
しぃは慌ててエーを抱き起こす。体からは既に温もりは無く、雪のように冷たかった。
「エル・・・。エル!しっかりして!!!まだあなたは、生きなきゃダメ!!死ぬなんて、絶対許さない!!!」
しかし、どんなに体を揺すっても返答がない。この時、しぃは気付いた。娘は自分のために命を燃やし尽くし・・・
『死んでしまった』ことに・・・。
「嘘・・・いやぁぁぁぁっ!!」
(栞)ここまで読んだ
がんばってるな
もう少し溜まったら読むわ
ちょこちょこ読むと面白さが解りづらいからね
一気に読んだほうが世界に入りやすいし、面白く読める
できれば、完結してから読みたい所だが...
まだ先かな?w
その時、丁度ギコ達も駆けつけた。カオスロイド達に勝利したのだ。
(ギ)「エル!?」(つ)「オイ・・・マジカヨ・・・。」(モナ・フサ)「エー・・・ちゃん・・・。」
ギコは慌ててしぃのもとに駆け寄る。
「しぃ・・・エーはどうしたんだ・・・?」「・・・殺した・・・。」「・・・えっ?」「私が・・・殺したんだ・・・。」
その一瞬、周りの空気も凍り付く。しかし、未だに動けないでいたコスモスが事情を説明した。
「お母さんは・・・ヤプールに操られていたんだ・・・。僕がお母さんを止めようとしたんだけど・・・その時に僕をかばって・・・。」「そうだったのか・・・。」「・・・僕が非力だったから・・・お姉ちゃんは・・・。」
「ライト・・・お前のせいじゃない。自分を攻めてはいけないぞ・・・。」
ギコは黙ってしぃに近づき、いたわるように優しく肩を抱いた。
「しぃ・・・。」「ギコ君・・・グスッ・・・私・・・。」「君は悪くない・・・悪いのは、全部ヤプールだ。もう・・・自分を責めるようなことをしないで・・・。」
「ぃゃ・・・エル・・・いやぁぁぁぁーーーーっ!!!」
しぃはギコの胸で、嗚咽を挙げながら大声で泣いた。町中に響く、深い悲しみ・・・。
ご愛読ありがとうございます。
>>172 うーん・・・
もう少し先になりそうですw
ここに読んだ証を置いてます
面白いよ、がんがれよ
その時、コスモスがゆっくりと立ち上がった・・・
「ライト・・・?」「ヤプール!お前だけは・・・」
次の瞬間、コスモスの体表の模様が光とともに変わった。全体的な色はエクリプスモードと似ているが、カラータイマーの周りの模様が複雑になっている・・・。
「お前だけは、絶対許さない!!」
なんと、コスモスは最終形態である「希望」の巨人『フューチャーモード』になっていた。たった三回の変身で、タカラは完全に力を解放してしまったのだ。
しかし、カラータイマーは依然点滅したままだ。短い時間で蹴りをつけなければ・・・。
コスモスは既に死んでいるエーの体に、光のオーラのような光線技を当てた。この技は見方の体力や怪我を復活させる『フューチャーフォース』というものだ。
光に当たったエーは、みるみる内に左胸に出来た大きな穴が治っていく・・・。やがて光のオーラが消えた先には、元の姿に戻ったエーが横たわっていた。コスモスは自らのエネルギーを使い、彼女を蘇生させることに成功したのだ。しぃは驚いたようにライトに声をかける。
「ライト・・・あなたは・・・。」「姉さんの・・・敵をとってやる!!」
コスモスの心は、怒りに支配されていた・・・。
その証拠に、六年前にティガが見せた赤いオーラが背中から出ていた・・・。コスモスはヤプールの隠されているセントラルタワーに向かって、コズミューム光線を数倍に高めた必殺技「コスモストライク」を最大出力で放つ。太く、青白い光線が右腕から放たれた・・・。
「でぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」「ライト、やめろぉぉっ!!自分の体が、消えてしまうぞっ!!」
刹那、セントラルタワーが青白い光に包まれ・・・強烈な爆風と轟音を伴って、爆砕した。
数分後、爆発が止んだ中央部・・・。周囲5Kmのビルが全て吹き飛んでいた。しかし、ギコ達はその爆発に巻き込まれることはなかった。コスモスが間一髪のところでバリアーを張ったからだ。
ギコはゆっくり体を起こす・・・。
「みんな・・・無事か?」(フ)「ああ・・・。つー、大丈夫か?」(つ)「ナントカ・・・。」(モラ)「随分派手に遣ってくれたようだな。」(ミライ)「ヤプールは倒せたのでしょうか・・・。」(北斗)「あの攻撃なら吹き飛ばせたはず・・・。」
(ダン)「いや・・・町が完全に崩壊していない。彼奴はまだ生きてる。」
ギコは立ち上がると、周囲を見渡した。すると・・・
「・・・ライト!?」
ギコの先に、透明になったコスモスの姿があった・・・。
コスモスは体が消える寸前のところまでパワーを使い果たし、道路に倒れていたのだ。もちろん、今の彼に立ち上がる力はもう残されていない。しぃとギコは彼の元に駆け寄った。
「ライト・・・お前・・・何やってるんだ!!」「・・・父さん・・・母さん・・・。」「あの体で、何であんなに無茶なことをしたの?死ぬところだったのよ!?」「ごめんなさい・・・姉さんの敵を・・・討ちたかった・・・。」
ギコとしぃはスケルトンになってしまったコスモスに一喝した。コスモスは何も出来なかった自分を悔やんで、自らヤプールを倒そうとしていたのだ。
ギコは理由が分かると、今度は優しい口調でコスモスに言った。
「・・・もういいんだ。後は、父さんがやる。・・・よくやった。」
ギコはセントラルタワーがあった場所を向く。すると、そこにはコンピュータと一体化して巨大な光球となったヤプールがいた。
「我らに、貴様らの攻撃は通じない。ウルトラ兄弟、そこで死んでいけ!!」「お前の好きにはさせない・・・。俺は仲間を、家族を・・・生命を守り抜いてみせる!!」
ギコはβカプセルで変身しようとする。が、しかし・・・
変身しようとしたとき、誰かに足が掴まれた。足元に居たのは・・・
「ぉ・・父さん・・・待って・・・。」「・・・エー!?」
エーは一時的に意識を回復させていたのだ。弱々しい声で、ギコにある頼みを言う。
「私の・・・ティガの力を・・・使っ・・て・・・。」
彼女はスパークレンスを差し出した。この時、一瞬スパークレンスが虹色に光った・・・。ギコはそれをゆっくりと受け取る。
その瞬間、エーの体が金色に輝きだした。六年前のギコと、全く同じように・・・。
「私も・・・光に・・なって・・・一緒に・・・戦うから・・・。」「エー・・・。」
ギコの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる・・・。体がボロボロなのに、ここまで自分を心配してくれるとは・・・。
「・・・分かったよエー。ありがとう・・・一緒に戦おう・・・。」
エーは笑顔で静かに頷くと、光になってスパークレンスの中に入った・・・。ギコはしっかりと右手に握り返す・・・と、そこに桃色の手が重なった・・・。
「しぃ・・・。」「忘れないで。ギコ君が戦うなら、私も一緒よ!」
しぃはそういうと、優しい笑顔をギコに見せた。
「・・・ありがとう・・・。」
その頃・・・コスモスは再び立ち上がろうとしていた。しかし全身の力が抜けて、立つこともままならない。
このまま此処でじっとしている訳にはいかない・・・みんなと一緒に戦いたい・・・。そんな気持ちが空回りして、再び道路に伏せる・・・。もう自分は、駄目なのか・・・。
そう思った次の瞬間、背中に何か暖かい物が当たった。体に、徐々に力が蘇ってくる・・・。
コスモスは何とか体を起こし、後ろを見た・・・すると・・・
「みんな・・・。」(フ)「ター坊、残された俺達の力を君にあげよう。」(モラ)「君は、まだ本当の力に目覚めていない。今、それを覚醒する時だ!」
なんとモララーを始めとするAA、そしてウルトラ兄弟がコスモスにエネルギーを与えていた。
(つ)「安心シナ。アタシ達ハ消エナイ。オマエト、一緒ニ戦ウカラ!」(モナ)「ギコと一緒に、勝利を掴むモナ!」
彼らの体が、青く透き通っていく・・・。
(セ)「しっかりしろ、ライト。俺達がついてるぞ!」(ジ)「さぁ、立つんだ!!」
彼らの掛け声に、ゆっくりと立ち上がるコスモス・・・体が金色に輝き始める・・・。
(A)「必ず勝て!君の勝利を、確信する!」
体の輝きが、増していく・・・。
ギコとしぃは、共にスパークレンスを空高く掲げる・・・。コスモスは仲間達の思いを右手の拳に託し、突き上げた・・・。
(ギコ・しぃ・コスモス)「光よぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!!!!!」
刹那、町に起こる金と緑の二つの巨大な閃光・・・。
(ヤ)「何だ・・・この巨大なエネルギーは・・・。」
巨大な閃光と共に現れた、二人のウルトラマン・・・。一人は、エー・しぃ・ギコのエネルギーを最大まで高めて、まるで北極のオーロラのように七色に輝く光の戦士・・・
『グリッターティガ・Northern Lightsモード』
そしてもう一人は・・・コスモスが仲間達の光を受け継ぎ融合、完全覚醒させ誕生した伝説のウルトラマン・・・。
『ウルトラマンレジェンド』
二人のウルトラマンは顔を合わせて、頷き合う。
(ヤ)「どんなに抗っても、同じことだ!」
(テ)「人の心にある光を、見くびるな!どんなに絶望の闇に包まれても、心の中の「希望」は決して消え去ることはない!!」(レ)「信じる心が、「勇気」になる・・・その心の強さが、不可能を可能にする!!」
二人は声を合わせて叫んだ・・・。
(テ・レ)「それが、『ウルトラマン』だ!!」
「ライト、行くぞ!」「はい!」
ティガとレジェンドは同時に飛翔する。ヤプールは光球からティガ・レジェンドに向けて、削除光弾「デリートショット」を放った。二人はそれを避けながら、ただひたすら上へと目指していく・・・。
ティガは上へ進んでいる間、頭の中で呟いた・・・。
(TAKE ME HIGHERーもっと・・・高く!!)
ティガとレジェンドはさらにスピードを上げて上に突き進む・・・。
光球を越して少し上に行き、空中で制止する二人。その二人に向かって、光球から赤い光線が発射される。しかし二人はそれぞれ、『グリッターゼペリオン光線』『スパークレジェンド』を放ち、光線を押し返した。
その押し返された衝撃で、コンピューターに動作異常が発生し、町ではあちこちで誘爆が始まった・・・空が先程までの青空から、まるで何かに呪われたような赤い色に変わった・・・。町のデータ崩壊が始まったのだ。
急いで蹴りを付けなければ、この町ごと自分達の体が消されてしまうのだ。
「おのれぇ、ウルトラ兄弟!我らの怨念は・・・不滅だぁ!!」
ヤプールの叫びに対し、ティガは嘲笑しながら答える。
「その怨念も、二度と出ないようにしてやる。永遠にな!」
「ハァァァァァァ・・・!」
ティガは自らの体に纏っていた虹色のシールド「オーロラグリタリングシールド」が腕に集まっていく・・・。彼は光が貯まった腕を、胸の前で交差させた。
同時に、レジェンドはガイアの「フォトンストリーム」と同じポーズをとる。そして・・・
ティガは自信の最強必殺技『オーロラ・ゼラデスビーム』(半オリジナル技)、レジェンドはガイアから受け継いだ必殺技『レジェンドストリーム』(オリジナル技)を同時に放った。
「デァァァァァァァァァッ!!!」「やめろぉぉぉぉぉぉぉ・・・!!」
次の瞬間、町の中心から金色の閃光が起こり、町全体を包んでいく・・・
ティガとレジェンドはそれを見届けることも無く、空高く舞い上がっていった。ティガは崩壊の進むNIGHTMARE CITYの赤い空にグリッターゼペリオン光線で穴を開け、中に飛び込んでいく・・・。その後をレジェンドも続き、仮想空間から脱出した。
その直後、町全体に響く途轍もない轟音とともに、大きな爆発が起こる・・・。この爆発により町の施設・管理AIのデータも全て吹き飛ばされた。
NIGHTMARE CITYはついに闇の彼方に葬られ、姿を消したのだった・・・。
脱出から二日後・・・
現実世界のとある病院の一室では、二日前に送り込まれた病人がずっと眠り続けていた・・・。髪の色が桃色で、見た目からして20代ぐらいの女性・・・。悲しそうな表情を浮かべている。
その様子をずっと見ているのは、同じ20歳ぐらいで金髪に、透き通った緑色の瞳をもつ男性と、同じ金髪に水色の透き通った瞳を持つ小さな男の子だ。
そう・・・彼らこそがあの「ギコ」と「タカラ」、そして「しぃ」だ。
しぃはこの世界に戻ってから、二日間もずっと眠り続けているのだ。ティガになって、体に負担が掛かりすぎたのだろうか・・・。
「お母さん・・・今日は絶対起きてくれるよね・・・?」
タカラが母の手を握りながら言う。それに対して、ギコは優しく彼の頭を撫でながら言い聞かせた。
「大丈夫・・・。今日は絶対、起きてくれるさ・・・。だから、もう少し待ってみよう・・・な?」
タカラは小さく頷いた。と、その時・・・堅く閉じていたしぃの目がピクッと動き、ゆっくりと開き始めた。彼女はそのままギコ達のいる方に顔を向けた。
「ん・・・。ギコ・・・君・・・?・・・タカラ・・・?」「・・・しぃ?」「お母さん!」
タカラはしぃに抱きついた。
しぃは起きあがると、水色の瞳をウルウルさせながら優しく抱き止めた。タカラの瞳は、しぃから受け継いだものだったのだ。
「お母さん・・・いつもの優しい・・・お母さんだ・・・。」「タカラ・・・お兄さんになったね・・・。お母さん、びっくりしちゃったよ。」
しぃの一声に、思わず照れ笑いをするタカラ・・・。そして・・・
「しぃ、おかえり・・・。」「ギコ君・・・。」
ギコはしぃに近づくと、彼女の肩を包むように優しく抱いた。しぃは彼の胸に顔をうずくめる。ギコの胸が、とても暖かい・・・。NIGHTMARE CITYでしか体験できなかったことが、ついに現実の物になったのだ。
「ギコ君・・・本当に人間になっちゃったね。」「ああ。これで俺達は、『本物の』人間だ。」
ギコは一旦抱いていた腕を離すと、しぃの肩を持ちながら言った。
「しぃ、聞いてくれ・・・今、エーは・・・」
次の瞬間、館内放送のチャイムで音がかき消された。しかし、しぃの耳にはギコがなにを言っているのかはっきり聞こえた。
「・・・え・・・っ?」
数分後・・・彼らは同じ病院の集中治療室に来ていた・・・。この病室の奥に、『彼女』は眠っている。
ギコは、しぃとタカラを連れて集中治療室の奥に進んでいく・・・。すると・・・
「みんな、待たせたな・・・。」
そこには、紺の長い髪、若干パーマが掛かっている茶色い髪、綺麗な白い髪を持った若い男性三人と、赤くて長い髪を後ろでポニーテールに纏めた若い女性が座っていた・・・。
彼らはそれぞれ、「モララー」「フサ」「モナー」「つー」だ。彼らもこの世界に来て人間になっていたのだ。
(モラ)「・・・遅かったな。」(つ)「しぃちゃん・・・目が覚めたんだな。」
つーは特徴であるカタカナ語ではなく、普通に喋っていた。
(フ)「・・・二日前からこんな感じだよ。ずっと同じ状態だ。」(モナ)「・・・僕たちは、下で待っているモナ・・・。一緒に居てあげて欲しいモナ。」
そう言うと、彼らは席を外して部屋を後にした・・・。周りに誰もいなくなると、しぃはベットに一歩ずつ近づいていった。・・・そこにいたのは・・・。
しぃと同じ桃色の長い髪を持つ少女・・・近くに赤いゴムの髪止めが置いてある。
そう・・・彼女こそがしぃの長女『エー』だ。
エーの腕には輸血用の血が点滴で流れており、口には酸素マスクが掛けられている。心電図の心拍もかなり弱い・・・。とても苦しそうな表情で眠っている。
しぃは彼女の横に来ると、何も付けていない右の手を掴み、ゆっくりと握りしめた。大量に血液を失ったせいで、彼女の手はまるで氷のように冷たくなっていた。
「エー・・・?」
静かに声を掛けるしぃ・・・しかし、何も返答がない。彼女はただ苦しそうに呼吸をしながら眠っているだけだ。
「お願い・・起きて・・・。」
しぃの視界が段々とぼやけてくる・・・。それは、彼女の瞳に涙が溢れている何よりの証拠だった。しぃは涙をこぼしながら話を続ける。
「エー、ごめんね・・・。また、家族で一緒に暮らそうって言ってたのに・・・。なのに、私ったら・・・自分の子供を殺しかけるなんて・・・。」
ベットに涙が一滴、また一滴と落ちる・・・しぃの手が小刻みに揺れ始めた。
「こんなお母さんを、許してだなんて言わないよ・・・。でも、お願い・・・。」
次の瞬間、しぃは病室中に響く声で泣き叫んだ。
「もう一度、目を覚ましてぇぇっ!!!」
しぃは娘のベットに顔を伏せると、そのまま泣き崩れた・・・。
と、その時・・・
今まで動きがなかった彼女の手が、ピクッと動いた・・・。しぃはハッとして、エーの右手を見てみる。すると・・・
彼女の手がゆっくり動きだし、しぃの手を握り返したのだ。
「・・・え・・・?」
まさかと思い、エーを見返すと・・・そこには、ゆっくりと緑色の透き通った目を開き始めたエーの姿があった。しぃは静かに声をかける。
「エー・・・分かる?」
エーは半分目を開けた状態でこちらの方を向くと、弱々しい声で返答した・・・。
「・・・お・・・母・・・さ・・ん・・・。」
ついに、待望の瞬間がやってきた・・・。エーの意識が、回復したのだ!!
「エー!!・・・良かった・・・本当に、生きてて良かった・・・!!」
しぃは彼女を優しく抱きしめた・・・。その時、知らせを聞いたモララー達が駆けつけた。
(モラ)「エー!」(モナ)「エーちゃん・・・ずっと待ってたモナ!!!」(フ)「エーちゃん!お帰りなさい!!」(つ)「きっと生き返るって、信じてたぞ!!」
集中治療室はその日、その場所だけ、途轍もなく大きな歓喜に包まれた。
あの時エーは目を覚ましたばかりで意識が朦朧としていたが、彼女の顔は緑の透き通った瞳で、歪みのない最高の笑顔になっていた。
それから一ヶ月後・・・
彼らは今、ロボットでも管理AIでもなく、『人間』として新しい生活を始めた。最初は不慣れだったが今はもう人間の生活に大分馴染み、仲間達ともうまくやっている。
しぃは相変わらず、専業主婦として家族を支えてくれている。エーは高校で一生懸命勉学に励み、友達とも仲良くやっているようだ。タカラは最近甘えることが無くなってしまった。きっと、あの戦いで心身共に成長したからだろう。
そしてギコは・・・
「その調子だ。しかし、スピードに欠けているな・・・。カウンターが素早く出せるようにしないと、敵に防御されて攻撃が無意味になってしまうぞ。」「はい!」
彼は宇宙警備隊の教官として、タロウと共に後輩の指導に当たっている。勿論、警備隊員として宇宙にパトロールに出ることもある。彼は、自分に出来る何かを考えた結果、あの惨劇から自分が学んだことを後輩に伝えるために、『教官』という職務に就いたのだ。
NIGHTMARE CITYは完全に消え去った。その事実を知る者はごく一部しかいない。しかし、彼らは決して忘れることはないだろう。悪夢の町で学んだ、大切なことを・・・。
『心の絆』と、『希望の光』を・・・。
〜終〜
エンディングテーマ:
『君にできるなにか』
(ウルトラマンコスモスより)
夢を追いかけて 全てが変わる・・・
Why 何故だろう?
誰かを 救える筈の力で
誰もがまた 争う・・・
Yes 本当は
一つの 地球(せかい)に生まれてきたと
分かり合えて いるのに・・・
Can you do it? 何度でも
Can I carry out? 始めよう
新しい・・・ More tenderly...
明日を・・・ More kindly...
夢を追いかけて 全てが変わる
何時だって君を 心は見ている
愛は何処にある? その答えから
君だけの『勇気』 必ず
探し出せるさ・・・。
Why 限りない
朝日と 美しい月の夜が
記憶の果て 消えてく・・・
Yes 失った
光が 教えてくれた気持ちを
思い出して みないか?
Can you do it? 今すぐに
Can I carry out? 始めよう
信じあう More tenderly...
未来を・・・ More kindly
夢を追いかけて 全てが変わる
強くなる『意味』を 心は知っている
愛は何処にある? 気付いた時に
君だけに出来る 何かが
探し出せるさ・・・。
Can you do it? 何度でも
Can I carry out? 始めよう
新しい More tenderly...
明日を・・・ More kindly...
夢を追いかけて 全てが変わる
何時だって君を 心は見ている
愛は何処にある? その答えから
君だけの『勇気』 必ず
探し出せるさ・・・。
(転調)
夢を追いかけて 全てが変わる
強くなる『意味』を 心は知っている
愛は何処にある? 気付いたときに
君だけに出来る 『何か』が
探し出せるさ・・・。
挿入歌(>>180-
>>183):
『TAKE ME HIGHER-New album Remix-』
(ウルトラマンティガ最終回より)
1.
Wanna take you, baby, take me higher...
Gonna TIGA! Take me, take me higher...
静かに朝焼けが 大地を包んでく
いつもと 変わらぬ夜明け...
遙かに続いてく 繰り返しの中で
僕らは 瞬間(いま)を生きてる
見えない今日の風に 立ち向かって行く
何時までも守りたい その微笑みを...
Wanna take you, baby, take me higher
愛を抱きしめて 今
Gonna TIGA! Take me, take me higher
勇気抱きしめて 強く
Wanna take you, baby, take me higher
きっと辿り着けるさ
Gonna TIGA! Take me, take me higher
熱い鼓動を信じて...
2.
争い事の無い 明日を探してる
誰もが 待ち望んでる
僕らが出来ることを 続けてゆくよ
優しくなれればいい 絶やさずいたい
Wanna take you, baby, take me higher
全て動き始めた
Gonna TIGA! Take me, take me higher
未来(みち)を切り開いてゆく
Wanna take you, baby, take me higher
立ち止まってられない
Gonna TIGA! Take me, take me higher
光る瞳を信じて...
Wanna take you, baby, take me higher...
Gonna TIGA Take me, take me higher...
いつかは届くきっと 僕らの声が
世界を変えてゆける 時代を越えて...
Wanna take you, baby, take me higher
愛を抱きしめて 今
Gonna TIGA! Take me, take me higher
勇気抱きしめて 強く
Wanna take you, baby, take me higher
きっと辿り着けるさ
Gonna TIGA! Take me, take me higher
熱い鼓動を信じて...!
ネタ元:
映像関連:
大決戦!超ウルトラ8兄弟(2008年 円谷プロ・松竹)
ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟(2006年 円谷プロ・松竹『ウルトラシリーズ生誕40周年記念作品』)
ウルトラマンコスモスVSウルトラマンジャスティス THE FINAL BATTLE(2003年 円谷プロ・松竹)
ウルトラマンティガTHE FINAL ODYSSEY(2000年 円谷プロ・松竹)
ウルトラマンガイア(1998年 円谷プロ)
ウルトラマンダイナ(1997年 円谷プロ)
ウルトラマンティガ(1996年 円谷プロ)
昭和ウルトラシリーズ(1966年〜1972年 円谷プロ)
NIGHTMARE CITYシリーズ(2003年・2005年 みーや氏)
WALL.E/ウォーリー(2008年 ウォルト・ディズニーピクチャーズ&ピクサー)
曲名関連:
TAKE ME HIGHER (1996年 V6)
君にできるなにか(2001年 Project DMM)
Northern Lights(403)
ゲーム:
ウルトラマンFighting Evolution Rebirth(2004年 バンプレスト)
小説制作:
TKY
筆者から
第二弾、完結でございます・・・。皆様、如何でしたでしょうか?
私的に、最後の纏め方がなんだか説明不足で不味かったかなと感じています・・・。本当にすみません。
細かい観点としては、やはり初心者故の癖か、書き始めた当初は台本書きが目立っていたなと反省しています・・・。しかし後編から若干書き方に変化を加えたので、台本書きは改善されたのではと思っております。
表現方法なども第一弾の反省を踏まえて、なるべく解りやすくするために変化を加えてみましたが・・・どうでしょうか。
・・・客観的な見方が出来ない筆者をどうかお許しください。もしよろしければご意見・ご感想を寄せていただければ幸いです。なお、頂いたご意見は今後の小説に反映させていきたいなと思っています。
なお、この下からは上の物語のその後をゆっくり執筆したいと考えています。
※この先の小説から、WALL.Eの設定が一部を除き殆ど無くなります。ご注意ください。
こんな筆者ではありますが、これからも書き続けていきたいと思っているので、応援よろしくお願いいたします・・・。
2009年10月4日 TKY◆tMlvS8ak8E
TKY独特の表現があり、時々ん?って思うところも確かにある。
でも、それはとても小さな小さな違和感。
プロの作品であっても往々にしてある事。
読み手が気にしなければ、問題にする必要はない。
だが、読む人みんなが気にしないでくれるかといえば、そんな事はないわけで...
よって、
小説として出版できるレベルか?と問われれば、YESとは言えないが、
では、面白くないか?と問われれば、答えはNOだ。
十二分に面白い。
楽しく読ませてもらったよ。
1作目よりは2作目が面白い。
ならば、3作目はもっと面白くなるはずだ
最後に、
ひとつだけ、個人的に思った事がある。
ウォーリーという作品を混ぜる必要無くないか?www
キリ番頂きますw
>>SAT氏
ありがとうございます。小説として出版できるレベルではないですが、このページを通して読んでいただけるだけで僕は十分ですw
えーと・・・確かにWALL.Eは必要ないかも・・・
NIGHTMARE CITY×ウルトラマン〜After Story〜
登場人物
擬古河 醍醐(初代ウルトラマン):通称ギコ。ロボットだったが、NIGHTMARE CITYから帰還した際に人間になった。見た目は20歳前後の金髪が特徴の青年だが、実は40歳。
正義感が強くて面倒見が良く、光の国の後輩達からの支持も高い。職業は、宇宙警備隊筆頭書記官。また、教官として訓練生達の面倒も見ていることもある。ちなみに土・日は大体地球にいるらしい。
擬古河 椎奈(しぃ):ギコの妻であり、二人の子供のお母さん。彼女もまたロボットだったが、ギコ同様の理由で人間になった。見た目は20歳前後で桃色の髪に透き通った青色の瞳を持つ美しい外見を持つが、実年齢はギコより二歳年下の38歳・・・。
しかし、その外見から未成年と勘違いされることもあるとか。
とても心優しい性格で、専業主婦として懸命に家族を支えている。子供達の成長を暖かく見守る。
擬古河 栄香(ウルトラマンティガ):通称エーちゃん。16歳で青春真っ盛りな高校一年生。両親と同じく人間になったが、彼女やタカラは実年齢の姿になった。
桃色の髪の美しい外見や心優しい性格は母親譲りだが、怒らせるとかなりヤバい・・・。緑色の透き通った瞳は父親のギコのものと同じ。瞳の色以外殆ど見分けが付かないので、普段は赤い髪止めを使っているのだそうだ。
ティガになる能力を持つが、戦闘などいざというときにしか使わない。その為、何時でもどの敵にも対応できるように、土日は父親と訓練していることがある。
今作で、彼女は恋心に目覚める・・・。
擬古河 宝(ウルトラマンコスモス):エーの弟。7歳で多感な時期の小学一年生。通称は無いが、唯一フサには「ター坊」と呼ばれている。
姉とは逆に、やんちゃでおっちょこちょいな所がある性格や金色の髪など、ギコから受け継いだものが多い。但し、瞳の色は母親のしぃと同じ透き通った青色をしている。
家族の中ではムードメーカー的な存在。小学校では野上ぃょぅ(ぃょぅ)や房波しぃ(フサしぃ)と仲が良いが、実はフサしぃの事が好き。
藤沢 克明(ウルトラマンガイア):通称フサ。ギコの昔からの親友で、まるで兄弟のように性格がそっくり。若干パーマがかかった茶色い髪が特徴で、フサという通称もここから来ているとか。
前作でつーに自分が好きであることを告白し、現在同棲中。エーの通う高校の校医として働いているため、彼女とはほぼ毎日顔を合わせている。そのため、彼女の事情については両親並みによく理解している。
今作では心理カウンセラーとして、エーの恋愛を陰から支える。
伊野崎 つー:NIGHTMARE CITYの元管理AI。仮想空間で名字がなかったため、仮名として新しく名字を付けた。
赤い髪でポニーテールに纏めているのが特徴で、性格はちょっと男っぽい。しかし可愛い物を見る時など、時々女性らしく可愛い一面を見せることがある。密かに貧乳に悩んでいるとか・・・。
前作で死ぬ間際の自分をフサに救われ、彼が好きになる。プロポーズを受けた現在は、愛する彼と同棲中。
彼女は意外に家庭的で、掃除洗濯などは勿論のこと、料理の腕前もなかなかのもの。自作で節約料理なども考え出している程だ。
また、管理AI時代の武器がナイフだったためか、包丁裁きがプロの料理人並みである。
金崎 モララー(ウルトラマンアグル):つーと同じく元管理AIで、リーダーだった。かつてNIGHTMARE CITY事件を引き起こした張本人だが、六年前のギコとの戦いで正気に戻った。現在ではギコの良き理解者だ。
前作、エーから蒼い海の光の力を受け取り、それが役立つようにと現在は警察署に勤務している。なぜ警察署なのかは理由がハッキリしていないが・・・。住居は親友モナーとの二人暮らし。
人間体は紺色の髪と瞳を持つイケメン。正義感があり、弱い者に手を差し伸べ、凶悪な者には徹底的な制裁を加える事をモットーにしている。
白山 モナー(ウルトラマンダイナ):元管理AI。のんびりとした性格とは裏腹に、IQ200の天才である。純白の髪の毛を持つ青年の姿をしているが、その見た目からタカラの友達からは白ジイサンと呼ばれている。
前作でエーから火星の光を受け継いだが、今はエー同様あまり使っていない。
現在自分の頭の良さを利用して、大学の講師を兼任しながら科学者の一人として、日々様々な研究を重ねている。しかし、研究内容は同居しているモララーにも明かしていない。一体何を研究しているのだろうか・・・。
小説本編
あの物語の最後から約五ヶ月後の2833年1月7日・・・。
「タカラ!遅刻するよ!!」
早朝の二階建ての一軒家から、少女の怒声が聞こえる。白いブレザーの上にクリーム色のセーターを着込んでいて、スカートは濃いグレー。桃色の長い髪を持ち、赤いヘアピンでとめている。瞳の色は綺麗に透き通った緑色だ。
そう・・・彼女はあの事件の生還者の一人『擬古河 栄香』。彼女は事件の後、普通の高校生になっていたのだ。栄香は玄関の扉を開け放して、二階に寝ている弟に向かって叫んだ。
「タカラ!!みんなに笑われても知らないからっ!!」
二階で寝ていた、金髪で蒼い瞳を持つ少年『擬古河 宝』は今の一言でベットから飛び起きた。
「うわぁっ!?あれ?今何時だ??」
タカラは壁に掛けてあるデジタル時計を見ると・・・AM.7:43。急がないと遅刻してしまう。
「えぇっ!?ち・・・遅刻するぅ!!!」
タカラはハイスピードで私服になると、朝食をとるべく下に駆け降りていった・・・。
これが、最近の擬古河家の日常だ。しかし、基本的には同じだが今日はちょっと違った。
彼らは今日から新学期が始まるのである。
タカラはリビングに駆け込むと、用意してあった朝食を急いで食べた。
「もう・・・お母さんが呼んでもぜんぜん起きないんだから・・・。」「お母さん・・・。」
台所で作業していた母親『擬古河 椎奈』(しぃ)はリビングに入ると、タカラの向かい側にある椅子に腰かけた。
人間になってから五ヶ月が経ち基本的な生活には慣れたものの、季節の関係で体の目覚めが悪くなったりと、人間の体のサイクルにはどうも慣れない。
「時間通り起きなさいって、何時も言っているでしょう?」「ご、ごめんなさい!!」
不満そうにため息を吐きながら声をかけるしぃ。こう言う自分もたまにやってしまうのだから、人のことは言えない。でも、子供達にはしっかり学校に行って欲しかったのだ。
「フフッ・・・寝坊しちゃだめよ?」「うん!」
しぃは優しくタカラの頭を撫でた。
15分後・・・タカラは黒いランドセルを背負い、朝日で輝いている玄関を開け放した。
「忘れ物は無いわね?気を付けていってらっしゃい!」「うん!行ってきま〜す!!」
しぃは笑顔で息子を送り出す。タカラは駆け足で学校に向かっていった。彼女は駆けていく息子の背中から、自分の夫の背中を見ているような気がした・・・
自分の夫−『擬古河 醍醐』(ギコ)は今、遠く離れた宇宙で戦い方を教える「教官」として頑張っている。そう・・・ウルトラ兄弟の二人目『初代ウルトラマン』として。
(ギコ君、今どうしてるのかな・・・。)
彼がいない間は、妻である私が家を守らなくては・・・しぃはそう考えていた。でもやっぱり暫く会えないとなると、寂しい。
しぃは家の中に戻ると、中断していた皿洗いをしようとキッチンに戻った・・・。
同じ頃の高校・・・エーは無事登校時間に間にあい、自分の席から教室を眺めていた。冬休みが明けても、今年もみんなの様子は変わり無いようだ。そこに、エーと同じくらいの長さで紫色の髪を持つ一人の女子が声をかけた。
「エーちゃん!元気やった?」「のーちゃん!久しぶりだね!!」
エーに関西弁で話しかけたのは『崎島 野里華』と言い、通称はのー。エーの親友である。彼女が人間になったことを一番最初に知り、暖かく受け入れてくれた人物だ。
「エーちゃんは初詣行ったん?」「うん。でもお父さんは仕事が忙しくて、今年は来れなかったの。」「怪獣退治の専門家やもんな・・・。」「あっ、あんまり大きな声で言わないで・・・。」「・・・ごめん・・・。」
因みに、高校で彼らがウルトラマンであることを知っているのは、校長・副校長・担任の先生・校医のフサ・のーだけで、それ以外には明かしていない。と言うよりも、彼女は信頼できる人以外は絶対に明かさないのだ。
「ばらさないように気ぃ付けなあかんな・・・。」「分かってる・・・って、それはのーちゃんの方でしょ?」「えへへ・・・。」
その時、赤髪の男子生徒が彼女達に話しかけた。
「おっす!」「アヒャくん!」
赤髪の彼は『相沢 珀作(ひゃくさ)』といい、クラスからはアヒャと呼ばれている。体型・顔立ちもなかなかで、運動神経も抜群。そのため、クラスの人気者になっている。・・・いろんな意味で。
「お前等、宿題やったか?」「私は昨年中に全部終わったよ♪」「うち、英語ぜんぜんわからへん・・・。」「あ、・・・俺やったのに家に忘れた・・・。」「!?」
このように、彼はおっちょこちょいな所があるのだ。まるで弟のタカラや父のギコのように・・・。
「アヒャはん、またやっちゃった?ww」「う・・・うるせぇな!」「まぁ・・・いいんじゃないの?提出日はそれぞれの授業初日だし。」「あ・・・。」
エーの反応に、二人とも何も言い返せなくなってしまった。今日は始業式があるだけで、宿題の提出日ではないのだ。
「アヒャ君は相変わらずだね・・・。おっちょこちょいな所とか・・・。」「・・・いきなり変わっても不味いけどな。」「あ・・・そうだよね。」
三人は顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、また後でな!」「うん!」
笑いあった後で、アヒャは自分の席に戻っていった。再び二人だけになった後で、のーが話しかける。
「エーちゃん、アヒャはんを見る目が変わったなぁ。」「えっ!?そ、そう?」「つい二ヶ月ぐらい前から、友達を見るような目ではなくなってきたように思うんやけど?」「(ぎくっ)・・・。」
彼女の言うとおり、最近アヒャの前でのエーの行動がおかしくなっていた。エーの心理状況は、すっかりのーにはお見通しのようだ。
「・・・のーちゃんには私の心はお見通しなんだね・・・。」「隠さないで、話してみ。」「うん・・・。」
エーは大きく深呼吸を入れた後、相談をした。
「何時頃か分からないけど最近、アヒャ君のことを見たり一緒に話してたりすると、胸がドキドキするの・・・。それがばれないように一生懸命ごまかしてたんだけど・・・何でかな。」「うーん・・・。」
のーはしばらく考えた後、エーに真剣な顔で答えた。
「これはあくまでうちの推測だけど、エーちゃんは多分・・・。」
のーは一息置くと、他の人に聞こえないようにこっそり言った。
「アヒャはんに『恋』してるんとちゃう?」
「えっ・・・?」
エーは今の一言ですっかり顔が赤くなってしまった。
「『恋』・・・?そんな気持ち、考えてもみなかった。」「詳しいことは、昼休みにフサ先生に話した方がええよ?うちの言ったことを信用して、間違っていたら嫌やし。」「うん・・・。」
エーはそう言うと、赤い顔で小さく頷いた。
『恋』って、何だろう・・・どんな気持ちで、どのように感じるのか・・・そんな事、考えたこともなかった。でももし、のーの言ったことが本当ならば、自分は人生で初めて恋をすることになる・・・。一体自分はどうなっちゃうんだろう・・・。
彼女の『恋の歯車』が今、静かに動き出した・・・。
昼休み・・・
彼女は保健室のフサのもとを訪ねる。のーが言っていた事を、確かめるために・・・。
「失礼します・・・。フサさん?」「ん? おぉ、エーちゃん!・・・どうしたんだ急に?」「・・・私の悩み・・・聞いてくれますか?」「良いけど・・・?」
フサは、NIGHTMARE CITY事件の被害者の一人で、彼女やギコと共に戦いを繰り広げていた仲間である。その為、エーは彼のことをフサさんと呼ぶ癖がついていたのだ。
フサとエーは保健室の奥にある、休憩室で話すことになった。
「どうした? いつもの元気な様子じゃないけど・・・。」「ちょっと・・・言いにくいんです・・・。」「・・・?」
エーはゆっくりと、顔を赤くしながら話した。
「・・・最近アヒャ君と話すとき、胸がドキドキしたり顔が熱くなったりするんです・・・。私、何にもしてないのに・・・。友達ののーちゃんは、恋してるんじゃないかって言ってたんだけど・・・分からないの。」
フサは全てを聞くと、口元に笑みを浮かべながら言った。
「そうか・・・。エーちゃんもついに恋に目覚めたんだな。」「フサさん・・・私、どうしたらいいかな・・・。」
フサはホットコーヒーを一口飲むと、エーに自分なりの意見で答えた。
「男である俺が女の子の恋をアドバイスすることは難しいけど・・・とにかく、今は一緒にいる時間を増やしていくと良いと思うぞ。」「一緒に・・・いる時間?」
「そうだよ。君はまだ、自分の気持ちに気付けていない。人に言われただけで、そう思い込んでいるだけかもしれないからね。・・・今言えるのは、其れだけかな・・・。」「・・・。」
ストレートで簡単なアドバイスだった・・・。やはり、男であるフサに聴くのは間違いだったのか・・・しかし、そう言ったのにも裏付ける理由があった。
「でも、其れによって自分の本心に気付けるかもしれないよ。好きなのか、そうでもないのか、ハッキリとね。俺もそうだったからさ。」「えっ?」
フサはホットコーヒーが入っているマグカップに手を置きながら、自分の経験を話した。
「六年前、俺がまだデータとして漂っていた頃に、つーと出会ったんだ。その頃はまだ彼奴のことを敵の管理AIだと思って意識しなかったんだけど・・・。グリッターティガとして一緒に戦ったことを知ってから、彼女と打ち解けたんだ。」
「つーさんとは、六年前から知り合っていたんですね?」「ああ。最初こそは少し話をするだけだった。けど段々話す回数が増えて、いつの間にか友達になっていたんだ。」
過去の話をするフサの顔が、少し赤くなったような気がした。コーヒーで暖まったのか、それとも過去の話をして恥ずかしくなっていたのか。・・・それは、誰にも分からない。
「でも何故だろう・・・。俺も何時から彼奴のことが好きになったのか、分からないんだ。」「えっ? どういうことですか?」
「今の君と同じように、自然に好きになっていった・・・っていうのかな? でも俺はそれを隠しながら、一緒に過ごしていたんだ。」
エーはフサの話を聞いて驚いた。彼は、今の彼女と全く同じ事を体験していたのだ。
「最終的に自分の気持ちに気付けたのは、ガイアの力を受けてからかな・・・。自分が愛するもの心からを護りたいって思ったとき、自分は彼女のことが好きなんだって気付けたんだ・・・。」「・・・そうだったんですか・・・。」
エーは若干不安になってしまった。もしフサのように自分の気持ちに気付けなかったら、自分はこのドキドキが分からずに終わってしまうかもしれない・・・。
そのことを察知したのか、フサがさらに言葉を挟む。
「心配することはないよ。自分の気持ちに目覚めるのは人それぞれ。俺のようにピンチになった時に気づく人もいれば、自然に分かる人もいる。とにかく今は自分なりに色々やって、答えを探してごらん。」
「・・・分かりました。私、自分なりに頑張ってみます。ありがとうございました!」
エーはフサの言葉に納得し部屋を出ようとした。その時ふと、フサが声をかけた。
「あぁ、あと俺のことを学校で『フサさん』なんて呼ばないでくれ・・・。変な噂を去れたら、たまったもんじゃないから。」
「はい!フサ先生!」
エーは持ち前の元気を取り戻し、保健室から出ていった。
その直後、保健室に一本の電話がかかってきた。
「はい、第二高校保健室です。」『もしもし、そちらにフサ・・・いや、藤沢先生はいらっしゃいませんか?』「私が藤沢ですが・・・ってつー!?」『フサ? 良かった・・・居たのね。』
声の主は、恋人のつーだった。
「いや、わざわざ保健室に電話するなんて非常識だから!! 携帯にメールしろって!」『緊急なの!』「えっ? どうしたんだ?」『しぃちゃんが・・・』「・・・え?」
エーは教室に戻ると、家に帰るために身支度をする。今日は始業式のため、午前中で終わりなのだ。
すると、丁度のーが話しかけてきた。
「エーちゃん、どうやった?」「『まだ自分の気持ちに気付けてないから、自分なりに色々やって答えを探してみて』だって。」「ほら、言ったやろ? フサ先生なら良いアドバイスが聞けるって! 良かったね!」「うん!」
エーは笑顔で頷いた。のーも彼女が元気を出してくれてホッとしたようだ。
数分後・・・エーとのー、そしてアヒャは、一緒に帰ろうと下に降りていた。
「明日、暇だなぁ・・・授業つまんねぇし・・・。」「そんな事言ってると、アヒャはん留年になっちゃうで?」「そう言われてもさ・・・。」「あと二日で、また休みにはいるんだから頑張ろうよ。」「まぁ・・・そうだな。」
アヒャはエーの言葉にすぐ落ち着いてしまった。その反応をのーは見逃さなかった。
「あれ? アヒャはん、エーちゃんの言うことだけは素直に聞くんやなぁ。もしかして・・・」「ち、違うって!!」
慌てて訂正するアヒャ。エーは彼の反応をみて、顔を赤くしながらクスッと笑った。
その時・・・
「擬古河さん!」「!?」
後ろから誰かの声がした・・・
「「「フサ先生!?」」」「いたいた・・・てっきり帰ったのかと思っちゃったよ。」
エーのことを呼んだのは、何とフサだった。
「どうしたんですか?」「擬古河さん、ちょっと・・・。」
彼はエーを呼ぶと、二人だけで話を始めた。その様子を、のーとアヒャが見つめていた。
「フサ先生・・・何話してるんやろ・・・。」「え? 何か大事なことなんじゃないか?」「そうやけど・・・何か嫌な予感がするんや・・・。」
二人がコッソリ話していたその時・・・
「えっ!?」「あぁ。今つーが家に居てくれている。君も早く帰った方が良いぞ。」「・・・はい。」
どうやら二人の話が終わったようだ。しかし・・・エーの顔からは既に笑顔が消え、代わりに悲しさや不安を表すような暗い表情が出ていた。二人は心配して声をかける。
「エーちゃん・・・?」「どうした? 何かあったのか?」「・・・お母さんが・・・」「え?」「お母さんが、家で倒れたって・・・高熱を出してるみたい・・・。」「!!」
フサから貰った伝言・・・それは、母親が過労でいきなり倒れたことだった。
「私・・・帰らなきゃ!!」「え、エーちゃん!?」
エーは病状を確かめるべく、学校から飛び出していった・・・
エーは家へと続く並木道を全速力で駆けていく・・・
つーが家に居てくれる間は何とかなるが、もし二人だけになってしまった場合のことを考えると大変だ・・・。
自分には一体何が出来るだろう・・・。料理はそんなにうまくないし、家事全てをやるのは難しい・・・でも頼りになるのは自分だけ・・・一体どうすれば・・・。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか家の前まで来ていた。彼女がインターフォンを押すと・・・
「エーちゃん、お帰りなさい。」「つーさん・・・。」
長い赤髪をポニーテールで纏めた若い女性『伊野崎 つー』(つー)がすぐ出てきてくれた。
「ごめんね・・・いきなりの連絡に驚いたんじゃない?」「いいえ・・・ありがとうございました。」
二人は家の中に入ると、和室に向かった・・・。
「タカラくんもついさっき帰ってきたところなのよ。」「そうだったんですか・・・。」
二人は和室の扉を静かに開く。すると・・・
「姉ちゃん・・・。」「栄香・・・おかえり・・・。」
畳の上に敷かれている二枚重ねにした布団の上に、しぃは寝かされていた。少し厚めの毛布が三枚かけられている。タカラはその横に、心配そうにじっと座っていた。
「お母さん・・・。」「ごめんね・・・私・・・風邪ひいちゃったみたい・・・。」
エーはしぃの側に座ると、彼女の右手をいたわるように優しく握った。・・・今、これしか出来ない自分が情けない・・・そんな事を思いながら・・・。
「あたしが家に遊びに来たとき、台所で倒れていたの。ドアの鍵が開いてたから、勝手に入っちゃったんだけどさ・・・。」
つーは恥ずかしそうに、頭を掻きながら事情を話した。
「ううん・・・つーちゃんが来てくれなきゃ、私ずっと・・・ゲホッ! ゴホッ!!」
しぃは彼女の行為は正しかったということを言いたかったのだが、激しい喉の痛みと咳でうまく話せない・・・。慌ててエーとタカラが止めに入る。
「ダメだよ、無理しちゃ!!」「無理に話すことはないよ・・・ゆっくり寝てて。」
と、その時・・・
家のインターフォンが突然鳴った。
「誰かな・・・。」「私がいってきます。」
エーは急いで玄関に向かうと、「どちら様ですか?」と声をかけた。すると・・・
「エーか? ただいま!」「その声・・・。」
聞き覚えのある、優しい男の声が聞こえた。エーはまさかと思い、扉を開けた。
扉を開けると、金色の髪を持つ20代ぐらいの男性が立っていた。瞳の色は、エーと同じ緑色・・・。
玄関に立っていた彼女は驚いた・・・任務で宇宙に行っている筈の父『擬古河 醍醐』がそこにいたのだから。
「お父さん!? 何でここに?」「フサから全部聞いたよ。仕事を休んできたんだ。」
ギコは靴を脱ぐと、和室に向かっていった。
「お父さん!!」「ギ・・コ君・・・?」「ただいま。 しぃ・・・大丈夫か・・・?」「何で・・・? 仕事は?」
「フサから連絡を貰ったんだ。君が心配で・・・仕事を休んできた。当分の間は家にいるよ。」
ギコはしゃがむと、しぃの肩を優しく抱いた。
「大丈夫。家のことは俺に任せて・・・。気にしなくていいから、ゆっくり休んでくれ。」「・・・ごめんね。私のせいで仕事が・・・。」「気にするな。今は自分の体を優先しろ。」「ありがとう・・・。」
220 :
ほんわか名無しさん:2009/10/15(木) 18:27:48 0
こっちも浮上だゴルァ!!
その夜・・・ギコはつーが用意してくれた材料を使って夕飯の調理をしていた。もちろん、エーも手伝っている。
しぃのお粥を作っている最中、ギコがエーに声をかけた。
「なぁ、栄香。変なことを聞くけど・・・」「ん?」
「君は・・・恋愛とかしてないか?」
「えぇっ?」
エーは驚いてギコの顔を見返す。同時に顔が赤くなった。
「その反応、してるな?」「そ、・・・そんなことは・・・」「ついに、エーにも春が来たかぁ♪」「ちょっと!からかわないでよっ!」「ごめんごめん。・・・で、本当はどうなんだ?」
エーは俯きながら小さく頷いた。
「同じクラスなの。赤い髪で、ちょっと慌てんぼうなんだけど、どこか暖かくて優しい男の子なの・・・。」「そうか・・・。」
そう言うと、ギコは暫く口を閉じた。エーからはその横顔が、どこか寂しそうな表情に見えた・・・。
「・・・何でそんなことを聞いたの?」「ああ、別段深い理由はないんだけどさ。ただ・・・」「ただ?」「そろそろ、『自分の大切な人』を見つける頃かなってさ。」「自分の大切な人って・・・どう言うこと?」
「自分が心から好きで、これからもずっと護っていきたい人・・・一緒にいたい人のことだよ。」
ギコは料理を皿に盛りつけながら話を続けた。
「君が恋をするのは、自然なことだ。誰だって一度は経験するものさ。父さんも、初恋をして今があるんだから。」「うん・・・。」
「でも父さんのように、初恋を成就させるのは難しい。どんなに努力しても届かない思いだってあるんだ。」
エーは少し不安そうな顔をした・・・。ギコはそれに気づいたのか、彼女の肩に手を乗せた。
「不安がることはない。相手に上手く思いを伝えられるように、自分で色々やってみなさい。」「でも、私・・・何をしたらいいのか分からないよ・・・。」
「そこが初恋の醍醐味じゃないのか? まぁ、アドバイスを聞くなら母さんとか、つーとかに聞くといいだろうな。」
ギコはそう言うと、盛りつけ終わった料理をリビングに運んでいった。エーはそれを見送ると、しぃのお粥を和室に持っていくことにした・・・。
(そうか・・・。確かに、お母さんなら良いアドバイスがもらえるかもしれない・・・。)
一方和室では・・・
「ねぇ、お母さん・・・。」「どうしたの・・・?」
タカラは顔を赤くし、俯きながら言った・・・。
「僕ね・・・フサしぃちゃんの事が・・・好きなんだ・・・。」
「えっ・・・?」
しぃは布団の中で驚いたような表情になったが、すぐに笑顔になり、クスッと笑った。
「フフッ・・・随分早いわね。」「嘘じゃないよ! 本当だもん!!」「わかってるわよ。大丈夫。」
タカラは顔を赤くしながら、しぃの顔を見た。彼女はタカラの頭に手を乗せて、優しく撫でた。
「好きになる気持ちは、とても大切な事。でもただ好きでいるのは駄目よ。」「どうして?」
「あなたの気持ちを、ちゃんとその子に伝えなきゃ。本当に好きなら、その子の事を一生懸命護ってあげなくちゃ。そうじゃないと、本当にかっこいい人にはなれないわよ?」「僕・・・かっこいい人になれるかな・・・。」
「うん、きっとなれるわよ! お父さんみたいに、とっても強くなれるわ。自分の気持ちをしっかり伝えて、その子のことを護りたいっていう気持ちをずっと持っていれば、ね。」
「うん・・・分かったよ! 僕、頑張ってみる!」
タカラはそう言うと、和室から出るために障子を開けた。すると、そこには・・・
「お姉ちゃん!?」「タカラ・・・貴方もだったのね?」「・・・もしかして、全部聞いてた?」「フフフッ・・・さ・あ・ね!」「えっー? 狡いよ!」
しぃとエーの二人は、同じ声で笑い合った。
タカラが顔を赤くしながら部屋を出た後、エーはしぃの枕元にお粥を置く。土鍋からお椀に、出来たての暖かいお粥をよそる彼女に、しぃが話しかけた。
「ごめんね・・・お母さんがこうだから、迷惑かけちゃったね。」「ううん、そんな事はないよ。今はゆっくり休んでて。」
しぃはさらに笑顔で話しかけた。
「・・・あなたなら、いいお母さんになれそうね。」「えっ? どうしたのいきなり・・・。」
「栄香、アヒャ君のことが好きでしょ?」
エーは驚いて、思わず手を止める。
「何で分かるの!?」「最近アヒャ君の話が多いからよ。アヒャ君のことを話している貴方が、生き生きして見えるの。」「・・・何でみんな分かっちゃうの・・・?」
エーは顔を赤くしながら、小さく呟いた・・・。自分の恋愛は、他人にバレやすいものだったのか・・・という、疑問を含めて。
しぃはそんな事を気に止めず、さらに言葉を繋げた。
「恋をするのは、良い事よ・・・。自分で色々やって、答えを探してみるといいわ。それに・・・」
エーは赤い顔でしぃを見る。
「私、あなたとアヒャ君なら、きっとうまくいくと思うの。だから頑張って、自分で答えを探してみて。」
「私・・・どうしたら・・・。」「それは教えられないわ。」「どうして?」
「自分の恋は、自分で答えを出すことに意味があるの。教科書は存在しないわ。試行錯誤・暗中模索を繰り返して出るのが、自分だけの答え・・・。全部オンリー・ワンなのよ。」「・・・分かった。」
エーはお粥をよそり終わると、落ち込んだような表情で部屋を後にしようとした。・・・と、その時・・・
「待って。ヒントを出さないとは、一言も言ってないわよ?」「えっ?」
布団から起きあがったしぃが声をかけた。
「栄香は、アヒャ君には告白したの?」「まだなの・・・。」「今から一ヶ月後に、丁度良い日があるわよ。」「一ヶ月後? ・・・あっ!」
しぃの言う一ヶ月後・・・それは即ち『バレンタインデー』の事である。
「どんな方法を採るかは、貴方に任せるわ。」「うん! お母さん、ありがとう!」
エーは先ほどとは打って変わって、笑顔で部屋を後にした・・・。
この時、彼女の瞳は緑色に、一層強く輝いていた。まるで、心の中にある『希望』を示すかのように・・・。
しかし、この時の彼女達は気付いていなかった。
『悪夢』の刻が、少しずつ近付いていることに・・・。
タカラ編に続く
タカラ編
翌日・・・タカラはいつも通りに学校へ向かった。家のことはギコやエーがやってくれるので、心配はない。
しかし、彼にはそれ以外のことで、少し心配なことがあった。それは昨日、しぃに言われたことだ。
父親のように、自分はかっこよくなれるのだろうか・・・。
ギコは、優しくて自分の意見をはっきり言えて、とてもかっこいい。でも自分は本当に、そんな父親のようになれるのか・・・むしろ、平凡で終わってしまうのではないかと不安だったのだ。
そんなことを考えていると、後ろから誰かに声をかけられた。
「タカラ! おはょぅ!」「ん? ぃょぅ・・・。」
彼の名前は野上ぃょぅ。タカラの親友だ。タカラの通う学校では、彼と房波しぃが特に仲が良いのである。
「朝から落ち込んで、どうしたんだょぅ?」「ううん、何でもないや。」「何でもないなら、いいんだけどさ。」
二人はそのまま、肩を並べて学校へ向かった。
いつも通りに学校に到着した二人は、教室に入り窓側の席に着いた。
「ふぃ〜・・・今日は十分余裕が持てた・・・。」
ちなみに、二人がいつも到着するのは予令の五分前だ。今日はさらに五分余裕を持って登校したのだ。
ところが・・・今日はいつもと様子が違った。
「あれ? しぃちゃんがいないょぅ?」「本当だ・・・いつも俺達より早いのに・・・。」
いつもは先に到着している筈のフサしぃがいないのだ。その時、タカラの背中に突然激しい悪寒が走った・・・。タカラの異変に気付いたぃょぅが声をかけた。
「タカラ・・・? どうしたんだょぅ?」「何か・・・嫌な予感がするんだ・・・。」「えっ? まさか・・・。」
タカラの嫌な予感はよく当たる・・・。ぃょぅは否定した直後、担任の先生が具合悪そうな顔で入ってきた・・・。号令をかけた後、その重い口を開けた。
「皆さん・・・よく聞いて下さい。みんなの友達の房波しぃちゃんが・・・」
「『行方不明』になったという連絡が入りました・・・。」
「えっ・・・?」
タカラの嫌な予感が・・・当たってしまった・・・。
事態は、フサしぃが行方不明になっただけではなかった・・・。なんと、彼女の両親が何者かによって殺されたのだ。
ただ事ではないと思ったタカラはその後、全く授業に身が入らなくなっていた。親友であり、自分が好きな彼女が心配で、もはや授業を受ける余裕などなかったのだ。
放課後・・・ついに我慢の限界になったタカラは、『ある人』に相談するために警察署に向かった。
「すみません、地域課の金崎巡査さんはいませんか?」「ちょっと待っててね。」
警察署の受付で用件を言い、タカラは待合い席に座って待つ・・・。すると・・・
「タカラ、君だったのか。」「モララーさん!」
廊下からやってきたのは、紺色の髪をした警察の人だった・・・。実は彼こそ、NIGHTMARE CITYを引き起こした管理AI『モララー』なのだ。彼はこの世界に来てから、警察官の一人として仕事をこなしている。
「急な用件って、一体どうしたんだ?」「それが・・・」
タカラは、行方不明になっている少女が自分の親友であることを彼に伝えた。
「何だって!?」「僕・・・しぃちゃんの事を助けたいんです。一緒に探して頂けませんか?」
タカラは、モララーと一緒に探そうと考えていたのだ。
「いや・・・ここは俺達に任せてくれ。」「どうしてですか?」「どうしても何も、君は小学生だろ? 両親が心配するぞ。」「でも・・・。」
落ち込むタカラに、モララーが彼の頭を撫でながら言った。
「君の気持ちは、十分伝わったよ。大丈夫・・・俺達が必ず見つけ出す。だから、我慢して待っていてくれ・・・。」「・・・はい。」
タカラは、落ち込んだまま警察署を渋々後にした・・・。
警察の人にも協力してもらえないと、残された方法は一つ・・・もはや、自分で探すこと以外に方法は残されていなかった・・・。
「ただいま!」「おかえり。随分遅かったじゃないか・・・どうしたんだ?」「ちょっとね!」
タカラは家に帰ると、早速フサしぃを探す準備を始めた。
懐中電灯・傷薬・護身用のナイフ・そして、彼の一番大事なもの・・・『コスモプラック』。どこかで凶悪な異星人に出会った場合に備えて、いつも携帯しているのだ。
「これで、よし!」「待て。」
支度を終えて家を出ようとしたとき、後ろから声が掛かった。
「お父さん・・・。」「さっきから随分慌てて支度をしてたようだが、どこに行くんだ? もう日暮れだぞ?」「それは・・・。」
タカラは言葉を詰まらせてしまった・・・。フサしぃを探しに行く、なんてことを言ったら、一体どんな反応をするだろうか・・・想像するだけでも恐ろしい。父親の怖い顔は見たくない・・・。
タカラは焦る気持ちを押さえながら、ゆっくり話した。
「今日の朝、先生からしぃちゃんが行方不明になったって話を聞いて、居ても立ってもいられなくなったんだ。だから・・・その・・・。」
そう言いかけたとき、ギコは苦笑いを浮かべながら言った。
「やっぱりそうだったか・・・。その話は今朝、学校から電話で聞いているぞ。」「・・・えっ?」
そう・・・実は、今朝に学校の連絡網で直接知らせがきていた。そのため、ギコはその事情をしっかり理解していたのだ。
「きっとお前が友達を助けに行くと思っていたのだが、案の定だったな・・・。でも、一人で行ってはいけないぞ。お前一人だけを危険にさせたくないからな。」「そんな・・・。」
タカラは肩を窄めてしまった・・・。ある意味、そうなるとは思っていたが・・・。
「・・・ごめんなさい・・・。」
彼は一言謝り、自分の部屋へ向かおうとした。しかし・・・
「タカラ、まだ話は終わってないぞ。」「?」
ギコはさらに話を続ける。
「タカラ。お父さんは、『一人で行くな』と言ったんだ。何も、『行ってはいけない』とは言っていないぞ。」「え・・・っ?」
ギコは廊下に立っているタカラの肩に手を乗せ、笑顔で言った。
「お父さんと、『一緒に探しに』いこう。友達を助けたいんだろう?」
その言葉を聞いたタカラは笑顔で、首を大きく縦に振った。父親が一緒に探してくれる・・・なんと頼もしいことだろう・・・。
「うん! お父さん、ありがとう・・・!」「ああ。準備するから、少し待っててくれ。」
ギコは急いで支度を始めた・・・。
数十分後・・・
「ここがしぃちゃんの家なんだよ。」
二人は手始めに、房波家宅を訪ねる。特別なことが施されていない、ごく普通の二階立ての一軒家である。しかし・・・開け放した玄関の扉の中にある光景は、日常とは大きくかけ離れたものだった。
無惨に荒らされた家具、壊されて原型をとどめていない室内・・・もはや人が住んでいたとは思えない程、室内は廃墟と化していた・・・。
「あんなに綺麗だったのに・・・。」「本当にここに人が住んでいたのか・・・?」
二人は手がかりを求めて二階へと上がる。
「しぃちゃん・・・。」
タカラはしぃの部屋を見つけ、ノックをする・・・。いないとは分かっていても、どうしてもやってしまう・・・。
返答がないので、ゆっくりと中へ入ってみる・・・。フサしぃの部屋は下に比べて、そんなに荒らされた形跡はなかった。さらに中へと歩を進めると、タカラは足元に落ちていたメモ紙を拾い上げた。すると・・・そこには宇宙語で何かが書かれていた。
勿論、素人が宇宙語などを書けるはずはない。メモを読み込んでいくと・・・
『フサしぃは我々ナックル星人が預かった。これを見る頃、お前達は我らの忠実な手下によって殺されるだろう。』
続
「何だって!?」
その時・・・一階で大きな爆発が起きた。二階に直接大きな振動が伝わり、タカラはバランスを崩す。
「ぐわっ!? 何だ!?」
振動がある程度収まると、タカラは一階へ階段を駆け降りた。するとそこには・・・
体がドス黒く、大きく尖った一本の角が目印の怪獣『ブラックキング』が立っていた。ナックル星人の手下とは、このブラックキングのことだったのだ。
ブラックキングは、口から赤い破壊光線を発射した。タカラは発射と同時に左へ跳び、かわした。
「うわっ! こいつは確か・・・。」
ブラックキングはかつて、あのウルトラマンジャックを苦しめた強敵だ。コスモスに変身しても苦戦するのは間違いないだろう。一体どうすれば・・・。
一歩ずつ近づいてくるブラックキング・・・と、その時・・・銀色の腕が羽交い締めをし、その動きを封じた・・・。
「ヘァッ!」「お父さん!?」
銀色の腕の正体は、ギコが変身した『初代ウルトラマン』だった。
ギコは必死に動きを押さえながら、タカラに言う。
「タカラ、先に行くんだ!! ここは父さんがくい止める!」「どこに行けばいいの!?」「この先に、閉鎖された廃工場がある! そこにしぃちゃんが捕らわれているはずだ!」「でも・・・」
タカラは躊躇った。ブラックキングはギコだけでは倒すのが難しいほど強敵だ。だから、加勢した方がいいのではないかと考えたのだ。しかし、ギコの意見は違った。
「言うことを聞くんだ、タカラ! 今、しぃちゃんを救えるのはお前だけなんだぞ!!」「しぃちゃんを・・・?」「お前がその手で護りたいのは、誰なんだ!?」「・・・!!」
タカラは今の一言で、忘れていた大事なことを思い出した。今やらなければならないのは、この怪獣を倒すことではない。自分の愛する者を、一刻も早く救い出すことだ、と・・・。
タカラは立ち上がると、フサしぃの捕らわれている廃工場へ向けて走り出した。
「頼んだぞ・・・タカラ・・・!」
暫く走った後、タカラは閉鎖された廃工場に到着した・・・。此処では昔、金属の精錬を行っていたが、現在は使用を停止しているのだ。
タカラはしぃを見つけるべく、更に奥へと進んでいく・・・。
足元には、液体で垂れてそのまま冷え固まった金属の欠片があちらこちらに落ちていた・・・。此処には誰もいないようだ。
工場を細かくみた後、タカラは次に倉庫を覗いた。此処には精錬に必要な材料が綺麗に並べられていた。
(ここが怪しいな・・・それに嫌な殺気を感じる・・・。)
タカラは嫌な空気を感じながらも、更に奥に進む・・・すると・・・
倉庫の柱に、縄を巻き付けられた少女が立っていた。少し茶色い髪に、水色の透き通った瞳・・・。彼女こそが、タカラの親友『房波 しぃ』である。
タカラは彼女の姿を確認すると、駆け寄った。
「しぃちゃん!」「! タカラ君、来ちゃダメ!!」
タカラがフサしぃに向かって走り込んだその時・・・タカラにめがけて上から、巨大な鉄球が落ちてきた。
「!!」
タカラが気づいた直後、鉄球が轟音とともに地面に追突し、コンクリートが大きく凹んだ・・・。
「タカラ・・君・・・ぃ・・いやぁぁぁぁーーーっ!!」
フサしぃが悲鳴をあげた直後、奥からナックル星人が現れた。
「人間め・・・まんまと罠に掛かったか。」
鉄球を見ながら嘲笑したナックル星人は、フサしぃの方に向き直す。
「お前には、もう助けに来る奴はいない・・・。さぁ、我々と一緒に来い!」「嫌っ! 離してよ!! いやぁぁっ!」
ナックル星人はフサしぃを無理矢理宇宙船に連れていこうとする。
その時・・・誰もいないはずの背後から、ナックル星人に向かってナイフが投げられた。ナックル星人はそれを寸前の所でかわしたが、肝心の縄が全て切り裂かれてしまった。
二人が振り返ると・・・
「しぃちゃんを・・・放せ・・・。」
鉄球の上に、先ほどの攻撃で潰れたはずのタカラが立っていた・・・。右手にはコスモプラックが握られている。
「タカラ君!?」「何・・・だと?」
タカラはしぃの方に目線を合わせた。
「しぃちゃん・・・君に隠していたことがあるんだ。」「?」
タカラは右手に握られているコスモプラックをフサしぃに見せた。
「隠しごとって・・・?」「僕のもう一つの姿を見てほしいんだ。」
タカラはそう言うと、右手のコスモプラックを空高く突き上げ、こう叫んだ・・・
『コスモォォォーース!』
次の瞬間、その倉庫の一角が蒼い閃光に包まる・・・
「きゃっ!」「何だ・・・? この巨大なエネルギーは・・・。」
やがて強い輝きを放っていた光が止むと、フサしぃはおそるおそる瞑っていた目をゆっくりと開けた。すると・・・
「シュアッ!!」「タカラ君・・・?」
青い体表を持つ、勇気と慈愛の戦士・・・タカラが変身した『ウルトラマンコスモス・ルナモード』が、そこに立っていた。
「人間の子供が・・・ウルトラマンだと?」「僕のことを、見くびったようだな・・・。人の心に光がある限り、誰だってウルトラマンになれるんだ!!」
ナックル星人は、成人した人間が変身するウルトラマンしか知らない。だから、人間の子供が変身することは予想外だったのだ。
彼はコスモスの乗っている鉄球に、ナックルアイビームという破壊光線を放つ。しかし当たる寸前に、コスモスは跳躍で回避し、その勢いで赤い体表を持つ『コロナモード』にモードチェンジを行った。
「セイヤァッ!」
コスモスは跳躍からの落下を利用し、ウルトラマンジャックから伝授した蹴り技『流星キック』をナックル星人の顔面にヒットさせた・・・。
その頃・・・
「へッ!」
ギコはブラックキングに苦戦を強いられていた。止めであるスペシウム光線が全く効いていないのだ。
彼は攻撃を避けながら、一瞬の隙を見て攻撃しようと考えていた。ところが・・・
「くっ・・・カラータイマーが・・・。」
もう一歩の所で、ついに彼のカラータイマーが鳴り始めてしまった・・・残り三十秒で、決着をつけなければならない。
このままこの怪獣を逃がしてしまうと、廃工場へ向かったタカラたちが危険に陥ってしまう・・・。何か成す術はないのだろうか・・・。
と、その時・・・怪獣の背後から『青い光輪』が飛び、ブラックキングの角を切り落とした・・・。さらに怪獣を窓の外へ思いっきり蹴り飛ばし、ギコの前に立つ・・・。
銀色に青と赤の体表を持ち、頭部が尖ったその姿は、ギコがよく知っている『仲間』の『もう一つの姿』だ・・・。
「ギコ! 久しぶりモナ!」「・・・モナー!?」
彼の目の前に現れたもう一人の光の巨人・・・それは、ギコの親友である元管理AI『モナー』が変身した『ウルトラマンダイナ』だった。
「エーちゃんから連絡を貰ったモナ。やっぱりここにいたモナね。」
モナーはエーからの連絡を受けて、助けに来たのだ。
ダイナは倒れたブラックキングの尻尾を持ち、必殺の投げ技である『バルカンスイング』を仕掛ける。怪力なだけに、さすがのブラックキングも大きなダメージを受けた。
体勢を直すダイナの隣に、カラータイマーが点滅し、ふらつきながらも立ち上がったウルトラマンが並ぶ。
「ギコ・・・。」「モナー。二人の光線技なら彼奴を倒せるかもしれない・・・協力してくれるか?」「・・・分かったモナ!」
二人は体勢を整えると、ゆっくりと立ち上がったブラックキングに狙いを定めた。そして・・・
「「ダァッ!!」」
腕を十字に組み、ウルトラマンはスペシウム光線を、ダイナはソルジェント光線をそれぞれ放つ・・・。
二つの光線技の圧倒的な威力に押され、ブラックキングはそのまま木っ端微塵に吹き飛んだ。その直後・・・
「うっ・・・。」「ギコ!?」
元の人間の姿に戻りながら、ギコは力尽きたように倒れる・・・。体は痣だらけで、額からの出血もある・・・。モナーは慌てて彼の肩を持った。
「ギコ、しっかりするモナ!」「モナー・・・ありがとうな・・・。」「立てるモナか? タカラ君たちの所へ、急ぐモナ!」
モナーはギコの肩を担ぐと、タカラ達のいる廃工場に向かった・・・。
一方・・・
コスモスはナックル星人と互角に渡り合いながらも、少しずつ相手を追い込んでいた。
「デァッ!」「ハッ!!」
フサしぃは、その光景を物陰に隠れて見守っていた。まさか自分の親友が、ウルトラマンに変身できたなんて信じられない、という思いで一杯になりながら・・・。あの心優しいタカラが、異星人と互角に渡り合うとは、およそ目を疑う光景だった。
コスモスはアッパーカットをナックルの腹にヒットさせ、倉庫の荷物にたたきつける。その瞬間、轟音と共に並べられていた荷物が、埃を巻き上げながら崩れ落ちた。
埃でナックル星人の姿が確認できなかったコスモスは、さらに間合いを詰めようと近寄る・・・。
その刹那、埃の向こうからナックルビームが発射され、コスモスの胸に直撃した。
「ぐあぁっ!」
コスモスはフサしぃが隠れている場所まで吹き飛ばされた。
「タカラ君・・・?」
突然聞こえた彼女の声に、コスモスは振り向いた。
「本当に、タカラ君なの?」
コスモスは静かに頷く。姿は変わっても、中身はタカラのままだという事を、分かってもらうために・・・。
突然何かを考えついたように、コスモスは鉄球の後ろに身を隠した・・・。何をしようというのだろうか・・・。
「隠れているのは分かっているぞ・・・ウルトラマンコスモス!」
ナックル星人はさらに、アイビームを鉄球に撃ち続けていく。しかし、一向に出てくる気配がない・・・。ナックル星人は警戒しながら鉄球に近付いていく。と、その時・・・
「罠にかかったな・・・ナックル星人!!」
突然鉄球が赤く輝き始め、コンクリートから白い湯気が出てきた・・・。実は、コスモスは鉄球の後ろから、必殺技の『プロミネンスボール』を発動していたのだ。
コスモスは火の玉の状態になった鉄球を組み合わせた荒技『メテオ・プロミネンスボール』を発射する。
「!! ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!」
放たれた必殺技はそのままナックル星人に直撃・・・。爆発の衝撃で、倉庫の一角に大きな穴を作った。
巻き起こる砂埃の中、コスモスはフサしぃの無事を確認するために、彼女の隠れている場所へと歩いていく。すると・・・
倉庫の隅にある大きな木箱の陰で、彼女は小さく体育座りをしていた・・・。肩が震えている。余程怖かったのだろう・・・。
タカラは、コスモスの姿のままフサしぃに話しかける。
「しぃちゃん・・・もう大丈夫だよ・・・。」
彼の声に反応して、フサしぃはゆっくりと顔を上げた。彼女の顔には、まるで恐怖を示すような、暗くておびえた表情が映し出されていた・・・。水色に透き通った瞳からは、涙が溢れ落ちている。
タカラはさらに安心させるため、元の姿に戻った。
「タカラ・・・君・・・。」
タカラの姿を確認したフサしぃは、彼の胸に抱きつき、嗚咽を発しながら泣き叫んだ。
「タカラ君っ! 私の・・・パパとママが・・・死んじゃったよぅ! 私・・・一人になっちゃったよ・・・どうしよう・・・。」「しぃちゃん・・・。」
タカラは彼女を優しく抱きしめ、背中をいたわるようにさすった。今の彼には、これしか出来ることが見つからなかった・・・。ただ抱きしめるだけで何も出来ないことが、もどかしかった。
「タカラ!」
その時、ブラックキングとの戦いを終えたギコとモナーが倉庫に入ってきた。ギコの額からはかなりの出血が確認できる・・・。
「お父さん! それにモナーおじさんまで・・・。」「遅くなって悪かったな。ピンチの所を、モナーが助けてくれたんだ。」「タカラ君、久しぶりモナ!」
「君がしぃちゃんだね。俺はタカラの父さんだ。隣は友達のモナー。よろしくな。」「は・・・初めまして・・・。」「よろしくモナ。」「モナーおじさん、父さんを助けていただき有り難うございました。でも、どうして分かったんですか?」
モナーは助けに来た理由をタカラ達に話した。
「やっぱり姉さんか・・・。」「ところでタカラ。ここで何があったか教えてくれないか?」「うん・・・それが・・・。」
タカラは、フサしぃを連れ去った犯人がナックル星人だったこと、そして彼女の両親が彼に殺されたことを話す。
その間、フサしぃはずっとタカラの右腕に抱きついて離れなかった。親を殺されるビジョンがイメージとして頭の中に焼き付いて、この腕を離したらまた殺されてしまうのではないかという不安で一杯だったのだ。
「そうか・・・。やはりナックルだったか。」「とりあえず、今はしぃちゃんの安全を考えた方がいいモナ。」
ギコはフサしぃに視線を合わせた。
「しぃちゃん。君のおじさんとか、おじいちゃんとか、近所に親戚の人はいるかい?」「・・・私のおじさんも・・・死んじゃった・・・みんな、死んじゃったの・・・。」「えぇっ!?」
ギコ達はただ驚くしかなかった・・・フサしぃは親戚も殺され、天涯孤独の身になってしまったのだ。
「みんな、あの宇宙人に・・・殺されちゃったの・・・。」「そんな・・・。」
予想外の発言に、一同は言葉に詰まってしまった・・・。天涯孤独になってしまった彼女を、どう救えばいいのだろうか・・・。
誰もがそう考えていたとき、モナーが口を開いた。
「しぃちゃん・・・君はどうしたいモナ?」「えっ・・・?」「僕達は考え方で色々なことが決められるけど、なるべくしぃちゃんの望む方法を選びたいモナ。」
俯きながら考えるフサしぃ・・・。暫くすると、彼女は顔を赤くしながら顔を上げて答えた。
「私・・・タカラ君の所にいたい・・・タカラ君と、一緒にいたいんです・・・。」
答えるフサしぃの隣で、タカラは顔を赤くする。まさかの答えに、タカラは驚いてしまったのだ。
「・・・分かったよ。その前に、君に一つだけ分かってもらいたいことがあるんだ。」「何ですか?」
ギコとモナーは立ち上がると、それぞれの変身アイテムである『βカプセル』『リーフラッシャー』を持ち、初代ウルトラマン・ウルトラマンダイナに変身した・・・。
「これが、俺達のもう一つの姿・・・『初代ウルトラマン』と、『ウルトラマンダイナ』だ。」
フサしぃは、変身した彼らを驚きの表情でじっと見ていた・・・。ギコは、そんな彼女の気持ちを察するように話しかける。
「君は、タカラがウルトラマンコスモスになったところを見たんだな・・・でも、ウルトラマンになれるのはタカラだけじゃないんだ。」「それは・・・どういう事なんですか?」
「タカラの母さんのしぃちゃん、姉さんのエーちゃんは、『ウルトラマンティガ』。ギコの家族は、みんなウルトラマンになれるモナ。」
「俺の家族だけじゃなくて、モナーのような俺の友達にもウルトラマンになれる奴がいるんだ。まずは、そのことは分かってほしい。」「はい・・・。」
「あともう一つ。これは難しい話なんだけど・・・。」「・・・何ですか?」
ギコは俯きながら重い口調で言った。
「俺の職業は、M78星雲光の国にある宇宙警備隊の地球支部長・・・。つまり、「宇宙人」なんだ。」「えっ・・・?」
フサしぃは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、こう言った。
「大丈夫です。さっき、タカラ君が私のことを助けに来てくれたから・・・ウルトラマンはヒーローだって、信じます!」
しかし、それでもギコの顔は晴れることがなく、言葉をつなげた・・・。
「君が俺達のことを信じてくれるのは嬉しい・・・。でも、話したいことはそうじゃないんだ・・・。」
ギコとモナーは、元の姿に戻りながら話した。
「ウルトラマンは神様とか天使じゃない。人間が殺されると死ぬように、俺達にも必ず死ぬことがあるんだ・・・。」
フサしぃは小首を傾げながらギコの話を聞いていた。意味を分かりやすくするため、タカラが説明する。
「僕達が変身したとき、胸の真ん中に青い光の玉が有ったでしょ?」
タカラの言う青い光の玉とは、各ウルトラマンの胸に付いているカラータイマーのことだ。
「その光の玉が赤くなると、僕らの残りエネルギーが少ないことを意味するんだ。それで、もしその光が消えちゃったら・・・」
タカラはそこで言葉を詰まらせてしまった・・・。言い難い・・・と言うよりも、言いたくなかった・・・。この後の言葉を言えば、確実に彼女を傷つけてしまうからだ・・・。
「・・・消えちゃうと、どうなるの・・・?」
フサしぃは真意を聞くために、さらに聞き直す。しかしタカラは暗い顔で俯いたまま、なにも言わなかった・・・。
モナーが代わりに言葉を繋げる。
「カラータイマーが壊されたり、光が消えると、僕らは二度と立ち上がれなくなるモナ。悪いときはそれだけじゃなくて、体はそのまま光になって消える・・・二度と、人間の姿には戻れなくなるモナ・・・。」
「え・・・っ?」
「俺達はガイアとアグルを除いて、変身した状態で地球上では三分間しかいられない。つまり、三分を経過したり相手にカラータイマーを壊されると・・・」
「そのウルトラマンは、死んでしまう・・・。これは、タカラも同じだ。」
その瞬間、フサしぃの背中にもの凄い悪寒が走った。『死ぬ』という言葉が、重くのしかかったような気がしたのだ・・・。
「俺達は無敵じゃない。毎日、死と隣り合わせで戦っているんだ・・・だから、何時・何処で死ぬかは分からない・・・それだけは覚悟して欲しい。」
フサしぃは無言のまま、小さく頷く・・・。
「さぁ・・・家に帰ろう。みんなが待ってる。」
ギコ達は倉庫から抜け出ると、しぃとエーの待つ家に向かって歩きだした・・・
帰り道、ギコがモナーに最近の様子を聞いていた。
「なぁ、モナー。お前最近何を研究してるんだ? いい加減教えてくれよぉ〜。」「悪いモナ。企業秘密で、こればかりは教えられないモナよ。」「ちぇっ・・・。」「でも、モララーの秘密なら教えられるモナよ。」「!?」
モナーの言葉に、早速食いついたギコ・・・。モナーは呆れた様子でため息を付く。
「知りたかったら、耳を貸すモナ・・・。」「おぅ!」
ギコが耳を貸すと、モナーは小声で話し始めた・・・。
「最近、モララーは警察署の中で好きな人が出来たモナ。名前は『岸矢田 唯』って言うモナ。」「おぉ・・・ついにモララーにも春が来たのか・・・。」「それで、その人は署の中では『ぎゃしゃ』って呼ばれてて・・・」
ギコ達の話が盛り上がっている中、後ろではフサしぃとタカラが暗い雰囲気のまま歩いていた。
「タカラ君・・・大丈夫?」「・・・うん。」
タカラは倉庫を出たときからこの調子だ・・・。事情を聞いた彼女よりも、話した彼の方が傷ついているようだ。彼女はいたわるように声をかけているが、彼は暗い表情をしたままずっと下を向いて歩いていた・・・。
数分後・・・
「ただいま。」「おかえり・・・。寒かったでしょう? 大丈夫?」
家に着くと、エーが出迎えてくれた。中では、既に夕食の支度が出来ていた。勿論、フサしぃの分もしっかりと作られている。時刻は19:10・・・丁度夕食時だ。
リビングに入ると、しぃが上着を着た状態で椅子に座って待っていた。頭には熱さまシートが張ってある。熱がまだ下がりきっていないようだ。
しぃはフサしぃの側に来ると、優しく声をかけた。
「しぃちゃん・・・辛かったでしょう・・・。これからはここが自分の家だと思って、自由に使ってね・・・。私が、お母さんの代わりになるから。」「・・・しぃ・・・お母さん・・・。」
すると、フサしぃは突然彼女に抱きつき、嗚咽をしながら泣き始めた・・・。
しぃの姿が、自分の母親と重なってしまった。しかし、もう自分の母親はいない・・・その悲しみがこみ上げたため、彼女の胸で泣き始めてしまったのだ。しぃは彼女の肩を、優しく包み込むように抱きしめた・・・。
「もう大丈夫・・・。これからは、私がずっと一緒にいてあげる・・・泣かないで・・・。」
彼女が頭を優しく撫でると、フサしぃは笑顔で頷いた。
夕食が終わると、エーはフサしぃをお風呂に入れた。
「頭、痒いところはない?」「無い・・・です・・・。」
フサしぃは体を洗ってもらっている間、終始赤面の状態でいた。いつも自分一人でやっているので、恥ずかしくてしようがなかった。それに、『姉の存在』は彼女にとって初めてのことだった。今までずっと一人だけだったからだ。
湯船に浸かると、フサしぃは勇気を持って話しかけた。
「エー・・姉さん?」「そこまで堅苦しくしなくても大丈夫。普通に『お姉ちゃん』で十分よ。家のことで何か分からないことがあったら、タカラか私に聞いてね。」「はい・・・。」
暫くして、再びフサしぃが声をかけた。
「エーお姉ちゃん・・・。」「ん?」「お姉ちゃんって、しぃお母さんとそっくりなんだね。目の色は違うけど・・・。」
「フフフッ・・・よく言われる事よ。目の色は、お父さんから貰ったのかな?」「そうなんだ・・・。」
二人はそのままゆっくりと湯に浸かっていた・・・。
二人はお風呂から上がりパジャマに着替えると、二階のタカラの部屋へ向かった。これからは、二人で使うことになるのだ。
二階へ上がって左側にトイレ・右の手前がエーの部屋・・・そして、その奥にあるのがタカラの部屋だ。
エーは、タカラの部屋の扉をノックする。
「タカラ、入るよ。」「いいよ・・・。」
扉を開けて中に入ると、彼は部屋のベランダで星空を眺めていた・・・。
「姉ちゃん・・・。」「しぃちゃんのこと、宜しくね。」「うん・・・。」
エーはフサしぃを中に入れると、ウインクをして静かに戸を閉めていった。フサしぃはエーが行くのを確認すると、タカラの隣に立つ。
「綺麗だね・・・。」「うん・・・。」
タカラは相変わらず落ち込んでいるような感じだった。しかし、さっきまでのような暗い表情では無くなったようだ。
彼は静かに彼女に話しかける。
「・・・ごめんね。」「えっ?」「僕がウルトラマンだってこと・・・黙ってて。」
フサしぃは若干驚いた後、笑顔で返答した。
「ううん、謝らなくていいよ。それに・・・タカラ君がウルトラマンになって戦ってるの、すごくかっこ良かったよ!」「・・・ありがとう。」
二人はそう言い合うと、顔を赤く染めた・・・
「タカラ君・・・。」「ん?」「助けてくれて、本当にありがとう・・・。私、タカラ君が来てくれてすごく嬉しかったよ・・・。」「えへへ・・・。しぃちゃんが無事で、本当に良かったよ。でも・・・。」「えっ?」
「しぃちゃんのお父さんとお母さんは、『宇宙人』に殺された・・・そして、君を救った僕も『宇宙人』だ・・・。だから、一緒に暮らすのが嫌なんじゃないかって・・・。」
そう言うと、タカラは視線を地面に落として大きなため息をついた。しかし、フサしぃは首を横に振りながら答える。
「そんなことない・・・。タカラ君は、あの悪い『宇宙人』じゃないよ。タカラ君は私のことを護ってくれた、強くて優しい『ヒーロー』なんだよ?」「しぃちゃん・・・。」
タカラは顔を赤くしながら、フサしぃを見る・・・そこには黄色い月の光の下、透き通った水色の目で優しく微笑みかける彼女の姿があった。
彼女が言うように、自分は本当にかっこ良くなれただろうか・・・それは、自分自身に聞いてみてもわからない。
しかし彼は、その内から高まる思いを言葉にして出したかった。彼女のことを、『一生護り抜く』という覚悟と一緒に・・・。
タカラは大きな深呼吸をすると、フサしぃに話しかけた・・・。
「ねぇ、しぃちゃん・・・。」「なぁに、タカラ君?」「僕はこれからも君の事を、ずっと護っていきたいんだ・・・。」「? どういうこと?」「つまり・・・僕は・・・」
「しぃちゃんの事が、『好き』・・・。」
「え・・・っ?」
次の瞬間、二人の顔は林檎のように真っ赤になった・・・。
・・・暫くの沈黙の後、タカラが再び口を開く。
「ごめん・・・今の、忘れて・・・。」「待って・・・。」
タカラが部屋に戻ろうとしたとき、フサしぃが彼の腕を掴み、動きを止めた・・・。
「私の気持ちも聞いてほしいの・・・。」
彼が振り向くと、そこには赤い顔のまま暗い表情をしたフサしぃが立っていた。
「私も・・・タカラ君のことが好き・・・。でも・・・。」
「でも・・・?」「怖いの・・・。タカラ君が私を護るために戦って、消えちゃうのが・・・。」
彼女は掴んでいた腕を離した。透き通った水色の瞳には涙も浮かんでいる・・・。
「パパとママも・・・私を護って死んじゃった・・・私の大好きな人が、みんな消えちゃうの・・・。だから、タカラ君にまで消えてほしくなくて・・・。」「しぃちゃん・・・。」
「ギコお父さんが言ってたこと・・・タカラ君も同じなんだよね・・・?」「うん・・・そうだよ・・・。」
フサしぃは俯くと、静かに言葉を続ける。小さな肩が小刻みに震え、足元には涙が一滴落ちた・・・。
「・・・どうして・・・? みんなどうして私の周りから消えちゃうの・・・? 私が居ると・・・迷惑なのかな・・・。」「そんなことは・・・。」
彼女は俯いていた顔を上げると、タカラの胸に涙でいっぱいになった顔を押しつけ、抱きつく。彼はいきなりの行動に顔が赤くなり、さらに後ろに倒れそうになった。
「ちょっ・・・し、しぃちゃん!?」「私・・・もう独りになりたくないよぉぉぉっ!!」
彼女はタカラの胸で、声を上げて泣いた・・・。フサしぃは彼に、この自分の悲しみを受け止めてほしかったのだ。大切な者を殺され、深くて底のない暗闇に染まった悲しみを・・・。
タカラはまるでその全てを受け入れるかのように、彼女を優しく抱きしめた。
「しぃちゃん、泣かないで・・・。僕は絶対消えたりしない・・・。」「・・・?」
「僕は、何があっても君の側にいる。君のことを、ずっと護るって約束するよ・・・。」「グスッ・・・タカラ君・・・。」
フサしぃはタカラの胸の中で顔を上げると、涙を拭い・・・。
「・・・ありがとう・・・。タカラ君・・・。」
チュッ・・・
この時、二人は生まれて初めて『キス』をした・・・。満天の星空と、天高く上る黄金色の月に見守られて・・・。
大人に負けない、熱い思いを乗せてーー。
そんな彼らの様子を、後ろから見守っている人物がいた。桃色の髪に、青く透き通った瞳を持った若い女性・・・。
(良かったね・・・タカラ・・・!)
しぃは頭の中でそう呟くと、睡眠をとるべく下へ降りていった・・・。
明日から、また新しい『日常』が始まる・・・。
第三話
翌朝・・・
「ん〜〜っ、よく寝たぁ・・・。」
エーは自分の部屋で気持ち良く目覚めた。腕を頭の上に上げ、背伸びをする・・・。
「今、何時かな・・・。」
しかし次の瞬間・・・彼女は時計を見て目を疑った。時刻は・・・
『AM 7:30』
「きゃあっ!! 遅刻しちゃう!!!」
ちなみに今日は土曜日。本来なら休みだが、エーは「テニス部」に入っているため、練習に参加しなければならないのだ。そして、その練習はAM 8:30から・・・タカラたちの朝ご飯を作ること考えると、全く余裕がない。
エーは慌てて制服に着替えると、急いで下に降りていった・・・。すると・・・
「栄香、おはよう。よく眠れた?」「エーお姉ちゃん、おはようございます♪」
なんと誰も居ないはずの台所に、私服にエプロンを着たしぃとフサしぃの二人が立っていたのだ。
「お母さん・・・もう大丈夫なの?」「うん、おかげさまで。ありがとう。」
しぃは笑顔をエーに返した。
ふと、エーはあることに気づく。それは・・・
「あれ? そう言えばしぃちゃんの洋服は・・・どこから?」「ギコお父さんが、私の家からタンスごと持ってきてくれたの!」「タンスごと・・・?」
エーはまさかと思い、ギコの眠っている寝室を覗く・・・。暗い寝室の中で、大の字になって寝ているギコの姿を確認した。右手にはβカプセルが握られている。
「やっぱりそうだったのね・・・。お父さんらしい・・・。」
彼女は右手のβカプセルで全てを悟った。ギコは昨日の深夜、フサしぃの生活に支障がでないように、彼女の家から洋服・勉強道具などを持ってきていたのだ。ウルトラマンの力を使って。
「エーお姉ちゃん、ご飯できましたよ? 早く食べよ?」「ん? 分かったわ。今行く。」
エーはフサしぃに呼ばれると、クスッと笑ってリビングに戻った。
数十分後・・・
「行ってきまーす!」「いってらっしゃい!! 頑張ってね!」
エーは部活に間に合わせるため、朝日の中を駆けて行く・・・。
学校へ続く並木通りを駆けていると、途中で自分の好きな『彼』に遭遇した。
「エー、おっす!」「アヒャ君!」「お前も部活か?」「うん! 急がないと、遅れちゃう!!」「あぁっ? それはこっちの台詞だっ!」「お互い様よ! 私だってもうすぐ始まっちゃうもん!」
・・・二人はそう言い合いながら、学校の校門に同時に滑り込んだ。時間はAM 8:25・・・ギリギリである。
「じゃっ、また後で!」「うん!」
エーは更衣室の壁に寄りかかり、一呼吸おいた・・・。
(おかしい・・・。普通はこんな距離・・・どうって事もないのに・・・。)
彼女は普通、家から学校まで楽勝なのだ。しかし、今日は息切れが止まらない・・・其ればかりか、若干目眩がする・・・。
(きっと・・・すぐに治るよ・・・。)
エーは自分にそう言い聞かせると、テニス部の運動着に着替えて部室に向かった・・・。
「エーちゃん、遅かったなぁ。」「のーちゃん・・・。」「ん? エーちゃん、顔色悪いで? 何かあったん?」「ううん・・・何ともないよ・・・」
合流したエーとのーは、早速ウォーミングアップを始めた・・・。しかし、今日の校庭利用者はテニス部だけではなかった。
「アヒャはん!?」「わりぃなっ! 今日は俺達も使ってるから!」「空手着でランニング? 似合わへんわ〜」「いちいちうるっさいわ!」
アヒャの所属する「空手部」は校庭を一周すると、校門から外へと走っていった・・・。
一方のテニス部は走り込みを終えると、一休憩を入れる。しかし・・・やはり、エーの様子がおかしい。のーは心配して声をかけた。
「エーちゃん・・・。保健室に行った方がいいんとちゃう?」「大丈夫・・・。私は平気だよ・・・。」「無理したらあかんよ・・・。」「うん・・・。」
その後、エー達はラケットとボールを使った練習に入ったが・・・エーは思い通りの動きができず、苦戦していた。
左へ動こうとしても、足が動いてくれない・・・。いつもはテニス部のエースである彼女らしかぬ動きに、のーだけではなく他の部員達も心配する声を挙げていた。
部活開始から2時間後・・・エーはのーと二人で、シングルの練習試合をしていた。
「行くよ・・・!」
エーはサーブを打とうと、テニスボールを空高く上げる。と、その時・・・
「うっ・・・!?」
突然、彼女の『心臓』が痛みだした。心拍と同時に、痛みが増していく・・・。しかし、彼女を襲ったのは心臓の痛みだけではなかった。なんと、『呼吸困難』な状態に陥ってしまったのだ。
「う・・・あっ・・・。」「エーちゃん!?」
痛みに耐えきれずに倒れたエーに、のーが駆け寄った。
「エーちゃん! しっかりしてっ!! ・・・エーちゃんっ!!!」
体を揺らしてみるが、既に意識がない状態にまで落ち込んでいた・・・。と、そこに・・・
「おい、どうかしたのか・・・?」「アヒャはん! 大変や! エーちゃんが倒れて・・・」「!?」
のーの後ろでは、薄い呼吸をしたまま倒れているエーの姿があった・・・。
「どうしよう・・・私のせいで・・・」「どけっ! おい、エー!? どうしたんだよっ!?」「ごめんなエーちゃん・・・私がもっと早く・・・」「今は謝る事より、エーの方が大事だろうがっ!」
アヒャは今までにない厳しい表情でのーに怒鳴った。
「エー! 起きろ!! しっかりしろ!」「どうした?」
その時、騒ぎを聞きつけたフサが保健室から駆け込んできた。
「先生! エーが突然倒れて・・・」「分かった。 すぐに保健室に運んでくれ!」
「ん・・・っ。」「エーちゃん・・・?」
エーは、保健室のベットの上で気が付いた。目の前にはのーとフサ・・・そして、アヒャの姿があった。
「良かったぁ・・・気が付いたんやな?」「のー・・・ちゃん・・・? アヒャ・・・君? あれ・・・私、どうしてここに・・・?」
「・・・何にも覚えていないのか・・・?」「・・・のーちゃんとシングルをやろうとして、サーブを打とうとしたら急に心臓が痛くなって・・・気が付いたらここに・・・。」「そうか・・・。」
フサはエーが意識不明だった間のことを話した。
「君が倒れた後、偶然近くに来ていた相沢君が君を抱いて保健室に運んでくれたんだ。かなり心配していたようだぞ。」「アヒャ君・・・。」
アヒャは顔を赤くしながらそっぽを向いた。
「君の心臓発作は、多分ストレスからだろう。何か最近、ストレスに感じることはなかったかい?」「・・・いいえ・・・。」
「そうか。でも、二日間ぐらいは家で安静にしていた方がいいよ。今日はもう部活はおしまいだ。早く家に帰って休みなさい。」「はい・・・。」
彼女はベットから立ち上がろうと体を動かす。ところが・・・体が思うように動かず、倒れそうになった。
「あっ・・・」「!」
エーの体は抵抗せず、そのまま地面に倒れようとする・・・。しかし、彼女は地面に倒れることはなかった。
「気を付けろよ・・・大丈夫か?」「あ・・・ありがとう・・・。」
アヒャが、タイミング良く彼女の体を受け止めたのだ。
「ほな・・・帰ろうか?」「うん・・・。」
エー達は昇降口に向かって歩いていく・・・。
「あっ! 大事な用事を忘れてた! ほなエーちゃん、アヒャはん、先帰らせていただくわ! ごめんねっ!」「えっ・・・? のーちゃん、ちょっと・・・。」
彼女は二人を置き去りにして、先に帰ってしまった。
「・・・二人になっちゃったね。」「ああ・・・。」
置き去りにされた二人は、そのまま昇降口まで無言で歩いていった・・・。
靴を履き換え外に出る。しかし昇降口で、アヒャがとんでもない行動に出た。彼は彼女に背中を向けてしゃがみ込むと・・・
「・・・乗れよ。」「えっ?」「早く、乗れ。」「で・・・でも・・・。」「お前がまた道路で倒れ込まれるの、見たくないんだよ・・・。」「・・・うん・・・。」
彼はエーの身を案じ、おぶって帰ろうとしていたのだ。エーは顔を赤くしながら、ゆっくりと彼の背中により掛かる。アヒャは彼女の足に手をまわし、ゆっくりと立ち上がった。
「しっかりつかまってろよ。」「うん・・・ありがとう・・・。」
アヒャはそのまま校門を後にする。行きに猛スピードで進んだ並木道を、今度はゆっくり進んでいく・・・。
暫く進んだところで、アヒャはエーにあることを問いかけた。
「なぁ、エー。」「なぁに・・・?」「お前さ・・・」
「俺に何か隠しごとをしていないか?」
「えっ・・・?」「とぼけないで答えてくれ。のーには話して、俺には何も言ってない話があるだろ。どうなんだ?」「・・・うん。でもその話をするには、私の言う所まで運んでくれないかな・・・?」「・・・分かった。」
アヒャは彼女の秘密を知るべく、ある場所へ向かった・・・。
数分後・・・
「着いたけど・・・こんな所に来て、どうするつもりなんだ?」
彼らは、NIGHTMARE CITYの石碑のある丘に来ていた。エーはアヒャの背中から降りると、彼に石碑に書いてあることを読むよう頼んだ。
「アヒャ君、石碑に書いてあること・・・読んでくれる?」
「ああ・・・『この地に、仮想空間で戦って亡くなった光の戦士の名を遺す。・・・ギコ・ハニャーン、WALL・E・・・ "ウルトラマンティガ"の伝説と共に、安らかに眠れ・・・。』だって・・・。上に、カプセルみたいな物が二つあるぞ?」
アヒャはそう言いながら、エーの方に視線を戻すと・・・カプセルの内の一つと、全く同じ白いカプセルを持った彼女が立っていた・・・。
「!? 何で同じ物を持っているんだ??」「こっちが『本物』なの・・・。それでね・・・」
エーは白いカプセル『スパークレンス』を胸の前に持っていくと、『太古の光の巨人』に等身大変身をする。
「おわっ!?」
強烈な光が、辺り一面に降り注いでいく・・・。
やがて光が止むと、アヒャは堅く閉じていた目を開き、彼女の居た方に視線をあわせた。そこには・・・
銀色に、赤と紫の体表・・・彼女が等身大変身をした『ウルトラマンティガ・マルチタイプ』がそこに立っていた。
「エー・・・お前・・・」「そう・・・これが私のもう一つの姿・・・」
「私が、『ウルトラマンティガ』なの・・・。」
彼女がそう言った直後、カラータイマーが赤く点滅し始め、さらに元のエーの姿に戻った。
「あっ・・・。」「エー!?」
直後、エーは再び地面に倒れ込んだ。アヒャは慌てて彼女を抱き起こす。エーの体調はさらに悪化していた・・・額に手を置くと、熱がある・・・。彼はエーを大木の根本に寝かした。
「おい・・・無茶するなよ・・・。」「ごめんね・・・また迷惑かけちゃって・・・。」「なぁ・・・何であんなに大事なことを黙ってたんだ? 俺達、親友だろ?」「・・・ごめん。」
エーは、彼にだけはバラしたくなかった。自分の大切な人を、これ以上危険な目にあわせたくなかったからだ。
「・・・のーはどうやって知ったんだ?」「私が変身するところを、偶然見てたみたいなの・・・。」「そうか・・・。まぁ、彼奴らしいけどな。」
彼はそれ以上、彼女を責めることをしなかった。これ以上エーを責めても、関係が悪くなるだけだと判断したのだ。
「エー・・・。」「どうしたの?」「実はさ・・・俺も隠していたことがあるんだ・・・。」「えっ?」
アヒャは制服の胸ポケットからある物を取り出した。
「お前はウルトラセブンって宇宙人、知ってるか?」「・・・?」「エーのお父さんは、『初代ウルトラマン』・・・だろ?」「!? な、何でそんなことを知ってるの??」
驚くエーに、アヒャは何も言わなかった。しかし、エーは彼の持っている物には見覚えがあった。彼の持っているメガネが、『ウルトラ・アイ』によく似ていたのだ。
「デュアッ!」「!!」
彼がそのメガネをかけた瞬間、低い音と共に赤と青の閃光が周囲を照らした・・・。
閃光が止みと、そこには・・・
赤と青の体表に、胸から肩にかけて付いている銀色のプロテクター・・・胸にはカラータイマーがあり、額にはビームランプが付いている。そして彼の頭には、ウルトラセブンのアイ・スラッガーに酷似したものが二つ付いていた・・・。
見慣れない形のウルトラマンに、エーは頭の上に疑問符を浮かべながら驚いていた。
「これが、もう一つの姿・・・『ウルトラマンゼロ』・・・。実は俺、『ウルトラセブンの息子』なんだ。」
「えぇっ!?」
ゼロはこの星に来た理由をエーに話す。
「俺は生まれてからずっと、父さんの弟子の『ウルトラマンレオ』に鍛えられていたんだ。」
ウルトラマンレオ・・・かつて『おおとりゲン』としてこの星に来ていた、しし座L77星人のことで、当時MAC隊長として指揮していた『モロボシ・ダン』に鍛えられていた人物だ。
「ある時、地球に重大な危機が迫っていることを聞かされて、父さんから頼まれて地球に来たんだ。」「重大な・・・危機?」
「暗黒宇宙皇帝のエンペラー星人が、復活したらしいんだ。お前の父さんから聞いてないのか?」「そんな話・・・初耳よ・・・。」
そう・・・実は、ギコはこの事実を他の隊員達から聞かされていなかったのだ。
「それだけじゃない。光の国を危機に追い込んだ、『ウルトラマンベリアル』も復活したらしいんだ。」
ウルトラマンベリアルとはかつてM78星雲光の国を襲った、悪のM78星雲人のウルトラマンのことだ。ウルトラ戦士の活躍で再び封印されたはずだが・・・。
「俺はそのウルトラマンベリアルを倒すために、去年この星に来たんだ。」「・・・そうだったんだ・・・。」
エーは少しショックだった。初恋の相手が、M78星雲のウルトラマンだったとは・・・。
そんな彼女を余所に、ゼロはさらに言葉を繋げた。
「でも、俺が地球に来た理由は其れだけじゃない。」「?」「この星で色々な環境に触れて、文化を学ぶということさ。衣食住もそうだし、行事や風習もそう。それに・・・『恋愛』も。」
『恋愛』・・・この彼の言葉を聞いた瞬間、エーは何故か鼓動が高まった。同時に、顔まで赤くなった・・・。ゼロはアヒャの姿に戻りながら、さらに話を続ける。しかし、何故かエーの方向には向かず、逆を向きながら空を仰いで話を進めた。
「俺は父さんみたいに、『人間』のことが好きだ。だから、人間以上に人間を知ろうと思ったんだ。素晴らしいところも、醜いところも、全部・・・。」
エーは静かに彼の話を聞いて・・・いるつもりだった。しかし、内心胸の高まりが収まらず、焦っていた。
「地球で生活しているうちに、俺は自然に恋という感情を体験していたんだ。」「・・・?」「お陰で、本当に人を愛することを知ることができた。・・・こういうのを、『好きになる』って言うんだな・・・。」
アヒャは一端深くため息をつくと、再び静かな口調で言葉を繋げた・・
「その好きになった奴は今、『俺の後ろにいる。』」「・・・え・・・っ?」
アヒャは赤髪を風に靡かせながら、エーの方向へ向きなおす。顔が、今の彼女と同じく赤く染まっている・・・。緊張が走る中、彼がエーに対して言ったことは・・・
「エー・・・お前のことだよ。」「!!」
彼なりに考えた、彼女に向けての遠回しな表現の「プロポーズ」だった。
二人の間に、春の暖かい風が通っていく・・・。同時に、彼の赤髪と彼女の持つ桃色の長髪が靡いた。ただただ静寂な時の流れが、二人を包んでいく・・・。
「・・・悪いな。お前が体調悪いのにこんなこと話して・・・。」「ううん・・・。私のわがままを聞いてくれて、嬉しかったよ・・・。それにね・・・。」
高まる鼓動を抑えながら、彼女も告白した・・・。
「私も・・・アヒャ君のこと・・・『好き』・・・なんだ・・・。」「!」
「本当か・・・?」「嘘を言っても無駄でしょ・・・? 本当に・・・好き・・・。」
エーはそう言うと、赤い顔のまま笑顔を見せた。
「でも・・・まさかアヒャ君から告白されるなんて、思わなかったなぁ・・・。本当は、私が告白しようって考えてたのに・・・。」「そうだったのか・・・。」
「・・・アヒャ君・・・。」「ん? なんだ?」「ずっと・・・私の側に、いてくれる?」「? どういう事だ?」「つまりね・・・こういう事かな・・・?」
エーは寄りかかっていた木の根本から立ち上がると、静かに歩み寄り・・・
彼の唇に、自分の唇を重ね合わせたーー。
その瞬間、彼女からフワリと甘い香りが漂った・・・アヒャは無意識に、彼女のことを抱きしめてしまった。
長いキスの後、二人は顔を見合わせ、赤い顔で笑いあう。
ところがその直後・・・
「あっ・・・くっ・・・。」
ドサッ・・・
「・・・エー? おい、エー!? どうした!? 返事しろ!!」
桃色の髪を持った彼女は、まるで糸が切れた操り人形のように地面に倒れ、動かなくなった・・・。
「エェェェーーーーーーーーッ!!!!!」
その頃・・・
「ただいまぁっと。」「フサ、おかえり!」
フサは仕事を終えて家に帰ってきていた。
「やれやれ・・・今日はエーちゃんが心臓発作で倒れたよ・・・。」「アヒャ!? 大丈夫だったの?」
「ああ。あの子の体自体に疲れが溜まって、ストレス的に発作を起こしたんだ。家に帰って安静にしろとは言っておいたんだが・・・なんか嫌な予感がするんだよなぁ。」
「エーちゃんならきっと大丈夫よ。心配しなくてもいいんじゃない?」「うーん・・・そうだといいけど・・・。」
その時、つーの携帯が鳴った。
「あっ、メールだ。」「誰からだ?」「えーっと・・・しぃちゃんから。」
フサはソファにかけると、テレビをつけながら大きな欠伸をした。と、その時・・・
「フサっ! 大変よ!!」「あがっ!! なんだよ急に!?」「メール見て・・・。」
フサはつーの携帯を受け取ると、メールの本文をじっくり読んだ・・・。
『今、私たちは病院にいます・・・。エーが突然倒れて、病院に緊急入院する事になりました。家族全員とアヒャ君、それからモロボシ・ダンさんも来ています。お願い・・・急いで来て!』
「何だって・・・!?」
フサの背中に激しい悪寒が走った・・・。
フサとつーは、エーの入院しているという病院に駆け込んだ。
「フサ、しばらく!!」「モララー? お前も来てたのか!」
彼らが病室へ向かう途中、後ろからモララーが追いかけてきた。警察署から直接来たのか、灰色のスーツ姿のままだ。
さらにその後ろには、モララーが好きな『もう一人の女性』の姿があった・・・。長めの青い髪を持ち、今にも泣きそうな彼女の悲しそうな瞳は、透き通った青色をしている。
「あれ? モララー、その人は?」「あぁ、紹介する。名前は『岸矢田 唯』。俺の恋人で、警察署の上司。ナイフの名手なんだ。」「ちょっとモララー君・・・そんなにバラさなくても・・・。」「恋人?? お前いつの間に・・・。」
モララーの後ろに隠れていた彼女は、彼の横に出ると丁寧に挨拶した。
「岸矢田 唯です・・・。ぎゃしゃって呼んで下さい・・・。」「あっ、こちらこそ宜しく・・・。」「アヒャヒャ! モララー、良かったじゃないの!」
「ありがとう・・・って、そんな場合じゃなかった! フサ、エーの病室は?」「それが、俺たちもついさっき来たばかりで・・・。」「・・・! フサ、こっちだ!」
彼らはつーの案内に従って、病室へ向かった・・・。
「ここだな・・・。」
7階714号室・・・表札に、『擬古河 栄香』の文字がある。この病室にエーは眠っているのだ・・・。
フサは深呼吸をしてからドアをノックした。
「ギコ・・・入るぞ・・・。」
静かに引き戸を開けると・・・そこには、ベットの周りに立つギコ、しぃ、タカラ、フサしぃ、モロボシ・ダン、そして・・・点滴を腕から通しながら静かに眠っているエーの横で、彼女の手を握り続ける少年『相沢 珀作』の姿があった。
フサ達の姿に気がついたしぃが声をかける。
「フサくん・・・。」「すまない・・・。俺がもっと栄香を診ておけばこんな事には・・・。」「いや、フサ・・・お前は正しい判断をしてくれた。悪くない・・・。」
ギコはフサを責めようとはしなかった。しかし、顔には悲しみの表情が・・・
「一体・・・エーの体に何があったんだ?」
モララーがギコに話を振った。
「相沢君がエーに好きだって告白した直後、心臓発作を起こして突然倒れたんだ。相沢君は救急車を呼んだ上で、俺達に連絡をくれた。それからずっとこうだ・・・。」「心臓発作・・・? 一体何で・・・。」
「こいつの光エネルギーが・・・消えようとしているんだ・・・。」
「!?」
「ここからは、俺が説明しよう。」
ギコに代わって、今度はモロボシ・ダンが説明をする。
「俺達ウルトラ戦士は、一回の戦いごとに疲れをあまり蓄積させない。しかし、完全に蓄積させないわけではないから、長期的に体力を消耗させている。だから適度に休んで、エネルギーが常に満タンの状態にしているんだ。」
「それが・・・どういう事につながるんだ?」
ダンは眠っているエーに視線をあわせながら話を続けた。
「彼女の場合、完全なウルトラ戦士という訳にはいかない。だから戦いのダメージは全て蓄積されてしまう。それに彼女は、我々からすればまだ子供だ。故に、エネルギーの回復が追いつかなくなっているのだろう。」「そうか・・・。」
「俺も過去に同じ経験をしたことがある・・・。」
ダンの脳裏には、M78星雲へ帰還する間際のアンヌと別れる光景が甦った・・・。
『西の空に、明けの明星が輝く頃、一つの光が宇宙に飛んでいく・・・。それが、僕なんだよ・・・。』
「あの時、俺は熱が収まらず、その上変身してもまともに戦えなかった・・・。だから、これ以上地球には居られなくなり、光の国に帰らざるを得なかったんだ・・・。」「・・・。」
「俺のように光の国へ帰ることはないが、一ヶ月間ほどは安静にしなくてはダメだ。その間は絶対に変身させてはいけない。もし変身した場合は・・・」
「必ず、『死ぬことになる』。」
「なっ・・・死ぬ!?」「そうだ・・・呉々も気を付けてくれ。」「ああ・・・。」「地球のことは、ギコに任せたいと思う。アヒャのこと・・・頼んだぞ。」「大丈夫だ。任せろ。」
ダンは、自分の息子であるアヒャを鍛え上げるよう、ギコに頼んだ。と、その時・・・
「ん・・・んんっ・・・。」
「!! エー・・・?」
今まで静かに眠っていたエーの目が、ゆっくりと開かれていく・・・そして・・・
「・・・アヒャ・・・君・・・? それに・・・みんなまで・・・。」「エー・・・心配したぞ。相沢君が救急車を呼んでくれなかったら、どうなってたか・・・。」「・・・ごめんなさい。」
エーはさらにアヒャの方に顔を向けると、恥ずかしそうに顔を赤らめて言った・・・。
「アヒャ君・・・また迷惑かけちゃって・・・ご免なさい・・・。」「良いんだよ・・・無事で、嬉しかった・・・。」
二人はお互いに笑顔を見せ合う。しかしエーの顔色は全く優れておらず、青白い頬のままだった・・・。
276 :
ゴラ ◆UQvQJ57BFY :2009/11/06(金) 16:47:59 0
たまには浮上汁!
>>TKY
飽きたのか?ww
その時病室に、売店でジュースを買っていたフサしぃとタカラが戻ってきた。フサしぃは目を覚ましたエーの姿を確認し、彼女の元へ駆け込む。
「エーお姉ちゃん!」「しぃちゃん・・・。」
フサしぃはエーの側に来ると、彼女の左手をいたわるように握りしめた。フサしぃは彼女が病院に緊急入院したことを、特に心配していたのだ。
「ごめんね・・・吃驚させて・・・。」「大丈夫? どこも悪くないの?」「大丈夫だよ・・・ちょっと、疲れただけだから・・・。」
さらに彼女はフサの存在に気づき、彼にも声を掛けた。
「フサ先生・・・。」「エーちゃん、ごめんな・・・。俺がちゃんと診ておけば、こんな事には・・・。」「先生、謝らないで下さい・・・。私の自業自得なの・・・早く帰らなかったから・・・。」
フサとエーは、自分の過ちを互いに心から謝った。エーの場合、フサの警告を無視して寄り道したのだ。完全な自業自得である。
そんな二人の様子を、モララーとぎゃしゃは安心した表情で見ていた。と、その時・・・
「!!」「・・・どうした?」「何か・・・殺気を感じるの・・・。」
ぎゃしゃが、突然何かを感じ取ったかのように目の色を変えた・・・。更に、次の瞬間・・・
>>277 んな訳ないでしょw
皆さん、お待たせしました!
規制から解放されたので、更新を再開します!
『緊急放送! 現在、この付近に怪獣が出現したとの情報が入りました!! 避難誘導を始めますので、患者の皆様はベットで待機して下さい!』
「何だって!?」
ギコは窓から外を確認する。そこには・・・
赤と青の体表・・・背中に骨のような黄色い羽が付いた、巨大な影が病院の遙か先で直立していた・・・。怪獣は赤く輝く目をこちらに睨み付けながら、耳をつんざくような声で大きく吼える・・・。
フサしぃは怪獣の叫びを聞き、タカラの腕を掴んで手元に引き寄せる。彼女の脳裏に、家族が殺された記憶がフラッシュバックしてしまったようだ・・・。
「タカラ君・・・怖いよ・・・。」「しぃちゃん・・・。」
ギコ・フサ・モララーの三人は、怪獣の姿を見て驚いていた。
「キングオブモンス・・・か?」「でもあれは、ウルトラマンガイアが倒しただろ?」「だとしたら・・・何者かがまた・・・。」「・・・俺が止めよう。みんなはエー達を頼む!」
ギコは賺さず胸ポケットのβカプセルに手を伸ばした。しかし・・・
「待って下さい!」「・・・?」
ギコは自分の後ろで聞こえた声に振り返る。そこに立っていたのは・・・
「ここは、俺に行かせて下さい!」
「相沢君・・・?」
第四話 ウルトラマンゼロ・ファーストマッチ
「相沢君・・・。君の気持ちは嬉しいが、これは君がどうにか出来ることではないんだ。」
ギコを止めたアヒャを、モララーが止めに入った。しかし・・・
「・・・分かった。この怪獣は、お前に任せよう。」
ギコはすんなりと許可してしまった。予想外の発言に、擬古河家とダン以外のメンバーが驚きの声を挙げる。
「ちょっと、ギコ!? 一体何を考えてるの?」「お前、頭大丈夫か・・・?」
つーとモララーがギコの意外な発言に驚き、ツッコミを入れる。しかしギコは驚くこともせず、さらにダンがすぐに返答した。
「君達には教えてないんだったな。よし・・・アヒャ、準備は良いか?」「はい、『父さん』。」
「と、父さん!!?(×4)」「ダン・・・一体どういう事なんだ・・・?」
ダンがアヒャに視線を送ると、彼は頷きながら紺色のブレザーの胸ポケットから、赤と青に塗られた『ウルトラ・アイ』を取り出す。
エーは彼の動きを見て、弱々しい声ながらもエールを送った。
「アヒャ君行くんだね・・・。頑張って!」「ああ。すぐ戻るからな・・・!」
彼は彼女のエールに笑顔で答えると、事情を知らない四人の方に向き直した・・
「相沢君・・・?」「皆さん、今まで隠していてご免なさい・・・。これが俺の、もう一つの姿です。見ていて下さい!」
彼はウルトラ・アイを、自分の目に装着する・・・
「デュワッ!」「!!」
直後に起きる、赤と青の閃光・・・。光はそのまま窓をすり抜け、空へと舞い上がっていった。と、その時・・・
「イヤァ!」「!」
空から降ってきた『何者か』が、キングオブモンスの首元に『レオキック』のような蹴り技を仕掛けた。
吹き飛ばされるキングオブモンス・・・その前に立ちはだかるのは、ギコやエー、モロボシ・ダン以外見たことがない『赤と青のウルトラマン』だ。
つーが彼の正体について、ダンに問う。
「あれがもう一つの・・・相沢君の姿?」「そうだ・・・。名前は『ウルトラマンゼロ』・・・俺の弟子である『ウルトラマンレオ』の教え子にして、同時に俺の息子だ。」「息子!?」
驚くフサ達を余所に、ゼロは自分の師匠から学んだ格闘技をキングオブモンスへ繰り出していく・・・。
辺境の惑星で長期間鍛え込まれた彼の体から繰り出される攻撃は、どれも素早くかつパワフル。これには、あのガイアを苦しめたキングオブモンスもかなりのダメージを受けているようだ。
ゼロはハイキックをキングオブモンスの顔面に食らわせ、地面にねじ伏せる。
「デュッ!」
しかし、キングオブモンスは彼の攻撃にダメージを受けながらも、ヨロヨロと立ち上がる。さらに、町の破壊を邪魔された怒りが溢れたのか、町中に響く程の叫びを挙げた。
ゼロへの怒りが頂点へ達したキングオブモンスは、彼に向かって突進をかける。ゼロは其れを受け止め、彼の真後ろにある病院への突撃を防ごうとした。ところが・・・
「グアァァッ!」
キングオブモンスの攻撃は其れだけではなかった。なんと、腹に隠していた鎌状の顎『シャークファング』でゼロの動きを封じて締め上げ、真っ二つにしようとしていたのだ。突然の攻撃に、苦しそうな声を挙げるゼロ・・・。
「このままだとアヒャ君が・・・。」
エーはアヒャのピンチに何もできず、ベットの上でもどかしそうに握り拳を作っていた・・・。
その時、モララーが『ある人物』が居なくなっていることに気が付く。
「あれ・・・? フサとつーは何処に行ったんだ?」
「えっ・・・?」
その頃、屋上では・・・
フサがコートからある物を取り出し、ゼロが戦っている方へ向いていた・・・。
ゼロはキングオブモンスに両腕ごと拘束されながらも、足の力で病院への衝突を必死に防ごうとしている。しかし、足の力で動きを止めていられるのは時間の問題だ。その内、病院に衝突することになってしまうだろう・・・。
そんな事を考えていると、後ろから誰かの声が聞こえた。
「あんたも・・・行っちゃうの?」「えっ?」
フサが振り返った先にいたのは、彼の後をつけてきた赤髪の女性『つー』だった。
「つー・・・来てたのか。」「フサの考えてることは、アタシにはお見通しだよ。」「・・・。」「一度、あいつと戦って死にかけた事があるって聞いたけど・・・本当なの?」
フサは小さく頷く。・・・彼女の表情が若干暗くなったような気がした。
彼はそのまま話を続ける。
「あの時俺は、ティガとダイナが来てくれなければ死んでいた・・・。でも、今は違う。ギコやお前と出会って、俺は強さだけじゃなく絶対に諦めない心を持つことが出来た。だから、今度はあの時と逆の立場になって・・・」「分かってるわよ。」
フサが一生懸命弁解している途中で、つーが声を挙げた・・・。
「フサ・・・。あたしは、あんたが何時も裏で一生懸命鍛えてるの、知ってるんだ。」「・・・。」「其れだけじゃない。あんたが何時もどれだけ、ひたむきに頑張っているのかも全部、あたしは知ってるんだよ?」「つー・・・。」
つーは一歩ずつ近づきながら、選択に迷っているフサに話しかける。瞳の輝きが、一歩毎に強く澄んだものになっていく・・・彼女の目には涙があったが、必死に堪えながら話しかけていた。
「あたしはどんな時でも、あんたを信じてる・・・。だから、あたしはフサを止めたりはしないよ。でもね・・・一つだけ、守ってほしいことがあるの・・・。」「守って・・・ほしいこと?」
目の前まで来たつーはフサの胸元に顔を押しつけると・・・
「絶対に倒して・・・必ず帰ってきて!」
と涙声で言った。本当は彼女は、フサに行って欲しくなかったのだ・・・。
フサはつーを優しく抱きながら、あることを頭の中で決断をする・・・。そして、彼女にいたわるような口調で話しかけた。
「なぁ、つー・・・。こんな時に言うのはおかしいけど・・・。」「なぁに・・・?」「俺がゼロと一緒に、あいつと戦って勝ったら・・・」
「俺と・・・結婚してくれるか・・・?」
286 :
OB ◆6AUdwfa8u2 :2009/11/20(金) 04:04:11 O
一回ageとく
「え・・・?」「ば、場違いなのは分かってるんだっ! ただ・・・その・・・。」「・・・。」
その時、ゼロの足がもつれて、その隙を狙ってキングオブモンスが彼ごと病院へ向かってこようとした。
「!」「・・・行って。」「つー・・・。」「アタシのことは良いから、さっさと行って!」「・・・分かった。必ず戻るからな!」
我に帰ったフサは、手に持っていた変身アイテム『エスプレンダー』を高く掲げ、叫んだ・・・。
『ガイアァァァーーーッ!!』
次の瞬間、空から地上に降り注ぐ赤と青の光・・・さらに、光源となっている空から赤い光弾が放たれ、ゼロの動きを封じている『シャークファング』を破壊する。突然の光景に、ゼロや病室のギコ達は驚きを隠せなかった。
「何だ今のは・・・。」「もしかして・・・?」
その刹那、光が降り注いでいた空から、銀色の巨人が地上に降り立った・・・。
銀・赤・金の体表、肩から胸にかけて延びる黒いプロテクターに、その中心で輝くカラータイマー・・・。その正体はフサが変身した、地球の大地と海の光を受け継ぐ光の戦士『ウルトラマンガイアV2』だった・・・。
「ヂュワッ!!」「フサ!?」
ガイアは、地面に膝を付いて呼吸を整えているゼロの元に駆け寄る。
「相沢君! 大丈夫か?」「その声・・・フサ先生!?」「そうだ。隠していたけど、実は先生もウルトラマンなんだ。」
二人が話している間に、先程のガイアの攻撃で倒れていたキングオブモンスが、再び立ち上がった。
「今は彼奴を倒す事だけを考えるんだ・・・。行くぞ、ゼロ!」「はい!」
ガイアとゼロは頷き合うと、同時に体を構える。まさかの光景に、町の人間や病院の中からは歓声が上がった。
キングオブモンスはガイアの登場に驚いたのか、背中の黄色い骨のような羽『ボーンウィング』を広げ、空へと逃げようとする。
「待てゴルァ!」「そう簡単には逃がすかっ! デュアッ!!」
ガイアが敵を空へ追い込んでいる隙に、ゼロは頭に付いている2本の宇宙ブーメランを投げ飛ばす。
驚異的な早さで飛ばされたその武器『ゼロ・スラッガー』は、ウルトラセブンの『アイ・スラッガー』と同様にゼロのウルトラ念力でコントロールされ、キングオブモンスの『シャークファング』・『ボーンウィング』を綺麗に切断していった。
バリアになり弱点でもあるの羽を切られ、空中で次第に失速していくキングオブモンス・・・
その時、彼の目線の先には、追い越して空中で待機していたガイアが構えていた・・・。
「ヂュアァッ!」
ガイアは空中で一回転すると、赤熱化させた右足で急降下し、敵の脳天に高速キック技を浴びせた。この技は『スプリームキック』といい、本来ならばスプリームバージョンのみでしか使えない技だ。
高速蹴りを食らったキングオブモンスは、そのまま受け身をとることもせず、轟音と共に地面に叩きつけられた。
下で待機していたゼロは、空から地上へ降り立ったガイアと砂塵が巻き起こっている場所を見る・・・。
「倒せたでしょうか・・・。」「いや、まだだ。気配がまだ残っている・・・。しぶとい奴だ・・・。」
彼らが体勢を整えていたその時・・・
砂塵から、羽を失った怪獣のシルエットが浮かんだ。しかし、どうも行動がおかしい・・・頭を上にあげ、その上に何やら不気味な光を放つ光球を作っている・・・。
その時、敵が何をするのか気づいたぎゃしゃとモララーが、病室から叫びを挙げた。
「二人とも、避けてっ!」「バリアーを張れっ!! 光線技が来るぞ!!」
しかし二人の叫び声は届かず、キングオブモンスは口から赤い破壊光線『クレメイトビーム』を発射してしまった・・
其れだけではない・・・。放たれた方向が、ゼロではなくガイアに向かっていたのだ・・・。
「逃げて! フサぁぁぁーーーっ!!」「まずいっ!!」
ガイアに向かって飛んでくる光線に、つー思わず彼の名前を叫んでしまった。
ガイアにはもうバリアーを張る余裕もなく、腕をただ顔の前で交差させる事しかできなかった。もう当たってもおかしくはない・・・。彼は大ダメージを覚悟していた。ところが・・・
突然彼の前に、赤と青のある人影が立ちふさがった・・・。
「ゼロ!!?」「アヒャ君っ!!」「先生は、殺させない!!」
クレメイトビームはガイアの体ではなく、彼を護ろうと前に立った『ウルトラマンゼロ』に直撃する。
さらに、その直後に彼らは大爆発に巻き込まれた・・・。
余りに突然の光景に、言葉を失うギコ達・・・
「そんな・・・。嘘・・・でしょ・・・? アヒャ君が殺されるなんて・・・無いよね?」
しかし・・・エーの言葉に誰も反応することはなかった・・・
「ねぇ・・・何とか言ってよ・・・!」「エー・・・。」
「ぐすっ・・・アヒャ君は死んでないって、誰か言ってよぉっ!!!!」
エーは握り拳を震えたたせ、涙を堪えながら必死に叫んでいた・・
しかし、その時・・・
『エー、落ち着け。俺達はまだ生きてるって!』「え・・・?」
エーの耳にどこからか、ゼロの声が聞こえたのだ。
そう・・・ゼロは、テレパシーによってエーに話しかけていたのだ。彼女は驚きの気持ちを押さえながら、同じようにテレパシーで言葉を返す。
なお彼女のテレパシーは生まれつき持っている物なので、エネルギーを消費することはない。逆に言えば、変身していない状態で使える唯一の能力なのだ。
『アヒャ君・・・? 生きてたんだね!』『おぅ・・・って、何で勝手に俺達を殺すんだよっ!』『ゴメン。でも、どうやって・・・?』『外を見れば分かるよ。』『外・・・?』
エーは彼のテレパシーに従い、再び窓の外を見る。しかし外は砂塵が巻き起こっており、その奥で一体どんな光景が広がっているのか皆無だ。
彼女の行動に、ギコが声をかける。
「・・・どうしたんだ、栄香?」「アヒャ君はまだ、生きてる・・・!」「何だって・・・?」
その時砂塵の奥に、二人の巨人の姿を確認した・・・
ゼロとガイアは光線が直撃する前と同じ体勢で構えていた。しかし、ゼロの首周りに付いている銀色のプロテクターが若干赤く輝いているのは、明らかに違う・・・
「お前の光線エネルギー・・・貰った!!」
何と、ゼロは瞬時にクレメイトビームのエネルギーをプロテクターから吸収し、自分の物にしていたのだ。
父親譲りの技に、ギコは思わず感心していた。
「ゼロの奴・・・いつの間にかそんな技を・・・。」
「先生、大丈夫ですか?」「ゼロ、すまないな・・・。決着をつけるぞ!」「はい! ハァァァァァ・・・!!」
構え直したガイアは、腕をT字に組みエネルギーを溜める。一方ゼロは自分のプロテクターに溜まったエネルギーを腕に流し・・・
「ダァァァァッ!」「チャァァァァッ!!」
ゼロは腕をL字に組み『ワイド・ゼロ・ショット』を、ガイアは右腕をL字構え直し、左手を右腕の関節に乗せて『クァンタムストリーム』を同時に放った。
その威力の強さから、光線が通過する場所から壮絶な砂塵が起きる。
二人の光線は見事にキングオブモンスの腹に直撃。怪獣はその威力に押され、轟音を発しながら玉砕した・・・。
293 :
ゴラ ◆UQvQJ57BFY :2009/11/22(日) 19:48:29 0
とりあえず、浮上汁!
戦いを終え、屋上に降り立つフサとアヒャ。そこに・・・
「フサぁっ!」「つー・・・。」
屋上で彼らの戦いをずっと見守っていたつーが、瞳に涙を浮かべながらフサに飛び込んできた。彼は無言で彼女を抱きしめる。
「心配させないでよぉっ! 良かった・・・無事で・・・。」「心配かけて悪かった・・・。約束、ちゃんと守ったからな!」「うん・・・!」
その時、彼らを傍観していたアヒャが口を挟む。
「あの、フサ先生・・・? 二人の空気をぶち壊して悪いんですが・・・。」「あ・・・ごめん・・・。・・・部屋に戻ろう。」
フサとつーは顔を恥ずかしそうに赤くしながら、アヒャと共に下へ降りていった。
しかし、七階のエーの病室へ戻ると・・・
「アヒャ君っ!」「エー!?」
今度はエーがアヒャに抱きついた。まさかの事態にアヒャは顔を真っ赤にする。
「ちょ、エー・・・一度離れて・・・」「アヒャ君が無事で、嬉しい・・・!」
アヒャは慌ててどうにかしようとするがその時、手がエーの体のある部分に触れてしまい・・・
「きゃっ!?」「!!?」
「お前ら・・・イチャイチャするのも大概にしろよ!」「す、すみませんッ!!」
次の瞬間、病室に笑いの渦が巻き起こった。
第五話 二人の時間
一時間後・・・
日が傾き、海のように透き通っていた青空が次第に紫色を帯びてきた。もうあっと言う間に夕方だ。
彼らは家に帰る為に、エーに挨拶をしていた。
「何かあったら、ちゃんと連絡するのよ? 私、携帯をずっと開けて待ってるからね。」「大丈夫・・・。分かってるよ・・・。」
しぃの心配する声に、若干暗い声で答えるエー。一時間前のゴタゴタで、疲れが出てしまったようだ。
「じゃあ、そろそろ帰るか・・・。ゆっくり体を休めるんだぞ。」「うん・・・。またね。」
彼らはエーにそれぞれメッセージを残しながら、ゆっくりと病室から去っていった。
扉を閉めると、開かれた白い空間にベットとエーだけが取り残された・・・。
エーは疲れたように大きなため息をつく。ハァという音はそのまま部屋中の壁に木霊し、その部屋に彼女だけしかいないという心細さをより一層引き立てた・・・。
(誰か・・・一緒だったらなぁ・・・。)
彼女がそう思ったその時、個室の引き戸を開けて赤髪の人物が中に入ってきた・・・。手には何やら缶の飲み物を持っている。
「エー、これでも飲むか?」「アヒャ君・・・!」
病室に入ってきたのは、先程ギコ達と一緒に帰ったはずのアヒャだった。
「あれ? 帰ったんじゃなかったの?」「家に帰っても父さんはいないし・・・。それに、お前も一人で心細いだろ? だから暫くここに居るよ。」「ありがとう・・・。」
アヒャはそう言うと、ラウンジの自販機で買った暖かいコーンポタージュの一本をエーに渡した。エーはプルタブを開けることはせず、手に握って暖をとる。
無機質なスチール缶が、まるで彼の心のようにじんわりと暖かい・・・。人が側にいる暖かさって、こんなに気持ちが良いものなのかなと、エーはその缶から感じ取っていた・・・。
暫くして、アヒャが彼女に話しかける。
「なぁ、エー・・・。」「ん?」「昼間俺の話を聞いていて、何か矛盾に感じなかったか?」「うーん・・・。あっ、そう言えば・・・。」
エーは、アヒャがもう一つの姿になったことについての説明に矛盾があったことを思い出した。
「アヒャ君は『去年この星に来た』って言ってたよね? でも・・・私達って小学校の時から一緒だったでしょ?」「ああ・・・。」「何で矛盾してるの・・・?」「実はな・・・。」
「俺は去年の春、交通事故で一度死んでるんだ・・・。」
「え・・・っ?」「信じられないだろうけど、本当の話だ。」
アヒャはスチール缶を手に持ちながら話を進める。
「去年の春休みだから、まだお前がロボットだった頃かな・・・。俺はその時、家を出て自転車の手入れをしていたんだ。」
アヒャの脳裏に、その日にあった出来事が鮮明に映し出される・・・
彼は元から機械いじりが得意だったので、自転車のメンテナンスも余裕にこなしていたのだ。
「整備が終わった自転車を、試運転がてら本屋に向けて走らせていた。そこで、雑誌をかって家に帰る・・・。ここまではいつもと同じだった・・・でも・・・。」「でも・・・?」
交差点で横断歩道を渡る小さな子供に信号を無視して突っ込もうとするトラック・・・。そして、その子供の身代わりになって跳ねられた青年・・・それが、アヒャだったのだ・・・。
「俺が助けた男の子は掠り傷で済んだようだけど、俺はもう生きられる状態じゃなかった・・・脳挫傷だって・・・。」「そんな・・・。」
二人の間に重い空気が流れ、暫く沈黙が続いた・・・。
「俺自体、その時はもう生きることを諦めかけてたんだ。」「演技でもないこと・・・言わないでよ・・・。」「ごめん。でも、話はここからなんだ。」
「その時、遺体を安置する場所のベットの上に置かれてた俺の所に、赤い光の玉が入ってきたんだ・・・。」「それってまさか・・・ウルトラマンゼロ?」「そう・・・。」
『誰だ・・・?』『俺は君達の星から遠く離れたM78星雲と言うところから、宇宙の平和を守るために戦っている宇宙人だ。』
『M78星雲・・・ウルトラマンか?』『その通りだ。今地球に、大いなる危機が迫っているんだ。俺はその危機からこの地球を守り抜きたい・・・。その為に、君の体を借りたいと思う・・・。』
『俺の体を・・・? 俺はもう死んでるんだぞ?』『案ずる事はない・・・。俺が君と一心同体になることで、君はまた同じ人間として生きられる。そして、俺もこの星で活動することが出来る・・・。君の命は、俺が保証しよう。』
『・・・分かった。何が起こるか知らないが、一心同体になろう。』『ありがとう・・・君の名前は?』『俺は、相沢珀作。お前は?』『俺の名前は、ウルトラマンゼロ。ウルトラセブンの息子だ。』
「こうして、俺はウルトラマンとしてこの星で活動することになったんだ・・・。」「そうだったんだ・・・。」
アヒャの話を、エーは複雑な表情を浮かべながら聞いていた・・・。
「・・・この話は、まだのーには言わないで欲しい。彼奴に言ったら、何かとんでもない事になりそうな気がするから。」「うん・・・。」
エーはそれっきり、言葉を返すことはなかった。ただ、手に持った缶を暗い表情で眺めているだけだ。
「・・・ごめんな。お前が辛いのに、こんな話はするもんじゃなかったな・・・。第一、死人が目の前に居て話してるなんて、変な話だよな・・・。」「そんな、死人だなんて・・・。」
エーは慌てて止めようとするが、何故かうまく言葉が言い返せない・・・。それっきり言葉を返すこともなく、ただ静かに時間が過ぎていった・・・。
しかし数十分後、再びアヒャが彼女に声をかけた。
「そう言えばさ・・・。」「? なぁに?」「俺、まだ昼間の質問に答えてなかったな。」「?」
アヒャはエーのベットに浅く腰掛けると、深呼吸を置いて話を続けた。
「俺の身にいつ、何が起こってもおかしくない。戦えばもしかしたら、死ぬこともあるかも・・・。けど俺はそれでも、ずっとお前を護っていたい。お前の傍で、いつも笑っていたいと思うんだ。」「アヒャ君・・・。」
エーは顔を赤らめながら、彼の黄色い瞳をじっと見て告白を聞く。胸の高まりが、止まらない・・
彼女の瞳に写る彼の真剣な眼差しからは、月明かりのような優しい輝きの奥で燃えている、途轍もない力が感じられた。まるで、NIGHTMARE CITYで見たギコと同じような感覚だ。
アヒャは自分の顔を髪の色と同じぐらい赤くしながら、言葉を繋げる。
「さっきみたいに、戦士としてはまだ未熟な戦い方しかできないけど・・・もし、こんな自分でも良ければ・・・俺と・・・」
「お、俺と・・・つきあって下さいっ!!」
エーは一瞬驚いたような表情を浮かべるが、すぐに笑顔になり・・・
「うん・・・!! こんな私で良ければ、これからも宜しくね!」
と返答した。それは、今まで両思いだった二人が遂に結ばれた瞬間だった・・・。
一呼吸置いて、今度はエーから話しかける。
「ねぇ、アヒャ君?」「どうした?」「今度からその・・・呼び捨てにして、いいかな・・・?」「・・・何時でも呼んでいいよ。」「ありがとう・・・。」
「でもさぁ・・・別に呼び捨てにしなくても良いんじゃないか?」「え? 何で?」「何かお前に呼び捨てにされると、変な感じがするし。」「そんなぁ・・・。」
そう言うと、二人は顔を赤くしながら見合わせ、恥ずかしそうに笑った・・・。
笑いあった後、窓の外に広がる紫色の夕焼け空を眺めながら、エーは彼に改めて呼びかけた。
「ねぇ、アヒャ・・・。」「ん?」「貴方は、自分の戦い方はまだ未熟だって言ってたけど、私はそんなふうには思わなかったよ。」
アヒャは彼女の顔を見る。エーは微笑みながら空を眺め、話を続けた。
「私には、自分が危険に犯されても必死に私たちを護ろうとする、かっこいいヒーローに見えたんだけどなぁ・・・。」「そこまで言うことかぁ? ちょっとオーバーじゃないか?」
エーはオーバーじゃない、と言いたげに首を横に振る。
「アヒャはあの戦い方で、私は十分だと思うの・・・。誰かを護ろうとする気持ちがあれば、それでもう立派な戦士になってるはず。きっと、自分がまだ気付けてないだけなんだよ。」「そうかな・・・。」
「私は、アヒャが必死に護ろうとしてくれただけでも、とっても嬉しかったの・・・。だから慌てないで、自分の考える戦い方を見つけて・・・。」「エー・・・。」
アヒャは顔に微笑を浮かべると、ゆっくり彼女に近づいていく。そして・・・
「ありがとう・・・。」
昼間にエーがやったように、自分の唇を彼女の唇に合わせ、長い『キス』をした・・・。
その頃、フサとつーは・・・。
「「・・・。」」
二人はあれから無言のまま、白い息を吐きながら並木道をゆっくりと歩いていた。
日は完全に沈み、二人を照らす光は無機質な白い街灯だけだ。いつの間にかこんなに時間が経っていたのだ。
ふと今まで無言だったフサが、夜空を見上げながら呟いた。
「綺麗だなぁ・・・。」「? いきなりどうしたの?」「上・・・見てみろよ。」「上? ・・・うわぁ・・・。」
つーが空を見上げると、そこには夜空の黒いパレットに散りばめられた星たちが、互いに命を燃やしながらパレードを繰り広げていた・・・。色も光の度合いも違う星たちは、まるで一つ一つの個性が違う人間のようだ。
感慨深い声を挙げるつーに、フサは再び声をかけた。
「なぁ、つー・・・。ここよりもっと、綺麗に星が見られる場所があるんだ。・・・一緒に来てくれ。」「えっ・・・?」「いいから! 取りあえず付いてこい!」
彼はそう言うと、無理矢理彼女の手を引き走り始めた。
「ちょっ、フサ!? 何処に行くの?」「秘密だよ!」
数分後・・・
二人は頂上に何も置かれていない、少し高い丘の上に来ていた。ちなみに街灯もない。真っ暗な闇の世界に、二人の息のあがる音だけが聞こえる・・・。
フサは家から持ってきた懐中電灯をつけると、息切れがなかなか収まらないつーに話しかける。
「大丈夫か・・・?」「大丈夫じゃないよ・・・こんなに走るなんて、聞いてない・・・。」「・・・悪かったな。でも、この綺麗な景色をお前に見せたかったんだ。」「えっ?」
エーは視線をフサから夜空に変える。すると・・・
「うわぁぁ・・・。凄い・・・。」
そこには、街灯の光に隠れて見えなかった無数の星が、夜空のキャンパスを美しく彩っていた・・・。
つーは現実世界でここまで綺麗な星空を見たのは初めてだった。フサは現実世界の美しさを知ってもらうために、敢えてこの場所に連れてきたのだ。
「現実世界で、こんなに星は見たことがないって思ったから・・・。」「うん・・・初めて・・・。」
つーは生まれて初めて見た現実世界の星空に、感動の声をあげていた。
「ところで、つー。お前は『オリオン座』は知ってるよな?」「知ってるよ。当たり前でしょ?」
因みにつーは元管理AIなので、決して頭が悪いわけではない。
「その『オリオンのベルト』の側で、大きく輝く星があるだろ?」「うーん・・・もしかして、あれのこと?」
つーは、オリオン座の右側に白く輝く星を指さす。
「そう。今、お前が指さした場所がギコのもう一つの故郷・・・『M78星雲』。通称『ウルトラの星』だよ。」
「えっ!? そうなの?」
つーは改めて驚きの声をあげる。
「お前、知らなかったの?」「その話も初めて聞いた! もっと詳しく教えて!」「分かった・・・。」
フサは星空を見上げながら話を続ける。
「ギコや相沢君が住んでいた『ウルトラの星』は、地球から300万光年離れた場所にある。つまり、ここから光の速さで飛んでも300万年掛かるという訳だな。」「そんなに遠く・・・。」
フサは体育座りをしているつーの隣に胡座をかいて座る。
「元管理AIだったお前には少し信じられない話かもしれないけど、その昔ウルトラの星の一族は、『人間と全く同じ姿』だったらしいんだ。」「えっ・・・?」
つーは頭の上に疑問符を浮かべる。
「でも・・・いまだって人間の姿じゃ・・・。」「今の地球での姿は、ギコや相沢君がそれぞれウルトラマンと一心同体になっているからなんだ。俺の場合はその逆なんだけどな。」「へぇ・・・。」
「ある時、その星の太陽が消滅して、ウルトラの星は人工衛星として新しく太陽を作ろうとしたんだ。『プラズマスパーク』って言うらしいな。」「うん・・・それで?」
「ところがある時、そのプラズマスパークに事故が起きて、科学者二人がそのプラズマスパークの発する放射線『ディファレーター線』に被爆してしまった。でも、そのおかげで今の超能力を手に入れた。こうして、ウルトラマンは生まれたのさ。」
「そうなんだ・・・。でも、何で地球を守ろうとするの?」「多分、あいつ等が地球を守るのは、昔の自分達と重ね合わせているからじゃないかな・・・。ウルトラマンになる前の、人間だった自分に・・・。」「ふぅん・・・。」
彼女は改めてフサの顔を見る・・・。つーにはM78星雲の事に関して話すフサが、いつもに増して輝いて見えた・・・。何だかいつもより、生き生きしているようだ。
フサの話の後、暫く訪れる沈黙・・・ただ静かな時間が、二人と星空の間を通過していく。
そんな時ふと、つーが『ある歌』を口に出した・・・。
『夏の草原に 銀河は高く歌う
胸に手を当てて 風を感じる・・・
君の温もりは 宇宙が燃えていた
遠い時代の名残 君は宇宙・・・
百億年の歴史が 今も身体に流れてる・・・
光の声が 宇宙(そら)高く聞こえる
君も星だよ みんなみんな・・・。』
彼女の透き通った深みのある歌声が、満天の星空に響きわたる・・・。フサは、つーの今までにない一面を見た気がした。
「お前、歌・・・上手いんだな・・・。綺麗だよ・・・。」「昔、何処かでこの歌を聴いたんだ。名前は分からないんだけど、それから何となく好きになって・・・。」
つーは恥ずかしそうに顔を赤らめて笑う。その時フサは、何故か彼女を懐かしむような顔で見た・・・。
「その曲の名前は確か・・・『COSMOS』だな・・・。」「? 何であんたが曲の名前を知ってるの・・・?」「俺が中二の時、合唱フェスタで歌ったやつだから・・・。」
フサは、彼女の声から昔の事を思い出したのだ。まだ『あの町』に行く前の、懐かしい記憶を・・・。
「・・・そういえばさ。」「ん?」「五ヶ月前に俺達が告白した時も、同じ天気だったよなぁ・・・。」「うん・・・。」
そう・・・。五ヶ月前に彼らがあの町で告白し合った時も、同じように晴れていたのだ。
突然気まずい空気が二人を襲う・・・。何故か両者とも、頬を赤くして顔を背けていた。
「・・・俺、あの時に言った気持ち、変えてないぞ。」「え・・・っ?」「いつでも、お前の傍に居るって・・・。お前の身に何が起きても、絶対護るって気持ち、忘れてないから・・・。」「フサ・・・。」
つーは赤い顔でフサの方を向いてみる。
彼女の瞳には、自分と同じ赤い顔をしながらも、真剣な眼差しで話しているフサの横顔が写った。
(何だろうこの感じ・・・。フサの傍にいると、何だかものすごく・・・ホッとする・・・。)
「そう言えばアタシ、あんたのプロポーズに答えてなかったね。」「ああ・・・。」「今からそのプロポーズに・・・答えていい?」「・・・いいよ。」
つーはゆっくり彼に近づくと・・・
彼の頬に、キスをしたーー。
「!?」「今のがアタシの答え。つまり・・・。」
「これから先何があっても、ずっと一緒にいさせて・・・?」
「つー・・・。」
「アタシも、フサのことをずっと支えていたい・・・。あんたとは、ずっと一緒にいたいから・・・。」
つーは高まる鼓動を必死に押さえながら告白する・・・。フサはその告白を静かに聞いていた。と、次の瞬間・・・
「きゃっ!?」
彼はいきなり彼女のことを抱きしめる。突然のことで何が起きたのか把握しきれないつーは、顔を真っ赤にする。
「つー・・・。」「・・・?」
「愛してる・・・。誰よりも、ずっと・・・。」
「・・・アタシも・・・愛してるよ・・・。」
二人は顔を向き合わせると、あの時と同じように唇を重ね、『接吻』をする・・・。今度は仮想空間ではなく、現実世界の星々に見守られて・・・。その中でも特に、ウルトラの星の光が一層輝きを増した。
まるで彼らの『結婚』を、祝福してくれるかのようにーー。
第六話 異変
あれから一週間・・・彼らはいつもの生活に戻っていた。
アヒャはあれからのーに事情を話し、今では放課後に必ずエーの見舞いに行っている。しかし、まだ彼らがつき合っているのは内緒だ。
今日も二人で病院へ向かっていく。
「今日がまさかあの提出日だったとは・・・。俺としたことが・・・。」「全く・・・何時まで落ち込んでるんや? エーちゃんに笑われまっせ?」「折角やったのに・・・。」「知らんがな! アヒャはんが忘れるのがいけないんやろ? 自業自得や。」
落ち込むアヒャに、厳しい一声を浴びせるのー。実は今日は数学の宿題提出日で、アヒャはまた毎度の通り家に忘れてしまったのだ。
「お前は提出したから言えるけどさぁ・・・。」「あぁもう、やかましいわ!」
口論を続ける内、二人はいつの間にか病院に着いていた。
アヒャとのーは中央棟のエレベーターに乗り込むと、エーの病室がある七階へ向かった・・・。
「失礼します。エーちゃん?」「よっ、エー!」
二人は714号室のドアをノックして入ると・・・
「のーちゃん、アヒャ君、いらっしゃい・・・。」
そこには、酸素マスクをしたエーが白いベットに横たわっていた・・・。
彼女は頭に氷枕をしながら、辛そうに呼吸をしていた。
アヒャが心配そうに声をかける
「どうした? 何があったんだ?」「・・・肺炎になっちゃったの・・・。」「肺炎!? ・・・酸素マスクをするほど酷いんやな・・・。」「本当は、全然平気なのに・・・ゲホッ!ゴホッ!!」
「おいおい・・・無理すんなよ。ただでさえエネルギーが消えようとしてるんだからさ。」「せや。ウチらのことは気にせずに、ゆっくり休んでな。」「ごめんね・・・折角来てくれたのに・・・。」
エーは申し訳なさそうに返答した。重い空気が、三人の間を通過していく・・・。
「エーちゃん、またアヒャはんが宿題を」「あぁっ、それ以上言うな!!」「・・・忘れたんでしょ?」「・・・バレたか・・・。」「いつもの事じゃない・・・。」
三人は顔を見合わせて笑い合う。今のエーにとって、彼らの存在は自分に元気を分けてくれる、大切な友達なのだ。
「・・・じゃあ、私はもう帰るわ。エーちゃんに迷惑かけてしまうかもしれんし。」「そんな、迷惑だなんて・・・。」「いやいや・・・。もっと元気な時に、いろんな話しような?」「うん・・・。」
そう言うとのーは彼女に気を使って、先に部屋を後にした・・・。
のーの行動で、再び置き去りにされた二人・・・。
「前にもこんな事・・・。」「ああ。あったな。」
アヒャは再びエーの側にイスを置き、座り込む。
「でもやっと、二人になれたな。」「うん・・・。」「・・・熱はどのくらいなんだ?」「38.5℃だって・・・。」「高いな・・・。咳出るんだろ? 辛くないか?」「・・・ちょっと辛いかな・・・。」「そうか・・・。」
アヒャは、いたわるように彼女の頭を撫でる。
「ねぇ、アヒャ・・・。」「なんだ?」「ありがとう・・・こんな私の為に、毎日来てくれて・・・。」「あぁ・・・お前は俺の、大切な人だから・・・。だから、苦しいときもお前の側にいてやりたいんだ・・・。」「アヒャ・・・。」
エーは苦しそうな声で彼に言葉を返した。体力がさらに落ちてしまったのだろうか・・・彼女の返す声も、先週より暗く、弱々しくなっていた・・・。
「なぁ、エー。」「・・・どうしたの?」「昨日さ、変な夢を見たんだ。」「どんな・・・?」「それが・・・」
アヒャは夢の中で見た、『ある光景』を口に出して話そうとする。が、しかし・・・
「・・・やっぱ、いいや。そんなに面白い事じゃねぇし。」
彼は突然話すのを止めてしまった。何か、気に入らないことでもあったのだろうか?
エーはどうしても話の中身が知りたくて、彼を問いつめる。
「隠さないで、話してよ・・・。」「いや、話したら長くなるし。今お前だって、長々と話なんか聞きたくないだろ? また今度話すよ。」「・・・意地悪。」
断固として言おうとしないアヒャに、彼女は不服そうに顔を膨らませる。エーが彼に対して顔を膨らませるのは、初めてのことだ。彼女の仕草の可愛さに、顔が赤くなりそうだ・・・。
「じゃ、俺も帰るわ。」「そんなぁ・・・もっと居てよ・・・。」
彼女の甘える声に、ついに顔が赤くなってしまったアヒャ・・・。
「し、しようがないだろ!? まだ体の体調が良くなってないんだから、早く寝ろよっ! じゃなっ!」「ふふっ。 ・・・またね?」「あぁ。また明日な!」
そう言うと、アヒャは病室を出ていった・・・。
家へ続く並木道を、ただ一人歩いていくアヒャ。
「あんな夢・・・あいつに言える訳ないじゃん・・・。」
彼の脳裏に浮かぶものは・・・
青い光の中、自分の体に起こる異変・・・腰から伸びる尻尾と、頭に生える猫のような耳・・・光がやんだ後には、体が青と赤の猫のような姿に成っていた。
さらに、その彼の後ろに立つ黒い巨人・・・彼はその姿に見覚えがあった。
『まさか、お前は・・・。』
そう・・・彼が見た巨人の姿は、『ウルトラマンティガ』そのものだった。しかし体全体の色が銀ではなく、鈍い輝きを放つブロンズ・・・その上に、まるで闇を強調するかのように黒い帯を巻いている。目の色も乳白色ではなく、紫色・・・。
『ウルトラマンティガ・・・なのか?』
その時、彼の声に気が付いたティガは足を上げると・・・
『うわぁぁぁぁぁっ!!!!』
彼を踏みつぶし、殺してしまうーー。
そんな夢を、昨晩実際に見てしまったのだ。
光の巨人が、闇の巨人に・・・。そんな事は実際、考えられない。
しかし彼には何故か、それが『夢』ではなく『現実』に起こるのではないかと胸騒ぎがしたのだ・・・。
彼は、あの時見た物は所詮、夢に過ぎないのだと何度も自分の中で繰り返し、納得した。しかし、それでも胸騒ぎが収まらないのだ。まるで心の奥で、何かの警告を発しているように・・・。
何時までも自分の中に隠している訳にはいかない。何れ誰かに話すことが有るだろう。しかし、その夢の話を聞いた相手がどのような反応を示すか・・・。
そんな事を考えていると、後ろから声をかけられた。
「何か思い詰めているようだな、ゼロ。」「ギコさん・・・。」
彼に声をかけたのは、買い物袋を手に提げ、子供二人を連れているギコだった。
「ゼロお兄ちゃん、こんにちは!」「タカラ君に、フサしぃちゃん・・・。その袋は?」「あぁ、しぃに頼まれて夕飯の材料の買い足しに行ってたんだ。」「そうですか・・・。」
ギコは彼の様子がおかしいのを見かねて、ある提案をする。
「なぁ・・・少し、話さないか?」「えっ?」「色々聞きたい事があるし、お前も何か話したいことがあるんじゃないか?」「・・・はい。」「よし。・・・じゃ、一緒に来てくれ。」「分かりました。」
こうして、彼らはギコの家に向かうことになった・・・。
数分後、彼はギコの家にお邪魔していた。
「相沢君、いらっしゃい。お茶でもどうぞ。」「あ、有り難う御座います・・・。」
しぃは寒い中やってきたアヒャの為に、暖かいお茶を出した。彼はその暖かいお茶をゆっくりと一口飲む。
広いリビングのソファに座っている彼の向かい側には、ギコとしぃ。どこかの面接会場のような緊張が、アヒャを襲う。
「それで、エーの様子は?」「さっき見てきた時は、酸素マスクを顔に付けていました・・・。熱も高いとか・・・。」「そうなの・・・。午前中は大丈夫だったんだけど、酷くなっちゃったのね・・・。」
アヒャの話に、しっかり耳を傾けて聞いてくれているギコとしぃ・・・。
しかし数分後、ギコはついに『あの話』について切りだした。
「・・・ところで、ゼロ。お前が彼処で思い詰めていた理由は何だ?」「それは・・・。」
彼はギコにあの夢の話をしようとする。しかし・・・やはり今の彼には、あの出来事について話す自信が全く無くなっていた。いくら話したところで、夢のことを信じてもらえるはずがないと、頭の中で決めつけてしまっていたからだ。
そんな彼の気持ちを察したのか、しぃが優しく声をかける。
「相沢君。不安がらないで、私達に話してみて。どんな話でも、私達はちゃんと受け入れるから。話してくれなきゃ、分からないよ。」「しぃさん・・・分かりました。」
しぃの心の優しさに触れたアヒャ。エーの優しさはこの人から受け継いだのかと、自分の中で納得してしまった。
彼女の一言に頭の思考を変えたアヒャは、夢の中で見た全てを彼らに話す。体が猫のように変化することも、黒いウルトラマンティガの存在も・・・。
その全てを、ギコ達は顔に複雑な表情を浮かべながらしっかり聞いていた。
全てが話し終えたところで、ギコが口を開く。
「ゼロ・・・。お前が見た『黒いティガ』は、実は本当にいたんだ。」「そうなんですか?」「ああ・・・。これは複雑な話なんだが・・・実は・・・。」
「お前が見た黒いティガ『ティガダーク』こそ、『ウルトラマンティガの真の姿』なんだ・・・。」
「えぇっ!?」
今まで変わらなかったアヒャの表情が、一変したーー。
黒いティガの存在は、現実の話だったのだ・・・。
「・・・信じられないかもしれないが、ティガは三千万年前までは闇の最強の巨人だった。だから他の闇の巨人達と手を組んで、ルルイエの超古代都市を破壊していたのさ・・・。」「そんな・・・。」
アヒャは信じられない思いで一杯だった・・・。夢の話が現実にあった事だけでなく、ティガの本当の姿が闇の巨人だとは・・・。腰が抜けるような話だ。ギコはさらに話を続ける。
「しかしある人物に導かれて、ティガは今までの行いが全て間違っていたことに気づいた。そして光の巨人に転生したんだ。これが、今の『ウルトラマンティガ』だな。」「そうなんですか・・・。」
ティガの驚くべき過去に、彼は終始戸惑いを隠せなかった・・・。いきなり光の巨人の真の姿を知ってしまったのだから、無理はない。
暫くの沈黙の後、再びギコが口を開く。
「しかし・・・そこまで正確な夢を見たとなると、もしかしたら大変な事になるかもしれないな・・・。」「それは・・・どういう事ですか?」「俺も昔お前と似た夢を見て、現実に起こったことがあるからな・・・。」
ギコの脳裏には、『悪夢の町』での光景が鮮明に思い浮かぶ・・・。
「所詮夢は夢だと考えていても、俺が仮想空間で体験したように本当になることもある。」「でも、夢なら本当に起きることは無いんじゃ・・・。」
しぃは彼の発言に首を横に振りながら言う。
「そんな事はないよ。私達が体験したように、夢で見ていたものが本当になることもあるの。だから、夢だから本当に起きないっていうことは、無いとも言い切れないのよ。」「・・・。」
やるせないような、微妙な表情を浮かべるアヒャ。現実に起きたらそれこそ大変な騒ぎになるが、自分の夢が本当になるとはおよそ信じ難い話だ。
そんな彼に、ギコは緑茶を一口飲んでから静かな口調で言う。
「夢は気まぐれだ。起こる訳がないと思ったことも、現実に起きてしまうことだってある・・・。」「・・・。」
さらに、ギコは彼の肩に手を置いて説得するような口調で話した。
「良いかゼロ・・・。たとえ其れが夢だと信じたくても、絶対に見くびったりするんじゃないぞ。最もそれがただの夢なら良いが、お前が見たものは明らかに内容が細かすぎる・・・。呉々も用心してくれ。」「・・・はい。」
アヒャは納得がいかないような表情を浮かべたまま、頷いた。
数時間後・・・
日が落ちて、空に星が散りばめられた頃・・・アヒャは自分の家に帰ることにした。
「夕飯作るのに、本当にいいの?」「良いんです。あんまり長居しても、ご迷惑を掛けてしまうだけですから・・・。お茶、ごちそうさまでした。」「そっか・・・。今度はのんびり遊びに来てね!」「はい!」
彼は玄関で見送るしぃに元気よく挨拶を交わし、並木道に姿を消した・・・。
冬の凍てつく空気の中、桜の並木道をひたすら進むアヒャ・・・。
「夢か・・・。」
彼の頭の中では、ギコの言葉がグルグルと掛け巡っていた。夢と現実が重なるとき、この町は一体どうなってしまうのだろうか・・・。いや、所詮夢は夢だ。現実に起こらない事もあるだろう。
彼は自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返し、納得する。しかし其れでも、彼の心の奥で感じる違和感は取れることはなかった・・・。
その深夜・・・
平和な夜空に、突然青い巨大な光球が発生する。その直後、町の住民たちの体に異変が起きた。
腰から尻尾が伸びだし、耳が動物のように変化していく・・・。光が止んだ後、そこには動物の姿に変化した住民たちが・・・
そう・・・アヒャの夢が、現実に起きてしまったのだーー。
その青い光球の中から、動物の姿に変化した住民と同じ姿をした四人が地上に降りてきた・・・。それぞれの体の色は、青・白・黄色・銀だ。
四人の内、黄色い体の人間が周りの人間達に命令した。どうやらこいつがリーダーのようだ。
「ついにこの時が来たか・・・。いいか? この町に住民として紛れ込み、それから『本物』を探して抹殺しろ。まずはこの町の住民に紛れ込むことが先決だ。わかったな?」
周りの三人は頷き、それぞれの方向に散っていった。
散っていったことを確認し、黄色い肌を持つ人間が呟いた。
「偽物と本物・・・どちらが強いかな? せいぜい楽しみにしているぞ、モララー!」
黄色い体をした彼はそのまま嘲笑すると、暗闇に眠る町の中へと去っていった・・・。
翌朝のギコ家・・・
タカラはいつも通りに目が覚め、大きく欠伸をする。いつもの自分の部屋でやる、日常的な動作だ。しかし、何故か身体だけは妙な違和感を感じた・・・
「何だこの感じ・・・前にもあったような・・・。」
タカラが小首を傾げながら自分の身体を確認しようとしたその時・・・
「きゃあああっ!」「!?」
下の洗面所から、フサしぃの甲高い悲鳴が聞こえた・・・。
彼はパジャマ姿のまま、慌てて下に駆け降りていく。
「どうしたの・・・ッ!?」「タカラ・・君・・・?」「しぃちゃん・・・その格好・・・。」
洗面所に入り、タカラの目の前にいたのは・・・
茶色いフサフサした毛に覆われ、頬にアスタリスクが付いている『猫』・・・。
それは、昨晩の光で動物の姿と化したフサしぃだった。かつて彼が体験した仮想空間『NIGHTMARE CITY』の状況とよく似ている・・・。
タカラもまさかと思い、鏡を見てみる。すると・・・
「この体は・・・」
黄色い体毛に覆われ、頭に付いている猫耳に、胸に付いているTマーク・・・そして、腰から伸びる尻尾・・・。
タカラの体は『悪夢の町』でなったものと、全く同じになっていた・・・。
(嘘・・・だよね・・・?)
第七話 禁断の変身
その頃・・・
石碑の丘の上に一人、薄紫色をした猫のAAがある人物を待ち合わせていた・・・。頬には、フサしぃと同じくアスタリスクが付いている。
「遅いなぁ・・・。」
関西弁で話すこのAA、実は彼女があの『のー』なのだ。
自分の髪と同じ色の体・・・これは、AAとなった住民全員共通の特徴だ。ただ一人、『彼』を除いては・・・。
石碑の側にある大木により掛かり、その人物を待っていると・・・大木の後ろから、その『彼』が現れた。
「のー!」「アヒャはん、遅いで!! って、その体・・・どないしたんや?」
息を切らしながらその彼『アヒャ』は、のーの隣によりかかる。体は彼女と同じく猫の形をしている。しかし・・・体表は『髪の色』とは異なり、赤と青のカラフルな塗り分けだ。
実は彼の場合・・・
銀色がない以外、『ウルトラマンゼロ』に変身した状態の塗り分けになってしまったのだーー。
「その色・・・。」「お互い様だろ? それより、聞いてくれ。」「・・・?」
彼は自分が一昨日見た夢と同じ事が、現実世界で起こってしまったと話す。勿論、黒いティガの存在についても・・・。のーはその話を聞いた直後、もの凄い剣幕でアヒャを睨みつけた。
「何でそんな大事な話を隠してたんや!? エーちゃんが危なくなったら、どないするんや!」「話したところでお前は信じたか? こっちの心境にもなれよ! ・・・とにかく、今はエーの所に行くぞ!」
二人は急いでエーの病院へ向かって駆けだした・・・。
一方のギコ家は・・・
体が『NIGHTMARE CITY』での状況に戻ってしまったのをきっかけに、フサやモナーなど全員がギコ宅に集結していた。
全員が沈黙する中、フサがモララーに質問した。
「一体どうして・・・。」「・・・多分、昨晩に起きた蒼い光球と関連があるだろうが、誰がどういう意図でやっているのか分からないからな・・・。」「まさか・・・エンペラー星人か・・・?」
ギコの呟きに、一同が驚きながら彼の方向を向いた・・・。
「エンペラー星人って・・・何ですか?」
宇宙人の知識について皆無なぎゃしゃは、ギコに問いかけた。
「エンペラー星人は、かつて地球を大きな危機に巻き込んだ暗黒宇宙の大皇帝だ。その時はウルトラマンメビウスの活躍で消えたが、最近活動を再開したらしいな・・・。」
「と言うことは・・・また地球を滅ぼすために、僕達をこの体にしたモナか?」
モナーの質問に、静かに頷くギコ・・・。その時、今まで静かに話を聞いていたつーがギコに掴みかかった。
「ギコ! 何でそんな大事な話をあたし達にしなかったのっ!? 答えなさいよっ!!」「つーちゃん、やめて!! 落ち着いてっ!」「子供が見てるのにみっともないぞっ、つー!」「放せっ!」
フサとしぃは必死に彼女を取り押さえる。ギコは息を整えると、暗い声で説明した・・・。
「・・・俺も、昨日のゼロの話で初めて聞かされたんだ・・・。」「え・・・っ?」「宇宙警備隊の手違いで、俺に連絡が来なかったんだよ・・・本当にすまない・・・。」「ギコ・・・。」
思わぬギコの話に、言葉を失う一同・・・。
「・・・放して。」
今まで取り押さえられていたつーは解放されると、ギコの肩に手を乗せて謝った・・・。
「ギコ、ごめん・・・そんな話だったなんて知らなかったから・・・。」
ギコはそれでも首を横に振り続ける。彼女には彼が自分の中に責任をため込んで、いつもより一回り小さく見えた。肩に重圧が掛かっているのが、周りのメンバー達の目にも写る・・・。
「一人で責任をため込むな、ギコ・・・。俺達がついてるぞ。」「ありがとう・・・。」
と、その時・・・空に突然異変が起き、歪んだ空間から3体の怪獣が轟音と共に現れた・・・。さらに、彼らはそれぞれの攻撃を駆使して町の破壊活動を開始した。
三体はそれぞれ、『円盤生物ロベルガー』『水棲生命体レイキュバス』『怪獣酋長ジェロニモン』といい、何れもかつてウルトラマンを苦しめた強敵だ。彼らの攻撃に逃げまどう町の人々・・・
その人混みの中、アヒャとのーはただひたすら病院を目指していく。と、その時・・・
「邪魔だ!」「きゃあっ!」
のーが町の人に弾き飛ばされ、地面に転ける。しかし軽く転んでしまっただけなのですぐに立ち上がることが出来た。ところが・・・
運悪く転んだ場所が、なんと円盤生物ロベルガーの目の前だった・・・
思わぬ光景に、その場に立ち尽くすのー・・・。
ロベルガーは彼女に向かって手から光弾を発射する。もう避けられる余裕はない・・・。
しかしその時、彼女の事を誰かが左へ突き飛ばした・・・。
「危ないっ!」「きゃあっ!?」
その直後、光弾は彼女を弾き飛ばした『少年』にヒットする・・・。光弾に当たってしまった彼は、木に全身を叩きつけられ、地面でそのまま動かなくなった。
尻餅を付いていたのーは、自分を助けてくれた人物を確認するため、木の根本に駆け寄る。すると・・・
「そんな・・・嘘や・・・。」
そこには『赤と青の体表を持つ』猫が、左肩を血だらけにして木の根本に倒れていた・・・。
彼女を助けたのは、アヒャだったのだ・・・。
「アヒャ・・はん・・? アヒャはん!! しっかりしてっ!!!」
彼女は彼の頭を懸命に揺らすが、一向に返答がない・・・強く体を打ちつけたショックで、気を失っているようだ。
刹那、ロベルガーの光弾が再びのーを捉えた・・・。
「いやあああっ!!」
のーは頭の中が混乱し、必死に両腕でかばおうとする。彼女にはもう逃げる余裕すらなかったのだ・・
しかし次の瞬間、空中から放たれた蒼い光弾がロベルガーの放った物を相殺する・・・
「え・・・っ・・?」
その直後、空から赤と青の二人の巨人が姿を現し、ロベルガーを蹴りとばした。
「まさか・・・あれは・・・。」
のーの前に姿を現した二人の巨人・・・それは、フサとモララーが変身した地球の光の巨人『ウルトラマンガイア』と『ウルトラマンアグル』だった。ちなみに、二人ともV2へとバージョンアップを果たしている。
実はこの時、ギコ達は3体の怪獣を倒すべくそれぞれの場所へ移動していた。ちなみに、ギコ(初代ウルトラマン)はジェロニモン、モナー(ウルトラマンダイナ)はレイキュバスと戦っている。
ガイアとアグルは、彼女の方へ顔を向ける。
「大丈夫か?」「・・・!」「ここは危険だ。早くその彼を連れて、逃げろ!」「は、はいっ!」
その時、今まで気を失っていたアヒャが目を覚ました。
「うっ・・・。」「! アヒャはんっ!!」「のー・・・。無事か・・・?」
のーは瞳に涙を浮かべながら頷く。しかしすぐに涙を拭き取り、真剣な顔で彼に言った。
「立って! 急いで病院へ行くで!」「ああ・・・!」
のーは彼の肩を持ち、再び病院へ向けて走り出した・・
病院へ向けて、ひたすら走り続けるのーとアヒャ。しかし、あれから暫く走っているが、病院へなかなか近づくことができない・・・。中心部に行くに連れ、人混みの量が先ほどより多くなっているのだ。
きっと、ビルの中から外へ逃げてきた人なのだろう。しかしこのままでは病院はおろか、入口にさえ近づけない・・・一体どうすれば・・・。
その時後ろから、聞き覚えのある優しい声がかかった。
「相沢君! のーちゃん!」「しぃさん!」
振り向いた先にいたのは、『NIGHTMARE CITY』での管理AIの姿に戻ったしぃだった。鮮やかな桃色の肌は、人間だった時の髪の色と同じだ。
「でも、どうしてここに? 学校に避難したんじゃなかったの?」「エーが心配で、病院へ向かうところだったんです・・・うぐっ!」「その肩の傷は・・・?」「さっき、怪獣の攻撃から私を守ってくれたんです。その時に・・・。」
「ちょっと、見せてみて。」
彼は負傷した左肩をしぃに見せる。血だらけで、傷口が分からない状態だ。しかし・・・彼女は傷口をみた後、ゆっくりとアヒャの左肩に両手を翳した。
「じっとしててね・・・。今、『治して』あげるから・・・。」
「え・・・っ?」
刹那、しぃの両手に蒼い光が集まっていく・・・。
その光は、まるでしぃの心の美しさを現すように透き通った輝きを放ち、周りを包むように優しく暖かな物だった・・・。
「しぃさん・・・これは・・・」「静かにして。集中してるから。」
光はアヒャの左肩にピンポイントで当たり、どんどん傷口を修復していく・・・。
そして数秒後、そこには元通りになったアヒャの左肩があった。治療が終わり、しぃは笑顔で彼らに言う。
「これでもう大丈夫・・・。さぁ早く、病院へ行きましょ?」「しぃさん、今の力は・・・?」「その話は後で。今はエーの事だけ考えて。」「・・・有り難うございます。」
しぃを加えた三人は、改めて病院へ向かって駆け出そうとする。と、その時・・・
空が再び歪み、中からもう一体の怪獣が今度は町の中心部へ降りてきた・・・左手が斧、そして右手が鉄球のように変化している。
これは、怪獣の怨念が集まってできた『暴君怪獣タイラント』といい、あのウルトラ六兄弟でさえ大苦戦した強敵中の強敵だ。
タイラントは他の怪獣達に追われ、町の中心部に集まった人間達を殺害するために呼び寄せられたのだーー。
今まで安全だった町の中心部に怪獣が出現し、人間達は大パニックに陥った。
悲鳴と走り去る音が、その奥で沸き立つ恐怖感と共に町中を染めていく・・・。
「早く、急いで! 攻撃が来るわよっ!」
アヒャ達一行は、人波と怪獣達の攻撃から逃れながらも、少しずつ病院へ向かっていった。ところが彼らの行く手を阻むように、ビルの残骸が前や後ろに落ちてくるため、次々に進む道を変えなければなかった。
彼は変身して戦いたいとは思っていたが、自分の正体を知らないのーがこの状況下でもう一つの姿を見た場合、必ずパニックになってしまう。その為、変身ができる余裕が無くなっていたのだ。
アヒャは自分の頭の中で焦っていた・・・変身して戦わなければ、この町の人間がパニックどころか全滅してしまう可能性もある。一体、自分はどうすれば良いのだろうか・・・。
その時、タイラントが自分達の存在に気づき、目の前にあるビルと背後にあるビルを道路に向けて倒壊させた。
「きゃあっ!!」「うわっ!」
砂塵を巻き上げ道路上に崩れ落ちる、二つのビル・・・。彼らは行く手を遮られ、ついに身動きがとれなくなった・・・。
「くそっ・・ここまでか・・・?」
タイラントはビルに阻まれて動けなくなっている自分達に目線を合わせ、斧を振り回す・・・。
(やっと・・・ここまで来れたのにっ・・・!)
彼が頭の中で呟いた次の瞬間、怪獣から振り下ろされる斧・・・。彼らは、もう自分は死ぬのかと頭の中で覚悟を決めた・・・。
ところが・・・
斧を振り下ろす直前、タイラントは突然現れた緑色の光球に弾き飛ばされた・・・。
「・・・?」
自分達が顔を伏せてから何も起きてない事に気づいた三人は、おそるおそる顔を上げてみる。すると・・・
そこには、カラータイマーを赤く点滅させた『ウルトラマンティガ・マルチタイプ』の姿があった・・・。
エーは『変身するな』という約束を破り、『禁断の変身』を行ってしまったのだーー。
「大丈・・夫・・?」「エー・・・お前・・。」「みんなは・・・私が守るから・・早く・・逃げて・・・。」
ティガはそう言うと、弾き飛ばされたタイラントを倒すべく走り込んで行く・・・。
「栄香・・・そんな・・」「やめろ・・そんな無茶なこと、俺が許さないっ!!」「アヒャはん、待って!!」
エーの禁断行為にたまらなくなった彼らは、倒壊したビルの隙間を抜けて必死に彼女の後を追いかけていった。
ティガは言うことの聞かない自分の体を動かし、無理矢理戦っていた・・・。
パンチやハイキック、二回連続の回し蹴りなどの攻撃は正確に当てているものの、体の不調が祟って力不足な攻撃しか出せていない。敵にダメージを与えられているのかも、全く分からない。
それでも、ティガは体を休めることなく連続で攻撃を叩き込んでいく・・・彼女を動かしている『大切な人を護りたい』という気持ちが、逆に体を休ませなかったのだ。
彼は足元がふらつきながらも敵に向かって走り込み、擦れ違いざまに切断光線『スラップショット』を首元にヒットさせ、タイラントを怯ます。右手先に大量のエネルギーを集中させて放ったため、効果は抜群のようだ。
ところが今の攻撃で、カラータイマーの点滅速度がさらに早くなってしまった。膝をついて、苦しそうに呼吸を整えるティガ・・・。
(ダメ・・・こんな所で倒れたら、みんなが・・・。)
高速でカラータイマーが点滅する中、ティガはふらつきながら前へ向き直す・・・。
「ハァァァァ・・・!」
彼は前方で両腕を交差した後、左右に広げてエネルギーを集約させると・・・
「チャッ!!」
L字組にして代表的な必殺技『ゼペリオン光線』を炸裂させた。
その時、丁度アヒャ達三人がティガの近くへ駆け込んで来た。
「やった・・・のか?」
光線技を発射したところを目撃した彼らは、ティガの勝利を確信する。
しかし、その彼らの予想は当たることはなかった・・・。
タイラントがまるでその瞬間を待っていたかのように、ベムスターに酷似した胴体から彼の光線技を吸収してしまったのだ・・・。
「何っ!?」「エーちゃんの光線技が・・・飲み込まれた!?」
信じ難い光景に、動揺を隠せないティガ。さらにその直後・・・
動揺したティガにめがけて、今度はタイラントの胴体から光線技を丸めた球体が高速で放たれた。
「きゃああああっ!!」「「「エー(ちゃん)!!!」」」
放たれた光球に見事に当たってしまったティガは、そのまま弾き飛ばされて地面に全身を強打する・・・。
「うっ・・・うぅ・・・。」
ティガは何とか立とうとするが、自分の光線技をもろに受け、もう立つ力さえ残されていなかった。
「もう・・・やめろ・・・。」
アヒャは、自分達を必死に護ろうとしているティガに何もしてやることが出来ず、握り拳を震わせながら小さく呟く・・・。
タイラントは呟きに耳を傾けず、ティガに止めの一発を刺そうとした・・・。
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
アヒャは全身の力を使い、涙を溢れさせながら大きく叫んだ・・・。
と、その時・・・空から突然オレンジ色の球体と青色の球体が現れ、ティガに止めを刺そうとしたタイラントを弾き飛ばした。オレンジ色の球体からは無限に広がる強さが感じられ、『メビウスの輪』によく似た光の帯が出現している・・・。
「あれは・・・もしかして・・・!」「しぃさん・・・?」
しぃが驚きの声を発した次の瞬間、光はガイアとアグルではない、赤と青の二人の巨人の姿になって地上に舞い降りる・・・。
彼らの姿を見たアヒャは、思わず呟いてしまった。
「ウルトラマンメビウス・・・ヒカリ・・・!」
そう・・・光の正体は、宇宙警備体の若きヒーロー『ウルトラマンメビウス』と、元科学者の『ウルトラマンヒカリ』だった。彼らは、危険を察知した初代ウルトラマンの連絡を聞いて、光の国から直接駆けつけてきたのだ。
「栄香さん!」「ミライ・・さん・・・。」「どうして変身を!? 死んでしまったら、どうするんですか!」
普段は温厚なメビウス=ヒビノ・ミライが、ついに初めて彼女のことを怒鳴った・・・。
「ごめんなさい・・・みんなを・・護りたかったの・・・。」「・・・ここは僕たちでやります。その体では、戦うことが出来ません。」「そんな・・・私はまだ・・戦えます・・・。」
メビウスの言葉に、なかなか応じようとしないティガ。そこに、ヒカリがさらに説得を入れようとした。
「ダメだ。その体で戦っては、自滅するのと同じことになってしまうぞ。・・・!!」「で・・も・・・私は・・・。あっ・・・。」
ヒカリが振り向いた直後、ティガのカラータイマーが・・・
ついに消えてしまった・・・。
ティガはまるで地面に倒れ込むような形で、光となって姿を消してしまった・・・
「!!!」「エー!?」
ティガが姿を消す光景を見た三人は、無意識の内に息を飲んでしまった・・・。さらにしぃは思わず、声にならない悲鳴を上げる・・・
「栄香さん・・・。」
その直後、再び立ち上がったタイラントが今度はメビウス達を襲撃する。
「テェアッ!」
ヒカリとメビウスはタイラントの鉄球の先から発射された鎖を避けると、彼の隙を狙ったコンビネーション攻撃を繰り出していく・・・。彼らがかつて地球で共に戦っていた当時の攻撃方法は、700年以上たった今でも健在なのだ。
彼らは『メビウスブレス』『ナイトブレス』から発生させた光の剣『メビュームソード』と『ナイトソード』を駆使し、メビウスは右腕を、ヒカリは左腕を豪快に切断した。
タイラントはティガの攻撃である程度弱っていたので、メビウス達は通常よりもスムーズに攻撃を繰り出せていた。幸運と言うべきではないかもしれないが、これも全てはティガ=エーが命がけで戦ったお陰なのかもしれない。
二人は後ろへ側転し、タイラントとの間合いを調整する。
「いくぞ、メビウス!」「ああ!」
二人はそれぞれのブレスレットのエネルギーを解放し、両手を十字に組むと・・・
「「セィヤァッ!!!」」
『メビュームシュート』『ナイトシュート』を組み合わせた合体光線『ダブルシュートアタック』を、タイラントの顔面にヒットさせる。
さすがのタイラントも二人の光線は吸収しきれず、強烈な光を伴って爆砕した・・・。
その頃、アヒャ達三人は消えたエーを探して、瓦礫だらけとなった町中を進んでいた・・・。
「エー、どこだ!! いたら返事しろ!」
声を張り上げながら必死に探すアヒャ。しかしいくら探しても、彼女からの返答も手がかりもなく、当てのない状態が続いていた・・・
第八話 ウルトラアイに誓って・・・
彼女を探し始めてから、もう三十分ほどたっただろうか・・・。
彼らは当てもない探索を続けているが、未だにほんの手掛かりさえ掴めていない状態だ。このまま捜索を続けても見つからない場合、エーを死なせてしまうことにつながる。一刻も早く、彼女を見つけ出さなくては・・・。
今のアヒャにとって、彼女を見つけだすことは『護る』に値することになっていた。しかし、そんな気持ちが空回りしてなかなか探し出せない・・・。彼らの焦りはピークに達していた。
「もうだいぶ探したで、アヒャはん・・・。」「・・・諦めようって言いたいのか?」「! 別にそう言う訳じゃ・・・。」
「分かってる。けど、死んでもその言葉を絶対に口には出すなよ・・・! エーは何処かで、俺達のことを待ってくれてるんだ。それなのに、あいつを見殺しになんかできるか?」「分かってるよ。・・・ごめん。」
彼らは手掛かりを求めて、小高い丘のある公園へ入っていった・・・。
(エー、頼む・・・。無事でいてくれよ・・・。)
その頃・・・
「椎奈さん達、遅いですね・・・。」「うん・・・。もうあれから一時間は経つね・・・。」
ぎゃしゃとつーは、避難場所であるエーの高校の体育館で待機していた。勿論、フサしぃやタカラも一緒だ。
先ほどまで戦いに行っていた四人は無事に合流した後、フサとモナーは医療チームの手伝いへ、モララーは警備担当としてそれぞれ仕事をこなしていた。ギコはしぃ達の後を追って、病院へ向かっているようだ。
二人が心配そうに入口で待っていると、体育館から出てきたタカラとフサしぃが彼女達に声をかけた。
「ぎゃしゃさん、しぃお母さん達は・・・?」「それが、まだ連絡も無いの・・・。ごめんね。」「そうですか・・・。」
まるで残念そうにハァとため息をつくフサしぃ・・・。やはり期待していただけに、そのショックは大きかったようだ・・・。
彼女の不安そうな表情に気がついたつーは、しゃがみ込んで頭を優しく撫でながら話した。
「しぃちゃん、大丈夫よ。お母さんは、絶対エーお姉ちゃんを連れて帰ってくるから!」「つーさん・・・。」「知ってる? お母さんは、あたしよりもとっても強いんだよ。だから心配しないで、もう少し待ってみよ?」「・・・はい!」
つーの優しい一声に、素直に頷くフサしぃ。
「外は寒いから、中で一緒に待ってようか。」「うん!」
彼女はフサしぃの手を繋ぐと、ぎゃしゃとタカラと一緒に暖かい体育館の中に入った。つー自体外にずっと立っていたため、暖をとることにしたのだ。
自分達の場所は、既に確保済みだ。そこには暖かい毛布もある。毛布にくるまって、体を暖めよう・・・。
つーがそんな事を考えていると、ぎゃしゃが突然声を掛けた。
「あの・・・伊野崎さん。」「ん? どうしたの?」「伊野崎さんは、藤沢さんがウルトラマンで怖くないの?」「怖い?」「うん。私はモララーが、ウルトラマンだなんて思わなかったから吃驚しちゃって・・・。」
つーは頭の上に疑問符を浮かべる。しかし、彼女はすぐに質問の意味に気が付いた。
「そっか・・・ぎゃしゃちゃんは、モララーがウルトラマンになったところを初めて見たんだよな。」「うん・・・。」
「そうだな・・・。あたしは初めて見た時、全然怖くなかったよ。・・・第一、そのウルトラマンに助けられたし。」「そうなの?」
ぎゃしゃは驚きながら彼女の顔を見る。つーの脳裏には、悪夢の町で怪獣に襲われてピンチになった時の事が鮮明に思い出された・・・。
「あたしが彼奴に助けられたとき、とっても暖かくて、優しい匂いがしたなぁ・・・。」「そうなのかな・・・。」「・・・ぎゃしゃちゃんは、モララーのことを信じてる?」「え?」
「もし信じきれてなくて半信半疑なら、もっと彼奴のことを信じてあげて。そうすると、彼奴がウルトラマンだって事も自然に受け入れられると思うんだ。」
「信じる・・・?」「うん。彼奴らは怪獣と闘っていて確かに怖い時もあるけど、それはみんな、あたし達を護るためにやっていることなんだ。だから、彼奴のことを信じてあげて。彼奴も彼奴なりに、一生懸命なんだよ。」
「はい。」
ぎゃしゃは納得したように口に微笑みを浮かべる。その時、体育館に準備されたスクリーンに昼間に起きたことがニュースとして流れていた。
凶悪な怪獣に立ち向かう、四人のウルトラマン達・・・ところがその中の映像の一つに、つーが何故か違和感を覚えた・・・。
ティガが、怪獣と闘っているーー!!
確か、エーのティガへの変身は、禁じられてたはずだが・・・。
その信じ難い映像の登場に、ぎゃしゃを除く三人が驚きの声をあげた。
「何でティガが・・・。」「おーい!!!」
その時、後ろから誰かが声を掛けた・・・
「アヒャ!? どうしたのモララー?」「大変だ・・・エーは見つかったんだけど・・・。」
慌てて走ってきたモララーは、息を整えながら彼女達に何かを伝えようとする。相当慌てて走って来たのか・・・汗まみれで暑苦しい上に、息切れが激しすぎる。余程大事なことを伝えに来たのだろう。
しかし、つーは何故か彼の口から出る言葉を聞きたくなかった・・・。勿論エーの安否は気になるが、直感的に嫌な予感がしたのだ。
(この変なモヤモヤは・・・なに・・・?)
「それで・・・どうしたんですか?」
つーが悩んでいる内に、タカラが真っ先に声を掛けた。
彼女の頭の中では、どうやら『最悪のシナリオ』と『もう一つのシナリオ』が浮かんでいるようだ・・・。せめて、その『事態』だけはどうしても避けたい。と言うより、絶対聞きたくなかった・・・。
彼女の願いを余所に、モララーは静かに口を開く・・・
「・・・心配停止状態が長く続いていたから、『植物状態』だって・・・。」
「・・・え・・・っ?」
願ってもいない、受け入れたくなかった『事実』が、モララーの口からはっきりと述べられてしまった。
あって欲しくなかった『もう一つのシナリオ』が、『現実』の物にーー。
モララーからの連絡を聞き、慌てて救護所に入った四人。すると・・・
高校の教室に用意された仮病室の一角にある仮ベットの周りに、しぃ・ギコ・のー・アヒャの三人と、メビウスとヒカリが人間体になった『ヒビノ ミライ』『セリザワ カズヤ』が囲んでいた。その奥では・・・
口に酸素マスクをし、胸には心拍を計るため無数の電気コードが取り付けられた少女『エー』が横たわっていた・・・。
「・・・ギコ。」「来てくれたか・・・。」
しぃと同じ鮮やかな桃色の肌を持ち、耳に赤いラインが入った少女は白い頬のままで、まるでおとぎ話に出てくるお姫様のようにベットに眠り続けている・・・。その横で、暗く俯き続ける赤と青の少年は、おとぎ話で言う王子様か・・・。
暗く重苦しい空気の中、しぃが今までの経緯について話してくれた。エーが禁断の変身をし、無理矢理闘って力を失ったことも・・・。
「・・・私達が見つけた時には、もう・・心臓が止まってて呼吸もしていなかった・・・手遅れだったの・・・。」
しぃは必死に涙を堪えて、つー達に一生懸命訳を話す。本当は、不安を吐き出して泣き叫びたいぐらい、辛い気持ちを内に抱え込んでいるのだ。
エーのベットの側で、アヒャは小さく呟く・・・。
「エー・・・ごめんな・・・。せめて、変身して闘ってれば・・・。」
彼は肩を落として、なかなか顔を上げようとしない・・・つーは若干怒りが混じった声で彼に話しかけた。
「何で・・・変身しなかったの?」「・・・のーがあの状況で、俺の本当の姿を見たらパニックを起こすと・・・。」
刹那、彼の頬に走る激痛・・・
叩いたのは、彼の発言に怒りを感じたつーだった。
「つーはん!?」「パニックを起こす・・・? だから何よ! それは、あんたの根性が無かっただけじゃないの!?」「・・・っ!」
「本当にエーちゃんの事が好きなら、何で闘おうとしなかったの!!」
「・・・?」「もう、話にならない・・・。」「つーちゃん・・・。」
つーは怒りを煮えたぎらせたまま、病室を後にしてしまった・・・。
静かになった病室で、のーが俯き続けているアヒャに静かに声をかける。
「アヒャはん・・・エーちゃんの事・・・好きやったん? それに、変身って・・・一体なに?」
ついに、彼のことを明かす時が来たーー。
のーは頭の上に疑問符を浮かべながら、アヒャの顔色を伺っている・・・。彼は未だに、生きる気力を失ったような表情を顔に張り付け、床に視線を落としたままだ。つーに叩かれた場所が、赤く腫れている・・・。
「どうなんや・・・?」
彼女の質問に、アヒャは暗い表情のまま、小さな声で答えた。
「つーさんの言う通りだよ・・・俺は、エーの事が好きだ。」「・・・。」
「それと、変身の意味は・・・これだ・・・。」「これは・・・?」
彼は彼女に自分のウルトラアイを差し出す。のーは暫く物珍しそうに眺めていたが、すぐに彼に返した。どうやらウルトラアイから、彼の全てを悟ったのだろう。
「分かってくれるか・・・?」「うん・・・。」
彼が彼女の方を向いたその一瞬、のーの顔がどこか悲しそうな表情になっていた・・・。自分は何もしていない。ただ事実を話したまでだ。しかし、何故彼女が悲しむのだろうか・・・。
そんな事を考えていると、のーは口元に笑みを浮かべながら言った。
「そっか・・・。アヒャはんは、エーちゃんの事が好きやったんやなぁ・・・。」「ああ・・・。」
アヒャはこの時、彼女の表情に何処か違和感を感じた。
笑顔の裏に、何かを隠している・・・。
「・・・私は、つーはんのように怒ることはしない。でも、エーちゃんが目を覚ますまでしっかり護ってあげなあかんよ・・・。」「のー・・・?」
「私はエーちゃんみたいに性格も良くないし、頭も良くないけど・・・人を好きになる気持ちは、同じだから・・・。」
のーは意味深な言葉を言い残すと、悲しい表情のまま病室を出ようとした。しかし、アヒャはその後をすぐに追いかける。
今の言葉で、アヒャの違和感の謎は一気に解けたのだ。しかし、まだそれが本当かは本人に聞かなければならない。
「待てよ。」「! 何やいきなり?」「のー、俺に何か隠してるな?」「別に・・・?」「・・・図星だろ。」「・・・。」
のーは足を止めて、アヒャの言葉に耳を傾ける。
「お前さ・・・何か様子がおかしいよ。何時もなら茶化したり突っ込むところも、変な言葉を返すし・・・。」「・・・うるさい・・・。」「それに、何なんだよさっきの言葉は・・・。お前は一体何を」「うるさいっちゅうに!!!」
のーの突然の怒号に、思わず言葉を失うアヒャ・・・。振り返った彼女の顔はとても厳しく、眉間に皺を寄せていた。ところがそんな彼女の表情とは裏腹に、瞳には涙があった・・・
「おいおい・・・そう怒るなよ・・・。」「しょうがないやろ! ウチやって・・・ぐすっ・・・」
「アヒャはんの事が、好きやったんやっ!!!!」
「えっ!!?」
ついに聞いてしまった、のーの本音・・・でもそれは、例えて言うなら『パンドラの箱』。寧ろ、開けなかった方が良かったのかもしれない。そうすれば、彼も彼女も傷つくことはなかっただろう・・・。
二人の間を包む静寂な空気は、時の流れをまるで感じさせない。暖かくかつ冷たい、ただ通り過ぎていくだけの、形のない物・・・。心はそれと違い、繊細に出来たガラス細工のようなもの。形が無いようで、実はある物なのだ。
でも彼は、その形ある人の心を、簡単に傷つけてしまったのだ・・・。心に負った傷は長い時間を掛けないと、癒えることはない・・・。
心に傷を負ったのーは何も言わず、寂しそうな後ろ姿だけを残して、その場から立ち去って行ってしまった。
「のー・・・。」
自分の過ちに気付いたが、もう時すでに遅し・・・アヒャはため息を吐きながら、病室に戻っていった・・・。
「相沢君・・・。どうしたの? 顔色が悪いけど・・・。」「何かあったんですか?」
気分が悪そうなアヒャに、しぃとタカラが声を掛ける。
「・・・何でも無いです。」「本当? 無理はしないでね。エーの事は、大丈夫だから・・・。」「はい・・・。」
アヒャはベットの側にイスを置き、腰掛ける・・・。彼は気分を変えようと、ギコに別の話題を振った。
「・・・ミライさんとセリザワさんは、地球の近辺にパトロールしているみたいです。」「そうか・・・。」
やはり、長続きしない・・・。先ほどよりもゲッソリして、ずっと元気が無い。彼の肩に、何らかの重圧が掛かっているのが目に見えて分かる・・・。
そんな彼の様子を見かねて、ギコはある行動に出た。
「・・・よし。俺達は先に避難所に戻ってるからな。」「えっ? ギコ君・・・」
しぃの反応に、ギコはアイコンタクトで彼女にこう言った。
『暫く、彼奴とエーを二人だけにしてやろう。』『! そう言うことね。』
彼らはフサしぃとタカラを連れて、先に病室を後にした。
ギコ達が帰り、再び二人だけとなった病室・・・アヒャはゆっくりと彼女の手を握ってみる。しかし何も反応が無く、いつものような暖かさもなかった・・・
「エー・・・何で変身したんだよ・・・。変身するなって、あれほど・・・。」
彼はエーに、問いかけるように小さく呟く。しかしどんなに呼びかけても、彼女からの返答は勿論無い。ただ薄い呼吸をしながら、眠り続けているだけだ。
アヒャは、自分の上着のポケットに入れていたウルトラアイを取り出してみる。青と赤の綺麗な枠が特徴のそれを、彼は手に持ちながらじっと考え続けていた・・・。
(一体・・・自分は何のためにウルトラマンになったんだ・・・? 自分の愛する人を守るために得た力なのに、逆に護られてばかりいるじゃないか・・・!)
アヒャはウルトラアイを軽く握ると、自分の手の中にあるそれを見ながら呟く。
「教えてくれゼロ・・・俺は、どうしたらいい・・・?」
刹那、アヒャの問いかけに答えるように、彼の脳裏に一つの記憶が浮かんだ・・・。
『アヒャはあの戦い方で、私は十分だと思うの・・・。誰かを護ろうとする気持ちがあれば、それでもう立派な戦士になっているはず。きっと、自分がまだ気付けてないだけなんだよ。』
(これは、あの時の・・・)
病院でのエーとの会話が、鮮明に瞼の裏に映し出されていく・・・。
『私は、アヒャが必死に護ろうとしてくれただけでも、とっても嬉しかったの・・・。』
(そうだ・・・。単純な戦い方しかできなかった俺のことを、励ましてくれたのもエーだったな・・・。)
次々に思い出される、自分の愛する人の言葉・・・ところが次の言葉が、アヒャの脳内に一つのヒントを投げかけた。
『だから慌てないで、自分の考える戦い方を見つけて・・・。』
(ん・・・? この言葉、何かが引っかかる・・・。)
彼は頭の中で、何度もその言葉を繰り返す・・・。
『自分の考える戦い方を見つけて・・・。』『自分の考える戦い方を・・・』『自分の考える戦い方・・・』
(自分の考える・・・戦い方・・・!)
アヒャは今の言葉を頭の中で繰り返すことで、一つの結論に辿り着いた・・・。それは、自分がまだ自己流の戦い方を身につけていないということだ。
エーは、自分なりの戦い方が出来ていない彼を気付かせるために、あの言葉をかけてくれたのだ。
アヒャは今まで閉じていた瞼を、ゆっくりと開いてみる・・・。
辺りはいつの間にか明るくなっており、窓からは既に黄金色に燃える朝日が顔を出している。彼はいつの間にか、エーの側で眠ってしまったのだ・・・。
(エー、有り難う・・・。俺は、やっと自分の答えを見つけることが出来たよ・・・。)
彼は未だに眠り続けている彼女を背に、病室を後にする。彼の顔は、もう昨日のような暗い表情ではない。希望に満ちた、曇りのない明るい顔だ。
ところが病室を出た直後に、突然ある人物に声を掛けられる・・・。
「答えは、見つかった?」「! ぎゃしゃさん・・・。」
扉の先にいたのは、彼のことを気遣って呼びに来たぎゃしゃだった。
「昨日一晩中考え込んでいたようだけど、何か結論は出たの?」「はい・・・。自分に欠けていた物を、エーが教えてくれたんです。俺は確かに光の戦士だけど、まだ自分なりの戦い方を掴みきっていないんだって・・・。」
アヒャは自分が着ている紺の上着の胸ポケットから、ウルトラアイを取り出す。
「俺は自分の大切な人を護れるよう、もっと自分の戦い方を磨いていきたいと思います。この、ウルトラアイに誓って・・・!」
彼の決断を聞き、ぎゃしゃは納得したような笑顔を浮かべながら言った。
「いい決断ね・・・! さぁ、避難所に戻って朝ご飯にするよ。その決断を、ギコさん達にも伝えなきゃね!」「はい!」
彼らは、朝日で輝く廊下を避難所へ歩いていった・・
第九話 新たなる太陽〜コスモスVSコスモス
太陽が完全にその姿を露わにした頃、アヒャとぎゃしゃを揃えた彼らは、避難所となっている高校の体育館で朝食をとっていた。
あの後、アヒャはみんなに自分の決意を表明した。ウルトラアイに誓って、エーを護れるように強くなると・・・。彼らの答えは勿論、Yesだった。ギコ自ら、そのアヒャの決意を後押しする、と激励してくれたのだ。
そんな彼らの今日の朝食は、おにぎり二つに豚汁。量は少なくても、十分に体の芯から暖めてくれる有り難い食事だ。
食事中、しぃはおにぎりを頬張っているギコに問いかけた。
「今日はどうするの?」「うーん・・・着替えは昨日持ってきたし、やることがねぇんだよなぁ。」
彼女の問いに答えるギコは、見るからに暇そうだ・・・。本当にやることがない、ただの暇人に見える。彼は体育館の窓の外を眺めながら、大きく欠伸をした。
「お前等は?」「俺は、荷物取りに警察署へ一回戻んなきゃいけないからな。」「俺も医者の仕事があるから、後で出るよ。な、モナー。」「そうモナ。ギコみたいに暇人じゃないモナ・・あ・・・。」
モナーの一言に凍り付く一同・・・。ギコは彼の言葉に、目の色を変えた・・・
「誰が・・・暇人だぁ?」「ぎ、ギコ! 今のは冗談モナ! 気にするなモナ・・・!」「暇人とは言ってないぞゴルァ!」「ぶへっ!」
次の瞬間、後頭部に強烈な回し蹴りが入り、思いっきり吹き飛ばされたモナー・・・。
「俺だって一応宇宙警備隊の仕事があるんだよっ!」「いや、何もやることがないってさっき言ってたモナ!」「そもそもお前はいつも一言多いから「二人とも、いい加減にしてっ!!!」」
彼らの争いに突然釘を打ったのは、しぃだった。
「傍に体調が悪い人がいるのに、それでもやるつもり?」「あ・・・。」
その体調が悪い人とは、なんと昨日アヒャのことを一喝した『つー』だ。彼女は昨晩まで元気だったのにも関わらず、今朝突然気分が悪くなってしまったのだ。だから彼女は、今でも毛布にくるまっている。
「・・・ごめん。ちょっとやりすぎた。」「もう・・・。」
ギコは呆れた表情をしているしぃに頭を下げた。
一方フサは、自分の傍で毛布にくるまって気分が悪そうにしているつーに声を掛ける。
「おい・・・。大丈夫か?」「ううん・・・。気持ちが悪くて、食欲がでないの・・・。」「・・・無理しないで、何かあったら言えよ。」
つーは暖かい毛布の中で頷いた。
その時、彼らの様子を見ていたタカラが、小首を傾げながらフサに問う。
「でも、何でつーさんは調子が悪くなっちゃったんですか?」「それが、原因が今一つ分からないんだ。つい最近、『お腹が張っているんだ』っていう話は聞いていたんだけど・・・。」
タカラが何となく納得のいかない表情になっていると、しぃが彼とフサしぃに声を掛けた。
「タカラ、しぃちゃん。今日は二人で近くに遊びに行って良いわよ。」「えっ? しぃお母さんは来ないの?」「お母さんはちょっと、つーお姉ちゃんの様子を見てから行くわ。何かあったら、あなた達の携帯に連絡するから。・・・どうするの?」
二人は少し悩んだ末、タカラがもう一度聞き直す。
「・・・本当に行っていい?」「うん。でも、あんまり遠くに行ってはダメよ?」
彼らはしぃの返答を聞くと、笑顔で大きく頷いた。
「分かったわ。じゃ、支度しなくちゃね!」
数分後・・・
「これで良し・・・。気を付けてね!」「うん! 行ってきまーす!!」
朝食が終わって支度が出来た二人は、燦々と輝く太陽の下体育館を元気良く飛び出していった。外には昨晩降ったのか、雪が辺り一面に白く積もっている。
「何処に行く?」「公園で、雪だるまを作らない?」「いいね!」
二人は白く染まった町を、近くの公園へ向けて駆けていく。この後で、彼らを襲う者が地球に向かっていることなど、全く知らず・・・。
その頃、宇宙のある場所では・・・
「この辺り・・・ですよね?」「ああ・・・。」
昨日、地球の近辺をパトロールしていたメビウスは、小惑星帯でウルトラマンエースと合流し土星へ向かっていた。と言うのも、昨日深夜にこの付近で不審な生命体が確認されたからだ。
元々地球担当ではないメビウスはウルトラサインを受け、自分のもう一つの故郷を一旦離れて、エースと共にパトロールに当たることになったのだ。
土星の周辺をゆっくり飛びながら、エースはメビウスに聞く。
「それで、地球はどうなっていた?」「はい。栄香さん以外は、無事に避難できたようです。でも・・・。」
「・・・どうした?」「・・・栄香さんは、相沢君達を護るために無理矢理変身して、僕らが到着する前からタイラントと戦っていたんですが・・・光を失って、今は『植物状態』に・・・。」「!!」
まさかの発言に、エースは彼を見返す。植物状態になったという話は、現役のウルトラ戦士の中では聞いたことがない。しかし、エースの場合は地球に滞在したことがあるので、事情はよく知っている。
「何時目が覚めるのか、分からないんです・・・。僕らがもっと早くに着いていれば、こんな事には・・・。」
メビウスは落ち込んだように顔を俯かせる。その顔から伺えるのは『心配』と『悲愴感』、そして『後悔』だ・・・。
そんな彼に、エースは優しく肩に手を乗せて励ました。
「そう落ち込むなメビウス・・・。誰だって失敗したり、届かない思いもある。自分をあまり責め過ぎてはいけないぞ。」「エース兄さん・・・。」
「栄香はきっと、還ってくる・・・今はただそれを信じるしかない・・・。それまで、俺達の手で地球を守ろう。」
メビウスは小さく頷いた。と、その時・・・彼の背後から紫色の光弾が発射された。
「メビウス! 後ろだ!」
エースからの忠告にメビウスは、飛んできた光弾から体を反らせて避ける。二人は光弾が飛んできた方向に、体を構え直した。
「誰だ!」
二人が構え直した先には・・・『ウルトラマンA』に酷似した、赤い目を持つウルトラマン・・・『カオスロイドA』が、エースと全く同じく構えていた。
「何で・・・五ヶ月前に、倒されたはずなのに・・・!」「今は奴を倒すことだけを考えろ。いくぞ、メビウス!」
二人はカオスロイドエースに向かって『メビュームスラッシュ』『パンチレーザー』を発射する。ところがカオスロイドAは同時に、ウルトラマンAのコピー技である『メタリウム光線』を放ち、あっさりと相殺させてしまった。
さすがは光線技を多く持つだけあって、かなり手強い敵だ。しかし、エースは既に彼の弱点を知っている。
「テェェェンッ!」
エースはカオスロイドがメタリウム光線が発射したと同時に背後に回り込み、流星キックを背中に食らわせた。
蹴り飛ばされた衝撃で、バランスを崩したカオスロイドA。
「イェェェェッ!!」
エースはその隙を狙い、腕を前で交差し上下に広げて、得意技である『バーチカルギロチン』を放つ。ところが、一方のカオスロイドAはそれを切り返すため、腕を水平に広げて『ホリゾンタルギロチン』を放った。同系統の技なので、どちらも中心で綺麗に切り裂かれる。
しかしエースはそれにも動じることはなく、じっと敵を睨みつけながら構えていた・・・。何か策でもあるのだろうか。
「シャッ!」「!?」
その時、カオスロイドAの後ろから、ウルトラマンメビウスが羽交い締めをした。
「お前はかつての俺のように、敵を前にすると周りが見えない時がある・・・そこが弱点だ!!」
そう・・・エースはかつての自分にあった弱点を逆手にとり、カオスロイドAの弱点として植え付けていたのだ。
カオスロイドは『過去の戦闘データ』を元に作られている。故に、自分がその時の弱点を克服すれば、簡単に倒せてしまうのだ。
「エース兄さん、今です!」「ポワァァァッ!!」
ウルトラマンAは上半身を左に捻った後、捻りを戻しながら両腕をL字組にして、代表的な必殺技『メタリウム光線』を炸裂させた・・・。
「グァァァァァッ!」
カオスロイドAはメビウスに邪魔をされ、バリアーを張ることなくあっさりと倒されてしまった。
ところが、倒された後に現れた光のウィルス『カオスヘッダー』は突然、集合して小さな青い光球へと姿を変えた。さらに、その後ろの空間が突然歪み・・・
青い光球は、その空間にまるで吸い込まれるように姿を消してしまった・・・。
その光景を、ただ呆然と眺めていたエースとメビウス・・・。
「今の空間は一体・・・。」「浄化されて宇宙へ散っていくはずのカオスヘッダーが、青い光球になって消える・・・? 不吉な予感がするな・・・。」「・・・ゾフィー兄さんに、報告しに行きましょう。」「あぁ。」
二人はそれぞれ違和感を残したまま土星を離れ、ゾフィーがパトロールしている海王星へと向かった・・・。
メビウスは何となく違和感を感じているだけであったが、エースには地球に危険が迫っているのではないかと、不安に感じるのであった・・・。
一方地球では、タカラとフサしぃが雪だるまを完成させていた。二人の力をあわせて作ったそれは少々無骨な形になっていたが、それでも立派な力作だ。
「出来たね!」「うん・・・。」
完成した雪だるまを見て、満足した表情を見せるタカラ。しかしフサしぃは、何故か寂しそうな表情を浮かべながらその雪だるまを眺めていた。
「・・・どうしたの?」「えっ? ううん・・・何でもないよ。」「もしかして・・・つまらなかった?」「そうじゃないの。タカラ君と遊んでて、とっても楽しいよ。でも・・・」
「でも・・・?」「・・・エーお姉ちゃんも、一緒だったらなぁって・・・。」
そう言うと、小さくため息を吐くフサしぃ。彼女は本当は、エーとも一緒に遊びたかったのだ。今まで姉がいなかった彼女らしい発言だ。
今度はフサしぃがタカラに声をかける。
「タカラ君は、エーお姉ちゃんのことをどう思うの?」「えっ? 何で?」「私、今まで『お姉ちゃん』っていなかったから・・・。」「そっか。そうだなぁ・・・。」
タカラは少し考えた後、彼の言葉で自分の姉について答えた。
「お姉ちゃんは、怒ると怖くてちょっぴり意地悪だけど、優しくてどこかホッとするっていう感じ・・・かな?」
「意地悪?」「うん。たまにだけど、意地悪なときがあるんだ。」
フサしぃは少し首を傾げながらタカラを見る。エーはそんなに意地悪だったろうか・・・。少なくとも、自分が来てからはそんなことはなかった筈だ。
「しぃちゃんはどう思うの?」「私は、綺麗でとっても優しいお母さんみたいな人だなぁって思う。お姉ちゃんを見たとき、タカラ君が羨ましかったなぁ・・・。」「そうなの?」
「うん。だって、私は今までずっと一人で、お父さんとお母さんしか居なかったもん。」
彼は納得したように頷いた。フサしぃは再び小さくため息を吐く。このため息が意味するものは、一体何なのだろうか・・・。
タカラが心配な表情を浮かべながら彼女を見ていると、フサしぃは静かに口を開いた。
「ねぇ、タカラ君・・・。」「ん?」「タカラ君は、お姉ちゃんが心配じゃないの・・・?」「・・・それは、心配だけど・・・。」「じゃあ、何で笑顔でいられるの?」「えっ?」
彼女の質問に、少し驚いてしまうタカラ。そしてその後に出る、困惑した表情・・・。
「それは・・・。」「教えてよ・・・。何でそんなに笑顔になれるの?」「・・・。」
返答に困る質問に、言葉を濁らせるタカラ・・・。
フサしぃは言葉を濁すタカラを不満そうな顔で見つめる・・・。答えを早く聞きたいようだ。
暫くの沈黙の後、タカラはゆっくりと自分の答えを述べる。
「・・・確かに、しぃちゃんは変に思うかもしれないけど、僕はこういう時こそ笑っていた方が良いと思うんだ・・・。」「何で?」
「だって、誰でも病気になったときに、悲しい顔で見られるのはイヤでしょ?」
この瞬間、フサしぃは彼のことがさらにかっこよく見えた・・・。子供である筈のタカラが、大人の意見を言ったのだ。
「だから、僕らが悲しい表情になってると、お姉ちゃんも悲しくなっちゃうんじゃないかなって・・・。」
彼の全ての意見を聞いた後、フサしぃはなるほどなという表情を浮かべながら、クスッ笑った。どうやら、彼の答えを聞いて納得してくれたようだ。
「ふふっ。やっぱり、タカラ君は優しいね!」「へっ? そ、そうかなぁ・・・。」
フサしぃの発言に、タカラは思わず顔を赤くする。何だか彼女に誉められたような気がして、気恥ずかしくなってしまった。熟したリンゴのように真っ赤に染まった顔を見られるのが恥ずかしくて、彼女の方に向けない・・・。
と、その時・・・今まで何もなかった青空が、突然異変を起こした。
異変を察知したタカラはハッと空を見上げる。同時に、その彼の行動を見てフサしぃも上空を眺めた。すると・・・
歪んだ空間から出てくる、青く輝く小さな光球・・・それは先程、ウルトラマンAが土星付近で見逃した物だった。光球は歪んだ空間の中を通過して、そのまま地球へとやってきたのだ。
「タカラ君、あれは・・・?」「・・・。」
青い光球は虹色の光を帯びながら、タカラ達の少し上で制止する。この虹色の光で、彼はこの光の正体が何なのかを感じ取った。
(これはまさか・・・カオスヘッダー?)
タカラは頭の中で、この光がどうやって地球までたどり着いたのか考え始めた。と、次の瞬間・・・
「わっ!!」「!」
光球から突然触手が延びて、自分の首に巻き付く。その力の強さに、苦しい表情を見せるタカラ・・・。
「かっ・・・く・・苦し・・い・・・っ。」「タカラ君っ!!」「し・・ぃ・・・ちゃん、は・・早く・・・逃げて・・・っ!」
カオスヘッダーはタカラを絞め殺そうとしているのか、一向にその力を弱める気配はない・・・。
タカラは、最大のピンチに陥ってしまったのだーー。
「がっ・・・あ・・・っ。」「い・・・いやぁぁぁぁっ!!」
首を強く締め付けられたまま、段々と空中へ上げられるタカラ・・・もはや彼には、締め付けている帯を解く力は残されていない。フサしぃは腰が抜けて、頭を抱えながら座り込んでしまった。体が小刻みに震えている・・・。
(不味い・・・このままじゃ、しぃちゃんまで・・・。こうなったら・・・。)
気が遠くなりかけているタカラは最後の力を振り絞り、自分の腰にあるポシェットの中へと手を延ばした。彼のポシェットの中に入っている物は、彼の一番大切な物『コスモプラック』だ。タカラはそれにゆっくりと手をかける・・・。
(コスモス・・・。僕に・・力を・・・貸して・・・。)
次の瞬間、タカラの体に溢れる目映い光・・・フサしぃは思わず堅く目を瞑ってしまう。目映い光はそのまま大きく形を変えると、光の中から『彼』が姿を現した。
月のように優しい光を放つ、青い体の巨人ーー。
タカラは間一髪のところで、慈愛の巨人『ウルトラマンコスモス・ルナモード』への変身に成功したのだ。
ところがその時・・・今までタカラの首を絞めていたカオスヘッダーにも、さらなる異変が起きようとしていた・・・。
365 :
ほんわか名無しさん:2009/12/17(木) 10:36:38 O
これは・・・・・・・・・・・
タカラがコスモスに変身した直後、カオスヘッダーの光球が突然紫色に変色したのだ。
(・・・?)
光球はその色を保ったまま、コスモスと同じ大きさまでに巨大化していく。コスモスは光球の中で何が起きているのか分からず、その巨大化する光球をただ傍観するだけだった。
さらに巨大化が終わった直後、その光球はある『者』の姿へと形を変えた・・・。
全体の形がコスモス・コロナモードと全く同じだが、体表の色がコスモスと対象的な青と黒・・・。さらに、乳白色の目が鬼のように真っ赤に染まっていた・・・。
自分とそっくりな『影』が、目の前で全く同じ体勢をして構えているーー!
その『影』は自分と全く同じ技を持ちながら、カオスヘッダーウィルスの効果でさらに強力になっている。・・・実に厄介な敵だ。
フサしぃを護るためには、この自分の『影』を倒さなくてはならないのだ。しかしそれは『敵』ではなく、『自分』に戦いを挑むに値するもの。もしかしたら、自分が負けるかもしれない・・・。
(ここは絶対・・・負けられない・・・!)
コスモスは『影』と同じ姿の、赤い太陽の戦士『コロナモード』へと変身した・・・。
果たして勝つのは、光か。それとも影かーー。
コロナモードとなったコスモスは、その自分の影『カオスウルトラマン』と同時に走り込み、互いのわき腹へとローキックを繰り出す。
ぶつかり合う技は全く同じで、行動パターンもそのままだ。但しパワーやスピードに関しては、カオスウルトラマンが遙かに上・・・。コスモスはローキックの一発で、大きく仰け反ってしまった。
「ぐっ・・・。」
コスモスは体勢を立て直すと、再び駆けだして連続で攻撃を叩き込んでいく。しかし、カオスウルトラマンも全く同じ動作で攻撃を繰り出した。
パンチやキック、いなし技も全てが互角で、勝敗が付きそうにない。これだと、ただパワーを消費しているだけの無駄な戦いになってしまう・・・。コスモスは内心、大きく焦っていた。
ところが・・・その互角の戦いは突然、コスモスのある攻撃によって形勢が変わってしまう。
それは、彼が影の隙を見て横顔に向かってハイキックを仕掛けた時だった。コスモスのハイキックに気が付いたカオスウルトラマンは、瞬時に右手だけで受け止めてしまったのだ。
「!!」
カオスウルトラマンはコスモスの攻撃に鼻で笑うと、足を持ったまま大きく彼の体を振り回し、地面に力一杯叩き付けた。
「う゛っ!・・かはっ・・」
コスモスは、全身に走る激痛にこらえながらゆっくりと立ち上がる。しかし・・・
『ピコン・・ピコン・・ピコン・・ピコン・・・。』「ハァ・・・ハァ・・・。」
立ち上がった直後、今まで青かったカラータイマーが赤く点滅を始めてしまった・・・。先程首を絞められていた分、パワーを消費していたのだ。
彼は改めて構え直す。ところが、全身に全く力が入らない。叩き付けられた衝撃で、相当量のスタミナを消費してしまったからだろう。足元がふらついて、まともに姿勢が保てないコスモス・・・。と、その時・・・
「がぁっ・・・!!」
つい三秒前までかなりの間合いがあったカオスウルトラマンが、急速にコスモスに近づき、首を両手で絞めあげた。ロープがきしむような音を立てて、首の両脇が押しつぶされていく・・・。
「がっ・・・か・・っ。」
絞めあげる強さに比例して、点滅速度をあげていくカラータイマー・・・。カオスウルトラマンはそのまま、彼を『巴投げ』で勢いよく投げ飛ばした。
「くっ・・うっ・・・。」
カラータイマーが高速で点滅する中、コスモスはふらつきながら片膝をつく。今はもう、この姿勢を保つだけで精一杯だ。彼に戦う力は、もう残されていなかった・・・。
(いやだ・・・。こんな所で、負けたくないよ・・・。)
コスモスは頭の中で呟く。しかし、いくら頭の中で呟いても状況は変わらない。ただ無情に、時間が流れるだけだ・・・。と、その時・・・
「タカラ君っ!! 諦めないでっ!!」「!」
今まで木の陰に隠れていたフサしぃが飛び出し、コスモスに向かって声をかけた。まだ小さい身体をいっぱいに使って、声を張り上げる。
「タカラ君は、あの時もこの体で頑張ってくれたよね? 私はその時、タカラ君の優しさを感じられたの!」
フサしぃは声を張り上げながら、一歩ずつ彼に近づいていく・・・。
「私はタカラ君の、その優しいところが好きなの! だから、絶対負けちゃダメ! 優しいせいで負けるなんて、タカラ君らしくないよっ!!」
コスモスは彼女の一声に静かに頷くと、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。
(そうだ・・・。僕はまだ、一人じゃない・・・! 諦めないぞ・・・。)
(未来を・・大切な人を・・この手で護るんだ・・・!)
「ゼァッ!!」
直後、瀕死だったコロナモードの体に『奇跡』が起きた・・・。
今まで『赤・青・銀』だった体表が突如、『紫・銀』へ変化し始めたのだーー。
数秒後・・・
変化後、そこには体型を変えず、体色を『紫・銀』へと変えたコスモスが立っていた・・・。
先程までは赤く高速で点滅していたカラータイマーが、体表の変化と同時に再び青い輝きを放つようになった。彼は身体の変化と共に、エネルギーも回復させていたのだ。
「身体の色が・・・変わった?」
今までにないコスモスの新しい姿に、目を見張るフサしぃ。しかし、彼はただ『体表の色を変化させただけ』ではなかった・・・。
光と影の二人は、再び同時に走り込んでいく。ところが・・・。
「ヘッ!」「!?」
コスモスはカオスウルトラマンが目の前に来た直後に、フッと姿を消した。突然のことで、辺りをキョロキョロと眺めるカオスウルトラマン。と、その時・・・。
「ダァッ!!」「グアァッ・・!」
今まで何もいなかった空中から、突然コスモスが急降下して彼の顔面にテンダーキックをヒットさせた。テンダーキックの威力の強さは、コロナモードで使っていた同系統の技よりも遙かに強い。
実は、彼はカオスウルトラマンの手前で、目にも止まらぬ速さで空中へと急上昇していたのだ。その移動スピードは、変化前のコロナモードよりも遙かに速く、計測が出来ない程だ・・・。
コスモスは新たな姿ーースペースコロナモードーーになる事で肉体技・スピード技・瞬間移動術等・空間停止能力等、ウルトラ念力を駆使した彼特有の能力を強化させることに成功したのだ。
「シュアッ!!」
コスモスが『新たなる太陽の戦士』となり、戦局が再び大きく変わった。
彼はカオスウルトラマンに攻撃の隙を与えず、サマーソルトキック、ジャンピングランキック、フレイムパンチ(ダブルパンチ)等、次々に反撃をしていく。彼を模した影はもはや攻撃を受け止めているだけで、隙を見て攻撃しても全く歯が立たなかった。
そのコスモスの連続攻撃や戦闘体勢は、タカラの姉であるエーが変身する『ウルトラマンティガ・スカイタイプ』から学んだものだ。姉とのトレーニングのお陰で、ここまでの連続攻撃が叩き込めるようになったのだ。
今、彼は心の中でエーと大地を蹴って、一緒に戦っていた。大切な人を護るという、彼女の意志を継いで・・・。
「デァッ!」
コスモスは両掌でエネルギーが残り少なくなったカオスウルトラマンを弾くと、両手に宇宙エネルギーをため込み・・・
「セイヤァッ!!」
スペースコロナモードの必殺技『オーバーループ光線』を放ち、影を遂に撃砕した・・
カオスウルトラマンの爆砕を見届け、タカラは元の姿になりながら地上に降り立つ。ところが地上に降り立った直後、彼はまるで地球の引力に吸い寄せられるようにして、白く輝く大地に倒れ込んでしまった。
「タカラ君!?」
倒れる彼の姿を確認したフサしぃは、タカラの身を案じて急いで駆け込んでいく。雪の所などに倒れたら、それこそ風邪を引いてしまう。
「タカラ君、起きて! 風邪引いちゃうよ。」「う・・・ん・・。」
タカラは彼女の声に導かれるように目を開ける。開いた視線の先には、しゃがみ込んで心配そうに顔をこちらに向けているフサしぃの姿があった。
彼は体力をかなり消耗してしまったのか、体が雪のように冷たくなっていた・・・。ゆっくりとその小さな体を起こすが、体の感覚が殆ど無い。ただ、冷たい・寒いの二つの感覚が残されていただけだった。
「体が冷たい・・・。大丈夫・・・?」「・・・寒・・い・・。」
よく見ると、タカラの体が小刻みに震えている・・・。タカラの小さな体が、彼がどれだけ危険な状態なのかを示していた。
フサしぃは、自分の肩に提げていた薄桃色の可愛いポシェットの中身を探り、タカラの体を暖めるような物を探す。
しかし、どんなに探っても中から出てくるのはちり紙・財布・ハンカチ・携帯電話・・・。彼の体を暖める物は、何も入っていなかった・・・。
ポシェットに暖めるような物が無く、落胆するフサしぃ。結局、自分は彼に何もしてやれないのだろうか・・・。
その時、フサしぃの脳裏にある一つの方法が思いついたーー。
しかし、いきなり彼にそれをやったらどんな反応を示すだろうか・・・。いや、今はそんな事を考えている場合ではない。彼女は最終手段として、脳裏に浮かんだ『それ』を行動に移す。
フサしぃはその小さな体を一杯に広げ、彼を力強く包み込んだーー。
「ふぇっ、し、しぃちゃん!?」「シーッ!」
彼女の突然な行動に、タカラは顔を真っ赤にする。やった本人もまた、恥ずかしい気持ちで胸が一杯になり顔を赤く染めた・・・。
暫くして、フサしぃが小さな声で話しかけた。
「私の体・・・あったかい・・?」
タカラは彼女が何をしたかったのか理解して、小さく頷く。
「・・・有り難う、しぃちゃん・・・。」
彼の感謝の声に、彼女も笑顔で頷き返した・・・
数分後・・・
フサしぃのお陰で体が暖まったタカラは、彼女と一緒に体育館へ向かって歩いていた。
「しぃちゃん。」「なぁに?」「その・・さっきは、ありがとう・・・。」「うん。ふふっ・・。」
彼女はそう言うと、嬉しそうに笑顔をつくる。無邪気で天真爛漫なその表情は、まるで天使のようだ。
今までにも、この彼女の優しい笑顔に励まされたことが幾度もあった。フサしぃの笑顔は、何故ここまでホッとするのだろう・・・。
そうタカラが考えていたとき、今度はフサしぃが彼に話しかけた。
「タカラ君・・・。」「ん? なぁに、しぃちゃん?」「また、私のことを護ってくれたね・・・。とても嬉しかったよ。」「えへへ・・・。」
タカラは、顔を少し赤らめながら照れ笑いをする。
「でもね、一つ忘れないで欲しいことがあるの・・・。」「えっ?」「タカラ君は一人で戦ってるんじゃない。私も、一緒に戦ってるんだよ?」「・・・。」
「私は応援することしかできないけど・・・心はいつも、タカラ君と一緒だから・・。」「しぃちゃん・・。」
そう言うと、フサしぃは顔を少し赤くしながら・・
彼の左の頬に唇を寄せたーー。
「!」「忘れちゃ・・ダメだよ?」「・・・うん。」
第十話 失った光 〜エーを救え!
エーが植物状態になってから一ヶ月後・・・
避難勧告が無くなり、町にはいつも通りの活気が戻っていた。
町の人々はまだ動物の姿のまま生活しているが、一ヶ月前ほど騒がれなくなったようだ。壊された建物の復旧作業も徐々に進んでいる。
世間ではバレンタインデーの話で持ち上がっており、連日デパートや商店街のどの店を見ても女性の姿が圧倒的に多くなっていた。チョコレートの売上が急上昇し、町は正にバレンタイン色だ。
しぃ達もその例外ではなく、今日はつーとフサしぃの二人と一緒にデパートへ買い物に来ていた。目当ては勿論、チョコレートだ。
「フサの好きな物は・・・。」「うーん・・・。」
お店のショーケースの前で、首を傾げながら悩む二人。フサしぃは、とっくに決めてデパートの休憩所で彼女達の決断をじっと待っている。
彼女達は、値札と商品をかれこれ15分程睨み続けていた。
「決まった・・?」「私はこれかなぁ・・・。」「しぃちゃんも?」
二人は同じ商品を手に取ると、レジに向かった。これは一枚ごとにカカオの量が違い、苦みや味が変わるという物で、どんなチョコレートがいいのか悩んでいる人には打って付けの商品だ。
「しぃお母さん! 遅いよ・・・。」「ゴメンね・・。どれがいいか悩んじゃって・・・。」
買い物が終わり、休憩所のベンチで休憩する三人。フサしぃはしぃからジュースを受け取り、一口飲みながらホッと一息をついた。
つーはと言うと、椅子に座りながら、少し辛そうにお腹をさすっていた。よく見ると、下腹部が若干膨らんでいる・・・。一体何があったのか・・・。
辛そうにしている彼女に、しぃが心配して声をかけた。
「つーちゃん、大丈夫・・・?」「・・・平気だよ。また少し、大きくなったのかな・・・。」「赤ちゃんの性別、分かったんだって?」「うん。女の子だって。まだアタシには実感がないんだけどね・・・。」
そう・・・。実は、つーは『妊娠』していたのだ。
何でも、妊娠が発覚したのは一ヶ月前の体育館。あの気持ちの悪さは、妊娠によるものだったのだ。
今妊娠四ヶ月で、生まれるのは8月15日の予定だそうだ。
「あ、いけない! 相沢君の分も一応買っておかなきゃ!」「えっ? 何で?」「栄香の代わりだよ。本当は、あの子も渡したかっただろうし・・・。」「あぁ・・・。」「ここで、ちょっと待ってて!」
そう言うと、しぃは慌てて店に戻っていった・・・。
その頃、とある公園では・・・
「デァッ! イヤァッ!」
赤い短髪に、透き通った明るい黄色の瞳を持つ少年『アヒャ』が、両手にナイフのような物を装備してトレーニングしていた。
アヒャの目の前には無数の木材が立ち並んでいて、彼はそれらに向かって攻撃を繰り出していく。
彼の両手に持っている物は、ウルトラマンゼロのゼロスラッガーを模して、学校の厚い鉄板で作り上げた特製のナイフだ。彼はこの二対のナイフを『アヒャスラッガー』と呼んでいる。
トレーニングしている場所は、一ヶ月前にエーを発見した小高い丘が多い公園の一角。彼はあの日から、連日この場所で特訓をしていたのだ。理由は他でもなく、今は植物状態になっている少女『エー』を護るため・・・。
「セイヤッ!!」
アヒャは残った数本の木材を、自分の念力で飛ばした「アヒャスラッガー」で全て切り落とすと、戻ってきたそれを受け取って地面に倒れ込んだ。
「ハァ・・ハァ・・。」
芝生の上で荒い呼吸をする、汗まみれのアヒャ・・・。ここのところ全く休まず訓練していたので、彼の体は限界を迎えていた。
その時、誰かが彼に声をかけた・・
「また訓練してたんやな・・・アヒャはん。」「? のー・・・。」
「はい、これ。」「悪いな・・・。ありがとう。」
アヒャはのーからペットボトルの水を受け取り、一気にがぶ飲みをする。余程喉が乾いていたのだろう。
彼は一ヶ月前よりも信じられないほどにゲッソリしていた・・・。つまりは、それだけの覚悟を持ってトレーニングしていたということだ。
少し大きめの二人の猫耳が、風に靡く・・・。彼は暫く続いていた沈黙を破って、彼女に話しかけた。
「この前は・・ゴメンな・・。」「えっ?」「お前の気持ちに、気付いてやれなくてさ・・・。俺は自分とエーの気持ちだけで、お前の気持ちには見向きもしてなかったんだ・・・最低だよな・・・。」「アヒャはん・・・。」
彼のネガティブな発言に、のーは首を横に振りながら答える。
「もう気にせんでええよ。過ぎたことやんけ・・・。うちは、もう大丈夫やから。エーちゃんを護るんやろ? あんたがそんなネガティブになって、どないするんや?」「のー・・・。」
「アヒャはんがネガティブになったら、護れる者も護れなくなってまうやん。・・・気ぃ落としたらあかんで。」「ありがとう・・・。」
彼女は笑顔で、アヒャに精一杯のエールを送った。
今、のーに出来ることはこれしかなかった。しかしそれでも、彼女は少しでも彼の役に立ちたかったのだ。自分が片思いをしていた『アヒャ』のために・・・。
その時突然、彼のバックの中が小刻みに揺れ始めた。マナーモードにしていた携帯電話に着信が入ったようだ。
アヒャは慌てて電話に出た。
「はい、相沢です。」『ゼロか? 俺だ! ギコだ!』「ギコさん・・・どうしたんですか? 随分慌ててますけど?」『落ち着いて聞いてくれ・・・。』「? はい・・・。」
電話口のギコは一度深呼吸すると、慎重な口調で話し始めた。どうやら重要な用件のようだ・・・。
『今、お前の所に栄香が来てないか・・・?』「・・・は!?」
ギコの突拍子もない質問に、思わず電話口で本音が出てしまった。しかし、驚いて当たり前だ。『植物状態』のエーが、ここまで来るはずがないのだ。
「来てるわけ無いじゃないですか! なに考えてるんですか!?」『そうか・・・。そっちには来ていないか・・・。』「・・・あれ? ギコさん・・・?」『ゼロ、大変だ・・・』
『栄香が、病院から消えたんだ・・・。』「・・え・・っ・・・?」
彼の口から述べられたのは、余りに信じ難い『事実』だったーー。
数十分後・・・
「ギコさん・・・。それに、皆さんまで・・・。」
アヒャとのーが病院のロビーに到着したとき、そこには既に擬古河家を含むNIGHTMARE CITYメンバー(以下、NCメンバー)が集結していた。彼らは全員、ギコの連絡を受けてやって来たのだ。
「みんな揃ったな。よし・・・先ずはこれを見てくれ。」
ギコは自分の手元にある白い手紙のような物をテーブルに広げてみせた。
『桃色の少女の心が光から闇となる時、光の巨人は真の姿となって、四人の影と共にお前達を襲うであろう。彼女を救いたければ、三つの力を持って闇の巨人と戦うがいい。』
「俺がエーの様子を見に行ったその時から既に居なくなっていて、代わりにこの紙が置いてあったんだ・・・。」「四人の影に、三つの力・・・。それに闇の巨人って、一体誰モナか?」
ギコの見せた紙に、モナーは早速異を唱える。他の全員も同じ心境だろう。しかし、このモナーが疑問に思った三つのキーワードの内二つは、ギコとしぃ・アヒャは既に知っていた。
『三つの力』と『闇の巨人』・・・思い浮かぶ答えは、三人とも同じだ。
「まさか・・エーが・・・。」
アヒャの呟きに、全員が彼に視線を合わせた・・・。
「相沢君・・・今なんて・・・?」
彼の呟きに、ぎゃしゃが何を言ったのか聞き返した。
「エーが・・・闇の巨人になっているんじゃないかって・・・。」「!?」
「ちょっ、アヒャはん? 何を言い出してるんや!?」「エーちゃんが闇の巨人になる筈ないだろ! いくら何でも非常識じゃないか?」
のーやフサが反論する中、ギコが静かに口を開く。
「いや・・・。みんなが言いたい気持ちは分かるんだが、実は本当の話なんだ・・・。」「えぇっ・・・?」
「ギコ・・・それは、どう言うことなんだ?」
ギコは前にアヒャに話したように、彼らに『ティガの過去』について話した。この話は実の息子であるタカラや、居候しているフサしぃにも初めて開かす、本来なら二人だけの秘密にする筈だった物なのだ。
聞き手の彼らは複雑な表情を顔に張り付けながらも、ギコの話にしっかりと耳を傾けていた。昔の話であるため、正直なところ半信半疑なのではあるが・・・。
全てを話し終えた所で、つーが疑問に思ったところをギコに問いかける。
「でも、ギコ・・・。光の巨人に転生したなら、闇の巨人になることは二度と無いんじゃないの?」「そうとも限らない。何らかの原因で光の力が弱まれば、隠れていた闇の遺伝子が覚醒することもあるんだ。」
彼が彼女の質問に答えた直後、今度はモララーが呟いた。
「取りあえず、エーの暴走を止めなくてはいけないというのは分かった。けど・・・三つの力って一体何なんだ?」
「それは多分・・・「僕と同じ力モナ。」」
ギコが答えようとしたとき、モナーが間から口を挟んだ。
「僕が持ってる三つの力は、エーちゃんが持ってるものと殆ど同じモナ。」
モナーの言う三つの力とは、ダイナのフラッシュ(光)、ミラクル(スピード)、ストロング(持久力・怪力)の事で、これはティガのマルチ・スカイ・パワーに相当する。
「つまりは、ダイナの光線技をティガに吸収させればいいってことか!」
「でも、単に光線技を吸収させるだけでは事が収まらないのよ。ね、ギコ君。」「ああ。しぃの言う通り、単に光線技を吸収させるだけではダメなんだ。特に、最後の『光』の力を取り戻させるにはな・・・。」「えっ?」
「三千万年前にティガが闇の巨人から光の巨人へ転生したとき、彼奴はかつて恋人だった闇の巨人の『歪んだ愛』を、『純粋な愛』に変えてマルチタイプになったんたんだ。つまり、光の力に加えて『愛』の力も必要って事だ。」
他のNCメンバーは、ギコの発言に少々困惑な表情を浮かべた。確かに愛の力を体現するとなると、少々難しい気もする。沈黙を続けるNCメンバー達・・・。
ところが、沈黙を続けるメンバーの中から一人、口を開いた者が居た。
「ギコさん・・・。その役目、俺にやらせていただけませんか・・・?」「ゼロ・・・。」
握り拳を作りながら、その少年『アヒャ』は静かにギコに話しかけた。
「俺はこの前、自力でエーを護るって約束したんです。例え、エー自身が敵になっても、自分がどんな結果になっても・・・。俺は、それでも彼奴との約束を果たしたいんだ! 俺はどうなっても良い・・・彼奴を護れれば、十分なんだ!」
ギコはアヒャの真剣な眼差しから、その奥に見える揺るぎ無い覚悟と力を確信し、一つの決断を下した・・・。
「分かった・・・。恋人のお前なら、栄香の光を取り戻せるだろう。だが、忘れるな。お前がどうなっても良いことは、絶対無いんだ。・・・死ぬんじゃないぞ。」「はい!」
アヒャはしっかりと頷く。この時、ギコは別のことも頭の中で確信していた・・・。
(ゼロの奴・・・栄香のいい婿になりそうだな・・・。)
と、その時・・・凄まじい轟音と共に、病院の入口が粉々に吹き飛ばされ、コンクリートとガラスの破片が広範囲に広がった。
「きゃあっ!」「何だ!?」
ギコ達が爆発の起きた入り口に視線を向けると・・・
そこには、黄色・青色・銀色の体を持つ三人の『猫』が立ち構えていた。三人とも、顔に冷徹な微笑みを浮かべている。
黄色の人間は赤く光る刃、青色の人間は彼とほぼ同じ色に透き通った蒼い剣、銀色のフサフサした毛に覆われた人間は日本刀のような刀がそれぞれ握られていた。どうやら、彼らの武器らしい。
モララー・ギコ・フサの三人は彼らの手中にある武器で、最後に残ったキーワードの謎がはっきりと分かった・・・。
「まさか、こいつらが・・・」
「四つの影・・か?」
そう・・・彼らの目の前に立つ自分そっくりの人物こそ、『四つの影』の正体なのだーー。
影の内の黄色いAA『モララー』は、笑いながら本物達に話しかけた。
「ハハッ! よく分かったな。俺達はお前等を基にして作られた影だ!」
「自分から名乗るとは、相当自信があるようだな・・・。しかし、果たして本物の俺達にはかなうかな?」
本物のモララーが言葉を返した直後、青・黄・茶の三人の手が突然、白い輝きに包まれた。三人の放つ強烈な光が、病院全体を明るく照らす・・・。
「!?」「ギコ君達の手が・・・光る?」
白い光が止んだ後、三人の手にはそれぞれ形や色の輝きが異なる武器が握られていた。
モララーの左手には、かつて管理AIだった頃の武器と同型の片刃の剣が現れた。ただしその輝きは『赤』ではなく、地球に広がる大洋と同じ『蒼』・・・。
ギコの手には、『アクアジャスティス』に光の力が加わった幻の両刃剣『ライトニングジャッジ』が握られていた。その透き通った輝きは、遙か昔に仮想空間を破壊した少年『擬古河 直人』が使用していた物と全く同じだ。
フサの右手には、地球の大地と海の光を具現化させた新しい武器『スプリームエッジ』が握られていた。その西洋風の両刃剣から発せられる赤と蒼の輝きは、力を解放したウルトラマンガイアそのものだ・・
「ヘェアッ!」「ぬっ・・・!」
三人は自分の手に現れた武器を正面へ構え直すと、縦に大きく振り下ろして突風を巻き起こす。その威力は、ロビーに置かれていた物が全て外へと吹き飛ばされる程だ。勿論、この一撃で影の三人も入口の外へと吹き飛ばされた。
普通、並の剣や刀を振り下ろしても大きな突風は巻き起こらない。この力は一体何処から出ているのだろうか・・・?
実は彼らがAAの姿になった直後、かつて愛用していた武器に自らの光の力が組み合わさり、大幅なパワーアップを果たしていたのだ。
ギコ達三人は、振り返りながら他のメンバー達に言った。
「先に行け! ここは俺達がくい止めておく!」「心配するな! 後で必ず会えるから!」「・・・分かった。頑張って!!」
しぃを始めとするメンバー達は頷くと、大きく口を開けた病院を抜けだし、ギコの家へ向かって駆け出していった。
ところが、そんな彼らの意見にただ一人耳を貸さない者がいた・・・。
「つー、何をやってんだ!? お前も逃げろ!」「でも、アタシだって・・・。」「いいから、早く行けっ!!」
他の二人が病院の外で戦っている中、彼女はフサが怒鳴ろうとも、一向にその場所から離れようとしなかった・・・
「バカかお前はっ! 何で逃げないんだよ!」「だって・・・。」
フサは敵影がいないことを確認すると、未だにロビーで立ちすくんでいるつーの肩を持ち、もの凄い剣幕で彼女を怒鳴りつけた。
「状況を考えろ! 今ここに居たら、お前も死ぬんだぞ!」「嫌だ! あたしだって管理AIだったから、戦えるんだ! あんたと一緒にあたしも・・・! うっ・・・。」「つー!?」
つーがフサの言葉に反抗した直後、突然彼女を吐き気が襲いかかり、床に膝を付いてしまう。フサは慌てて彼女の横にしゃがみ込むと、いたわるように背中をそっとさすった。
「しっかりしろ・・・大丈夫か?」「ゴメン・・・。結局あたしは、フサの足手まといなんだ・・・。あんたの力になろうと思っても、いつも・・・。」「つー・・・。」
つーは口を押さえながら、落ち込むような声で呟く。彼女はフサの妻として、何か一つでも役に立ちたかったのだ。
フサは彼女の肩に手を置きながら、彼女の呟きに言葉を返す。
「そんな事は無いよ。お前は、いつも後ろから俺の背中を押してくれてるだろ? それだけで十分だよ・・・。」「フサ・・・。」
「戦わなくて良い。俺はお前が無事でいてくれるだけで良いんだ・・・。だから、早く逃げろ。もうすぐ『お母さん』になるんだろ? 俺は、お前にここで死んで欲しくないんだ。」
彼の優しい説得に、つーはフサの方に顔を向ける。顔を向けた瞬間、今まで瞳にため込んでいた涙が溢れだし、赤い頬を伝い始めた。
「・・・フサ。」「ん?」「・・・約束、守りなさいよ・・・?」「分かってる・・・。必ず戻るからな!」
フサはそう言うと、丁度入口から入ろうとしていた自分の偽物に向かって走り込み、前へ剣を振り下ろす。
「彼処に居るのが、つーだな!」「悪いが俺の妻だ! お生憎様だなっ!」
フサはロビーに居る彼女を守るために、必死に剣を横へ縦へと踊らせる。偽物も全く同じリズムでフサに斬りかかっていった。
金属と金属のぶつかり合う甲高い音が、まるで一つの曲を作り出しているかのように響きわたる。勝負はタカラの時と同じく、ほぼ互角のようだ。
しかしフサは偽物の一瞬の隙をつき、腹部へアッパーを仕掛けて、瓦礫の山と化した正面玄関の広場へと弾き飛ばした。
「つー、今だ! ここから逃げろ!」
つーは涙をコートの袖で拭って頷くと、正面玄関から走り去っていった・・・
一方、一足早く逃げていたしぃ達は、アヒャ達の通う高校の校門の前でつーを待っていた。
「つーさん、大丈夫かな・・・。」
フサしぃは何時まで経っても来ないつーを心配していた。彼女の場合自分の家族を失っていることから、こういう事には人一倍敏感なのだ。心配する彼女に、のーが優しく声をかける。
「フサしぃちゃん。つーはんの事は心配いらへんよ。あの人はタフやから、きっとすぐに追いつく筈や。」「うん・・・。」
彼女の説得に、フサしぃは若干気落ちした声で返事をした。
ちなみに、そんなのーの横にも浮かない表情をした人物が立っている。
「アヒャはん・・・? どないしたんや?」「ああ・・・。」
彼女の横でアヒャは、病院の方角を向きながら複雑な表情を浮かべていた。ここに着いた時から今まで、ずっと同じ表情だ。
「何かあったん・・・?」「いや、そうじゃないんだ・・・。ただ病院から出る時に、ギコさんからテレパシーで言われた事が何となく気になったんだ・・・。」「テレパシーで・・・? なんて言われたんや?」
「『ゼロ。栄香を・・・娘を頼んだぞ。』って。変だろ? 今までのギコさんから考えたら、こんな事言う筈ねぇもん。」「うーん・・・。」
のーはギコの言葉から分かることを、首を捻りながら探し出す。しかしどう考えても、答えは結局のところ一つしか見つからなかった。
「・・・うちには、ギコはんがあんたにエーちゃんを託したんやと思うんや。・・・って言うか、どう考えたってそれしか思い浮かばへんよ。第一、ギコはんはアヒャはんとエーちゃんの関係をよく知っとるし、尚更だと思うんやけど?」
「そっかなぁ・・・。」「しっかりせぇや。エーちゃんの恋人がそんなんでええの?」「よ、余計なお世話だっ!」
アヒャは顔を赤くしながらそっぽを向く。と、その時・・・
「しぃちゃん・・・みん・・な・・・。」「! つーちゃんっ!?」
後から遅れてきたつーが、千鳥足でしぃの元に辿り着いた。走ってくる間に再び吐き気と目眩が襲い、ずっと千鳥足でここまで来たのだ。
彼女は出迎えたぎゃしゃに、まるで力尽きるようにもたれ掛かる。彼女の荒い呼吸が、ぎゃしゃの肩に生暖かい空気として通り抜けていった。
「つーさん、しっかり!」「大丈夫モナか?」「ごめん・・ね・・・。遅れちゃ・・って・・・。」「無理に追いつかなくても・・・。お腹に赤ちゃんがいるんだから、走っちゃ駄目だよ・・・。」「ご・・めん・・。」
つーはぎゃしゃの肩の中で、苦しそうに返答する。体に予想以上の負担が掛かったため、回復にはかなりの時間が必要だ。
「私が肩を持って行きます。」「ぎゃしゃちゃん、大丈夫なの?」「僕が担いで行くモナよ。」「大丈夫です。こういうの慣れてますから。」
そう言うとぎゃしゃはつーの肩を持ち、立ち上がった。実は元々彼女は自衛隊に所属していたため、こういう事は既に経験済みなのだ。
彼女の支度が出来た後、彼らは再びギコの家に向かって歩こうとする。ところが・・・
「あら? 私のことを無視して行くつもり?」「!」
突然目の前の並木から、白い体をしたAAが飛び降りてきた。しぃと全く同じ身長で、頬にアスタリスクが付いている。そして口に浮かべる表情は、『微笑』・・・。言動と声色からして、女性のようだ。
彼女の突然な出現に、アヒャは睨みながら脇に装備していた『アヒャスラッガー』を構える。しかし、白いAAは落ち着いた声でこう言った。
「随分物騒な物を構えているじゃない。でも、其れで私に勝てるかしら?」「貴方は誰!?」「貴方が一番分かってるはずでしょ? 『しぃ』。」「えっ・・・? まさか・・・。」
そう。彼女の正体は、『しぃの影』だったのだ。
「目的は・・・何?」「勿論・・・」
「あなた達を抹殺する為よ。影の私たちが、真の存在になるためにね。」
彼女の理由を聞いた瞬間、フサしぃは体を震わせながらタカラの腕を引き寄せた。頭の中に、再びあのビジョンが蘇る・・・。
「フサしぃちゃん・・・?」「タカラ君・・ごめん・・・。やっぱり、私・・・怖いよ・・・。」
その時今まで何も変化がなかったしぃの手に突然、青い光が集合してきた・・・。
「・・・みんな、先に行って。」「えっ? 椎奈さん・・・?」「此処は私がくい止めるから、行ってて。」「・・・分かりました。」
ぎゃしゃ達はしぃの両手から全てを悟ると、再びギコの家に向かって歩きだそうとする。が、ある一人の少女がしぃの片腕にしがみつき、離れようとしなかった。
「ダメっ!!」「フサしぃちゃん!?」
フサしぃは抱き寄せた腕を必死に掴みながら、しぃに話しかける。
「しぃお母さん、約束してくれたよね? 私の側にずっと居てくれるって・・・。私、また離ればなれになるの、いや・・・。 離ればなれになったら、また死んじゃうの・・・嫌だよぉぉっ!」「しぃちゃん・・・。」
読者の皆様へ
新年明けましておめでとうございます。
このスレッドも立ってから早くも三ヶ月ほど経ちました。
これからも私の頭が続く限りPSPで書き続けていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします!
擬古河家・フサしぃ・アヒャからのメッセージ
(ギコ)「皆さん、新年明けまして・・・」
(全員)「おめでとうございます!!」
(しぃ)「私達の小説を読んで下さっている皆さん、本当に有り難うございます。」
(エー)「私やアヒャがメインとして描かれている小説第3弾も順調に進み、もうすぐクライマックスというところまで来ました!」
(アヒャ)「果たしてエーを救うことが出来るのか、そしてvsベリアル戦などまだまだ見所がありますので、俺達の活躍を見逃さないようにして下さいね!」
(タカラ)「また、本作のその後を描いた小説第四弾の制作も決定しました!」
(フサしぃ)「この作品では、本作で準主役の私とタカラ君をメインに描かれる予定です!」
(ギコ)「皆さん、これからも俺達の活躍するこの小説の応援、どうぞ・・・」
(全員)「よろしくお願いします!!!」
>>392の続き
しぃは自分の腕を掴んで泣きじゃくるフサしぃを見ると、しゃがみ込んで蒼く輝く両手をそのまま彼女の頭と左肩に乗せ、いつものように優しく言葉をかけた。
桃色の彼女の両手に輝く蒼い光は、まるで春の微風のように優しく、そして暖かくフサしぃを包み込んでいく・・・。
「しぃちゃん・・約束破って、ごめんね・・・。でもお母さんはここで、どうしても戦わなきゃいけないの・・・。」「嫌だ! 一緒に行こうよぉっ!」
「しぃちゃん、よく聞いて・・・。今は分からないかもしれないけど、人は自分の大切な人のために、命を張らなきゃいけない時もあるの・・・。」「ぐすっ・・そんなの、わがらないっ!! 一緒にいたいよぉっ!」
「大丈夫・・・。また、すぐに会えるから・・。」
しぃは彼女の頭を撫でながら、今度はタカラを呼んだ。
「タカラ。しぃちゃんをお願いね・・・。私がいない間、しぃちゃんの事を守ってあげて。」「お母さん・・・。」
彼女の発言に、タカラは不安な表情を浮かべた。自分の事だけじゃなく、しぃの事も心配だったからだ。
「怖がっちゃダメよ。貴方はフサしぃちゃんのヒーローでしょ? 私は大丈夫だから、早く行きなさい!」「・・うん!」
「しぃちゃん、行くよ!」「やだ! 離して!! いやぁっ! ・・・お母さぁぁぁんっ!!」
タカラは大きく頷くと、フサしぃの腕を掴んで強引にギコの家に向かって走っていった。
「・・・お別れは済んだかしら?」「ええ。・・・何時でもどうぞ?」
しぃは影の自分と向き合うと、自分の両手に発生させていた蒼い光を頭上に持ち上げ・・・
管理AI当時の武器『ルナ・アロー』を出現させたーー。
影も全く同じ動作で同型の武器を出現させる。しかし、その輝きはしぃの持つオリジナルと正反対に、紫色にかつ冷たく怪しげな光を放っていた・・・。
両者は同時に弓矢を構え、視線を互いに合わせた。彼女達の間を、勝負の開始を告げるかのように冷たい風が吹き抜けていく・・・。
「手加減はしないわよ・・・。」「ふふふっ・・・。」
影の冷たい笑いが、辺りを吹きつける風を沈めた次の瞬間・・・。
「エイッ!」「ハッ!!」
二人の弓矢が同時に放たれ、ついに彼女達の戦いが幕を開けたーー。
二人が放った矢はそれぞれ全く同じ放物線を描くと、二人がいる場所の丁度真ん中でぶつかり合い、凄まじい衝撃波を伴って爆砕する。
衝撃波はまるで一輪の花を咲かせるかのように広がり、切れ味の鋭い刃物のように周辺の並木や高校の校門まで二つに切り裂いていった。弓矢とは思えない破壊力を持つが、これでも管理AIの武器では弱い方なのだ。
しぃは衝撃波を飛び越えて学校のグラウンドに着地する。同時に偽物のしぃもグラウンドに降り立った。
「なかなかやるわね・・・。」「まだまだ、これからよ!」
しぃは再び彼女に向かって『ストレートショット』放つ。しかし、偽物のしぃはデータ特有の身体能力で空へと跳躍し、ストレートショットをあっさりと避けかわしてしまった。
しかし、しぃは其れも計算に含んでいた・・・。彼女は空へと跳躍した偽物のしぃに狙いを定めると、無防備な彼女に向けて矢を三度放った。無防備な空中ならば、避けることもできない筈だ。ところが・・・
「考えが甘い!」「え・・・っ?」
彼女は空中で体勢を変えると、しぃの放った矢に向かって一回り大きい矢を放ち、蒼い矢を粉々に破壊してしまったのだ。
しかし、彼女が驚いたのは其れだけではなかった・・・
なんとしぃの矢を破壊した衝撃で、偽しぃの放った矢が四つに分裂したのだ!
四つに分裂した矢は速度を緩めるどころか、さらにスピードを上げてしぃの近くに着弾した・・・。
「きゃあああっ!!」
爆音と共に凄まじい砂埃が舞い上がる・・・。偽物のしぃは何事もなく校庭に着地すると、顔に冷たい笑顔を浮かべながら砂埃の舞い上がる方向を見た。
「あら・・・? もう死んじゃったのかしら?」
彼女は冷ややかな声で砂埃に問いかけるが、何も反応がない・・・。本当にしぃは死んでしまったのだろうか・・・? と、その時・・・
「『デラシウム光流』!!」「!?」
砂塵の中から青い光線技が驚異的な速さで飛び出し、不意を突かれた偽しぃに直撃して、大きな爆風と砂塵を伴って爆裂する・・・。
「ハァ・・ハァ・・。」
その爆風で先程の砂塵が吹き飛ばされると、中から本物のしぃの姿が現れた。あの爆発と衝撃波の中をどうにか避けられ、彼女は命拾いをしたのだ。正に九死に一生である。しかし・・・
「うっ・・痛・・い・・・。」
彼女は死ぬことはなかったが、衝撃波を足に喰らい傷を負っていた・・・。
臑や膝からは赤い血液が大量に流出しており、立つのがやっとのぐらいだ。
先程しぃが放った『デラシウム光流』はウルトラマンティガの技だが、かつてヤプールにNIGHTMARE CITYへ連れ去られた時に、AAの姿でも使えるようになったのだ。
「やった・・かな・・・?」
しぃは自分の右臑と左膝を気にしながら、偽しぃが先程まで立っていた砂埃の上がっている場所を眺める。果たして彼女は倒せたのだろうか・・・。
ところが・・・砂塵が消えていく内に、しぃの顔には驚きと焦りの表情が浮かんでいった・・・。
「随分と・・やってくれるじゃない・・・。」「!! そんな・・・嘘でしょ・・・?」
しぃの目の前にいた光景・・・それは、先程彼女が放った光線技を受けても平然と立っている偽しぃの姿だった。それも『一人』ではなく、『大勢』・・・。夥しいほどの偽しぃが、校庭の半分を埋め尽くしていた。
周りを取り囲む偽しぃの数に圧倒されるしぃ。その時、背後から一人の偽しぃが彼女の口を手で覆いながら話した。
「っ!?」「言い忘れてたけど、私には『バルタン星人』の能力も組み込まれてるの。だから自分の姿を自由に増やすことも出来るのよ。」
そう・・・。恐ろしい事に、彼女は『ウルトラマンの最大の宿敵』の力も使うことが出来るのだ・・
しぃは口を押さえ込んでいる偽しぃに肘打ちを仕掛けようとする。が、肘打ちを仕掛けた瞬間に彼女は煙のように姿を消してしまった・・・。ブンッと空気の手ごたえのない感触がしぃを襲う。
「今度は、私の番よ。」「えっ・・・?」
しぃが慌てて前へと向き直すと・・・目の前には既にストレートパンチを放とうと構えている偽しぃの姿があった。
「う゛っ!!」
彼女は一瞬の不意を突かれて腹部にストレートを喰らい、高校のグラウンドの端へと弾き飛ばされる。さらに、飛んでいった方向にもう一人の分身が構えて、飛んできたしぃを今度は後方回し蹴りで飛んできた方向へと蹴り返す。
偽しぃはこの分身を使った攻撃方法を繰り返しながらしぃにダメージを与え、着実に彼女を追い込んでいった・・・。
数分後・・・
顎に必殺のアッパーを喰らい、しぃはまるで人形のように揉みくちゃにされて地面に崩れ込んだ。
抵抗する術もなくボロボロとなった身体は戦う前と遙かに違い、傷や痣で埋め尽くされていた。どこの傷からでも血が流れ出しており、彼女の美しい桃色の肌は赤や紫に染まり上がって、もはや見るかげもない・・・。
「うっ・・うぅ・・・。」「もう終わりなの? 弱いわね・・・。」
校庭の中心に倒れているしぃを、周りを多い尽くすまでに大勢に分身した偽しぃが取り囲んで見下ろしている・・・。
「何か言い残すことは?」「私はまだ・・・諦め・・ない・・・っ!」「随分と強情ね。でも、その身体でなにが出来るのかしら?」
しぃは再び立ち上がろうと腕を奮い立たせる。しかし、全身を走る激痛がそれを拒み、再び地面に伏せてしまう・・・。体自体が、彼女に強要していたのだーー『もう戦うな。よくやった。』と。
刹那、周りにいる偽しぃ全員が弓矢を構え、しぃに狙いを定めた。弦のきしむ音が高校全体に響きわたる・・・。
「止めを刺させてもらうわ。さようなら、『しぃ』。」
そう偽しぃの一人が告げた直後、彼女の周りにいた偽しぃ全員が、校庭中央へ向けて矢を放った。
矢がこちらに向かってくる間、しぃは頭の中で無念そうに呟いた・・・。
(みんな、ごめんね・・・。せめて・・私にも光の力があれば・・・良かったのに・・・。)
彼女は自分の死を確信し、諦めるように目を閉じる。閉じた瞬間、今まで瞳に溜まっていた涙が頬に一筋の線として流れ落ちていった・・・。
と、次の瞬間・・・
「! あれは・・・何?」
空から突然、『赤い光球』が途轍もないスピードで飛来し、偽しぃ達が放った矢を全て破壊する。さらに、そのまま校庭の中央に停止し、そこで倒れていた痣だらけの猫ーーしぃを包み込んだ。
目映い太陽のような光が、偽しぃの視界を奪っていく・・・。
「しぃ、目を覚ませ! しっかりしろ!!」「・・誰・・・?」
しぃは赤い球体の中で、誰かにお姫様抱きをされた状態でうっすらと目を開ける。聞き覚えのある、優しい声につられて・・・。
うっすらと瞼を開けたが、ピントがぼやけて誰なのかよく分からない。しかし、背中と膝から全体に感じるこの優しい温もりは、いつもと変わらない。
「・・・ウルトラ・・マン・・・?」「遅くなって悪かった・・・。今からお前の偽物を倒してやるからな!」
刹那、赤い光球から銀色の光が飛び出し、中から銀色の巨人が姿を現した。
銀色に、胸や足腰などに赤いラインが入っているその筋肉質な体の胸には、球型のカラータイマーが青い輝きを放っている。そしてその彼の両腕に抱えている人物は、しぃだ。
彼は腕の中で気を失っているしぃを地面に寝かせると、銀色の目をギラリと偽しぃの方へと向けた・・・。
「お前が・・・しぃを殺そうとしたんだな・・・?」「! 貴方は誰!?」
「俺の名前は・・『ウルトラマン』・・・。椎奈の夫で、栄香の父親だ!」
「何で・・・偽ギコに、負けているはずなのに・・・。」「悪いが、お前等のその甘ったれた考えには乗らない主義でなっ!」
彼の発言に驚きの声を上げる偽しぃ達。彼は怒りを込めた声でさらに言葉を繋げた。
「今この場で・・・お前等全員抹殺する!!」「そうはさせないわよ!」
分身した偽しぃ達は、今度はウルトラマンに向けて矢を一斉に放つ。が、ウルトラマンは体をその場で高速回転させ、偽しぃ達の放った矢を全て弾き返した。
高速回転によって弾き返された矢は綺麗な放物線を描き、放った本人達へ命中。分身を次々に葬り去っていった。
大量に出現させた分身をあっという間に消され、偽しぃはただ呆然と立ち尽くすだけだった。
「!!」「残るは、お前だけだ!」「・・・ふざけないでっ!」
偽しぃは再び弓矢を構え、しぃの矢を打ち消した必殺技『トリック・ストレートショット』を放つ。しかし彼はあっさりと空中へ飛翔して一回転すると、偽しぃを狙って急降下し、帰マンと同じ『流星キック』を彼女に向けて放った。
「デァァッ!!」「きゃあぁっ!」
流星キックの威力に押され、偽しぃは放物線を描いて地面へ叩きつけられた。
「往生際の悪い奴だな・・・。」「うるさいっ!」
偽しぃは再び起きあがると、しぃが放った物と同じ『デラシウム光流』をウルトラマンに向けて放つ。ところが・・・。
「ヘッ!」「!?」
彼はカラータイマーの両脇に手を添えると、偽しぃの放った光線を吸収し、自分のエネルギーに変換してしまった。以前、仮想空間でゴルザとたたかった時と全く同じ技だ。
ウルトラマンは吸収したエネルギーを自分の両腕に集中させながら、偽しぃに静かに話しかける。声の中には、彼女に対する憎悪の色も混じっていた・・・。
「お前は、しぃの受けた痛みを知ってるのか・・・? しぃは、大切な仲間を守ろうとして自分の身を犠牲にしても戦ったんだ! そんな彼奴の思いを踏みにじったお前を、俺は絶対許さない!!」
刹那、彼はエネルギーが溜まって青く輝いている両腕を『十字』ではなく『L字』に組むと・・・
「これで・・・消え失せろっ!! ディアァァァァァァァァ!!!」「いやぁぁぁぁぁっ!!」
彼の最大の必殺技『ワイド・スペシウム光線』を偽しぃに向けて放ったーー。
彼の光線技をまともに受けた偽しぃは、激しい衝撃波を巻き起こしながら消え去り、再びデータの彼方へと散っていった・・・。
カラータイマーを赤く点滅させたウルトラマンは、ギコの姿に戻りながらしぃの元へと駆け寄る。
「しぃ・・・? しぃ! 目を開けろっ! しぃ!!」「・・・ギコ・・君・・・。」
仰向けに倒れて気を失っていたしぃはギコの声に再びうっすらと目を開き、弱々しい声で彼に答えた。消耗しきった体では、小鳥の鳴き声ほどの声しか出せない・・・。
「また・・・私を救ってくれたね・・・。無事で・・嬉しかったよ・・・。」「ごめんな、しぃ・・・。君を二度と危ない目に遭わせないって決めてたのに、俺は・・・っ!」
「もう、気にしないで・・・。私は・・大丈夫だから・・・。他のみんなは、どうしたの・・・?」「先に行ってるよ。でも、フサは肩を複雑骨折してるようだ・・・。俺達も行かなきゃ。」「うん・・・。」
ギコは傷だらけで動けないしぃを腕に抱くと、先に行った仲間達の後を追うべく並木道を駆け抜けていった・・・。
一方、先を行っていたアヒャ達は、ギコの家に一足早く辿り着いていた。
家に着いたところで、彼らは未だ行方不明のエーを近辺で探すことにした。妊娠中のつーは動いたら大変と言うことで、ぎゃしゃと共に家で他のメンバーの到着を待っている。
「エー! 居るなら返事しろぉっ!」「見当たらへんなぁ・・・。」
アヒャは声を張り上げながら必死に捜索する。しかし、先程から探していても全く手がかりが掴めていない。一体、彼女は今何処をさまよっているのだろうか・・・。
「居ないね・・・。」「・・・。」
タカラはフサしぃに声をかけるが、彼女は暗い表情で俯いたまま、何も答えを返さない。二人がしぃの下を去ってから、ずっとこうなのだ。
彼は強引に彼女を連れ去ってしまったことを後悔していた・・・。せめて、もう少しフサしぃを説得していればこんな事にはならなかったはずだからだ。
並木道を歩きながら、今度はモナーがアヒャに話しかけた。
「手がかりは見つかりそうモナか?」「いや・・・。でも、諦めないで探します。」「了解モナ。慌てないで、ゆっくり探そう。」「はい。」
彼らは手がかりを掴むために、前にエーに案内してもらった『石碑の丘』に向かって歩いていった。
数分後・・・
彼らは丘の入口に来たところで、今度は二手に分かれて捜索することになった。集団で一つの場所に行くよりは、効率がいい。
アヒャ・のーの二人は丘の中を、それ以外のメンバーは丘の近辺の町でそれぞれ捜索を続ける。
彼は丘の頂上に立ち、丘の周りを囲む小規模の林を眺める・・・。どこか不安な表情を浮かべながら林を眺めるアヒャに、のーは心配して声をかけた。
「アヒャはん・・・大丈夫?」「ん? あぁ、俺は大丈夫だ。ただ・・・もし彼奴が見つからなかったら、どうすればいいのかなって考えちゃってな・・・。」
彼にあまり見られないネガティブな発言に、のーはさらに心配な表情を顔に色濃く映し出す。今日、アヒャは自分と会ってからずっとネガティブだ。いつもの元気な彼は、何処に行ってしまったのだろうか・・・? そんな事を考えながら、彼女はじっと彼の顔を見つめていた。
「・・・な、何だよっ! 俺の顔をじっと見て!」「やっぱり、今日のあんたは何か違う・・・。隠し事してるやろ? 黙ってないで、白状せいや!」「! お、俺は別にk・・・!!」
その時、突然アヒャの目が何かを感じたように大きく見開かれた・・・。
「・・どないしたん・・・?」「・・・殺気を感じる・・・。しかも、この近くで・・・!」「えっ?」
アヒャは鋭い目つきになると、視線を木の上に定めて腰に装備していた『アヒャスラッガー』を投げ飛ばす。すると・・・
「きゃっ!」「!!」
木の太い枝から、突然黒いフードを被った女性が飛び降りてきた。コートの影から見える桃色の肌で、性別は何となく分かる。
「この人、誰なんや!?」「さぁな! お前は下がってろ!」
黒いフードを着た人物は、両手を握り拳に変えて彼らに素早く襲いかかった。アヒャは両手にアヒャスラッガーを構え、彼女に対抗する。一ヶ月の訓練の成果を発揮する刻が遂に来たのだ。
しかし・・・黒いフードの人物が織りなす格闘技は曲芸的で、パワー、スピードのどれを取ってもピカイチ。彼は攻撃するどころか、相手に攻め立てられていた。それだけではない。自分の体が、彼女への攻撃を拒んでいたのだ・・・。
(あのピンク色の肌は、まさか・・・。)
アヒャは人物の攻撃を避けて後ろに回ると、隙を見てフードの首元をアヒャスラッガーで斬り裂く。直後、彼は相手の後ろ回し蹴りを腹に喰らい、のーの居るところまで吹き飛ばされた・・・。
「ぐぁっ!」「アヒャはん、大丈夫!?」
全身を強く打った彼を案じて、のーが駆け込んできた。しかしアヒャはそんな彼女の心配を余所に、じっとフードの人物に視線を合わせていた。
頭に被っていたフードが斬り裂かれ、まるで紙のようにゆっくりと地面に落ちていく・・・。
そして、彼らは驚きの現実を目の当たりにしたーー。
しぃと同じ鮮やかな桃色の肌で、両耳の真ん中に赤いラインが一対・・・そして、ギコから受け継いだ「緑色の瞳」・・・。
彼らが探していた「愛する者」が今、目の前に立って自分達を見下ろしているーー。
「・・・エー!?」「エーちゃん!」
フードの人物の正体は、『植物状態』から奇跡的に復活したアヒャの恋人『エー』だった・・・。
「エーちゃん、無事やったんやな! 何で逃げ出したん・・・うちら、凄く心配したんやで・・・?」
ようやく見つけだした自分の親友に、のーは喜びと心配な声を上げながら近づく。・・・ところが・・・その親友から、思いもかけない反応が返ってきた・・・。
「あなた・・誰・・・? 慣れ慣れしく話しかけないで。」「・・・え・・・っ・・・?」
信じられない答えに、激しく動揺するのー。エーは動揺する彼女の横をすり抜けると、奥で地面に座り込んでこちらを見ているアヒャの前に立った。
よく見ると、彼女の特徴である『透き通った緑色の瞳』が、死んだように輝きを失って淀んだ緑色に染まっている。そして、その表情もいつものような優しい笑顔ではなく、とても暗くて冷たい無表情・・・。
恋人のアヒャはまるでエーであってエーではない、別の人物を見ているような錯覚に陥った。
「エー・・・。何でお前が・・・。」「相沢珀作・・・。」
「貴方をここで、抹殺する。」「!?」
エーは同じトーンの声でそう言うと、フードのポケットから『スパークレンス』を取り出す。きっとあの夢のように、ティガに変身して自分達を殺すつもりなのだろう・・・。
しかしその色は、前に彼女に見せてもらったものとは違い、全く正反対の色をしていた・・・。
「スパークレンスが・・・黒い・・・?」
その黒く染まったスパークレンスーー『ブラックスパークレンス』は、ティガが闇の巨人だった頃に使っていたもの。つまりこれは、今の彼女が『光』ではなく、『闇』の存在と化してしまったという事を意味しているのだーー。
アヒャはエーの持つ黒いスパークレンスを見ると、口元に若干微笑を浮かべながら呟いた。
「・・・やってみろよ。」「?」「八つ裂きにするなり、踏みつぶすなり好きにしろよ。でもよ・・・今のお前に、俺を殺せるのか・・・?」「随分強情ね。でも、私をそんなに甘く見ない方が良いわよ。」
エーは相変わらずのトーンで言葉を繋ぐ。が、アヒャは彼女の言葉に何故か鼻で笑った・・・。
「何がおかしいの?」「だってよぉ・・・。」
「お前、そんなに震えた手で本当に俺を殺せるのか?」
「えっ・・・?」
彼の言う通りに、エーは自分の右手を見てみる。すると・・・
ブラックスパークレンスを持つ自分の手が、まるで変身を拒むかのように小刻みに震えていたーー。
「どうして・・・?」「その反応が、本当は俺を殺したくないって言う証拠なんだ!」
エーは若干驚いたような表情を顔に張り付け、彼の方を向く。アヒャは微笑を止めて、真剣な表情で彼女を見つめた。
「エー・・・。お前が誰に操られているのか、どうやって闇の力が解放されたのかは知らねぇ。でも、忘れないでくれ・・・。家族や俺達の事・・それに、『本当の自分』を・・・!!」「・・・。」「アヒャはん・・・。」
「思い出せよ! 本当のお前は、こんな事しねぇだろ!?」「せや! 優しいエーちゃんが、闇に染まったらあかんで!!」
闇に染まったエーを元に戻そうと、精一杯説得する二人。が、しかし・・・
「うるさい!」「っ!」「!!」
エーはまるで彼らの説得を振り切るかのように、アヒャの腹に強烈な蹴りを入れた。蹴りを入れられた衝撃で、アヒャの腰から二つ有る『アヒャスラッガー』の内一つがエーの足元に落ちる。
彼はまるでサッカーボールのような放物線を描くと、丘の斜面に再び体を強く打ちつける。ダメージを受けた証拠に、開いた口から少量の血が吐き出された。
「がぁっ! くっ・・・。」「さっきから聞いていれば好き放題言って・・・!」
彼女は蹴り飛ばしたアヒャへ一歩ずつ近づいていく・・・。そこへ、走ってきたのーが二人の間に立ち塞がった。
「エーちゃん、何て事をするんやっ!」「・・・どいて。」「どかへん! あんたがアヒャはんを殺すなら、うちが護るで!」「なら・・・力ずくでどいてもらうわよ。」
エーは左手に、自分の足元に落ちていた『アヒャスラッガー』を装備した。
「な、何をするんや・・・?」「丁度、このナイフの切れ味を見たかったのよね・・・。」
「切れ味って・・まさか・・・。」「ふふふっ・・・。」
エーは口に冷たい微笑を浮かべると、左手のアヒャスラッガーを握りしめてのーに一歩ずつ近づいていく・・・。逆に彼女の前に立っていたのーは、全身に悪寒を感じつつも一歩ずつ後退していった。
彼女は頭の中で混乱しながら、一つの結論を出していたーーエーはアヒャスラッガーを使って、自分を斬り殺そうとしているのだと。
後退していく毎に恐怖感が除々に増し、十歩程歩いたところで足がもつれて、丘の斜面に尻餅を付いてしまった。腰が抜けて、立つことも出来ない・・・。
「エーちゃん、やめて・・・そんな事したら・・・。」
言葉でなお止めようとするのーに、エーは冷ややかな声で返答する。
「大丈夫。すぐに楽にしてあげるから・・・。」「い・・やっ・・・。」
彼女はそう言った直後、今まで左手に握っていたアヒャスラッガーを頭上に振り上げ・・・
「・・・さよなら。」「あ・・・っ!」
頭が真っ白になっているのーに向かって、彼女は思いっきりアヒャスラッガーを振り下ろす。振り下ろされる刃の風音に、のーはただ必死に目を瞑るだけだった・・・。
自分とエーの間に、『誰か』が滑り込んで来た事も知らずにーー。
次の瞬間・・・血肉を引き裂く生々しい音と共に、何故か金属がぶつかり合う甲高い音色がのーの耳に響いた。
アヒャは余程斬れ味をよく作っていたのだろうか、今の彼女には斬られているのにも関わらず、全く痛みを感じない。が、前に開かれている悲惨な光景が恐ろしくて、その目を開く勇気がなかった。
その時・・・突然、彼女の耳にエーではない『別の誰か』の声が聞こえた。声の中には、荒い呼吸の音も聞こえる・・・。
「無茶・・してんじゃねぇよ・・・。」「・・え・・っ・・・?」
聞き覚えのある声に導かれ、のーは堅く瞑っていた目をゆっくりと開き、自分の前方に視線を合わせる。すると・・・
のーと同じ猫の体をした『赤と青の少年』ーーアヒャが、動けずに固まっていた自分をかばうように立っていた。
「だ・・大丈夫か・・・?」「アヒャはん・・・?」
彼は後ろに振り向き、のーの無事を確認する。しかし、彼の額には季節と似合わない無数の汗が吹き出ていた。そればかりか、話している言語が何処かおかしい・・・。
のーはまさかと思い、ゆっくりと彼の腰へ視線を落としていく。そこには・・・
彼の脇腹に、エーが振り下ろした『刃』が無惨にも深く突き刺さっていたーー。
「アヒャはん・・それは・・・。」「えっ?」
アヒャは彼女の青ざめた表情に、思わず自分の右脇腹を見ようとする。しかし次の瞬間、エーはその右脇腹に刺さっていた刃を引き抜き、彼の傷口から夥しい量の赤黒い血液が吹き出てしまった。
「ごはっ・・・。」「アヒャはんっ!!!!」
刃を引き抜かれた彼は、大量の血液が吹き出している右脇腹を左手で覆い、荒い呼吸をしながら片膝を地面に付いた。荒い呼吸と共に口から出る物は、脇腹から逆流してきた血液だ。
のーは、荒い呼吸が耐えない彼の背中を支えた。
「大丈夫!? しっかりしてっ!!」「あれ・・・? 可笑しいな・・ガードした筈なのに・・・。」
よく見ると刺されている右脇腹の側には、彼の持つアヒャスラッガーの一つが落ちている。彼は自分の身を守りながら、のーの身も護ろうとしていたのだ。
アヒャは脇腹を押さえながら、血塗れのアヒャスラッガーを持つエーに話しかける。彼女は未だに冷笑を顔に浮かべてこちらを見ていた。
「あら? 倒れると思ったのに、まだ立ち上がる元気があるのね。」「エー・・・親友を殺そうとするなんて、良い度胸してるな・・・。」
彼は前にのーに見せた怒りの表情で、エーを睨んだ・・・。
アヒャは苦しそうに脇腹を抱えながら、怒りの形相で言葉を繋げる。
「いくら闇の力に操られてるからって・・今のは絶対に許さねぇぞ・・・!!」「操られてる? いいえ。これは私の・・・」「いや、違う! 本当のお前は、こんな事を望んじゃいねぇだろ!!」
彼がそう言った瞬間、エーの顔から冷笑が消えて、逆につまらなそうな表情へと変わった。
そんな事を余所に、アヒャはさらに言葉を繋げる。
「そんなに俺を倒したいなら・・・」
「エー。変身して、俺と戦え。」
「えぇっ!?」
彼の発言に動揺を隠せないのー。しかし、エーの反応は違った。
「ふふっ・・・良い度胸ね。分かったわ。でも、その怪我でまともに戦えるの?」「俺の身なんてどうだって良い・・・。ただ俺は、お前の光が戻ればそれで良いんだ。」
エーは彼の言葉に返答せず、フードジャケットの右ポケットに隠していたブラックスパークレンスを取り出した。アヒャもウルトラアイを取り出すために、胸ポケットに手を伸ばそうとする。と、その時・・・
「ぶっ!?」
彼の右頬に走る、一ヶ月前と同じ張り付けるような痛み・・・それは、今まで彼の背中を支えていたのーが、彼の左頬を思いっきり叩いた瞬間だった。
叩かれた衝撃で脇腹からこぼれ落ちる、赤黒い血液・・・。のーは厳しい表情でアヒャを怒鳴りつけた。
「のー・・・。」「バカ! 何でそうやって自分を切り捨てようとするん!? そんなに死にたいんか!」「・・・。」
のーは厳しい表情から今度は悲しそうな顔色を浮かべ、無言のアヒャをさらに説得する。
「もし戦って死んだりしたら・・・悲しむのはうちらだけやない。元に戻ったエーちゃんは、どないすればいいんや・・・? あんたが居なきゃ、あの子はずっと一人やで・・・。」「分かってるさ・・・。」
のーが説得している途中で、アヒャが小さく呟く。
「俺が死んだら、みんなが悲しむのは分かってる・・・。でも、それでも俺は彼奴を救いたいんだ・・・。何時までも、彼奴には笑っていて欲しいから・・・。だから救うには、変身して戦うしかない・・・。それが例え・・・」
「例え『俺が死ぬ』って分かっていても、な・・・。」
「えっ・・・?」「ここで待ってろよ。すぐに戻る・・・。」
アヒャは彼女に意味深な言葉を残すと、胸ポケットからウルトラアイを取り出し・・・
「ジュワッ!」
自分の瞳に翳して、本来の姿である『ウルトラマンゼロ』へと変身した・・・。
変身した直後に、再び脇腹を苦しそうに抱えるゼロ。変身した体には傷自体はないものの、痛みは変わることがない。その分、光の力の消耗は早くなる・・・。決着を急がなければならない。
その直後、向かい側に紫色の閃光と共に闇の巨人ーー『ティガダーク』が姿を現した。銀色と黒の体表に、紫色に輝く瞳はあの夢と同じだ。
ゼロは今まで抱えていた右脇腹から手を離すと、ティガと同時に走り込んでいった・・・。
「チャッ!!」「ジュアッ!」
ぶつかり合う両者の拳と拳・・・。光と闇の望まぬ戦いが幕を開けたーー。
ゼロはティガの攻撃を避けながら、ひたすらカウンター蹴りを仕掛けていく。脇腹の怪我が響き、今の彼にはカウンターの蹴り技と、一撃必殺の光線技しか出せない状況だ。
さらに、ティガのスピードが本来のマルチタイプよりも速く、パワータイプ並の怪力で攻撃してくるため、なかなか隙が見つからず反撃ができない・・・。
「ショアッ!」「グゥァッ・・・!」
膝蹴りを腹部に喰らい、地面にダウンするゼロ・・・。ティガは彼を上から見下ろすように言葉を吐き出した。
「さっきまでの元気は何処に行ったのかしら?」「くっ・・・!」
ゼロは脇腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。右脇腹に直接攻撃は喰らわなかったものの、喰らった衝撃で右脇腹に激しい痛みが襲ったのだ。
「闇のお前は・・・さっさと引っ込んでろ!!」
彼は空いた右腕を使い、渾身のストレートを放とうとする。が・・・
「遅いっ!」「!?」
ティガは彼のパンチを避け、その勢いを利用して一本背負いを仕掛けた。
ゼロは自分の体重を掛けたパンチを利用され、全身を強く打ちつけた。その衝撃で右脇腹から走る激痛・・・。
「うあぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」「アヒャはんっ!」
痛みのあまり、大きな悲鳴を上げるゼロ・・・同時に今まで青だったカラータイマーが赤へと変わり、点滅を開始してしまった。
彼の悲鳴に、木の陰に隠れていたのーが身を案じて駆け寄る。
「アヒャはん! 無茶したらあかん!!」「のー・・・そんなとこに居たら・・潰されるぞ・・・。早く・・どいてな・・・。」「でも・・・」「でもじゃねぇ! 死にてぇのか!! いいから・・下がってろ・・・!」
ゼロはそう言うと、荒い呼吸のままゆっくりと立ち上がろうとする。しかし激しい目眩が彼の視覚を遮り、膝を地面に付いたままなかなか立つことが出来なかった・・・
彼の脇腹からは、赤黒い血液ではなく金色の光が漏れている・・・。このまま光が漏れ続けていると、彼自身が光となって消えてしまうのだ。
ゼロは膝を付いたままふらつく頭を横に向け、ティガを見てみる。すると・・・
そこには腕を前で交差し、エネルギーを溜め込んでいるティガの姿があった。間違いない・・・ゼロへ向けて『ゼペリオン光線』を放ち、止めを刺そうとしているーー。
「く・・そ・・・。」「やだ・・やめて・・・!」
ティガはエネルギーを溜めた両腕を広げると・・・
未だに立てないでいるゼロに向かい、『ダークゼペリオン光線』を放った・・・。
「くっ・・・。」「やめてぇぇぇっ!」
バリアを張る余裕もなく、ゼロはただ腕を顔の前に交差することしかできなかった。このままでは、自分に光線技が直撃してしまう。しかし、それでも今の彼にはこれが精一杯だった。成す術はもう、何もない・・・。
と、その時・・・
「ジョアッ!」「タァッ!」「!」
ゼロへ光線が当たる直前、「青白い輝き」と「赤い輝き」を放つ二つの光の柱が彼の前へと降り注ぎ、中からそれぞれの色の巨人が姿を表したーー。
青い巨人はティガから放たれた光線を受け止めると、そのエネルギーを自分の光線技へと変えて彼のカラータイマーに向けて放つ。同時に、赤い巨人が両腕をL字に組んで、赤い光線技をティガのカラータイマーに向けて放った・・・。
予想外の事態に、ティガはカラータイマーに光線技が直撃し、後ろへと吹き飛ばされてしまった。
「ゼロさん!!」「相沢君! しっかりするモナ!!」「うっ・・・?」
ゼロはまさかと思い、視線を上げてみると・・・
「モナーさん・・・? タカラ・・・?」「酷い怪我・・・大丈夫ですか?」「遅くなって申し訳ないモナ・・・。」
そこには、瀕死な彼を援護するために現れた『ウルトラマンダイナ・ミラクルタイプ』と『ウルトラマンコスモス・コロナモード』の姿があった。
先程ティガに向けて放った光線技はそれぞれ、『レボリウムウェーブ』と『ネイバスター光線』だ。つまり今の攻撃で、ティガの持つ三つの力の内二つを注入させることに成功したのだ。
「三つの内の二つは、僕達がやっておいたモナ。次は君の番モナ!」「姉さんを・・・お願いします!」「分かっ・・た・・・。」
ゼロはコスモスの肩を借りながら、荒い呼吸のままゆっくりと立ち上がった・・
丁度その時、地上では家に集まっていたギコ達がのーに駆け寄ってきた。フサしぃも一緒だ。
「崎島!」「フサ先生・・・! その肩、大丈夫なん!?」「不意を付かれてな・・・。相沢はどうしたんだ?」「それが・・うちを護る為にエーちゃんの攻撃を受けはって、脇腹に大怪我をしながらも変身して戦ってるんや・・・。」
「えぇっ!?」
まさかの彼女の発言に、全員が驚きの声を上げた。
「じゃあ、相沢君の脇腹から漏れてる光って・・・。」
ぎゃしゃの質問に、隣にいたモララーが答える。
「人間で言う『血液』だ・・・。このままだと、恐らく彼奴も光になって消滅するぞ・・・。」「そんな・・・。」
吹き飛ばされたティガは、巻き上がる砂塵の中から体を起こし、ゼロ達三人を恨むように睨んだ。
体表はもう黒一色ではなく、『銀・紫・赤・黒』の四色だ。体表はほぼマルチタイプの色になっており、残りは頭部とプロテクターの黒と紫の目だけだ。
「何よ・・・! 私達の勝負に顔を突っ込まないでよっ!!」
怒りを露わにする彼に、コスモスは冷静に声を掛けた。
「姉ちゃん・・・。二人で戦いの練習をしてる時、『敵の力を使うことも大切』だって、教えてくれたよね?」「・・・?」
「僕は今、それを姉ちゃんに向けてやったの。覚えていないの?」「何・・言ってるの・・・?」
「思い出してよ! 姉ちゃんは・・訓練の時も、ずっと優しかったじゃないか! 本当の姉ちゃんは何処に行ったんだよぉっ!!」「うるさい!」
ティガはコスモスに向かって『ハンドスラッシュ』を放った・・・つもりだった。しかしどんなに構えても、指先から光線技が出ない。ティガの体が、光と闇の間の不完全な状態に置かれていたからだ。
「出ない・・・。何故?」「お前の体が、光になりかけているんだよ・・・。闇の巨人から、光の巨人にな。」
ティガは視線をゼロの方角へ変える。
「エー、思い出すんだ。お前は何時も笑顔で、誰に対しても優しかっただろ・・・? そんなお前が、俺は好きなんだ! だから頼む・・・光の姿に、戻ってきてくれ!」「・・・! うっ・・うぅ・・・。」
ゼロの想いを込めた一言に、突然ティガの様子が豹変した。頭を抱えて、どこか苦しそうに呻いている・・・。ティガの頭の中で光と闇の二つの意志が衝突し、激痛を生んでいたのだ。
その時、頭を抱えながらティガが苦しそうに言葉を発した・・・。
「ア・・ヒャ・・・君・・。」
「! ・・・エー!?」
目覚めた『光の意志』ーーエーの声に、ゼロは脇腹を抱えながら近寄ろうとする。しかし・・・
「来ちゃ・・ダメ・・・。このままだと・・・みんなを・・殺しちゃう・・・っ!」「!」
ティガは必死に彼を来させないように説得する。まだ完全に光は戻りきっていないのだ。
光の意志は、苦しみながら彼にある頼みを伝えた。
「お願い・・・アヒャの・・光線で・・・私を元に・・戻して・・・。」「でも其れをやったら、お前の体が・・・。」「時間がないの・・・! 早く・・打って・・・っ!!」
苦しみながら、必死に訴えるティガ・・・。アヒャは光線技を放とうとするが、自分の体が其れを拒んでいた。彼女の体が耐えきれずに、そのまま滅んでしまうのではないかと危惧していたのだ。
(俺は・・一体どうすればいいんだ・・・!)「アヒャ・・・。」「?」
彼が大きく戸惑っていたその時、再びティガの声がゼロの頭に響いた・・・。
「大丈夫・・・。私は・・アヒャを・・・信じてるから・・・。だから、お願い・・自分の力を・・・信じて!」
「エー・・・。」
エーが彼に対して言った言葉は、病室で言っていた物と似た『心からのエール』だったーー。
考えてみれば、ゼロは最近ずっと誰かに応援されっぱなしだった。『のー』からも、そしてエーの父親である『ギコ』からも・・・。
それでも、彼の心から『悩み』は抜けることがなかったーー『エー』をずっと護り続けることが出来るのかということが。
しかし、そんな弱気になっていた自分をいつも背中から押してくれていたのも、『彼女』だった。彼女の暖かい一言があったからこそ、自分はここまで強くなれたのだ。
今自分は、その恩返しをしなければならない時が来たのだ。今まで自分を応援してくれた、『エー』を元の姿へ戻す時がーー!
「分かった・・・。今、お前を元に戻してやるからな・・・!!」
意を決したゼロは、自分の頭に装着されているゼロスラッガーを二つともカラータイマーの横へ装着すると・・・。
「うぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!」
全ての力を注ぎ込み、必殺光線『ゼロツインシュート』を放ち、ティガのカラータイマーへ照射する。
全身のエネルギーを集中させているため、自分のカラータイマーの点滅速度が今までに例を見ない勢いで上がっていった・・・
「元に・・・戻れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
ティガの体とゼロの体に巻き起こる激しい閃光に、その場にいたコスモスやダイナ、他のNCメンバー達は目を瞑る・・・。
次の瞬間、ティガとゼロは轟音と爆風だけを残し、光となって姿を消した・・・。
数分後・・・
ティガから元の猫の姿に戻ったエーは、『石碑の丘』の斜面に横たわっていた。その側に居るのは、同じく変身を解除したアヒャだ。彼らは『消滅』したのではなく、エネルギーを爆裂させた直後に変身を解除しただけなのだ。
「エー・・・起きてくれ・・・。」
彼女は、暫く聞いていなかった愛する人物の声を耳にすると、今まで閉じていた瞼をうっすらと開き、その透き通った緑の瞳を輝かせた・・・。自分が一番会いたかった、『恋人』の姿がそこにいるーー。
「ア・・ヒャ・・・?」「エー・・・!」
彼女がうっすらと笑顔を見せると、彼は安心したような顔で笑ってみせた。しかし、何処か彼の様子がおかしい・・・。額にかく脂汗や、安心した表情の奥で見せる苦しそうな顔・・・そして、尋常じゃない程に荒い呼吸。
普通ではない彼の様子に、エーはすぐに心配そうな顔を見せた。
「どうしたの・・・?」
エーは彼の身を案じるように声を掛ける。しかし、ゼロはそんな事をまるで聞いていないように言葉を繋げた。瞳に、何故か涙を浮かべながら・・・。
「良かった・・・。お前が、元に・・・戻ってくれ・・て・・・。本当に・・良かっ・・・た・・・。」
次の瞬間アヒャは四つん這いの状態から、まるで魂が抜けたように彼女へ倒れ込んだ・・・。
突然のことに、顔を真っ赤にするエー。
「ちょっ・・アヒャ!?」
慌てて彼をどかそうと、アヒャの脇腹へ手を回す。
と、その時・・・肌の感触とは違う、何か生暖かい物に手が当たった・・・。感触からして何かの液体だ。何だろうと思った彼女は、おもむろに手を上げて確かめてみる。すると・・・
そこには綺麗な桃色をだったものが、何故か『真っ赤』に染まった自分の左手があったーー。
「え・・っ・・・? これってまさか・・血・・・?」
嫌な予感がしたエーは、アヒャの首元を触ってみる。
しかし・・・そこにはいつものような暖かい感触はなく、代わりに刺すような冷たい肌の感触しかなかった。そればかりか、先程までの荒い呼吸が嘘のように『止まって』いたーー。
「アヒャ・・どうしたの・・・? 返事してよ・・・! アヒャ、起きてよっ!! ねぇ、アヒャってばっ!!」
彼女は肩を大きく揺らしながら、彼を起こそうとする。しかし、既に彼からの反応は全く無かった・・・。
エーは今、見たくなかった現実を目の当たりにしてしまったのだーー自分の彼氏である『アヒャ』が目の前で、しかも自分の上で死んでしまった所を・・・。
「アヒャ・・・! お願い・・もう一度目を開けてよ・・・っ! アヒャぁっ!!」
エーは肩を掴みながら、必死に彼の名を呼び続けた。それでも状況は変わらない・・・。ただ魂の抜けた冷めた肉体が、彼女の上に横たわっているだけだ。
彼女は頬に大粒の涙を流しながら、その冷たい体を抱きしめた・・・。
「やだ・・・。私を・・置いていかないで・・・。一人で・・死なないでよ・・・っ!!」
その時、丘の上の彼らを発見したギコ達が駆け込んできた。アヒャの亡骸を抱きしめるエーに、一同はただ呆然と眺めることしかできない・・・。
「!! ゼロ・・何で・・・。」
「ぐすっ・・・アヒャぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!」
2833年2月14日ーーその日は、最も悲しいバレンタインデーとなった・・・。
題名のみ投下w
最終話(ロングSP) 『邪悪ーーBelialーー 因縁の決着』〜ウルトラの奇跡〜
あれから数時間後・・・
彼らは『石碑の丘』から、病院の集中治療室へと移動していた。
ベットの周りには、ギコを始めとするNCメンバーが取り囲み、その中央では重傷を負いつつも何とか一命を取り留めた少年『アヒャ』が静かに横たわっていた・・・。
石碑の丘から病院へ緊急搬送され、懸命な蘇生治療を行った結果、彼は失血になりながらも、どうにか息を吹き返すことは出来たのだ。
しかし状態は安全とは程遠く、心拍は40を境に上下しているだけで、何時死んでもおかしくない状況に置かれていた・・・。呼吸もしているのか、していないのかが区別出来ない程にまで低下していたため、『人口呼吸器』で呼吸を安定させている。
彼は文字通り、生死をさまよっている状態にあるのだーー
彼を殺しかけた張本人である恋人の少女『エー』は、闇の因子が暴走していた際に途切れていた記憶をのーから聞き入れた後、病室に来てからずっと彼の左手を握り、泣き崩れていた・・・。
自分の手で愛する者の命を奪いかけたのだ。もはや『落ち込む』だけでは済む筈がなかった・・・。
「ぐすっ・・アヒャ・・・ごめんなさい・・・。私は・・。」
アヒャの左手は、相変わらず冷たいまま動いていない・・・
彼の口には酸素を供給するための管が通されており、白いテープで固定されている。無理矢理繋がれているようなその様子は、とても苦しそうだ・・・。
「相沢君は・・どうなっちゃうの・・・?」
ギコの隣で、悲しそうな瞳でアヒャを見つめているしぃが問う。
「・・・医者の話だと、心臓がかなり弱っていて、再び目を覚ますのは難しいと・・・。もし目を覚ましたとしても・・・」
「記憶を失って、全てを忘れているかもしれないと言っていた・・・。」
「そんな・・・。じゃあもう・・・栄香の事は・・・。」
しぃの返した言葉にギコは何も言わず、ただ首を横に振るだけだ・・・。
その時突然、エーが彼の手を離し、ゆっくりと椅子から立ち上がった。顔には後悔と落ち込んだ暗い表情・・・そして、恋人の命を危険に陥れた自分に対する憎悪の表情が混ざり合い、一つの複雑な表情を作っていた。
「栄香・・・? どうしたの?」「嘘だ・・・。」「えっ・・・?」「嘘だっ!! アヒャが生き返らないなんて・・そんなの嘘だ!!」「栄香・・・。」
「私は知ってる・・・! アヒャは、こんな怪我でもちゃんと戻ってきてくれるんだ! お母さん達は、まだアヒャの事を分かってないのよ!!」
複雑な表情をしていた栄香の目は、ギコの発言に対する怒りに満ち溢れて、鋭い光を放っていた・・・。医者の結論を話したギコ本人は、その威圧的な言葉に何も反論が出来ない。
「栄香・・・。父さんは、ただ・・・。」「もういいよっ! そうやって勝手に想像してれば良いでしょ!! 私のことは放っといてよっ!!!」「栄香!!」
そう言とエーは父親を跳ね除け、強引に病室の扉を開けはなって出て行ってしまった。診療室での治療を終えて、ギプスを填めて出てきたフサやつー、のーに見向きもせずに・・・。
「エー・・ちゃん・・・?」「栄香! 待ちなさいっ!」
突然の事で何が起きたのか分からないのーの横を、しぃが彼女を説得させるために猛スピードで走り抜けていった・・・。
数十分後・・・
しぃはエーを追って家に駆け込み、息を切らしながら二階にあるエーの部屋の前に来ていた。この中に彼女が隠っているのだ。
「栄香・・・入るわよ。」
しぃはドアの前で一言言うと、ドアノブを回してゆっくりと部屋に入る。すっきりと片づけられた部屋はカーテンが閉められ、まるで彼女の暗い心境を表しているようだ。
その部屋のベットの上で、エーは膝を抱えて小さくなっていた・・・。
しぃは彼女の横に座ると、その桃色の両腕でエーの肩を優しく包んだ。肩が小刻みに揺れている感触が、彼女の手を通して腕に伝わる・・・。
しぃが声を掛けようとした瞬間、エーが小さく呟いた。
「・・・ごめんなさい。お父さん達は、何も悪くないよ・・・。悪いのは、全部私なの・・・。私のせいでアヒャが・・・。」「栄香・・・。貴方が全部悪い訳じゃないの。・・・自分を責め過ぎちゃダメよ。」
優しいしぃの言葉に、エーは俯いていた顔を上げて、視線を母親に合わせた。瞳には未だに涙がある・・・。
「お母さん・・・。」「ん?」「アヒャは私のこと、恨んでると思う・・・?」
しぃは少し考えた後、答えを出した。
「恨んでるかどうかは私には分からないよ。でも、此だけは言える・・・」
「相沢君は貴方のことが好きで、ずっと栄香の事を護ろうとしていたの。例え其れが、自分の命と引き替えになってもね・・・。」
「えっ・・・?」「つまり・・相沢君は、最初から分かってたのよ・・・。自分が何時か貴方と戦う事になって、どんな結果になるかを・・・。」
そのしぃの言葉を聞いた瞬間、エーの瞳からは再び大粒の涙がこぼれ始めた・・・。
アヒャは、戦う前に全てを知っていたのだーー自分の恋人と戦い、そして自分がどういう結果になるのかを。それでも、彼はエーの為に命を張ったのだ。生まれて初めて、心から好きになった彼女を救うために・・・。
ギコやのーに言った『自分がどうなっても良い』という発言は、全てエーに対する『献身』に繋がっていたのだ。
「アヒャのバカ・・・ぐすっ・・何で教えてくれなかったのよ・・・。」「貴方には、きっと知らせたくなかったのよ・・・。栄香にはずっと笑っていて欲しかったから・・・。」
嗚咽をしながら泣くエーに、しぃは慰めるように優しく言葉をかける。
「栄香、考えてみて・・・。相沢君が貴方に対して今までにしてくれた事は、何を意味していると思う・・・?」「アヒャが・・私に?」「そう。」
「それに気付いたときに、『貴方にできる何か』が探し出せる筈よ。」
エーは彼女の言葉を聞くと、再び俯いて無言になった。気になる言葉でもあったのだろうか・・・。
膝を抱えて泣き続ける彼女に、しぃが心配して声を掛けようとしたその時、エーが沈黙を破って小さく呟いた。
「暫く・・一人にさせて・・・。」「・・分かったよ。落ち着いたら、下においで。」「うん・・」
しぃは頷くとゆっくりと扉を締めて、下の階へ下りていく。
エーが自分の話に納得してくれたことに胸をなで下ろしていると、一階の廊下にはいつの間にかタカラとフサしぃの姿があった。
「お母さん!」「タカラに、しぃちゃん・・・いつの間に?」
額には二人とも小さな汗が吹き出ている・・・しぃとエーが上で話している間に、急いで帰って来ていたのだろう。
タカラとフサしぃは、心配な表情を顔に浮かべながらしぃに駆け寄る。
「お母さん、姉ちゃんは!?」「もう大丈夫。今は自分の部屋にいるけど、暫く一人にしてあげてね。」「良かったぁ・・・。」
彼女の返事を聞き、二人は安心した表情で大きく胸をなで下ろす。
「そう言えば、お父さんは?」「ゼロお兄ちゃんのことを報告しに、光の国に帰っちゃったの。」「ハァ・・全く・・・。二人とも疲れたでしょう。手を洗って、夕飯にしましょ?」「うん!」
二人は安心した笑顔で頷くと、仲良く洗面所へ向かっていった・・・。
翌日・・・
あれからエーは下に降りてくることもなく、自分の部屋に引きこもったまま一夜を過ごした。
夕飯も食べずにさすがにお腹が空いているだろうが、一向に下に降りてくる気配がない・・・。一体どうしたのだろうか?
しぃがそんな事を想いながら二階を眺めていると、階段の手前の扉が開き、中から高校の制服姿となったエーが出てきた。
学校へ行く準備は出来たようだが、顔がまだ眠たそうだ。そして何より、その表情の奥にもまだ若干暗い気持ちが残っているようにも感じられる・・・。
エーは階段の下にいたしぃの姿を確認すると、笑顔の表情で彼女に挨拶をした。
「あ、お母さん。おはよう。」「おはよう。よく眠れた?」「うん。・・・昨日は、ごめんね。」「大丈夫。気にしてないわよ。さ、朝ご飯食べて、早く学校に行きなさい。」「は〜い。」
一見いつも通りの朝の会話だ。しかし、しぃは見抜いていたーー彼女が自分達を心配させないよう、わざと笑顔を作っているということを・・・。
二十分後・・・
「忘れ物は無いわね? 頑張ってね!」「うん。行ってきます!」
エーは全ての支度を終えて、いつも通りに学校へ出発した。
心の奥に、暗い気持ちを隠しながらーー。
春の到来を待つ並木道を、いつも通りのペースで歩いていくエー。ここで何もなければ、アヒャが後ろから元気よく走ってくる筈だが・・・。
エーはどうしても気になって後ろへ振り向いてみる。しかし・・・そこには何時もの元気な彼の姿は、何処を見てもいなかった・・・。
(そうだよ・・・。アヒャは今、病院で眠ってるんだもの・・・。来るはずが無いよ・・・。)
彼女は頭の中で理解しながら、再び前を向いて歩き出す。しかし其れでも、また後ろへ振り向こうとしてしまう・・・。
振り向けばいつものような彼の暖かい笑顔に出会えるのではないかと、内心思っているからだろう。でも現実はそんな物はない・・・。ただ、自分が歩いてきた道と空間があるだけだ。
一歩ずつ、歩けば歩くほどに大好きな彼の顔が浮かんでくる・・・。
宿題を忘れた時の気まずい顔、空手の大会で見た真剣な顔、大会で優勝した時の嬉しそうな顔、自分に告白した時に見せた照れくさそうな顔・・・そして、落ち込んでいる時でもいつも背中を押してくれた、彼の頼もしい笑顔・・・。
こんな彼の表情には、もう二度と会えないのだろうか・・・。
エーの足取りはいつの間にか重くなり、頬には涙が滴り落ちていたーー。
と、その時・・・
「エーちゃん、おはよ!」「えっ・・・?」
エーが振り返ると、そこにはいつの間にかのーの姿があった。彼女は毎朝見せる笑顔でエーの顔を見ている。
しかしその笑顔もすぐに消えて、いきなり心配するような表情になった。エーの頬をゆっくりと流れている涙を見たからだ。
「のーちゃん・・・。」「あれ? エーちゃん・・泣いてたんか? 何かあったん?」「あっ、ううん。 何でもないよ!」「・・・ホンマに?」「本当だよ! 早く行こ!」「うん・・・。」
エーは慌てて涙を拭くと、のーに悟られないように笑顔を作り、くるりと前を向いていつもの足取りで歩き始めた。
しかしいくら隠しても、彼女には既に後ろ姿で見透かされていた・・・。
(エーちゃんの後ろ姿が、なんか暗いなぁ・・・。何かあったんとちゃうか・・・?)
その日の昼休み・・・
のーは思い切ってエーに話しかけてみた。
「エーちゃん、何かあったん?」「えっ?」「だって、今日の授業中ずっと上の空やったし・・・。休み時間やって、悲しそうな暗い顔してはったやろ。」「・・・別に、何でもないよ。きっと気のせいじゃ」
エーがそう言いかけた直後、のーが机を平手で強く叩きつけたーー。
「!?」
教室中に強く響いた音にエーのみならず、周りで騒いでいた生徒達まで驚き、昼休みの明るい雰囲気が一瞬にして冷め渡ってしまった・・・。
のーは、周りの生徒達の冷たい視線に構わず、もの凄い剣幕をでエーを怒鳴りつける。
「いい加減にしぃや! 何で正直に話してくれないんや!! 隠そうとするなんて、エーちゃんらしくないやないかっ!!」
彼女の怒声にエーは一瞬悲しそうな表情になったが、すぐに顔色を変えてのーに声を張り上げた。
「放っといてよっ!! これは私にしか分からない問題なの! のーちゃんに、私に出来る何かが分かるって言うの!?」「っ・・・!」
エーの怒鳴り声に、のーは再び言い返そうとする。しかし、何故か彼女の顔を見て止めてしまった・・・。
エーの顔に、再び涙が流れている・・・。
彼女は猫耳を折り畳み、悲しそうな表情で言葉を繋げる。
「分かってるよ・・・。のーちゃんが私のことを心配してくれてるのは、とても嬉しいよ・・・。でもこれは、私一人で答えを出さなきゃいけない事なの・・。だから、ごめん・・一人で考えさせて・・・。」
彼女はそう言うと、一人で寂しそうに教室を出て行ってしまった・・・。
「エーちゃん・・・。」
一方タカラ達三人は授業が終わり、フサの見舞いに向かっていた。久しぶりに三人揃っての帰り道だ。
一ヶ月前、ぃょぅはタカラとは違う地区の避難所に逃げていたらしく、彼が変身した『ウルトラマンコスモス』の活躍もモニターを通して知っていた。因みに、彼もタカラがコスモスであることを理解している。
「それで、フサおじさんの肩は大丈夫なのかよぅ?」「複雑骨折しちゃって、3月にならないと治らないんだって。」「えぇっ!? そんなに掛かるのかよぅ・・・。」
実は、この三人は最近フサの家に遊びに行くことが多く、よく土日に頻繁に顔を出しているのだ。その中でもぃょぅは特にフサと仲が良く、一緒にいることが多い。
完治が来月になることを聞き、ぃょぅは少々落ち込んでしまったようだ。落ち込むぃょぅに、フサしぃとタカラが説得を促した。
「ぃょぅ君、そんなに落ち込んじゃダメだよ〜。これからお見舞いに行くんだからぁ。」「いくら何でも、落ち込みすぎだと思うけど?」「でもょぅ・・・」「はいはい、もういいから! 落ち込むのはそこまでにして、ドアをノックするよっ!」
タカラは落ち込むぃょぅの肩を励ますように叩くと、フサの家のインターフォンを鳴らした・・・。
「こんにちは〜!」
玄関の前で大きな挨拶をすると、中からつーが扉を開けて彼らを出迎えてくれた。
「タカラ君・・・。今日はどうして?」「フサさんのお見舞いに来たんです。上がっても良いですか?」「うーん・・・ちょっと中に入って待っててね。」
つーは何故かそう言うと、家の玄関に三人だけを残して奥へ行ってしまった。いつもならすんなり通すところだが・・・。
三人が首を傾げながら顔を見合わせていると、タカラが玄関のある変化に気づいた。
「あれ? 靴が増えてる!」「本当だ・・・。誰か居るのかなぁ・・・?」
二人がそれぞれ意見を述べていると、奥からつーとフサが姿を現した。フサの右肩に取り付けられているギプスが、とても痛そうだ・・・。
フサは右肩のギプスを左手でさすりながら、玄関のタカラ達に声を掛けた。
「フサおじさん!」「みんな、わざわざお見舞いに来てくれたのかぁ・・・。玄関先で悪いねぇ。」
「大丈夫なのかょぅ・・・? また一緒に、遊んでくれるのかょぅ?」「心配するな。ま、肩が治るまでちょっと時間が掛かるけど・・・。治ったらまた、一緒に遊ぼうな!」「うん!」
心配な表情を浮かべていたぃょぅは、彼の言葉に笑顔で頷いた・・・。
「ところで、今日は誰か来ているんですか?」「えっ?」「靴がいつもより多いから・・・。」
タカラとフサしぃが気づいたことをフサ達に指摘すると、フサはいきなり真剣な表情になりながらタカラの肩に手を乗せた・・・。突然の行動に、彼はただ意味が分からず困惑な表情を浮かべるだけだ。一体何があったというのだろうか・・・。
「? ・・・何かあったんですか?」「ター坊・・フサしぃちゃん・・・君達に、重要な話があるんだ・・・。」「・・・?」
「! 僕、大事な用事を忘れてたよぅ!! タカラ、先に帰るよぅ! フサおじさんお大事に!」「えぇっ? ちょっ、ぃょぅ君!?」
何か大事な空気を察知したのか、ぃょぅは彼らを置き去りにして先に帰ってしまった。空気の読みが速いのが彼の特徴だが、今回は置き去りにされてタカラ達はとても焦った。
密閉された空間に重く漂う空気・・・この状況を一体どうすればいいのか、全く分からない。
「丁度良かった・・・。取り合えず、上がってくれ。」「は、はい・・・。」
タカラとフサしぃは言われるがままに靴を脱ぐと、廊下の奥へと進んだ・・・。
彼らがリビングに入ると、そこにはモララーとぎゃしゃがソファーに掛けてフサ達を待っていた。
「タカラ君・・来たのね・・・?」「おい、タカラは呼ばないんじゃなかったのかよ!?」「来ちゃったんだよ・・・。俺のことを見舞いに来てくれたのさ。」
何故か不満そうにしているモララーに首を傾げながら、タカラとフサしぃは彼らの向かい側にある大きなソファーに腰掛ける。その隣にフサとつーが腰を置くと、早速モララーが口を開いた。
「タカラ・・・。お前には後から話そうと思ってたんだが、来てしまったからには今打ち明けよう・・・。」「・・・何ですか?」「実は・・」
「ギコが・・お前の父さんが・・・危ない・・・。」
「えぇっ!!?」
モララーの言葉に目を丸くするタカラ・・・。そんな彼の表情を伺いながら、モララーは更に言葉を連ねた。
「昨晩ギコが帰らなかった理由は、ゼロのことを報告しに行った訳じゃないんだ・・・。」「・・え・・・?」「彼奴が宇宙に行った本当の理由はな・・・」
「光の国のレイオニクス・・『ウルトラマンベリアル』を倒す為なんだ・・・。」
「! ベリアル!!?」
モララー口から述べられたのは、余りに信じ難い事実だったーー。
ギコはアヒャの祈願だった『打倒ベリアル』を達成させるために、家族に隠してまで宇宙に飛び出していったのだ。
タカラの心は今、モララー達が行かなかった疑問と父親に対する心配な気持ち、そして自分が変身して助けに行きたいという焦りの気持ちが渦を巻き、『もどかしさ』という一つの葛藤を生み出していた・・・。
その気持ちは、隣で不安な表情をしているフサしぃもきっと同じ筈だ。
ぎゃしゃはモララーに続いて、さらに言葉を繋げる。
「今、モナーさんもダイナになってギコの後を追っているんだけど、とても危ない状況なの・・・。」「せめて、俺に戦う力が残っていれば・・・。」「? どういう事なんですか・・・?」
「俺は偽物との戦いで、光の力を殆ど使ってしまった・・・。だから今の俺には、剣で戦うことも変身することさえも出来ないんだ・・・。本当にすまない・・・。」「モララーさん・・・。」
彼の言葉に不安の色を濃くするフサしぃ・・・。しかし、タカラは彼らの言葉から何かを悟ったのか、真剣な表情をしながら小さく呟いた・・・。
「もしかして・・僕の力なら・・・。」「ター坊・・・?」
「フサさん、モララーさん! 僕に・・ベリアルを止めさせて下さい!」
彼の言葉を聞き、周りにいた全員が驚きの表情を浮かべる。モララーは、何故か眉間に皺を寄せながら口を開いた。
「タカラ・・・。それは、どういう事なんだ・・・?」「コスモスの『ルナモード』の力ならば、相手を傷つけないで元の姿に戻せると思います! ベリアルは元々お父さんと同じ光の戦士だから・・・」「バカを言うな!!」「!!」
突然のモララーの罵声に、説明を止めたタカラ・・・。周りのメンバー達も目を丸くしながらモララーに向く。いきなり部屋の空気がどんよりと重くなってしまった・・・。
モララーは眉間に皺を寄せたまま静かに声をかける。
「タカラ・・・。お前は、事の大きさを分かっているのか?」「・・・?」
「いいか・・・。ベリアルはレイブラット星人と完全に一体化していて、浄化光線は全く効かない。おまけに攻撃力・防御力も他のウルトラマン達を遙かに凌いでいる。力でねじ伏せようとしても、無理に近いんだ・・・!」「・・え・・っ・・・?」
次の瞬間、モララーは握り拳を震わせながら、タカラに厳しい一言を浴びせたーー。
「分からないのか・・・!? ベリアルは、お前の未熟な力では太刀打ちが出来ない相手なんだ!! 絶対にな!!!」
445 :
ほんわか名無しさん:2010/01/28(木) 21:25:06 0
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ヽ、 /: :/ヽ、}斗ヽ ヽ / l 、、
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モララーの怒号に圧倒され、肩を窄めるタカラ達・・・。彼らの反応を見てフサがモララーを慌てて宥める。モララーは時々、このように自分の感情をコントロールできなくなる事があるのだ。管理AI時代からの悪い癖だ。
「おいモララー! 熱くなるなよ・・・。少しは落ち着けって。」「・・・悪いな。」
ホッとしたように溜息を吐くと、フサはモララーの補足をするように説明をした。
「要するに・・・ベリアルは昔、ウルトラの父と互角に戦えた程の実力を持っていて、その上にレイブラット星人の遺伝子が入って桁外れの力があるから、並大抵のウルトラマン達には倒せない・・・。今の君では、到底及ばない相手なんだ。」
「そんな・・・。じゃあ、お父さん達は・・・?」
タカラが不安な顔色を浮かべながら聞き返す。
「ギコとモナー・・・いや、ウルトラマンとダイナは昔、ゼロやセブン、メビウスと一緒にベリアルと戦ったことがあるんだ。ゼロが動けない以上、今は倒し方を知っている彼奴等に任せるしかないのさ・・・。」
二人はフサの説明を聞いて、不安な表情を更に色濃くした。
ベリアルは二人だけで倒せる相手ではない。ギコとモナーのみに任せて、本当に大丈夫なのだろうか・・・。
一方・・・
エーは教室から離れ、屋上のフェンスで一人、悩み続けていた・・・。
昨晩しぃが掛けた言葉は、一体何を意味しているのかーーその答えを求めてずっと頭の中を探っていたが、なかなか自分なりの考えが浮かばない。
『植物状態』だった時の記憶は殆ど無いに等しく、その時に感じていた物といえば、閉ざされた闇に自由を奪われ、もがく程に感じた痛みと苦しみ・・・そして、時折その苦しみを和らげてくれた一筋の光と温もりの感覚だけだ。
自分の周りで何が起こっていたのか、誰が側にいてくれたのかさえも、何も分からない・・・。
(私はこのまま・・悩み続ける事しかできないの・・・?)
エーは耳を折り畳み、校庭に視線を落としながら大きな溜息を漏らす。空は雲が一つもなく、太陽が燦々と輝いている。でも今の自分の気持ちは、どんよりとした厚い雲に覆われた状態だ。
ーー自分の気持ちがこの昼間の青空のように晴れ渡れば、どんなに清々しいことだろう・・・。ーー
・・・彼女が空を見上げてそんな事を考えていると、誰もいない筈の後ろから聞き慣れた声が聞こえた・・・。
「相変わらず一人で悩んでるんやな・・・エーちゃん。」「! のーちゃん・・・。」
エーが後ろへ振り向くと、彼女の親友であるのーが、顔に苦笑いを浮かべて立っていた。何時まで経っても戻ってこない彼女を心配して、屋上まで上がって来たのだ。
「のーちゃん・・何で・・・。」「分かっとるよ。エーちゃんが一人で答えを出したいのは・・・。でも答えは出せなくても、一緒に考えることぐらいは出来るはずや。」「・・・。」
のーの発言に、エーは悲しそうな表情でこちらを見ている・・・。
「・・・ちょっとしつこかったかなぁ・・・。」「・・・ううん。そんなことはないよ。とても嬉しいよ・・・。」「・・隣に来てもええかな・・・?」「・・・うん。いいよ。」
のーはエーの右隣に立ち、フェンスに寄り掛かる。
エーは再び視線を下に向けながら、暗いトーンで話し始めた。
「昨日の夜お母さんに、アヒャが今までに私にしてくれたことの意味を考えて、私に出来る何かを探しなさいって言われて、ずっと悩んでたんだけど・・・何にも分からなくなっちゃったの・・・。」「・・・どうして?」
「私が植物状態で眠っていた時、周りで何が起きていたのか、誰が私の側にいてくれたのか・・・何も分からないの・・・。私は暗闇の中で、ずっと苦しい思いをしてたから・・・。」
「エーちゃん・・・。」
暗い表情で肩を震わすエーを、のーは複雑な表情で彼女の顔を覗き込む。肩の震えがまるで、何かの重圧におびえているようだ・・・。
「・・・でもね、時折そんな苦しみを和らげてくれる感覚もあったの。」「えっ?」「何だろう・・・いつも赤と青の光が輝いていて・・太陽のように強いんだけど、その中に包み込むような優しい暖かさがあるの・・・。」
「赤と青の光・・・?」「うん・・・。それも初めてじゃなくて、何処かで同じような感覚をしたような・・・。」
次の瞬間、のーは何かに気付いたのか、目を大きく見開いた。
「・・・そうやったんか・・・。」「どうしたの?」
のーは顔に穏やかな表情を浮かべると、彼女が植物状態だった時の事を話し始めた。
「エーちゃんが植物状態になっとる間、アヒャはんは学校が終わっていつも一足先に下校してはったんや。何をやっとんのかと思うてうちが公園に行くと、アヒャはんは自分でナイフを作ってずっとトレーニングしてたんや。」
のーの脳裏に、アヒャが体育着姿で汗を流しながら、『アヒャスラッガー』を懸命に振り回している姿が思い浮かぶ。
「でも、理由はそれだけやなかったんやなぁ・・・。」「えっ・・?」
「これはうちの推測やけん。本当はどうか分からんけど・・・アヒャはんは・・・。」
「毎日、エーちゃんのお見舞いに来てたんとちゃうか?」
「えっ・・・?」
次の瞬間、エーは顔を真っ赤にしながらのーの横顔を見る。桃色の肌を持っているので、リンゴのように赤くなった頬は実際には綺麗な朱色に見えた。
「・・・自分の身を犠牲にしてまで、うちやエーちゃんのことを守ってくれたんや。やりかねないかもしれんよ。」「じゃあ、あの時私の側にいてくれたのは・・アヒャだったの・・・?」
のーは無言で大きく首を縦に振る。
「エーちゃんが眠ってる間、アヒャはんはずっと手を握って側にいてくれたんやと思うよ。それが、たとえ自分がどんなに忙しくても、雨の日だってそうやし、雪の日でも・・ね。」
エーは赤い頬のまま、再び地面に視線を落とす。
「・・・どうして、ずっと私の側にいてくれたのかな・・・?」「それは・・決まってるやろ。」「えっ・・・?」
「エーちゃんの事が、大好きやったからや・・・。ずっと二人で、一緒にいたかったからやで・・・。」
次の瞬間、エーの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた・・・。
「アヒャはんは、ただ純粋にエーちゃんのことを愛してたんや・・・。でも、それを上手に表現できへんかったやろな・・・だから、自分の体にぎょうさんの傷を作りながら鍛えてたんやと思うんや・・・。」
エーの頬に次から次へと滴る涙は、ゆっくりと自分の足元に小さな水たまりをつくっていく・・・。
「エーちゃん、知っとる・・? アヒャはんは・・・最初から自分がどうなるか分かってたんやで・・・。それでも、エーちゃんの事を必死に守ろうとしてくれてたんや。」
のーは涙目になりながらエーを向く。今まで俯いていたエーは、顔を涙でいっぱいにしながら歯を食いしばっていた・・・
「分かるか・・・? 今までしてくれた事は全部、『エーちゃんを守るため』やったんやで・・・?」
「うっ・・・うぅ・・グスッ・・ヒグッ・・・。」
フェンスにしゃがみ込んで、遂に泣き出してしまったエー・・・。のーは彼女を宥めるようなことはせず、そのまま小さなトーンで言葉を繋げる。
「うちが言えるのはここまでや・・・。でももう、答えが見つかる筈やで・・? 下で待っとるよ・・・。」
のーは小さくなったエーの背中をさすると、彼女の邪魔にならないよう静かに下へと降りていった。
泣き続けるエーの脳裏には、再びアヒャの様々な表情が浮かんでいた・・・。しかし今度は朝とは違い、表情が浮かぶ度に彼の声も同時に聞こえる。
『「そうかぁ・・・ロボットから人間になったのかぁ・・・。」「嫌だった?」「いや、その・・・何というか・・綺麗だなぁってさ・・・。」「えっ?」「あぁっ、何でもねぇよ! 髪の色が綺麗だって思っただけだよっ!」「ふふ・・・っ。」』
『「よっしゃぁ!」「アヒャ君、やったね! おめでとう!」「へへっ・・・応援、ありがとうな。」「当然だよ。友達でしょ?」「おう・・・!」』
『「エー・・・。」「なぁに?」「・・・もし俺が死ぬって分かってたら、お前ならどうする・・・?」「えっ・・・? それはどういう事なの・・・?」「・・いや、何となく聞いてみただけだよ。気にしなくて良い。」「ふぅん・・・。」』
『「エー、思い出すんだ。お前はいつも笑顔で、誰に対しても優しかったろ・・・。そんなお前が、俺は好きなんだ! だから、頼む・・・光の姿に、戻ってきてくれ!」』・・・
(アヒャは・・・私が辛いときでも、何時も側にいてくれた・・・。自分がどんなに辛くても、いつも私には笑顔を見せてくれてたんだ・・・。)
次々に思い出される、大好きな自分の愛する人の表情・・・。その一つ一つが、まるでエーに何かのメッセージを残していくかのように浮かんでは消えていった・・・。
ふと、エーは膝の中に伏せていた顔を上げると、頬を伝っている涙をハンカチで拭う。何か、自分で答えに気付いたのだろうか・・・。
(アヒャはいつも・・・私のことを見守ってくれてたんだね・・・? だから今度は、私がアヒャを守る番なんだ・・・!)
彼女は再びゆっくりと立ち上がると、フェンスに手を乗せて真っ直ぐ前を向いた。先ほどまでの泣き顔とは違い、何かを決したようにしっかりと瞳を輝かせて・・・。
(アヒャに愛されたように・・・今度は、私も・・・!)
エーが頭の中で、『自分がアヒャの側にいてあげる』事を決心した、まさにその時だった・・・。
今まで何も変化がなかった青空から突然、赤と紫に輝く火の玉が轟音と共に地上に向かってきたのだーー。
「! 何あれ・・・。まさか、隕石!?」
屋上でその存在に気が付いたエー、下の教室で轟音を耳にしたのーは、それぞれ慌てて上空を見上げる。白い煙を後ろにまき散らしながら落ちてくる物体・・・。中身は一体何なのだろうか・・・?
火の玉は速度が一定のまま、次第に地上へ近付いていく・・・。渦を描きながら近付いていく様は、まるで二体の生物が争っているようだ。
危険を察知した学校が、生徒達に向けて避難を促す放送を流す。が、エーはその放送を気にも止めずに、接近してくる火の玉をじっと見つめていた・・・。燃え盛る火の中に、何かの気配を感じていたのだ。
(火の玉の中で・・誰かが戦ってる・・・!)
彼女がそう考えている内に、火の玉はスピードを緩めることなく学校上空を通過し、ビルの建設予定地である町中の広い空き地に着弾する。
発生した強烈な爆風は、屋上にいたエーの猫耳を激しく揺らし、生徒達の避難を妨げた。
猛々たる煙が着弾点を覆い、中に何が居るのか全く分からない。と、その時・・・
「グァァッ!」「ハゥァッ・・・!」
煙の中から突然、二体の銀色の巨人が飛び出し、全身を地面に強打した。二体の体の色は銀色が主体で、それぞれの胸の中央で光球が赤く明滅している・・・。
エーはこの特徴で、二人の巨人の正体を確信したーー。
「・・お父さん・・・?!」
突然煙中から現れた、二体の巨人・・・。その正体はそれぞれのウルトラマンに変身した、ギコとモナーだったーー。
二人はカラータイマーから苦しそうな音を発しながらゆっくりと立ち上がり、巻き立つ煙の方へと視線を向けた。彼らは、この煙の奥にいる人物と決着をつけるために戦っていたのだ。
町に吹き付ける風が、その人物を包んでいた煙を吹き飛ばす・・・。すると、中からもう一人の『黒い巨人』が姿を現した。
鮫を思わせるような頑強な体に走る、赤いライン・・・。その中央で、かつての面影を示すかのように紫色の光球が輝いている。鋭い爪が特徴の手には何やら棍棒のようなものを装備し、細く吊り上がった目はまさに『邪悪』だ・・・。
そう・・・この『黒い巨人』こそ、かつて光の国を危機に陥れた、『ウルトラマンベリアル』だーー。
(あれがアヒャの言っていた・・ウルトラマンベリアル・・・?)
エーは屋上からその鮫のような体のベリアルを見ると、何故か無意識に冷や汗が吹き出し、肩の震えが止まらなくなってしまった・・・。こんなに怖い思いをしたのは、本当に久しぶりのことだ。
初代ウルトラマン・ダイナはベリアルの姿を見ると、再び戦闘体勢をとる。
「地球は俺が貰う。くずはそこで、死んでいけ!」「そういう台詞は俺達を倒してから言え! 決着を付けるぞ、ベリアル!」
「ジョァッ!」「ヘァッ!」
二人は同時にベリアルへ走り込むと、キックやパンチの連続技をスピーディーに仕掛けていく。
しかし、ベリアルの両手に持つその武器『ギガバトルナイザー』の鉄壁なる防御に、全く太刀打ちが出来ていなかった。むしろ、ベリアルにギガバトルナイザーで攻撃を仕掛けられ、劣性になっているではないか。
彼らの戦いの様子はエーやのーだけではなく、フサの家から外へ出てきたタカラ達も見ていた。
変身する事が出来ないモララー、変身を禁じられているタカラは唇を噛みしめながら、祈るような気持ちでその光景を眺めていた。もっと、自分達に戦う力があれば・・・と、悔しい思いを抱えながらーー。
「僕達に・・お父さんを助けることは出来ないんですか・・・?」
不意に、タカラがモララーへ小さく呟くように質問する。
「・・・駄目だ。変身したところで、俺達には到底叶わない敵だからな・・・。残念だが今はただ、こうして眺めるしかないんだ・・・。」「そんな・・・。僕達に出来ることは、本当に無いんですか・・・?」
涙声が混じったタカラの質問に、つーから事情を聞いて駆けつけていた母親ーーしぃが静かに答えた・・・。
「タカラ・・・。貴方が助けに行きたい気持ちは、よく分かるよ。でもお父さんは、貴方にその様なことで死んで欲しくないの・・・。死んでしまったら、フサしぃちゃんを守る人が居なくなっちゃうのよ?」「お母さん・・でも・・・グスッ・・・。」
タカラの頬に流れ落ちる涙を見て、しぃは彼の肩を優しく抱きしめた。
「大丈夫・・・。お父さんは、絶対負けたりしない・・・。だから、信じて待ってみよう・・・ね?」
彼女は何時もとは違うタカラの様子を見て、ただ励ますことしか出来なかった・・・。ギコは負けないと言ってはみたものの、自分でも確信がない。果たして、本当にベリアルに勝てるのだろうか・・・。
一方、のーは校庭に避難してウルトラマン達の戦いをドキドキしながら見ていた。友達の父親が、必死になって戦っているのだ。緊張しない筈がない。
ふと、のーはクラスの列からある者の姿が居ないことに気が付いた。首を出して周りを見渡しても、特徴的な『耳の模様』はどこにも見つからない・・・。
(エーちゃんは、何処にいるんや・・・?)
のーは落ち着いて周りを観察してみる。すると・・・
誰もいないはずの屋上に、桃色の肌をした人影を見つけたーー。
「エーちゃん・・・?」
エーは屋上で、何故か肩を震わせながらしゃがみ込んでいる。このままあの場所にいたら、非常に危険だ。
「あんな所にいたら・・・あかん!」
のーは校門を開けて外へ脱出し始めているクラスの列を離れると、エーを連れ戻すために一人学校へ乗り込んでいった。
近くでウルトラマンたちが戦っているせいで、大きな振動が階段を上っている彼女にも伝わった。しかしのーはその度に転びながらも、『親友』を救うために階段を屋上へと必死に上っていった・・・。
屋上の扉を開け放ち、のーはエーの元に駆け寄る。
「エーちゃんっ!! こんな所にいたらあかんやろ! 何で避難しなかったんやっ!」「のー・・ちゃん・・・。」
肩を震わせながら、エーは顔を膝から上げる。しかし、昼休みまでの健康的な顔色ではなく、血液が抜かれたように顔が真っ青に染まり、脂汗が額から吹き出していた・・・。まるで病人のようだ。
「・・・どうしたんや? 具合でも悪いんか・・・?」「違うの・・・。自分が・・・怖いの・・・。」「・・・?」
「自分が怖いって・・・。」
のーは頭の上に疑問符を浮かべながら、エーの目線に合わせるようにしゃがみ込む。
すると、彼女の足元に元の白色に戻った『スパークレンス』があることに気付いた。立っている時はエーの足元に隠れて、全く気が付かなかったのだ。
のーは拾い上げたスパークレンスの色にホッとしながらも、エーに手渡そうと差し出す。しかし・・・
「・・ダメ・・・っ。」「何でや? エーちゃんが持たなきゃいけない物やろ・・・?」
のーは納得がいかないような表情でエーの顔をのぞき込む。すると・・・
エーはスパークレンスを恐怖を示すかのように視線を合わせ、肩をガクガクと震わせていたーー。
のーはこの彼女の行動で、何が言いたいのか全てを理解した。
「・・怖いの・・・。私が変身したら・・・またみんなを・・・。」「もうええよ・・・。言わなくても、エーちゃんが言いたいこと、分かったよ・・・。」
全てを悟ったのーは、そう言うと静かにエーの背中に手を回して抱きしめた。母親のような、優しい温もりが彼女を包み込む・・・。
「エーちゃん。あんたはもう、闇になったりせぇへん・・・。エーちゃんは、アヒャはんに守られてるんやで?」「アヒャに・・?」
のーの優しい言葉に、エーが静かに反応をした正にその時・・・。
「シャアッ!」「デァァッ!」
二人の巨人が両腕を十字に組み、ベリアルに向かって『スペシウム光線』と『ソルジェント光線』を最大出力で放った。
屋上にいた二人はその大きな轟音に気が付き、彼らが戦っている方向を向く。
光線の発射と共に、凄まじい程の砂塵と風を起こしている・・・。いくら強固なギガバトルナイザーでも、この二つの光線の威力には逆らえない筈だ。
ところが・・・ベリアルはギガバトルナイザーをバトンのように回転させると、二人の光線技を回転軸の一点に集中させ・・・
「そら、おかえしだぁっ!」「うわぁぁぁぁぁ!!!」「!!」
光線を放っていた『ウルトラマンダイナ』に向かい、打ち返したーー。
ダイナは打ち返された自分の光線技に対応が間に合わずに直撃し、力が抜けるようにして大地へと倒れ込んでしまった・・・。
初代ウルトラマンは、吹き飛ばされたダイナに慌てて駆け寄る。
「ダイナ!」「ごめん・・モナ・・・。もう少し・・だっ・・た・・・のに・・・。」
ダイナが彼に無念の言葉を漏らした直後、彼はカラータイマーと目の輝きが消え、元のモナーの姿に戻ってしまった・・・。
「! モナーさんっ!!」
ダイナが消えていく光景を屋上で目の当たりにしたエーは、思わず大声で叫んでしまった。彼女が叫んでも、ダイナが消えてしまったことは何も変わることがない・・・。
「・・モナー・・・。」
無念な気持ちで染まった初代ウルトラマンが、小さく彼の名前を呟いた。
ダイナが消えた場所には、傷だらけになった白い猫『モナー』がうつ伏せに倒れている・・・。初代マンは彼を手にすると、その近くで見ていたフサ達の下に静かに寝かせた。
「・・・モナーを頼む。」「ギコ君・・・。」
彼はしぃ達にそう言うと、恨みいっぱいに握り拳を作りながら立ち上がろうとした。その拳を向ける相手は勿論、仲間を瀕死までに追い込んだ憎むべき巨人『ベリアル』だ。
が、しかし・・・
「うっ・・・。」
立ち上がった瞬間、突然周りの視界が霞み始め、再び地面に膝を付いてしまった。
よく見ると、自分のカラータイマーの点滅速度が最高潮に達している。最大出力で光線技を放った反動が、自分に返ってきてしまったのだーー。
「ハァ・・ハァ・・・。」「ギコ君っ!!」
その時、しぃ達の前で膝を付いた彼の背後から、『棍棒』を構えたベリアルが静かに近づいてきた・・・。
「次は、お前の番だな。」「よくも・・モナーを・・・っ!」「ふっ・・その無駄口もすぐに言えないようにしてやる!」
ベリアルはギガバトルナイザーの両端に電流を流し込み、そのままウルトラマンの胸に振り当てる。高圧電流の痺れと強い衝撃に、初代マンは少し離れた場所のビルへ弾き飛ばされてしまった・・・。
「グアァッ!! ・・・うっ。」「やめてぇぇぇっ!!!」
「ん?」
ウルトラマンが地面に倒れた時、ふと、何処からか少女の声がベリアルの耳に響いた・・・。彼は声の主を探すために、それが聞こえた方へと顔を向ける。
同時に、初代マンもまた張り付く痛みに堪えながら、声のした方へと視線を向けた。すると・・・
学校の校舎と思われる建物の屋上に、紫と桃色の二人の人物が立っていたーー。
「・・・! (栄香!?)」「こんな所に・・まだ雑魚がいたとはな・・・!」
「っ!!」
のーは隣のエーの手を取って、慌てて逃げようとする。
しかし、エーは目の前にいるベリアルに視線を奪われ、まるで石のように身動きが取れなくなっていた・・・。
その彼女の顔に映る表情は他の何でもない、『恐怖』のみだ。
もはや、彼女の正気は完全に失われてしまっていたーー。
「エーちゃん、しっかりするんやっ! 早く逃げるで! ・・・エーちゃんってばっ!!」
のーは彼女を連れていこうと、必死に腕を引っ張る。しかしエーは彼女の声が聞こえていないのか、全く反応しない。ベリアルの方向へ向いたまま、固まったままだ。
一体、彼女の身に何が起こってしまったのだろうか・・・。
この時、彼女は自分の精神の中で、ある葛藤と闘っていたーー。
スパークレンスを見て、また闇になってしまうのではないかという恐怖を持つ自分がいる・・・のーの言うとおり、逃げた方が良いのかもしれない。でも、本当は自分も変身して、光の巨人として闘いたいのだ。
・・・そんな気持ちがぶつかり合い、彼女の中でパニックを起こしていた・・・。その為、次の行動に体が反応を示さなくなっていたのだ。
自分は、一体どうすればいいのだろうか・・・。
彼女が心の中で迷っていたその時、ベリアルの攻撃を食らって弾き飛ばされていた初代ウルトラマンが、苦し紛れに彼女に声をかけた。
「栄・・香・・・。自分に・・素直になるん・・だ・・・。」「・・・!」
父親の声に、エーはようやく我に帰った。彼はそれに構わず言葉を繋げる。『愛娘』に、大切な事を伝えるために・・
「お前には・・・その手で守りたい誰かが・・いる筈だ・・・。」「守りたい・・人・・・?」
父親の言葉にエーは、今まで自分達を守ってくれていた『赤と青の戦士』のことを思い出した。自分がどんな運命になるかを知っていながら、何時も側で一緒に笑い、見守ってくれた人のことを・・・。
「栄香はさっき・・その人を護ろうと・・・決意したのだろう・・・?」「・・・!」
エーは若干驚いた表情を浮かべ、ウルトラマンの顔を見る。昼休みに自分の中で決意したことを、何故彼は知っているのだろう・・・。
そんなエーの気持ちを察したのか、初代マンはさらに彼女に言った。
「父さんには・・分かるんだ・・・。お前が何を・・考えてるのか・・・。でも・・・お前が決意したことは・・簡単に壊れる物じゃ・・・ないだろ・・・?」
エーは視線を下に向けながら小さく頷く。
「それなら・・逃げては・・・いけないぞ・・・。自分の筋は・・通すもの・・・だからなっ・・・。」「お父さん・・・。」
エーが自分の中で決意した物を、改めて考え直した次の瞬間・・・。
「ぐあぁぁぁぁーーーっ!!!!」「!!」「ギコっ!?」
『棍棒』から放たれた光線技が、初代マンの体を捉えたーー。
「か・・は・・・っ。」
青い光線技『ベリアルショット』を食らい、初代マンは膝から崩れ落ちるように地面に倒れる。直後、彼の胸で輝いていた最後の光が消え、目の輝きは完全に無くなってしまった・・・。
しかしダイナとは違い、人間の姿には戻らない。何故なら・・・
彼は『光を失った』のではなく、その場で『死んでしまった』のだからーー。
「お父さん・・・ぃゃ・・・いやぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
溢れ落ちる涙と共に響きわたる、少女の悲鳴・・・。初代ウルトラマンはエーに大切な事を託し、そのまま命を落としてしまったのだ・・・。
「嘘だろ・・・。まさか彼奴・・本当に・・・。」
目の当たりにした信じたくない現実に、愕然とするNCメンバー達・・・
「ギコ・・君が・・・死・・・。」「しぃさんっ!」
目の前で愛する人が亡くなり、しぃはそのショックの大きさの余りに気絶してしまった・・・。倒れそうになる彼女を、慌ててぎゃしゃが支える。その横では・・・
「嫌だぁ・・・。ギコお父さんが・・ぐすっ・・・。」「僕が・・変身してれば・・・。」
大好きな父親の死を目前にして、タカラは後悔を、フサしぃは大きな悲しみを受け、泣き崩れていた・・・。
大切な人が、目の前で命を落とす・・・そこで受けた悲しみの大きさや、心に負った傷の深さ・・・そして恨みや憎しみといった感情はある意味特別で、感じた者だけにしか分からない・・・。絶対に口では言い表せない、途轍もない物だろう。
溢れる涙を止めることなく頬に流している少女『エー』もまた、他のみんなと心境は同じだ。しかし彼女は其れと同時に、ベリアルに対して別の感情も持っていた・・・。
のーはそんな彼女にどんな言葉をかけたら良いか分からず、ただ黙って見ているしか出来なかった・・・。
そんな小さな人間達を余所に、ベリアルは嘲笑しながら満足気に言った。
「ハハハハハッ!! やっと邪魔者がいなくなったか・・・。この星の全てを破壊してやろう!」「待ちなさいっ!!」
ベリアルは、再び聞こえた少女の声に振り返った。屋上に立っているエーは、顔に殺気立った表情を浮かべてベリアルを睨んでいる・・・。文字どおり、彼女は『悲しみ』だけでなく、『恨み』の感情もむき出しにしていたのだ。
「そんな事・・・私が絶対にさせない! お父さんが好きだったこの町を・・この星を、私が守るんだ!!」「エーちゃん・・・。」
「へっ・・・笑わせるな。そんな小さなお前に、何が出来るって言うんだ?」
ベリアルの言葉に、エーは右手に『スパークレンス』を持ちながら言った。
「私がこの手で、大切な人を守る・・・。貴方を、必ず倒す!」
彼女は両腕を十字に交差させた後、右腕を逆時計周りに回して上空へ突き上げると・・・
『ティガァァァァーーーッ!!』
自分のもう一つの姿ーー『ウルトラマンティガ・マルチタイプ』へと変身をした。ティガの登場に、町の人々から再び大きな歓声と応援が響き渡る・・・。
「ベリアル! 貴方だけは・・・絶対に許さないっ!!」「仕方がねぇな・・・。俺様に刃向かうとどうなるか、教えてやる!」
ティガはマルチタイプからパワータイプへチェンジすると、背中に赤い怒りオーラを沸き立たせながら、憎きベリアルへと素早く走り込んでいった。
「デャァッ!!」「ぐぁっ!!」
我を忘れ、芯から沸き立つ怒りのまま、次々に攻撃を繰り出していくティガ。そのスピードはあの鈍重なパワータイプとは大違いで、スカイタイプ並の早さでベリアルを翻弄していた・・。
ベリアルはギガバトルナイザーで防御してはいるが、隙がなく読めない攻撃に、次第に劣性になっていった・・・
「チャァッ!!」「ッ!?」
ティガ渾身の打撃に、ベリアルの手にあったギガバトルナイザーが遂に宙を舞った。愛用の武器を失ったベリアルに、ティガは更に追い打ちをかけるように攻め立てていく・・・。
一方・・・
「うっ・・・。」「モナー・・・? 気がついたのね?」「つーちゃん・・・? あれ・・僕は何で・・・。」
モナーは手当をされた状態で、フサの家のソファーで目が覚めた。
「ギコがあんたを家の前に運んでくれたんだよ。まだ動かない方がいいわよ。」「他のみんなは・・・?」「今はエーちゃんの戦いを見守ってるよ。」「エーちゃんの・・・? ティガに変身したモナか?!」
モナーの質問に、つーは小さく頷く。彼はホッとした表情で胸をなで下ろす。
「良かったぁ・・・。エーちゃんが助太刀してくれるなら、ギコもきっと・・・。」
つーは彼の言葉に、若干眉間に皺を寄せながらも悲しい表情を浮かべ、小さな握り拳を作った・・・。
「あんたって・・本当にKYね・・・。」「・・・え?」
彼はつーの顔をのぞき込むと、彼女のその表情から何を言いたいのかを探った・・・。
「・・まさか・・・。」「本当よ・・・。」
知りたくなかった『真相』も、一緒にーー。
その頃・・・
「ダァッ!!」「ぐはっ!」
ティガの電撃パンチが腹部を直撃し、ベリアルは後ろへ大きく仰け反る。彼の大きな隙を見たティガは、後ろへ一歩下がると両手を大きく広げ、外回りにゆっくりと回すと・・・
「ヘッ! ハァァァァァ・・・! チャアッ!!」「!!」
エネルギーが溜まった両腕をL字に組み、『ゼペリオン光線・パワータイプバージョン』をベリアルに直撃させた・・・。
数秒後・・・
爆風と共に土煙が辺りを舞う中、ティガはカラータイマーを点滅させながらもマルチタイプへと戻ると、地面に膝を付いて荒い呼吸をしていた・・・。
ティガの一連の行動を見て、フサはタカラに小さく呟いた。
「エーちゃん、無理して戦っていたんだな・・・。」「えっ・・・?」「エーちゃんの変身したパワータイプは、本来なら彼処までのスピードは出せない筈なんだ。きっと、ギコを倒された怒りで一杯だったんだな・・・。」「・・・。」
ティガは呼吸を整えた後、近くで倒れたままになっている初代ウルトラマンの亡骸に歩み寄ると、彼の右手を両手で優しく包み込んだ。父親らしい暖かい感触が、まだ僅かに残っている・・・。
ーーせめて・・人間の姿に戻してあげよう・・・。ーー
そう思ったティガは、初代マンに向けて還元光線『セルチェンジビーム』を照射しようと、額のクリスタルに右手を翳そうとする。が、しかし・・・
次の瞬間、土煙から放たれた細く青白い光線技が、ティガの胴体に巻き付いたーー。
「ぐぁっ!! くっ・・・うっ・・・。」「・・・! 栄香っ!」「ぐっ・・・! あああああっ!!!」
体に食い込む程にきつく縛りあがる光線に、苦痛の声をあげるティガ・・・。
その時・・・土煙の奥から、黒い体に赤い帯が入った悪の巨人ーーティガに消された筈の『ウルトラマンベリアル』が、手にギガバトルナイザーを装備した状態で目の前に現れた。
ティガの放った光線技は大ダメージを与えていたものの、倒すまでには至らなかったのだーー。
「フフフ・・・詰めが甘かったようだな。次は、俺様の番だ!」「! あぅっ!!!」
彼は『ベリアルショット』をティガに放ち、遂に反撃を開始してしまった・・・。
歴戦の覇者を倒し、ティガをも窮地に追い込んだベリアル・・・果たして本当に、彼を倒すことは出来るのだろうか・・・。
その頃・・・
「ここは・・・何処だ・・・?」
病院の一室で眠り続けている赤と青の少年ーー『アヒャ』は、自分の薄い意識の中で、暗闇の中にただ一人立っていた。
「何にも見えない・・・。何故なんだ?」
どんなに辺りを見渡しても、自分の目に移るのは小さな光も無い、ただ黒く澄んだ暗闇だけ・・・。アヒャは周りに見える景色で、自分が一体どうなったのかを悟った。
「そっか・・・。俺はエーを救ったまま、逝っちまったのか・・・。」
ため息混じりに吐き出される、アヒャの言葉・・・。そのため息には、エーを救えて嬉しい気持ちと、彼女を一人にさせてしまった後悔等、色々な意味が混じっていた。
自分の手で彼女を救えたことは、とても嬉しい。でも、本当に其れだけで満足していいのだろうか・・・。
のーが言った通り、自分が死んで、エーは一人になってしまった・・・。そして、その事に対する自分への重圧は、とても大きいものだ・・・。
ーーまだ自分には、やり残していることが有るのではないか?ーー
今の彼には、そんな気がしてならなかった・・・。
「・・・せめてもう一度・・・彼奴と一緒に過ごしてみたかったなぁ・・・。」
彼がそう呟いた、次の瞬間・・・
「お前はまだ死んではいないぞ、ゼロ。」「えっ?」
突然聞こえた懐かしい声に、アヒャは後ろへ振り向く。すると・・・
「! 親父!?」
今まで誰もいなかった背後に、自分の父親である赤い巨人ーー『ウルトラセブン』と、自分の師匠ーー『ウルトラマンレオ』が突然姿を現していた・・・。
レオはアヒャ自身がどうなったのかを説明する。
「ここは病院のベッドだ。お前の本体はどうにか命は取り留めたが、植物状態で眠っているんだ。」「そうだったのか・・・。ってか、何でここに居るんだ・・・?」「お前の薄くなった意識を、目覚めさせるためだ。」
セブンはそう言うと、自分の後ろにテレパシーで外が今どのような状況になっているのかを映し出した。そこには・・・
「!! エー!!?」
ウルトラマンティガへ変身したエーが、ベリアルに攻められて窮地に陥っている様子が鮮明に映し出されていた・・・。
彼女の体に細く青白い拘束光線が巻き付けられ、苦しんでいる声が自分の耳に響く・・・。
「栄香は自分の父親を殺され、怒りに我を忘れてベリアルに挑んだんだが・・・。」「父親って・・・ギコさんが!?」
アヒャの興奮した質問に、セブンとレオはただ小さく頷くだけだ・・・。
「じゃあ、何で・・・何で親父達は助けに来なかったんだよ!!」「ゼロ! 落ち着いて聞け!」
レオは興奮しきった彼をどうにか説得しようとする。アヒャの怒りの矛先はベリアルではなく、いつの間にか自分の父親に変わっていた。エーが危ない目に遭っているのに、何故助けに行かないのかが理解出来なかったからだ。
そんな彼とは対象的に、セブンは冷静に彼の質問に答えた・・・。
「光の国が再び怪獣軍団に襲われ、俺達は今その鎮圧に当たっている・・・。だから今、お前に話しかけてるのはテレパシーなんだ。」
「本来俺達に当てられていた任務を、ダイナ達が受け持ってくれた。でもまさか・・・こんな事になるとは思いもしなかったんだ・・・。」
彼らの言葉に、アヒャは複雑な表情を浮かべる・・・。セブンは更に、暗い声で言葉を繋げた。
「俺達がもっと先を読めていたら、こんな事にはならずに済んだんだ・・・。ゼロ・・本当に済まない。だが、ベリアルを本当に倒す事が出来るのは、お前しかいないんだ。」「親父・・・。」
親子である二人の間に、更に気まずい空気が襲う・・・。
「・・・やってくれるな?」
暫く続いた沈黙を破って、セブンが再び問いかける。アヒャは視線を下に向けながら、小さく答えを漏らした。
「俺は・・・確かにエーを、この手で救いたい・・・。でも・・・」「・・・どうした?」
「自信がないんだ・・・。自分の手で、本当に彼奴を守りきれるのか・・・。俺が帰ってきても・・彼奴は俺のことを責めるかもしれない・・・。寧ろ、恨まれるんじゃないかって思うんだ・・・。」
気の強いアヒャとは思えない消極的な発言に、セブンとレオは心配な表情を見せる。彼の心はティガダークとの一戦で傷つき、すっかり自信を失っていたのだ。
がっくりと肩を下げるアヒャに、セブンはその肩に優しく手を置いて話し始める。
「しっかりしろ。いつもの気の強いお前は、何処に行ったんだ?」「・・・。」
「いいか、ゼロ・・・。確かに俺も、この星を守り続けられるか不安になったことがある。でもどんな時でも、俺達にはいつも見守り、一緒に戦ってくれた大切な人の存在があったんだ。」
父の言葉に、ゆっくりと顔を上げるアヒャ・・・。
「俺達にもいたように、お前にもいる筈だ。共に励まし合い、一緒に戦ってくれた、愛する人の存在が・・・!」
セブンに続き、レオも彼に自分なりの言葉をかける。
「人間も我々もみんな、不完全な生き物だ。時に残酷で、醜い事もあるだろう・・・。それでもこの世に生きる者は、互いに助け合って生きているんだ。それは、ゼロ。お前も例外ではない。」「レオ師匠・・・。」
「お前は今まで、エーに支えられ、励まされて生きてきた筈だ。今、そのエーがピンチに陥っている。今度はお前が、その手であの子を支える時が来たんだ。」
「自分の手で・・・エーを・・・!」
この時、彼の脳裏にエーを始めとする、今まで自分を支えてくれた大切な人々の表情が浮かんだ・・・。
彼女の両親であるギコとしぃや弟のタカラ、フサしぃ、学校の先生のフサ、警察官のぎゃしゃとモララー、モナー、つー・・・そして親友である、のー・・・
自分はこれだけ多くの人と関わり、助けられ、そして励まされて生きてきたのだ。今度は、彼らの危機を自分の手で救わなければならない。
支えを失った彼らを、この手で支え直さなければいけないのだーー。
「この世界を・・・俺が守る!!」
アヒャがそう言った次の瞬間、今まで真っ暗だった足元が突然、黄金色に輝き始めたーー。
「この光は・・・一体・・・。力が、漲ってくる・・・!!」
アヒャの驚きの声に、セブンが再び冷静な声で返答する。
「お前の精神の中で眠っていた全ての力が、覚醒したんだ。」
セブンの暖かみがある声に、アヒャは先程と違う自信に満ち溢れた顔で言葉を返した。
「親父・・・ありがとう。俺、彼奴を助けに行ってくる!!」「ああ・・・。必ず勝って、この世界を救うんだぞ!!」
アヒャは黙ってしっかりと頷くと、金色の光が溢れる地面から上を向き、全ての想いに答えるかのように大きく吠えた・・・
「うおぉぉぉぉぉ・・・!」
『ゼロォォォォォーーーーーーーーッ!!!!!!』
次の瞬間、病院の一角が金色に光りだし、一つの大きな光球を作り出す・・・。出来上がった金色の光球は、そのまま上空へと猛スピードで飛び上がっていった・・・。
一方・・・
「はぁ・・・はぁ・・・。」
ティガはベリアルに追いつめられ、カラータイマーの点滅速度が段々と上がっていた・・・。
反撃をしたくても、体に光の拘束具が巻き付けられて身動きが取れず、一方的に攻撃を受け続けている・・・。正に、『万事休す』な状態である・・・。
このティガの体に巻き付いている光線技は『ベリアルウィップ』といい、相手の動きを封じるだけでなくタイプチェンジ等の能力も無効化してしまうものなのだ。
パワータイプに変化しようとしても出来ないティガは、全身に走る激痛に苦しい声を挙げ続けていた・・・。そして、その苦しい声を聞き続けているのーやフサ達は、何も出来ずに眺めているだけの自分が悔しく、もどかしさに駆られていた・・・。
本当に何も出来ないのだろうか・・・自分達に、出来る事があるのではないか・・・。そんな気持ちが空回りして、タカラは何度もコスモプラックを掲げようとするが、『実力』という壁にぶつかり、結局変身できずにいた・・・。
彼らの心には今や『希望の光』が消え去り、『絶望の暗雲』が立ちこめていたーー。
「あぅっ・・・!」「よく頑張ったが・・とうとう終わりの時が来たようだな・・・!!」
ベリアルは身動きの取れないティガの腹部を蹴り跳ばし、ギガバトルナイザーの端を彼に突きつける。同時に、その部分に徐々にエネルギーが溜まっていく・・・。
彼は初代マンに向けて放ったように、ティガにもベリアルショットを打ち込もうとしていたのだ・・・。
(もう私も・・・ここまでなのかなぁ・・・。)
薄れかけた自分の意識の中で、ティガは自分がこの場でやられる覚悟を決める・・・。自分がやれるだけの事は、精一杯やった・・・。それでも、この闇の巨人にはかなわなかったのだ。どんなに足掻いても、無駄なことだ・・・。
もう、諦めるしかないーーと。
しかしどんなに考えても、ただ一つだけ心残りがあった・・・。
自分の身に何があっても、何時も笑顔で側にいてくれた、『恋人』の暖かくて優しい笑顔・・・。
守ろうと決意したのに、結局闇の巨人を前に倒され果たせなかった、『自分の初恋の人』との約束ーー。
あの彼の優しい笑顔を、せめてもう一度だけ見たかった・・・。
(アヒャ・・・。約束守れなくて・・ごめんね・・・。私、貴方のこと・・・『大好き』だったよ・・・。)
ティガが心の中でそう呟き、覚悟を決めた次の瞬間だった・・・。
「イヤァァッ!!!!」「!!!」
突然何も無かった空から、『金色に光る何か』がベリアルに『ウルトラゼロキック』を食らわせ、ティガの側から大きく突き放す・・・。同時に、あの頑丈だったギガバトルナイザーが今の一撃で、『粉々に砕け散った』ーー。
「!!?」
ティガやフサ達が驚く間に、ベリアルを蹴り跳ばした『金色の物体』は中から細い緑色の光線を発射し、ティガの体に巻き付いていた『鞭』を破壊した。
蹴り跳ばされたベリアルは怒りを露わにしながら立ち上がり、金色の光球に話しかける。
「貴様・・・何者だ! 姿を見せやがれ!!」「ベリアル・・・。俺の大切な人を、よくも追い込んでくれたなぁ・・・!!」
(え・・・っ? この声って・・・まさか・・・。)
何かに気付いたティガの前で、金色の光球は光を弱めながら、中にいる人物のシルエットを徐々に明かしていく。頭に付いている二本の突起物は見覚えがある・・・。
そして金色のベールが完全に消えた時、ティガやのー、そしてNCメンバー達は、一斉に驚きの声を挙げたーー。
銀色に赤と青の体表・・・光線技を吸収する銀のプロテクターの中央で青に輝く、台形のカラータイマー・・・額のビームランプに、頭に二本付いている、父親譲りの宇宙ブーメラン・・・。
植物状態に陥っている筈の『彼』が今、自分の恋人の目の前に立っているーー。
「忘れたとは・・・言わせねぇぞ・・・!」「・・・!」
「俺の名は、『ウルトラマンゼロ』! セブンの息子だ!!」
「! アヒャはん!!」「相沢・・・! 復活したのか!」「ゼロお兄ちゃん・・・!!」
復活したゼロの姿に、思わず声を上げるNCメンバー。先程まで植物状態だった彼が、変身した状態で目の前に立っているのだ。その驚きと喜びは計り知れない。『奇跡』と言って良いだろう・・・。
ゼロを取り囲んでいた金色の輝きは消えたが、彼の体は未だに金色に輝き続けている・・・。
このゼロの体に起きている変化は通称、『グリッターバージョン』といい、彼の『大切な人を守りたい』という熱い想いが最高潮に達した、『奇跡の形態』なのだ。故にこの形態になったウルトラマンは、一度も負けたことがない。
「ゼァッ!」「グァァ・・・!!」
ゼロはセブンと同じように右腕を水平に構えると、額のビームランプから緑色の光線『エメリウムスラッシュ』をベリアルに向けて放つ。父親譲りの光線技に、ギガバトルナイザーを失ったベリアルは呆気なく後ろへと弾き跳ばされた。
彼はベリアルが後ろへ倒れている隙にティガに振り向くと、右手を自分のカラータイマーに翳した後、ティガのカラータイマーへ自分のエネルギーを流し込んだ。暖かい光が、ティガの体に少しずつ流れ込んでいく・・・。
ゼロはエネルギーを流しながらティガに話しかける。
「エー、待たせたな・・・!」「アヒャ・・なの・・・?」
ティガの驚きが混ざった声に、ゼロは静かに答える。
「ああ。俺が眠っている間、本当によく耐えてくれたな・・・。ありがとう・・・!」
ティガは心の中で嬉しそうな表情を浮かべ、彼の言葉に静かに頷いた・・・。
彼の手から受け継がれる金色の光に、ティガの体もゼロと同じく徐々にかがやきを放ち始める・・・。同時に赤だったカラータイマーが青へと戻り、ティガはゆっくり彼の横に立ち上がった。
「大丈夫か? 今度は、俺達の必殺技で彼奴を倒すぞ!」「うん!!」
彼らは同時に頷き、再び立ち上がったウルトラマンベリアルに向けて構える。ベリアルは先程の光線技がカラータイマーに直撃し、紫色のまま点滅を開始していた。
よく見ると、彼のカラータイマーには攻撃の衝撃を物語るかのように無数のひびが入っている・・・。
「貴様ぁ・・・! 俺様の力を・・よくも!!」「知ったことか! てめぇが俺の大切な人の命を、奪おうとした罰だ!」
「何故だ・・・! 何故動けない筈のお前が、そこに立っているんだ・・・? その力の原動力は、一体・・・。」
ゼロは、ティガにエネルギーを分け与えながら話しかけた。
「エー、待たせたな・・・!」「アヒャ・・なの・・・?」
ティガの驚きが混ざった声に、ゼロは静かに答える。
「ああ。俺が眠っている間、本当によく耐えてくれたな・・・。ありがとう・・・!」
ティガは心の中で嬉しそうな表情を浮かべ、彼の言葉に静かに頷いた・・・。
彼の手から受け継がれる金色の光に、ティガの体もゼロと同じく徐々にかがやきを放ち始める・・・。同時に赤だったカラータイマーが青へと戻り、ティガはゆっくり彼の横に立ち上がった。
「大丈夫か? ・・・今度は、俺達の必殺技で彼奴を倒すぞ!」「うん!!」
彼らは同時に頷き、再び立ち上がったウルトラマンベリアルに向けて構える。ベリアルは先程の光線技がカラータイマーに直撃し、紫色のまま点滅を開始していた。
よく見ると、彼のカラータイマーには攻撃の衝撃を物語るかのように無数のひびが入っている・・・。
「貴様ぁ・・・! 俺様の力を・・よくも!!」「知ったことか! てめぇが俺の大切な人の命を、奪おうとした罰だ!」
「何故だ・・・。何故動けない筈のお前が、そこに立っているんだ・・・? その力の原動力は、一体・・・。」
「確かに俺は、お前のように力だけを求めていた時もある・・・。でも、今は違う! みんな、俺に大切な事を教えてくれたんだ! 本当の強さは『力』じゃない・・・『心の中』に有るんだってな!!」
ベリアルの問いに答えるゼロの顔がより逞しく、輝いて見える・・・。
彼は地球での生活で、今までに掴んだことのない大切な物を手に入れたのだ。仲間を想う本当の『優しさ』、最後まで諦めずに敵へ立ち向かう『勇気』、愛する人を救う本当の意味での『力』・・・。
そして地球での生活で積み上げてきた、『心の絆』もーー。
地球で学んだことの全てが彼に味方し、ここまで大きく成長させたのだ・・・。
「俺は今まで、地球の人間の優しさに支えられてきた・・・。てめぇにこの優しさを、壊させるわけにはいかねぇ・・・! 俺がこの手で、大切な人達を救ってみせる!!」
ゼロは体で輝いていた金色の光を両腕に集中させる。同時に、ティガは両腕を前方で交差させると、左右に大きく広げてエネルギーを集約すると・・・
「食らえ・・・!」
「「これで最後だ!! デュアァァァァァァァァァァァァッ!!!!」」
二人の光線技が合体した、『グリッターTZスペシャル』を放ったーー。
「!! ギャアァァァァァァァァァァーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」
二人の光線の直撃を受け、ベリアルの体は徐々に金色に輝き始める。そして・・・
ベリアルの体は光に耐えられなくなり、金色の衝撃波と共に爆砕したーー。
それは、遂に『光』が闇に打ち勝ち、この世界を救ったことを意味していた。
「やったぁ!!!!」「ティガ! ゼロ! いいぞぉ!!」「ウルトラマン! ありがとう!!」
町の中から様々な歓声が響きわたる中、二人は小さな光の球になりながら地上へと向かった・・・。
エーは自分の思い出の場所である、『石碑の丘』に降り立つ。しかし姿は、もうあの『猫』ではない。ベリアルを倒したことにより、町の人々の姿が『動物』から元の人間へと戻っていたからだ。
自慢の桃色の髪を風に靡かせながら、エーは今まで自分の隣にいた筈の人間を探して辺りを見回す。すると・・・
丘の上に立つ大木の下に、赤い短髪を風に揺らして立っている『青年』の姿を見つけたーー。
エーは緑色の瞳を輝かせながら、その青年の名を呼ぶ。
「! アヒャ・・・!」
黄色の瞳を持つその青年ーー『アヒャ』は自分の愛する彼女の声に気が付くと、顔に笑顔を浮かべながら彼女に返答した。
「エー!」
手を振りながら返答する彼に向かって、彼女は坂を駆け上がっていく。そして頂上に辿り付いたとき、彼女はアヒャの胸に飛び込み、嬉しさと喜びで一杯の顔を押しつける。アヒャはそれに全く躊躇することなく受け入れ、彼女を優しく抱き止めた。
久しぶりに感じるこの腕の感触・・そして、胸の暖かさ・・・。彼女は嬉しさの余り、押しつけている顔から涙をこぼした。
涙を頬に流しながら、エーは彼の胸の中で顔を上げる。
「会いたかった・・・ずっと、会いたかった! 助けてくれて・・本当にありがとう・・・!」
エーの言葉に、アヒャも感謝の言葉を漏らす。
「礼を言わなきゃいけないのは、俺の方だよ! 俺と出会ってくれて、ありがとう・・・。お前がいなきゃ、俺は彼処まで強くなれなかったんだ・・・!」「アヒャ・・・。」
「光を失っていた俺に・・お前が戦う力をくれたんだ・・・。本当に嬉しかったよ・・・。」
彼の言葉に、笑顔で小さく頷くエー・・・。
この時、彼女は改めて感じていたーーやはり一番安心する場所は、この彼の胸の中だ、と。
エーは彼の胸から一度離れると、そのままアヒャに一つの質問を投げかけた。
「でも、どうして此処まで来れたの・・・? アヒャはずっと、眠ってたんじゃ・・・。」「光の国からのテレパシーで、親父が俺の本当の力を覚醒させてくれたんだ。」「・・・。」
『親父』という言葉に、エーはいきなり悲しそうな表情になる・・・。それもその筈だ。自分の父親はもう、二度と帰って来ることは無いのだから・・・。
急変した彼女の表情に、アヒャは気持ちを察して声をかける。
「ごめん・・・俺がもっと・・・。」「・・・ううん。アヒャは全然悪くないよ・・・。あんな所で・・私が戸惑っていたのがいけなかったんだ・・・。」
エーは自分の涙を見せぬように後ろへ振り向くと、午後の太陽で染まる町並みを眺めながら、ゆっくりと自分の気持ちを述べる。
「お父さんは、死ぬ前に私に大切なことを教えてくれたの・・・。『自分に素直になって、大切な人を護るんだぞ』って。だから私は、お父さんのこの言葉を忘れないように生きたいって思うの・・・。」「エー・・・。」
彼はどこか寂しそうなエーの後ろ姿を見ながら、話を聞いていた。一回り小さな彼女の肩がまるで、自分に寂しい所を見せないように強がっているようにも見える。
父親を失って、耐え難い辛さを持っている筈だ。しかしそれでも、彼の前ではいつも健気で、笑顔な姿で居たかったのだ・・・。
既にエーの気持ちは、すっかり彼に見通されているのにも気付かずに・・・。
彼女は頬に流れ落ちていた涙を拭き取ると、苦笑いを浮かべながらアヒャの方へ向きなおす。
「もう・・この話はやめよ?」「それは・・・どうしてだ?」「ただ・・・寂しくなるだけだし・・・。」「・・・。」
すると、アヒャは突然エーの肩を強く抱きしめた。
「きゃっ!?」「バカ野郎・・・お前がそんなこと言うから、余計に心配するだろ!」「えっ・・・?」
「大丈夫・・・俺が一生、お前を護る・・・。死ぬまでずっと、お前の側にいるから・・・。」
彼の口から述べられた、一生を懸けて護るという『二度目のプロポーズ』・・・。
「アヒャ・・・。」「・・・どうした?」「・・大好き・・・。」
彼女はそう言うと、顔を赤らめたまま彼の胸の中から顔を出し・・・
あの時のように、自分の唇を彼の唇に寄せたーー。
甘く長いキスの後、二人は赤い顔のまま互いの目を見つめ合う。こうしているだけで何故か落ち着き、そして自分に素直になれる・・・。
もはや彼らは『親友』ではなく、互いに心が通った『恋人』として相手を見ていた・・・。
と、その時・・・
「栄香! ゼロ!」
丘の下の方から、聞き覚えのある男の声が耳に響いた。
「・・・? 今の声って・・・。」
まさかと思い、二人は丘の麓を眺めてみる。すると・・・
丘の頂上に向かって、ゆっくりと歩を進めている複数人の姿を見つけた。その先頭で、紺色の髪を持つ人間に肩を任せている、金色の髪が一際目立つ男性・・・
タカラと違い、エーと同じ『緑色の瞳』を持っているーー。
「・・お父さん・・・?」「ギコさん・・・!」
二人は信じられない気持ちで一杯になりながら、その男性ーー『ギコ』に向かって走り込んでいく。死んだ筈の人間が目の前で、しかも立って歩いている・・・!
謎が頭の中を駆け巡りながら、二人はギコに声を掛けた。
「お父さん!!」「栄香・・ゼロ・・・。二人とも、よく頑張ったな・・・!」「でも、何で・・・。お父さんは、あの後・・・。」
彼女の質問に、ギコの肩を持つ『モララー』が代わりに答えた。
「君の『弟』が、コスモプラックの光を使って蘇生させたんだよ。その分、体へのダメージが大きかったみたいだがな・・・。今は、しぃやモナー達と一緒にフサの家に待機させてる。」「そうだったんですか・・・。」
二人の後ろにいるフサが、さらに補足を入れる。
「これから病院へ行くところだったんだけど、こいつが君達に話がしたいってうるさくってさぁ・・・。」「ヘへへ・・・。」
笑ってごまかすギコに、エーが真剣な表情で一喝した。
「笑い事じゃないよっ!! お父さんが倒れて・・私・・・凄く・・・心配したんだからっ!!」「!」
エーの視界が、何故か徐々に潤んでいく・・・。瞳にため込んでいた涙が、こぼれ落ちる・・・。
「お父さんが居なくなったら・・私・・・どうしたらいいか・・・ぐすっ・・・。帰ってきてくれて・・本当に良かった・・・。」「栄香・・・。」
彼女の言葉に、ギコは何処か安心したような表情を浮かべてエーの左肩に手を乗せた。
「・・・心配かけて・・ごめんな。でも、もうお前なら一人でも生きていけるさ・・・。」「えっ・・・?」
「だって・・・お前にはもう『フィアンセ』が居るだろう・・・?」
「「ふ、フィアンセ!?」」
ギコの口から出た言葉に、エーとアヒャの二人は突拍子もない反応を示した。頬を赤らめながら、同時に顔を見合わせる二人・・・。ギコはそれに構わず言葉を繋げる。
「お前にはもう、自分を守ってくれる大切な人が居る・・・。それだけでも、十分だ。」「? どういう事・・・?」「栄香・・・。」
「父さんはもう・・お前達のことは認めてるんだ・・・。二人で仲良く・・・一緒に生きていくんだぞ。」
「えっ・・・?」
ギコは口に微笑みを浮かべると、何かを託すかのように視線を合わせる・・・。
この時、アヒャは視線からある言葉を感じ取っていたーー『娘を、お前に託そう・・・。その手で、絶対に護り抜くんだぞ。』と。
「ギコさん・・・。」「さ、病院へ行くぞ。」「ちょ、待って! お父さんは私達の告白、観てたの!?」「さぁな・・・。お前等が勝手に想像してな!」「ちょっと待ってよぉっ!!」・・・。
その時、彼らの後ろの方で、やり取りを静かに見守る二人の男性の姿があった・・・。一人は上着の胸ポケットに赤い縁のメガネを仕舞いこんであり、もう一人は左手にライオンの形をした指輪を填めている・・・。
「ゼロの奴、嬉しそうだな・・・。でも、本当にこれで良かったんですか?」
指輪を填めた男性が、もう一人の男性に話しかけた。
「我々が入る話ではない・・・。首を突っ込んでは気まずいことになる。それに、二人の顔を見てみろ。あれが私達が選択した答えだ・・・。」
そう言った男は、ギコ達の後ろで一緒に笑っているエーとアヒャの表情を見て、安心したような笑みを顔に浮かべる。
「『息子』が幸せになってくれる・・・。其れだけでも、私にとっては大きな幸せだ。」
「貴方らしい選択ですね・・・『ダン隊長』。」「『ゲン』。その呼び名はよせ・・・。私はもう、MACの隊長ではないんだ。」「私にとっては、まだ隊長ですよ。」
名前を呼び合った男性二人ーー『モロボシ・ダン』と『おおとり ゲン』の二人は、それぞれの変身道具である『ウルトラアイ』『レオリング』を構え直すと・・・
「そろそろ、帰るぞ。」「はいっ!」
「デュア!!」「レオォォ!!」
元の姿である『ウルトラセブン』『ウルトラマンレオ』に変身し、病院へ向かっていくギコ達を後目にして、『M78星雲・光の国』へと帰っていった・・・。
エピローグ 新たな旅立ち
ベリアルとの激闘から約三年半後・・・
とあるホールでは今日、ある人物の『結婚式』が盛大に行われていた。
式場内全体に張りつめた空気が広まる中、一番前ではある一組のカップルが誓いを立てていた。
神父は、白いタキシード姿になっている赤髪の男性に言葉を向ける。すらっとしたその男性の胸ポケットに見えるのは、赤と青の縁のメガネのような物・・・。
「汝、『相沢 珀作』は、『相沢 栄香』を妻として認め、一生を懸けてどんな事があろうと護り抜く事を誓うか。」「誓います。」
次に神父は、純白のウェディングドレスに、桃色の長い髪を持つ女性に向けて言葉を向けた。その顔の中で輝いている瞳の色は、深みのある透き通った美しい緑・・・。
「汝、『相沢 栄香』は、『相沢 珀作』を夫として認め、一生を懸けてどんな時も彼を支えていくことを誓うか。」「誓います・・・。」
彼らの返答に、神父は笑顔で頷くと・・・
「今ここに、両者の結婚が成立致しました。」
と、会場の人間達に向かって声をかける。
その瞬間、歓喜の声と共に盛大なる拍手が響き渡った・・・。
あのエーとアヒャが三年間の交際を経て、遂にゴールインしたのだーー。
少し顔を赤くして、照れ笑いをする二人。そして、それを迎える大勢の出席者達・・・。彼らの喜びが、会場内の張りつめた空気を消し飛ばしてくれた。
出席者の列の中にいる金髪の男性『ギコ』と、エーと同じ桃色の髪を持つ女性『しぃ』は、二人の新たな門出に和やかな笑顔で迎える。
「お母さん・・お父さん・・・。」
エーの小さな呟きに、優しく頷く二人。
他のNCメンバー達も、同様に頷いて送り出す。全員この日の為に、わざわざ予定を開けてきたのだーー。
彼女は彼らの頷きに、瞳に薄く涙を浮かべながら笑顔を返した。同時に、感謝の気持ちを込めて小さく言葉を呟く・・・。
「みんな・・ありがとう・・・!」
新しい『夫婦』として、新たに出発したエーとアヒャ・・・。
しかし、この『新たな旅立ち』をした者は、彼らだけではないーー。
翌日・・・
高く澄み切った、夏の大空・・・。こんなに晴れ渡った日は、空に向かって羽ばたきたいぐらいに気持ちが高ぶる。その澄み切った空を、太陽の激しい光が貫いている・・・正に真夏の陽気だ。
そんな夏の太陽が照りつけるこの小高い『石碑の丘』では、一人の少年が『宇宙』へ旅立とうとしていた・・・。
ギコと同じ金色の髪を持ち、しぃのように透き通った青色の瞳を持っている・・・。その彼の隣には、左腕に赤いブレスレットを装備した若い男性が立っていた。
見送りには、母親であるしぃと朱色の髪を持つ女性『つー』・・・そして、つーに抱かれている茶髪の小さな女の子が来ていた。しかし彼の親友である『フサしぃ』は、姿を見せていない・・・。
しぃはその少年に、心配な表情を浮かべて話しかける。
「タカラ・・・謝らなくていいの? 今ならまだ間にあうのよ?」「・・・いいんだ。僕が今謝っても、しぃちゃんは許してくれるはずがないから・・・。」
『タカラ』と呼ばれた少年は、しぃやつーに若干落ち込んだような表情を一瞬見せた後、すぐに笑顔に戻って言った。
「僕が地球に帰ったら、謝るよ。何時になるか分からないけど・・・きっとその時になったら許してくれるはずだから。」
実は昨晩に、タカラとフサしぃは大喧嘩をしていたーー。
彼はあの事件の後もコスモスとして、自分の父親達と共に地球を狙う怪獣や侵略者と戦い抜いていた。その功績が認められ、約半年前に『光の国』から正式に『宇宙警備隊』に入らないかという誘いが来たのだ・・・。
最初は突然の事で驚いたが、ギコや周りのみんなは反対することはしなかった。彼の夢にまで見た、『ウルトラ兄弟』の一員に成れるかもしれない。だから、このチャンスを逃したくはなかったのだ。
だが彼が『宇宙警備隊』に入るには、其れなりの正式な訓練が必要だ。つまり其れは、彼が故郷である『地球』を離れ、『M78星雲・光の国』へ旅立たねばならないことを意味する・・・。
タカラは報告を受けてから約半年間悩み続け、自分の答えを出したーー『一人でも頑張れる・・・。光の国に行って、一人前のウルトラマンになるんだ!』と。
・・・その事を、出発前日にフサしぃに告白したのだ。
ーーフサしぃちゃんなら、僕のことをすぐに分かってくれる筈だ。きっと、明るく送り出してくれるに違いない。ーー
そうタカラは思っていた・・・。しかし、その彼の甘い予想は大きく外れた。彼女が返した言葉が、心に傷がつく程厳しかったのだ。
『ずっと一緒にいるって、約束してくれたよね? 何で私の側にいてくれないの!? タカラ君の、大嘘付きっ!!』
(まさか・・あんな事になるなんて・・・。)
昨晩言われた言葉が彼の頭の中を駆け巡り、心の中をきつく痛めつけていた・・・。
タカラが昨晩までの事をくよくよ考えていると、隣にいた赤いブレスレットを持つ男性ーー『ヒビノ ミライ』がタカラに話しかけた。
「タカラ君。準備はいいかい?」「え・・・? ああ、何時でも大丈夫です。」
上の空だったタカラの行動を見て、しぃが心配する声をあげる。母親として、まだ十歳ほどの彼を宇宙へ送り出すのは、とても不安だ。しかしそれでも、我が子の可能性にかけようと考えて、苦渋の決断をしたのだ。
「タカラ・・・。貴方が辛くなったら、何時でも帰ってきて良いからね・・・。ずっと、待ってるから・・・。」「お母さん・・・。」
母親の優しい声に、タカラは思わず泣きそうになる。この声も暫くは聞けない・・・。しかし、ここはグッと我慢だ。旅立つ前に、泣いてはいられない。
「・・・行ってらっしゃい。頑張るのよ!」「うん!」
「さぁ、フーちゃんもタカラお兄ちゃんに、バイバイしようか。」「うん!」
つーに呼ばれたその小さな女の子ーー『フー』は彼女の手を掴みながら、タカラに笑顔で挨拶した。
「タカラお兄ヒャン、バイバーイ!」「うん! またね!」
この『フー』とは、事件後につーとフサの間に生まれた女の子で、本名は『藤沢 楓香(ふうか)』と言う。あの時、つーのお腹に入っていた赤ちゃんだ。
フサに似た茶色を持つロングヘアに、つーから遺伝した朱色の瞳が特徴で、名前の一部は『エー』から貰っている。
まだ小さいのであまり呂律が回らないが、それでも彼女なりに一生懸命タカラを送りだそうとしていたのだ。
彼らのエールにタカラは笑顔で頷くと、自分の大切な変身アイテムである『コスモプラック』を、天高く掲げる。同時に、ミライは左腕に赤いブレスレットーー『メビウスブレス』を空に掲げ・・・
『コスモォォーーース!!』『メビウーース!!』
二人はそれぞれ『ウルトラマンコスモス』『ウルトラマンメビウス』に変身する。そして・・・
「テェアッ!!」「シュアッ!!」
彼らは地上から静かに飛び立ち、光の国へと空を進み始めた。そんな彼らの真下で、しぃ達が大きく手を振っている・・・。
タカラの、夢への長い旅が今、幕を開けたのだーー。
故郷の大地が、段々と遠ざかっていく。この大地とも、しばしのお別れだ・・・。
と、その時・・・眼下の大地から、『ある少女の声』が耳に響いた・・・。
「タカラ君ーーーっ!!!」「!」
眼下の大地を走っている、茶髪に青い瞳を持つ『少女』・・・。間違いない・・・。
『フサしぃ』が、宇宙へ向かって飛んでいる彼に、大きく手を振っている・・・!
「タカラ君っ!! 私は、タカラ君が教えてくれた『優しさ』を、絶対に忘れないよっ!! だからタカラ君も・・・私のことを、忘れないで!!」「しぃ・・ちゃん・・・。」
フサしぃは息を切らしながらも走り続け、彼に必死に自分の気持ちを伝えようとする。
「タカラ君が夢へ向かって頑張るように・・・私も、夢に向かって頑張るからっ!! ずっと・・ずっと、応援してるよ!!」
彼女が叫ぶ中、二体の銀色の巨人は太陽の光を浴びながら、宇宙へとその姿を消した・・・。
フサしぃは彼らが最後に見えた場所で立ち止まり、息を整えた後、空に向かって大きな声で叫んだ・・・。
「タカラ君ーーーっ!!! さようならぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!!」
最愛の友人へ向けて放った最後の言葉は、そのまま自分の心へ響き、大空を通して、宇宙へと突き進む彼の心にも、響き渡っていった・・・。
愛する人と結婚し、新たな生活を始めた『ウルトラマンティガ』こと『相沢 栄香』・・・。
自分の夢を追って、無限に広がる宇宙へと旅立っていった『ウルトラマンコスモス』こと『擬古河 宝』・・・。
二人はそれぞれの場所で、それぞれ『新たな旅立ち』を経験したーー。
彼らがこの先、何を経験するかは未知だ。絶望したり、挫折を経験することもあるかもしれない・・・。
しかし、決して案ずる事はない。何故なら彼らには・・・
『愛』という頼もしいパートナーが、いつも心の中を照らし続けてくれるからーー。
人間もウルトラマンもみんな、きっとそれに支えられて生きているのだろう・・・。
ーーこの世の中に生きる者は、全て支え合って生きている。その中に、我々人間も例外なく含まれていることを、私達は決して忘れてはならないーー。
小説第三弾 完 (小説第四弾へ続く)
EDテーマ:
『High Hope』(映画ウルトラマンコスモスVSウルトラマンジャスティス THE FINAL BATTLEより)
歌: Project DMM
1.
沢山の日々君と一緒に どんな時にも過ごしてきたね
君が伝えた優しさの意味 僕の心の中にあるんだ
いつかもう一度 君に会えるかな・・・
厚い雲達空を隠して 僕らの行方遮ってゆく
顔を覆って泣き出しそうな そんな時でもいつも消えない
『希望の光』 『勇気の誇り』があるんだ
僕はこれから 一人で行ける
立ち止まりもせずに ずっと君の思い出と
愛されたように 愛してあげよう
『大切なもの』『許せる力』 どうか君の心に・・・
2.
冷たい風が微笑み消して 明日の行方遮ってゆく
足を止めたら負けてしまいそうな そんな時でも諦めはしない
大切な人を 僕は護りたいから
愛はいつでも 君の近くで
眠れぬ夜さえも いつもそっと微笑んでる
戸惑いながら 明日も行こう
だけど何時でも 僕がいること どうか忘れないで・・・
Don't give up! Never give up! Don't give up!
Don't give up! Never give up! Don't give up!...
(台詞)
『例え、宇宙の星屑になろうとも、希望は君と共にある。だから、君自身を信じて。そして、僕を信じて・・・。』
僕はこれから 一人で行ける
自分の中にある 強い『夢』に魅せられて
愛されたように 愛してあげよう
『大切なもの』 『許せる力』 どうかずっと信じて・・・
(転調)
僕はこれから 一人で行ける
立ち止まりもせずに ずっと君の思い出と
愛されたように 愛してあげよう
いつも一緒に ずっと一緒に どうか僕の心に・・・
ずっと・・・
君の心に・・・
元ネタ一覧
映像関連:
「NIGHTMARE CITYシリーズ」(2003年・2005年 みーや氏)
「ウルトラマンシリーズ」(1966年・67年・72年・74年・96年〜98年・2001年・2006年〜2009年 円谷プロ・松竹・ワーナーブラザーズ)
「2ちゃんねるAA」
ゲーム:
「ウルトラマンFighting Evolution 3、Rebirth 」(2003年〜2004年 バンプレスト)
小説制作:
TKY◆tMlvS8ak8E
訂正
>>481と
>>482に同じ物が在りますが、
>>482の方をご覧下さい。お見苦しいところ、大変申し訳御座いません。
作者から
制作開始から約四ヶ月・・・。小説第三弾、ついに完結です。
第二弾よりもさらにパワーアップした私の小説・・・読み手の皆さんは、どう受け止められたでしょうか。
私的には、癖だった台本書きをようやく克服した事から始まり、書く回数を重ねていく毎に、戦闘のリアリティーや会話表現等をより分かりやすい形で書き表そうとしましたが、如何でしたでしょうか・・・。
また新たな試みとして、ドラマ風に話毎に物語の区切りをつけるようにしました。今後の小説も、この形で書いていこうと考えています。
とは言え、まだまだ変換ミス等の細やかな失敗が見受けられると思います・・・。本当に申し訳ありません。
なお先月の発表通り、この下から続く小説第四弾も前作の設定を引き継ぎ、ほぼ同じキャラクターで書いてこうと思います・・・。しかし新たな元ネタ追加など、自分なりに変化は加えるつもりです。
この先益々忙しくなり、更新が少なくなる時もあるかと思いますが、それでも書き続けていきたいと思うので、どうか応援をよろしくお願いいたします・・・。
2010年2月22日 TKY◆tMlvS8ak8E