リレー小説 美少女戦隊☆レイジィバツース!

このエントリーをはてなブックマークに追加
922ほんわか名無しさん:03/08/30 03:54
第68章 >> Gravity Of Love
923ほんわか名無しさん:03/08/30 04:08
広末堂メダルキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
924ほんわか名無しさん:03/08/30 04:36
(※>>140参照)
麻衣子は気がつくと、長い時間の中で、取り残されたかのように佇む廃工場の中にいた。
その廃工場の中は薄暗く、地面には厚く埃が溜まっていた。
静寂と緊張に包まれ、人を寄せ付けない、まるでそこだけが異世界で
あるかのような錯覚を覚える。
その殺伐とした雰囲気から、廃工場の中へ足を踏み入れる事をためらう。
だが、麻衣子はすぅっと軽く息を吸いこみ、奥へと進んで行く。
薄暗く広い工場内に麻衣子の足音だけが響く。
しばらく進んで行くと、天井に穴でもあいているのだろうか、
柔らかな光が一筋、この暗い廃工場の中へ射していた。
その、まるでスポットライトかのような光の中に一人の少女が
コチラをジッと見つめ、立っていた。

エメラルドの輝きをその瞳に称えた少女、
紛れも無く幼年期のリリスに違いなかった。
「リリス…?」
リリスは警戒するような眼差しで麻衣子を見据え、半分泣き声混じりに言葉を絞り出した。
「……おねえちゃん、ママは?ママは何処?」
麻衣子は腰を落としリリスの視線まで顔を近づけ、優しく語り掛ける。
「お母さんに会えなくて寂しい?」
「うん。」
「そう…。」
麻衣子はギュッとリリスを抱き締めた。

「おねえちゃんと、あなたの大切な人からの伝言。」
「なぁに?」
「寂しさに負けちゃダメ。何があっても、心が折れない限り何でも叶うのよ。」
「心が…?」
「うん。何があっても……だよ。あなたはあなたの時間を生きて。」
「……ありがとう。」

少女の声とは別に、心の中から恋しい彼女の声が重なったような気がした。
925ほんわか名無しさん:03/08/30 05:01
"ワクチンの注入を確認。システムが正常に復帰します"

麻衣子の脳内に突如、けたたましい警報が鳴り響く。
彼女の周囲の景色が瞬間瞬間に千変万化する。
静寂が訪れたかと思うと、辺りは一面の暗闇。
崖下では闇にトグロを巻くおぞましい波の飛沫と潮流が木霊している。
星々は不自然な大きさで漆黒の闇に散りばめられていた。
惑星の一つが異常なまでに接近している。

麻衣子の前方には、いつのまにか黒いレイジィスーツを纏った彼女の分身"ジ・エンド"が佇んでいた。

「何者かがウィルスを無力化するワクチンを注入していたようだ。」
「ええ、それで?」
「何かがきっかけでワクチンが活性化した。ヴォイドメモリーは現在選択を迫られている。」
「再起動か、続行か…?」
「現行の世界システムを続行する場合、フロー部分を補う誰かの代替メモリーが必要となる。」
「……そっか、もう帰れないのかな…。」
「そう、ヴォイドメモリーの他に時系列メモリーを持つのは、ここでは私たちだけ。」
「あなたは何者なの?」
「あなたの鏡像。あなたの奪われ行く時間。あなたの時間へ終わりを告げる死神。」
「つまりあなたとわたしのどちらかが…。」
「過去へ還りたいか?」
「…帰りたい。みんなのところへ…わたしのいるべき所へ。」
「ならば確率に委ねよう。ここで生き残ったものが、過去へ帰ることが出来るだろう。」
「勝負の方法は簡単だ。」
エンドは遥か水平線の方向を指差した。
「彼方に見える外部コネクターにタッチしたものが過去に帰ることが出来る。」
異常接近した巨大な惑星の方向で、灯台のように回転する
太いビームのパルサーが二対、渦巻く雲を闇を裂きながら照らし出していた。
「もちろん、お互いに妨害してもいい。」
「ちょっと待って、あなたが過去に戻ったところでどうなるのよ。」
「言っただろう。私は"The End"だと。帰る時間は選ぶことができるし、ある程度の書き換えも可能だ。」
「つまりあなたの帰還は、私の死と等価ってこと?」
「あなたと私は砂時計の両対。無への帰還こそが私にとっての生なのだ。」
そう言うとエンドは、紫に輝く巨大なブレードで足場を十字に斬り、空へ飛び出した。
轟音と衝撃波が襲い、断崖が一瞬にして崩れ去っていく。
麻衣子はアノーマリーの力を使って瓦礫の時間を止めながら宙に逃れた。
(杞憂ちゃん、お願い、力を貸して・・・。)
チップを優しく握り締めた瞬間、光の幾何学模様を描く翼が背中に広がった。
「・・・そんな、信じられない。」
麻衣子が未来へ旅だった後のキャンパス・ステラ、
伶佳達もまた、ももの姿を借りたイルミナティの神官から真実を告げられていた。
アイリスが怪訝そうにももに質問を浴びせている。
「矛盾だらけじゃない!」
「そういうものなのだよ。真実とは関わる角度でどんなものにも変換される。」
「だけど、それを生成する原理はたった一つ。」
リュシオンが口を挟んだ。イヴは羽を纏って蹲り、何かを祈っている様子だった。
アイリスが再びももに食い下がろうとする。
「だいたい、オリジナルの世界はどうなったの?」
「外惑星が軌道をずらして衝突したようだ。」
「もしこの世界が完全なコピーだったら、同じ終末を辿るんじゃないの?」
「・・・そういうことになる。しかし、システムの発展進化次第では回避できる可能性もある。」
「現にレイジィスーツのテクノロジーは、この世界ならではのものだから。」
百合子はそう言いながら装置から歩き出てくるなり、レイコのキツイ抱擁を受けとめる。
「宇宙人とか銀河連邦とか、その辺の連中は何者なわけ?」
「恐らくシステム外からの第三種アクセスだ。どこかの外宇宙となんらかの仕方でリンクしているらしい。」
「先代種族っていうのは?」
「システムのベースになったプログラムの人工生命体がバグ化したものだ。」
「あらゆるプログラムにバグは偏在する。その修正、監視ツールがイルミナティだったのね。」
「・・・どんな現実がそこにあろうと、私達は私達の世界で生きていくしか無いのよ。」
伶佳がもうウンザリだといった様子で呟いた。
「麻衣子は帰って来るんですか?」
「それだけはわからない・・・。あそこには無限の時間が流れている。方法はあるだろうが・・・。」
「だったら大丈夫。麻衣子は絶対に諦めたりなんかしないもの!」
「いつも言ってたわね。心が折れない限り、絶対に願いは叶うんだって。」
「綺麗言だな。どうにもならないことだってあるだろう。」
人々が口々に言う中、伶佳はそっと両手を組し、祈るように目を瞑った。
(麻衣子・・・私の願いは・・・。)
928とりあえず保守:03/09/03 18:45
金色に輝く翼を広げた麻衣子の姿は、ゆっくりとスピードを上げ
やがて一条の光の線になる。
その横を闇の線を描いた麻衣子の影が追走する。
光と闇は絡み合い、螺旋を描きながら共に一つの点を目指す。
929ほんわか名無しさん:03/09/04 12:06
麻衣子の影であり、分身であるエンドは、横に並んだ麻衣子に容赦ない太刀を浴びせようとする。
が、麻衣子は前方に推進しながらも的確に攻撃をさばいた。
エンド「私にはあなたの時間が流れこむ。全ての動きを予測し受けとめることが可能だ。」
麻衣子「じゃぁどうしてトドメをさせないのかしらっ?」

二人は渦巻く闇雲を裂いて、外部コネクターと思しき巨大なタワー状建造物に接近した。
頂上が神々しくライトアップされている。その中央に"現実"へ帰るためのハッチが設備されていた。
エンド「それはあなたがセキュリティ・システムを突破できた答えでもある。」
麻衣子「彼女達は飛龍の動きが読めなかったわ。」

激しい攻防を繰り返しながら、複雑な機構を纏うタワーを今度は垂直に昇り始める。
二人は水平方向に突き出した整備用デッキらしきところに着地すると、
お互いに身構えながら羽を落ちつけた。
930ほんわか名無しさん:03/09/04 12:07
エンド「時間の本質に関わる問題だ。」
彼女のレイジィスーツの両翼が斜め方向に鋭く突き出し、戦闘用フォームを取り始めた。

エンド「この世界は一枚の静止した絵画であり、神の記したフォーミュラ。決して動かない。
    時を刻むという感覚は、その型枠にエネルギーが注がれる過程で生じる。
    その正体は他でもない、"存在"を支える量子的準衣であり、観察者であり、被観察物そのものだ」

麻衣子「でも、それ自体を上書きすることは可能だったわね?」
エンド「システム自身、またはシステム外からの干渉が可能であれば。そしてそれは実際に起こる。」
麻衣子「それは・・・私達の存在自体がシステム外と相互作用しあっているから・・・。」
エンド「飛龍は時間の刻み方を操作する。それは物理的にシステムと遮断されたことと同じ。」
麻衣子「決定した未来なんて存在しない。私達は常に一瞬一瞬でその真価を試されるのね。」
エンド「答えを決めたか・・・。刹那の谷間には、無限の時間が顎を広げている。
     そこをどう跨ぐかは、その瞬間に至るまでは選択できない。」

麻衣子「過去のどの瞬間も、今のこの一瞬も、全てが永遠に燃えて輝き続ける・・・。その瞬間だけの存在。」
エンド「無限の狭間に還るか、再び振り子に吐息を吹きかけるか・・・。」
エンドが飛龍の呼吸法を発動する。
麻衣子はただ黙ってその様子を見守っていた。
931ほんわか名無しさん:03/09/05 16:35
星に接近し過ぎた惑星のせいで、
電荷のバランスが崩れたのか、
雷が海面から天へと複雑な軌道を描いて駆け巡る。
闇雲と星空を貫くタワーと、その頂上で回転する
双方向のビームが斜めに傾き始めた。
重力の影響であらゆるものが宙に浮き始める。
麻衣子とエンドは崩れはじめたタワーで、微動だにせず睨み合っていた。
「ここからだと、お互いに一瞬であそこに辿り付ける。」
「勝負は一瞬ね・・・。」
だが、麻衣子は特異点も飛龍も使うつもりは無かった。
相手の手の内を読めないのなら、逆にそれを利用する手もある・・・。
タワー上部のコネクターが天上のリングのように輝き、
光と闇の双方を誘っていた。
932ほんわか名無しさん:03/09/06 07:09
エンドが鋭い視線で麻衣子の瞳を見つめた途端、突然精神に違和感を生じ始めた。
「な…なに?」
麻衣子はデッキに蹲る。
「言っただろう。私とあなたは鏡像同士……。」
麻衣子の精神がエンドの精神波と不協和音を奏で、彼女の心を闇の方向へと引き摺りこむ。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!」
記憶と感情がズタズタに引き裂かれ、カオスの渦を巻くように彼女の精神を侵食する。
「あなたの知らないことが、わたしにとっての真実となる。一緒に無へと還ろう…」

エンドは優しく麻衣子に手をくべると、彼女は何かに操られるかのようにその手を握った。
瞳はもはや何処にも焦点を結んではいない。彼女の心は闇と無秩序に支配された。
エンドが黒いウィングを広げ、麻衣子を抱いてタワー頂上の輝くコネクターを目指して飛び立った。

(……光を見て。)

虚ろになった麻衣子の心の中で、リリスの声が囁いたような気がした。
933ほんわか名無しさん:03/09/06 07:38
第69章 >> Touch the Sky Reprise.
934ほんわか名無しさん:03/09/06 08:16
「う…ん……。」
目を覚ました麻衣子の目に、見慣れた光景が飛び込んだ。
「こ、ここは……?」
紛れも無い、彼女は寮の自分の部屋のベッドに身を包んでいた。
時計は深夜2:00を回っている。ふと、すぐ背後で誰かの安らかな吐息を耳にする。
「え、杞憂ちゃん?!」
二人は一緒のベッドに並んで横になっている。
間違い無く、あの合唱祭の前夜の時間に違いなかった。
ただ一つ違うところがあるとすれば、それは杞憂が安らかな寝息を立てていることだけだった。
「な、何が起こったんだろ…。」
麻衣子は杞憂の方へ向き直り、彼女の天使のような寝顔をじっと見つめる。
すぐに自分の身に起こったことなんてどうでも良くなった。
麻衣子の瞳から涙が横に零れ出す。何度この時間に帰りたいと思ったことだろう。

「だけどここは……。」

目と鼻の先で、彼女がパチッと目を醒ました。

「麻衣子ちゃん、泣いてるの?」
「ごめん…ごめんね。杞憂ちゃん、ごめん……。」
「どうしたの?ギュッしてあげるからね。ねぇ、どうしたの?」

麻衣子は杞憂の懐に優しく抱かれながら、嗚咽に身を震わすことしか出来なかった。
935ほんわか名無しさん:03/09/06 14:42
時計が夜中の三時を回り、秒針で2種類の音を交互に刻む。
今夜があの夜ならば、本来はリリスがこの部屋を訪れるはずだったが、
とうとう彼女が部屋の扉を開けることは無かった。
ひとしきり泣き止んだ麻衣子は、まだ杞憂の温かい胸の温もりを一身に受け止めていた。
杞憂はもう何も聞かずに麻衣子の髪を優しく撫でている。

麻衣子「・・・ね、」
杞憂「ん、なぁに?」
麻衣子「杞憂ちゃんは、大切なものを失ったことがある?」

麻衣子は切なげに顔を杞憂の方を向け、腕を手前に置いた。
杞憂はキョトンとした様子で、そんな彼女の瞳を覗きこみ、目を瞑って柔らかい笑みをこぼす。

杞憂「あるよ。」
麻衣子「・・・もしそれを取り戻す為だったら、何かを犠牲に出来る?」
杞憂「どうして?失ったものっていうのは、もう二度と戻らないものじゃない?」
麻衣子「二度と・・・。」
杞憂「そう、だから・・・」

杞憂は麻衣子の背中に手を回し、ギュッと身体に引きつけた。

杞憂「麻衣子ちゃんのこと、失いたくない。」
麻衣子「私のこと、好き?」
杞憂「うん。」

言葉と身体の行間を、時を刻む二音のリズムがただ無機質に満たす。
936ほんわか名無しさん:03/09/07 09:32
蒼い薄明かりに浮かび上がる水槽に、小さな水泡がポコポコと音を立てる。
湿った暗がりと光彩の中で、二人は何も言わずに見詰め合っていた。
麻衣子は徐に杞憂の手を取り握り締めた。杞憂も力強く握り返す。
「もう後悔したくない…。だけど……。」
「…迷ってるんだね。」
杞憂が切なそうに切り返した。麻衣子は俯いて再び声を震わす。
「だめ…。私には選べないよ。」
「心に聞いてみて。麻衣子ちゃんならきっともう答えを見つけてるはず。」
麻衣子は杞憂の顔を見上げ、何かを引きとめるように手を握る力を一層強めた。
「…わからないよ。私そんなに強くない。私だって挫けたいの!」
再び泣き伏す麻衣子を、杞憂が優しく抱きとめる。
「挫けたっていいじゃない。私達がついてるから。」
「……。」
「ずっと一緒だよ。」
「何があっても?」
「何があってもずっと。」
「ずっと一緒……もう、後悔なんてしない…。」
「愛が後悔に変わるんじゃなくて、後悔が想い出を変えるの。この瞬間はずっと変わらないよ。」
「うん。この気持ち、絶対に忘れない。」
麻衣子はおもむろに立ち上がり、窓際に立つと、カーテンを思いっきり開けた。
宝石を散らしたような満天の星空がそこに広がっていた。

「……麻衣子ちゃん?」

杞憂は不思議そうな表情をしている。麻衣子は窓を開け窓枠に身を乗り出すと、
涙に濡れた笑顔で左手を杞憂に差し出した。

「ね、一緒に行こう。」
937ほんわか名無しさん:03/09/08 19:46
|_, ,_
|´-´) ・・・ (笑)
938濡れ猫:03/09/10 17:15
杞憂は差し伸べられた手を優しく包み込み、天使のように微笑んだ。
星光が彼女の顔に蒼白い陰影を彫っている。
「何処までも一緒に・・・。」
麻衣子の背中に再び大きな、
今度は白い羽毛に覆われた翼が広がった。
杞憂を抱かかえ、星々が狂ったように乱舞する空間に飛び出す。
天球を覆い尽くすその光はまるで、
あたかもその律動が響かせる宇宙で最上の音楽を奏でるように
彼女達の永遠に続く幻想を祝福していた。

過去の全ての瞬間が、無限に続く時間に捕らわれる。
想い出はいつしか遥かな軌道に乗って
叶えられなかった可能性の一つ一つを巡って
実現されなかった世界を、その夢の彼方に映し出す。

だけど、抗えない現実こそが、時の果てにあるもの。
心の中で彼女が語り掛ける。

「目覚めよ。」と。
939ほんわか名無しさん:03/09/11 11:29
第70章 I'll meet you there.
940ほんわか名無しさん:03/09/11 12:02
あの戦いから数週間を経て、学園の運営はようやく元の軌道に納まりつつあった。
レイジィバツースや当事者を取り巻く全ての陰謀が白日の元に晒され、
事後処理はフランスの機密機関サード・アイ・ブラインドの管理下に置かれ、
厳密な証言や調査を基に、各種事実調整と断罪が行われようとしていた。
イヴや神官、イルミナティはその姿を暗まし、ももは再びその快潔な陽気を取り戻しつつある。
神官は去り際にこう語った。

「イルミナティを輪廻の環から解き放つ。」

リュシオン率いるシュトフ・アッセンブリーも差し押さえられ、
黒田重工鰍ニの癒着が疑われている七老会にも捜査のメスが入る。
社長である黒田獣騎は、自ら進んで数々の陰謀に関わる証言をするという。
一方、学園側の関係者もほとんどが調査機関の監視下にあり、
校長以下十数名の幹部達が現在も厳しい取調べを受けている。
レイジィバツースに関わるテクノロジーも全て押収され、
隊員達、とりわけ成長期の少女達は入念な検査、療養生活を強いられた。
───そして一夏が過ぎようとしていた・・・。

一人の少女が、爽やかな風が吹き抜ける海岸の小径に佇んでいる。
蒼い空と流れる雲、遥かな水平線の彼方に瞳を凝らすその少女は、
深呼吸をしながら両手を大空に掲げ、記憶の中の会話を呼び起こした。
・・・こうしてるとね。風の声が聞こえるのよ
・・・ふーん。イルミナティって不思議な力を持ってるのね。
・・・違うわ。誰にでも出来ることよ。
・・・わたしも?
・・・その気になって、心を開けばいいだけ。
・・・こう?
・・・うん。こうやって・・・

少女は口元にクスッと微笑みを浮かべ、懐かしそうに呟いた。

麻衣子「うん。聞えるよ・・・。」
941ほんわか名無しさん:03/09/12 08:50
澄み渡った空の彼方から、海風がかもめの鳴声を運んでいた。
麻衣子の瞳に反射した海と空、二つの蒼のコントラストに一点、
眩い太陽の光が差し込む。遥か遠い世界から打ち寄せるさざ波が、
彼女の耳と心に調和のとれた波紋を描いた。

「ここにいたのね……。」
伶佳が麻衣子の背後から語りかけた。

「ええ、こんなに晴れたのは久しぶりだから…。」
伶佳は彼女の透き通った声の中にどこか寂しげな翳りを聞き取ると、
なるべく優しい表情と声色を心掛けるように、麻衣子と向き合った。

「ほんと、清々しい朝ね。」
伶佳はうんと身体と腕を目一杯伸ばし一つ欠伸をしながら、麻衣子の傍に腰を降ろした。
日光と下面のタイルに反射した陽気が、ポカポカと二人を照りつけている。

「…レイジィバツースの再結成が決定したそうね。」
「うん。」
「あなたは大丈夫なの?」
「え?どうして?」
「どうしてって…。ショックを受けている仲間も多いわ。それにあなただって…。」

麻衣子はにこやかに立ちあがりながら、海に向って大声で叫んだ。
「だいじょーーーーぶーーーーーーーーーーーーー!!」
「は?」あっけにとられる伶佳。
「うん、元気だよ。私はしっかりしなくちゃ!」
麻衣子は伶佳を振り返り、眩しい笑顔を送った。
942ほんわか名無しさん:03/09/14 12:53
保守
943ほんわか名無しさん:03/09/15 06:04
「麻衣子…。」
伶佳はただ心配そうに手を組み、海へと向き直る彼女の背中を見送るしかなかった。

…私は知ってる。あなたの心がまだ闇の中にあることを。
あなたは大切な人を失い過ぎた。決して拭い去ることのできない悲しみを背負って、
何の為に戦うというの?その先には絶望しか無いというのに、彼女はどうしてあんなに…。

伶佳は思わず麻衣子を背中から抱き締めていた。

「ちょっ、伶佳ちゃん、もう!それってクセなの?」
笑って振りかえった麻衣子は、伶佳がボロボロ泣いているのに気付き言葉を失った。
「麻衣子、もううるさいこと言わないから、一つだけ約束して!」
「な、何?」
「あなたは一人じゃないって、絶対に忘れないで……。あなたは一人じゃない…。一人じゃないよ。」
「わたし…わたしは一人じゃない……。」

胸の前に組まれた伶佳の腕を優しく握る。
麻衣子の虚ろな瞳に少し暖かいものが差し込んだようだった。

…わかってる。人間は皆一人なんだって。何かに打ちひしがれたって、翼を折られたって、
その痛みや哀しみを超えるのも、それに負けるのも全て自分次第。人は自らの幻想の中に生きている。
だから心が折れない限り、諦めない限り、たとえ何が起こっても終わってしまうものなんて無いんだ。
自分が生きるこの現実は、私自身が描き出してきたもの。孤独が私の力の源だった。

……だけどわかった。理屈なんて無い。私たちはみんな、ここにある暖かいものの為に駆りたてられるんだ。

麻衣子はギュッと胸を鷲掴みにして、遥かな空に天輪を架ける太陽を仰ぎ見た。
944ほんわか名無しさん:03/09/15 14:32
〜イルミナティの海底神殿〜

冷たく蒼い空間を、輝くクリスタルの星宮が晧々と照らし出している。
海水は神秘的な力によって、その祭壇の空間を隔てる神々しい壁となっていた。
二人の女性が、祭壇の中心に置かれたクリスタルの前に立っている。

リュシオン「これがイルミナティの残した最後の遺産なのね・・・。」
イヴ「神官はシステムに回帰する前に言ったわ。運命には希望も絶望も抱く余地は無いと。」
リュシオン「だけどこれを解放することが何を意味するのかわかる?」

クリスタルは厳重に封印が施されている。
その凍てつく結晶の中に、裸の幼女が一人、冷たい寝顔を称えていた。

リュシオン「ラヴィナス・・・。幾億の希望と絶望を飲みこむ精霊・・・。」
イヴ「リリスは・・・最後に手に入れたの・・・。」
リュシオン「?」
イヴ「何千年もの時間を生きて、何かを理解して。それでもその答えは、水のように手の中をすり抜けて。」
イヴは少女が眠るクリスタルを指で愛しそうになぞると、その指先に法力を集め始めた。

イヴ「気付いたの。答えはきっと何処にも無いんだって。わからないものを追い続けるから、心は動き続ける。」
リュシオン「終末は近い・・・。人々がどう生き、何を繋ぐのか、それを試すつもりなのね。」
イヴ「終末なんて些細な問題。人が真に戦わなければならない相手とは、自分の感情以外の何者でもない。」
封印がささやかな光と音を持って解除された。

身体を煌く水滴に浸したラヴィナスが、ゆっくりとその瞼を開ける。
イヴ「目を醒まして・・・。さぁ、友達に会いに行きましょう。」
945ほんわか名無しさん:03/09/15 15:23
・・・見なれた光景。懐かしい教室。
だけどそこにはもう彼女達の姿は無い。あの頃の自分も一緒に、
まだあの場所で、あの時間で輝いてるのだろうか・・・。触れたい。手を伸ばして虚空を掴みとる。
哀しみとか、後悔とか、感情を超えた所に在る抗えない現実。
私が私で無ければならない現実。
それゆえにわたしは哀しい。

夢の中に生きていても、過去の時間を胸の中に手繰り寄せてみても、
それ以外のものでは有り得ない真実がたった一つだけ。
・・・わたしは今、此処にいる。

『ほら、これでもう大丈夫』
『い・・・今のは?!』
『おまじないよ』

麻衣子は自分の心を一瞬で奪ったリリスの口付けを思い出しながら、
二人で良く遊んでいた寮の屋上に立っていた。

九月、夏の残香を爽やかに佩びた心地良い微風が頬を撫でて、語りかけてくれる。
雲が千切れて、柔らかいお日様の光を滲ませて微笑んでくれる。

それでもわたしは寂しい。

夜には星が輝いて、私は孤独じゃないって慰めてくれる。
月はいつも傍に寄り添って、その安らかな光で抱き込んでくれる。
お気に入りのベッドは、その日の嬉しかったことや哀しかったことをみんな包み込んで、
枕は幾らだって、わたしの身勝手で我侭な涙を受けとめてくれる。

それでもわたしは哀しい。
946ほんわか名無しさん:03/09/15 15:38
終章 〜Are You There?〜
947ほんわか名無しさん:03/09/15 15:52
夕暮れの校舎、お気に入りの図書館。
何も変わらない、わたしの幸せだけがそこから抜け落ちている。

想い出の一つ一つに、わたしは「いかないで!」って叫ぶけど、
それはあの空を駆ける雲みたいにあっというまに吹き抜けて、散り散りになって、
掴み取ったと思ったって崩れてしまう。わたしはわたしの為に何が出来るの?

リリスは何処かで転生を遂げたのだろうか・・・。
もしそうだとしても、彼女はわたしの愛した彼女ではきっと無い。

そういえばあの戦い以来、あの場にいた仲間以外の人々とはもう会っていない。
でもわかる。みんながそれぞれが、自らの選択を信じて自分の時間を生きている。
大儀の為でも、生きてる証や価値を求めて生きてるわけでもなくて、
たった一瞬でも、その手に掬い取れる幸せを求めてる。

そして今また、わたしたちを巻き込んで全てが動き出そうとしていた。
948ほんわか名無しさん:03/09/17 10:49
・・・まもなく・・・
・・・まもなくだ・・・
・・・終わりの時が・・・
・・・終わりの時が来る・・・

それは、時を待ち続けていた・・・
949ほんわか名無しさん:03/09/20 13:40
その男は、まるで長い時を彷徨してきた旅人のような風情をしていた。
肩まで伸びた長髪、顔を覆う無精髭、ボロボロの布切れ同然のコート。
サングラスの向こうにその屍のような視線を称えたまま、
男は鉄橋の上をただゆっくりと歩いていた。

橋の前方に、二台のクラシックカーがけたたましいブレーキ音と共に停まった。
両車のドアから4〜5人ずつ、黒服とシルクハットの男達が銃を構えて出てくる。
その中心に立って指揮を取る長身の男。殺し屋アッシュ・ド・ピエールであった。

ピエール「撃て。」

一同は、橋を渡る旅人に一斉射撃を開始した。
だが男はただ黙ったまま、両腕を十字に広げ近づいてくる。銃弾は一発も当らない。
黒服の男達は怯えた様子を見せながら、尚も集中射撃を続ける。
だが旅人は遂に、一味の目と鼻の先にまで歩み寄った。

ピエール「・・・もういい。」

部下に射撃を止めさせると、ピエールは旅人の前に跪いた。
旅人はそっとピエールの額に手を乗せると、一言呟いた。

旅人「終わりが近い。」
ピエール「探しましたよボヤジュール・・・。葬られしアノーマリー・・・。」
旅人「もう光の民に追われる心配も無さそうだな。」
ピエール「光の民はいまや無力です。」
旅人「今こそ局在性と偏在性を繋ぐ時。時間と空間の壁が消え、夢に終わりを告げるだろう。」
ピエール「しかしその前に・・・。」
旅人「もうひとつのアノーマリーを消さねばなるまい。」
950ほんわか名無しさん:03/09/21 02:47
「はぁはぁ…遅刻しちゃうよぉ〜!」

朝。抜けるような青空の下、
その少女は息せき切って学園の西側ゲートに繋がる坂道を駆け上っていた。
眼前に見えたゲートが閉まろうとしている。

「あっ!待ってぇ!!」
少女は砂埃をあげながら、凄まじいスピードでゲートを一瞬でくぐり抜ける。
その速さはあきらかに常人離れしたものであった。
ゲートの傍に落ちついて肩で息を落ちつけているその少女に、門番が近づいた。

「き、君、学生証は?」
「はぁ…はぁ…へ?」
目を丸くする少女。
「へ?じゃなくて、ここの生徒は電子パスを腕に印字されてるんだが、君は部外者かね?」
少女はコホンと息をすると、胸を張って一枚の書類を突き出して言った。

「私は水無月 葵!後期からレイジィバツースに採用されたれっきとした生徒です!!」
「はい、水無月 葵さん、減点-1ですね。」
「あっ、あれー?!」
951ほんわか名無しさん:03/09/21 03:07
「お姉ちゃん、世界の終わりってどういうことなのかなぁ?」
「はぁ?」

午後の昼休み、さくらとももの二人は、燦燦と日が照りつけるキャンパス・ステラに
そろって敷物を布いて、寝転がっていた。弁当の空箱が隅に束ねられている。

「だって、この星はいずれ消えちゃうんでしょ?」
「う〜ん。まだ先のことだからわかんないわよ。」
「でも、もしそれが突然来たら?」
「終わりが?」
「うん。」

空を悠々と横切る雲がソーラーパネルに鏡像を落とし、二人の上と下を通り抜けて行く。

「わかんないけどさ。何かに終わりがくるんなら、それはきっと…。」
「なに?お姉ちゃん?」
「きっと、何かがはじまる前に戻ったってことなんだよ。」
「うー、わかんないよ〜。」
「あははっ!わたしも!!」

悪戯な姉の笑顔に、ももは少し気が楽になったような気がした。
さくらはすぐ横で寝息を立てはじめた妹を見ながら、ぼんやりと考えた。

はじまりも終わりもみんな一つ。この瞬間と一つ。何よりも大切な……。
952濡れ猫:03/09/22 01:02
夜。
星の瞬く空を見上げる。
私はいつからここにいたのだろう。
何か途方も無い鎖を断ち切った後みたいに、
時間と空間が私を中心に広がって、
私の中に流れ落ちる。
遠い日の記憶が、胸の中で共鳴する。
過去も未来も、いつもここにあった。
それぞれがそれぞれの時間と空間に想いを刻んで、
語られることない幻想に生きている。

「・・・懐かしい風。」

この翼を一杯に広げて、それを受けとめる。
何故私にそれが与えられたのか、理由はわからないけれど。
そう、この行き場の無い感情と同じ。きっと理由と現象は背中合わせだから。
私は何かに焦がれている。誰かを想っている。
この感情は、確かにここに在る。

私は自分の名前も思い出せないけど・・・。
あなたはそこにいてくれる?
953濡れ猫:03/09/22 01:44
「ここにいるよ・・・。」

麻衣子は寝言で何かを呟いたことに気付き、
頬を涙で濡らしながら、目を醒ました。
いつもと変わらない夜。
でも胸の中は、言い知れぬ感情に満たされたままだった。
この感情を何て言うんだろう。
いつも彼女と居たときに感じていた気持ち。
あの晩、埠頭の小屋で彼女に訊かれた言葉を思い出した。

「愛って信じる?」
「・・・愛?」
「私はそれに救われたことが無い。だから忘れようとしてきた。」
「どうして?」
「幻だから。愛なんて聞えは良いけど、言いかえれば遺伝子の器に過ぎないわ。」

あの時、私は何て答えたんだっけ・・・。

「でも、それを感じるでしょ?」
「・・・。」
「私も感じてる。あなたを愛してる。」
「ほんとうに?」
「うん。説明なんていらないよ。私がこう感じていることが真実だから。」
「忘れない?」
「忘れない。」
954ほんわか名無しさん:03/09/23 06:17
あげ
955ほんわか名無しさん:03/09/23 07:42
「本当にあきらめちまうのか?」

衛星軌道連邦ステーションセクターIX"セナタフ"53番埠頭。
ミシュラを格納したドックから、F村とサクちゃんが地球を見下ろしていた。
「ええ、いいんです。麻衣子のことはもう…。」
「そうか…。なんだかあっけない引き際だな。」
サクちゃんはF村にドリンクを差し出し、肩を叩く。
「もう彼女の世界には、俺はいないから…。」
F村はおもむろに麻衣子の写真を取り出し、それを力強く握り締めた。
「きっと、どちらか片方が想いを残したままじゃいけないんです。」
F村は意を決したように、麻衣子の写真をエアシャフトの向こうの宇宙空間へと放り投げた。
肩を少し震わせながら、大気圏で燃え尽きるであろう写真を見送る。
「…お世話になりました。」
「待った!ほら!!」
背を向けるF村に、サクちゃんが何かを投げつけた。
「…これは?」
「今までのお前の働き分の稼ぎだ。借金返済の足しにしろ。」
「はい。ありがとうございます!」
F村は後ろに向き直ると、真っ直ぐに地球への定期便へ乗り継ぐために駆け出した。
サクちゃんは黙ってその背中を見送る。

「散りぬれば いとど愛でしき 君の影かな されど水面の花は摘むなかれ。」

サクちゃんは苦笑いと共に深いため息を一つついた。
「ったく、宇宙海賊ベルーガの頭領ともあろう俺が…。」
956ほんわか名無しさん:03/09/23 18:19
CJ「・・・お世話になりました!」

CJは一連の事件に関する研究データを扱う為に、ロンドンの王立学院へ戻ることになり、
アイリス以下少数の隊員とレイコ、校長他数名の研究者が空港で見送っていた。

アイリス「あーぁ、せっかく話の合う友達が見つかったと思ったのになァ。」
CJはフフッと笑うと、ロビーでじゃれあっている加奈と麻衣子を見遣った。
CJ「ほんと、楽しかったわ。辛いことや何よりも尊い犠牲もあったけど・・・。」
レイコ「そうね。犠牲のことは忘れちゃいけない。彼らのためにも何かを繋いでいかなくちゃ。」
CJ「きっとその人達の想いを世界に反映できるような仕事をしてきます!」
アイリス「あんた性格変わったわね。」
CJ「そぉ?」

アイリスは三つ編みのリボンを後ろで解くと、それをCJに差し出し、手首に結んだ。

CJ「?」
アイリス「学園の言い伝え。こうすると持ち主と同じ想いが叶うんだって。」
CJ「へぇー。でもちょっと邪魔だから解くね。」
アイリス「ギャー!解くんじゃねー!」
CJ「何よう!だってきっついんだもん!」

レイコと校長は揉める二人を暖かく見守る。

レイコ「まったく・・・。でも彼女達ならきっと何かを繋いでくれる。そんな気がしませんか?」
校長「あぁ。遠い日に、旅路の果てに、寝坊な小鳥達の囀りの如く、その時を告げる日が来るだろう。」
レイコ「レイジィバツース。調律中の小鳥達・・・といったところですわね。」
敷島「プ。」

ロビーの影に隠れていた敷島を、二つの雷の如き蹴りが貫いた。
957ほんわか名無しさん:03/09/23 18:43
〜学園校舎・PM5:23〜
夕暮れの紅彩に包まれ始めた校舎の裏手、ひっそりとした高みにある森の中に
学園の守り神を祭った神社が佇んでいた。
神薙 いずなが、新入隊員である水無月 葵を案内しながら学園を巡っている。

いずな「ここがここの守り神が奉納されている神社ですわ。」
葵「守り神?って何なんですか?。」
いずな「亀よ。」
葵「・・・・亀。」
神社の手前に一人の女子生徒が蹲っている。アノーマリーの力によって実体化した雨音 雫であった。

いずな「ちょっと、どうしたの?大丈夫?」
雫「しっ!この中に誰かおるんや!!」
雫は神社の引き戸にぴったりと耳を押し付けて、中の物音を聞き取ろうとしている。
いずな「ちょっと覗かせなさいよ!」
葵「あ、先輩あたしにもー!」
雫「うわっ!押したらあかんって!キャー><」

バタン!!
神社の戸ごと三人は中に雪崩れこむ。薄い埃の奥には、
百合子と銀之助が違いに覆い被さりながら、冷や水をかけられたような表情でこちら覗っていた。

いずな「ゆ、百合子せんせー・・・。」
いずなは目を真ん丸くして赤面する顔を両手で覆う。
百合子「こっ、これは違うのよ!あれよ。ご神体を掃除してあげようと、それで。」
雫「ご神体なら今ので首ポッキリやで。」
百合子「キャー!」
銀之助「・・・。」
葵「せんせー!だめですバレバレですよ!もっと偽造っぽく、色気のある嘘をですね・・・。」
百合子「ぎ、偽造っぽくしてどーすんのよもう!自然にでしょ!疚しいことなんかないわよ!(ポカッ!)」
葵「あーんせんせーに殴られたー。」
958ほんわか名無しさん:03/09/26 05:09
空からの光源をステンドグラスがプリズムとなって広大な空間に鮮やかな彩りを通している。
その大聖堂は迷宮性と堅固な建築から、戦争中はシェルターとして使われていた程であった。
現在では巨大な教会組織の隠れ本山として用いられ、レイジィバツースと並ぶ"平和の使い"の基地でもあった。

「お迎えも無いのかしら?」

霧崎伶佳、如月麻衣子、無明道弥生、優子の四人は学園の密使として
この人気を寄せつけない教会へと遣わされていた。足音を響かせながら、大聖堂の中心を進む四人。
ミサに使われる教壇の真上には、圧倒するほど絢爛なゴシック装飾を施されたパイプオルガンが
彼女らを威圧するかの如く構えていた。

「間違い無いわ。」伶佳が優子に応える。
「ここに来るように伝えたのは彼らだし。」

優子はリストガードの帯を口で締めながら後ろを確認する。

「平和の使者"アルカナの戦士"。あまり信用しないことね。彼らの遣り方には非難も多いわ。」
「麻衣子、アノーマリーで何か感じない?」
「…うん。凄く近くにいるけど…何か不思議な気配…。」

ふと、一枚のカードが四人の前に舞い降り、弥生が刀で眼前に突き刺した。
「タロットカード?」
「アルカナの戦士の武器よ。カードの秘術を用いて戦うの。」
「22人の大アルカナと56人のマイナーアルカナ。総合戦力ではレイジィバツースを軽く凌ぐわ。」
「杞憂ちゃんも昔ここに……。」
「このカードは?」弥生が質問を口にする。
カードには、三匹の獣が車輪を廻す絵柄があしらわれていた。

「…The Wheel Of Fortune。"運命の輪"」

その時、大聖堂が地響きと共に揺れ出した。
「じ、地震!?」
959ほんわか名無しさん:03/09/26 05:48
「なっ!罠!?」
四人の間を一陣の旋風が吹き抜け、大聖堂の床に亀裂が走る。それぞれの足元に四枚のカードが突き刺さった。
"塔"、"悪魔"、"審判"、そして…
「"死神"。ようこそ死の縁へ。」
「そ、その声…。」麻衣子はハッと声の主を見上げる。
「杞憂ちゃん?!」
そこに立っていた4人のアルカナの戦士の一人は、紛れも無く杞憂と瓜二つの容貌をしていた。
「あぁ、双子の姉のことか。」
「そんな…これはどういうこと?」
「終末が近いのだ。説明する必要も無い。我々は終焉を迎えるべく、因果を断ち切らねばならない。」
「…因果?」
「レイジィバツースの名。そしてその存在を消し去らねばならぬ!」
周囲には70余名のアルカナの戦士達が、四人を囲んで戦闘配置についていた。
「お願い。考え直して。私達、共通の目的を持っているはずなのに。」
「運命が導いたのだ。アノーマリーの力ゆえに世界は破局を迎える。」
「…破局?終焉とは違うの?」
「この物語が終わりを結ぶ前に、世界が破綻することだ。」
「そんな!わたし、そんなことしない!」
「アノーマリーの力は、関係性のインフレを起こす。他者になり、別世界を繋ぎ、物語を破綻させかねない。」
「"運命の輪"は、汝にふさわしい敵を外部から呼び寄せるだろう。」塔の主が呟いた。
光を風が大聖堂を再び吹き抜け、ステンドグラスを割ってそこに天使の姿を描いた。
「あ…あれは?!」
麻衣子は驚きの表情で教壇に駆け寄るが、"死神"が目の前に立ちはだかった。
「彼女が予言したのだ。あなた達を殺さねばならないと。」
「そんな!嘘でしょ!?嘘だと言って!リリス!!」
リリスはただ冷たい表情を浮かべて、叫ぶ麻衣子の顔を見下ろしていた。
960ほんわか名無しさん:03/09/27 03:43
「ちぃっ!やるしか無いわね!飛龍!!」
一斉に襲いかかるアルカナの戦士達を一瞬で薙ぎ払う優子。
だが、手応えは無い。
「何?こいつら…。」
「幻だ!!気をつけろ!!」
アルカナの戦士達の幻影は、こちらからは触れることも出来ないのに
タロットの魔法攻撃は容赦なくレイジィバツースに襲いかかった。
「どうして?リリス、応えて……。」
麻衣子はアノーマリーの力で仲間への魔法攻撃を全て無効化する。
「味方を庇ってる暇は無いぞ!!」
杞憂の妹は死神のカードを振り払い、影の大鎌で麻衣子の体を切り刻む。
「きゃあっ!」
「くっ!何処かに幻を作り出している術師がいるはずだ…。我が心眼よ捉えろ!!」
弥生は両眼を瞑って意識を集中させる。
「いた!あのバルコニーの上!!」
教会の吹き抜けの三階部分に、ローブを纏った術師が"The Moon"のカードを構えている。
「了解!!食らえっ!!」
伶佳の矢がカードを貫き、アルカナの戦士達は一瞬で露と消えた。
その瞬間、"審判"の主の刃が弥生の背中を斬りつけ、血飛沫が舞う。
「まず一人……。」審判の主はそのまま姿を暗ます。
「弥生!!!」
動揺した優子の眉間を、"塔"の主の雷が貫いた。
「え?!」
「逃げて伶佳ちゃん!」
"悪魔"の主がレイピアを伶佳に構え、呪術を詠唱する。
「やめてぇ!!」
麻衣子の懇願も虚しく、鋭い短剣が伶佳の背中に突き刺さった。
全てはほんの一刻の出来事。そして静寂…。
大聖堂には麻衣子と"死神"の主、そして"運命の輪"が引き寄せたリリスだけが残っていた。
961ほんわか名無しさん:03/09/27 04:10
仲間の亡骸を振り返り、麻衣子は声も無く俯いた。
「……これが終わりへの伏線だって言うの?」
「そうだ。我々はカードが導く運命に従って、その役目を果たせればそれでいい。」
"死神"はゆっくりと麻衣子に近づき、顎をクイッと自らの顔を引き寄せた。
「運命の前に涙は無力だ。」
「…傲慢だわそんなの。私達には自らを導く力がある!誰にも強要されはしない!」
「!?」
周囲を暖かい光が覆いつくし、死神を消し去った。
そして死んだはずの仲間が目を醒ます。
「こ、これは…?」
「みんな……。」
歓喜の表情を浮かべる麻衣子に、リリスの哀しそうな声が響いた。
「やっぱり…アノーマリーは消さなきゃならないのね。」
「えっ?」
「あなたがした今の行為。それがあなたが居てはならない理由。」
「ど、どういうことか説明しなさいよ!」
伶佳が喧嘩腰にリリスに食ってかかった。
「願うこと全てを可能にする力。だけどそれが凶位についたら?」
リリスは一枚のタロットカードを逆さに構える。絵柄は「愚者」。
「タロットカードには、一枚一枚に意味が込められているでしょ?だけどどれも解釈次第…。」
リリスは四人の目の前に音も無く舞い降りると、天使の翼を翻し、背中に畳んだ。
「カードも人間も自然も同じ。たった一つの光源がプリズムを通るように森羅万象を描き出すの。」
「だから何?麻衣子を殺していい理由になるわけ?」
「彼女はプリズムなのよ。あってはならないもう一つの…。」
リリスの翼が悪魔の黒い羽へと変化を遂げ、巨大な鎖鎌が手中に収められる。
「リリス…本気で私を…。」
「ごめんね。あなたが誰だか思い出したわ。だけど、こうするしか無いの。」
962ほんわか名無しさん:03/09/27 04:31
「…百年前、ある一族の謀略によってイルミナティは滅ぼされた。」リリスは淡々と続ける。
「その理由は、私達が運命を書き換え過ぎるからだった。イルミナティの繁殖はシステムを破綻させかねなかった。」
「イルミナティを葬ったのは、リュシオンだけじゃなかったの?」
「我々の力を無効にする一族がいる。あのF村とかいう奴と同じ輩のように。」
「F村くん…。」
麻衣子は表情を強張らせて、その記憶を頭から追い遣ろうとする。
「アノーマリーとて同じ、現実を自由に書き換え全てを可能に出来ても、その業は還ってくる。」
 そしてシステムが生存を選んだ以上、アノーマリーはもはや爆弾でしか無い。」
リリスは辛そうな表情で麻衣子に飛びかかり、大鎌を振り翳す。
「キャッ!!」
そのスピードには麻衣子でしかついていけず、他の三人は見守ることしか出来なかった。
「リリス!思い出して!わたしたち、自分たちの時間を生きるって決めたじゃない!あなたは使命から解放されたの!」
「使命?違う。これは信念よ!!」
リリスは大鎌で麻衣子の防御を乱し、回転しながら翼の衝撃波を見舞わせた。
麻衣子は大聖堂の天井部から吹き飛ばされ、大理石の巨大な柱を数本圧し折りながら着地する。
「くはっ!…あ、アノーマリーはつかっちゃいけないの…?。でも殺されちゃう…。」
「や、やめて!!」
麻衣子を庇うように立ちはだかった伶佳は、リリスの顔に信じられないものを認める。
(…泣いてる?)
「あ、あなたそうまでして……。」
麻衣子が伶佳の肩をポンと叩いて、再びリリスの前に歩み出た。
「わたし、わたしが死ねばそれでいいんだよね?」
彼女は信じられないような笑顔をリリスに向けながら、彼女に抱き付いた。
「会えて嬉しかった。それだけは言わせて!!」
963ほんわか名無しさん:03/09/27 17:33
リリスも麻衣子の後頭部に手を回し、お互いにきつく抱き締めあった。
麻衣子「リリス・・・愛してる。」
リリス「あなたと愛し合ったのは前世の私・・・。私じゃない・・・。だけど・・・。」
そういいながら麻衣子の背中に大鎌の先端をあてがう。
リリス「記憶と感情が応えてくれる。わたしもあなたを・・・。」
彼女の唇がそっと麻衣子のそれに重ねられた。
麻衣子はきつく目を閉じ、身の蕩けるような感覚に息を切らせた。

───雨。

大聖堂の天井の抜けた部分から、冷たい水の雫が流れ落ちる。
無慈悲な陽光に照らされたその部分に、もう身動きしなくなった
一人の少女を抱かかえる影があった。

伶佳「麻衣子・・・。」

仲間の呼びかけにも、彼女は応じなかった。
ただ後ろを向いたまま、リリスの亡骸を抱き続けた。
リリスの大鎌が麻衣子の心臓を貫くより一瞬前に、
麻衣子の剣が彼女を斬りつけたのだった。
彼女が仲間の命を摘み取ろうとしていることに気付いたのだった。
964ほんわか名無しさん:03/09/27 18:24
弥生が幻術師の持っていた"月"のカードを麻衣子に差し出した。
麻衣子「・・・?」
彼女の虚ろな瞳がその絵柄に焦点を結ぶのは、少し時間が必要だった。
弥生「アノーマリーで現実を書き換えることが可能なら・・・。」
弥生は月のカードを翻し、麻衣子に差し出した。しかし彼女は黙ってそれを遮った。

麻衣子「現実は移ろうもの・・・。だけどどんな幻想に生きようと、人は自らの業から逃れることは出来ない。」
リリスの前髪を優しく撫でながら、彼女はその場に座り込む。
麻衣子「彼女の信念・・・。」
麻衣子「しばらく二人でいさせてくれる?」

掠れた声が三人の胸を締め付ける。
凍ったような静寂だけが、空間をただ悪戯に長く繋ぎとめていた。
伶佳「これから・・・どうするのかはあなたの自由よ。」
伶佳が麻衣子とリリスの亡骸に背を向けると、他の二人もそれに続いて大聖堂を後にした。

(・・・絶望?これがそうなのかな?)
すっかり涙も枯れ果てた麻衣子が大聖堂の天井の抜け穴を見上げると、
そこには眩いばかりの満天の星が犇めき合っていた。

体の芯がしびれ、あらゆる感覚が鈍くなる。
どんな考え事も、どんな綺麗なものも、何も意味を為さない。
まるで全てが偽りだったような・・・。なんで私は生きてるんだろう・・・?
目の前の現実は平べったい一枚の絵のように、ただのっぺりと広がっているだけ。
もう一度その唇に口を重ねてみる。さっきとは違う冷たい感触。
この一瞬一瞬が崩れ落ちていく砂山のように遠ざかっていく。
私に彼女の温もりを繋ぎとめる術は無い。想いを引きとめるのは・・・。

麻衣子"遠くに見える夢を想う それが今日こそ叶う事を願って・・・"

いつだったか二人で口ずさんだ歌が、聖堂内を慈しむかの如く響き渡る。
965海王星 ◆m9g/KftE.w :03/09/29 03:00
・・・・ここで物語が終わるの?
絶望の鏡が映し出したこの世界は私を透明にして
煩わしい重力を解き放ち、合わせ鏡の彼方に、無限の空間へと放り込む。
この空想の旅路で、私は私であり、他者であった。
だけど鏡の向こうにはスクリーンがある。

人はそれぞれが特異点。
心という事象の地平線を境に、皆それぞれの時間を生きている。
だけど思い出して 私達は一つ。
限られた言葉 感情 選択
それぞれの音色を探して 天球を動かす旋律を奏でる。
そして命が尽きるとき 物語が終わりを告げるとき
時を超えて輝く幾億の星々を仰いで
遥かな未来へと繋ぐ光の徴を

物語を繋ぐのは想い
私を取り巻く関係性のバランス
幽玄の風に吹かれた たった一つの量子が描いた軌道
時空の感覚。
希望のしるしを求めて もう一度あの太陽を追いかけて
引力が入り乱れるあの現実の中へ 私を引き上げる重力を探して
愛の重力を

全ての色に光りあれ
全ての石にクリスタルの眠りを
シャーマンは言った。
「人間はイルカの見る夢の中に生きている。」と
966ほんわか名無しさん:03/09/29 04:06
〜epilogue〜 "Equilibrium."
967ほんわか名無しさん:03/09/29 05:13
閑静な洋館の一部屋。
夥しいほどの時代もののアンティークが暗がりの中を艶やかに、しかし眠るように彩っている。
バロック調の装飾が施された鏡に、透き通った蒼い瞳を称えた少女が一人向き合っていた。
「ラヴィナス、鏡に何を話しかけているの?」
リュシオンは、ただ鏡を見つめ続けるラヴィナスに語りかけた。
「…痛がってるの。」
「誰が?」
「アノーマリー…。」
少女は憂いの表情を浮かべ、鏡から視線を逸らしリュシオンを見た。
「絶望ってなに?わたしにはわからない。だけどここが共鳴してる…。」
ラヴィナスは胸を押さえる。リュシオンは椅子の後ろに回り、
彼女の顔を愛でるようにクイッと鏡のへ向けた。
「何が見える?」
「わたしとあなた。」
「そうね。でもここに映っているものの全てじゃない」
「…時間のずれた光しか見えない。」
「いいえ。知らなくてもいい真実。行間の狭間に隠された、語られないものがここに在る。」
「……わからない。わからないことがいっぱい…。」
「わからないことがあるから、私たちでいられるのよ。」
ラヴィナスはそっと手のひらで鏡を押してみる。
「見えるのに、手が届かない…。お星様みたい。」

イヴは教会の屋根に羽をたたんで、月光を浴びて哀しそうに夜空を見上げていた。

避けることが出来なかった事態。運命や悲劇とは呼びたくない。でもありふれた話。
月に手を翳す。雲を指でなぞる。虚空を掴みとる。愛の記憶に手を伸ばす。
鳴動する世界。決して触れられないけど、感じるもの。感じられないもの。
純粋な現実。わたしはただ寂しさを感じている。あなたがいないから。

イヴはそっと翼の中に蹲り、哀しみを抱かかえるように眠りについた。
968ほんわか名無しさん:03/09/29 05:48
「そうね。一つの物語を結ぶとしたら…。」
リュシオンは自分の髪飾りを少女の髪に結わえながら続けていた。
「動機を全て放り投げるわ。それは何よりも死に似ていて、そして始まりに繋がるから。」
「それでそのお話はおしまい?」
「そう。でも語られないところで生きているかも知れない。」
「そんなのもう物語じゃないわ。」
「そうね。ほら、出来た。」
ラヴィナスは自分のあまりの変貌ぶりに驚き、嬉しそうに表情を緩めた。
「…ありがとう。」
「どういたしまして。さぁ、そろそろ寝ましょう。」
しかし彼女はなかなか鏡の前から離れようとしない。
「…この気持ちを彼女に分けてあげたい。」
「伝わるわよ。あなたはそういう精霊だから。」
「わたしの役目はなに?」
「役目なんてまだ決まって無いわよ。自分で選びなさい。来るべき終末に何が出来るのか。」
「終末…。時の果て?世界の崩壊?」
「"円満な結び"、であることを願いたいわね。電気消すわよ。」
部屋が暗闇に包まれる。
「終わりの果てにも現実は続くわ。絶望を抱く理由なんて無い。」
「希望もね。人は失うことが怖いのよ。生きることとは変化すること。変化は喪失よ。終わりに希望を抱くことも出来るのに。」
ラヴィナスは眠たそうにベッドに滑りこみ、また一つ呟いた。
「もう一つのアノーマリーがいる。とっても邪悪な…。だけど現実を塗り替えられない。彼女がいるから…。」
リュシオンは黙ったままだったが、彼女の一言一言を大事に咀嚼している。
「リリスの選択は失敗に終わったけど、結果的に信念を叶えることが出来たの。彼女はもう決して現実を悪戯に操作しない。」
「……均衡ね。だけど時は刻まれて逝く…。」
そんなやりとりをしながら、いつしか二人は気付かないまま眠りに落ちていた。
969ほんわか名無しさん:03/09/29 06:14
「あなたがもし魔法使いで、想うこと全てを現実に出来るとしたらどうする?」
「そうですねえ、まずアイスクリームを一年分出して、それからかっこよくて金持ちの彼氏に、あと宇宙旅行!」
「…。」
伶佳が新入隊員である葵にそんな質問を投げかけたのは、寮の同部屋に指定された夜であった。
昼間からこのせっかちな新入生に振りまわされたおかげで、麻衣子への気の患いが少し軽くなったのも事実だった。
彼女は帰ってきてからまだ誰にも顔を見せていない。
「あのねぇ…。もっと大胆な願いを期待した私がバカだったわ…。」
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
「じゃあ、それらの願いが全て現実になったとして、それで壊れた関係性はどうなる?」
「え?え?」
「…はぁ。アイスクリームを一年分出したとして、それを全部食べられる?」
「た、食べれません!どうしよう?!」
「…。願いを叶えるっていうのは、それだけの業を背負うことなのよ。それは普通に生きていても同じ。」
「はぁ。」
「アノーマリーは厄介な力だわ。他人になることも出来るし、どんな世界にだって生きることが出来る。」
「だけど、それもみんな同じじゃないですか?」
「同じ?」
「比べられないけど、結局、自分は自分の現実としか戦えないし。」
「そうね…。」

麻衣子は一人ベッドに蹲っていた。少し暖かいものが心の中に萌すのを感じる。
そしてまた生に駆りたてられた。理由はわからない。底の見えない絶望の中で、彼女はとりあえず生きていた。
「生きてる…。あなたを殺して、わたしが……。」
リリスと二人で映っている写真をボンヤリと視界に捉えながら、思索は虚しい行為だということに気付いた。
970ほんわか名無しさん:03/09/30 17:42
・・・そして時は動く。

各国首脳の会議において、黒田重工鰍フ開発したC-TAPPAが各種戦線への投入、
人道支援などにあてられる方向に決定する。クローンであることから、生命倫理の問題に
一石を投じた形ともなった。関連技術も世界中の企業に提供され、更なる応用研究・改良型の
開発が促進される運びとなる。

一方で、レイジィスーツ・テクノロジーはその魔術性ゆえに汎用は危険とされ、
学園と黒田重工鰍筆頭とする少数機関への委託研究に留まり、設計はトップシークレット、
また追随するほどの技術を持った研究機関も無かった。

そして"レイジィバツース"と同様の特務機関が試験的に各国に設けられることになり、
現在は隊員の確保と施設配備の準備段階に入ったところである。

その他、闇に葬られた様々な軍事技術については、世界中のブレインが収集され、
国家主導の地下組織において開発が続けられているというウワサもあった。

一連のモジュールには幾つか明かされない部位があったが、
そのほとんどは「如月麻衣子」という少女に発現した"アノーマリー"という能力についてであった。
様々な実験が行われたが、既存の理論や物理原則を全く介さない驚異的な力は事実上「取り扱い不可」
という形で書類上からは一切の姿を消すことになった。

学園長の配慮により、表向きはスーツのプログラム改変で解決されたことになっていたが、
如何なる場合も「アノーマリ」は発動する。また、それが作戦遂行上重要な点であったことから、
麻衣子の能力については隠されたまま、任務への続投が命じられていた。

世界は見えざる脅威に突き動かされるまま、かつての均衡を取り戻しつつあった。
見かけ上は────・・・。
971ほんわか名無しさん
世界は螺旋状に動き続ける。

あなたがいなくても。

あなたの軌跡や記憶は、少しずつ世界から消えて往くけど、

わたし達は、魂のかけらが宇宙の暗闇に散り消えるまで、

あなたの顔、あなたの言葉、あなたのぬくもりを、忘れはしない。