■★■ 萌えた体験談コピペ祭りPart29 ■★■
844 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/22 22:09:41 ID:yf9UWgfo0
そうなんですかねと、少し間を空けて
「……仕方ないんですけどね」
と言う彼女の顔は寂しそうだった。
この姉妹というのは共通点があって、どんなに明るいと思っていてもどこかで影が差す暗さを持っていることだった。
全体が暗いんじゃなくて、一部に濃い影がぽっかりと存在しているというか。
エミ製ホットケーキを口にして、これは酷いと笑うユキ。
その笑顔は、とても暗がりを持つ女の子のものとは思えなかったのだけど。
855 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 20:21:26 ID:4ayYM1/q0
しばらく経つとまた二人が戻ってきた。
さっきとは変わってはにかむような笑顔で皿を手にしているエミ。
今度のホットケーキは、ちゃんとホットケーキしていた。
「お、いい感じ」
「ハルちゃんのお陰でなんとか……」
多分、出来の良さから言ってハルナが大分手を付けたに違いない。
そうは思うんだけどエミの嬉しそうな顔が、まあいいかと思わせた。
856 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 20:22:34 ID:4ayYM1/q0
朝食の準備がユキ、昼食がエミとハルナだったので後片付けくらいはやらせてもらった。
手伝います、とついてきたハルナと並んで他愛のない話をする。
「そんなに不味かったですか?」
黒いホットケーキを食べたときの俺の顔についての話だった。
「不思議な味だった……」
おどけて感慨深げに言ってみる。
「食べなきゃ分からんね、アレは」
「ちょっと私も食べてみたいかも」
台所の隅に、まだ黒い物が積まれていた。
「食べる?」
ほらと皿を差し出したが、エミは洗い物をしている最中だったので手が空いていなかった。
俺が困っていると「じゃあ」と言って口を開けた。食べさせて、というわけだ。
857 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 20:23:53 ID:4ayYM1/q0
「気をつけて食べてね」
「あはは、これ食べ物ですよね」
実際卵の殻が入っていたりするので冗談でもなかったが。
ホットケーキに噛みつくエミ。しばらく咀嚼して、
「これは……うひゃー」
言葉に出来ないらしかった。
部屋に行こうと二階に登るとユキの姿が見えた。ベランダで洗濯物を干していた。
入口から顔を出して彼女に声をかける。
「なんか色んなことしてもらっちゃって、ごめんね」
「いえ、お世話になってるのはこっちですし」
皿洗いをして家事をやった気になっていたが、一番家のことをしてくれていたのはユキなのだ。
これではどちらが世話になっているのか分からない。
858 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 20:25:52 ID:4ayYM1/q0
「あの」
男の面子を考えているところに声をかけられる。
「洗濯物なので、ちょっと出てもらえますか?」
「は?」
「ええと、つまりその、今家に居るのは私達と智也さんだけでしょ?」
言われて気付いた。今物干し竿にかかっているのは俺のか彼女らのものしかない。
「あっ、あーあーあー。そうだね、ごめん」
色々見られて困るものはあるだろう。慌ててその場を出て、よくよく状況を考えた。
一時的に預かる、とはいっても同じ一軒家に住んでいるのだ。
遊びに来ているわけじゃないのだから、彼女たちの生活そのものがこの家にあるわけで。
でもそれは俺も同じだった。俺の下着も彼女の手に触れるわけなのだ。
恥ずかしくなってきて、なんか妙な気分で部屋に戻る。
ユキの言葉を思い出して勉強でもしようかと思い、机に座るも何もせずぼーっとしていた。
そこにまた、例の娘がノックもせずに入ってきた。
「大変だあっ」
864 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 22:36:19 ID:4ayYM1/q0
切迫したハルナの様子に身構えたのだが
「電池無い!?電池!」
俺の気持ちを返せと言いたかった。
「ウォークマンの電池が切れたー」
その頃にはMDウォークマンもあったけど、まだ高くて学生が買えるような品ではなかった。
大概は安いテープのプレイヤーを使っていて、彼女が手にしていたのもそれであった。
仕方ないなと一階の棚を調べるも、出てくるのは単一、単二ばかり。欲しい単三が出てこない。
「ありゃ、切れてるな」
「何でさ」
「何で、ってもなあ」
欲しいときにないのが電池である。
865 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 22:38:57 ID:4ayYM1/q0
「俺の部屋にCDコンポならあるけど」
自室に行って見せてやると「おお」と目を輝かせ、CDを手に戻ってくるとそのままヘッドンホンを装着して聴き入ってしまう。
勝手知ったる、という言葉を思い出しながら再び机に向かった。
「勉強するんだ、偉いねー」
「まあ一応な」
後ろからの声に振り向かずにそう答える。本当は勉強なんてしないんだけど。
会話はこれきっりで、あとは沈黙が続く。しかし静かであっても後ろに人がいると気が散って仕方がない。
読みかけの小説を手に取り読みはじめる。まだ気になるので、でかい漬物石が転がってるんだと思うようにした。
ようやく落ちついた。
866 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 22:41:21 ID:4ayYM1/q0
本に夢中になっている内に喉が渇いたので何か飲もうと机から立ち上がる。
ハルナをちらと見ると、ヘッドホンを付けたままベッドで寝ていた。起こさないようにゆっくりと部屋を出る。
階段を下りるとエミがどこかに出掛けようとしていた。
「どこか行くの?」
「はい、ちょっと買い物に」
「買い物?何を?」
「今晩のおかずとかですね」
それを聴いた瞬間は本当に驚いた。
「食費を貰ったんだから店屋物でも頼めばいいのに」
「やっぱりそういうのは悪いからって」
そうユキが言ったのだろう。
867 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 22:43:28 ID:4ayYM1/q0
「でも店の場所とか分からないでしょ?」
「いえ、昨日三人で駅の方まで歩いていったので」
もしかして今朝と昼の分も彼女たちが買ってきた食材で作ったのだろうか、と思う。
そうであるならば俺はずいぶんと甘えていたことになる。
「何か買ってくるものありますか?」
「そうだな??」
単三電池、と言いかけて自分の面子のようなものがむくむくと首をもたげた。そこまで甘える気にはなれない。
「自分で買いたい物だから俺も行くよ」
家を出て道を歩いている途中、小さくエミが言った。
「……よかったんですか?」
「別に構わないよ」
「いや、そうじゃなくて」
わざわざ智也さんが行かなくても、という意味だと思ったが違うようだった。ちょっと考えてからエミは言った。
869 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 22:44:47 ID:4ayYM1/q0
「智也さんの知ってる人と会ったら、まずいんじゃないですか?」
なるほど、確かに見た目が小学生の少女と俺が並んで買い物している姿を知人が見たら怪しむかもしれない。
高校生と小学生の体格差は兄妹でない限り犯罪的なカップリングに見える。
「んー、まあ親戚の子とでも言うよ」
実際そうだし。
「でなかったら生き別れの妹だ」
「妹?」
冗談だったのだが、真剣な顔でそのまま考え込む。彼女に冗談が通じた試しがない。
「智也さんがお兄さんだったら」
「ん?」
聞かれるものとして言ったのではなかったのか返事に慌てるエミ。
「ええっと、そういうんじゃなくて」
よく分からない理由を色々述べた後、観念したように「どうなってたのかな、って思うんです」と言った。
871 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 22:46:50 ID:4ayYM1/q0
「ハルちゃんもお姉ちゃんも智也さんも最初から同じ家族だったら、って。今みたいな毎日がずっと続いてたら楽しいって思いませんか?」
一人っ子の俺にはその気持ちがよく分かった。
「楽しいな」
「やっぱりそう思いますよね」
嬉しそうに答えるエミ。
「だからどうなってたのかな、って思ったんです。ずっと仲良く暮らせる家族って幸せですよ」
うん、と頷く。俺自身、一度両親が離婚しようとしていたことがあったが、
今では仲が良くこれは幸せなんだろうなと客観的に思える。
「そうなんだろうね」
「……家族だったらよかったのにな」
家族。もしエミのような妹がいたらどうなっていたのだろうと思う。
この細い、どこか儚げな少女と一緒に居てやることが出来るなら。もし家族なら。
872 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/24 22:48:32 ID:4ayYM1/q0
「ここにいる間はみんな家族だと思えばいいよ」
「……はい」
残り二日の疑似家族かもしれなかった。でも記憶に残るはずだと思う。
ずっと朽ちることなく覚えていれば、そんなに嬉しいことはない。
「そういえば智也さん」
「うん?」
「買いたいものって何なんですか?参考書とか、ですか?」
さっき言った言葉に効果がありすぎたのか、尊敬すら感じる視線で訊ねてくる。
「……乾電池」
しばらくの間のあと、彼女にしては珍しい笑い方をした。
891 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/25 23:03:54 ID:2z+m69mB0
電池を手に部屋に戻るとハルナは同じ態勢で俺のベッドの上にいた。目は覚ましていた。
ほら、と電池を渡すと無表情に「ありがと」とだけ言って部屋を出ていった。
機嫌が悪そうに見えたけど、多分寝起きだったのだろうとその時は考えた。
気を取り直して机に座り小説の続きを読みはじめた。
しばらくすると電話の鳴る音が聞こえてきて、止まったと思ったら代わりにユキの声がした。
「智也さん、電話です」
普段なら二階の子機に転送してもらうところだが、おそらく操作法を知らないだろう。
自分から下へ取りにいって誰から?と訊ねる。
「北川さんですって」
ユキの手から受け取る。生徒会長からだった。
892 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/25 23:05:06 ID:2z+m69mB0
「はいもしもし、斉藤です」
「あ、斉藤君だ」
「そりゃそうでしょう」
「だって知らない人が出てくるんだもん。しかも女の子。あたしビックリだわよ」
北川さやかという人は外見は可愛らしいのに仲のいい相手には気を許しすぎて口調がおばさんになる癖があった。
「ああ、彼女は」
親戚、と言いかけて止まる。近くにユキとハルナがいた。
「知り合いです」
「へえ、中学校の友達?」
「そんなとこです」
「嘘ね。まあ、その辺は明日聞かせてもらうわ。ちょっと頼み事があるの」
女の人ってなんで嘘をすぐ破るんだろうと思いながら話を聞いた。
893 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/25 23:08:50 ID:2z+m69mB0
どうもある顧問が部費で自分の為にビールを買ってるとか買ってないとか、という話だった。
去年の帳簿に不明な部分がないか調べてほしい、という。
「でもそれ、どうするわけにもいかんでしょう」
「あるかどうかだけ調べてほしいんだって」
俺の代の顧問は設立時からいた老教師が生徒会を退いた為に、半ば押しつけられるようにして顧問になった若い先生だった。
当然発言権も大して無く職員室で辛そうにしている姿をよく見る。
でも頭の悪い人ではなかったので、この件も何かに利用するに違いない。
「ははあ、あったとしても表から非難するわけじゃあないと」
「あたし知らなーい」
大人って汚いよねー、と笑いながら言うのが普段の会長だった。
で、その辺の面倒事は古参の俺が引き受けることになっている。
彼女は三年生だが所属したのは去年の冬からだった。一年も経ってない。
894 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/25 23:10:22 ID:2z+m69mB0
「分かりました。今日中にラグビー部の帳簿チェックしときます」
「さすが斉藤君。じゃよろしくー」
「会長も受験、頑張ってください」
だが俺の言葉が終わる前に電話はぶつ、と切れた。
なんだかなあと思いながら電話を置いて、ユキにありがとうと言って部屋に戻った。
ラグビーという競技は練習においても消耗品が激しい。何かと細かい出費が多い部である。
領収書も膨大ではっきり言って面倒くさいが、会長からの頼み事なので悪い気はしなかった。
その日の夕飯はカレーだった。エミと買い物に行ったときに聞いた話だと、
俺の家にずんどう鍋があることを知ってユキは大喜びだったという。
後でユキに聞いたが、なんでも「量を一気に作れるのって快感」なのだそうだ。
895 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/25 23:11:11 ID:2z+m69mB0
「野菜はエミちゃんが切ってくれたのよね?」
「へえ、うまく出来てるよ」
大きさにばらつきがあったが、昼間のホットケーキを思い出すとそう思える。
「ま、エミにしちゃ頑張ったわよね」
隣でハルナが抑揚無く言った。どうもまだ機嫌が悪そうだ。
「今回ハルナは手伝ってないのか」
「うん」
それだけ言って黙ってしまう。
まあ女の子だし色々あるんだろ。そう納得してカレーを口に入れていった。その日の夕食は静かだった。
896 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/25 23:12:24 ID:2z+m69mB0
三人に世話になりっぱなしなのも男が廃ると思い、食後は全て任せてもらうことにした。
その提案にエミがくっついてきて、ハルナは何か言いたげに見つめていた。
「ハルちゃん何かあったのかな」
濡れた皿をタオルで拭きながらエミが誰とも無しに言った。
「やっぱそうなのか、あれ」
「時々あんな風に考え込んでるような日はあるんですけど、今日のは??」
言いにくそうに、珍しいですねと付け加えた。
「……俺か?」
897 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/25 23:13:35 ID:2z+m69mB0
「違うと思います。でもハルちゃん、悩みは口にしないから」
将棋をした時のハルナを思い出す。あれは、悩みだったのだろうか。
洗い物が済んで部屋に戻る。まだ先の長いラグビー部の帳簿に取りかかろうとしたところで、部屋がノックされた。
エミが話でもあるのだろう。
「どうかした?」
「私。入っていいかな」
しかし聞こえてきたのはハルナのものだった。
906 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:47:27 ID:cDuNYX+70
入ってきた彼女にいつものような明るさは無い。つまらなそうな顔で、俺には目を合わせずに言った。
「昼の約束、覚えてる?」
「昼?」
黒いホットケーキが浮かぶ。約束なんて覚えていなかった。
「ごめん、なんだっけ」
「……」
何も言わずにベッドにどん、と座る。
でもその態度は不機嫌だけでなく、恥じらいも混じっているように見えた。
「本よ、本。エの付く本」
「ああ??」
エロ本か。そういえば昼間、そんなことを言っていた気もする。
907 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:49:54 ID:cDuNYX+70
お前一応女の子なんだからと言おうとも思ったが、先程からのおかしな態度が
気になっていたので部屋につなぎ止めるつもりで本を渡すことにした。
「三冊あるけど」
「全部」
イラストや写真が表紙を飾っているが共通して女の裸だった。
そんなものを年下の女の子に渡す自分が、なんだか間抜けで仕方がない。
渡された方も無表情に、だが少し恥ずかしそうに本の表紙を眺めていた。
その姿を見ていて思う。ハルナは奔放なようで覆い隠している部分が多い。
最初はただ陽気なだけに見えたが、エミにコンプレックスがあるような一面を垣間見たし、
今は部屋に来てエロ本見せろという。午後から急に大人しくなった原因ではないだろう。
わがままを言っているようにも見えるが横柄な態度ではない。一貫性が無かった。
こっちもどう対応していいか分からなくなる。そういう意味ではユキとエミの方が分かりやすい。
908 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:51:18 ID:cDuNYX+70
「……何かあったのか」
「何が?」
ぴら、と雑誌のページがめくられる。
腰を突き出すようなポーズを取った裸の女性が一面に出現する。
考えていることを鈍らせるインパクトだった。
「きゅ、急に大人しくなったろ」
ハルナもその写真に圧倒されたのか、しばらく黙ってから答える。
「いつもうるさくしてるわけじゃないよ。私だって疲れること、ある」
「でもなんか、お前にしては珍しいっていうか」
エミがそう言っていた、とは言えなかった。それに対しハルナは小さく笑った。
「別に私のこと昔から知ってるわけじゃないでしょ?明日にはまた元気になってるから気にしないで」
909 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:52:47 ID:cDuNYX+70
突き放すような口ぶりだった。いつもなら他人のことに踏み込むことはしない。
けどその日は、エミに言った「家族」という言葉からかハルナを放っておく気にはなれなかった。
何か言おうと言葉を探す。でもなかなか出てこない。
「あー、いや。ごめん」
口を開いたのはハルナだった。
「私も分かってはいるんだけどね」
ごめんね、と俺を見上げた。突然謝られて戸惑い「まあ」とあやふやな返事をした。
「何かあったか、って聞いたよね」
俺としてはいつもの彼女に戻ればそれで良かったので今更事実究明する気はなかった。
しかし悩み事を吐き出したそうに見えたので何も言わずに聞きに徹することにする。
ハルナは読んでいた雑誌を隣に置いた。
「エミが嫌いなわけじゃないの」まずそう言った。
910 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:55:37 ID:cDuNYX+70
エミのことは本当に可愛い妹だと思っているらしい。だが俺と一緒にいるのが気に食わなかったということだった。
俺を取られるのが嫌、とかそういう陳腐なことではなく「エミが何かを専有すること」がたまらなく嫌なのだという。
人だけでなく物もそうで、エミがずっと手に持ち続けるもの全てに焦りを感じるのだと話した。
「焦り?」
「無くなっちゃいそうで」
ハルナは苦笑したが、父親が消えた彼女の心中を考えると切実だった。
「エミが智也君と寝たでしょ?あれでなんかね、スイッチみたいのが入っちゃって」
そういえばと思う。昨日の夜、俺と寝たいと言ったときエミを引き合いに出していた。
「今日も私が寝てる間に二人で買い物に言ったって聞いて、益々ね」
ハルナが甘えてきた理由がそれであるならば、今日は穏やかではなかっただろう。
取られまいと必死になっていたのに、指の間からすり抜けるように俺はエミの所へ行ったのだ。
「すいませんねえ、病気なんですよあたしゃ」
そう笑ってみせる姿が痛ましかった。父親の蒸発とは、そうまで子供に影響を与えるものなのだろうか。
911 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:56:29 ID:cDuNYX+70
でもこればかりは、俺がどうすればいいわけでもない。
「せめて、何かエミも知らないようなことを教えてくれれば気も納まるんだと思う」
「エミも知らないこと?」
「今日の電話の人、彼女?」
途端に調子が戻ったように見えた。
「え、いや。うちの会長だけど」
「いや違うね。なにか感じたんだから」
「仕事の話に色気も何も無いだろ」
「……本当にそう?」
ま、いいか。と観念した。実際大した話ではないのだ。
「彼女じゃなくて、俺が好きなだけ」
「やっぱあったじゃない、なにか。聞かせて聞かせて」
913 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:58:48 ID:cDuNYX+70
前会長は不良で、いい人だったけど喧嘩で怪我をさせてしまい生徒会から止むなく降ろされた。
そこで会長を急募するも立候補が出ず、仕方無しに前顧問である老教師が
学年主任という立場でもって無理矢理一人引っこ抜いてきた。
それが学年で一番人気の女生徒、佐藤先輩だったのは運動部の予算陳情の粘っこさに
対抗するために前会長と同等の個性が必要だからだった。
そんな話をすると、ふうんと相槌を打った。
「そんなに可愛いの?」
「綺麗の部類に入るんじゃないかな。でも俺は、あんま綺麗でもなあ」
美形は顔だけ中身無し、という偏見を持っていた。
「じゃあなんで好きになったの?」
「あの人面白いんだ」
呆気に取られたような顔で「面白い?」と返してきた。
914 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/02/26 18:59:49 ID:cDuNYX+70
「こればっかりは会ってみないと分からない話だけど」
「でも、普通は外見でしょ?」
「そういう人もいるよな。でも中身が一番だって人も少なくないよ。ハルナは?」
どっち?という意味で聞いた。
「私は、外見が大事だと思ってたけど」
やけに神妙な顔で答えた。
「まあ第一印象も大事だろうけど。でも話してて楽しい相手は付き合ってから長持ちするよな」
「そうなの?」
「そうなのって、人によるけど」
「そっか、でも。……ああ、そうだよね」
何か思い出したのか、それとも悟ったのか、うんうん頷きながら一人で勝手に納得し始めた。
「私でもエミに勝てるんだよね」
そこで俺もようやく彼女の考えていることが分かった。
「勝つかどうかは知らんけど、タイマンは張れるな」
我ながらよく分からない例えだと思う。でも彼女は共感できたようで、そうだよねと嬉しそうに答えた。
933 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/01 22:52:21 ID:40mJ0DE+0
「勉強、ちゃんと出来ました?」
「ん、まあ」
当然嘘である。
「今日の教科なんでしたっけ?」
「英語と世界史」
「主要教科二つじゃないですか」
「ん、まあ頑張るよ。それじゃ」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
そんな感じで月曜の朝、玄関を出る。馴染んできたなあ、と思いつつ家を後にした。
停車している通学バスの座席から外の景色を眺めていると、断りもなしに隣を座られた。
「よう斉藤」
昨日の、本屋の息子だった。
934 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/01 22:53:40 ID:40mJ0DE+0
「おはよ。何か取れた?」
早速約束の映画の券の話を切り出した。ユキの性格上、あまり金のかかることは乗り気にならないだろう。
だがタダ券ならせっかくだから、という風に持ち込める。そう考えていた。
「おう、いいのが取れたぞ。お前の為に無理言ったんだ、感謝しろ。学食おごれな」
「枚数は?」
「四枚」
持つべきものは旧き仲だなあ、と心の中でガッツポーズ。ほら、と券の入った封筒を渡される。
その場で出してみると確かに同じものが四枚。そしてゴジラ対ヘドラの文字。
「……ん?」
背びれの付いた黒い怪獣と赤い一つ目のドロドロしたやつが取っ組み合っているイラストが四枚に描かれていた。
女の子に渡すにはどぎついカラーだった。
「何だこれ」
「うん、リバイバル上映だと」
なるほど、どうりでこんな古い映画が。と変に納得してしまった。
936 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/01 22:57:47 ID:40mJ0DE+0
「好きだろお前」
ゴジラといえば怪獣が暴れまわる映画、というのが大体の認知だろう。
そんな姿が少年時代の俺に心打つことはあったが、高校時代にまで引きずっていたわけではない。
しかしヘドラだけは違う。違うのだ。
もはやゴジラというキャラクターで客を呼び込んでいた時世、この作品だけは環境問題に真っ向から
取り組んだ社会派作品なのである。内容こそ王道にゴジラが敵をやっつける、ってな内容だが、
個人的に初期プロットと噂されるヘドラとゴジラが共倒れ、そしてもう一匹いたヘドラが東京湾から顔を覗かせ??というものの方が
いや、まあいいや。
「好きだよ。好きだけど、いや好きなんだけどさ。何で四枚頼んでこれなわけ?」
「親戚の子と見るって言ってたよな」
じゃあ怪獣映画だろ、とその友人は笑いながら言った。例の姉妹は事情が複雑なので濁した所が多かったが、失敗だったようだ。
939 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/01 23:09:17 ID:40mJ0DE+0
「小学生くらいの男の子ならゴジラが飛ぶ姿見てはしゃぐぜ?」
そういえばヘドラが人間を溶かすシーンがあったな思い出した。子供なら泣く場面だ。
「まあ、ありがと」
友人の嬉しそうな顔を見ながら別の手を考えないと駄目だなと思った。手元の券をもう一度見る。
さすがに四回も一人で見たら気分を害しそうだ。これもどうしたものか。
テストも終わり、妙な緊張感が漂っていた教室も息を吹き返す。
でもそれもすぐで全員教室から出ていってしまうと静かになる。
俺はそこで一人机に座っていた。頼まれた仕事を会長に報告する為である。
10分もしないうちに会長は姿を現した。業務的に事を済ませ、顧問に報告するまで15分とかからなかった。
終わってしまえば後は帰るだけである。会長と下駄箱まで歩くと、全校生徒は帰ってしまったらしく人の気配は無かった。
そこは日が差しているのに夜のような静けさと寒気が存在していた。
「ねえ斉藤君」
学年別に別れた下駄箱の、二つ挟んだ向こうから会長の声がする。
「昨日の電話の子、やっぱりコレなわけ?」
940 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/01 23:13:05 ID:40mJ0DE+0
「何すか、コレって」
姿は見えないが小指でも立ててるのだろうと想像がつく。
「彼女でしょ」
「違いますよ」
靴を履いて、一緒に外に出る。ここにもやはり誰もいない。なんだか会長と二人でいるのがいけない事のような気がする。
「でもあの子「智也さん」なんて言ってたじゃない」
これにはさすがに返答に困ってしまった。
「ていうか彼女でも変よね。まさか変な風に調教してるんじゃないでしょうね」
どうなのよ、と小突いてくる。黙ってりゃモデルなのに口を開くとおばさんに見えてしまう人だった。その度に俺は
「先輩、女の人がそういうこと言うもんじゃあないです」
とお目付のように注意していた。
949 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:26:43 ID:iLs75YAk0
「否定しないってことは、やっぱり?」
「ただの親戚です」
「嘘だー。だったら斉藤君は「友達です」なんて答えるわけないじゃない」
やっぱ彼女だ、と楽しげな様子で言ってくる。
このまま中途半端な誤魔化しを続けていると先輩の中でユキが俺の彼女になりかねなかった。
先輩に好意を抱いている俺からするとたまったものではないが
それ以上にユキたちにものすごく失礼なことだと思ったので、秘密ですよと付け加えて本当のことを話すことにした。
エミから聞いた話を大雑把にかい摘んで話す。彼女たちは親戚だが、父親の蒸発と借金の存在により
ひとまず同居しているという状況。しかしユキとハルナは俺がそのことを知っていることは知らないこと。
そして母親が帰ってくる明後日まで続くということ。
「なるほど、そういうことなの」
合点がいったらしくふむ、と腕を組む先輩。それから俺に目を合わせて
「斉藤君、責任重大ねえ」
とおどけているのか真剣なのかよく分からない言い方で言った。
950 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:29:42 ID:iLs75YAk0
「ユキが身の回りのことから家事までやってくれてるんで。全然不都合は無いです」
「そうじゃなくてさ、下手にその子たちの信頼裏切るような真似出来ないよね、っていう。だってお父さんが一人で夜逃げでしょ。私なら人間不信になっちゃう」
三姉妹の父親、つまり俺の伯父だが、どういう人間かはエミの口から聞いた「身体を触ってきて」という
暴行の話と賭博癖がある事しか知らなかった。それだけ聞くと駄目人間だ。
いなくなってむしろ清々したのではないかとも思うが。
「借金残すような父親でもですかね?」
「何したって「お父さん」には変わりないわけだし、いきなりいなくなったら悲しいんじゃないかしら。家族ってそういうものだと思うけど」
「……どうなんですかね。分かりません」
正直な感想だった。確かに、ユキとハルナにとっては血のつながった実父なのである。
「まあ、ともかく斉藤君はえっちなことしないようにね」
「しませんよ」
951 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:32:09 ID:iLs75YAk0
初日にエミと寝たことを思い出した。やましいことはなかったが、かといって言える話でもない。
そのことは永遠に封印しておこうと考えて、ふと思いついた。
「ああそうだ。先輩、好きな人がいたらどんなことしたいですか?」
「いきなりなあに。口説いてるの?」
「エミがそんな質問をしてきたんですよ。でも俺はいい答えを言えなくて」
うふふ、と笑ってふざける先輩を無視する。何かと冗談を言いたがる人なので全てに対応すると疲れるのだ。
出会ってから一年も経っていないが、毎日生徒会室で顔を付き合わせた結果だった。
「何て答えたの?」
「相手が幸せになることをするよ、って」
先輩が相手だと言ってて恥ずかしかった。実際、先輩もうっすらと笑いを浮かべている。
「なに、斉藤君って尽くすタイプ?」
「どうなんですかね」
無性に恥ずかしくて大した反論も出来ず「先輩は?」と聞き返した。
953 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:34:58 ID:iLs75YAk0
「あたしは、そうねえ。ううん」
そこで先輩は立ち止まった。ちょうど帰り道の別れる場所だった。
「……悩み事を聞いてあげることかな。私に出来ることなんて、そんなことくらいだしなあ」
そう言う先輩の顔はなんだか普段より幼く見えた。
おばさんや関西人のような妙な雰囲気を持っている人だったが、こういう姿は初めて見る。
「私も大した答えになってないわね」
照れながらへへ、と笑う仕種が年下の女の子のようだった。
「いや、まあいいんじゃないですか。俺はいいと思います、そういうの」
俺も照れてしまって目を合わせずに答えた。生意気言うわねー、と返事した時の先輩はいつもの調子に戻っていたが。
「ユキちゃんだっけ?その子がしっかりしてるって話だから困ることもないだろうけど、何かあったら私に聞きなね。男の子には分からない部分ってあるからさ」
「そうですね、頼らせてもらいます」
955 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:36:39 ID:iLs75YAk0
「普段お願い事してばっかだからね。たまには頼られないと、先輩として」
偉そうに胸を叩く姿を見て、そういえばこの人って会長って役職なんだよなと改めて気づく。
仕事時は「会長」と呼ぶものの心の中はそれに比例した尊敬はない。
あるのは今のように緊張しないというか、いいひと、という感情だ。
今さらそんなことを思うのがおかしくて「たまには俺も頼りたいですしねえ」と笑いながら答えた。
それから適当な話を済ませて別れた。その時にヘドラの券が四枚あることが頭をよぎったが
まさか誘うわけにもいかなかった。
956 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:38:20 ID:iLs75YAk0
「遅い、遅いよ。何してたのこんな時間まで」
家に着くなり玄関でハルナに責められた。時計を見ると一時半を過ぎたところで、別にそこまで言われる時間でもない。
「お腹空いて死ぬかと思ったよ」
「え、まだ昼食べてないのかお前」
「お姉ちゃんが智也君を待つって言ってねー」
新妻のようでしたよと嫌な笑いをしながらささやく。同じタイミングで後ろのリビングのドアが開いて
ユキが恥ずかしそうに顔を出してハルナを睨んだ。
「なに馬鹿言ってるの。ほら、ご飯にするから。智也さんも、上に荷物置いてきて降りてきてください」
照れちゃってまー、と変な顔をしながらハルナが退場する。
「ハルナの冗談ですから」
「そうだろうね」
「……早く降りてきてくださいね」
それからユキも引っ込んだ。
957 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:42:58 ID:iLs75YAk0
あるべき活気のようなものが、彼女たちに戻ってきている感じがした。
別に俺が影響を与えた等と偉そうなことを言う気は無い。単純に精神が回復しているのだろう。
何であれ元気が出てきているのは明白だった。嬉しい気分で二階の自室のドアノブに手を掛けようとすると
心境を反映したかのような鼻歌が部屋から聴こえてきた。
下に二人いるので部屋にいるのは彼女だろう。最初ノックするべきかと考えたが、それも変な話である。
ただいまと言ってドアを開けた。案の定部屋にいたのはエミで、昨日のハルナと同じようにヘッドホンをしてベッドに寝ころがっていた。
「あ、わ、きゃ」
俺を見てから、文字にするとこんな感じの色々混じったような悲鳴が小さく上がった。
「す、すいませんごめんなさい。借りてました。???痛っ」
ヘッドホンを慌てて外そうとしたせいでスライド部分に髪の毛が挟まってしまったようだった。
しかし慌てているエミはそんなことに気づかず、どうにかしようと引っ張るだけ。
958 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/02 23:45:14 ID:iLs75YAk0
「ちょっと座ってごらん」
小動物のような泣きそうな目をしながら従い、ベッドの上でちょこんと正座する。
俺はその後ろ側に座って、痛くならないよう気を付けながらヘッドホンを取ってやった。
「あ、ありがとうございます」
「コンポ使ってても怒らないよ。慌てんな」
さっきの様子がおかしくて笑いながら乱れた髪を撫でてやる。
近距離から見るとエミがいかに小柄なのか実感することが出来た。
肩なんか細くて手の中にすっぽり納まりそうだ。抱きついたら簡単に腕が回るに違いない。
「あの、智也さん」
「うん?」
「おかえりなさい」
「……いい子だなあ。ハルナと大違いだ」
大げさに言っておどけてみたものの、言葉自体に嘘は無かった。
「ハルちゃん?」
「あいつ俺が帰ってくるなり「腹減った」だと。雛鳥かっての」
969 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/03 18:28:45 ID:SOTl98BQ0
>>962 ユキは肩に当たるくらいの長さ。料理時は縛って一本おさげに。
ハルナは二本おさげ。
エミは説明すんのが難しいのでグーグルのイメージ検索で「髪型」からみつけてみた。
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http://www.yoshimiru.com/images/cha/cha_14.gif こういう感じにまとめてて、写真よりもうちょっと上(つむじの下辺り)のところでおさげになってた。
>>966 個人的にはイラストは冬目景氏にやってホスィ。
映画云々の話は上にもあったけど、同一人物?
971 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/03 23:45:13 ID:SOTl98BQ0
ハルちゃんらしい、と微笑む。彼女のこんな表情は最初の時点では想像出来なかった。
しかしその時抱いた不健全な印象は今は無い。歳相応の笑顔を見せられ、もう大丈夫だな、という一種の安心感があった。
変な話だが、もう見えない所へ行ってしまっても彼女は大丈夫だろうという親心のようなものが芽生えていた。
「そういえばもうお昼じゃないですか?」
エミの言葉に我を思い出して、そうだったと呟いた。
「早く下に行かないと姉ちゃんに怒られるな、よし急げ」
ぽんと背中を押してやる。
「あ、私CD片づけてから行きますから先行ってていいですよ」
「いや、俺も着替えるから」
当然エミの前で脱ぐわけもないのだが、彼女はびーんと背を反らせて
「ごっ、ごめんなさい」
と言って慌てて出ていった。
972 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/03 23:47:16 ID:SOTl98BQ0
着替えてからリビングに入ると三人は既に席に座っていた。
ハルナがしつけられた犬のようなに皿のカレーを凝視している。
「昨日の残りなんですけど」
ユキが苦笑いして言ってきた。
昨晩のカレーは元々余らせるつもりで作ったらしく、寸胴鍋には結構な量のルーが入っていた。
「美味しかったから構わないよ」
「よかった」
ほっと胸を撫で下ろすといった風のユキ。彼女も相当打ち解けている。
いっそこのまま三人と暮らしたいと冗談でもなく思う。
「早く席につけよぅ。遅れた自覚あるのかコラー」
「お前さ、もうちょっと女の子らしくしようや」
ハルナも良くも悪くも遠慮がなくなっていた。
最初部屋で三人と出会ったとき自分が異分子に思えてその場を後にしたが、今は。
973 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/03 23:49:08 ID:SOTl98BQ0
「それじゃ、いただきます」
後から座ったということで俺が音頭を取った。三人もそれに続いた。
「今日テストどうでした?」
「ん、まあまあ」
「え。何、テストだったの?」
皿から顔を上げてさも驚いたように俺を見るハルナ。
「そうだけど」
そうだったんだ、と言って彼女らしかぬ表情になった。
「……昨日はごめんねえ」
昨日?と口に出してから思い出した。昨晩のことを言っているのだろう。
彼女の悩みが吐き出せたようなので気にはならない。というか元々勉強する質ではないのだ。
俺にとってプラスこそあれマイナスは無い。
975 名前: 部屋にいたのは ◆AtnIpaun2Q 05/03/03 23:51:25 ID:SOTl98BQ0
「ハルナ、あなたもしかしてまた邪魔したの?」
「いや、ちょっと俺と話してただけで。大したことじゃないよ」
珍しく反論しないハルナに代わってフォローした。
「でも私達のせいで成績落ちたりしたら悪いですし」
ユキの一言一言がぐさりと突き刺さる。勉強してないのだし今更下がるような事もない。
それで心配されているのでどうも人を騙している気分になるのだ。
「いいんだ。勉強自体大してやってないからさ」
「でも……」
俺の正直な言葉にユキも返事に困りだす。
「お姉ちゃん、智也さんの言うことだし信じなよ」