★韓国朝鮮は、歴史が日本より遅れているのか?3★

このエントリーをはてなブックマークに追加
[李朝後期]そうした要素が李朝後期の文化を特徴づけていくのであり,実学や
ハングル文学,庶民芸術が展開される。《洪吉童伝》《春香伝》など各種の
ハングル小説や中国小説のハングル訳本もさかんとなった。また,ハングル文学
である歌辞,時調の流行,仮面劇の民衆への流布,〈聞く小説〉ともいわれる
パンソリ(歌物語)の発生,絵画でも庶民を主題とした風俗画の発達などがあり,
それらを通じて庶民芸術が発達した。

[李朝末期]キリスト教の牧師や教会によって,1880年代半ばから近代的・民族的
教育のための学校(培材学堂,梨花学堂など)が設立され,併合前にはキリスト
教系の私立学校が950余校にも達した。他方,儒学の流れをくむ書堂も衰えず,
そこでは民族主義教育が行われた。そして19世紀末から20世紀初めにかけて,
大衆的な民族運動の高揚の中でハングルによる大衆的な新聞(《独立新聞》
《皇城新聞》など)の発刊があいつぎ,さらに1905年の日韓保護条約の強制の
危機の下では教育・文化活動を中心とする民族運動=愛国啓蒙運動が展開された。
文学の面でも,20世紀初頭から〈唱歌〉〈新体詩〉〈新小説〉など近代文学の
萌芽が現れて一世を風靡し,自主独立・近代化の必要などの社会的問題をテーマ
とするようになる。
矢沢 康祐(平凡社)
[近世――李朝時代]李朝文学は,ハングルの創制と,後期における両班(ヤンバン)
以外の中人(ちゆうじん)・胥吏(しより)階級の創作への参加とパンソリなどの庶民文芸
の出現により多彩な発展をみた。
まず詩歌の幕開きは〈楽章〉と呼ばれる歌体で,典型的作品に《竜飛御天歌》
《月印千江之曲》がある。郷歌以来の朝鮮固有の歌謡形式を踏襲し短縮した
〈時調〉は高麗末に形式が完成するが,李朝の代表的詩歌となった。
17世紀末ころまでは学者の即興詩的な色彩が強く,作風も道徳的で観念的であるが,
金天沢,金寿長らの平民作家が輩出し,写実的で諧謔的,享楽的になり,形式も短型の
〈平時調〉から中・長型の〈オッ時調〉〈辞説時調〉の破格型が生まれた。
歌集《青丘永言》《海東歌謡》に集大成されている。作者としては尹善道
(いんぜんどう)や開城の妓女黄真伊が有名であるが,上は王から下は庶民に
いたり,日本の和歌や俳句のように国民的詩歌として今日もなお愛好者が多い。
時調と並ぶ〈歌辞(歌詞)〉は,別曲体から発展し,丁克仁の《賞春曲》に最初
の整った形態がみられる。韻文形式の中に散文的内容を含み,詩歌と散文の
中間であり,長歌ともよばれる。3・4調や4・4調で単調なため,時調ほど発展は
みられなかった。苫坐(ていてつ)と朴仁老が代表的な作家であるが,許蘭雪軒
の作と伝えられる《鳳仙花歌》は女性らしい繊細な筆致で美しい情感を表現している。
小説は初期の段階では金時習の《金鰲(きんごう)新話》など漢文小説が主体で
あったが,ハングルによる仏典の翻訳や仏教説話の小説化の時期を経て,
17世紀末から18世紀に入ると知識層の女性間に小説を愛読する者が増え,
呼応して金万重の《九雲夢》などの長編通俗小説が現れ,多数の中国演義
小説が翻訳・翻案され,ソウルには彼女たちを顧客にした貸本まで出現した。
許慎(きよいん)の《洪吉童伝》は本格的ハングル小説のうち,現伝する最古
のものとされる。一方,18世紀に入り庶民の娯楽として盛行した〈パンソリ〉
(物語に節をつけて演唱するもの)や,街頭における講釈師のレパートリーから,
《春香伝》《沈清(しんせい)伝》《興夫伝》などの傑作が生み出された。
李朝小説で現伝するものは400種を下らないが,そのほとんど全部が作者と
製作年代が明らかでない。また勧善懲悪とハッピーエンドで終わり,伝奇性が強い。
しかしパンソリ系統の小説は,俗語をふんだんに取り入れ,その描写も写実的であり,
風刺と諧謔に富む。漢文小説の中では,宮女と士の情死を描いた《雲英伝》
がテーマと技法の点で注目され,また実学の巨匠朴趾源(ぼくしげん)の作品
(《両班伝》など)は両班階級自身の内部告発の小説である。
ハングル文学には,このほかに《閑中録》などの日記文学があり,李朝女流文学
に光を添えている。                (大谷 森繁)平凡社
ハングルは李朝時代には正字である漢字に対する民間の文字として〈偵文〉
とよばれ,従の位置を脱しきれなかった。甲午改革(1894)によって公用文
にも用いられるようになって〈国文〉とよばれたが,
朝鮮が日本の統治下にはいってから,〈ハングル〉という名称が考案された。
これは,〈大〉を意味する古語〈ハン〉と,文字を意味する〈クル〉を結びつけ
たものであるが,〈韓〉の字音にも通ずるとして広く受け入れられ,大韓民国
では今日正式名称として用いられている 大江 孝男(平凡社)