『コケモモ殺人事件 道後温泉の湯煙に消えた美人女子大生』
第三章 容疑者Cの回想
コケモモは約束の場所に5分ほど遅れて到着したそうです。
ところが、そこにいたのは、写真で見たクッキーマンとはほど遠い白豚でした。
パンチパーマのような髪型、ゲジゲジのような眉、不細工を絵に描いたようなブ
ヨブヨとした白い肉塊が、弁当をむさぼり食いながら、焼酎を飲んでいるところ
でした。
『クッキーマン、まだ来てないのかな? それとも、場所を間違えたのかも…』
不安になったコケモモは、クッキーマンの携帯に電話してみることにしました。
0・9・0、ピ・ポ・パ・ピ……。トゥルルルル……。
「はい、クッキーマンです」
電話に出たのは、なんと目の前にいた白豚でした。
『え? どういうこと? なんであの人が出るの??』
コケモモは、状況を理解することができません。そのうちに、白豚の方がコケモ
モに気づきました。
「やあ」
そう言ってのっそり立ち上がろうとする白豚を見た瞬間、コケモモは悟りました。
『だまされた!』
今日までアイドルのように崇拝し、兄のように慕い、弟のように可愛がってきた
クッキーマンが、こんな醜い肉塊になっていたとは! こんな白豚に会うために四
国くんだりまでやってきた自分が哀れでならなくなりました。コケモモの中に凶暴
な衝動がわき起こり、あっという間に理性を圧倒したのは、このときだったと言い
ます。
「よくもだましてくれたな! クッキーマン……いや、この豚やろうめ!」
そう叫ぶが早いか、コケモモは持っていた携帯電話を全力で白豚に投げつけまし
た。
白豚の頭部に命中し、額がぱっくりと割れ、血がぴゅーと噴き出しました。その
血が垢じみた顔や首、薄汚れたシャツを赤く染め、白豚はますます醜い有様となり
ました。
それを見たコケモモは、さらに逆上します。
白豚が持っていた一升瓶を取り上げると、それを血に染まった頭部めがけて、思
いきりたたきつけました。ゴンッという鈍い音がして、白豚がその場に倒れます。
その後頭部めがけてもう一発、コケモモは一升瓶を振り下ろしました。ガチャッと
いう音がして、今度は一升瓶が割れました。あたりに芋焼酎の甘い匂いが立ちこめ
ます。
白豚は苦しそうに後頭部を抑えたまま仰向けになると、ようやく言ったそうです。
「ちょっと待ってよ。あなたは誰なの?」
コケモモはその声の優しさに一瞬ひるみましたが、
「豚やろうの知ったことか!」
と叫ぶと、無防備になった白豚の腹に、手に残っていた一升瓶の破片を突き刺し
ました。
それは、羊羹に楊枝を刺すほどの抵抗もなく、すっと刺さったと言います。
深く、深く……。
コケモモは体重をかけました(彼女もまた、ちょっとした白豚だったのです)。
ぶ厚い脂肪の層を突き破り、わずかにあった筋肉の層も破り、破片は腸に達しま
した。
それを目と手応えで確認すると、コケモモはぐったりしている白豚の手を取り、
破片を握らせ、その上から自分の手を重ねて、一気に「きええっ」と横へかっさば
きました。
切腹させようとしたのです。
コケモモはその声の優しさに一瞬ひるみましたが、
「豚やろうの知ったことか!」
と叫ぶと、無防備になった白豚の腹に、手に残っていた一升瓶の破片を突き刺し
ました。
それは、羊羹に楊枝を刺すほどの抵抗もなく、すっと刺さったと言います。
深く、深く……。
コケモモは体重をかけました(彼女もまた、ちょっとした白豚だったのです)。
ぶ厚い脂肪の層を突き破り、わずかにあった筋肉の層も破り、破片は腸に達しま
した。
それを目と手応えで確認すると、コケモモはぐったりしている白豚の手を取り、
破片を握らせ、その上から自分の手を重ねて、一気に「きええっ」と横へかっさば
きました。
切腹させようとしたのです。
コケモモは、ふらふらと歩きながら、何度か後ろを振り返りました。
「私、クッキーマン、殺しちゃった。ふふふ」
それは、大学の購買でチョコレートを万引きするときほどの罪悪感もない行為で
した。
白豚はまだ生きていて、引き出された臓物を何とか腹に戻そうとしていました。
しかし、うまくいきません。
その動きが次第に緩慢になっていき、やがて止まりました。
顔が青黒く変色し、やがて土気色になっていったそうです。
白豚の目がこちらを見ているように思えました。その目が黒い穴になっていくよ
うです。
そして、黒い穴だけが顔であるように見えたとき、絶命していたのでしょう。
白豚はぴくりとも動かなくなりました。
コケモモは、かすかな満足感を湧き起こるのを確かめました。しかし、それも長
くは続きません。いつものアンニュイが、再び彼女の心を満たしはじめたのです。
『つまんない。誰か誘惑して遊ぼうかな』
そのときです。
目の前に、懐かしい顔が現れました。間違いなく、見覚えがある顔……。
「やあ(・×・`U)」
声にも聞き覚えがありました。
「クッキーマン?」
「そうだよ(・×・`U)c」
「どういうこと?」
「こっちが聞きたいよ。何でそんな血だらけなの?(+×+`U)」
「本当にクッキーマン? じゃあ、私が今、やってきたのは?」
コケモモは白豚の死体を振り返りました。
白豚は、さっき絶命したときと同じ状態で、同じ場所に倒れていました。
ただ一つ違うのは……。
傍らに女が立っていたことです。
女は、惨殺された死体を前にして、動じることもなく、こちらを向いて微笑んで
います。
『あの人は……』
ピエロのようなメイクをしたその顔に、コケモモはかすかに見覚えがありました。
タレントの眞鍋かをりに似ている、あの人は確か……。
「さて、道後温泉に行こうか(・×・`U)」
クッキーマンの言葉で、コケモモは我に返りました。
※
「……という話をコケモモから聞いたんだ。信じられなかったよ(・×・`U)」
クッキーマンの長い回想を最後まで聞いた名探偵・斎藤総一郎は、数日前に起き
た別の事件を思い出していた。長野県松本市で失踪した「ムヒ」という男が、愛媛
県の山林で遺体となって発見された事件…。斎藤の頭脳の中で、点と点がつながり
始めた…。
(第三章 容疑者Cの回想 完)