1 :
(-_-)さん:
名無し様からのご依頼でたてました。
2 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 03:27:53 ID:???0
Qここどこ?
A樹海の奥深く自ら命を絶とうとして死にきれなかった人たちが集まり暮らしている場所という設定です
Q何するの?
A樹海の住民になったつもりでごっこ遊びをしていってね
詳しくは
>>3-4辺り
3 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 03:28:52 ID:???0
314 名前: (-_-)さん [sage] 投稿日: 2008/04/02(水) 15:51:30 ID:???0
青春18切符で樹海を目指す旅
たどり着くまでの様々な出会いが少年の心に変化をもたらす
最終地点、樹海を目にした少年は・・・
2008年夏全国一斉公開
4 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 03:29:02 ID:???0
Qご飯はどうするの?
A親がもってきてくれます
5 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 03:29:09 ID:???0
341 名前: (-_-)さん [sage] 投稿日: 2008/04/02(水) 15:58:25 ID:???0
樹海のロビンフッド
樹海の奥深く自ら命を絶とうとして死にきれなかった人たちが集まり暮らしている集落があるという
そんな噂を聞きつけた少年は3年前遺書を残し失踪した姉を探すため樹海へやってきた
原作ヌルー 来春公開予定
376 名前: (-_-)さん [sage] 投稿日: 2008/04/02(水) 16:08:03 ID:???0
>>352 樹海のロビンフッド2(原題「さよならロビンフッド」)
樹海の奥深く自ら命を絶とうとして死にきれなかった人たちが集まり暮らしている集落があった
ある日やって来た自殺未遂者の男は元自衛官だった。
外界と隔絶された静かで平和な世界に訪れた小さな風はやがて嵐へかわり・・・
原作ヌルー 来秋公開
389 名前: (*´・ω・`*)ヌルー ◆9pXiBpy0.U [sage] 投稿日: 2008/04/02(水) 16:11:36 ID:???0
>>376 シリーズ化可能なんだなw
樹海のロビンフッド3(原題「シャーウッドの森へ」)
遂に南朝の末裔を名乗る人物が宗教と政治の一致を打ち出して、
武闘派を抱き込んで祭りの最中に穏健派を粛清・・・
外部の民兵組織と糾合して日本国政府への独立戦争を開始した・・・
410 名前: (-_-)さん [sage] 投稿日: 2008/04/02(水) 16:19:14 ID:???0
>>389 樹海のロビンフッド4(原題「マリアの涙」)
晴れて独立国家となった樹海共和国
独立戦争によりその存在が全国へ知れ渡り亡命してくる日本国民も増えていた
亡命した少女の家族から娘を取り戻してほしいと依頼を受けた探偵は単身共和国へ乗り込んだ
6 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 04:28:56 ID:???0
第一章 樹海の中の集落
立ち上がったのは、何日ぶりだろう。両脚の筋肉は、すっかり萎えていた。
歩くたびに、地面がやわらかく沈むように感じる。両脚の筋肉は、すっかり萎
えていた。
スニーカーとジーンズの裾が草の露に濡れる。
膝が痛む感覚が、「まだ生きている」という事実を知らせ、ぼくは苦笑いした。
今が朝なのか夕暮れ時なのかも、もう分からない。
姿を見せぬ鳥たちが梢々で鳴き交わしている。その黒い木立の上に、空は赤く
染まっている。その茜色から連なる頭上の闇に、白い月が出ていた。
7 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 04:29:41 ID:???0
腕時計はとうの昔に捨ててしまった。
わずかな現金を除けば、樹海に持ち込んだ、唯一の財産と呼べるものだった。
これから死のうというのに、時間を知りたかったわけではない。
その時計は、難関と言われる私立中学の受験に成功したとき、父さんに買って
もらったものだった。中学1年の少年には贅沢すぎるシチズンの精巧な時計をぼ
くは「戦利品」として愛した。
それを幾日か前に思い切って捨てたとき、わずかに残っていた優等生だった誇
りと、家族への愛情を、ぼくは捨てた。
8 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 04:31:30 ID:???0
「死にたい」
という気持ちは、樹海に来るまで、確かなもののように思えた。
ところが、どうしてだろう? 適当な死に場所を求めてさまよい歩くうち、そ
の気持ちは拠り所を失っていた。
なぜ?
「生きたい」
という気持ちが確かめられたわけでもなかった。しかし、いざ本当に死のうと
してみると、自分の中にある本能のようなものが、それを阻むを感じた。
結局ぼくは、その壁を乗り越える気力をも、長い引きこもり生活の中で失って
いたのかも知れない。
葛藤しながら、ぼくは樹海の奥へ奥へと迷いこんでいった。
9 :
(-_-)さん:2008/04/03(木) 04:40:41 ID:???0
もう帰る道も分からない。今、樹海のどのあたりにいるのか……。
ぼくは疲れきり、大樹の根元に腰を下ろした。苔に覆われた、ソファのような
くぼみがあり、座り心地が良かった。
いつの間にか眠っていた。
夢を見て、うなされて起き、することもなく、まどろんで、また眠り……。
何日そうしていたのか、今が昼なのか夜なのか、分からなくなった。
少年時代の夢、学校での不愉快な出来事を想起させる夢、死んだはずの父に叱
られる夢、殺される夢、人を殺す夢、空を飛ぶ夢、落下する夢……。
目が覚めると、樹海の黒い木立がある。
木が女に化ける夢、性的な夢、樹海の中をさまよい歩く夢、人に発見される夢、
なぜか死んだふりをしている夢……。
いつしか、夢と現実の区別が曖昧になった。
ぼくは立ち上がった。
もちろん、行く当てなどあるはずもない。
体力を消耗させ、一刻も早く死のうというのか。
そんな気力も計算もなかった。
ただ、何かに導かれるようにして、ぼくは樹海の中を歩き続けた。
歩く自分の影が、闇に飲み込まれていった。夕暮れ時だったのだ。
樹海が夜の底に沈んでいく。
コンビニも街灯もない、本当の闇の深さを、ぼくは樹海に来て初めて知った。
月は出ているが、その光は木立に遮られて、地面までは届かない。右も左も前
も後ろも、漆黒の闇、闇、闇、闇。錯綜する木の根に足をとられて、何度も転ん
だ。木の幹を頼りにして起きあがり、また歩き出す。真っ暗闇の中をどこへとも
なく歩いていく。這っているような状態かも知れなかった。
ふと前方を見たとき、ハッとした。
火だ。
黒い木々のすき間に、確かに火が見える。そう言えば、さっきから微かに物が
焼けるにおいがしている。
これが火の玉というものなのか? 違う。火は地面から燃え上がっている。
焚き火だ。
火の周囲を注視して、ぼくは混乱した。なぜ? 樹海のこんな奥で一体誰が?
また夢を見ているのだろうか? しかし、転んで擦りむいた傷が痛い。
さまよい歩くうち、人の住むところに出てしまったのだろうか? まさか。
樹海のパトロール? だとすれば、逃げなければ……。
しかし、体はそうは動かなかった。吸い寄せられるように、火の方へ、火の方
へ、ぼくは歩いていった。やがて、火に照らされた周囲の景色が見えてくる。
人だ!
ぼくはほとんど驚愕した。焚き火のそばに老人が座っている。
数日ぶりに見た人間、死の森で遭遇した人間。見るからにパトロールの人では
ない。老人はボロボロの衣服を身にまとっている。
なぜ? こんなところで一体何を? ぼくは久しく感じたことのなかった強烈
な好奇心に突き動かされ、焚き火と老人の方へ向かっていった。
「何をしている?」
突然、背後の闇の中から声がした。振り向くと、別の老人が、思いがけない近
いところで、ぼくを見ている。心臓が縮みあがった。
「君もここへ、死ににきたのか?」
よく見ると、老人ではなかった。顔は垢で汚れ、髭が伸び放題になっているが、
目つきが若い。ぼくはあまりに思いがけない事態を前にして、硬直していた。声
が出ない。
「君を……悪いようにはしない」
目の前の男も、声が震えていた。相手を警戒しているのはお互い様なのだ。そ
のことに気づくと、ぼくは少し安堵して、ようやく少し冷静さを取り戻した。
「こ、ここに住んでいる方ですか?」
間抜けな質問をした。
男は頷いて、それから続けた。
「……確認させてほしい。君もここへ、死ににきたのか?」
今度はこちらが頷く番だった。
「しかし、死ねなかった」
もう一度頷いた。
それを確認すると、男は少し安心したようだった。
「私たちはあの焚き火のそばの洞窟に住んでいる。ついて来て下さい」
男がぼくの前に回って、焚き火の方へ歩き始めた。
パチパチと火のはぜる音がする。
目の前まで来てみると、焚き火はそれほど大きなものではなかった。
もう一つ認識を誤っていたことがある。焚き火の前にいる老人も、若い。パー
カーのような服を着ている。ぼくと同じくらいの年齢なのではないか。
「……あの人は、声が出ない。首つりに失敗して、のどをやられた」
先ほどの男が、説明してくれた。独り言のように、続けた。
「人は、簡単には、死ねないものだな」
その通りだった。
死ぬことをだけを考え、樹海に迷い込んで数日、自殺することはできなかった。
しかも、何も食べず、何も飲まず、野宿をして、森の中を歩き続け、何度も転び、
それでも、ぼくはまだ生きている。
突然、強烈な空腹感に襲われた。
目眩がして、立っていることができなくなり、ぼくはその場に崩れ落ちた。
「大丈夫か? 何か食べるか?」
こういうとき、自殺志願者は何と言うべきなのだろう? しかし、思考するよ
り前に、ぼくは頷いていた。体は完全に生きようとする本能に支配されていた。
目の前に、何か液体の入った皿が突き出された。
良い匂いがしている。
ぼくは、というより、ぼくの体は、それをひったくるようにして掴み、一気に
飲み込んだ。
それほど熱くはないはずなのに、胃が焼けるようだ。
しかし、美味い。これは何だろう?
男がぼくの手から皿を取り上げ、そこにもう一度その液体を注いだ。
今度は頭を下げて、皿を受け取り、しかしまた一気にのどへ流し込んだ。
今度は少し臭みのようなものを感じたが、やはり美味い。肉の味がする。
何の肉だろう?
その疑問を察したように、男が説明してくれた。
「……心配しなくていい。ベーコンのスープだ」
ベーコン?
「驚くだろうが、ここには十分な食べ物がある」
なぜ?
「そのうちに分かる」
それ以上思考する力が残っていなかった。
男がもう一度スープを注いだ皿を手渡してくれたとき、ぼくの目から、思いが
けず、涙があふれた。嗚咽が込み上げ、声を出して、ぼくは泣いた。なぜ泣いて
いるのか自分でも分からなかったが、嗚咽を止めることができなかった。
いつの間にか、気を失っていたらしい。
意識が薄れてゆく中で男が説明してくれたことを、断片的に覚えている。
ここは、樹海で命を絶とうとして、死にきれなかった人たちが集まり暮らして
いる場所であるということ。今は7人が住んでいるということ。水と食料はあり、
再び自ら命を絶とうとしない限り、死ぬことはないということ……。
ぼくは毛布のようなものの上に寝かされていることに気がついた。ここはテン
トの中だろうか。天井を覆うシートのわずかな切れ間から、星空が見える。
しかし、一体なぜ?
いくつもの疑問が浮かんだが、思考は長く続かなかった。ぼくは再びまどろみ、
眠った。その夜は、夢を見なかった。
(第一章 完)
わっふるわっふる
わっふるわっふる
樹海に住んでみたいんだけど、何処行けばいいの?富士に樹海があるのは知ってるけど・・・
その村?かなんで生まれた子どもの話も面白そうだよね
時計を捨てたくだりがよかった
後は予断を許さない感じ
かつて欧州の森は深く恐ろしいものであった。
盗賊や世捨て人、駆け落ち、借金逃れ、異邦人、修行僧、野人、聖者・・・
聖と俗とが交じり合ったアジール(駆け込み寺)として機能した。
修行僧や高貴な身分のものは森で気が触れて裸で動物たちと交わり、
やがて聖人となる・・・アーサー王のマーリンもこの種の伝説を持つ。
村上龍「コインロッカーベイビーズ」では「薬島」なる、
異邦人や性倒錯者、売人や社会から炙れた存在が、汚染された土地という
司法公権力から侵されない聖域が登場した。
森は太陽の陽も刺さず、世俗の権力も及ばない土地として恐れられ、敬われた。
文明の秩序を打ち立てたローマ帝国もトイトブルクの森でゲルマン人の
奇襲にあってローマ軍は全滅、北欧の神々の生贄にされた。
しかし、産業化によって森は楽しげに思索に耽る場に成り下がった。
森の権威が奪われたのである。
なれど、母なる富士の山という日本の象徴の影で息を潜める自殺志願者と
亡者の群れが跋扈する樹海の森は、対比する故に権威を持っている。
常世への入り口である故に、力場を保っているのだ。
死して常世に消え神なり仏なりになる者たちを横目に、世俗社会で人として
生きる事も叶わず、死ぬことすらできない中間の存在のものたちが
深い森の底で吹き溜まりのように群れて暮す。
常世の淵で生と死の狭間にあり、浮遊する彼らは時として鬼となりときとして
豊穣をもたらす神として社会に回帰する。
或いは、深い森で潜伏し、虚ろな瞳で轟然と聳え立ち、天下を支える
強圧的な富士(不死)の山を見上げる・・・
わっふるわっふる
これはサイドストーリーというか、外伝的な構成を考えたもので、
今「樹海のロビンフッド」を書き進めてくださる方は、どうぞスルーして
自己の世界観を描き出して欲しいです。楽しみにしてます。
不死の山は日本最古の物語であるところの『竹取物語』と絡ませて、
物語全体の下敷きにするのも面白いかもしれない。
樹海深くの集落に生れ落ちた、或いは外からやってきた聖なる存在を
中心に、富士山/陽/国と樹海/陰/非国民という対比を軸に
究極には天皇/国家/社会を暗示させる存在との闘争と愛憎に満ちた物語とかね。
お水を汲んで皆のところに戻ってくると、見たことのない男の人が毛布に包まって眠っていました。
もしかして新入りさんでしょうか。
新入りさんを見るのははじめてのことです。
なんだか胸がどきどきしてきました。
静かに眠るその人は、ここにいる誰とも違っています。
色が白くて、まつげが長くて、汚れていない綺麗な服を着ていて。
まるで王子様のようです。
いつかキョウコさんやゲンさん達が話してくれた、
悪い魔女と戦ってお姫様を助け出す勇敢な王子様。
或いは、幻想ないし都市伝説の変容したものとしての樹海村伝説に
魅了されて集まった人々が、いつしか本当に集落を形成せしめる。
そう、樹海の集落は一つである必要もないし、その起源が単一である必要もない。
むしろ、多様な視点、方向性から照射された樹海の底のコミュニティの
陽炎のような曖昧さ、神話的な匂い、退廃的な幻想が見えてくるのも面白い。
表題のロビンフッドを巡る位置づけだが。
もちろん、無視してなんらかのメタファとして匂わせるのが王道なのだが、
あえて悪党(楠木正成)のような山賊ないし義賊的な味付けをするのも一興やも。
・迷彩服着て民兵/自警団化する集団の社会/国家権力などへの闘争。
例えば、借金取りに追われて樹海にやってきた娼婦を、守る為と
社会への闘争の口実として毒虫やボーガン使いなど、技能を持った連中が
名古屋とか大阪に遠征して叩く。石田衣良や村上龍の『半島を出よ』的な。
・『蝿の王』のような、胡散臭い富士山を主神とし巫女をその化身とするトーテニズムとか、
国家権力と闘争し敗れて落ち延びてきた新興宗教一派などをベースに、
救世主として崇められた存在を巡る物語。娼婦や少女が聖女とされたり。
・来るべき待望の救世主(メシア)を待望する人々を描いたもの。
そのメシアは実際にはほとんど姿を現さず、人々はメシアを求めて奔走し、
誰しもがバプテスマのヨハネ(キリストを見出し洗礼した人物)にならんとする・・・
・『竹取物語』をベースとした場合の、守護者なり・・・
・南朝の末裔という、本来は正統な王となるべき存在を復活させようと
奮戦し果てた人々
>>25 面白そうなんで小説か漫画でもいいから書いてほしい
この流れ昔あった幻想世界ロンドを思い出させるな
あれどうなったんだっけか
28 :
24:2008/04/05(土) 16:11:36 ID:???0
王子様がごろんと寝返りを打ちました。
髪に枯葉がくっついています。
とってあげようと手を伸ばしかけて、わたしは自分の爪が汚れていることに気づきました。
いえ、今が特別汚れているというわけじゃありません。
いつもと同じです。
ただ、今、この時まで、わたしは自分の爪が汚れているなんて知らなかったのです。
爪の間に土が挟まっているなんて当たり前のこと過ぎて、
気にしたこともなかったのです。
テントの外に出て、汲んできたばかりのペットボトルの水で手を洗いました。
洗っても洗っても爪は染みのように黒ずんだままで。
いっそ指を切り落としてしまいたいくらいです。
どこかで鳥が短い鳴き声を上げ、ばさばさと飛び立つ音がしました。
つられて見上げた空には鳥の姿はなく、涙でにじんだ月が浮かんでいるばかりでした。
ロビンフッドは壊れていた
樹海にあるもげげタケは食い尽くされていた
引きこもり達は腐臭を漂わせワライダケを食べていた
世界は終わった
と彼は感じた
クックロビン音頭を踊りながら
ロビンフッドは増殖しはじめた
ぐげぇえええええええええ
ごほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
引きこもり達はワライダケを栽培した
死んだ仲間達の頭蓋骨が苗床だった
苗床は天から見ると の形に並べられていたが
樹海を覆い尽くす樹木が記号を隠した
一生かけて書き上げた記号が
結局は自分の顔をなぞっているだけだったと書いた盲目の老人がいたが
ひきこもりは自分の顔も忘れてしまっていた
もげええええええええええええ
もげええええええ
引きこもり達の笑い声が天にこだまする
ロビンフッドは世界樹に登りはじめた
リンゴを探しているのではない
つづく
36 :
24:2008/04/05(土) 18:05:25 ID:???0
たいへん。
せっかく汲んできた水を全部使い切ってしまいました。
朝食を作るのに使う水だったのに。
また汲んで来ないといけません。
水汲みはわたしの仕事なのだから。
「働かざるもの食うべからず」というのがここでのルールです。
だけど、わたしにはゲンさん達のように上手に兎や鳥を捕まえることが出来ません。
キョウコさんのように男の人たちのお相手をしようにも、
せめてあと5年は待たないといけないそうです。
何も出来ないわたしのために、みんなが考えて与えてくれたのが水汲みという仕事です。
おかげで、わたしは毎日おいしくごはんが食べられます。
空になったペットボトルをリュックにいれて、わたしは川へ向かって走り出しました。
>>25 キョウコさんは、外にいたとき「そーぷ嬢」という仕事をしていたんだけど、
悪い男の人に騙されてたくさん傷ついて、死のうと思ってここに来たそうです。
「そーぷ嬢」というのは、ここでしているのと同じ、
男の人のお相手をする仕事だと言っていました。
違うのは、外ではお相手をすると兎や鳥のお肉じゃなくて、
お金というものがもらえるところだそうです。
お金には、紙のものと金属のものがあって、紙のほうがうんと価値があって、
いろいろなものと交換できるんだってみんなが言ってました。
でも、わたしは、丸くてきらきらしている金属のお金のほうが好きです。
そういえば、前にゲンさんにお金をもらったことがあります。
今よりも、もっとずっと小さいころ、
ゲンさんが5円玉という種類のお金の穴にヒモを通して、
「びゅんびゅんこま」というおもちゃを作ってくれたんです。
最近は「びゅんびゅんこま」で遊ぶことはなくなったけど、
ちゃんと宝物箱の中にしまってあります。
今度見せてあげる。
>>33 ときどき鳥や獣以外の声を聞くことがあります。
ここに暮らしているのはわたしたちだけじゃなくて、
他にもいくつかグループがあるそうです。
わたしはまだ会ったことがないけど。
みんな一緒に暮らせばいいのにと言ったら、
ゲンさんは「価値観の違いってやつさ」と笑いました。
むずかしくてよく分からなかったけど、とりあえず頷いておきました。
半年前、中学でクラスメイトに苛められていた僕は、自殺しようと樹海にやって来た。
首を吊るのにふさわしい木を見つけるために森の奥へ分け入り、
いざ首を吊ろうとしたところで自分がロープを持っていないことに気がついた。
出直そうにも、帰り道が分からない。
途方にくれた僕は、このまま餓死して即身仏もどきになるのも一興などと、
その場に座り込み座禅を組んではみたものの、3日目には空腹と喉の渇きに耐えかねて、
泣きべそかきながら当てもなく森をさ迷い歩いた。
そこをサトウさんに助けられたってわけだ。
サトウさんは僕を村(僕らはねぐらにしている場所を村と呼んでいる)まで連れて行ってくれ、
温かいスープとナンを食べさせてくれた。
僕が久しぶりの食事を夢中でがっついた。
あんなに食べ物がおいしく感じられたのは、はじめてだった。
いつの間にか僕らの周りに村の人たちが集まってきていて、
サトウさんは「新入りだぁ。仲良くなぁ」と声をかけた後、
皆のことを一人ずつ紹介してくれていたようだけど、
正直僕は食べるのに夢中だったから覚えていない。
僕が食べ終わると、サトウさんは「少し休むとええがぁ」とテントに案内してくれた。
毛布を敷いだけの寝床。
寝転ぶと枕下にかさかさと枯葉の擦れる音がした。
「寝るまで傍におるよ。安心しぃ」
悲しいわけでもないのに涙がこぼれた。
学校でいじめられていたこと、誰にも相談できなかったこと、
苦しくて辛くて逃げ出してきたこと、死のうと思ったけど死ねなかったこと、
怖くて寂しくてどうしようもなかったこと、僕はしゃくり上げながら色んなことを話した。
サトウさんは黙って僕の話を聞いてくれた。
僕が話し終えると、
「外に帰りたくなるまでここにおればええがぁ」、
サトウさんはそう言って、
まるで赤ん坊をあやすみたいにして僕の背中をやさしくぽんぽんと叩き続けてくれた。
34つづき
カサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサ
100人のロビンフッドが世界樹を登る音が
引きこもり達を不安にさせる
幹を登る100人のロビンフッドの鋭い爪で樹皮ははげ落ち
幹の周りに大量に積み重なる
それは100日続き冬が来た
少年は方位磁石を持参していた
時計はとうに捨てたのに磁石だけは手放さなかった
方位磁石は球形をしており少年の真っ暗な方の眼窩に
すっぽり嵌まるように出来ていた
つづく
>>42 少年向け冒険小説の要素ktkr
わっふるわっふる
この変態文は詩なので気にしないように
最近ネット上を賑わせている噂のひとつに、「樹海には死に切れなかった自殺志願者達が集まり暮らしている場所がある」というものがある。
勿論、その場所から戻ってきたという人物の存在は確認されていない。
この噂を遡って調べれば、2ちゃんねるのヒッキー板にある雑談スレッドから生まれた他愛もないネタ話だったことがすぐに分かる。
それなのに何故この噂がこうもで実しやかに囁き続けられることになったのか。
ひとつには、樹海に向かった自殺志願者の遺体がすべて発見・回収されているわけではないことがあるだろう。
しかし、何よりも、一部のオカルトマニア達がそれに加え、テントや食料品などという自殺するには不必要な遺留品の数々が発見されていること、
樹海の全貌が今もって明らかにされているわけではないこと、
そもそも都市伝説は実際に起こった事件がベースとされていることが多いこと、
それらのことから噂が真実であると主張し吹聴してまわっていることが大きい。
わくわく
まったくの個人的な好奇心から噂を調べていくうちに、私はこの一部のオカルトマニアの何人かと知り合うことが出来た。
程なくしてネット掲示板を介さず直接メールで情報交換をし合うようになったが、
一月もしないうちに私はこの噂に対する興味を失いかけていた。
そんなある日のことだった。
彼らのうちの一人から、「あの噂を最初に書き込んだ人物を見つけた」という内容のメールが届いた。
私と彼らはこのRと名乗る人物と何度か会話(チャット)をし、樹海で暮らす人々についての情報を得たが、
当然すべての情報を鵜呑みにしたわけではなかった。
私はRのことを彼らと同じオカルトマニアだと思っていたし、彼らもRのことはただの新しい仲間のように思っていた節がある。
はじめてRと接触してから10日ほど経った頃、Rが「明後日、樹海に行く。興味があるなら一緒に連れて行ってもかまわない」と言い出した。
私達はこの申し出に飛びついた。
本当に樹海に住む人々と会えると考えてのことではない。
なにせ社会的引きこもりである私は常に退屈していたし、Rは知らなかっただろうが私と彼らの間にはオフ会の話が出ていた。
ちょうど良い機会だったのだ。
>>6 続きマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
「まさか。だめですよ、樹海なんて。今さら流行りませんよ」
いや僕は別に、流行りに乗りたくて樹海に行くんじゃない。樹海に行きたいから
行くんだ。それ以外に理由なんてない。
「まあ行きたいのなら別に止めやしません。私はただの運転手。あなたはただの
乗客。私とあなたの関係は、それ以上でも、それ以下でもないんですから」
僕は、車中ずっと無言のまま海老名から富士吉田までタクシーに乗っていた。
「止める義理なんて私にはありませんよ。ですから何が起ころうと、私には責任は
ないんですからね」
ドライバーは自分に言い聞かせるかのように、呟いていた。それでも僕は、何も答
えなかった。それでいいんだよ、ドライバーさん。止められちゃ迷惑なんだよ。僕は
これから、新しい世界へと旅立つのだから。その邪魔をされちゃ、困るんだよ。
「着きましたよ」
「ありがとう、釣りは要らないよ」と言って僕は一万円札を渡すと、ドライバーは
あっけらかんとした顔をしたまま、僕を見送っていた。
目の前に広がる森林。ここが富士の樹海。
一歩立ち入ると、二度と帰っては来られないという富士の樹海。
僕は無限の空間に吸い込まれるかのようにして、道路脇から森林へと入っていった。
「ここから、僕の新しい人生が始まる」
そう思うと、僕の口元は自然と不自然に歪んだ。そうだ、この樹海という世界が、
僕の新たに生きるべき世界。僕はこの真っ暗な日本という社会から、樹海という
世界の人間として新たに生まれ変わるのだ。
それだけが、僕がこの世で掴んだ最後の希望だった。
ホラー仕立てでいいね
どれがどれの続きか分からなくなってきそうだ
ほす
樹海行きたいォヮ
保守
樹海ってのは、そんなに頻繁に足を運ばせるような場所じゃないね。
ま、そんな俺もさ、一度あるんだけどね。樹海へ行ったことがさ。
とりあえず樹海の話は後でしよう。まず俺のことを知りたいんだろう?
まあ少し長いけど、聞いてみるだけの価値はあると思うよ。
今後も俺と関わりたいんならね。
外見からじゃどうか分からないけど、俺はね、職に就いて家族を持ってもいい歳なんだ。
周りの人間、って言っても俺の周りには友達なんてもう今は一人もいないんだけどさ、
まあとにかくそこら辺の同年代の人間を見渡すと、会社で管理職に就いてる奴もいるし、
家族に恵まれて一家で海外旅行なんて行ってる奴もいる。
それに比べて俺ときたらどうだ。昼間も暗い部屋で、一日中パソコンさ。
ネットに始まって、ネットに終わる日々。もうネット中毒なんだよ、俺は。
こんな俺と、現実が充実した他の奴ら。いつの間に差が出来ちゃったんだろうな。
まあね、そりゃ俺もこれまでまともに生きてきていればさ、
あいつらみたいに充実した生活を送れていたんだろうけどね。
俺は頑張らなかったからさ。努力しなかったからさ。
後でどうにかなる、大丈夫だ、なんていつも決めて考えて、結局何にもしなかった。
こりゃ馬鹿だよな。俺さ、今頃になって自分が馬鹿なことをしていたな、って思えるんだよ。
馬鹿はいつまで経っても治らない。そうなんだろうね。
まあいい。周りの人間といくら比べたって、自分はいつまでも自分のままだ。
劣等感を持つだけの行いをするのなら、自分を高めた方が何千倍も有意義だっての。
まあね、これまで何にもしてこなかったのが俺なんだから、自分を高めるなんて言っても
全然説得力がないんだけどね。ただ、ここまで考えが至ったことはプラスだ。間違いなく。
あのね、人間ってのはプラス思考じゃなきゃ生きていけないよ。
マイナス思考はダメだ。何を考えても、自分にとってネガティブに捉えてしまう。
それで自分はダメな奴だ、もうお終いだ、なんて思い悩んで、
終いにはまともでいられなくなっちゃうからね。精神的にも、肉体的にも。
57 :
(*´・ω・`*)ヌルー@ネカフェ ◆9pXiBpy0.U :2008/04/18(金) 21:52:45 ID:MIyEFV3z0
58 :
(*´・ω・`*)ヌルー@ネカフェ ◆9pXiBpy0.U :2008/04/18(金) 21:55:14 ID:MIyEFV3z0
アンソロジーのような展開が素晴らしい。
歴史のある宗教のように、それぞれの物語性が展開されていくならば。
スティーヴン・キングのようにちょい役なり無造作に置かれた物への描写なりで、
世界がリンクしているのも愉しいかもしれない。
実際に、樹海行ってみなきゃなぁという気持ちにさせられる。
『シンドラーのリスト』に登場する、モノクロの描写の中で突如出現する、
赤いコートの女の子がもたらす変化のようななにか・・・
鹿の意味するところとか考えつつ登場させたり。
色々と設定が自由な故に拡がりますね・・・
ヌルー来ないとこのスレ潰れるよ
このネタおもしろい
オイラも何か書いていい?
書け。これは命令だ
62 :
(*´・ω・`*)ヌルー@ネカフェ ◆9pXiBpy0.U :2008/04/23(水) 00:35:22 ID:iNnlN2fs0
もう富士山麓樹海への取材旅行しかないだろう
以前、俺が某板で樹海探索オフをした時のことを話そう。
興味本位で参加したんだが、得られたものは大きかった。
そして、失ったものも大きかった。
参加者は十数人。女が数人で、残りは全員男だ。
みんなピクニック気分で来ていたな。おにぎりを作って来た奴もいた。
もちろん俺もそうだった。デジカメでたくさん写真を撮って、
帰ったら自分のサイトに樹海探索レポートとしてまとめようと思っていたくらいだ。
樹海へ入ってどんどん奥へ進んでいくと、本当に方向感覚が狂ってくる。
帰りに迷わないように、入り口からテープを貼っていたから特に心配はしなかった。
そして入って一時間後くらいだったかな。参加者の一人の女が叫んだんだ。
「ねえ、あれ、あれ、何……?」
初め俺は、場を盛り上げるための芝居だと思ったんだけど、どうも様子が違う。
その女はガタガタ震えて、木の下を指差している。その指を辿ると、見付けてしまったんだ。
白い骨が散らばっているのを。真っ白な骨だった。骨になって相当時間が経っていたんだろう。
俺たちはまあ何か見つかることがあるかも知れないとは考えていたんだけど、
まさか本当に見つかるとは思ってもいなかったから、
実際見付けた時はみんな大慌てだった。どうしよう、どうしよう、って。
警察に電話しようにも、携帯の電波が届かない。さあ困った、困った。
みんなでおろおろしていると、参加者のうちのデブ男が言った。「俺、戻って連絡してくるよ」
他の奴らが了解するかしないかのうちに、そのデブはテープを伝って戻っていった。
一人で行かせてもいいものかと思ったんだけど、みんな混乱していたから誰もそいつの後を追わなかった。
そして待つこと二時間弱、昼過ぎになって雨が降ってきた。
朝のうちは、雨の降る気配も感じられない快晴だったのにも関わらずだ。
デブは一向に帰って来ない。あのデブ、裏切ったか。みんなそう思い始めていたんだろう。
だから、俺は「もう待つのはやめて、引き上げよう」と提案した。反対する奴はいなかった。
結局俺たちはデブを待つことなく、東京へ帰った。
後で知ったことなんだけど、あのデブ、俺たちが引き上げた後になって警察を連れてきたらしい。
俺たちがいなくなっていることに気付いて真っ青になったそうだが、お前が悪いんだよ、デブ。
ここの小説って全部ヌルーの?
65 :
(*´・ω・`*)ヌルー@ネカフェ ◆9pXiBpy0.U :2008/04/23(水) 05:54:04 ID:iNnlN2fs0
>>63 なかなかおもしろい体験談だね、名所ですものね。
もっとこう縦の力が光臨して世界に触れて覚醒できるような
何かに出会えたらと私は思うのです。。。
>>64 私は小説なんて一編も書いてないよ、全てはすばらしい有志連合の方々の
ご尽力の結晶。
期待してます。
ウー怖い話しだ63
67 :
GWは樹海詣で♪(*´・ω・`*)ヌルー ◆9pXiBpy0.U :2008/04/25(金) 09:59:10 ID:JxP3FIpW0
樹海について記述されたサイトも参考になるかもしれない。
http://www.jukai-deep.netfirms.com/top.html 上記のサイトには遺体画像もあるのでご注意を。
なお、樹海生活者のテントなどの画像もある、興味深い。
実際は自殺志願者やキャンプ、冷やかしなどのゴミや不法投棄が
散乱していて、雑然としたものが樹海なのだろう。
紹介されているアオキガハラなる写真集は私も以前、図書館で拝見したことがある。
青みがかった写真は、陶然とした冷え切った、美しい自然と暗い情念を
伝えてくれる。
確か唐突に首吊り画像なんかも登場する。
どうも、遺族感情や自殺の名所というありがた迷惑のレッテルに、
関係者は神経を尖らせているので、樹海の賛美は世間的には
決して歓迎されるものではないかもしれない。
第二章 ツキシマとツキシマ
雨が降っていた。
テントの切れ間から、霧のように散った雨が入ってくる。その冷気で目を覚ま
した。風があるのか、時折テントがバサバサと鳴る。
どれくらい眠っていたのだろう?
暗い澱みの底からほの明るい水面へと、ゆっくり浮き上がっていくように、意
識がはっきりしてくる。
体を起こそうとしてみた。
しかし、動けない。全身が鉛のように重く、きしむように痛い。首を少し持ち
上げただけで力尽きた。
起きあがることをあきらめ、寝返りを打つ。
テントの切れ間からわずかに見えている曇天を眺めながら、自分の中に湧き起
こる想念に心を奪われていった。
ぼくは一体、何をしているのだろう?
考えれば考えるほど分からなくなる。
ぼくは今、粗末とはいえ、テントの中で、毛布の上に体を横たえている。眠る
前には、確かに食料を口にした。そのおいしさが、口の中にほのかに残っている。
それも、樹海の中をさまよっているとき、朦朧とした意識の中で、何度か食べて
みようかと夢想した、得体の知れない草やキノコではなく、人がつくった暖かな
料理だ。
非日常的な出来事の果てに、遭遇した日常的な出来事。
日常的?
そうも考えられるかも知れない。今一時の状況だけなら。しかし、そこには連
続性や整合性といったものが決定的に欠けている。
本来なら……。
ぼくは、数日前に思い描いていた樹海行きの目的を思い出そうとした。
今ごろ、森の中で人知れず死んでいるはずだった。その遺体はやがて腐り、肉
が溶け出し、ぼくであることが判別不可能な屍になるはずだった。それを他者が
見つける。その他者の視点で、ぼくは数日後のぼくを想像していた。
ところが、現実のぼくはまだ生きていて、思考したり、空を眺めたり、寝返り
を打って体の痛みに呻いたりしている。
ぼくをここに寝かせた人は、樹海の集落の住人であるという。
しかし、その集落はおそらく、いかなる社会ともつながっていないのだ。樹海
の黒々としたぶ厚い森が、彼らと社会とを隔絶している。それでいて、完全に原
始的な生活を営んでいるわけではなく、ベーコンのスープを用意してみせたりす
る。
ぼくはそこへ入り込んだ。
かといって、異分子というわけでもないらしい。
「君もここへ、死ににきたのか?」
最初に出会った男は、繰り返しそう尋ねた。それがこの集落に入り込むための
条件であったらしい。
そもそも、なぜ死のうとしていたのだろう?
それもよく分からなくなっていた。
現実を生きていくことの過酷さ、困難さからの逃避と言ってしまえば、誰にで
も分かりやすいだろうが、それは違うという気がする。醜悪に歪み、理想とはか
け離れてしまった人生を自らの手で抹消したい。そういう言葉が、少し近い。し
かし、もっと甘美なものを自分の死について感じてもいた。
雨脚が急に強くなって、テントを激しく叩いたかと思うと、また弱まった。
このテントがなかったら……。
思考が飛んだ。
ぼくは、この雨に打たれて、最後の体力を奪われ、死んでいたのではないか。
シートをつなぎ合わせただけの襤褸なテントと古い毛布と、わずかに口にした
スープ。たったそれだけのものが、ぼくの命をつなぎ止めた。そう考えると、な
おさら不思議だった。
一体、誰の意志なのだろう?
ぼくは意識を失う前に、男から聞いた言葉を思い出した。
「……ここでは、再び自ら命を絶とうとしない限り、死ぬことはない……」
考えることに疲れ、ぼくは再び眠りに落ちた。
雨はいつの間にか上がっていた。
目を覚ましたとき、テントの切れ間から光が差し込んでいた。
「入ってもいいか?」
外で誰かがぼくに向かって呼びかけている。その声で目を覚ましたのかも知れ
ない。
ぼくは身構えながら返事をした。
「は、はい」
テントの裾をまくって入ってきたのは、ぼくをここに案内してくれた男だった。
暗闇の中で見たときより、健康的な顔をしているように見える。
ぼくを安心させようとしているのだろうか。男は微笑もうとしていた。
何か言わなければ。
「昨日は……どうも」
咄嗟に口を出たのは、そんな言葉だった。
男は少し考える風をしてから、思いがけない言葉を返していた。
「昨日じゃない。君が来てから、三日経った。ずっと寝ていた」
三日!
疲労困憊していたとは言え、そんなに長い時間寝ていたとは。
ぼくは起きあがろうとした。相変わらず鉛のように重かったが、毛布に手をつ
きながら、何とか上体だけ起こすことができた。体の痛みはやわらいでいた。
「ここでは名前は無意味なものだけれど……」
男は無理な微笑みを浮かべようとしたまま、言った。
「私はヒノハラと呼ばれている」
ぼくは日ノ原という文字を思い浮かべた。
「君のことは、何と呼べばいい?」
本名を言う必要はないだろう。ぼくは咄嗟にそう判断して、偽名を口走った。
「ぼくは……ツキシマ」
インターネットのコミュニティでハンドルネームとして使っていたことがある
名前だ。
「ツキシマ……?」
男の顔から微笑みが消え、少し驚いたような表情になった。
「名前が、何か」
「いや、前にもツキシマという人が、ここにいたものだから」
ツキシマというのは、月島だろうか、築島だろうか。どちらにしても、ありき
たりな名前ではないだろう。自分が偽名を口走ったとは言え、こんな状況で体験
する名前の一致は、何とも不思議なことに思える。
キタ Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!
それに、「いた」とはどういうことだろう。
「そのツキシマさんは、樹海から出ていったんですか?」
ヒノハラ氏は一瞬の沈黙を置いて、答えた。
「分からない」
何か言いにくいことを言おうとしているのが伝わってきた。
「あることを調べに行って、戻ってこなかった。樹海から出て行ったのかは、分
からない」
出て行ってはいないだろうと、直感的に思った。
出て行ったのなら、樹海の中の集落について、隠し通すことはできないだろう。
その存在が世に知られれば、大騒ぎになり、あっという間に見つけ出されてしま
うはずだ。だとしたら、そのツキシマ氏は、樹海の中を彷徨い、集落に戻ること
ができなくなったのだろうか。途中で命を絶ったり、落としたりしたのだろうか
……。
ぼくは、暗い予感がするツキシマ氏の末路を想像することをやめ、別の点につ
いて尋ねた。
「調べに行った、あることというのは?」
ヒノハラ氏はまた一瞬の沈黙を置いて、答えた。
「それは我々が、樹海の中で食料に困らずにいられる理由に関係していることな
んだが……」
慎重に考えを巡らすような表情をしてから、ヒノハラ氏が言った。
「これから、見せるよ」
目の前に手が差し出された。
「立てるか?」
ヒノハラ氏の手を握り、ぼくは立ち上がった。
(第二章 完)
>>68 ブログで小説とか書いたりしてる人ですか?
他のも読んでみたいです
素晴らしい、また続きを楽しみにしてます^^
タイトルが素晴らしい
これは複数の人が書いてる……?
んなわけないか
81 :
(*´・ω・`*)ヌルー ◆9pXiBpy0.U :2008/05/02(金) 17:42:21 ID:uCNI1vYg0
まったりと樹海譚を書き綴ってくださる有志をお待ちします^^
強気age保守
第一章 樹海の中の集落
>>6,7,8,9,10,11,12,13,14
第二章 ツキシマとツキシマ
>>68,69,70,71,72,73,75,76
無題
>>21 無題
>>24,28,36
>>38(?)
無題
>>39 無題
>>46,48
無題
>>50 無題
>>56 無題
>>63 無題
>>29,30,31,32,33,34,40,41,42
見落としあったらごめん
86 :
(*´・ω・`*)ヌルー ◆9pXiBpy0.U :2008/05/06(火) 21:27:50 ID:hOCw7yNe0
私的メモ
樹海に棲み世を潜む人々、すなわち森の人。
彼ら内部で自称する名称として、「ルマ」なんてどうかしら。
ロマ(ジプシー)、ローマを建国したのラテン人のはぐれもの三千人、
流民、竜馬・・・
サンカ(≒山人)や部落民を参照する必要があるやも。
サンカそのものが複数の説があってその起源や形態に定説はないようだが、
俗説などはヒントや神話性をもたらしてくれる。
都市から流れた犯罪予備軍なのか、職能集団なのか、生計はどう立てるか?に
ヒントを与えてくれるかもしれない。
妖怪伝説や都市伝説をまぶしこんでみるのも面白いかも。
山岳信仰ないし、生活の習俗・文化と一体化されたシャーマニズムのようなものがあるのもイイ。
例えば、アナグマを祖神として、改名することで力を得て、かつ日本国から離脱する、みたいな。
ギシギシと体躯をきしめかし、その体躯に似合った象の唸り声のような響きをたてて動く、
トーテムポールの如き象徴としての金属製のトレバショット・・・
ルマたちはそれを「じゅう(獣か?)」と呼び、神の如く崇め、
日本国への対抗兵器と誇る・・・古代ならばボーリングの玉のようなものか、
火壺なのであろうが、彼らは打ち上げる弾丸は教えてくれなかった・・・
樹海の近隣には自殺者を捕食する人狩りを生業とする集団が存在するならば。
彼らは無気力にやがて訪れる死への恐怖に打ち震えながらも、甘言を囁く
大人たちに誘い込まれてその肉体の若さと臓器を売買される・・・
前述したように近代以前の森は盗賊や人攫いの棲家であった伝統に忠実といえる。
だが、物語の中で彼らを糾弾せねばならぬ「悪」と割り切るのは単純すぎる。
森は生と彼岸の狭間に揺れるアジールなのだ、ならば人攫いもまた樹海の
必然的な有機体として相互に作用する構成要素といえよう。
森の人と人攫いは対立するのではなく、複雑に相互扶助の関係を形成していると見たほうが面白い。
森の人も複数の集団を構成しているとするならば、その依存度もマチマチなわけだが、
集団によってはタブーを犯したモノの消去、招かざる客の排除を彼らに依頼する。
人攫いからすれば、人体の獲得、薬物栽培や隠匿、密入国者の一時匿い先の確保などを依頼できる。
森の人は代価としてあらゆるモノを入手する手段を得ることができる。。。
まぁこの辺を都合よく描きすぎるとリアリティに傷がつくが・・・
聖と俗が混在するのが樹海なのだ。
目次
森の人概要
>>2,3,4,5
外伝・構成
>>21,23,25,58,67,86
第一章 樹海の中の集落
>>6,7,8,9,10,11,12,13,14
第二章 ツキシマとツキシマ
>>68,69,70,71,72,73,75,76
無題
>>24,28,36
>>38(?)
無題
>>39 無題
>>46,48
無題
>>50 無題
>>56 無題
>>63 無題
>>29,30,31,32,33,34,40,41,42
見落としあったらごめん
ヒキ雑で名無しさんが提供して下さった叩き台です、有志の方どうぞアレンジして料理して下さいな^^
81 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 10:54:53 ID:???0
>>75 案1,もと林野庁の公務員で自殺した恋人の弔いのために清掃を続ける男
91 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 10:58:07 ID:???0
案2,駆け落ちした恋人同士で元教師と女生徒。逃避行の末に林野庁の男の住む小屋へたどり着く。
95 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 10:59:09 ID:???0
案3,肉屋。
103 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 11:00:33 ID:???0
案4,カメラマンで遺体愛好家。肉屋の大学時代の友人で客。
116 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 11:03:15 ID:???0
案5,樹海で自殺した元林野庁職員の彼女の妹。売れない作家。本編の主人公。
130 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 11:05:56 ID:???0
案6,元山梨県警の山岳救助隊巡査長。居合いの達人。以前取材に来ていた主人公に思いを寄せ、今回の樹海取材に同行する。
159 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 11:10:19 ID:???0
案7,野犬と男児。姿は神秘的な雰囲気だが残忍。言葉は話せない。犬はかつて捨てられた猟犬だった模様。
197 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 11:14:13 ID:???0
案8,老いた僧侶。病に冒されて余命は半年と宣告され、自殺者の供養のために森へ分け入るが、犬を連れた少年と出遭い彼を救うと決心をする。槍術の師範でもある。
218 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 11:16:28 ID:???0
案9,僧侶の主治医。僧侶とは遠縁で樹海近くに別荘を持ち猟銃を所有。知恵者で温厚。過激派の残党。
250 :(-_-)さん [sage] :2008/05/07(水) 11:19:50 ID:???0
案10,森林清掃をうたうNPO団体。実態は新興宗教団体の隠れ蓑で樹海が信仰の対象。なぜか犬と少年を付け狙う。
案11,ヒキコモリの女。自殺志願者であったが死に切れなず安宿に寝泊りして樹海周辺を徘徊。
自殺志願者を狙った一団に強姦された末に悶死する。
遺体が後日、肉屋によって見つけられ解体される様子をプロローグとしたい。
姉は自殺した。どこにでも転がっていそうな話であり、あまりにもありふれていたので、記事の種にはならない。
だれにとってもそうであろうが、肉親の死によって、転地がひっくりかえった私に、それはとりもなおさず、あまりにも不思議で、そして冷徹なくらい静かな世界だった。
姉の自殺した当時、中学生であった私は、ようやく地方紙の片隅に姉の痕跡を見つけた。
その地方紙が今の私の職場だ。
今の若者が目にする自殺のニュースは、姉が死んだ当時と今は少し違っていて、もはや自殺という行為は流行り廃りによって左右されるようなお遊戯であって
少なくとも、死んでいった当事者の思惑とはかけ離れ、軽快なBGMの下、我も我もと死出の列が続いているようにさえ見える。
ネットという無責任な悪意が彼ら彼女らを殺しているのだろう。私だってちょっとはネットを使う。便利だ。世間で何が注目されているか、それを拾うのにも早い。
私たちがネットの住人と違うところは、私は自分の足で見て、聞いて、そして目を合わせて、それを自分の中で消化して名前を掲げて記事にする義務を負っているということ。
私はいつも原稿の前では厳かな気持ちでいるし、死んで行った人の訴えにはまじめに向き合ってきた。
文字に起こす時は簡単に人の命を扱ったことはない。
あの夏の樹海で、彼らに会うまではそう信じてきたのだけれど・・・
wktk
「司馬ぁ〜!」デスクの大田、私の上司で”静岡文化日報”の東京支社 文化部の長だ。万年くしゃくしゃでそろそろ白髪交じりの髪は、それぞれ好き勝手な方向へ伸びている。
「お前のな、姉さんの記事な・・行って来いや!」彼は決して機嫌が悪いわけではない。そういう人間なのだ。声を発する先が誰であろうと遠慮が無いだけだ。もう慣れた。
ついに来たわ、この為に私の10年はあったのだ。
「あ、ありがとうございます!」
「おう、気張ってやれ。あとな、キャメラは無しだ、自分で撮れよー・・」と、言うとプイっときびすを返してしまった。いつものことだ。
まさかこのだらしの無い男が東京の私立大でも指折りの名門を出ている人間とは思えない。
むしろ山の中で炭でも焼いて暮らす売炭爺を地でいくような風体で、ダブダブでシングルのブレザーに、白いボタンダウン。出所不明のジーンズにヴァンプシューズといった出で立ち。
無論ノータイ。ややゴツ目のクロノグラフだけは、彼唯一のオシャレだと評価している。たぶん。
しかし、彼の存在こそが私をこの忙しくも退屈な人生を選ばせた諸悪の根源であった。姉の自殺について、かつて、ただ一紙だけ、彼だけがその事実を知ろうとしてくれていたのだ。
妻の葬式が済み、立派な墓も建てたので樹海へ行くことにした。
同じ墓に入るつもりはない。私にそんな資格はない。すぐに
見つかるような場所で自殺すると、親族に迷惑がかかってしまう
ので、樹海の奥地で行方不明になることに決めたのだ。
「あんた、家族はいるのか?」
「……いえ」
それがどんな因果か、こうして樹海の中で見知らぬ人間と会話
することになってしまった。
樹海の奥地にも、木々が疎らで開けた場所がある。そこで彼ら
はダンボールを敷いた上にブルーシートを敷き、どっかりと胡座
をかいていた。聞けばここは日光浴の場所だという。
「ま、話したくないならいいけどな」
二人の男はどちらも自分より年上に見えたが、話しかけてきた
この男は同世代だということが分かった。ぼさぼさになった髪の
毛と、剃り残しのある髭面が若さを奪うのだろう。肉体的にはき
っと、男の方が私よりも体力があるに違いない。
西田と名乗ったその男は、私の素性を根ほり葉ほり聞いてきた。
鬱陶しかったが、一度聞いたことは深く追求してこないので、曖
昧に言葉を濁していると、ふいに声を潜めて耳打ちをしてきた。
「家族持ちの奴は厄介なんだ。あいつみたいに」寝転がったまま
目を閉じているもう一人の男を顎で示す。
「あいつみたいに長く暮らしてるとな――報奨金が出たりする」
「え?」
西田は頷いて、透明なペットボトルの中身に口を付けた。少し
中身が気になったが、おそらくただの水だろう。
「未解決事件の情報提供への謝礼、ってやつさ。あんたは違うと
踏んだから話すんだが」
「はあ」
「報奨金を目当てにした、失踪者をここから連れ戻しに来ること
を生業にしてる、禿げ鷹みたいな野郎がいやがるのさ。それがい
わゆる『戻し屋』だ」
私は返答に詰まり、押し黙っていたが、西田は興が乗ってきた
のか、ぺらぺらと一人で口を回し始めた。
「戻し屋がなんでここを知っているかって? そりゃここの元住
人だからさ。ここで生きてきた奴が、そういう掟破りな裏切り行
為によって金が稼げると考え、実行した。
いいか、戻し屋は連れ戻すだけじゃない。
新しく連れてくるんだよ。
そう、報奨金のかかりそうな奴を探して、この集落のことを教
えてやるのさ。そういう誘いにかかりそうな奴を探すのだって一
苦労なはずだが、そんな才能もあったってことだろうな。そいつ
を活かしてまともに働きゃいいものをよ。
だから俺らがまず新参に疑うべきは――」
ぎろり、と私を強く睨み付け、西田は用心深そうにつぶやいた。
「戻し屋が連れてきた人間かどうかってことだ。あんたは違うみ
たいだが、口止めされてる可能性もあるからな。できれば出てい
ってもらいたいが、嫌ならしばらくの間、監視をつけさせてもら
う」
「……監視だなんて、そんな」
「あんた一人が戻されるんなら構やしないさ。だがここがお上に
ばれちゃ、俺たちはおしまいだ。
戻し屋だって金蔓がなくなるのは困るんだろうが、万が一って
ことがある。
身の安全は自分で守る。それがここの最低限のルールだ。だか
らこいつは俺自身の自衛だし、あんた自身の自衛でもあるんだよ」
納得がいかなかったが、ここから出ていくわけにもいかない。
私は渋々、条件を飲むことにした。
97 :
(*´・ω・`*)ヌルー ◆9pXiBpy0.U :2008/05/10(土) 14:03:30 ID:zhIaG03Y0
クオリティたけぇ^^
wktk
98 :
(*´・ω・`*)ヌルー ◆9pXiBpy0.U :2008/05/13(火) 23:34:49 ID:kYDH8HB40
なかなか続かないのがアレですな、大風呂敷広げてもそれを収斂させるのが難しいものねぇ
モチベーションが続かないんだ
悪いね
いえいえ、作品を投稿しない私にそんな急かせる権利はないわけで^^;
まったり期待して待ってますぉ^^
数少ない日常における楽しみだったりするから
101 :
池沼伯爵マンデビラ:2008/05/14(水) 08:52:43 ID:A3r1R6U50
/(^o^)\
保守
※一点変更。名前に氏をつけるのをやめます。
第三章 光と影の逆転
テントを出てすぐに、二本の巨大な木が目に入った。
あれは何という木だろう? 不思議な形をしている。太い幹が根元から弓のよ
うに湾曲し、それが左右対称になっている。まるで、二本の木の間に巨大な障害
物があり、それを避けて木が育ったかのように。あるいは、両手で何かを包み込
むかのように。
しかし、実際には、二本の木の間には何もない。楕円形の空間がぽっかりと口
を開けている。
生い茂る木々が無数の区切られた空間をつくっている樹海の中でも、そこは明
らかに異質に見えた。
歩き出したヒノハラは、吸い込まれるように、その楕円に向かって進んでいく。
ぼくはその後に、黙って従った。
すぐに気づいたことだが、ヒノハラは足が悪いらしい。左足を引きずるように
して歩く。
そう言えば、樹海で最初に姿を目にした、焚き火の前にいた男は、首つりに失
敗して、のどを潰したと聞いた。あるいはヒノハラも、首つりに失敗し、そのと
きに足を……? それとも、樹海に来る前から障害を負っていたのだろうか。
いずれにしても、それは詮索すべきことではないだろうと判断し、ぼくはヒノ
ハラの後ろ姿から意識的に目を離した。
視線を周囲の景色に移す。
三日寝ている間に、どれくらいの雨が降ったのだろう。水をたっぷり含んだ樹
海の木々が、日差しを受けてきらめいている。その梢を逃れた光線は、地面に落
ち、濡れた草むらや苔むした岩を輝かせている。
それは単に美しいというより、神々しいと表現したくなるような景色として目
に映った。
「ここが集落の入り口だと、私たちは考えている」
ヒノハラが言った。
いつの間にか、二本の巨木が楕円形の空間をつくっている場所の手前まで来て
いた。
やはりここは、何か違う。
ヒノハラに言われるまでもなく、ここが集落の入り口であろうことは分かる気
がした。
もっとも、それは根拠のない直感に過ぎない。
樹海の中を彷徨い歩いているときにも、何度かそういう直感にとらわれたこと
がある。
たとえば、疲れ切ってそこに座った大樹の根元。苔むしてソファのようになっ
たくぼみがあるその場所を、ぼくはなぜか特別な場所のように感じ、愛おしんだ。
ゆりかごで眠る嬰児のように、そこで幾日か眠った。
その場所を特別視したのも根拠のない直感だった。この「集落の入り口」もき
っと……。
ところが、ヒノハラの後について、楕円形の入り口を一歩踏み越えた途端、ぼ
くは自分の中に湧き起こった、思いがけない感情に戸惑った。
それは、懐かしさ、だった。
もう少し歩けば、樹海の集落がある。つまり、無人の原生林から、人が住まう
場所へと帰ることになる。それが懐かしさの正体だろうか? それとも、夢の中
でこんな場所を見たのだろうか?
違う。
胸に込み上げてくる懐かしさは、もっとはっきりした感情だった。
自分はずっと昔にも、ここを通過したことがある。
そして、長く苦しい旅をして、ここへ帰ってきた。
言葉にすれば、そういった思考回路が、ぼくの頭の中にあり、懐かしさを湧き
出させている。
もちろん、そんなはずはないのだけれど……。
甘い思いが胸に満ちて、鼻に突き上げ、ぼくは涙腺が緩むのを感じた。
この感情を、目の前を歩くヒノハラに打ち明けてみたい。そんな衝動に駆られ
たが、理解されるはずがないと思い、やめた。
理解されないどころか、怪しまれるかも知れない。ぼくはまだ、ヒノハラに完
全に信用されているわけではないのだ。だからこそ、集落の外にあるテントに寝
かされていたのだろう。
思考を巡らせているうちに、懐かしさは消えた。
ヒノハラは少し先で立ち止まり、リンドウのような花を摘んでいた。
入り口から続いていた、木漏れ日が射す明るい道を少し歩くと、にわかに鬱蒼と
した木立の中の道に出た。
狭く、暗い。
しかも、木々に囲まれた道が、次第に窮屈になっていく。
それでなくても、雨後の森は、ぬるぬるとして歩きにくい。ヒノハラとぼくは、
木の幹に手をつき、錯綜する根を踏み越えながら、少しずつ進んだ。
そんな鬱蒼とした木立の中を五〇メートルほど歩いただろうか。
突然、視界が開けた。
トンネルを抜けたときのような眩しさを感じ、ぼくは目をしばたたかせた。
ヒノハラが言った。
「ここだ」
目が眩しさに慣れた。
「ここが私たちの集落だ」
視界の先に広がっている光景を、ぼくは次第に理解していった。
広い、円形に近い空間が広がっている。
よく見ると、地面は土ではなく、岩だ。
ところどころ苔むしたり、草が生えたりしているが、樹木は一本も立っていない。
円の中央付近に、焚き火を燃やした跡がある。そう言えば、湿った岩の匂いに混
じって、炭の匂いが微かにしている。
確かな記憶がつながり、「あ」と思った。
最初にヒノハラに案内された、焚き火のある場所は、ここだ。焚き火跡の傍らに
置かれた、人が座るのにちょうどよさそうな石の形に見覚えがある。
だとすれば、さっき感じた懐かしさも……。
いや、それは違うだろう。ぼくは最初にここへ来たとき、真っ暗闇の中を這うよ
うにして来たのだ。集落の入り口付近の景色など、見覚えがあるはずがない。
それに、さっき感じた懐かしさは、三日前に一度来た場所にまた来た、という重
複感とはまったく違っていた。もっと遠い記憶につながっている、深い感情だった。
「ここが……」
ぼくは半ば無意識に口を開き、ヒノハラの言葉を無意味に繰り返していた。
「樹海の中の集落」
ヒノハラが言葉を続けた。
「そうだ。君を最初に連れてきた、焚き火のある場所もここだ。見覚えがあるか?」
ぼくは曖昧に頷いた。
「君はあの焚き火のそばでスープを飲んだ後、すぐ気を失ってしまった。その後、
さっきまで寝ていたテントに運ばせてもらったんだ」
ぼくは少し頭を下げた。距離は短いとは言え、暗闇の中、木の根が錯綜する道を、
人間を抱えて歩くのは、大変なことだったに違いない。「何のために?」とは考え
なかったが、ヒノハラはそこに気を回したようだった。
「わざわざ君を集落の外まで運んだのは……。何て言うかな、この集落のルールの
ようなものなんだ」
申し訳なさそうに言った。
こんな森の奥深く隔絶された集落にもルールがあるということをおかしく思った
が、そのことでぼくが気を悪くする理由はない。
それを伝えるために、ぼくはもう一度ヒノハラに頭を下げ、
「いえ、ありがとうございます」
と言った。
笑顔をつくりながら言ったつもりだった。
ヒノハラも、ぎこちないが、笑顔で応えようとしてくれた。
人と笑顔を交わしたのは何日ぶりだろう。
それどころか、何年ぶりかも知れなかった。
ぼくは心の中に、ほのかに温かいものが宿るのを感じた。
「あそこにいくつか穴があるだろう?」
ヒノハラが、そう言って前方を指さした。
円形の広場の周囲には、ちょっとした崖がそそり立っている。その岩肌が、光の
加減で、ちょうど影になっているのだが、ヒノハラに言われて見ると、岩の凹凸に
混じって、確かにいくつか洞窟のような穴が空いている。
「私たちは、あそこに住んでいる」
そう言って歩き始めたヒノハラは、いくつかの洞窟を次々にぼくに見せてくれた。
最初に見せてもらったのは、ヒノハラの住まいだった。
こんなところに住んでいるのか……。
というのが、洞窟の入り口のところまで来てみての率直な感想だった。
集落、という言葉に過大な期待をしていたのかも知れない。
ヒノハラの住まいは、自分がさっきまで寝かされていたテントの方がマシではな
いかと思えるような、岩肌に空いた、ただの横穴だった。
しかし、ヒノハラに促されて、中に足を踏み入れてみて、印象が変わった。
少なくともこれは、自然のままの洞窟ではない。明らかに人の手が加えられてい
る。
地面や壁面には、凹凸はあるものの、尖った部分がなく、全体が滑らかに加工さ
れている。
子供の頃に、豪雪地帯で簡易なカマクラに入ってみたときのことを思い出した。
外から見ると、雪を積んでできた山に、スコップで掘った横穴が開けられているに
過ぎないそのカマクラの内部は、不思議なほどの居心地良さに満ちていた。いつま
でも、そこでじっとしていたくなるような空間だった。
そういう、狭いながらも滑らかな壁面に囲まれた、安定した空間の中にいるとき
に感じる居心地の良さは、母親の胎内にいるときの安らぎに通じているという説を
何かで読んだことがある。
ヒノハラの住まいである洞窟にも、そんな印象があった。
穴の奥には、竹を並べてつくった座敷のような場所があり、そこに黒い鉄鍋や毛
布などが置かれていた。それらも、粗末ではあるものの、樹海の奥で、よくこれほ
どの道具を揃えたと考えられなくもない。
「この家は、ヒノハラさんがつくったんですか?」
ぼくは思わず尋ねた。
ヒノハラは、まさか、と言うように首を振った。
「私が来る前からこうなっていた。たぶん、ずっと前から……」
それ以上は、何を聞いていいのか分からなかった。
「他の洞窟も見せるよ」
そう言って、ヒノハラは洞窟を出た。暗い穴の中から見る外の眩しさに目を細め
ながら、ぼくはその後を追いかけた。
次の洞窟も、ヒノハラの住まいとほとんど変わりがなかった。唯一違うのは、洞
窟の中に、木の枝の束がたくさん置かれていることだ。
ここはタキと呼ばれている人の住まいだと、ヒノハラが教えてくれた。
「三日前に、焚き火の前にいた人を覚えてるか? ここは彼の家だ。焚き火の番を
するのが好きな人だから、タキと呼ばれてる。そこにある枝の束は、彼が集めてき
て、昨日まで雨だったから、ここに置いておいたんだろうな」
それだけ説明すると、ヒノハラはまた次の洞窟に向かった。
他の洞窟から少し離れたところにある、次の洞窟の前まで来たとき、ぼくは少な
からず驚いた。
ヒノハラやタキが住んでいるのとは異質な洞窟だった。
人工的な印象がほとんどしない、本物の鍾乳洞なのだ。
暗い穴のそこここで、鍾乳石が白く濡れて光っている。
その奥に目をこらしたとき、ぼくはギョッとした。
人がいる。
白い髪の老婆だ。
ヒノハラが奥へ向かって歩き始めたので、ぼくもその後についていく。
鼓動が高鳴るのを感じていた。手に汗がにじむ。
ヒノハラもタキも、暗がりの中で遠くから見たときには老人に見えたが、近くで
見れば、自分と同年代とも思える若者だった。
しかし、鍾乳洞の奥にいる老婆は、紛れもなく老婆だった。
異様な格好をしている。
真っ白な髪が、座った姿勢で地に着くほど長く伸びている。
すり切れ、垢じみた浴衣のような服をまとい、帯の変わりか、腰のところに荒縄
を結んでいる。
筵のようなものの上に正座し、手には数珠のようなものを持ち、鍾乳洞の壁に向
かって一心不乱に拝んでいる。
「ツチさん」
そうヒノハラが声をかけたが、老婆は振り返らなかった。
「ツチさん、新しい人が来ましたからね」
そう言っても、老婆は振り返らなかった。
「ツキシマ、という人だそうですよ」
そう言うと、老婆は数珠を摺り合わせていた手を一瞬止めた。
ヒノハラの方に顔を向け、それからゆっくりとぼくに視線を移す。
「……」
目があった。
老婆は微かに表情を動かした。
暗がりの中で、それは微笑んだようにも、悲しい目をしたようにも見えた。
「……」
ぼくは声が出なかった。
次の瞬間には、老婆はもう壁に向き直っていた。
「ツチさんは、私が知る限り、いちばん早くからこの集落にいる人なんだ」
ヒノハラが言った。
「痴呆が進んでしまっていて、会話をすることができない。壁のこの部分を祭壇か
何かだと思っているんだろうな。毎日ここに座って、拝んでいるんだ」
そう言われてみると、ツチが座っている目の前の壁は、階段状になっていて、そ
れが祭壇のようにも見える。
一体何年くらい、ツチさんはここで拝んでいるんだろう? 先立った家族の冥福
を祈っているんだろうか。おそらく自分も死にに来た、こんな樹海の奥の洞窟で…
…。
そう思うと、胸が締め付けられるのを感じた。
ヒノハラは、祭壇の平らになっている部分に、小さな紫色の花を添えた。
樹海の入り口近くで摘んでいたリンドウのような花だった。
(第三章 完)
すごー
このシリーズが一番すき
すばらしい^^!
全部楽しみ
気長に待とう
第四章 命の川
ツチさんの住まいである洞窟は、円形の広場から岩の切れ間を抜けて、細い道を
少し下ったところにある。
その洞窟をヒノハラと一緒に出たところで、円形広場の方から男が一人歩いてき
た。
今度はそれほど驚かなかった。
四〇歳くらいだろうか。近づいてくる男は、フレームの細い眼鏡をかけていて、
ヒノハラやタキに比べると、比較的整った身なり、髪型をしている。それは、彼の
性格を表す外見的特徴かも知れなかったが、ここに来てまだ日の浅い人なのではな
いかという印象も受けた。
「ミズノさん、という人だ」
ヒノハラがそう言ったのと、ミズノと呼ばれる男が、歩きながら軽く会釈したの
が、ほとんど同時だった。眼鏡の奥で、目が微笑もうとしている。
ぼくも軽く頭を下げた。
「三日前の晩、私とミズノさんで、君をさっきのテントまで運ばせてもらったんだ。
二人でといっても、私は脚が悪いから、ほとんどミズノさんに運んでもらったよう
なものだ」
ぼくは顔が火照るのを感じた。
ヒノハラに対しては、不思議と感じずにいられた羞恥の感情が、不意に湧き起こ
った。
いつの間にかヒノハラのすぐ隣まで来ていたミズノが、
「はじめまして、ツキシマさん。ミズノと言います」
と挨拶し、握手を求めてきた。胸ポケットから名刺を取り出しそうな丁寧さだ。
ぼくは脂汗をかいていた手をズボンで拭き、ミズノの手を握り返しながら、羞恥
心の理由に思い当たっていた。
わくわく
それは、ミズノにエリートの匂いを感じたからだった。
エリートというのは大げさすぎるかも知れない。大学を出、社会の一員として立
派に役割を果たしている人間。そういう当たり前の人たちに対して、ぼくはいつ頃
からか、劣等感を感じるようになっていた。
樹海に来る以前にも、彼らとの遭遇は、ぼくに、自分がレールから脱落してしま
い、何ら役に立たない人間になっている惨めな現実を思い知らせた。
ミズノは、ヒノハラやタキからは完全に消えている、社会の空気とでも言うべき
ものをまだまとっている。そのミズノに肩を担がれ、迷惑をかけ、テントまで運ば
れたということが、おそらく不意に起こった羞恥心の理由だった。
そんな精神構造が、自殺を決意し、樹海を彷徨い歩いた自分にまだ残っていたこ
とに、やりきれない気持ちを感じ、ぼくは思わずうつむいた。うつむいたまま、
「ツキシマです。お世話になります」
とだけ言った。
ぼくの羞恥が伝わったのかも知れない。ミズノは握っている手に少し力を込めて
から離し、再び穏和そうな笑顔を向けてくれた。人の良い銀行員といったような顔
だ。
「ここではみんな一緒です。ぼくも樹海に死にに来て、死にきれなくて、今こうや
って、亡霊みたいに生きてます。仲良くやりましょう」
心が軽くなるのを感じた。
「みんな一緒」を強調したミズノの言葉に、樹海に来る以前の孤独を感じ取った
からかも知れない。
ぼくは顔を上げ、ミズノの顔を見て、
「よろしくお願いします」
と言った。
よく見ると、ミズノは片方の眼球が動かない。視力を失っているようにも見えた。
ヒノハラを先頭にして、三人で歩き出した。
ツチさんの洞窟の前から、下り坂が続いている。岩だらけの道はすぐに終わり、
再び両側を木立に囲まれた道を歩いていく。
茂みからガサガサッと音を立てて、何か小動物が飛び出してきた。
リスだ。
ヒノハラとミズノが立ち止まったので、ぼくも立ち止まり、栗色の小動物の背を
目で追いかけた。
そう言えば、樹海に来て、鳥と人間以外の動物を見たのは初めてのような気がす
る。単に心に余裕がなく、近くにいた動物が見えていなかっただけだろうか。
リスは慌てて反対側の茂みに飛び込んだかと思うと、また慌てて飛び出し、敏捷
に目の前の道を駆けていった。
「可愛いですね」
ミズノが言った。
「僕は子供の頃、リスを飼っていたんですよ。あるとき、籠から出して遊ばせてい
たら、たまたま開いていた窓から逃げていってしまいましてね。散々探したんです
が、とうとう見つからなかった」
ミズノの語り口に引き込まれていった。
「樹海に来て、首を吊ろうと思って準備していたときに、リスと目が合ったんです。
もちろん、子供の頃に飼っていたリスとは別のリスですけど。童心に帰りましてね。
死ねなくなってしまった。それでも、帰るわけにもいきませんから、またリスを見
つけたい一心で、樹海の中を彷徨い歩いていたんですよ」
そうして、樹海の中の集落にたどり着いたのだという。
そんな話を聞きながら、ぼくは次第に心が和んでいくのを感じた。
また歩き始めた。
道が曲がりくねり、坂の勾配も急になってきた。
そう言えば、ヒノハラはぼくをどこへ連れていこうとしているのだろう? ふと
気になって尋ねてみた。
ヒノハラは、その質問に直接は答えず、
「もうすぐ着くよ」
とだけ言った。
「音が聞こえませんか?」
と続けてミズノに促され、耳を澄ませてみた。
何種類もの鳥の声に混じって、微かにゴーッという音が聞こえる。
滝があるのだろうか?
「涼しくなってきたでしょう?」
言われてみると、確かにそんな気もする。肌に神経を集中させると、早朝のよう
な、冷たい湿った空気を感じる。
間もなく木立が途切れて視界が開け、音と冷気の発生源が、目の前に現れた。
池だ。
いや、違う。流れがある。
川?
確かに川のようだ。谷底に清流があり、その両側に幅の狭い岸辺がある。
しかし、流れがどこから来て、どこへ向かっているのかが見えない。渓谷の、水
面の一部だけが見えていて、その上流と下流の部分は、地面で蓋をされたようにな
っている。
さらに近づいて、やっとこの川がどうなっているのか理解できた。
これはおそらく地下水脈だ。その一部分だけ天井が崩落し、地上から流れが見え
るようになっている。
小さな感動が起こった。
「樹海にこんな場所があったなんて……」
「もっと驚くことがありますよ」
ミズノが言った。
三人で水際まで降りていく。
間近まで来て、改めて驚いたのは、川の水の美しさだった。それなりの深さがあ
りそうだが、青く澄み切っていて、水底にある小石までがよく見える。
よく見ると、さっきのリスが、水辺で給水していた。そのすぐ近くで、愛らしい
小鳥が、白い腹を見せながら、青い翼を洗っている。
「鹿が水を飲みに来ることもあるよ」
ヒノハラが教えてくれた。
ぼくは、この美しい水辺に鹿がやってくる場面を想像して、心が洗われるような
気がした。
清冽な水の匂いが鼻を打つ。
しかし、すぐあることに思い当たって、現実に引き戻された。
「そう言えば、三日前に食べた、ベーコンのスープ。あの肉は、もしかして、ここ
に水を飲みに来る動物を捕まえて……?」
まさか、という風にヒノハラは首を振った。
「ここでは、そんなことをする必要がないんだ。もうすぐ分かる」
ヒノハラがそう言い終わるか終わらないかのうちに、上流の洞窟の方から何かが
流れてきた。
氷の塊だ。
かなりの大きさがある。
目の前にある岩にコンと当たり、方向を変えてまた別の岩に当たり、ミズノがし
ゃがんでいる手前まで、流れてきた。ミズノはそれを木の枝で引き寄せ、拾い上げ、
近くの平らな岩の上に載せた。
そうこうしているうちに、次の氷の塊が流れてきて、同じようにミズノの手前に
流れ着いた。ミズノはそれも拾って、平らな岩の上に載せた。
氷の塊は次々に流れてきた。七つの目の氷の塊を拾い、岩の上に載せたところで、
ミズノが手招きし、氷をよく見るようにと促した。
中に何か入っている。
ミズノが一つの塊を石で叩き割った。
中から、大きな笹の葉でくるまれた、モチのようなものが出てきた。
もう一つ氷を割った。
今度はベーコンのようなものだ。
ミズノは次々に氷を割っていった。サトイモのようなもの、またモチのようなも
の、鶏卵のようなもの、またベーコンのようなものなどが次々に現れた。
あまりの不思議さに、言葉が出ない。
「これは……?」
「雨や雪の日以外、毎日流れてくるんだ」
ヒノハラが言った。
「ただの氷の塊が流れてくることもあるんですよ」
ミズノが言った。
「ここの水を少し触ってみてください」
ぼくは川に手をつけてみた。
冷!
何という冷たさだろう。一瞬で指先がしびれるほどだった。
「この川は、ここだけ地上から見えるようになっていますが、洞窟の中を流れて
いる、地下水脈なんですよ。この水脈は、氷穴のような場所につながっているん
じゃないかと僕は考えているんです。『富士の氷穴』って、聞いたことがありま
すか?」
知っている。ぼくは頷いた。
富士の氷穴には、聞いたことがあるだけでなく、入ったことがあった。
中学の林間学校で、富士山麓を訪れたときだ。
いかにも観光名所めいた看板が立てられているすぐ脇に、洞窟が口を開けてい
て、手すりつきの階段のようになった道が、地下へと続いていた。やがて階段は
なくなり、人一人通るのがやっとの狭い穴をくぐりながら進んでいくと、にわか
に広い場所に出る。岩肌にかけられていた温度計を見ると、夏であったにも関わ
らず、気温は氷点下だった。洞窟内にしみ出した地下水が凍ってできた巨大な氷
柱がいくつも並んでいる、氷の世界だった。
ミズノが続けた。
「樹海は、富士山のそばにある長尾山という火山が噴火したときに流れた出した
溶岩の上にできた森なんです。溶岩が流れるとき、表面が先に冷えて固まります
ね。その後も、下の溶岩はしばらく流動し続けますから、あちこちに地下の空洞
ができる。それが長い時間をかけて、氷穴になったり、地下水の通り道になった
りする。樹海の地下には、そういう空間がたくさんあるはずなんですよ。発見さ
れていないものも含めてね。この地下水脈は、どこかの氷穴につながっている。
それで氷が流れてくるんじゃないかと僕は考えているんです」
広大な樹海の地下に、迷路のように洞窟や水脈が張り巡らされているところを
想像した。
面白すぎて死ぬ
ミズノの説明は、あり得そうなことのように思える。
しかし、それだけでは、食料を閉じこめた氷が流れてくる理由の説明にはなら
ない。
ミズノが続けた。
「氷穴は、少し前まで……。もしかすると今でもそうかも知れませんが、天然の
冷蔵庫や冷凍庫として使われていたそうです」
ヒノハラが話を継いだ。
「そういう場所で、誰かが、氷の塊に食料を閉じこめ、ここへ流している」
「たぶん、そういうことなんです」
ミズノが続けた。
誰か?
「冷凍保存されていた食べ物が、何かのきっかけで流れ出している。そんな風に
考えてみようともしたんですが、そういう考えの方が無理がありますね。毎日の
ように少しずつ、およそ決まった量の食料が流れてくるんですから」
「誰かの意志が働いているとしか思えない」
夢を見ているような気分だ。
あまりに現実離れした話で、にわかには信じることができない。
ぼくは驚きを隠せないまま聞いた。
「誰が、なぜそんなことを?」
「なぜだかは、想像がつかない。確実に言えるのは……」
言葉を慎重に選びながら、ヒノハラは続けた。
「私たちは、『誰か』の意志によって生かされている、ということだ。それでい
て、その『誰か』は、私たちを救出には来ない。私たちがこの集落に留まって、
生きていけるように、食料だけ送り続けてくれている」
ぼくはふと思ったことを口にした。
「ここではなく、もっと下流の、別の場所に送ろうとしていることは考えられな
いですか?」
ミズノが答えた。
「それはないと思いますよ。これだけの流れがある水の上で、氷はいつまでも氷
ではいられないはずなんです。流水解凍ってありますね。あの原理で、かなり速
い速度で溶けてしまう。ここより下流に行ったら、氷が溶けすぎて、食べ物が沈
んでしまいますよ」
「それに」
ヒノハラが話を継いだ。
「私たちは毎日のようにここで食料を調達している。もし本当の目的地がもっと
下流にあるとしたら、おかしいと思って調べに来るんじゃないか」
だから、食料の届け先はおそらくこの集落だ、というのがヒノハラの結論だっ
た。
自殺の名所、樹海。
その奥に、こんな風に人の命を養うシステムがあったなんて……。
樹海で死にきれなかった人たちを生きながらえさせるために、このシステムは
存在しているのだろうか? それとも、元々そういうシステムがあり、死にきれ
なかった人たちが、この場所に集まる結果になったのだろうか? いずれにして
も、それを企図した「誰か」の思惑は、ぼくの想像力を越えている。
今自分が立っている樹海の地下に、得体の知れない意志を感じて、再び川に目
を戻した。
川は、相変わらず青い宝石のような美しさをたたえて、悠々と流れている。水
が岩に当たって渦をつくり、わずかに白い泡を発生させて、下流の洞窟へと流れ
込んでいく。
いつの間にか、水際のリスが二匹に増えていた。
つがいだろうか。身を寄せ合うようにして、仲良く水を飲んでいる。
その様子を近くで観察しようと思ったのか、ミズノがリスたちに近づいていっ
た。
それに気づいたリスたちは、慌てて岸辺を上流の方へ駆けだした。そちらから
水が吐き出されている洞窟の方へ、二匹は敏捷に駆けていき、暗闇の中に消えた。
その光景を見ていて、ハッと気づいたことがあった。
うわーすごい
「この川を遡りながら、洞窟を辿っていけば、食料を流している『誰か』に会え
るんじゃないですか?」
ヒノハラが頷いた。
「そうなんだ。同じことを私たちも考えたことがある。でも、それは危険だし…
…」
ミズノが続けた。
「それに、その『誰か』に会えたとして、どうすればいいんだろう? というこ
ともあるんです。なぜそんなことをしているのか教えてもらうのか、それとも、
樹海から出ていく道を教えてもらうのか。そこまで考えてしまうと、危険を冒し
てまで、その『誰か』に会いに行く必要があるのかどうか、と考えてしまう。今
は、このままの状態を保っている方が、幸せなんじゃないかと思えるんです」
樹海の中の集落での暮らしは、案外幸せなものなのかも知れない、と思うと同
時に、一見立派な社会人だった風のミズノにも、自殺を考えた人らしい心理があ
るのを感じた。
ミズノは、積極的に樹海から出たいとは考えていないのだ。元の社会に戻って
も、そこには自分の居場所がない、と考えているのかも知れない。同じ心理が、
自分の中にももちろんあった。
「ただ……」
ヒノハラが言った。
「以前に一人だけ、この川を遡って、誰が、何の目的でそんなことをしようとし
ているのか、確かめに行った人がいるんだ」
固唾を呑んだ。
「彼は、そのまま帰ってこなかった。それが、君と同じ……」
テントで聞いた話を思い出し、ぼくは思わずヒノハラの顔を見た。
「ツキシマという名前の人なんだ」
(第四章 完)
えーーーーーーーーー
凄い楽しみ
ぉぉぉ面白いぉ^^
このシリーズってスレに名無しで書き捨てるの勿体無い
何年か前の小説スレで時代劇小説を投下してくれた人かな
hoshu
144 :
(*´・ω・`*)ヌルー ◆9pXiBpy0.U :2008/05/29(木) 11:06:53 ID:eOzTW5V70
保守
第五章 それぞれの事情
その夜は、ヒノハラとタキとミズノと一緒に、焚き火のそばで食事をとった。
円形広場に戻ってすぐ、キノという小柄な男を紹介されていたのだが、炊事担
当らしい彼は、料理をつくり終えると、一人分だけとって、そそくさと自分の洞
窟に引きこもってしまった。その行動は、どこか動物めいて見えた。
「悪い人ではないんだが」
ヒノハラが言った。
「極端に人間嫌いなところがあるんだ」
キノは、生まれつき右耳の聴力がなく、左耳もよくは聞こえないらしかった。
そのために負ってきた苦労が、人間嫌いであることと関係しているのかも知れな
い。
ぼくは、キノにむしろ愛着を感じた。
火を起こしたのはタキだった。
夕暮れ時の円形広場で、ぼくはその一部始終を見せてもらった。
ミズノがこの集落に持ち込んだというオイルの切れたライターで火花を散らせ、
それを、乾燥させた松ぼっくりを砕いたという粉の上に降らす。何度か、カチッ
カチッと繰り返すうち、粉の方に火が移った。
すかさずそこに枯れ葉を載せる。火が移り、枯れ葉が縮みながら燃え上がって
いく。
その火を、乾燥させた樹皮に移す。すぐ先端にボッと火がついた。
その火種を炭と枯れ枝と枯れ葉でつくった山に差し込み、タキが息を吹きかけ
ると、火は、枯れ葉に、枯れ枝に、炭にと、まるで意志を持った生き物のように
燃え広がっていった。
「葉にも枝にも、松脂が塗ってあるんですよ」
一緒に見守っていたミズノが教えてくれた。だから火がつきやすいのだ、と。
いつの間にか日はさらに落ち、あたりは夕闇に包まれている。
暗さを増していく夕闇と、明るさを増していく炎。それを無言で操っているタ
キが、不思議な力を持つ人のように見える。
今、闇の中に、炎は赤々と燃えさかっている。
地面の岩が湿っているせいもあって、円形広場全体がぼんやりと光り、無限に
広がる暗闇の中に、この空間だけがぽっかりと浮かんでいるようにも思える。
実際、おそらく数キロ四方に渡って、灯りがともっているのはここだけなのだ。
そしておそらくは、生きている人間が存在しているのも……。
ぼくは、右も左も分からない樹海の中を、数日間彷徨い歩いていたときの絶望
的な孤独を思い出した。背中の筋肉がゾクッとなる。寂しく、恐ろしかった。
そういう孤独感が、古来、人と人とを結びつけ、集落をつくらせてきたのかも
知れない。
今、食事を共にしている、出会って間もないヒノハラやタキやミズノが、掛け
替えのない仲間のように思える。
ガサゴソと食事をする四人の影が、炎に照らされて揺らめく。
どこで拾ってきたのか、陶製の碗によそわれた、ベーコンとサトイモのスープ。
大きな笹の葉の上に置かれたモチ。表面がこんがりと焼けている。
椀を手に持ち、木の枝でつくったものらしい箸を動かして、スープを飲み、モ
チを食べる。
ベーコンから出ているのか、スープは塩味が効いている。サトイモからデンプ
ンが溶け出しているために、わずかにとろみがある。
モチが、ほのかに甘い。炭水化物は唾液によって糖に分解されるという、理科
の授業で習った化学変化を思い出した。
よく噛んだモチをスープで胃へ流し込み、またモチを噛む。軟らかく煮えてい
るサトイモをつまみ、口へ運ぶ。
美味い。
こんなに美味いものを食べたのは生まれて初めてのような気さえする。
考えてみれば、数日間絶食して歩き回り、その後、わずかにスープを口にした
だけなのだ。三日間寝ていたとは言え、体はまだ明らかに飢えていた。
なぜだか、また嗚咽が込み上げそうになる。それほどに体が喜んでいるのだろ
うか?
三日前にスープを飲んだときにも、涙が止まらなくなった。ここでまた泣き出
すのは恥ずかしい。ぼくは嗚咽をこらえるため、黙々と食べ続けた。
食後、白湯を飲みながら、ヒノハラとタキとミズノと話をした。
もっぱら中心になって話しているのはミズノだった。樹海に来る以前の生活、
仕事も家庭も順調だった頃のこと、それを失っていった頃のこと。報告書に書く
かのように、ミズノは淡々と話しているが、表情や言葉の端々から愛惜と悔恨の
思いが伝わってくる。それを話すことで、何かを確認しようとしているような印
象を受けた。
しかし、意識的にか無意識的にか、話が核心に触れるのを避けているのも分か
る。
それはぼくも同じだった。
ミズノに聞かれるままに、育った家庭のことや学生時代のことをポツポツと話
したが、何がきっかけで人生の歯車が狂い始めたのか、なぜ自殺を考えなければ
ならないほどに追い詰められるに至ったかに触れることは避けた。あえて触れる
必要もない。
もう終わったことなのだ、昔に帰ることはできない……という思いが膨らんで
くる。
ヒノハラは集落のことについて話していたが、やはり何かを隠しているようだ。
そのために、三人が言葉を費やすほど、話の空洞が大きくなっていく。その空
洞から気まずい空気が吹き出しはじめたところで、ミズノが話題を変えた。
「ところで……」
「僕はここで命拾いをしてから、ずっと考えていることがあるんです」
白湯を少し飲んでから、ミズノは続けた。
「樹海はなぜ、自殺の名所になっているんだと思いますか?」
思いがけない疑問だったが、その理由はインターネットの記事で目にしたこと
がある。
「確か……。松本清張の小説がきっかけになったという説を読んだことがありま
す。小説の中で、主人公の不倫相手が、樹海で自殺する。その場面が、映画化さ
れたときに話題になって、樹海といえば自殺、というイメージがついてしまった。
その後は、そのイメージが自殺志願者を呼ぶという悪循環で……」
曖昧な記憶を頼りに話した。しかし、ミズノは別のことを考えているようだっ
た。
「僕もそんな話を聞いたことがあります。でも、実感として、どうですか? 実
際に樹海を目指した者の実感として。そんな理由だと思いますか? 僕は、少し
違うような気がする」
ミズノは続けた。
「樹海といえば、自殺した人の遺体がたくさんある森、というイメージがありま
すよね。なぜそんな不気味な場所で、みんな死のうと思うのか。死ぬ気がなくな
った今、冷静に考えてみると、せめて死ぬときは、もう少しマシなところで死に
たいという気がする。それが普通の人情のように思えるんです」
確かにそうかも知れない。
「確実に死ねるから、じゃないですか?」
思いついたことを言ってみた。
「樹海に来れば死ねるとは限りませんよ。現に、僕たちは、死ねなかった。それ
に、確実に死ねるというだけなら、もっと手近で、いい場所がありそうじゃない
ですか」
その通りだった。
自分はなぜ、死に場所として樹海を選んだのだろう?
記憶をたどり、思い出そうとしてみるが、上手くいかない。頭の表面で考えた
理屈ではなく、もっと心の奥底で、樹海に導かれるものを感じていたような気が
する。
「僕の郷里に、昔、姥捨ての風習があったそうです」
ミズノが意外なことを話し始めた。
「貧しい農村だから、口減らしをしなければいけないでしょう。それで、ある年
齢を過ぎたお年寄りたちが、姥捨て山に身を捨てにいく。そういう風習があった
そうなんです。もちろん、誰も整備なんてしない山ですから、そこには屍が累々
としていたはずですよね。そんな場所に死にに行くのは、さぞかし心細く、嫌な
ことだったと思うでしょう。ところが、昔のお年寄りたちは、喜んでそこに向か
っていったそうなんです。なぜだと思いますか?」
さっぱり分からない。
「信仰なんです。その山が浄土の入り口だと信じていたからなんですよ」
ミズノが言おうとしていることが何となく分かってきた。
「樹海がそういう、現代の姥捨て山のような、身を捨てる場所になっているとい
うことですか?」
ぼくの質問に、ミズノは少し考えるような表情をしてから答えた。
「うーん、そこまでは言えないかも知れない。少なくとも僕は、樹海が浄土の入
り口だなんて思っていなかったし、神に身を備えるなんて意識もなかった。ただ
……」
白湯を一口飲んだ。
「樹海に、この世でもあの世でもない、特殊な場所のようなイメージを持ってい
た気はするんです」
この世でもあの世でもない場所?
「ええ。人間は、心のどこかで、自分が今生きている世界とは別の世界があるこ
とを信ようとしている面があると思うんです。そんな考えは非科学的だと否定す
る理性以前の、深層心理のレベルで。逆に、そういう異世界があると潜在的に信
じていることで、自分が今この世の『内側』にいることを確かめてもいる、とい
うのかな」
喉が渇くのか、ミズノはまた椀を口に運んだ。が、もう空になっていた。
椀を置いて、ミズノは続けた。
「そういう深層心理に、樹海という森はつながっていように思えるんです。もち
ろん、普段は、そんなことは考えず、当たり前に生活している。ところが、この
世ではもう生きていけなくなって、死に場所を考え始めたときに、心の奥底で、
異世界のイメージが甦る。それに樹海が重なる、ということじゃないかと……」
ぼくは、ここに来る直前に持っていた、樹海のイメージを思い出そうとしてみ
た。
都市と富士山とを隔てる、黒々とした広大な森。
そこに住む人はなく、旅行者が安易に奥へと入り込めば、二度と出てこられな
くなるという迷信をまとう森。
そこには確かに、単なる原生林とは違う、この世とあの世の境界的なイメージ
があるかも知れない。その中を彷徨い歩いて、ぼくはこの集落にたどり着いたの
だ。
ふと、「亡霊のように生きています」と言ったミズノの言葉を思い出した。
生と死とを隔てる森。
最初からそういうイメージがあったのか、それとも自殺の名所というイメージ
からの連想なのか、それは分からないが、樹海に対してそういうイメージを以前
から持っていた自分に気がついた。
ぼくも喉が渇いて、白湯を飲む。それを待って、ミズノが続けた。
「僕は、この集落にたどり着いて、食べ物が流れてくる川を見たときに……」
そこまで言いかけたとき、ヒノハラが遮った。
「今日はここまでにしましょう。ツキシマは疲れている」
確かに疲れていた。
食事を摂ったことで、体は元気になったような気はするが、思考する力が限界
に来ている。
腹が満たされたことで、睡魔に襲われはじめてもいた。
「すいません。少ししゃべりすぎましたね」
ミズノがにそう言って、軽く頭を下げた。
いつの間にか、タキは座を離れて、木の枝で焚き火をつついている。
火は衰えていた。
ヒノハラが、ぼくが今夜寝る場所に案内してくれるという。
タキがこしらえてくれた、松明のようなものを手にして、二人で歩き始めた。
途中、
「ツチさんの洞窟に寄ろう」
ということになった。
食事を始める前、ヒノハラは、ツチさんに料理を届けに行っていた。それを
ちゃんと食べたか、ちゃんと寝ているか、確認しておきたいという目的があるら
しい。
円形広場から狭い岩の切れ間を抜けて、ツチさんの洞窟まで歩き、中をのぞき
込む。
松明に照らし出された光景を見て、ぼくは心臓が止まりそうなほど驚いた。
「……!」
そこに座っていたのは、若い女だった。
座った姿勢で地に着くほど長い髪は、黒々として、松明の火で艶やかに光って
いる。
こちらに背を向けているが、微かに見えている横顔も艶やかで、皺がない。
若返っている!
絶句しているぼくに、ヒノハラが言った。
「彼女はキムさんという人だ。この集落で、君にまだ紹介していなかった、最後
の一人」
「キムさん?」
「そう。夜になると、ツチさんの洞窟によく来ている」
別人だったのだ。
よく見ると、キムさんの前に老婆が横たわっている。それがツチさんだった。
その肩のあたりを、キムさんの白い手が、あやすようにゆっくりと叩いている。
「樹海に来る以前、よほどつらいことがあったんだろうな。キムさんは、この集
落に来たときから、正気を失いかけている。ツチさんを自分の子供のように思っ
ているのかも知れない。夜になると、こうやって寝かしつけていることがあるん
だ」
ヒノハラが言った。
「ツチさんはツチさんで、痴呆が進んで、童返りというのか、子供のようになっ
てしまっているときがある。キムさんを母親だと思っている瞬間があるかも知れ
ない」
ぼくは居たたまれない気持ちになった。
この集落には、それぞれの悲しい事情を抱えた人たちが集まっている。
洞窟の入り口近くに置かれていた空の器を拾い上げると、ヒノハラは、
「ツチさん、キムさん、おやすみなさい」
と言って、洞窟を出た。
ぼくは二人に黙って頭を下げ、ヒノハラの後に続いた。
そのとき、背後で声が聞こえた。
子守歌だろうか、キムさんがツチさんの肩を叩きながら、静かに歌っている。
こん、こん、ろっこんな
小さいがよく通る、澄んだ歌声だった。
母を忘れぬ子の鹿は
慣れし山から放たれて
森に住処を求めたり
こん、こん、ろっこんな
哀愁を帯びたメロディーが胸に染み入ってくる。
思わず足を止めて振り返ったぼくの肩を軽く叩いて、ヒノハラが言った。
「行こう」
松明をかざしながら、再び歩き始めた。
「君と同じ名前の、ツキシマさんが以前に暮らしていた洞窟だ」
そう言ってヒノハラに案内されたのは、ヒノハラやタキの洞窟と同じような、
奥行きの浅い洞窟だった。松明に照らされて、滑らかな壁面が光っている。奥に、
竹を並べてつくった座敷のような場所があり、毛布が敷かれていた。
「あれにくるまって寝るといい」
ヒノハラに促され、ぼくは靴を脱いで座敷に上がり、毛布の上に体を横たえた。
その途端に、全身からどっと疲れが湧き出した。
睡魔が強まる。瞼が重くなった。
「何かあったら、呼んでくれ。今日案内した近くの洞窟で寝ているから」
「ありがとう……」
そう言うのがやっとだった。
「おやすみ」
ヒノハラが立ち去った後、ぼくはしばらくの間、薄目を開けて、洞窟の外をぼ
んやり眺めていた。
眠いのだが、頭の芯に、妙に冴えている部分がある。
今日はあまりにもたくさんのことがあった。その一つ一つを脳が思い出そうと
している。
「こん、こん、ろっこんな」
耳の底にキムさんの歌声が残っている。
あれはどういう意味だったのだろう?
しかし、それを考えようとする思考力も、間もなく眠気に溶けた。
いつの間にか雲が晴れて、月が見えている。
満月に近い。
今、夜の何時くらいだろう?
ふと、樹海に来て間もなく捨ててしまったシチズンの腕時計のことを思い出し
た。
あの時計は今も、樹海のどこかで、正確に時を刻み続けているのだろうか?
「こん、こん、ろっこんな」
寝る前の思考は、どうしても断片的なものになる。
「今日飲んだスープは、美味かったな」
口の中にさっきの旨味が甦り、すぐに消えた。
食事のときミズノが言っていた、樹海が自殺の名所になった理由を思い出した。
しかし、思考は別の方向に流れた。
引きこもっていた間、ぼくは世界の内側にいたんだろうか、外側にいたんだろ
うか?
洞窟の入り口から、眠りを誘う涼やかな風が吹き込んできた。
「明日は、何か作業を手伝わせてもらおう……」
そこまで考えたとき、瞼が落ちた。
視界から月が消え、あたりがしんとして、ぼくは深い眠りに落ちていった。
(第五章 完)
otu
レベル高杉 凄く面白かった5章
なぜ樹海が自殺の名所になったのかとか
姥捨て山論理とか
本当におもしろい!!
続きも楽しみにしています
(*´・ω・`*).。o(最近の数少ない楽しみがココで続き読むことです^^)
ヌルーはいつまで読み手側でいるつもり
ヌルーが子供達を引き連れて樹海の奥に消えて数年間の話の続き書いてよ
あれ面白そうだから読みたい
プロットだけでもいいからさ
ヌルーは樹海で子ども達を全員食いつくした
このカバの化け物の食料として子ども達は消えて行ったのである
しかしヌルーの中に取り込まれた子ども達はまだ消えてはいなかった
つづく
ヌルーの限りなく無限に近い広さを持った胃袋の中で
子供たちはランゲルハンス諸島にたどり着きサバイバル生活を始めたのだった
つづく?
妙な方向に・・・これはこれで面白そうだけどなw
ヌルーの薀蓄も聞きたい
age
(*´・ω・`*).。o(のんびり続きを待とう)
169 :
(*´・ω・`*).。o(ヌルー) ◆9pXiBpy0.U :2008/06/13(金) 01:13:35 ID:J11gJclZ0
(*´・ω・`*).。o(保守)
狩人か、アレは金が掛かる癖に不遇職だったなぅぃぇ。。。
171 :
(*´・ω・`*).。o(ヌルー) ◆9pXiBpy0.U :2008/06/17(火) 08:33:13 ID:ZqnQPDY60
(*´・ω・`*).。o(興味深かったので)
77 名前:天之御名無主[] 投稿日:02/04/27(土) 12:42
ロビン・フッドの物語はグリーン・マン「草木神」に由来している。
オリジナルの伝説では、妖精の一種であり、グリーン・ロビン
ロビン・オブ・グリーンウッド、ロビン・グッドフェローなどと
呼ばれていた。シェークスピアの「真夏の夜の夢」の妖精パック
でふ。
78 名前:天之御名無主[] 投稿日:02/04/27(土) 12:49
パックは物語の中で、豊穣を願って夏至の夜に行われる
性的儀式を主宰している。かつてその地の人々は
五月一日のメイ・デーの日、メイポールを立て、それを中心に
踊り乍ら回る、というまつりを行っていた。このメイ・ポールは
性と豊穣を司る女神にささげられた男根像である。
79 名前:天之御名無主[] 投稿日:02/04/27(土) 13:00
この祭りの日、村中の生娘が五月女王に扮し、ロビン・フッド
(ロビン・グッドフェロー)に扮した村の若者につれられて
緑の森に入り、性交渉を体験することになる。
その九ヶ月後に生まれてきた子供達につけられていたのが、
ロビンソンやロバートソンという名前だったのでしゅ。
んだそうでふ。人間のやることはおんなじだったんだね。
>>171 自殺系サイトで女をひっかける
↓
樹海の集落へ連れてきて子供を産ませる
↓
集落の発展
こういう活用法しか思い浮かばない
173 :
(*´・ω・`*).。o(ヌルー) ◆9pXiBpy0.U :2008/06/19(木) 03:19:59 ID:GczoVj3g0
(*´・ω・`*).。o(更新ひたすら期待あげ)
174 :
れくちゃーはかせ:2008/06/20(金) 17:58:42 ID:yvBmTbJuO
富士の樹海っていうと空挺レンジャーが地獄の100km行軍やってたり
幹部レンジャーと米のシールが共同訓練やってたりするイメージなんだけどな
175 :
(*´・ω・`*).。o(ヌルー) ◆9pXiBpy0.U :2008/06/22(日) 09:39:49 ID:kBZz4gXU0
れくちゃー博士ならレンジャーと絡めて昨今流行の山岳アクションを絡めた作品を描いてくれるものと期待^^
ヒキの山岳アクションwwwww
177 :
(*´・ω・`*).。o(ヌルー) ◆9pXiBpy0.U :2008/06/24(火) 09:07:05 ID:xgcjnVu30
続編まちage
ほしゅ