ひきこもり論とも関係してくるので紹介ー。
今日朝日朝刊オピニオン面 「ニート」どう見る
玄田有史氏(東大助教授・労働経済学、64年生まれ)
ニートについての記事を目にするとき、強く違和感を覚える表現がある。(略)
52万人の無業者を「働く意欲ない若者」と見出しにつけた新聞があった。(略)
背景の一つとして、若年者の側に「就労意欲の欠如」を指摘する声があると紹介した。(略)
メディアがニートを就業意欲に欠けた、働かない若者たちと表現した瞬間、
読者や視聴者の多くは、それを怠惰な若者、甘えた若者、親のスネかじりを厭わない若者と、
ほとんど自動的に認識することとなる。しかし、(略)出会ったその素顔は、
働くことを軽視した表情でもなければ、無職の現状に甘んじている態度でも決してなかった。
(略)だから、私たちはニートを「働く意欲のない若者」とせず
「働くことに希望を失った若者」と書いた。「働かない若者」ではなく「働けない若者」と表した。
ニートに共通して見られるのは人間関係に疲れてしまっていることだ。
(略)ただ、その言葉をまともに受け、気楽に現状に甘えていると決めつけてしまう大人は無邪気すぎる。
表面的にはどうであれ、ニートのほとんどは、心の底では「働きたい」と思っている。
(略)そんなニートをそれでも「意欲が足りない」と言うべきだろうか。
(その後、中学生段階で就業体験を、という話)
(略)そんな大人がどれだけいるのか。ニートは私たち一人ひとりに問いかけている。
高梨昌氏(元雇用審議会会長・信州大名誉教授・労働経済学、27年生まれ)
ニートは、若者の社会に対する静かな反乱だ。
社会システムと自分たちの生活観、職業観がミスマッチを起こし、
消極的だけれども、社会に異議申し立てをしている。
意識的に異議を唱えていたのが60〜70年代の大学紛争だとすれば、
ニートはその無意識さに特徴がある。
ニートを生み出す責任は、産業界や教育など社会が背負っている。(略)
大量生産、流れ作業で労働が単純化され、若者が仕事の価値を見いだせないことも
理由の一つ。これは、世界的な傾向で、高度に成熟した先進国で共通した問題だ。
(略)若者は一種の個別ストライキをしている。(略)
だが、正社員の需要が減ってパートや派遣に置き換わり、若者が将来に希望を持てるような仕事ではなかった。
(略)子どもは、リストラされて誇りを打ち砕かれた身近な人の実例を目にしている。(略)
仕事への興味と関心を育てる社会にならなかったことが問題だ。
教育現場は仕事の情報や職業教育が全く欠けている。村上龍の(略)
「仕事と暮らし」の強化を義務教育に盛り込むべきだ。
ただ、学校の先生は世間知らず。(略)教員の半分は職業経験10年以上の人を入れてほしい。
政府は若者の雇用対策で、都道府県ごとにジョブカフェなどを作ったが、217万人と言われる
フリーターの上層部にしか利用されていない。(略)
引きこもりがちの若者をどう引っ張り出すかが重要だ。遊び心を利用し、身近な場所で
仲間作りから始めたらどうか。
(略)ニートは能力を身につける絶好の機会を逃している。社会的に大きな損失だ。
ニートに「甘ったれるな」と言っても始まらない。
社会の方が変わり、近づいていくことこそが大切だ。
工藤啓氏 (NPO法人「育て上げ」ネット理事長、77年生まれ)
(略)ニート本人やその親と話していて、まず感じるのは親子間のコミュニケーションに
問題があるのではないかということだ。具体的には、子供に対する親の言動が
一致していない点が一つの要因と思っている。
(略)つまり、だれでもニートになりうるということではないか。
(略)「スーツを着て満員電車に乗って会社に行く」のが働くことだという固定的な
イメージに親も本人もがんじがらめに縛られていることが多いからだ。
「まずはフリーターを目指そう」。そうも言っている。
その人が、アルバイトができるようにならないとその先に進めないという現実があるためだ。
親の価値観を転換するということは、ニート防止策の一つとして考えられてもいいのではないだろうか。
(略)面接にも行かないニートからどうやって対人不安を取り除くかが最大の課題だろう。(略)