山あいの寒村に寂れた家屋があり、土間をあがったその薄暗い部屋に、
ほう髪にしわのいった男が囲炉裏にあたっていた。
そこに入り口の戸があいて、冬の日暮れのかすかな光が入ってきた。
「おかしら、源蔵という男が帰ってきましたぜ」
おかしらと呼ばれたこの男は、多いときでもせいぜい二十人程度の盗賊の
長であり、源蔵というのはかつてここに身を置いていた若い男である。
若いといっても、もう三十に近いが、顔はなかなかに整った美男子であったので、
外見からするとまだ十代のようにも見えた。源蔵は、一年前にここを飛びだ
してから、かしらに何の便りもよこしていなかった。
それが、今ひょいと帰ってきたというのである。
「ほぉ、そうか。助兵衛、源蔵のやつをここへ呼べ」
「へい、わかりました。つれてきます」
助兵衛は、本当の名ではなくかしらがつけた渾名であり、まだ二十を越すか
越さないかの血気盛んな若者であった。顔はどちらかというと醜男の部類
にはいり、目が細く、頬がでっぱっていた。
それからすぐ、源蔵は重い足取りで、かしらの家へと入ってきた。ややかしこまった形で、
かしらの前に座すと、刀をはずしてから一礼し、いった。
「今帰りました。おかしら」
かしらは、伸び放題に伸びたあごひげをなぜながらこういった。
「おお、まぁそんなにかしこまるな。で、今までどこでどうしてた?何の連絡もよこさねえでよ」
かしらが、前髪の奥からぎらりと目をのぞかせていたので、源蔵は余計にすくんでしまった。
「へい、包み隠さずにいいますと、京の街で遊んでました」
「それで金がなくなったから、ここへ帰ってきたというわけか」
「いえ、決してそういうわけではありません」
源蔵の額からすぅっと汗がたれた。
「わしに、何の断りもなく消えたことについては水に流す。だが、もう勝手はするなよ」
「はい、わかってます」
「なら、さっそくだが、売りに出す娘が三人納屋に入っている。お前それを見張ってろ。
手は出すなよ。一人は上物で、調べたらまだ傷がついちゃいねえ。高く売れるはずだ」
「へい、いってきます」
源蔵はその場を後にし、納屋のほうへと向かった。途中、助兵衛が源蔵に声をかけてきた。
「どうです?おかしら、怒ってやしませんでしたか?」
「さぁ、どうだろうな。そういえば、見ない顔だが新入りか?」
「へい、最近入った者で、名前は助六といいますが、おかしらからは助兵衛って呼ばれてます」
「そうか……。助六とやら、今ここは何人いるのだ?」
媚びた顔で受け答えする助兵衛に、源蔵はすこし気味が悪かった。
「そうですな、五、六人ってとこじゃないですか。なぁに、狙うのはいつも少人数ばかりだし、
こちらに被害はまずありませんよ。大人数だとわけまえもそれだけ減っちまいますしね」
「そうか、後でみなに挨拶せんとな」
助兵衛は、源蔵に納屋にかけられた錠の鍵を渡すと、すたすたとかしらの家へと戻っていった。
この寒村は、実は盗賊の隠れ家で畑やらが一応はあるが、ほとんど何も
収穫されていなかった。家屋は九棟しかなく、そのほとんどがところどころ傷んでいて、
人が住んでいるとはとうてい思われなかった。それだから、当然納屋のほうも形
だけで中には何もなかった。源蔵が上の隙間から中をのぞくと、聞いたとおり三人の娘が頭
を低くたれながら、静かにすすり泣いていた。錠をはずして中に入ると、源蔵は
好色そうに娘の顔を手でむりやりあげて見てまわった。そして、最後に一番奥
の陰になったところにうずくまっている娘の顔を見た源蔵は、身をのけぞらせていった。
「さ、さや。さやなのか?」
それは十年近く生き別れていた実の妹だったのである。
向こうは兄の顔を見ても、それが兄であるとは判然とわからなかったようだが、
源蔵のほうは、妹の顔を忘れていなかった。兄とは歳が十ほど離れていて、子どもの
頃の顔しか知らなかったが、人より大きく潤んだような黒い瞳と長いまつげ、ぽっ
ちゃりとした赤いくちびるは、昔の面影をしっかりと残していた。源蔵はためらいがち
に、さやの肩を両手でつかんで、からだを起こした。
「さや、兄さんだ。源蔵だよ。忘れたのかい?」
さやは、涙でぬらした目を源蔵に上げると、首をかしげていった。
「げ、源蔵兄さん?源蔵兄さんなの?どうしてここに。きっと助けにきてくれたのね。ああっ」
さやは感極まったのか、源蔵の胸に飛びついて、泣きはじめた。
「さや、どうしてこんな所にいる?おとうとおかぁはどうしたのだ?」
源蔵の胸元を強く握りながら、さやが顔をあげた。
「盗賊に襲われたの」
さやは辛いことを思い出したくないと、そこでつまった。
「おっとうとおっかぁはその場で斬り殺されてた。わたしこの目で斬られるのを見た。
わたしだけは生きたまま、ここまで連れてこられて」
源蔵はさやの言葉に何もいえず、自らが今まで犯してきた業のようなものを感じていた。
「兄さん?」
さやの声に正気をもどした源蔵は、さやの肩を激しくゆすっていった。
「大丈夫、心配するな。俺が逃がしてやる。今はここから逃げることだけに集中するんだ」
源蔵は立ち上がると、納屋の外を見にいった。
「誰もいないようだな。さや来い。逃げるぞ」
さやの手を握って納屋から出るとき、源蔵は中でうずくまっている娘二人にいった。
「す、すまない。できたら後で君たちふたりも逃がしてあげるよ」
さやが後ろめたそうにいった。
「どうして一緒に逃げないの?」
「大勢だとすぐ見つかるし、納屋に誰もいないとすぐ気づかれちまう」
「そんな……」
「いいから逃げるんだ」
さやの手を強引に引っ張りながら、源蔵は駈けだしていた。
かしらの座敷の戸口に、慌てた助兵衛が姿をあらわした。
「おかしら、大変でさ。納屋の娘が一人いません。それと、監視していた
源蔵の姿もどこにも」
「なんだと?」
かしらは片肘をついて寝転んでいたが、それを聞くと瞬時にからだを起こした。
「源蔵のしわざか!あの野郎、今度という今度はゆるさんぞ。草の根わけてでもさがしだせ。
殺してもかまわんぞ」
「へ、へい」
助兵衛ら、四人の男が源蔵のあとを追った。
まもなくして、ブナの林の中をゆく源蔵らを一同は見つけた。
「おい、待て源蔵。どこへ行く気だ」
声をかけたのは、源蔵とは仲のよかった吾平という男である。
「頼む逃がしてくれ。この娘は俺の妹なのだ。頼む」
「それはできん相談だ。おかしらはお前を連れ戻せといわれている」
女を連れて逃げているので、屈強な男四人をまくのは不可能であった。
追いつかれた源蔵は、彼女だけでも逃がそうと男どもを相手に白刃を抜いた。
「四人相手にやろうっていうのかい。知ってるぜあんたが凄腕だってことはよ。
だがな、その娘を守りながら、じゅうぶんに俺たちとやりあえるとでも思ってるのかい?へへへ」
助兵衛の顔が醜く歪んだ。
「逃げろ、さや」
源蔵は必死の形相で叫ぶと、刀を振り上げて斬りかかった。
「どうだ?目を醒ましたか」
顔に水をかけられた源蔵は、うつらうつらと目を開けた。
その腫れた顔は、青あざやら傷やらに覆われ、水をかけられるとジンジンとほてった。
声をかけたのは、どうやらかしらのようだった。
辺りを見まわすと、ぼんやりとだが、かしらの家の中だということがわかった。
どうやら、あれからここまで運ばれてきたらしい。
助兵衛に人質をとられ、おとなしくしろと脅された源蔵は、数瞬のためらいを見せたあと、
刀をその場に捨てたのだ。その後、いうまでもなく執拗な暴行が加えられた。
「源蔵、この娘がお前の妹というのは、本当か?」
源蔵は柱に縄でぐるぐるに巻きつけられ、夜をむかえた屋内は、ろうそく
の炎によって赤々と照らされていた。 妖しくゆらめく光によって源蔵の
眼前に立ち現れたのは、半裸にされた娘が、梁からたれた縄に両手を縛られて
つるされている姿だった。
「おかしら、頼みます。どうか手は出さないでやってください」
「どうします?おかしらぁ」
助兵衛が、これ以上にないほどの笑みをうかべて、かしらに聞いた。
「そういわれると、ますますやりたくなるってぇのが男ってもんだ。そうだろ源蔵?」
かしらはさやの腰まきに手をかけながら、暗い欲情を燃えたたせていた。
「おかしらっ。吾平からも何とか頼んでみてくれ」
「ふん、いまさらそんなことをいえた義理かよ」
吾平の蹴りが腹に入り、源蔵は低くうめき声をあげた。
そうして源蔵の目の前で、淫獣の戯れが始められた。
まず助兵衛が、女の着物をはぎとり、あらわになった乳房をしゃぶりだした。
「こりゃいいぜ、おかしらぁ。うますぎらぁ」
ふっくらした白い乳房を吸い、舌でこねまわし、歯で乳首をこりこりとかんでいった。
「おめぇばっかいい目をみるんじゃねえよ」
そういってかしらは、すばやく自分の着物の紐をといて裸になると、縮れた毛にうもれた
大きな陰茎をとりだした。それを手のひらですこし握ってやると、むくむくと勃起していった。
その時、源蔵はどうしていたのかというと、柱にくくられたまま虚ろな目を部屋の片隅へと向けていた。
「どうだ?源蔵ぉ。おまえもやりたくてしょうがねえだろう?」
問われた源蔵の口は、依然としてかたく閉ざされたままだ。
「実の妹を目の前で犯されてて、なにもいえねえか?」
いいながら、かしらは女のあごをつかんで強引にくちびるをあわせた。
「ううん、うっ」
ふたをされたくちびるから、悶えるような声がもれる。かしらの執拗な口づけに
息が続かないのか、それとも感じているのか、黒髪が顔を隠していて表情がうまく読みとれない。
ようやく口を解放してやったかしらは、今度は腰を女の顔のところへと持っていって、
屹立した自慢の如意棒を頬にはわせながら、くちびるへと押しつけていった。
「おい、歯は立てるなよ。うっ、こりゃいい。たまんねえな。女、もっと舌をつかえ」
縄を巻かれた梁は、下からくる振動にみしみしと音をたてた。
胸を舐めるのに飽きた助兵衛は、最後の一枚をひらりと剥ぎ取るとそのまま秘所に食らいついた。
瞬間、女のからだがピンとはねあがり、助兵衛の指が可憐な花びらを荒々しくひろげ、
上下に蜜を舐めだすと、正直な女体は快楽になまめかしく動き、波うった。
しだいにその舌先は、糞をひりだす穴にも向かっていこうとしたが、
「もう我慢できねえな。おい助兵衛、そこをどけ」
と、かしらが離れるのも待たずに、足で助兵衛の横っ腹を押していれかわった。
「おい、吾平でも誰でもいい。縄を切れ。この体勢ではやりにくくてかなわん」
吾平ともう二人は、同じ部屋の一隅に座していたのだが、疲労からか強姦には
加わっていなかった。
そのうちの小四郎という小男が、ヒュッと小刀をなげて縄をうまく切りはなした。
倒れそうになった女を、かしらの腕がうけとめ、そのまま床に押しつけて覆いかぶさった。
男と女が一つの塊へとつながりあったのだ。
激しく律動するかしらの下半身にあわせて、
「あぁーっ、あーっ」
とあえぐ女。
そのせわしく息をきざむ口、紅潮した顔、とろりとした薄目はまさに忘我の境地であった。
情欲に支配された女は、その足をかしらの胴へと巻きつかせ、自ら絶頂を求めていった。
短くなったろうそくの炎にてらされた女の膣口からは、白濁色の液がたれていた。
ぐったりとしたかしらの後に、行為の一部始終を見せられて怒張しきった男根をふりながら、
助兵衛が吸いよせられるように女に向かったとき、それまで死んだように動かなかった源蔵が突如笑いだした。
「おれの勝ちだな。おかしらをはじめ、一同まんまと騙されおったわ。それは妹ではない。
別の娘よ。今ごろ二人はどこか遠くに逃げおおせておるわ」
「何じゃと?」
かしらの顔は陰になっていてよくわからぬが、さすがに驚いたにちがいない。
「何のことをいっておる。おぬし、気でも違ったか?」
「違わぬよ。くくく」
なおも源蔵は、冷笑をあびせた。
「いったであろう。それは妹ではないと」
「では誰だという?」
「さやとして連れだした女。本物のさやは今ごろもう一人を連れてどこかへ消えておるわ」
「おい、おまえら。今すぐ納屋のほうを見てこい」
三人はすぐさま出ていったが、一人助兵衛だけはまごついて遅れた。
「それが本当なら、まんまとしてやられたわ」
「その小娘には悪いことをした。さやの奴、三人いっしょでなくては逃げぬというから、
しかたなしにその場で妙案を考えだしたのよ。おれはこの娘と逃げてやつらをひきよせる。
そこで、手薄になったところを、おまえたち二人で逃げるがよい、とな」
「なんと……」
かしらも騙されていながら感服した。
「おびきよせておいてからそのまま逃げきるつもりが、あえなく捕まってしまったがな」
そこで、納屋に向かった四人がどたどたと戻ってきた。
「源蔵のいうとおり、あとの二人の姿がどこにも見あたりません」
と助兵衛が報告すると、室内に源蔵の高笑いが響きわたった。
一応終わり。もうなにも書くつもりなかったんだけど、前に書いたの途中のままなのは、すっきりしないので
むりやり終わらせときました。