もっとも、どのような場合に訴えの提起をなしえなくなるかは、解雇後の経過年数
、解雇当時の状況、その後の本人の態度、訴えの提起を困難なものとした事情など
によって異なるため、裁判例をみても、一律の基準を見いだすことは難しいといえ
ます。たとえば、地方公務員が免職後10年あまりを経てその無効確認を求めるこ
とが信義則に反するとされた例(名古屋高判昭53.3.14 愛知県庁事件 判時888
号116頁)がある反面、国鉄職員が免職後約8年を経てその無効確認の訴えを提起
することは信義則違反に当たらないとしたものもあります(東京高判昭53.6.6
国鉄事件 判時900号108頁)。
次に、労働者が解雇を承認したものと扱われる場合もあります。理論上は、無効
な解雇であっても労働者が承認すれば合意解約が成立したものとみることができま
すが、裁判例上は、訴えの提起が信義則違反に当たるという判断とは必ずしも明確
には区別されていません。最高裁判決としては、労働者が解雇後に異議を留めずに
退職金等を受領し、その後2年7ヵ月間何ら解雇の効力を争う態度を示さなかった
事案で、当事者間において解雇の効力を争わない旨の暗黙の合意が成立したか、そ
うでなくとも、解雇無効を主張することは信義則に反し許されないとした原審の判
断を維持したものがあります(最一小判昭36.4.27 八幡製鉄事件 民集15巻4
号974頁)。ただし、労働者が退職金等を受領していても、使用者に対して解雇を
受け入れない意思を示していた場合には、解雇の承認があったとは認められないこ
とが多くなるでしょう(マルヤタクシー事件 仙台地判昭60.9.19労判459号40
頁など)。
(筑波大学教授 山川隆一)
2003年1月:掲載
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