セントラル街は死んでいた。
東京丸の内に次ぐ日本有数の経済地域に、
破壊と暴力が嫌というほど渦巻いている。
倒壊した樹木、粉砕された窓ガラス。
あちこちで火の手があがり、血と硝煙のにおいを荒れ狂う熱風が四散させている。
大通りでおっぴらに小銃を構える者がいれば、抜き身のナイフを振り回す者もいた。
目を覆うような暴行や、殺傷沙汰が当然のように繰り返されている。
さすがのハルも、あまりの非現実的な光景の数々に、目を疑うばかりだった。
悲鳴、嘲笑、ありとあらゆる負の感情があった。
焼けただれた死体、逃げ遅れた人々を狩る暴徒、そのぎらついた瞳の群れ・・・。
身震いした。初めて恐怖を感じた。いままでの事件など序の口に過ぎなかった。
これは、法治国家に許される事態ではない。
警察や陸自の介入より早く、街の一区画が制圧される。
ありえるはずのない大犯罪である。
ハルは呼吸を整え、動転しそうな気をようやく静めた。
そして、現実を直視した。
─”魔王”が、ついに、この世に地獄を招いたのだ。
「ようこそ」 前方から声があがった。
煙と炎を背に、悠然とこちらに向かって歩みを進めている。
「魔界の景色は、気に入ってもらえたかな?」
「魔王・・・」 ハルは負けじと”魔王”と対峙した。
「わかったか? もはや、一人の少女がどうにかできるような状況ではない」
「だから、降参しろと?世界の半分でももらえるのか?」
”魔王”は小さく笑った。
「すばらしいな。勇者には、まだ余裕があるようだ」
ハルはすぐさま言い返した。
「わたしは、これまでの戦い全てにおいて”魔王”に及ばなかった」
「謙虚だな。引き分けといっていいと思うが・・・」