もしも明穂エンドがこうならば――
明穂が成仏し、気分を入れ替え、一樹は彩乃と付き合いだした。
でも、明穂はまだこの世にいた。
「カズちゃんのそばにいたい」という、その想いだけでこの世にとどまっていた。
やがて、一樹と彩乃は多大な努力によって同じ大学に進学。学生のうちに同棲をはじめ、卒業の後に結婚し、幸せな家庭を築く。
その一樹のそばには明穂がいた。
しだいに目は見えなくなり、音も聞こえなくなり、周りの様子はわからない。
でも、カズちゃんの気配は感じることができた。
その気配だけを頼りに、ただそこに漂うだけの存在。
「私…、カズちゃんのそばに……いる……
それだけで……、しあわせ……」
それから何年もの時が過ぎた。
どれくらいの時が経ったのか、もう明穂にはわからない。
目は見えず耳も聞こえず、今では思考すらも希薄になっていた。
だから、
一樹が幸せな人生を歩み、穏やかな老後を向かえ、多くの家族に囲まれたぬくもりの中で一生を終えたことも、
明穂にはわからない。
ただそこに存在する。
それが幸せ。
きっと、そう。
だって、
「……ずっと……カズちゃんと………………いっしょ…………」