「オチツケオチツケこうたオチツケ」
さとうとしなお作 岩崎書店
おとうちゃん おかあちゃんになんどいわれたろう
せんせいに なんど いわれたろう
オチツケオチツケ
いつのまにかぼくの口からも
オチツケオチツケこうたオチツケ
せんせいの ふやふやした こえ
ともだちの ほうせきばこみたいな ふでばこ
うんどうじょうから きこえる うんどうかいの れんしゅう
あの子の くるくるかわる えがお
きゅうしょくの おばさんの スリッパの音
ぼくの あたまのなかは はやまわしの ビデオのよう
とおくから きゅうきゅうしゃの音
なに なに?
おもわず 立ちあがって
まどまで かけだしたら
こうた スワリナサイ
こうた オチツキナサイ
そうそう オチツケ オチツケ
オチツカナイ ぼくは
オチツイテル みんなと
オチツカナイ
さとるくん パレットの上に とってもきれいないろ
がようしには とってもじょうずな おかあさんのかお
ぼくの おかあさんは へんなかお
「さとるくん そのいろ ちょうだい」
「やだよ まだ つかうんだから」
「かして」
「やだ」
「かして」といって ぼくが手を のばしたら
水のたっぷりはいった バケツが ばーん!
ぼくの はやまわしのビデオは
ときどき ていしボタンもきかなくなる
ボクハ ワルイコナンダ
ひるやすみ りえちゃんと ぶらんこ
ジュンバンよ ジュンバン
そう ジュンバン ジュンバン
でも ぼくの はやまわしのビデオは
やっぱり とまらない
いつのまにか りえちゃんの せなかをおして
りえちゃん ぶらんこの下で ないている
りえちゃん はなから ちが ながれている
せんせい とんできて
どうして こうたは ワルイコなの
どうして ジュンバンが まもれないの
どうして りえちゃんを なかせるの
どうして? どうして? どうして?
おおきなこえで ワンワンワン
ボク リエチャン ダイスキダ
ボク ダレヨリ リエチャント トモダチニナリタイ
ボクハ ワルイコナンダ
おかあちゃん また 学校に よばれた
せんせいたちの こまった かお
くどくど くどくど ちくちく ちくちく
ナントカ ナリマセンカ オカアサン
おかあちゃん あたまを さげたまま
いちども かおを あげないまま
ハイ ハイ ハイ ハイ
ちいさなこえで
スミマセン スミマセン スミマセン
ボクハ ワルイコナンダ
かえりみち
おかあちゃん
ぼくのうでを
きつく にぎって
どんどん どんどん
ひっぱっていく
夕やけのなかに
おかあちゃんのかおが
きえていく
うちのなか あさ ぼくが ひっくりかえした
テーブルが そのままに なっている
さらが われ ごはんが ちらばっている
おかあちゃん はえたたきを もつと
ぼくのせなかを なんども たたく
ドウシテ オカアチャンヲ コマラセルノ
おかあちゃんのかおも ぼくのかおも ぐちゃぐちゃ
ぼく おかあちゃん だいすきなのに
どうして イイコに なれないんだろう
ぼくは どうして ワルイコなんだろう
ぱちんと はえたたきのさきが とんだ
それから なんにちかして
でんしゃに のって
ぼくは となりまちの
おいしゃさんに いった
ぼくは くるくるまわる
いすに のって
おいしゃさんのまえを
ローラースケート
おいしゃさんは
にこにこして
ぼくを みている
「おこまりのことは なんですか」
おいしゃさんが おかあちゃんに やさしく きいた
おかあちゃん ぽつりぽつり ぽつりぽつり しゃべりはじめた
とちゅうで ハンカチ とりだした
「おかあさん ほんとうに よく がんばってきましたね」
と おいしゃさんが しずかに いった
おかあちゃん こえをあげて なきはじめた
「こうた おいで ここに すわってくれる」
おいしゃさんが ぼくを よんだ
ぼくが いすに すわると
「ありがとう すわってくれて ありがとう」
そういった
「こうたは かしこい子だ
おちつかなきゃ いけないって わかってる
ともだちに いじわるしちゃ いけないって わかってる」
ソウ ソウナンダ ワカッテルンダ
ボクハ ワカッテルンダ
「でも ついつい やっちゃう
それはね こうたが いま
ブレーキのききにくい 車に
のっているようなものなんだ」
そういって ぼくのあたまを なでた
ぼくは ADHDなんだって
さんすうの にがてな 車
おんがくの にがてな 車
みんな いろんな 車に のっている
ぼくが のってる ADHD号は
ブレーキが にがてな 車
ぼくが じょうずに のれば
この車は けっこう すごいらしい
そう おいしゃさんが おしえてくれた
かえりみち おかあちゃん ぼくの手を
やさしく にぎって あるいてくれた
「おかあちゃん べんきょうしなくっちゃ
こうたのきもちが わかるように
べんきょうしなくっちゃ」
そういって ぼくのかおを にこにこみた
わらってる おかあちゃんのかお ひさしぶりに みた
それから おかあちゃんも パパも 学校のせんせいも みんな みんな
はげましてくれる ほめてくれる
ありがとうと いってくれる
ぼくを みていてくれる
ぼくの オチツカナイむしも
イジワルむしも やっぱり ときどき かおを だすけど
でも おかあちゃんが わらっている日
おおくなってきた
きょうも ぼくは つぶやく
オチツケ オチツケ
こうた オチツケ
ボク スグ イイコニ ナレナイケド
デモ ボクハ ワルイコジャ ナインダ