c:餌縷々『アクア=エリアス』† 63Ria

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628名も無き冒険者
「ん…」
 春化が気がついたとき、頬には暖かくて柔らかい感触があった。
「春化様」
「…不意ー酢?」
 ぼんやりとした意識の中、目を覚ました春化の目の前にあったのは、覗き込むように自分を見ている不意ー酢の顔。柔らかい感触は、不意ー酢の衣服越しの太ももであることに気づく。
「こんなところで寝たら…風邪引きますよ」
「そしたら不意ー酢にうつして二人で汗をかいて治そう」
「冗談言ってないで、ほら、ベッドにいきましょう」
「せっかくの膝枕を、どうして放棄しなくちゃいけないんだ」
「…」
 春化のだだっこのような言葉に、不意ー酢は一瞬困ったような表情を浮かべたものの、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
「耳掃除、してあげられればいいんですが……」
「不意ー酢だと鼓膜がいくつあっても足りないからな」
「…そういうひどい事いうと、もうしてあげませんよ」
「あ。うそうそ。嘘です」
 手のひらを返したような春化の返事に、不意ー酢はくすくすと笑った。そんな不意ー酢の笑顔を見て、春化も思わず笑ってしまう。
「…春化様。耳掃除はしてあげられないけど…」
「ん? なんだ?」
 春化の問いかけに、不意ー酢は言葉でなく、その手のひらを伸ばした。少し乱れていた春化の髪を、何度も何度も子供もあやすようになでる。思わず目を細めてしまう春化。
「…春化様、気持ちいい?」
「おう」
「うふふ…。なんだか、お母さんになったみたいだよ」
「こんなお母さんなら大歓迎だ。ついでに母乳もくれると大満足だな」
「出ないし、出てもあげないよ。もう、そんなことばっかり言うんですね」
 笑いながら、それでも撫でる手はとめない不意ー酢。
「…不意ー酢は、良い匂いがするな」
「ありがと」