韓国、ソウルの一角にあるノリャンジン地区は、わずか1キロ四方におよそ
50の就職予備校と200を超す3畳一間の安アパートがひしめきあい、1万人の
就職予備校生が 集まる“就職浪人街"である。予備校では早朝から最前列の
席を取ろうと長蛇の列ができ、自習室は本のページをめくる音もはばかれる
ほど殺気だった雰囲気だ。若者たちは趣味も友人も、受験勉強を妨げる
あらゆる欲望を棄て、早朝から深夜まで修行僧のように受験勉強に明け
暮れる。
彼らが脇目もふらずめざす就職先は公務員である。その理由は、韓国経済の
低迷が続くなか企業が正社員の採用を手控え、非正規雇用がこの5年間で
約1.5倍、200万人に激増。また、正社員として入社しても2年以内なら会社
の都合で解雇できるため、大半の若者たちは、いつ首を切られるかわからない
状況だからだ。必然的に身分の安定した公務員に志望者が殺到するように
なった。
そうした社会の格差を背負ったノリャンジンの就職浪人たち。その出身は、
非正規雇用の職場に絶望して公務員をめざす者、30歳を目前にラスト
チャンスに賭ける者など様々だ。彼らがめざすのは、警察官や市役所職員
などの一般公務員である。
だが、試験の競争率は平均30倍、一部では800倍にも跳ね返っている。受験生
をふるいに掛けるため試験問題の難易度が年々上がり、今では一流大学卒
でも不合格になる者が珍しくはない。就職予備校に通わなければ、容易に
合格できなくなっているのだ。さらに李明博(イ・ミョンバク)政権が打ち
出した公務員削減政策で、就職浪人たちはますます追いつめられている。
番組では厳しさを増す一方の雇用格差のなかで、受験勉強にしのぎを削る
複数の若者たちの過酷な日常に密着する。受験以外のすべてを犠牲にして
きた若者たちが未来を賭ける、運命の公務員試験当日。ソウルには韓国
全土からも8万人の受験生が押し寄せてくる。ノリャンジンの就職浪人は、
その過酷な戦いに果たして勝ち残ることができるのか、公務員試験の
合格発表までの4ヶ月を追った。
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/081116.html