1 :
あ:
板違いですのでスルーを
2 :
あ:2005/10/02(日) 19:25:37 ID:Xc/HOkN5
「さてー、皆さんがいるのがぁー、島の南東、ポイントVの中学校でーす。もっともこの島はぁー、
1982年以降住民がいなくなってしまって無人島と化していますんでぇー、当然ながら廃校でーす。
島の北東部のポイントLにはぁー、同じような小学校がありぃー、そこはここよりも幾分大きいでーす。」
「それから海岸線ですがぁー、島の西部と南部はみての通り砂浜になっていますがぁー、
北部、北東部のあたりは切り立った崖になっていますのでぇー、自殺したい人はそこでして下さーい。」
釘宮円(女子11番)――彼女は教室の中央に近いところに立っていた為、死んだ桜子の返り血を
浴びていた――は思わずネギに飛び掛ろうとした。が、すんでのところで美砂に引き止められた。
彼女の目は、「今はダメ」と言っていた。本当は彼女も辛いはずなのに。
「最後にぃー、気になってる人も多いと思いますけどぉー、島の西部に小島がありまーす。
そこに逃げ込んで時間稼ぎをするのもいいかもしれませんけどぉー、一番近いところでもぉー、
2.5km離れているのでぇー、波も高いしー途中で溺れ死んでしまうかもしれませんよぉー、
さーて、少し長くなりましたがぁー、島の説明は以上でーす。」
その言葉を聞いて、一部の生徒がピクリと反応した。
楓、クー、超はネギからあまり目立たないように互いに視線を交わした。
刹那は、窓際で震える木乃香の背を見つめながら、傍らの剣の鞘を握り直した。
3 :
あ:2005/10/02(日) 19:27:19 ID:Xc/HOkN5
地図に縦横の線が引かれていますねぇー?それが各エリアですぅー。時間ごとに、立ち入り禁止区域が発表されますぅー。
知らせた時間以降そのエリアにいた人は、爆死することになりますよぉー。」
あまり身近ではない『爆死』という表現に、実感がわかない。そもそも『爆死』と言ったのだろうか?それとも聞き間違い?
「どうして爆死なのかわかってないと思いますのでぇー。その首輪でぇーす。」
全員の手が自分の首へと伸びる。
「無理矢理外そうとしたら、爆発しますよぉー。」
一斉に全員の手が首から離れる。
「その首輪から出ているパルスに反応して、立ち入り禁止区域のチェックをしますぅー。
皆さんがどこにいるかも、その首輪を通してわかりますよぉー。皆さんの出発地点はバラバラでーす。
一人一人ヘリで運んでー、ランダムに島の各地に振り分けまーす。
これはぁー、最初から仲の良い人達同士が組んで行動していても面白くないからでーす。
せっかくの機会なんでー、偶然近くにいた普段は喋らないお友達とも親睦を深めてみて下さーい」
4 :
あ:2005/10/02(日) 19:28:20 ID:Xc/HOkN5
スタートしてからの集団行動は自由でーす。単独行動した方がぁー、目立ちにくくぅー、最後まで命を
守れる可能性は大でーす。でも逆にー、たった一人でいる時に運悪く集団に遭遇してしまったらぁー、
まず勝ち目はないでしょうからー、集団行動していた方がいいかもしれませんねー」
明日菜は周囲の生徒を見回していた。このBRゲームは、仲間を作る時に必要以上に警戒して
相手を厳選する必要はない。それでも全てのクラスメートが完全に信用できるかというと
勿論そんな簡単な問題ではないだろう。誰かを罠にはめて、殺すような卑劣なマネをする者が出る可能性は否定できない。
明日菜はエヴァンジェリン.A.K.マクダウェル(出席番号26番)の横顔を見た。
まるで、動じていない。エヴァはクラスの中でも一番落ち着いて見えた。それは当然だろう。
彼女は囲まれても、魔法をお見舞いしてやればいいのだから。
不安材料はネギが完全な敵だということだ。エヴァンジェリンを味方に加えてもネギが敵では
魔法が相殺されてしまうかもしれない。しかし、信じられない。これがあの生意気だけど、
思いやりのある優しい少年と同一人物なのだろうか?目の前にいるあいつは本当にアイツ?
今までのは全て演技だったのだろうか?それとも催眠術でもかけられている?あるいは、偽者?
5 :
あ:2005/10/02(日) 19:45:00 ID:Xc/HOkN5
さーて、少し長くなりましたがぁー、島の説明は以上でーす。」
その言葉を聞いて、一部の生徒がピクリと反応した。
楓、クー、超はネギからあまり目立たないように互いに視線を交わした。
刹那は、窓際で震える木乃香の背を見つめながら、傍らの剣の鞘を握り直した。
6 :
あ:2005/10/02(日) 19:52:54 ID:Xc/HOkN5
なのだろうか?目の前にいるあいつは本当にアイツ?
今までのは全て演技だったのだろうか?それとも催眠術でもかけられている?あるいは、偽者?
7 :
あ:2005/10/02(日) 20:09:27 ID:Xc/HOkN5
他のクラスメートの様子も窺う。絡繰茶々丸(女子10番)、龍宮真名(女子18番)、
超鈴音(女子19番)、那波千鶴(女子21番)、ザジ・レニーデイ(女子31番)、
このあたりのメンツは比較的事態を冷静に受け止めているように見える。
同じ冷静でも柿崎美砂や桜咲刹那(女子15番)の目には、なにか決意めいたものが
感じられた。彼女らは今何を考えているのだろう。自由に会話が出来ないのがもどかしい。
逆に、和泉亜子、近衛木乃香(13番)、鳴滝史伽(23番)、
宮崎のどか(27番)、村上夏美(28番)あたりはかなり取り乱している。心配だ。
明石裕奈と春日美空(9番)佐々木まき絵(16番)は顔色が悪く、意気阻喪の様相を呈していた。
普段明るい彼女達だけに余計に痛々しい。
「今回のゲームの制限時間は三日間でーす。もっともー、このBR方式のゲームもぉー、
今回で通算14回目に当たるわけですがぁー、今のところ制限時間いっぱいまで使った例はありませーん。
午前と午後の0時と6時に、定期放送を流しまーす。一日四回です。
そこで新しい立ち入り禁止区域の発表をしますからぁー、聞き逃さないようにー。一緒に死んだ人の発表もしますぅー。
ゲーム開始以降30分後にこことランダムで3箇所、生徒の皆さんとっては、
禁止エリアになります
皆さんはー、共和国女子(新田などの邦人教諭はこのことを大東亜ナデシコという。ゴロが悪いったらありゃしない)
の名に恥じないようにー、明るく、楽しく、元気良く、生き抜いてくださーーい!」
もはや、ネギの言葉には説得力も糞もなかった。クラスのあちこちからため息を押し殺したような吐息が漏れる。
「それから今回のゲームは武器のあたりはずれが激しいでーす。ない人には本当になにもありませーん。
でもアタリの人にはー、かなり強力な銃火器などを用意してありまーす。
もちろん、体力的ハンデを軽減してくれると思いますぅー。ここまでで何か質問がある人ーー!」
8 :
あ:2005/10/02(日) 20:10:33 ID:Xc/HOkN5
「あのぅ・・・ネギ先生、何でうちのクラスが選ばれたんですかっ!?」
部屋の後方に立っていた長髪の女生徒、雪広あやか(女子29番)がおそるおそる尋ねた。
彼女の顔は当惑していた。憧れていたネギの豹変振りに戸惑いの色を隠せないようだ。
「厳選なる抽選の結果でーす。他に質問がある人ーー!」
クラスがしん・・・となった。このまま、質問攻めを続けていれば、私達がこの世の地獄を見る時間を
少しでも遅らせることができるだろうか?しかし、こんな時に限って的を得た質問がなかなか
思い浮かばないものである。
そのよどんだ沈黙が30秒程続いた後、廊下側に腰掛けていたまき絵がゆっくりと手を上げた。
「ネギ君・・・ねぇ・・・嘘だよね?嘘だって言ってよ!ねぇってば!」
叫ぶまき絵を一瞥して、ネギは一言フッとため息を返すと踵を返し、彼女に背を向けた。
「ネギ君・・・私は、ネギ君信じてるよ!?だって今までいっぱいいっぱいみんなで思い出作ってきて、
それで、ネギ君が私たちをこんな目に遭わせるわけないって・・・だってネギ君は・・・」
「まき絵・・・」
裕奈の制止を振り切ってまき絵はまくし立てる。
「・・・嘘だよ。嘘って行ってよ、ネギ君。今までの・・・わたし、たちは・・・・・・だから・・・」
「まき絵、もう止めて」
裕奈が泣きじゃくるまき絵を抱きとめた。
そして、顔を上げずに床を見つめながら抑揚のない声で言った。
「・・・・・・始めて下さい」
それを聞いてネギはにっこり微笑んだ。
「それではいいですね!じゃあ皆さん一人一人スタート地点に配置しますんで、
ヘリに乗って下さい!!」
こうして、悪夢の宴が開始されたのだった・・・
9 :
あ:2005/10/02(日) 20:13:09 ID:Xc/HOkN5
もしますぅー。
ゲーム開始以降30分後にこことランダムで3箇所、生徒の皆さんとっては、
禁止エリアになります
皆さんはー、共和国女子(新田などの邦人教諭はこのことを大東亜ナデシコという。ゴロが悪いったらありゃしない)
の名に恥じないようにー、明るく、楽しく、元気良く、生き抜いてくださーーい!」
もはや、ネギの言葉には説得力も糞もなかった。クラスのあちこちからため息を押し殺したような吐息が漏れる。
「それから今回のゲームは武器のあたりはずれが激しいでーす。ない人には本当になにもありませーん。
でもアタリの人にはー、かなり強力な銃火器などを用意してありまーす。
もちろん、体力的ハンデを軽減してくれると思いますぅー。ここまでで何か質問がある人ーー!」
10 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 19:44:59 ID:Yf+Pz+Yl
背中に銃を突きつけられ連行されながら明石裕奈は歩いていた。
冷静にならなきゃ、冷静にならなきゃ、呪文のようにそう繰り返す自分に気付き我にかえる。
こう唱えていること自体、自分が正気を欠いていることの現われだ。焦ったら、やつらの思うツボ。
できるだけの情報を集めようと、裕奈は周囲の様子をじっと観察した。
校庭のような開けた場所にクラスメート達が連行されている。自分と同じように、
背に銃を突きつけられて黙って歩く者、半狂乱で取り乱し、兵士達に抱きかかえられながら強引に引きづられている
11 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 19:46:00 ID:Yf+Pz+Yl
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、わたし――」
鳴滝史伽だった。裕奈が歩いている左後方10m程の所にあるヘリの中に押し込まれている。
「あ、安心しな、ボクが必ず迎えに行くから!」
たどたどしい言葉ながらも、裕奈のやや前方を歩いている姉の風香がそれに応答する。
子供っぽくても、一応お姉ちゃんなんだな。そうして、鳴滝姉妹のやりとりをかたわらで聞いていた裕奈は、
ふと、一つの重要な思いが脳裏によぎった。
(そうだ、仲間)
私もゲーム開始時早々に出来るだけ早く誰か友達と合流しないと。逃げるにしても戦うにしても
仲間がいた方が心強い。
12 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 19:47:47 ID:Yf+Pz+Yl
これからヘリで運ばれて皆バラバラの場所に配置される。できれば親しい友達と早く合流しておきたい。
まき絵、亜子、アキラ―― 10秒程かかって裕奈は彼女らの位置を捕捉した。誰がどのヘリに乗って
どの方向に飛んでいくか、可能な限り押さえておくつもりだった。
「うわっ」
機体の高度が上がり始め、それと同時に身体が前方に倒れそうになる。前方に傾斜した状態で
ヘリは前方斜め上方に向かって上昇を続けていく。下の景色が次第に遠くなっていく・・・
高度100m当たりまで上昇したところで、ようやく機体が水平になって少し楽になった。
今のところ、先に発進したアキラは同じ方向に向かって飛んでいる。亜子もやや後方だが、なんとか見える範囲にいた。
それにしても綺麗な眺めだった。この高さからだと島の輪郭が見える。亜熱帯気候の典型的な島である
この獄門島は、もう少し本土に近ければ良質のリゾート地になっただろう。こんな鬼畜ゲームではなく、
観光でくるならば、美しい島であっただろうに――
13 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 19:49:44 ID:Yf+Pz+Yl
「あっ・・・」
あれこれ思案することに集中しすぎて、亜子の機を見失ってしまったのだ。
周囲を見渡すと、自分のヘリとまだ併走している機は7機だった。このうち、前方の1機がアキラのだから、
残り6機のうちの1機に亜子が乗っているだろうか?それとも自分達とは別れて別の方角へ飛んでいってしまったのか?
ヘリの機種が同じだけに分かりにくい。しかも、夕陽が落ち、視界が暗くなりつつある――
しまった。取り返しつかないことをしてしまった。動揺を隠せない様子の裕奈に、背後から兵士が声をかける。
「どうした?友達が乗ったヘリでも見失ったか?」
そう言って兵士はニヤリと笑った。
裕奈は愕然とした。自分の考えを見透かされたというそのことよりも、それを全く咎めようとしない
兵士達の態度に。それは、友達同士で合流してみんなで協力し合ってせいぜい頑張れよ。
と、そんな政府の余裕のあざけりのように思えたからだ。つまりそれは、過去のプログラムにおいて、
クラスメート同士協力し合うことがゲームの支障に全く繋がらなかったということを暗に示していた。
14 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 19:50:54 ID:Yf+Pz+Yl
「そろそろ着陸だ。心の準備をするように」
背後で兵士から兵士の声がした。
高度30mまで降下すると、機長は右手に掴んだサイクリックスティックを引き上げた。
そして、左手に掴んだピッチレバーをわずかに上げる。機体が離陸直後とは逆に、やや後方側に
傾いた。思わずベルトを手を握り締める。裕奈はかなり前方に離れてしまった大河内アキラが乗った
ヘリの位置を最後に確認し、目をつぶった。降りた後ではもう捕捉しようがない。
地面すれすれの所でいったん静止したあと、彼女の乗った機は大地に着陸したのだった。
裕奈が降り立つと兵士が彼女の方にデイパックを投げてよこした。
そして、何事もなくヘリが飛び出とうとしていた時ヘリの無線に割れるような音声が割り込んできた。
「こちら田島二尉、作戦本部、応答願います。」
少し遅れて、別の声が聞こえる。
「こちら本部、手塚三佐だ。何があった?」
15 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 19:53:57 ID:Yf+Pz+Yl
どうやら、別のヘリと本部の交信らしい。裕奈を運んできた兵士達が無線の音量を上げる。
裕奈もそれを聞くためにヘリに近づいた。兵士達にそれを咎める様子はない。
「ポイントC方面に向けてに輸送中の女子12番、古菲なる生徒が我々にヘリ内で抵抗を示しました。
どうやらヘリをジャックしようとしたようです。射殺しますか?」
「現在位置は?」
「ポイントPです。高度150フィート。」
「こちら側の損害は?」
「横山二尉が、彼女がポケットに隠し持っていたハサミで切りつけられましたが、交わした為無傷です。
その後暴れましたが、計器類にも異常はありません。現在私と二人で羽交い絞めにしています。」
「そうか、わかった。で、彼女に支給予定の武器は何だ?」
「中国製カラシニコフU.S.S.R. AK47/V型です。」
「・・・それはまずいな。離陸直後に撃ってくるかもしれん。よしわかった。彼女に武器は支給するな。
それから、足を一発打って地面に放り出せ。地図も食料も渡す必要はない、殺す必要はない。」
後、彼女を降ろす地点は変更せよ。暗号化した信号を二分後に送る。以上」
16 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 19:59:11 ID:Yf+Pz+Yl
交信が終わったらしい。裕奈にデイパックを投げた兵士が口元を不適に歪めさせつつ笑う。
「はっはっは。聞いたか?軍に無謀な抵抗を示した者がいるらしいな。バカなガキだ。
お前は少しは賢そうだから、良く考えて行動しろよ?じゃあな」
「・・・・・・くーふぇ」
裕奈がそう呟く否や、ヘリは飛び去った。彼女はヘリが見えなくなるのを待って、デイパックを
開けた。中には先程、中学校だった建物の教室の中でネギに見せられた地図と同じものが入っていた。
それから、食料。乾パンとりんご。ハム、ソーセージ。果物の缶詰が数ビン。ミネラルウォーター。
錠剤も入っている。下痢止めと、頭痛・生理痛薬だった。黒い袋につつまれてズシリと重い物が入っている。
開けてみると、ボウガンが入っていた。これが私の武器らしい。
17 :
すまん。スルーで:2005/10/05(水) 20:01:20 ID:Yf+Pz+Yl
裕奈は装弾を開始した。いつ敵が現れるか分からないので、早めに臨戦態勢を築いておいた方がいい。
しかしこの長さではポケットにしまえない。どうせなら、トカレフみたいな小型拳銃が良かったのに。
それでも銃火器があるだけマシだろう。贅沢は言っていられない。そもそも、銃など握ったこともない自分が
これを使って敵と交戦するというとからして、信じられなかった。
裕奈はデイパックを左肩にかけ、右腕にボウガンを構えるとアキラのヘリが飛んでいったと北の方角に向けて
移動を開始した。
18 :
てst:2005/10/06(木) 04:56:48 ID:???
てst
19 :
1:2005/10/07(金) 11:25:21 ID:???
#9760
20 :
すまん。スルーで:2005/10/10(月) 19:55:36 ID:TdHlF4Kk
神楽坂明日菜は壁づたいに移動していた。右手には、岩石質の丘陵地帯がある。
島の中央を縦断するというそれだった。ライトをつけて地図を確認する。これに沿って移動すれば、
少なくとも方角を間違うことはない。
彼女のスタート地点は、北端の崖からそう遠くない、草原地帯だった。傍らには幾つかの
岩石が転がっている。彼女は南下することにした。仲間を見つけるためである。
しかし彼女の移動速度は遅かった。右手に引きずる金属質の棒のせいである。政府から明日菜に支給された
武器は何の変哲もない無駄に重いだけの鉄パイプだった。何度も捨てようとしたが、他に武器もないので、
これを携帯したまま(正確には地面に引き摺りながら)行軍していた。もし、腕力のない誰か別の生徒に
これが支給されていたら、おそらくその生徒はまず間違いなくこれを放棄しただろう。怪力の明日菜だからこそ、
なんとか実用に耐えそうな武器だった。
21 :
すまん。スルーで:2005/10/10(月) 19:56:17 ID:TdHlF4Kk
明日菜は裕奈のように選り好みせず、基本的には出会った友達誰とでも協力しようと考えていた。
エヴァンジェリンや桜咲さんも加えれば、かなり強力なチームになる。十分に戦えるはずだ。
「ゲホッゲホッ」
急に咳き込む声が聞こえたので、明日菜は身を硬くした。
誰――?腰をかがめて周囲をそっと窺うが、誰の姿も見えない。
咳は前方の方から聞こえた。明日菜は用心しながらゆっくりと前進していった。
岩陰に人影を認めて再び立ち止まる。忘れもしない、あの髪型は・・・
白人特有の髪の色をした少年が岩の陰に倒れていた。
「ネギ―――!?」
明日菜は鉄パイプを地面に置いて、少年の傍らに駆け寄った。
22 :
すまん。スルーで:2005/10/10(月) 20:05:31 ID:TdHlF4Kk
長谷川千雨(出席番号25)はデイパックの中に見つけた拳銃をためつすがめつして
観察していた。千雨の手にも少し余るほど大型の銃器であること、筒型の付属品(サイレンサー)は
銃身の先端に取り付ければいいらしいことがわかった程度で、銃器の知識などない千雨には
これが本物かどうかという基本的な判別も怪しいままだった。
銃を手に持ち横になったひざに肘をついてわずかに姿勢を低くした。
千雨は人が人殺しになる瞬間を見たかった。人を殺さない人が人を殺す人に
なるのを見たかった。
23 :
すまん。スルーで:2005/10/10(月) 20:06:10 ID:TdHlF4Kk
例えば、日々絶えない殺人事件の報道を見てときどき考えるのだ。
殺人の動機は様々だが、だいたいは恨み、怨恨である。千雨だってもちろん
人を恨んだことはある。でも相手を殺していない。殺そうと考えたことさえない。
一体、人殺しとそうでない者を分かつのは何だろう。生まれた時から悪人だとか、そんなのはない。
人を殺さない自分と人を殺す人の違いなんて大したものではなく、例えば
その時、殺傷能力のある武器たり得る物をたまたま手に持っていたとか、
普段の判断能力を失うような状況にたまたま直面したとか…
たぶん『たまたま』なのだ。人が人を殺すという行為を行なうのは。
動物は本来、同種族間で殺し合うことはしない。
共食いなどはあるが、それは自然の摂理に則り行なわれていることである。
動物には『たまたま』がない。
24 :
すまん。スルーで:2005/10/10(月) 20:06:53 ID:TdHlF4Kk
今、自分はたまたま武器を持ち、たまたま人を殺すことを強制された状況にいる。
自分は人を殺すのか?
(殺さないかもな…)
動機がない。理由もないのに殺せない。
千雨は組んだ足の上の銃を手に持ち、茂みから出てきた四葉五月(出席番号30)に向けた。
五月は転げるように走り転んだ。茂みの向こうに隠れて見えない姿がしばらくして起き
上がり、転ぶ前の勢いが嘘のように肩を落としてとぼとぼと歩き出す。
―――動機は?
動機は、たまたま選んだバッグに入っていた武器が銃で、その銃が本物なのか知りたいから。
それでいいか。どうしても今知りたい。今すぐ知りたい。
人殺しとそうでない者の違いを。今を逃せばきっと一生わからないままだ。
25 :
すまん。スルーで:2005/10/10(月) 20:07:55 ID:TdHlF4Kk
千雨は校舎に向けて銃を構えた。この大きさ、重さの銃器では反動も相当だろう
とあらかじめ予想し、正座のような格好になって地面についたひざを開き、つま先で
土草を踏ん張り、上半身と引き金の指に力を入れる。
手もとでボッと小さな音がし、そこから腕、背中にかけて反動が来る。
本物だ。
五月は誰かにぶつかられでもしたようにくるりと半回転してこちらへ背中を向け倒れた。
五月の左の太ももの裏から血が出ている。一応上半身を狙っていたのに
かなり外れてしまっていた。
今にも倒れそうにゆらゆらしている的を目掛けて二発撃ったところで、五月の
姿が茂みの向こうに消える。それきり起き上がってこなかった。
千雨は銃を下ろした。
26 :
すまん。スルーで:2005/10/10(月) 20:09:37 ID:TdHlF4Kk
さっきまでの自分と今の自分。どこか変わっただろうか。
痺れる手を見つめて考える。
別に何も変わりはしない。やはり自分の考えは合っていたようだ。
誰もが殺人者になり得る、みな殺人者の予備軍なのだ。
そう確信し、千雨は知的探究心を満たした充足感に打ち震えた。
【出席番号30番 四葉五月 死亡 残り28人】
27 :
すまん。スルーで:2005/10/13(木) 19:08:12 ID:wtfZXZdK
東の端の崖に座り夜空を眺めながら、那波千鶴(出席番号21)はもう二度と
会えぬであろう友や親を思い描いた。
「小太郎ちゃん……。」
今頃彼は何をしているだろう。自分達がこんな事になっていると知ったらやはり驚くだろうか。
先ほどデイパックを覗いたら、中にはパンや水、そして武器―グロック17
ガサガサと後ろから人の気配がして振り返れる。
そこには村上夏美(出席番号28)がいて、千鶴は緩く笑って地面に置いてあった銃を構えた。
自分の最期を看取って貰うのにこれほどの人物はいない。
千鶴の行動に夏美は驚き、必死に訴える。
「ちづ姉ぇ!止めて、そんな」
「夏美、動かないで。動いたら撃つわよ。そのまま話を聞いて。」
夏美は黙った。
28 :
すまん。スルーで:2005/10/13(木) 19:09:23 ID:wtfZXZdK
「夏美。私、みんなを殺すなんて出来ないわ。」
「ちづ姉ぇ!」
「誰かを殺してまで生き残って……元の生活に戻っても3-Aの皆はいない……。」
千鶴は肩にかけていたデイパックを夏美に向かって投げ、一歩ずつ下がる。
「荷物と武器あげる。夏美、生き残ってね。もし天国で会った時は、また一緒に遊びましょう。」
また一歩、下がる。
「ちづ姉ぇ!止めて!嫌ぁ!!」
「生きて帰ったら、虎太郎ちゃんにごめんって伝えてね。……私、この学園の皆に会えて
よかった。ありがとう。」
千鶴は柔らかく笑んで、夏美に背を向ける。夏美が走り出す。
目を閉じた千鶴が銃を地面に落とした。
夏美が手を伸ばす。
しかし無情にもその手は空を切った。
その脳裏に学園の懐かしい日々を思い浮かべながら千鶴は夜の海へ消えた。
「……ちづ姉ええええええ!」
那波千鶴が目の前から消えた。
夏美はただ、涙を流すしか出来なかった。
【出席番号21番 那波千鶴 死亡 残り27人】
29 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:03:53 ID:su+Ekoqc
「次、春日美空」
「…はい」
…飛び出てもう2時間以上が経った。
春日美空(出席番号9)は町並外れに見つけた工場の中にいる。
(これなら隠れていられる…)
そう考えてずっと動かずにいた。
どこからか銃声が聞こえる度に身をちぢ込ませ、震えながら。
美空の武器はフライパンだった。
これじゃ人なんて殺せない(もちろん殺す気なんて初めからなかったが)。
殺し合いに参加する勇気なんてない。
本来の学園生活だってそうだ。
自分の出番は何も同然。人気投票だって最下位だ。
違う。
30 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:08:38 ID:su+Ekoqc
始めは…期待されてた。
だけど他の生徒に次々と抜かれて、期待すらされなくなった。
期待から逃げていた。
…この勝負でも私はここでも逃げを選択している…
ふぅ、とため息をついたその時だった。
「誰かいる?」
「…!!」
突然の声に驚いて慌てて紙ロールの間にある隙間に隠れた
(誰…!?)
心拍数があがり両手がびっしり汗をかく
ドク…ドク…ドク…
殺される…殺される?…
「…いないの…」
背中が見えた。
柿崎美砂だ。
(武器は…何を持ってるんだ…)
暗くてよく見えない。
デイバックを下ろして休む美砂。完全に無防備だ。
…今ならもしかして、フライパンでも殺せるのかもしれない。
31 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:13:18 ID:su+Ekoqc
殺す…殺していいのか?
いいのよ…ゲームなんだから。
どうする!?…どうすれば…。
地図を見る美砂の背中をじっと見つめ、美空は迷っていた─
「ここもうすぐ禁止エリアになるじゃない!!」
美砂の言葉にハッとする美空。
(ここが禁止エリアになる…)
さっきよりも心臓の鼓動が早くなる──ここにずっといられない。
だったら、美砂を殺してこの場所から逃げるしか道はない。
そう、決断した。
「とりあえずここは危険ね、早くここから…」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
叫び声が工場内をこだました───…
32 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:19:09 ID:su+Ekoqc
神楽坂明日菜はネギの姿をした少年を抱き起こした。苦しそうだ。
急いでデイパックを取り出し、彼に飲ませる。咳き込みながらも水を飲み干し、
ようやく、目を開けた。彼の目は明日菜の顔を認めたようだ。
「あれ・・・?アスナさ・・・げほっ」
「ネギ?ちょっとあんたどういうことよ!?なんであんたがこんなところで
倒れてるのよ?あんたはBRの作戦本部にいたんじゃなかったの?」
「・・・臨海学校の最後の日、しずな先生に呼ばれてタカミチが泊まってる部屋に行ったら、
そこは、・・・ま、っくらで・・・突然背後から頭を殴られて・・・で気付いたら狭いところに・・・げほっ」
そういってネギは咳き込む。明日菜はおデコに手を当てた。体温が低いような気がする。
ネギの背中をさすりながらこう言った。
「・・・大丈夫?無理して話さなくてもいいよ?」
33 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:19:46 ID:su+Ekoqc
「だ、大丈夫です。はぁ。そ、それで、狭い所に押し込められた僕は、そこは暗くてどこか分からなくて、
遠くからタカミチとしずなの話し声が聞こえるんだけど、僕は猿轡をはめられてて、声が出せなくて、
その内また意識が遠のいてきて、その次に目が覚めた時にはここに倒れていたんです。」
「・・・・・・」
ようやく、事情が飲み込めてきた。ネギがおかしなことに巻き込まれたのは、秋の臨海学校の
前日、つまり昨晩だ。彼の話が真実なら、一日近くにわたって監禁されていたことになる。
「さっき、教室で私達にBRの説明をしたのはあんたじゃないのね?」
ネギの目を真っ直ぐみつめ、確認のためにそう問う。
「説明・・・?BR・・・? な、んのことですか??」
34 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:22:15 ID:su+Ekoqc
やはりネギは知らないらしい。ということは、さっきのネギはおそらく魔法か何かで変装した偽者か。
そして、高畑先生としずな先生はどうやら今回のBR戦闘実験作戦本部要員らしい。
「高畑先生・・・」
信じたくなかった。が、信じなければならなかった。彼らと、政府軍と私は戦わなきゃならない。
敵側に回ったタカミチへの情念を吹っ切らなければならなかった。
彼女の強い決意を支えたのは目の前のいたいけな少年の姿だった。こんな幼い子供すら、
プログラム遂行のための道具にしてしまう、奴らのドス黒い魂胆に心の底から嫌気がした
35 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:24:31 ID:su+Ekoqc
「・・・立てる?」
明日菜はネギに手を貸し、彼を立ち上がらせた。本当はもっと、ネギを休ませてあげたいのだけど、
既に狂気の戦争は始まっている。ここに長居している暇はなかった。
幸い、ネギの身体の調子は思ったよりも良いようだった。最初動けなかったのも、一日近くに渡って
猿轡をはめられ、閉じ込められていたことによるものだった。
36 :
◆hjp4U08prE :2005/10/18(火) 20:26:46 ID:su+Ekoqc
明日菜は手短に今日自分たちの身に起こったこと、バトルロワイアルのことなどについて説明した。
その内容は10才の少年に聞かせるにはあまりに過酷なものではあったので、多少オブラートは聞かせたが、
賢い少年は明日菜の言うことを理解した。
「それで、アスナさんは戦うんですね?」
「もちろんよ!降りかかる火の粉は払いのける!あったりまえじゃない」
その自信たっぷりのアスナの表情に、ネギは思わずくすっと微笑まざるを得なかった。
アスナさんらしいや。こんな状況下でもしっかりしてるんだ――
37 :
a:2005/10/19(水) 11:08:25 ID:???
<html>
<MARQUEE direction="right" scrollamount="10">
/⌒ヽ <BR>
⊂二二二( ^ω^)二⊃ <BR>
| / ブーン <BR>
( ヽノ <BR>
ノ>ノ <BR>
三 レレ <BR>
<BR>
</MARQUEE>
</html>
38 :
a:2005/10/19(水) 11:08:56 ID:???
39 :
a:2005/10/19(水) 11:15:19 ID:???
40 :
すいません。スルーで・・・:2005/10/19(水) 23:20:09 ID:UllXHVoL
41 :
い:2005/10/20(木) 15:21:16 ID:???
なにここ・・・?
夕刻の黄昏と調和するかのように、小高い岸壁から落ちる滝の音が間断なく聞こえてくる。
悪夢のようなこのゲームには全く似つかわしくない美しい自然のハーモニーだった。
たった今、長瀬楓(出席番号20)は破いたブラウスを包帯代わりに、親友・古菲(出席番号12)
の足の 応急処置をしたところだった。彼女の話では、ここに運ばれてくるヘリの中で兵士達に抵抗
しようとして、足を銃で撃たれたとのことだった。彼女がここにくるまで座って途方にくれ
ていたという。
傷口からの血液の流れはまだ止まっていなかったが、適度にきつく巻いたその布で、
数分以内にとりあえずの止血はできると思われた。滝の水は綺麗に済んで見えるので、
あの水で傷口を洗ってもいいかと考えたが、見ず知らずの島でのこと、どんな病原体が
潜んでいるかも分からないので、止めておいた。ただ、デイパックの中のミネラルウォーターは
わずか2リットルである。おそらく亜熱帯に属するこの高温多湿の島では、脱水症状を免れるために、
衛生面のリスクは侵してでも滝の水を飲まざるを得ない状況になるかもしれない。
「古、もしかして武器だけじゃなくデイパックも支給されなかったのでござるか?」
「・・・そうアル」
古菲は消え入りそうな声で答えた。足を怪我し満足に歩けそうもない状況下で、
武器も食料すら支給しないするとは、なんという悪趣味な放置プレイであろうか。
死ねと言っているようなものである。
運良く楓が通りかからなかったらどうなっていたことだろう。
それはさておき、楓はこれからどうしたものかと試案していた。弾丸は膝を直撃
している。膝蓋骨や半月板が損傷しているかもしれない。これでは歩けないのも無理は
ない。迷った末、楓は切り出した。
「拙者が、助けを呼ぶでござる」
「楓・・・?」
「古を背負って移動してもいいでござろうがそれでは襲われた時ひとたまりもないでござる」
確かにデイパックを持ったまま、同い年の人間を背負って険しい道を移動するのは
流石の楓でも生易しいことではない。
移動速度は極端に遅くなるし、万一敵に襲われたらとっさの対応ができない。
楓は裕奈と同じように、ヘリの窓から他の多くのヘリが島の北東部へ飛んでいくのを
見ていた。つまり、滝が落ちてくる小崖を上って続く丘陵地帯を越えて島の東側に出れば、
クラスメートに遭遇する可能性が高いということだ。できれば古菲を担ぎながら安全に
移動するために、2人以上の仲間が欲しいところだった。一人に古菲を支えてもらって、
もう一人が古以外の3人分のデイパックを運び、武装した残りの一人が周囲の警戒に
当たりながら、安全な家屋か洞窟まで移動するという段取りだ。
より多くの仲間を見つけるためには、東に向かわなければならない。しかし、そのためには
丘陵地帯を越えなければならない。平地ならともかく、岩山を上り下りするのでは、
急ごしらえの松葉杖も役立たないだろう。
「ワタシを…置いていっちゃうアルか…」
「大丈夫でござる。拙者の荷物を置いていくから中身は好きに使っていいでござる。
武器も置いていくから出来るだけ早く戻ってくるでござる。」
そう言って楓は、支給された22口径のデリンジャーを古菲に手渡した。
「これは“でりんじゃぁ”と言う飛び道具で一応上下2連発撃てるようになっているでござる。」
足が折れて動けない分、この武器で自分の身を守れ、ということだった。
「でも、楓は、丸腰で大丈夫アルか?」
「大丈夫でござる。こういうときの方が動きやすいでござるから」
「・・・・・・わかったアル。ワタシ、楓を信じて待ってるアルね」
「拙者が戻るまで、出来るだけここにいて欲しいでござるな。もし誰か他の友達に会って、
その子らとどこか別の場所に行くことになったら、置手紙でも置いてくナリよ。」
「わかったアル。気をつけてね。」
「ニンニン」
古菲を笑顔で見届けると、楓は南側に向かってかけ出した。100m程走り、登りやすそうな
場所を見つけると、楓は砂と草に覆われた岩石質の斜面を登り始めた。
楓がいなくなったと同時期に、夕刻の闇が深くなってきた。滝周辺は木がまばらで
見通しが良いため、まだ淡い夕光の明度が保たれているいるが、周辺の雑木林の中は、
夜のように暗くなっているだろう。闇の中に一人ぼっち、おまけに足を負傷してほとんど
歩けない――古菲は徐々に取り残されたような孤独感が心を支配し始めた。
開始当初の喧騒もどこ吹く風といったところで、今や作戦本部司令室の面々は暇を
もて余していた。生徒側が不穏な動きを見せない限り、教師達も兵士達も口でも開けて
モニターを眺めてさえいればいいのだ。仕事があるのは、死亡発表の放送を行うタカミチと、
生徒の動きを逐一記録する軍の記録係。そして計器類に異常がないか監視する技官達だった。
もっとも放送を行うのは6時間おきだし、記録係や技官達も3交代制で大部分は待機要員だった。
51 :
すいません。スルーで・・・:2005/10/25(火) 21:57:19 ID:uTqW9b2V
ちなみに本部の組織構成は、タカミチが総司令、しずなと新田が副指令で、学生時代に
情報処理技術者の資格を取得した瀬流彦が、情報処理班の班長、つまり技官達を統括する
最高責任者であった。歴代BR法には、“シビリアンコントロール”の条文があり、
全プログラムにおいて、教員達の下に軍人達が配属されるような指揮命令系統を作ることが
義務付けられている。もっとも、これも名目的なものに過ぎず、教師の選抜は軍関係者が
BRゲームを忠実に遂行してくれそうな者をリストアップして、その中から任命される訳で、
――あくまでも教育の一環として行っているという――国民向けのプロパガンダに過ぎない。
たかが数日後に解散される臨時作戦本部内での話である。教師側のメリットはたかだか数万円の
特別手当が支給されるぐらいだった。教諭達がBR遂行を妨げるような行動を取れば彼らはもちろん
拘束されて、軍人達が指揮を代行するだけの話である。形だけの文民統制であった。
ただ、“プログラム”の主旨に反しない限り、教諭達にはそこそこ自由な裁量と権限が
与えられている。特に専守防衛軍に人脈をもっているタカミチには、兵士達も一目置かざるをえない。
生徒達各々のスタートポイントや支給武器を決めたのもタカミチである。年配の新田を
差し置いて、タカミチが総司令に抜擢されたのはそんな経緯がある。プログラムが終わった後も、
麻帆良学園内での彼の影響力は強くなっていくだろう。
ただ、“プログラム”の主旨に反しない限り、教諭達にはそこそこ自由な裁量と権限が
与えられている。特に専守防衛軍に人脈をもっているタカミチには、兵士達も一目置かざるをえない。
生徒達各々のスタートポイントや支給武器を決めたのもタカミチである。年配の新田を
差し置いて、タカミチが総司令に抜擢されたのはそんな経緯がある。プログラムが終わった後も、
麻帆良学園内での彼の影響力は強くなっていくだろう。
タカミチ達4人には、士官クラスの軍人達と同様、この数日間を過ごすための個室が与えられて
いた。それぞれ(中学校の)音楽準備室や美術準備室を改造した粗末なものだったが、基地の
共同宿舎内に寝泊りしている兵士達より明らかに優遇されていた。
タカミチが周囲を見渡すと、仕事がなくて退屈した兵士達が、将棋や麻雀に興じていた。
「それにしても・・・・・・随分意図的にみんなを配置したのね」
中央の大画面を見ながらしずなはタカミチに同意を求めた。
「ああ、BRの醍醐味は生徒同士を戦わせることだからね。明石君と大河内君、
鳴滝姉妹、古君と楓君の位置が近いのは偶然じゃない」
「え?そうだったの。でも、おかしいわ。仲良し同士を最初に遭遇させたら、
彼女らはペアを作っちゃうんじゃない?」
タカミチは兵士が用意してくれたコーヒーを手に取った。
「それが狙いだよ。彼女らが一人で歩いている時に、誰か別の生徒と出会ったら、
怖さが優先されて、あまり信用できないクラスメートでも妥協してペアを組むだろう。
その後、自分の親しい友達に会ったらどうする?仲の良くないあの子でも大丈夫
だったんだから、親友だったらなおさら安全だ。そうやって大グループが出来るだろう。
最終的にはクラス全体が一つのグループにまとまるかもしれない。それじゃあつまらん」
タカミチはテーブルの傍らに置いてあったボールペンを手に取り、くるっと回転させてみせた。
「ということは、最初から親友同士をくっつけて小グループをつくらせて、
小グループ同士での疑心暗鬼を起こさせようって寸法ね?一人でいる時は不安の方が勝るけど、
何人かでグループを作って安心を得たら、猜疑心の方が強くなる。でも、
そんなにうまくいくかしら」
「いろいろ手段はあるさ。例えばゲーム後半になったら今回のゲームの優勝者は
2人に変更しますとアナウンスするとかね。BR法案ではゲームの運営について
ある程度柔軟な権限が指揮官である総指令に認められている。それに、こちらのいいように
撹乱してくれる伏兵も用意している。埋伏の毒ってやつだね。」
「ふぅん・・・・・・」
理解したのかしなかったのか、しずなの返事は曖昧だった。
56 :
:2005/10/27(木) 21:12:04 ID:???
(誰かいないかな……さすがに一人は厳しいし……)
明石裕奈は坂を登る。出来るだけ遠くを歩いた。肩に担いだボウガンがギシギシと鳴る。
矢を番えてはいるが、もし本当の戦いになったら不利な武器だ。いちいち矢を仕掛け直さねばならない。
やがて、丘の頂上付近に来る。
「ゆーな」
突然の声に驚いて辺りを見回す。気を抜いていた。しかし、その声からは戦意を感じ取れない。
「こっち」
よく響く声。声の方を振り返る。
「アキラ!」
大河内アキラ(出席番号6)の顔が草の間から生えていた。地面にペタリとしゃがみこんでいるのだろう。
「無事だった!」
満面の笑顔で駆け寄る。アキラも嬉しそうに笑った。裕奈はアキラの前に座った。無防備に。
「大丈夫みたいね」
「うん。アキラも怪我とかは?」
「全然。私はずーっとここにいたからな、ゆーなは?」
「下にある納屋みたいな所で。寒さはしのいだけど、あんまり眠れなくて」
57 :
すまん。スルーで:2005/10/27(木) 21:13:16 ID:4TcbHT5i
「あ、目の下に隈が出来てるな」
こんな風に笑ったのは久し振りな気がする。するとアキラが黙り込む。
「ゆーな。もし最初に会った相手が、銃を向けたらどうする?」
「………!」
「ゆーながどんなに信じてくれって言っても、相手が信用しなかったら?ましてや発砲してきたら?」
「………」
「見る限り、ゆーなの持ってる武器じゃちょっと頼りないと思う」
肩に下げているボウガンを見た。裕奈は答えられない。自分でも何度も考えた。発砲されたら、まず逃げるだろう。
もし相手の武器が自分と互角かそれ以下だったら………
(私は、戦ってしまうんだろうか)
極限状態に追い込まれてみなければ、その時の精神状況などわからない。
58 :
すまん。スルーで:2005/10/27(木) 21:16:13 ID:4TcbHT5i
ふいにアキラが鞄を開けた。手のひらサイズの黒くて平べったいものと紙を取り出した。
「これ、あげるよ」
「え?」
紙と黒い物体を受け取った。
「何?これ」
電子手帳のような物を開いた。そして説明書らしき紙に目を通す。説明書には、
『スペシャルラッキーアイテム!』
と書かれている。大袈裟な見出しだ。
「使ってみたら首輪探知機みたいだ。それがあれば、どこに首輪をつけた人間がいるかわかるから便利だと思うぞ。安全対策にはかなり役に立つ」
裕奈は説明書を見ながら機械をいじった。今自分のいる地点を見る。確かに赤いランプが二つ、重なるようにして並んでいる。ある意味、これは最強の武器だ。
裕奈は希望を抱いた表情になって顔を上げた。
「じゃあ、軽くパンを食べたら行こう!」
しかし、アキラは首を横に振った。
「いや、私は行かないよ」
「どうして?!」
アキラの表情は穏やかだった。
「決めたんだ」
むしろ、笑みすら浮かべている。
「私はここを動かない。もしここが禁止区域になっても」
「そんなことしたら死んじゃうよ?!」
「いいんだ。私には人を傷つけたり、ましてや殺す勇気なんて無いんだ」
裕奈は黙ってアキラの顔を見つめている。
「もし生き残ったとしても、人殺しの重圧に押し潰されて生きるのなんて嫌なの。乗り越える強い精神力、それが私にはちょっと欠けてるんだなって。だからずーっと、ここでいる」
「でも、少しでも可能性があるなら……!」
「だから、こっちの可能性に賭けるんだよ」
アキラの笑みは心からのものだった。裕奈にも、もう説得出来ないことはわかっていた。それでも一緒に来て欲しかった。信頼出来る相手だから。
「ゆーな。もしここが禁止区域にならずにこのゲームが何らかの形で終わったら、それは私の勝ちだ。もし禁止区域になったら、私の負けだ。
ただそれだけなんだ。誰かに直接殺されて死ぬのもここで首輪が爆発して死ぬのも、同じなの。だから私は選んだ。少しでも、誰かを傷つけずにすむ方向を」
真面目に自分の生死を語るアキラ。
「………わかった」
裕奈がうつむいて答える。
アキラの笑みは心からのものだった。裕奈にも、もう説得出来ないことはわかっていた。それでも一緒に来て欲しかった。信頼出来る相手だから。
「ゆーな。もしここが禁止区域にならずにこのゲームが何らかの形で終わったら、それは私の勝ちだ。もし禁止区域になったら、私の負けだ。
ただそれだけなんだ。誰かに直接殺されて死ぬのもここで首輪が爆発して死ぬのも、同じなの。だから私は選んだ。少しでも、誰かを傷つけずにすむ方向を」
真面目に自分の生死を語るアキラ。
「………わかった」
裕奈がうつむいて答える。
「その代わり」
顔を上げた。
「その代わり、もし生き残りが私の信じられるメンバーになって、アキラも無事だったら、ここに迎えに来るからね。一緒に逃げよう!」
真っ直ぐにアキラを見つめている。
アキラは笑顔のままうなずいた。
「分かってる。あんまり無理はするなよ」
「生き残るには無理しなきゃ」
裕奈が歩き始める。今度はボウガンを構えながら。
「……バスケ部。強くしないとね」
「………うん」
こぼれそうになる涙を堪え裕奈は走り出した。
東の丘の上、浅倉和美(出席番号3)は、慌てて荷物をまとめていた。
最初の禁止区域がここなのだ。あと20分あるが、地域の境界線は目に見えない。
走って逃げてもいつ区域から出たかもわからないのだ。
ご丁寧にラインくらい引いておいてくれればいいのに。
そんな悪態までついてしまう。
「とりあえずここを出る。えーっと、西に向かえば住宅地がある。そこに逃げよう。」
鞄の中の武器を見る。よりによってボクシングのグローブとはなんたることだ。
腰の高さまで伸びた草をかき分け、出来るだけ身を屈めて走る。草がガサガサと音を立てる。
少し風が強く周囲の草が揺れる。聞こえるのは草の揺れる音と、自分の息遣い。
逆にいいカモフラージュになってくれているようだ。
(まだ?境界線は………)
その時、体、ちょうど腹部の辺りに何かが勢いよく当たった。まるで体当たりをされたような。
(え?!)
次の瞬間、視界に鮮やかな赤が飛び散る。そして、腹部の痛みに気づく。
(……え……?!)
全身の力が抜け、一回大きく前後に揺れた後、前のめりに倒れた。
薄れゆく意識の中、目の前で相坂さよ(出席番号1)が心配そうに見つめているのが見えた。
(…ごめん、さよちゃん…やられちゃった…)
心の中で呟く和美。
(浅倉さん…)
(あはは…これで地縛霊 になったら…さよちゃんと同じだよね…)
そう呟き和美は二度と言葉を発しなくなった。
(…浅倉さんは地縛霊 なんて似合いませんよ。……さよなら)
さよはそう言って涙を流した。
64 :
sumann:2005/10/29(土) 19:38:41 ID:???
美空は肩で大きく息をしている
彼の前には美砂がピクリとも動かず倒れている
…やったのか…?
殺すと決めたその瞬間、大声上げて美砂に飛び掛って後頭部をフライパンで強打した…ハズだ…
ガンッッ!!!と大きな音が聞こえた。
美空が目を開けたときには、美砂は倒れていたのだから。
(私は…なんてことを…!??)
倒れている美砂を見て我に返る
あの時、なぜ美砂を殺そうと決めたんだ!?話せば仲間として一緒に行動出来たんじゃないのか!?
65 :
sumann:2005/10/29(土) 19:41:51 ID:???
「…ご、ごめん…美砂…」
一言だけ呟くと、出口に向かって歩き出す。
(…早くここから出ないと…出たらまたどこかに隠れて…
違う、もう一人殺したんだから逃げてたらダメなんだ…このゲームに勝つんだ!!)
走り出そうとした瞬間──
「待ちなさいよ」
後ろから声が聞こえた。
(───!!!)
─ズキュン!!
「あ…」
美空の左足に痛烈な痛みが走る
「──痛い痛い痛い痛いっっ!!!」
転げまわる美空に人影が近づいてきた
66 :
sumann:2005/10/29(土) 19:43:26 ID:???
「美空までこのゲームに参加してるのね」
「あ…ち、違う…違う!!違…」
「私、このゲームに参加してる人は許さないって決めてるの…」
小型の銃を向けたまま美砂の目は冷酷に美空を見下ろしたまま動かない。
(ポケットピストルなんておもちゃの銃かと思ったけどちゃんと当たるのね)
説明書にも『近距離がオススメ♪』なんて書いてあったのに。
「…美砂…どうして…生きて…」
「…目瞑ってたでしょ」
…!!
「なん…」
「美空が思いっきり殴った場所、私の右肩なのよ」
……。
自分の愚かさに気づいた美空を見て美砂の口元がニヤける。
「…た…助けて…」
美空の目から大量に涙が溢れ出ていた
「ごめんなさい…怖かったの…私パニくってて…本当は殺すつもりなんて…」
必死に言い訳する美空を見て殺すことに少しだけ戸惑いはじめる。
美砂だって、本当は人殺しなんかしたくない。
だけど私は殺されかけたんだ──。
同情の気持ちを振り払う。
67 :
sumann:2005/10/29(土) 19:45:15 ID:???
銃をポケットにしまい、時計を見る
「あと、15分」
歩けなくなった美空に振り返ることなく言葉を続ける
「出血多量で死ぬか、禁止エリアで死ぬか、ゆっくり考えなさい」
「もしかしたら、誰かが助けるかもしれないけど……私は助ないから」
そう言うと走り出してあっという間に美空の前から姿を消した。
美空の目には涙が溢れていて美砂の声だけが聞こえていた──。
あと10分
禁止エリアにただ一人残された美空は痛みと死の恐怖に怯え続けていた。
…殺そうとしたら、殺されました。
私は…勝負の世界に向いてなかったのかな…
68 :
sumann:2005/10/29(土) 19:46:51 ID:???
あと5分。
あと1分。
ピッピッピッ
首輪が警告音を発した
しかし美空には助けを呼ぶ声も出ない。
(……クラスメイトを殺そうとした罰だよね……)
ぼんやりと考える。
(……だったら、最後の一人はどうやって生き残るの?運?それとも誰かに守られて?自分は手を汚さずに?)
理不尽だ。
どうして自分がこんな目に遭わなければならないのだ。
よりによって自分のクラスが。どうして。
ピー
首輪の音が止まった。その後、小さな破裂音。
彼女がこれ以上考える必要はもう無かった。
【出席番号9 春日美空 死亡 残り25人】
69 :
sumann:2005/10/29(土) 19:56:53 ID:???
スタートしてすぐ、和泉亜子(出席番号5)は危うく嘔吐しかけた。
四葉五月の血まみれの死体を見つけたのだ。
信じられなくて、我慢出来なくて、亜子は大きな鞄を揺らして急いでその場を走り去った。
ただ恐怖感だけが、背中を押していた。
「あっ!?」
石の段差につまづいて転ぶ。膝を擦ったらしく両膝が赤くなっている。
「…うぅ…もう嫌や…」
弱音を吐く亜子。死ぬのは嫌だが殺しをするのも嫌だ。ましてや自分の武器は白旗である。
つまりスタートして既に文字通りお手上げの状態なのである。
「助けて…誰か。」
不意に何かが飛んできた。
「な…何や!?」
見ると足元になにやら石ころのようなものが落ちていた。
「何や?これ…」
手に取って見た、手のひらサイズのごつごつした石のようなもの。
70 :
sumann:2005/10/29(土) 19:58:19 ID:???
カッ
途端に亜子の目の前で閃光。
亜子はその光と手に取った石が何なのかを理解する前に絶命した。
上半身が真っ黒になって吹き飛んだ亜子をザジ・レニーディ(出席番号31)は微動だにせずに、
ただじっと眺めていたのだった。
「…」
何も言わずにザジは手榴弾をデイパックの中に仕舞う。
彼女の目は死んだ魚のようになっていた。
【出席番号5 和泉亜子 死亡 残り24人】
71 :
sumann:
明日菜もネギも既に疲れきっていた。あれからろくに食事も睡眠もとっていない。
何よりこんな状況の中で精神状態はボロボロだった。
何故自分達が?そう嘆いてもこの現実はこうしてちゃんとあるのだ。受け入れる他ならない。
「お腹減った・・・」
ネギがぼそっとつぶやく。そう言われると自分もそんな感じがする。
無理もない。ほぼ丸一日飲まず食わずで監禁されていたのだ。
おまけに背広のせいで分からなかったが彼の首にもあの首輪がつけられていた。