共同通信配信地方紙朝刊に載った具志堅さんインタビューの全文です。
「アテネ五輪体操男子団体総合で日本が金メダルを獲得した。
1960ローマ五輪から1978ストラスブール世界選手権まで、
五輪と世界選手権に通算10連勝した体操ニッポンの復活なのか」
今回のアテネはいけそうだという予感がありました。2003年
アナハイム世界選手権で銅メダルを獲得し勢いづいていたからです。
オリンピックの合宿で「優勝しようや」という声が選手から出て、
優勝する為には「俺がここを直すから」とか、コーチからの指摘に
対して、本当に減点の無い良い発表をする為の練習が毎日繰り返された。
今までの「失敗が無ければ良し」というレベルから「失敗はなし」という
レベルプラス「着地まできちんと決める」という意識が練習の中で浸透し
た。近年まれに見る出来事でした。続く
アテネに入って選手が一番いけるぞと思ったのは、中国の練習を
見てからなんですよ。中国は若手を起用したチームを送り、練習で
ボロボロ失敗をする。それを見たときにひょっとしたら中国に勝てる
と思ったらしい。選手がそう思う事が一番大事なんです。
ジュニア育成の芽が出ました。長年日本が勝てなかった原因は最終的には
「美しさ」なんだという点を10年以上前からジュニアのコーチが徹底し
て指導し、高校大学へと引き継がれた。この功績は非常に大きい。
それまでみんな「難しい技をやれば勝てる」と勘違いし、失敗が出たり
脚が割れたり、美とは懸け離れたところで演技をつくりあげてきた。
それが美しさと言う体操の原点に頭が切り替わるまで10年位掛かった。
この金メダルを続けなければいけないが、アテネから北京への4年間は
非常に厳しい。中国は底力があり、選手層が厚い。体操主体の生活が
できるという、国家的な支援が違います。
日本はアテネの6人を脅かすくらい若手が伸びてこないと難しい。
来年の世界選手権のあと、採点規則が変わり、得点が10点満点を越え
るようになるかもしれません。ルールが変わるとき、正確な情報を
早くキャッチし出来るだけ優位に立つ、それは日本が得意です。
強化としては床運動つり輪跳馬の3種目が世界の水準に達する必要が
あります。つり輪、跳馬が平行棒鉄棒のように、誰が出ても世界の
トップにいるというレベルに近づく事が一番の課題でしょう。
「母校日体大の教職が長く、03年からは神奈川県の教育委員に。
教える事の難しさと喜びを体験してきた」
学生は一般的に、感謝しないとか、すぐ逃げていくとか問題はいっぱい
あります。20年位前は、わたしが体育館へ行ったら椅子がパッと出て
きました。お客さんが来たらスリッパが出る。何年か前から言わないと
やらなくなった。指示待ちが多いんです。先輩後輩の縦の関係が悪く
なったんです。
同じような指導がA君に通用してもB君に通用しない。毎日体育館へ
行き、個性を見抜く必要があります。どれだけ体育館にいる時間を長く
つくるかというのが指導者に求められています。答えを出してはいけない。
答えを出すのは選手ですから。レールを敷いてあげるけど、歩くのは
おまえだよ、と。教育の原点のような気がします。
教育委員としてはスポーツの振興です。子どもの体力が無くなって
きた。「30・3・3(運動を30分間週に3回3ヶ月続ける)」
運動を奨励したい。
聞き手は共同通信編集委員東谷隆介
具志堅幸司 日体大助教授 1956年生まれ大阪清風高から日体大へ
進み、体操競技のエースに。84年ロサンゼルス五輪では個人総合つり輪
で金。全日本選手権は個人総合4度優勝。
日体大助教授 03年10月から神奈川県教育委員。
05年4月 日本体操協会の北京五輪男子強化本部長に就任する。
終わり