「メダル力を育てる2」
長所伸ばす一貫指導 部活から「クラブ」主導へ
「アテネ五輪の体操に続き、北京で復活しそうな競技は?」。この質問を日本
オリンピック委員会(JOC)の強化担当者にぶつけると、返答は「卓球」。
人気者の福原愛(16、ミキハウスJSC)だけではない。男子も世界ジュニアランク1位の
岸川聖也(17、仙台育英高校)、昨年の全日本選手権一般の部でベスト16の
水谷隼(15、青森山田中)らメダリストの卵がずらり。「黄金の世代」と期待されている。
岸川と水谷はともにドイツに卓球留学し、世界最高峰のリーグ、ブンデスリーガで腕を磨く。
先日の世界ジュニア選手権(神戸)は二人で組んだダブルスで優勝した。
幼年時から年齢別の大会が盛んな卓球はよく“天才”が登場する。だが、
「小学時代は強い子が、うまく育たない問題があった」と日本卓球境界の前原正浩強化
副本部長。そこで、2001年に小学生のナショナルチームを発足させ、さらに有望選手を
海外に派遣する育成計画を立てた。ドイツでは協会が契約するクロアチア人のコーチ、
マリオ・アミジッチ氏が指導する。
日本のアスリートは一般的に、学校の部活動で本格的にスポーツを始め、高校、大学や
実業団と進んで五輪を目指すイメージがあった。だが。アテネのメダリストたちはどうか。
両親も五輪で戦った二世選手や、近所のクラブや教室、道場などで幼いころに競技を
始めた選手が驚くほど多い。
8人の柔道金メダリストで、学校の部活動で柔道と出会ったのは女子78キロ超級の
塚田真希(総合警備保障)だけ。以前からクラブ選手が強かった水泳は、
メダリスト7人のうち、女子自由形の柴田愛衣(鹿屋体育大)以外はクラブを
練習の拠点にしている。その柴田も水泳を始めたのは地元のスイミングクラブ。
男子平泳ぎの北島康介を指導する平井伯昌コーチは「アテネは(日本のスポーツが)
学校からクラブの時代へ変わったことを示した五輪だった」と振り返る。
水泳は子供のおけいこの定番。「健康のために」泳ぎを始めた子供たちが、優秀な
コーチに才能を見出される。北島は5歳で東京SCで水泳を始め、14歳の時、
平井コーチの目に留まった。セントラルスポーツのような大手クラブは、全国の系列
施設に所属する選手を集めて競わせ、目立った選手を中央へ呼ぶ。男子背泳ぎの
森田智巳はそうやって世界への道が開いた。
大切なのは、才能ある子を優秀なコーチが長期的に育てることだ。「選手の
長所を伸ばすため、成長に合わせてコーチが個別に対応を変えていかないと、
世界では戦えない」と平井コーチ。
学校では1人のコーチが大人数の面倒を見て、卒業するとコーチも環境も
一変する。インターハイやインカレなど目先の結果を求めて、小さくまとまり
がちだ。
選手を育てる「一貫指導システム」の構築が世界と戦うための必須条件と
なってきた。水泳は民間クラブ主導で環境が整いつつある。サッカー日本代表
は世代ことに優秀な選手を集めて合宿を行うナショナルトッレセン制度を
確立、着実に世界に迫っている。
サッカーを除く団体球技といえば、なお学校スポーツが選手育成の中心。
大半のマイナー競技は選手発掘も学校頼みで、ジュニア選手の確保も
おぼつかない。
「主なアテネ五輪メダリストと競技との出合い」というリストに体操3名(他選手略)
塚原直也 金 両親とも五輪代表、父光男氏は金メダリスト
冨田洋之 金・銀 体操教室に8歳で通う
中野大輔 金 母親が体操選手、新潟のクラブに6歳から通う