「メダル力を育てる 1」
「勝ち組」に戦略あり 経営感覚ち密に生かす
今夏のアテネ五輪で日本は過去最多となる計37個のメダルラッシュに沸いた。
祝勝ムードも漂うが、競技団体の多くは相変わらずの資金不足に苦しみ、
企業のスポーツからの撤退も止まる気配はない。
好成績を次につなげるため、何に取り組むべきか。
「これが金メダルの価値ですかね・・・」。
アテネ五輪の興奮の余韻が残る八月末、あるテレビ局関係者がため息をついた。
ここ数年、アテネでの女子レスリングの大活躍を予測して、日本レスリング協会と太いパイプを築いてきた。
だが、この秋の女子ワールドカップ(W杯)中継に昨年と同額の百万円台の放映権料を提示したところ、
その二十倍近い金額で他局に契約をさらわれたという。
十月のW杯は初めてゴールデンタイムの番組となった。
アテネは日本の五輪スポーツの二極化を加速させた。
金メダルを獲得した競技はメディアの注目を浴び、もっと強くなるための資金が流れ込む。
一方、勝てなかった競技は資金不足でさらに弱体化が進む。
「来年度の強化費は三分の二程度まで減ることを覚悟している」(日本フェンシング協会)、
「外国人コーチを1人減らし、来年は海外遠征の回数を絞ることになるだろう」(日本ライフル射撃協会)。
日本オリンピック委員会(JOC)はアテネに向けて重点強化主義を貫いた。
国際大会の成績などで各競技を査定し、メダルが期待できる種目に絞って、
強化合宿や海外遠征の費用を優先的に与えた。
もくろみ通り、柔道、水泳、陸上、体操、レスリングの5競技だけで、
東京五輪に並ぶ金メダル16個を量産した。
だが、「勝ち組」は五輪で実施された28競技の一部に過ぎない。
全体に目を向ければ、浮かれている状況ではない。
アテネの成績は次の査定の材料にもなる。
メダル争いにも顔を出せない競技団体には「弱者はこのまま置き去りか」都の無力感も漂う。
JOC関係者は「勝つための明確な戦略もなく、
幹部がボランティア感覚や仲間意識で運営している競技は、もはや生き残れない」と話す。
アテネで男子が劇的復活を遂げた体操も四年前は「負け組」だった。
だが、シドニー五輪の後、日本体操協会の約30人の役員の半数以上が交代。
人事刷新が選手の足を引っ張っていた組織に改革を生んだ。
ジャスコ(現イオン)元社長の二木英徳氏が新会長に就任。
歴代会長はパトロンとして多額の寄付を期待されたが、
新会長はその代わりに企業人としての経営感覚を持ち込んだ。
二年前に作成された「アテネ五輪に向けての基本戦略(男子体操)」は、
企業の新規プロジェクトの企画書のようだ。
アサヒビールとキリンビールの業界トップをめぐる戦いを例に出して
「慣例との決別」「見切ること」の重要性をうたい、
現状の分析と課題、五輪本番と同じ器具を購入するなどの練習環境の整備を含めて
合宿、遠征などの具体的な戦略が続く。その忠実な実行が好成績につながった。
二木会長の側近として資金集めや組織固めに奔走してきた、協会の渡辺守成常務理事は言う。
「アテネはゴールではない。北京でもメダル争いをするには、これまでの十倍だって努力しないといけない」。
すでに選手強化と増収の一石二鳥を狙い、
来年以降、日本で新たな国際大会を開催する準備を進めている。
プロ野球の再編騒動で球団のビジネス感覚の欠如が浮き彫りになった。
だが、企業経営にも似たマネジメント能力が求められているのは、プロスポーツだけではない。
この国のスポーツ界全体の課題である。
【写真】体操ニッポンの28年ぶりの団体金メダルは綿密な戦略の成果でもある
(アテネの団体金で表彰台立つ6人の写真。ブーケ掲げてる。)