以前、人家から相当離れた山中で数回夜戦を行った。
月明かりが、とても明るいスナイパー好みの夜だった。
数戦終えて小さな空き地で小休止してると、そこいらに
いそうな中型犬が現れた、10mくらい距離を置いて近づ
こうとしないが、菓子とかを投げると5mくらいまで寄っ
て来るようになった。
やせ細った犬はよくよく見ると犬ではない綺麗な狐とわ
かったが、珍しいなくらいにしか思わなかった。
さあ開戦となり、流れ玉が当たってはと、その狐を追い
払ったその時・・・私を含めた数人がしっかり見た。
それまでダラリと垂れ下がっていた、
その狐の尾は1本や2本じゃない何本もあった。
(つづく)
631から
その狐は小気味良く飛び跳ねながら細い林道を横切り
林道の山側へ・・・ その間2度ほどこちらをふりむ
いた。 その2度目に低い声で鳴くと言うより唸り
声のようなものが聞こえた。低い低い声だった。
私は「チガウナ」と聞こえたが他の者は「チガウ」とか、ある
者は「コレデハナイ」と聞こえたと後でわかった。
皆は、誰かが今の狐おかしいというまで、今自分が見
た光景が目の錯覚と思いこんでいた。
そして、俺も俺もと今見た光景が現実とわかり、即刻
撤収を止める者などいなかった。
(つづく)
632から
話は前後するが・・・
この場所は3週間ほど前に下見に来ていた。
もちろん昼間、といっても早朝だった。
林道脇に車を止めて、仲間とこのあたりならと
話しているとジムニーが2台凄い勢いでやって
きた。私の車が邪魔だったので直ぐにどけ様と
すると・・・「こんなとこでなにしっとるん
じゃー」「さっさとどけんかー」っと散弾銃を
構えたおっさんが降りてきた。両車の後部には
猟犬が何匹も・・・ゲーマーがおもちゃのエア
ガンでも一般人(その時は平服)に見せない様
気を使うのにと思ったが、かかわりたくないの
で、ぺこぺこしながら車をわきにどけると2台
は、また凄い勢いで走り去った。
仲間となんだあいつらは、などと話していると
遠くで「バンッ」「バンッ」と散弾銃の音と犬
の鳴き声・・・その時ここは夜戦のみというこ
とになった。
(つづく)
633から
そんな出来事もそろそろ忘れかけていた数週間後
私は新聞記事を見て背筋が凍った・・・あの夜以上
に怖かった。
その小さな新聞記事には狩猟中仲間を誤射、
さらに誤射した加害者が直後に猟銃自殺
とありました。まさにあの山です。
ごじつけと言われるかもしれないが・・・
あの狐は仲間か家族を撃たれ復讐しようと犯人
を探していたのではないかと・・・
似たような銃をもつ私たちが犯人かと近づいた
のではないかと・・・
もちろん新聞記事の2人があの2人かはわから
ない。
もちろん二度とあの山にはいきたくない。
あの夜、狐をエアガンで撃つような馬鹿が私た
ちのチームにいなくて本当に良かった。
(おしまい)