Combat☆Magazine Part3

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642CM 99年5月号より
 3月某日、イチローさんが緊急来日し、同ファミリーの切り込み隊長的
存在のトモ・ハセガワとともに小社を訪れた。

イチローさんは最近ナイフに興味があるとのことなので、急きょナイフに
詳しい僕、辛口ムーチョが呼ばれることとなったのだ。
 「はじめまして、イチローです。会えてうれしいです。」
 いつも誌面で凄い拳銃を撃っている姿しか見ていない僕は、その穏やかな
口調と親しみやすい姿勢に面食らってしまった。

 その後、イチローさんはアメリカでのナイフ事情や、人気ナイフなどを
見せつつ、熱くナイフについて語ってくれた。それは単に、自分が好きだから
というものではなく、日本のナイフシーンまでも考えての意見であり、
短いながらも非常に有意義な時間であった。
643CM 99年5月号より:03/07/09 20:13
そして、ナイフ談義も終わり一段落した頃、それは突然やってきた。
 「わし、関節技とかも詳しいんじゃよ」
イチローさんは何の気なしにいった。

 関節技?プロレスの?突然の話題転換に戸惑ってると。
 「そういうの大好きでしょ。イチローさん、辛口ムーチョはキックボクシング
やってますからね。サンドバック、バシバシ叩いてますから」
トモさんが突然話し出した。

 「タイ式?」
言葉が途切れると同時にイチローさんが聞いてきた。
 「いえ、空手の道場なので、日本式といいますか、空手式といいますか・・・・・・」
 
 「ちょっと見せてみなさい、こっち着て。さあさあさあ」
イチローさんは既に立ち上がっている。そして何よりも、今までのコンバットや
ナイフ談義の時より目が輝いていた。
644CM 99年5月号より:03/07/09 20:14
「イチローさんは古武道やってたからね ハート」
トモさんは嬉しそうに付け加えた。
 古武道?格闘技オタクの僕は一瞬に知識を巡らせたが、
聞き慣れないその言葉にさらに戸惑ってしまった。

 「実は今、スノボーで肩を痛めていまして左手が上がらないんです」
怪我の巧妙(原文ママ)とはいえ、これはいい断りの理由だ。しかし・・・・・・、
 「さあ、早く早くぅ〜」
イチローさんの耳にはまったく届いていない。それどころか、
軽く飛び跳ねて準備運動までしていいる。

仕方がないここまでされて断っては、相手に失礼に当たる。ここは喜んで
胸を借りなくては。緊張しつつも意を決して、イチローさんの正面に立った・・・・・・。
645CM 99年5月号より:03/07/09 20:15
 「スキがない」
言葉でいってしまえば簡単だが、まさしくそのとおりだった。
イチローさんの目もその時点で、格闘・武道家のそれに変わっていた。
イチローさんがサウスポーのスタンスだったこともあるが、それを
省いても力の差は歴然だ。それは向かい合った者同士だけが
感じ取れるものだ。

 「さあ、打って来なさい」
イチローさんの優しい口調が響いた。
 「サウスポーには右を打ち込め」
これは鉄則だ。左手は痛いが右は使える。左のフェイントから右の
ストレートを放った。ほぼ同時にイチローさんのローキックが
左足に飛んできた。寸止めだった。イチローさんの右足は、
右パンチを打ち体重の乗った僕の左足、膝上の急所をピタリと
捉えていた。見事だった。もちろん僕のパンチは空を切っていた。
646CM 99年5月号より:03/07/09 20:15
その後、イチローさんが見せてくれた左ストレートは究極の
寸止めで、イチローさんの拳と僕の唇の間で、静電気が
パチンと弾けたほどだった (嘘のような事実)。

 イチローさんは射撃やカメラと同じく、武道家としても
マスタークラスだったのだ。今思うと落ち着いた物腰や語り口は、
真の武道家たちの持つ雰囲気に通ずるものがあった。
本当に強い男は優しいのだ。
 「リングには上がってるの?」
イチローさんが聞いて来た。

 「いえいえ、とんでもないです。たしなむ程度です」
実はここ最近、サーフィンやスノボ、夜遊びなどで練習を
怠っていたのだ。ちなみに高校では柔道部でした、などと
これ以上口が裂けてもいえない。
647CM 99年5月号より:03/07/09 20:19
その後、イチローさんは丁寧に古武道のポイントを教えてくれた。
今、あらゆる分野の人たちから、イチローさんにオファーが来るという。
それは技術面もさることながら、人間性にもよるものだろう。

イチロー兄ィと世間で愛される所以が、今回限られた時間だったが
感じ取ることが出来た。皆さんも機会があればイチローさんに触れてみよう。
                                     〔辛口ムーチョ〕