濯符「東方シリーズ総合スレッド 5190/5190」
2.記号を食べる現代人――情報の不足
1948年に中交総社(翌年サンシー殖産に商号変更、
1958年12月に日清食品に商号変更)を設立した安藤百福が、
大阪府池田市で世界初の即席めんを開発し(1958年8月25日)、
大阪市東淀川区の田川工場でチキンラーメンを量産し始めた頃、私は4歳であった。
それほど時間を経ることもなく、我が家にもインスタントラーメンが登場したのを覚えている。
その後、「インスタントぜんざい」とかも我が家に登場したが、
私は「インスタント」時代とともに成長してきたのかもしれない。
藤子不二雄の『おばけのQ太朗』に登場する小池さんほどではないにしても、
インスタントラーメンをずいぶんたくさん食べてきたと思う。
最近、コンビニに行って「またやられてしまった」と思うことがよくある。
足がついついインスタントラーメンのコーナーに向いてしまい、
ポップに「新発売」「新商品」「店長おすすめ」といった文字があると思わず手を伸ばしてしまう。
当初は乱立状態であったインスタントラーメン会社は1970年前後に淘汰され、
その後、単品大量生産の時代から多品種少量生産の時代へと時代が変化し、
商品サイクルが極端に短期化するのに呼応する形で、
こうしたポップが登場してきたように思う。
しかし、そこにはどれほどの情報が存在するというのだろうか。
「新発売」「新商品」には、読み取るべき情報としては「新」しかない。
「店長おすすめ」にしても、店長の舌がどの程度のものであるのか、
どのような点がおすすめなのか、誰に対するおすすめなのかといった情報が欠落している。
こうした情報の極端な欠落にもかかわらず、
そうしたポップが有効なのは(J・ボードリヤール風に言えば)、
私たちが、相互に差異化されている物/記号を消費しているからである。
「新商品」は「新」というだけで従来の商品から差異化されており、
「店長おすすめ」はおすすめでない商品から差異化されている。
もちろん、こうした差異化は、ポップにだけ見られるのではなく、
「季節限定」「地区限定」「○○増量」といった形で商品のラベルにも見られるし、
こうした状況は何もインスタントラーメンに限ったことではなく、
身のまわりの多くの食品・食材が、今や、物/記号と化している。
私たちは、どうやら記号を食べているようである。