女神転生バトルロワイアル議論・感想スレ 四日目

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573R-0109 ◆eVB8arcato :2009/06/01(月) 20:42:08 ID:7Draw4xJ0
どうも、こんばんは。
「バトルロワイアルパロディ企画スレ交流雑談所(以下交流所)」の方でラジオをしているR-0109と申します。
現在、交流所のほうで「第二回パロロワ企画巡回ラジオツアー」というのをやっていまして。
そこで来る6/7(日)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

交流所を知らない人のために交流所のアドレスも張っておきます。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1243687397/ (したらば)
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html (日程表等)
574君に忠、友に愛 1/8:2009/06/06(土) 20:27:22 ID:f4O9niQp0
 うなりをあげて飛んでくるデスクやらプリンターやらを横っ跳びに避けながら、ヒーローはすばやく頭を回転させた。
 ここはなんの変哲もないオフィス。正式な出入り口こそひとつしかないが二方向が道路に面しており、その両方の壁に
大きな窓がついている。というより、コンクリートの壁よりも窓のほうが面積が広い、と言ってもいいぐらいなものだ。
だから、ただ逃げるというだけならばなにも悩むことはない、窓から飛び出せばいい。現に、目の前で暴れている命なき
侵入者も、正式な入り口ではなく窓を割って入ってきたのだから。1階だから飛び出したあとの着地の心配もいらないし、
道路に面しているからそのあと通る逃げ道にも不自由はない。
 逃げること自体は難しくない。困っているのは、逃げた後のことだった。馬鹿正直にまっすぐ逃げるだけでは、追われ、
そして追いつかれる。それは分かりきっていた。なにせ相手は『元気な死体』だ。いままた目の前で、相応の役職のある
人物が座っていたと思しき立派なデスクを強引に持ち上げ、振り上げ、投げてきたことからも分かるように、その単純な
腕力はもはや人間の域を軽く超越している。当然、走力を含めた脚力においてもそうだろうし、持久力においても同様だ。
そのことは、もう既に一度、別の死体に思い知らされている。
 逃げるだけでなく、逃げ切る必要がある。それにはなにか一工夫必要なのだ。それをヒーローは必死に考えていた。
「おい、どうするッ!」
 デスクトップパソコンの本体とモニターの連続コンボを転がってかわしながら、相棒の大道寺伽耶(の中に宿る熟練の
悪魔召喚師)が叫んだ。彼女(なのか彼なのか結局訊きそびれてしまった)も現状は理解している。この「どうする」は
質問ではなく、早くなんとかしろ、のメッセージだった。さっきからわざと大きな動きをして囮の役目を引き受けている
のだが、ゾンビが行っている「モノを投げてくる」という攻撃は同時に「逃げ道に障害物をばら撒く」という副次効果も
発生しており、かわすのもだんだんと厳しくなってきている。
 考えた。破邪の力のあるもの。清めの水や塩があれば。しかし、民家ならともかく、ここはオフィスだ。
 考えた。金属。銀、あるいは鉄でも多少は効果があるかも知れない。……いや、ダメか。さっきからヤツはスチールの
デスクをものともせずに放り投げている。
 考えた。なにか、時間を稼ぐ方法。手持ちの道具。武器。GUMP。仲魔。周囲の状況。考えに考え抜いた。
「……これしか、ないか」
 つぶやきながら、GUMPを開く。本当は結構前に思いついていたのだが、消費するリソースが大きすぎるため、できれば
避けたいと思っていた方法だった。しかし、出費を惜しんで命を落とすのでは意味がない。そのへんの損得勘定は、荒廃
した東京の街で様々な相手(悪魔に限らず、したたかな人間たちとも)と交渉してきたなかで、かなり鍛えられていた。
これ以上考え続けていても他の妙案が思いつくとも思えない。ここは妥協するしかないだろう。
 すばやくコマンドを入れる。最後のキーを押さずに止めて、また別ファイルを開いた。それをまた繰り返す。
「なにか思いついたのか」
 飛んでくるファイル類を回避しつつヒーローの側に近寄ってきた伽耶が言った。先ほどの仮眠のおかげか、その表情は
まだ余裕がある。体力気力ともに十分、とまではさすがに言えなくとも、活動に支障はない、というところか。
「ああ。エストマは使えるかい」
 とヒーローはGUMPの画面を見ずに操作しながら伽耶に聞いた。ほんの数時間で、通常のPCとは操作感が大幅に異なって
いるGUMPを軽やかに使いこなしているのは、ヒーローのヒーローたるゆえんというところだろう。
575君に忠、友に愛 2/8:2009/06/06(土) 20:28:20 ID:f4O9niQp0
「使えないが、似たようなことはできる」
 飛んできた鉄製の鉛筆立てを近くにあった電話帳で打ち落としつつ、伽耶は叫ぶように答える。今の状況、すでに敵に
発見されている場面で退魔の技を使っても手遅れで無意味だ。それはお互いに分かりきっていることで、それでも敢えて
ヒーローはエストマが使えるかと聞いたのだ。ならば何か考えがあるのだと判断して、伽耶は反論を控えて質問に答える
だけにとどめる。それぐらいのコンビネーションはとれる程度には、ふたりの息も合ってきていた。
「なら合図と同時に頼む。防御は僕がやる」
「なに?」
「必要経費だ、ちょっと痛いのはガマンしてくれよ?」
 ニヤリと笑ってヒーローは言って、ゾンビへ電話の子機を投げつけた。注意をひきつけるための形だけの反撃だ。
 子機の仇とばかりか、親機が強烈な勢いでまっすぐ飛んできた。ヒーローと伽耶は左右に散るようにしてそれを回避。
ヒーローは、さらに物を拾っては軽く投げ続けた。伽耶はその行為を、自分の術のための時間稼ぎだろうと解釈し、軽く
精神を集中した。体内のMAGの流れを操作し、両手に集める。召喚術が本職であるため魔法は得手ではないが、術の応用で
真似事ぐらいならできる。実際の魔法より威力も速度も落ちるとはいえ、それでも数秒もかからず術は完成した。
「いいぞ」
「ああ、むこうもいいみたいだ」
 伽耶の言葉に、ヒーローが応える。その内容の意味が分からず、伽耶は疑問に思いながらゾンビの方を見た。ばきばき、
と派手な音を立てながら、デカいファイル棚を引き抜いている。
「そこにいろ伽耶」
 言いながら、ヒーローは大げさな動きで伽耶の側へと寄ってくる。
「おい馬鹿、まさか」
「痛いのはガマンしてくれって言ったろ? 防御はするさ」
「なんてこと考えるんだ、お前は」
 伽耶はあきれて言った。この男は、あのゾンビの、あの膂力から放たれる、あのサイズの本棚の一撃を、あえて食らう
つもりだ。
「コレ頼む。このキーひとつ押せばいいようになってるから、それと同時にエストマよろしく」
 GUMPが伽耶に投げ渡された。伽耶は反論しようと思ったが、しかしゾンビが投擲体勢に入っているのが見えてしまった。
「くそ、本当に大丈夫だろうな?」
 一言だけ、嫌味な口調で尋ねた。ヒーローの作戦は上手くいきそうなのか? GUMPの設定は正確なのか? あの本棚の
一撃をきちんと防御しきれるのか? 本当に大丈夫なのか、ひとつずつ聞きただしたいところだが、時間がない。
「大丈夫さ」
 力強い答えが返ってきたので、伽耶はそれを信じることにした。
576君に忠、友に愛 3/8:2009/06/06(土) 20:30:44 ID:f4O9niQp0
 死者が再び動き出した場合、たいてい生前の性質が反映されるものである。今回もその例外ではなかった。
 彼は文弱の小心者であった。攻撃的性格を持ってはいたが、それの発散方法は、常に自分よりも社会的身分が低い者に
対する言葉による攻撃、要するにネチネチとしたイヤミであった。
 そんな彼だから、生ける屍となって身体能力のすべてが開放された今でも、自身の肉体による直接的な攻撃をしようと
いう発想はあまりなかった。武器を使う。だが武器といっても本当に高度な武器は扱う技術がないから単純かつ原始的に
そこらへんにあるものを手当たり次第に投げる。とにかく投げる。相手が動かなくなるまで投げる。
 分厚いファイルを投げた。避けられた。悔しい。もっと投げよう。手を伸ばしたが、もう本棚にファイルはなかった。
しかたがない。ではこの本棚を投げよう。強引に持ち上げる。こんな簡単なことなのに、なんだか少し嬉しい気がした。
昔、ショクインシツのシリョーセーリをしてたときに、こういうことが出来たらいいなぁと空想してたような気がしない
でもないが、いったいなんのことなのか、いつのことなのかは思い出せなかった。まあ、別にどうでもいいことか。
 強引に、投げた。派手な音がする。ガラスが割れ、鉄板がへし曲がり、紙が舞い散り、衝撃と振動が天井や床から埃を
空中に舞い上げて空気を汚す。思わず、口を覆って両手をその前で扇ぐように振った。どういう意味のある行動なのかは
覚えていなかったけれども。
 しん、と静かになった。先ほどまであれほど元気に跳ね回っていたふたつの気配がなくなっている。
「もしや、死んだのか? 若い者がそんな情けないことでどうする!」
 呼びかけた。呼びかけにしては意味がいまいち通っていないことには当然自覚はない。が、別にどうでもいいことだ。
 近くにあったイスを手に取り、本棚の影へと向かう。死んでいるならそれを確認して、そして若い血潮と新鮮な肉体を
堪能しようという腹だ。本人としてはそっと近づいているつもりだが、足がもつれたり力加減を誤ったりで随分と派手な
音を立てているのはゾンビゆえのご愛嬌というところだろう。なんだかんだで、本棚の前にたどり着く。
「グァァァァ!!」
 その瞬間を狙ったように、陰から巨大な白い影が飛び出した。思考こそ鈍っているものの、本能的な反射速度は非常に
鋭くなっているうえに、もともとの小心な性格ゆえに何があっても対処できるよう警戒を怠っていなかった彼は、不意を
討たれたにもかかわらずイスを盾にして攻撃を防いだ。動体視力も高まっている目は、しっかりと影の正体を捉えている。
 背に黒い影をふたつ乗せた、巨大な白い魔獣。わき目も振らず、まっすぐに遠ざかっていく。
 逃げる気だ。そう気づいた彼は、不意に激しい苛立ちに襲われる。逃げるとはなんだ。希望にあふれる若い命が、少し
困難に直面しただけで立ち向かわずに逃げるとは不届き千万というほかはない。そんな腐ったミカンには徹底的に指導を
くれてやらねばいかん。それがこの私の使命なのだ。
 屍鬼の例に漏れぬ混濁した思考と衝動的な感情に突き動かされ、彼は走り出した。それでもちゃっかりと投擲に使える
武器になりそうな手頃なものを引っつかんでいくのは忘れないあたりが彼らしいところで、天の神をそれを祝福している
のか、偶然にもその手頃な大きさの鈍器は彼と因縁浅からぬ電動ドリルだった。
577君に忠、友に愛 4/8:2009/06/06(土) 20:33:09 ID:f4O9niQp0
 逃げる影を、追う。頭の中にあるのはそれだけだった。逃げていく影の背中に見えるふたつの姿に、なにか先ほどまで
見ていたものとは違うような違和感を感じないこともなかったのであるが、心を燃やす激情と、体の底から溢れる力とが
その思考を押し流していく。ただ、走る、走る、走る。四本の足で駆ける巨獣よりも速く走る。その影が見る見る大きく
なっていく。その背にしがみつくふたつの影の表情……あざ笑うかのような歯を剥き出した顔もはっきりと見える。
 なにを笑うのか。激情がふたたび体を支配した。走る姿勢から、強引に上半身を捻って、また逆方向に激しく振った。
風を切り裂く音とともに電動ドリルが宙を飛び、巨獣の後ろ足に命中。めしゃ、という痛々しい音とともにへし曲がった
足は、その重量と速度とを支えきることが出来ずに宙を泳ぐ。バランスが崩れた巨獣が地面を転がる。背にしがみついた
影が振り落とされて宙へと放り出される。彼にはそのすべての様子がはっきりと見て取れていた。
「痛ったいわぁもう! ホンマいやな子やねアンタってゾンビは! なんやその神父服、ちいとも似合うてへんよ!」
「まったくだぜ、このバチ当たり野郎! いいかげんあきらめやがれ! ギャハハハ!」
 ふたつの影が口汚く罵ってくる。それを聞いて、彼のもともとボロボロに朽ち果てかけていた理性の糸は完全にキレた。
ついに武器に頼ることもなく、肉体の耐久力を省みず、全力で走り、全力で拳を振り上げ、振り下ろす。
「暗黒ヤング伝説ぅぅぅ!」
 もはや意味もわからぬ掛け声。振り回した拳は軽やかに避けられ、地面をえぐり建造物を破壊した。その反動で自分の
両方の拳も、肉が裂け骨が砕けた酷い有様になっていたが、そんなことはもはや彼にはたいした問題ではない。あるのは
殺戮の欲求、ただそれだけだった。
「くぉぉぉのバぁぁカチンがぁぁぁ!」
「あひゃ〜! ヒーローちゃんコレこのままだとちょいとマズいんちゃうん?」
「聞こえてんだろヒーロー! 早く回収しやがれ、殺す気かコラぁ!」
 ふたつの影が逃げ回りながらわめく。それを聞き、なぜかまた彼は意味不明にヒートアップする。
「私語は慎まんかぁぁぁ!! 立場がわかっとるのか貴様らはぁぁぁ!!」
 コンクリートにヒビが入るほどの強い蹴りで宙に飛び、ふたつの影へと拳を繰り出さんと踊りかかる。と、その視界が
突然回転したと思う間もなく、彼は頭から地面に墜落してそのまま激しい勢いで二回転ほど転がった。
 視界の端に、軽やかとは言えない様子で着地する白い巨大な影が見える。あの獣に叩き落されたということか。
「あっ、パスカルちゃん、助かったわぁ、おおきに!」
「おいおい、その足大丈夫かよぉ? おいヒーロー、マジやべえって、早く回収しろ!」
 あのふたりはまだ私語を慎まんのか、と見当違いな怒りを覚えつつ、彼はゆらりと立ち上がる。額はぱっくりと割れ、
顔面の半分は見事に陥没したうえにコンクリートとの摩擦でジャムに変わっていたが、その程度ではネクロマのゾンビは
止まらない。痛みも死も超越した生きる屍は、その心に燃え上がる怒りと殺意が原動力だ。むしろ先ほどまでより怒りの
パワーがぐんぐん溜まってきて、より元気になっているといってもいい状態だった。
「あっ、来た来た来よったでぇ! ほなサイナラや〜ゾンビーシンプー」
「ッたく、さすがのオレも今回ばかりは参ったぜぇ」
 ボウッ、と音がして、ふたつの影が光に包まれ……いや、違う、ふたつの影そのものが光に変わって消えていく。
 いったい、なんだ、なんだ? 混乱している彼の頭に、巨獣の前肢の一撃が襲い掛かった。
578君に忠、友に愛 5/8:2009/06/06(土) 20:35:37 ID:f4O9niQp0
 わざと大きな本棚を食らうことで、その影に隠れる。それと同時にエストマで気配を消し、さらに囮の仲魔を走らせる。
先ほどヒーローが行なった作戦とは、平たく言ってしまえばそれだけのことだった。単純ゆえに効果的ではあるものの、
決して確実でもないし安全でもない、非常に危うい賭けでもあったのだが、なんとかうまくいった。
 仲魔を走らせた方向とは逆方向に向かって走りながら、ヒーローはRETURNのコマンドを入力した。囮にしたとはいえ、
大事な仲魔を捨て駒にする気などはなかった。かなり離れた距離でのRETURNなので、悪魔の魂だけの帰還になってしまい、
その肉体を形作るのに使ったMAGは遠くに捨てる形になってしまう。MAGにやや不安がある現状ではやりたくなかったが、
あの局面を切り抜けるためには仕方がない出費と諦めるしかない。
 RETURNを実行。数秒経ち、画面上の悪魔の名前の色がひとつ、ふたつと変化した。……が、肝心のあとひとつの名前が、
いつまで経っても薄暗い色のままだ。
「……どうした、パスカル? RETURNだ、戻って来い」
 ヒーローはTALKコマンドを開いてケルベロスに話しかけた。アズミとコボルトは数秒で帰ってきたのにケルベロスだけ
遅いのは、どう考えてもおかしい。
《断ル》
 GUMPから野太く力強く返ってくる。有無を言わさぬ調子は、なにか悲壮な決意を感じさせるものだった。
「なに言ってるんだパスカル? 早く戻って来い、勝ち目はない、殺されるぞ」
 ヒーローは慌てて言い募った。通信画面に表示されているケルベロスのSTATUSが嫌でも目に入ってしまう。左後ろ足の
損傷がひどい。この状態では、走って逃げることも、まともに戦うこともままならないはずだ。それなのにケルベロスは
自分の意思であの場にとどまり、戦うことを選んだ。それは、つまり。
《ソノ台詞ハオ前ニ返ソウ。早クモット遠クヘ逃ゲロ、ソウ長クハ時間ヲ稼ゲン》
「パスカル、お前、まさかっ……」
 足をひどく損傷した自分は、仮に帰還したとしてもその後はお荷物になるだけなのだから、せめてここで最後の働きを
しようとでも考えたのか。賢いパスカルらしい判断ではあるが、ヒーローには許容しがたい考え方だった。
「駄目だパスカル、そんなっ……」
《オレサマハ強イ男ガ好キダト言ッタハズダ。失望サセテクレルナ》
 ヒーローの言葉をさえぎるようにして、ケルベロスが低く呻った。非情の判断をしろ、と言っているのだった。
「自分を犠牲に他人を守る強さ」だけではなく「他人を犠牲に自分が生き残る強さ」も荒廃した東京で生き延びるために
必要だったわけで、そういう強さが自分に欠けているとは思わないが、しかしそういう強さを自分があまり好んでいない
というのも事実ではあった。だが、この狂気の街では、むしろそういう非情な強さのほうが求められているのは明白で、
ケルベロスは、そういうヒーローの心の迷いに気がついていたのかもしれない。だからあえて、残った。
 逃げる時間を稼いでくれればありがたい、と冷静な計算をしている自分がいる。パスカルの意思を尊重するべきだ、と
悟ったようなことを考える自分がいる。そんな勝手なことばかり考える自分の心とはまた別に、手は勝手にGUMPを操作し、
強制帰還の入力を何度も何度も繰り返していた。Command - Return … Boycott。何度行っても、命令は拒否される。
579君に忠、友に愛 6/8:2009/06/06(土) 20:36:53 ID:f4O9niQp0
「パスカル」
《クドイゾ》
「でも」
 なおも言い募ろうとするヒーローの肩に、伽耶の手が置かれた。
「……いい仲魔を持ったな」
 過去形で語る伽耶の言葉を聞いて、ヒーローはすべてを悟った。GUMPのキーを連打していた指が止まる。
「……ありがとう、パスカル」
 ぽつりと、言った。言葉でねぎらうことしかできない自分の無力がつくづく情けない。ヒーローは袖で目と頬を乱暴に
ぬぐう。袖がしっとりと湿ったのは、きっと気のせいだ。気のせいでなければならない。
《……サラバダ、ヒーロー》
「違う、そうじゃない」
 パスカルの重く冷たい別れの言葉をさえぎって、ヒーローは明るく言い直す。
「また、会おう」
《……アア。マタ会オウ》
 ケルベロスが答えた。嬉しそうな、楽しそうな、そんな明るい声だった。
《アオオーン! 我ガ名ハ地獄ノ番犬ケルベロス……否、ヒーローガ忠犬パスカル! 我ガ主ノ元ヘハ行カセンゾッ!》
 力強い雄叫びを最後に、通信は途絶えた。ケルベロスが意図的に通信を遮断したのだろう。その最期を、主に聞かせたく
なかったのだろうか。誇り高い彼らしい行動だ、とヒーローは思って、また袖で目をぬぐった。
「うらやましいな」
 ぽつりと伽耶がつぶやいた。召喚師としての本音だろう。命令に背いてまで犠牲になることを選ぶほどの忠誠は、単なる
契約だけでは得られることはないだろう。それだけの強い絆を仲魔との間に結ぶというのは、召喚師なら誰でも一度は夢に
見ることだった。
「ああ。自慢の仲魔さ」
 彼は珍しく謙遜せずに胸を張って答える。もう目はぬぐわなかった。いつまでもめそめそして自慢の仲魔に恥をかかせる
わけにはいかないのだ。強い男にならねばいけない。
「さ、行こう。パスカルの意思を無駄にするわけにはいかない」
「ああ、そうだな」
 伽耶が胸元から木製の筒を取り出し、念じてかざした。緑色の光が巻き起こり、大きな鳥――霊鳥ホウオウが姿を現す。
「二人乗りは厳しいかも知れないが、少しの距離でいいから頑張ってくれよ」
 しぶしぶ、といった様子でホウオウは頭を下げて背中を明け渡す。これぐらいの対応が悪魔としては本来正しい姿なのだ。
やはりケルベロスは特別な存在だった。そしてその特別な存在がいなくなったことは、小さからぬ損失だ。
「悪魔が出るところで、戦力の建て直しが必要だな。それとまた拠点を作って……」
 ホウオウの背中に乗ってビルの合間を縫うように低空を飛びつつ、ヒーローは地図を片手に伽耶に話しかけた。
(ビルを飛び越えるような飛行はホウオウの体格と体力的に厳しいし、そんなに目立つ飛び方をする必要もないと判断した。
なお、あえて飛行して移動しているのは、足跡やニオイで追跡される可能性があるかもしれないと考えたためである。)
580君に忠、友に愛 7/8:2009/06/06(土) 20:39:00 ID:f4O9niQp0
「目をつぶっていてやる」
 伽耶が急に違うことを言い出した。
「なにが?」
「耳もふさいでおこうか?」
「だから、なにがだよ」
「無理はするな、と言っているんだ」
 ぶっきらぼうな言い方でなんだかよく伝わってこなかったが、伽耶が「泣きたいなら泣いていいぞ」と言っているのだと
しばらく考えてヒーローはようやく理解した。
「別に、大丈夫だよ」
「本当にか?」
「ああ。僕は強い男だからね」
 強がりでもなんでもなく、ヒーローは自然に言い切った。そのつもりだった。
「……英雄ってのも、楽じゃないな」
 伽耶がヒーローの顔から目をそらしながらつぶやく。
「……ああ、まったく」
 また袖で目をぬぐいながら、ヒーローは答えた。だがその目の奥には、決して消えない強い光があった。

【時間:午後0時】

【ザ・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:全身に軽症 軽度の疲労
武器:鉄パイプ、ガンタイプコンピュータ(百太郎 ガリバーマジック コペルニクスインストール済み) 虫のようなもの
道具:マグネタイト4700(だいぶ消費) 舞耶のノートパソコン 予備バッテリー×3 双眼鏡
仲魔:6体(全員正常、ピクシーのみ別行動中)
現在地:港南区方面路上
行動方針:伽耶の術を利用し脱出 戦力建て直し

【大道寺伽耶(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:四十代目葛葉ライドウの人格、軽度の疲労
武器:スタンガン 包丁 手製の簡易封魔用管(但しまともに封魔するのは不可能、量産も無理)
道具:マグネタイト4450(術で少し消費) イン・ラケチ  文様を刻んだ鉛筆×5 カッターナイフ
仲魔:霊鳥ホウオウ
現在地:同上
行動方針:ザ・ヒーローと共に脱出 戦力建て直し
581君に忠、友に愛 8/8:2009/06/06(土) 20:39:55 ID:f4O9niQp0
 胸の中、いや、全身にあふれかえった激情。おさまることを知らないそれが、彼の体を突き動かす。
 殺戮。彼が求めるものは、ただそれだけ。
 いや、正確には少し違う。命。熱い血潮。若さみなぎる生命力。欲しいのはそれだった。
 こんな汚らしい獣を叩き潰してもそんなものは手に入らない。そう気づいた彼は、ぐったりと動かなくなった白い巨体を
殴る作業を中断し、摩り下ろされた顔面を潰れた拳で軽く撫で、血に染まりところどころが破れた神父服を着なおすことも
せずによろよろと歩き出した。
 命。命の鼓動。こっちからそれを感じるような気がする。あくまで気だけど。
 なんの根拠もなく、彼はひとつの方向を目指してゆっくりと進んでいく。
 点々と血を垂らしつつ、死のニオイを撒き散らしつつ。


【反谷孝志(ハンニャ)@ペルソナ2】
状態:ネクロマ状態、記憶が曖昧、シドの服を着ている
   肉体の損傷は非常に激しいが活動にまったく支障なし
武器:なし(おそらくもう持てない)
道具:盗聴器(存在には気付いていない)
現在地:夢崎区路上
行動方針:とにかく殺す
582R-0109 ◆eVB8arcato :2009/06/07(日) 21:09:22 ID:E+meG4dc0
583ゲーム好き名無しさん:2009/06/08(月) 06:46:45 ID:Ycr0KFO00
おぉ、新作きてた!  パスカルがどうなったのか…  
このまま消えて欲しくはないんだが
腐ったミカンからの流れはww 
また続きが気になるな  書き手さん乙です!
584ゲーム好き名無しさん:2009/06/08(月) 23:37:44 ID:aw0Q87jn0
きてたぁああああ! 作品有難う!
パスカル、一度敵側になった後に味方になったりしないかな?
なったら嬉しいなぁ。
585R-0109 ◆eVB8arcato :2009/06/15(月) 00:58:23 ID:8x3T3EwS0
どうも、こんばんは。
先日のラジオが私の不手際と実力不足により中止にしてしまったので、リベンジ放送を7/5(日)から行いたいと思います。
ラジオアドレス等は>>582と変わりません。

宜しければご参加ください。
586ゲーム好き名無しさん:2009/06/28(日) 22:38:09 ID:GaoxyDxF0
保守
587R-0109 ◆eVB8arcato :2009/07/05(日) 21:07:55 ID:53paiz3v0
というわけで。リベンジ放送開始です。
>>582のアドレスからどうぞ
588ゲーム好き名無しさん:2009/07/13(月) 18:05:44 ID:mtFY6YvqO
こんな企画があったのか!
たまたままとめWikiにたどり着き、
そのまま時間を忘れて5時間も読みふけってしまいました。
キャラが一人一人立っていて、展開予測のななめ上を行く話が多いので飽きを感じませんでした。
すごく面白いです!

個人的には魔神皇とライドウがこれからどう動くのか楽しみです。
そしてネクロマをかけられたヒロコとダークヒーローの話はゾクっときました。
書き手のみなさん、面白い物語をありがとうございました。長々と失礼しました。
それにしてもなんで今までこんな面白いものを知らなかったんだ…自分。
589ゲーム好き名無しさん:2009/08/01(土) 22:25:22 ID:A+ra7hr50
うむ。まだ住民がいるなら折を見て何か書こうかな?
590ゲーム好き名無しさん:2009/08/01(土) 23:18:18 ID:crZHmgJE0
いるよー
好きなエピソードがありすぎて毎日どこかしら読んでるわw
書いてくれるなら嬉しすぎる!
591ゲーム好き名無しさん:2009/08/01(土) 23:41:56 ID:95PK42930
ここにもいます!
何度も最初から読み返してるよー 
続き期待してます!
592589:2009/08/04(火) 19:45:25 ID:IDqcDlRo0
おk。他の予約が終わってからになるだろうから、少し待ってね。
593ゲーム好き名無しさん:2009/08/04(火) 23:33:14 ID:Kw1GeJfT0
うおおおお
いつまででも待ってる!
594ゲーム好き名無しさん:2009/08/05(水) 01:07:17 ID:i3XA2ngy0
待ちます、待ちますよー!
ありがとうございます! 楽しみに待っています!
595野望 1/3:2009/08/08(土) 10:09:29 ID:zlU/TgUx0
魔女との合流を待つ間、氷川はしばしの休息を取った。
控え室に投げ出されていた安っぽいパイプ椅子に身を任せる。
一息ついたところで彼は時計に目を落とし、思案した。
10時20分。
魔女との合流までしばし時間があるが、そう長い間休んでいる暇は無い。
だからと言ってしばらくは闇雲に動き回ることも考えには無かった。
既に彼の中で一つの目的が定まってきていたからだ。
その為には魔女の協力が必須なのだから逸る気持ちを抑えてサマエルを見やった。
「氷川様、どうかなさいましたか?」
「……待つ。この行為は嫌いではない。だが時としてもどかしいものだな。」
「あの女のことでしょうか」
「そのこともある。だが…。」
氷川はそこで言葉を止めた。そしてもう一度サマエルを見やる。
そして小声で、まるで詩を謡うように呟いた。
「このスマル市と私の居た東京、何が違うか解るか?」
「どういうことでしょう」
「かつて人類が動物と変わらぬ時は弱肉強食の一部であった。
だが近代に入りその生態系ピラミッドは変貌し、単なる猿の進化系であった人類がその全てを掌握することになったのだ。
その鍵は言葉による情報だ。
東京という街はそれが顕著であり、情報に脆弱な者は全て振り落とされる。
サマエル、お前が降り立ったボルテクス界は東京とは違い、このスマル市と極めて近い。
かつて橘千晶が力こそ全てと言い放ち、高尾祐子が無様にも投げ出し、
挙句、人の身体に悪魔の魂を宿した少年が制した世界と極めて近いのだ。
……だが私はこのスマル市を受け入れるつもりは無い。」
「氷川様、それはどういうことでしょう。」
サマエルは大きな首をゆるやかに傾げた。氷川との付き合いは長いが、彼の思想には未だに不可解なところが多いのだ。
この悪魔は決して無能では無い。むしろ力も知能もそこいらの悪魔のそれを上回る。
ただ、氷川の脳裏に宿る考えが読めないだけだ。
おそらくサマエルだけではなく、魔女の元に付いているオセもそうであろう。
ただ、契約によって従っているだけならば気にする必要は無いのかもしれない。
しかしサマエルは氷川にそれ以上のことを望んでいた。
彼の思考を知るという、知的好奇心として。
596野望 2/3:2009/08/08(土) 10:10:43 ID:zlU/TgUx0
「サマエルよ、疑問に答える前に一つ頼みがある。」
「何でしょう。」
サマエルは自分の欲求を抑え、氷川の前に跪いた。
「私がこのスマル市に降り立った時、数珠が消えていた。ミクロ経典もだ。
肌身離さず持っていたのにも関わらず、だ。
その代わり少量だがマグネタイトを持たされていたのだが、
これは一種の賭けでもあるのだがこの“ゲーム”の主催者によって持ち物を他の者と入れ替えられたとも考えられる。」
氷川がそこまで言ったところでサマエルはようやく彼の考えが読めてきた。
それは途方も無い彼の野望と言っても差し支えは無い。
「氷川様…もしや!」
「“巫女”である高尾祐子は既に死した。その代役は私自身が見極める。
サマエルよ、お前には数珠とミクロ経典を探し出してきて欲しい。」
その言葉だけで全てを察することが出来た。サマエルの疑問に答えるにはそれで十分であった。
「氷川様……貴方はもう一度やり直すのですね、“受胎”を!」
「その通りだ。今度こそ静寂の世界を作り出す。
その為に必要なものはお前に探してきてもらう二つの道具と、情報、そして巫女。
巫女は私自身の手で見つける。お前とはしばしの別れになるが、次に会う時は…」
言いかけたところでサマエルが口を挟んだ。
「しかし氷川様、お一人では危険なのでは…?」
氷川は首を横に振った。
「按ずるな。そのためにこれを用意したのだ。」
そう言って氷川がちらつかせたのは肉片の詰まったおどろおどろしいいくつかの瓶である。
「人も悪魔もある一つの欲求には逆らえないものだ。それはすなわち食欲である。」
「なるほど。そこまでお考えでしたか。」
このような肉の詰まった瓶ではそう大層な悪魔は使役できないであろうが、
いかに低俗な悪魔でも合体を繰り返せばより強く生まれ変わることが出来る。氷川にはそれが可能であった。
「私は再び悪魔召喚の儀に入る。お前も我が指令に応えて見せよ。」
「御意!」
サマエルは氷川の顔を見やると開いたままにしてあった窓から飛び出した。
597野望 3/3:2009/08/08(土) 10:15:16 ID:zlU/TgUx0
<時刻:午前10時40分>

【氷川(真・女神転生V-nocturne)】
状態:左腕軽症
装備:オセの魔剣 鉄骨の防具
道具:死肉を詰めたビン×7 古めの腕時計
仲魔: 邪神サマエル
現在地:スマルTV二階控え室
行動方針:悪魔狩り 悪魔召喚  12時ごろに魔女等と再開 再び受胎
598ゲーム好き名無しさん:2009/08/08(土) 10:18:00 ID:zlU/TgUx0
すみません、氷川の行動方針に「巫女を探す」を追加しておいてください。
書き忘れてしまいました、ごめんなさい。
599ゲーム好き名無しさん:2009/08/08(土) 15:10:08 ID:tSpEsDae0
おお氷川だ! 俺が昔書いてた奴だなつかしい
シドへの対応に詰まってたらそのまま長い間放置しちまったんだよなー・・・
オツ! 後でゆっくり読むよ!
600ゲーム好き名無しさん:2009/08/08(土) 16:16:13 ID:tSpEsDae0
あ、それと細かいけど「ミクロ経典」じゃなくて「ミロク経典」ね
601ゲーム好き名無しさん:2009/08/08(土) 22:57:11 ID:LwokFNzD0
おおお新作だ!!!投下ありがとうございます!
氷川はやっぱりかっこいいなあ…
雰囲気とか話し方とかノクタン本編の氷川そのものって感じ。
サマエルやオセの氷川に対する忠誠心というか尊敬?もいいなあ。
巫女は誰になるんだろう。
やっぱ巫女って言うからには女性じゃなきゃだめなのかな?
またしても続きが気になる展開だ…ほんとに乙でした!
602ゲーム好き名無しさん:2009/08/28(金) 15:26:10 ID:XT8djEI90
保守
603ゲーム好き名無しさん:2009/09/16(水) 21:57:50 ID:fY3qVYMKO

頑張って
604ゲーム好き名無しさん:2009/09/29(火) 23:42:12 ID:QHFOWloOO
某所から来ました

過疎ってるな…
605ゲーム好き名無しさん:2009/10/03(土) 22:58:42 ID:zgUSXqvG0
新作に喜びつつ保守

書き途中な方々、これから書こうかなって方、いつまでも待ってるよー!
606ゲーム好き名無しさん:2009/10/04(日) 04:56:08 ID:a9x5myBRO
age
今から初読みしてくるYO!!
607蒼天翔ける日輪の 1/9:2009/10/05(月) 09:31:34 ID:B2e10xao0
 先に動いたのはJOKERと名乗ったライダースーツの男だったが、先手をとって最初に行動を行ったのはキョウジだった。
「来いっ、ニギミタマッ!」
 大声で叫びながら、青い御魂を呼び出す。COMPの中でDEADとなっていたのを、アキラのサマリカームで蘇らせたのだ。
御魂は特殊な合体材料としての存在意義の強い悪魔であって、そのものには戦闘力はほとんどないと言っていい。しかし
それゆえにあえてキョウジは戦力として呼び出すことを選んだ。
「全国の皆様こんにちはっ! すわっ!」
 軽妙な口調にあわせて、くるりと軽快な身こなしを見せる御魂に、JOKERと名乗ったライダースーツの男は一瞬身構え、
しかし足を止めることなく突っ込んできた。両手が顔の前面で交差され、攻撃を防ぐような構えを見せている。
 計算通り。御魂をこの場面で呼び出すのは、明らかにデビルサマナー同士の戦いとしてはセオリーに反する行為だ。
それをあえて行うことで、相手に深読みをさせることができる。キョウジはにやりと笑った。
(ただし補足しておかねばならないのは、ライダースーツの男――周防達哉が過剰な反応を示したのは、御魂の存在を
知らなかったゆえである。その意味ではキョウジの作戦は無意味ではあった。しかし結果として彼が意図したのと同じ
効果は得られたわけであるから、彼の悪魔使役術の巧みさが否定されるわけではない。)
 キョウジとアキラは同時に左右に散る。防御のために視界を犠牲にした相手は、反応が間に合わないはずだ。
「殺しはしないが、足の1本ぐらいは覚悟してもらうよ」
 転がりながらピースメーカーを引き抜き、構える。既にアキラも魔法を放つ体制に入っている。左右からの同時攻撃。
正面のニギミタマも含めれば、三方向からの多面攻撃だ。
「私、感動で前が見えませんっ! すわっ!」
 再び軽妙にくるりと回った御魂が、男に向かって魔力を吐き出す。素早さを奪い取るスク・ンダの魔法だ。これにより
ますます相手の回避は困難になる。自分とアキラ、どちらかの攻撃をかわしても、もう片方まではかわしきれない。
「アギダインッ!」
 先に撃ったのはアキラ。背後に宿る太陽の神の力を受けて、掌に集められた魔力が熱と光に代わり、巨大な炎となった。
キョウジとしては無駄な殺生は避けるつもりだったのだが、アキラにはそんな考えはさらさらなく、危険人物は焼き殺す
つもりでいるのだろう。それが瞬時に見て取れるぐらいに、清清しいほど明確な熱と殺意の籠もった一撃だった。
 男が炎を見て身構える。キョウジはその隙を見逃さない。左右どちらかに逃げたら、その踏み出した足を撃ち抜かんと、
銃を握る手に力を籠めた。殺すつもりはないが、この銃の威力だと、足を撃ち抜くどころか足を吹き飛ばしてしまうかも
しれないけれど、まあそれは殺意を持って挑んできた相手の自業自得ということでいいだろう。
608蒼天翔ける日輪の 2/9:2009/10/05(月) 09:32:59 ID:B2e10xao0
(さあ、動いてみろ!)
 キョウジが念じると同時に、男が動く。しかし、その動きはキョウジが意図したものとはまるで違っていた。その場で
くるりと方向を変え、キョウジのほうに向き直る。巨大な炎がその背中にまさに襲い掛からんとしているのに、薄笑いに
さえ見える表情でキョウジの手の中にある銃を注視している。
(バカな、避けない!?)
 あまりに意外な男の行動に、キョウジは驚きを隠せない。パニックまでは行かぬものの頭の回転が追いつかなかった。
あっという間に男は炎に包まれ、赤い光に浮かぶ黒い影になる。標的を捉えた炎は柱のごとく天に向かって燃え盛って、
中心にあった影を赤一色に塗りつぶしていく。キョウジは銃を撃つことも忘れて、ただそれを呆然と見ていた。
 炎が消え去る。男の姿はもうどこにもない。あの火勢だ、骨まで燃え尽きてしまっても無理はない、とキョウジは思う。
その瞬間、わき腹に強烈な衝撃。全身に痛みと同時に不快な音が響き、意思と無関係に口から苦悶の声が漏れた。
「が、はぁっ!」
 上級の魔獣にも匹敵するような、重い重い一撃。無防備な姿勢に不意打ちを受け、キョウジは堪えきれずに転がった。
しかし拳銃とCOMPはしっかりと保持したままであるので、崩れた姿勢のまますばやく構えて追撃に備える。目の前には、
炎に飲まれたはずなのに傷ひとつない少年と……そしてその傍らに立つ、赤き力を持つ幻影。
「細っこい見た目のくせに、ずいぶん……ぐっ」
 ここで精神的に押されてはまずい。軽口を叩いてやろうと思ったが、わき腹から広がる痛みに邪魔された。折れてるな、
とキョウジは思ったが、しかし口元の笑みは消さない。消せない、と言ったほうが適切かもしれない。どんな危険な状況
でも皮肉な笑みを絶やさず余裕を見せ付けるのは、職業病といってもいい彼のクセのようなものだ。
「火炎無効かよ、先に言え、くそったれ」
 アキラが苛立たしげに言う声が聞こえた。なかなかセンスのいいジョークだ、とキョウジは口元の笑みを深めた。今、
キョウジの背中に負われている大剣ヒノカグツチは、斬撃が炎へと変わる魔力を持った剣だ。火炎が通じないということ
は、この剣も無用の長物ということになる。キョウジの口元の笑みと反比例して、ますます状況は悪化していた。
 姿勢を整え、銃をしっかり構えるキョウジ。その正面に無造作に立つ男。男と背中合わせの形で赤いなにかが力を顕し、
背後のアキラに向かって睨みを利かせている。
 そのまま、膠着した。ときどきニギミタマが思い出したようにクルリと回る以外は、誰も動かない。誰かが動くことが
この膠着を破り、誰かの命を奪う引き金になることは、三人ともわかっていることだ。その"誰か"は、破り方次第で誰に
なってもおかしくないぐらい拮抗した状況だ、ということも。
「ひとりかと思ってたが、どうやらお仲魔連れだったようだね」
 キョウジは飄々とした風を装って声をかけた。あえてこの膠着状態を長引かせようという作戦だ。いきなりダメージを
受けてしまった分だけこちらが圧倒的に不利な状態だが、もう一度スク・ンダをかける隙があれば、取り戻せる。
609蒼天翔ける日輪の 3/9:2009/10/05(月) 09:33:57 ID:B2e10xao0
「俺は一人だ」
 意外にも、男が答えてきた。腹の中身を搾り出すかのようなその呟きには、尋常ではない想いが籠められているように
思えたのだが、キョウジはそんなことを考えてる自分を叱咤した。目の前の敵に同情している場合ではない。
「ほぉ、てめぇにも"憑いてる"ってわけか、あぁ?」
 同じく動くに動けないでいるアキラも会話に乗ってきた。その背には、ご自慢の一撃をいとも容易く防がれてご立腹の
ようすで、エジプトの太陽神ラーが姿を顕している。
「……"憑いてる"ならまだよかった」
 男が呟く。悲壮感漂うその言葉に、二人は思わず引き込まれるように聞き入ってしまう。
「罪も罰も、すべて"こいつ"のせいだと思い込めれば、どれほど幸せか」
 男が続ける。自分の言葉に追い立てられるように、男の中でなにかが暴れ始めているのがわかる。キョウジは、銃を
構える手を握りなおした。アキラも魔力の集中をすると同時に、接近戦に備えて腰に下げた刀の鯉口を切っている。
 この男はヤバい。キョウジはそれをひしひしと感じた。いったいなにがあったのか知らないが、この男はとんでもない
覚悟を決めてこの場に臨んでいる。最初から生き延びる気がないのだ。死を恐れない、などというような次元ではない。
死を受け入れている状態。むしろ、もう死んでいるとすら言っていい。先ほどキョウジは、足でも撃って戦闘不能にして
やればいいと思っていたが、こういう状態の相手にはその手は通じない。足がもげようが両目が潰れようが、戦闘不能に
なることはないだろう。この男を止めるには、それこそ完全に行動ができない状態まで痛めつけるしかない。それは、
殺さねばならないということとほぼ同義だった。
「だが"こいつ"は"俺"なんだ……だから、すべては俺が背負わなきゃならない……だから……」
 男の声が、狂気的な色を帯びながら高揚していく。キョウジもアキラも、ギリギリまで引き絞った弓のような緊張に
晒される。勝負は、一瞬。一瞬の差が、生と死を分ける。
「だから、俺は……」
「ニギミタマッ!」
「俺はッ!!」
 男が走り出すのと、命令を受けたニギミタマが魔法を唱えるのが、同時。緑の霧が男を包まんと広がるのと同時に、
赤い幻影の鋼の拳が御魂を粉々に打ち砕いた。男は、スク・ンダの重ね掛けを嫌って、転がるようにしてすばやく回避。
そこを狙ったように、アキラがブッ放した万能魔法の光が襲い掛かる。
「ちいッ!」
 男が再び回避した。赤い幻影をアキラへと向かわせると同時に、自身はすばやく立ってキョウジに対して警戒を……
「……チェックメイト。一手遅れだね」
 キョウジは男にこめかみに銃を突きつけて言った。
610蒼天翔ける日輪の 3/9:2009/10/05(月) 09:34:52 ID:B2e10xao0
「そんなに速く動けたのか、その傷で」
 立つ動作を中断した中腰の姿勢のまま、感情のこもらない言葉で男が尋ねてきた。わき腹に入った一撃がどの程度の
ダメージを与えるだけの深さだったかは、殴った本人である彼にはよくわかっているだろう。痛みでキョウジの行動が
鈍ることを計算に入れていたであろうことは読めていたので、キョウジからすればその裏をかくのは簡単だった。
「手助けは借りたけどね」
 口元をにやりと上げながら、左手のCOMPを見せ付けるように振る。キョウジの背後から、毛むくじゃらの悪魔が顔を
覗かせて歯を剥き出して笑った。地霊コボルト。肉体の俊敏性を上げるスクカジャの使い手である。傷の痛みで遅れた
ぶんを補助の力で取り返す。男の速度がスク・ンダで鈍っていたこともあり、先手を打つことは十分可能になる。
(……安いもん、とはいかないかな、さすがに)
 キョウジは痛みを表情に出さないようにしつつ、口に溢れてきた血を飲み込んで隠した。ただでさえ肉体にかなりの
負荷がかかる補助魔法を、この負傷で使ったのだから無理もない。肋骨が内臓に刺さっていないことを祈るばかりだ。
「……撃たないのか?」
 男がぽつりと言った。強がりでもなく、命乞いでもなく、単なる事実確認とでもいうような口調だった。 
「撃つさ。妙な真似をしたらね」
「ぬるィぞ、とっととクソど頭ブチ抜いちまえ」
 アキラが冷たく吐き捨てるように言う。二人がかりの交渉の場合、片方が脅し役、片方が懐柔役になるのは基本だが、
アキラのことだからそんなことは関係なく本気で殺してしまえと思っているのだろう。キョウジは苦笑してたしなめる。
「撃つなら情報を貰ってからだ。もっとも」
 会話をさえぎるように、炸裂音が響いた。男の左手に向けて、銃弾が放たれる。油断なくひそかに集中していた魔力
ともども、男の左手の肉と骨が粉々に砕けて宙に舞った。
「ぐ、うあっ……!」
「その前に撃つかもしれないけどね、そっちの態度次第では」
 硝煙の立ち上る銃を油断なく構えながら、キョウジは冷たく言い放つ。ライダースーツの男は、手首の部分から先が
なくなった左腕を、右手で押さえてうずくまっている。
「銃の威力が強すぎて、威嚇じゃすまないんだ。次からは気をつけてくれよ」
 そう軽口を叩くキョウジの目は先ほどまでと変わらず、愛嬌すら感じられる飄々としたものだ。変わらないのは豹変
するより恐ろしい印象を与える。そのことがよく分かっているキョウジは、痛む心を押し殺して表情を作っている。
「さて、どうする?」
 ごり、と銃を男のこめかみに押し付けつつ、キョウジはアキラに尋ねる。普通なら灼けた銃身が皮膚を焼く場面だが、
男の火炎無効はこんなところでも効果を発揮しているらしく、髪の毛が数本焼け縮れて悪臭を放っただけだった。
「なにから聞こうか?」
611蒼天翔ける日輪の 5/9:2009/10/05(月) 09:35:42 ID:B2e10xao0
「そうだな……平坂区に何があるのか、だな」
 アキラはぽつりと言った。彼は頭の回転も速い。最初にこの男が「目的地はどこか」と聞いてきたことも、平坂区と
聞いた瞬間に殺気が跳ね上がったこともしっかり確認しているし、そもそもこの男が平坂区方面から歩いてきたという
事実も見逃してはいない。状況証拠ばかりだが、すべてが平坂区に結びついている以上、なにかあるのは間違いない。
「だそうだ。話してもらおうか?」
 うずくまったままの男に向けて油断なく銃を突きつけたまま、キョウジは事務的な口調で尋ねた。
 しばらく、無言が続く。男は左手を抱え込むようにしてうずくまったまま動かない。
「……手、大丈夫かい? 止血ぐらいならしてあげるよ」
 キョウジが沈黙を破って言った。先ほどまでならアキラが「何言い出してんだ」と噛み付いてきただろうが、今回は
静観することに決めたようだ。さっき一瞬も迷わずに男を撃ったことを評価してくれているのかも知れない。
「平坂区に誰か大事な人がいて、その人のために人殺しになる決意を決めた……大方、そんなところだと思うけど」
 男も、突きつけられた銃も、張り巡らされた緊張も、凍りついたように動かないなか、キョウジの声だけが響く。
「こんな状況だし、常識だの良識だのなんて言う気はないよ。僕だって、自分や自分の大事な人の命が他のヤツの命と
同じ重さだなんて思っちゃいない。復讐したいっていう気持ちだって……少しは、分かる」
 思わず言葉を濁してしまった。揺らぐな、とキョウジは自分を叱咤する。
「でもね、僕はできれば人を殺したくないんだよ。こんな状態で言っても説得力ないだろうけども、殺したくないんだ」
 これは、キョウジの本心だった。殺さねばならない場合があることも知っているし、殺す覚悟もある。しかしそれとは
別に、殺したくないという気持ちもある。心とはかくも不条理なものだ。
「僕たちを信用して、話してくれないか。解決の手がかりもあるかも知れない。協力だってできるかも知れない。闇雲に
戦うはずっとマシだと思うよ。君だって、誰彼かまわず殺し回っていいとは思っていないはずだろう?」
 キョウジが呼びかける。油断はしていないつもりだったが、殺気は和らいでしまっているだろう。それは、仕方がない
ことだった。説得する以上、殺気の緊張は緩まざるを得ない。
「……にが……る……」
 男が、何かをつぶやいた。噛み締めた歯の隙間から搾り出すような、かすれた聞き取りづらい声だった。
「え?」
 キョウジが思わず聞き返す。注意が聴覚のほうにブレてしまう。ほんの一瞬、油断とさえいえないような油断。
「撃てッ!」
「お前に、何がわかるッ!」
 アキラが呼びかけるのと、男が激情のままに力を解き放つのが、同時。瞬間、視界が真っ白になった。
612蒼天翔ける日輪の 6/9:2009/10/05(月) 09:39:09 ID:B2e10xao0
 数秒の沈黙の後、最初に意識を取り戻したのは、周防達哉だった。
 ペルソナが暴走気味に発動したため、前後不覚に陥っていたのだ。ペルソナとは仮面。自分であって自分でないもの、
心強い味方であると同時に油断ならぬ隣人である存在だ。自分に特別に近しいペルソナを降魔していたのは幸運だった。
もし別のペルソナで同じ状況に陥っていたなら、暴走したまま肉体の支配を完全に奪われていたり、無理な精神の使用で
そのまま意識が戻らなくなったりしていたかもしれない。
 達哉は半ば反射的に頭をフル回転させはじめた。戦闘中に意識を失うのは初めてではない。魔力によって眠らされたり
精神に異常をきたされたりすることもよくあったため、対処には慣れている。記憶の糸をたどり、意識が途切れる直前の
状況を回想し、自分が知覚していない空白の時間になにがあったのかすばやく推理をめぐらせた。
 確か、二人の男に戦いを挑み、敗れたのだった。両脇を固められ、隙を衝こうと思ったら見抜かれて撃たれた。そして、
男の片方、白いスーツのほうになにか言われ……そこで、意識が途切れたのだ。
 意識が途切れた原因ははっきりしている。傷の痛みと男の言葉に対する激昂で、心の箍が外れてペルソナが暴走した。
暴走気味の発動だったからこそ、予備動作なく最速最大の威力で火炎攻撃ができ、そのおかげで囲んでいた二人の不意を
衝く形になったのだろう。その点については、アポロに感謝しなければならないな、と達哉は思った。
 時間にして1秒もかからぬ間に、達哉はそれだけの推理をめぐらせた。次にやらねばならないのは、現在状況の確認だ。
ゆっくり立ち上がろうとして、よろけて倒れた。受身を取れず、頭だけはなんとか肩でかばったものの、全身をしたたか
コンクリートに打ち付けてしまう。
 左手の喪失と失血に加えて、精神力の磨耗もあるのだ。心の中で、優先順位を変更する。まず回復だ。さきほどよりも
さらに慎重に立ち上がって、戦闘の巻き添えにならないようにと用心深く離れたところに投げておいた荷物へ向かった。
 ザックから宝玉とチューインソウルを取り出す。サトミタダシが営業していればいくらでも買えるような消耗品だが、
今の状況ではかなりの貴重品だった。しかし使うのを惜しんで命を失うようでは本末転倒だ。迷わず使って、出血を止め、
精神力を補給した。それだけでかなり楽になる。先ほどまでよりも少し乱暴に立ち上がる。軽くめまいはしたが、倒れる
ことなく姿勢を保つことができた。上々だ。
 右手を軽く開き、握る。ボッ、と、加熱された空気が握りつぶされて爆ぜる音が響いた。コンディションは、万端とは
言いがたいが、戦うことはできる。達哉にとってはそれだけで十分だった。
「……くそ、ったれが」
 苦しそうな呟きが聞こえた。振り返ると、バンダナの男が刀の鞘を杖代わりにしてよろよろと立ち上がるところだった。
613蒼天翔ける日輪の 7/9:2009/10/05(月) 09:40:02 ID:B2e10xao0
 周防達哉から遅れること数十秒、宮本明も意識を取り戻していた。
 念のため集中しておいた魔力を慌てて放ったおかげで、ある程度相殺できたため、直撃は避けられた。とはいえ、今回
アキラの本領の火炎魔法はますます火勢が強くなってしまうので使えなかったし、反属性の氷結魔法は使えなくはないと
言っても最後に使ったのがいつかも覚えていない状態だったのでとっさに使う自信がなかった。万能魔法は使い慣れては
いるが、しかし今の場面では万能系ではまずい理由があった。というわけで半ば妥協的にマハザンマを放たざるを得ず、
衝撃系中級ランクの魔法では当然ながら相殺しきれる訳もなく、大部分をけっこうまともに食らってしまっていた。
 ただでさえ腹部の傷で消耗しているところにこれはかなりマズい、と、何度も死線をくぐり、しかもそのうちの数回は
実際に死んできた経験がアキラに危険信号を鳴らしている。というかそんな危機信号を鳴らされるまでもなく、腹の傷は
痛むわ、全身は焼けて痛むわ、目は霞むわ、足に力は入らないわで素人目にも明らかにヤバい状態だった。
 だからと言って寝ているわけにはいかんだろうな。死んだフリでやり過ごすなんてのは自分のガラじゃねえし、それに
こういうヤツは、一発ブン殴ってやらなきゃ気がすまねえ。
「……くそ、ったれが」
 自分に気合を入れる意味で、ひとつ悪態をついた。膝が折れそうだったのだが、無想正宗の鞘を杖代わりにすることで、
断固として寝そべるのを拒否した。
「……生きていたか」
「死ぬかよ、あんな甘っちょろい炎で」
 見下すように声をかけてきた男に対して、強い口調で答えた。強がるような口調になってしまったが、実際に強がり
なんだからしょうがない。
「甘い、か」
 何がおかしいのか、男が薄く笑った。アキラはそれを挑発だと解釈することにした。そうじゃない可能性が高いことは
気づいているが、相手の事情を斟酌したら後味が悪くなるからだ。ぶっ飛ばすならなにも気にせずにぶっ飛ばしたほうが
後腐れが少なく、精神衛生上よろしい。
「俺の炎は、まだ甘いか」
「ああ、甘いね。どいつもこいつも甘ちゃんだぜ、ちくしょう」
 吐き捨てた。本心だった。世の中の不幸を全部一人で背負ってるとでも言いたげな顔のクソガキも、実は非情な男かと
思ったらやっぱりそうでもなかったアホ探偵も、どいつもこいつも反吐が出そうなぐらい甘い。しかし、そいつらよりも
さらに甘くてムカつくのは、そんなヘボ探偵を見捨てられずにマハザンマで吹き飛ばして庇うなんて手をとってしまい、
そんなクソガキの炎に巻かれて死にかけている自分自身だった。
614蒼天翔ける日輪の 8/9:2009/10/05(月) 09:41:05 ID:B2e10xao0
「俺は、まだ甘い。なるほど、高い授業料だったが勉強になったよ」
 妙に気取った態度でクソガキが言う。一気に攻めてくればいいのにしないのがやっぱり格好つけたがりの甘ちゃんだ、
とアキラは思ったが、なんとか呼吸を整える時間を稼ごうと思っていたところだったのでありがたく乗ることにする。
「そこがバカだってンだよ」
 刀を突きつけるようにしてアキラは言った。いらだたしげな口調は演技ではなかった。コイツを見てるとイライラする。
本当は誰より他人想いで、しかしそれゆえに傷つき傷つけらることに耐えられなくて、一人になろうとして心を荒ませる。
コイツは見るからにそういう男だ。アキラはこういうタイプのヤツを見るのが嫌いだった。見ていると、本当にイライラ
する。まるで自分を見ているようで。
「勉強したぐらいで甘さが捨てられるんなら誰も苦労しねェよ」
「だろうな。だが俺にはやらねばならない理由がある」
「理由がありゃできんのかよ、それが甘ェっつってんだろうが」
 アキラは続けた。時間を稼ごうと思って乗った会話だったが、失敗だったかもしれない。くそッ、本当にイライラする。
「一夜漬けでイケるとでも思ってんのか、って話をしてんだぜ、ええ?」
 人間の心はそう簡単には変わらないのだ。非情に徹するというと聞こえはいいが、徹することに努力しないといけない
ならば、徹さなくても非情なヤツとは同じ土俵で戦えるわけがない。心をすり減らして傷ついて、そのまま志半ばにして
倒れてしまうのがオチだろう。闘い方の向き不向きというものはあるのだ。
「できなくても、やる。それが俺の……“贖罪”だ」
「ケッ、“現実逃避”の間違いだろ。それとも“オナニー”か?」
 突きつけた無想正宗を、挑発するように上下に揺らす。男の表情がピクリと動いた。自分の信念を否定されたことで、
誇りが傷ついた、というところだろうか。それもまた、アキラの癪に障った。こんな安い挑発で傷つく程度の信念なのか。
お前の信念は、こんな挑発を笑い飛ばして無視することさえできない程度の安いものに過ぎないのか。
「なんとでも言え……俺は、揺るがないッ!」
 耐えかねたように、男がつっかかってきた。その背には、太陽神アポロ。
「そう口に出してるのが揺らいでる証拠じゃねェのかよバカ野郎がッ!」
 まだ整え切れていない呼吸を叫ぶことで強引に押さえ込みつつ、剣を構えるアキラ。その背には、太陽神ラー。
 二人のアツい不良少年と、二柱の太陽神が、熱を持って激突する。
615蒼天翔ける日輪の 9/9:2009/10/05(月) 10:02:24 ID:B2e10xao0
【周防達哉(ペルソナ2罪)】
状態:脇腹負傷(出血は無し)、左手欠損  精神的に極めて不安定、非常に消耗
武器:なし
道具:なし
ペルソナ:アポロ
現在地:平坂区・夢崎区の境あたりの路上
行動方針:目の前の敵を殺す
     舞耶以外の参加者を手当たりしだい殺す
※たまきが死んだと思っています


【宮本明(真・女神転生if...) 】
状態:満身創痍(腹部に貫通銃創、全身火傷)、ボロボロの服
装備:鍋の蓋、スターグローブ(電撃吸収)、無想正宗
 アセイミナイフ、クラップK・K(残弾なし)、髑髏の稽古着(焼け焦げて使い物にならない)
道具:包丁×2、アルコールランプ、マッチ*2ケース、様々な化学薬品、薬箱一式
ガーディアン:魔神ラー
 傷薬2つ、デイスポイズン2つ、閃光の石版
基本行動方針:目の前の敵を殺す
       ハザマの殺害、たまきと合流しゲームの脱出、休息を取り体力回復
現在地:平坂区・夢崎区の境あたりの路上
備考:肉体のみ悪魔人間になる前

【葛葉キョウジ(真・女神転生 デビルサマナー) 】
状態:気絶中
装備:ピースメーカー、ヒノカグツチ、メリケン型COMP、MAG1400
道具:アセイミナイフ、包丁×1、魔石1個、ベスのバンダナ、基本支給品を余分に1セット、水・食料を余分に2セット
基本行動方針:レイと合流、ゲームの脱出、休息を取り明を回復させる
行動方針:平坂の葛葉探偵事務所を活動拠点にすべく移動中
仲魔:御魂ニギミタマ(DEAD)、地霊コボルト
現在地:同上
備考:中身はキョウジではなくデビサマ主人公です。
616蒼天翔ける日輪の 9/9修正:2009/10/05(月) 10:03:46 ID:B2e10xao0
【宮本明(真・女神転生if...) 】
状態:満身創痍(腹部に貫通銃創、全身火傷)、ボロボロの服
装備:鍋の蓋、スターグローブ(電撃吸収)、無想正宗
 アセイミナイフ、クラップK・K(残弾なし)、髑髏の稽古着(焼け焦げて使い物にならない)
道具:包丁×2、アルコールランプ、マッチ*2ケース、様々な化学薬品、薬箱一式
    傷薬2つ、デイスポイズン2つ、閃光の石版
ガーディアン:魔神ラー
基本行動方針:目の前の敵を殺す
       ハザマの殺害、たまきと合流しゲームの脱出、休息を取り体力回復
現在地:平坂区・夢崎区の境あたりの路上
備考:肉体のみ悪魔人間になる前
617ゲーム好き名無しさん:2009/10/05(月) 22:53:06 ID:JuPCMdX+0
新作乙! すわっ!
618ゲーム好き名無しさん:2009/10/07(水) 00:32:14 ID:cTOkIPVF0
乙!愛を感じるわ!
これはもうどちらかがリタイヤすんのは避けられなさそうだ
619ゲーム好き名無しさん:2009/11/04(水) 08:18:00 ID:desck+32O
保守
620ゲーム好き名無しさん:2009/12/02(水) 02:41:21 ID:GfOKTA1EO
新作マハ乙ダイン!!
毎回毎回どの話もアツくて面白過ぎる…
永遠に応援し続けるぜ。
621ゲーム好き名無しさん:2010/01/16(土) 09:56:43 ID:/At3r5060
保守
622ゲーム好き名無しさん
保守