締符「東方シリーズ総合スレッド 2890/2890」
ググント「だったら、私も死んじゃえ!」
アトル「姫さま!何処へ行かれるのか!姫さまっ!」
―――危険な、目だった。
アトルの直感が告げていた。長く仕えてきた彼だからこそ、己が主君の危うさが分かる。
―――演技、だったのか。
病が幾分落ち着き、立ち居振る舞いもまた矍鑠したものに戻りつつあった。
だから…安心していたのだ。
迂闊。
アトル「ググントさまーっ!」
予想だにしなかった事態。その衝撃が一瞬、アトルの歩みを止めていた。
気がつけばググントは視界から消えていた。
(莫迦、何年あの方の傍にいた、盆暗がッ)
チッと舌打ちをして後を追う。だがすぐに遮られた。
人影。一瞬、黒い壁と見紛うたマントの下から、ぞくり、と鋭気が放射される。
アトルは正気を失った。
―――何故、生きてる!?
彼にとって、幾度もの悪夢の主演をつとめた男が、その罪と共に火口へ消えた狩人が――
オジリ「痩せたか?夜天の御者」
アトル「糞でも喰らえオジリッ!!」
アトルは大喝した。
(はぁっ、はぁっ、はぁっ――)
今や世界の全てがググントの敵だった。
幼い肢体に不釣合いなドレスの、裾を擦る間もあらばこそ。
気がつけば布地を裂いていた。じゃまっけな靴も脱げている。
それでも、からみつく。病んだ身体に外気は重い。
耐えられない。
私を、そうまでして消したいのか。
炎に抱かれた街、ゲイツォ草、自警団の男たちの笑顔、いばらの門――
それは思い出。今や死を待つ少女にとってのすべて。
悪くない。
この輪舞の中で死ねるなら――
プンギ・プンギ「では僭越ながら、この私めが手引きをば」
ググント「―――!」
忘れもしないその顔。フードの奥で「彼女」の単眼がぎらり、と閃く。
プンギ・プンギ「でも残念、今日は挨拶だけ。もっともオジリの方は知らないけど」
ググント「…新月の夜に“夜天”を敵に回す愚、貴方ならご存知かと思ったけど」
虚勢だった。何故なら、今のアトルは――
思考は断絶された。プンギ・プンギが迫る。示威の為の連撃。
(こいつァ、乱暴だ)