その1 エフラム
彼─、エフラムの趣味は釣りである。
こうして潮風に身を委ね、ゆらゆらと揺れる海を見つめながら静かに休日を過ごす。
それは彼が騒がしい日々の中で唯一安らげるひとときだった。
家にいれば双子の妹であるエイリークが勉強させようと迫ってくるし(妹は兄の学校の成績が
悪いことが不満らしい)、友人のヒーニアスが何かにつけ勝負を挑んでくる。彼の妹、ターナもや
たらとエフラムにアプローチをかけてくる。それを見た妹の機嫌が何故か悪くなる。
…実に落ち着かない。
彼らはエフラムにとってかけがえの無い存在ではあるが、それはそれ、これはこれ、である。
たまには一人でゆっくりと、趣味の釣りに没頭して休日を過ごしたいときもある。
「…むっ」
─アタリ。来た。
『ウキ』が海中に沈む。
間髪いれず、釣り竿を握る手にびりびりと伝わってくる振動。
(この手応え。かなり大物に違いない)
滅多に使う機会のない、魚拓を取るための墨汁と紙を持ってこなかったことをエフラムは今更な
がらに悔やむ。
いや、魚拓など帰宅してからでも構わない。
今朝、家を出る際に「エイリーク、今晩のおかずを釣ってくるから楽しみにしていろ」と言った手前、
とにかく釣り上げることが先決である。
「ええ、エフラム兄様、期待シテマッテマス(棒)」
などと朝のワイドショーを見ながら全く期待してなさそうな口調で応じた妹に目にもの見せてやら
ねばなるまい。
(なあに、釣れなかったら釣れなかったでいつものように商店街の魚屋で買って帰るだけのこと)
妹を欺くことに心が痛まぬではないが、他のことはともかくとして釣りに関しては話が別である。
尻穴の小さいことを自覚しつつ、見栄を張りもする。どこか間違っているとしても、それくらいエフ
ラムは釣りが好きなのだった(聡いエイリークは兄の行動など全てお見通しである)。
─キキーーッッ ガ シ ャ ン
? 何か、遠くで音が聞こえたような気がしたが、今はそれどころではない。
釣り竿から伝わってくる尋常ならざる力にエフラムは戦慄する。
少しでも気を抜いたが最後、間違いなく海中へ引きずり込まれるであろう。
(だが俺が勝つ。釣り上げてその姿を魚拓に刻みつけてやる)
右に右に、左に左、下へ下へと上へと。。
引き千切らんばかりに、縦横無人に振り回される釣り糸。その先。
巨大な三角形らしき、プレート状の物体が豪快に海面を切り裂いていく姿をエフラムの目は捉え
ていた。
─その頃。
エフラムの双子の妹エイリークはクーラーの効いた屋敷のリビングですやすやと穏やかな寝息を立
てて眠っていた。彼女はこのところ生徒会の激務で疲れていた。ルネスの生徒会長である兄が修行
だの何だのでサボってばかりでろくに仕事をしないため、副会長であるエイリークに仕事が必然的に
集中するのである。
そしてようやく迎えた休日。
エイリークはつまらない休日のテレビ番組をぼんやりと観ているうちに眠ってしまったのだった。
虚しくテレビから音声が流れ続ける音声。
『…では続いてのニュースです。
先日、海岸に出現した人食い鮫は未だ捕獲されておらず、市は海岸を遊泳禁止にするなどして
近隣住民に警戒を呼びかけています。目撃者によりますとこの鮫は体長10メートルを越す超巨
大鮫であり、市は自衛隊の出動を要請するなどして…」
その2 ミルラ
「はあっ…! はあっ!」
隙をみて走行する車から飛び降りたところまでは良かったが、全身を思い切り打ちつけた挙句に
自慢の翼まで傷めてしまった。空を飛べさえすれば難なく成功したかもしれない逃亡作戦は、今
や大幅な変更を余儀なくされていた。
「はあっ! はあっ!」
全く頼りにならない、細い二本の足。
でも今はそれだけを頼りに、神竜の少女はただひたすら走り続ける。
たとえ齢1500年を越える神竜といえども、力を封じた竜石がなければ能力など普通の人間と全く変
わりはしない。そして彼女は子供の肉体である。追っ手である大人たちとの距離はあっという間に詰
まっていく。
(とにかく、誰か、沢山、人がいるところ!)
しかし、彼女が必死で車から飛び降りた場所は山奥の県道。人の気配などまったく無い。
道は一本であり、下ればおそらく市街へ辿りつけるかもしれないが、馬鹿正直に道路を使えば
簡単に追いつかれる。足は向こうの方が早いし、車だってまだ使えるだろう。
だから、山の中へと逃げ込んだ。
柔肌を草に、枝に、身を切り裂かれながら駆け抜ける。
「…ッ!?」
突然、奥を見据えていたはずの視界が反転した。
木の根に足を引っ掛けて転んでしまった。激しい痛みと口に広がる土の味。不快なことこの上ない。
力を振り絞って起き上がったとき、既に追いつかれていた。
「ふふ…? 鬼ごっこは終わりですかね、ミルラ様?」
茂みを掻き分け、現れたのは黒スーツ姿の、口元に歪んだ笑みを湛えた、長身痩躯の男。
逃げ惑う獲物を追う行為はこの男─、ヴァルターの最も好むところである。嗜虐的な性格だった。
「…人間風情が、気安く我が名を呼ぶな。吐き気がする」
「これは手厳しい…? ふふ…? フフフ…? はーっはっは?」
同時に罵倒されることに快感を感じてもしまうようだった。
「大将。一人楽しんでねえでとっととこのガキ捕まえようぜ」
続いて現れたのは口元に煙草を咥えた大男。手には大型のショットガンを携えている。
身に着けているカッターシャツの胸元は大きくはだけており、そこから鍛えぬかれた鋼のような筋
肉を覗かせている。小奇麗にスーツを着こなすヴァルターとは対照的に、彼はネクタイすらしておらず、
皺だらけのジャケットをラフに羽織っていた。
「フフ…? ああ済まなかった、ケセルダ君?」
「こうも暑くちゃ敵わねえ。とっとと終わらせて帰って一杯飲ろうや」
ケセルダは吸っていた煙草を足元に捨て踏み潰す。そして面倒臭そうに、ショットガンの銃口を目の
前の少女へと向けた。
「…!」
「馬鹿者! 殺すな!」
真夏の山中に響き渡る蝉の鳴き声を掻き消し、凛とした女性の声が響き渡る。
声の主はこのような鬱蒼とした山奥にはあまりにも似つかわしくない、金髪碧眼の絶世の美女。
「殺しゃしねえって、セライナ姐さん。脅しだよ脅し。ああ、怒った顔も可愛いねえ」
同僚の軽口を無視し、セライナと呼ばれた女性はミルラに歩み寄り、手を差し伸べた。
「済まぬが神竜殿、大人しく我らとご同行願いたい。貴女を傷つけることは我が主の望むところで
はない」
「…ふん」
セライナの手を掴もうとミルラは腕を伸ばし─。
「…!」
─ヒュッ
少女に殺気を感じたセライナは咄嗟に後方へと飛びのいていた。
神竜の少女の細い指からは真紅の、長く鋭い鉤爪が生えており、先程までセライナの首があった空間を
切り裂いていた。
「誰が貴様ら外道の言うことなど聞くものか! 竜族を舐めるな人間共っ!」
少女の背中から二枚の巨大な翼が伸びる。
(…痛い! 痛い痛い痛いっ!)
激痛に構わず、気力を振り絞って傷ついた翼を羽ばたかせ、神竜の少女は空へと舞い上がった。
銃声が山中に木霊した。
驚くセライナ。銃を撃った張本人を睨み付けた。
「命令が聞こえなかったのか虎目石! 殺しては元も子もないのだぞ!」
「蛍石さんよ、アンタ殺すな、とは命令したが撃つなとは言わなかったぜ」
「クク…生きてさえいれば問題ないのだろう? もっとも逃げられてしまったようだがね?」
「…チッ」
怒りを抑えつつ、セライナは男共に改めて命令した。
「…追跡を続行する。あの怪我ではそう遠くには逃げられまい。行くぞ、月長石、虎目石」
「オーケイだ指揮官殿?」
「人使いの荒いこって」
あの神竜の少女の服には発信機が付いている。補足するのは容易だった。
とはいえ人の多い市街地に逃げ込まれれば少々厄介である。
不幸中の幸いというべきか、市街まではかなりの距離があるし、山を降りてすぐに広がる、例年
なら人で賑わっていたであろう近くの海水浴場も人食い鮫騒動で封鎖されており、閑古鳥のはず。
神竜の少女が人間を見つけ出し、助けを求めることはまず無理だろう。
「…仮に、誰かを見つけたとしても」
その者を「消す」だけのこと。
自身を含め、石の名を冠する将が三人もいるのだ。抵抗など全くの無意味。
下山しながら、セライナは神竜の少女が誰ぞに頼る機会を得ることなく、大人しく捕獲されるてくれる
ことを期待していた。同僚の男共とは違い、無益な殺生はセライナの望むところではない。
その3
空から見下ろす海はとても綺麗だな、とミルラは思った。しかし今は景色を楽しむ余裕などない。
それに、潮風が傷に沁みてとても痛い。もう、これ以上飛ぶのは無理だった。
海に落下すれば多少の高さで翼を引っ込めても大丈夫だろうか。これ以上翼を動かしたくない。
ミルラはそんなことを考えたが、この傷で海水に突っ込めばとんでもない痛みを味わうだろうと思い直す。
砂浜に、崩れ落ちるように身体を落とした。まるで、自分は命の燃え尽きた小さな羽虫みたいだと思った。
「…お兄ちゃん」
ミルラは呟いた。
彼女に「お兄ちゃん」などいない。
昔、まだ両親がいた頃、『お兄ちゃんが欲しい』とねだったことがある。それを聞いた両親は少し困
ったふうに、
「それはちょっと無理」
と苦笑しながら答えた。
ミルラは1500年を越える時を生きてきている。
とはいえその大部分は眠って過ごした年月である。永遠ともいえる生命を持つ神竜はその生涯の
大半を眠って過ごす。ミルラとて例外ではない。
眠っている間、夢の世界の彼女には『お兄ちゃん』がいた。
碧髪の、ハンサムの、強くて、逞しくて、凄く優しい、お兄ちゃん。
少し、頭の抜けたところがあるけれど、そこはしっかり者の妹である自分がいるから問題ない。
……。
わかってる。
夢の中のお兄ちゃんはあくまで夢の中の存在。
自分の願望が作り出した甘美な幻想。
でも、自分は神竜。人間には無い力がある。
きっと、これは予知夢。そう遠くない未来。
永遠の命は永遠の孤独。だから─。
せめて夢の中では幸せでいたい。別にいいよね、お父さん、お母さん─、
「─お兄ちゃん」
「クク…フフフ…? 見つけたぞ…?」
嫌らしい、歪んだ笑い声。
やはり現実はこんなものだろうかとミルラは思った。
その4
「ふう、私は運がいい? 今なら虎目石と蛍石に邪魔されることなくお前をいたぶれるのだから?」
砂浜に伏すミルラの耳元に顔を近づけ、月長石ヴァルターは歓喜の叫びを上げた。
発信機の範囲は広い。海岸のどこかにいることは分かったが、正確な位置は特定できない。
追っ手である彼ら石の将は手分けして標的を探すことにした。
そして、ヴァルターが同僚の二人に先んじて神竜の少女を発見したのである。
同僚の二人はまだ付近を捜索しており、この場にはいない。
「…外道」
「ほう?」
「腐れ外道の分際でものをしゃべるな。息が臭くてかなわない。
ああ、脳が腐っているのだから当然か。迷惑だからこの世から消えていい。私が許す」
「ククク…フハハ…あーっはっは!」
ヴァルターは笑った。
最後まで誇り高く、高慢で、そして無力な、少女の形をした、この世界では至高の存在たる神竜。
それを今から存分にいたぶることができる。これほど愉快なことはない。
─喰う。
「お前は俺に喰われろミルラ!!?」
「…ッ!」
ミルラはぎゅっと目を閉じた。
目を閉じた瞬間、ミルラの耳に響く凄まじい爆発音。
次いで肌を撃つ水の粒、粒、粒。
痛い! 沁みる! 海水?
爆発? 雨?
何、何が起きているの。
雨が止み、ミルラは閉じていた目をおそるおそる開いた。
「ふはは…! 私は鮫に喰われてれれえら!?」
ミルラが目の当たりにした光景は、彼女を襲おうとしたヴァルターが巨大な(おそらく)鮫に下半身を
呑み込まれ、悶絶している姿。
「ふう、とんでもなく手強い奴だった。しかし仕留めたはいいが、この巨大鮫、どうやって持って帰ったものか…」
鮫の上。
極細の槍を突き立て悠然と立っている青年。
碧髪の、ハンサムの、強くて、逞しくて、凄く優しい─。
…夢じゃない。
ミルラは叫んだ。
「お兄ちゃん!!!」
その1.5
いくら力を込めてもリールが回らない。
それどころか海に引きずり込まれないよう、地面に踏ん張っているだけで精一杯だった。
「くそっ、たかが魚類如きに…! 何が最強を目指す、だ。俺はまだ修行が足りない!」
エフラムが握り閉めている長物。実のところ釣り竿ではない。
ルネス家に代々伝わる至宝、レギンレイヴ。
その極細の造りは貫通力に特化しており、分厚い金属板すら軽々と貫いてしまう。
普通、このように槍を釣り竿並の細さで鍛えれば重量や貫通力はともかく、強度が得られず
すぐにへし折れてしまう。しかし、このルネスの宝槍は威力と強度を高水準で両立している。
金属でありながら、竹のように曲がり、しなる。だが決して折れない。まさしく奇跡の産物だった。
「くっ、俺の力はこの程度なのか…! エイリーク!」
腕が痺れてきた。限界が近い。
ちなみに釣り糸は軍用の特殊ワイヤーである。力任せに引っ張っても切れることはない。
ある意味最強の道具を使っている訳だが、それにも関わらず目の前の獲物を釣りあげられないという
ことは、使い手に問題があるということ!
などと、エフラムは自身の未熟を痛感する。
「認めよう! このまま腕力で貴様と張り合うのは無理だ! ならば!」
釣り竿(槍)を握り締めたまま、エフラムは絶壁から海へと駆け出し─。
「俺の槍で直接仕留めるのみ! 行くぞ!」
そのまま海へと飛び込んだ。
エフラムは最強を目指している。
しかし最強の定義とは果たして何なのか、実は本人もよくわかってはいない。
とにかく強い奴と、俺より強い奴と戦う。そして勝つ。
立ち止まる訳にはいかない。
その5
死闘の末、エフラムはようやく巨大鮫に致命傷を与えることに成功した。
エフラムの必殺の一撃が決まった瞬間、鮫は大きく跳ね、今こうして砂浜に打ち上げられた
という次第である。
「こうも大きくては魚拓を取るどころか持って帰るのも一苦労だな。しかしこれは食えるのだろうか。
鮫といえばキャビアとかフカヒレか?おお、もしかしなくともかなりのと高級食材ではないか」
仕留めた巨大鮫の上で顎の手を当てながら、
(この鮫は雌だろうか)
とか、
(料理が得意とはいえエイリークは鮫を捌いたことはあるのだろうかいや多分無いだろうな)
などとエフラムが考えはじめたとき─。
「お兄ちゃん!!!」
地上からの声。
エフラムは声の聞えた方へ視線を下ろす。
黒髪の、赤い目をした、あどけない、傷だらけの。
「…お兄ちゃん」
背中から、翼の生えた少女。
今にも泣きだしそうな顔。何か怯えているような。期待しているような。
「こんにちは」
優しく、声をかけた。
エフラムの脳裏に何故か幼き日の自分とエイリークの姿がよぎった。
「俺の名はエフラム。君は?」
その6
ミルラ、と名乗った少女は何者かに追われているらしかった。
何やら訳有少女であることは確実であろうが、エフラムが詳しく事情を聞こうとしてもミルラは
黙りこんでしまう。
ミルラはミルラで思うところがあった。
夢の中の『お兄ちゃん』と出会えたことはとても嬉しかったが、この場で事情を話し、彼をこのまま
巻き込むことは躊躇われた。追っ手の連中はとんでもなく強い。自分といてはお兄ちゃんの命が
危ない。
─もっと話しがしたい。でもそんな暇は無い。
「…逃げて、お兄ちゃん」
なんてつまらない、でも今は最善だと判断して、そう言った。
「─逃がしゃしねえよ」
「…!」
エフラムとミルラは振り向いた。
彼らが振り向いた瞬間に、ケセルダはショットガンの引き金を躊躇いなく引いていた。
銃声が海岸に響き渡り、エフラムの身体が後方へ吹き飛んだ。
「嫌あああああ!!! お兄ちゃん!!!!!」
「目撃者は消えてもらうことにしてる。その兄さんも運がなかったな」
何事も無かったかのようにケセルダは懐からライターを取り出し、煙草に火をつけ、一服しはじめた。
「この…! 悪魔!!」
「そりゃ結構。でも、『竜』の嬢ちゃん、俺ら一応、世の為、『人間』様の為に働いてんだ。
…てか、姐さんも大将もどこほっつき歩いてやがんだ」
男を始末しても何故かケセルダの心は落ち着かない。煙草を吸う手が震える。
永年、戦場で培った傭兵としての直感。なにか、やばい。その証拠に─。
「なるほど。大体の事情は理解した」
「……。」
なんで死んでねえんだ、あのガキ。
ああ、あの槍で咄嗟に俺の撃った弾ァ、受け止めたのか。
…まあ偶然だろう。次は確実に仕留める。
「とりあえず貴様が悪者のようだ。君、ミルラといったか、下がっていろ」
「…なあ兄さんよ、大人しくそこの嬢ちゃん渡してくれねえかな」
「そういう訳にはいかんようだ」
「別にその嬢ちゃんのために命張る理由がお前にあるとは思えんが。
お前ェ、その嬢ちゃんのなんだってんだ」
ケセルダの問いかけられ、エフラムは少し考えこむ。
すがるような、心配するような目で今も自分を見つめている少女の紅い瞳。
「…そうだな、俺はこの子の─」
「…そいつの?」
─そう。
「お 兄 ち ゃ ん だ ッ ッ !!!!!!!!」
エフラムは叫んだ。
叫んでみて。
まあおそらく、人として、というか男として、色々と、決定的な何かがぶっ壊れたような気がしない
でもないが。それは多分、割と、概ね、きっと気のせいだろうと叫んだ本人は適当に思うことにした。
その7
「最初に言っておくが、そんな玩具で俺は倒すことはできない。大人しく逃げた方がいい。追いはしない」
エフラムの台詞にケセルダは目を丸くした。そりゃ俺の台詞だろうと。
距離にして約10メートル。
この距離で自分が外すなどあり得ない。まして銃弾を避けることなど到底不可能。
「あばよ」
迷い無く、ケセルダは目の前の馬鹿の頭めがけて引き金を引いた。
引いた瞬間に、ショットガンが手元で暴発した。
「ぐああああああっ!!? 畜生っ、何だあこりゃっ!?」
暴発の原因。
ケセルダが発砲しようとした瞬間、エフラムは槍を投擲。その穂先を銃口に突き刺したのである。
引き金を引くタイミングに合わせ、槍を投げる。
その神速。
針穴を通すが如き正確な軌道。
無茶苦茶な芸当をやってのけたエフラムにケセルダは痛みを忘れて怒鳴りつけた。
「馬鹿かテメエはっ!?」
「…よく言われるが、妹や友人以外にそう言われるのは心外だ」
「…何なのよ、あれ」
遠く離れた場所から双眼鏡で成り行きを見守っていたセライナは大いに呆れた。
呆れるより他にどうしろというのか。
双眼鏡で神竜の少女を探していたところ、沖の方で何やら動きがある様子が窺えた。
…信じ難いことに、巨大人食い鮫に人間らしきモノが攻撃を加えていた。
碧髪の、まあハンサムといってよい坊やだった。その坊やは鮫を仕留め、砂浜へ打ち上げた。
双眼鏡越しに鮫の坊やを追っていたら、標的の少女とヴァルターが視界に入った。
「あ、みつけた」と思った瞬間、ヴァルターが鮫に丸呑みにされていた。後から現われたケセルダが
特に鮫を気にしてなかったあたり、多分ヴァルターがいたことに気づいているのは自分だけだろう。
その8
「そこの坊や、手を上げて武器を捨てなさい」
まあ無駄とは分かっているが、一応セオリーであり社交辞令である。
セライナは標的の少女と今や彼女の護衛であり、強い(にも程がある)坊やに近づくと、
彼らに向け拳銃を構えた。
(9mm弾の拳銃くらいでこの坊やを殺すとは不可能ね。まあ、それもどうかと思うけど)
その気になればセライナは拳銃より遥かに強力な炎や雷撃の力を行使できる。
だが本気を出したとてこの坊やを倒すのは無理だとセライナは判断した。
「この女性も君を追っている連中なのか」
─こくり。
ミルラは無言で頷いた。
エフラムの足にしがみつく少女の手の力が一層強くなる。
(大した騎士様とお姫様ぶりね)
彼らの姿を見てセライナはそんなことを思った。
「その少女を渡しなさい」「断る」
─即答。
(お約束ね)
テンプレートな儀式は終わり。
セライナはほんの一瞬だけ迷ったが、この坊やに自分達の目的を教えてやることにした。
この状況で隠しても仕方がない。
「そこの少女はこの世界ではとっても珍しい、神竜の生き残り。
そして今、マギ・ヴァルはその少女の生命と血肉を必要としている」
びくり、とミルラの身体が震えた。
構わずセライナは続ける。
「マギ・ヴァルの地下には『魔王』と呼ばれる存在が封印されている。その魔王の復活を阻止し、
マギ・ヴァルを襲う未曾有の大災害を食い止める為にはそこの神竜の少女を生贄にするしかない」
「…何故その生贄がこの少女なのだ」
「その娘が神竜様だから。その血肉は極上の神聖。魔王を再び封印する最高の力となる」
「封印など回りくどいことをする必要は無い。その魔王とやらを倒せばいい。
というより、話しを聞いて、むしろ俺はその魔王とやらと戦ってみたくなってきた」
(確かにこの坊やなら魔王を倒せるかもしれない)
セライナは思った。だが問題はまだ別に存在する。
「魔王の封印を支える力はマギ・ヴァル地域そのものの維持している力でもある。
魔王を倒すということは少なくとも魔王の現世における復活が前提。つまり封印が解ければマギ・
ヴァルは崩壊し未曾有の大災害に襲われることになる。もはや魔王とその封印はマギ・ヴァルに
不可欠な存在なのだ」
「…よくわからんが魔王を倒せばマギ・ヴァルが崩壊すると」
「そう思ってくれて構わない。だから封印を維持する。その為にその神竜の少女を生贄に捧げる。
さあ、理解したのならその少女をこちらへ渡せ、坊や」
「断る!」
「…いや、困るのだけど」
「まず貴様らのやり方が気に入らない。それに、俺には子供を犠牲にしてまで生き残ることが最良の手段と
は思えない。他に方法があるはずだ。それを探せばいい」
「少女の姿をしているが、その娘は坊やや、私よりずっと年上なのだぞ。それに竜族だ。人間ですらない。
爬虫類の類とでも思え。そうすれば心も痛まない。一匹の犠牲で無数の人間を救えるのだ。悪くない計算だ」
「…言いたいことはそれだけか」
エフラムから発せられる凄まじい殺気。セライナはただ無言で拳銃を構え、受け流す。
「俺はこの少女を守る。魔王も封印も大災害とやらもどうにかする。俺には、俺より遥かに頭の良い双子の
妹がいる。その妹の参謀で普段から自分は優秀だと公言してはばからない者もいる。何かと理由を
つけては俺に構ってくるフレリアの頼もしい兄妹がいる。…いや、あいつら頼りになるのか少し自信ないな」
「…それで? お友達と力を合わせて戦うというの」
「俺は勝算の無い戦いなどしない。勝算が無ければ作り出せばいい。俺は最後まで決して諦めない。
ん、待てよ。よく考えたら俺にはエイリーク以外に頼りになる奴がいない気がしてきた。
揃いも揃って変人揃いだ。いかん、いかんぞ。仲間が足りない。集めねば」
目の前の坊やからは先程の殺気がまるで嘘のように消えていた。
彼の悩み出した姿を見て、セライナは何やら可笑しくなってきた。
「くく…その、君さ、なんでそこまであの娘の為に頑張るの? 理由を聞かせて」
「知れたこと。俺は」
─俺は?
?何だろう。
エフラムは一瞬悩む。
何か、こみ上げてくる不思議な感覚を必死で我慢しながら、セライナは先を促す。
「俺は? 何?」
「お 兄 ち ゃ ん だ か ら だ ッ!!!!!!!!!」
エフラムは今度こそ確実に何かを越えてしまったような気がした。よくわからない。
「あはは!意味わかんない!」
セライナは笑った。
「あのさ、坊やのお友達もさ、はは! 君にだけはさ、変人なんて、言われたくないと思う」
「…失礼な」
─遠く。幾つものサイレンの音が聞えてくる。
銃声を聞きつけて警察が出動したのだろうか。潮時だった。
「いいよ、坊や。君はとても良い。クレイジーだ」
「俺の名は坊やではない。エフラムだ」
「そうか。ならばエフラム、せいぜい足掻いてみせろ。
私の名はセライナ。蛍石のセライナ。今は応援できないが期待だけはしてやる」
セライナは気絶したケセルダを肩に担ぎ上げた。
「ああそうだ、エフラム、これを君に預けておく」
セライナが何やら投げてよこす。エフラムが受け取ったもの。それは小金色に輝く石。
「何だこれは」
「そこの娘に聞けばいい。それをどう使うかは、君たちの自由だ」
言い放つと、撤退すべくセライナは同僚を担いで乗ってきた車へと駆けていった。
「ミルラ、これは君の物なのか」
「…はい。それは竜石。私の力を封じた、そして両親や一族の想いが沢山詰まってる、
とても、とても大切な私の宝物」
その9 エイリーク
今まで戦ってきた数々の強敵は言うにおよばず、今日倒した巨大鮫、そしてショットガンの
銃口を向けられた時ですら恐怖を感じたことなど微塵もなかった。恐怖を感じたとき、それは自分が
殺される時に違いない。などと自惚れてもいた。
…本日、帰宅する直前までは。
「お帰りなさいませ、エフラム兄様。釣果はいかがでしたか」
兄という贔屓目なしにしても、妹のエイリークは美人だと思う。
もちろん、こうして柔らかに微笑む表情はもっと素敵で可憐であることなど言うまでもない。
「え、ああ、うん、そうだな。全長10メートルはあろうかという巨大鮫を釣ったんだ。
いや、正確には得物で獲物を仕留めたというか。はは、洒落じゃないぞ、うん」
「それはようございました。全長10メートルですか。さぞ恐ろしい鮫だったのでしょうね」
─にこり。
天使のような微笑を双子の兄に向ける妹。
このように微笑みかけられれば、世のあらゆる男は彼女の虜となってしまうのだろう。
それくらい素晴らしい、蕩けるような笑顔。
…だのに、何故俺の背中は、こんなにも冷たい汗が流れているのだろう?
「あ、ああ。かつてない強敵だった。だが勝った。しかしその後、色々ごたごたがあって
持ち帰ることができなかったのだ。う、嘘じゃないぞ。証拠は無いが。ああそうだ、
卵だけでも持ち帰ればよかったかな。はは、今度からは気をつけよう。ん、そういえば、
あの鮫が雌かどうか確認してないな。と言っても俺には見分けなどつかないか。あ、後で
図鑑で調べてみよう。そうしよう。はは、さっきから何言ってるんだろうな俺は」
「調べる必要はございません。きっとその鮫は雌ですね」
「はは…。な、なんでそう思うんだ、エイリーク」
─だってエフラム兄様。
今。
こうして。
その巨大鮫が産んだと思しき─。
「とってもとっても可愛らしい子鮫がエフラム兄様の首に抱きつきながら私をにらんでますからッッ!!!」
その10
相も変わらずミルラはエフラムの首に抱きついたまま。
そこが彼女にとって唯一、安らげる場所であるかのように。
…少しエフラムは首が痛くなってきた。
「お兄ちゃん、このやかましい女は一体何ですか」
「え、ああ。か、彼女は俺の双子の妹、エイリークだ」
「そうですか。ならエイリーク。今日でお前はお役御免です。お兄ちゃんの妹は本日よりミルラが務めますのです」
「何ですかエフラム兄様この不愉快な生き物いえ生物(ナマモノ)はっ!!」
エフラムは思う。
そういえばターナとか他の女の子と仲良くしていると妹は何故か機嫌がとても悪くなる。
学園では沈着冷静にして鉄の女の異名を持つはずの妹らしくもなく。何故だろう。
「え、えーと、事情があって今日から我が家で保護することにした。まあその何だ。
新しい家族が増えたとでも思ってくれ。わ、は、は。ほ、ほらミルラ。よくわからんが俺を兄と呼ぶなら
この方はお姉ちゃんだ。家族だ。そ、そう、家族! 実に良い響きだ。わーはーはー(棒)。」
「ミルラにはお兄ちゃんだけで十分です。それに、この女は私より年下です。むしろ私がお姉ちゃんです」
「いやミルラそれなんか都合良過ぎというかおかしく─」
「エ・フ・ラ・ム・兄・様!」
「うおうっ!?」
「実は私、今日、一日中家で眠っておりまして全く運動をしておりませんの。今から稽古に付き合って
頂けないでしょうか」
「え、け、稽古? いや、流石に今日は俺も疲れているというか…
そ、それよりもエイリークさん、め、飯にしませんかね」
「夕飯ですか?とりあえずそこの小娘を煮れば宜しいのでしょうか。焼けば宜しいのでしょうか?
いずれにせよお腹を壊しそうです」
「お兄ちゃん。お兄ちゃんはいつでもミルラを『食べて』もいいのですよ。わたし覚悟はできてます。
その時は優しくしてくださいね」
今、何かぷちっと切れたような音が聞こえたのは気のせいだ。エフラムはそう信じることにした。
「エフラム兄様の『ご覚悟』はできまして?」
「待てエイリーク。っていうかお前、それ、握っているのは真剣ではないか。いつの間にそんな」
「エフラム兄様は日頃おっしゃってるではありませんか。
実戦においては互いに時も場所も、都合も関係ない。常に心を研ぎ澄まし、戦いに臨むべし、と」
「いやそれは」
「殺すくらいの本気を出しますよ。お兄様相手ではそれくらいの心構えで臨まなければ失礼ですものね」
「いやそんなことはないぞエイリーク。話せば分かる。そう、俺達は生まれる前からずっと一緒に─」
「 」
エイリークは音速で突きを放つことができる。
流石のエフラムも音速で動くことはできない。
零距離である。
今、エフラムは何故かエイリークの心の動きが全く読めない。
攻撃の起点が読めない。剣筋が予測できない。
─結論。
(セライナ。早速だがすまん。俺はもう貴女の期待に応えらないかもしれん)
─ぱぁん。
夜の市街に空気の破裂する音が響き渡った。
それに応じるかのように、何処からか野良犬の遠吠えが市街に木霊する。
…どちらもエフラムには聞こえなかった。
翌日の朝刊の一面。
巨大人喰い鮫、捕獲。
腹の中から黒スーツを着た生存者を発見。
某研究機関職員ヴァルター氏(32)?
(了)
396 :
375:2006/08/18(金) 02:35:40 ID:???
今まで投下したモノと比べてもかなり無茶をした気がしなくもないですが
なんかセライナさんが笑ったので書いてる本人としてはよしとする。
次回はラーチェル様とエイリークの運命的な出会い!…のはず。
未来少年エフラムという単語が脳裏をよぎった。
>>次回はラーチェル様とエイリークの運命的な出会い!
マジカ マジデスカ 期待して待っていいんだな?思うが侭にwktkしていいんだな!?
>>375 待ってたよGJ!
というかこんなところで独眼流政宗(FC)ネタを見る事になろうとは…
どうでもいいけど鮫は食えます。
鮫肉って普通にスーパーに売ってるね
食用に適した種類はそれほど多くない。
今見たよぉーGJ!
エフラムのトン( ゚∀゚)ドル強化人間っぷりに吹いたw
オイフェ萌え
オイフェは確かによい
まあシアルフィの血を継ぐ者の中では一番頼りになりそうだ
コーヒーの味も最高だしな。
愛すコーヒー飲みたいよ、愛すコーヒー
>>375 確か兄のプレイ後ろで見てただけなのに覚えてた自分が恐い
一瞬で物凄く時を遡ったよGJ
その1
本日の朝刊の一面。
またも現る謎の美少女ミニスカ仮面! 瞬く間に魔物を撃破! 女学生を救う
─昨日未明、ルネス市内の学校に通う女子生徒が帰宅途中、魔物に襲撃される事件が発生した。
通報を受け、警察が現場に駆けつけたところ既に魔物は何者かによって倒されており、女子学生
に怪我はなかった。女子学生を襲った魔物は体長3メートル強の巨人タイプであり、遺体の頭部は
完全に粉砕されていた。警察では襲われた女子生徒に事情を聞くと共に、魔物を倒したとみられる
人物の行方を追っている(3面に関連記事)。
襲われた女子生徒Aさん(仮名)の証言。
『う、噂のミニスカ仮面です! 魔物に襲われてああもう駄目だーって思った瞬間、颯爽と現れた
ミニスカ仮面が私を助けてくれました! 素敵でした! 凄く強かった! 一撃でした! 仮面で
素顔は見えなかったけれど、きっと凄く美しい方です! は? ミニスカ仮面のパンツの色ですか?
わかりません! ミニ履いててあんなに動いてたのに全っ然、見えませんでした! 不思議です!
残念です! え? あたしですか? 昨夜は黄色のストライプで今日はちょっと冒険して黒…って
何言わせるんですかっ!? あっ、メモ取ってるし!?』
三面。
捕獲された巨大人食い鮫何者かと争った形跡 噂のミニスカ仮面の仕業か?
先日海岸に打ち上げられ、捕獲された巨大人食い鮫をロストン医科大学が検死したところ、
その身体に大量の打撲傷と鋭利な刃物で刺されたような痕跡があることがわかった。
そのため直接の死因は海岸に打ち上げられてからの窒息死ではなく、打撃をうけたことによる内臓
破壊、刺し傷による失血死と判明。鮫の身体には人間のものとみられる拳の跡が刻まれており、検
死にあたった担当医は一言、『クレイジーだ』とコメントしている。
その2
「レナック!! なんですかこの不愉快極まりない記事はっ!?」
ロストン学院生徒会室、兼理事長室。
部屋を囲む高価で豪華で高級な、いかにも貴族風といった数々の調度品。
相当な広さの部屋であるにも関わらず、少女の透明で美しい声は外にまでよく鳴り響いた。
「このミニスカ女ってラーチェル様じゃねえんですか?」
上等過ぎるソファーに身体の半分くらい埋もれさせながら、レナックと呼ばれた青年は応じた。
少女の剣幕とは対照的にレナックは落ち着いており、女子生徒の下着の色以外はあまり記事に
興味は無さそうである。
「違いますわ、これがわたくしでしたら、とっくに名乗り出ています!」
そりゃそうか、とレナックは思った。
このお姫様はとんでもない目立ちたがり屋である。
仮面などつけて正体を隠すはずがない。それに、治癒の杖しか使えないこのお姫様に魔物を
一撃で倒せるはずもない。まさか杖で『ぽこぽこ』殴り殺した訳でもあるまい。
「あ、そうだ。こんな真似できるのドズラのオッサンじゃねえですか? あのオッサンなら魔物や
人食い鮫の一匹や二匹、ぶっ殺すのもワケねえでしょう」
「レナック。あなた、ミニスカートを履いたドズラが、魔物を襲う少女を救うべく颯爽と現れたとでも?」
「うげ」、とレナックは唸った。
主君共々あの色々な意味でぶっ飛んだドズラがミニスカートを履くという行為自体、まあ別に驚きも
しないが(平然とやってのけそうな気がする)、その姿を想像するのは流石に気持ち悪い。
「それにドズラはわたくしと共に昨日はロストンの平和を守るべくパトロールに出てましたもの」
「ああそれで授業中、グースカ居眠りぶっこいてた訳ですね」
パコーン。
渇いた音を立て、レナックに額にラーチェルの投げた木製の杖が直撃した。
「口を慎みなさいレナック」
「…ラーチェル様、口元。よだれの跡ついてますよ」
「なっ…!」
慌てて口元を手で拭う仕草をするラーチェル。
「嘘です」
日頃、この我侭なお姫様に振り回されまくっているのだから、これくらいの仕返しは当然の
権利であり──、
─数分後。
へし折れた杖と共に床に転がるレナックを無視して優雅に紅茶をすするラーチェルの姿があった。
その3
深夜。
午前零時。
満月の日は魔物の発生率が非常に高く、月の光は彼らを一層凶暴化させると云われる。
ここ数日の事件のせいか、ロストンの住宅街に人通りは皆無であり、辺りは不気味なほどに静ま
り返っていた。
「さあ、行きますわよ、レナック」
「へい、へい…、ってラーチェル様。何で俺がアンタの道楽に付き合わにゃならんのですか」
「? 何を言ってるのかしら、レナック。あなたはわたくしの下僕なのですから同行するのは当然でしょう」
「マジっすか」
「それに、道楽とは聞き捨てなりませんわね。わたくしは代々魔物を退治してきたロストン一族の
末裔です。民草を脅かす魔物を放置しておくなど我が家名の恥ですわ」
「そんなもん、噂のミニスカ仮面にでも任せておけばいいでしょうに。それに、危ないっすよ。
だいたいドズラのおっさんはどうしたんですか」
レナックはきょろきょろとあたりを見回す。ラーチェルの護衛役であるはずの髭の大男が今日に
限って何故かどこにも見当たらない。五感を研ぎ澄まし、気配を探ってもみたが、レナックの鋭敏
なセンサーにも引っかからない。隠れて見守っているわけでもなさそうだった。
「今日はドズラはいませんわよ。屋敷に置いてきましたから」
「へ?」
「彼が魔物を退治してしまっては元も子もありませんもの。今日のお供はレナック、あなただけです」
「あのー、ラーチェル様。俺ってホラ、どちらかというと頭脳派っていうか、肉体労働は苦手でして…」
「何を勘違いしてますのアナタは。ほら、こちら」
ずい、とラーチェルが差し出した物体をレナックは受け取る。
革ケースに包まれていたそれは、小型のデジタルカメラ。
「そのカメラでわたくしが魔物を退治する勇姿を納めるのです。明日の朝刊の一面は『愛と正義の
女神、麗しの絶世美女ラーチェル様大活躍!』で、決まりですわ。ミニスカ仮面などという破廉恥
娘なぞには負けてなるものですか!」
その4
深夜の住宅街を一組の男女が歩いていく。
足音はラーチェルの軽快なそれがただひとつ。レナックの方は全く足音を立てていない。
レナックは自慢の夜目を頼りに周囲を警戒し、索敵に集中していた。
(神さま仏さまラトナ様、どうか魔物なぞ現れませんように。この哀れな子羊をお救いください)
とはいえレナックは魔物を探しつつも、内心では魔物なぞ現れてくれるな、と必死で祈っていた。
もっとも、敬虔なラトナ信者であり信仰心の塊であるラーチェルが魔物の出現を待ち望んでいる
以上、無神論者の自分が神頼みをしたところで無駄ではないかとレナックは思い直す。
「ふふん、腕が鳴りますわ。ついでにミニスカ仮面とやらも現れないかしら。魔物と一緒に成敗して
差し上げますのに」
「…そうっすね」
毎度のことながら、彼女の根拠のない自信はどこから来るのだろうとレナックは思う。
─このお姫様に、魔物を倒せるだけの戦闘力は期待は出来ない。
レナックの知る限り、これまで彼女は荒事においては自分や護衛のドズラにあれやこれやと後方
から指示しているだけ。レナック自身、自分は荒事には向いていないとを自覚している。自分の敵わ
ない相手にはひたすら走り回って撹乱して(逃げて回っているともいう)、ドズラが助けてくれるまで耐える。
それが、彼らのいつものパターンだったが、今回ばかりは違う。
レナックは調子者だが決して自惚れ屋ではない。臆病であることを恥と思わない。
その考え方の是非はともかく、ひとつ確実にいえることは、彼を下僕として酷使する少女は決し
てこのような思考はしないだろうということ。
気高く、勝気な性格のラーチェルはよく厄介事を引き起こす。学院の不穏分子やら、街のチンピ
ラやら、裏社会の連中やら、ロストンを狙う他の学園勢力との抗争やら。数えればキリがない。そ
れでも、今まで無事に切り抜けられたのは、護衛役であるドズラの腕っぷしもさることながら、最大
の理由はラーチェル自身の類稀なる強運、まさしく彼女の信奉するラトナ神に贔屓されているとしか
思えない神運ぶりにあるだろう。
文字通り神に愛された少女。
世の中に彼女─、ラーチェルの思い通りにいかないことなど皆無。
だがそれはラーチェルは決して単に運がいいだけの少女であることを意味しない。
運を引き寄せるのは彼女の強固な意志によるもの。影での血の滲むような努力によるもの。
(いや、それは違うぜ)
レナックは後ろを歩くラーチェルに振り返り、視線を彼女のぺったんこの胸元へと向けた。
─ため息をつく。
「ま、世の中努力でも人の意思でも神様でも、どうにもならないことも─(パーン)ぶべらっ!!??」
杖で、思い切り殴られた。
その5
プルル。プルルル─。
レナックは携帯電話でドズラを呼び出そうとしていた。
幾度となく、耳元に聞えてくる呼び出しのコール音がレナックにはもどかしい。
これが綺麗なオネーチャンであればこういった時間にも心がときめくというものだが、残念ながら今
彼が電話を掛けている相手は髭のいかつい大男。ときめきよりも怒りと虚しさのほうがこみ上げてくる。
本来、ラーチェルのお守りなどドズラのおっさんの仕事だろうに。
なんだって自分ひとりがあのお姫様の我侭に命がけで付き合わにゃならんのだ。
「レナーック! なにをのろのろしてますの、置いていきますわよ!」
「へいへーい」
ずんずんと先を歩いていくラーチェル。用心も何もあったものではない。
おい、魔物とやらが突然襲ってきたらどうするんだ。
万一、ケガでもしたら自分のは治せねえってのに。
別にあのお姫様の身を心配しているわけではないし、どうなろうと知ったこっちゃねえけど。
レナックは自分に言い聞かせる。言い聞かせながらも、何故かラーチェルの前に出るべく、
歩みが速くなる自分自身がよく分からない。
プルル─、(ガチャ)
『ガハハ! ワシじゃ!』
誰だよ、と思いながらもようやく電話が繋がったことにレナックは安堵した。
「オッサンか!? アンタ、お姫様を放し飼いにするたあ、どういう了見だ。
万一、何かあったら俺は──、」
俺は?
何だというのだろう。言いかけてレナックは言葉に詰まった。
『おお、レナックか。そのことじゃが、ラーチェル様の願いとあらばワシも聞かぬ訳にはいかんかった
のじゃ。それに、ラーチェル様とていつまでもワシに頼ってばかりの子供でもないしのう。あれほど
小さかったラーチェル様が今や自らの意思でご立派に……そう、あれは確かラーチェル様がご幼少の
みきり……』
「いいからとっとと来やがれ!」
「なんですって!?」
「あ、いえ違います、ラーチェル様。ほら魔物! とっとと来やがれ魔物どもーって」
「まあそうでしたの。殊勝な心がけですわ」
上手く誤魔化せたのだろうか、満足気にラーチェルは微笑み、踵を返すと歩みを再開した。
「とにかくオッサン、マジ魔物に襲われたら、お姫様の力じゃどうにもならねえぞ」
『ガハハ! 心配せずともレナック、お主がおるではないか! 頼りにしておるぞ!』
……そりゃ買いかぶりだっちゅーに。
レナックは反論しようとして止めた。主人のラーチェルと同じく、その家来ドズラも人の話を全く聞か
ない。言うだけ無駄と思った。
『それに心配せずともレナック、実はこのドズラ、こっそり屋敷を抜け出し、お主らの跡をつけてお
るのじゃ!』
「マジか、オッサン!」
全く人が悪いぜ、と続けようとしたレナックの脳裏にふと、ひとつの疑問が浮かんだ。
こうして電話で話している間も注意深く周囲を警戒しているはずなのに、ドズラの気配が微塵も
感じられないとは一体どういうことか。
「……なあオッサン、アンタ、今どっから電話掛けてる?」
『分からん! ガハハ! 尾行しとったら道に迷ってしまったぞい!』
数秒ほど絶句した後、どうにかレナックは平静を取り戻すことに成功した。
「いいか、落ち着けオッサン。落ち着いて聞け。今、俺とお姫様がいる場所はだな──」
レナックは周囲を見渡す。現在位置はロストン中央公園。すぐ近くに時計塔が見える、中心部。
「場所はって、あれ?もしもし? おーい、聞いてんのか?」
反応が無い。不審に思い、レナックは携帯電話の液晶画面を確認してみた。
小さく、赤く光る『圏外』の二文字。
霧が発生し始め、やがて数メートル先すら見えない程の濃霧に包まれる。
「マジかよ」
ラーチェルの姿は濃霧で見えない。はぐれてしまったようだった。
「ラ…!」
主人の名を叫ぼうとして、止めた。
背後に、殺気。
感じた瞬間、レナックは振り向きもせず、前方へと身体を飛び込ませていた。
地響きが起こり、弾け飛びレナックの背中を打つ、無数の土つぶて。
飛び込み、手で地面を突き、そのままの勢いでくるり、と回転してして向き直る。
向き直った視線の先。
先程までレナックが立っていた位置に巨大な棍棒が突き立てられていた。
棍棒の持ち主は一つ目の巨人。
「おいこら洒落にならねえって!」
ミニスカ仮面が退治したってのはありゃ嘘か、とレナックは心中で舌打ちする。
ラーチェルを呼べばいい。戦いたがってたのはあのお姫様なのだから。
逃げ出すのもいい。命がけで彼女の我侭に付き合って怪我をするのも馬鹿馬鹿しい。
……。
手と背中に付着した土を払いつつ、レナックは腰から静かにナイフを引き抜いた。
「まったく、なんだって俺がこんな……」
こんなことをしてるのか分からない。俺はとっとと帰って寝たいはずなのに。
その6
人間相手ならともかくとして、今、自分が持つナイフのなんと頼り無いことか。
ずんずんと地響きを立て、駆けてくる一つ目の巨人。
間合いは巨人──、サイクロプスのほうが広い。
懐に飛び込んでナイフで攻撃するにせよ、あの分厚い脂肪で覆われた腹を斬ったところで致命傷を
与えられるとも思えない。突いたところで同様か。内臓までこのナイフでは届きそうに無い。
──頚動脈を切るか。
一応、人型であるし有効かもしれないが、あの高い位置ではまともに刃が届きそうにない。
ミニスカ仮面とやらは巨人の頭を粉砕したらしいが、そんな芸当をやってのけた女とは、一体
どんな化け物かとレナックは呆れる。
(やっぱ、アレか)
目、弱点っぽい。根拠は無いけどそれっぽい。とりあえず潰せば戦闘力を奪えるはず。
巨人がレナックに接近し、叩き潰そうと棍棒を振り上げる。
振り上げた瞬間─、レナックは腕を閃かせ、手にした短刀を巨人の頭部目がけ投擲、
放たれた短刀は狙い違わず巨人の一つ目に突き刺さった。
「いよっしゃ!」
悲鳴をあげる巨人。レナックは心の中でガッツポーズを取ると、迷うことなく巨人に背を向け、
逃げの体勢に入る。
…とりあえず、人類である俺様にあの怪物を物理的に破壊することは不可能。
よって、どこかほっつき歩いているであろう、ラーチェルを回収してから逃げる。
あの我がままな姫様は怒るかもしれないが知ったこっちゃない。命あって何ボのモノだろう。
駆け出そうとしたとき。
「…うぇ!?」
レナックは思わず素っ頓狂な叫びを上げた。
突如、霧の中から巨大な光球が出現し、凄まじい速度でレナックの頭上を通り抜けた。
宵の闇を切り裂き、一条の黄金色の残滓を描いて飛ぶ光の塊。
そのままレナックの背後にいた巨人に直撃、爆発する。
断末魔の叫びをあげて巨人は倒れた。ぶすぶすと巨人の肉が焦げる異臭が周囲に立ち込める。
呆けたようにその場で動けないレナック。
霧の中から聞き慣れた声が響いてくる。
「全く世話が焼けますわね、レナック。わたくしの従者であるならばもっとしっかりなさい」
その7
巨人を打ち倒した攻撃は、ラーチェルの放った光の魔法によるものだった。
杖で治療するか叩くかしかできなかったラーチェルが、いつの間に攻撃魔法を使えるようになった
のかレナックは疑問に思ったが、そんなことよりも彼女の成長と目の前の危機が去ったことの嬉しさ
が勝った。
「いやもう驚きました、ホント。口だけじゃなかったんスねえ」
「ふふん、これがわたくしの実力ですわ」
「ええそりゃもう、おみそれいたしやした。ラーチェル様は世界一!」
「もっと誉めてもよろしくてよ。私のように素晴らしい主を頂いけていることを誇りに思うことです」
「いやはや、これで俺も多少は胸張って外歩けるってモンです。ドズラのオッサンも貴女の成長を
喜んでくれるでしょう」
まあラーチェル様の胸は全然成長してねえすけど。
「…何か気になりましたがレナック、さっさと私の勇姿をカメラに収めなさいな」
「へいへーい」
レナックはカメラをポケットから取り出し、ラーチェルと地面に倒れた巨人に向けて構えた。
「…ラーチェル様、あんまし動かねえで下さいよ」
「うーん、どういったポーズがよろしいかしら? こうかしら? いえそれとも…」
液晶画面を通して、あれやこれやとポーズを試行錯誤しながら動くラーチェル。
もうシャッターのボタンを押しちまおうか、などとレナックが考えはじめたとき──、
「!? レナーック!」
大きく目を見開き、叫ぶラーチェルの姿が見えた。
──冗談すよ。何も怒鳴ることないじゃないっすか。
「レナッーク! 後──!」
「え?」
─うしろ?
体を捻った瞬間、レナックは脇腹に巨大な鉄塊をぶつけられたかのような衝撃を受けて吹き飛ばさ
れていた。べきぼきと、おそらく自分のろっ骨が折れているであろう、嫌な音が耳に入ってくる。
「レナック!」
レナックを襲った物体は巨大な眼球の化け物──、ビグルと呼ばれる魔物。
幾本もの触手の固まった長い尾を引き、ぱちくりとそれは不気味に瞬きすらしてみせた。
「レナック、今っ……あっ!?」
レナックに駆け寄ろうとして、ラーチェルは動けない。
討ち倒したはずの一つ目の巨人、その太い腕が伸び、ラーチェルの全身を掴んでいた。
「くっ…放しなさい!」
万力のような強い力でラーチェルを包む巨人の指。
呼吸することもままならず、苦悶の表情を浮かべながら、ラーチェルは周囲の光景を見渡し、
絶望で更に表情が蒼白になる。
「…そ…んな!」
何時の間にか、大量の魔物に囲まれていた。
濃霧の中では、更に無数の魔物の影が見え隠れしている。
サイクロプスがいれば、レナックを襲ったビグルもいる。手に蛮刀を握った骸骨がいる。
半獣半人の形をした魔物もいる。巨大な蜘蛛までいる。何体も、何匹も。
今、自分たちを囲む魔物達は果たしてどれだけの数、種類なのか、見当もつかない。
「…痛ぇな、畜生」
地べたにうずくまり、脇腹を抑えながらレナックは唸った。
息苦しい。気分が悪い、吐き気までする。立てない。
とっととラーチェルお得意の杖で治療してもらいところだが、彼女も巨人に捕まってしまっており、
身動きの取れない状態にある。もしかしなくても絶体絶命の危機だということに今更ながらレナック
は気づき、この状況を打破しようと必死で考えを巡らすが、どうにもなりそうに無い。
レナックは夜空を見上げた。
霧で周囲は見えないが、空だけはよく見えた。
やたら空が明るいのは今日が満月だからか。
満月をバックに、霧から突き出た時計塔の先端がよく見える。
「…なんだ、ありゃ?」
時計塔の先端に揺らめく影。
細剣を斜め下に構え、両足を揃えて時計塔の先端に屹立する少女のシルエット。
銀月に映えて蒼白い輝きを放つ長く美しい髪が、ゆらゆらと風に流れている。
整った顔立ちをしているが、目元だけは仮面で覆われており、正確な表情は伺えない。
赤と真鍮色を基調とした衣装に、膝まで丈のある赤いロングブーツ。
それらはぴたりと少女の曲線をなぞっており、抜群のプロポーションを際立てさせている。
そして白いミニスカート。髪と共にひらひらと風に揺れている。
「……。」
ミニスカート中身は見えそうで見えない。
もう少し下から見れば見えるだろうか、などと考えレナックはうつ伏せの体を動かすが、当然の如く
地面が邪魔してこれ以上、下へは行けない。無駄な努力をしたせいか脇腹の痛みがいっそう激しく
なったがここで絶対に気を失う訳にはいかない。
─そう、せめてあのミニスカートの中身を拝むまでああ畜生見えそうで全然見えねえぞなんだよ
あのミニスカートわもっと根性出して吹きやがれってんだ風すいませんマジ頼んますってホント。
「この世に悪がはびこる限り!」
闇夜を裂き、少女の凛とした声が響き渡る。
その声は王者の響き。生まれながらに人を惹きつけてやまない、類稀なる高貴。
「どこかで、誰かが泣いている。 マギ・ヴァルの市民に成り代わり、正義の剣が悪を断つ!
その名は、ルネスのエイリー…じゃなくて。人呼んで碧風の優王女、ミニスカ仮面ッ!!!」
細剣を天に掲げ、ミニスカ仮面と名乗った少女は跳躍し、夜空へと舞う。
「天、悪を許さず。地、悪を逃さず。魔、すなわち……斬る!」
その8
ラーチェルの一族は代々魔物を封じてきた家系である。
彼女がそのことを知ったのはつい最近のこと。
もはやマギ・ヴァルに魔物など存在しないとされていたゆえに、ラーチェルは一族の使命など知る
ことなく、平穏に暮らしていけるはずであった。
しかし、再び魔物が蘇った現在、彼女は先祖や両親と同じく、不浄たる魔物を祓うロストンの守護者となる道を望んだ。
けれども彼女にはドズラほどの怪力はない。レナックほど速くも動けない。
おとぎ話の勇者のように、剣の才能もなければ運動も苦手である。
非力な女だから。だから、魔法で、杖で戦う、戦える。
─今夜は。
…ドズラに頼らなくても戦える。だから留守番してもらった。
もう、彼が自分の盾となって傷つかなくてもよい。
…レナックは自分の偉大さをもっと知るべきである。
彼には自分が成長し、大活躍したことの証人となってもらう。
魔物を退治する美少女。
強く、美しく、可憐に、華麗に、ばーんと。
なんと素晴らしきことでしょう。
未来の英雄、麗しの絶世──、
「はっ!」
ミニスカ仮面の細剣が振り下ろされ、ラーチェルを掴んでいた巨人の指を切り落とし捕縛から開放する。
「お怪我はありませんか、ラーチェル様」
何故自分の名前を知っているのだろう、ラーチェルは疑問に思った。
問いただそうとしたところ、突然ぐいとミニスカ仮面に腰を抱かれて強引に引き寄せられた。
ふわり、と花の香りがラーチェルの鼻腔をくすぐる。何故か心臓の鼓動が速くなる。
ラーチェルを抱きかかえたまま、ミニスカ仮面は怒り狂う巨人の棍棒の一撃を避けると、そのまま
巨人の背後に回りこみ、低く地面を擦るように細剣を一閃。巨人は足の腱を断ち切られ、膝をついた。
──!!
炸裂。
音の壁を突き破る、音。
膝をつき、上体を低くした巨人めがけミニスカ仮面は必殺の音速突きを放ち、頭部を粉砕した。
音速で生じた風圧が、剣先の直線上にあった霧と魔物の群れの一角を吹き飛ばす。
「失礼、ラーチェル様」
「え、な、何をっ、きゃあああ!?」
ミニスカ仮面はラーチェルの背中と両足を、両腕で抱えあげた。そのまま走り出す。
俗にいう、『お姫様抱っこ』をされながら、ラーチェルはミニスカ仮面の香りやら吐息やら、衣服越しの
腕にむにむにと当たる胸(自分より大きい)の柔らかさやらを感じて心拍数がますます跳ね上がった。
「貴方の従者の治療を。急いで」
ミニスカ仮面は倒れ伏したレナックの元まで駆けると、ラーチェルの耳元で囁いた。
しかし、ぼうっとした表情で惚けたまま、ラーチェルはミニスカ仮面の首の回した腕をほどこうとしない。
「あの…ラーチェル様?」
困ったようにラーチェルの瞳を覗き込むミニスカ仮面。
互いの息遣いが感じられるほどに顔が近づく。
「はっ! いえこれはそのっ」
仮面の隙間から覗く碧眼の輝きに、一体どれだけの間、見惚れていたのだろう。
正気に戻った途端、慌ててラーチェルは腕を離し、ミニスカ仮面から離れた。
「?! うッぎゃああああ」
何か柔らかい感触の足元。レナックの悲鳴が聞こえた気もする。
「頼みました」
にこりとミニスカ仮面は微笑むと、細剣を片手に魔物の群れへと飛び込んでいった。
心臓の鼓動が止まらない。顔が、熱い。
風邪を引いてしまったのだろうか。それにしてはぽかぽか身体が暖かい。訳が分からない。
「痛ったあたたたた! ラーチェル様! 俺を踏んづけてますってば! もしもしっ、僕レナック!?」
その9
ミニスカ仮面がつけている仮面はごく小さい、舞踏会で身につけるような蝶の形をした
シンプルなものである。
舞踏、とは確かにその通りであり、まさしく舞うように繰り出されるミニスカ仮面の剣技。
闇の中、細剣の放つ銀の光が刹那に閃くその数だけ魔物達の体が斬り刻まれ、討ち倒されていく。
奇をてらわない、全く型通り、正統正式な剣。
多くの先人が永年かけて研鑽し、完成させた唯一にして単純、そして最良たる技の数々。
ミニスカ仮面の振るう剣は何千、何万、何十何百万と剣を振り続け、才能と努力との結晶の果てに
到達し得る、ひとつの芸術。
ラーチェルは魅入られていた。
あれは、かつて自分に求めた姿。求めて、結局敵わなかった理想であり、夢。
強く、美しく、可憐に、華麗に─。
ミニスカ仮面が魔物を全て屠るまでそれほどの時間はかからなかった。
気がつけば既に霧は晴れ、おびただしい数の魔物の死体がミニスカ仮面を中心に転がっていた。
ミニスカ仮面は剣を構えたまま周囲を警戒、残心。魔物の気配が無くなったことを確認すると剣を
振り払い、そのまま鞘に納めた。
「…では私はこれで」
軽く頭を下げ、立ち去ろうとするミニスカ仮面。
「お待ちなさい! 貴女は一体何者なのです!」
ラーチェルは叫んだ。まだ、聞きたいことが沢山あった。
「今は…まだ内緒です」
「そんな答えで…! あ」
ミニスカ仮面の腕から、一筋の血が流れているのにラーチェルは気づいた。
気づいたときには既に体が動き、ミニスカ仮面の元へと駆け寄っていた。
「貴女、お怪我を…!」
「かすり傷です」
「おみせなさい!」
強引に、ラーチェルはミニスカ仮面の腕を引っ張った。
「…痛っ」
苦痛でミニスカ仮面の表情が歪む。
ラーチェルは構わずミニスカ仮面の肩の傷口に手で触れ、もう一方の手に握った治癒の杖の先端をかざした。
杖の先端の宝玉から生じた黄金色の輝きがミニスカ仮面の肩を包み、傷を癒していく。
「これは…恐れ入ります。ってあの…? ラーチェル様?」
すりすり。
すりすりすり。
すりすりすりすり。
「ああ、なんてすべすべ…」
治療を終え、完全に傷口が塞がったミニスカ仮面の肩。
その絹のように滑らかで柔らかな、触り心地のよい極上の肌をラーチェルは一心に撫で続けていた。
「…はっ!?」
自分が何をやっていたのかようやく気づき、慌てて手を離すラーチェル。
「か、勘違いなさらないでくださいまし!」
「…え」
「先程の行為は治療が完璧であったのか確かめるためであり、そもそも治療したのは貴女への借りを返─!」
「…あの」
「ええもう別に貴女の助けなどなくても私ひとりで魔物など成敗してさしあげましたのに全く余計なことを
してくださったものですが感謝するのにやぶさかではなくできればもっとお近づきに─」
─べけべけべんべん。べべべんっ。
まくし立てるラーチェルを遮り、三味線の音が鳴り響いた。
その10
闇に浮かぶ般若の仮面。
仮面より下は、三味線を携え、キャミソールを着た小柄な少女の体。
声と、緩やかながらも体つきは一応、女性である、顔は般若の仮面で覆われているが、おそらくは
女性──、に違いない。
キャミソール般若という不気味な格好をした少女は、べけべんっ!と力強く三味線をかき鳴らした。
「優秀、優秀と呼ばれたこのわたくしですが」
─べけべんっ。
「いまや落ちぶれ何の因果かお馬鹿な双子の手先ッ!」
─べけべけべんべんっ。
「上司の手伝い来てみりゃ、もはや出る幕なし」
─べけべけ。
「コードネームは美少女般若仮面、その名もルーテさん。仮面なのに美少女とは如何?
おまんらッ、許さんぜ──!(ぽかっ)─よっってあ痛っ、何をなさるのですかエイリーク様」
「本名名乗ってどうするの、ルーテっ! 顔隠してる意味ないじゃない!」
「申し訳ありませんエイリーク様(べけべけべけべけ)、ついうっかり」
般若少女(?)ことルーテの角をぐいぐいと引っ張っり始めるミニスカ仮面、ことエイリーク。
(エイリーク、この方のお名前…?)
エイリーク、それにルーテといえばロストンに匹敵する勢力を誇る、ルネス学園の大幹部である。
代表はエイリークの兄エフラムであるが、彼を差し置いて副会長である妹エイリーク、そしてその腹
心ルーテが事実上のルネスの指導者といわれている。
「ええとですねラーチェル様、これには深い理由がありましてといいますか、そもそも私はエイリーク
などという者ではないと申しますか…」
「シャッチョサン、コイツ、エイリーク、チガウネ、ワタシーモ、まい、ねーむワッカラナーイッ」
「おだまりなさいルーテ」
「了解しましたエイリーク様」
…仮面で正体を隠して魔物を退治する、というのはルーテの献策によるものである。
魔王復活が近いとされる現在、ミルラの話の真偽はともかくとしても、各地で魔物が発生している
のは事実。マギ・ヴァルの平和を脅かす存在を放置しておく訳にはいかない。いずれ各勢力の協力
を得るにしろ、今現在出没している魔物を悠長に他人に任せ放置しておくことも受け入れ難い。
…よって、仮面で正体を隠して行動する。
『疑われても「記憶にございません他人の空似です」としらばっくれれば、こと外交上に関してはこれ
で十分です。優秀な私が言うのですから間違いありません。それに暴れれば丁度良いストレス解消
になるというものですよ』
本来、学園ごとの支配地域の治安維持はそれぞれの指導者の義務であり、権利でもある。
故に他勢力の支配地域で勝手に暴れることはその地域への軍事介入にも等しいのだが──、
『そう? じゃあちょっとだけ』
日頃の激務や最近やってきた小生意気な神竜の小娘やらでストレスの溜まっていたエイリーク
である。初めは『少し気分転換に』、などと軽い気持ちでやってみたものの、やってみれば以外と
楽しかったりしてハマってしまった。…新聞に載ったことには少々驚いたものの。
その11
「お行きなさいませ」
「…え」
「わたくしは今夜、エイリークなどというお方には会っておりません。ミニスカ仮面という正体不明の
奇特なお方が危険を顧みず領内の魔物を倒し、市民を救ってくださいました。…それだけです」
「…感謝します、ラーチェル様」
「仰っている意味がよく分かりませんけど。感謝しなければならないのはこちらのほうではなくて?」
くすり、とエイリークは微笑んだ。
「…これは独り言ですが」
「……」
「ルネスの指導者が貴女とお会いしたがっておりました。宜しければ一度、ルネスの地をお尋ねください。
歓迎させていただきます、とのことです」
「そ、そうですかっ、ま、まあ考えておきますわっ」
自分の声が微妙に震えてしまっていることに気づいたかどうか。
ああ、どんな衣装で行けばよろしいかしら、手ぶらでは失礼ですわね、など色々考える。
「では、私はこれにて。またお会いしましょう、誇り高きロストンの姫君」
エイリークは踵を返し、ルーテの首根っこを掴むと共に闇の中へと消えていった。
「ほら優秀な私が言った通り正体は事実として隠し通せたでしょう」「うるさいッ」
二人の消えていった闇の中から何となく声が聞こえた気もする。
「まったく美味しいトコ全部持ってかれましたねえ」
「まったくですわ」
「…ところでラーチェル様、とっとと俺の傷を治療して欲しいんスけど」
「だんだん意識が遠くなってきたっちゅうか、河の向こうのお花畑で死んだじーさんが手招きしてるっ
ちゅうーか、マジでヤバそうですよって聞いてます?」
魔物を倒して得るはずだった栄誉。ルネスの姫に奪われてしまった。
わたくしは修行が足りない。もっと強くなって、魔物を倒せるだけの力を得て、皆を護らなければな
らない。それがロストン代表者たる我が使命─。
いずれ取り戻して見せる。
奪われた名誉も、プライドも。そして──、
「エイリーク、貴女に奪われた私の心、いずれ取り戻してみせますわ」
…そして貴女の心を私のものにしてさし上げます。
それまで私の心は預けておきましょう。ああでもずっと預けたままでもいいかしら。
「エイリーク…」
彼女のことを思う私はなぜこんなにも切ないのでしょうか。
「胸が…張り裂けそうですわ」
「わっはっは。だから張り裂けるほど無いと何回言えば──」
「……。」
「……。」
今朝の朝刊。
ロストン中央公園にて大規模な魔物の発生を確認。
偶然現場を通りかかったロストン学院に通う学生、レナックさんが襲われ重体の模様。
叫びを聞きつけ駆けつけた同学院養護教諭ドズラ氏が発見し病院へ運んだため一命はとりとめた。
レナックさんは脇腹と頭部に鈍器で殴られたような痕跡があり現場には折れた治療の杖と──
(了)
427 :
408:2006/09/02(土) 11:38:33 ID:???
マギ・ヴァル学園変2?発目。
ミニスカ仮面はエイリーク公式絵に仮面つけただけのビジュアルっぽいです。
次回はパンチラ担当Aさんことアメリアかエフラムがラーチェルに何かする話…かは未定
すげぇ、GJすぎるw
もしもし俺レナックがツボッた、ナイスですw
エイr…ミニスカ仮面やロストン組の魅力が余すとこなく詰め込まれてて、読んでて実に楽しかった。
レナックはやっぱいじられてこそのキャラだよな、レナックハァハァ
どのキャラもいい味出してる。ロストン一味最高!
r@(ハソ'ヘ パーン
∬ ‘д‘)
○==⊂彡☆))Д´)
なんだこの神SS
ロストンとかレナックとか成敗とか百合とかもう最高すぎる(*´Д`)
ラーチェル様マトモにミニスカ仮面にアタック出来るのか?w
頑張って耐えてたが、
>>もしもしっ、僕レナック!?
ここで盛大に噴いた。GJ!
アーマー帝国の逆襲
その1 ヒーニアス
エイリークはとぼけているが、話題のミニスカ仮面やら人食い鮫を退治した者の正体は彼女と
その双子の兄エフラムに相違ない。凡人はともかく、この策謀の王子たるヒーニアスの目は誤魔化
せはしない。まあエイリークのお転婆は今に始まったことではない。いずれは自分の妻になるのだ
から(一方的にそう決めている)、それまでは好きにさせておいて構わないだろう。
「ふ、困ったヤツだ。まあそこが可愛くもあるのだが」
しかしエフラムの馬鹿だけは捨て置けない。あいつが自分より目立つのは気に食わない。エフラム
が鮫を倒したというのであれば、自分はもっと強い敵を倒し、名を上げねばなるまい。
「……ここか」
ルネスとフレリアを繋ぐ大橋。
最近、ここに怪物が居座り、橋を塞いでいるという。
怪物の正体は謎の野良アーマー。
女子供には一切手を出さず、武装していて戦闘力のある者だけを襲い、その武器を強奪するとい
う。既に千人近い戦士が挑み、その全てが撃退されているらしい。
野良アーマーにはルネスのエイリークの名で賞金がかけられている。彼女やエフラムが直接戦いを
挑まないのは、怪物の名声が高まるのを待って討伐するつもりだからであろう。その方が彼女らの名
も上がるというものだから。果実が十分に熟れるまで待ち、収穫の時期を伺っているのである。怪物が
奪った大量の武器をピンハネするつもりなのかもしれない。あるいは怪物を倒せるだけの人材を求めて
いるのか──。
「だが、そうはいかん」
双子には悪いが、怪物を倒す名誉も、怪物が奪った武器も我がフレリアが頂く。
……。
やがてヒーニアスはルネス大橋の入り口に差し掛かった。
だがそこでは、沈着冷静な彼をして仰天させる光景が広がっていたのである。
その2
「……なんだこの人だかりは」
夜にもかかわらず、橋の周辺は大勢の人々で賑わっていた。
竿灯があちこちに立てられ橋を明るく照らし、ドンドコと太鼓を鳴らす音まで聞こえる。
交通規制が敷かれて歩行者天国状態になっており、露店まで出ている有様である。
まるでお祭り騒ぎ。否、祭りそのものである。
「アーマー饅頭いらんかねー」
「大盾せんべいもあるよー。固くて安くて美味しいよー」
「冷やしアーマー始めました」
「……。」
なにやら全身をアーマーに包んだ売り子?たちが拡声器片手に客寄せをしていた。
どの店も客が列を作って並んでいる。かなり繁盛しているようだった。
「恵まれないアーマーに愛の手を! あなたの心がアーマーを絶滅の危機から救うのです!」
『アーマーを絶滅から救う保護の会』などと怪しげなのぼりを掲げ、募金活動をするアーマー達。
甲冑にタスキと募金箱を下げ、がしゃがしゃとやかましく音を鳴らしながら動き回っている。
「はい、ありがとうございます。記念にこの風船をどうぞ」「わーい」
募金した子供に愛想よく記念品の風船を渡すアーマー。「よかったねー」などとおそらく母親で
あろう女性が、子供の頭を撫でて去っていく。ヒーニアスは眩暈がしてきた。
「あ、ヒーニアスお兄さま!」
しばらく呆然としていたが、自分を呼ぶ聞き慣れた声がして、ヒーニアスは振り返った。
黒髪のポニーテールを揺らし、ぱたぱたと駆けてくる少女の姿。
彼女の名はターナ。フレリア代表ヒーニアスの妹にしてルネス代表エフラムの許嫁を一方的に
『自称』する少女である。自己中心的な性格は流石は兄妹というべきか、兄に全く劣らない。
目鼻立ちのくっきりとした顔立ちである。幼さを残しているがそれが無邪気な印象を与え、彼女の
明るく活発な印象を強くしていた。もっとも、兄ヒーニアスを始め、周囲にいる者の殆どは彼女の
本性など知り尽くしてはいるのだが。
「ターナ、なぜここに! いやそもそもなんなのだこの馬鹿騒ぎはっ!」
「ええぇ〜」
上目遣いで甘えたような声を出す妹に辟易しつつ、ヒーニアスは尋ねた。
よくよく見ればターナは『固い・『強い・遅い』と巨大な三文字がプリントされたTシャツを着ている。
ここに来る途中、アーマー三原則Tシャツなる怪しげなグッズが売っていたことをヒーニアスは思い
出し、それを身につけている妹を見て更に頭が痛くなった。
「お兄さま知らないの? 野良アーマーの決闘をね、アーマー保護の会っていう人たちが集まって
一大イベントにしちゃったんだって。お金賭けることもできるの。だから夜になるとみんなこうして集
まって楽しんでるのよ」
「…分かった、もういい。しかしターナ、お前もフレリアの一族なら何故この馬鹿騒ぎを止めさせない
のだ!我が領内でこのような無法、許されるはずがなかろう!」
「ええと、それはね……」
「さー張った張った。今宵の挑戦者はフレリアの代表、ヒーニアス氏です。この優秀な私の予想に
よれば2分KOです。彼の勝ちに賭ける奇特な方、悪いことは言いません、おやめなさい。ドブ川に
お金を捨てるようなものです。優秀な私の言うことに間違いはありません」
「……おいアレは何だ」
「何だーってエイリークのトコのルーテじゃない。このお祭りの元締めやってるみたい」
口元を引きつらせつつ、ヒーニアスはつかつかとルーテの元へと歩み寄っていった。
その3
「や、これはヒー兄(にい)様」
「誰がヒー兄様だっ!? 貴様、誰の許可を得てこんなことをしている!」
「誰の、とはおかしな質問ですね。あなたの妹君の了承を得てこんなことをしております」
ヒーニアスは振り返り、ターナを睨みつけた。当のターナはどこ吹く風といったところか、そっぽを
向いて兄の視線を露骨に無視し、白々しくも口笛を吹き鳴らしている。
「同盟の協約ではこの橋はルネスとフレリアの共有地となっております。そこで、ターナ様の許可が
得られたので、我がルネスがここで勝手をさせていただいております。ああ、もちろん利益の一部は
フレリアにも回しますのでご心配なく」
「そういう問題ではない! まずフレリアの代表はターナではなくこの私だ! それに何だあの得体の
知れんアーマー連中は!? あのような怪しげな連中を領内に引き込んでは統治者としての示しが
つかんではないかっ!!」
がしゃがしゃと金属音を鳴らして動き回るアーマーたち。彼らを指差してヒーニアスは叫んだ。
「別に心配なさる必要は無いかと思いますが…」
アーマー達は子供を肩車したり一緒に記念写真を撮ったりして市民と戯れている。
少々不気味であるが実に微笑ましい光景。
気は優しくて力もち。一見、至って平和、無害そのものっぽい連中ではある。
「どうも最近、この橋で野試合をするアーマーの噂を聞きつけ彼ら『アーマーの人権を守る会』だの
その筋の連中が集まってきましてねえ。絶滅危惧種である彼らにとってレッドバロンの登場はまさしく
救世主そのもののようで。レッドバロンを担ぎ、いずれはマギ・ヴァルを制覇するつもりのようです」
「レッドバロン?」
「謎の野良アーマーの通り名です。我がルネスとしましては彼と、彼に群がる連中を利用して一儲け
しようとしていたのですが…いやはや、レッドバロンの強さは尋常ではなく、少々手を焼いているとこ
ろなのですよ」
アーマーとは全身を甲冑に包んだ戦士たちの総称である。防御力に優れ、かつて戦場において
猛威を振るったとされる。しかし、機動力や回避能力を基本としたゲリラ戦術が主流になったり、
対アーマー用の武器や技が急速に発達するにつれ衰退していった。現在では年配者や一部マニア
の間で趣味的に運用されるにとどまっている(ちなみに、アーマーには社会的に非常に高い地位に
ある者が多い)。
現代はまさにアーマー冬の時代。
そのような状況の中、謎のレッドバロンなるアーマーが彗星の如く出現したのである。
強い、大きい、格好いい!
バロンは子供の味方! ぼくたちアーマー希望の星!
いけいけバロン! 頑張れバロン! 僕らのバロン!
「ちなみに、これは最近我がルネス傘下の小学校で進路希望調査を実施した結果なのですが…」
書類の束を受け取ったヒーニアスの手が震える。
「なんと一位がアーマーです。ちなみに二位が公務員、いやはや世も末ですねえ。しかし、このまま
ですと数年後のルネスはアーマーで埋め尽くされることになります。兵種が偏るのは好ましくありま
せんし、ぶっちゃけ役立たずのアーマーばかり増えるのは非常に困ります」
「まったくだ。スナイパーならともかく」
「いやそれもどうかと」
……ああそれと。
次いでがさごそと何やら紙袋から取り出すルーテ。出てきたのはミニチュアのアーマー模型。
「発射ッ」
くい、とルーテはアーマー模型の腕を指で捻った。
「ぱちん」、と乾いた音を立てて模型の腕が射出され、ヒーニアスの額に直撃した。
「……なんの真似だ」
「カルチノ社が開発し、アーマー保護の会が販売し始めた1/32スケールの赤男爵プラモデルです。
いやはや、よく出来ているといいますか、子供たちに大人気のようで。これがアーマー啓蒙運動の
資金源になっているようです。では、二発目のロケットパンチを──」
「……もういい」
頭を抱えながら制止するヒーニアス。「むう」と不満そうな表情を浮かべるルーテ。
「あ、エフラム! こっちこっちー!」
背後から妹の──、しばらく退屈していたターナの嬉しそうな、しかしヒーニアスにとって聞き捨て
ならない固有名詞を含んだ声が聞こえた。
その4
またエイリークとルーテが何やら妙な企みをしていたかと思えばこのお祭りである。エフラムは
彼女らの手腕に呆れるより他ない。まあそのお陰で自分は面倒臭い学園の運営を放ったらかして
好き勝手に行動できるのだが。
「ターナ、君も来ていたのか」
「エフラムぅーこっちこっちーって……誰、その娘?」
エフラムの手を握り、ぴたりと小さな体を寄せる、背に翼の生えた紅い瞳の少女。
怯えたような視線をターナに向けている。一見、人見知りする気弱そうな少女であるが、ターナは
それが演技だと一瞬で見破った。女の勘というべきか、自分とどこか似た匂いがする。
「ああ、彼女か。彼女の名はミルラ。前に話したとは思うが、訳あって我が家で預かっている神竜の
少女だ。仲良くしてやってくれ」
「ふーん。とりあえずよろしくねっ、ミルラ」
愛想よく、陽光の弾けるような笑顔を向け握手を求めるターナ。
しかし、ミルラは怪訝な表情を浮かべ、エフラムの背に隠れてしまう。
「…お兄ちゃん、この女は何ですか?」
「何だ、とは失礼だぞミルラ。彼女はターナ。俺の幼馴染というか、まあ、妹みたいなものかな」
「婚約者よっ!」「お兄ちゃんの妹はミルラだけです!」
「…妹?」
「…婚約者?」
「いや、両方とも違」
「エフラムは黙って」「お兄ちゃんは黙るのです」
「……はい」
………。
気まずい沈黙。
ターナとしてはエフラムの単なる幼馴染や妹で終わるつもりなど無い。いずれエフラムの
『お嫁さん』になるという野望を抱いている。とはいえ妹ポジションをこの得体の知れない
少女に奪われるのも面白くない。乙女心は時に複雑であり、時に我侭である。
子供相手に何をムキに──、などとは思わない。
彼女は間違いなく自分より遥かに永い時を生きている神竜、見た目に騙されはしない。
先に口を開いたのはミルラ。
「ミルラには分かります。このターナとかいう女、ブリっ娘ぶってその腹はドス黒いです。
お兄ちゃんには相応しくありません。何ですか語尾に『っ』て。ブリブリです」
「ふーんっだ。私の百倍以上は生きてるお婆のくせして妹だなんて片腹痛いわね。頭に血が
上りやすいのは夏だから? 変温動物ならおとなしく冬眠してたほうがいいんじゃないのっ?」
「……小娘、やるですか」
ミルラの紅い瞳に湛えた殺気が増し、指先から真紅の鋭い鉤爪が伸びる。
「望むところよっ」
ターナも貫手に腕を構え、戦闘態勢に入る。エフラムを巡り、本性を概ねさらけ出しはじめるターナ
とミルラ。
「は、は、は……ま、まあ二人とも仲良くな。け、喧嘩はよくない」
「誰が原因だと思っているのですかアナタは」
呆れたようなルーテの声。敢えてエフラムは無視した。こっちが聞きたい。
その5
「エフラム」
やかましい女たちのやり取りには興味無いといったふうに、ヒーニアスはライバルの(彼の一方的
片思いである)青年の名を呼んだ。
「あ、ああ、ヒーニアス! 久しぶりだな。今日はお前が戦うのか。頑張れ。応援している」
渡りに船といわんばかりにヒーニアスに応じるエフラム。正直、ヒーニアスは苦手だがターナと
ミルラに挟まれるプレッシャーから逃がれられるならこの際誰でもいい。
「……ふ。貴様の意図などお見通しだ。今日、私が噂の野良アーマーを倒して全て終わらせてやる」
レッドバロンなる野良アーマーを倒し、この馬鹿騒ぎを止めさせる。
そして領内に入り込んだアーマー共を一掃。
噂の野良アーマーがどれだけ強いにせよ、この策謀の王子ヒーニアスが負けるはずはない。
そして、野良アーマーに勝利した暁には──、
「あら、エフラム兄様、こちらにいらしたのですね」
短めのスカートをひらひらさせながら駆け寄ってくる、碧髪碧眼の美少女。
「あっ! 今晩わっ、エイリーク!」
「ターナ! と、いうことは…」
「やあエイリーク」
先程までの険しさが嘘であるかのように、穏やかな表情と声でエイリークを出迎えるヒーニアス。
エフラムはそんな友(彼はそうだと言い、ヒーニアスは否定する)を見て、わかりやすいヤツだなあ、
と呆れる。
「エイリーク、今宵の勝利は君に捧げる。私が勝利した暁にはエイリーク、君に結婚を申し込む」
「そ、そうですか。か、考えておきます」
果たして子供の頃から一体何度目のプロポーズなのか、もはやエイリークには数える気にもなれ
ない。求婚される度に断っているのだが、当のヒーニアスは一向に諦める気配がない。フレリアとの
外交上の配慮もあり、迂闊に頑とした態度にも出られない。だが当のエイリーク自身、異性に好意
を寄せられて内心、悪い気はしないし、幼馴染であるヒーニアスを無下に傷つけたくもないという思
いもある。優柔不断そのものといえばその通りではあるのだが。
「いずれエフラムの呪縛から君を解き放ってみせる。待っていてくれエイリーク」
「は、は、は…」
兄離れできないのは図星なので反論の仕様がない。しかし、だからといってヒーニアスを選ぶのか
といわれれば、それも疑問が残る。決して悪い人ではないのだが。
その6 アメリア
人々で賑わうルネス大橋。
その中心に『レッドバロン控え室・関係者以外立ち入り禁止』という、手書きの看板を掲げた巨大な
テントが張られていた。
テント内には山のように多種多様の武器が積み上げられている。
ふと床を見れば、お菓子の空箱やら少女漫画やら教科書やらが散乱していた。
発電機を引いているのか、扇風機が回っており、テント内は概ね涼しい。
「うーん、もうお腹いっぱい…むにゃむにゃ」
扇風機の送る風の先。床に、銀マットを敷いて眠る金髪ショートカットの小柄な少女の姿があった。
上はタンクトップ、下はショーツ一枚という実に扇情的、かつ無防備な格好である。
「起きろ、そろそろ時間だアメリア」
緑色の甲冑に身をつつんだ壮年の大男が、下着姿で眠る少女を起こすべく、彼女の肩を鋼鉄の
硬い篭手で揺さぶる。しかし、少女は一向に起きる気配がない。
「うーん……、ギリアム先生ぇ、あと五分ぅ」
「「「喝(かァァァ───────つッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)」」」
「うひゃあああっ!?」
ギリアムの大喝を受け、慌ててアメリアは飛び起きた。
その7
「目が覚めたかアメリア。そろそろ今日の対戦相手が来る。アーマーの準備をしろ」
「ええと、ギリアム先生ぇ、ホントに戦わなきゃダメですかあ…?」
どこかしらまだ寝惚けた状態で目をこすりながら、アメリアは尋ねた。
「どういう意味かね」
「だあってえ、今日の対戦相手ってヒーニアス様じゃないですか。フレリア学院に通う私がヒーニア
ス様をやっつっけちゃうのはですね、ちょおっと問題あるんじゃないかと思うのですケド……」
「構わん、殺れ」
「えっ、ええっ!? でもでもギリアム先生っ、だってあのヒーニアス様ですよ? 生徒会長ですよ!?
先生はフレリア家とヒーニアス様にお仕えしてるんじゃないんですか!? 裏切っちゃうんですか!?」
アメリアの問いにギリアムは天を見上げ、少しの間だけ瞑目してから答えた。
「若様には申し訳ないがこれもアーマーの未来の為だ。我らの理想郷を作るためにはやむをえん」
「私は嫌だなあ…」
「「「喝(かァァァ───────つッッッッ!!!!)」」」
「わわわわっ!!??」
「貴様、そんな弱気でアーマーの星を掴めると思っているのかっ! 心を鬼にせい!」
アーマーの星って何ですかそもそもそんなコトどうでもいいです、などとアメリアは言い返したかったが
ギリアムが怖くてそんなことは口が裂けても言えない。
(鬼はギリアム先生じゃないですか。うう、花も恥らう乙女の私が何でこんなコトを……)」
「心配することはない。このアーマー装備している限りお前の正体は分からないのだからな」
ゴンゴンと傍にある、赤い鉄塊を叩くギリアム。
その鉄塊の正体は全長3メートルにも及ぶ巨大な赤い甲冑──レッドバロン。
今、話題のレッドバロンの正体(中身)とは即ちこの可憐で気弱な少女、アメリアだった。
「これを見給え、アメリア」
ギリアムはテントに高々と積み上げられた武器の山を指差した。
「レイピア、アーマーキラー、ハンマー、サンダーソード、ほのおの剣、いかづちの剣、かぜの剣、
ひかりの剣、だいちの剣、ざんてつの剣、ブラギの剣、マーニ・カティ、つらぬきのやり、ヴォルフバイ
ル、レギンレイヴ、スティレット、エストック、ルナの剣、ファイアー、サンダーその他各種魔道書、
げっこうM…! 我々アーマーを倒す為に作られた実に恐るべき品々だ!」
「随分集まりましたねギリアム先生。割と洒落にならないのが沢山あるっぽいですけど、いいので
しょうか?」
アメリアの質問を無視し、ギリアムは続ける。
「このように数多くの対アーマー兵器が世には氾濫している。これはまさしく我らアーマーへの弾圧
に他ならない!」
「はあ」
「アーマーこそ戦場の華、そして男の道。しかし、今や誰でも扱えるこれら対アーマーの兵器のせいで
戦場は男たちの世界ではなく、女子供の支配する世界となってしまった! 実に嘆かわしいことだッ」
「……ソウデスネ」
女子供の身でアーマー着て戦わされている私は嘆かわしくないのでしょうか、と声を大にして言いたい。
言えないけど。
「我々アーマーは失われた権威を今一度、取り戻さねばならない! お前は私の見込んだ通り、
アーマーに天賦の才があった! 君は我々アーマーの希望の星なのだッ! アーマーの、アーマーに
よる、アーマーの為の世界の実現の為に! アメリア、君には頑張って欲しい!」
「……ああもう、なんでこんなコトに」
それは、ある日アメリアが、『進路のことで話がある』と担任のギリアムに職員室へ呼び出されたことに
端を発する。ちなみにアメリアが事前に提出した進路希望調査表では、
第一希望、お嫁さん。
第二希望、お花屋さん。
第三希望、ケーキ屋さん。
と書いていたのだが。
『アメリア、君はアーマーに興味はないかねッ?』
ギリアムの一言。
気がついたら甲冑を着せられ、いつの間にか無敵のレッドバロンになってしまっていた。
その8
──がっしょん。がっしょん。
赤い巨人がルネス大橋の中心へと歩いていく。
彼(正確には彼女)──、レッドバロンことアメリアを導くかのように、人垣が真っ二つに割れ、
歓声とともに道が開いていく。
(……凄い人気だなあ)
──がっしょん、がっしょん、がっしょん。
鋼鉄の壁の向こうから聞こえる、レッドバロンに向けられる声援。
正直、悪い気はしないが、アメリアは基本的に喧嘩が嫌いだった。正確にいうなら他人を傷つけ
ることが嫌なのである。だから、これまで彼女は可能な限り相手に怪我をさせまいと努力してきた。
しかし、それは対戦相手との圧倒的な技量差の証明でもあった。結果としてレッドバロンの名は
膨れ上がり、アーマー保護団体とかよく分からない人々の期待が彼女に集まってしまった。
正直、荷が重い。
そろそろ負けてしまいたい、というのがアメリアの本音である。
──がっしょん、がっしょん、がっしょん、がっしょん。
「来たか、レッドバロンとやら」
今夜の相手。
自分の通う、フレリア学院の生徒会長、ヒーニアス様。
遠目で見てもやっぱり格好良いなあ、とアメリアは思う。
「この馬鹿騒ぎも今夜で終わりだ。引導を渡してやる」
そう言い放つとヒーニアスは巨大な、禍々しい黒光を放つ弓を取り出す。
アメリアにはその弓に見覚えがあった。入学式の時、体育館に飾ってあったのを見たような気がする。
……蛇弓ニーズへッグ。
フレリアの至宝にして退魔の弓。そして伝説の双聖器!
(……勝てるかなあ)
私が? ヒーニアス様が? どっちだろう。まあどっちでもいいかな。
とにかく、手加減はしない。
喧嘩は嫌いだけれど、それ以上に真剣勝負で手を抜いたり抜かれたりはもっと嫌いだから。
──がっしょんっ。
橋の中央でレッドバロンは停止、ヒーニアスと対峙した。
歓声が一段と大きくなる。分厚い鋼鉄の甲冑内でもアメリアにはそれがよく分かった。
「──!!」
先に攻撃を仕掛けたのはヒーニアス。
アメリアはいつも思うのだが、鎧の中にいると外の音が小さくなって開始の合図が聞こえない。
こう、外の声が大きくては尚のことである。だから、いつも相手に先制されてから初めて試合が始まっ
ていたことに気づかされる。何とかならないものだろうか。
そんなことを考えながら──、アメリアはくい、と軽く右腕を動かした。内部のアメリアの動きに合わ
せてレッドバロンの腕が伸び、手にしたトマホークを投擲、ニーズへッグから放たれた光の矢を撃ち
落とした。
「えーと、中距離装備の残弾確認、トマホーク1発、スレンドスピア2発。うわ、全然足りないから
近接格闘へ移行、これより攻撃を開始します。ヒーニアス様、お覚悟を!」
──がしょっ、がしょっ、がしょっ!がしょっ!がしょ!がしょ!がしょがしょがしょがしょがしょ!
アメリアは甲冑に背負った銀の大剣を抜き放つとヒーニアスめがけ突進した。
橋が激しく震動し、地面を蹴りつける鋼鉄の足音がけたたましく鳴り響く。
──がしょがしょがしょがしょがしょ!
(なんだあのアーマーはっ!?)
迫り来る、レッドバロンのあまりに非常識なスピードを目の当たりにしてヒーニアスは仰天した。
(あの図体であの俊敏か!)
固い・強い・『速い』などとは、もはやアーマーの域を越えている。
「鉄塊の分際で生意気な」
ヒーニアスの悪態など問答無用といわんばかりに、ニーズへッグから放たれる光の矢を銀の大剣で
弾きながら間合いを詰めるレッドバロン。
レッドバロンの振るう大剣と光の矢が衝突し、銀と光の粒の煌きが赤い火花と共に弾け跳ぶ。
ヒーニアスは次々と矢を射かけるが、その全てが当たらない。矢の何本かはレッドバロンの脇を抜け、
後方で応援していたアーマーの集団へと飛び込んでいく。
「きゃー」「やー」「あれー」などと流れ矢の直撃を受けたアーマー達の悲鳴が聞こえるが、ヒーニアスは
気にもしない。いずれは領内から追い出さなければならない連中である。この場で始末して問題無い。
ぶーぶーとアーマー達からブーイングが沸き起こるが、それも無視する。
「自業自得というものだ……むっ!?」
レッドバロンの動きが止まり、流れ矢の方向を振り返っている。どこかしら戸惑っているようにも見えた。
「……なるほど」
同朋の身が心配だということか、ならば──!
ヒーニアスは三本の矢を一手につがえ、照準をあからさまにレッドバロンから外し、アーマーの
集団へと向けた。それを見たレッドバロンは慌てた。鎧の中の人間の表情は伺えないが、明らかに
焦っているであろうことがヒーニアスには手に取るように分かった。
「ふはははははっ! 甘い、甘いな野良アーマーっ!!」
レッドバロン左後方、アーマーの集団めがけ、ヒーニアスはニーズへッグの矢を容赦なく射出した。
その9
(流石ヒーニアス様です、なんて卑怯な!)
アメリアはヒーニアスがニーズへッグの照準をアーマー集団へと向けたのを見て激しく動揺した。
一瞬、間合いを詰めるチャンスかとも考えたが、立ち止まり、矢を撃墜することにする。あのアーマー
達への感情は正直複雑ではあるが、見捨てる訳にもいかない。
連戦に次ぐ連戦でもはや合計三発しか残っていない、貴重なトマホークとスレンドスピアを矢の
軌道上へ向けて射出、アーマー集団へ襲いかかろうとしていたニーズへッグの矢を正確に撃ち落とした。
「隙だらけだぞ野良アーマー!」
だが立ち止まったレッドバロンにヒーニアスは容赦なくニーズへッグの矢を放っている。
蛇弓から撃ち出された光の矢はレッドバロンに直撃、頭部を粉々に撃ち砕いた。
「やったか!?」
しかし、レッドバロンはぐるりとヒーニアスに向き直ると、怯むことなく大剣を構え、突撃を再開した。
破壊した頭部の中身は空だったらしい。甲冑の巨大さに反比例して随分小柄な人間が中身のよう
だが、果たして中の人間はどうやってアレを動かしているのかヒーニアスには不思議でしょうがない。
改めて矢をつがえるヒーニアス。そんな彼に、突如電撃が走ったかのような感覚が走り抜けた。
「来た! 来たぞ来たぞ!! わはは、これを喰らうがいい! 我が必殺奥義、『必的の技』を!」
必的の技。
『たまに必ず命中させる』という、ヒーニアスの必殺奥義である。
だいだい100回に3回くらいの割合で出せる気がする。運良く出たら必中。
考えるな、感じろ! 弓道無限、これぞスナイパー道。
幸運にもこの戦いで100回のうち3回のどれかが来たヒーニアス。
神経が研ぎ澄まされ、まるで時が停止したかのような感覚に包まれる。
今の彼にとってレッドバロンを射抜くなどまさしく止まった的を射るに等しく、赤子の手を捻るより容易い。
ヒーニアスは今度こそ『中のひと』がいるであろう、レッドバロンの腹部をニーズへッグで狙撃する。
(パンッッ!)
だが、ヒーニアスの放った必殺(?)にして必的の矢は、レッドバロンの腹部を直撃した瞬間に渇いた
音を立てて霧散した。
「なななんだとっ!?」
全身から金色の光を放つレッドバロン。直撃の瞬間、あらゆる攻撃を無効化する大盾の技を発動
したのである。全身を包む大盾のバリアは、蛇弓の放った光矢の威力を完全に無効化していた。
そのまま一気に間合いを詰めたレッドバロン。手にした銀の大剣をヒーニアスめがけて振り下ろす。
ヒーニアスは咄嗟にニーズへッグの弓で大剣の一撃を受け止めた。流石は双聖器というべきか、
レッドバロンの剛剣を受けてもへし折れない。しかし、持ち主のヒーニアスは生身の人間である。
レッドバロンは大剣に全体重を乗せ、そのまま下方向に押し込んだ。
べきぼきびきめきぼきっ──!!
「ちょ、待っ!? ふんぎゃあああああ!?」
……。
ぷちっ。
レッドバロンの超重量に耐え切れず、そのまま押し潰された。
その10
「ふう、なんとか勝てた……」
地面にめり込み、身動きの取れなくなったヒーニアスの姿を確認してアメリアは嘆息した。
一応、勝ったは良いが、いつまでこんなことを繰り返さなければならないのだろう。戦えば
戦う程に対戦相手は強くなっていく。今日みたいに双聖器まで持ち出されては命がいくつ
あっても足りない。ギリアムの話ではそろそろルネスの双子が本格的に自分を倒しに来る
という。彼らなら自分をこの戦いの日々から解放してくれるのだろうか、それとも。
「よくやったレッドバロン。後のことは我々に任せて帰ってゆっくり休みたまえ」
「あの、ギリアム先生、自分でやっておいてナンですケド、ヒーニアス様は大丈夫でしょうか?」
「心配無用。殺して死ぬような方ではない」
「あの、先生!」
「何かね」
「私、もうこれ以上…!」
「我々の」
アメリアの言葉を遮り、ギリアムは口を開いた。
「我々アーマーの掟は知っているな」
「う」
「一度アーマーの道を選んだからには抜けることなど許されない。抜けアーマーには死あるのみだ。
世界に散らばる無数のアーマーたちが刺客となり、地の果てまで抜けアーマーを追い詰めるだろう」
「……」
「……君は明日も学校だ、遅刻するなよ」
「……はい、ギリアム先生も」
訳も分からぬままアーマーの世界に入ったアメリアであるが、彼女は今アーマー世界の掟とシガラミ
の中で、おのれをおしつぶす鉄壁につきあたっている。
この壁をつき破るには、ひとつの方法しかない。それは伝説のアーマー、ロジャーがそうしたように、
抜けアーマーとなることである。だがロジャーを除いて最後まで抜けおおせた者はいないといわれるほど、
それは至難の道であった。
その11
「うっ、くっ……」
薄暗い部屋のベッドでヒーニアスは目覚めた。ここが一体どこなのか分からない。最後の記憶
はレッドバロンの大剣に押し潰されたところで途切れている。
ヒーニアスは起き上がろうとして動けない。身体が随分と重い。相当な重傷を負ってしまったの
だろうか。だが、不思議と痛みは無い。
自分の身体の状態を確認すべく、首を動かしてみてヒーニアスは驚愕した。
「なななんだこれはっ!?」
彼の全身を鋼鉄の鎧──、アーマーが覆っていた。身体が重いと感じたのは、文字通り超重量の
アーマーを着せられていたからに他ならない。
「気づかれましたかヒーニアス様」
聞き覚えのある声がして、ヒーニアスは唯一自由の利く首を声の主の方へと向けた。
緑色のアーマーを着た壮年の男が、ベッドに横たわるヒーニアスを見下ろしていた。
「ギリアム! お前が何故ここに…・・・! 私は何故アーマーを着ている!?」
ギリアムは無表情にヒーニアスを見下ろしたまま答えない。だが、彼の鋼鉄の拳は何かを必死で
耐えているかのように、ぎゅっと握り締めれていた。
「ヒーニアス様、貴方には我々の同志となって頂く」
「同志だと!? 一体何のことだギリアム!」
「我々、アーマーの理想世界の実現の為に」
ギリアムは腕を上げ、合図をすると、がちゃがちゃと音を鳴らしながら暗闇から数人のアーマーが
現われてヒーニアスを取り囲み、彼の手足を押さえつけた。
「なっ、何をする気だギリアム!?」
「貴方は生まれ変わるのです。そう、スナイパーからボウアーマーに」
「ボ、ボウアーマーだとっ!? そんなしょーもないクラスに俺がかっ!? おいこら待っ……!」
ギリアムは黙って両手で持ったアーマーの兜をヒーニアスの頭へと近づけていく。
ヒーニアスは抵抗するがアーマー達に押さえつけられて身動きがとれない。
今、彼にできることは只ひとつ。
ヒーニアスは叫んだ。
「助けてエイリーク!」
─(続)
452 :
434:2006/09/09(土) 02:52:40 ID:+/zw54G1
秋めいた香りが風に漂う時分、皆さんはアーマーライフをいかがお過ごしでしょうか。
いい加減、久しぶりにゲーム本編を舞台とした普通のシリアスなSS書きたいと思う程度に
罪悪感が溜まって参りましたがマギ・ヴァル学園編1+3発目です。
GJ
「助けてエイリーク!」 ワロタ
抜けアーマーロジャーは紋章のロジャーなんだろうか……
>>453、ロジャーは暗黒竜。リフともども紋章にも出て欲しかったけど。
>>434、アメリアたんだったら師匠はデュッセルにして欲しかったけど、GJ!
男キャラが女キャラに負けるのがデフォになってる点が頂けない。勝ってもアレだが。
> 必的の技。
> 『たまに必ず命中させる』という、ヒーニアスの必殺奥義である。
> だいだい100回に3回くらいの割合で出せる気がする。運良く出たら必中。
> 考えるな、感じろ! 弓道無限、これぞスナイパー道。
納得はできるが吹いた
要するにこれは、ヒーニアスヘタレSSって事でいいんだな?
アメリア強えぇwww
いや実際それくらい強いけどさw
オチであの台詞を持ってくるセンスに脱帽です、GJ!w
Aナイト(暗黒竜仕様・剣・槍装備、CC無し)、Aナイト(紋章仕様・槍のみ)、こうてい、バロン(外伝・聖戦)
まじん、ソードアーマー、ボウアーマー、アクスアーマー、ジェネラル、エンペラー、
アーマーナイトは種類だけならザク並に豊富。キャラも挙げてたらかなりの人数になるなあ。
モビルスーツばりのアーマーのパイロット、アメリア…最萌の支援にそんな感じのネタがあったのを思い出すなw
作者いつもながらGJ
>>455 むしろリアルでいいじゃないか、『FE』のリアルだがな。
例外もあれど多くは下手な男キャラよりはるかに強い女キャラが多いのがFEなんだよな。
>>458 そしてその多くが敵専用って所もザク的かw
この場合、男が女に負ける云々以前に
ネタスナイパー・ヒーニアスじゃどう足掻いてもアメリアには勝てn(ry
461 :
ゲーム好き名無しさん:2006/09/11(月) 00:31:37 ID:NtweKcCF
>「えーと、中距離装備の残弾確認、トマホーク1発、スレンドスピア2発。うわ、全然足りないから
>近接格闘へ移行、これより攻撃を開始します。ヒーニアス様、お覚悟を!」
糞ワロタ
どこの戦闘ロボだよw
玉数フル装備の最強形態が見てみたいw
あと戦利品の山々がヤバイwアーマー天敵多すぎw
ロジャーwwwwwドーガやアーダンもこの会にいるのだろうか
462 :
ゲーム好き名無しさん:2006/09/11(月) 00:32:44 ID:NtweKcCF
>>(流石ヒーニアス様です、なんて卑怯な!)
ここもツボッたw
>>461 ロジャーはアーマーという牢獄を抜け出した代償に、存在そのものを抹消されたんだよ…(ノД`)
>>458 時々でいいからしょうぐん(暗黒竜仕様・剣装備)のことも思い出してください。
GJ杉wwww
ギリアム先生マジひでえwwwww
>>458 そう言えばしっこくもアーマーに入るのかな?
466 :
FBI:2006/09/18(月) 14:37:54 ID:hedHo4f/
____
/∵∴∵∴\
/∵∴∵∴∵∴\
/∵∴/\ /|
|∵/ (・) (・) |
(6 つ |
| ___ |
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■□□□□□■□□□■□■□□
■□□□□□■■■■□□■□□
※コピぺしてね。
保守
聖魔の神の人たのむー
469 :
ゲーム好き名無しさん:2006/10/06(金) 21:01:06 ID:NjisBg8k
シーマタンががち
470 :
ゲーム好き名無しさん:2006/10/09(月) 15:30:07 ID:6R4ci8+B
保守
471 :
ゲーム好き名無しさん:2006/10/19(木) 05:57:39 ID:kLLaDAh3
保守
保守
アイラまじでカッコイイ
アイラは中日ファン
アイラくらいしかプロ野球の話題についていける女はいない
475 :
ゲーム好き名無しさん:2006/10/28(土) 00:37:36 ID:yLv+6oqv
ティルテュは日ハムファン、というよりダルビッシュファン
シアルフィ3人組は周りが引くくらい熱くプロ野球について語っていそう。
ノイッシュ=巨人、アレク=西武、アーダン=広島
ノイッシュとアレクが自分の支持球団がいかに強いか大論争
二人の空気読まずにネタ話ばっかりのアーダン
476 :
ゲーム好き名無しさん:2006/10/29(日) 19:28:52 ID:PaLMr43O
野球なんて興味ないよみんな
やすきなのはセックスだけだし
キュアンはサッカー好き
エルトシャンはボーリングにハマってる
↑その二人こそセックス中毒って感じだが
>>475 >>アーダン=広島
何故か、芸能活動中止した極○と○ぼの人を思い出した。
ヘクトルだったらラナオウに勝てそうな気が常々している
だってアルマーズで飛ぶじゃん
それはない
無敵設定にしなきゃいけないって義務も無いじゃん
ラナはブリアンには腕力では劣るが、握力で勝っている…と以前のヤンキーとお嬢様SSであった気がする。
ヘクトルとも良い勝負できそうだな。
「ラナオウ」は唯一無二の最強キャラで、「ラナ」はそれなりに戦闘力のあるキャラって感じかねえ?
アルマーズは振り回せるけど鎧は全部着れないって感じ?>ラナ
瞬間的な力はあるけど、持続的な力は無い感じ?動物でたとえるとチーターみたいな。
ゴリラ
ヤンキー編でのラナなら上はいくらでもいそうだが、
原哲夫風ラナオウは負けるところが想像できない
負けるところって言ったら、ほら、アレだろ・・・「我が人生に一片の(ry
ある昼休みの裏庭。
日向の暖かさに、ついセリスがラナの隣で眠り、ラナの肩に頭を乗せてしまう。
普通の相手なら「貴様!! 覇王の肩に触れるとは命知らずな!」と弾き飛ばすラナオウだが、
セリスだけにはそんな事できない。むしろ、幸福のあまり右手を掲げ「我が人生に(y
ボボボッ…ボボボボ…ッ
低い音を立ててエンジンが停止する。
小さな駅のロータリーで停止したそのZUのライダーがヘルメットをはずす。
逆立てた金髪に透き通った碧眼。
目つきが最近鋭くなくなったといわれるのは、やはり後部座席に乗せた少女のせいだろうか。
「到着っと。…つーかよぉ、こんなとこで良いのか?なんにもねぇ田舎だぞ。」
「間違いありません。確かこのエレブ市イリア町なんです。」
「やれやれ、ヒゲ親父の頼みとはいえ、こんな田舎まで走らされるとは…な。」
「…不服なんですか?」
くすりと微笑む銀髪の少女。
どうみても金髪のヤンキーとは不釣合いなお嬢様であった。
「ありえねー。勤労高校生の自由時間を奪う権利なんて誰にもねーだろ。」
「私以外には、ですか?」
「……何言ってんだか…。つーかグランベル市街から2時間も走ったんだぞ。ガス代ぐれぇ出せっつーの。」
やれやれ、といった表情でそっぽを向く。
彼にとってこの笑顔は、何より危険な毒なのだ。
「ま、ちっと見て回るか。駅ビルにでも行きゃこの辺の住所付き地図ぐらいあんだろ。」
「そうですね、それにもうすぐクリスマスですから…色々と見てみたいですし。」
「そういう面倒くせーことは、また従者とかが居るときにやってくれ。」
「…もう、またそんなことを言って。本当はデルムッドだって……あれ?」
「ん、なんだ?」
「あそこに歩いているのは…セティさまの妹のフィーさんでは?」
ユリアが指差したその先には、確かにあの変態優等生の妹が居た。
「こんな遠くの町に居るなんて…兄貴の変態っぷりに嫌気がさして、ついに不良の道に走ったか?」
「デルムッドと一緒にしないでください。」
「なんだそりゃ。…お嬢様よー、最近言うこときつくなってきてねぇか?」
「ふふっ、貴方の影響かもしれませんね?」
(厄介なナンナがもう一人増えたような気分だぜ…)
などとくだらないことを考えてしまう。
実際にもう一人ナンナが居たら、彼の人生は180度変わってしまうだろう。
…何故かは推して知るべし。
「フィーさん、一人じゃないみたいですね。お友達でしょうか?」
「んー…アーサーの野郎でもなさそうだな。知り合いじゃないか?あの変態兄貴の妹にしちゃ、交友範囲は広いらしいからな。」
「せっかくですし、ちょっと声掛けてみましょう?この辺りに居るということは、この辺りのことに詳しいかもしれませんし。」
「そうだな。」
デルムッドはやる気のない二つ返事で、フィーのほうへと単車を移動させた。
ブロロロロ…と気が抜けるような音を立てながら、ZUはフィーたちのところで動きを止める。
「よぉ、陸上部のはねっ返り。元気か?」
「…へ?…あ、あなた、不良のデルムッドじゃない。…生徒会長のユリアさんも。こんなところでどぉしたの?」
デルムッドの唐突な挨拶に、特に変わった様子も見せず返事をするフィー。
優秀だがヲタクな兄と違って、いや、そんな兄を持ったからこそしっかりモノなのかもしれない。
「こんにちは、フィーさん。セティ様はお元気ですか?」
「兄貴?…まぁ元気じゃないかな?今日も『新しい1/6のフィギュアが出るのだ、通販など邪道』とか何とか言いながら家を飛び出して言ったわよ。それこそフォルセティもびっくりの勢いで。」
フィーのその棒読み具合は、既に呆れを通り越してどうでもよさ気な投げやりささえ感じる。
「しっかしまた何でこんな辺鄙な町にきてるんだ?」
「友達に会いにきたのよ。何か文句ある?」
「お友達ねぇ…こんな遠隔地に?何か悪いことでもしたんじゃ…」
「冗談やめてよ。陸上部の試合で知り合った友達よ!」
「ねぇねぇ、フィー。この人たちってグランベル学園のお友達?」
いきり立ったフィーの横には、同じくらいの背丈の少女が居た。
その青い髪と瞳をした少女は、何やら唐突に始まったイベントを楽しそうに眺めていた。
「あぁごめんなさい。そうよ、友達というか、兄貴の知り合いというか…まぁそんなところ。」
「へぇ、この子も陸上ッ子なのか?」
「はいっ☆イリア女子高等学校のシャニーでっす。」
「イリア女子といったら、あの運動部の活躍が名高いイリア女子ですね。」
ユリアが会話に割ってはいる。
さすがお嬢様、地域の学校の情報には詳しいようだ。
「そうでーす。えへへ、嬉しいなー。運動部の活躍が…だなんて。…あ、あれ?あなたってもしかしてグランベル学園の生徒会長さん?」
「はい、ユリアともうします。よろしくお願いしますね。…でもどうして知っているんですか?」
「この前の県大会でちょっと見かけましてv」
「…あぁ、そうですね…確か一緒に見学に行かせて貰いまいましたから…」
何気なく肯定するユリアに対して軽く突っ込みを入れるデルムッド。
その様子がシャニーには面白かったらしい。
「くすくす、グランベル学園の人も楽しい人がたくさん居るんですね。イリア女子やエレ高(公立エレブ高等学校)の人と気があいそうかも。」
「あんまりそっち系とあいたくねぇな。」
楽しそうに笑うシャニーに何故かそっぽを向くデルムッド。
「ところでわざわざグランベルから何をしに着たんですか?結構遠いですよね?」
「あぁ、忘れるところだった。この町にある『リリエンベルク』って喫茶店を探してるんだ。しらねーか?」
その言葉を聞いたシャニーとフィーが顔を見合わせる。
その良く分からない光景を見つめるヤンキーとお嬢様。
「何だよ?」
「…今から私たちもその店に行くところだったのよ。」
「それは奇遇ですね、確かに…。」
「なんだ、知ってるのか、それじゃ話が早い。つれてってくれよ。」
「いいかしら、シャニー?」
「うん、構わないよ。どーせこの時間はそんなにお客さんも居ないと思うしねー。」
「…?」
何やら意味ありげに確認を取るシャニーとフィー。
その様子がますます怪しい。
「ところでデルムッドさん…?は、どうして『リリアンベルク』にいこうとしてるんですか?」
シャニーが唐突に質問をする。
「ん?あぁ、俺がバイトしてる喫茶店のマスターから豆を貰ってきて欲しいって言われてな。何でもヒゲ親父の知り合いがやってる店らしい。」
「そこで使われているコーヒー豆はとても美味しいのだそうです。」
へぇー、と言った顔で二人を見やるシャニー。
「ってかおまえらこそ何でそんな店に行こうとしてるんだよ。別に女子高生が集まるような店じゃねぇだろ?」
「なんでって…『リリアンベルク』は私のおねぇちゃんが経営してる喫茶店だもん☆」
「「へ?」」
<続く>
久々に書いてみました。
のほほんオチ無し系エピソード予定です。
のんびり読んでいただければありがたやー。
先ほどであった4人は、既に和気藹々状態。
何やら類は友を呼ぶらしい。
友の友は友なのだろうか―
「それはさておき、その生徒会長さんがこんなところで何してるんですか?そっちの怖そうなお兄さんとデート?」
「…まぁそのようなところでしょうか?」
「ちげーっての。」
492と493の間に一文が抜けていました。
意味不明な文章になる前に修正…。
ユーノわっしょい!
ユーノわっしょい!!
わっしょいわっしょい!!!!
しかし二人の態度は怪しいな
>>495 毎度GJ!
ヤンキーとお嬢久しぶりなんでwktkですわ(;´Д`)ハァハァ
498 :
493の続き:2006/11/23(木) 09:17:34 ID:6NHTM00q
―ガチャ カランカラーン…
やや分厚い木の扉を開けると、心地よい鈴の音が店内に響き渡る。
やや暗いがしかし、程よく自然光の差し込む店内は、柔らかな日差しで包まれている。
「いらっしゃいませ…」
落ち着いた柔らかな声で客を出迎えるのは、この店の店主か。
カウンターの奥で、食器を磨きながら扉のほうを見やる。
穏やかな瞳はまるで紫水晶のようでもあった。
「あら…シャニー。お帰りなさい。今日は早かったのね。…一緒に居るのはお友達かしら。いらっしゃい。」
「えへへ、ここが私のおうち兼、ユーノおねえちゃんのお店、リリエンベルクだよ。」
「おねえさん、こんにちわー☆グランベル学園の陸上部のフィーです。」
「えっと…ご一緒させてもらっています、同じくグランベル学園のユリアと申します…」
「右に同じ…」
ろくに挨拶をしようとしないデルムッドに、ユリアは軽く肘で脇をつっつく。
面倒くさそうな表情でサングラスをはずす。
「やれやれ。オイフェって親父の店でバイトしてるデルムッドってんだ。豆、貰いにお使いに着たんだが、あんた、あのヒゲ親父の知り合いか?」
「あらあら、それはまぁ…このリリエンベルクを経営しています、ユーノと申します。よろしくお願いいたしますね、デルムッド君。」
そのユーノの笑顔は、異性のそれではなく、母親のそれであった。
異性など全くに気にしないデルムッドではあったが、どうも母性のそれには弱い。
照れそうになる自分を押し殺してそっぽを向く。
…もちろん、そんな仕草などユリアお嬢様にはバレバレなのだが。
「まぁまぁ、皆さんとりあえず掛けてくださいな。何か入れますね。皆さん何にいたしますか?」
そういって手際よくメニューを配る。
カウンターに座った4人はぱちくりとメニューを見て回る。
「おねえちゃん、私はいつものコーヒーが良いな。」
「私はカフェオレがいいです。」
「…それでは私はホットココアを…」
「ブラック。」
「かしこまりました。」
それぞれがメニューを頼み、ユーノは手際よく準備をしていく。
丁度そのとき。
―トゥルルルルルン、トゥルルルルン…
カウンターのわきに置いた電話が鳴った。
「あら、ごめんなさい、少しまってくださいね。…はい、リリエンベルク……え?あの子が熱を…?分かりました。すぐに迎えに行きます。」
電話をディスプレイに戻すと、ユーノは少し心配そうな表情を覗かせる。
「ごめんなさい、保育園に預けている娘が少し熱っぽいそうなの。少し迎えにいってきますね。」
「良いですよ、早く行ってあげてください。」
「ありがとう、フィーさん。30分ほどで戻れると思います。…シャニー、少しの間お店をお願いしてもいいかしら?」
「うん、いいよ。お姉ちゃん、気をつけて行ってらっしゃい。」
「デルムッド君、オイフェ様の頼まれものは…」
「後でいいよ。行って来いよ。」
デルムッドがぶっきらぼうに返事をする。
ユーノは少しだけ微笑すると、オーバーを羽織り店を後にした。
「…お母さんだったのですね。…娘さんを育てながら喫茶店の経営か…大変ですね…。」
「お母さんって凄いわねー。うちの放蕩親父にも見せてあげたいわ。」
「そういうえばフィーのお父さんって音楽家で世界中を飛び回っているんだっけ?」
ぱたぱたとエプロンをつけてカウンターに回ったシャニーが質問する。
「えぇ、何をしてるかは詳しくは知らないけどね。そういえばユーノお姉さんのだんな様は?」
「ゼロット義兄さんはね、職業柄、単身赴任で全国駆け巡っているの。だから中々家には戻ってこれないんだよね。」
「それじゃユーノお姉さん、大変ね。」
「大丈夫、そのために私やティトおねえちゃんがいるんだもん。」
「ティトさんって…去年全国バレー大会で優勝したイリア女子のルーキーのティトさん?」
「ユリアさんって何でも知ってるのね。そうだよー、ティトおねえちゃんは凄いバレーの選手なんだ。だからいつも部活動で遅いんだけどね。」
「シャニーも足速いし、姉妹して体育会系なのね。」
うんうん、とフィーがうなずく。
そんなやり取りを詰まらなさそうにデルムッドが眺めている。
「よぉ、誰か客がきたらどうするんだ?おめーがコーヒー淹れんのか?」
「…うん、まぁ…一応。お姉ちゃんみたいに上手には淹れられないけど。」
「ちょっと淹れてみろ。喉が渇いた。」
「デルムッド、あんた本当に言葉遣い悪いよねー。」
「ほっとけ、今更だろ。」
フィーがやれやれ、といった感じで見ている。
その間にもシャニーはせっせとコーヒー豆を炒って準備をしている。
「へぇ、一応豆を炒るところからやるんだな。」
「おねえちゃんがね、色々こだわりがあるの。だからここにくるお客さんは皆味にうるさい人ばかりだったりするのよ。」
「ふーん…」
(あのヒゲ親父、変なところに人脈もってやがるんだな。)
「そういえばオイフェ様のコーヒーも凄く美味しいよね。よくフュリーお母様に連れて行ってもらったわ。」
「あのヒゲ親父、人妻ばっかに手ぇだしてんじゃねーだろーな…」
「もう、デルムッド…。そういうことは冗談でも言わないものですよ。」
そんなやり取りをしているうちに、シャニーが危うい手つきでコーヒーを注いで、デルムッドに差し出す。
「はい、お待たせ。デルムッド君はブラックで良いんだったよね?」
「ん。」
短く返事をすると差し出されたコーヒーを口に含む。
「不味い。」
「えー、どうしてー。おねえちゃんと同じ豆と道具をつかってるのにー。」
「不味い物は不味い。」
「…コーヒーに関しては厳しいわね、デルムッド。」
フィーが呆れ顔を見せる。
「まぁ飲まなくても分かるけどな。」
「どういうことー?」
「まず豆を蒸らしてねーんだよ。ブラックで飲むのは分かってたんだろ?だったら重要なのは薫りだ。最低でも3分程度は豆を蒸らせ。せっかくの薫りが死んじまう。」
「へぇ、デルムッド君て詳しいのね。」
「最低限の知識だろ。それからこの冬の時期、少しでも温かさを持続させようと思ったら、カップのほうも重要だ。まずは…」
そんな微妙な薀蓄指導がしばらく続く。
シャニーは思ったより嫌そうな顔をすることなく、いやむしろ面白そうに講釈に耳を傾けている。
先ほどまで晴れていた空は曇り、冬空には僅かに雪が彩りを添えていた。
<続く>
続ききてたー(;´Д`)ハァハァ
いつもGJですよ
502 :
ゲーム好き名無しさん:2006/11/27(月) 23:47:36 ID:6nm0odxF
805 名前: 助けて!名無しさん! 2006/11/23(木) 01:00:54 ID:vZUqdB+/
ラナ「魔法カイアモン、もはや意思とは関係なくお前は口を割る!!
さぁ、答えよセリス”こいびと”は誰か!!」
セリス「ぐ…ぐふ…だ…だれが…」
ラナ「逆らおうとすればその肉体は毛根に至るまで血を噴出して崩壊する!!」
セリス「ごああ!!ぬぐう…ぐ…(ユ…ユリア)」
セリス「ユ…」
ラナ「むっ!!、(ニタァ)そうだ言ってしまえセリス!!」
セリス「…」
ラナ「ん〜〜〜」
セリス「ラ…ラナ王の…ク・ソ・バ・カ・ヒ・ツ・ジ…」
ラナ「(カッ)お…おのれ〜いセリス、死ねえ!!」
小さいときからラナが好きだったよとか言われたらどうなるんだろうかw
職人光臨期待保守age