ファイアーエムブレム キャラ萌え総合スレ その8

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271ゲーム好き名無しさん
ラナ(純愛編)

「キャン、キャン」
「きゃはは、いくよスワンチカ! それ!」
スワンチカ、と名づけられた子犬がパティの投げたゴムボールを元気良く追いかけていく。
ヴェルダン湖のほとりで無邪気にはしゃぐ愛犬と従姉妹。
その光景を見やりながら、ラナは湖畔から少し離れた木陰へと腰を下ろした。
「…はあ」
果たして今日、何度目の溜息だろう。
ラナは悩んでいた。
最近、頻繁に目眩がしたり、いつ移動したのか、気がつくと知らない場所にいたりする。
「この年で痴呆が…いや、そんなことあるわけ…」

─ペコッ
「痛(て)っ」
「きゃはは、ラナちん何ぼーっとしてんのさ!せっかくいいお天気なんだからさ、元気に遊ばなきゃ
損だってば!ね?」

悩み事など、全く無さそうな従姉妹のパティがラナには心底羨ましい。
「ガキはこれだから…付き合ってられないわね」
ぷい、と素っ気無くそっぽを向いてしまうラナ。
この元気な従姉妹は自分を元気づけようと、こうして休日に外に連れ出してくれたことはラナとて
頭では理解してはいるが、どうにも素直になれない。
「きゃはは、無視すん無ぇー」
─ペコッ
「いぇい! フォーク! ストレート! カーブ! スライダー!」
─ポコッ! ペコッ! パコッ! べちっ!
パティは無視を決め込む従姉妹に向け、ゴムボールを次々と投げつけていく。
「……。」
「とどめはとっておきぃー!」
ミニスカートが思い切りめくれるに構わず、パティは高々と足を上げ、大きく振りかぶり─。

272ゲーム好き名無しさん:2006/06/22(木) 23:07:20 ID:???
「……いい加減に」
このままやられ放しなのは流石に腹が立つ。
飛んできた球を思い切り投げ返してやろうとラナは勢いよく振り返る。
「いい加減にしやがれこのアまッ!?」
「うなれスワンチカ!ごぅごー!」
「キャイィィィィィィィィィィン!!!」
「げえっ!?」
投擲された物体はラナの愛犬、スワンチカであった。
従姉妹に逆襲することしか頭になかったラナは掴んだ物体が愛犬スワンチカだということに気づくより
早く、全力でパティに向け投擲する体勢に入っている。今更止めることもできない。

ズ ドン

「!…ええっ、ちょっ!?」
空気を切り裂く轟音と共にスワンチカ(犬)がパティに襲い掛かる。
パティはそれを普段は滅多に出さない素の表情と本気の両方を出して避ける。
それ程にラナによるスワンチカ(犬)の一投は凄まじく、パティの予想を遥かに超えていた。
しかし、投げた当のラナ自身も驚いていた。非力なはずの自分が、この豪腕とは何の悪夢か。

軌道は一直線に。角度はやや下方気味に。
ばっしゃーん!
「ぎゃあああああ!?」
そのまま。
スワンチカ(犬)は巨大な水飛沫を上げ、ヴェルダン湖の中心に突き刺さった。
「ぎゃあああ! パティてめっ! 避けてんじゃねぇっ!?」
「きゃはは、どだい無理です!」
「ああっ、スワンチカはっ!?」
「…浮いてこないね」
「くそっ、今助けてやる!」
「ちょっとラナちん待っ…」
引きとめようとするパティに構わず、愛犬を救うべくラナは駆け出し、ヴェルダン湖へと思いきり飛び込んだ。
「ラナちん、確か─!」

ぶくぶくぶくぶく…

ラナは泳げなかった。

273ゲーム好き名無しさん:2006/06/22(木) 23:09:10 ID:???
その3

ああもうしょうがねえってばよと、とりあえず愛犬と共にヴェルダン湖に沈んだラナを救助すべく、
パティが後を追おうとしたその時─、

─ざばばばばばばばばばばば

「は?」
ヴェルダン湖の水面が揺れ、渦を巻き、上品そうな黒髪のおばさんがその渦の中心から現れる。
グランベル学園七不思議のひとつ、『ヴェルダン湖の精霊』がいつぞやの勇者対決以来、再びその姿を
現したのである。

「はいはーい、そこの元気な娘さん、あなたが落としたのはこの可愛い子犬のスワンチカ?それとも…」
うん、しょ、と気合を入れ、精霊は水中から鈍く発光する巨大な物体を引き揚げた。
「それともぉー、この凄く物騒でごっちぃ、漢なら黙って聖斧スワンチカ?」
「きゃはは、斧!」
「はいっ、嘘つきさんにはお仕置きです。えいっ」
ぶんっ、と精霊のおばさんは斧スワンチカを投げ、それをパティはひょいと避けた。
スワンチカ(斧)はパティの後方に生えていた樹へと突き刺さる。べきべきと音を立て、樹がへし折れる。 
「もうっ、避けるなんて、めっ!」
「きゃはは、やんのかこらぁー」

 正直に答えようが嘘をつこうが、いずれにせよこの精霊の気分次第、腹ひとつで決められることをパティは
看破していた。故に問いかけの答えなど深く考えるだけ無駄である。この精霊は自分と同じ、とりあえず
面白ければそれで良いという思考であろう。
274ゲーム好き名無しさん:2006/06/22(木) 23:10:00 ID:???
「ねぇ、パティちゃん聞いてー、あのセティ君とホーク君の決闘以来、湖に変なモノ放り込むひと増えちゃって
凄く迷惑してんのよー!古い家電製品とかガラクタとかー。新品にもー、金や銀にも無理無理できないってのにぃ」
「じゃあじゃあ、あの真面目なセティ先輩とかはー?」
「あれはひとつの可能性かなー。彼はきっと立派な勇者になれる資質があるんでしょうけどー、同時に変態チックな
適正とかあったのかもねー。この湖はね、そんな可能性を具現化とか分離しちゃう異界の門というかー」

「ふーん。ねぇ、ところで」
「なーに?」
「ラナちん沈んでから随分時間経ってっけどー」
「あらまあ大変、おばさんてばうっかりさん。どれどれ…ん、これかしらねー」
パティに促され、おばさんは水中に手を入れ、掴んだ物体を引き揚げようとして─。
「あら…うん? あれれー、随分重いのねぇ…うーんっ」
何やら苦戦していた。
「きゃはは、何か引っかかってるんじゃないのー」
「変ねえ、そんなことはないと思うのだけど…どれどれ」

確かめるべく、泉のおばさんが水中に顔を近づけたその時──。

「きゃああああああああああ!!!!!!!」

水面が爆発し、巨大な水飛沫と共に泉のおばさんは空中へと放り出される。
そして先程までおばさんが立っていた場所にいたのは─。

「余は覇王ラナオウ、拳を極めし者なり!!今こそ聖戦に名乗りを上げん!!!」
275ゲーム好き名無しさん:2006/06/22(木) 23:10:55 ID:???
その4

鋼が如き肉体、全身から発せられる凄まじい闘気。
腕周りだけで人ひとり分はあろうかというその巨体。
ラナ、改めラナオウと名乗った少女(?)は腕を組み、水面に悠然と立っていた。
よくよく観察してみれば、彼女の足元には水面に浮かぶ木の葉が一枚。
ラナオウはつま先ひとつ、木の葉一枚を足場に自身の巨体を支えていた。尋常ならざる体術といえた。

「きゃはは、あっりえねぇー」
「ちょっとー!いきなり投げ飛ばすなんて酷いじゃなーい!お年寄りは大切にしなきゃ駄目でしょー!」
「貴 様 の よ う な バ バ ア が い る か !!!」
「やーん!?」

非難の声をあげる泉のおばさんをラナオウは一喝。おばさんはそのまま水中へ隠れてしまった。
「…さて、パティよ」
「はいはーい」
「今こそ積年の恨み、晴らしてくれようぞ!滅せい!!」
「えーと」
拳を突き出し、木の葉一枚を踏み台にして一足飛び、湖岸に立つパティ目がけラナオウが襲い掛かる!
「ちょっ! 危なっ!?」
パティはラナオウの襲撃をかろうじて避ける。もはやふざけている余裕などありはしない。
「ぬううううううんっ!!」
ラナオウの拳は並木に激突したが、へし折った並木を抱えあげ、そのままパティに向け投げつける。
「うわマジでっ!?」
地を蹴り、パティは空中へと跳躍して避ける。
「勝機! ラナサンダーッ!!!!」
空中で無防備となったパティ目がけ、ラナオウの放った雷撃がパティに直撃した。
276ゲーム好き名無しさん:2006/06/22(木) 23:12:06 ID:???
その5

「うぬッ!移せ身の術かッ」
だが、消し炭と化し、落下したかに見えたパティの正体は丸太に帽子と上着を着せたダミーであった。
「…全く洒落にならないわね」
樹の上から随分逞しくなってしまった従姉妹を見下ろし、パティは溜息をつく。

 ユングヴィ家の伝承によると、原因は全く不明であるが、ごく稀に尋常ならざる腕力を持つ女児が誕生するという。
この世を滅ぼしかねないその怪力を封じるべく、ユングヴィ家では女児に戦士ではなく僧侶としての教育を施したという。
女児は僧侶として大成、慈愛に満ちた娘へと成長し、生涯その怪力を振るうことはなかったとされる。

「ラナちんの監視をエーディンおば様から頼まれた時はさ、ただの冗談とばかり思ってたけど…いやあ、もう、ね」
今の従姉妹とまともに戦って勝目は無く、そもそも自分の力では物理的に破壊不可能と見えた。
「ふ…パティ、流石は余と同じくユングヴィ宗家の血を引きし者よ。だがいつまでも逃げられると思うな」

「ああっ! あそこにいるのはセリス様! いやーんセリス様助けてぇ!」
「セリス!何ィッ!!?どこだ! ええい、おらぬではないかッッ!」

ラナオウが振り返った時。
「……。」
「ハズレ」と張り紙された熊の縫いぐるみがだけが地面に転がっていた。

ブォォン、ブォォンッッ、ブィィィィィィッィィンッ──

遠くからバイクのエンジン音が聞こえる。
どうやらラナオウが流言に気を取られている隙に、乗ってきたバイクで逃走したらしい。
「おのれパティ小癪な! ぬぅううッ!」 
怒りを抑えきれず、側にあった樹に拳をしたたかに撃ちつけた。 
「我が拳に愛など要らぬはず! だが奴を逃したのは愛を捨てきれぬ我が未熟かッ!!」
277ゲーム好き名無しさん:2006/06/22(木) 23:13:10 ID:???
 いかなラナオウとて、峠の女王、パティの駆るバイクに生身で追いつくことは不可能である。
自分の乗ってきたバイクは今となってはサイズが合わず、もはや乗ることができない。

「やはり我が肉体だけが頼りか。だがいずれ我が身を預けるに相応しい馬を探さねば…」

その時。
─ギャルッ、ギャルルルルッッ!!
「ふう、リーン、着いたぞ」
「お疲れさまアレス! やっぱりアレスはミストルティンに乗っているときが一番カッコいいね!」
「はは、燃費が凄い悪くて貧乏な俺達にはつらいけどな」

─妖車ミストルティン。
グランベルで現在確認されている聖神器のひとつである。
形状は漆黒の大型バイク。とりあえず非常に燃費が悪い。
バイク自体が乗り手を選び、乗り手に栄光と災いをもたらすとされる。
現在の所有者はかつて暴走集団アグストリア連合を率いていた青年、アレス(土木作業員)である。

「…やはり天は我に味方するか。よかろう!」
神器にして最強の妖車ミストルティン。まさしく我が身を預けるに相応しい。

覇王が覇王たる所以。
それはすべてを手に入れる力に他ならぬ。
目指すは天。我が野望は誰にも止められぬ。
たとえ、それが聖戦士であろうとも。
たとえ、それが神であろうとも─。
                                      (続)